特許第6276431号(P6276431)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6276431有機化合物をカプセル封入するための、マルトデキストリンをベースとするポリマー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6276431
(24)【登録日】2018年1月19日
(45)【発行日】2018年2月7日
(54)【発明の名称】有機化合物をカプセル封入するための、マルトデキストリンをベースとするポリマー
(51)【国際特許分類】
   C08B 31/00 20060101AFI20180129BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20180129BHJP
   C08B 31/04 20060101ALI20180129BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20180129BHJP
   C08G 63/12 20060101ALI20180129BHJP
   C08G 64/02 20060101ALI20180129BHJP
   C08G 18/64 20060101ALI20180129BHJP
   C08G 59/40 20060101ALI20180129BHJP
   C08J 3/24 20060101ALI20180129BHJP
   C08G 18/73 20060101ALI20180129BHJP
   A23L 5/00 20160101ALN20180129BHJP
【FI】
   C08B31/00
   A61K47/36
   C08B31/04
   A61K9/48
   C08G63/12
   C08G64/02
   C08G18/64 084
   C08G59/40
   C08J3/24 ZCEP
   C08G18/73
   !A23L5/00 C
【請求項の数】21
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-575759(P2016-575759)
(86)(22)【出願日】2014年7月7日
(65)【公表番号】特表2017-523277(P2017-523277A)
(43)【公表日】2017年8月17日
(86)【国際出願番号】EP2014064466
(87)【国際公開番号】WO2016004974
(87)【国際公開日】20160114
【審査請求日】2017年2月28日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516112794
【氏名又は名称】ロケット イタリア エス.ピー.エイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100166338
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100152054
【弁理士】
【氏名又は名称】仲野 孝雅
(72)【発明者】
【氏名】トロッタ フランチェスコ
(72)【発明者】
【氏名】フォッサーティ エルネスト
【審査官】 三木 寛
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−500274(JP,A)
【文献】 特開昭61−168601(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第02540773(EP,A1)
【文献】 国際公開第2012/147069(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/003656(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/153798(WO,A1)
【文献】 Food Research International,2010年,Vol.43,p.2132-2137
【文献】 Journal of Cereal Science,1992年,Vol.16,p.13-28
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B 31/00
C08B 31/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
デンプンの乾燥重量に相対的な乾燥重量として表した25%から50%までの範囲でアミロースを含むデンプンに由来するマルトデキストリンと、ポリアクリル酸、ブタンテトラカルボン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸ジエチレントリアミン五酢酸二無水物、エチレンジアミン四酢酸二無水物、ベンゾフェノン−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物、ピロメリト酸二無水物1,1’−カルボニルジイミダゾール、炭酸ジフェニル、トリホスゲン、塩化テレフタロイル、塩化セバコイル、塩化スクシニルトルエンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、ポリ(ヘキサメチレンジイソシアネート)及びヘキサメチレンジイソシアネートから成る群から選択される、陽性炭素原子を有する少なくとも1つの架橋化合物と、を反応させることによって得られる架橋ポリマーであって、 前記マルトデキストリンは豆科のデンプンに由来し、前記豆科の植物はエンドウ、インゲン、空豆、飼料用空豆及びそれらの混合物から成る群から選択される、架橋ポリマー。
【請求項2】
前記豆科のデンプンは、30%から40%までのアミロース含量を有し、この百分率はデンプンの乾燥重量に相対的な乾燥重量として表されている、請求項1に記載のポリマー。
【請求項3】
前記豆科のデンプンは、35%から40%までのアミロース含量を有し、この百分率はデンプンの乾燥重量に相対的な乾燥重量として表されている、請求項2に記載のポリマー。
【請求項4】
前記豆科のデンプンは、35%から38%までのアミロース含量を有し、この百分率はデンプンの乾燥重量に相対的な乾燥重量として表されている、請求項3に記載のポリマー。
【請求項5】
前記マルトデキストリンは17のデキストロース当量(DE)を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリマー。
