(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記金属層の少なくとも1つが、ガラス繊維製織布の一面に、プラスチックフィルムの両面にアルミニウムが蒸着されている金属蒸着フィルムを貼着した金属蒸着層付きガラス繊維製織布である請求項1又は2に記載の耐火遮熱システム。
前記金属層の少なくとも1つが、アルミニウム箔と、ガラス繊維製織布の一面に、プラスチックフィルムの両面にアルミニウムが蒸着されている金属蒸着フィルムを貼着した金属蒸着層付きガラス繊維製織布との組み合わせである請求項1又は2に記載の耐火遮熱システム。
ヒドロキシル基を有するシリカ系無機繊維からなる高耐熱性不織布の両面に、金属層が設けられている積層単位を有する耐火遮熱システムが、シリカ繊維製織布で形成された袋体に収納されている耐火遮熱シートにおいて、
前記積層単位の積層数は3〜5であり、
前記金属層の少なくとも1つが、金属箔と、ガラス繊維製織布の一面に、プラスチックフィルムの両面に金属が蒸着されている金属蒸着フィルムを貼着した金属蒸着層付きガラス繊維製織布との組み合わせであり、
前記耐火遮熱シートの厚みが30mm以下であって、
前記耐火遮熱シートの片面温度(T)を時間(t)の関数「T=345log10(8t+1)+20」として、60分間加熱したときの、加熱側と反対側の面の温度が120℃以下である耐火遮熱シート。
【背景技術】
【0002】
近年の高度情報化の進展に伴い、光ファイバーや通信ケーブル、発送電ケーブル等を、火災等の突発的災害から保護する対策が求められている。
特に、ケーブルの被覆材が燃焼すると、有毒ガスが発生する場合もあるため、これらの通信網への延焼を防ぐ措置をとることが求められている。
さらに、原子力発電所等の発電所においては、突発的な火災等から通信ケーブルや発送電ケーブル等を保護することは非常に重要である。
【0003】
防火対策としては、火災の拡大や煙の伝播を防ぐために、耐火防護壁や遮熱ボード等で、光ファイバーや通信ケーブル、発送電ケーブル等を囲繞した防火区画を設けることが有用である。
しかしながら、防火区画を設けることは、スペース上、制限のある場所では困難であり、すでに配設された通信ケーブル、発送電ケーブルなどの防火対策には適用困難な場合が少なくない。
【0004】
また、耐火防護壁や遮熱ボードとして用いられるセラミック製ボード、パネルは、耐火遮熱性に優れるが、硬質で、重いため、光ファイバーやケーブル等の通信網の防火対策としては、汎用性に乏しく、加工性が劣る。
【0005】
このような事情下、防護壁や遮熱ボード等で防火区画を設ける代わりに、ケーブルをまとめて、不燃性、難燃性の耐火遮熱シートで被包するといった延焼防止対策が採られている場合がある。耐火遮熱シートによる防火対策は、複雑に配線されるケーブル等の防火対策として、スペースに制限がある場所や折れ曲がりなどのコーナー部がある場合にも対処できるという利点がある。
【0006】
耐火遮熱シートしては、断熱性に優れ、軽量で且つ可撓性を有し、取扱い性に優れる点から、セラミックファイバーをニードルパンチ等によりシート状とした耐火フェルトや、厚み10〜20mmのソフトタイプの耐火セラミックファイバーブランケットが好ましく用いられ、これらは、必要に応じて複数枚重ね、さらに耐熱性の織布で被包されて用いられる。
【0007】
ところで、平成27年7月に、厚生労働省から、リフラクトリーセラミックファイバーが発がんのおそれがある物質として、特定化学物質障害予防規則の措置対象物質に追加されるとの決定が発表され、労働安全衛生法施行令の改正により、使用が規制されることが決定している(http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000091530.html)。ここで、セラミックファイバーとは、アルミナとシリカを主成分とした人造鉱物繊維の総称であり、リフラクトリーセラミックファイバーとして規制の対象となっているセラミックファイバーは、アルミナ30〜60重量%、シリカ40〜60重量%の非晶質のアルミナシリカ繊維(平均繊維径2〜5μm)で、製造上、ショットと呼ばれる粒子が含まれているものである。
