(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は一般用語を用いて説明され、図面は必ずしも正確な縮尺率で描かれたものではない。
【0019】
本発明のいくつかの実施形態は、以下に図面を参照してより詳細に説明されるが、本発明の全ての実施形態が述べられているわけではない。本発明の様々な実施形態が異なる態様で実施可能であり、本発明は、ここで述べられる実施形態に制限されない。本発明が適用法的要件を満たすような、実施形態がここで述べられている。ここにおいて、同一の部材に対しては同一の符号を付している。
【0020】
ここにおいて、「遠位」及び「遠位で」は、心臓などの基準点から最も遠い位置を指し、「近位」及び「近位で」は、基準点に最も近い位置を指す。さらに、ここで説明される例においては、大動脈弓における解離について言及しているが、本発明の実施形態は、上行大動脈、大動脈弓、胸部大動脈、腹部大動脈、及びその他血管等の様々な位置における、動脈瘤、A型解離、及びB型解離等の大動脈の部分切除を必要とする様々な血管異常の治療のために実施可能である。
【0021】
胸腹部大動脈病理学は、多くの場合において、最も治療が困難とされる大動脈に対する病理学と考えられている。大動脈10の概略図を
図1に示す。例えば、上行大動脈及び大動脈弓12は、曲率が大きく、酸素化された血液を頭部、頸部、及び腕部に供給するように分岐する動脈を含む部位である。当該動脈は、腕頭動脈14と、左総頸動脈15と、左鎖骨下動脈16とを含む。横隔膜を起点として延びる腹部大動脈18もまた、主要器官のほとんどに血液を供給する、いくつかの重要な動脈枝を含む。それらの動脈は、腹腔動脈20と、上腸間膜動脈(SMA)25と、腎動脈30,31と、下腸間膜動脈(IMA)32と、大腿動脈40,41とを含む。
【0022】
図2に示すように、例えば解離11等の動脈異常は、大動脈に影響を及ぼし、患者の死亡リスクを最小限に抑えるために速やか且つ効果的に対処しなければならない深刻な状態の1つである。実際、A型急性大動脈解離(即ち、
図2に例示されるような大動脈弓12における解離11)を患う患者の50%が、解離発生後48時間以内に死亡している。
【0023】
解離等の状態において、大動脈の損傷部分を切開・除去し、人工グラフトを、切除部分の代わりとして、残存大動脈部に縫合することが多くの場合において求められる。一般的に、従来のグラフトによる処置には、患者の体温を12〜18度に冷却し血液循環を停止させる超低体温循環停止(DHCA)が必要とされる。体内から血液を排出させ血圧をゼロにすることで、執刀医が大動脈の損傷部分を切除し、適切な箇所にグラフトを取り付けることが可能となる。手術中、患者は臨床的には死亡状態にあると考えられるため、手術の継続時間が、手術を原因として起こり得る患者の健康状態への悪影響の種類及び程度を左右する主要な要因となる。例えば、DHCA期間後の神経機能障害のリスクは、手術継続時間が30分未満の場合には約10%と推測されるが、40分では15%、50分では30%、60分では60%と増加する。多くの場合において、手術の複雑さ及び当初予想していた状態よりも損傷部分の状態が悪化している可能性により、処置の継続時間が予定よりも長くなる。
【0024】
例えば大動脈弓及び腹部大動脈等、多数の動脈枝を含む大動脈の部分で解離11が起こった場合に、上記手術を行うことがさらに困難になる。さらに
図1及び
図2に示すように、動脈枝(例えば、腕頭動脈14、左総頸動脈15、及び左鎖骨下動脈16)それ自身の血流が手術中維持されていなければならず、当該手術には、残存動脈枝の一部に亘って延びるデブランチ枝部と一体化しているグラフトの使用がたびたび必要となってくる。多くの場合において、解離付近の動脈枝自身の状態が悪いため、残存大動脈及び動脈枝に対する人工グラフト及び/又はそのデブランチ枝部の縫合は、残存血管におけるエンドリーク及び断裂のリスクを伴う。さらに、患者の生体構造はそれぞれ特有のものであり、血管のサイズ、間隔、及び角度は患者によって異なる。従来の装置では、特定の患者の生体構造に適切に対応できない場合が多く、従って、不適切な寸法及び/又はデブランチ枝部の血管装置に対する接合角度と動脈枝の大動脈弓に対する角度との差によって、当該装置の使用は患者の血管系のみならず装置自身に対しても負担をかける場合がある。
【0025】
