(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ガラス導入キャップは、外部構造によって、前記端面カバー部が前記成形体の端面に押し付けられるとともに当該押し付けられた状態が保持される請求項1に記載のガラス板の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明のガラス板の製造方法について説明する。
【0021】
図1は、本実施形態のガラス板の製造方法の工程の一例を示す図である。
【0022】
(ガラス板の製造方法の全体概要)
ガラス板の製造方法は、熔解工程(ST1)と、清澄工程(ST2)と、均質化工程(ST3)と、供給工程(ST4)と、成形工程(ST5)と、徐冷工程(ST6)と、切断工程(ST7)と、を主に有する。この他に、研削工程、研磨工程、洗浄工程、検査工程、梱包工程等を有し、梱包工程で積層された複数のガラス板は、納入先の業者に搬送される。
【0023】
熔解工程(ST1)は熔解槽で行われる。熔解槽では、ガラス原料を、熔解槽に蓄えられた熔融ガラスの液面に投入し、加熱することにより熔融ガラスを作る。さらに、熔解槽の内側側壁の1つの底部に設けられた流出口から下流工程に向けて熔融ガラスを流す。
熔解槽の熔融ガラスの加熱は、熔融ガラス自身に電気が流れて自ら発熱し加熱する方法に加えて、バーナーによる火焔を補助的に与えてガラス原料を熔解することもできる。なお、ガラス原料には清澄剤が添加される。清澄剤として、SnO
2,As
2O
3,Sb
2O
3等が知られているが、特に制限されない。しかし、環境負荷低減の点から、清澄剤としてSnO
2(酸化錫)を用いることができる。
【0024】
清澄工程(ST2)は、少なくとも清澄槽において行われる。清澄工程では、清澄槽内の熔融ガラスが昇温されることにより、熔融ガラス中に含まれるO
2、CO
2あるいはSO
2を含んだ泡が、清澄剤の還元反応により生じたO
2を吸収して成長し、熔融ガラスの液面に泡は浮上して放出される。さらに、清澄工程では、熔融ガラスの温度を低下させることにより、清澄剤の還元反応により得られた還元物質が酸化反応をする。これにより、熔融ガラスに残存する泡中のO
2等のガス成分が熔融ガラス中に再吸収されて、泡が消滅する。清澄剤による酸化反応及び還元反応は、熔融ガラスの温度を制御することにより行われる。なお、清澄工程は、減圧雰囲気の空間を清澄槽につくり、熔融ガラスに存在する泡を減圧雰囲気で成長させて脱泡させる減圧脱泡方式を用いることもできる。この場合、清澄剤を用いない点で有効である。なお、清澄工程では、酸化錫を清澄剤として用いた清澄方法を用いる。
【0025】
均質化工程(ST3)では、清澄槽から延びる配管を通って供給された攪拌槽内の熔融ガラスを、スターラを用いて攪拌することにより、ガラス成分の均質化を行う。これにより、脈理等の原因であるガラスの組成ムラを低減することができる。
供給工程(ST4)では、攪拌槽から延びる配管を通して熔融ガラスが成形装置に供給される。
【0026】
成形装置では、成形工程(ST5)及び徐冷工程(ST6)が行われる。
成形工程(ST5)では、熔融ガラスをシートガラスに成形し、シートガラスの流れを作る。成形には、オーバーフローダウンドロー法が用いられる。
徐冷工程(ST6)では、成形されて流れるシートガラスが所望の厚さになり、内部歪が生じないように、さらに、反りが生じないように冷却される。
切断工程(ST7)では、切断装置において、成形装置から供給されたシートガラスを所定の長さに切断することで、板状のガラス板を得る。切断されたガラス板はさらに、所定のサイズに切断され、目標サイズのガラス板が作られる。この後、ガラス板の端面の研削、研磨が行われ、ガラス板の洗浄が行われ、さらに、気泡や脈理等の異常欠陥の有無が検査された後、検査合格品のガラス板が最終製品として梱包される。
【0027】
図2は、本実施形態における熔解工程(ST1)〜切断工程(ST7)を行う装置の一例を模式的に示す図である。当該装置は、
図2に示すように、主に熔解装置100と、成形装置200と、切断装置300と、を有する。熔解装置100は、熔解槽101と、清澄槽102と、攪拌槽103と、移送管104,105と、ガラス供給管106と、を有する。
