特許第6276305号(P6276305)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6276305溶融ナトリウム電池及び溶融ナトリウム電池用隔壁
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6276305
(24)【登録日】2018年1月19日
(45)【発行日】2018年2月7日
(54)【発明の名称】溶融ナトリウム電池及び溶融ナトリウム電池用隔壁
(51)【国際特許分類】
   H01M 2/18 20060101AFI20180129BHJP
   H01M 2/16 20060101ALI20180129BHJP
   H01M 2/08 20060101ALI20180129BHJP
   H01M 2/02 20060101ALI20180129BHJP
   H01M 10/39 20060101ALI20180129BHJP
   H01M 10/38 20060101ALI20180129BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20180129BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20180129BHJP
【FI】
   H01M2/18 Z
   H01M2/16 M
   H01M2/08 A
   H01M2/02 A
   H01M10/39 A
   H01M10/39 Z
   H01M10/38
   H01M4/38 Z
   H01M4/58
【請求項の数】10
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-37170(P2016-37170)
(22)【出願日】2016年2月29日
(65)【公開番号】特開2017-103197(P2017-103197A)
(43)【公開日】2017年6月8日
【審査請求日】2017年7月5日
(31)【優先権主張番号】特願2015-228547(P2015-228547)
(32)【優先日】2015年11月24日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517256002
【氏名又は名称】有限会社中勢技研
(74)【代理人】
【識別番号】100081776
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 宏
(72)【発明者】
【氏名】大川 宏
【審査官】 小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭50−127129(JP,A)
【文献】 特開昭50−038030(JP,A)
【文献】 特開昭50−154733(JP,A)
【文献】 特開平01−252587(JP,A)
【文献】 特開2012−099293(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/152028(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/14−2/18
H01M 2/00−2/08
H01M 10/05−10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内外を連通する貫通孔を持つ接合部を有する金属製の陽極容器内に配置される、厚さ方向の中央部に陰極室と該陰極室と外側とを結ぶ貫通孔とを有する板状でβアルミナ製の隔壁本体と、
該隔壁本体に一体的に形成され該貫通孔を介して該陰極室と連通する通孔を持ち該接合部に気密的に被着されるセラミックス製の頭部と、
からなる溶融ナトリウム電池用隔壁。
【請求項2】
前記接合部は筒状であり、前記頭部は筒状の前記接合部の内周面に被着されるニップル状である請求項1記載の溶融ナトリウム電池用隔壁。
【請求項3】
前記接合部は前記貫通孔と該貫通孔を区画するリング状の被着面を持つ部分からなり、前記頭部は前記通孔を持つ中心部分と該中心部分の周囲にあり該接合部の被着面に接合されるリング状の被着面を持つ部分とからなる請求項1記載の溶融ナトリウム電池用隔壁。
【請求項4】
前記接合部は前記リング状の被着面を持つ部分からなる頂面部と該頂面部の該周縁より下方に延びる筒壁部とからなるハット状であり、前記頭部は前記通孔を持つ上方段部と該上方段部の周囲にあり該接合部の該被着面に接合されるリング状の被着面を持つ下方段部とからなる請求項3記載の溶融ナトリウム電池用隔壁。
【請求項5】
前記セラミックスはβアルミナ及びαアルミナの1種である請求項1〜4の1項に記載の溶融ナトリウム電池用隔壁。
【請求項6】
少なくとも前記隔壁本体は前記陰極室を通る面で分割された表側部と裏側部とからなり、該表側部と裏側部が直接あるいは接合部材を介して接合一体化されたものである請求項1〜5の1項に記載の溶融ナトリウム電池用隔壁。
【請求項7】
少なくとも前記陰極室は消失型で形成されたものである請求項1〜5の1項に記載の溶融ナトリウム電池用隔壁。
【請求項8】
陰極活物質となる溶融ナトリウムと、陽極活物質と、該溶融ナトリウムを収納するナトリウム容器と、内部に陰極室を持つ隔壁と、該陽極活物質及び該隔壁を気密的に収納する陽極容器と、該ナトリウム容器内と該陰極室とを連通する連通手段とを有する溶融ナトリウム電池であって、