【0008】
規制の対象外となるセラミックファイバーとしては、アルミナの含有量が70重量%超のアルミナ繊維や、カルシア−マグネシア−ケイ酸塩繊維、マグネシア−ケイ酸塩繊維等の高耐熱生体溶解性無機繊維などが挙げられ、かかる生体溶解性無機繊維を用いた繊維系軽量高温断熱パネルも提案されている(特表2013−509539号公報)。
【0009】
また、セラミックファイバーからなる耐火断熱シートとは別に、火災等の温度上昇に伴い、不燃性ガスを発生して膨張するとともに、それ自体が炭化することで気孔を有する炭化断熱層を形成する膨張タイプの耐火シートも提案されている(例えば、特開2000−192570号公報)。
【0010】
さらに、上記のような断熱部材を組み合わせた多層構造の遮熱システムも提案されている。例えば、特表2006−527152号公報には、少なくとも1層のアルカリケイ酸塩樹脂組成物層と、膨張性層や反射層などを組み合わせた多層防火障壁システムが提案されている。
【0011】
さらには、耐火断熱材に水パックを組み合わせて防水性を持った外装材で包装仕上げした耐火防護シートが提案されている(http://www.netis.mlit.go.jp/NetisRev/Search/NtDetail1.asp?REG_NO=TH-020036)。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<耐火遮熱システムの積層単位>
本発明の耐火遮熱システムの積層単位について、
図1に基づいて説明する。
図1に示す耐火遮熱システムの積層単位10は、本発明の耐火遮熱システムの基本となる積層単位を示したもので、高耐熱性不織布1の両面に、金属層2a,2bが積層されている。
【0024】
(1)高耐熱性不織布
本発明で使用する高耐熱性不織布1は、ヒドロキシル基を有するシリカ系無機繊維からなる不織布である。
本発明で使用するヒドロキシル基を有するシリカ系無機繊維は、SiO
2を81重量%以上有し、SiO−のネットワークの一部にSi(OH)が存在しているもので、加熱により下記(1)式の脱水縮合反応がおこり、H
2Oを生成する。
【0026】
上記シリカ系無機繊維の組成は、特に限定しないが、好ましくは、以下の組成を有する。
SiO
2:81〜97重量%、Al
2O
3:3〜19重量%、ZrO
2、TiO
2、Na
2O、Li
2O、K
2O、CaO、MgO、SrO、BaO、Y
2O
3、La
2O
3、Fe
2O
3、およびこれらの混合物から選択される成分(「その他の成分」と称する)を2重量%以下。
【0027】
具体的には、下記組成を有する出発ガラス物質を溶融し、
55〜80重量%のSiO
2、
5〜19重量%のAl
2O
3、
15〜26重量%のNa
2O、
0〜12重量%のZrO
2、
0〜12重量%のTiO
2、および
Li
2O、K
2O、CaO、MgO、SrO、BaO、Y
2O
3、La
2O
3、Fe
2O
3、およびこれらの混合物:1.5重量%以下;
当該溶融物からフィラメントまたはステープルファイバーを形成し;
得られたフィラメントまたはステープルファイバーを酸抽出し;
抽出したフィラメントまたはステープルファイバーから、残留する酸および/または塩残留物を除去後、乾燥することにより製造することができる。
【0028】
酸処理において、アルカリ金属イオンは、酸処理によりプロトンに置換されるが、Si−Oネットワーク中にイオン(Al
3+、TiO
2+またはTi
4+、およびZrO
2+またはZr
