【文献】
PLOS ONE, 2008, Vol. 3, No. 4, p. e1981(1-9)
【文献】
Journal of Medicinal Chemistry, 1988, Vol. 31, No. 1, p. 138-144
【文献】
NAN JIANG,EUROPEAN JOURNAL OF MEDICINAL CHEMISTRY,2012年 8月 1日,V54,P534-541
【文献】
Journal of Heterocyclic Chemistry, 1990, Vol. 27, No. 6, p. 1553-1557
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0028】
本明細書で使用する場合、用語「アルキル」は、置換(一置換又は多置換)されていても、置換されていなくてもよい飽和直鎖及び分岐鎖アルキル基を含む。好ましくは、アルキル基は、C
1〜20アルキル基、より好ましくはC
1〜15アルキル基、更に好ましくはC
1〜12アルキル基、更に好ましくはC
1〜6アルキル基、より好ましくはC
1〜3アルキル基である。特に、好ましいアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert-ブチル、ペンチル及びヘキシルが挙げられる。適切な置換基としては、例えば、1つ又は複数のR
10基が挙げられる。好ましくは、アルキル基は、置換されていない。
【0029】
本明細書で使用する場合、用語「シクロアルキル」は、置換(一置換又は多置換)されていても、置換されていなくてもよい環状アルキル基を指す。好ましくは、シクロアルキル基は、C
3〜12シクロアルキル基である。適切な置換基としては、例えば、1つ又は複数のR
10基が挙げられる。
【0030】
本明細書で使用する場合、用語「アルケニル」は、分岐であっても非分岐でもあってもよい、置換(一置換又は多置換)されていても、置換されていなくてもよい、1つ又は複数の炭素-炭素二重結合を含有する基を指す。好ましくは、アルケニル基は、C
2〜20アルケニル基、より好ましくはC
2〜15アルケニル基、更に好ましくはC
2〜12アルケニル基、又は好ましくはC
2〜6アルケニル基、より好ましくはC
2〜3アルケニル基である。適切な置換基としては、例えば、先に規定した1つ又は複数のR
10基が挙げられる。用語「環状アルケニル」は、それに従って解釈されるべきである。
【0031】
本明細書で使用する場合、用語「アリール」は、置換(一置換又は多置換)されていても、置換されていなくてもよい、C
6〜12芳香族基を指す。典型例としては、フェニル及びナフチル等が挙げられる。適切な置換基としては、例えば、1つ又は複数のR
10基が挙げられる。
【0032】
本明細書で使用する場合、用語「ヘテロ環」(本明細書では、「ヘテロシクリル」及び「ヘテロ環状」とも呼ぶ)は、N、O及びSから選択される1つ又は複数のヘテロ原子を含有し、場合により、1つ又は複数のCO基をさらに含有する、置換(一置換又は多置換)されている又は置換されていない、飽和、不飽和又は部分的に不飽和の環状基を指す。適切な置換基としては、例えば、1つ又は複数のR
10基が挙げられる。用語「ヘテロ環」は、後で規定する、ヘテロアリール基とヘテロシクロアルキル基の両方を包含する。
【0033】
本明細書で使用する場合、用語「ヘテロアリール」は、1つ又は複数のヘテロ原子を含む、置換(一置換又は多置換)されている又は置換されていない、C
2〜12芳香族を指す。好ましくは、ヘテロアリール基は、N、O及びSから選択される1つ又は複数のヘテロ原子を含む、C
4〜12芳香族基である。適切なヘテロアリール基としては、ピロール、ピラゾール、ピリミジン、ピラジン、ピリジン、キノリン、チオフェン、1,2,3-トリアゾール、1,2,4-トリアゾール、チアゾール、オキサゾール、イソチアゾール、イソオキサゾール、イミダゾール、フラン等が挙げられる。ここでも適切な置換基としては、例えば、1つ又は複数のR
10基が挙げられる。
【0034】
本明細書で使用する場合、用語「ヘテロシクロアルキル」は、1つ又は複数のヘテロ原子を含有する、置換(一置換又は多置換)されている又は置換されていない、環状脂肪族基を指す。好ましいヘテロシクロアルキル基としては、ピペリジニル、ピロリジニル、ピペラジニル、チオモルホリニル、及びモルホリニルが挙げられる。より好ましくは、ヘテロシクロアルキル基は、N-ピペリジニル、N-ピロリジニル、N-ピペラジニル、N-チオモルホリニル、及びN-モルホリニルから選択される。ここでも適切な置換基としては、例えば、1つ又は複数のR
10基が挙げられる。
【0035】
本明細書で使用する場合、用語「アラルキル」は、それらに限定されないが、アリール官能基とアルキル官能基の両方を有する基を含む。例として、その用語は、アルキル基の水素原子の1つが、1つ又は複数の置換基、例えば、ハロ、アルキル、アルコキシ、ヒドロキシ等を場合により有するフェニル基等のアリール基に置きかえられている基を含む。典型的なアラルキル基としては、ベンジル、フェネチル等が挙げられる。
【0036】
好ましい一実施形態において、R
1は、Cl、Br、Me、又はFであり、より好ましくはClである。
【0037】
好ましい一実施形態において、R
2は、Hである。
【0038】
好ましい一実施形態において、Yは、CR
11である。
【0039】
別の好ましい実施形態において、Yは、Nである。
【0040】
好ましい一実施形態において、R
3及びR
4は共に、Hである。
【0041】
好ましい一実施形態において、R
3はHであり、R
4は、C(O)R
6である。
【0042】
好ましい一実施形態において、R
6は、アルキル又はアルコキシ、より好ましくは、Me又はOMeである。
【0043】
好ましい一実施形態において、R
4及びR
5は、連結して、1つ又は複数のR
10基で場合により置換されているヘテロ環式基を形成する。
【0044】
好ましい一実施形態において、前記化合物は、式(Ia)の化合物、又は薬学的に許容されるそれらの塩である
【0046】
(式中、R
1、R
2、R
3、及びR
10は、先に規定の通りである)。
【0047】
特に好ましい一実施形態において、式(I)の化合物は、以下のもの:
【0050】
及び薬学的に許容されるそれらの塩から選択される。
【0051】
極めて好ましい一実施形態において、式(I)の化合物は、上記に示した実施例1、3、6及び15から選択される。
【0052】
更に好ましくは、式(I)の化合物は、実施例1及び実施例15から選択され、より好ましくは、実施例1、すなわち、化合物1-[(E)-[(2-クロロフェニル)メチリデン]アミノ]-グアニジンである。
【0053】
[化合物]
本発明の一態様は、先に規定した、式(II)、(III)若しくは(IV)の化合物、又は薬学的に許容されるそれらの塩に関する。本発明の好ましい態様を準用する。本発明のこの態様に特に好ましい化合物には、本明細書に記述する実施例7、8、9、13及び16が含まれる。
【0054】
[治療用途]
本出願人は、式(I)の化合物が、ミスフォールドタンパク質の蓄積に関連する障害の治療における潜在的な治療用途を有することを実証した。特に、式(I)の化合物は、細胞傷害性小胞体(ER)ストレス、及び加齢性障害に対して保護効果を有することが分かっている。
【0055】
本発明の別の態様は、タンパク質ミスフォールディングストレス、特にミスフォールドタンパク質の蓄積に関連する障害を治療するための医薬の調製における、先に規定した式(I)の化合物の使用に関する。
【0056】
本明細書で使用する場合、語句「医薬の調製」は、上記の化合物のうちの1つ又は複数の、更なる活性薬剤のスクリーニングプログラムにおける使用、又は医薬の製造の任意の段階における使用に加えて、医薬としての直接的な使用も含む。
【0057】
本発明の更に別の態様は、治療を必要とする対象において、タンパク質ミスフォールディングストレス、特にミスフォールドタンパク質の蓄積に関連する障害を治療する方法であって、先に規定した式(I)の化合物の治療有効量を前記対象に投与する工程を含む方法に関する。
【0058】
用語「方法」は、それらに限定されないが、化学、薬理学、生物学、生物化学及び医学の分野の専門家に公知の、又はそのような専門家によって公知の様式、手段、技術及び手順から容易に開発される様式、手段、技術及び手順を含めた、与えられた課題を達成するための様式、手段、技術及び手順を指す。
【0059】
本明細書では、用語「治療すること」は、疾患若しくは障害の進行を妨げる、実質的に阻害する、遅らせる、若しくは食い止めること、又は疾患若しくは障害の臨床症状を実質的に改善すること、又は疾患若しくは障害の臨床症状の出現を実質的に予防することを含む。
【0060】
用語「治療有効量」は、治療される疾患又は障害の症状の1つ又は複数をある程度緩和する、投与される化合物の量を指す。
【0061】
アンフォールドタンパク質応答(UPR)は、小胞体(ER)中でのフォールディングを、変化する状況に適応させる、ミスフォールドタンパク質に対する細胞の防御システムの構成要素である。UPRは、小胞体の内腔におけるアンフォールド又はミスフォールドタンパク質の蓄積に応答して活性化される。このシナリオにおいて、UPRは、2つの主要目的、すなわち(i)タンパク質翻訳を中止させることにより、細胞の正常な機能を回復させる、及び(ii)タンパク質フォールディングに関わる分子シャペロンの産生増加につながるシグナル伝達経路を活性化させるという目的を有する。これらの目的が一定期間内に達成されなかった、又は阻止が長引いた場合、UPRは、アポトーシスに向かう。
【0062】
UPRの上流のコンポーネントは、小胞体内在膜貫通タンパク質IRE1、ATF6及びPERKであり、それらは、フォールディング欠陥を感知し、協調的に転写及び翻訳を再プログラムし、タンパク質恒常性を回復させる。活性化IRE1及びATF6は、ERのフォールディングに関わる遺伝子、例えば、シャペロンBiP及びGRP94をコードする遺伝子の転写を増加させる。活性化PERKは、Ser51で翻訳開始因子2(eIF2α)のサブユニットをリン酸化することによって、全体的なタンパク質合成を低下させる一方で、転写因子ATF4の翻訳を促進する。ATF4の翻訳促進は、別の転写因子であるCHOPの発現を制御し、結果としてCHOPは、PPP1R15A/GADD34の発現を促進する。UPRシグナル伝達を終結させる負のフィードバックループのエフェクターであるPPP1R15Aは、タンパク質ホスファターゼ1(PP1c)の触媒サブユニットをリクルートして、eIF2αを脱リン酸化し、タンパク質合成を再開させる。UPRの不全は多くの病態の一因となるが、そのような病態はこの適応応答を十分に上昇させることによって修正される場合がある。ストレス誘発性eIF2αホスファターゼであるPPP1R15A-PP1の選択的阻害剤は、eIF2αの脱リン酸化を遅らせ、結果的にストレスを受けていない細胞におけるタンパク質合成に影響を与えることなく、ストレスを受けた細胞におけるタンパク質合成を選択的に遅らせる。これは、UPRの有益な効果を延長する。タンパク質合成の一時的な低下は、ストレスを受けた細胞に有益である。なぜなら、合成されたタンパク質のフラックスの低下は、利用可能なシャペロンの量を増大させ、したがって、ミスフォールディングストレスから保護するからである(P. Tsaytler、H.P. Harding、D. Ron及びA. Bertolotti、Science、332、2011年4月1日、91〜94)。持続的な翻訳阻害は有害となるため、2つのeIF2αホスファターゼの非選択的阻害剤は望ましくない影響を与える可能性がある。実際、PPP1R15A及びPPP1R15Bの両方の遺伝子除去は、マウスにおいて早期胎生致死をもたらし、これは、2つのeIF2αホスファターゼ、PPP1R15A-PP1及びPPP1R15B-PP1の阻害が、生命体において有害であることを示す。それに対して、PPP1R15Aの遺伝子除去は、マウスにおいて、全く有害な結果をもたらさない(Hardingら、2009、Proc Natl Acad Sci USA、106、1832〜1837)。更に、PPP1R15Aはストレス非存在下では発現しないため、PPP1R15Aの特異的阻害剤は、ストレスを受けていない細胞において不活性であると予測される。したがって、選択的PPP1R15A阻害剤は、安全であると予測される。2つのeIF2αホスファターゼの非選択的阻害剤も、それらのホスファターゼを部分的にしか阻害しない用量で使用された場合、タンパク質ミスフォールディング疾患の治療に有用である可能性がある。