【請求項6】
陽性炭素原子を有する前記少なくとも1つの架橋化合物は、ピロメリト酸二無水物、1,1’−カルボニルジイミダゾール、ヘキサメチレンジイソシアネート、コハク酸、クエン酸及び酒石酸のうちから選択される、請求項1〜のいずれか1項に記載のポリマー。
【請求項7】
陽性炭素原子を有する前記少なくとも1つの架橋化合物はクエン酸である、請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリマー。
【請求項8】
陽性炭素原子を有する前記少なくとも1つの架橋化合物は酒石酸である、請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリマー。
【請求項9】
陽性炭素原子を有する前記少なくとも1つの架橋化合物はピロメリト酸二無水物である、請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリマー。
【請求項10】
陽性炭素原子を有する前記少なくとも1つの架橋化合物はヘキサメチレンジイソシアネートである、請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリマー。
【請求項11】
陽性炭素原子を有する前記少なくとも1つの架橋化合物は1,1’−カルボニルジイミダゾールである、請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリマー。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の架橋ポリマーを調製するプロセスであって、 1)デンプンの乾燥重量に相対的な乾燥重量として表した25%から50%までの範囲でアミロースを含むデンプンに由来するマルトデキストリンの溶液を調製するステップと、 2)ポリアクリル酸、ブタンテトラカルボン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸ジエチレントリアミン五酢酸二無水物、エチレンジアミン四酢酸二無水物、ベンゾフェノン−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物、ピロメリト酸二無水物1,1’−カルボニルジイミダゾール、炭酸ジフェニル、トリホスゲン、塩化テレフタロイル、塩化セバコイル、塩化スクシニルトルエンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、ポリ(ヘキサメチレンジイソシアネート)及びヘキサメチレンジイソシアネートから成る群から選択される、陽性炭素原子を有する少なくとも1つの架橋化合物を加えて反応させるステップと、 3)前記ポリマーを得るステップとを含み、 前記マルトデキストリンは豆科のデンプンに由来し、前記豆科の植物はエンドウ、インゲン、空豆、飼料用空豆及びそれらの混合物から成る群から選択される、プロセス。
【請求項13】
陽性炭素原子を有する前記少なくとも1つの架橋化合物は、ピロメリト酸二無水物、1,1’−カルボニルジイミダゾール、ヘキサメチレンジイソシアネート、コハク酸、クエン酸及び酒石酸のうちから選択される、請求項12に記載のプロセス。
【請求項14】
ステップ1)の前記マルトデキストリンと、陽性炭素を有する前記少なくとも1つの架橋化合物との間のモル比は1:0.5〜1:250である、請求項12又は13に記載のプロセス。
【請求項15】
ステップ1)の前記マルトデキストリンと、陽性炭素を有する前記少なくとも1つの架橋化合物との間のモル比は1:0.57である、請求項14に記載のプロセス。
【請求項16】
陽性炭素を有する前記少なくとも1つの架橋化合物は、クエン酸であり、 ステップ1)の前記マルトデキストリンと前記クエン酸との間のモル比は1:3である、請求項14に記載のプロセス。
【請求項17】
陽性炭素を有する前記少なくとも1つの架橋化合物は、酒石酸及びクエン酸であり、 ステップ1)の前記マルトデキストリンと、前記酒石酸及び前記クエン酸との間のモル比は1:1:2である、請求項14に記載のプロセス。
【請求項18】
ステップ2)において、シクロデキストリンが、少なくとも1つの架橋剤と一緒に加えられる、請求項12に記載のプロセス。
【請求項19】
前記シクロデキストリンが、β−シクロデキストリンである、請求項18に記載のプロセス。
【請求項20】
ステップ1)の溶解は、ジメチルスルホキシド、又は、N,N−ジメチルホルムアミド若しくはN−メチルピロリジノンを用いて行われる、請求項1219のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項21】
有機化合物のカプセル封入/包接/捕捉のための、請求項1〜11のいずれか1項に記載のポリマーの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、食品及び飲料分野、医薬用途及び殺虫剤用途などの様々な工業分野における有機化合物をカプセル封入するための、マルトデキストリンをベースとするポリマーに関する。
【背景技術】
【0002】
食品及び飲料分野などの、不安定な有機分子が使用される多くの工業分野において、それら分子の分解、或は、分子を関心の無い化合物に変換するか又はそれらを破壊さえもする可能性のある薬剤又は環境条件との反応、を避けるために、これらの分子をカプセル封入するか、複合体にするか、又はトラップすることが必要である。
【0003】
薬剤又は殺虫剤分野においてカプセル封入技術は、薬剤/殺虫剤物資を必要な場所及び時に特定の仕方で放出するために使用される。
【0004】
それゆえに、これらの有機化合物を、それらの性質及びそれらの有効性の両方を変えることのない良好な保存を保証するために適切な仕方で包装するための種々のカプセル封入技術が知られている。
【0005】
既知のカプセル封入物質の中でも、シクロデキストリン及びそれらの誘導体が、さらには混合物としても、使用される
【0006】
例えば、特許文献1は、風味又は香り物質をカプセル封入することができる母材を準備するために、蔗糖、加工デンプン、マルトデキストリン及び他のポリマーをヒドロキシプロピルセルロースと組み合せて使用することを記載している。
【0007】
シクロデキストリンはさらに、全く異なった技術分野において、関心のある有機物質との包接複合体又は超分子複合体を形成することによって、有機分子をカプセル封入するために使用される。
【0008】