4+)が残存することになる。二酸化ケイ素骨格中のプロトンによって置換された金属イオンは、原子価に依存して、ある数のヒドロキシル基が残ると考えられる。これらのヒドロキシル基が、600〜800℃程度で、上記(1)式のように縮合反応して、新たなSi−O−Si結合を形成するとともに、H
2Oを放出することができる。
【0029】
以上の組成を有し、組成内にSi(OH)が含まれるシリカ系繊維であれば特に限定しないが、例えば、AlO
1.5・18〔(SiO
2)
0.6(SiO
1.5OH)
0.4〕で表される組成が挙げられる。
このような組成を有する無機繊維は、溶融紡糸により、径6〜13μm、好ましくは7〜10μm程度で、長さ3〜30mmのステープルファイバー、または径6〜13μm、好ましくは7〜10μm程度で、長さ30〜150mm程度のフィラメントとして製造することができる。フィラメント、ステープルファイバーのいずれにおいても、溶融後、連続紡糸により製造されるので、ショットを実質的に含んでいない。このため、労働安全衛生法施行令の安全基準をクリアし、特定化学物質障害予防規則による規制の対象とはならない。
【0030】
このようなシリカ系無機繊維としては、市販のものを用いることができ、例えば、belChem Fiber Materials GmbH社のBELCOTEX(登録商標)などを用いることができる。
【0031】
BELCOTEX(登録商標)繊維は、一般にアルミナによって変性されたケイ酸から作成され、標準タイプのステープル繊維プレヤーンでは、約550テックスの平均繊度を有する。BELCOTEX(登録商標)繊維は、アモルファスであり、一般的には、約94.5質量パーセントのシリカ、約4.5質量パーセントのアルミナ、0.5質量パーセント未満の酸化物、および0.5質量パーセント未満の他の成分を含有する。平均径約9μmで径のばらつきは少なく、融点1500℃〜1550℃で、1100℃までの耐熱性がある。
【0032】
このようなシリカ系無機繊維を用いて、ニードルパンチ法等の従来公知の方法により、不織布を製造することができる。
【0033】
各高耐熱性不織布1の厚みは、特に限定しないが、好ましくは3〜10mm、より好ましくは5〜7mmである。薄すぎると断熱性能が得られにくく、分厚くなりすぎると、多層構造とした場合に、全体の厚みとの関係で、積層数が限定されてしまい、ひいては、本発明の効果が得られにくくなるからである。
【0034】
(2)金属層
金属層2a,2bを構成する金属としては、アルミニウム、ステンレス、チタン、クロム、ニッケル、金などの高反射性金属が用いられ、好ましくはアルミニウムである。
金属層2a,2bは、金属箔であってもよいし、プラスチックフィルムの両面に金属が蒸着されている金属蒸着フィルムであってもよいし、ガラス繊維製織布の一面に、プラスチックフィルムの両面に金属が蒸着されている金属蒸着フィルムを貼着した金属蒸着層付きガラス繊維製織布であってもよい。
【0035】
前記金属箔としては、コスト、取扱い性の観点から、アルミニウム箔が好ましく用いられる。
金属箔2a,2bの各厚みは、5〜25μm、好ましくは10〜18μmである。分厚くなりすぎると、剛性が大きくなりすぎるため、耐火遮熱システムの生産、さらには耐火遮熱システム全体の取扱い性低下の原因となる。
【0036】
前記プラスチックフィルムとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンフィルム、ポリエステルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリアミドフィルムなどを用いることができ、好ましくは、耐熱温度が高いポリエステルフィルムである。
【0037】
前記ガラス繊維製織布としては、特に限定しないが、耐熱温度が、アルミニウムの融点(約660℃)よりも高いことが好ましい。通常、700〜1000℃であり、厚み0.1〜2.5mmのガラス繊維製織布が用いられる。ガラス繊維製織布と金属蒸着フィルムとの貼着は、耐熱性接着剤を用いることが好ましい。
