(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記のように抜き取りでエンジンバルブを検査する際には、例えばステム部を切断し、電子顕微鏡を用いて酸化スケール層の状態を確認する必要があり、高価な電子顕微鏡が必要になる。また、電子顕微鏡によって酸化スケール層を観察し、その状態からバルブガイドへの攻撃性について正確に判定することは容易ではなく、かなり熟練を要する作業であった。
【0007】
そこで、本発明は、エンジンバルブのステム部によるバルブガイドへの攻撃性を正確に判定できるようにしながら、そのために必要な労力や設備コストは低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するために本発明の発明者は、エンジンバルブのステム部の表面状態とバルブガイドへの攻撃性との相関について繰り返し実験、研究を重ねた結果、窒化処理の際にステム部の表面に生成している酸化スケール層の厚みとバルブガイドへの攻撃性との間に強い相関を見出した。
【0009】
そして、黒色の酸化スケール層の厚みの変化が、その表面の明暗の変化として表れることに着目し、ステム部の表面の明暗の度合いによって酸化スケール層の厚み、すなわち、バルブガイドへの攻撃性を判定するようにしたものである。
【0010】
具体的に本発明は、バルブガイドと摺動するエンジンバルブのステム部の表面状態について判定する方法が対象であって、まず、前記ステム部を撮影し、そのグレースケール画像を取得する。そして、このグレースケール画像の濃淡度が予め設定した閾値よりも淡い側の値であるときに、前記ステム部の表面に生成している酸化スケール層の厚みが、予め設定した基準を満たすと判定する。
【0011】
前記の判定方法によると、例えばカメラなどによって撮影したステム部のグレースケール画像の濃淡度、即ちステム部の表面の明暗の度合いに基づいて、そこに生成している酸化スケール層の厚みについて判定することができる。そして、酸化スケール層の厚みは、バルブガイドへの攻撃性と強い相関を有するので、前記の判定結果に基づいて、バルブガイドへの攻撃性が所定の基準を満たすかどうか、容易にかつ正確に判定することができる。
【0012】
つまり、電子顕微鏡など高価な機器を用いることなく、また、熟練を要する困難な作業も必要とせずに、エンジンバルブのステム部の表面に生成している酸化スケール層の厚みについて、言い換えると、ステム部からバルブガイドへの攻撃性について正確に判定することができる。
【0013】
ところで、本発明者は、前記のように酸化スケール層の厚みに応じて変化するグレースケール画像の濃淡度と、バルブガイドの摩耗量(即ちステム部からバルブガイドへの攻撃性)との相関関係には、濃淡度の変化に対する摩耗量の変化の度合いが急変する範囲が存在することに気付いた。このことは、ステム部の仕上げ研磨などによって、酸化スケール層を削り取っていくと、或るところから急にバルブガイドへの攻撃性が低下しなくなる、ということである。
【0014】
そこで、前記の範囲内において前記酸化スケール層の厚みについての基準(言い換えるとステム部からバルブガイドへの攻撃性についての基準)に対応するように、前記濃淡度の閾値を設定し、グレースケール画像の濃淡度が前記閾値よりも淡い側の値であるときに、酸化スケール層の厚みが前記の基準を満たすと判定することが好ましい。
【0015】
また、前記ステム部の表面の酸化スケール層の厚みについて、より正確に判定するために、前記のように撮影したステム部のグレースケール画像に基づいて、十分に広い領域における濃淡度の平均値を採用することが好ましい。そこで、円柱状のステム部にカメラの焦点を合わせることを考慮して、このステム部の長手方向に広く、周方向には狭い領域を予め設定し、この領域における濃淡度の平均値に基づいて、酸化スケール層の厚みについて判定するようにすればよい。
【0016】
また、好ましいのは、エンジンバルブのステム部を撮影する際に、このステム部と並行して延びるバー型の照明を用い、かつ、当該ステム部の長手方向に見て、前記照明からの照射光が前記ステム部へ入射する方向を、その正反射光の軸線が撮像レンズの光軸と合致しないように設定することである。
