特許第6276432号(P6276432)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6276432非球面状の光学レンズ並びにそれに関連する光学システム及び形成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6276432
(24)【登録日】2018年1月19日
(45)【発行日】2018年2月7日
(54)【発明の名称】非球面状の光学レンズ並びにそれに関連する光学システム及び形成方法
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/16 20060101AFI20180129BHJP
【FI】
   A61F2/16
【請求項の数】10
【外国語出願】
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-30(P2017-30)
(22)【出願日】2017年1月4日
(62)【分割の表示】特願2013-544645(P2013-544645)の分割
【原出願日】2011年12月12日
(65)【公開番号】特開2017-74456(P2017-74456A)
(43)【公開日】2017年4月20日
【審査請求日】2017年2月2日
(31)【優先権主張番号】61/423,475
(32)【優先日】2010年12月15日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504389991
【氏名又は名称】ノバルティス アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100102819
【弁理士】
【氏名又は名称】島田 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100130133
【弁理士】
【氏名又は名称】曽根 太樹
(74)【代理人】
【識別番号】100180194
【弁理士】
【氏名又は名称】利根 勇基
(72)【発明者】
【氏名】ロバート アンジェロポーロス
(72)【発明者】
【氏名】スティーブン バン ノイ
【審査官】 宮部 愛子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−510521(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/009254(WO,A1)
【文献】 特表平11−503250(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0230299(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前方光学面及び対向する後方光学面を形成する本体部を備えた眼内レンズであって、
前記前方光学面は、
第1の非球面性プロファイルを有していて前記本体部の中心点から半径方向外向きに第1の距離だけ延在する中心領域と、
前記第1の非球面性プロファイルとは異なる第2の非球面性プロファイルを有していて前記中心領域から半径方向外向きに延在する第1の外側領域と、
前記第2の非球面性プロファイルとは異なる第3の非球面性プロファイルを有していて前記第1の外側領域から半径方向外向きに延在する第2の外側領域と、を有し、
前記中心領域、前記第1の外側領域、及び前記第2の外側領域の各々が、同一の基本屈折力を有し、
前記第1の非球面性プロファイル、前記第2の非球面性プロファイル、及び前記第3の非球面性プロファイルの各々は、以下の数式
【数1】
によって定義されており、ここで、
c、k、α2、及びα3が定数であり、
rが前記中心点からの半径距離であり、
cが前記第1、第2、及び第3の非球面性プロファイルの各々について同一の数値を有しており、
kが前記第1、第2、及び第3の非球面性プロファイルの各々について同一の数値を有しており、
α2が前記第1、第2、及び第3の非球面性プロファイルの各々について異なる数値を有しており、
α3が前記第1、第2、及び第3の非球面性プロファイルの各々について異なる数値を有する、眼内レンズ。
【請求項2】
前記第1の外側領域は、前記中心領域を包囲する環状リングを備えており、それにより、前記第1の外側領域は、前記第1の距離によって形成される円形の内側境界と、前記中心点からの第2の距離によって形成される円形の外側境界と、を有するようになっている、請求項1に記載の眼内レンズ。