さらに、場合によっては、例えばグラフトの下流側に位置する、患者の血管系の脆弱箇所又はその他異常箇所に対処するために、付加的なエンドグラフトが必要とされる。例えばエンドグラフト及びステント等の従来の血管装置には、「ランディングゾーン」として機能し、当該装置の各端部の近位及び遠位にある血管系の部分が必要とされ、当該血管系の部分により標的部位の適切な位置でエンドグラフトを保持する。例えば、約2cmのランディングゾーンが必要とされる。しかしながら、例えば大動脈弓12等の動脈枝のクラスタにおいては、動脈枝が高密度で密集しているため、大動脈においてランディングゾーンとして機能可能な2cmの部分がない。
【0026】
従って、本発明の実施形態に係る血管装置及び大動脈の病理的治療方法によれば、当該装置の端部と残存大動脈との結合箇所における止血を容易にし、エンドリークのリスクが最小限に抑えれるか、排除される。さらに、本発明の実施形態に係る血管装置及び大動脈の病理的治療方法によれば、DHCAの必要なく、患者の血管系に当該装置が取り付け可能となり、修復処置に伴う患者へのリスクが最小限に抑えられる。また、本発明の実施形態に係る血管装置及び治療方法により、例えばグラフトに近接する大動脈及び/又はそれに隣接する動脈枝においてステントグラフトが必要な場合等において、他の装置及び他の処置と共にグラフトを使用することが容易になる。
【0027】
図3及び
図4A〜
図4Dに示すように、実施形態に係る、体管腔内における標的部位治療用血管装置100は、患者の残存血管(例えば、
図4B,
図4C,及び
図4Dに例示する大動脈)である第1残存部50と第2残存部60の間に配置されるように構成されている。実施形態に係る血管装置100は、第1残存部50に取り付けられる第1端部110と、第2残存部60に取り付けられる第2端部120とを有する。
図3に示すように、血管装置100は、通常、管状であり、第1及び第2端部110,120の間に延びる管腔130を有している。
【0028】
第1及び第2端部110,120の少なくとも一方は、内側スカート部140と、外側スカート部150とを有する。詳細は後述するが、内側及び外側スカート部140,150は、
図4B及び
図4Cに示すように、それらの間において対応する残存部50,60の一部を収容し、血管装置100の端部をそれに対応する残存血管に取り付けるように構成されている。例えば図示されているような実施形態において、血管装置100の各端部110,120は、内側スカート部140と、少なくとも部分的に内側スカート部140を取り囲む外側スカート部150とを有していてもよい。血管装置100は、内側及び外側スカート部140,150の間において、対応する残存血管の一部を収容し、血管装置100の端部をそれに対応する残存部50,60に取り付けるように構成されてもよい。しかしながら、他の実施形態においては、必要に応じて、内側及び外側スカート部140,150は端部110,120のいずれか一方のみに設けられていてもよい。
【0029】
内側及び外側スカート部140,150は、それぞれ、
図3に示すような管状構成を有しており、血管装置100の中心軸Xから遠ざかるように延びることにより、
図4Aに示すようなフレアを有している。フレアによって、内側スカート部140の端部における血管装置100の直径diは、
図4Aに示すように、グラフト本体の直径dgよりも大きくなっている。外側スカート部150は、内側スカート部140のフレアより大きなフレアを有している。血管装置100の直径doは、内側スカート部140の直径diの位置に対応する、外側スカート部150上における互いに対向する点の間の距離を測ることにより求められ、当該直径doは内側スカート部140の直径diよりも大きい。しかしながら、別の場合において、内側及び外側スカート部140,150のフレアの広がり度合いは、略同一であってもよい。例えば、いくつかの実施形態において、グラフト本体の直径dgは、約20〜40mmであり、内側スカート部140の端部における血管装置100の直径diは、約25〜60mmであり、外側スカート部150上における互いに対向する点の間の距離である、血管装置100の直径doは、約30〜60mmである。
【0030】