【0017】
こうしてステム部と並行して延びるバー型の照明を用いることで、当該ステム部の長手方向にできるだけ均一に照明光を当てることができる。また、照明光の正反射光によって引き起こされるハレーションの影響を小さくすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るバルブステムの判定方法は、エンジンバルブのステム部を撮影したグレースケール画像の濃淡度、即ちそのステム部の表面の明暗の度合いに基づいて、高価な電子顕微鏡を用いることなく、また、熟練を要する困難な作業も必要とせずに、酸化スケール層の厚み、即ちバルブガイドへの攻撃性について正確に判定することができる。つまり、バルブステムの正確な判定を行うことができるとともに、そのために必要な労力や設備コストを低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。本実施形態では、エンジンの動弁系に用いられるエンジンバルブの判定に本発明を適用した場合について説明する。一例を
図1および
図2に示すように、本実施形態に係るエンジンバルブ1は、例えば
図1に示す往復動式のエンジン2の吸気バルブ1aおよび排気バルブ1bとして用いられる。
図1には1つの気筒2aのみを示すが、エンジン2は複数の気筒2aを有し、それぞれに往復動するように収容されたピストン2bの上方に、燃焼室が区画されている。
【0021】
この燃焼室の天井部には吸気ポート2cおよび排気ポート2dがそれぞれ開口して、新気の吸入および既燃ガスの排出を行うようになっている。すなわち、吸気ポート2cの上端は、図示しない吸気マニホルド内の通路に連通しており、図外のエアクリーナを通過した空気(吸気)が吸気ポート2cへ流入する。また、吸気マニホルドにはインジェクタが配設されて、吸気ポート2cに向かって燃料を噴射するようになっている。
【0022】
こうして吸気ポート2cに向かって噴射された燃料は空気と混合されて、気筒2a内の燃焼室に可燃性の混合気を形成する。この混合気が点火プラグ2eによって点火されて、燃焼することによって発生する既燃ガスが排気ポート2dを流通し、図示しない排気マニホルド内の通路に排出される。
【0023】
そのような空気の吸入および既燃ガスの排出を行うために、吸気ポート2cおよび排気ポート2dの燃焼室に臨む各開口部には、それぞれ吸気バルブ1aおよび排気バルブ1bが配設されて、図示しない動弁系のカムシャフトによって動作されるようになっている。吸気バルブ1aは通常、排気バルブ1bよりも大きく、例えばSUH11、SUH3などの耐熱鋼によって形成されている。一方、排気バルブ1bは、より耐熱性の高い例えばSUH35、SUH36などの耐熱鋼によって形成されている。
【0024】
このように吸気バルブ1aおよび排気バルブ1bは寸法、形状が微妙に異なり、その材質も異なっているが、以下、この明細書中では特に必要な場合を除いて両者を区別せず、エンジンバルブ1としてまとめて説明する。
【0025】
−エンジンバルブ−
図2にも示すようにエンジンバルブ1は、いわゆるポペット弁であって、円柱状の軸であるステム部10の長手方向一方の端部に、円盤状の傘部11が一体に形成されている。この傘部11は、ステム部10の端部から外周側に向かって拡大しつつ、その肉厚が徐々に薄くなっていて、その最外周側の環状部分の裏側に、バルブシート(図示せず)と当接するフェース部が形成されている。
【0026】
一方、ステム部10には、傘部11とは反対側の他方の端部(
図1の上端部)に環状の溝部10a(
図2にのみ示す)が設けられ、ここに嵌め込まれるコッタ(図示せず)によってリテーナ12が取り付けられるようになっている。このリテーナ12がバルブスプリング13によって押圧されることで、
図1に示すようにエンジンバルブ1は、吸気ポート2cや排気ポート2dを閉じる向き(図の上向き)に付勢されている。
【0027】
