(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6276270
(24)【登録日】2018年1月19日
(45)【発行日】2018年2月7日
(54)【発明の名称】フラン誘導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 307/46 20060101AFI20180129BHJP
【FI】
C07D307/46
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-529037(P2015-529037)
(86)(22)【出願日】2013年9月2日
(65)【公表番号】特表2015-526494(P2015-526494A)
(43)【公表日】2015年9月10日
(86)【国際出願番号】EP2013068051
(87)【国際公開番号】WO2014033289
(87)【国際公開日】20140306
【審査請求日】2016年8月29日
(31)【優先権主張番号】12182758.8
(32)【優先日】2012年9月3日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】511259474
【氏名又は名称】アニッキ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】ANNIKKI GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100114465
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 健
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(72)【発明者】
【氏名】ミホフィロフィク,マルコ
(72)【発明者】
【氏名】ショーン,ミハエル
(72)【発明者】
【氏名】オルブリング,ヨハンナ
【審査官】
伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2012/015616(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0142599(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0016141(US,A1)
【文献】
国際公開第2012/038967(WO,A1)
【文献】
米国特許第04590283(US,A)
【文献】
国際公開第2012/088208(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0071306(US,A1)
【文献】
中国特許出願公開第102212046(CN,A)
【文献】
中国特許出願公開第102558109(CN,A)
【文献】
中国特許出願公開第101475543(CN,A)
【文献】
特開2007−277198(JP,A)
【文献】
特表2009−529550(JP,A)
【文献】
Mol Divers,2011年,15,pp.639-643
【文献】
Green Chemistry,2011年,13,pp.1114-1117
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus/REGISTRY/CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸触媒の存在下で炭水化物からフラン誘導体を製造するための方法であって、
N−メチルピロリドンが溶媒として使用されること、
前記酸触媒が均一であること、
前記方法が連続プロセスとして行われること、
反応が100から220℃の温度で行われること、および
反応時間が30秒から20分であること、
を特徴とし、前記フラン誘導体がアルデヒドによって置換されたフランであり、前記炭水化物が糖である、方法。
【請求項2】
前記フラン誘導体が5−ヒドロキシメチルフルフラールであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記炭水化物がフルクトースであることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
N−メチルピロリドンが共溶媒として使用されることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記酸触媒が硫酸または塩酸であることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