例えば、文献及び特許出願書において、殺虫剤、ダニ駆除剤、殺菌剤、カタツムリ駆除剤及び駆虫剤のシクロデキストリン(CD:cyclodextrins)中の製剤について記載されている(非特許文献1、非特許文献2、及び非特許文献3を参照されたい)。前記超分子複合体の主な目的は、活性成分が放出される時点でのそれらの生物活性を変えることなく活性成分の物理化学的性質を改良すること、即ち、安定性を高めること、難容性及び難吸収性の活性成分の湿潤性及び生物学的利用能を高めること、環境毒性を減らすこと、及びオペレータに対する毒性を減らすこと、である。
【0009】
α、β、γシクロデキストリンは、天然又は半合成の環状オリゴ糖であり、一般に生分解性であり、β−CD、γ−CD及びそれらの誘導体、例えば、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(HP−β−CD:hydroxypropyl−β−cyclodextrin)及びスルホブチルエーテル−β−シクロデキストリン(SBE−β−CD:sulfobutyl ether−β−cyclodextrin)が主として工業用途に使用される。しかしシクロデキストリンの使用は高度に規制されている。
【0010】
特許文献2には、α、β、γシクロデキストリンのポリマーが使用される、飲料の処理プロセスが記載されている。ポリマーはワインの中のタンパク質部分を安定化させた。
【0011】
代替的に、カプセル封入のために、アミロースが豊富なデンプン(50%以上のアミロースを含むデンプン)の使用が提案されたが、それらは調製及び使用の非常に厳しい条件を必要とするので、様々な制約を含む。事実、これらのデンプンは、それらのアミロースの豊富さのために急速に老化する。
【0012】
また、デンプンを安定化することも知られている。この安定化は、デンプンのヒドロキシル基のエステル化又はエーテル化による置換によって得られる。これは酸化によって得ることもできる。これらの安定化処理は、具体的には、ヒドロキシプロピル化、アセチル化、リン酸化又は酸化である。これらの安定化に対処するための反応は、デンプンの老化温度の低下を許容する場合であっても、包接複合体を形成するそれらの機能を低下させる。
【0013】
ワインの分野では、特許文献3が噴霧乾燥又は凍結乾燥によるカプセル封入物質としてのエンドウのデンプンの使用について記載している。長い多糖鎖の存在は、エンドウのデンプンが、記載された発明により香味料をカプセル封入することができるための本質的な特徴である。
【0014】
特許文献4には、有機化合物をカプセル封入するためのマルトデキストリン及び/又はグルコース・シロップの使用法が記載されており、ここで、マルトデキストリン及び/又はグルコース・シロップは、デンプンの乾燥重量に相対的な乾燥重量として表した25%と50%の間のアミロース含量を有する豆科のデンプンから得られる。その文献において説明されているように、アミロースは、ヒドロキシル基の存在による親水性外部表面及び水素原子の存在による疎水性内部表面を有するラセン体に組織化される。純アミロースの使用がそれらの結晶化又は老化の大きな傾向のために工業規模で想定することができない場合でも、このラセン構造がアミロースに、活性成分又は香味料のカプセル封入のために必要な特性を与える。
【0015】
特許文献4において使用されたマルトデキストリンは、アミロースが豊富なデンプンだけでなくシクロデキストリンの代替製品になった。アミロースが豊富なデンプンに関して、特許文献4のマルトデキストリンは冷水に可溶となり、特にワイン業界において、カプセル封入のために使い易くなった。その一方で、特許文献4のマルトデキストリンは、シクロデキストリンと比べて、厳しい使用制限を受けずに、特に香味料のカプセル封入の高い収率を示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】欧州特許第1304044号明細書
【特許文献2】国際公開第2013/179196号
【特許文献3】欧州特許第820702号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2010/0196542号明細書
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Szente,L.他著、「Cyclodextrins in Pesticides」、Comprehensive Supramolecular Chemistry、503−514ページ、Elsevier(1996)。
【非特許文献2】Castillo,J.A.他著、Drug Develop.Ind.Pharm.25巻、1241−1248ページ(1999)。
【非特許文献3】Lezcano,M.他著、J.Agric.Food Chem.50巻、108−112ページ(2002)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
包接/カプセル封入された有機化合物の制御された放出を含む、優れた且つ改善された包接/カプセル封入機能を有し、全ての溶剤内での使用が容易で安全な、さらに別のカプセル封入物質を提供することが必要と思われる。
【課題を解決するための手段】
【0019】
マルトデキストリンを研究するための実験中に、本出願人は、驚いたことに、25%から50%までの範囲でアミロースを含むデンプンに由来するマルトデキストリンの特定の修飾が、比較的高温に対して非常に安定であり、非常に優れた可溶化特性、及び有機物質との間で形成される複合体の高い安定性をもたらすことができる、生成物を得ることを可能にすることを発見した。
【0020】
従って、本発明は、デンプンの乾燥重量に相対的な乾燥重量として表した25%から50%までの範囲でアミロースを含むデンプンに由来するマルトデキストリンと、ジカルボン酸、二無水物、カルボニルジイミダゾール、炭酸ジフェニル、トリホスゲン、二塩化アシル、ジイソシアネート、ジエポキシドから成る群から選択される、陽性炭素原子を有する少なくとも1つの架橋化合物と、を反応させることによって得られる架橋ポリマーに関する。
【0021】
好ましい一実施形態において、本発明は、デンプンの乾燥重量に相対的な乾燥重量として表した25%から50%までの範囲でアミロースを含むデンプンに由来するマルトデキストリンと、ジカルボン酸、二無水物、カルボニルジイミダゾール及びジイソシアネートから成る群から選択される少なくとも1つの化合物と、を反応させることによって得られる架橋ポリマーに関する。
【0022】