【0063】
ERストレスに対する細胞保護作用は、適切なアッセイによって測定することができる。例えば、細胞保護作用は、UDP-HexNAc:ポリプレノール-P HexNAc-1-Pの酵素ファミリーを阻害し、アンフォールドタンパク質応答を誘発する、相同ヌクレオシド抗生物質の混合物であるツニカマイシンを含有する培地の添加により、ERストレスが誘導される、HeLa細胞において測定することができる。細胞生存率は、標準の細胞生存率キット(例えば、同仁化学研究所製のCell Viability Counting Kit-8)を使用して、WST-8のホルマザンへの還元を測定することによって、一定時間後に阻害化合物の存在及び非存在下で検出することができる。ERストレスからの細胞保護作用は、ERストレス後の(対照に対する)生存細胞の増加率の観点から測定される。適切なアッセイの更なる詳細を、付随する実施例の部分に記述する。
【0064】
好ましい一実施形態において、式(I)の化合物は、対照(すなわち、阻害化合物無し)と比べて、UPRの保護効果を、少なくとも20%、より好ましくは少なくとも30%、更に好ましくは少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、更に好ましくは少なくとも90%延長することができる。
【0065】
本出願人は、式(I)の化合物が、PPP1R15A-PP1相互作用阻害剤であり、保護効果を誘発することを実証した。好ましくは、該化合物は、約5μM未満、更に好ましくは約2μM未満、更に好ましくは約1μM未満というEC
50で保護効果を示す。該化合物は、好ましくは、α2アドレナリン作動活性を有しないべきである。したがって、好ましい一実施形態において、該化合物は、機能的α-2-アドレナリン作動性アッセイ(adrenergic assay)において、いかなる活性も示さない。
【0066】
本出願人は、ある種の式(I)の化合物が、PPP1R15A-PP1を選択的に阻害し、したがってUPRの保護効果を延長させ、それによって、タンパク質ミスフォールディングストレスから細胞を救うことを更に実証した。したがって、本願発明に記載されたPPP1R15A-PP1の阻害剤は、タンパク質ミスフォールディングストレス、特にミスフォールドタンパク質の蓄積に関連する様々な疾患の治療における治療用途を有する。
【0067】
一実施形態において、式(I)の化合物は、PPP1R15A及びPPP1R15Bを阻害することができる。
【0068】
好ましい一実施形態において、式(I)の化合物は、PPP1R15BよりもPPP1R15Aを、選択的に阻害することができる。
【0069】
本発明の好ましい一実施形態において、式(I)の化合物は、神経変性疾患、より詳細には、ミスフォールドタンパク質の蓄積が作用機構に関わる神経変性疾患(Brownら、2012、Frontiers in Physiology、3、Article 263)の治療における使用のためのものである。
【0070】
特に好ましい一実施形態において、式(I)の化合物は、シャルコー・マリー・トゥース病、重篤なデジェリン・ソッタス症候群[Voermansら、2012、J Peripher New Syst、17(2)、223〜5]、網膜疾患[例えば、それらに限定されないが、網膜色素変性症、網膜繊毛関連疾患(retinal ciliopathies)、黄斑変性症、糖尿病網膜症]、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ハンチントン病、タウオパチー、プリオン病、2型糖尿病及び/又は1型糖尿病、並びに癌、例えば、それに限定されないが、多発性骨髄腫から選択される障害の治療における使用のためのものである。
【0071】
一実施形態において、本発明は、ミスフォールドタンパク質の蓄積がその作用機構に関わるeIF2αリン酸化経路に関連する障害の治療において使用するための、先に規定した式(I)の化合物に関する。好ましくは、障害は、PPP1R15Aに関係する疾患又は障害である。そのような障害の例には、例えば、それらに限定されないが、シャルコー・マリー・トゥース病、重篤なデジェリン・ソッタス症候群及び網膜色素変性症等の、タンパク質ミスフォールディング疾患が含まれる。
【0072】
別の実施形態において、本発明は、ミスフォールドタンパク質の蓄積がその作用機構に関わるeIF2αリン酸化及び/又はPPP1R15A活性によって引き起こされる、それらに関連する、又はそれらに伴う障害の治療において使用するための、先に規定した式(I)の化合物に関する。
【0073】
別の実施形態において、本発明は、UPR障害、例えば、それに限定されないが、加齢によるもの(Naidooら、2008、J Neurosci、28、6539〜48)の治療において使用するための、先に規定した式(I)の化合物に関する。
【0074】
本明細書で使用する場合、「PPP1R15Aに関係する疾患又は障害」は、ミスフォールドタンパク質の蓄積がその作用機構に関わる異常なPPP1R15A活性を特徴とする疾患又は障害を指す。異常な活性とは、(i)PPP1R15Aを通常発現しない細胞におけるPPP1R15Aの発現、(ii)PPP1R15Aの発現の増加、又は(iii)PPP1R15A活性の増大を指す。
【0075】
別の実施形態において、本発明は、ミスフォールドタンパク質の蓄積が作用機構に関わる、PPP1R15Aの阻害によって緩和される病状を有する哺乳類を治療する方法であって、先に規定した式(I)の化合物の治療有効量を哺乳類に投与する工程を含む方法に関する。
【0076】
別の実施形態において、本発明は、タンパク質ミスフォールディングストレス、特にミスフォールドタンパク質の蓄積に関連する障害、及び/又はUPR障害の治療に使用するための、式(I)のPPP1R15A阻害剤、又は薬学的に許容されるその塩であって、前記化合物が、グアナベンズと比較して、アドレナリンα2アゴニスト活性がないか、又は減じられた、式(I)のPPP1R15A阻害剤、又は薬学的に許容されるその塩に関する。
【0077】
別の実施形態において、本発明は、タンパク質ミスフォールディングストレス、特にミスフォールドタンパク質の蓄積に関連する障害、及び/又はUPR障害の治療に使用するための、式(I)のPPP1R15A阻害剤、又は薬学的に許容されるその塩であって、前記化合物が、PPP1R15Bを発現する、ストレスを受けていない細胞におけるタンパク質翻訳を阻害しない、式(I)のPPP1R15A阻害剤、又は薬学的に許容されるその塩に関する。
【0078】
別の実施形態において、本発明は、ミスフォールドタンパク質の蓄積を伴うERストレス応答活性を特徴とする障害を治療する方法であって、ERストレス応答を調節する少なくとも1つの式(I)の化合物の治療有効量を患者に投与する工程を含む方法に関する。
【0079】
別の実施形態において、本発明は、タンパク質ミスフォールディングストレス、特にミスフォールドタンパク質の蓄積に関連する障害、及び/又はUPR障害の治療に使用するための、式(I)のPPP1R15A阻害剤、又は薬学的に許容されるその塩であって、前記化合物が、PPP1R15A-PP1ホロホスファターゼに選択性を有するが、PPP1R15B-PP1ホロホスファターゼに活性を有しないか又は低い活性を有し、前記化合物についての比率(PPP1R15A-PP1ホロホスファターゼに対する活性/PPP1R15B-PP1に対する活性)が、グアナベンズについての比率(PPP1R15A-PP1ホロホスファターゼに対する活性/PPP1R15B-PP1に対する活性)と少なくとも同等、又はそれに勝る、式(I)のPPP1R15A阻害剤、又は薬学的に許容されるその塩に関する。
【0080】
別の実施形態において、本発明は、タンパク質ミスフォールディングストレス、特にミスフォールドタンパク質の蓄積に関連する障害、及び/又はUPR障害の治療に使用するための、式(I)のPPP1R15A阻害剤、又は薬学的に許容されるその塩であって、
- 前記化合物が、PPP1R15A-PP1ホロホスファターゼに活性を有するが、PPP1R15B-PP1ホロホスファターゼに活性を有しない又は低い活性を有し、
- 前記化合物についての比率(PPP1R15A-PP1ホロホスファターゼに対する活性/PPP1R15B-PP1に対する活性)が、グアナベンズについての比率(PPP1R15A-PP1ホロホスファターゼに対する活性/PPP1R15B-PP1に対する活性)と少なくとも同等、又はそれに勝り、
- 前記化合物が、グアナベンズと比較して、アドレナリンα2アゴニスト活性がないか、又は減じられた、
式(I)のPPP1R15A阻害剤、又は薬学的に許容されるその塩に関する。
【0081】
本明細書で使用する場合、ERストレス応答活性を特徴とする疾患若しくは障害、並びに/又はタンパク質ミスフォールディングストレス、特にミスフォールドタンパク質の蓄積に関連する疾患若しくは障害、及び/又はUPR障害は、シャルコー・マリー・トゥース病、重篤なデジェリン・ソッタス症候群[Voermansら、2012、J Peripher New Syst、17(2)、223〜5]、網膜疾患(例えば、それらに限定されないが、網膜色素変性症、網膜繊毛関連疾患、黄斑変性症、糖尿病網膜症)、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ハンチントン病、糖尿病、例えば、それに限定されないが、2型糖尿病、並びに癌、例えば、それに限定されないが、多発性骨髄腫から選択される。
【0082】
[シャルコー・マリー・トゥース病]
好ましい一実施形態において、式(I)の化合物は、シャルコー・マリー・トゥース病の治療における使用のためのものである。
【0083】