【請求項3】
前記第2の外側領域は、前記第1の外側領域を包囲する環状リングを備えており、それにより、前記第2の外側領域は、前記第2の距離によって形成される円形の内側境界と、前記中心点からの第3の距離によって形成される円形の外側境界部と、を有するようになっている、請求項2に記載の眼内レンズ。
【請求項4】
前記第1の距離が0.25mm〜2.0mmである、請求項3に記載の眼内レンズ。
【請求項5】
前記第2の距離が0.5mm〜2.5mmである、請求項4に記載の眼内レンズ。
【請求項6】
前記第3の距離が2.5mm〜3.0mmである、請求項5に記載の眼内レンズ。
【請求項7】
前記第2の外側領域の前記円形の外側境界が前記本体部の外側境界になっている、請求項6に記載の眼内レンズ。
【請求項8】
前記眼内レンズは、前記第3の非球面性プロファイルとは異なる第4の非球面性プロファイルを有していて前記第2の外側領域から半径方向外向きに延在する第3の外側領域をさらに有する、請求項1に記載の眼内レンズ。
【請求項9】
1/c=18.990であり、
k=−3.159であり、
前記第1の非球面性プロファイルについて、α2=6.034E−05であり、
前記第2の非球面性プロファイルについて、α2=1.930E−04であり、
前記第3の非球面性プロファイルについて、α2=−4.680E−04であり、
前記第1の非球面性プロファイルについて、α3=1.164E−05であり、
前記第2の非球面性プロファイルについて、α3=−1.527E−04であり、
前記第3の非球面性プロファイルについて、α3=3.541E−06である、請求項1に記載の眼内レンズ。
【請求項10】
前記後方光学面が球面状のプロファイル又は円環状のプロファイルを有する、請求項1に記載の眼内レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概ね光学レンズの技術分野に関連し、より具体的には、眼内レンズ(IOL)及びコンタクトレンズの光学的デザインに関連する。
【背景技術】
【0002】
人間の眼球は、最も簡単に言うと、角膜と呼ばれる澄んだ外側部を通して光を伝達するとともに、水晶体を介して網膜に像を結ぶことによって視覚を提供するように機能する。結ばれる像の質は、眼球の寸法及び形状、並びに角膜及び水晶体の透明度を含む多数の要因に依存する。
【0003】
加齢又は疾病によって水晶体の透明性が低下した場合、網膜に伝達されうる光が減少することが原因で視力が低下する。眼球の水晶体のこの欠陥は、医学的には白内障として知られる。この疾患の容認された治療法は、水晶体を外科的に取り除くとともに水晶体の機能を人工的なIOLによって置換することである。
【0004】
白内障水晶体の大部分は、水晶体超音波乳化吸引と呼ばれる手術法によって取り除かれる。この処置の間、開口部が前嚢に形成されるとともに、水晶体超音波乳化吸引用の細長い切断チップが罹患水晶体に挿入されて超音波により振動させられる。振動する切断チップが水晶体を液化し又は乳化することによって、水晶体が眼球外部に吸引されうる。罹患水晶体は一旦除去されると人工的なIOLに置換される。眼球からの距離が異なる物体を見えるようにする調節作用が発揮されるように、天然の水晶体の屈折力は毛様筋の影響を受けて変化しうる。しかしながら、多くのIOLによると、調節作用は発揮されずに単焦点の屈折力が付与される。さらに、一部のIOLは非球面を有することによって角膜の収差を補正しており、非球面は、眼球の全体的な収差を大幅に低下させるか、又は完全に排除することによって患者の角膜の非球面性に対処するように形成されている。それら技術に基づいて形成されるIOLは像のコントラストを増大させうるものの、通常、それらIOLは結果的に患者の焦点深度を低下させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6416550号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、鮮明な視像が瞳孔寸法の広範囲にわたって提供されるように、疑似調節作用を有する光学的屈折力とともに、増大された焦点深度を付与できる改良型のIOLが依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、IOL及びコンタクトレンズに使用される光学レンズのデザインを提供する。