前記陽極容器は内外を連通する貫通孔を持つ接合部を有する金属製であり、
前記隔壁は該陽極容器内に配置される厚さ方向の中央部に該陰極室と該陰極室と外側とを結ぶ貫通孔とを有する板状でβアルミナ製の隔壁本体と該隔壁本体に一体的に形成され該貫通孔を介して該陰極室と連通する通孔を持ち該接合部に気密的に被着されるセラミックス製の頭部とからなる、
ことを特徴とする溶融ナトリウム電池。
【請求項9】
前記連通手段は金属製の細管で形成されている請求項8に記載の溶融ナトリウム電池。
【請求項10】
前記陽極活物質は溶融硫黄あるいはハロゲン化金属である請求項8又は9に記載の溶融ナトリウム電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陰極活物質として溶融ナトリウム、固体電解質としてβアルミナを用いた溶融ナトリウム電池及び溶融ナトリウム電池用隔壁に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融ナトリウム電池としては、陽極活物質に溶融硫黄を用いるナトリウム硫黄電池及び陽極活物質に塩化ニッケル等を用いるナトリウム溶融塩電池の2種類の電池が実用化されている。これらの溶融ナトリウム電池は共に固体電解質としてβアルミナ製の隔壁が採用されている。また、これらの溶融ナトリウム電池はいずれも250℃から350℃の高温で使用され、充放電時には内部抵抗で電池自体が加熱されて温度が上がり、電池が充放電していないときは電池外に熱が漏れ温度が低下する。このように、ナトリウム電池は充放電に伴い、電池温度が変動する、しかも10年以上に渡る長期間の使用に耐える耐久性が要請されている。
【0003】
溶融ナトリウム電池の陰極活物質であるナトリウム及び放電時に陽極室に生成する多硫化ナトリウム等の化合物さらには隔壁を構成するβアルミナは水に弱い。このため、大気中の水分が陰極室及び陽極室に侵入しない高度の気密性を必要とする。
【0004】
実用化されているナトリウム硫黄電池及びナトリウム溶融塩電池では、いずれもβアルミナ製の隔壁として試験管形状の有底上端開口管が使用されている。この有底上端開口管の上端部にαアルミナ製の絶縁リングをガラス接合材で気密的に接合している。そしてこの絶縁リングの内周面側に金属製蓋を気密的に接合して隔壁の内周面側の一方の極室を形成し、この絶縁リングの外周面側に金属製ケースを気密的に接合して隔壁の外周面側の他方の極室を形成している。
【0005】
ナトリウム硫黄電池では内周面側の一方の極室に溶融ナトリウムを収納して陰極室とし、外周面側の他方の極室に溶融硫黄を収納して陽極室としている。また、ナトリウム溶融塩電池では内周面側の一方の極室に溶融金属塩化物を収納して陽極室とし、外周面側の他方の極室に溶融ナトリウムを収納して陰極室としている。
【0006】
陰極室と陽極室を隔てる隔壁は、両側の陽極室内の圧力及び陰極室内の圧力にさらされ、両圧力の差に相当する圧力による変形を受ける。隔壁を構成するβアルミナはセラミックスに共通する性質として押圧には強いが引っ張りには弱いとう性質がある。このため、隔壁は可能な限り引っ張り応力が作用しない使用および形状が求められる。前記した試験管形状の有底上端開口管では、内周面側の圧力を外周面側の圧力より低くすることで、隔壁の全ての部分で押圧力が作用し引っ張り力が作用しない状態とすることができる。隔壁の他の形状としては、特開昭50−38030号公報に記載されている外形が板状で、内部に並走する細孔状の陰極室を持つ板状隔壁を挙げることができる。この板状隔壁は陽極室内に保持され、隔壁の内部の陰極室を外部の陽極室に対して減圧された状態で使用することによりこの隔壁の蓋を除く板状の部分で押圧力が作用し引っ張り力が作用しない状態としている。
【0007】
βアルミナ製の隔壁として、一方の側に陰極室、他方の側に陽極室を持つ板状の隔壁を持つナトリウム硫黄電池が特許文献等で見られる。しかし、これらのナトリウム硫黄電池では、隔壁に曲げ応力が作用し、板状隔壁の一方の側の表面に引っ張り応力が作用するため、隔壁が割れる場合も想定され、実用的ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−196204号公報
【特許文献2】特開昭50−38030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
隔壁が試験管状の有底上端開口管である場合、βアルミナ管の上端部にαアルミナリングがガラス接合剤で接合され、このαアルミナリングの内周面側と外周面側に金属部材がそれぞれ接合される。この場合、βアルミナ管の上端部の開口が広いため、接合面積が広くかつ2か所を接合しなければならない。このため高度の接合技術を必要とする。
【0010】
内部に陰極室を持つ板状隔壁では、βアルミナ製の板状の隔壁本体とその上端に接合された長方形板状のαアルミナ製の蓋で構成されている。この蓋の中央部に貫通孔が形成されており、この貫通孔に金属製の細管が挿し込まれ、この細管の外周面と蓋の貫通孔の内周面の間隙に接合剤を入れて接合している。一方、金属製の陽極室容器は上端開口の直方体形状の箱状で、この容器にβアルミナ製の板状の隔壁を挿入し、隔壁の長方形状の蓋の外周面とそれを覆う金属製の容器の上方の内周面の間隙に接合剤を入れて接合している。この板状隔壁では接合面が長方形状でその辺に当たる部分が直線状で長い。このため、バイメタルとして知られているように、接合された金族とセラミックスの間に大きな剥離応力が作用しシールが損傷することも考えられる。このためこのシール形態は実用性に乏しい。