図2に示す熔解装置101では、ガラス原料の投入がバケット101dを用いて行われる。清澄槽102では、熔融ガラスMGの温度を調整して、清澄剤の酸化還元反応を利用して熔融ガラスMGの清澄が行われる。さらに、攪拌槽103では、スターラ103aによって熔融ガラスMGが攪拌されて均質化される。成形装置200では、成形体210を用いたオーバーフローダウンドロー法により、熔融ガラスMGからシートガラスSGが成形される。成形装置200は、成形工程(ST5)が行われる成形炉と、徐冷工程(ST6)が行われる徐冷炉とを有し、成形炉には、成形体210、後述するガラス導入キャップが配されている。
【0028】
(ガラス導入キャップを成形体に取り付けるための構成)
次に、
図3を参照して、ガラス導入キャップを成形体210に取り付けるための構成について説明する。なお、成形体210は、
図4(a)、
図5において、端面214側の部分を省略して示されている。
図3(a)は、本実施形態のガラス板の製造方法で用いられる成形体、ガラス導入キャップを分解して示す図である。
図3(b)は、成形体にガラス導入キャップが取り付けられた状態を示す図である。
図3(c)は、成形体にガラス導入キャップが押し付けられた状態を示す図である。
まず、成形体210とガラス導入キャップ310について説明する。
【0029】
(a)成形体
成形体210は、一方向に延びる長尺状の構造体であり、上方を向いて開口する溝211aが形成された上面211と、上面211に接続される2つの端面212、214と、上面211および端面212,214に接続される2つの側面213(
図4(a)参照)と、を有する。
上面211は、端面212側から端面214側に進むにつれて端面214側の上端が低くなるよう傾斜している。一方、溝211aは、端面212側から端面214側に進むにつれて溝深さが浅くなっている。成形工程で、溝211aに供給された熔融ガラスは、溝211aから溢れ出して、成形体210の両側に設けられた側面213を鉛直下方に流れる。
端面212,214は、互いに対向するよう形成され、溝211aの延びる方向の両端のそれぞれが開口している。
2つの側面213は、上面211および端面212,214を挟むよう互いに対向するよう形成されている。両側の側面213に沿って流れる熔融ガラスは、成形体210の鉛直下方に設けられた下方先端215で合流し、1つに張り合わされて板状のシートガラスとなる。
【0030】
成形体210に用いられる材料は、特に制限されないが、例えば、ジルコニア質耐火物、高アルミナ質耐火物等の焼成耐火物、黒鉛質レンガ等の不焼成耐火物が用いられる。中でも、耐熱性に優れる点で、ジルコニア質耐火物が好ましく、少なくとも60重量%のZrO
2を含有するジルコニア質耐火物がより好ましい。なお、ZrO
2の上限値は、特に制限されないが、例えば80重量%である。
【0031】
なお、成形体210の端面212,214のそれぞれの下部は、切り欠かれて段差部が形成されてもよい。この場合、段差部はそれぞれ後述する支持部材に載せられる。
【0032】
(b)ガラス導入キャップ310
ガラス導入キャップ310は、成形体210に取り付けられるとともに、ガラス供給管106に接続され、ガラス供給管106内の熔融ガラスを成形体210の溝211a内に導入する。なお、
図3〜
図5においてガラス供給管106は、ガラス導入キャップ310に接続される端部のみを示す。ガラス導入キャップ310は、例えば、白金または白金合金製の板金部材に対し曲げ、溶接等の加工をすることで形成され、端面カバー部311と、側面カバー部312を含む(
図4(a)参照)。
端面カバー部311は、成形体210の溝211aの一端を塞ぐよう成形体210の端面212に対向して配される。
側面カバー部312は、端面カバー部311に接続され、成形体210の側面213のうち端面212に近接する部分に対向して配される。ガラス導入キャップ310は成形体210に対し確実に嵌め合わされるよう、成形体210の外形の幅寸法より大きい内側の幅寸法が設定されている。
【0033】
側面カバー部312は、
図4(a)に示すように、成形体210から離れるよう、ガラス導入キャップ310の側面カバー部312の周縁から延びるガイド部313を有している。
図4(a)は、成形体に取り付けられたガラス導入キャップの上方から見た断面を示す図である。なお、
図3では、ガイド部313の図示を省略している。ガイド部313は、ガラス成形時にオーバーフローして側面213に沿って下方に流れる熔融ガラスが当接することで、熔融ガラスの幅方向(成形体210の溝211aの延びる方向と平行な方向)への広がりを規制する。