また、エンジンバルブ1は、そのステム部10が円筒状のバルブガイド14に嵌挿され、これにより案内されて往復動するようになっており、カムシャフトの回転に伴いステム部10の上端部が押圧されることにより、バルブスプリング13を圧縮しながら下方に移動する。
図1では、吸気バルブ1aが下方に移動して吸気ポート2cの開口を開いた状態を示しているが、排気バルブ1bについても同様に動作するようになる。
【0028】
そのようにバルブガイド14に案内されて往復動するエンジンバルブ1の移動速度は、エンジン回転数の上昇に連れて高くなり、ステム部10の外周面とバルブガイド14の内周面とが高速で摺動を繰り返すようになる。エンジンバルブ1の上端にはエンジンオイルが供給され、そのステム部10とバルブガイド14との間を潤滑するようになっているが、さらに、ステム部10の外周面には耐摩耗性を確保するために窒化処理が施される。
【0029】
すなわち、エンジンバルブ1のステム部10には、例えばタフトライド処理のような塩浴窒化処理、或いはガス窒化処理などを施し、所定の高温状態(600℃くらい)において基材(耐熱鋼)の表面から活性窒素を拡散させて、硬質の窒化層を形成する。この際、
図3(a)に模式的に示すように窒化層Nの表面には薄い酸化スケール層Sが生成することになる。また、窒化層Nおよび酸化スケール層Sの内部には、基材の炭窒化物の微粒子Pが埋包されている。
【0030】
そして、前記のように窒化処理を施した後にステム部10には、バフなどによる仕上げ研磨を行って酸化スケール層Sの一部を削り取るようにしているが、この酸化スケール層Sの内部に埋包されている炭窒化物の微粒子Pは非常に硬いので、例えば
図3(b)に模式的に示すように、酸化スケール層Sが先に削り取られて、その表層から微粒子Pが突出するようになる。
【0031】
このように研磨の不十分な状態であると、
図1のように動弁系にエンジンバルブ1を組み込んだときに、ステム部10が摺動するバルブガイド14への攻撃性が強くなって、その摩耗量が大きくなってしまう。一方、
図3(c)に模式的に示すように酸化スケール層Sを十分に研磨し、所定の厚み以下になるまで削り取れば、その表層から突出する微粒子Pの多くが削り取られることになり、バルブガイド14への攻撃性は許容範囲内に低下する。
【0032】
−バルブステムの表面状態の判定−
そのようにステム部10の仕上げ研磨によって、バルブガイド14への攻撃性が許容範囲内に低下していることは従来、エンジンバルブ1の抜き取り検査によって確認する必要があった。すなわち、製造ラインからランダムに抜き取ったエンジンバルブ1のステム部10を切断し、酸化スケール層Sの状態を観察するために高価な電子顕微鏡が必要であった。しかも、そうして観察した酸化スケール層Sの状態からバルブガイド14への攻撃性について正確に判定することは、かなりの熟練を要する容易ならざる作業であった。
【0033】
そこで、本発明者は、エンジンバルブ1のステム部10の表面状態とバルブガイド14への攻撃性との相関について繰り返し実験し、考察を重ねた結果、酸化スケール層Sの厚みとバルブガイド14への攻撃性との間に、強い相関があることを見出した。すなわち、
図3(b)(c)を参照して説明したように、酸化スケール層Sの研磨が不十分で、厚みが大きいときには攻撃性が強くなる一方、所定の厚みになるまで削り取れば、攻撃性は許容範囲内に低下することが分かった。
【0034】
そして、黒色の酸化スケール層Sは、その厚みの変化が表面の明暗の変化として表れるから、ステム部10の表面の明暗の度合いによって、酸化スケール層Sの厚みについて判定することができる。このことに着目して、本実施形態では、以下に説明するようにステム部10を撮影して、そのグレースケール画像の濃淡度、即ち、表面の明暗の度合いに基づいて、酸化スケール層Sの厚みが所定の厚みになっているかどうか(基準を満たすかどうか)判定するようにしている。
【0035】
−判定装置の概略構成−