シュワン細胞をミエリン化することにより産生される主要なタンパク質である、1回膜貫通タンパク質であるミエリンタンパク質ゼロ(P0)をコードする遺伝子における100を超える変異が、シャルコー・マリー・トゥース病を引き起こす(D'Antonioら、2009、J Neurosci Res、87、3241〜9)。それらの変異は、優性遺伝され、毒性機能獲得によって、シャルコー・マリー・トゥース病を引き起こす(D'Antonioら、2009、J Neurosci Res、87、3241〜9)。セリン63のP0からの欠失(P0S63del)は、ヒトにおいて、シャルコー・マリー・トゥース病1B型ニューロパチーを引き起こし、トランスジェニックマウスにおいて、それに類似した脱髄性ニューロパチーを引き起こす。変異タンパク質は、ERに蓄積し、UPRを誘発する(D'Antonioら、2009、J Neurosci Res、87、3241〜9)。UPRにおけるアポトーシス促進遺伝子であるCHOPの遺伝子除去は、シャルコー・マリー・トゥース病のマウスにおいて、運動機能を回復させる(Pennutoら、2008、Neuron、57、393〜405)。細胞におけるPPP1R15A阻害が、ERストレスを受けた細胞において、CHOPの発現をほぼなくすという発見は、PPP1R15Aの遺伝子的又は薬理学的阻害が、シャルコー・マリー・トゥース病のマウスにおいて、運動機能障害を軽減するはずであることを示す。最近、D'Antonioら(2013 J. Exp. Med Vol. 1〜18頁)は、eIF2αのリン酸化を増加させる小分子(Boyceら、2005 Science 307巻935〜939頁)であるサルブリナールで治療されたP0S63delマウスが、ロータロッド解析において、ほぼ正常な運動能力を取り戻し、形態的及び電子生理学的異常の修復を伴うことを実証した。ERタンパク質におけるCMTに関係する変異の蓄積は、P0S63delに限ったものではなく、ERにおいて保持され、UPRを誘発する少なくとも5つの他のP0変異体が同定された(Pennutoら、2008 Neuron 57巻393〜405頁;Saportaら、2012 Brain 135巻2032〜2047頁)。加えて、タンパク質ミスフォールディング及びERにおけるミスフォールドタンパク質の蓄積の変化は、PMP22及びCx32における変異の結果としての、他のCMTニューロパチーの発症に関与している(Colbyら、2000 Neurobiol. Disease 7巻561〜573頁;Kleopaら、2002 J. Neurosci. Res.68巻522〜534頁;Yumら、2002 Neurobiol. Dis.11巻43〜52頁)。しかし、サルブリナールは毒性があり、ヒト患者を治療するために用いることはできない(D'Antonioら(2013 J. Exp. Med Vol. 1〜18頁))。対照的に、式(I)のPPP1R15A阻害剤は安全であると予測され、CMT-1A及び1Bの治療のために有用である可能性がある。
【0084】
[網膜疾患]
最近発行された文献は、UPRが、網膜変性:遺伝性網膜変性、例えば、網膜繊毛関連疾患及び網膜色素変性症、黄斑変性症、未熟児網膜症、光誘発性網膜変性、網膜剥離、糖尿病網膜症、並びに緑内障の発症に関わるというエビデンスを示している(総論について、Gorbatyuk及びGorbatyuk 2013 - Retinal degeneration: Focus on the unfolded protein response、Molecular Vision 19巻1985〜1998頁)。
【0085】
好ましい一実施形態において、式(I)の化合物は、網膜疾患、より好ましくは遺伝性網膜変性、例えば、網膜繊毛関連疾患及び網膜色素変性症、黄斑変性症、未熟児網膜症、光誘発性網膜変性、網膜剥離、糖尿病網膜症、並びに緑内障の治療における使用のためのものである。
【0086】
網膜繊毛関連疾患は、光受容体の一次繊毛の欠損に起因し、それによって網膜色素変性症を誘発する、希少遺伝性障害の一群である。この異常は、光受容体の内節におけるタンパク質蓄積によるERストレスを誘発し、結果としてUPRを誘発することが報告されている(国際公開第号パンフレット2013/124484)。網膜変性は、レーバー先天性黒内障若しくはX連鎖性網膜色素変性症等の単独の網膜色素変性症において、又はバルデー・ビードル症候群(BBS)若しくはアルストレム症候群(ALMS)のような症候群状態においても観察できる、繊毛関連疾患でよく見られる特徴である。網膜繊毛関連疾患は、バルデー・ビードル症候群、シニア・ローケン症候群、ジュベール症候群、Salidono-Mainzer症候群、Sensenbrenner症候群、ジューン症候群、メッケル・グルーバー症候群、アルストレム症候群、MORM症候群、繊毛遺伝子における変異により引き起こされるレーバー先天性黒内障、及びRPGR遺伝子における変異により引き起こされるX連鎖性網膜色素変性症からなる群から選択される。
【0087】
網膜色素変性症は、深刻な視覚障害及び多くの場合失明を引き起こす遺伝性の変性眼疾患である。網膜色素変性症は、遺伝的に決定された失明の最も一般的な原因である。患者は、以下の症状、すなわち、夜盲;視野狭窄(周辺視野無し);中心暗点(中心視野無し);格子状の視野(latticework vision);羞明;遅い明順応及び暗順応;目のかすみ;色弱;及び極度の疲労のうちの1つ又は複数を経験すると予想される。
【0088】
新たに出現したエビデンスから、網膜のアポトーシス及び細胞死におけるERストレスの役割が裏付けられる(Jingら、2012、Exp Diabetes Res、2012、589589)。網膜色素変性症(RP)は、ロドプシン遺伝子における100を超える変異によって引き起こされる遺伝性網膜変性の最も一般的な形態である(Dryjaら、1991、Proc Natl Acad Sci U S A、88、9370〜4)。ロドプシンは、桿体光受容器において、光を変換するGタンパク質共役受容体であり、11-cis-レチナールと共有結合した膜貫通型タンパク質オプシン(348個のアミノ酸からなる)の共有結合複合体からなる(Palczewski、2006、Annu Rev Biochem、75、743〜67)。RPを引き起こすロドプシン変異は、ほとんど、タンパク質全体に分布するミスセンス変異であり(Dryjaら、1991、Proc Natl Acad Sci USA、88、9370〜4)、ALSを引き起こすSOD1変異に類似する(Valentineら、2005、Annu Rev Biochem、74、563〜93)。RPを引き起こすロドプシン変異体は、多様な系において研究されており、哺乳類細胞、トランスジェニックマウス、及びショウジョウバエにおける、タンパク質の異種発現からの結果は、一貫している(Griciucら、2011、Trends Mol Med、17、442〜51)。最も一般的なRPを引き起こすロドプシンは、ミスフォールドされ、11-cis-レチナールと結合せず、細胞の表面に到達せずER中に保持される(Griciucら、2011、Trends Mol Med、17、442〜51)。ロドプシン変異体のミスフォールディングは、ERストレス、及び桿体細胞死を引き起こす(Griciucら、2011、Trends Mol Med、17、442〜51)。これは、本発明に記載されているPPP1R15A阻害剤が、RPを治療するために有用であるであろうことを強く示唆している。
【0089】
加齢性黄斑変性症(AMD)は、米国における65歳を超える人々の間で法的盲の主な原因である。AMDは、米国の白人人口の現在のすべての失明症例の54%を占めていると報告された。その研究は、AMDの罹患率の上昇の結果として、米国における盲人の数が、2020年までに70%増加する可能性があると予測した。
【0090】
Shenら(2011 Effect of Guanabenz on Rat AMD Models and Rabbit Choroidal Blood - 5巻27〜31頁)は、グアナベンズが、NaIO3誘発変性から網膜色素上皮(RPE)を有意に保護し、レーザー誘発ラットAMDモデルにおいて、脈絡膜新生血管(CNV)の発生を阻害し、インビボで、脈絡膜血流量を大幅に増加させることを実証した。
【0091】
しかし、グアナベンズはα2Aアドレナリン受容体であり、その降圧作用のために、網膜変性症又は黄斑変性症症を治療するために用いることはできない。
【0092】
グアナベンズのように、PPP1R15A阻害剤であるが、有利にアドレナリンα2A受容体への活性を示さない、本発明の化合物が、網膜又は黄斑を改善するであろう。
【0093】
[アルツハイマー病、パーキンソン病、ALS、ハンチントン病、タウオパチー及びプリオン病]
好ましい一実施形態において、式(I)の化合物は、アルツハイマー病、パーキンソン病、ALS、ハンチントン病、タウオパチー及びプリオン病から選択される疾患の治療における使用のためのものである。
【0094】
ミスフォールドタンパク質の蓄積が、多様な疾患の特徴であることから、また、式(I)の化合物が、4つの関連しないミスフォールドして疾患の原因となるタンパク質を減少させることが示された(
図4〜6)ことから、式(I)の化合物は、ミスフォールドタンパク質の蓄積によって引き起こされる他の神経変性疾患の治療のためにも有用であるだろう。
【0095】
加えて、UPRの誘導は、これらのミスフォールドタンパク質の蓄積によって起こる疾患の特徴であるので、式(I)の化合物は、これらの疾患を治療するために有用であるだろう(Scheper & Hoozemans 2009; Kimら、2008)。
【0096】
グアナベンズは、プリオンに感染したマウスの症状を減少させる(D. Tribouillard-Tanvierら、2008 PLoS One 3, e1981 )。しかし、グアナベンズは、その降圧作用のために、ヒトのタンパク質ミスフォールディング疾患の治療にとって有用でない。対照的に、α2アドレナリン活性のない、本発明に記載されているPPP1R15A阻害剤は、プリオン疾患を治療するために有用である可能性がある。
【0097】
[パーキンソン病(PD)]
サルブリナールは、PPP1R15A媒介eIF2α脱リン酸化を阻害する(Boyceら、2005 Science 307巻935〜939頁)。最近、Collaら(J. of Neuroscience 2012 32巻10号3306〜3320頁)は、サルブリナールが、α-シヌクレイン病の2つの動物モデルにおいて、疾患症状を大幅に軽減させることを実証した。
【0098】
いかなる理論にも拘束されないが、PPP1R15A阻害剤である本発明の化合物は、パーキンソン病等のα-シヌクレイン病の疾患症状を改善することが予想される。
【0099】
[筋萎縮性側索硬化症(ALS)]
Saxenaら(Nature Neuroscience 2009 12巻627〜636頁)は、サルブリナールが、運動ニューロン疾患のG93A-SOD1トランスジェニックマウスモデルの寿命を延長することを実証した。いかなる理論にも拘束されないが、PPP1R15A阻害剤である本発明の化合物は、SOD1のG93A変異を伴うALSの疾患症状を改善することが予想される。家族性の筋萎縮性側索硬化症(ALS)においては、ほとんどがミスセンス変異である、140を超えるSOD1遺伝子の変異により、影響を受けるタンパク質の凝集が起こる。多様なSOD1変異は共通の欠損を共有しているので(Munchら、2010)、多様なSOD1変異は共通の機構によってALSを引き起こすと認められている。さらに、特発性及び家族性の間で、臨床的兆候が共有され、タンパク質ミスフォールディングが、家族性及び特発性ALSの両方において中心的な役割を担うことは、今や周知である。従って、式(I)の化合物は、家族性及び特発性のALSのどちらの治療のためにも用いることができる。
【0100】
本出願人は、グアナベンズが、細胞における変異ハンチンチンの蓄積をも低減する(国際公開第号パンフレット2008/041133)ように、タンパク質ミスフォールディングストレスに対するグアナベンズの細胞保護活性が、驚くほどに広範であることを見出した。この発見は、予想外である。なぜなら、変異ハンチンチンは、細胞質又は核にあるからである。しかし、変異ハンチンチン代謝は、以前から、ERストレス応答と関連しているというエビデンスが存在する(Nishitohら、2002、Genes Dev、16、1345〜55;Rousseauら、2004、Proc Natl Acad Sci U S A、101、9648〜53;Duennwald及びLindquist、2008、Genes Dev、22、3308〜19)。グアナベンズが、細胞傷害性ERストレスから細胞を保護し、変異ハンチンチンの蓄積を低減するという本出願人の発見は、変異ハンチンチンの蓄積に影響を与えるERストレス応答の態様が存在しうるという考えを更に裏付ける。更に、ERストレス応答の不全は、2型糖尿病及び神経変性を含めた様々な病態に関わっている(Scheper及びHoozemans、2009、Curr Med Chem、16、615〜26)。したがって、いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、グアナベンズ、及びその関連化合物は、2次的なUPR障害、すなわちミスフォールドした非ERタンパク質が蓄積してUPRを誘発することに起因する障害からの保護効果を有すると考えられる。
