(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
先端方向にしだいに縮径する雄テーパ面(2)を有すると共に流路孔内周面(6A)と該雄テーパ面(2)によって先端エッジ部(10)を有する雄ネジ付き継手本体(1)と、該継手本体(1)の雄ネジ(1A)に螺着される袋ナット(3)と、を備え、
上記袋ナット(3)の内部収納空間(4)に収納されると共に、外周(7)に凹周溝(8)を有する円筒形状の圧縮変形用スリーブ(5)を備え、該スリーブ(5)は、一端部(13)に上記雄テーパ面(2)に対応した圧接シール用雌テーパ面(14)を有し、上記袋ナット(3)を上記継手本体(1)の雄ネジ(1A)に螺着させる際のアキシャル方向の圧縮力を受けて、上記凹周溝(8)の幅寸法(W8 )が減少しつつ凹周溝底薄壁部(9)がラジアル内方向へ突出するように塑性変形して、挿入されているパイプ(P)の外周面(11)側から食い込んで抜止めすると共に、上記雄テーパ面(2)と上記雌テーパ面(14)が圧接により密封作用をなすように構成された管継手構造に於て、
上記圧縮変形用スリーブ(5)は、上記雌テーパ面(14)の内周端縁部(14A)から小U字凹部(15)を介して逆テーパ面(16)が形成されており、スリーブ孔部内周面(17A)の端部(18)と上記逆テーパ面(16)によって、上記先端エッジ部(10)に係止する引掛小爪部(20)が形成されていることを特徴とする管継手構造。
【背景技術】
【0002】
管継手の一種として、フレア継手が古くから用いられていたが、配管作業に於て、フレア加工をパイプ端部に、現場にて行う必要があり、配管作業能率アップが阻害されていた。
そこで、本発明者は、上記フレア継手の上記欠点を解消し、部品点数も少ない管継手構造として、かつて、
図8,
図9に示したように、円筒型圧縮変形用スリーブ38を有する管継手構造について、多数の発明を提案している(例えば、特許文献1,2参照)。
即ち、
図8,
図9に示したように、先端方向にしだいに縮径する雄テーパ面39と雄ネジ41を有する継手本体40と、この雄ネジ41に螺着される袋ナット42と、この袋ナット42の内部に収納された上記圧縮変形用スリーブ38と、を具備している。さらに、圧縮変形用スリーブ38は、外周に凹周溝43を有し、かつ、内端に上記雄テーパ面39に対応する雌テーパ面44を有する。
袋ナット42を継手本体40に螺進させると、
図8から
図9に示す如く、アキシャル方向の力を受けて、上記凹周溝43の幅寸法が減少しつつ凹周溝底薄壁部43Aがラジアル内方向に塑性変形して、挿入されているパイプPの外周面から(
図9に示す如く)食い込んで抜止めすると共に、雄テーパ面39に対して雌テーパ面44が圧接して密封作用をなす構造である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1、及び、特許文献2(
図8,
図9)に示した管継手構造は、従来のフレア継手に代わり得る優れた発明である。
しかしながら、このような発明の実施品が多種多様な環境下にて使用されると、ある環境下及び条件下で、
図11に示すような(軸心に沿った)アキシャル方向の亀裂(割れ目)45がスリーブ38の雌テーパ面44の近傍領域Z(
図10参照)に発生する場合があることが判ってきた。
「ある環境下」とは、トイレや浄化槽やゴミ集積場や化学工場等であって、アンモニア(ガス・水)が存在する環境であり、また、「ある条件」とは、圧縮変形用スリーブ38が真鍮製であって、かつ、(後述の如く)その製造方法も関係することが、本発明者の調査と実験と研究の結果、しだいに究明されてきた。
【0005】
以上説明したように、本発明の課題は、ある環境下、ある条件下で、スリーブ38の雌テーパ面44の近傍領域Z(
図10参照)で、アキシャル方向の亀裂(割れ目)45が発生することである。このような亀裂45は、管継手として重要な密封性能を急激に低下させ、管継手構造の信頼性を著しく損うこととなる。