図4には本実施形態に係る判定装置3の概略構成を示し、この判定装置3は、エンジンバルブ1の載置されるテーブル4と、その上方に配置され、エンジンバルブ1のステム部10を撮影するカメラ5と、ステム部10を照らすバー型の照明6と、これらカメラ5および照明6を制御してエンジンバルブ1のステム部10を撮影し、そのグレースケール画像を取得するコントローラ7と、を備えている。
【0036】
前記のテーブル4は、例えば床などの振動の影響を低減することのできる定盤であり、その上面の中央付近にはエンジンバルブ1が支持ブロック41によって支持されている。前記の
図2に表れているように2つの支持ブロック41は、互いに下端部が連結された金属製の冶具であり、それぞれの支持ブロック41の上部には断面V字状の溝41aが開口している。これらの溝41aにそれぞれ、ステム部10における傘部11寄りの部位と、反対の他方の端部寄りの部位とが挟み込まれることで、エンジンバルブ1はそのステム部10が水平に延びるように支持されている。
【0037】
また、カメラ5は、例えば100〜200万画素の白黒CCD撮像素子を備えており、低ディストーションの撮像レンズ51が装着されて、コントラストの高いグレースケール画像を撮像することができる。照明6は、複数のLED素子が並んで設けられたバー型のもので、その長手方向が前記エンジンバルブ1のステム部10と概ね平行になるように配置され、ステム部10を含む長尺のエリアに明度のばらつきが少ない光を照射することができる。
【0038】
前記の照明6は、ハレーションの影響を少なくするために、ステム部10をその斜め上(
図4では左斜め上)から照射するように配置されている。言い換えると照明6は、ステム部10の長手方向に見て、照明からの照射光がステム部10へ入射する方向(
図4に矢印Aとして示す)を、その正反射光の軸線(仮想線Lで示す)が撮像レンズ51の光軸(一点鎖線51aとして示す)と合致しないように設定している。
【0039】
コントローラ7は、CPUやメモリなどを備えた公知のコンピュータ装置であって、例えば汎用のパソコンやワークステーションの他に、専用設計された信号処理回路を搭載するものであってもよい。コントローラ7のメモリは、DRAMやフラッシュメモリ等の半導体素子、あるいはハードディスク等であって、各種の設定を記憶する他、カメラ5から入力した画像データを記憶する。
【0040】
また、コントローラ7には前記のカメラ5、照明6の他に、ユーザが各種の操作を行うためのマウスおよびキーボード、或いはタッチパネルなど入力デバイス71と、ユーザに設定や操作の内容および画像データなどを表示するためのモニター72(液晶ディスプレイやCRT等)と、外部記憶装置73とが接続されている。なお、モニター72としてタッチパネルを採用すれば、これを入力デバイス71と兼用することもできる。
【0041】
そして、コントローラ7は、前記の入力デバイス71によるユーザの操作に応じて、所定の制御プログラムを実行することにより、以下に説明するようにカメラ5および照明6を動作させて、エンジンバルブ1のステム部10を撮影し、そのグレースケール画像の濃淡度に基づいて、ステム部10の表面状態についての判定、即ち、バルブステムの判定を行うようになっている。
【0042】
−判定の手順−
以下、上述の判定装置1によって吸気バルブ10のステム部の表面状態を判定する手順を、前記した
図2〜4および
図6を参照しながら、
図5のフローチャートに沿って説明する。
【0043】
まず、最初のステップST1では、
図2を参照して上述したようにエンジンバルブ1を支持ブロック41によって支持し、テーブル4の所定箇所にセットする。そして、入力デバイス71を操作してコントローラ7によりカメラ5および照明6を動作させ、エンジンバルブ1のステム部10を撮影する。これにより、ステム部10のグレースケール画像のデータがコントローラ7によって取り込まれる(ステップST2:画像データの取得)。
【0044】
本実施形態ではグレースケール画像のデータは、1画素について例えば8ビット、即ち256階調の濃淡度で対象物の明暗の度合いを表すものとしている。