ガラス導入キャップ310は、成形体210に取り付けられるとき、端面カバー部311は成形体210の端面212に当接するように押し付けられて取り付けられるが、取り付け後の端面カバー部311の面と端面212との間には、第1の隙間G1が形成される。これは、取り付け前の成形体210の端面212あるいはガラス導入キャップ310の面がわずかに歪んでいて、端面カバー部311の面と端面212bの面が平行にならないこと、あるいは、取り付け後の端面カバー部311あるいは成形体210の変形が生じることに起因する。
また、
図4(a)に示すように、成形体210の側面213と側面カバー部312との間に、第2の隙間G2が形成される。第2の隙間G2が形成されることにより、ガラス導入キャップ310が、成形体210の端に確実に取り付けられる。
【0034】
成形装置200は、
図5に示すように、さらに、補助ガイド部材220を含むことが好ましい。
図5は、
図4(a)に示す態様の変形例を示す図である。なお、
図5において、
図4(a)に示す第1の隙間G1は、便宜のため、図示を省略する。
補助ガイド部材220は、断面L字形状の白金又は白金合金製部材であり、両方の側面213に1つずつ設けられる。補助ガイド部材220は、ガラス導入キャップ310のガイド部313に取り付けられる。補助ガイド部材220は、第2の隙間G2が開口する部分を塞ぐよう成形体210の側面213から突出する部分(突出部という)220aを有する。補助ガイド部材220は、成形体210から最も離れた補助ガイド部材220の突出部220aの先端のうち、高さ方向(
図5の紙面奥行き方向)の上端部を含む成形体210の上側部分(
図5において黒く塗りつぶして示す2つの半円形の部分)が、ガラス導入キャップ310のガイド部313に溶接によって取り付けられる。これにより、溶接時の熱が補助ガイド部材220を介して成形体210の側面213に伝わって、成形体210が局所的に加熱され、破損するのを防止できる。また、ガラス成形時にオーバーフローして側面213に沿って下方に流れる熔融ガラスが、補助ガイド部材220の突出部220aに当接することで、熔融ガラスの幅方向への広がりがより確実に規制される。
補助ガイド部材220は、第2の隙間G2に相当する高さ方向領域全体にわたって設けられるが、成形時に熔融ガラスが補助ガイド部材220と当接する限りにおいて、補助ガイド部材220は第2の隙間G2に相当する高さ方向領域全体に設けられる必要はない。
また、成形装置200は、成形体210の他方の端面214側のガラス導入キャップ350に補助ガイド部材220と同様の構成の補助ガイド部材(図示せず)が取り付けられることが好ましい。
【0035】
成形装置200は、さらに、成形体210を取り囲むよう設けられた、図示されない炉壁を備える。成形体210は、炉壁に対する位置が固定されている。具体的には、炉壁に固定された1対の支持部材230によって成形体210が支持されることで、成形体210は炉壁に対する位置が固定されている。支持部材230は、耐火レンガからなる直方体形状の部材である。
具体的に、支持部材230は、成形体210が自重により下方へ撓むのを抑えるために、成形体210を長手方向の両側から挟み込むよう、長手方向に力を作用させる。支持部材230はそれぞれ、炉壁の外部に配された図示されない加圧制御装置に接続され、成形体210に加える力の大きさが制御されている。
【0036】
成形装置200は、さらに、成形体210の端面214に取り付けられるガラス導入キャップ350を備える。ガラス導入キャップ350は、ガラス供給管106が取り付けられない点、および、成形体210の端面214に嵌め合わせられる寸法で形成されている点を除いて、ガラス導入キャップ310と同様に構成されている。
【0037】
(c)ガラス導入キャップの取り付け
次に、ガラス導入キャップ310の取り付けについて説明する。
ガラス導入キャップ310の成形体210への取り付けには、押し当て部材500(
図3(c)参照)、及び、図示されない外部構造が用いられる。
【0038】
押し当て部材500は、ガラス導入キャップ310の取り付けの際に、ガラス導入キャップ310に対し成形体210と反対側に配されるとともに、ガラス導入キャップ310に押し当てられる部材である。押し当て部材500には、具体的には、角柱ブロック610が用いられる。角柱ブロック610は、直方体形状のレンガであり、ガラス供給管106が挿通される挿通孔610aが設けられている。