反応が125から200℃の温度で行われることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
反応が140℃から170℃の温度で行われることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
反応時間が1分から10分であることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
反応時間が2分から6分である、請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸触媒の存在下で炭水化物からフラン誘導体を製造することに関する。
【背景技術】
【0002】
炭水化物からフラン誘導体を製造する多数の方法が知られている。
【0003】
そのような方法において、いくつかの異なる酸触媒が使用されている:一般的な無機酸(たとえば、Chheda,J.N.;Roman−Leshkow,Y.;Dumesic,J.A.Green Chem.2007、9、342〜350を参照):有機酸(たとえば、シュウ酸)、H型ゼオライト、遷移金属イオン(たとえば、Young,G.;Zhang,Y.;Ying,J.Y.Angew.Chem.Int.Ed.2008、47、9345〜9348;Tyrlik,S.K.;Szerszen,D.;Olejnik,M.;Danikiewicz,W.Carbohydr.Res.1999、315、268〜272を参照);固体金属リン酸塩(たとえば、Asghari,F.S.;Yoshida,H.Carbohydr.Res.2006、341、2379〜2387を参照);強酸性カオチン交換樹脂(たとえば、Villard,R.;Robert,F.;Blank,I.;Bernardinelli,G.;Soldo,T.;Hofmann,T.J.Agric.Food Chem.2003、51、4040〜4045を参照)。
【0004】
そのような方法において、溶媒としての水は、グリーン溶媒として集中的に研究された。バイオマスおよび水を含有するシステムは、グリーンアプローチを代表するが、他方、許容できる収率を得るために、>300℃の温度かつ20MPaほどの圧力を必要とする(たとえば、Qi,X.;Watanabe,M.;Aida,T.M.;Smith Jr.,R.S.Cat.Commun.2008、9、2244〜2249を参照)。
【0005】
酸触媒の存在下で炭水化物から製造することができるフラン誘導体は、5−ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)を含む。HMFの製造方法は公知である。水溶液中、均一系および不均一系酸触媒を使用して、炭水化物から出発してHMFを製造することができる。HMFの達成される収率は、炭水化物源および厳密な反応条件に応じて30から60%の間である。反応溶媒として水を使用する際の欠点は、副生成物、特に、レブリン酸および不溶性フミンが形成されることである。さらに、これらの反応は、最高300℃かつ27MPaの非常に厳しい条件で行わなければならない(たとえば、Bicker,M.、Kaiser,D.、Ott,L.、Vogel,H.、J.of Supercrit.Fluids 2005、36、118〜126;Szmant,H.H.、Chundury,D.D.、J.Chem.Techn.Biotechnol.1981、31、135〜145;Srokol,Z.、Bouche,A.−G.、van Estrik,A.、Strik,R.C.J.、Maschmeyer,T.、Peters,J.A.、Carbohydr.Res.2004、339、1717〜1726を参照)。超臨界条件下でグルコースから出発するフロープロセス(flow process)は、Aida,T.A.;Sato,Y.;Watanabe,M.;Tajima,K.;Nonaka,T.;Hattori,H.;Arai,K.J.of Supercrit.Fluids、2007、40、381〜388によって記述されている。
【0006】