より好ましい実施形態において、本発明による架橋ポリマーは、デンプンの乾燥重量に相対的な乾燥重量として表した25%から50%までの範囲でアミロースを含むデンプンに由来するマルトデキストリンと、ピロメリト酸二無水物、1,1’−カルボニルジイミダゾール、ヘキサメチレンジイソシアネート、クエン酸及び酒石酸のうちから選択される少なくとも1つ架橋剤と、を反応させることによって得られる。
【0023】
さらにより好ましい実施形態において、本発明による架橋ポリマーは、デンプンの乾燥重量に相対的な乾燥重量として表した25%から50%までの範囲でアミロースを含むデンプンに由来するマルトデキストリンと、1,1’−カルボニルジイミダゾール及びヘキサメチレンジイソシアネートのうちから選択される架橋化合物と、を反応させることによって得られる。
【0024】
本発明の架橋ポリマーは、有機物質を強力にカプセル封入/トラップ/包接することができるナノ多孔質物質の形態を有する。さらに本発明のポリマーは、有利なことに水及び全ての有機溶剤に不溶であり、それゆえに固形のカプセル封入物質として使用される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施例1の架橋ポリマーのTGA分析のスペクトルを示す。
図2】実施例1の架橋ポリマーのATR−FTIR分析のスペクトルを示す。
図3】実施例2の架橋ポリマーのTGA分析のスペクトルを示す。
図4】実施例2の架橋ポリマーのATR−FTIR分析のスペクトルを示す。
図5】実施例3の架橋ポリマーのTGA分析のスペクトルを示す。
図6】実施例3の架橋ポリマーのATR−FTIR分析のスペクトルを示す。
図7】実施例4の架橋ポリマーのATR−FTIR分析のスペクトルを示す。
図8】実施例5の架橋ポリマーのATR−FTIR分析のスペクトルを示す。
図9】実施例6の架橋ポリマーのATR−FTIR分析のスペクトルを示す。
図10】実施例7の架橋ポリマーのATR−FTIR分析のスペクトルを示す。
図11】実施例2及び実施例3のポリマーのメチルオレンジの吸収のUV−Vis分析による結果を示す。
図12】5mlのアニソール溶液(2.45×10−4M)に対する実施例2のポリマーの吸収のUV−Vis分析による結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、それゆえに、デンプンの乾燥重量に相対的な乾燥重量として表した25%から50%までの範囲でアミロースを含むデンプンに由来するマルトデキストリンと、ジカルボン酸、二無水物、カルボニルジイミダゾール、炭酸ジフェニル、トリホスゲン、二塩化アシル、ジイソシアネート及びジエポキシドから成る群から選択される、陽性炭素原子を有する少なくとも1つの架橋化合物と、を反応させることによって得られる架橋ポリマーに関する。
【0027】
本発明の架橋ポリマーは、それゆえに、デンプンの乾燥重量に相対的な乾燥重量として表した25%から50%までの範囲でアミロースを含むデンプンに由来するマルトデキストリンから得られる。
【0028】
好ましくは、本発明のマルトデキストリンは豆科のデンプンに由来するものである。「豆科」により、本発明の意味において、ジャケツイバラ科、ネムノキ科又はパピリオナシア(Papilionaceae)科の科に属する任意の植物、及び特に、例えば、エンドウ、インゲン、空豆、飼料用空豆、レンズ豆、ルーサン、クローバー又はルピナスなどのパピリオナシアの科に属する任意の植物を意味する。この定義は、具体的には、R.HOOVER他による1991年の論文(R.HOOVER他著、「Composition、structure、functionality and chemical modification of leguminous starches」、Can.J.Physiol.Pharmacol.、69巻、79−92ページ(1991))に含まれる表のいずれか1つに記載されている全ての植物を含む。豆科植物は、エンドウ、インゲン、空豆、飼料用空豆及びそれらの混合物で形成される群から選択されることが好ましい。好ましい且つ有利な実施形態により、豆科植物は、デンプンの重量で少なくとも25%、好ましくは少なくとも40%(乾燥/乾燥)を含む種子を生産する様々なエンドウ又は飼料用空豆である。より有利には、前記豆科植物はエンドウである。用語「エンドウ」は、本明細書においては最も広い意味で考えられるものであり、具体的には、全ての野生の「滑らかなエンドウ(smooth pea)」亜種、並びに、全ての変種の「滑らかなエンドウ」及び「しわエンドウ(wrinkled pea)」亜種を、前記亜種が一般に意図された用途(食用、家畜栄養及び/又は他の用途)に関わらず、含む。
【0029】
本発明の豆科のデンプンは、30%と40%の間を含む、具体的には35%と40%の間を含む、及びより好ましくは35%と38%の間のアミロース含量を有することが好ましく、ここで、これらの百分率はデンプンの乾燥重量に相対的な乾燥重量として表されている。
【0030】
マルトデキストリンは、通常、デンプンの酸及び/又は酵素による加水分解によって得られる。規制状況に関して、マルトデキストリンは1から20のデキストロース当量(DE:dextrose equivalent)を有する。
【0031】
本発明において、マルトデキストリンは、17のデキストロース当量(DE)、及び約12000Dの重量の平均分子量を有することが好ましい。
【0032】
それゆえに、架橋ポリマーは、ジカルボン酸、二無水物、カルボニルジイミダゾール、炭酸ジフェニル、トリホスゲン、二塩化アシル、ジイソシアネート及びジエポキシドから成る群から選択される、陽性炭素原子を有する架橋化合物を反応させることから得られる。
【0033】
本発明において、「陽性炭素原子を有する化合物」という定義は、求核攻撃を受ける炭素原子を有する、即ち、部分正電荷を有する化合物を指すのに用いられる。
【0034】
陽性炭素原子を有する少なくとも1つの架橋化合物は、ジカルボン酸、二無水物、カルボニルジイミダゾール及びジイソシアネートのうちから選択されることが好ましい。
【0035】
ジカルボン酸の中で、本発明においては以下の二塩基酸、即ち、ポリアクリル酸、ブタンテトラカルボン酸、コハク酸、酒石酸及びクエン酸、を使用することができる。より好ましくは、陽性炭素原子を有する架橋化合物はクエン酸である。有利な実施形態において、架橋ポリマーはクエン酸及び酒石酸を架橋剤として用いて得られる。
【0036】
