特許第6276204号(P6276204)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6276204小型化された薬物送達デバイスのための製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6276204
(24)【登録日】2018年1月19日
(45)【発行日】2018年2月7日
(54)【発明の名称】小型化された薬物送達デバイスのための製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 37/00 20060101AFI20180129BHJP
【FI】
   A61M37/00 505
   A61M37/00 514
【請求項の数】39
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-561538(P2014-561538)
(86)(22)【出願日】2013年3月13日
(65)【公表番号】特表2015-513923(P2015-513923A)
(43)【公表日】2015年5月18日
(86)【国際出願番号】IB2013000875
(87)【国際公開番号】WO2013136185
(87)【国際公開日】20130919
【審査請求日】2016年3月2日
(31)【優先権主張番号】61/610,184
(32)【優先日】2012年3月13日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/661,032
(32)【優先日】2012年6月18日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/610,189
(32)【優先日】2012年3月13日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/661,020
(32)【優先日】2012年6月18日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/669,846
(32)【優先日】2012年7月10日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】310021434
【氏名又は名称】ベクトン ディキンソン フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ ビュロー
【審査官】 芝井 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特表2005−525141(JP,A)
【文献】 特表2009−513365(JP,A)
【文献】 特表2006−500086(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療薬、薬物、またはワクチン用の送達デバイスを製造する方法であって、フラットパネルウエハを準備するステップと、各リザーバがキャビティを画定する複数のリザーバを前記フラットパネルウエハ内に形成するステップと、前記複数のリザーバの全域にカバー層を付着するステップと、治療薬、薬物、またはワクチンの少なくとも1つで前記複数のリザーバを充填して、複数の充填済みリザーバを形成するステップと、前記複数の充填済みリザーバのそれぞれに隣接してハウジング部を提供して複合層を形成するステップと、
前記複合層を複数の送達デバイスに分離するステップであって、それぞれの送達デバイスがリザーバを含む、ステップと、
を有する方法。
【請求項2】
前記フラットパネルウエハは、ガラスおよびシリコンのうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記複数のリザーバを前記フラットパネルウエハ内に形成する前記ステップは熱スランピングによって達成される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記フラットパネルウエハは400μmの厚さを有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記フラットパネルウエハが水及び酸素に対して不浸透性である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記フラットパネルウエハが、不活性な材料または不活性な材料で被覆された材料で形成されている、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記フラットパネルウエハは、フロート処理及び融解処理のうちの少なくとも1つによって形成される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記フラットパネルウエハは14平方インチから17平方インチの初期寸法を有し、及び、40から50の送達デバイスが前記フラットパネルウエハから製造される、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記リザーバのそれぞれが、その中に治療薬、薬物、またはワクチンの100μLから0.5mLから受けるような寸法にされている、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記複数のリザーバの各リザーバ内にアクセス孔を形成するステップをさらに含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
複数のアクセス孔が同時に前記複数のリザーバ内に形成される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記アクセス孔は、30ゲージのニードルをその中に受容する寸法である、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
前記カバー層が前記フラットパネルウエハに接合しまたは熱的にアニールされ、前記複数のリザーバの前記キャビティのそれぞれは前記アクセス孔を介してのみアクセス可能になる、請求項10から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