フレアを有する内側及び外側スカート部140,150を設けることにより、「フリーサイズ」血管装置の提供、あるいは、異なる生体構造を有する患者に適合可能となる装置サイズの数を最小限に抑えることが少なくとも可能となる。この点において、医師は、特定の患者に適合するように血管装置100をカスタマイズすることができ、当該カスタマイズは、血管装置100の端部110,120における内側スカート部140の直径diを効果的に減少させ、当該端部110,120が取り付けられる残存部50,60の直径に合うように、血管装置100の一方又は両方の端部110,120を切り取ることにより可能となる。例えば、比較的大きな直径の大動脈を有する患者の場合、血管装置100の端部110,120をごく少量切り取ることにより(又は、血管装置100の端部110,120を全く切り取らず)血管装置100の直径を残存大動脈に対応させることが可能である。一方、比較的小さな直径の大動脈を有する患者の場合、血管装置100の端部110,120を大きく切り取ることにより血管装置100を適合させることが可能である。
【0031】
さらに
図4Aに示すように、内側スカート部140は、管腔130の周りを周方向に延びる内面142と、その反対側に位置する外面144とを有する。同様に、外側スカート部150は、内側スカート部140の最も近くに位置する内面152と、その反対側に位置する外面154とを有する。
図4B及び
図4Cに示すように、血管装置100は、内側スカート部140の外面144が例えば第2残存部60の内面62に隣接して位置し、外側スカート部150の内面152が当該残存部の外面64に隣接して位置するように構成されている。言い換えれば、第2残存部60の端部は、内側及び外側スカート部140,150の互いに対向する面144,152の間に収容される。
【0032】
いくつかの実施形態において、内側スカート部140は、例えば
図4B及び
図4Cに示すような縫合糸70によって、対応する残存部50,60に縫合されるように構成されてもよい。さらに、外側スカート部150は、例えば、血管装置100が所定の位置に配置されると外側スカート部150が縫合糸70に寄り掛かるようになり、その結果、縫合糸70における止血を促進し端部近接のエンドリークを最小限に抑えるように構成されてもよい。例えば、縫合糸70(例えば、2つの素材を保持するために当該素材を縫合糸が貫通している場所)に起因して内側スカート部140とそれに対応する大動脈の残存部60に形成された孔から漏れる血液は、大動脈の外面64と外側スカート部150の内面152(
図4A参照)との間に染み出す。しかしながら、外側スカート部150がこれらの孔に対して寄り掛かっているため、前述のような血液の染み出し速度が落ちる。最終的に、大動脈壁60と外側スカート部150との間に染み出した血液が凝固し、さらなる血液漏れを生じる孔に対する栓として機能する。言い換えると、外側スカート部150は、大動脈と外側スカート部150との間の部分における血液の凝固を促進し、エンドリークに対して縫合線を実質的に封止する。従って、いくつかの実施形態においては、外側スカート部150を内側スカート部140よりも長く形成することにより、前述の凝固が起こる表面領域をさらに確保するようにしてもよい。他の場合において、外側スカート部150を内側に(例えば中心軸Xに向かって)付勢するか、外側スカート部150に対して締め力を(外側スカート部150自身によって、あるいは、外側スカート部150の外部に周方向に配置される、独立したタイ又はラッソーと共に使用することによって)作用させてもよい。説明の便宜上、内側及び外側スカート部140,150は、残存大動脈に対する係合前は、それらの間が離れているように
図4Aにおいて示されているが、いくつかの実施形態において、内側及び外側スカート部140,150は、所定の位置に配置されると縫合線に沿って付勢力又は締め力が作用するように、係合前は互いに(離間することなく)配置されていてもよい。
【0033】
例えば、いくつかの実施形態において、外側スカート部150は、第1位置と第2位置との間を移動するように構成されてもよい。第1位置を示す
図4Dにあるように、外側スカート部150は、巻上状態に付勢されることにより、内側スカート部140の外面144が図示のように露出され、そこで対応する残存部50(例えば、大動脈部分)を受けている。言い換えると、標的部位に対する血管装置100の取り付け前の第1位置において、外側スカート部150は巻上状態にあり、その結果、外側スカート部150の内面152は、内側スカート部140の外面144からずれている。
【0034】
残存部50が十分に内側スカート部140の外面144と係合すると、外側スカート部150は、
図4Dの第1位置から、外側スカート部150が展開状態に付勢される(例えば
