(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6276203
(24)【登録日】2018年1月19日
(45)【発行日】2018年2月7日
(54)【発明の名称】基材上にタンパク質の微細構造グラフティングを行うための装置
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20180129BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20180129BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20180129BHJP
C08G 81/00 20060101ALI20180129BHJP
【FI】
G01N33/53 D
G01N37/00 102
G01N21/64 Z
C08G81/00
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-561457(P2014-561457)
(86)(22)【出願日】2013年3月14日
(65)【公表番号】特表2015-512984(P2015-512984A)
(43)【公表日】2015年4月30日
(86)【国際出願番号】EP2013055294
(87)【国際公開番号】WO2013135844
(87)【国際公開日】20130919
【審査請求日】2016年3月8日
(31)【優先権主張番号】1252304
(32)【優先日】2012年3月14日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】514234469
【氏名又は名称】アルビオレ
(73)【特許権者】
【識別番号】502205846
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィク
(73)【特許権者】
【識別番号】514234458
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ デ ボルドー
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シュトゥダー ビンセント
(72)【発明者】
【氏名】アジウヌ アマル
【審査官】
大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】
特表2008−530540(JP,A)
【文献】
特表2002−502698(JP,A)
【文献】
特表2002−504679(JP,A)
【文献】
特開2006−133117(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0093554(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 − 33/98
G01N 37/00
G01N 21/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上にいくつかのタンパク質の微細構造グラフティングを行う装置において、
基材と、
前記基材上に設けられたポリエチレングリコールの層と、
光を第一の構造化パターンで伝播し、かつ、前記第一の構造化パターンを第二の構造化パターンと交換する、マトリクスと、
前記マトリクスを照明する光源と、
前記層上に前記第一の構造化パターンの第一の微細構造画像を形成する光学システムと、
ベンゾフェノンと第一のタンパク質を含む第一の水溶液を収容する第一の容器と、
ベンゾフェノンと第二のタンパク質を含む第二の水溶液を収容する第二の容器と、
前記第一の水溶液を収容する微少流体回路であって、前記第一の水溶液を前記層と接触させるための、前記基材と対向する開口部を有する、微少流体回路と、を含み、
前記微少流体回路は、前記第一の水溶液で満たされて前記第一の水溶液と前記層を接触させるように構成され、前記光源によって、前記第一の構造化パターンの前記第一の微細構造画像が前記層上に形成されて、前記第一のタンパク質が前記層上にフォトプリントされ、
前記微少流体回路は、前記第一の水溶液を前記第二の水溶液と交換して前記第二の水溶液と前記層を接触させるように構成され、前記第一の構造化パターンが前記第二の構造化パターンと交換されて、前記第二のタンパク質が前記層上にフォトプリントされ、
前記マトリクスは、光を反射により伝播するマイクロミラーの平面状マトリクスである
ことを特徴とする装置。
【請求項2】
請求項1に記載の装置において、
前記光源が紫外線波長で発光するレーザであることを特徴とする装置。
【請求項3】
請求項2に記載の装置において、
前記紫外線波長が365nmであることを特徴とする装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の装置を使用して前記基材上にタンパク質の微細構造グラフティングを行う方法において、