【0101】
[糖尿病]
好ましい一実施形態において、式(I)の化合物は、糖尿病、より好ましくは2型糖尿病の治療における使用のためのものである。
【0102】
膵臓におけるインスリン分泌β細胞は、インスリン分泌にある、重く厳密に調節された生合成的負担を有する。したがって、これらの細胞は、ERの恒常性を維持する重要な必要性を有する(Back及びKaufman、2012、Annu Rev Biochem、81、767〜93)。2型糖尿病は、脂肪、筋肉、及び肝臓におけるインスリン抵抗性、並びに/又は膵β細胞からのインスリン分泌不全による、血中グルコースレベルの上昇を呈する。応答として、β細胞は、大幅に増加し、それらの機能が高まる。最終的に、β細胞への負担は、大きくなりすぎて、それらは徐々に衰退し、死滅する。β細胞の死は、ERストレスに起因することを明らかにするエビデンスが増えている(Back及びKaufman、2012、Annu Rev Biochem、81、767〜93)。重要なことに、Chopの欠失は、糖尿病の様々なモデルにおいて、β細胞の機能を改善する(Songら、2008、J Clin Invest、118、3378〜89)。いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、PPP1R15A-PP1の阻害が、ERストレスの間に、アポトーシス促進タンパク質であるCHOPのレベルを低下させる(Tsaytlerら、2011、Science、332、91〜4)ので、PPP1R15A-PP1の阻害剤が、2型糖尿病におけるβ細胞の機能を改善すると考えられる。
【0103】
[癌]
好ましい一実施形態において、式(I)の化合物は、癌の治療における使用のためのものである。
【0104】
癌細胞は、高い代謝要求性を有し、それらの増殖は、効率的なタンパク質合成に依存する。翻訳開始は、タンパク質恒常性、分化、増殖及び悪性転換を制御するのに重要な役割を果たす。翻訳開始の増加は、癌の発生の一因となり、逆に、翻訳開始の減少は、腫瘍成長を低下させうる(Donzeら、1995、EMBO J、14、3828〜34;Pervinら、2008、Cancer Res、68、4862〜74;Chenら、2011、Nat Chem Biol、7、610〜6)。いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、PPP1R15Aを阻害することは、腫瘍細胞における翻訳を選択的に減らし、したがって腫瘍成長を低下させる可能性があるとみられている。
【0105】
[加齢]
加齢は、ストレス応答を低下させることが知られ、特に、UPRは、年齢とともに低下する(Naidooら、2008、J Neurosci、28、6539〜48)。したがって、eIF2αホスファターゼの阻害によって、UPRの有益な効果を延長することが、加齢に関係する障害を改善させる可能性がある。
【0106】
[医薬組成物]
本発明による使用に関して、本明細書に記述される化合物又はその生理学的に許容される塩、エステル、若しくは他の生理学的機能性誘導体は、医薬製剤として提供されてもよく、このような医薬製剤は、そのための1種又は複数の薬学的に許容される担体と共に、場合により他の治療的及び/又は予防的成分と共に、当該化合物又は生理学的に許容されるその塩、エステル、若しくは他の生理学的機能性誘導体を含む。担体は、製剤の他の成分に適合し、それらの受容者に有害ではないという意味で許容されなくてはならない。該医薬組成物は、ヒト医学及び獣医学における、ヒト又は動物への使用のためのものであってもよい。
【0107】
本明細書に記述する医薬組成物の様々な異なる形態のためのそのような適切な賦形剤の例は、A Wade及びPJ Weller編「Handbook of Pharmaceutical Excipients」、第2版、(1994)で見つけることができる。
【0108】
治療的使用のための許容される担体又は希釈剤は、製薬分野で周知であり、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences、Mack Publishing社(A.R. Gennaro編、1985)に記述されている。
【0109】
適切な担体の例としては、ラクトース、デンプン、グルコース、メチルセルロース、ステアリン酸マグネシウム、マンニトール、ソルビトール等が挙げられる。適切な希釈剤の例としては、エタノール、グリセロール、及び水が挙げられる。
【0110】
医薬担体、賦形剤又は希釈剤の選択は、目的の投与経路、及び標準的な医薬実務に関連して選択することができる。医薬組成物は、担体、賦形剤又は希釈剤として、又はそれらに加えて、任意の適切な結合剤、潤滑剤、懸濁化剤、コーティング剤、可溶化剤、緩衝剤、着香料、界面活性剤、増粘剤、保存料(酸化防止剤を含む)等、及び製剤を目的の受容者の血液と等張にするために含まれる物質を含むことができる。
【0111】
適切な結合剤の例としては、デンプン、ゼラチン、天然糖、例えば、グルコース、無水ラクトース、易流動性のラクトース、β-ラクトース、トウモロコシ甘味料、天然及び合成ゴム、例えば、アカシア、トラガカント、又はアルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、並びにポリエチレングリコールが挙げられる。
【0112】
適切な潤滑剤の例としては、オレイン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム等が挙げられる。
【0113】
保存料、安定化剤、色素、及び更には着香料を、医薬組成物に与えることができる。保存料の例としては、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸、及びp-ヒドロキシ安息香酸エステルが挙げられる。酸化防止剤及び懸濁化剤も使用することができる。
【0114】
医薬製剤は、経口、局所(経皮、口腔、眼、及び舌下を含む)、経直腸、又は非経口(皮下、皮内、筋肉内、及び静脈内を含む)、経鼻、眼内、及び肺内投与(例えば、吸入による)に適したものを含む。製剤は、適切な場合、別個の投薬単位で好都合に提供することができ、製薬分野で周知の方法のいずれかによって調製することができる。すべての方法は、活性化合物を液体担体若しくは微粉固体担体、又はその両方と結合させ、次いで、必要な場合には生成物を所望の製剤に成形する工程を含む。
【0115】
担体が固体である、経口投与に適した医薬製剤は、最も好ましくは、それぞれ所定量の活性化合物を含有するボーラス剤、カプセル剤又は錠剤等の単位用量製剤として提供される。錠剤は、場合により1種又は複数の副成分と共に、圧縮又は成型することによって製造できる。圧縮錠は、結合剤、潤滑剤、不活性な希釈剤、平滑剤、界面活性剤、又は分散剤と場合により混合された、自動流動形態、例えば、粉末又は顆粒の活性化合物を、適切な機械において圧縮することによって調製することができる。湿製錠は、活性化合物を不活性な液体希釈剤と成型することによって製造することができる。錠剤は、場合によりコーティングされてもよく、コーティングされない場合は、場合により刻み目をつけてもよい。カプセル剤は、単独の、又は1種若しくは複数の副成分と混ざった活性化合物を、カプセルの殻に充填し、次いで通常の方法でそれらを密閉することによって調製することができる。カシェ剤は、カプセル剤に類似するものであり、そこでは、活性化合物は、任意の副成分と共に、ライスペーパーの包みに密閉される。活性化合物はまた、例えば、投与前に水に懸濁する、又は食物にふりかけることができる、分散性顆粒として製剤化することもできる。顆粒は、例えば、小袋に包装することができる。担体が液体である、経口投与に適した製剤は、水性若しくは非水性液体溶液若しくは懸濁液として、又は水中油型液体エマルジョンとして提供することができる。
【0116】
経口投与用の製剤は、徐放性剤形、例えば、活性化合物が、適切な放出制御マトリックスに製剤化される、又は適切な放出制御フィルムでコーティングされる錠剤を含む。そのような製剤は、予防的使用に特に好都合でありうる。
【0117】
担体が固体である、経直腸投与に適した医薬製剤は、最も好ましくは、単位用量の坐剤として提供される。適切な担体としては、ココアバター、及び当分野でよく使用される他の材料が挙げられる。坐剤は、軟化又は溶融させた担体と活性化合物を混合し、その後冷やして型で成形することによって、好都合に形成することができる。
【0118】
非経口投与に適した医薬製剤としては、活性化合物を水性又は油性ビヒクルに入れた滅菌溶液又は懸濁液が挙げられる。
【0119】
本発明の医薬製剤は、眼投与、特に、眼内投与、局所眼投与、又は眼球周囲投与、より好ましくは、局所眼投与又は眼球周囲投与に適している。
【0120】
注射用調製物は、ボーラス注射又は持続注入に適合させることができる。そのような調製物は、製剤の導入後に使用が必要となるまで密閉される、単位用量又は複数用量容器で好都合に提供される。或いは、活性化合物は、使用前に、適切なビヒクル、例えば、無菌パイロジェンフリー水を用いて構成される、粉末形態であってもよい。
【0121】
活性化合物は、長時間作用型デポ調製物として製剤化することもでき、それは、筋肉内注射によって、又は皮下若しくは筋肉内に埋め込むことによって投与することができる。デポ調製物は、例えば、適切なポリマー性若しくは疎水性材料、又はイオン交換樹脂を含むことができる。そのような長時間作用型製剤は、特に、予防的使用に好都合である。
【0122】
口腔経由の肺内投与に適した製剤は、活性化合物を含有し、望ましくは0.5〜7ミクロンの範囲の直径を有する粒子が、受容者の気管支樹に送達されるように提供される。1つの可能性として、そのような製剤は、吸入装置における使用のための、適切には例えばゼラチン製の穿孔可能なカプセルで、又はその代わりに、活性化合物と、適切な液状若しくは気体状噴射剤と、場合により界面活性剤及び/若しくは固体状希釈剤等の他の成分とを含む自己噴射型(self-propelling)製剤として好都合に提供可能な微細に砕かれた粉末の形態をとる。適切な液状噴射剤としては、プロパン及びクロロフルオロカーボンが挙げられ、適切な気体状噴射剤としては、二酸化炭素が挙げられる。自己噴射型製剤は、活性化合物が、溶液又は懸濁液の液滴の形態で投与される場合に用いることもできる。
【0123】
そのような自己噴射型製剤は、当業界公知のものに類似し、確立された手順で調製することができる。適切には、それらは、所望の噴霧特性を有する、手動で操作可能な又は自動的に機能するバルブを備えた容器で提供され、有利には、バルブは、各操作時に、決まった容量、例えば、25〜100マイクロリットルを送達する定量型のものである。
【0124】
更なる可能性として、活性化合物は、加速空気流又は超音波撹拌を用いて、吸入のための微細霧を発生させる、アトマイザー又はネブライザーにおいて使用するために、溶液又は懸濁液の形態をとることができる。
【0125】
経鼻投与に適した製剤としては、肺内投与について上記したものに概して類似する調製物が挙げられる。そのような製剤は、投与されるときに鼻腔内で保持できるように、望ましくは、10〜200ミクロンの範囲の粒径を有すると予想され、これは、必要に応じて適切な粒径の粉末を使用するか又は適切なバルブを選択することによって実現できる。他の適切な製剤としては、鼻の極めて近くに保持された容器から鼻道への急速吸入による投与の場合、20〜500ミクロンの範囲の粒径を有する粗粉末、及び水性又は油性溶液又は懸濁液中の0.2〜5%w/vの活化合物を含む点鼻液が挙げられる。