【0011】
本発明は、陰極室を内部に持つ板状隔壁とこの板状隔壁を内部に収納して気密な陽極室を形成する金属製の陽極容器とのシールが容易な溶融ナトリウム電池用隔壁及びこの隔壁を持つ溶融ナトリウム電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の溶融ナトリウム電池用隔壁は、内外を連通する貫通孔を持つ接合部を有する金属製の陽極容器内に配置される、厚さ方向の中央部に陰極室と該陰極室と外側とを結ぶ貫通孔とを有する板状でβアルミナ製の隔壁本体と、この隔壁本体に一体的に形成され貫通孔を介して陰極室と連通する通孔を持ち前記接合部に気密的に被着されるセラミックス製の頭部と、からなることを特徴とする。また、本発明の溶融ナトリウム電池は、陰極活物質となる溶融ナトリウムと、陽極活物質と、溶融ナトリウムを収納するナトリウム容器と、内部に陰極室を持つ隔壁と、陽極活物質及び前記隔壁を気密的に収納する陽極容器と、該ナトリウム容器内と該陰極室とを連通する連通手段とを有する溶融ナトリウム電池であって、前記陽極容器は内外を連通する貫通孔を持つ接合部を有する金属製であり、前記隔壁は前記陽極容器内に配置される厚さ方向の中央部に該陰極室と該陰極室と外側とを結ぶ貫通孔とを有する板状でβアルミナ製の隔壁本体とこの隔壁本体に一体的に形成され貫通孔を介して陰極室と連通する通孔を持ち前記接合部に気密的に被着されるセラミックス製の頭部とからなる、ことを特徴とする。
【発明の構成、作用効果】
【0013】
この溶融ナトリウム電池は、陰極活物質となる溶融ナトリウムと、陽極活物質と、溶融ナトリウムを収納するナトリウム容器とを有する。また、陽極活物質としては溶融硫黄あるいはハロゲン化金属とすることができる。
【0014】
本発明の溶融ナトリウム電池及び溶融ナトリウム電池用隔壁では、その隔壁を板状でβアルミナ製の隔壁本体とこの隔壁本体一体的に形成され陽極容器の接合部に気密的に被着されるセラミックス製の頭部とから構成されている。すなわち隔壁と陽極容器のシール構造を隔壁の頭部と陽極容器の接続部のシール構造としている。このためシール面が筒状あるいはリング状でしかもシール面の径を小さくでき、より容易に高い気密性を持つシールが可能となる。
【0015】
さらに本発明の溶融ナトリウム電池用隔壁では、後で説明するように、その隔壁本体の厚さが、固体電解質として機能するナトリウムイオンが通る隔壁機能厚さの2倍以上と厚い。このため、隔壁本体の耐曲げ応力は、隔壁機能厚さをそのまま板厚とするものに対して、厚さの2乗に比例する、すなわち4倍以上高い曲げ強度を持つものとなっている。
【0016】
本発明の溶融ナトリウム電池用隔壁は、隔壁本体と頭部とで構成されている。この隔壁本体は厚さ方向の中央部に陰極室と該陰極室と外側とを結ぶ貫通孔とを有する板状でβアルミナ製である。ここでβアルミナ製とは全ての部分がβアルミナで形成されているもの、及び大部分がβアルミナで構成され他に一部αアルミナ等のセラミックスで形成されているものを含む。
【0017】
隔壁本体の厚さ方向の中央部に陰極室と該陰極室と外側とを結ぶ貫通孔とを有する板状であるとは、板形状の厚さ方向の表側に板状表側部、裏側に板状裏側部、中央に周縁を構成する枠内に薄く広がる陰極室を持つ中央部からなることを意味する。陰極室は通常減圧下で使用され、大気圧等の圧力が板状表側部及び板状裏側部の外面側に作用しこれら板状表側部及び板状裏側部を陰極室側に張り出させるように、すなわち陰極室を押し潰すように変形させる。この圧力に耐えるために陰極室を互いに間隔を隔てて並走する複数個のトンネル状空間としたり、板状表側部と板状裏側部の間に所定間隔で支柱を設けたりすることができる。
【0018】
この隔壁本体の板状表側部及び板状裏側部がナトリウムイオンを通す隔壁機能を果たす。従ってこの隔壁本体の板状表側部の表面及び板状裏側部の裏面の両面が隔壁面として機能する。このため、内部に陰極室を有しない板状隔壁に対して本発明に係る隔壁本体は2倍大きい隔壁機能面を有することになる。
【0019】
さらに、この隔壁本体のナトリウムイオンが透過する壁の厚さは, 板状表側部あるいは板状裏側部の厚さである。一方、隔壁本体の厚さは、板状表側部の厚さと板状裏側部の厚さ及び陰極室の中央部の厚さを合計した厚さとなり、ナトリウムイオンが透過する壁の厚さの2倍以上となる。ナトリウムイオンが透過する壁の厚さを通常の隔壁の厚さとすると、この隔壁本体の厚さは、通常の隔壁の厚さの2倍以上厚いものである。すなわちこの隔壁本体は2倍以上厚いために、機械的応力,例えば、曲げ応力に対して通常の板状隔壁の4倍以上と曲げ応力に耐える強さを持つ。
【0020】
陰極室と外側を結ぶ貫通孔は隔壁本体の周縁部,すなわち中央部の枠部に設けるのが好ましい。しかし板状表側部や板状裏側部に設けることもできる。
【0021】
なお、隔壁本体としては従来の厚さ方向の中央に陰極室を持つ板状隔壁をそのまま隔壁本体として使用できる。
【0022】
頭部は隔壁本体に一体的に形成され陰極室と連通する通孔を持つ突部状でセラミックス製である。この頭部に陽極容器の接合部が気密的に接合される。頭部は陽極容器の外側への通路となる接合部を閉じる蓋の機能を持つと共に隔壁を陽極容器内に固定する機能を持つ。この頭部は隔壁本体と同じβアルミナで形成しても、βアルミナ以外のセラミックス、例えばαアルミナで形成しても良い。