−前記第一の容器に、ベンゾフェノンと前記第一のタンパク質を含む前記第一の水溶液を満たすステップと、
−前記微少流体回路に前記第一の水溶液を満たして、当該第一の水溶液と前記層を前記開口部において接触させるステップと、
−前記光により、前記第一の構造化パターンの前記第一の微細構造画像を層の上に形成し、前記第一のタンパク質を層の上にフォトプリントするステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法において、
前記第一のタンパク質が蛍光性であることを特徴する方法。
【請求項6】
請求項4または5に記載の方法において、
−第二の容器に、ベンゾフェノンと前記第二のタンパク質を含む前記第二の水溶液を満たすステップと、
−前記第一の水溶液を前記第二の水溶液と交換して、当該第二の水溶液と前記層を前記開口部において接触させるステップと、
−前記第一の構造化パターンの前記第二の構造化パターンと交換して、前記第二のタンパク質を層の上にフォトプリントするステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれか1項に記載の方法において、
前記第二のタンパク質が蛍光性であることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パターンまたは異なる濃度に従って行われる基材上へのタンパク質グラフティングの一般的分野、または光化学的グラフト手段を通じて得られるタンパク質印刷もしくは印刷に関する。本発明は詳しくは、基材上に複数の、すなわち少なくとも2種類のタンパク質を、自動化された、または自動化可能な方法で光化学的にグラフティングする分野に関する。
【背景技術】
【0002】
本願によれば、タンパク質とは、ペプチド結合によって相互に連結された多数のアミノ酸鎖からなる生体高分子である。タンパク質は多くの種類のアミノ酸の集合であり、少ない種類のアミノ酸しか含まないペプチドまたはオリゴペプチドとは異なる。タンパク質は、生細胞の機能を担う。
【0003】
基材上に様々な濃度および異なる構成またはパターンのタンパク質の印刷層または表面層を形成することは、生細胞の、生きている生物の体外で行われる「生体外」実験において非常に重要であり、これは、それによって所望のとおりの複雑さを有するタンパク質環境を再現して、特に動物における「生体内」試験をますます不要にすることができるからである。
【0004】
それゆえ、先行技術においては、万能的の、すなわち例えば容器に収容された、ある濃度のタンパク質またはDNAまたは生体分子を使って、基材上にどのようなパターンまたは設計でも再現できるタンパク質印刷手段を有することが望ましい。
【0005】
また、単一タンパク質と同程度に簡単に複数のタンパク質を工業的に印刷できることも望ましい。
【0006】
先行技術において同一基材上に1種または複数のタンパク質を光化学的に印刷するために思い浮かべられる解決策には多くの限界があり、これらがその産業上の利用の障害となっている。
【0007】
光化学的印刷とは、分子を基材上の照明された表面領域に選択的に、光誘発接着によって化学的グラフティングまたは付着させることである。
【0008】
それゆえ、印刷またはグラフティングのための光化学的手段は、先行技術においては一般に、基材と、基材を照明する光学手段と、基材の表面に、基材上にグラフティングさせるべきタンパク質、オリゴペプチドまたはDNA等の生体分子を水溶液中に含む流体を供給する流体手段と、照明されると接着する分子または光誘発接着性分子糊と、から構成され、前記分子を基材上に堆積させるか、流体の溶液中にタンパク質と共に存在させることが可能である。
【0009】
接着分子が基材上に堆積された固体層内に存在する場合、光化学的グラフティング手段を本願では「層グラフティング」と呼ぶ。
【0010】
接着分子が基材と接触する液体内の溶液中に存在する場合、光化学的グラフティング手段を本願では「溶液グラフティング」と呼ぶ。
【0011】
先行技術の第一のグラフティング方式である層グラフィングに関しては、固体層で処理された基材が使用され、この固体層は基材と一体であり、印刷するべき「小」分子に対して光学接着性を有し、基材の、この基材と小分子の溶液の間の表面を完全に覆う。前記小分子は、DNA合成を得るためのヌクレオチドまたはオリゴペプチドの合成を得るためのペプチドであってよい。層グラフティングは、タンパク質の大きさと比較して「小さい」分子に限定され、これは、これらの分子が、その基材上に印刷されるパターンにとって望ましい使用時間で、基材上への「非特異的な」グラフティング特性を持っていてはならない、という意味におけるものである。「非特異的な」グラフティング特性とは、フォトプリントされた分子の大きさが増大すると観察され、この特性は、フォトプリントされたパターンの外で分子が基材に侵入することによって特徴付けられ、その結果、時間が経つと印刷パターンのスクリーニングによってその基材は実用に使用できなくなる。
