特許第6276256号(P6276256)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6276256具現化された化学合成を含む進化的合成の方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6276256
(24)【登録日】2018年1月19日
(45)【発行日】2018年2月7日
(54)【発明の名称】具現化された化学合成を含む進化的合成の方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 19/00 20060101AFI20180129BHJP
   C01G 39/00 20060101ALI20180129BHJP
   G06N 3/12 20060101ALI20180129BHJP
【FI】
   B01J19/00 321
   C01G39/00 Z
   G06N3/12 160
【請求項の数】14
【全頁数】58
(21)【出願番号】特願2015-513279(P2015-513279)
(86)(22)【出願日】2013年5月24日
(65)【公表番号】特表2015-520674(P2015-520674A)
(43)【公表日】2015年7月23日
(86)【国際出願番号】GB2013051390
(87)【国際公開番号】WO2013175240
(87)【国際公開日】20131128
【審査請求日】2016年5月17日
(31)【優先権主張番号】1209239.1
(32)【優先日】2012年5月25日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】514110989
【氏名又は名称】ザ ユニヴァーシティー コート オブ ザ ユニヴァーシティー オブ グラスゴー
【氏名又は名称原語表記】THE UNIVERSITY COURT OF THE UNIVERSITY OF GLASGOW
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100188352
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 一弘
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100177714
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昌平
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【弁理士】
【氏名又は名称】山村 昭裕
(72)【発明者】
【氏名】クローニン リーロイ
【審査官】 森井 隆信
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−516219(JP,A)
【文献】 特表2002−524251(JP,A)
【文献】 特表平10−505832(JP,A)
【文献】 米国特許第06434490(US,B1)
【文献】 独国特許出願公開第10246740(DE,A1)
【文献】 特表平08−512159(JP,A)
【文献】 Haralampos N. Miras et al.,"Solution-Phase Monitoring of the Structural Evolution of a Molybdenum Blue Nanoring",Journal of the American Chemical Society,2012年 1月17日,No.134,pp.3816-3824,URL,DOI:dx.doi.org/10.1021/ja210206z
【文献】 RICHMOND C. J., et al.,A flow-system array for the discovery and scale up of inorganic clusters,Nature Chemistry,英国,2012年11月18日,Vol.4, No.12,1037-1043
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 10/00− 12/02
B01J 14/00− 19/32
C01G 39/00
G06N 3/12
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザ仕様を満たす、又は超える1又は2以上の特徴を有する生成物の産生のためのプロセスであって、
(i)(A)生成物が有することが望ましい1又は2以上の特徴である、ユーザ仕様と、(B)反応空間と流体連通している一連の化学的入力を備え、1又は2以上の物理的入力を備えてもよい、フロー化学システムであって、前記物理的入力が、前記化学的入力の1若しくは2以上に送達可能であり、及び/又は前記反応空間に送達可能である、フロー化学システムと、
(C)前記フロー化学システムとのインタラクションのために構成された分析システムであって、生成物の1又は2以上の特徴の測定のための分析システムと、
(D)前記反応空間への化学的及び物理的入力の送達を制御するように、並びに前記分析システムにより測定された1又は2以上の特徴を、前記ユーザ仕様と比較するように構成された制御システムであって、化学的及び物理的入力の組合せを選択するための遺伝的アルゴリズムを備える制御システムと
を提供するステップと、
(ii)化学的入力の第1の組合せを、任意選択で物理的入力と共に選択し、それらの入力を前記反応空間に供給して、それにより第1の生成物を産生するステップと、
(iii)産生された前記生成物の1又は2以上の特徴を分析するステップと、
(iv)前記1又は2以上の特徴を、前記ユーザ仕様と比較するステップと、
(v)化学的入力の第2の組合せであって、前記第1の組合せとは異なる第2の組合せを、任意選択で物理的入力と共に前記遺伝的アルゴリズムに選択させ、それらの入力を前記反応空間に供給して、それにより第2の生成物を産生するステップと、
(vi)産生された前記第2の生成物の1又は2以上の特徴を分析するステップと、
(vii)産生された前記1又は2以上の特徴を、前記ユーザ仕様と比較するステップと、
(viii)化学的及び/又は物理的入力のさらなる個々の組合せであって、それぞれのさらなる組合せが、前記遺伝的アルゴリズムにより選択されるさらなる個々の組合せのために、ステップ(v)から(vii)を反復し、生成物のアレイを提供するステップと
を含み、前記フロー化学システムが、連続的に動作して、前記第1、第2及びさらなる生成物を提供し、
それにより、前記ユーザ仕様を満たす、又は超える1又は2以上の生成物を特定するプロセス。
【請求項2】
(ix)ユーザ仕様を満たす、又は超えるさらなる量の生成物を生成するステップをさらに含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
遺伝的アルゴリズムが、化学的入力の第1の組合せを選択する、請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項4】
化学的及び物理的入力が、組合せとしての選択に利用可能である、請求項1〜3のいずれかに記載のプロセス。
【請求項5】
化学的入力の数が、5又は6以上である、請求項1〜4のいずれかに記載のプロセス。
【請求項6】
物理的入力が、反応時間、化学的入力の濃度、及び化学的入力の比を含む、請求項4又は5に記載のプロセス。
【請求項7】
測定する特徴が、生成物の物理的特性である、請求項1〜6のいずれかに記載のプロセス。
【請求項8】
物理的特性が、
光学的特性、
質量特性、
電気化学的特性、及び
レオロジー特性
からなる群から選択される、請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
物理的特性が、光学的特性である、請求項7に記載のプロセス。
【請求項10】
生成物が、ポリオキソメタレート、配位クラスタ、ナノ粒子、単分子磁石、量子ドット、染料、電子材料、医薬組成物、パーソナルヘルスケア製品、及び生物活性薬剤からなる群から選択され、ポリマー又は有機分子をさらに含んでもよい、請求項1〜9のいずれかに記載のプロセス。
【請求項11】
生成物が、ポリオキソメタレートである、請求項10に記載のプロセス。
【請求項12】
アルゴリズムが、進化的アルゴリズムである、請求項1〜11のいずれかに記載のプロセス。
【請求項13】
進化的アルゴリズムが、Nelder-Meadアルゴリズムである、請求項12に記載のプロセス。
【請求項14】
生成物を生成する方法を産生するためのプロセスであって、前記方法が、ユーザ仕様を満たす、又は超える1又は2以上のパラメータを有し、前記プロセスが、
(i)(A)前記方法が有することが望ましい1又は2以上の特徴である、ユーザ仕様と、
(B)反応空間と流体連通している一連の化学的入力を備え、1又は2以上の物理的入力を備えてもよい、フロー化学システムであって、前記物理的入力が、前記化学的入力の1若しくは2以上に送達可能であり、及び/又は前記反応空間に送達可能である、フロー化学システムと、
(C)前記フロー化学システムとのインタラクションのために構成された分析システムであって、前記方法又は前記生成物の1又は2以上の特徴の測定のための分析システムと、(D)前記反応空間への化学的及び物理的入力の送達を制御するように、並びに前記分析システムにより測定された1又は2以上の特徴を、前記ユーザ仕様と比較するように構成された制御システムであって、化学的及び物理的入力の組合せを選択するための遺伝的アルゴリズムを備える制御システムと
を提供するステップと、
(ii)化学的及び物理的入力の第1の組合せを選択し、それらの入力を反応空間に供給して、それにより生成物を生成する第1の方法を産生するステップと、
(iii)産生された前記方法及び/又は前記生成物の1又は2以上の特徴を分析するステップと、
(iv)前記1又は2以上の特徴を、前記ユーザ仕様と比較するステップと、
(v)化学的及び/又は物理的入力の第2の組合せであって、前記第1の組合せとは異なる第2の組合せを、前記遺伝的アルゴリズムに選択させ、それらの入力を前記反応空間に供給して、それにより生成物を生成する方法を産生するステップと、
(vi)産生された前記方法及び/又は前記生成物の1又は2以上の特徴を分析するステップと、
vii)産生された前記1又は2以上の特徴を、前記ユーザ仕様と比較するステップと、
viii)任意選択で、化学的及び/又は物理的入力のさらなる個々の組合せのために、ステップ(v)から(vii)を反復するステップと
を含み、前記フロー化学システムが、連続的に動作して、前記第1、第2及びさらなる方法を提供し、それにより、前記ユーザ仕様を満たす、又は超える1又は2以上の方法を特定するプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユーザが望む一連の特性を有する生成物の産生(generation)のためのプロセスを提供する。本発明は、ユーザが多くの可能な生成物形態を探索し、化学的及び物理的側面の所望の組合せを有する生成物を特定することを可能にする調査ツールを提供する。生成物の構造的及び組成的空間の探索は、自動化された進化的処理により誘導される。
【背景技術】
【0002】
有用な生成物の特定のための現在の発見戦略は、本来時間を要するプロセスである。予測的なコンピュータ上でのスクリーニングは、有用となり得る生成物に関するいくつかの指針を提供することができるが、そのような方法は、まだ十分に開発されていない。実際にどの生成物がそれらを有用とならしめる適切な特徴を有するかを決定するためには、依然として様々な生成物を調製する必要がある。したがって、典型的な発見プロセスは、それぞれ個々に分析及び試験される多くの生成物の調製を常に必要とする。
【0003】
従来の発見プロセスは、一般に、一連のバッチプロセスの形態をとる。生成物の最初の群が調製され、有望な特徴を有する生成物のサブセットが特定される。これらの生成物は、そのいくつかが元の特定された生成物のサブセットよりも優れるさらなる有望な生成物が特定されることを予想して、生成物の第2の群の調製を知らせる。生成物のさらなるセットが調製されてもよく、それぞれのその後の調製は、優れた活性を有する生成物を特定することを意図する。生成物が使用に適切な側面の組合せを有すると特定されたら、例えばさらなる試験又は使用に有用な量の材料を提供するために、その後のスケールアップ合成が行われる。改善された合成方法を特定することを目指した発見プロセスも、同様の様式で行われる。
【0004】
発見プロセスに改善が必要であることが、長い間認識されている。近年のより生産的な開発領域の1つは、生成物の最初の主要なセットから得られたデータが、後の生成物の調製を知らせるために使用される様式であった。ここで、研究者は、所望の活性に寄与し得る生成物の側面の理解を深めるために、次第に高度なデータマイニング及び管理技術を利用するようになっている。したがって、発見技術には、生成される大量の実験データを管理及びスケジュールするための堅牢な手順が必要であることが認識されている。さらに、この整理されたデータを把握及びモデル化し、潜在的に有用な生成物の特定のためのグローバル検索戦略を提供することが必要である(Springer Science+Business Media, LLC, Ed. Goldbergを参照されたい)。
【0005】
現在、遺伝的アルゴリズム検索方法が、有用な生成物の生成を導くためのツールとして次第に使用されている。遺伝的アルゴリズムは、選択及び再生の自然の進化的概念から発想を得ている。発見プロセスにおいて、ユーザは、調製を希望する理想化された生成物の性能基準の特定のセットを設定する。一連の試験生成物が調製及び分析され、各生成物には、性能基準に対する適応度値が割り当てられる。この値は、アルゴリズムによりなされる自然選択の基礎を形成し、特定の適応度値を有する生成物が選択される一方で、その他は破棄される。ユーザにより設定された性能基準を満たす、又は超える新たな予想外の解決策を生成するために、生成物入力のクローニング、交差、及び変異により再生が達成される。生成物設計の遺伝的アルゴリズムアプローチは、複合及び結合多変数系において良好に機能することが示されている(Zhu et al. Appl. Phys. Express 2012, 5, 012102を参照されたい)。これらの方法は、発見プロセスにおける速度、堅牢性及び多用途性のバランスを取ろうとするものである(Pham Comp. Chem. Eng. 2012, 37, 136-142を参照されたい)。化学的及び工学的プロセスにおける遺伝的アルゴリズムの使用及び精密化は、現在十分確立されている。
【0006】
将来の生成物調製を知らせる遺伝的アルゴリズムの使用は、確かに発見プロセスを補助してきた。しかしながら、それでも問題が存在する。実際には、研究者は生成物を開発するために依然としてバッチ合成アプローチを使用する。ここで、研究者は、その後好適に分析及び試験される生成物の訓練セットを調製することができる。このセットから、遺伝的アルゴリズムに、その後のバッチ調製に必要な情報が提供される。遺伝的アルゴリズムを使用する典型的なバッチプロセスは、Zhuらにより、高効率III−V窒化物発光ダイオードの調製において説明されている(Zhu et al. Appl. Phys. Express 2012, 5, 012102)。別の例は、メタン酸化触媒の開発に関するKreutzらの研究を含む(Kreutz et al. J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 3128-3132)。根本的に、バッチ調製は、賢明に誘導されたとしても、依然として煩雑で時間を要する。
【0007】
さらに、遺伝的アルゴリズムは、通常、限定された発見プロセスの形態とみなすことができる最適化プロセスにおいて使用される。最適化手順は、元の主要生成物を採用し、その特性を改善しようとする。最適化のプロセスは、通常保存的なものであり、生成される新たな生成物は、元の主要生成物の構造的及び組成的な部分の多くを共有する。最適化プロセスは、構造的及び組成的に多様な生成物空間の探索にはほとんど許容されない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Springer Science+Business Media, LLC, Ed. Goldberg
【非特許文献2】Zhu et al. Appl. Phys. Express 2012, 5, 012102
【非特許文献3】Pham Comp. Chem. Eng. 2012, 37, 136-142
【非特許文献4】Kreutz et al. J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 3128-3132
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特に処理量を増加させるため、及び第1の試験生成物の産生から有用な量の主要生成物の産生までの時間を短縮させるために、発見プロセスをさらに合理化することが依然として必要である。また、ユーザが生成物の真の幅及び深さを探索することを可能にする発見プロセスを提供することが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、概して、ユーザ仕様(user specification)を満たす特徴を有する生成物を産生するためのプロセスを提供する。特に、本発明のプロセスは、無機進化的プロセスによる無機構造の開発を可能にする。ここで、進化を推進する成分は無機材料であるが、有機又は生物学的材料との共進化もまた可能である。
【0011】
本発明のプロセスは、ユーザが多くの異なる生成物を調製することを可能にする探索的システムである。多様な生成物の範囲の調製により、プロセス制御システムは、どの入力が所望の特質を提供し、どの入力がそうでないかの理解をもたらすことができる。このようにして、システムは、仕様においてユーザにより設定される物理的及び化学的特徴を有する生成物を発見することができる。使用のための新たな生成物の探索及び産生は、進化と呼ぶことができる。
【0012】
本発明により、進化した化学反応が調査され得る。これは、概して、(i)センサアレイを含む化学プロセスシステム、(ii)フィードバックシンプレックス/GA管理制御システム、及び(iii)大きなパラメータ空間にわたり探索され得る化学的構成要素の3つの要素を使用して達成される。これらの3つの要素を組み合わせることにより、システムは、進化させる系、分子又は材料の分光学的特性に基づくフィードバック及び選択メカニズムを使用することができる。システムは、適応度地形を探索し、最終的に到達するための経路を特定し、それにより適応度関数の最善の解を発見する。有利には、システムにより最適な分子又は材料が調製されるが、これは、発見段階がコンピュータモデルから別個のステップとして実験室にまで移行される必要がないことを意味する。
【0013】
これは、システムが(i)実際に合成され得る化合物のみを調査し、(ii)物理系内での構造又は特性のリアルタイムスクリーニングを提供し、また(iii)容易にコード又は予測することができない特性を有する複雑な分子を却下しないため、有益である。プラットフォームの要素は、構成要素(化学的入力)の集団、物理的入力の存在下であってもよい構成要素に接続される反応器/反応物、構成要素を移動させる運動系、接続された構成要素の特性を検出するためのセンサシステム及び質問器、並びに決定システム、例えば、センサフィードバックに基づき構成要素の反応を制御するための遺伝的アルゴリズムである。
【0014】
プラットフォームは、計算(コンピュータ上の)イベントを物理的(材料内の)イベントと結合して処理することにより、リアルタイムで進化的プロセスを具現化する発見プロセスにおいて使用され得る。これにより、化学的探索は、反応器システムからの出力の連続的評価を使用して、無作為開始点から開始して組合せパラメータ空間を移動することができる。
【0015】
一般的態様において、本発明は、生成物の産生のためのフロー化学技術を使用するプロセスを提供する。フロー化学法は、分析方法論及びコンピュータ制御フィードバックステップと組み合わせて使用され、完全な統合された発見システムを提供する。このプロセスにより、生成物材料の連続的生成は、生成物の集合を迅速に産生することができる。システムは極めて適合性が高く、広範囲の生成物形態を産生するのに使用され得る。フローシステムはまた、相当量の生成物の産生を可能にし、特定されたような所望の生成物形態の生成をスケールアップするために使用され得る。自給式の発見構成におけるフロー化学システムの分析システム及び制御システムとの統合は、当該技術分野にわたり有用な技術的貢献を提供すると考えられる。
【0016】
したがって、本発明の第1の態様において、ユーザ仕様を満たす、又は超える1又は2以上の特徴を有する生成物の産生のためのプロセスであって、
(i)(A)生成物が有することが望ましい1又は2以上の特徴である、ユーザ仕様と、
(B)反応空間と流体連通している一連の化学的入力を備え、1又は2以上の物理的入力を備えてもよい、フロー化学システムであって、物理的入力が、化学的入力の1若しくは2以上に送達可能であり、及び/又は反応空間に送達可能である、フロー化学システムと、
(C)フロー化学システムとのインタラクションのために構成された分析システムであって、生成物の1又は2以上の特徴の測定のための分析システムと、
(D)反応空間への化学的及び物理的入力の送達を制御するように、並びに分析システムにより測定された1又は2以上の特徴を、ユーザ仕様と比較するように構成された制御システムであって、化学的及び物理的入力の組合せを選択するための遺伝的アルゴリズムを備える制御システムと
を提供するステップと、
(ii)化学的入力の第1の組合せを、任意選択で物理的入力と共に選択し、それらの入力を反応空間に供給して、それにより第1の生成物を産生するステップと、
(iii)産生された生成物の1又は2以上の特徴を分析するステップと、
(iv)1又は2以上の特徴を、ユーザ仕様と比較するステップと、
(v)化学的入力の第2の組合せであって、第1の組合せとは異なる第2の組合せを、任意選択で物理的入力と共に選択し、それらの入力を反応空間に供給して、それにより第2の生成物を産生するステップと、
(vi)産生された第2の生成物の1又は2以上の特徴を分析するステップと、