図3を参照して上述したように、ステム部10の表面に生成している酸化スケール層Sは黒色であり、その厚みの変化が表面の明暗の変化として表れるから、この明暗の度合い、即ちグレースケール画像の濃淡度によって、酸化スケール層Sの厚みについて判定することができる。
【0045】
そして、ステム部10の表面の酸化スケール層Sの厚みと、バルブガイド14への攻撃性との間には強い相関があるから、前記のグレースケール画像の濃淡度に基づいて、バルブガイド14への攻撃性について予め設定した基準を満たすかどうか判定することができる。
図6に示すグラフは、グレースケール画像の濃淡度と、実際に調べたバルブガイド14の摩耗量、即ちバルブガイド14への攻撃性との相関関係を示している。
【0046】
この
図6に表れているように、0〜255まで256階調で表したグレースケール画像の濃淡度と、バルブガイド14の摩耗量との相関関係は、濃淡度が濃い側の第1の範囲と、濃淡度が淡い側の第2の範囲と、それらの間の第3の範囲とで、それぞれ異なる傾向を示す。すなわち、図の例では、濃淡度の値が0(黒色)から125くらいまでの第1の範囲では、濃淡度が濃い側に変化する(図の左側に変化して値が減少する)ほど、比例的に摩耗量が増大している。
【0047】
一方、濃淡度の値が255(白色)から150くらいまでの第2の範囲では、摩耗量が非常に少なく(殆ど零に)なっており、それらの間の第3の範囲(破線のハッチングで示す範囲U)では、濃淡度の値が125〜150くらいの範囲で変化するのに応じて、摩耗量の変化の度合いが変化してゆく。つまり、グレースケール画像の濃淡度とバルブガイド14の摩耗量との相関関係には、濃淡度の変化に対する摩耗量(攻撃性)の変化の度合いが急変する範囲(前記第3の範囲U)が存在している。
【0048】
このことについて、前記第1の範囲においては、仕上げ研磨によって削り取られて、酸化スケール層Sの厚みが減少し、グレースケール画像の濃淡度が「0」から「125」くらいまで、即ち淡い側へと変化するのに連れて、
図3(b)(c)のように酸化スケール層Sの表層付近に埋包されている炭窒化物の微粒子Pも削り取られてゆくので、酸化スケール層Sの厚みの減少に連れて、バルブガイド14への攻撃性が低下してゆくと考えられる。
【0049】
そして、濃淡度が「125〜150」くらいの前記第3の範囲Uにおいては、既に多くの微粒子Pが削り取られているので、研磨をしても攻撃性はあまり低下しなくなり、さらに、濃淡度が「150」よりも淡い側の前記第2の範囲においては、
図3(c)のように表層から突出する微粒子Pの殆どが削り取られているので、それ以上、研磨をして酸化スケール層Sを削り取っても、バルブガイド14への攻撃性は殆ど変化しなくなると考えられる。
【0050】
このことから、エンジンバルブ1のステム部10を仕上げ研磨する工程では、酸化スケール層Sを前記
図3(c)のようになるまで、言い換えると所定の厚みになるまで削り取ればよい、ということができる。本実施形態では、前記第3の範囲Uに対応して予めバルブガイド14の摩耗量のクライテリアC(バルブガイド14への攻撃性についての基準:
図6に示す)が設定され、これに対応して酸化スケール層Sの所定の厚み、即ちグレースケール画像の濃淡度の閾値Tが設定されている。
【0051】
そして、
図5のフローチャートのステップST3では、前記のステップST2で取り込んだグレースケール画像の濃淡度が前記の閾値T以上であるかどうか判定され、濃淡度の値が閾値T以上であるとき、言い換えると、濃淡度が閾値Tよりも淡い側の値であるときに、肯定判定(YES)してステップST4に進む。この場合は、酸化スケール層Sが所定の厚み以下になっていて、ステム部10の表面状態がバルブガイド14への攻撃性についての基準を満たしているので、モニター72には合格という判定を表示させる。
【0052】
一方、前記のステップST3においてグレースケール画像の濃淡度が閾値T以上でないと否定判定(NO)されたとき、すなわち、濃淡度が閾値Tよりも濃い側の値であるときには、ステップST5に進んでモニター72に、酸化スケール層Sの状態がバルブガイド14への攻撃性についての基準を満たしていない(不合格)、という判定を表示させる。このようなモニター72の表示を見たユーザは、エンジンバルブ1のステム部10によるバルブガイド14への攻撃性を容易にかつ正確に判定することができる。