【0012】
層グラフティングのための一般的な照明手段は、知られているように、デジタル制御されたマイクロミラーのマトリクスを含み、これはそれを構成するマイクロミラーの各々を傾斜させることによってあらゆるパターンを生成でき、このマトリクスは、小分子を含む溶液と接触する光学接着層の表面上にあらゆるパターンの微細構造画像を形成する対物レンズの対象物としての役割を果たす。
【0013】
複数の小分子の印刷は層グラフティング手段で可能であるが、これには、毎回別の印刷を行う前に、それまでに堆積された分子のための保護層が必要となり、それによって、この第一の技術の使用が工業的に複雑となる。
【0014】
しかしながら、タンパク質は厳密には非特異的なグラフティング特性を有しているため、先行技術において、層グラフティング手段は単一タンパク質の印刷、さらには複数のタンパク質の印刷に不適であることがわかった。
【0015】
先行技術の第二のグラフティング方式である溶液グラフティングに関しては、タンパク質への付着防止または防汚のための層を有するように処理された基材と、光学接着層とタンパク質の両方に対して光学接着性を持つ糊とが使用され、光学接着糊はタンパク質を含む水溶液中に存在し、前記溶液は基材と接触させられ、照明される。専ら基材上への非特異的グラフティングを防止するための手段がタンパク質への付着防止または防汚のための層の形で存在するため、この第二の技術は単一タンパク質の印刷に適したものとなっている。
【0016】
しかしながら、溶液グラフティングはフォトリソグラフィマスクを使用し、合焦光学系を持たないため、マスクと付着防止層または防汚層の間にタンパク質と光学接着糊の溶液のできるだけ薄い膜が必要となり、これは、一般的には数マイクロメートルである。それゆえ、相互に関して固定された方法で位置付けられたマスクと平坦な基材の間で溶液の液滴を押しつぶしたものが使用される。このような光学機械的構造により、この第二の技術を複数のタンパク質の印刷へと一般化することは、少なくとも2つの理由で問題となる。
【0017】
第一に、溶液を交換する微少流体ポンプ手段による膜内のタンパク質の交換を自動化することは想定しにくい。これは、流体膜または膜コーティングの厚さが薄くなると圧力損失が増大するが、光学品質を最大にするためにはこの厚さをなるべく小さくしなければならないからであり、一般的な厚さは5マイクロメートルで、この数値に関しては1マイクロメートルの精度が望ましいと考えられる。基材とマスクの平坦度には不可避的に相対的なばらつきがあるため、溶液の、したがってタンパク質の自動交換に適した微少流体装置はこの第二の技術について想定しにくい。
【0018】
第二に、印刷するべきタンパク質と同じ数のマスクをどうしても使用しなければならない。これによって、基材上のマスクを、この基材の平面だけでなく、印刷されるパターンに光学的に影響を与える基材とマスクの間の平行性に関しても整列または位置決めする手段が必要となる。これは、各マスクを基材に関して三次元的に位置決めしなければならないことを意味する。さらに、マスクと基材の平坦度の相対的なばらつきを考慮に入れるために、平坦度不良がごく小さいマスクと基材を使用するか、または各基材のための各マスクを計算し直すことが必要であるが、そのようなことは工業的に想定できない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
その結果、上記の2つの理由により、第二の技術は先行技術において、複数のタンパク質の基材上への工業的印刷には容易に使用できない。
【0020】
したがって、自動化可能であり、かつ工業的な方法で、いくつかのタンパク質を基材上に逐次的に、または順次印刷することは、先行技術にとって困難な問題であり、いくつかのタンパク質を同一基材上に、微細構造パターン、すなわち約1マイクロメートル、あるいはミクロンの微細さの詳細部を持つパターンの再現と両立するような品質で印刷するための高速システムの設計は、本発明以前の技術においては想定不能のようである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
以上に関して、本発明は、いくつかのタンパク質を基材上に微細構造グラフティングするための装置であり、これは、基材と、層と、マトリクスと、光源と、光学システムと、第一の水溶液を受ける第一の容器と、第二の水溶液を受ける第二の容器と、微少流体回路と、を含み、層は基材上に設置され、光源は光でマトリクスを照明するのに適しており、マトリクスは光を第一の構造化パターンで伝播するのに適しており、マトリクスは第一の構造化パターンを第二の構造化パターンと交換するための光学的手段を含み、光学システムは、層の上に第一のパターンの第一の微細構造画像を形成するのに適しており、回路は、第一の水溶液を収容するのに適しており、回路は、開口部であって、その開口部において第一の溶液を層と接触させるための開口部を含み、回路は第一の溶液を第二の溶液と交換するための微少流体手段を含み、層はその表面にポリエチレングリコールを含む。