(vii)産生された1又は2以上の特徴を、ユーザ仕様と比較するステップと、
(viii)化学的及び/又は物理的入力のさらなる個々の組合せのために、ステップ(v)から(vii)を反復し、生成物のアレイを提供するステップと
を含み、それにより、ユーザ仕様を満たす、又は超える1又は2以上の生成物を特定するプロセスが提供される。
【0017】
第1の組合せは、全ての利用可能な物理的及び化学的入力のサブセットである。第1の組合せは、最初の入力の集団とみなすことができる。同様に、第2及び後続の組合せは、全ての利用可能な物理的及び化学的入力のサブセットであり、それぞれの組合せは一意である。
【0018】
フロー化学システムは、連続的に動作して、第1、第2及びさらなる生成物を提供する。
【0019】
ステップ(v)における第2の組合せ、及びステップ(viii)におけるさらなる組合せの選択は、以前の生成物の特徴及びユーザ仕様に対するその適応度に応答して、制御システムによりなされる選択である。一連の生成物調製にわたって、制御システムは、無作為に、又は意図的に、化学的及び物理的入力の追加、置き換え又は除去により生成物空間を探索する。無作為な変化は、代替の生成物空間を探索する上で有用となり得る。意図的な変化は、制御システムが、入力又は入力の組合せと所望の生成物の特徴との間の相関を特定する場合になされる変化である。変化は、有用な生成物をもたらすと認識される入力を一緒にするためになされてもよい。したがって、ステップ(v)は、遺伝的アルゴリズムが化学的入力の第2の組合せを選択することを可能にする。
【0020】
ステップ(v)は、先行するステップ(iii)及び(iv)が完了した時にのみ行うことができる。したがって、化学的入力の第2の組合せを、任意選択で物理的入力と共に選択するステップは、ステップ(ii)において調製された生成物に直接反応する。同様に、ステップ(viii)は、先行するステップ(vi)及び(vii)が完了した時にのみ行うことができる。したがって、化学的入力のその後の組合せ、例えば第3又は第4の組合せを、任意選択で物理的入力と共に選択するステップは、ステップ(v)において調製された生成物に直接反応する。上述のように、この配列全体にわたり、フローシステムは、連続的に動作する。
【0021】
化学的及び物理的入力の第1の組合せは、一連の化学的及び物理的入力からの無作為な選択であってもよい。したがって、ユーザは、システムに、利用可能な生成物空間を探索する開始点を選択させる。したがって、ユーザは、システムに先入観を組み込むことによりプロセスを偏らせることがない。
【0022】
化学的及び物理的入力の第1の組合せの生成物は、ユーザ仕様に対して評価される。第1の生成物が最小閾値を満たす、又は超える場合、システムは、遺伝的アルゴリズムを使用して、化学的及び物理的入力の第2の組合せを選択することができる。しかしながら、第1の生成物が最小閾値を満たさない場合、システムは、化学的及び物理的入力の第1の組合せから無作為に除去されるさらなる組合せを選択、例えば無作為に選択することができる。
【0023】
第2及びその後の生成物は、測定された特徴の1又は2以上において、第1の生成物及び互いと異なってもよい。これらの差は、実質的であってもよく、又は、それらは僅かであってもよい。
【0024】
生成物の組成又は構造は、異なってもよい。プロセスは、構造又は組成における大きな差異を有する生成物の生成を許容することが好ましい。また、プロセスは、構造又は組成における僅かな差異を有する生成物の調製を許容すべきである。1つのプロセスにおいて僅かに、及び大きく異なる生成物の形成を可能とすることにより、プロセスは、ユーザ仕様を満たす生成物を発見する機会を最大化しようとする。
【0025】
プロセスは、(ix)ユーザ仕様を満たす、又は超えるさらなる量の生成物を生成するステップをさらに含んでもよい。このステップ(ix)を提供することにより、ユーザは、所望の生成物のスケールアップ合成を提供する。したがって、本発明のプロセスを使用して、使用又はさらなる確認分析のために、有意義な量の材料を特定及び提供することができる。
【0026】
本発明はまた、本発明のプロセスから得られる、又は得ることができる生成物を提供する。
【0027】
本発明のさらなる態様において、生成物を生成するための方法の産生のためのプロセスであって、方法が、ユーザ仕様を満たす、又は超える1又は2以上のパラメータを有し、プロセスが、
(i)(A)方法が有することが望ましい1又は2以上の特徴である、ユーザ仕様と、
(B)反応空間と流体連通している一連の化学的入力を備え、1又は2以上の物理的入力を備えてもよい、フロー化学システムであって、物理的入力が、化学的入力の1若しくは2以上に送達可能であり、及び/又は反応空間に送達可能である、フロー化学システムと、
(C)フロー化学システムとのインタラクションのために構成された分析システムであって、方法又は生成物の1又は2以上の特徴の測定のための分析システムと、
(D)反応空間への化学的及び物理的入力の送達を制御するように、並びに分析システムにより測定された1又は2以上の特徴を、ユーザ仕様と比較するように構成された制御システムであって、化学的及び物理的入力の組合せを選択するための遺伝的アルゴリズムを備える制御システムと
を提供するステップと、
(ii)化学的及び物理的入力の第1の組合せを選択し、それらの入力を反応空間に供給して、それにより生成物を生成する第1の方法を産生するステップと、
(iii)産生された方法及び/又は生成物の1又は2以上の特徴を分析するステップと、
(iv)1又は2以上の特徴を、ユーザ仕様と比較するステップと、
(v)化学的及び/又は物理的入力の第2の組合せであって、第1の組合せとは異なる第2の組合せを選択し、それらの入力を反応空間に供給して、それにより生成物を生成する方法を産生するステップと、
(vi)産生された方法及び/又は生成物の1又は2以上の特徴を分析するステップと、
(ix)産生された1又は2以上の特徴を、ユーザ仕様と比較するステップと、
(x)任意選択で、化学的及び/又は物理的入力のさらなる個々の組合せのために、ステップ(v)から(vii)を反復するステップと
を含むプロセスが提供される。
【0028】
本発明はまた、本発明の方法における使用のための装置を提供する。一態様において、装置は、本明細書において詳細に説明されるようなフロー化学システム、分析システム及び制御システムを備える。
【0029】
さらなる態様において、本発明のプロセスのステップを制御するように好適にプログラムされる制御システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明のプロセスにおける使用のためのフロー化学システムの概略図である。示されたシステムは、結晶ポリオキソモリブデート化合物の調製における使用のためのものである。システムは、流体連通し、コンピュータ制御システム(左)の制御下にある一連の化学的入力と共に示されている。化学的入力の個々の組合せからの生成物は、5×10グリッドの試験管(中央)内に別個に回収される。得られたナノスケールポリオキソモリブデートの1つの見本としての結晶生成物が示されている(中央)。特定されたポリオキソモリブデート構造は、{Mo36}、{Mo154}、{Mo132}、{Mo102}及び{Mo368}を含む(右)。クラスタは、大まかに縮尺通り示されている。{Mo36}及び{Mo368}生成物は、それぞれ直径1.9nm及び5.7nmである。分析システムは示されていない。
図2図1に概略的に示されるシステムにおけるナノスケールポリオキソモリブデートの調製において使用される試薬の相対流量を示す表である。行a〜eを下に向かうに従って、他の試薬に対する水の入力の流量が減少するため、試薬の濃度が増加する。試薬の増加した濃度は、列の下方への影の濃さの増加として示されている。列A〜Jを横に向かうに従って、モリブデート試薬に対する酸の比が増加する。酸の増加した濃度は、列の横方向の色の勾配として示される。いくつかの試薬の流量の変化により、50もの多くの反応生成物が提供され、各生成物は、試薬濃度及びpHの異なる組合せを有する反応混合物から調製されることが分かる。
図3】(a){Mo36}及び(b){Mo154}の意図される生成のための反応シーケンスにおける、反応混合物のpHの変動を示すグラフである。全ての場合において、各希釈係数に対して酸及びモリブデートの流量の比が増加するに従い、pHは周期的に変動する。pH変動のそれぞれの周期的反復に伴い、反応混合物の酸性度は変化する。結晶化が成功した反応のデータ点が強調表示されている。反応番号は、図2の表からの1〜5行目から回収された画分に対応する(すなわち、画分1〜10は組合せaA〜aJに、11〜20はbA〜bJに、21〜30はcA〜cJに、31〜40はdA〜dJに、及び41〜50はeA〜eJに対応する)。
図4】{Mo154}生成物のフロー合成において回収された生成物に対する、様々な波長にわたる吸光度の変動を示すグラフである。試料は、蒸留水で1:16の比で希釈され、吸光度測定の前に濾過された。反応番号は、図2の表からの1〜5行目から回収された画分に対応する。
図5】本発明のプロセスにおける使用のためのフロー化学システムの概略図である。示されたシステムは、Mnクラスタの調製における使用のためのものである。システムは、流体連通し、コンピュータ制御システム(左)の制御下にある一連の化学的入力と共に示されている。化学的入力の個々の組合せからの生成物は、5×10グリッドの試験管(中央)内に別個に回収される。特定されたMnクラスタは、球棒表示として示され、Mnは赤紫色、Clは緑色、Nは水色、Oは赤色、Cは灰色であり、水素原子は明確性のために省略されている。分析システムは示されていない。
図6】Mn濃度([Mn])及びリガンド濃度([L])の関数としての、Mn3O(Et−sao)3(MeOH)3(ClO4)(6)のパーセント収率の色表示である。傾向は、[Mn]対[L]の比が1:1であり、それぞれ0.25mol/L−1を超える濃度で存在する場合に最適な収率が得られることを示している。MnO(Et−sao)3(MeOH)3(ClO4)は、図5のフロー化学システムにおいて調製される。
図7】本発明の一例において合成されたポリオキソメタレート構造に対応する構造を示す図である。左:{Mo154}環。右:{Mo132}ケプレラート。Muller et al. Acc. Chem. Res. 1999, 33, 2-10及びMuller et al. Angew. Chem. Int. Ed. 1995, 34, 2122-2124もまた参照されたい。
図8】(a)UV−Vis検出システムによる、本発明のフロー化学システムを使用する{Mo154}環の合成において得られた18の生成物に対するJ1値の変動を示すグラフである(a)。また、最適化された条件下で調製された{Mo154}環(1)の完全なUV−Visスペクトルの例が、図8(b)に示される。
図9】{Mo154}及び{Mo132}の調製中に得られた2つの溶液に対するDLS結果を示すグラフである。結果は、3.6nm({Mo154}に対応)及び2.8nm({Mo132}に対応)の流体力学直径を有するナノ粒子の存在を示している。
図10】{Mo154}環の調製において使用された4つの化学的入力に対する、90の異なる反応混合物にわたる濃度プロファイルを示すグラフである。
図11】pH及びMo源に対する還元剤(ヒドラジン)の比の関数としての、{Mo154}及び{Mo132}の合成のために得られた複合的な適応度地形を示す図である。結果は、J関数が最大化された空間領域を示している。
図12】{Mo154}環に対する2つのラマンスペクトルを示すグラフである。上のスペクトル線は、本研究において合成された実験的化合物に対応する。下のスペクトル線は、参照として使用された{Mo154}の結晶試料に対応する。
図13】{Mo102}/{Mo368}の調製のための5×10発見アレイ実験にわたる反応のpHの変化を示すグラフである。全ての場合において、各希釈係数に対してH2SO4/モリブデートのポンプ速度の比が増加するに従い、pHは周期的に変動する。結晶化が成功した反応のデータ点が強調表示されており、{Mo102}=太字の四角、{Mo368}=太字の丸である。反応番号は、50反応アレイにおいて10の5行として連続して回収される画分に対応する(すなわち、1〜10はaA〜aJ、11〜20はbA〜bJ、21〜30はcA〜cJ、31〜40はdA〜dJ、41〜50はeA〜eJである)。
図14】{Mo36}発見アレイにおける4つの反応生成物(反応番号6(aF)、7(aG)、16(bF)及び17(bG))に対するDLSプロットの組合せである。1.7〜2nmの測定粒子直径は、{Mo36}の結晶学的に決定されたクラスタ寸法にほぼ一致している。
図15】反応番号36(左列)及び46(右列)からの条件を使用して産生された、複数反復バッチにおける{Mo36}の質量収率を示すグラフである。反応番号36(dF)からの条件を使用して生成された10の反応に対する平均収率=924±62mg(0.137mmol、78.7%)である。反応番号46(eF)からの条件を使用して生成された10の反応に対する平均収率=1254±43mg(0.185mmol、85.3%)である。
図16】反応番号25(左列)、35(中央列)及び45(右列)からの条件を使用して産生された、複数反復バッチにおける{Mo154}の質量収率を示すグラフである。反応番号(cE)からの条件を使用して生成された10の反応に対する平均収率=226±16mg(7.33×10−3mmol、39.9%)である。反応番号35(dE)からの条件を使用して生成された10の反応に対する平均収率=257±29mg(8.24×10−3mmol、34.0%)である。反応番号(eE)からの条件を使用して生成された10の反応に対する平均収率=389±27mg(1.26×10−2mmol、41.1%)である。
図17】反応番号29(左列)、39(右列)からの条件を使用して産生された、複数反復バッチにおける{Mo132}の質量収率を示すグラフである。反応番号29(cI)からの条件を使用して生成された10の反応に対する平均収率=67±6mg(2.34×10−3mmol、49.4%)である。反応番号39(dI)からの条件を使用して生成された10の反応に対する平均収率=87±3mg(3.04×10−3mmol、48.2%)である。
図18】本発明の実施形態による方法のステップのシーケンスを開始するフロー図である。フロー図への挿入図は、化学ループ(化学的処理の実行ステップを有する下のループ)のより高いサイクル数における適応度関数Jの増加を示すグラフである。フロー図は、適応度の目標が設定される開始点から、処理の無作為開始点に続く化学処理、分析測定及び分析、J評価、回収、ループ内の反復を経て適応度の目標が達成されるまでの、システムの計算及び物理的フローを示す。
図19図7の自己組織化ナノクラスタ、モリブデン環{Mo154}及びケプレラートボール{Mo132}の進化的合成のための実験構成の概略図である。
図20図7のモリブデン環{Mo154}及びケプレラートボール{Mo132}を含む金属酸化物POMの広範なライブラリの見本の構造を示す図であり、これらは、図19の実験構成から調製される。クラスタは全て、様々な色の多面体により示される異なる種類の構成要素を有するMo酸化物で作製されている。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明者は、化学的及び/又は物理的特性の所望の集合を有する化合物、材料及び組成物(「生成物」)を調製するためのプロセスを開発した。この所望の特性の集合は、発見プロセスの開始前にユーザにより設定される仕様とみなすことができる。典型的には、本発明のプロセスは、自動化分析及び制御システムがさらなる理想的に改善された生成物の調製のための情報を集めることができる一連の試験的生成物調製を含む。したがって、仕様のいくつかの部分を満たす特性を有する試験的生成物の調製を使用して、後の化合物の調製を知らせることができる。
【0032】
生成物の構造的及び組成的空間の探索は、物理的に実装される自動化された進化的処理により誘導され、いくつかの点においては、最終的にアルゴリズムとしてのシステムの化学により誘導される。このようにして、本明細書に記載のプロセスは、生成された生成物により直接知らされる、又は誘導される遺伝生化学的アルゴリズムを使用する。そのような誘導は、実際に生成された生成物の現実性に基づいており、使用されるコンピュータソフトウェアパッケージにおいて完全に具現化されるわけではない。
【0033】
本発明のプロセスにより、ユーザは、物理相空間を使用する無機システム等の自律的な化学進化的システムに、化学的にコードされた適応度関数を提供することができる。
【0034】
本発明のプロセスは、生成物が、化学的及び物理的入力への変更、並びに生成される生成物への結果的な変更を含む調製法への変更を通して開発される様式のために、進化的と呼ぶことができる。進化という用語はまた、合成が改変又は改善された特性を有する生成物を生成するように推進されることを示す。本発明において、進化という用語はまた、より効率的な様式で特定の生成物を提供し得る調製技術自体の発達を示すように使用され得る。プロセスの進化はまた、新たな材料をもたらす適合を示すことができる。重要なことに、本発明のプロセスにより、ユーザは、直接的なユーザの制御又は介入を必要とすることなく、これらの新たな材料に到達することができる。その代わりに、プロセスは、ユーザ仕様を満たす生成物を求めて生成物空間を独立して探索する制御システムにより制御される。
【0035】
本発明のプロセスは、ユーザが望む仕様により推進されることを意図する。したがって、プロセスは、生成物及び調合物中に存在する構造群及び成分が分からなくてもよい。したがって、プロセスは、どの種類の生成物が仕様を満たす可能性があるかに関するユーザによるいかなる予想もなしに実行され得る。結局ユーザは、機能を満たす生成物を有することを望み、したがって生成物の機能的側面が重要である。
【0036】
このようにして、従来の調製法は、ユーザの先入観により影響される可能性があり、ユーザは、(従来的に)ある特定の出発材料、ある特定の方法及びある特定の想定生成物が、例えば、反応性が低い、収率が低い若しくは変動性である、又は不活性であるとみなされることに基づき、そのような材料、方法及び生成物を破棄する可能性があることが認識される。そのような考慮は、有効となり得るが、必ずしも普遍的ではない可能性がある。したがって、全生成物空間を十分に探索するためには、通常は無益であるとみなされる領域を探索することが有益となり得る。
【0037】
発見プログラムにおいて、偶然という用語は、驚くべき、又は予期せぬ特性を有する生成物の特定を示すように使用され得る。しかしながら、これらの驚くべき、又は予期せぬ特性は、単に、生成物の調製及び使用に関連するユーザの化学的及び物理学的理解の欠如によるものであることが多い。したがって、本発明は、広範な生成物空間を探索することにより「偶然」の発見の数を増加させることを目指す。
【0038】
多くの最適化方法において、ユーザ仕様を満たすことが見出される生成物が、単により広範な生成物空間における極大値であるという危険性がある。このシナリオにおいて、仕様を満たす他の生成物が見過ごされる危険性がある。したがって、仕様を超える優れた特徴を有し得る、又はより容易に調製される他の生成物を特定する機会が失われる可能性がある。
【0039】
本発明は、ユーザに、広範な生成物空間を探索する機会を提供する。本明細書に記載のように、フロー化学技術の使用により、ユーザは、迅速に、1、2、3又は4以上のフロー入力を、同時に、順番に、及び無作為に変更することができ、それにより、生成される生成物に小さな、及び大きな変更を行う可能性が提供される。そのような変更を行うことの効果は、システムを、以前に探索した領域から離れた生成物マップの領域にジャンプさせることである。したがって、探索のためにマップの新たな領域が開かれ、またマップ上の他の最大値を特定する機会が増加する。
【0040】
好適に制御されたフロー法により、生成された生成物は、分析され、回収容器内に分配及び分離され得る(例えば、後の使用又はさらなる分析のため)。したがって、生成物の回収は阻害されず、膨大な生成物の集合が調製され得る。
【0041】
フロー化学システムの使用により、ユーザは、反応空間に複数の入力を提供することができ、それにより、多数の異なる反応手順を探索することができる。本発明の一部として、特定経路の結果を決定するために、反応空間からの出力を分析することが必要である。この分析は、ユーザ仕様を満たす生成物及び方法を特定することを目指す手順の一部である。分析において収集された情報はまた、例えば遺伝的選択アルゴリズムにより、フィードバックとして使用され、システムへの化学的又は物理的入力に対して行われる変更に影響する。
【0042】
合成有機化学における連続的フロー処理の利益は、最近十分に研究され、文書化されている(Seeberger Nature Chemistry 2009, 1, 258-260)。フローシステムの主要な利点は、反応速度、収率及び選択性の増加をもたらす、より高い熱伝達効率及び迅速な均一混合を含む(Wegner et al. Chem. Commun. 2011, 47, 4583-4592を参照されたい)。
【0043】
連続的フロープロセス技術はまた、無機合成においても有用であることが証明されている。しかしながら、実施例は、一般に、金属及び半導体ナノ粒子及び量子ドットの生成に限定されている(例えば、Abou-Hassan et al. Angew. Chem. Int. Ed. 2010, 49, 6268-6286)。
【0044】
対照的に、無機化学における所望の他の主要な材料、例えばポリオキソメタレート(POM、polyoxometalate)及び単分子磁石(SMM、Single Molecule Magnets)は、典型的には、結晶化によるバッチ合成及び精製を使用する(POMS−Long et al. Chem. Soc. Rev. 2007, 36, 105-121、Long, et al. Angew. Chem. Int. Ed. 2010, 49, 1736-1758、SMM−Evangelisti et al. Dalton Trans. 2010, 39, 4672-4676、Inglis et al. Chem. Commun. 2012, 48, 181-190、Moushi et al. J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 16146-16155、Murrie Chem. Soc. Rev. 2010, 39, 1986-1995、Wang et al. Chem. Soc. Rev. 2011, 40, 3213-3238)。