そこで、本発明は、簡素な形状・構成をもって、上記課題を解決して、管継手構造の信頼性を高め、特に、冷媒用にも好適な管継手構造の提供を、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、先端方向にしだいに縮径する雄テーパ面を有すると共に流路孔内周面と該雄テーパ面によって先端エッジ部を有する雄ネジ付き継手本体と、該継手本体の雄ネジに螺着される袋ナットと、を備え、上記袋ナットの内部収納空間に収納されると共に、外周に凹周溝を有する円筒形状の圧縮変形用スリーブを備え、該スリーブは、一端部に上記雄テーパ面に対応した圧接シール用雌テーパ面を有し、上記袋ナットを上記継手本体の雄ネジに螺着させる際のアキシャル方向の圧縮力を受けて、上記凹周溝の幅寸法が減少しつつ凹周溝底薄壁部がラジアル内方向へ突出するように塑性変形して、挿入されているパイプの外周面側から食い込んで抜止めすると共に、上記雄テーパ面と上記雌テーパ面が圧接により密封作用をなすように構成された管継手構造に於て、上記圧縮変形用スリーブは、上記雌テーパ面の内周端縁部から小U字凹部を介して逆テーパ面が形成されており、スリーブ孔部内周面の端部と上記逆テーパ面によって、上記先端エッジ部に係止する引掛小爪部が形成されている構成である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、圧縮変形スリーブの雌テーパ面と、継手本体の雄テーパ面との強い圧接に伴って、圧縮変形スリーブの雌テーパ面近傍領域に、亀裂(割れ目)が、(実際に使用される全ての状況下で、)発生することを確実に防止できる。
しかも、圧縮変形スリーブの作製も容易で、かつ、安価な素材(パイプ)から作製可能である。かつ、圧縮変形スリーブの孔部の内径寸法が、従来と同一のまま、又は、僅かな減少で済み、流体の通過抵抗の増加は全くないか、あるいは、少しで済む。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図示の実施の形態に基づき本発明を詳説する。
図1〜
図7は、本発明の実施の一形態を示し、雄ネジ付き継手本体1と、袋ナット3と、圧縮変形用スリーブ5とを、具備している。
【0010】
継手本体1は、先端方向に次第に縮径する雄テーパ面2を有し、かつ、流路孔6の内周面6Aと雄テーパ面2によって形成される断面略三角形状の先端エッジ部10を有する。袋ナット3は継手本体1の雄ネジ1Aに螺着される。3Aは、袋ナット3の雌ネジである。
圧縮変形用スリーブ5は、袋ナット3の内部収納空間4に収納されると共に、外周7に凹周溝8,8を(図例では2本)有する。凹周溝8の断面形状としては、図例の如く、ホームベース型とするのが好ましいが、これ以外にU字型等とするも自由である。
しかも、このスリーブ5は、その一端部13に圧接シール用雌テーパ面14を有し、この雌テーパ面14は、継手本体1の雄テーパ面2に対応する。
継手本体1の雄テーパ面2の形状は、例えば、JIS B8607のフレア管継手に用いられる継手本体と同一形状とする。
【0011】
袋ナット3を継手本体1の雄ネジ1Aに螺着(螺進)させる際に、アキシャル方向の圧縮力を受けて、
図1から
図2に示すように、凹周溝8の幅寸法W
8 が減少しつつ凹周溝底薄壁部9がラジアル内方向へ突出するように塑性変形して(
図2,
図6参照)、挿入されているパイプPの外周面11側から食い込んで(パイプPの)抜止めを行う。かつ、このとき、雄テーパ面2と雌テーパ面14が強く圧接して、密封作用をなす(
図2,
図6参照)。
【0012】
そして、
図4,
図5に示す如く、圧縮変形用スリーブ5は、その一端部13において、雌テーパ面14の内周端縁部14Aから、小U字凹部15を介して、(前記雌テーパ面14とは逆テーパ状とした)逆テーパ面16が形成されている。逆テーパ状とは、雌テーパ面14が、アキシャル一方向L