【0023】
頭部の形状は中心部に通孔、好ましくは軸孔を持つ筒状とすることができ、その先端部が隔壁本体より突出し,頭部の基部が隔壁本体の周縁部と一体的なものとするのが好ましい。頭部の外周面は外周径が一定のものとするものでも、先端が小さい円錐台形のものでも,軸方向の一部が径の大きい,あるいは逆に小さいリング状の凸部あるいは凹部を持つものでも良い。
【0024】
頭部の外周径は隔壁本体の厚さと同じか大きくすることが好ましい。大きくすることにより全体としての機械的強度が増す。頭部は筒状の接合部が被着されて陽極容器と一体化され、隔壁本体が頭部を介して陽極容器に保持されることになる。このため、陽極容器の動きは頭部を介して隔壁本体に伝わり、頭部及び頭部と隔壁本体の境界部分には大きなストレスが作用する。このため頭部と隔壁本体の境界部分はストレスに耐える大きい丈夫なものとする必要がある。前記したように、この隔壁本体は通常の板状隔壁の2倍以上の厚さを持つ大きく丈夫なものであるため相対的に頭部も大きなものとすることができ頭部と隔壁本体の境界部分にかかるストレスに耐えるものとすることができる。
【0025】
具体的に頭部は軸孔を持つ凸部からなるニップル状とすることができる。また接合部は頭部の軸孔を含む周縁部を表出させる開口を持ちニップル状の頭部を覆うキャップ状とすることができる。このニップル状頭部の外周面には陽極容器のキャップ状接合部が被着され,被着されたニップル状頭部の外周面と被着するキャップ状接合部の内周面との間で陽極室内部と外界との水分等のガス及び液体の移動を遮断するものである。
【0026】
ニップル状頭部の外周面には漏れ出るガスのガス溜めともなる外周面を1周する少なくとも1個のリング溝を持つものとするのが好ましい。また、キャップ状接合部との接合を容易にするためにニップル状頭部の外周面にはニッケル溶射等のメタライジングを施すのが好ましい。
【0027】
ニップル状頭部の通孔は従来の板状隔壁のものと同じであるが、本発明では、この通孔はニップル状頭部の軸心部に設けられている。通孔は軸孔として外周面と同軸的となっているのが好ましい。この通孔に溶融ナトリウムが流れる金属製の細管からなる細管金具が挿入されて接合され,筒状のニップル状頭部は通孔に挿着された細管金具と外周面に被着されたキャップ状接合部を電気的に絶縁する絶縁体として機能する。
【0028】
ニップル状頭部の通孔への細管金具のシールも高い気密性が要求される。しかしシール表面が直径2〜5mm程度の通孔の内周面と同じ程度の外径の細管金具の外周面であり、シール直径が2〜5mm程度と小さいためシールはさらに容易となる。
【0029】
また、頭部は軸孔を備える頂面を持ち上方段部とリング状面を持つ下方段部の2段階の山状頭部とし、接合部はリング状部分を持つリング状接合部とすることができる。この2段階の山状頭部の下段のリング状段面には陽極容器のリング状接合部のリング状部分の下側のリング状面が被着される。リング状接合部はより具体的にリング状部分の該周縁から下方に延びる筒状壁を持つハット形状とすることが好ましい。板状隔壁の2段階の山状頭部に陽極容器のハット状接合部が被着することで、陽極室内部と外界との水分等のガス及び液体の移動を遮断する。山状頭部のリング状段面とハット状接合部のリング状頂部の接合は,まず、山状頭部にハット状接合部を被せ、山状頭部の頂部分をハット状接合部のリング状頂部分の中央孔より突出させ、山状頭部のリング状段面とハット状接合部のリング状頂部分の内側面とを当接させる。次にハット状接合部のリング状頂部分の外側から所定の押圧を加えつつ所定温度に維持し加熱圧接する。
【0030】
2段階の山状頭部の軸孔を持つ頂面にはこの頂面と同じリング状フランジ部分とこのリング状フランジ部分から立ち上がる細管部分からなる細管金具が接合される。この接合もハット状接合部と同じく頭部の頂面と細管金具のフランジ部分とを当接させる。次に細管金具のフランジ部分に所定の押圧を加えて頭部の頂面に押し付けつつ所定温度に維持し加熱圧接するものである。
【0031】
2段階の山状頭部とハット状接合部及び細管金具の接合は一度に同時に行うのが好ましい。また、頭部は隔壁本体と分離した状態で行うのが好ましい。
【0032】
内部に陰極室を持つ板状の隔壁本体及びこの隔壁本体と頭部とからなる隔壁は、板厚の中程で陰極室を通る面で2分した板状表側部及び板状裏側部をそれぞれ形成しその後板状表側部と板状裏側部とを貼り合わせて一体化して作成することができる。一体化は焼結前のグリーンコンパクトの段階で組み付け焼結時に焼結と溶着とを同時に行うとか、板状表側部と板状裏側部とを焼結したのち接合剤で貼り付けることでも良い。なお、グリーンコンパクトの形成時に金型面で成形される面が貼り合わせ面とすることにより貼り合わせ面部の寸法精度を容易に高くできる。
【0033】
板状表側部と板状裏側部との間に枠状及び柱状の接合部材(スペーサ)を介在させるものでも良い。また陰極室を燃えて消失するような消失型を使用する方法で隔壁本体あるいは隔壁を形成しても良い。
【0034】
金属製の陽極容器は内部に板状隔壁を収容固定するとともに板状隔壁の周囲を囲む陽極室を形成するものである。金属としてはステンレススチール、アルミニウム合金等溶融硫黄及び溶融多硫化ナトリウムに耐食性を持つ金属が使用できる。
【0035】