複数のリザーバが、前記治療薬、薬物、またはワクチンの少なくとも一つで同時に充填される、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記充填済みリザーバを薄いポリマー層で封止するステップをさらに有する、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記ハウジング部に隣接して複数のニードルを準備して、その結果、前記複数のニードルのそれぞれが前記複数のリザーバのうちの一リザーバと整列されるようにするステップをさらに有する、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記ハウジング部が底部支持層を含む、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記複数の充填済みリザーバを形成する前記ステップは、充填用カニューレを前記リザーバに導入するステップ、前記リザーバ内に収容された空気を前記リザーバから前記充填用カニューレを介して除去し、前記リザーバ内を真空にするステップ、及び、前記リザーバ内の前記真空と前記治療薬、薬物、またはワクチンとの間の圧力差の結果として、受動的に、前記治療薬、薬物、またはワクチンを前記リザーバ内へ前記充填用カニューレを通じて引き込むステップ、を含む、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記複数の充填済みリザーバを形成する前記ステップは、前記リザーバから前記充填用カニューレを取り外すステップ、及び、前記充填用カニューレによって形成された孔を接着剤フィルムで覆って前記リザーバを封止するステップをさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
複数の前記充填用カニューレがカウンターウエハ上に配置されており、前記複数のリザーバを同時に充填するためのリザーバに各充填用カニューレが同時に導入されるように、前記カウンターウエハが構成される、請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
底部支持層を前記複数のリザーバに隣接して提供するステップをさらに含む、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
治療薬、薬物、またはワクチン用の送達デバイスを製造する方法であって、
フラットパネルウエハを準備するステップと、
各リザーバがキャビティを画定する複数のリザーバを前記フラットパネルウエハ内に形成するステップと、
治療薬、薬物、またはワクチンの少なくとも1つで前記複数のリザーバを充填して、複数の充填済みリザーバを形成するステップと、
前記複数のリザーバに隣接して底部支持層を提供して複合層を形成するステップと、
各ニードルが前記複数のリザーバのうち単一の充填済みリザーバと係合可能な複数のニードルを提供するステップと、
前記複合層を複数の送達デバイスに分離するステップであって、それぞれの送達デバイスがリザーバを含む、ステップと、
を有する方法。
【請求項23】
前記複数のリザーバを前記フラットパネルウエハ内に形成する前記ステップは熱スランピングによって達成される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記フラットパネルウエハは400μmの厚さを有する、請求項22または23に記載の方法。
【請求項25】
前記フラットパネルウエハが水及び酸素に対して不浸透性であり、及び、前記フラットパネルウエハが、不活性な材料または不活性な材料で被覆された材料で形成されている、請求項22から24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記フラットパネルウエハは、フロート処理及び融解処理のうちの少なくとも1つによって形成される、請求項22から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記フラットパネルウエハは14から17平方インチの初期寸法を有し、及び、40から50の送達デバイスが前記フラットパネルウエハから製造される、請求項22から26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記複数のリザーバのそれぞれが、その中に治療薬、薬物、または100μLから0.5mLのワクチンを受けるような寸法にされている、請求項22から27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記複数のリザーバの各リザーバ内にアクセス孔を形成するステップをさらに含む、請求項22から28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
カバー層が前記フラットパネルウエハに接合しまたは熱的にアニールされ、前記複数のリザーバの前記キャビティのそれぞれは前記アクセス孔のそれぞれを介してのみアクセス可能になる、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記複数のリザーバが、前記治療薬、薬物、またはワクチンの少なくとも一つで同時に充填される請求項22から30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
小型化された薬物送達デバイス(10)であって、
フラットパネルウエハから形成されたリザーバ層(12)であって、薬物で充填され且つアクセス孔(18)を備えるリザーバキャビティ(14)を形成し、超薄ポリマー層で覆われているリザーバ層(12)と、
前記リザーバ層に付着された底部構造支持体(22)であって、形状及び大きさが前記リザーバキャビティ(14)に対応する凹部(24)であってニードルソケット(26)を含む凹部(24)、及び、前記ニードルソケット(26)内に配置されたミニニードル(28)であって、該底部構造支持体(22)に固定されて前記リザーバキャビティとの前記アクセス孔(18)を通じた流体連通を確立するミニニードル(28)を含む底部構造支持体(22)と、
前記リザーバ層(12)に付着され及び前記リザーバキャビティを囲むカバー層(20)と、
前記カバー層(20)の上面に固着された上部機能層(32)であって、作動の要素及び排出機構を含む上部機能層(32)と、
を備え、ハウジング(1)内に配置されている、小型化された薬物送達デバイス(10)。
【請求項33】
前記カバー層(20)は30μmから50μmの厚さを持った超薄ガラス層内にある、請求項3に記載の小型化された薬物送達デバイス(10)。
【請求項34】
前記リザーバ層(12)がガラスでできている、請求項3または3に記載の小型化された薬物送達デバイス(10)。
【請求項35】
前記ミニニードル(28)が、流体が前記リザーバキャビティ(14)から漏れることを防止するためのストッパ材をさらに含む、請求項3から3のいずれか一項に記載の小型化された薬物送達デバイス(10)。
【請求項36】
前記上部機能層(32)は、水を収容する活性化リザーバ(34)、及び、水と接触したときに拡がることができる親水性ビーズ(38)を収容する排出リザーバ(36)を含む、請求項3から3のいずれか一項に記載の小型化された薬物送達デバイス(10)。
【請求項37】
前記活性化リザーバ(34)は活性化層(35)内に含まれ、及び、前記排出リザーバ(36)は排出層37内に含まれる、請求項3に記載の小型化された薬物送達デバイス(10)。
【請求項38】