1つの実施形態において眼内レンズが提供される。眼内レンズは、前方光学面及び対向する後方光学面を形成する本体部を備える。眼内レンズは幾つかの事例において単焦点レンズである。前方光学面は、第1の外側領域及び第2の外側領域によって包囲された中心領域を有する。中心領域は、第1の非球面性プロファイルを有するとともに、本体部の中心点から半径方向外向きに延在する。第1の外側領域は、中心領域の第1の非球面性プロファイルとは異なる第2の非球面性プロファイルを有するとともに、中心領域から半径方向外向きに延在する。最後に、第2の外側領域は、第1の外側領域の第2の非球面性プロファイルとは異なる第3の非球面性プロファイルを有するとともに、第1の外側領域から半径方向外向きに延在する。幾つかの事例において、中心領域、第1の外側領域、及び第2の外側領域の各々は、同一の基本屈折力、及び同一の円錐定数の少なくともいずれか一方を有する。
【0008】
幾つかの実施形態において、第1の外側領域は中心領域を包囲する環状リングを備えており、それにより、第1の外側領域は、中心点からの第1の距離(中心領域の外側境界の半径と等しい)によって形成される円形の内側境界と、中心点からの第2の距離によって形成される円形の外側境界と、を有するようになっている。同様に、第2の外側領域は第1の外側領域を包囲する環状リングを備えうる。それにより、第2の外側領域は、第2の距離によって形成される円形の内側境界と、中心点からの第3の距離によって形成される円形の外側境界と、を有するようになっている。そのような実施形態の幾つかの事例において、第1の距離は約1.0mm〜約2.0mmであり、第2の距離は約1.5mm〜約2.5mmであり、第3の距離は約2.5mm〜約3.5mmである。その点において、幾つかの実施形態における第2の外側領域の円形の外側境界は、眼内レンズの外側領域である。他の実施形態において、レンズは、第2の外側領域から半径方向外向きに延在する1つ又は2つ以上の追加の外側領域を有する。そのような実施形態において、1つ又は2つ以上の追加の外側領域は、少なくとも隣接する領域とは異なる非球面性プロファイルを有する。
【0009】
幾つかの実施形態において、第1の非球面性プロファイル、第2の非球面性プロファイル、及び第3の非球面性プロファイルの各々は、同一の数式によって定義される。1つの実施形態において、それら非球面性プロファイルは以下の数式
【数1】
によって定義されており、ここで、c、k、α2、及びα3は定数であり、rは中心点からの半径である。幾つかの事例において、定数c及びkは、第1、第2、及び第3の非球面性プロファイルの各々について同一の数値である。幾つかの事例において、α2及びα3の各々は、第1、第2、及び第3の非球面性プロファイルの各々について異なる数値を有する。それら領域によって形成される眼内レンズの全体的な非球面性プロファイルによると、瞳孔寸法ごとに異なる焦点深度が付与される。その結果として、眼内レンズによると、所望の光学的屈折力及び光学的性能が維持されるとともに、増大した焦点深度又は疑似調節作用が提供される。
【0010】
別の実施形態において光学レンズを製造する製造方法が提供される。製造方法は、光学レンズの前方面の中心領域、第1の外側領域、及び第2の外側領域を形成することを含む。その点において、中心領域はレンズの中心点から半径方向外向きに第1の距離だけ延在しており、それにより、中心領域が円形の外側境界を有するようになっており、また、第1の外側領域は中心領域から半径方向外向きに延在しており、それにより、第1の外側領域の内側境界が中心領域の円形の外側境界によって形成されるとともに、第1の外側領域の外側境界が第1の距離より大きい第2の距離によって形成されることにより第1の外側領域が中心領域と同心にされるようになっている。同様に、第2の外側領域は第1の外側領域から半径方向外向きに延在しており、それにより、第2の外側領域の内側境界が第1の外側領域の外側境界によって形成されるとともに、第2の外側領域の外側境界が第2の距離より大きい第3の距離によって形成されることにより第2の外側領域が第1の外側領域及び中心領域と同心にされるようになっている。
【0011】