【0126】
薬学的に許容される担体は、当業者に周知であり、それらの担体としては、0.1M、好ましくは0.05Mリン酸緩衝液、又は0.8%生理食塩水が挙げられるが、これらに限定されない。加えて、そのような薬学的に許容される担体は、水性又は非水性の溶液、懸濁液、及びエマルジョンであってもよい。非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油等の植物油、及びオレイン酸エチル等の注射用有機エステルである。水性担体としては、生理食塩水及び緩衝化媒体を含めた、水、アルコール/水性溶液、エマルジョン、又は懸濁液が挙げられる。非経口ビヒクルとしては、塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロース及び塩化ナトリウム、乳酸加リンゲル、又は不揮発性油が挙げられる。例えば、抗菌剤、酸化防止剤、キレート剤、不活性ガス等の保存料及び他の添加剤も存在してもよい。
【0127】
局所製剤に適した製剤は、例えば、ゲル剤、クリーム剤、又は軟膏剤として提供することができる。そのような調製物は、例えば、傷又は潰瘍に、傷若しくは潰瘍の表面に直接広がるように、又は治療すべき箇所及び部分一面に適用できる包帯、ガーゼ、メッシュ等の適切な支持体に保持されるように適用することができる。
【0128】
治療すべき部位、例えば、傷又は潰瘍に直接噴霧するか又はふりかけることができる、液体又は粉末製剤も提供することができる。或いは、包帯、ガーゼ、メッシュ等の担体に、製剤を噴霧して又はふりかけて、次いで治療すべき部位に適用することができる。
【0129】
本発明の更なる態様によれば、上記の医薬組成物又は獣医学的組成物を調製するための方法であって、活性化合物を、例えば、混合によって、担体と結合させる工程を含む方法が提供される。
【0130】
一般に、該製剤は、活性薬剤を、液体担体若しくは微粉固体担体、又はその両方と均一にかつ十分に結合させ、次いで、必要な場合には生成物を成形することによって調製される。本発明は、一般式(I)の化合物を、薬学的又は獣医学的に許容される担体又はビヒクルと連結又は結合させる工程を含む、医薬組成物を調製するための方法にまで及ぶ。
【0131】
[塩/エステル]
本発明の化合物は、塩又はエステル、特に、薬学的及び獣医学的に許容される塩又はエステルとして存在することができる。
【0132】
本発明の化合物の薬学的に許容される塩としては、それらの適切な酸付加塩又は塩基塩が挙げられる。適切な薬学的塩の総論は、Bergeら、J Pharm Sci、66、1〜19(1977)に見出すことができる。塩は、例えば、鉱酸等の強い無機酸、例えば、ハロゲン化水素酸、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、及びヨウ化水素酸塩、硫酸、リン酸、硫酸塩、重硫酸塩、ヘミ硫酸塩、チオシアン酸塩、過硫酸塩、並びにスルホン酸;強い有機カルボン酸、例えば、置換されていない若しくは(例えば、ハロゲンにより)置換されている1〜4個の炭素原子のアルカンカルボン酸、例えば、酢酸;飽和若しくは不飽和ジカルボン酸、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、若しくはテトラフタル酸;ヒドロキシカルボン酸、例えば、アスコルビン酸、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、若しくはクエン酸;アミノ酸、例えば、アスパラギン酸、若しくはグルタミン酸;安息香酸;又は有機スルホン酸、例えば、置換されていない若しくは(例えば、ハロゲンにより)置換されている(C
1〜C
4)-アルキル-若しくはアリール-スルホン酸、例えば、メタンスルホン酸、若しくはp-トルエンスルホン酸を用いて形成される。なお薬学的又は獣医学的に許容されない塩も、中間体として役に立つ可能性がある。
【0133】
好ましい塩としては、例えば、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、乳酸塩、グルコン酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩、パントテン酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、酪酸塩、ジグルコン酸塩、シクロペンタン酸塩(cyclopentanate)、グルコヘプタン酸塩(glucoheptanate)、グリセロリン酸塩、シュウ酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、フマル酸塩、ニコチン酸塩、パモ酸塩(palmoate)、ペクチン酸塩(pectinate)、3-フェニルプロピオン酸塩、ピクリン酸塩、ピバル酸塩、プロピオン酸塩(proprionate)、酒石酸塩、ラクトビオン酸塩、ピバル酸塩(pivolate)、樟脳酸塩、ウンデカン酸塩及びコハク酸塩、有機スルホン酸、例えば、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、2-ヒドロキシエタンスルホン酸塩、樟脳スルホン酸塩、2-ナフタレンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-クロロベンゼンスルホン酸塩、及びp-トルエンスルホン酸塩;並びに無機酸、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、ヘミ硫酸塩、チオシアン酸塩、過硫酸塩、リン酸及びスルホン酸が挙げられる。
【0134】
エステルは、エステル化される官能基に応じて、有機酸、又はアルコール/水酸化物を使用して形成される。有機酸としては、カルボン酸、例えば、置換されていない若しくは(例えば、ハロゲンにより)置換されている1〜12個の炭素原子のアルカンカルボン酸、例えば、酢酸;飽和若しくは不飽和ジカルボン酸、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、若しくはテトラフタル酸;ヒドロキシカルボン酸、例えば、アスコルビン酸、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、若しくはクエン酸;アミノ酸、例えば、アスパラギン酸、若しくはグルタミン酸;安息香酸;又は有機スルホン酸、例えば、置換されていない若しくは(例えば、ハロゲンにより)置換されている(C
1〜C
4)-アルキル-若しくはアリール-スルホン酸、例えば、メタンスルホン酸、若しくはp-トルエンスルホン酸が挙げられる。適切な水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム等の無機水酸化物が挙げられる。アルコールとしては、置換されていなくても、例えばハロゲンにより置換されていてもよい1〜12個の炭素原子のアルカンアルコールが挙げられる。
【0135】
[鏡像異性体/互変異性体]
先に検討した本発明のすべての態様において、本発明は、適切な場合、本発明の化合物のすべての鏡像異性体(エナンチオマー)、ジアステレオマー、及び互変異性体(タウトマー)を含む。当業者は、光学特性(1つ又は複数のキラル炭素原子)又は互変異性体の特徴を有する化合物を認識すると予想される。対応する鏡像異性体及び/又は互変異性体は、当業界公知の方法によって単離/調製することができる。鏡像異性体は、キラル中心の絶対配置を特徴とし、カーン・インゴルド・プレローグのR-及びS順位則によって示される。そのような慣例は、当業界周知である(例えば、「Advanced Organic Chemistry」、第3版、March, J.編、John Wiley and Sons社、New York、1985を参照されたい)。
【0136】
したがって、式(I)の化合物としては、以下の式
【0139】
例示的な例として、実施例1の互変異性体形態は、
【0142】
キラル中心を含有する本発明の化合物は、ラセミ混合物、鏡像異性体を豊富化した混合物として使用されてもよく、又はラセミ混合物は、周知の技術を使用して分離されてもよく、個々の鏡像異性体は、単独で使用されてもよい。
【0143】
[立体異性体及び幾何異性体]
本発明の化合物の中には、立体異性体及び/又は幾何異性体として存在することができるものもあり、例えば、それらは、1つ又は複数の不斉中心及び/又は幾何学的中心を有することができ、したがって、2種以上の立体異性的及び/又は幾何学的形態で存在することができる。本発明は、阻害剤のすべての個々の立体異性体及び幾何異性体、並びにそれらの混合物の使用を企図する。特許請求の範囲で使用する用語は、前記形態が、(必ずしも同じ度合いである必要はないが)適切な機能活性を保持するのであれば、これらの形態を包含する。
【0144】
本発明は、薬剤又は薬学的に許容されるその塩の、すべての適切な同位体変形物も含む。本発明の薬剤又は薬学的に許容されるその塩の同位体変形物を、少なくとも1個の原子が、同じ原子番号を有するが、通常天然に存在する原子質量と異なる原子質量を有する原子で置きかえられているものと定義する。薬剤及び薬学的に許容されるその塩に組み込むことができる同位体の例としては、水素、炭素、窒素、酸素、リン、硫黄、フッ素、及び塩素の同位体、例えば、それぞれ、
2H、
3H、
13C、
14C、
15N、
17O、
18O、
31P、
32P、
35S、
18F、及び
36Clが挙げられる。薬剤及び薬学的に許容されるその塩のある種の同位体変形物、例えば、放射性同位体、例えば、
3H又は
14Cが組み込まれているものは、薬物及び/又は基質組織分布試験に有用である。トリチウム化、すなわち
3H同位体、及び炭素-14、すなわち
14C同位体は、その調製の容易さ及び検出能について特に好ましい。更に、重水素、すなわち
2H等の同位体での置換は、より高い代謝安定性の結果によるある種の治療的利点、例えば、インビボ半減期延長又は必要投与量減少をもたらす可能性があり、したがって、いくつかの状況において好ましい可能性がある。例えば、本発明は、任意の水素原子が、重水素原子に置きかえられている一般式(I)の化合物を含む。本発明の薬剤及び薬学的に許容されるその塩の、本発明の同位体変形物は、一般に、適切な試薬の適切な同位体変形物を使用して、通常の手順によって調製することができる。
【0145】
[プロドラッグ]
本発明は、プロドラッグ形態の本発明の化合物、すなわち、インビボで、一般式(I)による活性親薬物を放出する共有結合化合物を更に含む。そのようなプロドラッグは、一般に、ヒト又は哺乳類の対象に投与された時に修飾を元に戻すことができるように、1つ又は複数の適切な基が修飾されている、本発明の化合物である。逆戻りは、そうした対象に本来存在する酵素によって通常行われるが、このようなプロドラッグと一緒に第2の薬剤を投与し、インビボで逆戻りを行うことが可能である。そのような修飾の例としては、エステル(例えば、上記のもののうちのいずれか)が挙げられ、ここで、逆戻りは、エステラーゼ等によりなされる場合がある。他のそのような系は、当業者に周知である。
【0146】
[溶媒和物]
本発明は、本発明の化合物の溶媒和物形態も含む。特許請求の範囲で使用する用語は、これらの形態を包含する。
【0147】
[多形体]
本発明は、更に、様々な結晶形態、多形形態、及び含水(無水)形態の本発明の化合物に関する。化学化合物の合成的調製で使用された溶媒からの精製及び/又は単離の方法をわずかに変えることによって、化学化合物をそのような形態のいずれかで単離できることが製薬産業内で確立されている。