外部構造は、押し当て部材500をガラス導入キャップ310に押し当てて、端面カバー部311を成形体210の端面212に押し付けるとともに、端面カバー部311が成形体210の端面212に押し付けられた状態を保持する。外部構造には、具体的には、図示されない、支持板及びボルトが用いられる。支持板は、成形体210の端面212と対向して配されるよう炉壁に取り付けられる。これにより、成形体210の端面212と支持板との間には、例えば数〜数十cmの間隔があけられる。ボルトは、支持板からみての成形体210の側と反対の側から成形体210側に貫通するよう支持板にねじ込まれる。ボルトは、例えば、角柱ブロックの挿通孔610aの両側に1本ずつ当接するようねじ込まれる。
【0039】
ガラス導入キャップ310を取り付ける際は、支持板にボルトをねじ込み、支持板を貫通したボルトの先端部をガラス導入キャップ310に当接させ、この状態でさらにボルトをねじ込む。これによって、ガラス導入キャップ310の成形体210と反対側に配置した角柱ブロック610をガラス導入キャップ310に押し当てる。
ここで、ガラス導入キャップ310は、角柱ブロック610のガラス導入キャップ610側の端面によって、
図4(b)中Aで囲まれた、成形体210の端面212の領域に押し付けられるよう押し当てられる。
図4(b)は、成形体の端面を正面視して示す図である。領域Aは、溝211aを取り囲む端面212上の領域C(
図4(b)中、網掛けで示す領域)を含む。領域Cは、熔融ガラスが万一第1の隙間G1(
図4(a)参照)に進入した場合に停留しやすい。また、第1の隙間G1に上流側から流れてくる溶融ガラスの異質素地が進入すると停留し易い。そこで、領域Aと対向するガラス導入キャップ310の部分に押し当て部材500を押し当てることで、ガラス導入キャップ310の端面カバー部311を成形体210の端面212に押し付けて、第1の隙間G1が小さくなるようにしている。
次いで、加圧制御装置により1対の支持部材230を制御して、ガラス導入キャップ310が取り付けられた成形体210を挟持する。
【0040】
以上説明した取り付けによって、
図4(b)に示すように、ガラス導入キャップ310の端面カバー部311と成形体210の端面212との間の第1の隙間G1は、ガラス導入キャップ310の側面カバー部312と成形体210の側面213との間の第2の隙間G2より小さくなっている。なお、
図4(a)において、第1の隙間G1、第2の隙間G2の大きさは、理解のしやすさのために、誇張して示される。第1の隙間G1は、端面カバー部311と、溝211aを取り囲む端面212上の領域Cとの間の隙間である。また、第2の隙間G2は、側面カバー部312と側面213との間の最小隙間である。第1の隙間G1及び第2の隙間G2は、いずれも、シックネスゲージを用いて測定される。第1の隙間G1は、具体的に、第2の隙間G2が2mmを超える場合に、2mm以下であることが好ましく、1mm以下であることがより好ましい。これにより、熔融ガラスの上記隙間への進入を抑制し、品質の高いガラスを製造することができる。
【0041】
本実施形態のガラス板の製造方法によれば、支持板にねじ込まれたボルトの先端が角柱ブロック610に当接することで、ガラス導入キャップ310が成形体210に押し付けられた状態が保持される。この状態では、ガラス導入キャップ310は、第1の隙間G1が第2の隙間G2より小さくなるよう、成形体210に取り付けられている。このため、ガラス成形時に、熔融ガラスが第1の隙間G1に進入することが抑えられる。
ここで、仮にガラス成形時に熔融ガラスが第1の隙間G1に入り込むと、熔融ガラスは、第1の隙間G1で停留し、成形体210の表面と接触することで、成形体の構成成分を溶出させ、溶出した成分が熔融ガラス中に混入するおそれがある。この結果、成形体210から溶出した成分が、間欠的に、成形体210の溝211a内の熔融ガラスや、成形体210の壁面を流れる熔融ガラスの流れ(ガラス本流ともいう)に引きこまれ、そのまま板状に成形されることがある。このような異種成分を含むガラスは、ガラス本流のガラス成分とは粘性が異なるため、成形体の壁面を流下する速度や、成形体の下方でのガラスの引き伸ばし量に違いを生じさせ、これによって、板状に成形されたガラスに厚みムラや脈理が生じたり、反りや歪みなど品質に悪影響が出たりする。また、第1の隙間G1に進入した熔融ガラスには、停留した時間や、成形炉内の雰囲気温度によって失透が生じ、失透異物としてガラス本流に混入するおそれがある。また、熔解槽101、清澄槽102、あるいは攪拌槽103において形成された溶融ガラスの異質素地、例えば、溶融ガラス中でシリカ含有濃度が部分的に高くなったシリカリッチの異質素地等が第1の隙間G1に進入する場合もある。このシリカリッチの異質素地が第1の隙間G1に入り込むと、この異質素地は、ガラス導入キャップ310を通過する際の目標とする所定の粘度(例えば、5,000から50,000poiseの範囲内で、かつ液相粘度以下。)に制御されたガラス本流の溶融ガラスと異なる粘度のガラスを、ガラス本流内に微小量ずつ長期間にわたって供給する原因となり、この結果、成形されたシートガラスの表面に、液晶ディスプレイや有機エレクトロルミネッセンスディスプレイに用いるガラス基板として許容できない表面凹凸を形成する。