図4B参照)第2位置に、執刀医によって(例えば
図4Dに示すE方向に)展開され、それにより、外側スカート部150の内面152が内側スカート部140の外面144に対向して配置される。このような方法で、残存部50は、前述するように、内側及び外側スカート部140,150の間に係合される。さらに、いくつかの実施形態において、第2位置(
図4B参照)では、外側スカート部150は、内側スカート部140に向かって圧力をかけることにより、止血を促進してエンドリークを最小限に抑えるように構成されており、さらに、第1位置(
図4D参照)に戻りにくく構成されていてもよい。
【0035】
例えば、執刀医は、内側及び外側スカート部140,150を有する少なくとも一方の第1及び第2端部110,120がそれに対応する残存部50,60近傍に位置するように血管装置100を標的部位に配置し、内側スカート部140の外面144がその上で当該残存部50,60を受けるようにする。場合によっては、執刀医は、外側スカート部150が
図4Dの第1位置にある状態で、内側スカート部140をそれに対応する残存部50,60に縫合し、その後、外側スカート部150の内面152が内側スカート部140の外面144に対向して配置されるように、外側スカート部150を
図4Dの巻上状態から
図4Bの展開状態に移動させてもよい。この方法により、当該残存部50,60は、内側及び外側スカート部140,150の間に係合される。前述したように、血管の切除部分の長さによって、執刀医は、初めに、血管装置100に形成された内側及び外側スカート部140,150のうちの少なくとも内側スカート部140を血管装置100の端部近傍で切り取ることによって、血管装置100の長さを調節し、血管装置100を対応する残存部50,60に正確に適合させる必要がある。
【0036】
内側及び外側スカート部140,150を有する血管装置100は、例えばポリエステル、ダクロン(登録商標)材料、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、及び/又はゴアテックス(登録商標)繊維等のポリマー材料から成る。場合によっては、ポリマー材料は、構造上、例えばステンレス鋼、ニチノール、又はその他生体適合性金属等から成る金網によって補強されている。外側スカート部150は、血管装置100及び内側スカート部140と一体的に形成されていてもよく、いくつかの実施形態においては、例えばファスナー(例えば素材同士の縫合)、接着剤、接合剤、又はその他接続方法によって血管装置100に取り付けられる、独立した構造体であってもよい。
【0037】
場合によっては、患者の状態及び血管系の損傷度合によって、大動脈部分の切除及び切除部分の例えば前述の血管装置100などの装置への置換は、現在存在する全ての病理的治療に十分に対応することができない。例えば、切除部分の下流側における切除不要な残存血管が脆弱になり、動脈瘤又はさらなる解離による合併症を防ぐために当該脆弱部分の補強が必要となってくる。従って、血管装置100の取付時に、執刀医は、別のステントグラフトを経脈管的に導入し(例えば、少なくとも血管装置100の管腔130の一部を通じて導入し)、血管装置100が取り付けられる標的部位近傍に位置する、大動脈及び/又は動脈枝の脆弱箇所の補強することが必要となってくる。従って、血管装置100は、場合によっては、血管装置100の第1及び第2端部110、120の少なくとも一方においてエンドグラフトが収容可能なように構成されてもよい。動脈枝のクラスタを含む血管系の周辺におけるエンドグラフトの導入は、動脈枝を開き対応する臓器への十分な血流を維持する課題、及び十分なランディングゾーンによりエンドグラフトを血管装置100にしっかりと接続し、時間と共にエンドグラフトが移動するリスクを最小限に抑える課題を伴う。
【0038】
例えば、
図5に示すように、別の実施形態に係る血管装置200は、第1端部212と、第2端部214と、第1及び第2端部212,214の間に延びる第1管腔216とを有する第1管状構造体210を備える。第2管状構造体220は、第1管状構造体210の第1管腔216内に配置され、第2管腔226を有する。第2管状構造220は、詳細は後述するが、第2管腔226においてエンドグラフト300(
図8参照)を収容し、エンドグラフト300のランディングゾーンとして機能する。
【0039】