前記上部機能層(32)は前記カバー層(20)と前記活性化層(35)との間に位置する圧力容器層(40)をさらに含む、請求項3に記載の小型化された薬物送達デバイス(10)。
【請求項39】
前記圧力容器層(40)は前記排出リザーバ(36)が前記リザーバキャビティ(14)に及ぼす圧力を軽減するための空きスペース(42)を含む、請求項38に記載の小型化された薬物送達デバイス(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、"Self-Injection Device Having a Miniaturized Drug Delivery Portion and Method of Manufacture Thereof”と題された2012年3月13日出願の米国仮特許出願第61/610184号; "Injection Device Having a Miniaturized Drug Delivery Portion and Method of Manufacture Thereof”と題された2012年6月18日出願の米国仮特許出願第61/661032号; " Method of Manufacture for a Miniaturized Drug Delivery Device”と題された2012年3月13日出願の米国仮特許出願第61/610189号; " Method of Manufacture for a Miniaturized Drug Delivery Device”と題された2012年月18日出願の米国仮特許出願第61/661020号; 及び、" Integrated Injection System and Communication Device”と題された2012年7月10日出願の米国仮特許出願第61/669846号に基づく優先権を主張する。
【0002】
本発明方法は、一般的には注射デバイスの製造に関し、より詳細には、医療訓練を受けていない個人による、ワクチンなどの治療薬の注射のための、小型化されたデバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
関連技術の説明
現在のワクチン接種プログラムは、財政面及び物流面で数多くの問題がある。新興国において、公衆衛生当局は、大規模な予防接種の取り組みを実施する際に、これまでのところ大部分が成功していない。成功の欠如の一つの理由は、専門家が接種を実行するために十分な専門知識を有している、限定された数の予防接種診療所に多数の人口を輸送する際の物流面での困難に由来する。慈善団体や非政府組織がワクチンのコストをカバーするためにかなりの量のお金を提供するが、インフラの欠如は、これらのワクチンが多くの農村人口に到達すること妨げている。
【0004】
先進国では医師不足が増大しており、長年の政策課題がワクチンの配布を複雑なものにした。ワクチンの必要性が増加したときには、ワクチンの配布はしばしば「オンザフライ」で管理される。これらの先進国の平均人口が増加し続けるにつれて、インフルエンザの大流行に応じた予防接種の必要性は確かに増加する。さらに、既存の免疫化インフラストラクチャは、パンデミックの状況に対応するためには十分でない。世界の健康の専門家は、グローバルな統合が増加するにつれて、急速に広がる世界的なインフルエンザの大流行の可能性が増加し続ける、と警告を続けている。
【0005】
予防接種を大規模に提供することに関連する問題は、一般に、(1)どのように予防接種を投与するか、及び、(2)現在利用可能な注入装置、の組合せから生じる。ワクチンまたは薬物を注射により受けることは、最も典型的には、そのような一般開業医(GP)などの医療提供者との少なくとも一回の面会を必要とする。注射は、一般に看護師として訓練を受けた専門家などによって行われる。多くの国では、GP面会の、薬物または注射自体のコスト以外のコストが重要である。さらに、多くの国は現在、一般開業医及び他の訓練を受けた医療従事者の不足を経験している。医療専門家は、注射などの些細な手順を実行するより少ない時間を費やし、多くの時間は診断しており、より複雑な医学的症状を治療する場合には、この不足分を部分的に緩和することができた。訓練を受けていない個人が自分自身でワクチン及び他の治療薬の注射を行えるなら、時間と費用の大幅な節約を実現できることは明らかである。
【0006】
流体注射用の多種多様な皮下注射器が商業的に入手可能である。ほとんどの皮下注射は筋肉内であることを意図しており、個人の皮膚層と皮下組織を通って筋肉内に皮下注射ニードルが侵入することを要求される。このタイプのニードルは、一般的に挿入部位における皮膚への痛み、損傷、及び、創傷部位での疾病伝播及び感染のリスクを増大させる出血を引き起こす。筋肉内注射はまた、一般的に、ニードルの使用の訓練を受けた業者による投与を必要とする。疼痛、創傷形成及び注射を行うために必要な一般的な技術の問題は、筋肉内注射は医療施設外で実行することが難しく、訓練を受けていない個人が自己注射を実行することは特に困難であることを、結果としてもたらす。
【0007】
代替送達技術は経皮パッチであり、これは皮膚を通過する薬物の拡散に依存する。しかし、経皮送達デバイスは、皮膚の乏しい浸透性(すなわち、効果的なバリア特性)のため、多くの薬物には有用ではない。拡散速度は、皮膚層全体にわたる薬物分子の大きさ及び親水性並びに濃度勾配に部分的に依存する。実際には、いくつかの薬は、受動拡散により皮膚を通して効果的に送達される必要な特性を有している。いくつかの物質の浸透性を増加させることができる増強の程度を変えることを提供しながら、これらの技術は全てのタイプの薬物に適しているわけではない。いくつかのケースでは、経皮薬物送達はまた、痛みを伴い、ユーザにとって不便である。
【0008】
第2の代替薬物送達の可能性は、ミニニードルシリンジである。ミニニードルシリンジは、臨床的に妥当な速度での、皮膚の一つ以上の層を通じた薬物の皮内注射を、周囲の組織への最小限の損傷、痛み、または刺激で可能にする。ミニニードルシリンジは、約1μmから500μmの間の断面寸法を有するニードルシャフトを含む。多くの場合、ミニニードルによって形成される穿刺部位の直径は約0.2μm未満である。穿刺部位の径が小さいと疼痛及び感染症の可能性を低減し、治癒時間の増加を有意に減少させる。そのような皮内送達デバイス及びニードルアセンブリの例がBecton, Dickinson and Companyに譲渡された米国特許第6494865号明細書に開示されており、これは参照により本明細書に組み込まれる。しかし、ミニニードルシリンジが効果的に痛みを軽減するにもかかわらず、多くの個人は自分自身で注射を行うことを予想して威圧されることが認識されている。具体的には、医療訓練を受けていない個人は自分自身で注射を実施する予想に未だおびえていることを、研究が示している。したがって、多くの個人が自分自身に注射を行うことを妨げているのは、痛み自体よりもむしろ、注入プロセスの恐怖及び予想であると結論付けることができる。
【0009】