なお、金属蒸着層付きガラス繊維製織布としては、市販のものを用いてもよい。例えば、GENTEX Corp.のDualMirror(登録商標)などが挙げられる。
【0038】
このような金属層は、輻射熱の反射材として用いられるとともに、水蒸気バリヤーの役目も有する。
金属層として金属箔を用いる場合、耐火遮熱システムの厚みにほとんど影響を与えることなく、熱反射材、水蒸気浸透防止材としての役目を果たすことができる。
【0039】
金属層として、金属蒸着フィルムを用いる場合、金属箔よりも分厚くなるが、取扱い容易という利点がある。
さらに、金属層として金属蒸着層付ガラス繊維製織布を用いた場合、金属蒸着層の基材となるガラス繊維製織布が、プラスチックフィルムより高い耐熱温度を有しているので、金属蒸着層をより長い時間、安定的に保持できるという利点がある。
【0040】
、
金属層2aと金属層2bとは、同種類(例えば、いずれも金属箔)であってもよいし、異なる種類の組み合わせ(例えば、一方が金属箔で、他方が金属蒸着フィルム又は金属蒸着層付きガラス繊維製織布)であってもよい。
また、各金属層2a,2bとして、金属箔と金属蒸着フィルム又は金属蒸着層付ガラス繊維製織布との積層物を用いてもよい。
【0041】
これらのうち、金属層2a,2bとして、金属箔、特にアルミニウム箔を用いたものが好ましい。高耐熱性不織布にアルミニウム箔を貼着した積層単位は、一体的に取り扱うことができて便利である。
【0042】
<耐火遮熱システム>
本発明の耐火遮熱システムは、上記のような積層単位が少なくとも2以上積層されたものである。この場合、個別に形成した積層単位(第1の積層単位と第2の積層単位)を積層してもよいし、
図2に示すように、第1の積層単位と第2の積層単位とが接する面における金属層が、兼用されていてもよい。
図2に示す耐火遮熱システムは、金属箔4a,高耐熱性不織布3a,金属箔4b,高耐熱性不織布3b,金属箔4cが各順に積層された積層体であり、金属箔4bは第1の積層単位の金属層と第2の積層単位の金属層とが兼用されている。
【0043】
図2は、積層単位を2つ積層した場合であったが、3つ以上積層されたものであってもよく、好ましくは3〜5層、積み重ねたものである。また、金属層は金属箔に限定しない。
従って、具体的には、高耐熱性不織布をHF、金属層をMとして、基本積層単位であるM/HF/Mを積み重ねたM/HF/M/M/HF/M、積層面での金属層を兼用したM/HF/M/HF/M、3つ以上の積層単位を積層したものとして、M/HF/M/M/HF/M/M/HF/M、M/HF/M/HF/M/HF/M/M/HF/M、M/HF/M/M/HF/M/M/HF/M/HF/M/M/HF/Mなどが挙げられる。
【0044】
本発明の耐火遮熱システムは、少なくとも2つ以上の積層単位が積層されたものであればよく、積層された高耐熱性不織布間に介在することになる金属層は、同種類(例えば、いずれも金属箔)であってもよいし、異なる種類の組み合わせ(例えば、金属箔、金属蒸着フィルム、金属蒸着層付きガラス繊維製織布からなる群より選ばれる少なくとも2種)であってもよいし、金属層の少なくとも1つが、金属箔、金属蒸着フィルム及び金属蒸着層付きガラス繊維製織布からなる群より選択される2種以上の組み合わせであってもよい。
尚、金属蒸着層付きガラス繊維製織布を積層する場合、金属蒸着層が加熱源に近い側の面となるように用いることが好ましい。
【0045】
図3は、高耐熱性不織布11aの両面に金属箔12a、12a’が積層された第1の積層単位Aと、高耐熱性不織布11bの両面に金属箔12b、12b’が積層された第2の積層単位Bとを組み合わせた積層体で、第1積層単位Aと第2積層単位Bとの間に、さらに金属蒸着層付きガラス繊維製織布13を介層した耐火遮熱システム20を示している。
すなわち、金属蒸着層付きガラス繊維製織布13は、