有機溶媒は、HMFの調製においても適切な溶媒であり得るが、重大な制約は、そのような溶媒は、生成物であるHMFから分離することが困難な場合があることである(たとえば、Bao,Q.;Qiao,K.;Tomido,D.;Yokoyama,C.Catal.Commun.2008、9、1383〜1388;Halliday,G.A.;Young Jr.,R.J.;Grushin,V.V.Org.Lett.2003、5、2003〜2005を参照)。さらに、HMFのためにこれまで用いられてきた有機溶媒は、該溶媒がHMF中間体から分離されない場合、HMF誘導体を形成するその後の工程の反応条件に対して不活性ではない。炭水化物からHMFを形成するために一般的に用いられる有機溶媒は、DMSOおよびジメチルホルムアミド(DMF)である。溶媒としての水と比較して、フラン誘導体への炭水化物の反応は、より低い温度(80〜140℃)で、さらに、短い反応時間(30分〜2時間)でHMFのより高い収率(DMSO中で最大95%)で行うことができる(たとえば、Halliday,G.A.、Young Jr.,R.J.、Grushin,V.V.、Org.Lett.2003、5、2003〜2005;WO2009/076627A2を参照)。それにもかかわらず、これらの極性有機溶媒は、たとえば、DMSOが触媒としても作用することから、HMF(および誘導体)へのフルクトース(および他の炭水化物)の脱水を促進する(Amarasekara,A.S.;Williams,L.D.;Ebede,C.C.Carbohydr.Res.2008、343、3021〜3024を参照)。
【0007】
水/DMSOまたは水/トルエンの反応混合物が知られており、連続抽出にも適用されている(たとえば、Chheda,J.N.、Roman−Leshkov,Y.、Dumesic,J.A.、Green Chem.2007、9、342〜350を参照)。反応は140〜180℃で4から6時間の間を要し、最大80%のHMF収率が得られる。
【0008】
イオン液体は、中性溶媒として、またブレンステッド酸としても作用することができ、たとえば、Bao,Q.;Qiao,K.;Tomido,D.;Yokoyama,C.Catal.Commun.2008、9、1383〜1388に開示されているように、イオン液体はさらにシリカゲルに固定され得るが、HMFとイオン液体の分離は依然として困難である。
【0009】
公知のすべての方法に欠点があり、たとえば、溶媒として水を使用する場合は厳しい条件、あるいはDMFまたはDMSOなどの高極性溶媒を使用する場合は単離の問題があり、結果として、高いエネルギーを消費する方法となるおよび/または不十分な純度/収率を生ずる可能性がある。
【0010】
驚くべきことに、今日では、均一な酸触媒作用下で炭水化物からフラン誘導体を製造する際に特定の有機溶媒を使用する場合、反応条件が緩和される可能性があり、その結果として、たとえば、エネルギー消費、生成物の純度、収率、フミンポリマー生成の抑制の点において、プロセスの効率が改善され得ることが見出された。
【発明の概要】
【0011】
一態様では、本発明は、酸触媒の存在下で炭水化物からフラン誘導体を製造するための方法を提供し、N−メチルピロリドンが溶媒として使用されること、および酸触媒が均一であることを特徴とする。
【0012】
本発明により提供される方法は、本明細書において「本発明の(による)方法」ともいう。
【0013】
本発明によれば、溶媒としてN−メチルピロリドン(NMP)を使用することは、NMPが(唯一の)反応溶媒として使用されること、およびNMPが反応共溶媒として使用されることを含み、たとえば、NMPは、単独、または他の無機もしくは有機溶媒と組み合わせて使用することができる。
【0014】
別の態様では、本発明はN−メチルピロリドンが唯一の溶媒として使用されることを特徴とする方法を提供し、また別の態様では、N−メチルピロリドンが共溶媒として使用される。
【0015】
本発明の方法は、バッチプロセスとしてまたは連続プロセスとして、場合によってマイクロウェーブ照射下で行うことができる。
【0016】
別の態様では、本発明は、本発明の方法を提供し、該プロセスがバッチプロセスとして、または連続プロセスとして、場合によってマイクロウェーブ照射下で行われることを特徴とする。
【0017】
本発明の方法では、炭水化物は、好ましくは糖、たとえば、バイオマスから得ることができる糖であり、より好ましくは、脱水してフラン誘導体を得ることができる糖である。そのような糖類は、たとえばC5およびC6糖類、好ましくはフルクトースなどのC6糖類、ならびに天然および合成糖類、たとえばD−(−)−フルクトースなどの天然糖類を含む。
【0018】
別の態様では、本発明は、本発明による方法を提供し、炭水化物がフルクトース、たとえばD−(−)−フルクトースなどの糖である。
【0019】
本発明の方法では、フラン誘導体は、好ましくはアルデヒドによって置換されたフランであり、たとえば、式
【化1】