中心領域は、第1の非球面性プロファイルを有するように形成され、第1の外側領域は、第1の非球面性プロファイルとは異なる第2の非球面性プロファイルを有するように形成され、また、前方面の第2の外側領域は、第2の非球面性プロファイルとは異なる第3の非球面性プロファイルを有するように形成される。それら異なる非球面性プロファイルによると、瞳孔寸法ごとに異なる焦点深度が付与される。その結果として、光学レンズによると、所望の光学的屈折力及び光学的性能が維持されるとともに、全体的な焦点深度又は疑似調節作用が増大される。幾つかの事例において、中心領域、第1の外側領域、及び第2の外側領域の各々は、中心領域、第1の外側領域、及び第2の外側領域が同一の基本屈折力及び同一の円錐定数を有するように形成される。幾つかの実施形態において製造方法は、球面状のプロファイルを有する光学レンズの後方面を形成することをさらに含む。他の実施形態において、製造方法は、円環状のプロファイルを有する光学レンズの後方面を形成することを含んでいる。
【0012】
別の実施形態において光学レンズが提供される。光学レンズは、前方光学面及び対向する後方光学面を形成する本体部を備える。前方光学面は、光学レンズの中心点から半径方向外向きに第1の距離だけ延在することによって円形の外側境界を有するようになっている中心領域と、中心領域と同心であり中心領域から半径方向外向きに延在する環状のリングと、環状のリングと同心であり環状リングから半径方向外向きに延在する外側領域と、を有する。中心領域は、第1の非球面性プロファイルを有しており、環状リングは、第1の非球面性プロファイルとは異なる第2の非球面性プロファイルを有しており、また、外側領域は、第2の非球面性プロファイルとは異なる第3の非球面性プロファイルを有している。幾つかの事例において、中心領域、環状リング、及び外側領域は、等しい基本屈折力及び円錐定数を有する。幾つかの実施形態において、後方光学面は、球面状のプロファイル又は円環状のプロファイルからなる群から選択されるプロファイルを有する。
【0013】
本発明によると、瞳孔寸法ごとに異なる焦点深さが付与されるように、非球面性の度合を光学面の異なる領域にわたって変化させる光学レンズのデザインが提供される。非球面性プロファイルを異なる領域において変化させる結果として生じるレンズによると、良質な遠見視力が提供されるとともに、焦点深度が増大されて近見視力が改善される。その点において、固定式の光学部材において増大される焦点深度又は疑似調節作用が3ディオプトリに達するように、非球面性プロファイルが変化させられうる。
本発明の他の態様、特徴、及び利点が以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の1つの態様に係る眼内レンズが移植された眼球を示す側断面図である。
図2図1の眼内レンズの正面図である。
図3】本発明の例示的な実施形態に係る図1及び図2の眼内レンズの前方面のプロファイルを示すグラフである。
図4】6.0mmの入射瞳径(EPD)に関する図1図3の眼内レンズのMTFを示すプロット図である。
図5】2.0mmの入射瞳径(EPD)に関するMTFを示すことを除き、図4と同様に図1図3の眼内レンズのMTFを示すプロット図である。
図6】1.5mmの入射瞳径(EPD)に関するMTFを示すことを除き、図4及び図5と同様に図1図3の眼内レンズのMTFを示すプロット図である。
図7】100lp/mm(20/20の視力と等しい)における図1図3の眼内レンズのスルーフォーカスMTFを示すグラフである。
図8】50lp/mm(20/40の視力と等しい)であることを除き、図7と同様に図1図3の眼内レンズのスルーフォーカスMTFを示すグラフである。
図9】標準的な球面状の光学面を有する眼内レンズであることを除き、図7と同様に100lp/mm(20/20の視力と等しい)における眼内レンズのスルーフォーカスMTFを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
添付図面を参照して、本発明の例示的な実施形態について説明する。
ここで、本発明の原理の理解を促す目的のために、図面に示される実施形態を参照するとともに、特定の用語を使用してそれら実施形態について説明する。それにもかかわらず、本発明の範囲は何ら制限されないように意図されることが理解される。本発明の関連する技術分野における当業者が通常は考えるように、前述したデバイス、器具、方法、及び本発明の原理の任意の他の適用例が任意に変更されるとともに、さらに改変されることが十分に考慮される。特に、1つの実施形態に関して記載される特徴、構成要素、及び工程の少なくともいずれか1つは、本発明の他の実施形態に関して記載される特徴、構成要素、及び工程の少なくともいずれか1つと組み合わせられうることが十分に考慮される。