図4に示すように、ガラス繊維製織布13aの片面に、プラスチックフィルム13cの両面に金属蒸着層13b、13b’を有する金属蒸着フィルムが積層されたものである。
【0046】
以上のような構成を有する耐火遮熱システムは、積層体の一面が炎等の熱源側となるように用いられる。複数の金属層の一部が金属蒸着層付きガラス繊維製織布の場合、金属蒸着層付きガラス繊維製織布が熱源に近い側となるように用いることが好ましい。金属箔としてアルミニウム箔を用いた場合、金属蒸着層付きガラス繊維製織布の方が耐熱温度が高く、耐久性に優れているからである。すなわち、アルミニウム箔では融点である660℃程度の温度で焼失してしまうのに対して、金属蒸着層付きガラス繊維製織布では、プラスチックフィルムの焼失後も、ガラス繊維製織布(耐熱温度700〜1000℃)に基づき、金属蒸着層が保持され、積層体としての形状も保持できるからである。また、ガラス繊維製織布に基づく断熱効果も得られる。
【0047】
本発明の耐火遮熱システムは、少なくとも2以上の積層単位が積層されたものであればよい。好ましくは3〜5個の積層単位が積層されたものである。積層単位としては、特に限定しないが、高耐熱性不織布の両面に、金属層として金属箔が貼着したものを1単位として積層した積層単位が、取扱い性の点から好ましく用いられる。かかる積層単位を用いる場合、積層単位間に、別途、金属蒸着フィルムや金属蒸着層付きガラス繊維製織布を介層してもよい。
【0048】
したがって、高耐熱性不織布HFを2枚の金属箔Mで挟持した積層単位をLUとし、金属蒸着層付きガラス繊維製織布をMGFとして、LU/LU/LU、LU/LU/LU/LU、LU/MGF/LU、LU/MGF/MGF/LU、LU/MGF/LU/MGF/LU/MGF、LU/MGF/LU/MGF/LU/MGF/LUなどが挙げられる。
【0049】
積層単位の個数、金属蒸着フィルム又は金属蒸着層付きガラス繊維製織布の使用数や介層部位は、耐火遮熱システムの適用部位、求められる遮熱断熱性能、施工スペース等に応じて、適宜選択される。
【0050】
また、耐火遮熱システムの外表面に、耐熱温度が高いシリカ系繊維やアルミナ系繊維等の織布を設けてもよい。
【0051】
以上のような構成を有する本発明の耐火遮熱システムは、積層体としてそのまま用いてもよいし、積層状態をネジ、釘、リベット、クリップ等の固定具を用いて固定してもよいし、接着剤により積層状態を貼着固定してもよい。
【0052】
以上のような構成を有する耐火遮熱システムは、複数の高耐熱性不織布間(
図2では3a,3b間、
図3では、11a,11b間)に金属層(
図2では4b、
図3では、12a’、13、12b)が介層されているので、金属層が高耐熱性不織布の輻射熱を反射する反射材としての役目を果たす。このため、金属層が介層していない同程度の厚みの高耐熱性不織布の積層体と比べて、熱源に近い側の高耐熱性不織布の温度が早期に上昇して、上記(1)式の脱水縮合反応を開始すると考えられる。熱源に近い側の高耐熱性不織布の温度上昇に伴い、金属層も温度上昇すると、次いで、熱源が遠い側の高耐熱性不織布の温度が上昇し、そこで上記(1)式の脱水縮合反応を開始すると考えられる。このように、複数の高耐熱性不織布を積層した積層体において、金属層が介層している本発明の耐火遮熱システムは、金属層が介層されていない高耐熱性不織布の積層体と比べて、縮合反応が熱源に近い側の高耐熱性不織布から順次起こることから、加熱される側と反対側での温度は段階的に上昇することになり、結果として、温度上昇を遅延させることができるのではないかと考えられる。
【0053】
また、脱水縮合反応の生成水は、金属層の崩壊により隣接する高耐熱性不織布側、すなわち低温側の高耐熱性不織布内に蒸散する。場合によっては、水蒸気が金属層に付着して水滴となることも考えられる。従って、熱源から遠い側の積層単位となる高耐熱性不織布においては、熱エネルギーが、水蒸気が再び気化する気化熱として消費されることも期待される。このような理由からも、熱源から遠い側の積層単位となる高耐熱性不織布内での温度上昇の遅延が考えられる。