の5−ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)などのヒドロキシ基によってさらに置換されたフランである。
【0020】
別の態様では、本発明は、たとえば均一系酸触媒の存在下で糖を脱水することを含み、N−メチルピロリドンが溶媒、たとえばまたは共溶媒として使用される、糖から5−ヒドロキシメチルフルフラールを製造する方法を提供する。
【0021】
本発明の方法では、均一系酸触媒が使用される。有用な均一系酸触媒は、本願のプリアンブルに列挙されている。本発明の好ましい一実施形態では、均一系触媒は酸であり、たとえばHCl、H
2SO
4などの無機酸である。
【0022】
別の態様では、本発明は、酸、たとえばHCl、H
2SO
4などの無機酸が均一系触媒として使用されることを特徴とする本発明の方法を提供する。
【0023】
本発明の方法では、反応温度は300℃をはるかに下回ってもよく、たとえば、100から220℃の範囲内、好ましくは125から200℃、より好ましくは140℃から170℃であってよい。
【0024】
本発明による反応の反応時間は、使用される方法に依存する。しかしながら、一般的に反応時間は驚くほど短く、たとえば、30秒から20分、好ましくは1分から10分、より好ましくは2分から6分である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】5.1に従って、触媒として硫酸を用いてバッチで行った実験での経時的スクリーニング(time screening)の結果を示すグラフである。
【
図2】5.2.1に従って、触媒として硫酸を用いてマイクロウェーブで行った実験の結果を示すグラフである。
【
図3】5.2.1に従って、触媒として硫酸を用いてマイクロウェーブで行った実験の結果を示すグラフである。
【
図4】5.2.2に従って、触媒として塩酸を用いてマイクロウェーブで行った実験の結果を示すグラフである。
【
図5】5.2.2に従って、触媒として塩酸を用いてマイクロウェーブで行った実験の結果を示すグラフである。
【
図6】5.3.2に従って、触媒として塩酸を用いてフロー(連続プロセス)で行った実験の結果を示すグラフである。
【
図7】反応スキームI(フルクトース→HMF)を示す図である。
【
図8】厳密な装置(exact setup)を備えた反応スキームIIを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下の実施例において、すべての温度はセ氏(℃)である。
【0027】
以下の略語が(本明細書および実施例において)使用される:
aqu. 水性の CMF 5-クロロメチルフルフラール
cons. 消費 EtOAc 酢酸エチル
HMF 5-ヒドロキシメチルフルフラール HPLC 高速液体クロマトグラフィー
h 時間
IC 相互変換(Interconversion) LA レブリン酸
min 分 NMP N-メチルピロリドン
PDA フォトダイオードアレイ(検出器) RI 屈折率(検出器)
rt 室温
Temp 温度 TFA トリフルオロ酢酸
【0028】
2. 概要
以下の反応スキームIに示すように、標準的なバッチ化学反応、またマイクロウェーブ支援型加熱法および連続フロー化学反応も使用して、様々な反応条件を調べながら、フルクトースからHMFへの脱水反応を行った。驚くべきことに、NMPは、報告されたシステムと比較して、この変換にとって非常に有効な溶媒であることが見出され、特に、均一な触媒作用下でマイクロウェーブおよびフロー化学反応の両方の条件下で行われる方法にとって好適であることが見出された。反応スキームを
図7に示す。
【0029】
3. 材料および方法
すべての反応およびサンプルは、二重の実験として用意した。
【0030】
3.1 材料
D−(−)−フルクトースおよび3−ヒドロキシベンジルアルコールはFlukaから購入した。Aldrich製のレブリン酸を使用して、副生成物の形成を較正した。塩酸および硫酸はBusettiから購入し、所望の濃度まで希釈した。無水NMPはMerckから供給された。
【0031】
3.2 標準物質としてのHMFの合成
標準用として用いるため、HMFを少量の分析用サンプル内に調製した。Hamad,K.、Yoshihara,H.、Suzukamo,G.、Chem.Lett.1982、617〜618に従い、フルクトースをCMFへと反応させ、さらに求核置換反応によりHMFへと変換した。
【0032】
CMF(2g、13.8mmol)および脱イオン水(20mL)をマイクロウェーブ反応用バイアル(microwave vial)に充填し、3分間、80℃まで加熱した。得られた溶液をEtOAcで3回抽出し、合わせた有機層を飽和NaHCO