【0045】
スクリーニング方法は、生成物形成に好適な条件を特定しなければならず、また、特に無機化合物においては、生成物結晶化に好適な条件もまた同様に特定しなければばらない。したがって、大規模な反応アレイが、発見プロセスの避けられない必要な態様である。そのようなアレイの調製及び分析は、バッチ条件下のみで作業する場合、特に、複雑なナノ分子アーキテクチャの生成を目指して繊細な多重パラメータ自己組織化反応を探索する場合、極めて労力及び時間を要する作業である。本明細書に記載のように、分析及び制御システムと組み合わせたフロー化学システムの提供は、以前に発見プロセスを阻害していた問題に対処するものであると考えられる。
【0046】
以下で本発明がより詳細に説明され、全体を通してさらなる利点が強調される。本発明の実演として、本発明者は、ポリオキソメタレート構造の調製に関する詳細な例を提供した。
【0047】
自己組織化反応は、ポリオキソメタレート(POM)化学において重要な役割を担う(Long et al. Chem. Soc. Reviews 2007, 36, 105-121)。これらの自己組織化反応は、熱力学的制御下での複雑な力学系として見ることができ、非常に僅かな変動が、反応の結果に劇的に影響し得る(Ludlow et al. Chemical Society Reviews 2008, 37, 101-108)。
【0048】
POMは、触媒、電気化学、生物医学及び材料科学における応用を有する、混合金属酸化物に基づく材料のクラスである(例えば、Toma et al. Nat. Chem. 2010, 2, 826-831、Boldini et al. Advanced Synthesis & Catalysis 2010, 352, 2365-2370、Hasenknopf Front. Biosci. 2005, 10, 275-287、Rodriguez-Albelo et al. J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 16078-16087を参照されたい)。
【0049】
新規な自己組織化システムの開発は、反応パラメータの非常に繊細な精密化を必要とする、困難で労働集約的なプロセスである。これは、実用的な実装、及びこれらの材料の調製又は工業規模へのスケールアップに対する重要な制限を呈する。本明細書に記載のように、フロー有効化技術の実装は、これらの制限に対処する上での重要な進展である。
【0050】
本発明者は、以前に、POMの自己組織化における過渡状態の特定を可能にした連続フロー反応システムの開発を説明した(Miras et al. Science 2010, 327, 72-74)。
【0051】
そのようなシステムの大きな可能性にもかかわらず、ユーザが反応条件を設定し、反応生成物を分析し、結果を解釈しなければならないという制限がある。そのようなシステムのさらに開発過程にあるステップは、進化的な様式でのシステムの最適化を可能にする、遺伝的アルゴリズム等の最適化アルゴリズムの実装である(Booker et al. Artificial Intelligence 1989, 40, 235-282)。
【0052】
最適化アプローチは、不均一系触媒の開発、及び化学的プロセスの最適化のために、分析化学及び材料科学において使用されてきた(Maier et al. Angew. Chem. Int. Ed. 2007, 46, 6016-6067、McMullen et al. Angew. Chem. Int. Ed. 2010, 122, 7230-7234、Rasheed et al. Angew. Chem. Int. Ed. 2011, 50, 357-358)。オレフィンエポキシ化のための新規な不均一系触媒を発見するために、最適化アルゴリズム及び人工ニューラルネットワークが適用されてきた(Corma et al. Journal of Catalysis 2005, 229, 513-524)。
【0053】
最近では、均一系触媒のバッチ式進化的開発のための、遺伝的アルゴリズム、マイクロ流体デバイス及びin−situ UV−Vis特性決定の組合せが報告されている(Kreutz et al. J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 3128-3132)。Parrotらは、反応、分析及び制御アルゴリズムが自律的ユニット内に統合された大規模な自己最適化反応システムを説明している(Parrott et al. Angew. Chem. Int. Ed. 2011, 50, 3788-3792)。これらの場合において、研究者の目的は、反応収率、材料の物理化学的特性又は触媒の最大活性等のパラメータを最適化することであった。しかしながら、研究者により生成された生成物は実質的に同じであり、発見の基盤となる主要化合物とは構造的に無関係である新たな生成物を特定するための真の意欲はない。著者は、個々の反応の実行の間にフィードバックを有するシステムについては説明していない。
【0054】
Kreutzら等の研究者は、進化的プロセスにおけるマイクロ流体デバイスの使用を説明している。しかしながら、マイクロ流体デバイスは、化学的入力の個々の組合せを産生するために使用されていない。むしろ、Kreutzらは、組合せの集団を構築しており、それぞれの個々の組合せがマイクロ流体デバイスに送達され、その触媒活性が試験される。したがって、マイクロ流体デバイスは、集団の産生自体とは無関係である。Kreutzらは、一連の段階において生成物触媒空間を探索し、各段階は、生成物の集団の異なる産生として示されている。したがって、触媒の最初のバッチが調製及び試験され、その後の別個のステップにおいて材料のさらなるバッチが調製される。したがって、発見プロセスは、それぞれの調製ステップにおいてユーザの介入を必要とするバッチ合成操作である。
【0055】
進化的アルゴリズムを使用して化学システムを誘導し、適応度関数の要件に依存して異なる生成物をもたらす可能性は、発見化学の新たなアプローチであると考えられる。
【0056】
本発明者はまた、直接生成物出力を、特定の調製のための後続の化学的及び物理的入力の直接的決定因子として使用することが有利であると特定した。このようにしてプロセスは設計され、生成された実際の生成物に直接応答する。したがって、進化的計算は、システムの物理的パラメータ空間に基づく。
【0057】
本明細書において、最小限の人間による入力で自己組織化ナノクラスタを調製するためのプロセスが記載される。コンピュータ制御された進化的アルゴリズムの使用は、進化的様式での自己組織化ナノ構造の開発のための実現技術である。
【0058】
無作為開始点から、いかなる以前の合成情報もなしに、システムは、製造者の仕様を満足する生成物に対する適者生存のメカニズムに従い進化する。構成は、シンプレックス又は遺伝的アルゴリズムの制御下の完全自動化システムを含む。本発明者により開発されたシステムは、最小限のユーザインタラクションで2つの異なる複雑なPOMを合成することができる。in−situ分析技術を使用して反応が監視され、プロセスの意思決定入力を提供する制御システムにフィードバックが提供される。その結果、各化合物を自己組織化させるために必要な反応条件に対応する化学的な適応度地形が決定された。これは、進化的アルゴリズムにより誘導された自己組織化ナノ材料の合成の始めての例であると考えられる。
【0059】
プロセス
本発明のプロセスは、フロー化学システムの反応空間に一連の化学的入力を提供するステップを含む。一連の化学的入力フローは、より広範な一連の利用可能な化学的入力からの選択である。追加的に、又は代替として、プロセスは、より広範な範囲の利用可能な物理的入力から選択され得る1又は2以上の物理的入力を供給するステップを含む。物理的入力は、反応空間に送達可能であり、又は、それらは、反応空間へのその入力の送達前に、化学的入力の1若しくは2以上に適用されてもよい。
【0060】
化学的及び物理的入力は、生成物表現型の遺伝的コード化とみなすことができる。したがって、それぞれの利用可能な入力は、遺伝子と呼ぶことができ、入力の組合せは、遺伝子型と呼ぶことができる。化学的及び物理的入力(「遺伝子」)の異なる組合せである異なる遺伝子型は、同じ発現生成物をもたらし得る。したがって、命名法が採用される生物系と同様に、遺伝子的重複が存在し得る。
【0061】
フロー化学技術は、生成物の進化的開発における使用に特に好適である。重要なことに、フロー化学的手順は、ユーザ仕様を満たす生成物が特定されるや否やより大量の所望の生成物を調製するために使用され得る。したがって、生成物が入力フローの特定の組合せから特定される場合、それらの入力は、より多量の材料を提供するために維持され得る。より大量の材料を提供する本明細書に記載のフロー技術の能力は、スケールアップと呼ぶことができる。
【0062】
また、フロー化学システムの使用により、プロセス内のステップは、停止を必要とすることなく連続的及び自動的に実行され得る。典型的には、バッチ発見プロセスは、分析及び決定ステップが行われる間の生成物調製の一時停止を含む。将来の生成物の生成は、分析及び決定ステップが完了した時にのみ再開される。本発明のシステムは、分析システム及び制御システムを、フロー化学システムの入力及び出力と統合することにより、分析及び意思決定ステップの遅延を回避する。
【0063】
このスケールアップの側面は、ごく限られた量の生成物を提供する方法に依存する他の合成に勝る利点を提供する。所望の生成物が特定されたら、合成に必要な材料は、典型的には従来の合成技術を使用して、手作業により特定され、合わせられなければならない。生成物特定からより大規模なバッチ生成にスケールアップするためのこのバッチアプローチは、必要とされる実験室での時間に起因して、本来不十分である。
【0064】
化学的入力のそれぞれは、生成物の調製に使用される試薬、触媒、溶媒、又は成分を表す。したがって、一連の化学的入力は、所望の特徴又は所望の一連の特徴を有する生成物の形成をもたらす可能性のある、又はもたらし得るであろう試薬、触媒、溶媒、及び/又は成分の集合であることが意図される。同様に、物理的入力は、化学的入力と組み合わせて、所望の特徴又は所望の一連の特徴を有する生成物を調製するために使用されることが意図される。
【0065】
生成物の物理的及び/又は化学的特性は、分析され、ユーザ仕様と比較される。各生成物には、仕様において規定される要件を満たす生成物の能力の基準である適応度値を割り当てることができる。次いで、その生成物の特性を使用して、後の生成物の合成を知らせることができる。より高い適応度関数を有すると見られるそれらの生成物は、より低い適応度関数を有する生成物と比較して、後の生成物の調製により大きな影響を与える可能性がある。
【0066】
後の生成物の調製は、反応空間への一連の化学的及び/又は物理的入力フローが改変されるという点で、以前の生成物とは異なり得る。改変されるとは、化学的又は物理的入力が、その前の一連の入力から除去されることを意味してもよい。改変されるとは、化学的又は物理的入力が、代替の化学的又は物理的入力と置き換えられることを意味してもよい。また、改変されるとは、追加の化学的又は物理的入力が提供されることを意味してもよい。
【0067】
生成物産生プロセスの工程にわたり、化学的及び/又は物理的入力の多数の異なる組合せが使用されてもよい。異なる組合せの種類及び数は、ユーザ仕様を満たす、又は超える生成物を生成する機会を増加させる。
【0068】
入力フローの1又は2以上の変化は、生成物の変化をもたらさない可能性があり、又は、以前に形成された生成物と同様又は同一の特徴を有する代替の生成物をもたらす可能性があることが予測され得る。生成物の特徴への特定の入力又は入力の組合せにより提供される影響のより良い理解により進化可能な合成が確立し得るため、そのような情報は役立ち得る。本発明はまた、参照生成物と同等の特徴を有する代替の生成物の特定における使用が見出される。本発明はまた、特定の生成物の調製のための代替の方法の特定における使用が見出される。
【0069】
仕様
本発明のプロセスにより、ユーザは、一連の所望の物理的及び/又は化学的特徴を有する生成物を特定することができる。また、本発明のプロセスにより、ユーザは、標的生成物の調製のための改善されたプロセスを特定することができる。
【0070】
ユーザにより設定される仕様は、最終的には、ユーザにより望ましいとみなされる特徴を満たす、又は超える適応度関数を有する物理的生成物に変換される。
【0071】
仕様は、生成物が有することが望ましい、1つ、又は典型的には2若しくは3以上の特徴の集合を表す。所望の特徴を構成するものは、生成物の使用目的により決定付けられる。特徴は、特定の効果を生成することが知られている化学的若しくは物理的特徴、又は、ユーザにより特定の効果を生成すると考えられる、若しくは疑われる特徴であってもよい。
【0072】
本発明のプロセスにおいて生成される生成物は、仕様において規定される物理的及び/又は化学的特徴の全てを有する場合、仕様の要件を満たしたとみなされ得る。いくつかの実施形態において、方法は、仕様を超える特徴を有する生成物を特定するために有用となり得る。
【0073】
また、仕様は、特定の特徴に対するある特定の限界又は範囲を設定し得る。したがって、生成物は、この特定の特徴に関して、その特性が、(指定されるような)限界値にある、それを超える、若しくはそれを下回る、又は範囲内にある(範囲の限界値を含んでもよい)場合、仕様を満たし得る。
【0074】
特徴は、生成物の所望の物理的特徴であってもよい。物理的特徴の性質及び大きさ(又はパラメータ)は、生成物の使用目的により決定付けられる。本発明の方法により探索され得る物理的特徴の例は、以下に記載される。
【0075】
生成物の物理的特性は、
光学的特性、
質量特性、
電気化学的特性、及び
レオロジー特性
からなる群から選択される特徴であってもよい。
【0076】
生成物の物理的特性は、

屈折率
旋光度
最大吸光度;最大吸光度の波長
発光波長
設定された波長での吸光度値
モル吸光係数
蛍光の存在、収率及び/又は波長
光ルミネッセンスの存在、収率及び/又は波長
非線形光学特性の存在
(例えばHPLCにおける)保持時間
質量
多分散性
同位体分布
1又は2以上の元素の元素組成
還元/酸化電位
例えば水性混合生成物のpH
伸び
流量
貯蔵弾性率
損失弾性率
粘度
結晶化度を含む形態
化学量論
サイズ、例えば粒子直径又は細孔若しくは空隙サイズ
形状
並びに任意選択で上記と共に表面性状、ハーネス及び表面張力
伝導性
磁気特性
Tgを含む融点
沸点
例えば設定された溶媒又は一連の溶媒に対する溶解度
からなる群から選択される特徴であってもよい。
【0077】
上記の物理的及び化学的パラメータの測定のための方法は、以下の分析セクションにおいてより詳細に説明される。
【0078】
生成物の特定の物理的特性は、その生成物がどのようにして使用されるかに関する生成物の要件であってもよい。したがって、例えば、生成物がある特定の値を超える融点、又は特定のレオロジー特性(例えば、ある特定の貯蔵若しくは損失弾性率値)を有することが必要となり得る。そのようなパラメータは、その使用目的における生成物の物理的完全性に関連し得る。
【0079】
パラメータは、生成物の化学的特徴であってもよい。化学的特徴は、特定の反応における使用に好適な官能基であってもよい。その官能基の存在は、例えば分光法により決定されてもよく、又は、生成物の使用自体により推定されてもよく、使用の成功は、官能基の存在を示す。
【0080】
化学的特徴はまた、生物学的活性等の生物学的特徴であってもよい。
【0081】
生成物の化学的特性は、
pKa
KD
IC50
最小阻止濃度(MIC、minimum inhibitory concentration)
触媒能
からなる群から選択される特徴であってもよい。
【0082】
また、本発明のプロセスは、最適条件下で生成物をもたらす手順を特定することを目的として、可能な調製手順を探索するために使用され得る。したがって、ユーザは、特定の生成物を作製するための改善された方法を特定することを目指すことができる。本発明は、特定の化学的及び物理的入力が反応結果に与える効果を探索することにより、新たな手順の特定を可能にする。
【0083】
この実施形態において、仕様は、特定の反応のためのユーザが望む特徴を表す。反応の特徴は、生成される生成物に関連した特徴に関連し得る。そのような特徴の例は、生成物収率、副生成物収率、回収された出発材料に基づく収率、生成物純度、生成物の鏡像異性体、ジアステレオマー又は位置異性体過剰等からなる群から選択される1又は2以上の特徴を含む。
【0084】
また、仕様は、生成物の純度、又は生成物が反応混合物の他の成分から分離され得る容易性に関連する特徴を含んでもよい。したがって、発見プロセスは、所望の物理的又は化学的特性を有する生成物を特定することを目指すことができ、また、生成物が最も容易に精製され得るようにする入力を同時に特定することを目指すことができる。これは、本発明のプロセスの特有の利点である。
【0085】
反応の特徴は、生成物、例えば設定された生成物の収率をもたらすために使用される、又は必要とされるプロセス条件に関連し得る。これらの条件は、最大又は設定された収率をもたらすために必要な出発材料、触媒又は溶媒の量等の、事例の化学工学的な態様に関連し得る。特徴はまた、調製中の熱利得若しくは損失、又は速度若しくは反応に関連し得る。
【0086】
仕様は、適宜、及び所望により、それぞれの特徴を最小化又は最大化することを目指してもよい。
【0087】
本明細書において提供される実例は、ユーザ仕様の例を提供する。また、特定の生成物の記録された特徴に基づいてユーザが適応度値を決定することができる様式が例示される。ユーザは、求められる生成物に対し様々な所望の特徴を設定することができるが、個々の特徴は、単一の総適応度関数への寄与を考慮して異なる重み付けを有し得る。多目的最適化問題におけるそのような優位性ベースの方法の使用は、以前に説明されている(Yu et al. Introduction to Evolutionary Algorithms 2010, Springer-Verlag, Londonを参照されたい)。そのような優位性ベースのアプローチは、特定の分析技術が異なる生成物を容易に区別することができない場合に有利である。これらの状況において、生成物が区別され得るように、追加の分析技術を含めることが適切となり得る。
【0088】
また、本発明者は、本発明のプロセスにおける使用のための、パレートベースの多目的最適化方法の使用を企図している。
【0089】
生成物
本発明は、所望の生成物の調製に関する。所望の生成物は、ユーザの要求を満たす物理的及び/又は化学的特徴を有する、ユーザが調製を望む生成物である。
【0090】
本発明のプロセスは、いかなる特定の種類の所望の生成物にも限定されない。生成物は、特定の化学構造を示してもよく、又は、生成物は、多分散ポリマー等の異なる構造の集合であってもよい。生成物は、粒子又は量子ドットであってもよい。生成物は、医薬組成物等の組成物、又は例えば洗剤混合物、消臭剤等の家事用若しくはパーソナル消費者製品であってもよい。
【0091】
本発明の方法は、複数の生成物の生成を可能にし、各生成物は、異なる化学構造又は異なる組成を有する。これらの生成物の特徴は変動する可能性があり、生成された生成物のいくつかは、同様又は同一の物理的及び化学的特徴を有する。
【0092】
熟練したユーザは、生成される生成物の構造又は組成がどのようであるかを知る必要がないことが、本発明の利点である。また、ユーザは、生成物の構造を予測する必要がないことも、本発明の利点である。
【0093】
化学的及び/又は物理的入力の組合せが反応空間に供給されると、生成物をもたらす反応混合物が形成される。生成物という用語は、入力の組合せからの任意の結果を示すように広く使用される。したがって、生成物という用語は、化学的入力により提供される成分の化学反応から形成される生成物を含有する混合物を示す。生成物という用語はまた、化学的入力により提供される成分の混合により形成される生成物組成物を示し得る。
【0094】
一実施形態において、生成物は、有機分子である。有機分子は、生物活性薬剤であってもよい。有機分子は、1,000以下、800以下、又は500以下の分子量を有する有機化合物であってもよい。
【0095】
一実施形態において、生成物は、無機分子である。一実施形態において、生成物は、複数の金属原子を含む化合物である。一実施形態において、化合物は、3又は4以上、4又は5以上、5又は6以上、6又は7以上、12又は13以上、24又は25以上、36又は37以上、102又は103以上、132又は133以上、154又は155以上の金属原子を含む。生成物は、ポリオキソモリブデート等のポリオキソメタレートであってもよい。生成物は、配位クラスタであってもよい。生成物は、単分子磁石であってもよい。生成物は、金属ナノ粒子又は有機ナノ粒子等の粒子であってもよい。生成物は、量子ドットであってもよい。生成物は、ナノ構造材料、例えば金属若しくはポリマー材料又はその両方の組合せであってもよい。
【0096】
生成物は、有機、無機及びハイブリッド有機−無機染料を含む染料であってもよい。
【0097】
生成物は、有機、無機及び/又は生物学的成分を有する生物活性薬剤を含む生物活性薬剤であってもよい。
【0098】
生成物は、電子材料であってもよい。そのような材料は、導体、磁石、光起電材料等として機能することができる材料である。
【0099】
生成物は、当業者に知られた重合法により形成されたホモポリマー及びコポリマーを含むがこれらに限定されないポリマーであってもよい。
【0100】
生成物は、有機分子であってもよい。
【0101】
生成物は、組成物であってもよい。組成物は、医薬組成物であってもよい。組成物は、パーソナルヘルスケア製品であってもよい。例えば、組成物は、化粧品製剤、洗浄製剤、塗料製剤、又は食品であってもよい。組成物は、上述の製品のいずれか1つを含んでもよい。
【0102】
反応空間内で生成される生成物は、化学的入力の1又は2以上の反応の直接生成物に限定されない。本明細書に記載のプロセスは、中間材料の調製を包含し、次いで中間材料は、適切な化学的及び物理的入力の適用後に、反応空間内でさらに反応して生成物材料を産生する。