1 に向かって、しだいに拡径状であるのに対して、アキシャル一方向L
1 に向かって、しだいに縮径状となっている、ことを言う。
この逆テーパ面16と、スリーブ孔部17の内周面17Aの端部18によって、引掛小爪部20が、形成されている。
【0013】
継手本体1の先端エッジ部10に、スリーブ5の小爪部20が、係止する(引掛る)。即ち、
図2,
図6,
図7に示した袋ナット締付完了状態(接続完了状態)では、引掛小爪部20が、継手本体1の先端エッジ部10に対して、ラジアル方向の内側から引掛っている。未締付状態下では、上記先端エッジ部10は、
図5に例示するように、軸心直交平面部を円環状に有するが、
図6,
図7の袋ナット締付状態では、スリーブ5の小U字凹部15とその近傍に強く圧接して、相互に間隙が無くなる程度に、圧潰状となって、
図7に示す如く、ベクトルF
10が、小U字凹部15とその近傍に、作用する。
【0014】
他方、雌テーパ面14は、
図4の図例では大きな曲率半径Rのアール状であるが、
図6と
図7の袋ナット締付状態では、直線テーパ状の雄テーパ面2に対して、強く圧接して、直線テーパ状に近づくように変形しつつ曲率半径Rも増加するような変形を受け、スリーブ5の一端部13側のスリーブ最端部5Aが
図6の矢印B方向へ変形してゆく。このような各部の変形を伴った強い圧接によって、
図7に示す如く、雄テーパ面2から雌テーパ面14に向かって、大きなベクトルF
2 が作用する。
【0015】
図7に於て、2つの上記ベクトルF
10,F
2 を、軸心L
5 と平行なX方向と、軸心L
5 と直交する方向Yに、各々分解して、F
10x ,F
10y ,F
2x,F
2yとする。
(F
2x+F
10x )は、袋ナット3によってX方向に付与される締付力に対する反力である。F
10y は先端エッジ部10から引掛小爪部(と凹部15)に付与されるY方向(ラジアル内方向)の力であり、F
2yは雄テーパ面2と雌テーパ面14との圧接状態で雄テーパ面2から雌テーパ面14に付与されるY方向(ラジアル外方向)の力である。
【0016】
図10に示した従来例にあっては、F
39,F
39x ,F
39y は、各々、次のようなベクトルを示す。
即ち、F
39:雄テーパ面39から雌テーパ面44に付与される力(ベクトル)
F
39x :軸心L
38と平行なX方向についてのF
39の分力(ベクトル)
F
39y :軸心L
38に直交するY方向についてのF
39の分力(ベクトル)
図10(従来例)と本発明に係る管継手構造を示した
図7とを比較すれば、次の数式1,2,3が成立する。
F
2x+F
10x =F
39x [数式1]
F
2 <F
39 [数式2]
F
2y<F
39y [数式3]
【0017】
従来の圧縮変形用スリーブ38にあっては、
図10に示したベクトルF
39y が極めて大きい値であったが故に、
図11に於て、大きな周方向張力T
45が、雌テーパ面44の近傍領域Zに、袋ナット締付完了後、ずーっと作用し続けて、亀裂(割れ目)45が発生したと推測される。
特に、トイレや浄化槽やゴム集積場や化学工場等のアンモニアが存在する「ある環境下」では、
図10に示す矢印Azの如く、スリーブ5の外部側からアンモニアが浸入し、かつ、圧縮変形用スリーブ38が真鍮製であって、しかも、引抜き加工された円管(パイプ)を、(熱処理することなくそのままで)機械加工して、作製した場合―――既述の「ある条件」―――、例えば数ヶ月の使用期間後には、
図11のような亀裂45が発生することを、本発明者は、現地調査及び実験によって、明らかとした。
【0018】
さらに、研究と実験を行ったところ、亀裂45は、スリーブ38の外部からではなく、雌テーパ面44の中間位置から