この陽極容器は陽極室の内外を連通する接合部を有する。前に述べたように接合部は板状隔壁の頭部に被着し、陽極室の内外を気密的にシールする。頭部がニップル状頭部の場合、接合部はキャップ状の接合部とすることができる。ニップル状頭部の外周面とキャップ状接合部の内周面の接合は、銀ろう等のろう剤を用いたり、熱圧接合法を用いたり、キャップ状接合部のみを加熱して熱膨張させ冷たいニップル状頭部に被着させる熱嵌めを行うとか、キャップ状接合部の外周面を締め付け金具で締め付ける等の一つ方法あるいは二つ以上の方法を採用できる。
【0036】
頭部と接合部との接合を容易にするために、接合部を陽極容器本体から分離した状態とし、接合後に、接合部を陽極容器本体にレーザー溶接機等で接合一体化することもできる。また、接合部の周囲の陽極容器本体の部分に、接合部と陽極容器本体との相対変位を可能にする蛇腹状の易変位手段を設けることもできる。易変位手段としては、輪状の金属板を同心状にリング状凹部とリング状凸部が広がるように成形したものとか、ベローズとかフレキシブルチュウブを用いることができる。また、陽極容器の内周面に隔壁の隔壁本体の位置を規定するガイドを設けたり、隔壁本体をニップル方向に押し付けて隔壁本体の位置を規定する付勢手段を設けることもできる。
【0037】
本発明の溶融ナトリウム電池は、大部分の溶融ナトリウムを保持するナトリウム容器を必要とする。本発明の溶融ナトリウム電池の陰極室は板状の隔壁の内部に形成されているため、陰極室の容積が小さい。一方、溶融ナトリウム電池は大容量の放電に適した電池であるため、多量の溶融ナトリウムを必要とする。この多量のナトリウムは陰極室と細管金具で連通するナトリウム容器に保持されている。
【0038】
本発明の溶融ナトリウム電池では、ナトリウム容器を含む陰極室及び陽極室は共に高度の気密性を必要とする。また、この溶融ナトリウム電池は、1回の充放電操作中に50℃程度の温度変化を受ける。このため、陰極室及び陽極室
は減圧下で使用される。本発明の溶融ナトリウム電池では、隔壁が陽極室で囲まれ、陰極室が隔壁の内部に形成されている。隔壁に引っ張り応力が作用しないようにするため、陰極室は陽極室よりさらに減圧にすることが好ましい。陰極室は真空に近い減圧度にするのが好ましい。
【0039】
本発明の溶融ナトリウム電池の陰極室及び陽極室以外の電池の構成要素については、従来のナトリウム硫黄電池及びナトリウム溶融塩電池のものと基本的には同じである。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】実施例1のナトリウム硫黄電池の縦断面図である。
図2図1の部分拡大断面図である。
図3図2の断面図に示す隔壁の部分平面図である。
図4】実施例2のナトリウム硫黄電池の要部縦断面図である。
図5図4の断面図に示す隔壁断面の90度回転した方向から見た要部縦断面図である。
図6】実施例3のナトリウム硫黄電池の要部縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
(実施態様の説明)
以下、本発明のナトリウム硫黄電池の実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
【実施例1】
【0042】
本発明の実施例1のナトリウム硫黄電池1を図1〜3に基づいて説明する。ここで、図1はナトリウム硫黄電池1の縦断面を、図2はその要部の拡大断面を、図3はその隔壁11の部分平面を示す。
【0043】
この電池1は、隔壁11と、陽極容器12と、ナトリウム容器13と、隔壁の内部空間として形成された陰極室110と、陽極容器12の内部空間で隔壁11を囲む陽極室120と、陰極室110内及びナトリウム容器13内に収容された陰極活物質である溶融ナトリウム14と、陽極室120に収納された陽極活物質である溶融硫黄15と、陰極室110とナトリウム容器12の内部空間を連通する細管金具16と、陽極容器12とナトリウム容器13の間に介在し両者を電気的に絶縁する絶縁体17を主な構成要素としている。この電池1は陽極活物質として溶融硫黄15を用いているので、ナトリウム硫黄電池である。
【0044】
隔壁11は、板状の隔壁本体111とニップル状頭部117とからなり、両者は一体的にβアルミナで形成されている。隔壁本体111は縦横それぞれ100mm程度、厚さ6mm程度の正方形の板状で、縦横それぞれ100mm、厚さ2mmの表側部112及び裏側部113と、縦横それぞれ100mm、幅2mm、厚さ2mmの正方形状で、表側部112及び裏側部113の間に位置する枠部114と、外径2mm、厚さ2mmの柱状で表側部112及び裏側部113の間に等間隔で位置する81個の支柱部115とからなる。
【0045】
ニップル状頭部117は図3にその外側面を示すように外周径10mm程度、高さ8mmの柱状の上方部118と外周径13mm程度、高さ12mm程度の柱状の下方部119とからなる、2段の柱状突部形状である。なお、この下方部119は隔壁本体111と一体的に形成されているため一部の外周面は隔壁本体111に覆われたものとなっている。そしてニップル状頭部117の通孔1175は内周径4mm程度、長さ5mm程度の上方軸孔部1176と内周径3mm程度、長さ7mm程度の下方軸孔部1177で構成されている。下方軸孔部1177は陰極室110に開口している。
【0046】
ニップル状頭部117の下方部119は隔壁本体111の側端面とこれに繋がる表側部112及び裏側部113の表面とで隔壁本体111と一体化し、下方部119は隔壁本体111の一部とみなせるもので、ニップル状頭部117と隔壁本体111との一体化は高度のものとなっている。