【0054】
このように、両面に金属層が設けられた高耐熱性不織布の積層単位の組み合わせは、単なる高耐熱性不織布を同数積層した積層体と比べて、温度上昇を遅延させることができる。
さらに、金属層として、金属箔と金層蒸着層付きガラス繊維製織布を用いた場合には、金属箔が高温で損傷した場合に、ガラス繊維製織布の金属蒸着層が熱反射材としての役割を果たすことができるので、金属蒸着層付きガラス繊維製織布がない場合と比べて、温度上昇のさらなる遅延効果を期待できるとともに、ガラス繊維製織布による断熱効果も期待できる。
【0055】
<耐火遮熱シート>
次に、本発明の耐火遮熱シートについて、
図5に基づいて説明する。
図5に示す耐火遮熱シートは、積層単位を4個積み重ねた耐火遮熱システム30を、シリカ系ガラス繊維の織布(シリカクロス)を縫製により袋状にした袋体31に収納したものである。
【0056】
収納されている耐火遮熱システム30は、M/HF/M/HF/M/HF/M/HF/M(Mは金属層22、HFは高耐熱性不織布21を表す)の構成を有している。金属層Mは、上述のように、金属箔の兼用でもよいし、各積層単位の金属箔が重なったものでもよい。さらには、金属箔、金属蒸着フィルム、及び金属蒸着層付きガラス繊維製織布からなる群より選ばれる2種以上の組み合わせであってもよい。
【0057】
袋体31の構成材料となるシリカクロスは、シリカ系ガラスファイバーの特性に基づき、通常、耐熱温度900〜1100℃程度で、厚み0.2〜1.3mm程度である。シリカクロスは、熱源にさらされることになるので、耐火遮熱システムの収納用袋として、1時間以上、加熱にさらされても、崩壊しない耐熱性を有する必要がある。
【0058】
以上のようなシリカクロスの袋体31に、上記構成を有する耐火遮熱システム30を収納密封することで、耐火遮熱システム30の積層状態の固定に対する要求を緩和することができる。すなわち、耐熱温度の低い接着剤を用いた接着では、高温劣化により炭化し、積層状態の安定性を確保できないおそれがある。この点、耐熱温度が高いシリカクロスの袋体31内に収納しておくことで、袋体31が破損するような熱劣化が起こらない限り、内部の積層体の積層状態を安定的に保持できる。すなわち、多層構造の耐火遮熱システムを一体的に取り扱うことができるので、便利である。
【0059】
また、1枚の耐火遮熱シートとして、折り曲げたり、折りたたんだりすることができるので、防火対策の施工箇所として汎用性が高い。分厚い布のように取扱いできることから、平板以外の曲面構造や直方体等のトレーにも、包むようにして囲繞施工が可能である。
また、取り付け施工は、リベット、ねじ、釘、クリップ、結束バンド、ワイヤなどの固定具を用いて行うことができる。
【0060】
以上のような構成を有する耐火遮熱シートは、例えば、積層単位の積層数3〜5で、前記金属層の少なくとも1つが、金属箔と、ガラス繊維製織布の一面に、プラスチックフィルムの両面に金属が蒸着されている金属蒸着フィルムを貼着した金属蒸着層付きガラス繊維製織布との組み合わせを採用した場合に、耐火遮熱シートの厚みを30mm以下としても、耐火遮熱シートの片面温度(T)を時間(t)の関数「T=345log
10(8t+1)+20」として、60分間加熱したときの、加熱側と反対側の面の温度を120℃以下とすることが可能である。
【0061】
尚、袋体は、収納部が1つだけの袋体に限定せず、収納部を複数に分割した袋体であってもよい。複数の袋体が連結した連結タイプの袋体を使用し、各袋体内に、それぞれ独立して耐火遮熱システムを収納すればよい。
【0062】