さらに最近では、依然として、パッチ状のデザインに基づいた小型化された薬物送達デバイスは、さらにニードルアセンブリを小型化すると想定されている。これらのデバイスは、半導体産業用に開発されたマイクロスケールの製造技術を用いて製造され、量産に適している。典型的には、このようなデバイスは、基板の頂部に作用する力によって基板のベースから延びる尖った先端を生じる、例えばプレス押出技術によるシリコンベースなどの基板から製造されるマイクロニードルを含む。多くの場合、マイクロニードルの先端部が成形され、生物学的に活性な物質を運ぶように寸法決めされる。先端部から生物学的物質が転送されてターゲット細胞内に堆積されるように、複数のニードルが組織内のターゲット細胞に貫通し、浸透する。
【0010】
しかし、このような先端取り込みは、生物学的に活性な物質の正確に計量した投与量を送達するのに効果的ではない。一般的に、患者への注射を含む医療方法は、先端のコーティングでは達成できない、送達される薬物の量を正確に制御することを必要とする。さらに、この方法によって製造されるマイクロニードルは、皮膚の角質層を貫通するが、真皮内には延びていない。従って、このようなマイクロニードルは、一般に、皮膚の真皮層を通って拡散することができない薬物の送達を容易にすることができない。ワクチンは、表皮または角質層を通って拡散することができない治療薬の一例である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、治療薬または予防薬の皮内送達のための、自己注射のために構成された自己注射デバイス及びその製造方法を提供することが望ましい。
【0012】
本明細書では、治療薬の自己注射用の小型化されたデバイスの製造方法が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一実施形態によれば、治療薬、薬物、またはワクチン用の送達デバイスを製造する方法は、フラットパネルウエハを準備するステップを含む。本方法はまた、各リザーバがキャビティを画定する複数のリザーバをフラットパネルウエハ内に形成するステップと、複数のリザーバの全域にカバー層を付着するステップを含む。本方法はまた、治療薬、薬物、またはワクチンの少なくとも1つで複数のリザーバを充填して、複数の充填済みリザーバを形成するステップを含む。本方法はさらに、複数の充填済みリザーバのそれぞれに隣接してハウジング部を提供して複合層を形成するステップと、複合層を複数の送達デバイスに分離するステップであって、それぞれの送達デバイスがリザーバを含む、ステップとを含む。
【0014】
特定の実施形態において、フラットパネルウエハは、ガラスおよびシリコンのうちの少なくとも1つである。複数のリザーバをフラットパネルウエハ内に形成するステップを熱スランピングによって達成してもよい。フラットパネルウエハは約400μmの厚さを有していてもよく、及び、フラットパネルウエハは水及び酸素に対して実質的に不浸透性であってもよい。フラットパネルウエハは、実質的に不活性な材料または実質的に不活性な材料で被覆された材料で形成されていてよく、及び、フラットパネルウエハは、フロート処理及び融解処理のうちの少なくとも1つによって形成されていてもよい。
【0015】
任意選択で、フラットパネルウエハは約14平方インチから約17平方インチの初期寸法を有することができ、及び、約40から約50の送達デバイスを単一のフラットパネルウエハから製造することができる。リザーバのそれぞれは、その中に治療薬、薬物、または約100μLから約0.5mLのワクチンを受けるような寸法にされていてよい。特定の実施形態において、本方法は、複数のリザーバの各リザーバ内にアクセス孔を形成するステップを含むことができる。複数のアクセス孔が同時に複数のリザーバ内に形成されていてよく、及び、各アクセス孔は、30ゲージのニードルをその中に受容する寸法であってもよい。
【0016】
カバー層がフラットパネルウエハに接合しまたは熱的にアニールされていてよく、そのために、複数のリザーバのキャビティのそれぞれはアクセス孔を介してのみアクセス可能になる。複数のリザーバを、治療薬、薬物、またはワクチンの少なくとも一つで同時に充填してもよい。本方法はまた、充填済みリザーバを薄いポリマー層で封止するステップと、ハウジング部に隣接して複数のニードルを提供して、その結果、複数のニードルのそれぞれが複数のリザーバのうちの一リザーバと整列されるようにするステップとを含むことができる。ハウジング部は底部支持層を含むことができる。
【0017】
本方法のさらなる実施形態において、複数の充填済みリザーバを形成するステップは、充填用カニューレをリザーバに導入するステップ、リザーバ内に収容された空気をリザーバから充填用カニューレを介して除去し、リザーバ内を真空にするステップ、及び、リザーバ内の真空と治療薬、薬物、またはワクチンとの間の圧力差の結果として、受動的に、治療薬、薬物、またはワクチンをリザーバ内へ充填用カニューレを通じて引き込むステップを含む。複数の充填済みリザーバを形成するステップは、リザーバから充填用カニューレを取り外すステップ、及び、充填用カニューレによって形成された開口を接着剤フィルムで覆ってリザーバを封止するステップをさらに含むことができる。任意選択で、複数の充填用カニューレをカウンターウエハ上に配置してもよい。カウンターウエハを、複数のリザーバを同時に充填するためのリザーバに各充填用カニューレが同時に導入されるように構成してもよい。この方法によって製造したデバイスもまた、本明細書において意図している。
【0018】
本発明のさらに別の実施形態によれば、治療薬、薬物、またはワクチン用の送達デバイスを製造する方法であって、フラットパネルウエハを準備するステップと、各リザーバがキャビティを画定する複数のリザーバをフラットパネルウエハ内に形成するステップとを有する方法が提供される。本方法はまた、治療薬、薬物、またはワクチンの少なくとも1つで複数のリザーバを充填して、複数の充填済みリザーバを形成するステップと、複数のリザーバに隣接して底部支持体を提供して複合層を形成するステップとを含む。本方法はさらに、各ニードルが複数のリザーバのうち単一の充填済みリザーバと係合可能な複数のニードルを提供するステップと、複合層を複数の送達デバイスに分離するステップであって、それぞれの送達デバイスがリザーバを含む、ステップとを含む。
【0019】
特定の実施形態において、複数のリザーバをフラットパネルウエハ内に形成するステップはスランピングによって達成される。フラットパネルウエハは約400μmの厚さを有していてもよい。フラットパネルウエハは水及び酸素に対して実質的に不浸透性であってもよく、及び、フラットパネルウエハを、実質的に不活性な材料または実質的に不活性な材料で被覆された材料で形成することもできる。フラットパネルウエハを、フロート処理及び融解処理のうちの少なくとも1つによって形成することもできる。
【0020】