【0047】
この隔壁11は炭酸ナトリウムとαアルミナを焼成して予めβアルミナを合成して得られたβアルミナ微粉末を造粒し、隔壁11の厚さ方向の中央で2分割した表側圧密体と裏側圧密体とを成形し、両者を合わせて隔壁圧密体とし、これを、焼結することで得ることができる。なお、表側圧密体と裏側圧密体とはそれぞれ2分割面を金型で成形し、表面及び裏面をゴム型で圧縮成形する方法を採用することが好ましい。焼結体のニップル状頭部117の外周面は少し大きく通孔は少し小さく成形し、ニップル状頭部117の上方部の外周面と下方部との段差面及び通孔は機械研削等で寸法精度を高くするようにするのが好ましい。
【0048】
陽極容器12は縦横それぞれ105mm程度厚さ50mm程度の直方体状の容器本体121とその上面に一体的に形成された外周径12mm程度高さ10mm程度のキャップ122とからなり厚さ1mm程度のステンレススチール板で形成されている。より具体的には、この陽極容器12はキャップ122を含む上蓋部分123と容器本体121の底蓋部分(図示せず)とこれらを除く容器本体121の胴部分124の3部分で形成できる。
【0049】
まず、キャップ122を含む上蓋部分123を隔壁11のニップル状頭部117の上方部118に装着し、キャップ122の下端をニップル状頭部117の下方部119の上端面に当接させる。そして熱嵌合,熱圧着して上方部18の外周面とキャップ122の内周面とを接合し、上蓋部分123と隔壁11とを一体化する。
【0050】
この接合の前後に、細管金具16の短い部分162の一端部を隔壁11の頭部117の上方部118の通孔1175の上方軸孔部1176に挿入して接合する。
【0051】
次に、隔壁11が接合された上蓋部分123と胴部分124をレーザ溶接して一体化する。次に、縦横それぞれ100mm程度で厚さ18mm程度の硫黄が含浸されたカーボン繊維からなるフェルト状集電体(図示せず)を容器本体121内の保持されている隔壁11の両側に、開口している底から挿入し、その後底蓋部分をレーザ溶接で一体化して形成することができる。
【0052】
ナトリウム容器13は、縦、厚さがそれぞれ50mm程度、横105mm程度の直方体の下方側の一端部に高さ20mm程度、横25mm程度,厚さ50mm程度の切り込みを形成したものである。このナトリウム容器13は厚さ1mm程度のステンレススチール板で形成されている。
【0053】
細管金具16は口径が3mm程度厚さ1mm程度のステンレススチール製の細管である。この細管金具16は一端が口径の広がった端部を持つ長い部分161と口径の広がった端部に挿入された口径を狭めた端部を持つ短い部分162からなる。細管金具16の長い部分161は、図1に示されているように、ナトリウム容器13の切り込みが形成された上側の面を貫通するように気密的に溶接され、その一端はナトリウム容器13の内部の下面近くに位置するように逆U字形に曲げられている。細管金具16の短い部分162は、図2に示すように,ニップル状頭部117の通孔1175の上方軸孔部1176に挿入されて気密的に接合される。細管金具16の長い部分161と短い部分162の接合は,陽極容器12にナトリウム容器13が組み付けられる時にそれぞれの自由端部が同軸的に嵌合させ、その後その部分を加熱し溶着する。
【0054】
絶縁体17は厚さ3mm程度の無機繊維のシートで、陽極容器12とナトリウム容器13の間に介在し両者を電気的に絶縁する。
【0055】
陽極容器12とナトリウム容器13が組み付けられた後、図示しない注入管部よりナトリウム容器13中に溶融ナトリウムが注入される。その後、ナトリウム容器13内及び陰極室110を脱気して注入管を閉じ、真空に近い状態とする。
【0056】
この後、陽極容器12内を図示しない脱気管部より脱気して陰極室110の真空程度より少し高い減圧にして脱気管部を閉じる。
【0057】
本実施例のナトリウム硫黄電池は以上の構成よりなる。この電池を300℃程度に加熱し、陽極容器12を陽極端子とし、ナトリウム容器13を陰極端子として外部負荷につなげば通常のナトリウム硫黄電池のように機能する。
【0058】
本実施例のナトリウム硫黄電池では、陽極室120を気密的に外部より隔絶するシールは、隔壁11のニップル状頭部117の外周面と陽極容器12のキャップ122の内周面のシールの1か所でなされている。すなわち単純な柱状のニップルと筒状のキャップとの同軸状の筒状のシール1か所でなされている。筒状のシール面はシール面を仕上げるのに容易で寸法精度も容易に高くすることができる。このためシールが容易となっている。特にニップル状頭部117をキャップ122で機械的に締め付ける熱嵌合がなされているのでシール面が剥離されにくい利点がある。
【0059】
また、本実施例のキャップ122を含む上蓋部分123を隔壁11のニップル状頭部117の上方部118に装着し、キャップ122の下端をニップル状頭部117の下方部119の上端面に当接させている。このため隔壁11と陽極容器12との間に発生する歪はキャップ122の下端とニップル状頭部117の下方部119の上端面に集中し、接合されているニップル状頭部117の上方部118の外周面とキャップ122の内周面には起こりにくい。このため、接合面が剥離する等が生じにくい。
【0060】