【0053】
なお、前記グレースケール画像の濃淡度としては、グレースケール画像においてステム部10の長手方向に広く、周方向には狭い予め設定した領域R(
図2を参照)の濃淡度の平均値を用いるようにしている。これは、円柱状のステム部10の表面において、カメラ5の焦点を合わせることが可能なできるだけ広い領域Rで濃淡度を算出することにより、酸化スケール層Sの状態をより正確に判定するためである。
【0054】
その領域Rの好ましいサイズについて具体的には、エンジンバルブ1の大きさや撮像レンズ51の構成などによっても変化するが、一例としてはステム部10の長手方向に5mmくらいで、周方向には0.5mmくらいの線状の領域Rにおいて濃淡度の平均値を算出するのが好ましい。また、判定するエンジンバルブ1の大きさなどに応じて、ユーザが入力デバイス71を操作して指定するようにしてもよい。
【0055】
以上、説明したように本実施形態に係るバルブステムの判定方法によると、まず、エンジンバルブ1のステム部10をカメラ5によって撮影し、そのグレースケール画像をコントローラ7に取り込む。そして、このグレースケール画像の濃淡度に基づいて、ステム部10の表面状態、具体的には生成している酸化スケール層Sの厚みが、予め設定した基準を満たすかどうか判定する。
【0056】
すなわち、前記ステム部10のグレースケール画像の濃淡度が閾値Tよりも淡い側の値であれば、言い換えると、ステム部10の表面の明度が所定以上に高くなっていれば、酸化スケール層Sが所定の厚みまで削り取られていて、バルブガイド14への攻撃性が十分に低くなっている、と判定することができる。
【0057】
よって、電子顕微鏡など高価な機器を用いることなく、また、熟練を要する困難な作業も必要とせずに、エンジンバルブ1のステム部10の表面状態、詳しくはステム部10からバルブガイド14への攻撃性について、容易にかつ正確に判定することができる。
【0058】
しかも、前記濃淡度の閾値Tは、濃淡度の変化に対する攻撃性(バルブガイド14の摩耗量)の変化の度合いが急変する範囲(
図6の相関における第3の範囲U)内に設定されており、仕上げ研磨の工程では、その閾値Tに対応する所定の厚みまで酸化スケール層Sを削り取るようにしている。
【0059】
つまり、それ以上、研磨をしてもバルブガイド14への攻撃性が殆ど変化しなくなるところまで、ステム部10の仕上げ研磨を行うようにしているので、この仕上げ研磨の工程を徒に長くすることなく、ステム部10からバルブガイド14への攻撃性を十分に低下させることができる。
【0060】
−他の実施形態−
上述した実施の形態はあくまで例示に過ぎず、本発明の構成や用途などについても限定するものではない。例えば実施形態においてエンジンバルブ1の判定は、ステム部10のグレースケール画像の濃淡度を閾値Tと比較して行うようにしており、その閾値Tは、濃淡度の変化に対するバルブガイド14への攻撃性の変化の度合いが急変する範囲、即ち
図6の相関における第3の範囲内に設定しているが、これに限らず、濃淡度の閾値は例えば第1の範囲内に設定してもよい。
【0061】
また、前記の実施形態においてグレースケール画像の濃淡度としては、ステム部10の長手方向に広く、周方向には狭い予め設定した線状の領域における濃淡度の平均値を用いているが、これにも限定されず、例えば楕円形の領域における濃淡度の平均値としてもよいし、ステム部10の長手方向および周方向に同程度の広さの領域における濃淡度の平均値としてもよい。
【0062】
さらに、前記の実施形態において判定装置3は、エンジンバルブ1のステム部10をカメラ5によって撮影する際に、このステム部10と並行して延びるバー型の照明6を用いているが、これにも限定されない。また、前記実施形態のように照明6からステム部10への照射光の入射方向Aを、その正反射光の軸線Lが撮像レンズ51の光軸51aと合致しないように設定する必要もない。