【0022】
上記の装置の変形例において、
−前記マトリクスは、前記光を反射によって伝播するマイクロミラーのマトリクスであり、
−前記光学システムは顕微鏡対物レンズであり、
−前記光源は紫外線波長で発光するレーザであり、
−前記紫外線波長は365nmである。
【0023】
本発明はまた、上記の装置を使用して基材上へのタンパク質の微細構造グラフティングを行う方法にも関し、この方法は、
−第一の容器に、ベンゾフェノンと第一のタンパク質を含む第一の水溶液を満たすステップと、
−前記微少流体回路に前記第一の水溶液を満たして、第一の溶液と前記層が前記開口部において接触するようにするステップと、
−前記光によって、前記第一の構造化パターンの前記第一の微細構造画像を層の上に形成して、前記第一のタンパク質を層の上にフォトプリントするステップと、
を含む。
【0024】
上記の方法の1つの変形例において、
−前記第一のタンパク質は蛍光性である。
【0025】
本発明はまた、
−第二の容器に、ベンゾフェノンと第二のタンパク質を含む第二の水溶液を満たすステップと、
−前記第一の水溶液を前記第二の水溶液と交換して、第二の溶液と前記層が前記開口部において接触するようにするステップと、
−前記第一の構造化パターンを前記第二の構造化パターンと交換して、前記第二のタンパク質を層の上にフォトプリントするステップと、
を含む上記の方法にも関する。
【0026】
上記の方法の1つの変形例において、
−前記第二のタンパク質は蛍光性である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図面1を参照して、参照番号を括弧内の番号で示しながら本発明を説明する。
【0029】
図1は、マイクロミラーのマトリクスによって定められるパターンによって、同一基材上に2種類のタンパク質を印刷することのできるシステムとした場合の、本発明の第一の実施形態を示している。紫外線波長範囲で発光するレーザ(9)は、この目的のために、マイクロミラーのマトリクス(10)を照明するように配置される。光学システムとして機能する対物レンズ(11)は、マトリクス(10)を透明基材(7)上の、この基材の内部を通じて基材の第一の表面に結像する。基材の外側には、この第一の表面と接触してマイクロチャネル(6)があり、これは流体回路の一部であり、この回路は、マイクロチャネルの第一の入口と直列に、マイクロポンプ(5)と、第一の電気制御式マイクロバルブ(3)がコンピュータ(図示せず)によって開けられるとマイクロポンプに供給できる第一の容器(1)と、第二の電気制御式マイクロバルブ(4)がコンピュータによって開けられるとマイクロポンプに供給できる第二の容器(2)と、を含み、回路のマイクロチャネルはまた、流出または排水容器(8)へと開放する出口を含む。
【0030】
本発明の第一の実施形態において、第一のタンパク質は第一の容器(1)に収容され、第二のタンパク質は第二の容器(2)に収容される。
【0031】
第一のタンパク質は、Fibrinogen−Alexa Fluor−488の名称で知られる緑色フィブリノゲンであり、第二のタンパク質は、Fibrinogen Alexa Fluor−546の名称で知られる赤色フィブリノゲンである。2つのタンパク質のうちの一方または両方について、前記フィブリノゲンの代わりにフィブロネクチンを選択することもできる。次のタンパク質、すなわちフィブリノゲン、フィブロネクチン、ラミニン、コラーゲン、ビトロネクチンも本発明に使用できる。蛍光性タンパク質、例えば具体的には緑色フィブリノゲンと赤色フィブリノゲンは本発明にとって、基材上に生成された印刷を視覚化する目的のために有利である。
【0032】
第一のタンパク質は、水性または中性の第一の流体または第一の溶液中で希釈され、第一の容器に収容されており、第一の溶液はまた、水と、ベンゾフェノンまたは塩化ベンゾイルベンジルトリメチルアンモニウムという生成物の水溶性バージョンである第一のグラフティング手段を含む。
【0033】
第二のタンパク質は、水性または中性の第二の流体または第二の溶液中で希釈され、第二の容器に収容されており、第二の溶液はまた、水と、同様に前記ベンゾフェノンである第二のグラフティング手段を含む。
【0034】
本発明のいずれの実施形態においても、水以外の液体を使用するがタンパク質を変性させない溶液を使用してもよい。
【0035】
第一の容器は第一のマイクロバルブ(3)に接続され、第二の容器は第二のマイクロバルブ(4)に接続される。第一のマイクロバルブと第二のマイクロバルブはマイクロポンプ(5)に接続される。マイクロポンプは、ガラス基材(7)を取り囲むマイクロチャネル(6)の第一の端に接続され、基材は、この基材の第一の表面において、ポリエチレングリコール、すなわちPEGからなる約2nmの薄層で処理されている。基材はマイクロチャネルのためのカバーを形成し、マイクロチャネルは基材において開口部を有し、マイクロチャネルを通る流体が基材の第一の表面と、より具体的にはPEGの薄層と、またはその他の処理済み基材と接触するようになっている。