二無水物の中で、本発明においては以下の無水物、即ち、ジエチレントリアミン五酢酸二無水物、エチレンジアミン四酢酸二無水物、ベンゾフェノン−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物、及びピロメリト酸二無水物、を使用することができる。より好ましくは、陽性炭素原子を有する架橋化合物はピロメリト酸二無水物である。
【0037】
塩化アシルの中で、本発明においては以下の塩化アシル、即ち、塩化テレフタロイル、塩化セバコイル、塩化スクシニル、を使用することができる。より好ましくは、陽性炭素原子を有する架橋化合物は塩化テレフタロイルである。
【0038】
ジイソシアネートの中で、本発明においては以下のジイソシアネート、即ち、トルエンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、ポリ(ヘキサメチレンジイソシアネート)、及びヘキサメチレンジイソシアネート、を使用することができる。より好ましくは、陽性炭素原子を有する架橋化合物はヘキサメチレンジイソシアネートである。
【0039】
より好ましくは、陽性炭素原子を有する化合物は、ピロメリト酸二無水物、1,1’−カルボニルジイミダゾール、ヘキサメチレンジイソシアネート、クエン酸及び酒石酸のうちから選択される。
【0040】
次の実験部からより明らかとなるように、本発明のポリマーは、比較的高温に対して安定であり、高い複合体生成能、高い可溶化特性及び形成される複合体の高い安定性をもたらした。さらに、本発明のポリマーは、容易に得られ、現在のところ具体的な法規制の問題がないという利点を有する。
【0041】
本発明はさらに、本発明の架橋ポリマーを調製するためのプロセスであって、
1)デンプンの乾燥重量に相対的な乾燥重量として表した25%から50%までの範囲でアミロースを含むデンプンに由来するマルトデキストリンの溶液を調製するステップと、
2)ジカルボン酸、二無水物、カルボニルジイミダゾール、炭酸ジフェニル、トリホスゲン、二塩化アシル、ジイソシアネート、シクロデキストリン、ジエポキシド及びポリエポキシドの群から選択される、陽性炭素原子を有する少なくとも1つの架橋化合物を加えるステップと、
3)架橋ポリマーを得るステップと、
を含むプロセスに関する。
【0042】
ステップ1)のマルトデキストリンと陽性炭素を有する架橋化合物との間のモル比は1:0.5〜1:250であることが好ましく、より好ましくはステップ1)のマルトデキストリンと陽性炭素を有する少なくとも1つの架橋化合物との間のモル比は、マルトデキストリンのグルコース・ユニットに関して、1:0.57、即ち、1モルのグルコース・ユニット毎に0.57モルの架橋剤となる。別の実施形態において、ステップ1)のマルトデキストリンと陽性炭素を有する少なくとも1つの化合物との間のモル比は、マルトデキストリンのグルコース・ユニットに関して1:3又は1:3.28、即ち、1モルのグルコース・ユニット毎に3又は3.28モルの架橋剤となる。
【0043】
有利なことに、本発明のプロセスは、ステップ1)の溶液に、ステップ2)の架橋剤と一緒にシクロデキストリンを添加するステップを与える。シクロデキストリンの中で、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン及びγ−シクロデキストリンを使用することができる。β−シクロデキストリンが添加されることがより好ましい。
【0044】
クエン酸及び酒石酸の両方の架橋化合物によってポリマーが得られる本発明の実施形態において、ステップ1)のマルトデキストリンと酒石酸及びクエン酸との間のモル比は1:1:2、即ち、グルコース・ユニットが180.15g/molの分子質量(分子量)を有することを考慮に入れて、マルトデキストリンのグルコース1モル毎に1モルの酒石酸及び2モルのクエン酸となる。
【0045】
ステップ1)の溶解は、ジメチルスルホキシドを用いて、又はN,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリジノンを用いて行われることが好ましい。
【0046】
本発明のポリマーはカプセル封入物質として使用することができる。このポリマーは、製薬工業、化粧品工業、食品工業、製紙及び不織布工業、繊維製品、超芳香製品及び脱臭剤、洗剤又は植物検疫製品、飲料工業及び殺虫剤分野において使用することができる。
【0047】
本発明のポリマーは、種々異なる物理化学的特性及びサイズを有する様々な有機化合物、例えば、薬物、染料、気体、蒸気などのカプセル封入/包接/閉じ込めを可能にする。
【0048】
さらに別の態様において本発明は、それゆえに、有機化合物のカプセル封入/包接/閉じ込めのための本発明の架橋ポリマーの使用に関わる。
【0049】
さらに別の態様において、本発明は有機化合物のカプセル封入/包接の方法に関する。例えば、本発明のポリマーは、水に溶解した状態ではなく、固体状態で使用することができる。この場合、ポリマーは、完全に溶解するには不十分であるがペーストを得るには十分な少量の水と混合される。次にこのペーストを、粉末状態又は適切な溶剤中の溶解状態にあるカプセル封入するべき化合物と、こねる及び/又は混ぜることによって混合する。代替的に、包接化合物は、選択された量の架橋ポリマーに、適切な溶剤中に溶解した過剰のゲスト分子を加えることによって簡単に得ることができ、室温で一晩撹拌した後でカプセル封入が起こり、簡単に真空ろ過によって回収される。
【0050】
次に、本発明のポリマーの調製の実施例、及び有機化合物のカプセル封入/包接の実施例に関連して本発明を説明する。
【実施例】
【0051】
実験部 実施例1:デンプンの乾燥重量に相対的な乾燥重量として表した25%から50%までの範囲でアミロースを含むデンプンに由来するマルトデキストリンと、架橋剤としてのピロメリト酸二無水物とを反応させることによる、本発明の架橋ポリマーの調製。 Roquette Italia SpAからクレプトース・ラインキャップス(Kleptose Linecaps)17として販売され、17のDEを有する4.89gの(100〜120℃の乾燥炉中で少なくとも一晩乾燥させた)マルトデキストリンを、100mlのフラスコ中の20mlのジメチルスルホキシド中に撹拌し続けながら溶解させた。次いで、5mlのトリメチルアミンを添加し、数分後に3.76gのピロメリト酸二無水物を添加した。初めのマルトデキストリンとピロメリト酸二無水物との間のモル比は、マルトデキストリンのグルコース1モルに対するピロメリト酸二無水物0.57モルのモル比として表して、1:0.57であった。短時間の後、網状化プロセスが撹拌棒を妨げた。24時間後に反応が完了したと見なした。数日後、ポリマーを乳鉢内ですりつぶし、脱イオン水を用いて、ブフナー漏斗内で水ジェットポンプにより洗浄した。空気乾燥後、ポリマーを、ソックスレー抽出器内でアセトンを用いて合計約14時間かけて精製した。