いくつかの実施形態においては、第2管状構造体220の外面228の少なくとも一部を第1管状構造体210の対応する内面218から間隔をあけて配置することにより、それらの間にチャンバ230を形成してもよい。場合によっては、第2管状構造体220の一部は、
図5に示すように、第1管状構造体210の一部と一致する。言い換えると、第2管状構造体220の一部は、図示のように、第1管状構造体210と重なった部分において、同じ壁部を第1管状構造体210と効果的に共有するように、第1管状構造体210と一体化されている。従って、第1及び第2管状構造体210,220の通常の管状構成により、チャンバ230は、三日月状断面を有するように構成されている。
【0040】
第1管状構造体210は、例えばポリエステル、ダクロン(登録商標)材料、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、及び/又はゴアテックス(登録商標)繊維等のポリマー材料から成る。場合によっては、第1管状構造体210のポリマー材料は、構造上、例えばステンレス鋼、ニチノール、又はその他生体適合性金属等から成る金網によって補強されている。第2管状構造体220は、例えばゴアテックス(登録商標)等のポリマー繊維によって覆われた金網(例えば、ステンレス鋼、ニチノール、又はその他生体適合性金属等から成る)から形成される。従って、図示されるような第2管状構造体220の一部が第1管状構造体210に一体化している実施形態において、第2管状構造体220の金網は、第1管状構造体210を形成する同一のポリマー材料に埋め込まれている。
【0041】
さらに
図5に示すように、血管装置200は、チャンバ230の周辺において第1管状構造体210から延びる1つ以上のデブランチ枝部240をさらに備える。各デブランチ枝部240は、血液がチャンバ230を経由して各デブランチ枝部240から血管枝に流れるように、血管枝に対応している。詳細は後述するが、例えば、各デブランチ枝部240は、執刀医が各枝部を対応する血管枝に(例えば、縫合糸によって)取り付け可能なように、血管枝に対して実質的に位置決めされていてもよい。
図5において示す実施形態において、例えば、腕頭動脈14、左総頸動脈15、及び左鎖骨下動脈16(
図1参照)にそれぞれ対応するように3つのデブランチ枝部240を設けている。しかしながら、別の場合において、取り付けを要する血管枝の数及び/又は行われる特定の処置によって、1つか2つのデブランチ枝部240のみを設けてもよい。さらに、図示しないが、いくつかの実施形態において、
図3〜
図4Dについて既に述べられたように、1つ以上のデブランチ枝部240の端部において、デブランチ枝部240とそれに対応する動脈枝との縫合線を外側スカート部で包み込むように、内側及び外側スカート部を形成してもよい。
【0042】
さらに、図示の実施形態において、血液は、下行大動脈及びその血管枝を含む下流まで、第2管状構造体220によって形成される第2管腔226を通じて流れることが可能である。この点について、いくつかの実施形態においては、第1管状構造体210は、拡張部又は隆起部211が第2管状構造体220の内端部221近傍に形成されるように構成されてもよい。隆起部211は、第1管状構造体210の第1端部212を通じて流れる血液の略半分がチャンバ230及び1つ以上のデブランチ枝部240に向かい、残りの半分が下流側の血管及び臓器へのかん流のために第2管状構造体220に向かうように構成されている。別の言い方をすれば、第2管状構造体220が分流器として機能し、隆起部211が血管装置200を通じた十分な血液の分配を容易にする。
【0043】
いくつかの実施形態において、血管装置200は、その第1端部212近傍の内径が約36〜46mm(例えば、2mm単位の各種サイズ)となるように構成されてもよい。また、第2管状構造体220の内端部221近傍の内径は、約20〜36mm(例えば、2mm単位の各種サイズ)であってもよい。従って、第1管状構造体210の第2管状構造体220の内端部221近傍(例えば、隆起部211付近の第1管状構造体210上の対向する2点の間)の内径は、40〜72mmであってもよい。
【0044】
血管装置200は、例えば図示する実施形態等の場合において、第1管状構造体210の第1及び第2端部212,214の少なくとも一方が内側スカート部250と外側スカート部260とを有するように構成してもよい。図示する実施形態においては、両端部212,214のそれぞれが内側及び外側スカート部250,260を有している。内側及び外側スカート部250,260は、