任意選択で、フラットパネルウエハは約14から約17平方インチの初期寸法を有していてもよく、及び、約40から約50の送達デバイスを単一のフラットパネルウエハから製造してもよい。リザーバのそれぞれは、その中に治療薬、薬物、またはワクチンの約100μLから約0.5mLから受けるような寸法であってもよい。本方法また、複数のリザーバの各リザーバ内にアクセス孔を形成するステップを含むことができる。カバー層がフラットパネルウエハに接合しまたは熱的にアニールされてもよく、そのために、複数のリザーバのキャビティのそれぞれはアクセス孔のそれぞれを介してのみアクセス可能になる。複数のリザーバを、治療薬、薬物、またはワクチンの少なくとも一つで同時に充填してもよい。特定の実施形態において、本方法は、底部支持層を複数のリザーバに隣接して提供するステップを含んでもよい。この方法によって製造したデバイスもまた、本明細書において意図している。
【図面の簡単な説明】
【0021】
本発明の理解を容易にするために、添付の図面及び説明は、本発明の好ましい実施形態を例示しており、その発明から、その構造、構成及び動作方法、及び多くの利点の様々な実施形態を理解でき、及び、認識できよう。
図1】本発明方法の一実施形態による熱スランピングプロセス前の、モールド全体にわたって延びるリザーバ層の正面からの断面図である。
図2A】本発明方法の一実施形態による熱スランピングプロセス後の、図1のリザーバ層の正面からの断面図である。
図2B】本発明方法の一実施形態による、その中に複数のリザーバを形成されて有する図1のリザーバ層の斜視図である。
図2C】本発明方法の一実施形態による、図1のリザーバ層内に孔を作成して複数のリザーバ内にアクセス孔を生成するプロセスの概略斜視図である。
図3A】本発明方法の一実施形態による、囲まれたリザーバを形成するためのカバー層を有する図1のリザーバ層の正面からの断面図である。
図3B】本発明方法の一実施形態による、図1のリザーバ層及び図3Aのカバー層の分解斜視図である。
図3C】本発明方法の一実施形態による、アニーリングプロセス中の図1のリザーバ層及び図3Aのカバー層の斜視図である。
図4】本発明方法の一実施形態による、充填のためのカウンターウエハと流体連通している図3のリザーバの正面からの概略断面図である。
図5A】本発明の一実施形態による、薬物送達デバイスの充填の概略断面図である。
図5B】本発明の一実施形態による、図5Aの薬物送達デバイスの充填の正面からの概略断面図である。
図5C】本発明の一実施形態による、図5Aの薬物送達デバイスの充填の正面からの概略断面図である。
図6】本発明の一実施形態による、底部支持体にさらに接続されている図3Aの複数のリザーバ及びカバー層の正面からの断面図である。
図7】本発明の一実施形態に従って形成された、自己注射器の薬物送達部の正面からの断面図である。
図8A】本発明方法の一実施形態に従った、ハウジング内に封入される図7の薬物送達部の正面からの断面図である。
図8B】本発明方法の一実施形態に従った、ハウジング内に封入される図7の薬物送達部の斜視図である。
図9A】硬質モールド及びカウンターウエハを持った図7の薬物送達デバイスのリザーバのための充填プロセスの正面からの模式断面図である。
図9B】本発明方法の一実施形態に従った、硬質モールド及びカウンターウエハを持った図7の薬物送達デバイスのための充填プロセスの正面からの概略斜視図である。
図10】「ピックアンドプレース」マシンからミニニードルを受ける底部構造支持体の正面からの概略斜視図である。
図11】本発明方法の一実施形態に従った、互いに分離される図7の薬物送達デバイスにおける、分割ステップの斜視略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、小型化された自己注射器を製造する方法に従っており、薬物送達コンポーネント(容積VFuncationai_partを有する、射出を行うために必要な要素を含むデバイスの機能部分)を製造し、機能部分のリザーバをワクチンや薬物などの治療薬で充填し、及び、ハウジングデバイス内に薬物送達部を配置することによっている。限定的でない一つの実施形態によれば、製造方法は、集積回路、電子パッケージ、及び、他のマイクロエレクトロニクス又はマイクロエレクトロリックマシンシステム(MEMS)デバイスの製造に適した製造プロセスを組み込んでいる。本発明の製造方法に使用される他の技術は、微細加工分野から適合される。しかし、以下に説明する製造方法は、小型化された自己注射器を製造するための限定的でない例示的方法としてのみ意図したものである。なお、半導体製造の原則に必ずしも依拠していないにもかかわらず、本発明方法の範囲内に入る多数の他の方法で、本発明の自己注射器を形成することができることが理解される。
【0023】
MEMS技術を用いて製造される自己注射器は、従来の薬物送達デバイスと比較して実質的に小型化することができる。既存の薬物送達デバイスは、筋肉内注射用に設計されようが、皮内注射用に設計されようが、または経皮注射用に設計されようが、機能的考察に基づいて、詳細には薬物送達に必要なデバイスの要素に焦点を当てて設計される。このように、「機能的」要素の正確な設計は、薬物送達のこの主要な機能に関連する技術的経済的制約の集合に通常は基づいている。「シンプルなデザイン」に本質的に焦点を当てるこの概念を、「ミニマリズム」と呼ばれ、以下のように定義される、0と1の間のパラメータRで効率的に記述することができる。
【0024】
【数1】
【0025】
式中、VTotalは、デバイスの総容積、すなわち、使用者による即時利用の条件での全体の(完全組み立て)デバイスの容積(すなわち、どんな関連するパッケージからも除去される)である。VFunctionai_partsは、デバイスの機能部分の容積である。「機能部分」とは、流体注入に必要なデバイスの要素を指す。典型的な注射器のシリンジにおいては、「機能部分」は、ニードル、液体薬物を収容するリザーバ、プランジャなどの排出機構などの、送達構造を含む。従って、本質的に技巧的な物体は、比較的少数の機能的な部分を有することから、彫刻品のように、0に近いRの値を有する。
【0026】
薬物送達デバイスの機能的及び非機能的な部分の容積を計算して、様々な方法で比較することができることに留意されたい。最も単純には、デバイス全体の実際の容積及び機能部分の実際の容積を測定することができる。これらの部分を測定するための適切な方法は流体の変位を含み、そしてそこでデバイスが流体またはゲル中に配置され、変位量が測定される。あるいは、コンピュータ製図(例えば、CAD)アプリケーションが様々な形状の容積を正確に推定することができる。対照的に、デバイスの実際の容積と、その本来の目的をまだ達成することを可能としつつデバイスがとることのできる最小容積を比較することにより、Rの値を決定することもできる。本質的には、このように容積VFunctionai_partsを決定することは、デバイスが機能を失うことなく可能な限り小型化していると仮定する必要がある。この場合、Rは、実際の容積で割った最小可能容積に等しい。なお、Rをこのように解釈することは、本発明の最小化の概念を本明細書中で説明するR方程式と同じ様に取り込むことが理解される。しかし、この第2のR方程式を用いて得られる離散的な値は、先のR方程式を用いて得られる値とは異なる。明確にするために、本明細書中で与えられるR値は、総容積で割った機能部分の実際の容積を測定することにより算出されるRに基づいている。