【0036】
マイクロチャネルは第二の端で開放しており、それによってそこを通る液体は流出容器(8)へと流出する。必要に応じて、容器の汚染の恐れがなければ、マイクロチャネルから流出した流体を、その流体が入っていた容器へと再循環させるためのシステムを提供してもよい。
【0037】
本発明に適したマイクロポンプは、例えば不可逆的定量吐出マイクロポンプである。
【0038】
本発明に適したマイクロバルブは具体的には、通常は流体によって閉じられ、電気制御によって開かれる逆流防止バルブであってもよい。マイクロポンプに接続された1本の管路内で容器の切り替えまたは多重化を可能にする他のどのような油圧スライドバルブも、本発明にとって適当であろう。
【0039】
本願を通じて、流体工学の技術分野の用語である「微、マイクロ」という接頭辞は、寸法の点で、マイクロメートルの大きさの物体に限定するものではなく、本発明の流体回路またはシステムの形成に使用される流体要素が、第一の溶液と第二の溶液が前記回路の流体要素によって基材と接触させられ、その後、流出容器へと排出される時に、これらの無駄を回避するように、できるだけ小さい大きさであることを表している。印刷面または基材の印刷面が、例えば1cm×1cmの正方形に決められている場合、第一の表面の外側でのマイクロチャネルの深さ、またはマイクロチャネルの第一の表面からの範囲はそれゆえ、200マイクロメートルであってもよく、それによって印刷面の上には体積20マイクロリットルの溶液が載る。それゆえ、本発明の特定の手段が微少流体レベルの設計であるという面から、新しいものとの入れ替えを少量の溶液とタンパク質に限定できるため、工業上の利点となる。
【0040】
本願を通じて、「基材上への印刷」という文言は、層が基材の厚さより薄い基材の表面処理部分である場合の「層の上への印刷」と同義と考える。これは、本発明の層と基材に当てはまる。
【0041】
本願において、基材は、印刷を行うために光がそこを通過する必要がある場合は、ガラスまたはITOまたは透明なあらゆる材料である。同様に、層は、印刷を行うために光がそこを通過する必要がある場合は透明である。基材が本来、タンパク質に付着せず、防汚性であれば、層は、その上にグラフティングが行われる基材の表面層と考えられ、これも本発明の教示から逸脱しない。
【0042】
上記を前提として、本発明に適した流体または微少流体回路の大きさは、微少流体工学分野の当業者により、特に困難も伴わずに、その通常の知識を使って決定できる。本発明はそれゆえ、層と、それぞれ第一と第二のタンパク質を含む水溶液の第一と第二の容器の間に設置された微少流体回路を含む。その流体回路に関する本発明の一般化において、微少流体回路は、回路の出口を、例えばプログラムされた選択に従ってコンピュータが行う自動制御に応じて、各々が具体的なタンパク質とベンゾフェノンを含む複数の水溶液と接触させるための手段を含む。流体構成が、各容器につき1つの計2つの入口と、マイクロチャネルでの1つの出口を有するマルチプレクサに対応する開示された実施形態において、このマルチプレクサに既知の流体手段を介して容器と入口を追加することによって、マイクロチャネルを満たすことのできるタンパク質溶液の数を増やせる。それゆえ、本発明はこの第一の実施形態では2つのタンパク質を用いたその構造の例として示されているが、特にこの数に限定されない。
【0043】
さらに、本発明のこの第一の実施形態において、紫外線光源(9)は365nmの波長で発光する紫外線レーザであり、随意選択によって高い光強度を利用するためにパルス状とすることもでき、これが装置に含められて、コンピュータ(図示せず)によりデジタル制御されるマイクロレンズの平面マトリクス(10)を照明する。このマトリクスによって対象物を生成でき、その各ピクセルは個々に制御可能であり、それによって対象物のパターンが形成され、これはどれほど複雑でもよく、マトリクスのマイクロミラーの数と等しい、多数の独立した点を有する。各マイクロミラーは1つの暗い、または照明されたピクセルまで縮小でき、マトリクスはその平面内にパターンを形成し、すなわち二次元パターンとなる。このマトリクスは、紫外線光と、マトリクスの画像を基材の第一の表面の上に形成するように最適化された対物レンズ(11)によって、基材の中央に結像される。光学システム、すなわち対物レンズは、倒立顕微鏡、すなわち光の方向が反転される顕微鏡の対物レンズであってもよく、それによって約10マイクメートルの分解能のパターンに構成されたマトリクスが、1より低い倍率を通じて、約1/10の約1マイクロメートルの分解能または微細さの微細構造画像に変換される。
【0044】