【0016】
最初の事項として、以下の説明では眼内レンズとの関係における本発明の態様について述べる。しかしながら、これは明瞭化及び簡潔化を目的としており、本発明の適用範囲が何らかの特定のタイプのレンズに限定されることは決してない。むしろ、眼内レンズとの関係において以下に述べる本発明の態様は、患者の視力を改善するのに利用される他の光学レンズにも等しく適用されることが理解される。その点において、眼内レンズに関して本明細書に記載される非球面状の光学的デザインの態様は、幾つかの事例において、コンタクトレンズにも同様に組み入れられる。従って、本発明の非球面状の光学的デザインは、当該技術分野における当業者によって理解されるように、種々のタイプのレンズに広範に適用されることが理解される。
【0017】
図1を参照すると、本発明の態様を表す配列体100が示されている。その点において、図1は眼球102を示す側断面図である。眼球102は、角膜104と、前眼房106と、後眼房108と、を有する。水晶体嚢110が後眼房108中に表されている。眼球102は網膜112をさらに有しており、網膜112は、黄斑114と、中心窩116と、を有している。眼内レンズ120は後眼房108に移植されている。特に、眼内レンズ120は水晶体嚢110内に移植されている。眼内レンズ120は、前方光学面122と、後方光学面124と、を有する。前方光学面122及び後方光学面124は単焦点レンズを形成する。従って、レンズ120を用いるとエネルギが2つの焦点に二分されることはない。以下においてさらに詳細に述べるように、幾つかの実施形態において、前方光学面122は非球面状であるものの、後方光学面124は球面状又は円環状である。
【0018】
図2を参照すると、眼内レンズ120の正面図が示されている。特に、眼内レンズ120の前方光学面122が示されている。その点において、前方光学部122は、中心点132の周囲に延在する3つの領域126、128、及び130を有する。図示されるように、それら領域126、128、及び130の各々は、正面から見て概ね円形のプロファイルを有する。領域126は、中心点132から延在する半径134によって形成されている。通常、半径134は、約0.01mm〜約1.8mmであり、幾つかの事例において、約0.25mm〜約1.5mmである。領域128は領域126から半径方向外向きに延在する。従って、領域128の内側境界は半径134によって形成されており、領域128の外側境界は半径136によって形成されている。通常、半径136は、約0.02mm〜約2.5mmであり、幾つかの事例において、約0.5mm〜約2.0mmである。従って、領域128は、内側境界と外側境界との間に延在する半径方向の厚さ部138を有する。通常、半径方向の厚さ部138は、約0.01mm〜約1.75mmである。最後に、領域130は領域138から半径方向外向きに延在する。従って、領域130の内側境界は半径136によって形成されており、領域130の外側境界は半径140によって形成されている。半径140は光学半径(optic semi−diameter)を形成していて、通常は、約2.5mm〜約3.0mmの範囲である。従って、領域130は、内側境界と外側境界との間に延在する半径方向の厚さ部142を有する。通常、半径方向の厚さ部142は約0.01mm〜約3.0mmである。
【0019】
以下においてさらに詳細に述べるように、領域126は第1の非球面性プロファイルを有しており、領域128は、領域126の非球面性プロファイルとは異なる第2の非球面性プロファイルを有しており、また、領域130は、領域128の非球面性プロファイルとは異なる第3の非球面性プロファイルを有している。幾つかの事例において、領域130の非球面性プロファイルは領域126の非球面性プロファイルとも異なり、それにより、前方光学面122の各領域が異なる非球面性プロファイルを有するようになっている。しかしながら、それら領域126、128、及び130は、同一の基本屈折力及び円錐定数を有する。それら領域126、128、及び130によって形成される前方光学面122の全体的な非球面性プロファイルによると、瞳孔寸法ごとに異なる焦点深度が付与される。その結果として、眼内レンズ120によると、所望の光学的屈折力及び光学的性能が維持されるとともに、焦点深度又は疑似調節作用が増大される。