【0027】
ニードル、バレル、プランジャだけを含む概念的な「ベアシリンジ」について、R=1である。シリンジは、外側に延びるフランジ部などの、ユーザがシリンジを把持してプランジャを押圧することを助けるための追加の構造を含むものとしても知られている。しかし、シリンジの機能的構成要素の容積と比較した場合、これらの追加の構成成分は小さい。グリップ構造を持つ既知のシリンジは、約0.95のR値を持っている。他のシリンジの構成はまた、ユーザがデバイスをより容易に把持することを可能にするプラスチックハウジングであってシリンジの機能的構成要素を保護するプラスチックハウジングを含む非機能性部分を有する自動注射器として知られている。自動注射器はまた、押圧されたときにプランジャをトリガする起動ボタンを含む。このタイプの自動注射器は、約0.85のR値を有する。上述のデバイスから明らかなように、既存の注射器は、0.7より典型的にはRパラメータによって特徴付けられる。このようなデバイスは、薬物送達のために有効であるが、使用するのはしばしば困難である。医療訓練を受けていない個人が自己注射を行うように試みるとき、これらの困難は大幅に強化される。自己注射器の薬物送達部の容積(VFunctionai_parts)を減少させることによって、大きくて不便なサイズまでデバイスの総容積(Vtotal)を増大させることなく、自己注射器のR値を効果的に減少させることができる。
【0028】
MEMS型の製造技術の使用によっても生産能力を増やすことができる。具体的には、この製造方法により、高スループットでの注射器の大規模バッチ製造を可能にすることで、各デバイスのコストを低減することができる。バッチ製造は、単一のデバイスのみが同時に作用される組立ラインの様式でというよりむしろ、平行に多数の物品が調製される製造技術である。バッチの製造は、それによって、デバイス当たりの単位コストを低減する注射器の生産速度を高めることが想定される。
【0029】
本発明方法の一実施形態では、単一のフラットパネルウエハから多数の薬物送達デバイス10が製造される。ウエハは、約25枚のウエハを含むボックスまたはカートリッジにおいて加工機に供給される。一実施形態において、各ウエハは、約14〜17インチの正方形であり、約400μmの厚さを有している。フラットパネルウエハは、熱スランピングによって修正するのに適したガラスまたは他の医療グレードの材料から構成することができる。フラットパネルウエハは、治療薬を保持するため及びデバイスの保存寿命を増大させるために、水及び/又は酸素に対し不浸透性であるべきである。また、リザーバ材料は一般に、基板から流体物質に拡散する例えば化学物質(例えば、浸出物、重合促進剤、未反応モノマー等)からの汚染を防ぐために、治療薬に対し不活性且つ非反応性であるべきである。
【0030】
フラットパネルウエハは、フロート処理及び(オーバーフローダウンドロー法としても知られている)融解処理を含む任意の許容可能な方法で製造することができる。(ピルキントン法としても知られている)フロート処理は、溶融金属のベッドの上で溶融ガラスをフローティングして均一な厚さのシートを作成することを含む。融解法において、溶融ガラスは、二本の薄い溶融流を形成するテーパ状のトラフの対向する側を伝って流れることができる。二本のガラスの流れは、均一性に優れた深さ及び組成を持つ単一のシートを形成するトラフの底部で再び一緒になる、すなわち融解する。融解法は、フラットパネルディスプレイの製造にしばしば使用される、平坦なガラスの製造技術である。有利には、この技術は、表面に溶融金属が接触しないような、より新品同様の表面を持つガラスを生成する。この技術によって製造されたガラスは、広く市販されており、Corning(登録商標)、Samsung(登録商標)、及び日本電気ガラス(登録商標)などの企業によって製造される。代替的に、医療グレードのポリマー及びシリコンを含む基板材料も本発明方法の範囲内で使用することができる。
【0031】
(特にフラットパネルディスプレイ用板ガラスの分野で)ガラス製造技術の最近の進歩により、市販のフラットガラスパネルのサイズを著しく増大させている。本発明方法の一実施形態では、40〜50の送達デバイスを含むように製造することができる約14〜17平方インチの正方形のウエハ層が、基板材料として使用される。しかしながら、2×3メートルほどの大きなガラスパネルが現在市販されている。本発明方法によれば、数平方メートル以上のガラスパネルを用いて自己注射器を製造することで、超高スループットを可能にし、及び、デバイス当たりの単位コストの大幅な低減を可能にする。
【0032】
図1を参照すると、複数のリザーバキャビティ14を有するリザーバ層12に、熱スランピングプロセスに従ってフラットパネルが形成される。最初に、リザーバ層12の底部側16を洗浄し、乾燥させる。リザーバ層12は次いで、均一な直径及び深さの多数の凹部Bからなる難溶性物質すなわちスランピングモールドAの上に配置され、その結果、リザーバ層12の底部側16がモールドの上面に接触し及び該凹部の上に延びるようになる。セラミックのみならず、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケル、炭化タングステン、及び炭化ケイ素を含むがこれらには限定されはない多数の材料から形成されたモールドが知られている。一般に、モールド材は、600°Cを超える温度に晒されたときにその形状を維持できるべきである。モールドは高温で劣化してはならない。また、高温に晒された場合に基板材料にこだわるべきではない。モールド材は、良好な硬度及び温度安定性を有するべきである。本発明の範囲内で、熱スランピングプロセスで使用することができる1つのセラミック材料は、ニュージャージー州、Hasbrouck HeightsのCeramic Products(登録商標)社製MACOR(登録商標)セラミックである。
【0033】
図1に示すような一実施形態では、リザーバ層12とモールドAが約11時間の間、650℃の温度に晒され、それによって、層12の部分(複数)がモールドAの凹部領域Bへと落ち込んで流体リザーバキャビティ14を形成するように、リザーバ層12を変形させる。モールドA及びリザーバ層12が冷却された後、パネルはモールドから解放される。
【0034】