【0052】
そのようにして得た架橋ポリマーを、TAインスツルメントのTGA2050 v5.4Aを用いて、N中、毎分10℃の傾斜によるTGA分析によって分析した。分析の結果は図1に報告したサーモグラムである。50℃と100℃の間で起る初めの重量減少(約6%)は、主に試料上に吸収されていた水分によるものである。ポリマー構造体の劣化は150℃付近で始まり、600℃まで続いたが、240℃で最大劣化速度に達した。800℃において、約20%の最終残留物が観測された。
【0053】
さらに、本発明の架橋ポリマーをより良く特徴付けるために、パーキンエルマー(PerkinElmer)のSpectrum100 FT−IR分光計を用いたATR−FTIR分析によって架橋ポリマーを分析した。分析の結果は図2に報告したスペクトルである。赤外スペクトルにおいて、マルトデキストリン・ユニットの特性吸収帯に加えて、架橋剤によって導入されたカルボニル基のピーク(即ち、1721、1585cm−1)を観測することができる。以下の表に、主要なピークを、対応する吸収基と共に記載する。
【0054】
【表1】
【0055】
得られたポリマーについて、さらに、サーモサイエンティフィック(Thermoscientific)のFlashEA 1112シリーズ機器でCHNS分析を行った。結果を以下の表に報告する。
【0056】
【表2】
【0057】
実施例2:デンプンの乾燥重量に相対的な乾燥重量として表した25%から50%までの範囲でアミロースを含むデンプンに由来するマルトデキストリンと、架橋剤としての1,1’−カルボニルジイミダゾールとを反応させることによる、本発明の架橋ポリマーの調製。
Roquette Italia SpAからクレプトース・ラインキャップス17として販売され、17のDEを有する4.89gの(100〜120℃の乾燥炉中で少なくとも一晩乾燥させた)マルトデキストリンを、100mlのフラスコ中の20mlの無水N,N−ジメチルホルムアミド中に撹拌し続けながら溶解させた。次に2.79g(di)の1,1’−カルボニルジイミダゾールを添加した。初めのマルトデキストリンと1,1’−カルボニルジイミダゾールとの間のモル比は、マルトデキストリンのグルコース1モルに対する1,1’−カルボニルジイミダゾール0.57モルのモル比として表して、1:0.57であった。得られた混合物を油浴中で、90℃の温度に達するまで加熱した。数分後、網状化プロセスが撹拌棒を妨げた。加熱は、架橋反応を完了するように少なくとも2〜3時間の間続けた。数日後、ポリマーを乳鉢内ですりつぶし、脱イオン水を用いて、ブフナー漏斗内で水ジェットポンプにより洗浄した。空気乾燥後、ポリマーを、ソックスレー抽出器内でエタノールを用いて合計約14時間かけて精製した。
【0058】
そのようにして得た架橋ポリマーを、TAインスツルメントのTGA2050 v5.4Aを用いて、N中、毎分10℃の傾斜によるTGA分析によって分析した。分析の結果は図3に報告したサーモグラムである。50℃と100℃の間で起った(comprised)初めの重量減少(約2%)は、吸収されていた水分の放出に帰すことができる。ポリマーの熱劣化は約175℃で始まり、800℃において約18%の最終残留物になった。最大劣化速度は298℃で観測された。
【0059】
さらに、本発明の架橋ポリマーをより良く特徴付けるために、パーキンエルマーのSpectrum100 FT−IR分光計を用いたATR−FTIR分析によって架橋ポリマーを分析した。分析の結果は図4に報告したスペクトルである。主要な吸収信号を以下に与える表に記載する。グルコース・ユニットの主要な吸収帯(即ち、それぞれ3600〜3100cm−1及び1638cm−1のO−H基の伸縮及び変角、2900cm−1付近のC−H伸縮及び1260〜1000cm−1の範囲におけるアルコール、エステル及びエーテル基内のC−O結合の伸縮)に加えて、カルボニル部分の特性吸収ピークが1741cm−1に出現し、従って、ポリマー構造体内の架橋ブリッジの存在を裏付ける。
【0060】
【表3】
【0061】
得られたポリマーについて、さらに、サーモサイエンティフィックのFlashEA 1112シリーズ機器でCHNS分析を行った。結果を以下の表に報告する。
【0062】
【表4】
【0063】
実施例3:デンプンの乾燥重量に相対的な乾燥重量として表した25%から50%までの範囲でアミロースを含むデンプンに由来するマルトデキストリンと、架橋剤としてのヘキサメチレンジイソシアネートカルボニルジイミダゾールとを反応させることによる、本発明の架橋ポリマーの調製。
Roquette Italia SpAからクレプトース・ラインキャップス17として販売され、17のDEを有する4.89gの(100〜120℃の乾燥炉中で少なくとも一晩乾燥させた)マルトデキストリンを、100mlのフラスコ中の20mlのジメチルスルホキシド中に撹拌し続けながら溶解させた。次に0.5gの1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンを添加し、数分後に2.77gのヘキサメチレンジイソシアネートを添加した。初めのマルトデキストリンとヘキサメチレンジイソシアネートとの間のモル比は、マルトデキストリンのグルコース1モルに対するヘキサメチレンジイソシアネート0.57モルのモル比として表して、1:0.57であった。短時間の後、網状化プロセスが撹拌棒を妨げた。24時間後に反応が完了したと見なした。数日後、ポリマーを乳鉢内ですりつぶし、脱イオン水を用いて、ブフナー漏斗内で水ジェットポンプにより洗浄した。空気乾燥後、ポリマーを、ソックスレー抽出器内でアセトンを用いて合計約14時間かけて精製した。
【0064】
そのようにして得た架橋ポリマーを、TAインスツルメントのTGA2050 v5.4Aを用いて、N中、毎分10℃の傾斜によるTGA分析によって分析した。分析の結果は図5に報告したサーモグラムである。加熱プログラムの、40℃と120℃の間に含まれる第1段階で、吸収されていた水分の量(およそ5%)が失われた。ポリマーは150℃に至るまで安定であることが分かり、次いで、多段階プロセスを通して劣化が起こったが、その場合、3つの主要な重量損失を観測することができた。3つのプロセスの最大劣化速度は、それぞれ、236℃、291℃及び438℃にあった。最終的に、800℃において13%の最終残留物が記録された。