図3〜
図4Dに示す前述の内側及び外側スカート部140,150と同様に構成され、残存部50,60に結合される血管装置200の端部における止血を促進する。当該実施形態において、内側及び外側スカート部250,260は、前述のように、それらの間において対応する残存部50,60の一部を収容し、第1管状構造体210の対応する端部212,214を当該残存部50,60に取り付けるように構成されている。
【0045】
次に
図6に示すように、実施形態に係る血管装置200は、標的部位に配置され、対応する血管及び血管枝に取り付けられることにより、DHCAの使用なしに例えばA型解離等の血管異常を治療する。患者の生体構造及び状態、扱う血管病理、並びに執刀医の判断より異なった治療方法が使用されるが、実施形態に係る血管装置200を使用した血管異常の治療方法の一例を以下で説明する。
【0046】
いくつかの実施形態において、例えば、心肺バイパス法の使用により、執刀医が、大動脈の損傷部分を切除し、残存血管に血管装置200を接続し、血流を回復させてもよい。当該処置において、初めに、2つのクランプが
図6に示す血管装置200の位置A及び位置Bに取り付けられると共に、小さいクランプが各デブランチ枝部240の位置C、位置D、及び位置Eに取り付けられる。標的部位に(例えば、開胸により)至った際に、心停止され、血液及び酸素は体外ポンプ(例えば、心肺バイパスポンプ)を通じて体内を循環する。
【0047】
この点について、実施形態に係る血管装置200は、クランプが取り付けられている位置Aと位置Bとの間で第1端部212近傍の第1管状構造体210から延びる供給枝部270を備えていてもよい。供給枝部270は、血管装置200と一体化され、ゴアテックス(登録商標)繊維によって覆われた金網(例えば、ステンレス鋼、ニチノール、又はその他生体適合性金属から成る)を有している。いくつかの実施形態において、供給枝部270は、例えば16mm等の約12〜20mmの直径を有している。心肺バイパスポンプの動脈ラインを供給枝部270に対してカニューレ挿入し、位置A,位置B,位置C,位置D,及び位置Eに対するクランプの取り付けにより血管装置200内に留まる空気を抜き取る。そして、患者の腕頭動脈が切断され、対応するデブランチ枝部240が、縫合又は血管内修復法(以下で説明)によって、残存動脈枝に対して取り付けられる。
【0048】
この時、対応するクランプ(例えば、位置Cにおけるクランプ)を取り外し、心肺バイパスポンプを起動する。そして、左頸動脈が切断され、対応するデブランチ枝部240に取り付けられ、その後、対応するクランプ(例えば、位置Dにおけるクランプ)を取り外すことにより、血液が血管装置200及び対応するデブランチ枝部240を流れることが可能となる。同様に、左鎖骨下動脈が切断され、対応するデブランチ枝部240に取り付けられることにより、心肺バイパスポンプからの血液が対応するデブランチ枝部240を通じて(例えば、位置Eにおけるクランプを取り外すことによって)左鎖骨下動脈に流れることが可能となる。場合によっては、心肺バイパスポンプの動脈ラインは分岐していてもよく、一方の分岐動脈ラインが供給枝部270に延び、他方の分岐動脈ラインが、例えば大腿動脈アクセス又は一時的な左鎖骨下動脈アクセスを介して、下半身に血液を供給するために使用されてもよい。
【0049】
上半身のかん流が心肺バイパスポンプを介して行われると(そして、例えば、下半身のかん流が前述のポンプから延びる第2動脈ラインを介して行われると)、心停止され、残存大動脈弓がクランプされ、大動脈の損傷部分が取り除かれる(図示せず)。その後、第1管状構造体210の第2端部214における内側スカート部250は、対応する残存部60(
図5参照)の端部に縫合され、大動脈弓(図示せず)及び血管装置200(位置B)の両方におけるクランプが取り外される。この時、心肺バイパスポンプは、
図6において矢印で示すように、血管装置200を介して体内全体のかん流を行うために使用される。
【0050】
供給枝部270は、心肺バイパスポンプに対する動脈アクセスのために使用されるだけでなく、血管装置200より遠位の血管異常に対処する必要がある場合において、第2管状構造体220により形成されるランディングゾーンを介して第1管状構造体210の第2端部214に係合するように構成されるエンドグラフト300(
図8参照)を展開するために使用されてもよい。