しかし、本実施形態のガラス板の製造方法では、上記のように、第1の隙間G1は小さく、第2の隙間G2より小さくなっており、熔融ガラスの第1の隙間G1への進入が抑えられている。このため、熔融ガラスが、成形体210の構成材料を溶出させ、溶出した異種成分が熔融ガラス中に混入することがなく、ガラス板の品質に悪影響が及ぼされるのを防ぐことができる。また、熔解槽101、清澄槽102、あるいは攪拌槽103において形成されたシリカリッチの異質素地等が第1の隙間G1に進入することを抑制することができる。特に、ガラス導入キャップ310が白金又は白金合金で作られている場合、白金の熱膨張係数が高いことから、ガラス導入キャップ310と成形体310との間の隙間は広がりやすいが、第1の隙間G1は上述したように小さくなっているため、熔融ガラスの進入は抑えられ、上記した不都合を回避できる。本実施形態のガラスの製造方法は、低い液相粘度(例えば、30000〜100000poise)であり、かつ高歪点(655℃〜755℃)のガラスの製造にも好適である。
【0042】
一方、側面カバー部312と端面212との間の第2の隙間G2は、予めクリアランスとして設けられた空間であるとともに、ガラス導入キャップ310の側面カバー部311が成形体210の端面212に押し付けられことで広がりやすい空間である。このため、側面カバー部312と端面212との間には、熔融ガラスが進入しやすいが、第2の隙間G2に進入した熔融ガラスは、成形体210の側面213に沿って流れるガラス本流の幅方向の両端部に混入することはあっても、シートガラスの幅方向の両端部は後の切断工程において切断されるため、ガラスの品質に与える影響は、第1の隙間G1に進入した熔融ガラスと比べ小さい。
このような観点から、ガラス導入キャップ310は、第1の隙間G1は第2の隙間G2よりも小さくなるよう、成形体210に取り付けられる。
【0043】
また、本実施形態のガラス板の製造方法によれば、成形工程において、成形体210の側面213に沿って流れる熔融ガラスは、補助ガイド部材220に当接することで、第2の隙間G2への進入がより確実に抑えられる。仮に熔融ガラスが第2の隙間G2に進入した場合は、第2の隙間G2において異種成分が溶出され、熔融ガラスに混入するおそれがある。このような異種成分がガラス本流に混入されると、失透が大きくなり、ガラス本流の流れが妨げられる場合がある。この結果、ガラス本流の幅が小さくなる、あるいは、幅方向端部のガラス(耳)がガラス本流から分岐し、さらに再度ガラス本流に戻る耳張り合わせが良好に起きない等の問題が生じる。しかし、本実施形態のガラス板の製造方法によれば、補助ガイド部材220によって第2の隙間G2への熔融ガラスの進入が抑えられているため、このような不都合が生じるのをより確実に回避できる。
【0044】
本実施形態のガラス板の製造方法では、成形体210としてZrO
2を60重量%以上含有するジルコニア質耐火物が用いられている。ZrO
2は、ガラスの失透温度を上げる作用があり、ガラス中に多く含まれるとガラスの耐失透性を低下させる。このため、ガラス導入キャップ310と成形体210との間の隙間に熔融ガラスが進入して、成形体210に含まれるZrO
2が溶出し、熔融ガラス中に混入すると、局所的に失透が生じやすくなる。しかし、本実施形態のガラス板の製造方法によれば、ガラス導入キャップ310との間の隙間への熔融ガラスの進入が抑えられ、ZrO
2の熔融ガラスへの混入が防止されるため、このような成分を含む成形体210を用いても、上記した問題の発生は生じ難い。
【0045】
本実施形態のガラス板の製造方法では、成形体210に供給される熔融ガラスの粘度が30000poise以上であることが好ましい。オーバーフローダウンドロー法によるガラスの成形では、熔融ガラスの粘度が高いことが望ましいとともに、このような粘度の高い熔融ガラスは、ガラス導入キャップ310と成形体210との間の隙間に進入しにくいためである。
【0046】
なお、本実施形態のガラス板の製造方法において、ガラス導入キャップ310は側面カバー部312を含まなくてもよい。