【0065】
さらに、本発明の架橋ポリマーをより良く特徴付けるために、パーキンエルマーのSpectrum100 FT−IR分光計を用いたATR−FTIR分析によって架橋ポリマーを分析した。分析の結果は図6に報告したスペクトルである。主要な吸収ピークを次の表にまとめた。
【0066】
【表5】
【0067】
マルトデキストリン・ユニットに関連する最も強い信号は、3600〜3100cm−1及び1260〜1000cm−1の範囲に位置し、それらは主として、それぞれO−H結合及びC−O結合の伸縮振動によるものである。ウレタン・ユニットの存在は、それぞれカルボニル基の伸縮及びN−H結合の変角振動に起因する1695及び1533cm−1の吸収ピークによって証明される。他方、2990cm−1と2800cm−1の間に含まれる吸収帯は、ウレタンのN−H結合の伸縮振動と重なった、マルトデキストリン・ユニット及び架橋剤ユニットの両方のC−H結合の伸縮振動に帰される。
【0068】
得られたポリマーについて、さらに、サーモサイエンティフィックのFlashEA 1112シリーズ機器でCHNS分析を行った。結果を以下の表に報告する。
【0069】
【表6】
【0070】
実施例4:デンプンの乾燥重量に相対的な乾燥重量として表した25%から50%までの範囲でアミロースを含むデンプンに由来するマルトデキストリンと、架橋剤としてのクエン酸とを反応させることによる、本発明の架橋ポリマーの調製。
Roquette Italia SpAからクレプトース・ラインキャップス17として販売され、17のDEを有する4.00gのマルトデキストリン、1.00gの次亜リン酸ナトリウム一水和物(NaHPO・HO)及び14.22gのクエン酸を、20mlの脱イオン水に撹拌しながら加えた。マルトデキストリンとクエン酸の間のモル比は、マルトデキストリンのグルコース1モルに対するクエン酸3モルのモル比として表して、1:3であった。次いで、溶液を100℃で透明になるまで(約5分間)加熱した。次に溶液をペトリ皿に注入し、乾燥炉内に、約80℃の温度及び低圧力(約80mbar)で結果として得られた化合物が乾燥するまで(約10日間の要求された時間)保持した。終りに、そのようにして得たポリマーを乳棒乳鉢によってすりつぶし、過剰の脱イオン水で、ブフナー装置上のろ過により、又は遠心分離サイクルを繰返して、洗浄水が無色になるまで、洗浄した。漏斗及び/又は遠心分離による最後の洗浄サイクルは、ポリマーの乾燥プロセスを加速するために、水の代りにアセトンをポリマーに加えて行った。アセトンによる処理は、洗浄溶剤が無色になるまで延長した。次に、ポリマーを数日間、開放空気中で乾燥させた。
【0071】
本発明の架橋ポリマーを特徴付けるために、パーキンエルマーのSpectrum100 FT−IR分光計を用いたATR−FTIR分析によって架橋ポリマーを分析した。分析の結果は図7に報告したスペクトルである。
【0072】
クエン酸架橋結合ユニットによるカルボニル基の特性ピークが1716cm−1に観測された。それに加えて、マルトデキストリン及びクエン酸ユニットの両方に由来する主な吸収信号を、次の表に記載する。赤外スペクトルは、ポリマーの期待される組成を裏付けた。
【0073】
【表7】
【0074】
この得られたポリマーについて、さらに、サーモサイエンティフィックのFlashEA 1112シリーズ機器でCHNS分析を行った。結果を以下の表に報告する。
【0075】
【表8】
【0076】
実施例5:デンプンの乾燥重量に相対的な乾燥重量として表した25%から50%までの範囲でアミロースを含むデンプンに由来するマルトデキストリンと、架橋剤としてのクエン酸とを反応させることによる、本発明の架橋ポリマーの調製。
15.54gの量のクエン酸を用いて実施例4に記載したのと同じ手順及び成分を繰返した。この場合、マルトデキストリンとクエン酸の間のモル比は、マルトデキストリンのグルコース1モルに対するクエン酸3.28モルのモル比として表して、1:3.28であった。
【0077】
本発明の架橋ポリマーを特徴付けるために、パーキンエルマーのSpectrum100 FT−IR分光計を用いたATR−FTIR分析によって架橋ポリマーを分析した。分析の結果は図8に報告したスペクトルである。
【0078】
1716cm−1に出現した吸収ピークは、カルボニル基の伸縮振動に起因するものであり、クエン酸架橋ユニットの存在をはっきりと示す。カルボニル信号に加えて、マルトデキストリン・ユニット及び架橋ユニットの両方の振動による主要なピークを以下の表に記載する。
【0079】
【表9】
【0080】
この得られたポリマーについて、さらに、サーモサイエンティフィックのFlashEA 1112シリーズ機器でCHNS分析を行った。結果を以下の表に報告する。
【0081】
【表10】
【0082】
実施例6:デンプンの乾燥重量に相対的な乾燥重量として表した25%から50%までの範囲でアミロースを含むデンプンに由来するマルトデキストリンと、架橋剤としてのクエン酸及び酒石酸とを反応させることによる、本発明の架橋ポリマーの調製。
Roquette Italia SpAからクレプトース・ラインキャップス17として販売され、17のDEを有する4.00gのマルトデキストリン、1.00g(di)の次亜リン酸ナトリウム一水和物(NaHPO・HO)、3.7gの酒石酸及び9.48gのクエン酸を、20mlの脱イオン水に撹拌しながら加えた。マルトデキストリン、酒石酸及びクエン酸の間のモル比は、マルトデキストリンのグルコース1モルに対する酒石酸1モル及びクエン酸2モルのモル比として表して、1:1:2であった。次いで、溶液を100℃で透明になるまで(約5分間)加熱した。次に溶液をペトリ皿に注入し、乾燥炉内に、約80℃の温度及び約80mbarの圧力で10日間、結果として得られた化合物が乾燥するまで保持した。終りに、そのようにして得たポリマーを乳棒乳鉢によってすりつぶし、過剰の脱イオン水で、ブフナー漏斗により、又は遠心分離サイクルを繰返して、洗浄した。この処理を洗浄水が無色になるまで続けた。漏斗及び/又は遠心分離による最後の洗浄サイクルは、水の代りにアセトンを加えて行った。このアセトンによる処理は、洗浄溶剤が無色になるまで延長した。次に、ポリマーを数日間、開放空気中で乾燥させた。
【0083】
本発明の架橋ポリマーを特徴付けるために、パーキンエルマーのSpectrum100 FT−IR分光計を用いたATR−FTIR分析によって架橋ポリマーを分析した。分析の結果は図9に報告したスペクトルである。主要な吸収ピークを次の表にまとめる。