図6は、分割部33により分割された収納部32aを複数有する分割タイプ袋体32を用いた耐火遮熱シート40を箱体35の被包に適用した場合を示している。このような耐火遮熱シート40は、角部を有する箱体35に収納された機器に対しても、分割部33が角部となるように被包することで、耐火遮熱システムである積層体を折り曲げることなく、容易に被包することが可能となる。これにより、耐火遮熱システムの積層体への機械的負荷を減じることができる。
なお、
図6中、耐火遮熱シート40の箱体35への取り付け固定は、リベット34により行っている。
【0063】
以上のように、本発明の耐火遮熱シートを用いることで、箱体や複雑に配線された通信ケーブルや発送電ケーブル等の防火対策として、現場においても、特殊な技術を要することなく、既存のケーブルトレイなどの設備に簡単に取り付けることができる。
【0064】
図7は、本発明の耐火遮熱シートを用いた応用例である。多数本の通信用又は発送電用のケーブル42の束を収納したトレー41が多段に積み重ねられた複雑な配線設備の一例を示している。
このような重要なケーブル通信網は、火災に備えてトレー毎に消火のためのスプリンクラー43が設置されている。スプリンクラー43とトレー41との間のスペース(少なくとも50mm程度)の確保、ケーブル42の多段積み重ねとの関係、さらにはすでにこのような通信網が配設されているところでは、各トレー41の外表面に耐火遮熱塗料を塗工したり、防火障壁を貼り付けたりすることは実際上困難である。しかしながら、本発明の耐火遮熱シートであれば、クリップ等の簡易な固定具を用いて、各トレーを被包するように取り付けることで、要求される耐火基準を充足することが可能である。
図7中、50が耐火遮熱シートである。
【実施例】
【0065】
〔耐火遮熱システムの作製〕
耐火遮熱システムの構成要素として、以下のものを使用した。
・高耐熱性不織布(HF):
belChem社のbelCotex(登録商標)110(組成はAlO
1.5・18〔(SiO
2)
0.6(SiO
1.5OH)
0.4〕)で、厚み6mm、繊維径9μm。
・アルミニウム箔(Al):厚み0.015mm
・金属蒸着層付きガラス繊維製織布(AGF):
GENTEX社のDualMirror(登録商標)を用いた。これは、プラスチックフィルムの両面にアルミニウムが蒸着されたアルミニウム蒸着フィルムを、ガラス繊維製織布の片面に耐熱接着剤で接着したものである。
・シリカ繊維製織布(SF):
ユニチカ社のシリカクロス(BS850 C2100SE)を使用した。厚み0.7mmの織布で、耐熱温度は1000℃である。
・セラミックファイバー製ブランケット(CFB):
イビデン社のイビウール(商品名)を用いた。これに用いられているセラミックファイバーは、組成がシリカ(SiO
2)51%及びアルミナ(Al
2O
3)49%、径2〜4μmで、特定化学物質障害予防規則の措置対象物質規制の対象となるものである。
【0066】
表1に示すような積層構成を有する30cm×30cmの耐火遮熱システムNo.1〜4を形成した。No.1〜4の各耐火遮熱システムの積層体をシリカ繊維製織布の袋体に収納し、密封して、耐火遮熱シートNo.1〜4を作製した。
すなわち、No.1は、セラミックファイバー製ブランケット(CFB)を4枚積み重ねたものをシリカ繊維製織布(SF)の袋体に収納したもの;No.2は、高耐熱性不織布(HF)を4枚積み重ねたものをシリカ繊維製織布(SF)の袋体に収納したもの;No.3は、高耐熱性不織布(HF)の両面にアルミニウム箔(Al)を積層してなる積層単位(LU)を4個積み重ねたものをシリカ繊維製織布(SF)の袋体に収納したもの;No.4は、No.3で用いた積層単位(LU)の4個の積層体において、各積層単位(LU)間にアルミニウム蒸着層付きガラス繊維製織布(AGF)を介層するとともに、且つ積層体の両面に、AGFを積層したものである。
【0067】
〔耐火遮熱シートNo.1〜4の評価〕