支持部材230によって成形体210の端面212のうち、ガラス導入キャップ310が接続される部分と異なる部分が押さえ付けられると、その反動で、ガラス供給管106と接続されるガラス導入キャップ310の部分が成形体210から離れようとする。特に、ガラス導入キャップ310の端面カバー部311のうち、上方の部分(端面上部ともいう)においてガラス供給キャップ310が接続され、かつ、下方の部分(端面下部ともいう)が支持部材230に押さえ付けられる場合は、これら2つの部分が端面カバー部311において互いに対向するよう離れていることから、ガラス供給管106はより大きく成形体210から離れようとする。
このような状況は、1対の支持部材のそれぞれが、成形体の長手方向の両端部の下方に配置され、さらに、これら支持部材に成形体が載置されて、成形体が支持部材により下方より支持されている場合にも起こりうる。この態様では、具体的に、1対の支持部材は、成形体の長手方向長さより短い間隔をあけて炉壁に固定されている。また、成形体の両端部には、下方の部分が切り欠かれて段差部が形成され、段差部が支持部材に載せられる。ガラス供給管は、通常、ガラス導入キャップの端部の、段差部より上方の部分に接続される。さらに、ガラス導入キャップは、このような成形体の端面形状に沿った形状に形成され、成形体と同様に段差部が設けられている。
上記の態様において、ガラス導入キャップが支持部材によって押さえ付けられると、ガラス導入キャップの端部の端面下部が成形体の端面に密着するよう成形体の端面に対してより近づく一方、このガラス導入キャップの端面下部の成形体の端面への近づきの反動により、ガラス導入キャップの端面上部が成形体の端面から離れ、ガラス導入キャップの端面上部と成形体の端面との間の第1の隙間が広がってしまう。広がった第1の隙間には、ガラス供給管からガラス導入キャップを通った熔融ガラスが進入しやすくなる。
しかし、この場合も、上述した押し当て部材500、外部構造によって、ガラス導入キャップ310の端面カバー部312が成形体210の端面212に押し付けられ、押し付けられた状態が保持されることで第1の隙間G1が小さくなっている。これにより、第1の隙間G1への熔融ガラスの進入が抑えられる。
【0047】
なお、本実施形態において、成形体210は、支持部材230によって押さえ付けられなくてもよい。
【0048】
(変形例1)
次に、上記実施形態のガラス板の製造方法の変形例1について説明する。
変形例1と、上記実施形態との違いは、押し当て部材として、上記角柱ブロック610の代わりに図示されない木枠を用いた点、および、外部構造として、上記支持板およびボルトの代わりに図示されないキャスタブル及び耐火断熱レンガを用いた点である。
【0049】
押し当て部材としての木枠は、具体的に、コ字形状をなす3つの平坦部分である、両側の平坦部、及び、中間部分である平坦部が連結されてなる部材である。平坦部には、ガラス供給管を挿通するための挿通孔が設けられる。
木枠は、ガラス導入キャップへの取り付けの際には、ガラス供給管を挿通させるとともに、ガラス導入キャップを向いて開口するよう配する。押し当ては、例えば、木枠と、木枠と対向する炉壁との間に配したジャッキ等を用いて行なってもよく、手で行なってもよい。これにより、熔融ガラスの進入、停留、あるいはシリカリッチの異質素地等の進入
が確実に抑えられる。なお、木枠は、ガラス導入キャップの取り付け後、解体され取り除かれる。
【0050】
外部構造としてのキャスタブルは、耐火性骨材及び水硬性セメントが混合されてなり、ガラス導入キャップの取り付けの際に、木枠とガラス導入キャップとの間のスペース内に流し込まれ、硬化する。耐火断熱レンガは、耐火性、断熱性を有する材料からなり、ガラス導入キャップの取り付けの際に、支持部材の上面に載置されるとともに、木枠を下方より支持する。耐火断熱レンガは、支持部材の上面にセメント接着により固定される。また、耐火断熱レンガは、キャスタブルが硬化することでキャスタブルと連結され、これにより、キャスタブル、耐火断熱レンガ、支持部材は一体化される。
【0051】
ガラス導入キャップを取り付ける際は、支持部材の上面にセメントを塗布し、耐火断熱レンガを支持部材の上面に載せるとともに、耐火断熱レンガをガラス導入キャップに押し当てる。さらに、耐火断熱レンガの上面に木枠を配置するとともに、木枠をガラス導入キャップに押し当てることで、ガラス導入キャップを成形体に押し付ける。この状態で、木枠とガラス導入キャップとの間のスペースにキャスタブルのスラリーを流し込み、キャスタブルが硬化すると、耐火断熱レンガ、支持部材と一体化する。このようにしてガラス導入キャップは成形体に取り付けられる。この後、木枠は解体され、取り除かれる。木枠を取り除いた後も、外部構造であるキャスタブル、耐火断熱レンガによって、ガラス導入キャップが成形体に対して押し付けられた状態は保持される。