図12(A)(B)(C)に点々をもって示す如く、亀裂45が、いわば内部寄りから外部―――ラジアル外方向―――に向かって発達することを発見した。
その理由は、次のような点にある。(i)真鍮製の引抜き管(パイプ)には、アキシャル方向に大きく伸長加工された際の残留応力が大きく残っている点、(ii)その後、機械加工が行われても、熱処理しないで用いるために残留応力がスリーブ内にそのまま残っている点、(iii)
図11に模式説明
図Uとして示すように、CuとZnから成る真鍮の結晶(組織)は、上記引抜き加工にて、アキシャル方向に平行に配置しており、そのために、
図12(A)から(B)(C)と順次、スリーブの縦断面方向に亀裂45が発達していって、最終的に
図11と
図12(C)のように、スリーブ外周面にまで達して、被密封気体が外部漏洩する点、(iv)そのうえに、
図10に示したラジアル外方向(Y方向)のベクトルF
39y が雌テーパ面44に作用し続けることで、前記 (i)(ii)(iii)と合わされて、亀裂45が
図12(A)(B)の順に発達していって、
図12(C)と
図11に示した状態となる点。
【0019】
本発明は、
図10の従来例におけるラジアル外方向(Y方向)へのベクトルF
39y を著しく低減させるために、
図7に示したように、ラジアル内方向への大きなベクトルF
10y を(小さな)引掛小爪部20にて発生させたものといえる。
図7に示したアキシャル外方向(Y方向)のベクトルF
2yが著しく小さくできることによって、(
図11の従来例にて示したところの)周方向張力T
45が十分に低減し、これによって、
図12に示した亀裂発生を確実に、阻止可能となる。
【0020】
ところで、
図3等に示した凹周溝8は、その断面形状をホームベース型としたので、
図1から
図2のようにアキシャル方向に圧縮するための力が小さくて済み、故に、
図7に示したベクトル合計(F
2x+F
10x )が小さくなり、これに伴って、ベクトルF
2yが減少する。従って、一層、亀裂の発生を防止できるという利点がある。
但し、本発明では、凹周溝8の断面形状は、これ以外のU字状、V字状、半円形、角形等自由である。
【0021】
また、スリーブ5は、パイプPに内挿される内挿筒部21を一体に有する。内挿筒部21の内径寸法D
21―――つまりスリーブ孔部17の端部17Aの内径寸法―――を、継手本体1の先端エッジ部10の流路孔6の内周面6Aの内径寸法D
6 よりも、僅かに小さく設定する。
即ち、0.02≦(D
6 −D
21)/D
6 ≦0.10 とする。より望ましくは、0.04≦(D
6 −D
21)/D
6 ≦0.08 とする。このように、上記内径寸法差(D
6 −D
21)を極めて小さく設定することによって、スリーブ孔部17を通過する流体の抵抗が小さくて済む利点がある。逆に言えば、このように極めて小さな内径寸法差(D
6 −D
21)でもって形成される引掛小爪部20は、前述した小U字凹部15と逆テーパ面16と、スリーブ孔部内周面17Aの端部18にて小三角状断面に形成されていて、
図6と
図7に示す如く、強力に圧接(食い込み状態)となって、有効なラジアル内方向のベクトルF
10y をスリーブ5の内端に付与できる。
【0022】
なお、本発明に適用できるパイプPとしては、銅又は銅合金が挙げ得るが、これ以外の材質とすることも可能な場合がある。
【0023】
本発明は、以上詳述したように、圧縮変形用スリーブ5は、雌テーパ面14の内周端縁部14Aから小U字凹部15を介して逆テーパ面16が形成され、スリーブ孔部内周面17Aの端部18と、逆テーパ面16によって、継手本体1の先端エッジ部10に係止する引掛小爪部20が形成された、簡易な構成をもって、残留応力が内部に残存していても、アンモニア等の存在する「ある環境下」での亀裂45を有効に防止できる。特に、冷媒用配管の接続に好適で、信頼性が高く、冷媒の外部漏洩を長期にわたり確実に防ぎ得る。