基材は、有利な点として、レーザから発せられた光がまずこの基材を通過してから、画像がその第一の表面に形成されるように配置される。換言すれば、基材に第二の表面と第一の表面間に延びる第一の厚さがある場合、光の伝播方向に、第二の表面に紫外線光が接触し、その後、第一の表面に紫外線光が接触する。この配置は本願において、「基材が内部から照明される」いう表現で示され、これは、光が第一と第二の表面にこの順番で入る状況の逆であり、これは「基材が外部から照明される」という表現で示される。基材の内部を通じた照明によって溶液の光学的欠陥をなくすことができ、これは、本発明に関する好ましい実施例である。
【0045】
基材、光、ベンゾフェノン、PEG、タンパク質エレメントは次のように選択される。すなわち、あるタンパク質について、PEGは、タンパク質と付着しないか、防汚性であるが、基材に接着する層として選択され、ベンゾフェノンは、光によって照明されると、タンパク質と層を接着させる糊として選択される。それゆえ、他のタンパク質に対する本発明の実施を可能にするようなその他の材料を決定できる。
【0046】
第一の構造化パターンで第一のタンパク質を処理された基材にフォトプリントするための装置はすると
−微少流体回路に、第一のタンパク質を含む第一の水溶液を、第一の溶液とPEGの層が基材上に堆積されたPEG層によって覆われるマイクロチャネル開口部において接触するまで満たすステップと、
−前記光によって層の上に、第一の構造化パターンの、顕微鏡対物レンズによって縮小された第一の微少構造画像を形成して、第一のタンパク質を層の上にフォトプリントするステップと、
を含む方法によって得られる。
【0047】
本発明はそれゆえ、第一の容器による印刷のために第一の構成をとる。基材上に2つのタンパク質を印刷するための複雑なパターンは、この第一の構成に基づいて、第一の溶液を第二の溶液と交換することによって、またマトリクスによって表示または反射または伝播または転写された第一のパターンを第二のパターンと交換することによって、容易に生成できる。
【0048】
それゆえ、第一の構成を得るためには、第一のマイクロバルブを開いて第二のマイクロバルブを閉め、マイクロポンプで第一の溶液を送出して層において第一のタンパク質が得られるようにすればよい。層の上に第一の微細構造パターンを形成するためにはまた、光源に電源供給して、マトリクス上で第一のパターンを選択すればよい。
【0049】
この第一の実施形態において、マイクロミラーのマトリクスが第一の構造化パターンを第二の構造化パターンと交換するための光学的手段を有すると考えるべきである。
【0050】
また、この第一の実施形態において、タンパク質に付着しない、または防汚性の層によって形成される領域に溶液を供給する手段として定義される微少流体回路が、層において第一の溶液を第二の溶液と交換するための微少流体手段を有すると考えるべきである。
【0051】
すると、層において第一の水溶液を第二の水溶液と交換し、マトリクス上の第一の構造化パターンを第二の構造化パターンと交換し、前記第二のパターンの第二の微細構造画像を層の上に形成することが容易となる。
【0052】
それゆえ、これはこの第一の実施形態において本発明の第二の構成となり、第二のタンパク質が第二のパターンの画像に従って層の上にフォトプリントされる。
【0053】
また、第一の溶液を、タンパク質と、光励起性の分子(sulfo−SANPAHまたはスルホサクシンイミジル6−((4−アジド−2−ニトロフェニル)アミノ)ヘキサノエート、アントラキノン−2−スルホン酸ナトリウム一水和物、ベンゾフェノン−4−マレイミド、ベンヅフェノン−4−イソシアネート、4−アジド−2,3,5,6−テトラフルオロ安息香酸、サクシミニジルエステル)の複数の水溶液と交換し、マイクロミラーのマトリクスの第一の構造化パターンを、複数の溶液のタンパク質の所望の印刷に関連する複数のバターンと交換して、PEGの層でその微細構造画像を得ることができる。本発明はそれゆえ、基材上に複数のタンパク質を、希望に応じて選択されるパターンで容易に印刷すること、したがって希望に応じた複雑な印刷に適している。
【0054】
また、第三のすすぎ用ラインを、緩衝液で満たされた第三の容器を第一と第二のマイクロバルブと同じ種類の第三の自動制御式マイクロパルブに接続し、この第三のバルブの出口をマイクロポンプに接続することによって追加することも可能である。すすぎ用の緩衝液は具体的には、蒸留水または生理食塩水、またはその他のタンパク質洗浄溶液(イオンまたは非イオン界面活性剤、Tween 20、Triton X200)であってもよい。
【0055】
それゆえ本発明は、複数の容器を使って、また高い、長時間続くケミカルコントラストを使って、すなわち非特異的グラフティングを用いずに、基材上にいくつかのタンパク質を高速に、万能的に印刷するために使用する場合に特に有利である。ケミカルコントラストは便宜上、本願については、別の場所における同じタンパク質の濃度の差と定義され、前記差を、これらの同じ場所における前記同じタンパク質の濃度の合計で割る。