上記で作製した耐火遮熱シートNo.1〜No.4の片側の面を加熱炉に接触させることにより、耐火遮熱シートの片側を、ISO834標準加熱曲線に従って、1時間加熱した。1時間の加熱の間、加熱面と反対側の面の温度をサーモグラフィ及び3か所について熱電対で測定した。各耐火遮熱シートの測定結果をそれぞれ
図8〜
図11及び表1に示す。尚、図及び表中に示す温度は、3か所の平均温度である。
【0068】
【表1】
【0069】
図8〜
図11に示すように、炉内の温度は加熱開始から約10分間で700℃まで上昇し、その後、徐々に昇温して約1000℃となった。
No.1,No.2は、いずれも加熱開始20分後くらいから急激に温度が上昇し、1時間後には、No.1では120〜133℃、No.2では170〜175℃であった。
No.1は、厚み51.4mmであり、スペースに制限のある箇所には適用できない。また分厚いため、折り曲げ仕様には適用できない。
No.2は、1時間後の温度が170℃を超えるため、所望の耐火性能を満足することができない。
No.3、4は、いずれも厚みが50mm未満であり、スペースに制限のある箇所にも適用でき、且つ折り曲げ仕様も可能である。そして、1時間後の温度が119〜126℃(No.3)、112〜117℃(No.4)であり、所望の耐火性能を満足できる断熱性を有していた。
【0070】
図9と
図10,
図11とを比較すると加熱開始からの20分間の温度上昇において、高耐熱性不織布間に金属層を有しない耐火遮熱システムNo.2では、初期の10分間の温度上昇が特に早く、加熱開始後10〜20分間では、温度上昇が緩やかになり、その後、急速に温度上昇した(
図9)。一方、高耐熱性不織布間に金属層を有するNo.3,No.4では、加熱開始からの20分間において、温度上昇はほとんど認められなかった。これは、No.3,4では、金属箔による高耐熱性不織布の隔離効果により、熱源に近い側では早期から脱水縮合反応が起こり、金属層のアルミニウム箔の損傷、焼失により水蒸気が隣接の高耐熱性不織布内に蒸散することにより、温度が下がり、再び気化するために熱エネルギーが消費されたためではないかと思われる。この点、金属層が介層されていないNo.2では、熱源に近い側の高耐熱性不織布よりも広範囲の高耐熱性不織布が昇温された後に脱水縮合反応が開始され、生成水が耐火遮熱システムから蒸散されるので、気化熱による熱エネルギー消費がなかったためではないかと思われる。
【0071】
No.1とNo.3,4とは、1時間後の温度はいずれも同程度で、耐火基準を満足できる断熱性を有していたが、耐火遮熱システムNo.3,4の方が、温度上昇が緩やかであった。したがって、本発明の耐火遮熱シートを用いた防火対策により、消火活動、スプリンクラーの迅速な稼働により、ケーブル等に対する損傷を少なくできる。
【0072】
〔耐火遮熱システムにおける生成水の確認〕
SF/LU×4/AGF/SFの積層構造を有する耐火遮熱シートNo.5を作製した。この耐火遮熱シートNo.5の片側を加熱炉に接触させることにより、耐火遮熱シートの片側を、ISO834標準加熱曲線に従って加熱した。加熱開始後43分の時点(炉内温度約900℃)で、耐火遮熱シートを取り出した。加熱温度、耐火遮熱シートの加熱されていない側の表面温度(熱電対による測定)の変化は、
図12に示すとおりである。加熱されていない側の、加熱開始43分後の表面温度は約80℃であった
【0073】
取り出した耐火遮熱シートの袋体を開封し、耐火遮熱システムを取り出して観察した。加熱されていない側の積層単位(高耐熱性不織布、アルミニウム箔)が湿っていて、水滴を確認することができた。
したがって、本発明の耐火遮熱シートでは、高耐熱性不織布の積層体を、輻射熱、シリカ系無機繊維の脱水縮合反応により生じる水蒸気の蒸散を、積層単位毎に隔離しているので、加熱源に近い側の高耐熱性不織布から順に脱水縮合反応が起こること、金属層の崩壊により水蒸気が隣接の高耐熱性不織布内に蒸散し、再び気化するために熱エネルギーが消費されることから、温度上昇が抑制されたのではないかと思われる。