【0103】
本発明の例示として、様々な超分子複合体の調製が本明細書に記載される。そのような複合体は、化学的及び物理的入力の組合せから反応空間内で産生される共通の構成要素出発材料から形成されてもよい。他の成分と合わせられてもよい構成要素は、より大きな超分子構造を形成し得る。これらの構造の厳密な形態は、反応空間内への他の化学的及び物理的入力により影響され得る。このようにして、様々な超分子形態に到達することができ、各形態を、ユーザ仕様に対して分析及び再検討することができる。また、システムは、構成要素の性質自体を改変するために使用されてもよいが、それにもかかわらず、構成要素の性質自体とは無関係に、同様のサイズ及び形状の超分子構造を調製するために使用されてもよいことは明らかである。
【0104】
生成物への言及は、仕様を満たす所望の生成物への言及である。プロセスにおいて行われる反応のいくつかは、有用な生成物の形成をもたらさないことは明らかである。化学的及び物理的入力のいくつかの組合せは、いかなる生成物ももたらさない可能性があり、又は、形成された生成物は、分析若しくは使用に好適ではない可能性がある。分析システムは、化学的及び物理的入力の組合せから生じる各混合物の特徴を記録することができる。特定の入力の選択が所望の結果を生成しない場合、これが検出される。制御システムは、低品質の生成物をもたらした組合せに対して、低い適応度関数を適用する。関連する化学的及び物理的入力に対して適用されるそのような関数は、後の入力の組合せの選択に影響する。
【0105】
技術の例示として、ポリオキソメタレート化合物の調製のための方法が本明細書に記載される。
【0106】
本発明は、役立つ可能性のある生成物を調製するためのフロー技術の使用に関する。生成物は、調製ステップにおいて直接生成され得る溶液又は懸濁液であってもよい。代替として、生成物は、フロー技術において使用される流体中に含有されてもよい。生成物は、その流体中に溶解又は懸濁されてもよい。本発明における使用のための説明された分析技術は、溶液又は懸濁液中の生成物の分析に好適なものを含む。
【0107】
例えば溶媒から、生成物を単離することが望ましくなり得る。そのようなステップは、分析手順において生成物の試料が実質的に純粋であることが求められる場合に必要となり得る。
【0108】
生成物は、当業者によく知られている技術を使用して、溶媒又は担体流体(分散相)から分離され得る。流体に不溶性である場合、単純な濾過技術を使用して生成物材料を分離してもよい。また、結晶化及び沈殿技術を使用して、生成物材料を溶媒から単離してもよい。
【0109】
ユーザ仕様の一部は、単離された生成物の純度、単離された後の生成物の形態、及びある特定のレベルの純度に達するまでに必要な労力に関連し得る。したがって、上述のステップは、生成物の分析自体の一部を形成し得る。
【0110】
方法
本発明はまた、所望の調製方法の特定に関する。所望の方法は、ユーザの要求を満たすプロセス特徴を有する、ユーザが使用を望む方法である。したがって、そのような方法は、特定の生成物の生成を最適化することを目標とする。調査中の方法は、特定の生成物を生成することを意図する限り、必然的に限定される。しかしながら、反応プロセスの拡大評価を可能にするために、反応パラメータ、試薬選択、触媒選択等を改変する余地は十分にある。
【0111】
所望の生成物を特定するために本明細書において使用される技術は、同時に、その生成物を調製するための最適化された調製ステップを特定し得ることが、当業者に明らかである。
【0112】
フロー化学システム
本発明における使用のためのフロー化学システムは、マイクロ流体システムを含む標準的な実験室フローシステムに基づくことができる。そのようなシステムは、本明細書に記載のように構成され得る。
【0113】
フローシステムは、反応空間と流体連通している一連の化学的入力を含む。化学的入力は、生成物の調製における使用のための材料を保持する貯蔵部であってもよい。貯蔵部は、流体チャネルを介して反応空間に接続され得る。各化学的入力は、独立して反応空間に送達可能である。送達速度は、制御システムにより制御可能である。送達される材料の量もまた、制御システムにより制御可能である。
【0114】
典型的には、貯蔵部はシリンジであり、プランジャは制御システムの制御下にある。配管であってもよい流体チャネルは、シリンジを反応空間に接続する。個々のチャネルは、反応空間に直接繋がっていてもよい。反応空間の前で、2又は3以上の流体チャネルが組み合わさって、例えば成分の事前混合を可能にしてもよい。
【0115】
標準的なフロー化学アーキテクチャが、本発明において使用され得る。したがって、流体フローは、流体チャネル及び空間で適切にパターン化された標準的マイクロ流体基板を通過し得る。代替として、フローシステムは、例えば弁、コネクタ及び多岐管を使用して適切に連結される標準的な実験用配管を使用してもよい。配管システムの使用は、より大規模な生成物調製が望ましい場合、マイクロ流体システムよりも好ましくなり得る。他の実施形態において、フロー化学システムは、3D印刷方法により調製される反応ネットワークである。そのようなアーキテクチャは、反応空間、混合空間、並びに入力及び出力チャネルを含むフローチャネルの正確な配置及びサイズがユーザにより設定され得、成分混合の正確な制御が可能となるため、特に有用である。
【0116】
一実施形態において、フロー化学システム内の合計流量は、少なくとも1mL/分、少なくとも5mL/分、少なくとも10mL/分、少なくとも15mL/分、又は少なくとも20mL/分である。これらの値の流量を使用することにより、有用な量の材料、例えば分析及び将来の使用に十分な量を、比較的迅速に生成することができる。また、これらの下限値での流量を使用することにより、ユーザは、特定の合成をスケールアップすることができ、それにより有意義な量の材料をシステムから直接提供することができる。
【0117】
合計流量は、反応空間への、反応空間内の、又は反応空間からの合わせられた化学的入力の総流量を示す。総流量は、化学的入力の個々の流量から計算され得る。
【0118】
システムを通る流量は、化学的及び/又は物理的入力の変化について一定に維持され得る。代替として、流量の変化がもたらされてもよく、各流量は、反応空間への物理的入力を表し得る。
【0119】
一実施形態において、フロー化学システムにおける反応体積は、少なくとも1mL、少なくとも5mL、少なくとも10mL、少なくとも15mL、少なくとも20mLである。反応体積は、経時的な合計流量の関数である。反応体積は、特定の生成物調製のための化学的入力の合計体積を示す。反応体積は、プロセスが発見モードである時に使用される体積である。したがって、この段階における重点は、分析システムによる分析のために十分な生成物が存在する、多種多様な異なる混合生成物を生成することである。有用な生成物が特定されたら、プロセスは次いで、フロー化学システムが大量のその生成物を生成するように設定されるスケールアップモードに切り替えられてもよい。このモードにおいて、特定の一連の化学的及び物理的入力が一定して適用され、それにより生成物材料の一定流量が提供される。
【0120】
フロー化学技術は、チャネルに流体を通過させて、例えばその中の成分を混合させるステップを含んでもよい。そのようなステップは、材料が十分に分散することを確実にする上で有用となり得る。そのようなステップは、より迅速で完全な反応又は分布を確実にし得る。
【0121】
反応空間は、特に限定されず、生成物が形成されるシステムの一部を示す。反応空間は、流体連通した1又は2以上のチャンバ及び/又はチャネルを含んでもよい。反応空間は、流体連通した1又は2以上の流体チャネルを含んでもよい。チャンバの形状及びサイズは、特に限定されず、ユーザが操作を望む規模に基づいて選択され得る。
【0122】
反応空間は、化学的入力と流体連通している。化学的入力のそれぞれが反応空間に直接送達可能である必要はない。化学的入力の2又は3以上が、反応空間への送達前に組み合わされてもよい。そのような構成は、ある特定の化学的入力を、反応空間への送達の前に事前混合又は事前反応させるために有用となり得る。
【0123】
本発明のプロセスは、第1、第2及びさらなる生成物を提供するために、連続的に動作する。フロー化学システムの動作を一時停止する必要なく、例えばインライン分析システムの使用により、生成物をリアルタイムで仕様に対して評価することができ、さらなる生成物の調製もまたリアルタイムで決定することができる。したがって、本発明の発見プロセスは、バッチプロセスではない。
【0124】
フロー化学システムは、化学的及び物理的入力の異なる組合せのそれぞれの間での、システムを通した流体のフローを可能にするように構成される。そのような流体は、フローシステム内の混合生成物を分離し、それにより生成物試料間の二次汚染を防止するために提供される。フロー化学技術におけるそのような隔離流体の使用は、当業者に周知である。
【0125】
反応空間という用語は、生成物が形成されるフロー化学システムの部分を示すよう使用され得る。本発明のある特定の実施形態において、生成物は、反応空間内での化学反応により形成される分子である。他の実施形態において、生成物は、成分の組成物である。そのような組成物は、化学反応により形成されなくてもよい。むしろ、組成物は、化学的入力として送達される様々な成分の混合により形成されてもよい。
【0126】
反応空間は、分析システムと連通している流体出力を有する。したがって、分析システムは、フロー化学システムと同調しており、それに統合されてもよい。
【0127】
反応空間は、任意選択で分析システムを介して、生成物回収システムと流体連通していてもよい。生成物回収システムは、反応空間から個々の出力を受容するための空間的に配置された容器を含んでもよい。実際には、システムは、一連の試験管若しくはバイアル、又は96ウェルプレート等のウェルプレートを含んでもよい。混合生成物は、自動的に、又は手動で容器内に排出され得る。いずれの場合も、混合生成物の分配は、例えば分析システムを使用した混合物の分析に基づいてもよい。追加的に、又は代替として、混合生成物の分配は、システムを通る材料の予想される流量に基づいてもよい。
【0128】
したがって、反応空間から出る生成物は、分析され、次いで後のさらなる分析又は使用のために回収されてもよい。代替として、生成物は、回収されてもよく、回収された生成物に対して分析が行われてもよい。
【0129】
生成物が回収される場合、各一連の化学的及び/又は物理的入力から生じる生成物を個々に回収することが好ましい。生成物は、当業者に周知なように、ウェルプレート、バイアル、試験管等に個々に分配されてもよい。フローシステムにおいて、生成物の分離は、フローシステムを通る流量を監視する適切なコンピュータ制御システムを使用して行うことができる。個々の出力は、システムを通る材料の予想される流量に基づいて回収されてもよい。出力の回収はまた、反応空間から出る生成物材料の分析と連携されてもよい。生成物出力の変化が検出されてもよく、それに従って生成物が分配されてもよい。
【0130】
化学的入力
化学的入力への言及は、生成物の調製を可能にし得る試薬、触媒、溶媒、又は成分であってもよい、任意の材料に対する幅広い言及である。化学的入力は、反応空間への移送のために、流体として、又は流体中に提供される。
【0131】
材料が流体である場合、材料はこの形態で反応空間に供給され得る。代替として、材料は、反応空間への送達のために、流体中に希釈、溶解又は懸濁されてもよい。したがって、材料は、溶液又は懸濁液であってもよい。材料を溶解又は懸濁させる流体は、特に限定されず、例えば水又は有機溶媒であってもよい。流体は、独立して反応空間に送達可能であってもよい。流体はまた、反応空間に供給される化学的入力の個々の組合せの分離を提供し、それにより異なる組合せの間の汚染を防止するために使用される。
【0132】
化学的入力の独自性は、使用される反応及び調合ステップに依存し、またユーザが意図する探索空間にも依存する。本発明により、ユーザは生成物マップを探索することができるが、ユーザは、試薬、触媒、溶媒、及び成分のセットを選択することにより、並びに可能な反応及び調合経路を選択することにより、そのマップに境界を提供しなければならない。それにもかかわらず、それらの制限内で、本発明は、広範な生成物空間を探索する可能性をユーザに提供する。この場合における例は、小範囲の化学的入力を使用する無機合成において利用可能な構造的複雑性の幅を示す。
【0133】
いくつかの実施形態において、1又は2以上、例えば2又は3の化学的入力が必須であるとみなされてもよい。したがって、これらの入力は、反応空間内に常に提供される。他の化学的及び/又は物理的入力の改変は、生成物空間の探索を可能にする組合せの多様性を提供する。必須入力の数は、利用可能な入力の総数よりも少なく、好ましくは、利用可能な入力の総数より、著しくも5少ない。
【0134】
入力は、構造成分等の生成物の必要な成分、又は生成物の必要な活性を提供するために必要である場合は必須であってもよい。本発明のプロセスが特定の生成物を合成する改善された方法の特定に関連する場合、特定の生成物を提供するためにいくつかの入力が必須となり得る。特定の生成物を調製するための他の条件を調査するために、他の入力が利用可能であり、可変である。
【0135】
化学的入力は、試薬であってもよい。構造及び機能性が異なる様々な試薬が提供されてもよい。
【0136】
化学的入力は、触媒であってもよい。活性、選択性又は形態が異なる様々な触媒が提供されてもよい。
【0137】
化学的入力は、酸又は塩基であってもよい。酸性度が異なる様々な異なる酸及び塩基が提供されてもよい。有機及び無機酸並びに有機及び無機塩基が選択されてもよい。弱酸及び強酸並びに弱塩基及び強塩基が提供されてもよい。
【0138】
化学的入力は、溶媒であってもよい。有機溶媒及び水が使用されてもよい。様々な非極性のプロトン性及び非プロトン性溶媒が提供されてもよい。一実施形態において、化学的入力として水が提供される。
【0139】
化学的入力は、塩であってもよい。特定の成分の様々な異なる塩形態が使用されてもよい。様々な有機及び無機塩が提供されてもよい。
【0140】
化学的入力は、医薬活性薬剤であってもよい。他の化学的入力は、医薬賦形剤であってもよい。
【0141】
化学的入力は、化粧品用の化粧薬剤であってもよい。他の化学的入力は、化粧品用の担体等であってもよい。
【0142】
化学的入力はまた、ガスであってもよい。いくつかの実施形態において、化学的入力は、反応空間に供給するための窒素又はアルゴン等の不活性ガスであってもよい。他の実施形態において、化学的入力は、水素、酸素又は二酸化炭素等の反応ガスである。
【0143】
化学的入力は、反応生成物の処理に有用な、又は反応をクエンチするのに有用な入力であってもよい。そのような入力は、他の入力が合わせられた後のある期間で反応空間に提供され、それにより反応がクエンチされるか、又は生成物材料の処理及び可能な単離が可能とされてもよい。
【0144】
溶液又は懸濁液中の材料の濃度は、ユーザにより適切に選択される。反応空間内の材料の効果的な濃度は、個々の化学フロー内のその材料の濃度、及び反応空間内で合わせられる他の化学的入力の体積に依存する。これらの体積は、反応空間内の材料の効果的な濃度を改変するために適宜変化され得る入力のそれぞれの流量により決定付けられる。そのような技術は、フロー化学技術の知識を有する者にはよく知られる。
【0145】
好ましくは、化学的入力として存在する材料は、安定である。フロー化学技術は、化学的入力が使用される前にある期間保存されることを必要とし得る。したがって、化学的入力がこの期間に分解しないことが好ましい。適切な場合、化学的出力は、必要に応じて、不活性雰囲気下で保存されてもよく、無水条件下で保存されてもよく、又は低温で保存されてもよい。
【0146】
一実施形態において、5若しくは6以上、8若しくは9以上、10若しくは11以上、又は15若しくは16以上の化学的入力が提供される。例えば、フロー化学システムは、特定の化学的入力の数に等しいいくつかの制御可能なシリンジを備えてもよい。
【0147】
時折、化学的入力を補給すること、例えばシリンジに特定の成分を補充することが必要となり得る。本発明のプロセスは、そのような補給を可能とするために中断される必要はなく、化学的入力は、反応空間への入力として必要とされないような時間に補給されてもよい。制御システムは、化学的入力が枯渇する時間を予測するように好適にプログラムされ得る。ユーザは、それに従って警告され得る。制御システムはまた、補給による入力を利用できないことを、意思決定及び制御プロセスにおいて考慮するように好適にプログラムされ得る。制御システムは、補給されている入力以外の入力を使用して、生成物を生成し続けることができる。
【0148】
化学的入力の数は、1であってもよいが、この実施形態において、化学的入力の変化をもたらし得る物理的入力の数は多くなる。一実施形態において、2又は3以上、3又は4以上、4又は5以上、5又は6以上、6又は7以上、10又は11以上、20又は21以上の化学的入力が提供される。
【0149】
物理的入力
一実施形態において、方法はまた、化学的入力が反応空間に入る前の、反応空間への送達又はその化学的入力への送達のために利用可能とされる1又は2以上の物理的入力の提供を含む。
【0150】
物理的入力は、試薬、触媒、溶媒、又は成分等の材料ではない入力を示すことを意図する。物理的入力は、例えば、特定の化学的入力の温度、又は反応空間内の流体の温度等の温度を調整する入力を示し得る。温度の調整は、温度を上昇及び/又は下降させることができる物理的入力を示し得る。温度増加及び/又は低下の勾配である一連の温度入力が提供されてもよい。温度入力の範囲は、反応空間に供給される流体化学的入力及び流体生成物出力の沸点及び凝固点により制限され得る。しかしながら、反応空間を好適に加圧し、それにより流体化学的入力の沸点及び凝固点を効果的に改変してもよいことが留意される。このようにして、より広い範囲の温度入力をシステムに供給することができる。
【0151】
温度入力は、試薬を活性化する、又はある特定の反応経路に有利となるように使用されてもよい。温度入力はまた、化学的入力及び生成物出力の安定性を調査するために使用されてもよい。
【0152】
物理的入力は、光であってもよい。強度、波長、暴露時間及びスペクトルの1又は2以上が異なる一連の光入力が提供されてもよい。光入力は、試薬を活性化するために使用されてもよく、又は、ある特定の反応経路に有利となる、若しくはそれを改変するように使用されてもよい。光入力は、UV−vis入力を含んでもよい。物理的入力は、マイクロ波放射線であってもよい。
【0153】
物理的入力は、超音波であってもよい。そのような物理的入力は、試薬又は生成物の産生に有用となり得る。超音波はまた、材料の溶解を補助し得る。
【0154】
物理的入力は、圧力であってもよい。圧力変化は、例えば溶媒の沸点を改変するために使用されてもよい。
【0155】
システムへの物理的入力は、反応混合物の入力に関連するプロセスであってもよい。したがって、入力は、反応又は混合の時間制限的な側面であってもよい。設定時間後、反応混合物が分析され、生成物が定量されてもよい。したがって、反応時間が入力であってもよい。同様に、化学的入力、例えば試薬及び触媒化学的入力の濃度及び比等の、プロセスの他の側面が物理的入力であってもよい。
【0156】
反応混合物
反応混合物は、反応空間内で合わせられる化学的入力の組合せを示す。反応混合物中の成分の相互作用が、生成物を提供する。この相互作用は、成分の化学反応及び/又は混合であってもよい。
【0157】
代替の生成物を提供するために、化学的又は物理的変化であってもよい変化が、反応混合物にもたらされてもよく、代替の生成物は、次いでユーザ仕様と比較されてもよい。
【0158】
反応混合物の組成は、化学的入力の改変により変更され得る。例えば、ある特定の試薬、触媒及び溶媒は、化学的入力の置換、除去又は追加により、置換、除去、又は反応空間に追加され得る。
【0159】
フローシステム内において、標準的フロー化学技術を使用して、反応空間内の組成のさらなる変更を提供することができる。反応空間内の成分の効果的な濃度は、特定の化学的入力の流量の変化により改変され得る。また、濃度の変化は、溶媒入力の使用によりもたらすことができる。(他の入力に対する)この入力の増加した流量は、反応空間内の他の入力の効果的な濃度を低減する効果を有する。
【0160】
反応混合物は、生成される生成物の独自性の改変をもたらし得る、又は特定の生成物をもたらすプロセスの変化をもたらし得る、上述のような物理的入力に供されてもよい。
【0161】
反応混合物は、未反応出発材料(試薬)、触媒、副生成物、溶媒等と共に存在し得る生成物を生成する。ユーザは、所望の生成物だけでなく、生成物が提供される組成をも調査することを目指す可能性があるため、混合生成物の性質は、ユーザの調査の一部となり得る。混合生成物の性質は、処理の理由から重要となり得る。生成物は、その生成物が使用されるために、混合生成物中の他の成分から分離されることが必要となり得る。このプロセスの容易性は、生成物自体により決定付けられ得るが、他の成分、例えば上述の出発材料、触媒、副生成物及び溶媒の性質にも決定付けられ得る。したがって、所望の生成物を生成する化学的及び物理的入力を特定すること、また生成物が効率的に精製され得ることを目的として、それらの入力が分離プロセスに対して有する効果を調査することが重要となり得る。
【0162】
上述のように、反応混合物は、1又は2以上の中間生成物をもたらすように設計されてもよく、それらはさらに反応して生成物材料を生成することが意図される。そのような中間生成物は、互いに相互作用してより大きくより複雑な構造、例えばポリマー及び超分子複合体を形成することができる、モノマー又は金属錯体等の構成要素であってもよい。これらのプロセスの間に産生された構成要素は、形成される最終生成物に対して重大な影響を与える。したがって、異なる量及び異なる種類の中間生成物の探索もまた、探索及び調査のための因子となり得る。
【0163】
中間生成物が形成される場合、化学的及び物理的入力の特定のセットを使用して、特定の種類の中間体の形成を制御することができることが理解される。中間生成物が反応へと進む様式、例えば、中間体同士の相互作用、及び/又は他の種との相互作用を介した生成物材料の形成に影響を与えるために、化学的及び/又は物理的入力のさらなるセットが、反応空間に供給されてもよい。本明細書に記載のように、本発明者は、構成要素としての中間体金属源を産生するためのフローシステムの使用を示したが、この構成要素は、次いで、環及び球状クラスタ等のより大きなポリオキソメタレート構造を形成するために使用され得る。