【0056】
本発明はまた、工業的に有効である可能性があり、これは、本発明すべての構成において、有利な点として、コンピュータが本発明の各要素、すなわち光源、マイクロミラーのマトリクス、流体回路(マイクロポンプ、マイクロバルブ)を、これらに当業界で知られている自動制御を適用することによって制御できることもわかるはずであるからである。
【0057】
2つのタンパク質の印刷に対する本発明の利用は、例えば2つの構成に従って可能となる。
【0058】
使用のための第一の構成において、第一の容器(1)は、開いた第一のマイクロバルブ(3)を介してマイクロポンプ(5)とマイクロチャネル(6)に接続され、第二のマイクロバルブ(4)は閉じられて、微少流体回路の中で第一と第二の容器に収容されている流体の混合が防止される。第一のタンパク質を含む第一の流体はそれゆえ、第一の容器からマイクロチャネルへと流れ、その後、流出容器(8)へと流出する。この第一の構成において、第一のパターンがマイクロミラーのマトリクス(10)にコンピュータ(図示せず)によって描かれ、この第一のパターン、すなわち第一の光学的パターンの画像が、基材の第一の表面に形成される。第一の容器は、第一のタンパク質を含む第一の流体と、紫外線照明を受けて第一のタンパク質を第一の表面に溶液グラフティングする第一の手段を含む。第一の光学的パターンの画像は、第一のグラフティング手段によって第一のタンパク質の第一の化学的パターンの形態に変換され、これは第一の光学的パターンと同じ空間範囲を有し、その上に重ねられる。
【0059】
使用のための第二の構成では、第二の容器(2)が、開いた第二のマイクロバルブ(4)を介してマイクロポンプ(5)とマイクロチャネル(6)へと接続され、第一のマイクロバルブ(3)は閉じられて、第一と第二の容器に収容された流体の混合が防止される。第二のタンパク質を含む第二の流体はそれゆえ、第二の容器からマイクロチャネルへと流れ、その後、流出容器(8)へと流出する。この第二の構成では、第二のパターンがマイクロミラーのマトリクス(10)にコンピュータによって描かれ、この第二のパターン、すなわち第二の光学的パターンの画像が、基材の第一の表面に形成される。第二の容器は、第二のタンパク質を含む第二の流体と、紫外線照射を受けて第二のタンパク質を第一の表面に溶液グラフティングする第二の手段を含む。第二の光学的パターンの画像は、第二のグラフティング手段によって第二のタンパク質の第二の化学的パターンの形態に変換され、これは第二の光学的パターンと同じ空間範囲を有し、その上に完璧に重ねられ、基材は使用中ずっと移動されず、これは複数のタンパク質を印刷する際に非常に有利であり、そのため、第二のタンパク質について実行される動作を、印刷するべき残りのタンパク質に容易に繰り返すことができる。
【0060】
また、本発明を使って、具体的には基材の表面処理の照明時間を変調することによって、または同じ時間を使うが、異なる濃度の同じタンパク質を含む容器を選択することによって、同じタンパク質の濃度勾配を生成することができる。
【0061】
緑色フィブリノゲン(Alexa 488)と、赤色フィブリノゲン(Alexa 546)と、黄色フィブリノゲン(Alexa 532)の階調度は具体的には、本発明により、異なる照明時間でグリッドの画像を投射することによって得られている。
【0062】
本発明の全体とその他の実施形態または用途に関して、以下の考察が当てはまる。
−光学的コントラストを持つパターンで光を伝播する、マイクロミラー以外のあらゆるマトリクスが本発明に適している。光の反射または吸収ではなく透過によって動作する液晶空間変調器が本発明に適しているであろう。
−パターンを作り、層の上にその画像を生成するあらゆる手段が本発明に適している。コントラストのあるパターンまたは発光パターンが光透過により生成される光源光透過型システムもまた本発明に適しており、このパターンは対物レンズによって再現され、対物レンズによって基材の第一の表面上に結像される。したがって、本発明の第一の実施形態の、マイクロミラーのマトリクスの反射による動作と倒立顕微鏡対物レンズとの組み合わせは、本発明の目的のための照明手段または光源光の空間変調器の一例である。
【0063】
本発明は、そのすべての実施形態において、いくつかのタンパク質の印刷にとって実用上の利点を有する。
−システムが光学的および寸法的に安定しており、取り外しが不要であり、その一方で、本願における本質として、印刷層としてのPEGと溶液内のベンゾフェノンの使用を通じて、タンパク質の非特異的グラフティングを限定することが可能である。