【0052】
変形例1でも、第1の隙間が小さくなっており、ガラス成形時の熔融ガラスの第1の隙間への進入が抑えられる。
【0053】
(変形例2)
次に、上記実施形態のガラス板の製造方法の変形例2について説明する。
変形例2と、上記実施形態の上記の例との違いは、押し当て部材及び外部構造を用いずに、ガラス導入キャップの取り付け、取付状態の保持を行う点である。
【0054】
変形例2において、ガラス導入キャップが取り付けられた状態での側面カバー部の周縁と対向する成形体の側面上の位置に、当該周縁に沿って成形体の高さ方向に延びるよう係止用溝が形成されている。係止用溝の溝深さは、特に制限されないが、例えば4〜5mmである。
ガラス導入キャップの上記ガイド部は、変形例2では、成形体の側面に向かって延びており、係止用溝に係止される係止部として機能する。係止部の成形体から離れる方向の長さは、特に制限されないが、例えば3〜4mmである。
同様に、成形体の側面のうち他方の端部側の表面に、ガラス導入キャップの取付部が係止される他の係止用溝が形成されてもよい。なお、変形例2では、上記実施形態で説明した補助ガイド部材は設けられない。
【0055】
変形例2においてガラス導入キャップを取り付ける際は、端面カバー部を成形体に押し付けた状態で、ガイド部を成形体側に折り曲げて(かしめて)係止用溝内に係止させる。これにより、ガラス導入キャップが成形体に取り付けられた状態が保持される。
変形例2でも、第1の隙間が小さくなっており、ガラス成形時の熔融ガラスの第1の隙間への進入が抑えられる。また、シリカリッチの異質素地等の第1の隙間への進入が抑えられる。
【0056】
(ガラス板の特性、適用)
本実施形態のガラス板をフラットパネルディスプレイ用ガラス板に用いる場合、以下のガラス組成を有するようにガラス原料を混合するものが例示される。
SiO
2:50〜70質量%、
Al
2O
3:0〜25質量%、
B
2O
3:1〜15質量%、
MgO:0〜10質量%、
CaO:0〜20質量%、
SrO:0〜20質量%、
BaO:0〜10質量%、
RO:5〜30質量%(Rは、Mg、Ca、Sr及びBaのうち、ガラス板に含まれる元素の全てである)、
を含有する無アルカリガラス。
なお、本実施形態では無アルカリガラスとしたが、ガラス板はアルカリ金属を微量含んだアルカリ微量含有ガラスであってもよい。アルカリ金属を含有させる場合、R’
2Oの合計が0.10質量%以上0.5質量%以下、好ましくは0.20質量%以上0.5質量%以下(ただし、R’はLi、Na及びKから選ばれる少なくとも1種であり、ガラス板が含有するものである)含むことが好ましい。勿論、R’
2Oの合計が0.10質量%より低くてもよい。
また、本発明のガラス板の製造方法を適用する場合は、ガラス組成物が、上記各成分に加えて、SnO
2:0.01〜1質量%(好ましくは0.01〜0.5質量%)、Fe
2O
3:0〜0.2質量%(好ましくは0.01〜0.08質量%)を含有し、環境負荷を考慮して、As
2O
3、Sb
2O
3及びPbOを実質的に含有しないようにガラス原料を調製しても良い。
【0057】
また、近年フラットパネルディスプレイの画面表示のさらなる高精細化を実現するために、α−Si(アモルファスシリコン)・TFTではなく、p−Si(低温ポリシリコン)・TFTや酸化物半導体を用いたディスプレイが求められている。ここで、p−Si(低温ポリシリコン)TFTや酸化物半導体の形成工程では、α−Si・TFTの形成工程よりも高温な熱処理工程が存在する。このため、p−Si・TFTや酸化物半導体が形成されるガラス板には、熱収縮率が小さいことが求められている。熱収縮率を小さくするためには、歪点を高くすることが好ましいが、歪点が高いガラスは、上述したように液相温度が高く、液相粘度が低くなる傾向にある。また、ガラスの失透を防止するために、成形時における熔融ガラスの温度を、α−Si・TFT用ガラス板の成形時における熔融ガラスの温度よりも高くする必要があるので、成形炉内部の雰囲気をより高温にする必要がある。したがって、成形体とガラス導入キャップとの熱膨張の程度の差が大きくなり、成形体とガラス導入キャップとの間の隙間が広がりやすい。