【0164】
構成要素間の相互作用は、提供される追加の化学的入力により影響され得ることが、当業者に明らかである。また、温度、圧力、光、pH、濃度等の物理的入力もまた、最終生成物の正確な性質を決定する上で重要な因子となり得ることが明らかである。
【0165】
混合生成物はまた、生成物が、生成された形態で直接使用される場合、重要となり得る。混合生成物中の他の成分は、生成物が有する効果に影響する可能性があり、生成物が効果的に使用されるようにするそれらの入力を特定することを目的として、化学的及び物理的入力が生成物の使用に対して有する効果を調査することが重要となり得る。プロセスが、将来の使用のための組成物、例えば医薬組成物を特定することを目指す場合、これらの考慮は、ユーザ仕様における重要な態様である。
【0166】
本発明者は、本発明のプロセスが、所望の化合物を特定するために使用され得ること、並びに、最大の効率で所望の生成物が精製されるようにする化学的及び物理的入力の合計であるそれらの反応条件を特定するために使用され得ることを認識した。その例示として、本発明者は、発見プロセスを使用して様々な無機化合物が生成することができること、並びに、同じ発見プロセスを使用して、無機生成物を混合生成物から結晶化させるために最も有利な混合生成物を調査することができることを示した。
【0167】
分析システム
分析システムは、フロー化学システムとのインタラクション用に構成される。分析システムは、反応空間内で生成された生成物を分析するために提供される。分析システムは、制御システムと連通している。したがって、分析データは、ユーザ仕様に対する比較のために制御システムに提供される。分析システムは、自動化される。したがって、システムは、混合生成物を受容し、任意の精製が行われてもよく、処理、又は試料調製ステップを実行し、混合生成物又はそれから抽出された任意の生成物を分析し、また分析データを制御システムに供給することができるように構成される。
【0168】
さらに、分析システムはまた、反応空間への化学的入力、及び反応空間内での生成物形成の進行を監視するために使用されてもよい。分析システムはまた、反応空間の出力を監視するために使用されてもよい。反応空間から出る個々の生成物の回収は、そのような分析の結果に基づいてもよい。
【0169】
分析システムは、フロー化学システムと統合されてもよい。したがって、反応空間内への、又は反応空間から出る流体フローが、直接分析され得る。この実施形態において、調製された生成物を個々に回収する必要はなくてもよい。このような流体フローの分析は、関連した特徴の迅速な決定を可能にする。しかしながら、ある特定の生成物の特徴は、流体フロー中の生成物の測定により決定されない可能性がある。したがって、いくつかの後続形態の精製と共になってもよく、個々の生成物を回収し、それらの生成物のそれぞれに対して分析を行うことが適切となり得る。
【0170】
ユーザが所望の生成物において求める性格特性は、分析システムにより行われる分析の種類を決定付ける。ある特定の分光分析が、反応空間を出る際に流体に対して直接行われてもよい。そのような分析は、IR、UV−vis、ラマン及びNMR分光法、(例えばオンラインカラムを通した)保持時間、DLS等に基づくものを含む。ユーザ仕様は、どの分析技術がフロー化学システムと共に有用に使用され得るかの知識をもって作成され得る。
【0171】
調製のプロセスが比較的短時間で進化され得るハイスループットシステムを開発するためには、フロー化学を、効率的なin−situ及びオンライン分析技術、例えばpH、UV−Vis、ラマン及びIRと連結することが有益である。フロー化学システムのためのオンライン検出システムは、当該技術分野において説明されている(例えば、Kreutz et al. J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 3128-3132、Urakawa et al. Analyst 2008, 133, 1352-1354、Sans et al. Analyst 2011, 136, 3295-3302、Lange et al. Chemical Science 2011, 2, 765-769を参照されたい)。
【0172】
好ましくは、分析技術は、受動的又は非破壊的である。したがって、試料は、生成物のいかなる物理的又は化学的分解も必要なく試験され得る。このようにして、試料は、多くの異なる方法により試験され得る。
【0173】
分析技術は、生成された生成物のある形態の損失又は不可逆的損傷を必要とする技術を含み得る。そのような技術は、生成物の一部又は全てを必要とし得る。材料の破壊を必要とする、又は材料の破壊をもたらし得る技術の例は、質量分析、熱的試験(例えば融点分析)、生物活性アッセイを含む。
【0174】
所望の生成物が特定される場合、最初の肯定的な特定を確認するために、その生成物を再試験することが有用となり得る。追加的に、又は代替的に、生成物に対してさらなる分析試験を行い、その有用性を確認することが有益となり得る。これらのさらなる分析は、より多量の材料を必要とする可能性があり、又は、本明細書に記載の比較的急速に変化するフロー進化技術との併用には好適ではない、時間を要する性質のものである可能性がある。したがって、そのような技術は、他のより迅速な分析技術を用いて、望ましいことが特定される化合物に対して行われてもよい。
【0175】
反応空間から出る流体は、質量分析計及びNMR分光計等の分析デバイスに誘導されてもよい。流体は、反応空間を出るフローから直接採取されてもよい。代替として、試料は、個々に回収された生成物から採取されてもよい。
【0176】
いくつかの実施形態において、分析システムは、生成物空間から出た後に特定の反応混合物を試験する。解析的分析からの結果は、反応空間への入力を改変することにより出力に反応する制御システムに供給されてもよい。分析が迅速である場合、制御システムは迅速に反応することができ、出力に直接反応して次の一連の入力を調合することができる。
【0177】
しかしながら、いくつかの実施形態において、分析は、結果が制御システムに提供され得るまでにある程度の時間を必要とし得る。ここで、制御システムは、前の出力の結果を知ることなく次の一連の入力を調合することが必要となり得る。これは問題ではない。制御システムは、以前の結果から一連の入力を調合することができ、また、無作為に、又は反応空間に提供された他の一連の入力の考慮される変動として、他の一連の入力を産生し得る。したがって、生成物生成と生成物分析との間の時間差は問題ではなく、制御システムは、これに対処するように適宜プログラムされる。
【0178】
生成物調製ステップ全体にわたり、生成物が分析的フィードバックにより実質的に継続的に調製され得ることが、本発明のプロセスの重要な態様である。したがって、プロセスは、生成物を生成し、次いで分析からの結果を待つ間その後の生成物生成を中断することを目指すものではない。本質的に、これは、別個の生成、分析及び意思決定ステップが存在するバッチプロセスに類似する。本発明は、これらのステップを一体化することを目指し、システムは、最終結果が達成されるまで連続的及び自動的に作動され得る。
【0179】
一実施形態において、分析システムは、UV−vis検出器を有する。一実施形態において、分析システムは、pH検出器を有する。これらの検出器は、反応空間と同調して提供されてもよい。
【0180】
制御システム
制御システムは、分析システムをフロー化学システムに連結する。制御システムは、反応空間への化学的及び物理的入力を制御する。制御システムは、分析システムから分析データを受信し、生成物がユーザ仕様を満たすかどうかを評価する。制御システムは、仕様に対する生成物又は一連の生成物の評価に反応して、反応空間への化学的及び物理的入力を変更するための進化的アルゴリズムを備える。以下に説明されるように、制御システムはまた、入力に無作為の変化をもたらしてもよく、そのような変化は、生成物の評価に反応する必要はない。
【0181】
制御システムは、プロセスのステップを自動的に制御するように好適にプログラムされる。したがって、制御システムは、分析システムから分析データを取り出し、そのデータをユーザ仕様と比較することができる適切な意思決定要素を備える。制御システムは、分析データが記録された生成物をもたらす一連の化学的及び物理的入力に、適応度関数を割り当てることができる。制御システムは、以前の一連の入力に適用された適応度関数に基づいて、反応空間への将来の一連の入力を調合するようにプログラムされる。進化的分析を使用して、制御システムは、低い適応度関数を有する生成物に関連した入力又は入力の組合せを破棄する(すなわち、将来の一連の入力において使用しない)ことを目指す。制御システムは、良好な適応度関数を有する生成物に関連した入力又は入力の組合せを存続させる(すなわち、将来使用する)ことを目指す。
【0182】
制御システムは、反応混合物への単一の入力によりなされた寄与、及び反応混合物への入力の組合せによりなされた寄与を認識するように好適にプログラムされる。したがって、制御システムは、相乗効果を提供する入力の組合せ、例えば2つ若しくは3つの入力、又はそれ以上を特定することを目指すことができる。そのような組合せは、後の生成物調製において存続され得る。
【0183】
化学分野において、進化的アルゴリズムの使用は、十分に説明されている。例えば、Maier et al.(Angew. Chem. Int. Ed. 2007, 46, 6016-6067)、Kreutz et al.(J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 3128-3132)、Zhu et al.(Appl. Phys. Express 2012, 5, 012102)、Pham(Comp. Chem. Eng. 2012, 37, 136-142)、Lehar et al.(Nature Chem. Biol. 2008, 4, 674-681)、及びそれらにおいて引用されている参考文献を参照されたい。
【0184】
したがって、本発明は、当該技術分野において説明されている意思決定プログラムを使用してもよい。代替として、当業者は、使用される進化的方法に基づいて、これらのプログラムを適合させる、又は使用のための特注プログラムを作成してもよい。そのようなカスタムメイドの制御要素は、ユーザスペシエーション、使用される化学、生成物の化学的及び物理的特徴、並びに全体の適応度関数へのそれらの寄与を考慮してもよい。したがって、生成物生成プロセスを進化させる原理は、当業者に理解される。本明細書に記載のように、化学的及び/又は物理的入力は、異なる組合せを提供するように改変されてもよい。
【0185】
改変される入力の数は、アルゴリズム、及び反応空間からの個々の出力にどのように反応するかに依存する。一実施形態において、入力は、一度に1回の入力の変更、追加又は除去等の改変により進化し得る。これは、入力の変異と呼ぶことができる。そのような変更は、生成物の特徴における漸進的な改善が認められる場合有用となり得る。変異は、そのような変更が所望の生成物を提供することができるかどうかを判別することを目的としてシステムに圧力を印加するためになされてもよい、無作為な変異であってもよい。入力はまた、一度に2又は3以上の入力の改変により進化し得る。これらの改変は、計画的であってもよく、又は無作為であってもよい。
【0186】
一実施形態において、入力は、一度に複数の入力の改変により進化し得る。これは、交差と呼ぶことができる。典型的には、交差は、有望な特徴を有する(すなわち、良好な適応度関数を有する)生成物を提供することが判明している特定の組合せからの入力を組み合わせる。したがって、交差は、優れた生成物の生成を目的として、2又は3以上の組合せの、有益な結果に関連すると考えられる部分を組み合わせる。
【0187】
進化的方法の文脈において、入力の組合せは、遺伝子型と呼ぶことができ、得られる生成物は、表現型と呼ぶことができる。今回の場合において、表現型は、生成物の物理的及び/又は化学的特徴の組合せである。異なる遺伝子型は、同じ表現型を生成し得る。
【0188】
したがって、制御システムは、初期生成物調製物から得られた情報を生成して、将来的に後の生成物調製物の調製を知らせることができる。
【0189】
フローシステムへのこれらの意思決定アルゴリズムの適用は、今回の場合の特異な点と考えられる。
【0190】
今回の場合における使用のための進化的アルゴリズムの例は、Nelder-Meadシンプレックス検索アルゴリズムである。Nelder-Meadは、方向に基づく検索方法であり(Nelder J et al. Comput. J. 1965, 7, 308-313)、比較的小さい時間枠で広い適応度地形の領域を探索する能力により、よく知られた最適化アルゴリズムであることが示されている(Yu et al. Introduction to Evolutionary Algorithms 2010, Springer-Verlag, London)。それにもかかわらず、Nelder-Meadアルゴリズムは、複雑な問題及び複数の適応度地形に取り組んだ場合、検索を局所最適「トラップ」に方向付けることができる(Moore et al. Chemical Science 2011, 2, 417-424)。(明らかな複雑性にもかかわらず)多数の化学システムにおいて、パラメータの最適化は、局所準最適の非存在に起因してそのようなアルゴリズムにより達成され得る(Moore、同上)。したがって、進化的アルゴリズムは、固有の複雑性により多目的最適化技術の使用が求められる問題を解く上で、非常に有用となり得る(Coello Coello et al. Evolutionary Algorithms for Solving Multi-Objective Problems 2007)。
【0191】
制御システムは、特定の発見プロセスが、ユーザ仕様を満たす生成物の調製に好適であるかどうかを認識するように、好適にプログラムされる。制御システムは、化学的及び物理的入力の全ての可能な組合せを調製した場合、プロセスを中断してもよい。制御システムは、設定された数の生成物が調製され、それらの生成物のいずれも仕様を満たさない、又は満たす状態まで近づかない場合、プロセスを中断してもよい。制御システムはまた、全生成物空間の代表的試料が探索された後、有用な、又は潜在的に有用な生成物が特定されなかった場合、発見プロセスを中断してもよい。代表的試料は、可能な生成物空間全体にわたり十分分散した生成物の集合である。これらの生成物の1つが仕様を満たさない、又は満たす状態まで近づかない場合、他の生成物(この生成物は生成物マップ上の他の分散した生成物の間にある)は、仕様を満たさない、又は満たす状態まで近づかないだろうという合理的な仮定があってもよい。
【0192】
制御システムは、仕様を満たしている生成物が特定されたら終了するように、好適にプログラムされてもよい。代替として、そのような生成物が特定されたら、制御システムは、さらなる評価又は使用のためにさらなる量の生成物を生成するように、システムに指示してもよい。
【0193】
有用な生成物が特定され得るが、システムは、仕様を満たすさらなる生成物を特定するために、及び元の特定された有用な生成物に勝る優れた特徴を有する生成物を発見するために、発見プロセスを継続するようにプログラムされてもよい。
【0194】
制御システムがプロセスを中断させる必要性は、プロセスの開始前にユーザにより制御システムに指図されてもよい。
【0195】
進化的プロセスは、後の生成物調製の焦点を、最高の適応度関数を有する生成物に関連した化学的及び物理的入力を使用する反応混合物に置くことが、当業者に明らかである。このようにして、最も有望な生成物を提供する化学的及び物理的入力が、将来の生成物の調製における使用を通して生存され得る。最も有望でない生成物を提供する化学的及び物理的入力は破棄され、進化的選択プロセスの下で死滅する弱い入力とみなすことができる。
【0196】
制御システムは、低い適応度関数を有する生成物に関連した入力の組合せを破棄するための好適なフィルタシステムを備えてもよい。フィルタシステムは、ある特定の組合せを割り引くための単純な数値フィルタを適用してもよい。代替として、又は追加的に、フィルタは、閾値(この値は、ユーザ仕様において指定されたその特徴の値から独立していてもよい)を満たさない特徴を有する生成物を生じる組合せに適用されてもよい。進化的開発におけるフィルタ機能の適用は、当業者によく知られる。
【0197】
本発明のプロセスは、典型的には、同じ又は異なっていてもよい、多くの反応混合物、及び結果的には多くの生成物の調製を含む。進化的アルゴリズムが生成物の後の調製を十分に推進することができるまでに、生成物の最初の訓練セットを提供することが必要となり得る。この訓練セットは、後の合成においてどの入力が有用に形成され得るかに関する初期の指標を提供し得る。複数の組合せである訓練セットは、一連の無作為に産生された組合せを使用して調製された生成物に基づいてもよい。組合せは、全ての利用可能な組合せの代表として選択されてもよい。代替として、組合せは、利用可能な組合せ空間におけるクラスタとして選択されてもよい。このクラスタは、後の進化的に導かれる組合せが発達し得る開始点を表し得る。
【0198】
制御システム及び分析システムは、統合されてもよい。したがって、制御システムの意思決定要素及び分析システムの分析処理要素は、単一のコンピュータ上に提供されてもよく、コンピュータに提供されるソフトウェアは、分析処理要素を意思決定要素と統合してもよい。
【0199】
処理
ここで、ユーザ仕様を満たす生成物を調製するためのフロー化学システムの使用を、分析装置及び制御システムを参照しながら説明する。
【0200】
プロセスの開始点は、ユーザによる仕様の提供である。生成物が有することが望ましい物理的及び化学的特徴に関して表現されるその仕様の要件は、制御システムに提供される。制御システムは、仕様において規定される物理的及び化学的特徴の測定に好適である分析システムに接続される。
【0201】
本発明のプロセスにおいて行われるステップは、
(i)化学的及び/又は物理的入力の第1の組合せを選択し、それらの入力を反応空間に供給して、それにより第1の生成物を産生するステップと、
(ii)産生された生成物の1又は2以上の特徴を分析するステップと、
(iii)1又は2以上の特徴を、ユーザ仕様と比較するステップと、
(iv)化学的及び/又は物理的入力の第2の組合せであって、第1の組合せとは異なる第2の組合せを選択し、それらの入力を反応空間に供給して、それにより生成物を産生するステップと、
(v)産生された生成物の1又は2以上のパラメータを分析するステップと、
(vi)産生された1又は2以上のパラメータを、ユーザ仕様と比較するステップと、
(vii)化学的及び/又は物理的入力のさらなる個々の組合せのために、ステップ(v)から(vii)を反復していてもよいステップと
を含む。
【0202】
プロセスの第1の調製ステップは、化学的及び/又は物理的入力の第1の組合せの選択、及びこれらの入力を反応空間に供給し、それにより第1の生成物を産生するステップである。入力の第1の組合せは、特定の生成物を提供するための入力の既知の組合せであってもよい。次いで、その後の入力の変化は、優れた特徴を有する代替の生成物を発見することを目指すことができる。代替として、プロセスは、第1の生成物と同等の特徴を有する代替の生成物を発見するように設計され得る。
【0203】
また、入力は、無作為に選択されてもよい。無作為選択は、プロセスへの開始ステップとしてユーザにより行われてもよい。代替として、制御システムは、化学的及び/又は物理的入力を無作為に選択してもよい。
【0204】
プロセスのステップは、入力の第1の組合せ、次いで入力の第2の組合せの産生に関連し、続いて入力のさらなる組合せの産生に関連してもよい。実際には、発見プロセスは、生成物空間を十分に探索するために、多くの異なる入力の組合せを使用する可能性がある。利用可能な組合せの総数は、利用可能な化学的及び物理的入力の数、並びにこれらが組み合わされ得る様式の数により決定付けられる。
【0205】
物理的入力と関連していてもよい化学的入力は、反応空間に供給されて、反応混合物を形成する。生成物は、反応混合物から形成され得る。したがって、触媒の存在下であってもよい試薬が反応して、生成物構造を形成し得る。反応は、1又は2以上の化学結合の切断の産生を示し得る。典型的には、化学結合は、共有結合である。しかしながら、水素結合、金属−金属結合及び金属−リガンド結合等の他の結合型も示し得る。
【0206】
他の実施形態において、生成物は組成物であり、化学的入力の混合により形成される。
【0207】
フロー化学システムは、生成物の形成に好適なフロー条件を提供するように構成される。したがって、長さ等のフローチャネル寸法及び流量は、生成物形成を可能とするのに好適な滞留時間を許容するように提供される。また、フローアーキテクチャは、化学的入力の適切な混合を可能とするために好適であってもよい。フローアーキテクチャはまた、反応混合物への熱及び光等の物理的入力の印加を可能とするように構成されてもよい。
【0208】
流量等の因子がシステムへの物理的入力として改変され、それにより進化的ストレスが提供されてもよく、これは、代替の生成物の形成をもたらし得る。
【0209】
反応空間からの出力は、回収されてもよい。好ましくは、化学的及び/又は物理的入力の各組合せからの生成物は、個々に回収され、精製されていてもよい。これらの生成物は、次いで分析されてもよい。追加的に、又は代替として、反応空間から出る生成物は、回収の前に直接分析されてもよい。反応空間からの出力は、フロー化学システムと統合されたインライン分析デバイスにより直接分析されてもよい。
【0210】
次いで、システムは、物理的及び化学的入力の異なる組合せに対してこれらのステップを反復してもよい。組合せは、少なくとも1つの化学的又は物理的入力が他の組合せとは異なる個体と呼ぶことができる。
【0211】
本発明のプロセスにおいて、各組合せは異なってもよい。しかしながら、プロセスはまた、入力の特定の組合せを反復してもよい。そのようなプロセスは、以前の結果の実証作業として有用となり得る。
【0212】