また、ニップル状頭部117はキャップ122と接合される上方部18と上方部18より太い下方部119からなり、太い下方部119で隔壁本体111と一体化されている。このためニップル状頭部117と隔壁本体111との間に作用する応力に対して強固な形状になっている。
【0061】
さらに、機械的応力に対して弱い板状の隔壁本体111は陰極室100内で浮いた状態で保持されているため、隔壁本体111には曲げ等の部分的に引っ張り応力が作用しにくい状態となっている。このため、隔壁本体111の機械的破壊の可能性が低く耐久性のあるものとなっている。
【実施例2】
【0062】
本発明の実施例2のナトリウム硫黄電池2を図4,5に基づいて説明する。この電池は実施例1のナトリウム硫黄電池1の隔壁11を隔壁21に変更したもので、他の部分は実施例1の部分と同じである。このため、隔壁21を主に説明する。
【0063】
このナトリウム硫黄電池2の要部縦断面を図4に、図4の断面図に示す隔壁断面の90度回転した方向から見た要部を図5に示す。
【0064】
隔壁21は、βアルミナで形成された板状の隔壁本体211とαアルミナで形成されたニップル状頭部217とからなり、両者は一体的にガラス半田で一体的に接合されたものである。
【0065】
隔壁本体211は縦横それぞれ100mm程度、厚さ6mm程度の正方形の板状で、縦横それぞれ100mm、厚さ2mmの表側部212及び裏側部213と、縦横それぞれ100mm、幅2mm、厚さ2mmの正方形状で、表側部212及び裏側部213の間に位置する枠部214と、外径2mm、厚さ2mmの柱状で表側部212及び裏側部213の間に等間隔で位置する81個の支柱部215とからなり、表側部212及び裏側部213の間の空間が陰極室210となっている。枠部214には1個の通孔2140が形成され、陰極室210と外部とを連通する通路となっている。
【0066】
隔壁本体211は実施例1で説明した隔壁11の製造方法と同様に製造できる。
【0067】
ニップル状頭部217は図5にその縦断面を示すように外周径10mm程度、高さ8mmの柱状の上方部218と外周径13mm程度、高さ12mm程度の柱状の下方部219とからなる、2段の柱状突部形状である。
【0068】
この下方部219の下面の中央部には、断面長方形の両側面を貫く溝2190が形成されている。この溝2190は幅6mm程度深さ10mm程度である。この溝2190に隔壁本体211の通孔2140が形成されている端部が装着される。
【0069】
ニップル状頭部117の上方部218に一端が開口し他端が溝2190に開口する通孔2175が形成されている。この通孔2175は内周径4mm程度、長さ5mm程度の上方軸孔部2176と内周径3mm程度、深さ7mm程度の下方軸孔部2177とで構成されている。
【0070】
このニップル状頭部217は少し大きい柱状のαアルミナからなるグリーンコンパクトを形成し,これを機械加工で成形し,その後焼結し。焼結されたものを機械加工により所定寸法として製造することができる。
【0071】
このニップル状頭部217を隔壁本体211の貫通孔2140が形成されている端部にガラス半田で接合することにより隔壁21が得られる。
【0072】
この隔壁21も実施例1の隔壁11と同じように、そのニップル状頭部217の太い下方部219で隔壁本体211と一体化されている。このためニップル状頭部217と隔壁本体211との一体性が高い。
【0073】
この実施例2のナトリウム硫黄電池2の構成は実施例1のナトリウム硫黄電池1と同じであるので,説明を省略する。
【0074】
このナトリウム硫黄電池2の隔壁21のように、隔壁本体211とニップル状頭部217とを分けて2部品とし,その後接合して一体化する方法は、電気泳動付着法で肉厚のほぼ等しいグレーンコンパクトしかできない成形法を採用する場合に有効である。
【実施例3】
【0075】
本発明の実施例3のナトリウム硫黄電池3を図6に基づいて説明する。この電池は実施例1のナトリウム硫黄電池1の隔壁11、陽極容器12及び細管16を変更したもので、他の部分は実施例1の部分と同じである。
【0076】
このナトリウム硫黄電池3の要部縦断面を図6に示す。なお、図6の断面はは図4の断面の90度回転した方向から見た断面に相当し、方向としては図5の方向と同じである。
【0077】
隔壁31は、βアルミナで形成された板状の隔壁本体311とαアルミナで形成された頭部317とからなり、両者はガラス半田で一体的に接合されたものである。
【0078】
隔壁本体311は正方形の板状で、表側部312、裏側部313、枠部314と支柱部315とからなり、表側部312及び裏側部313の間の空間が陰極室310となっている。枠部314には1個の通孔3140が形成され、陰極室210と外部とを連通する通路となっている。なお、隔壁本体311は実施例2の隔壁本体211と同じものである。
【0079】
頭部317は軸孔3170を持つとともに、頂面3181を持つ上方段部318とリング状肩面3191をもつ下方段部319からなる2段階の山状頭部となっている。
【0080】
この頭部317の軸孔3170は、内径6mm深さ7mmの上方軸孔3171とこれに同軸的に下方に延びる内径3mm深さ8mmの下方軸孔3172からなる。頭部317の上方段部318の外周径は16mmで高さは5mmである。下方段部319の外周径は27mmで高さは26mmであり、リング状肩面は内周径16mm、外周径27mm、幅5.5mである。
【0081】