本実施形態及び変形例1、2では、成形体の端面とガラス導入キャップの端面カバー部との間の第1の隙間G1は、上述のように小さくなっている。したがって、本発明のガラス板の製造方法は、例えば液相粘度が30000〜300000poiseのガラスを用いたガラス板にも適用できる。特に、失透の発生しやすい液相粘度が30000〜100000poiseのガラスを用いたガラス板にも、本発明のガラス板の製造方法を適用でき、熔融ガラスの第1の隙間G1への進入を抑えられる。
【0058】
液相粘度が30000〜300000poiseのガラス、さらには、30000〜100000poiseのガラスをガラス板に用いる場合、ガラス組成としては、例えば、ガラス板が質量%表示で、以下の成分を含むものが例示される。
SiO
2 52〜78質量%、
Al
2O
3 3〜25質量%、
B
2O
3 3〜15質量%、
RO(Rは、Mg、Ca,Sr及びBaから選ばれる、ガラス板が含有する全ての成分であって、少なくとも1種である) 3〜20質量%、
を含み、質量比(SiO
2+Al
2O
3)/B
2O
3は7〜20の範囲にある無アルカリガラスまたはアルカリ微量含有ガラスであることが、好ましい。
さらに、歪点をより上昇するために、質量比(SiO
2+Al
2O
3)/ROは7.5以上であることが好ましい。さらに、歪点を上昇させるために、β−OH値を0.1〜0.3mm
-1とすることが好ましい。さらに、高い歪点を実現しつつ液相粘度の低下を防止するためにCaO/ROは0.65以上とすることが好ましい。環境負荷を考慮して、As
2O
3、Sb
2O
3及びPbOを実質的に含有しないようにガラス原料を調製してもよい。
【0059】
さらに、上述した成分に加え、本実施形態のガラス板に用いるガラスは、ガラスの様々な物理的、熔融、清澄、および、成形の特性を調節するために、様々な他の酸化物を含有しても差し支えない。そのような他の酸化物の例としては、以下に限られないが、SnO
2、TiO
2、MnO、ZnO、Nb
2O
5、MoO
3、Ta
2O
5、WO
3、Y
2O
3、および、La
2O
3が挙げられる。ここで、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどのフラットパネルディスプレイ用ガラス板は、泡に対する要求が特に厳しいので、上記酸化物の中では清澄効果が大きいSnO
2を少なくとも含有することが好ましい。
【0060】
上記ROの供給源には、硝酸塩や炭酸塩を用いることができる。なお、熔融ガラスの酸化性を高めるには、ROの供給源として硝酸塩を工程に適した割合で用いることがより望ましい。
【0061】
(実験例)
上記実施形態のガラス板の製造方法に従って、ガラス導入キャップを成形体に取り付け、ガラスの成形を行い、異物の流出の有無を確認した。成形体には、ZrO
2を64重量%含むジルコニア質耐火物で作られたものを用いた。ガラス導入キャップは、成形体の外形に対し1mmのクリアランスが設けられる寸法で作製した。ガラス導入キャップの取り付けに際しては、上述の角柱ブロック、支持板、ボルトを用いて、ガラス導入キャップを成形体に押し付けるとともに当該押し付け状態を保持した。角柱ブロックのガラス導入キャップへの押し当ては、ボルトをねじ込んで角柱ブロックを押し当てることにより行った。ボルトをねじ込むことによって角柱ブロックに加えられる力の強さは、第1の隙間が最大でも0.5mmを超えないように調整した。取り付け後、第1の隙間G1、第2の隙間G2をシックネスゲージを用いて測定したところ、それぞれ0.5mm以下、2〜4mmであった。また、成形工程における、成形炉内の雰囲気温度は1240℃、熔融ガラスの粘度は40000poiseとした。なお、この試験には、上記した、液相粘度が30000〜300000poiseのガラス組成の範囲で液相粘度が50000poiseとなるよう成分調製したガラスを用いた。以上の条件でガラスの成形を連続的に行った。
一方、ガラス導入キャップの取り付けの際に、成形体への押し付け、この押し付け状態の保持を行わなかった点以外は上記と同様の条件で、ガラスの成形を行い、異物の流出を確認した。
その結果、ガラス導入キャップの取り付けの際に、ガラス導入キャップの成形体への押し付け、押し付け状態の保持を行わなかった場合は、3〜6ヶ月間隔で熔融ガラスへの異物の流出が見られたのに対し、ガラス導入キャップの成形体への押し付け、押し付け状態の保持を行った場合は、1年以上異物の流出は見られなかった。
【0062】
以上、本発明のガラス板の製造方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。