本発明のプロセスは、生成物が仕様を満たす、又はそれを超えるものとして特定された場合、終了されてもよい。本発明のプロセスは、制御システムが化学的及び物理的入力の全ての組合せを探索した場合、終了されてもよい。本発明のプロセスは、制御システムが、後の生成物の適応度関数が以前に調製された生成物の適応度関数を超えないことを認識した場合、終了されてもよい。ここで、システムは、生成物の特徴が収束し、さらなる改善された生成物が利用可能な化学的及び物理的入力から調製され得る可能性が低いことを認識し得る。
【0213】
プロセスは、生成された生成物に付与された適応度関数に関わらず、設定期間後に終了されてもよい。
【0214】
例示的プロセス
本明細書に記載のように、本発明のプロセスは、ポリオキソモリブデートを含む多種多様のポリオキソメタレート化合物を調製するために使用され得る。本発明のプロセスはまた、本明細書に記載のようにMnクラスタ等の金属クラスタを調製するために使用され得る。記載されるシステムは、生成された混合生成物の迅速な分析を提供するためのインラインUV−vis検出の使用を示し、次いでこれは、化学的及び物理的入力への適切な変化により、後の生成物の合成にフィードバックを提供するために使用され得る。
【0215】
例示されたプロセスはまた、反応混合物中の新たな生成物の形成を探索するため、さらに反応混合物が生成物の精製に与える効果を探索するためのフロー化学システムの使用の有効性を実証する。したがって、本発明者はまた、生成物が反応混合物から有利に結晶化され、それにより単離又は精製された形態の所望の生成物が提供され得る条件を探索することができる。
【0216】
本明細書において例示されるプロセスは、複数の化学的入力を有するフロー化学システムを使用して、様々な異なる生成物構造を含有することが示される、様々な個々の混合生成物を産生することができることを実証する。したがって、フロー化学システムは、明らかに、必要に応じて所望の範囲の混合生成物を生成するように制御され得る、広範な入力に対応することができる。これは、本発明のシステムの重要な削減の実施化を表す。
【0217】
コンピュータ制御
本発明は、分析システムからデータを取り出し、それをユーザ仕様と比較するための制御システムを提供する。制御システムは、化学的及び物理的入力の最初の組合せを選択するため、及び、ユーザ仕様に対する最初の生成物の適応度関数に基づき、その後の化学的及び物理的入力を選択するための、好適な進化的又は遺伝的アルゴリズムを備える。アルゴリズムは、Nelder-Meadシンプレックスアルゴリズムであってもよい。したがって、制御システムは、好適にプログラムされたコンピュータである。
【0218】
本発明は、本発明のプロセスを制御するように好適にプログラムされた制御システムを提供する。また、本発明のプロセスを行うためのコンピュータにより実装される方法が提供される。コンピュータにより実装される方法は、ハードディスク又はフラッシュメモリ等の好適なメモリデバイス上に提供され得る。コンピュータにより実装される方法は、インターネットを介して利用可能とされてもよい。
【0219】
他の優位性
上述の実施形態のありとあらゆる適合する組合せは、ありとあらゆる組合せが個々に明示的に列挙されるのと同等に、本明細書において明示的に開示される。本発明の様々なさらなる態様及び実施形態は、本開示を考慮して、当業者に明らかとなる。
【0220】
「及び/又は」は、本明細書において使用される場合、他方を含む、又は含まない、2つの指定された側面又は成分のそれぞれの具体的な開示とみなされる。例えば、「A及び/又はB」は、それぞれが本明細書において個々に記載されるのと同等に、(i)A、(ii)B並びに(iii)A及びBのそれぞれの具体的な開示とみなされる。
【0221】
文脈上異なる定義が示されない限り、上記の側面の説明及び定義は、本発明のいかなる特定の態様又は実施形態にも限定されず、記載される全ての態様及び実施形態に均等に適用される。
【0222】
ここで、例を用いて、また上で説明された図を参照しながら、本発明のある特定の態様及び実施形態を説明する。
【実施例】
【0223】
以下の実施例は、本発明を例示することのみを目的として提供され、本明細書に記載のように、本発明の範囲を限定することを意図しない。
【0224】
全ての化学物質は、化学薬品会社であるSigma Aldrich社、Fisher Scientific社及びAlfa Aesar社から購入した分析試薬グレードのものであり、それ以上精製することなく、供給された状態のまま使用した。各試薬の標準原液は、標準的技法及び容積測定用ガラス器具を使用して調製した。全ての溶液は、脱イオン水を用いて調製し、各実験の実行前(1時間未満)に新しく調製した還元剤原液を除いて、調製後にプラスチック製実験器具内に保存した。
【0225】
試薬であるモリブデン酸ナトリウム、ヒドラジン及びジチオン酸ナトリウムは、Sigma-Aldrich社から購入し、供給された状態のまま使用した。
【0226】
ポンプシステム
POM及び配位調製物において使用されたポンプシステム構成は、5mLシリンジ及び3方向電磁弁を備える3〜8個のプログラム可能なシリンジポンプ(C3000モデル、Tricontinent Ltd社製、CA、USA)を含み、ポンプを制御するためにLabVIEW(商標)ベースPCインターフェースが使用された。外径1/8インチ(約0.3mm)のFEPプラスチック配管を特定の長さに切断し、標準的HPLC低圧PTFEコネクタ及びPEEK多岐管(Thames Restek社製、UK)を使用して接続した。
【0227】
反応アレイの産生のための一般手順
POM及び配位化合物反応アレイは全て、以下の一般手順を使用して行った。試薬の原液を調製し、割り当てられたポンプへの入口に接続した。全ての試薬に対する接続配管及びポンプを、試薬溶液(3mL)でパージし、次いで反応器配管を新鮮な溶媒(20mL)で浄化した。次いで、事前に記述されたコマンドスクリプトを実行して、ポンピングシーケンスを開始させた。それぞれのプログラムされた補充点において手作業で試験管を交換しながら、50の個々の反応バッチを回収した。反応器配管体積を考慮するために、回収される最初の2回分の反応体積は常に廃棄し、各シーケンスの最後に、2回分の余分な体積の溶媒を使用して反応器ラインをパージした。次いで、回収された試料を特定の静置時間、不撹乱状態で放置し、生成物を結晶化させた。
【0228】
{Mo154}及び{Mo132}の調製のために、磁気撹拌器(Thermo Scientific社製)、pH電極(VWR International社製)及びUV−Vis反射プローブ(TP-300)を備えた10mL反応槽内に、異なる量の試薬をポンピングした。制御された反応時間後、光ファイバによりTP300ファイバプローブに接続されたDH-2000ハロゲン光源を備えたAvantes分光計Avaspec-2048を使用して、UV−Visスペクトルを取得した。pHは、SevenMulti Mettler-Toledo S80を使用して測定した。機器及びデータは全て、Labview(商標)を使用して制御及び記録された。その後、反応器から反応混合物を抽出し、追加のポンプを使用してさらなる分析のために回収した。反応器を、6mLの蒸留水で3回洗浄した。
【0229】
632nmレーザを備えたMalvern Nano Zetasizerにより、プラスチック製の使い捨てキュベットを使用してDLS実験を行った。
【0230】
532nmレーザ、50×LWD対物レンズ、600l/mm2回折格子及び100um穴を備えたホリバ−ジョバンイボン製LabRamを使用して、ラマンスペクトルを取得した。これらの条件下で、スペクトル分解能は1.7cm−1であった。
【0231】
複数の化学的及び物理的入力でのフロー化学システムの使用
複数バッチ結晶化による自律的フロー処理システムを、以下で説明する。この方法は、分子発見のための多数の反応アレイの迅速な構築、及びスケールアップの間に必要とされるバッチ反応の連続産生の両方を行うことができる。一例として、様々なサイズ及び構造的複雑性を有するポリオキソモリブデート(POM、polyoxomolybdate)の選択の調製において、複数入力反応器構成を使用した;1、Na[Mo36112(HO)16]・58H2O={Mo36};2、Na15[MoVI126Mo2846214(HO)700.5[MoVI124Mo2845714(HO)680.5・約400HO={Mo154};3、(NH42[MoVI72Mo60372(CHCOO)30(HO)72]・約300HO・約10CHCOONH={Mo132};4、Na12[MoVI72Mo30282(SO12(HO)78]・約280HO={Mo102};及び5、Na48[HxMo3681032(HO)240(SO48]・約1,000HO={Mo368}((a)Krebs et al. Eur. J. Solid State Inorg. Chem. 1991, 28, 883-903;(b)Muller et al. Z. Anorg. Allg. Chem. 1999, 625, 1187-1192;(c)Muller et al. Angew. Chem. Int. Ed. 1998, 37, 3359-3363;(d)Muller et al. Angew. Chem. Int. Ed. 2002, 41, 1162-1167を参照されたい)。
【0232】
フロー化学システムの範囲をさらに実証するために、単一分子磁気(SMM、single molecular magnetic)特性を有するいくつかの配位クラスタの合成もまた探索した;6、Mn3O(Et−sao)3(MeOH)3(ClO4);7、Mn3O(Et−sao)3(tBuPy)3(ClO4);8、Mn5O2(Et−sao)6(MeO)(H2O)(MeOH)2;及び9、Mn6O2(Et−sao)6(Piv)2(MeOH)6((a)Inglis et al. Chem. Commun. 2008, 45, 5924-5926;(b)Inglis et al. Dalton Trans. 2009, 42, 9157-9168;(c)Inglis et al. Dalton Trans. 2009, 18, 3403-3412;(d)Kozoni et al. Dalton Trans. 2009, 42, 9117-9119を参照されたい)。
【0233】
構成は、8個のプログラム可能なシリンジポンプ(C3000モデル、Tricontinent Ltd社製、CA、USA)(ただし、これは容易に15個に拡大可能である)、及びポンプを制御するためのLabVIEW(商標)ベースPCインターフェースを使用した(図1)。ポンプは、独立して制御可能であり、化学的入力を反応空間に送達するのに好適である。
【0234】
POM合成
POM合成のために選択された試薬セットは、希釈用の蒸留脱イオン水、モリブデン源としての2.5M Na2MoO4・2H2O、3種の酸源(5.0M HCl、1.0M H2SO4、及び50%AcOH)、4.0M AcO(NH4)、並びに2種の還元剤源、0.25M Na2S2O4及び飽和(0.23M)N2H2・H2SO4からなっていた。最も単純なPOM標的化合物1{Mo36}に対しては、8個のポンプのうちの3個のみが、水、モリブデート及びHCl原液の相対流量を徐々に変化させるために必要であり;化合物2{Mo154}、3{Mo132}、4{Mo102}、及び5{Mo368}に対しては、5個までのポンプが、追加的な還元剤及び緩衝剤原液を供給するために必要であった。したがって、試薬セットは、反応空間への化学的入力を表す。
【0235】
{Mo36}
Krebsらによる最初に報告された{Mo36}構造の合成は、モリブデン酸ナトリウムの水溶液の酸性化を含み、これはその後標的化合物の結晶を沈殿させる(Krebs et al. Eur. J. Solid State Inorg. Chem. 1991, 28, 883-903)。しかしながら、ほとんどの合成と同様に、最善の合成条件のみが報告されており、これらの発見に至った困難な作業は、たとえ言及されているとしてもほとんど議論されていない。
【0236】
したがって、本研究の最初の焦点は、人間による入力を最小限としながらこのスクリーニングプロセスを反復することができる、フロー化学システムを調製することであった。{Mo36}構造は、「発見アレイ」用の試験化合物として選択された。ポンプは、生成条件の実験的スキャン全体にわたり、モリブデートに対する酸の相対比、及び全体的な試薬濃度(POM形成及び結晶化の2つの主要なパラメータ)の両方を徐々に増加させながら、様々な流量で動作するようにプログラムされた。図2に示されるように、Moに対する酸の体積を、(行に沿って)0%〜90%まで変動させ、全試薬体積に対する追加の水の体積を、(列の下に向けて)80%〜0%まで変動させた。これらの2つのパラメータの独立した変動により、それぞれ{Mo36}標的を結晶化させる能力を有する50の混合生成物をもたらす50の異なる反応混合物の形成が得られた。相対流量及び試薬濃度は、反応空間への物理的入力を表す。
【0237】
任意の特定の点で動作する全てのポンプの合計流量は、一定の出力流速及び反応体積を維持するために、12.5mL 分−1に設定した。出力フロー組成の変動は、個々の化学的入力の互いに対する流量を変動させることにより制御した。
【0238】
比較的広い穴(内径1.6mm)を有する配管(6.22m)1本を、混合多岐管の後ろに設置して、典型的にはモリブデート塩の酸性化後に観察される一時的沈殿物の回収の前の溶解を可能にした。直径は、そのような沈殿物の形成後のシステムの閉塞を回避するために十分広くなるように選択され、配管の長さは、回収される反応体積と一致するように選択された。相対流量は、30秒毎に変化させ、したがって各反応混合物に対して6.25mL(すなわち1/2分×12.5mL 分−1)の反応体積とし、配管の総体積は、12.5mL(すなわち2×反応体積又は1分間の滞留時間)であった。個々の反応混合物は、回収中の試験管の交換を可能とするために1.5秒の遅延で30秒毎に回収した。したがって、50の反応、高希釈から低希釈、及び高pHから低pHまでのスキャン条件の全体の実行は、完了するのに35分未満を要した。
【0239】
反応混合物の組成がプログラムされた流量からの理論値に一致することの確認として、「発見アレイ」内の個々の反応のpHを回収直後に測定した(図3a)。pHは、反応のアレイにわたり周期的に高から低に変動することが観察され得るが、これは、事前にプログラムされたスクリーニングシーケンス(図1)により課される条件に直接的に対応する。反応番号1(又は図2からのaA)は、酸を含有せず、希釈係数は8:2である。したがって、反応体積の80%は、純粋に水原液に由来し、残り20%は、2.5M NaMoO・2HO原液に由来する。したがって、約6〜7の比較的高いpHは、この組成の溶液に一致する。
【0240】
反応2〜10(又はaB〜aJ)から、全体的な傾向は、希釈係数を8:2で一定に維持してMoに対する酸含量を増加させると、pHが漸減することである。反応番号11(bA)において、pHは、流量が0%酸まで戻ると再び急上昇するが、今回は6:4の低減された希釈係数に起因して若干高いMo濃度である。この傾向は、酸対Moの比及び希釈係数が事前にプログラムされたスクリーニングシーケンスにより決定付けられるように変動すると、アレイの残りにわたって反復する。
【0241】
溶液を不撹乱状態及び空気開放状態で24時間放置した後、50の反応のうち3つ、すなわち反応番号26(cF)、36(dF)及び46(eF)が、無色柱状結晶を沈殿させた。
【0242】
単結晶X線回折及びIR分光法を使用して、結晶性生成物を純粋な{Mo36}として確認した。結晶性生成物をもたらす条件は、低pH及び高Mo濃度を有し、これは、従来のバッチ合成に関して報告されている条件(Krebs et al. Eur. J. Solid State Inorg. Chem. 1991, 28, 883-903)に一致する。残りの反応溶液は、無色溶液として残留するか、又は非晶質白色粉末を沈殿させた。動的光散乱(DLS、Dynamic Light Scattering)測定を使用して、無色溶液中で濃縮モリブデート種を特定することを試みた(図14を参照されたい)。1.7〜2.0nmの粒径が、低pHにおいてより希薄な溶液に対して一貫して観察されたが、これは、{Mo36}と同様のサイズの濃縮モリブデン種の形成を示している。実際に、これらの溶液のいくつかをさらに数日放置した後、少量の無色柱状結晶が形成し、これは結晶学的な単位格子マッチングにより{Mo36}と特定された。
【0243】
図15は、反応番号36(左列)及び46(右列)からの条件を使用して産生された、複数反復バッチにおける{Mo36}の質量収率を示す。反応番号36(dF)からの条件を使用して生成された10の反応に対する平均収率=924±62mg(0.137mmol、78.7%)である。反応番号46(eF)からの条件を使用して生成された10の反応に対する平均収率=1254±43mg(0.185mmol、85.3%)である。
【0244】
{Mo154
発見アレイ構成のための次の標的構造は、Mullerら((a)Muller et al. Angew. Chem. Int. Ed. 1995, 34, 2122-2124、(b)Muller et al. Angew. Chem. Int. Ed. 1996, 35, 1206-1208を参照されたい)によりはじめて特性決定された、還元「モリブデン青環」2{Mo154}である。還元環は、典型的には、還元剤(例えば亜ジチオン酸ナトリウム)による酸性化モリブデート溶液の部分還元を介してバッチ式で生成される。
【0245】
上で使用されたフロー化学システムは、0.25M Naの溶液を含有する追加のポンプ(追加の化学的入力)により提供された。ポンプは、反応パラメータのスキャン中にMo源に対して10mol%の還元剤を提供するようにプログラムされた。このプロセスにおいて、相対試薬比及び希釈度もまた、実験の実行にわたり徐々に改変された(上述のように、これらは反応空間への物理的入力である)。
【0246】
50全ての反応に対して一定の還元環境を提供するために、ジチオナイトポンプ流量は、モリブデートポンプ流量に直接対応するように設定した。還元剤ポンプ流量は、新たな物理的入力(すなわち可変パラメータ)として設定することができたが、還元剤を10mol%超まで増加させると、非晶質ポリマー酸化モリブデン種のレベルの増加がもたらされることが周知である(Muller et al. Z. Anorg. Allg. Chem. 1999, 625, 1187-1192を参照されたい)。この追加的入力を提供することにより、構造決定に好適な高品質の結晶性生成物を単離する能力を増加させずに、アレイ寸法が増加しただろう。
【0247】
{Mo154}発見アレイにおいて、測定pH値における同様のパターンが観察された。予想されるように、事前にプログラムされた試薬流量に従い酸含量及び希釈比が変動すると、pHはアレイにわたり変動する(図3bを参照されたい)。ここでも、アレイからの50の反応を不撹乱状態で24時間放置し、結晶化させた。同じく、50の反応のうち3つ、すなわち反応番号26(cF)、35(dE)及び45(eE)が、結晶性材料を沈殿させた。残りの反応は、沈殿物を生成しなかったか、又は結晶学的分析には好適でない暗色非晶質沈殿物を生成した。
【0248】
上述のように、結晶性生成物をもたらした低pH及び高Mo濃度は、元の報告されたバッチ条件に一致した(Muller et al. Z. Anorg. Allg. Chem. 1999, 625, 1187-1192)。生成物は、結晶学的単位格子チェック、IR及び吸光度分光法により、{Mo154}と確認された。pH測定に加えて、吸光度分光法もまた使用して、反応アレイにわたる反応組成の変化を監視した。図4は、5×10反応アレイに対する吸光度スペクトルの3Dプロットを示す。約750nmにおける吸光度(Mo青種を示す)は、pHの周期的変動と一致することが観察され、ここでも、得られた反応条件が事前にプログラムされた流量に一致することを示した。
【0249】
図16は、反応番号25(左列)、35(中央列)及び45(右列)からの条件を使用して産生された、複数反復バッチにおける{Mo154}の質量収率を示す。反応番号(cE)からの条件を使用して生成された10の反応に対する平均収率=226±16mg(7.33×10−3mmol、39.9%)である。反応番号35(dE)からの条件を使用して生成された10の反応に対する平均収率=257±29mg(8.24×10−3mmol、34.0%)である。反応番号(eE)からの条件を使用して生成された10の反応に対する平均収率=389±27mg(1.26×10−2mmol、41.1%)である。
【0250】
{Mo132
次に、化合物3、{Mo132}ケプレラート球状クラスタを標的とした(Muller et al. Angew. Chem. Int. Ed. 1998, 37, 3359-3363)。上で使用したフロー化学システムを、この調製における使用のために構成した。したがって、AcOH及びAcO(NH)試薬ポンプをHClポンプの代わりに使用し、N2H2・H2SO4ポンプをNaポンプの代わりに使用した。約pH4の緩衝溶液を提供するように、AcOHに対する(NH4)OAcの流量の比を1:1に設定した。
【0251】
全体的な希釈度に加えて、緩衝試薬に対する還元モリブデンの比を改変しながら、発見アレイ実験を上述のように行った。還元剤の量は、{Mo132}標的におけるMoV:MoVIの近似比に従い、20mol%に設定した。ここでも、アレイ内の反応のpHは、周期的に変動した(図13を参照されたい)。この反応スキャンにおいて、pHは概して、濃縮HCl溶液の代わりに酢酸緩衝原液を使用することにより、約4〜5の比較的狭いpH範囲内に維持された。4日間の静置期間後の反応物の検査では、純粋な{Mo132}標的の結晶が、反応番号29(cH)及び39(dH)において形成されたことが明らかとなった。微小な暗褐色多面体結晶は、結晶学的単位格子チェック、IR及び可視吸光度分光法により、{Mo132}と確認された(Muller et al. Angew. Chem. Int. Ed. 1998, 37, 3359-3363)。
【0252】