下方段部319の下端部にその軸芯を中心とする幅6mm,深さ16mmの両端開口の係合溝3190が設けられている。軸孔3170はこの係合溝3190の上面に開口する。この頭部317は軸孔3170の軸芯に対して線対称の形状を持ち、高さ31mmの2段階の山状頭部である。
【0082】
この頭部317も実施例2の頭部217と同じ方法で製造できる。この頭部317を隔壁本体311の貫通孔3140が形成されている端部にガラス半田で接合することにより隔壁31が得られる。この隔壁31も実施例2の隔壁21と同じように、その頭部317の太い下方段部319で隔壁本体311と一体化されている。このため頭部317と隔壁本体311との一体性が高い。
【0083】
陽極容器32は縦横それぞれ105mm程度厚さ50mm程度の直方体状の容器本体321とその上面部に一体的に形成された、口径16mmの開口を持つ外周径28mmの頂面部3221とこの頂面部3221の周縁より下方に延びる高さ5mmの外周径28mmの筒壁部3222とよりなるハット状接合部322とからなり、厚さ1mm程度のステンレススチール板で形成されている。
【0084】
より具体的には、この陽極容器32はハット状接合部322を含む上蓋の部分とこれらを除く容器本体の部分の2部分からなる。ここでハット状接合部322は頂面部3221と筒壁部3222とからなる。
【0085】
ハット状接合部322を含む上蓋の部分と隔壁31の頭部317との接合は次の方法で達成される。まず、上蓋部分のハット状接合部322を隔壁31の頭部317に被せ,ハット状接合部322の頂面部3221の開口より頭部317の上方段部318を突出させて,頂面部3221の下面と頭部317の下方段部319のリング状肩面3191と当接させ、ハット状接合部322を隔壁31の頭部317に装着させる。この状態でハット状接合部322の筒壁部3222の内周面と下方段部317の外周面は同軸的に嵌合し、ハット状接合部322を含む上蓋の部分は隔壁31の頭部317に固定保持され、そのハット状接合部322の頂面部3221は下方段部317のリング状肩面3191上に維持される。
【0086】
この状態でハット状接合部322の頂面部3221の上面より所定の押圧力をかけ、頂面部34221を頭部317の下方段部319のリング状肩面3191に押しつける。この状態で所定温度に加熱し,その状態を所定時間維持し、ハット状接合部322の頂面部3221の下面と頭部317の下方段部319のリング状面を熱拡散接合させる。これにより隔壁31は陽極容器32の上蓋に接合される。
【0087】
この接合と同時に細管金具36の短い部分362が頭部317の上方段部318のリング状頂面3181に熱拡散接合させる。細管金具36は長い部分361と短い部分362の2つの部分で構成されている。長い部分361は実施例1の細管金具16の長い部分と同一のものである。細管金具36の短い部分362は図6に示すように鍔を持つロート状の端部363と細管状の細管部364とからなっている。ロート状の端部363はリング状の鍔3631と外周形状が円錐台形状の足3632とからなっている。この足3632の軸芯部に細管部364が同軸的に位置する状態でそれらの下端が溶接一体化されている。
【0088】
この短い部分362は,図6に示すようにそのロート状端部363の足3632を頭部317の上方段部318の上方軸孔3171に挿入し、鍔3631の下面を上方段部318のリング状頂面3181に当接させる。この状態で、鍔3631の上面に所定の押圧力で押しつけ所定温度で加熱し、鍔3631の下面と上方段部318のリング状頂面3181とを熱拡散接合させるものである。
【0089】
陽極容器32の上蓋と容器本体との一体化は次のようになされる。まず、容器本体に硫黄を含浸させた炭素繊維フェルトを納める。次に、この容器本体に隔壁31を挿入し、容器本体に上蓋を被せる。この後、容器本体と上蓋とをレーザー溶接とかかしめ接合で一体化する。
【0090】
この実施例3のナトリウム硫黄電池3は前記した構成を持つ。このナトリウム硫黄電池3の隔壁31と陽極容器32は、隔壁31の頭部317の下方段部319のリング状肩面3191と外周面の上部とを陽極容器32の頂面部3221と筒壁部3222とからなるハット状接合部322で一体化されている。このため、隔壁31と陽極容器32との間に作用する相対変形等のひずみは,まず、下方段部319の外周面の上部とハット状接合部322の筒壁部3222とで受けることになる。このため、隔壁31と陽極容器32との間に作用する相対変形等のひずみは,直接には接合面であるリング状肩面3191と頂面部3221には作用せず、接合面が破壊される可能性が低くなる。
【0091】
同様に、ナトリウム容器と隔壁31との間に作用する相対変形等のひずみは,まず、上方段部318の上方軸孔3171と細管金具36の円錐台形状の足3632とで受けることになる。
【0092】
このため、隔壁31とナトリウム容器との間に作用する相対変形等のひずみは,直接には接合面であるリング状頂面3181とロート状端部363の鍔3631には作用せず、接合面が破壊される可能性が低くなる。
【符号の説明】
【0093】
1、2、3・・ナトリウム硫黄電池 11、21、31・・隔壁
12、32・・陽極容器 13・・ナトリウム容器
16、36・・細管金具 111、211、311・・隔壁本体
117、217・・ニップル
121・・容器本体 122・・キャップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6