リザーバキャビティ14は、熱スランピングを通じて、治療薬の適切な投与量を保持するのに十分な大きさで製造することができるどんな形状であってもよい。リザーバキャビティ14は、例えば半球または正方形であってもよい。自己注射器の薬物送達デバイス10の全体的な小型化の目的を促進するために、リザーバキャビティ14の寸法はできるだけ小さくすべきであるが、治療薬の一回の投与量を保持するのに十分でなくてはならない。本発明の一実施形態によれば、インフルエンザワクチンで使用するために採用されるリザーバは100μLである。しかしながら、本発明の方法に従って製造される薬物送達デバイスを、0.5mL以上の容積を有するリザーバを含むように構成することができる。
【0035】
図2A図2Cを参照すると、リザーバキャビティ14内に次にアクセス孔18が形成されて、リザーバキャビティ14への及びからの流体のアクセスを可能にする。アクセス孔18を、ドリル、または、突き錐またはチゼルのような、ガラス基板に孔を作成することができる他の装置によって形成してもよい。一度に複数の孔を開けるための複数のドリルビットを有する微細加工装置によって、穿孔を実行することができる。本発明の一実施形態において、アクセス孔18は、30ゲージのニードルを受けるように適合される。代替的に、熱スランピングが実行される前に、アクセス孔18をリザーバ層12内に形成してもよい。いずれの場合も、複数のリザーバキャビティ14をアクセス孔18とともに有するリザーバ層12が、最終的に製造される。
【0036】
図3A〜3Cを参照すると、リザーバキャビティ14及びアクセス孔18が形成された後、リザーバ層12は再び洗浄され、乾燥される。その後、カバー層20が備えられる。カバー層20は、約30から50μmの厚さを有する超薄ガラス層であってもよい。接合及び/または熱アニールによってカバー層20がリザーバ層12に付着され、それによって、アクセス孔18を介してのみキャビティ14にアクセス可能となるようにリザーバキャビティ14を囲む。限定的でない一つの実施形態において、ガラス層が11時間、550゜Cに晒される熱アニールによりカバー層20が付着されて、層間の接合接続を生成する。
【0037】
図9A〜9Bを参照すると、次にリザーバキャビティ14は、ユーザに送達されるワクチンまたは薬物で充填される。リザーバキャビティ14は、リザーバキャビティ14の数に対応する数の、リザーバキャビティ14内に医薬流体を注入するための充填用カニューレCを有するカウンターウエハによって充填されてもよい。限定的でない一つの実施形態において、リザーバ層12は反転されて、硬質モールド内に位置決めされる。モールドEは、カバー層20に向かってリザーバ層12を押圧することによって、リザーバ層12から強制的にアクセス孔18を介して空気を通すために使用される。空気が除去されると、カウンターウエハのカニューレCは、アクセス孔18を通してリザーバキャビティ14内に挿入される。リザーバキャビティ14が元の形状に拡張するように、モールドを除去する。リザーバキャビティ14が膨張するにつれて、薬用液が充填用カニューレCによってリザーバキャビティ14内に引き込まれる。
【0038】
図4及び図5A図5Cを参照すると、代替実施形態において、リザーバキャビティ14は真空吸引法により封止されている。この方法によれば、リザーバ層12が反転され、充填用カニューレCは、アクセス孔18を通してリザーバキャビティ14内に挿入される。挿入されたカニューレCを介してリザーバキャビティ14から空気が圧送されて、キャビティを真空下に置く。カニューレCが未だ配置されている状態で、次いで、流体が同じ充填用カニューレCを介してキャビティに導入される。リザーバキャビティ14が真空下にあるという事実の結果として、リザーバキャビティ14を充填するために必要な流体の正確な容量が、流体の外部ポンプなしで、カニューレCを通じて抽出される。限定的でない一つの実施形態において、カウンターウエハDを用いて充填が達成される。カウンターウエハDは、流体リザーバ、及び、リザーバ層12の各リザーバキャビティ14に対応する複数のカニューレCを含む。各キャビティ14を同時に満たすことができるように、カウンターウエハDの注射針Cは、各個別のリザーバキャビティ14と接触している。
【0039】
リザーバキャビティ14から充填用カニューレCが取り外された後、リザーバ層12は(図示しない)超薄ポリマー層で覆われて、リザーバキャビティ14から流体が漏れるのを防ぐ。薄いポリマー層は、UV硬化などのプロセスを用いて硬化される。任意選択で、薄いポリマー層は、開口部からのリザーバ流体をはじく疎水性ポリマーである。小さな排出力で層を十分に破壊して注入中の流体の流れを可能にするように、ポリマー層はまた、容易に破断可能であるべきである。ポリマー保護膜は、任意選択で紫外線遮断組成物を含む。流体のUV照射を減らすことで、流体が長時間のUV照射で分解すること、または駄目になることを防ぐ。
【0040】
図6及び10を参照すると、底部構造支持体22が、リザーバ層12への取り付けのために備えられている。底部構造支持体22は、プラスチックから形成されてもよい。底部構造支持体22は、形状及び大きさがリザーバキャビティ14に対応する凹部24を含む。各凹部24はニードルソケット26を含む。ミニニードル28は、自動化された「ピックアンドプレース」マシンを用いて、ニードルソケット26内に配置される。ミニニードル28は、接着剤又は固着剤によって底部層に固定され、紫外線硬化技術を用いて固定することができる。ミニニードル28は、金属または他の適切な強度の材料から形成された中空ニードルである。「ピックアンドプレース」マシンはエレクトロニクス産業で使用するために開発され、回路基板上にトランジスタを配置するために使用される機械と類似している。マシンは高度にモジュール化され、所望の位置決め精度のミニニードルを挿入するように構成することができる。さらに、このようなマシンは非常に高いスループットが可能であり、典型的なマシンは、時間当たり20,000ニードルを超えて配置するように構成することができる。典型的な「ピックアンドプレース」マシンは、ドイツのMuehlbauer AG Tech International of Roding(登録商標)製のTAL 9000である。
【0041】
ミニニードル28はさらに、リザーバから流体が早まって排出されることを防止するためのストッパ材(図示せず)を含むことができる。例えば、破壊可能な薄いフィルムまたは膜を、ニードルチャネル内に含めることができる。フィルムまたは膜は、流体がリザーバから漏れるのを防止するのに十分に強力且つ安定であるべきである。しかしながら、一旦、注射器が作動し、排出機構がリザーバキャビティの容積を減少させ始めると、薄膜に印加される力が増大する。この力の増大に応答して、フィルムまたは膜が破断し、ユーザへの送達のために流体がニードルを通過することを可能にする。ニードルは、ピックアンドプレースマシンを用いてニードルソケットに取り付けられる。ニードルは、構造体のニードルソケットに接着剤を用いて取り付けられる。
【0042】
代替的に、ニードルソケット26を有する底部構造支持体22をはじめにリザーバ層12に付着することができる。支持体22を付着した後、次いでミニニードル28をニードルソケット26に取り付けて、それにより、リザーバのキャビティ14とミニニードル28の先端29との間に、リザーバ層12のアクセス孔18を介した流体連通を確立する。