化合物4及び5は、ジチオナイト還元剤が10mol%に設定され、H2SO4に対する還元モリブデートの比がスキャンにわたり変動される条件下で、同じ反応スクリーンから単離された。このスクリーニング方法を使用して最も複雑なPOM構造のいくつかに到達し得る証拠として、この発見アレイスキャンのための元の標的は、実際には化合物5、{Mo368}「レモン」であった(Muller et al. Angew. Chem. Int. Ed. 2002, 41, 1162-1167)。しかしながら、この生成物の結晶化に成功した条件(画分28、cI)の発見に加え、4{Mo102}ケプレラートを直接反応溶液から結晶化する条件(画分29、cJ)もまた発見された((a)Muller et al. Angew. Chem. Int. Ed. 2000, 39, 1614-1616、(b)Muller et al. Angew. Chem. Int. Ed. 2003, 42, 2085-2090、(c)Henry et al. J. Mol. Liq. 2005, 118, 155-162を参照されたい)。
【0253】
図17は、反応番号29(左列)、39(右列)からの条件を使用して産生された、複数反復バッチにおける{Mo132}の質量収率を示す。反応番号29(cI)からの条件を使用して生成された10の反応に対する平均収率=67±6mg(2.34×10−3mmol、49.4%)である。反応番号39(dI)からの条件を使用して生成された10の反応に対する平均収率=87±3mg(3.04×10−3mmol、48.2%)である。
【0254】
一般的反応条件
各反応番号に対して分配された各試薬の体積に従い、反応の成功のための理論的組成及び生成物収率を以下のように計算した。
【0255】
{Mo36}、反応番号26(cF)は、H2O(2.5mL)、2.5M Na2MoO4(1.875mL)及び5.0M HCl(1.875mL)で構成され、2日間静置した後、{Mo36}の大型の無色柱状単結晶(単位格子マッチ)を生成した(284mg、4.12×10−2mmol、31.6%)。
【0256】
{Mo36}、反応番号36(dF)は、H2O(1.25mL)、2.5M Na2MoO4(2.5mL)及び5.0M HCl(2.5mL)で構成され、2日間静置した後、{Mo36}の大型の無色柱状単結晶及び分岐状凝集物(単位格子マッチ)を生成した(995mg、0.147mmol、84.7%)。
【0257】
{Mo36}、反応番号46(eF)は、2.5M Na2MoO4(3.125mL)及び5.0M HCl(3.125mL)で構成され、2日間静置した後、{Mo36}の大型の無色柱状単結晶及び分岐状凝集体(単位格子マッチ)を生成した(1.25g、0.185mmol、85.2%)。
【0258】
{Mo154}、反応番号25(cE)は、H2O(2.5mL)、2.5M Na2MoO4(1.125mL)、0.25M Na2S2O4(1.125mL)及び5.0M HCl(1.5mL)で構成され、2日間静置した後、{Mo154}の青黒い四角形単結晶(単位格子マッチ)を生成した(221mg、7.17×10−3mmol、39.0%)。
【0259】
{Mo154}、反応番号35(dE)は、H2O(1.25mL)、2.5M Na2MoO4(1.5mL)、0.25M Na2S2O4(1.5mL)及び5.0M HCl(2.0mL)で構成され、2日間静置した後、{Mo154}の青黒い四角形単結晶(単位格子マッチ)を生成した(297mg、9.63×10−3mmol、39.3%)。
【0260】
{Mo154}、反応番号45(eE)は、2.5M Na2MoO4(1.875mL)、0.25M Na2S2O4(1.875mL)及び5.0M HCl(2.5mL)で構成され、2日間静置した後、{Mo154}の青黒い四角形単結晶(及び少量の粉末状沈殿物)(単位格子マッチ)を生成した(368mg、1.19×10−2mmol、38.9%)。
【0261】
{Mo132}、反応番号29(cI)は、H2O(2.5mL)、2.5M Na2MoO4(0.25mL)、0.23M N2H4・HSO4(0.5mL)、50%AcOH(1.5mL)及び4.0M AcO(NH4)(1.5mL)で構成され、4日間静置した後、{Mo132}の微小褐色立方単結晶(単位格子マッチ)を生成した(61mg、2.13×10−3mmol、45.0%)。
【0262】
{Mo132}、反応番号39(dI)は、H2O(1.25mL)、2.5M Na2MoO4(0.333mL)、0.23M N2H4・HSO4(0.667mL)、50%AcOH(2.0mL)及び4.0M AcO(NH4)(2.0mL)で構成され、4日間静置した後、{Mo132}の微小褐色立方単結晶(単位格子マッチ)を生成した(87mg、3.04×10−3、48.2%)。
【0263】
{Mo102}、反応番号29(cI)は、H2O(2.5mL)、2.5M Na2MoO4(0.375mL)、0.25M Na2S2O4(0.375mL)及び1.0M H2SO4(3.0mL)で構成され、2週間静置した後、{Mo102}の大型の青黒い四角形単結晶を生成した(5.2mg、2.345×10−4mmol、2.5%)。
【0264】
{Mo368}、反応番号28(cH)は、H2O(2.5mL)、2.5M Na2MoO4(0.562mL)、0.25M Na2S2O4(0.562mL)及び1.0M H2SO4(2.625mL)で構成され、2週間静置した後、{Mo368}の微小な青黒い細長六角形単結晶(単位格子マッチ)を生成した(12mg、1.5×10−4mmol、3.9%)。
【0265】
{Mo154}の平行UV−vis分析
{Mo154}発見アレイに対して回収された各反応物のアリコート(0.2mL)を、新鮮な脱イオン水(3mL)で希釈し、速やかにUVスペクトルを測定した。次いで、50スペクトルの完全データセットを使用して、本明細書に示される3Dスペクトルを編集した。
【0266】
分析
X線回折構造分析及び結晶学的データ:好適な単結晶を選択し、フォンブリンオイルを使用して細いガラス繊維の末端に載せた。Bruker Apex II Quasar x-ray Diffractometerで、強化X線ビーム[λMo−Kα=0.71073Å、グラファイト単色化]を用い、150Kで化合物4及び8のX線回折強度データを測定した。Apex2ソフトウェアパッケージ及び構造解を使用してデータ削減を行い、WinGXを介してSHELXS-97及びSHELXL-97を使用して精密化を行った。多面体結晶モデルを用いた数値解析吸収補正を使用して、入射及び回折ビーム吸収効果の補正を適用した。
【0267】
{Mo102}の結晶構造において、Mo原子位置は、サルフェートリガンドのかなり明確な位置無秩序である。クラスタ、溶媒分子及びNa原子上のオキソ及びサルフェートリガンドは、結晶学のみで完全に解析するのは困難である。したがって、最終的な分子式は、元素分析、熱重量分析及び結晶学の組合せにより決定された。構造の高溶媒含量に起因して、反射データは弱く、いくつかのcheckcif警告を生じる。複数のバッチに対して数回データを収集したが、構造は非常に明確で再現性がある。
【0268】
{Mn5}において、クラスタ上の全ての原子は非常に明確であり、溶媒部分のみが無秩序であったが、主要な構造は非常に明確である。全体的な化合物の式は、主に結晶学及びCHN分析により決定された。結合原子価計算を行い、Mn中心の酸化状態を決定した。
【0269】
X線データ
H716Mo102Na12O688S12、Mr=22176.2g mol;結晶サイズ0.09×0.08×0.04mm3;六方晶系、空間群、R−3m、a=32.2189(13)、c=54.059(2)Å、V=48598(4)Å3、Z=3、T=150K、ρ計算値=2.273g cm−3、μ(Mo Kα)=2.078mm−1、113168測定反射、10858独立(Rint=0.177)(全ての計算において使用された);構造解及び精密化は、WINGXを使用して行われた。最終R1=0.121及びwR2=0.389(全データ)。
【0270】
C60H78Mn5N6O21、Mr=1493.98g mol−1;結晶サイズ0.30×0.10×0.04mm;斜方晶系、空間群、Pca21、a=22.3613(3)、b=15.2985(3)、c=42.4185(7)Å、V=14511.1(4)Å3、Z=8、T=150K、ρ計算値=1.368g cm−3、μ(Mo Kα)=0.917mm−1、55250測定反射、22958独立(Rint=0.054)(全ての計算において使用された);構造解及び精密化は、5WINGX[S4]を使用して行われた。最終R1=0.065及びwR2=0.188(全データ)。
【0271】
化合物の元素分析−計算値(実測値)
[Mn3O(C9H9NO2)3(OH2)3(ClO4)]、C 39.36(39.53)、H 4.04(4.01)、N 5.10(5.13);
[Mn3O(C9H9NO2)3(C9H13N)3(ClO4]、C 55.18(55.19)、H 5.66(5.68)、N 7.15(7.19);
[Mn5O2(C9H9NO2)6(CH3O)(H2O)3]、C 48.19(47.24)、H 4.63(4.24)、N 6.13(5.94);
[Mn6O2(C9H9NO2)6(C5H9O2)2(H2O)6]、C 46.56(46.99)、H 5.13(4.62)、N 5.09(5.15)。
【0272】
収率
化合物1〜5の結晶の調製は、標的化合物が結晶化した溶液を産生するために使用された流量への直接的な関連性を提供した。したがって、次いでポンプを反復的にこれらの流量で動作するようにプログラムし、所望の溶液組成物のそれぞれの複数のバッチを回収して、それにより標的生成物のそれぞれの生成を直接的にスケールアップすることができる。
【0273】
化合物1〜3に対して回収された結晶化の複数のバッチにわたり、得られた結晶性材料の収率は、バッチの各セット全体で一貫して高い値を維持した。条件36(dF)の反復バッチからの{Mo36}の平均収率は、10の反応にわたり78.7±5.3%であり、条件25(cE)の反復バッチからの{Mo154}の平均収率は、10の反応にわたり39.9±2.8%であり、条件29(cI)の反復バッチからの{Mo132}の平均収率は、10の反応にわたり49.4±4.4%であった。これは、文献において以前に報告された単一バッチ手順に一致している((a)Inglis et al. Chem. Commun. 2008, 45, 5924-5926、(b)Inglis et al. Dalton Trans. 2009, 42, 9157-9168、(c)Inglis et al. Dalton Trans. 2009, 18, 3403-3412、(d)Kozoni et al. Dalton Trans. 2009, 42, 9117-9119を参照されたい)。個々のバッチ収率を、図15〜17に示す。
【0274】
配位化合物
組み合わされた発見及びスケールアップ合成アプローチの大まかな範囲をさらに実証するために、様々な配位化合物を標的とした。選択された化合物は、以下の形態であった:MnO(Et−sao)(MeOH)(ClO)(6)、MnO(Et−sao)(tBuPy)(ClO)(7)、Mn(Et−sao)(MeO)(HO)(MeOH)2(8)、及びMn(Et−sao)(Piv)(MeOH)(9)。オキシムベースの{Mn3}から{Mn6}クラスタは単分子磁気(SMM)挙動を示すことが知られているため、これらの化合物は、その興味深い磁気特性で知られている((a)Inglis et al. Chem. Commun. 2008, 45, 5924-5926、(b)Inglis et al. Dalton Trans. 2009, 42, 9157-9168、(c)Inglis et al. Dalton Trans. 2009, 18, 3403-3412、(d)Kozoni et al. Dalton Trans. 2009, 42, 9117-9119を参照されたい)。SMMの合成及び物理分析は、情報蓄積、分子スピントロニクス、量子計算及び磁気冷凍においてこれらの材料が有し得る潜在的応用に起因して、配位化学における集中的研究領域である((a)Bogani et al. Nat. Mater. 2008, 7, 179-186、(b)Evangelisti et al. J. Mater. Chem. 2006, 16, 2534-2549、(c)Zheng et al. J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 1057-1065、(d)Leuenberger et al. Nature 2001, 410, 789-793、(e)Lehmann et al. Nat. Nano 2007, 2, 312-317、(f)Karotsis et al. J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 12983-12990を参照されたい)。しかしながら、POMと同様に、このさらなる注目は、SMM発見及び合成のスケールアップが、そのようなシステムのより広範な開拓及び調査を妨げる主要な障壁であるにもかかわらず、標準的な卓上バッチ手順を超える新たな合成法の開発をもたらしていない。
【0275】
ポンプ及び配管を備える使用されたフロー化学システムは、POM試薬セット(すなわち化学的入力)を様々なSMM合成に関連するセットにより置き換えたことを除き、以前のPOMの例から不変のままであった(図5を参照されたい)。SMM合成のために選択された試薬セットは、希釈用の試薬グレードMeOH;Mn源としてのMeOH中の0.5M Mn(ClO4)2・6H2O;塩基としてのMeOH中の0.5Mトリエチルアミン(TEA);並びにリガンドとしてのMeOH中の0.25Mエチルサリチルオキシム(Et−saoH2)、MeOH中の1.5M 4−tert−ブチルピリジン(tBuPy)、MeOH中の0.125Mピバル酸(Piv)、及びMeOH中の0.125M 2−ヒドロキシメチルピリジン(HMP)からなっていた。POMベースプロセスと同様に、配位クラスタのファミリーは、直接的で迅速な様式で得られた。
【0276】
Mn3O(Et−sao)3(MeOH)3(ClO4)
SMM化合物Mn3O(Et−sao)3(MeOH)3(ClO4)(6)にまつわる反応パラメータをスキャンするために、POM発見と同様のスキャンプログラムを適用した。開始点(反応番号1、aA)を、8:2(すなわち、体積で80%MeOH及び20%試薬溶液)の初期希釈比に設定し、Mn対TEA比を1:1の一定体積比に設定し、Et−saoH2リガンドをまず0%に設定した。次いで、Mnに対するEt−saoH2含量を、第1の行にわたって10%の増分で90体積%に増加させた。アレイにおける第2の行(行b)は、6:4に設定された希釈比で出発し、Et−saoH2含量は0%にリセットされた。次いで、TEA及びMnに対するEt−saoH2の比を、アレイの各行にわたって増加させ、一方希釈係数は列の下に向けて減少させた。驚くべきことに、アレイにおける50の反応のうちほぼ半数が、4〜5日間の静置後に暗色の四角/矩形ブロック結晶の形成をもたらした(結晶学的単位格子チェック及びCHN元素分析により化合物6として特性決定された)。アレイからの多数の結晶化の成功により、各反応に対する理論的Mn含量に基づいて、生成物の収率マップを計算した(図6を参照されたい)。収率マップグラフを検査すると、リガンド対Mn比が1:1に維持される限り、濃度と共に増加する生成物収率の全体的な傾向が示される。これは、生成物構造及び元の報告されたバッチ調製の条件と一致している(Inglis et al. Chem. Commun. 2008, 45, 5924-5926を参照されたい)。
【0277】
他のクラスタ
クラスタプロセスを拡大するために、同様のフロー化学システムを、化合物7、Mn3O(Et−sao)3(tBuPy)3(ClO4)、化合物8、Mn5O2(Et−sao)6(MeO)(H2O)(MeOH)2及び化合物9、Mn6O2(Et−sao)6(Piv)2(MeOH)6に対して設定した。
【0278】
化合物7に対して、開始点(反応番号1、aA)を8:2(すなわち、体積で80%MeOH及び20%試薬溶液)の初期希釈比に設定し、Et−saoH2対Mn対TEAの比を2:1:1の一定体積比に設定し、Mnに対するリガンドの量はまず0%であった。tBuPy量(Mnに対する体積による量)及び希釈比の変動はその後、アレイ出力における複数の反応において、化合物7の結晶化の成功をもたらした。
【0279】
同様に、化合物8及び9は、Et−saoH2、Mn及びTEA入力に対する他のリガンド源の変動により得られた。
【0280】
結論
上記は、無機クラスタの分子発見のためのフロー化学システムである。システムは、化学的入力試薬溶液の流量の自動化調節を使用する。システムはまた、所望の生成物が特定後すぐにスケールアップされ得るようにする。
【0281】
直接的にスケールアップ可能な反応条件の自動化された発見の概念の最初の証拠として、極めて困難なナノスケールポリオキソモリブデート構造の選択を合成した。オキシムベースMn SMMの小ファミリーを得るための合成アプローチの適用は、配位化学分野全体にわたるこの技術の可能な拡大及び使用の範囲をさらに実証する。クラスタ合成においてそのような方法を使用する能力は、複雑な超分子(supermoecular及びsupramolecular)システムが発見され、それらの合成が最適化される様式を大幅に改変する、このアプローチの可能性を実証する。本明細書に記載のように、また以下で例示されるように、オンライン溶液ベース分析技術((a)Lange et al. Chemical Science 2011, 2, 765-769、(b)McMullen et al. Angew. Chem. Int. Ed. 2010, 49, 7076-7080、(c)Parrott et al. Angew. Chem. Int. Ed. 2011, 50, 3788-3792、(d)Rasheed et al. Angew. Chem. Int. Ed. 2011, 50, 357-358、(e)Miras et al. Science 2010, 327, 72-74を参照されたい)と共にこの技術を採用することは、無機ナノ材料系及び複雑な有機反応系等の、所望の生成物の合成を発見、最適化及びスケールアップすることができる、完全に自動化された反応構成をもたらす。
【0282】
自己組織化ナノクラスタ
最小限の人間による入力で自己組織化ナノクラスタを調製するためのプロセスを、以下に説明する。コンピュータ制御された進化的アルゴリズムの使用は、進化的な様式での自己組織化ナノ構造の開発のための主要な実現技術である。無作為基点から開始し、いかなる以前の情報もなしに、システムは、ユーザの仕様を満足する生成物に向かって適者生存のメカニズムに従い進化する。概念の証拠として、本発明者は、シンプレックスベースアルゴリズムにより制御される完全自動化システムが、最小限の人間のインタラクションで2つの異なる複雑なPOMを合成することができる構成を開発した。
【0283】
混合反応生成物を監視し、進化的アルゴリズムで動作する制御システムにフィードバックを提供するために、in−situ分析技術が開発されたが、制御システムは、後の調製を誘導するように意思決定することができる。各化合物を自己組織化させるのに必要な反応条件に対応する化学的な適応度地形が決定された。これは、自己組織化ナノ材料の合成を誘導するために進化的アルゴリズムが使用されたプロセスの最初の例と考えられる。
【0284】
この例において、コンピュータ制御反応システムを使用して、例えば図20に示されるような他の可能性の広範なコンビナトリアルライブラリから、2つの異なる複雑な自己組織化ナノ構造材料を選択的に生成することが可能であることが示される。このシステムにおいて、2種のポリオキソメタレート(POM)、すなわち大型のモリブデン環{Mo154}及びケプレラートボール{Mo132}が、最小限の人間による入力を使用して合成されている。
【0285】
異なる反応構成において、各化合物を選択的に生成するために、方向に基づくNelder-Meadシンプレックスアルゴリズムを使用して、POMの構成要素からなる3つ及び4つのパラメータが同時に最適化された。in−situ UV−Vis分光法及びpH測定を使用して、反応の進行が監視された。取得されたデータを使用して、進化の各サイクルの適応度が計算され、これがアルゴリズムに供給されて、所望の生成物まで知的に進化した。
【0286】
環の適応度関数は、pH1で最適であり、色は青色であり、ボールの適応度関数は、pH4で最適であり、色は褐色である。単一目的最適化問題を確認するために、パラメータは両方とも正規化され、集計された。DLS及びラマン分光法によるさらなる特性決定により、実験結果が検証された。フローシステム構成の概略図を、図19に示す。
【0287】
標的
自然進化に平行して、システム内の染色体は、4つのパラメータ、又は遺伝子で構成される。これらのパラメータは、異なる生成物を合成するために必要な4つの化学的入力、すなわちモリブデン、酸、還元剤及び緩衝剤を含む。モリブデン源としてNa2MoO4・2H2Oの水溶液を使用し、還元剤としてNa2S2O4及びヒドラジンを使用した。pHは、HClを用いて調整され、緩衝溶液は、AcOH及びNH4OAcを混合することにより形成された。標的ポリオキソメタレートは、{Mo154}と呼ばれる(10)Na15[MoVI126MoV28O462H14(H2O)70]0.5[MoVI124MoV28O457H14(H2O)68]0.5・約400H2O、及び{Mo132}と呼ばれる(11)(NH4)42[MoVI72MoV60O372(CH3COO)30(H2O)72]・約300H2O・約10CH3COONH4であった(図7を参照されたい)。
【0288】
プロセスステップ
まず、無作為な量の化学的入力を、反応空間内で混合した。追加速度は、全ての試薬が同時に混合されることを確実とし、混合における問題を排除するように導入される体積に関連した。このプロセスを、N+1回反復した(Nは、化学的入力の数、すなわちポンプの数である)。その後、反応空間に添加される試薬の量をシステムに決定させた。各ポンプに、任意の反応混合物に0mL〜5mLの範囲の任意の体積の試薬を提供させた。これは、システムへのさらなる物理的入力としてみなすことができる。
【0289】
【表1】
【0290】