【0148】
[投与]
本発明の医薬組成物は、経直腸、経鼻、気管支内、局所(口腔、舌下、及び眼投与を含む、特に、眼内、局所眼、又は眼球周囲投与に)、膣若しくは非経口(皮下、筋肉内、静脈内、動脈内、及び皮内を含む)、腹腔内、又は髄腔内投与に適合させることができる。好ましくは、製剤は、経口投与される製剤である。製剤は、好都合には、単位剤形で、すなわち、単位用量、又は単位用量の複数若しくはサブ単位を含有する別個の部分の形態で好都合に提供することができる。例として、製剤は、錠剤及び徐放性カプセルの形態をとることができ、製薬分野で周知の任意の方法によって調製することができる。
【0149】
本発明における経口投与用製剤は、所定の量の活性薬剤を含有するカプセル剤、カプセル(gellules)ゲル剤、ドロップ剤、カシェ剤、丸薬、若しくは錠剤等の別個の単位として;粉末若しくは顆粒として;水性液体若しくは非水性液体中の活性薬剤の溶液、エマルジョン、若しくは懸濁液として;又は水中油型液体エマルジョン若しくは油中水型液体エマルジョンとして;又はボーラス等として提供することができる。好ましくは、これらの組成物は、1用量当たり1〜250mg、より好ましくは10〜100mgの活性成分を含有する。
【0150】
経口投与用組成物(例えば、錠剤及びカプセル剤)について、用語「許容される担体」は、ビヒクル、例えば、一般的な賦形剤、例えば、結合剤、例えば、シロップ、アカシア、ゼラチン、ソルビトール、トラガカント、ポリビニルピロリドン(ポビドン)、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、スクロース、及びデンプン;増量剤及び担体、例えば、トウモロコシデンプン、ゼラチン、ラクトース、スクロース、結晶セルロース、カオリン、マンニトール、リン酸二カルシウム、塩化ナトリウム、及びアルギン酸;並びに潤滑剤、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウム、及び他の金属ステアリン酸塩、ステアリン酸グリセロール、ステアリン酸、シリコーン流体、タルク、蝋、油、並びにコロイド状シリカを含む。ペパーミント、冬緑油、サクランボ香料等の着香料も使用することができる。剤形を容易に識別できるように、着色料を添加することが望ましいこともある。錠剤は、当業界周知の方法によってコーティングすることもできる。
【0151】
錠剤は、場合により1種又は複数の副成分と共に、圧縮又は成型することによって製造できる。圧縮錠は、結合剤、潤滑剤、不活性な希釈剤、保存料、界面活性剤、又は分散剤と場合により混合された、自動流動形態、例えば、粉末又は顆粒の活性薬剤を、適切な機械において圧縮することによって調製することができる。湿製錠は、湿った粉末化合物と不活性な液体希釈剤との混合物を適切な機械において成型することによって、製造することができる。錠剤は、場合により、コーティングすることができ、刻み目をつけることができ、活性薬剤をゆっくり又は制御して放出させるように製剤化することができる。
【0152】
経口投与に適した他の製剤としては、味の付いた基剤、通常、スクロース及びアカシア、又はトラガカント中の活性薬剤を含む、トローチ剤;不活性基剤、例えば、ゼラチン及びグリセリン又はスクロース及びアカシア中の活性薬剤を含む、パステル剤;適切な液体担体中の活性薬剤を含む、洗口液が挙げられる。
【0153】
他の投与形態は、静脈内、動脈内、髄腔内、皮下、皮内、腹腔内、眼内、局所、眼球周囲又は筋肉内に注射でき、無菌の又は滅菌可能な溶液から調製される溶液又はエマルジョンを含む。注射形態は、典型的には、1用量当たり10〜1000mgの間、好ましくは10〜250mgの間の活性成分を含有する。
【0154】
本発明の医薬組成物は、坐剤、膣坐剤、懸濁液、ローション剤、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、噴霧剤、溶液、又は粉剤の形態をとることもできる。
【0155】
経皮投与の代替的な手段は、皮膚パッチの使用によるものである。例えば、活性成分は、ポリエチレングリコール又は液体パラフィンの水性エマルジョンからなる、クリーム剤に組み込むことができる。活性成分はまた、必要とされうる安定化剤及び保存料と一緒になった、白蝋又は白色ワセリン基剤からなる軟膏に、1〜10重量%の間の濃度で組み込むことができる。
【0156】
[投与量]
当業者は、過度の実験をすることなく、対象に投与する、本組成物のうちの1つの適切な用量を容易に決定することができる。典型的には、医師は、個々の患者に最も適した実際の投与量を決定するであろうし、投与量は、用いる特定の化合物の活性、その化合物の代謝安定性及び作用の長さ、年齢、体重、全身の健康、性別、食事、投与の様式及び時間、排泄率、薬物の組合せ、特定の状態の重篤度、並びに個別の実行中の療法を含めた様々な因子に左右されると予想される。本明細書に開示する投与量は、平均的なケースの例示である。もちろん、それより多い又は少ない投与量範囲の方が利点がある個々の事例が存在する可能性があり、そのような事例も本発明の範囲内である。
【0157】
本発明によれば、特定の状態又は疾患を標的にして、有効量の式(I)の化合物を投与することができる。もちろん、この投与量は、化合物の投与のタイプに応じて更に変更される。例えば、急性期治療のための「有効量」を実現するためには、一般式(I)の化合物の非経口投与が好ましい。水若しくは生理食塩水中5%デキストロース中の化合物、又は適切な賦形剤を有する類似の製剤の静脈内注入が最も有効であるが、筋肉内ボーラス注射も有用である。典型的には、非経口用量は、血漿内の薬物濃度を有効な濃度に維持するように、約0.01〜約100mg/kg、好ましくは0.1〜20mg/kgの間である。該化合物は、約0.4〜約400mg/kg/日という1日の総用量を達成するレベルで、1日1回から4回投与される。治療上有効である本発明の化合物の正確な量、及びそのような化合物が最も良好に投与される経路は、薬剤の血中レベルと、治療効果を有するのに必要な濃度と比較することによって、当業者によって容易に決定される。
【0158】
本発明の化合物は、薬物の濃度が、本明細書に開示する治療指標の1つ又は複数を達成するのに十分となるように、患者に経口投与することもできる。典型的には、該化合物を含有する医薬組成物は、患者の状態に合わせて、約0.1〜約50mg/kgの間の経口用量で投与される。好ましくは、経口用量は、約0.1〜約20mg/kgである。
【0159】
本発明の化合物が本発明に従って投与された場合、許容されない毒性学的影響は、予想されない。良好なバイオアベイラビリティを有しうる本発明の化合物は、所与の薬理効果を有するのに必要とされる化合物の濃度を決定するための、いくつかの生物学的アッセイの1つにおいて試験することができる。
【0160】
[併用]
特に好ましい実施形態において、本発明の1つ又は複数の化合物は、1種又は複数の他の活性薬剤、例えば、市販されている既存の薬物と組み合わせて投与される。そのような場合において、本発明の化合物は、1種又は複数の他の活性薬剤と、連続的に、同時に、又は逐次的に投与することができる。
【0161】
薬物は、一般に、組み合わせて使用されたとき、より効果的である。特に、併用療法は、主な毒性、作用機序、及び耐性機構の重複を避けるために望ましい。更に、ほとんどの薬物を最短の投与間隔でそれらの最大耐用量で投与することも望ましい。薬物を組み合わせることの大きな利点は、組み合わせることによって、生化学的相互作用を通じて、相加効果又は可能な相乗効果を促進することができ、耐性の出現を減らすこともできることである。
【0162】
試験化合物と、特定の障害の治療に役立つことが知られている又は考えられる薬剤との阻害活性を研究することによって、有益な組合せを示すことができる。この手法を使用して、薬剤投与の順番、すなわち、送達前か、同時か、送達後かを決定することもできる。そのようなスケジューリングは、本明細書で同定されるすべての活性薬剤の特徴でありうる。
【0163】
[アッセイ]
本発明の更なる態様は、PPP1R15A-PP1を阻害できる更なる候補化合物を同定するためのアッセイにおける、上記の化合物の使用に関する。
【0164】
好ましくは、アッセイは、競合結合アッセイである。
【0165】
より好ましくは、競合結合アッセイは、本発明の化合物を、PPP1R15A-PP1及び候補化合物と接触させることと、本発明による化合物とPPP1R15A-PP1との相互作用における任意の変化を検出することとを含む。
【0166】
好ましくは、候補化合物は、従来のSARによる、本発明の化合物の修飾によって作り出される。
【0167】
本明細書で使用する場合、用語「従来のSARによる修飾」は、化学誘導体化によって所与の化合物を変化させるための、当業界公知の標準的方法を指す。
【0168】
したがって、一態様において、同定された化合物は、他の化合物を開発するためのモデル(例えば、テンプレート)の役割を果たすことができる。そのような試験で用いられる化合物は、溶液中で遊離状態であってもよいし、固体支持体に固着されていてもよいし、細胞の表面上にあってもよいし、細胞内にあってもよい。活性の停止、又は試験されている化合物と薬剤との結合複合体の形成を測定することができる。
【0169】
本発明のアッセイは、多くの薬剤が試験されるスクリーニングであってもよい。一態様において、本発明のアッセイ方法は、ハイスループットスクリーニングである。
【0170】
本発明は、ある化合物に特異的に結合できる中和抗体を、ある化合物との結合について試験化合物と競合させる、競合的薬物スクリーニングアッセイの使用も企図する。
【0171】
物質への適切な結合親和性を有する薬剤のハイスループットスクリーニング(HTS)をもたらす別のスクリーニング技術もあり、これは、国際公開第84/03564号パンフレットに詳細に記述されている方法に基づく。
【0172】
本発明のアッセイ方法は、試験化合物の小規模及び大規模なスクリーニングにも、定量的アッセイにおいても適切であると予想される。
【0173】
好ましくは、競合結合アッセイは、本発明の化合物を、PPP1R15A-PP1の既知の基質の存在下で、PPP1R15A-PP1と接触させることと、前記PPP1R15A-PP1と前記既知の基質との相互作用の任意の変化を検出することとを含む。
【0174】
本発明の更なる態様は、リガンドのPPP1R15A-PP1への結合を検出する方法であって、
(i)リガンドを、既知の基質の存在下で、PPP1R15A-PP1と接触させる工程と、
(ii)PPP1R15A-PP1と、前記既知の基質との相互作用の任意の変化を検出する工程
とを含み、前記リガンドが本発明の化合物である、方法を提供する。
【0175】
本発明の一態様は、
(a)上記のアッセイ方法を行う工程と、
(b)リガンド結合領域に結合できる1種又は複数のリガンドを同定する工程と、
(c)ある量の前記1種又は複数のリガンドを作製する工程
とを含む方法に関する。
【0176】
本発明の別の態様は、
(a)上記のアッセイ方法を行う工程と、
(b)リガンド結合領域に結合できる1種又は複数のリガンドを同定する工程と、
(c)前記1種又は複数のリガンドを含む医薬組成物を調製する工程
とを含む方法を提供する。
【0177】
本発明の別の態様は、
(a)上記のアッセイ方法を行う工程と、
(b)リガンド結合領域に結合できる1種又は複数のリガンドを同定する工程と、
(c)リガンド結合領域に結合できる前記1種又は複数のリガンドを改変する工程と、
(d)上記のアッセイ方法を行う工程と、
(e)前記1種又は複数のリガンドを含む医薬組成物を場合により調製する工程
とを含む方法を提供する。
【0178】
本発明は、上記の方法によって同定されたリガンドにも関する。
【0179】