3水溶液で洗浄し、無水Na
2SO
4で乾燥した。固体を濾過した後、得られた溶媒を減圧下で蒸発させ、粗生成物を得、さらに、クロマトグラフィー(SiO
2、CH
2Cl
2:CH
3OH=95:5)にて精製した。淡黄色の油の形態の純HMF(理論上、1.12g、8.85mmol、64%)を得、これは−30℃で保存時に凝固した。
【0033】
3.3 バッチ反応
特にことわらない限り、すべてのバッチ反応はスクリューキャップ付き4mLガラス製バイアル内で行われ、適切なアルミ加熱ブロックにおいて所望の温度を維持しながら加熱した。
【0034】
3.4 マイクロウェーブによるバッチ反応
バッチでのマイクロウェーブ反応を、シーケンシャル反応に対応可能なオートサンプラーを備えたBiotage Initiator Sixty ラボラトリーマイクロウェーブを使用して行った。吸収レベルを最高可能設定に設定し、最大照射出力を自動的に400Wに調節した。
【0035】
3.5 ストップトフローマイクロウェーブ反応(Stopped flow microwave reaction)および連続フロー反応
半連続方式のマイクロウェーブプロセスを最適化するために、ストップトフロー反応を、CEM(登録商標) Voyagerアップグレードおよび小容量バイアル内の反応用外圧センサーを備えたCEM(登録商標)Discoverシステムにおいて行った。
【0036】
連続フローでの反応を、生成物の自動回収が可能なGilson(登録商標)GX−271オートサンプラーを備えたThalesNano(登録商標)のカートリッジ式反応器システムX−Cubeにおいて行った。2つのクオーツサンドカートリッジ(CatCart(登録商標)、70×4mm)を反応床として据え付けた。
【0037】
代替として、PFA(パーフルオロアルコキシアルカン)毛細管(内径0.8mm、外径1.6mm)をアルミニウムシリンダーに巻き付け、これを所望の温度まで加熱した。出発原料を島津製作所LC−10AD HPLCポンプを適切な流量で使用して注入した。厳密な量(カラム:16.0mL、反応前および反応後の量:それぞれ1.0mL)を、規定の流量、デジタルストップウォッチおよび純溶媒のみを使用して評価した。厳密な装置を
図8に示す。
【0038】
3.5 分析
PDA PlusおよびRI検出器を備えたThermo Scientific(登録商標)Surveyor Plus System、または、同じ検出器を備えたShimadzu(登録商標)Nexeraシステム上でHPLCにより反応分析を行った。分離のために、Phenomenex(登録商標)(Rezex RHM−Monosaccharide H+(8%)、150×7.8mm、スチレンスルホン酸ジビニルベンゼン基質、水素イオンの形態)のイオン排除カラム(ion−exclusion column)を使用し、移動相としてHPLCグレードの水/0.1%HPLCグレードのTFAで操作した。操作温度は85℃に調整し、操作時間は25分に最適化した。生成物の定量化は内部標準法およびRI検出によって達成され、個別のPDA波長は、反応のさらなる評価のために200nm、254nmおよび280nmに設定した。
【0039】
4. 全体の手順
4.1. HPLCサンプルの調製
正確なHPLC定量化を可能とするため、すべての反応サンプルを最大の炭水化物濃度2mg/mLまで希釈した。サンプル(22μL)を脱イオン水(978μL)中に溶解し、内部標準(100μL 3−ヒドロキシベンジルアルコール)を加え、該サンプルを十分に混合した。固体残留物を遠心法(5分間、20.000g)または濾過(Phenex PTFE、4mm、0.2μm)によって分離し、HPLCでの屈折率検出(refractive index detection on HPLC)によって炭水化物および生成物の定量化を達成した。
【0040】
異なる濃度を有する反応サンプルについては、適切に希釈値(dilution value)を適合させて、確実に最大濃度2mg/mLを上回ることがないようにした。
【0041】
4.2 GP1−バッチでのフルクトース脱水
標準的な手順として、フルクトース(100mg、555μmol)および触媒を、磁気撹拌棒を備えたガラス製バイアル内に充填した。蒸留直後のNMP(1mL)を加え、得られた反応溶液を選択した温度で撹拌した。
【0042】
4.3 GP2−マイクロウェーブでのフルクトース脱水