まず、構成A及びBに対して、上記表1に示されるように3つのパラメータのみを変動させて各化合物を合成した。最初に比較的希薄な条件を用いて、3つの化学的入力(3つのポンプ)を使用した。構成Aに対する反応混合物は、モリブデン源、HCl及びジチオン酸ナトリウム(還元剤として)の水溶液の組合せからなっていた。構成Bは非常に類似していたが、酸溶液は、AcOH(50%)及びNH4OAc(4M)の溶液(1:1体積比)を混合することにより得られた緩衝液と交換された。
【0291】
反応物を特性決定するための分析システムとしてUV−Vis分光法を選択し、J1と表記される適応度関数を計算した。好適なスペクトルを得るには、比較的希薄な条件が必要であった。適応度関数は、単回測定に基づいた。実際に、これは
=Amax−Amin [1]
と定義されたが、式中、Amax及びAminは、化合物が吸収すると予想される波長での吸光度に対応する。定義上、シンプレックスアルゴリズムは、関数を最小化するように設計される。それにもかかわらず、このシステムにおいて、化合物10及び11の量を最大化することが目的である。したがって、適応度関数を最大化するようにアルゴリズムを修正した。
【0292】
2つの理由から、異なる反応混合物のpHを試験した。まず初めに、これは各化合物が形成されるpH範囲に関する情報を提供する。この情報は、より多数のパラメータが同時に最適化された場合、後に使用された。さらに、化合物調製は文献において十分説明されているため、最適化の結果を検証するためにpHを監視した。
【0293】
{Mo154}
{Mo154}の場合、最大波長を750nmに、また最小波長を400nmに設定した。アルゴリズムは、18サイクル後に最適解のセットを発見した(図8a)。UV−Visスペクトルは、750nmに最大値を有する幅広いピークを示した。最適化された組成物のpH値は、約pH2.1±0.1であり、Moに対する還元剤の最適な量は、7.5%〜18%の範囲内にあることが判明した。これらの条件下で、{Mo154}化合物が形成されるはずである((a)Muller et al. Acc. Chem. Res. 1999, 33, 2-10、(b)Muller et al. Angew. Chem. Int. Ed. 1995, 34, 2122-2124を参照されたい)。図8は、サイクル10からのUV−Visスペクトルの例を示し、これは、J1の最高値の1つを有していた。
【0294】
{Mo132}
同様の条件下で化合物{Mo132}を合成するために、HClの化学的入力を、酢酸及び酢酸アンモニウムの緩衝溶液で置き換えた(表1、構成B)。{Mo132}に対応する吸光度ピークは、455nmの波長にあると予想された。それにもかかわらず、反応の初期段階において、緑色の溶液が観察され、これは数時間後に褐色に変化した。ゆえに、ここでも選択された最大値は750nmであり、最小値は450nmであった。プロセスは何とか薄緑色の溶液を生成したが、これは長時間(約5時間)かけて褐色に変化した。得られた混合生成物の酸性度は、一貫してpH4.3±0.1であったが、これは、{Mo132}を形成することが予想されるpHに対応する(Muller et al. Angew. Chem. Int. Ed. 1995, 34, 2122-2124)。しかしながら、Moに対する還元剤の量は、60%〜100%の範囲内にあることが判明し、これは通常報告されているもの(Muller et al. Angew. Chem. Int. Ed. 1998, 37, 3359-3363)より高い。結果として、淡褐色沈殿物が観察されたが、これは恐らく、モリブデン種及び塩の混合物に対応する。
【0295】
DLS測定
構成Aにおける生成物のDLS測定は、モリブデン環に関して本発明者らによりつい最近報告された値と一致して、3.6nmの粒径を有するナノ粒子の存在を示した(Miras et al. submitted to J. Am. Chem. Soc. - Solution Phase Monitoring of the Structural)。
【0296】
構成Bにおいて得られた生成物試料は、{Mo132}のサイズに一致して、2.8nmの粒径を有するナノ粒子の存在を示した(Muller et al. Coord. Chem. Rev. 2001, 222, 193-218)。
【0297】
これらの結果は、本システムが、UV−Visのみを使用して、10及び11が自己組織化する組成及びpH値に関していかなる予備知識もなしに、両方の化合物を合成することができることを証明している。特筆すべきことに、3つの化学的入力を用いた実験は、各化合物が形成されるpHの範囲を発見するために有用であった。
【0298】
図9は、{Mo154}及び{Mo132}の調製中に得られた2つの溶液に対するDLS結果を示す。結果は、3.6nm({Mo154}に対応)及び2.8nm({Mo132}に対応)の流体力学直径を有するナノ粒子の存在を示している。
【0299】
{Mo154}及び{Mo132}
{Mo154}及び{Mo132}の両方を別個に合成することに成功した後、4つの化学的入力が提供されるより困難なシナリオを試みた。ここでは、モリブデン源、還元剤、酸及び緩衝剤を反応空間に供給するために4つのポンプが提供された(表1、構成Cを参照されたい)。より高濃度の試薬、及び還元剤としてのヒドラジンの使用は、所望の生成物の結晶化に有利であると予想された。重要なことに、これらの条件下で、{Mo154}及び{Mo132}の両方を形成することができる。
【0300】
化合物10及び11の最初の調製物からのUV−visスペクトルは非常に類似しており、したがって、UV−visのみを使用して生成物を区別することは不可能である。ゆえに、適応度関数を構築するには、第2の分析技術が必要である。各化合物が明確な範囲のpH値を形成することが以前の実験において観察されていることから、in−situ pH測定を分析システムにおける使用に選択した。
【0301】
多目的最適化問題は、優位性ベースの方法を使用して解くことができる(Yu et al. Introduction to Evolutionary Algorithms 2010, Springer-Verlag, London)。このようにして、UV−Vis及びpH読取値に対応する結果が正規化され、重み因子Xを使用して以下の全体的J2値に対する各パラメータの重要性を制御しながら、単一の総適応度関数[2]に加えられた:
【0302】
【数1】
【0303】
式中、Xは、重み因子であり、Amax及びAminは、試験された最大及び最小波長での吸光度に対応し、Arangeは、最大吸光度と最小吸光度との間の予想される最大差であり、pHexpは、観察されるpHの実験値であり、pHobjは、所望のpHであり、pHrangeは、予想される変動範囲である。このように、アルゴリズムは、最大及び最小吸光度が予想される波長、並びに異なる化合物が形成するpHの入力を必要とする。各寄与の相対値、並びに吸光度及びpH変動に対する2つの範囲値は、尺度を正規化するように機能する。
【0304】
全てのパラメータが正確に定義されれば、最適なJは1となる傾向を有するはずである。試験された波長間の吸光度の変化は、予備実験において観察されたように、0.4を超えることは予想されなかった。ゆえに、Arangeは0.4に設定された。pHの範囲に関して、モリブデンの最初の溶液は7.3のpHを有し、一方HClの濃度は0.1Mである。アルゴリズムが大量の任意の試薬を導入することを決定する可能性は低いと考えられたため、pH値は、5以下だけ変動すると予想された。ゆえに、これは、pH結果を正規化するために使用される値であった。
【0305】
【表2】
【0306】
以前の実験において、pHが、ポリオキソメタレートの自己組織化のための決定因子であることが観察されている。上述のように、自己組織化反応の初期段階における{Mo154}及び{Mo132}のU10V−Visスペクトルは、非常に類似している。したがって、試験された全ての場合においてこのパラメータにより高い重みを適用する優位性ベースのアプローチが使用された。
【0307】
まず、前の実験の場合と同じUV−Vis分析の波長を選択し、pHobjを1.7に設定した(表2、番号1)。これらの条件下で、48サイクル後に達成された適応度因子の値は、0.85であった。適応度関数の高い値にもかかわらず、モリブデンに対するヒドラジンの比は、過剰に高いことが判明した。これは、酸の濃度が高いサイクルにおいて観察された沈殿Mo種の形成により説明することができ、これは、アルゴリズムによりモリブデンの量を低減することによって補償された。
【0308】
単一の総適応度関数を使用することの周知の制限は、相反する効果を有する可能性である。この点は、一実験において観察され(表2、番号2)、結果の好適なセットは、確立された値から比較的遠いpHで見出された。実際に、適応度関数を最大化するように機能したUV−Visスペクトルから得られた最適値により、pHは、55サイクル後に約pH1.3の値に安定した。
【0309】
{Mo154}の形成は、1.4から始まるpHで生じ得るが、これは測定誤差の範囲内である(Shishido et al. J. Am. Chem. Soc. 2008, 130, 10588-10595)。したがって、J2の値が予想より低かったとしても、所望の生成物が形成された。最小波長を990nmに設定して、10を合成するための別のアプローチを試みた(表2、番号3)。適応度関数は、2.0〜2.3の範囲内のpH値及び0.3〜0.35:1の還元剤対Moの比で最大化された。これは、還元されるべきモリブデン中心の数が考慮される理論的予想値よりも高い。
【0310】
図10に示されるように、スキャンされた4つのパラメータの濃度プロファイルにおける大きな変動が、最適化の初期段階中に観察された。その後、システムは、約50サイクル後に好適な組成を発見でき、次いで化学的及び物理的入力の細かい精密化のために変動はほとんど必要なかった。
【0311】
この試験の間、5サイクルにわたり、サイクル35で酸溶液を除去することにより、最適化アルゴリズムの堅牢性を試験した。これにより、実験pHの増加がもたらされ、その結果、システムの適応度の急激な低下がもたらされた。それにもかかわらず、酸溶液を再び接続した後、適応度値は3サイクル以内に回復した。
【0312】
化合物11の合成は、単純に最小波長を450nmに、また目標pHを4.3に設定することにより達成された。わずか23サイクルで、観察されるJ2の値は0.98超であった。この合成は、使用した高濃度の緩衝剤に起因して、10と比較してより容易であったが、この高濃度の緩衝剤は、pHの変換を、{Mo132}クラスタを形成するために必要な範囲まで促進した。ここでも、ヒドラジン対Moのモル比は約0.45:1であったが、これは文献において報告されている条件より高い。これは、調合物が、通常生成物の結晶化のために最適化されることに起因する。それにもかかわらず、より多量の還元剤は、結晶化により得られる量より多量の生成物の沈殿に有利であり、より高収率の単離材料をもたらすことが示されている。
【0313】
本明細書において提供されるシステムは、反応の初期段階における溶液中の生成物の量を最大化するように設計される。したがって、多量の還元剤は、モリブデン中心の還元に有利であるため、論理的には、多量の還元剤が両方の生成物の形成に有利となるはずである。それにもかかわらず、興味深いことに、過剰の還元剤はモリブデンの過剰還元をもたらし得ることが分かる。両方の化合物の形成は、自己組織化が迅速で効率的であることを示す。
【0314】
構成Cでの両方の化合物の合成において得られたJ2値の組合せは、各生成物が合成された2つの明確な領域を有する化学的な適応度地形を示す。{Mo154}は、より広範な範囲のpH値及び試薬組成で形成され得る。これは、これらの化合物に関して報告されている異なる構造変動に一致している(Shishido et al. J. Am. Chem. Soc. 2008, 130, 10588-10595)。{Mo132}は、より狭い条件枠内で形成される。自己組織化プロセスの複雑性は、複数解が存在しないことにより最適化が比較的単純な作業である他の種類の化学システムとは対照的に、複数の最適点の存在により反映される(Moore et al. Chemical Science 2011, 2, 417-424)。両方の化合物が明確に異なる条件下で形成されるとしても、多目的最適化アプローチの使用は、所望の化合物を効率的に合成するための基礎である。ゆえに、適応度関数[2]が正確なパラメータでプログラムされる限り、アルゴリズムは、試験されたいかなる場合においても好適な解を発見することができる。
【0315】
図11は、pH及びMo源に対する還元剤(ヒドラジン)の比の関数としての、{Mo154}及び{Mo132}の合成のために得られた複合的な適応度地形を示す。結果は、J関数が最大化された空間領域を示している。
【0316】
結晶化
回収した試料は、結晶化させるために1ヶ月超放置した。化合物10の場合、大量の沈殿物があったが、光学顕微鏡観察では、単結晶X線回折により特性決定されるのに十分大きな結晶の存在は示されなかった。それにもかかわらず、粉末のラマン分光法による特性決定では、{Mo154}の存在が確認された(図12)。{Mo154}の結晶試料は、参照として使用され、有意な差は観察されなかった。実験の条件は結晶化のために最適化されていないため、XRDに好適な結晶が特定され得なかったことは驚くべきことではない。{Mo132}の場合、沈殿した粉末から得られたラマンスペクトルは、Muellerらにより最近報告されたデータと一致した。
【0317】
ラマン分析は、溶液から光学顕微鏡(Olympus 100x)を使用して検出された微細結晶を用いて行った。これらの結果により、使用された実験条件下での化合物10及び11の形成が確認される。
【0318】
結論
上で説明されているのは、Nelder-Mead最適化アルゴリズムを使用することにより、複雑な自己組織化ポリオキソメタレートを進化的な様式で合成するために自律的構成を使用するプロセスである。構成の効率は、反応空間に供給する3つの化学的入力を使用して、{Mo154}及び{Mo132}を別個に合成することにより実証された。流量及び体積の制御は、反応混合物へのさらなる物理的入力を提供した。
【0319】
UV−Vis分光法は、プロセスの効率的監視を提供することが示され、また、適応度関数を計算し、それによりさらなる生成物の調製を制御するためにスペクトルが使用された。{Mo154}及び{Mo132}の両方の形成が、DLSにより確認された。これらの実験は、各化合物が形成されるpH範囲に関する追加的情報を提供する。
【0320】
より困難なシナリオにおいて、大型の{Mo132}ケプレラート及び{Mo154}環を合成し、それらを区別することが可能であることが、その両方を潜在的に形成し得る反応条件下で証明された。溶液のUV−Visスペクトル及びpHの同時最適化に基づく多目的最適化アプローチの使用は、材料を形成する上で非常に効果的であった。ラマン分光法では、両方のクラスタの存在が確認された。
【0321】
進化化学物質
本発明のプロセスはまた、特に逐次的有機反応における、有機化合物の調製のための方法の進化における使用に好適である。
【0322】
有機化学は、特性若しくは標的ベース(又はそれらの組合せ)であってもよい適応度関数を使用して誘導され得る。乱数の種、変異、及びセンサに基づく入力を使用した適応度関数は、アレイ全体が合成及び試験されることを必要とせずに、反応の組合せアレイを介した経路上に合成経路を誘導する。これは、フローシステムにおいて一連の反応を順次組み合わせる。
【0323】
例示的システムは、「n」個の直交官能基を有するコア骨格、及び官能基当たり「m」個の異なる試薬を使用し得る。また、システムは、フロー反応器内での「o」個の異なる滞留時間、及び「p」個の他の条件、例えば温度、濃度を許容し得る。1つの状況において、3つの異なる滞留時間oがあってもよく、これは3つの異なる結果(m、n及びpの各組合せに対して)をもたらし得る。コアが3つの官能基を有し、各基が、3つの異なる滞留時間及び3つの異なる温度で、9つの試薬の1つと反応し得る場合、243の異なる生成物の可能性が存在する。さらなる選択肢が存在する場合、可能な生成物の数は大幅に増加する。
【0324】
完了に至らない反応(例えば、最初の構成において許容される滞留時間で)でも、可能な反応空間の進化的探索における有用な情報をまだ提供することに留意することが重要であるが、これは、そのような結果が、極めて反応性の系と組み合わされると、高度の変動性をもたらすためである。完了に至っていない反応は、その反応への入力が所望の生成物の結果に関連付けられた場合、後に「再開」されてもよい。
【0325】
実際に、極めて変動性の反応の使用は、進化的な力学を確立するための良好な手法であり、多くのライブラリ/アレイが、コンビナトリアルケミストリーの文献から利用可能である。
【0326】
進化化学物質(ECE、Evolved-Chemical-Entity)プロセスにおいて、全ての選択肢を通して一度に1つの経路のみが採択され、各選択肢が記録されることに留意することが重要である。各経路からの生成物が測定され、所望の結果(標的アッセイ又は分子)と比較され、ユーザ仕様に対する適応度値が割り当てられる。経路からの情報のフィードバックは、適応度と合わせて、及び無作為変異の可能性と合わせて、進化を生じさせる。
【0327】
概念的プロセスの証明において、2段階反応の生成物を調査した。第1のステップはディールス−アルダー(Diels−Alder)反応であり、第2のステップとしてアミノ化が続いた。一般的反応スキームを以下に示す。
【0328】
【化1】
【0329】
進化的ステップの検証のために、最初の実験は、試薬と比較した生成物のIR吸収における変化により定義された適応度関数を検討した。IR分光法は、フローシステムにおける生成物及び試薬の両方の迅速な分析を可能にし、システムが生成物から試薬に極めて迅速にフィードバックできるようにする。IR分光法は、化学者がある特定の主要な共有結合(例えばカルボニル結合)の存在及び非存在を決定できるようにする上で有用であることが周知である。
【0330】
反応系は、フローシステムにおけるアルデヒド化合物(1−3)との反応のためのコアシクロペンタジエン(B)を提供した。得られた環状付加物(B1−3)をアミン(4−6)と反応させ、9種の可能なイミン生成物(B1−3、4−6)を提供させた。さらなる研究の一部として、そのイミンを還元し、得られたアミンを反応させて第3アミン生成物を提供させることができる。最初の実験は、最初の2つの反応ステップを考慮した。
【0331】
この例において、自動化された様式で8つのシリンジポンプを使用したフローシステムにおいて、化合物の2つの産生が自動的に産生された。1つのシリンジポンプは、シクロペンタジエンを供給し、3つのポンプは、各アルデヒド化合物を供給し、3つのポンプは、各アミンを供給し、最後のポンプは、洗浄サイクルのために含められた。ディールス−アルダー反応を触媒するために、PTA(0.05mol%)の供給もまた提供された。
【0332】
シクロペンタジエン、及びアルデヒド化合物の1つが、第1の反応器(R1)に供給された。生成物材料は第2の反応器(R2)に導入され、これにアミン化合物の1つが供給された。
【0333】
無水THF中の3M試薬溶液を使用して実験を行った。産生物B1−3及びB1−3、4−6を以下に示す。
【0334】
【化2】
【0335】
R1において、コア分子Bを、等モル体積のジエノフィル1−3及び触媒と合わせた。R2において、反応器R1からの混合物を添加すると、無水THF中の1.5M溶液が得られ、それにTHF中の3M溶液の1つを、環状付加物B1−3の流量の半分の流量で流入させて、アミン4−6のアルデヒド:アミン比を1:1(mmol:mmol)に維持した。
【0336】
それぞれの完全な反応後に得られた、化合物B1−3、4−6を含有する反応混合物を、自動化された様式でスペクトルを得るようにプログラムされたATR−IRフローセルと同調させて分析した。各合成サイクルが完了した後、システムをポンプ番号8(溶媒のみ)で清浄化して、新たなスペクトルの収集を開始する前にフローATR−IRセルを清浄化した。R1がATR−IRフローセルに直接接続されて2段階反応と同じ滞留時間が維持された別個の実験において、第1の産生に対するIRスペクトルを取得した。以下の表において、これらの実験を行うために使用された2つの産生の自動化された合成に対するフロー条件を報告する。
【0337】
【表3】
【0338】
予想されるように、より高い温度又はより長い滞留時間で行われた実験は、より高い変換速度を提供する実験である。例えば、最も短いt(表3、番号3及び7)で行われた2つの実験において、化合物B(アルデヒド部分のピークが1699cm−1にある)のB1(アルデヒド部分のピークが1715cm−1にある)への変換は、50℃よりも20℃で行われた場合により低い。
【0339】
実験は、計画されたフロー構成の条件に近づくように無作為に行われたが、この構成は、反応結果に従い可能な経路のネットワーク上を移動し、知的アルゴリズムにより良好な結果を有するものを発見する。それを達成するために、各実験から収集されたATR−IRデータは、一般的反応の結果に相関する普遍的な数学的パラメータを発見するために、異なるように半自動的に処理された。最初の新たなフロー構成は、取得されたIRスペクトルをシミュレートされたものと比較するようにプログラムされたが、選択されたものとの(80%の)類似性を有するスペクトルが発見されたら、反応物質の混合は自動的に停止されるべきである。
【0340】
反応が生じたかどうかを導出するために、実験スペクトルを、出発材料からのスペクトルの合計と逐一比較し、最小2乗誤差(MSE)の計算を可能にしたが、これは、1つのスペクトルが他のスペクトルとどれ程異なっているかを示す。第1の産生において、実験のそれぞれのMSEの値は、環状付加物内のコア分子の変換が30%を超える場合、10−3より高く、化合物B1、B2及びB3の結果が以下の表に要約される。
【0341】
【表4】
【0342】
このようにして、新たな反応及び産生物を探すための観察可能な適応度関数としてMSEを使用することができる。また、IRスペクトル間の差が分子多様性の良好な指標である場合(新たな結合が新たな振動屈曲、伸縮及び他のモードを提供する)、この実装は、限定された試薬プールからの新たな分子多様性の進化を可能にする。
【0343】
参考文献
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