図8に示すように、エンドグラフト300は、デブランチ枝部240に関して前述したように、金網によって支持される、例えばゴアテックス(登録商標)繊維等のポリマー繊維を有している。
【0051】
エンドグラフト300は、例えばデリバリーカテーテル等、供給枝部270、第1管状構造体210の一部、及び第2管状構造体220を介して収縮状態で供給される。エンドグラフト300は、少なくともその片側(例えば、180度に及ぶ)において、小径部310と、大径部320と、それらの間に延びるテーパー部330とを有するようにさらに構成される。いくつかの実施形態において、テーパー部330は、略円筒状の小径部310と略円筒状の大径部320との間に延びていてもよい。他の実施形態において、第2管状構造体220の形状に実質的に対応するように円錐状に構成されているエンドグラフト300の場合、テーパー部330は、エンドグラフト300の小径端部から大径端部に向かって延びていてもよい。エンドグラフト300は、第2管状構造体220としっかりと係合するように、膨張時(ニチノール等の形状記憶合金自身の膨張時、もしくは、バルーン又はその他膨張機構による膨張時)にテーパー形状となるように構成してもよい。従って、いくつかの実施形態において、第2管状構造体220の直径よりも約2〜4mm大きいエンドグラフト300を(その膨張時に第2管状構造体220に対してより確実に装着するために)選ぶ。
【0052】
この時、第1管状構造体210の第1端部212が心臓又はそれに近接する残存部50に取り付けられ、位置Aにあるクランプは取り外される。必要に応じて、例えば弁置換バイパス術のような、心臓に対する付加的な処置を行ってもよい。必要とされる全ての付加的処置が完了すると、患者は心肺バイパスポンプから徐々に離脱し、心臓からの血流が(血管装置200を介して)再開される。
【0053】
処置が完了後、供給枝部270が不要となった時に、供給枝部270は、第1管状構造体210の表面近傍で執刀医により切断される。この点について、いくつかの実施形態において、供給枝部270の第1管状構造体210に対する接合部分は、巾着縫合糸280としての内臓縫合機構を有していてもよく、執刀医が巾着縫合糸280を引っ張ることにより、供給枝部270に対応する第1管状構造体210の開口部が閉鎖される。従って、供給枝部270が切り取られ、巾着縫合糸280が引っ張られると、第1管状構造体210が締められることにより開口部を閉鎖し、開口部を通じた血管装置200からの血液の流出を防ぐことができる。場合によっては、巾着縫合糸280は、例えば、ゴアテックス(登録商標)材料から成る。
【0054】
同様に、
図7Aに示すように、1つ以上のデブランチ枝部240は、必要に応じて、執刀医が針を刺し、ガイドワイヤ及び付加的なエンドグラフトを対応する動脈枝に導入するための脆弱部分242(例えば、「柔軟部」)を有している。残存血管枝のデブランチ枝部240に対する縫合が、例えば血管枝の脆弱部分又は損傷部分を原因として、危険であるか、技術的に困難である場合にエンドグラフトが必要である。
【0055】
各脆弱部分242は、巾着縫合糸244によって囲まれており、巾着縫合糸244が執刀医によって引っ張られることにより、脆弱部分242を通じてエンドグラフトを導入する際に執刀医によって形成された任意の孔を閉鎖するように構成されている。巾着縫合糸244を引っ張ることにより孔を閉鎖する実施形態を
図7Bに示す。各巾着縫合糸244がデブランチ枝部240における標準材料と脆弱部分242を形成する材料との境界部分に設けられており、巾着縫合糸244を締めると標準材料が実質的にデブランチ枝部240の全ての範囲を占めるようになる(例えば、脆弱部分242を形成する材料が、デブランチ枝部240の材料に占める部分がほぼ又は全くない)。
【0056】
脆弱部分242は、執刀医が容易に孔を形成可能なように、脆弱部分242以外のデブランチ枝部240の部分とは異なる材料で構成されるか、あるいは、脆弱部分242以外のデブランチ枝部240の部分と同一の材料で構成されているが厚みが薄く構成される部分である。前述のように、巾着縫合糸244は、ゴアテックス(登録商標)繊維で構成されている。さらに、ゴアテックス(登録商標)繊維層を巾着縫合糸244に対して付加的に設け、デブランチ枝部240における脆弱部分242とそれ以外の部分との境界部分における構造的一体性を高めている。
【0057】
前述のような体管腔内における標的部位近傍に血管装置を配置する方法を