本発明の更に別の態様は、上記の方法によって同定されたリガンドを含む医薬組成物に関する。
【0180】
本発明の別の態様は、先に定義したミスフォールドタンパク質の蓄積に関連する障害の治療において使用される医薬組成物の調製における、上記の方法によって同定されたリガンドの使用に関する。
【0181】
上述の方法を使用して、PPP1R15A-PP1の阻害剤として有用なリガンドをスクリーニングすることができる。
【0182】
一般式(I)の化合物は、実験ツールとしても、治療薬としても有用である。実験室において、本発明のある種の化合物は、既知の又は新たに発見した標的が、病状の確立又は進行の間に、決定的な、又は少なくとも重大な生化学的機能を与えているかどうかを確認すること、すなわち、一般に「ターゲットバリデーション」とも呼ばれるプロセスにおいて有用である。
【0183】
以下の非限定的な実施例を参照し、本発明を更に説明する。
【実施例】
【0184】
[方法及び材料]
実施例1を、Chemdiv社から購入した(ref:1683-6588)
実施例2を、Chembridge社から購入した(ref:5173161)
実施例4を、Enamine社から購入した(ref:Z49562642)
実施例6を、Chemdiv社から購入した(ref:1683-6502)
【0185】
[本発明による化合物の調製]
反応物及び市販の化合物を、Acros Organics社、Sigma-Aldrich社から購入した。本発明による化合物は、以下の一般的手順
【0186】
【化9】
【0187】
に従って調製することができる。
【0188】
ベンズアルデヒド(1当量)のエタノール(300ml)溶液に、25℃で、塩酸アミノグアニジン(1当量)及び酢酸ナトリウム(1当量)を順次添加した。得られた反応混合物を、80℃でそれから約6時間加熱した。反応の完了を、ジクロロメタン/メタノール(8/2)を移動相として使用するTLCでモニタリンクした。反応完了後、反応混合物を25℃に冷却し、NaHCO
3飽和溶液(700ml)に入れた。得られた沈殿物を、真空中で濾過し、水(100ml)で洗浄した。得られた固体材料を、ジエチルエーテル(2×25ml)で粉末化し、真空中で乾燥し、所望の置換アミノグアニジン誘導体を得た。
【0189】
以下の化合物を、一般的手順Aに従って調製した。
【0190】
(実施例1)
1-[(E)-[(2-クロロフェニル)メチリデン]アミノ]-グアニジン
2-クロロベンズアルデヒドから、一般的手順Aに従って調製した。
1H-NMR (DMSOd
6): δ (ppm) 5.61 (s, 2H); 6.06 (s, 2H); 7.22-7.32 (m, 2H); 7.40 (dd, 1H); 8.15 (dd, 1 H); 8.28 (s, 1H); MS (ESI+): m/z = 197.4 [M+H]
+
【0191】
(実施例3)
1-[(E)-[(2-フルオロフェニル)メチリデン]アミノ]-グアニジン
2-フルオロベンズアルデヒドから、一般的手順Aに従って調製した。
【0192】
(実施例7)
1-[(E)-[(2-クロロ-4-フルオロフェニル)メチリデン]アミノ]グアニジン
2-クロロ-4-フルオロベンズアルデヒドから一般的手順Aに従って、67%の収率で調製した。
1H-NMR (DMSO-d
6): δ (ppm) 5.80 (brs, 2H); 5.84 (brs, 2H); 7.19-7.34 (m, 4H); 8.16 (s, 1H); MS (ESI+): m/z = 215.1 [M+H]
+
【0193】
(実施例13)
1-[(E)-[(3-クロロピリジン-4-イル)メチリデン]アミノ]グアニジン
3-クロロイソニコチンアルデヒドから一般的手順Aに従って、50%の収率で調製した。
1H-NMR (DMSO-d
6): δ (ppm) 6.01 (brs, 2H); 6.33 (brs, 2H); 8.10 (d, 1H); 8.14 (s, 1H); 8.37 (dd, 1H); 8.52 (s, 1H); MS (ESI+): m/z = 198.4 [M+H]
+
【0194】
(実施例15)
1-[(E)-[(2-クロロ-6-フルオロフェニル)メチリデン]アミノ]グアニジン
2-クロロニコチンアルデヒドから一般的手順Aに従って、56%の収率で調製した。
1H-NMR (DMSO-d
6): δ (ppm) 5.84 (brs, 2H); 5.88 (brs, 2H); 7.18-7.35 (m, 3H); 8.16 (s, 1H); MS (ESI+ ): m/z = 215.4 [M+H]
+
【0195】
中間体1: 3-クロロ-5-フルオロイソニコチンアルデヒド
N,N-ジイソプロピルアミン(0.864g、0.006690mol)のTHF(6ml)撹拌溶液に、n-buLi(ヘキサン中1.6M)(7.6ml、0.012164mol)を、-78℃で、15分かけて滴下した。得られた反応混合物を、-78℃で15分間撹拌し、次いでそのまま0℃に温度を上げ、それを更に1時間撹拌した。得られた反応混合物を、再び、-78℃で冷却し、3-クロロ-5-フルオロピリジン(0.8g、0.006082mol)のTHF(6ml)溶液を10分かけて滴下した。得られた反応混合物を、-78℃で1時間撹拌し、その後、ギ酸メチル(0.73g、0.012164mol)を、-78℃で滴下した。得られた反応混合物を、更に-78℃でもう1時間撹拌した。反応を、ヘキサン:酢酸エチル(5:5)を移動相として使用するTLCでモニターした。反応完了後、反応混合物を、NH
4Cl飽和溶液(50ml)に入れ、酢酸エチル(4×25ml)で抽出した。合わせた有機抽出物を、脱塩水(50ml)、ブライン(25ml)で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥し、真空中で濃縮した。有機層の蒸留により、粗製形態の所望のアルデヒド(0.6g、収率61.85%)を得た。この粗製化合物を、更にいかなる処理もせずに、直接、次の工程で使用した。
【0196】
(実施例16)
1-[(E)-[(3-クロロ-5-フルオロピリジン-4-イル)メチリデン]アミノ]グアニジン
3-クロロ-5-フルオロイソニコチンアルデヒドから一般的手順Aに従って、14%の収率で調製した。
1H-NMR (DMSO-d
6): δ (ppm) 5.95-6.30 (m, 4H); 8.10 (s, 1H); 8.46-8.52 (m, 2H); MS (ESI+): m/z = 216.0 [M+H]
+
【0197】
(実施例8)
N-{N-[(E)-[(2-クロロフェニル)メチリデン]アミノ]カルバムイミドイル}アセトアミド
【0198】
【化10】
【0199】
1-[(E)-[(2-クロロフェニル)メチリデン]アミノ]グアニジン(0.50g、0.002543mol)のDMSO(10ml)溶液に、25℃で、無水酢酸(0.26g、0.002543mol)を添加した。得られた反応混合物を、25℃でそれから15時間撹拌した。反応の完了を、ジクロロメタン/メタノール(9.5/0.5)を移動相として使用するTLCでモニターした。反応完了後、反応混合物を、水(100ml)に入れ、酢酸エチル(2×150ml)で抽出した。合わせた有機抽出物を、ブライン(100ml)で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過し、真空中で濃縮した。得られた粗製材料を、ジクロロメタン:メタノールを移動相として使用するフラッシュクロマトグラフィーによって更に精製し、所望の生成物を、ジクロロメタン中約1.0%メタノールで溶出させた。純粋な生成物の画分の蒸留によって、N-{N-[(E)-[(2-クロロフェニル)メチリデン]アミノ]カルバムイミドイル}アセトアミド(0.080g、収率13%)を得た。
1H-NMR (DMSO-d
6): δ (ppm) 2.97 (s, 3H); 7.25-7.41 (m, 3H); 7.42-7.53 (m, 1H); 7.79 (brs, 1H); 8.22-8.29 (m, 1H); 8.48 (s, 1H); 10.58 (brs, 1H); MS (ESI+): m/z = 239.2 [M+H]
+
【0200】
(実施例9)
メチルN-{N-[(E)-[(2-クロロフェニル)メチリデン]アミノ]カルバムイミドイル}カルバメート
【0201】
【化11】
【0202】
1-[(E)-[(2-クロロフェニル)メチリデン]アミノ]グアニジン(0.15g、0.000762mol)のジクロロメタン(5ml)懸濁液に、25℃で、トリエチルアミン(0.32ml、0.002288mol)を添加した。得られた反応混合物を、氷/塩浴を使用して、0℃に冷却し、その後、クロロギ酸メチル(0.09ml、0.001144mol)を、0℃で、反応混合物に添加した。得られた反応混合物を、室温で15時間撹拌した。反応の完了を、ジクロロメタン/メタノール(9/1)を移動相として使用するTLCでモニターした。反応完了後、反応混合物を、NaHCO
3飽和溶液(20ml)に入れ、ジクロロメタン(3×25ml)で抽出した。合わせた有機抽出物を、D.M.水(20ml)、ブライン(20ml)で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過し、真空中で濃縮した。得られた粗製材料を、ジクロロメタン:メタノールを移動相として使用するフラッシュカラムクロマトグラフィーによって更に精製し、所望の生成物を、ジクロロメタン中約1.0%メタノールで溶出させた。純粋な生成物の画分の蒸留によって、メチルN-{N-[(E)-[(2-クロロフェニル)メチリデン]アミノ]カルバムイミドイル}カルバメート(0.065g、収率37%)を得た。
1H-NMR (DMSO-d
6): δ (ppm) 3.60 (s, 3H); 7.34-7.43 (m, 2H); 7.45-7.52 (m, 1H); 7.67 (brs, 1H); 7.92 (brs, 1H); 8.22-8.30 (m, 1H); 8.44 (s, 1H); 11.02 (brs, 1H); MS (ESI+): m/z = 255.4 [M+H]
+
【0203】
選択した本発明による化合物を、下のTable 1に示す。
【0204】
【表2A】
【0205】
【表2B】
【0206】
以下の実験のいくつかにおいて、これらの化合物の塩を使用することができ、例えば、酢酸を用いて形成された、実施例1の酢酸塩を使用することができる。
【0207】
[ERストレスからの細胞保護(試験1)]
5%ウシ胎児血清(FBS)を含有する、ペニシリン、ストレプトマイシンを補給したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)において、HeLa細胞を、5%CO
2雰囲気中で37℃で培養した。細胞を、処理24時間前に、15,000細胞/mlの密度で24ウェルプレートに入れた。2.5μg/mlのツニカマイシン(Sigma-Aldrich社)とeIF2αホスファターゼ阻害剤(0.2〜5μM)とを含有する新しい培地を添加することによって、ERを誘発した。6時間後、培地を、ホスファターゼ阻害剤(0.2〜5μM)を含有する新しい培地に変えた。阻害剤をDMSO(50mM)に溶解し、DMSOを、偽処理(mock treatment)として使用した。ツニカマイシンの処理の48時間後、Cell viability Counting Kit-8(同仁化学研究所)を供給元の推奨に従って使用して、WST-8[2-(2-メトキシ-4-ニトロフェニル)-3-(4-ニトロフェニル)-5-(2,4-ジスルホフェニル)-2H-テトラゾリウム]のホルマザンへの還元を測定することによって、細胞生存率を評価した。ERストレスからの細胞保護を、ERストレス後の(対照に対する)生存細胞の増加率の観点から測定する。本発明の実施例1についての結果を