フルクトース(100mg、555μmol)および触媒を、磁気撹拌棒を備えたマイクロウェーブ反応用バイアル(0.5〜2.0mLサイズ)内に充填した。NMP(1mL)を加え、照射出力はマイクロウェーブの調整アルゴリズムによって自動調整した。少なくとも6barの圧力の圧縮空気を供給することで該マイクロウェーブ反応用容器を直接冷却することにより、適切な冷却速度が達成された。
【0043】
4.4 GP3−ストップトフローマイクロウェーブ反応器システムでのフルクトース脱水
フルクトースストック溶液(1mL;c=NMP中、100mg/mL)および塩酸(100μL;c=1mol/L)を、磁気撹拌棒を備えたマイクロウェーブ反応用バイアル内に充填した。該バイアルをスナップキャップで封止後、反応溶液を所望の反応温度および反応時間に調整しながら加熱した。確実に迅速な加熱プロセスを行うために、結合型電力を以下の表1に従って調整した。
【0045】
少なくとも6barの圧力の圧縮空気を供給することで該マイクロウェーブ反応用容器を直接冷却することにより、適切な冷却速度が達成された。
【0046】
4.5 GP4−カートリッジ式反応器システムでのフルクトース脱水
フルクトースストック溶液(c=NMP中、100mg/mL)を塩酸(c=1mol/L)と混合し、試薬ポンプAによって反応器システムに供給した。加熱プロセス中、安定した温度および流量を確実にするために、いくつかの未反応サンプル(pre−sample)を回収した。反応温度は150℃、180℃および200℃に選択し、反応時の圧力は40barに調節し、流量は0.2mL/分から0.6mL/分、回収した画分は2.5mLにそれぞれ調整した。
【0047】
5. 結果および考察
5.1 触媒として硫酸を使用したバッチで行った実験
NMP中の硫酸の脱水特性を評価するために、様々な温度および酸濃度を調べた。触媒として100μL 1N硫酸溶液または10μLの濃硫酸のいずれかを使用して、GP1に従ってサンプルを調製し、以下の表2に記載された下記の結果を得た。
【0049】
適用した最適な条件下では黒色の不溶性ポリマーおよびフミンの形成は確認されなかった。脱水の正確な経過を特徴づけるため、経時的スクリーニングを行った。代表的な経時的変化を
図1に示す(濃H
2SO
4、150℃)。
【0050】
5.2 マイクロウェーブで行った実験
5.2.1 触媒として硫酸
脱水反応中の加熱、定常状態および冷却の各相を精密に制御するため、マイクロウェーブ支援型加熱も適用した。サンプルは、GP2で述べた通り、溶媒としてNMPを使用して調製した。規定の反応条件下では黒色のタールの形成は確認されなかった。さらに、より短い反応時間およびより高い温度への傾向が明確に見られ、全フルクトースの変換および83%の最大HMF収率がもたらされた。結果を
図2および
図3に記載する。
【0051】
5.2.2 触媒として塩酸
GP3に従って、NMPを使用したストップトフローマイクロウェーブでのフルクトース脱水を行った。出発原料の消費および生成物/副生成物の形成の経過は、厳密な傾向をたどり、全フルクトースの変換および89%の最大HMF収率がもたらされた。結果を
図4および
図5に示す。
【0052】
5.3 フロー(連続プロセス)で行った実験
5.3.1 触媒として硫酸
フルクトース(10%m/v)および濃硫酸(1%v/v)をNMP中に溶解し、PFA毛細管連続フロー反応器装置に供給した。サンプルは、両方とも150℃を目標温度とし、18mLの溶液を反応器を通過させて廃棄し、次の10mLの生成物溶液をガラス製バイアル内に回収することにより調製した。結果を以下の表3に記載する:
【0054】
適用した条件下では黒色の不溶性ポリマーおよびフミンの形成は確認されなかった。
【0055】
5.3.2 触媒として塩酸
最後に、GP4に従って、連続フロー条件下でNMP中の塩酸の脱水特性を評価した。180℃、0.6mL/分で75%の最大HMF収率を達成し、76%の生成物の選択性を得た。レブリン酸の収率は概ね1%未満であった。結果を
図6に記載する。
【0056】
6. 比較例
触媒として不均一系AlCl
3
同じ装置(GP1)においてルイス酸触媒についても試験するため、昇華直後の塩化アルミニウム(III)およびNMPを代表的な候補物質として選んだ。該触媒は加水分解を受けやすいことから、反復式または連続変換には適用可能性を欠く。さらに、大量の黒色タールの形成が観察された。たとえば、以下の表4を参照のこと:
【0058】
この実施例から、本発明による方法において、AlCl
3のような不均一系触媒は、均一系触媒よりも変換活性がはるかに小さいことが明らかである。それに加えて、得られる生成物の純度は、本発明により均一系触媒で得られる生成物の純度と比較してかなり低下する。