図9を参照して簡単に説明する。当該方法は、血管装置を準備するステップ400を有する。例えば、いくつかの実施形態に係る血管装置は、
図5〜
図7Bに示す血管装置200と同様に構成され、第1端部と、第2端部と、それらの間に延びる第1管腔とを有する第1管状構造体を備えている。当該装置は、第1管状構造体の第1管腔内に配置され、第2管腔を有する第2管状構造体をさらに備え、第2管状構造体の外面の少なくとも一部が第1管状構造体の内面から間隔をあけて配置され、それらの間にチャンバが形成される。さらに、少なくとも1つのデブランチ枝部は、チャンバ周辺における第1管状構造体から延びている。
【0058】
前述したように、各デブランチ枝部は、ステップ410において、例えば心肺バイパス法を使用して、血液がチャンバを経由して各デブランチ枝部から対応する血管枝に流れるように、当該血管枝に接続されている。大動脈の損傷箇所は、ステップ420において、体管腔において大動脈の第1及び第2残存部が残るように切除される。解離が心臓に非常に近い部分で起こっている等場合によっては、第1残存部は、実際には心臓の一部となる。
【0059】
第1管状構造体の第2端部は、ステップ430において、第2管腔を通じて下流側に血液が流れるように、第2残存部に接続され、第1管状構造体の第1端部は、ステップ440において、第1残存部に接続される。処置中、心肺バイパスポンプを使用して体内のかん流を行う場合には、前述したように、ステップ450において、患者がポンプから離脱することにより、血液が心臓から流れ、血管装置を介して体内のかん流が行われる。
【0060】
ここにおいて、大動脈弓における(例えば、腕頭動脈、左総頸動脈、及び左鎖骨下動脈周辺における)標的部位治療用装置の例が述べられているが、大動脈の他の部位における状態にも前述の実施形態に係る血管装置を使用して対処可能である。例えば、血管装置200の異なる構成より、腹腔動脈、SMA、及び腎動脈の周辺における内臓大動脈の病理的治療に対処可能である。動脈枝のクラスタに近接していない血管系の周辺においては、
図3〜
図4Dに示す前述の実施形態に係る血管装置100が使用される。
【0061】
前述の実施形態に係る血管装置により、例えば大動脈瘤及び解離等の、血管枝のクラスタに近接する患者の血管系の周辺における異常を含む血管異常の治療に対していくつかを効果が得られる。例えば、前述の実施形態に係る装置は、複数種類のサイズの装置を準備する必要なくより多くの患者に適合可能に構成されており、例えば特定の患者の生体構造に適合するように処置時にカスタマイズ可能な内側及び外側スカート部を設ける等の構成を有する。さらに、前述の実施形態に係る装置は、大動脈弓及び胸腹部大動脈を含む血管系の様々な部位に使用可能である。
【0062】
特に、前述の実施形態に係る血管装置は、執刀医が超低体温循環停止(DHCA)の必要なく完全な大動脈弓置換を行うことを可能にし、この種の処置に通常伴う患者の罹患率及び死亡率のリスクを減少させる。さらに、ニチノール等の形状記憶合金の膨張に通常影響するDHCAの目的で患者の体温を低下させる必要がなくなるため、当該装置において当該金属が容易に使用可能となる。さらに、前述したように、装置と残存血管との接合部分(例えば、装置の残存血管に対する縫合部分)における出血を大きく抑えることができ、大動脈置換においてより確実に止血可能となる。
【0063】
さらに、前述の実施形態に係る、第1及び第2管状構造体を備える血管装置の設計により、患者の縦隔に容易に装着可能でよりコンパクトな血管装置が構成可能となる。いくつかの実施形態において、例えば血管装置内にランディングゾーンを形成することによって、装置の端部にエンドグラフトを固定する際に血管装置の構成が役立ち、エンドリークの発生も最小限に抑えることができる。
【0064】
血管装置及びその配置方法について、特定の構成及び特定の配置方法のみ述べられ、図示されている。特定の構成および配置方法は、患者の生体構造、標的部位の状態及び位置、医師の判断、並びに、その他事項に依存する。
【0065】
前述の説明及びそれに関する図面を参酌して、本発明のその他の実施形態及び変形例が本発明の技術分野における当業者によって考えられ得る。従って、本発明は、前述の実施形態に限られず、その他実施形態及び変形例は特許請求の範囲に含まれるものとする。ここにおいて具体的な用語が使用されているが、一般的且つ記述的用語としてのみ使用されており、本発明を限定するものではない。