−単純にマイクロバルブの数を増やし、ある時点で1つのマイクロバルブだけが開き、他はすべて閉じているようにする、これらのマイクロバルブの開放ロジックを使用することによって、所望の容器数と複数のタンパク質に適応させることができる。したがって、溶液中に各タンパク質とともに各タンパク質をグラフティングする手段を含めることが可能であり、そのグラフィング手段が基材に適しているという条件が満たされれば、本発明により基材上に所望の数のタンパク質を印刷することが可能であり、単一タンパク質の印刷と比較してもコントラストが低下せず、時間の損失もない。ロジックは、具体的にはコンピュータによって制御でき、本発明による印刷システムをできるだけ自動化できる。
−随意選択により、すすぎラインを設けずに動作できる。実際に、本発明の第一の実施形態の説明から、層上の溶液の流れが、照明がない場合に活性であれば、第一の表面の洗浄に寄与することが明らかである。この洗浄は、第一の実施形態の第一から第二の構成へと切り替わる時の、第二の流体による第一の流体の洗浄にも当てはまる。切替中、すなわち第一の表面と接触する流体の交換時、すなわち切り替え段階で、流体混合物が第一の表面と接触するため、タンパク質の混合物の付着または印刷を回避するために照明をオフにすることが望ましい可能性がある。照明は、印刷に望まれる精度の純粋な流体だけが第一の表面と接触していると考えられた時、すなわち、第一の表面上の単一タンパク質にとって望まれるケミカルコントラストが実現された時に、再びオンにすることができる。当業者であれば、印刷される各タンパク質について得られるコントラストに従って間欠的照明を容易に決定できる。
【0064】
本発明は産業上、基材へのタンパク質の印刷の分野に利用可能である。
【0066】
本願の目的のために、またはここでは、前記微少流体システムが基材を真空に保持するための回路を含んでいてもよいことがわかる。これにより、印刷終了時に真空を解除することによって処理済み基材を容易に回復することが可能となる。
【0067】
ここでは、本発明の教示により、その装置のすべてについて、前記微少流体回路が、生理食塩水または、印刷するべきタンパク質と適合するその他の溶液等の緩衝液と前記層を印刷するべきタンパク質の溶液に関して洗浄する手段に接続された洗浄回路を含むことがわかる。この場合、印刷層をその場で洗浄でき、これによって、その上に印刷するべきタンパク質の溶液の交換中に、印刷するべきタンパク質の画像に関して基材を移動させないようにすることができ、また、異なるタンパク質のパターン間または同じタンパク質の異なるパターン間の相対的な印刷精度を非常に高く保つことが可能となる。
【0068】
ここでは、緩衝液と前記洗浄手段に接続された洗浄回路を含む本発明による装置の使用において、前記第一の水溶液を戦記第二の水溶液と交換して、第二の水溶液と前記層を前記開口部において接触させるステップは、
−前記第一の水溶液を前記緩衝液と、洗浄手段を通じて交換するサブステップと、
−緩衝液を第二の水溶液と交換して、第二の溶液と前記層を前記開口部において接触させるサブステップと、
を含んでいてもよいことがわかる。
【0069】
ここでは、緩衝液と前記洗浄手段に接続された前記洗浄回路と、N個のパターンの集合をN個のタンパク質の集合と1対1で対応させて印刷する手段と、を含む本発明による装置において、この装置を使用する方法の現実的な例は、
−各タンパク質i(iは1〜N)に関して、
・少なくとも1つの光活性化可能な分子を含む水溶液という意味で光活性化可能な水溶液を含み、水溶液がまたタンパク質iを含むような容器を制御するマイクロバルブを開き、前記層がタンパク質iの水溶液と接触できるようにするサブステップと、
・光源、具体的には紫外線(UV)光源によって層を照明することによってパターンiを印刷し、タンパク質iを層の上に印刷できるようにするサブステップと、
・光源からの照明をやめるサブステップと、
・マイクロバルブiを閉じるサブステップと、
・洗浄手段を介してタンパク質iの水溶液の層を洗浄するための緩衝液を収容する緩衝液容器を制御する緩衝液マイクロバルブを開くサブステップと、
を実行するステップを含んでいてもよいことがわかる。
【0070】
ここでは、本発明が、基材上にいくつかのタンパク質の微細構造グラフティングを行う装置でもあることがわかり、これは、基材と、層と、マトリクスと、光源と、光学システムと、第一の水溶液と、第二の水容器と、微少流体回路と、を含み、層が基材上に設置され、光源が光でマトリクスを照明し、マトリクスが光を第一の構造化パターンで伝播し、マトリクスが第一の構造化パターンを第二の構造化パターンと交換するための光学手段を含み、光学システムが層の上に第一のパターンの第一の微細構造画像を形成し、回路が第一の水溶液を含み、回路が第一の溶液のための開口部を含み、第一の溶液が開口部において層と接触し、回路が第一の溶液を第二の溶液と交換するための微少流体手段を含み、層がポリエチレングリコールをその表面に含み、第一の溶液がベンゾフェノンと第一のタンパク質を含み、第二の溶液がベンゾフェノンと第二のタンパク質を含み、その装置の中で、第一の溶液を第二の溶液と交換するための微少流体手段が、層を、第一と第二のタンパク質と適合する緩衝液で洗浄するための手段を含み、前記洗浄手段が第一のタンパク質の水溶液の層を洗浄できることがわかる。