【0043】
底部構造支持体22は、作動機能をさらに含むことができる。作動機能は、リザーバキャビティ14に収容された薬用流体を放出する機械的プロセスを作動させる機械的なボタン30などの機械的要素であってもよい。別のものとして、作動機能は、排出機構を作動させるための加熱コイルなどの電子機器を作動させるオン/オフタイプのスイッチであってもよい。
【0044】
図11を参照すると、各リザーバキャビティ14のための層、すなわち底部支持層22、リザーバ層12及びカバー層20がいったん組み立てられると、複合された層は個別の注射器に分割される。複合層は、正確に且つ小径に複合層内で迅速に切断することができる、任意の適切な方法によって分割することができる。このような用途によく適する一つの切断プロセスはレーザカッティングである。また、機械的及びプラズマカッティング技術を、大きなウエハを個別の注射器に分割するために適合させることができる。一実施形態において、図11に示すように、個別の注射器70(すなわちMEMSチップ)は30×30×2mmの寸法を有する。別の実施形態において、個別の注射器70は1.5×1.5×3mmの寸法を有する。
【0045】
作動の他の要素及び排出機構は、カバー層20の上面に付着された上部の機能層32に含まれていてもよい。例えば、図7を参照すると、作動及び排出機構は、水を収容する活性化リザーバ34及び親水性ビーズ38を収容する排出リザーバ36からなる。活性化リザーバ34は活性化層35に含まれてもよい。排出リザーバ36は排出層37に含まれてもよい。親水性ビーズ38は、水と接触したときに拡がる。ビーズ38が拡大するにつれて、ビーズ38はカバー層20をリザーバキャビティ14に向かって強制し、キャビティ14内に収容されている液体を排出する。使用に際して、デバイスが起動されると、活性化リザーバ34に収容されている水は排出リザーバ36に流れることが可能になり、リザーバキャビティ14から流体を排出するプロセスが開始する。上部の機能層32はさらに、カバー層20と活性化層35との間に位置する圧力容器層40を含むことができる。圧力容器層40は、拡大排出リザーバ36がリザーバキャビティ14に及ぼす圧力を軽減するための空きスペース42を含む。圧力容器層40の結果として、活性化層35自体ではなく、むしろスペース42に収容されている空気が、カバー層20上に力を加えてリザーバキャビティ14内に収容されている流体をデバイスから強制する。上部の機能層32の全部を積層プロセスによって形成することができ、ここで、層32が順次、前の層に堆積され及び接着される。
【0046】
なお、図7に示されている排出リザーバ36及び活性化リザーバ34は、本発明の範囲内で製造することができる薬物送達デバイスの一例であることに留意されたい。熱拡大層、パラフィンワックスなどの流動性材料、マイクロポンプメカニカルデバイス、及び、その他を含むがこれらに限定されない種々の排出機構を、本発明の方法により製造されるデバイスで動作するように構成できることが理解される。同様に、ボタン、電子スイッチ、及び、温度センサを含むがこれらに限定されない活性化メカニズムを、本発明方法の範囲内で使用することができる。
【0047】
ビーズ38及び他の作動要素及び機械的構造が、ミニニードルを上述のリザーバキャビティ14内に配置するための方法と同様の微細製造技術を用いて配置される。上述したように、複数の注射器のための構成要素を同時に配置するバッチプロテクト法に従ってコンポーネントを配置することが望ましい。
【0048】
ここで図8A及び図8Bを参照すると、自己注射器の薬物送達デバイス10がいったん完全に組み立てられ、充填され、分割されると、デバイスの薬物送達デバイス10はハウジング1内に配置される。ハウジング1は、高密度ポリマー、つや消しアルミニウム、または他の金属合金などの、構造的にしっかりしていて視覚的に魅力的な任意の材料から作ることができる。ハウジング1は、電子回路、電源、物理センサ、または無線(例えば、ブルートゥース)アンテナなどの追加の要素を含むことができる。ハウジング1はさらに、時計や腕時計のフェイス、温度計、または非機能装飾などの、自己注射とは全く無関係な要素を含んでいてもよい。ハウジング1はまた、デバイスの薬物送達デバイス10及び任意の補助的な電子部品を保護するための、包装または泡状物などの保護材を含むことができる。ハウジング1は、空のスペースを単に囲むこともできる。いずれの場合においても、ハウジング容積は、単に薬物送達デバイス10を収容するために必要なよりも大きい。
【0049】
デバイス10を、そのような目的のためにエレクトロニクス産業で通常用いられる任意の付着手段によって、ハウジング内で所定位置に保持してもよい。例えば、薬物送達デバイス10を所定の位置に、ネジ止めしてもよいし、小さな付着部材を用いて止めてもよい。送達デバイス10はまた、接着剤によって固定してもよい。一実施形態では、「ピックアンドプレース」型のマシンを用いて、ハウジング内に注射器を配置することができる。
【0050】
上述したように、単一の注射器70を、最大で約0.5mLの液体を保持するように構成することができる。約0.5mLより多い投与量を送達するための薬物送達デバイスは、それぞれが個別のリザーバを含む、複数のMEMSチップを積層することで構築することができる。このように、1mL以上の治療薬を患者へ送達するようにデバイスを構築することができる。さらに、本発明の方法により製造されたより大きなリザーバ容積を持った自己注射器を有しながらも、機能的な総容積はMEMS型デバイスにおいて同一のリザーバ容積を有するシリンジよりもまだ小さく、作動機構はチップ自体に埋め込まれる。対照的に、シリンジが充填されると、プランジャはリザーバを越えて延び、結果としてリザーバの容積の少なくとも2倍のシリンジの機能容積がもたらされる。
【0051】
自己注射器のための製造方法を検討すると、超微細加工(例えば、「ピックアンドプレース」)マシンを必要とする複数のステップを一緒に行うことができることが理解される。例えば、ウエハを切断して個別のウエハをハウジング内に配置することによってデバイスを分割するステップを、同一の「ピックアンドプレース」型マシンで同時に実行することができる。さらに、同じマシンを使用してリザーバ(複数)を同時に充填し、ミニニードルをリザーバ内に配置することができる。
【0052】
注射器に関する追加の製造上の問題は、これらのデバイスが医療目的のために使用され、したがって医療機器製造のためのFDAプロトコルに従わなければならないという事実から生じる。
図1
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図4
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8A
図8B
図9A
図9B
図10
図11