【0084】
【表11】
【0085】
このスペクトルは、マルトデキストリンの特性赤外信号、及び、さらに、1723cm−1に位置するカルボニル・ユニットの吸収ピークを示し、従って、ポリマー構造体内の架橋部分の存在を裏付ける。
【0086】
そのようにして得たポリマーについて、さらに、サーモサイエンティフィックのFlashEA 1112シリーズ機器でCHNS分析を行った。結果を以下の表に報告する。
【0087】
【表12】
【0088】
実施例7:デンプンの乾燥重量に相対的な乾燥重量として表した25%から50%までの範囲でアミロースを含むデンプンに由来するマルトデキストリンと、架橋剤としてのクエン酸とを反応させることによる、本発明の架橋ポリマーの調製。
Roquette Italia SpAによって販売され、特許文献4に記載のラインキャップス・クレプトース(Linecaps Kleptose)(登録商標)4.00g、0.40gのβ−シクロデキストリン、1.00gの次亜リン酸ナトリウム一水和物(NaHPO・HO)、及び14.22gのクエン酸を、20mlの脱イオン水に加えた。マルトデキストリンと架橋剤の間のモル比は、即ちラインキャップス・クレプトース(登録商標)及びβ−シクロデキストリンのクエン酸に対するモル比は、マルトデキストリンのグルコース1モルに対するクエン酸2.73モルのモル比として表して、1:2.73であった。他方、反応に導入されたβ−シクロデキストリンの量は、ラインキャップス・クレプトース(登録商標)の量の10%w/wに等しかった。次に溶液を100℃に加熱し、透明になるまで5分間維持した。次いで、溶液をペトリ皿に注ぎ入れ、乾燥炉内に約80mbarの圧力で、結果として得られた化合物が乾燥するまで維持した(要求される時間:約10日間)。合成の終りに、そのようにして得たポリマーを乳棒乳鉢によってすりつぶし、過剰の脱イオン水で、ブフナー漏斗により又は遠心分離サイクルの繰返しにより、洗浄した。この処理は、結果の洗浄水が無色になるまで続け、次いでアセトン内での漱ぎ洗いの繰返しによって洗浄溶剤が無色になるまで、処理を続けた。次に、ポリマーを数日間、開放空気中で乾燥させた。
【0089】
本発明の架橋ポリマーを特徴付けるために、パーキンエルマーのSpectrum100 FT−IR分光計を用いたATR−FTIR分析によって架橋ポリマーを分析した。分析の結果は図10に報告したスペクトルである。主要な吸収ピークを次の表にまとめる。
【0090】
【表13】
【0091】
ラインキャップス・ユニット及びβ−CDユニットの両方によるグルコース・ユニットの主要な吸収帯に加えて、カルボニル部分の特性吸収ピークが1716cm−1に出現し、従って、ポリマー構造体内の架橋ブリッジの存在を裏付けた。
【0092】
そのようにして得たポリマーについて、さらに、サーモサイエンティフィックのFlashEA 1112シリーズ機器でCHNS分析を行った。結果を以下の表に報告する。
【0093】
【表14】
【0094】
実施例8:デンプンの乾燥重量に相対的な乾燥重量として表した25%から50%までの範囲でアミロースを含むデンプンに由来するマルトデキストリンと、架橋剤としてのクエン酸とを反応させることによる、本発明の架橋ポリマーの調製。
実施例7に記載したのと同じ手順及び成分を繰返し、以下に報告する詳細によって、より多くのβ−シクロデキストリンを使用しても、さらに幾つかの場合に、次亜リン酸ナトリウム一水和物(NaHPO・HO)をKHPOで置換えても、成功した結果が得られた。
【0095】
【表15】
【0096】
実施例9:メチルオレンジの吸収。
滴定に使用されることが多いpH指示薬であるメチルオレンジの吸収を評価した。具体的には、実施例2と実施例3のポリマーについて試験した。
実施例2のポリマー50mg及び実施例3のポリマー50mgを、別々に5mlのメチルオレンジ溶液(1.5×10−5M)に加えることにより、メチルオレンジの濃度のUV解析(464nmにおけるピーク)によって、吸収を時間的に評価した。結果を図11にグラフで示す。図11から明白なように、本発明の両方のポリマーに対して2時間後のメチルオレンジの吸収が明白であった。
【0097】
簡略化のためにポリマー1gに正規化すると、水100ml中のメチルオレンジ0.500mgの溶液に加えた実施例2のポリマー1gは、10分後にメチルオレンジ0.036mg(7.2%)、及び2時間後に0.082mg(16.4%)を吸収することができることを観測した。これに対して、メチルオレンジの同じ水溶液に加えた実施例3のポリマー1gは、10分後にメチルオレンジ0.024mg(4.8%)、2時間後に0.056mg(11.2%)を吸収することができた。
【0098】
実施例10
本発明のポリマーの中のカプセル封入によるケトプロフェン/デキサメタゾンの溶解度。
実施例1及び実施例2のポリマーについて、本発明によるポリマーの中のカプセル封入によるケトプロフェン/デキサメタゾンの溶解度(mg/mlで表す)を、Roquette Italia SpAによって販売され、特許文献4に記載のラインキャップス・クレプトース(登録商標)中、及びヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン中のカプセル封入後に、水中の溶解度と比較して評価するために試験した。結果を以下の表2に報告する。
【0099】
【表16】
【0100】
本発明の架橋ポリマーを使用することによる、報告した薬剤の溶解度の大きな増加が明らかである。特にポリマー1は、驚いたことに、HP−β−CDによって得られたデキサメタゾンの溶解度の結果にもう少しのところまで近づく。
【0101】
実施例11:
アニソールの吸収
実施例2のポリマーの、薬剤及び香料の前駆物質であるアニソールを吸収する能力を調べた。
実施例2のポリマー50mgをアニソールの溶液(2.45×10−4M)5mlに加えることにより、アニソール(268nmのピーク)の濃度のUV−Vis分析によって、吸収を時間的に評価した。結果を図12にグラフで示す。
【0102】
簡略化のために、ポリマー1gに正規化すると、水100ml中のアニソール2.644mgの溶液に加えた実施例2のポリマー1gは、10分後にアニソール0.550mg(20.8%)、2時間後に0.694mg(26.2%)、48時間後に1.164mg(44.0%)及び6日後に1.334mg(50.5%)を吸収することができることを観測した。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12