図1に示す。
【0208】
[ストレスを受けていない細胞における翻訳速度の評価(試験2)]
HeLa細胞(80,000細胞/ml)を、各実験の24時間前に12ウェルプレートに入れ、処理しないか、化合物(50μM)で、0.5、1、2.5、5及び7.5時間処理した。各時点の最後に、30.6μCi/ml
35S-メチオニン(EasyTag、PerkinElmer社)を、37℃で10分間培地に添加した。標識化後、細胞を、氷冷PBSで洗浄し、75μlのLaemmli Bufferに溶解した。溶解物を超音波処理し、95℃で5分間煮沸し、NuPAGE4〜12%勾配ゲルで分離させた。次いで、ゲルをクマシーブリリアントブルーR-250で染色し、蛍光イメージング(phosphorimaging)によって解析した。
【0209】
[ストレスを受けた細胞における翻訳速度の評価(試験3)]
ツニカマイシン(2.5μg/ml)を化合物と共に添加したことを除いて、ストレスを受けていない細胞における翻訳の測定についての処理を行った。本発明の実施例1の結果を、
図3に示す。
【0210】
[免疫沈降(試験4)]
HeLa細胞(80,000細胞/ml)を、示した処理の1日前にプレートに入れ、Lipofectamine2000(Invitrogen社)を製造元の手順に従って使用して、GFP-PPP1R15A又はFLAG-PPP1R15B発現プラスミドでトランスフェクトした。トランスフェクションの2日後、細胞を、化合物(50μM)で6時間処理し、次いで、PBS中で洗浄し、IP緩衝液[50mMのトリス(pH7.4)、150mMのNaCl、0.2%のTriton X-100、10%のグリセロール、及びEDTAを含まないプロテアーゼ阻害剤カクテル]に溶解した。溶解物を、4℃で15分間、15,000gでの遠心分離によって清澄し、4℃で1時間、プロテインGビーズでプレクリアした。タンパク質を、1.5μlのGFP抗体(JL-8、Clontech社、632380)で免疫沈降し、20μlのプロテイン-G-セファロースビーズ(GE Healthcare社、17-0618-01)に結合させた。次いで、ビーズを、冷えたIP緩衝液で3回洗浄し、50μlのLaemmli Buffer[25mMのTris-HCl(pH6.8)、1%のSDS、25mMのDTT、7.5%のグリセロール、0.05%のブロモフェノールブルー)中で煮沸した。免疫沈降したタンパク質複合体(17μl)を、4〜12%NuPAGE勾配ゲル(Invitrogen社)で分離させ、Optitran BA-S83強化ニトロセルロース膜に移し、GFP及びPP1抗体(sc-7482、Santa Cruz社)で明らかにした。
【0211】
[アドレナリンα2A受容体についての機能的エクオリンアッセイ(試験5)]
抗生物質無しで、培地において対数増殖期中期まで増殖させた、ミトコンドリアのアポエクオリン、Gα16、及び組換えヒトアドレナリンα2A受容体を共発現するCHO-K1細胞を、PBS-EDTAではがし、遠心分離にかけ、HEPES含有、フェノールレッド不含DMEM/HAM's F12+プロテアーゼ不含0.1%BSA緩衝液に、1×10
6細胞/mlの濃度で再懸濁させた。細胞を、セレンテラジンhと共に、室温で少なくとも4時間インキュベートした。試験の各日に、参照アゴニスト(UK14304)を試験して、アッセイの性能を評価し、EC
50を決定した。次いで、50μlの細胞懸濁液を、96ウェルプレートにおいて、50μlの試験アゴニストと混合する。得られた発光を、Hamamatsu Functional Drug Screening System 6000ルミノメーターを使用して記録した。プレート及び異なる実験にわたって、記録された光の発光を標準化する(「100%のシグナル」の決定)ために、ウェルのいくつかは、100μMのジギトニン、又は飽和濃度のAT(20μM)を含有した。
【0212】
試験化合物からの用量応答データを、S字用量応答モデルに適用される非線形回帰を使用するXLfit(IDBS社)ソフトウェアで解析した。
【0213】
本発明の実施例1の結果を、
図4に示す。有利なことに、グアナベンズとは対照的に、実施例1は、強力なα-2アゴニストであると認められない。このα-2アドレナリン作動活性の喪失によって、該化合物は、本明細書で主張する障害の治療において、治療上有用となる。α-2アドレナリン作動活性がないということは、血圧にいかなる大きな影響も与えることなく、本明細書で主張する障害の治療に適した投与量で該化合物を投与でき、それによって既知のα-2アドレナリンアンタゴニスト(αブロッカー)と同時投与する必要が回避されることを意味する。
【0214】
[選択性の評価]
選択性を、試験1、試験2、試験3、及び試験4の結果から推測した:
PPP1R15Aの選択的阻害剤は、ERストレスから細胞を保護するはずであり(試験1)、ストレスを受けていない細胞において、翻訳を阻害せず(試験2)、ツニカマイシン後の翻訳の減少を延長させ(試験3)、PPP1R15b-PP1ホロホスファターゼではなく、PPP1R15A-PP1ホロホスファターゼを選択的に解離させる(試験4)。
【0215】
[結果]
選択した本発明の化合物についての試験1〜試験4の結果を以下にTable 1に示す。
【0216】
【表3】
【0217】
細胞ベースアッセイ:
[材料及び方法]
(細胞培養及び試薬)293T細胞を、10%ウシ胎児血清を添加した’ダルベッコ改変イーグル培地に維持し、カルシウムリン酸法を用いて6ウェル又は12ウェルプレート中でトランスフェクトし、通常〜70%のトランスフェクション効率を得た。規定通り、(Rousseauら、2009)に説明される通りに45,000細胞/mlをトランスフェクション前にプレーティングした。ミエリンP0S63del-DSredのコンストラクトは、(Pennutoら、2008)に記載され、ハンチンチンのコンストラクトは(Rousseauら、2009)に記載され、SOD1A4Vのコンストラクトは(Munchら、2011)に記載され、P23Hコンストラクトは(Mendes及びCheetham、2008)に記載されている。
【0218】
[蛍光顕微鏡観察]
トランスフェクトした細胞を、4%パラホルムアルデヒドで固定し、指定の抗体で標識した。Leica TCS SP2AOBS共焦点顕微鏡、又はLeica DMRB蛍光顕微鏡の倍率100xで顕微鏡写真を撮影した。
【0219】
[免疫ブロッティング]
規定通りに、12ウェルプレートのウェルから70%コンフルエント細胞を140 μl煮沸Laemmli緩衝液(25 mM Tris-HCI, pH 6.8, 1% SDS, 25 mM ジチオスレイトール, 7.5%
10 グリセロール, 0.05% ブロモフェノールブルー)に溶解し、免疫ブロット解析に供した。18 μlのタンパク質抽出液を、2-12% NuPAGEゲルにロードし、Optitran BA-S 83強化ニトロセルロース膜にトランスファーした(Whatman及び Schleicher & Schuell)。免疫ブロットにより解析するタンパク質を等量ロードしたことは、ポンソーレッド染色及びビメンチンにより照合した(データ記載無し)。膜を5%乾燥スキムミルク(リン酸緩衝生理食塩水溶液)に浸し、Htt 2b4抗体、又はHA標識SOD1を露呈させるためのHA抗体と結合させた。ペルオキシダーゼと結合させた適切な二次抗体を、SuperSignal West Pico Chemiluminescent kit (Pierce)を用いて露呈させた。化学発光画像を、Chemi-Smart 5000 (Vilber-Lourmat)用いて取得し、これにより化学発光を定量的検出することができた。目的のシグナルを、lmageJを用いて定量した。
【0220】
[シャルコー・マリー・トゥース病 1Bのアッセイ(試験6)]
P0からのセリン63の欠失(P063del)は、ヒトにおいてはシャルコー・マリー・トゥース1Bニューロパチー、トランスジェニックマウスにおいては類似の脱髄性ニューロパチーを引き起こす。変異タンパク質はミスフォールドし、ERに蓄積し、UPRを誘発し、ミエリンに組み込まれない(D'Antonioら, 2009, J Neurosci Res, 87, 3241-9)。293T細胞を、標識されたP0S63del(P0S63del-DSred)でトランスフェクトし、共焦点顕微鏡観察によって、トランスフェクション後48時間、式(I)の化合物の存在下、又は非存在下にて解析した。(Pennutoら、2008)に説明される方法論に従って、ER保持されたPOS63del-DSredを記録した。
図4は、非処理の細胞においては、POS63delがERに蓄積しているが、実施例1がこの蓄積を防ぐことを示している。ミスフォールドされたP0の蓄積によってCMT-1Bが引き起こされるため、また、実施例1が疾患の原因となるタンパク質の蓄積を減少させることが示されたため、式(I)の化合物は、CMT-1B、及び疾患の原因となるタンパク質がミスフォールドされERに保持される、他の型のCMTを治療するために有用であるはずである。
【0221】
[ハンチントン病及び筋萎縮性側索硬化症のアッセイ(試験7)]
ハンチントン病に関連する変異ハンチンチンアミノ末端断片(Htt48Q)、及び筋委縮性側索硬化症に関連するSOD1変異(A4V)の蓄積を試験した。国際公開第2008/041133号パンフレットで以前説明された方法を用いた。293T細胞をHtt48又はSOD1
A4Vをコードするプラスミドでトランスフェクトし、トランスフェクション後4時間、DMSO中の実施例1ので処理、又はDMSO単独で処理した。トランスフェクション後48時間で回収されたSDSライセートを、NuPAGE、及びその後ハンチンチン抗体(2B4)又はHA(SOD1)によって免疫ブロットにより解析した。
図5は、非処理細胞で標準化した、免疫ブロットでのシグナルの定量を示す。実施例1は、両方のタンパク質の蓄積を減少させる。実施例1がハンチントン病を引き起こすタンパク質、及び筋委縮性側索硬化症を引き起こすタンパク質の蓄積を減少させることが示されたことから、式(I)の化合物はそのような疾患、及びミスフォールドタンパク質の蓄積によって引き起こされる他の神経変性疾患を治療するために有用であるはずである。
【0222】
[ロドプシンP23H凝集のアッセイ(試験8)]
(Mendes & Cheetham 2008)に説明されるように、網膜色素変性症に関連するロドプシンの凝集を試験した。293T細胞を、ロドプシンのP23H変異コードするプラスミドでトランスフェクトし、トランスフェクション後4時間、DMSO中の実施例1ので処理、又はDMSO単独で処理した。細胞を顕微鏡観察により解析した。
図6は、凝集した細胞、又は凝集していない細胞を示す。実施例1は凝集を減少させる。ミスフォールドしたロドプシンの蓄積はRPを引き起こすため、及び実施例1が疾患を引き起こすタンパク質の蓄積を減少させることが示されたため、式(I)の化合物は網膜色素変性症を治療するために有用であるはずである。
【0223】
実施例1及び実施例6は、PPP1R15Aの選択的阻害剤であることが確認される。
【0224】
実施例2、実施例4、実施例7、及び実施例8は、PPP1R15A及びPPP1R15Bの両方を阻害する。
【0225】
本発明の範囲及び趣旨を逸脱することのない、本発明の様々な改変及び変形は、当業者に明らかである。本発明を、特定の好ましい実施形態と共に説明しているが、特許請求している本発明が、そのような特定の実施形態に全く限定されるべきではないことを理解すべきである。実際、当業者に明らかである、本発明を実施するための記述された形態の様々な改変は、本発明に包含されるものであると意図している。