【0020】
それら領域126、128、及び130の各々の非球面性プロファイルは、同一の数式、具体的には、以下の式(1)
【数2】
によって定義される。ここで、c、k、α2、及びα3は定数であり、rは前方光学面122の中心点132からの半径距離である。幾つかの実施形態において、cは、領域126、128、及び130の各々について同一である非球面性プロファイル計算用の数値を有する。同様に、幾つかの実施形態において、kは、領域126、128、及び130の各々について同一である非球面性プロファイル計算用の数値を有する。従って、幾つかの事例において、c及びkはいずれも、領域126、128、及び130の各々にわたって同一である非球面性プロファイルの計算用の数値を維持する。他方、幾つかの実施形態において、α2は、領域126、128、及び130の各々について異なる非球面性プロファイル計算用の数値を有する。また、幾つかの事例において、α3は、領域126、128、及び130の各々について異なる非球面性プロファイル計算用の数値を有する。従って、幾つかの事例において、α2及びα3はいずれも、領域126、128、及び130ごとに変化する非球面性プロファイル計算用の数値を有する。よって、幾つかの特定の事例において、c及びkは、領域126、128、及び130の各々にわたって同一の数値を維持するものの、非球面性プロファイル計算用のα2及びα3の数値は、領域126、128、及び130ごとに変化する。
【0021】
ここで図3を参照すると、本発明の例示的な実施形態に係る前方光学面122の非球面性の表面プロファイルを表すグラフが示されている。特に、図3のグラフは、光学面の頂点からの面偏差(mm単位)を、光学面の半径又は半径距離(mm単位)に対してマッピングしたものである。図示されたグラフは、領域126、128、及び130の各々についての非球面性プロファイルを表している。表示された実施形態において、領域126、128、及び130の各々についての非球面性プロファイルは上述した式(1)によって計算される。その点において、領域126については、rが0.0mm〜1.5mmの数値を有する場合に、1/c=18.990、k=−3.159、α2=6.034E−05、及びα3=1.164E−05という定数値が使用される。領域128については、rが1.5mm〜2.0mmの数値を有する場合に、1/c=18.990、k=−3.159、α2=1.930E−04、及びα3=−1.527E−04という定数値が使用される。最後に、領域130については、rが2.0mm〜3.0mmの数値を有する場合に、1/c=18.990、k=−3.159、α2=−4.680E−04、及びα3=3.541E−06という定数値が使用される。
【0022】
幾つかの事例において、係数α2及びα3の具体的な数値は、メリット関数内に設定される目標値に基づいて選択される。その点において、幾つかの実施形態では、それら目標値によって所望の焦点深度の大きさが特定される。メリット関数を最小化するように係数α2及びα3が最適化されるまで、係数α2及びα3は所望の目標値に基づきメリット関数によって変化させられる。そのような最適化によって、目標とされた性能パラメータのメリット関数へのインプットに最も良く調和するデザインが提供される。
【0023】
ここで図4図6を参照すると、種々の入射瞳径における眼内レンズ120についての変調伝達関数(MTF)のプロット図が示されている。特に、MTFのプロット図は、光学伝達関数(OTF)の係数を空間周波数(サイクル毎ミリメートル単位)に対してマッピングしたものである。さらに、各MTFプロット図は、眼内レンズ120に対する実際の計算結果を、そのようなレンズの対応する理論的限界値までマッピングしたものである。図4は、6.0mmの入射瞳径(EPD)に関する眼内レンズ120のMTFプロット図である。図5は、2.0mmの入射瞳径(EPD)に関する眼内レンズ120のMTFプロット図である。最後に、図6は、1.5mmの入射瞳径(EPD)に関する眼内レンズ120のMTFプロット図である。これらMTFプロット図は、眼内レンズ120の3つの領域126、128、及び130の全てを含めて計算されている。図4図6のMTFプロット図に示されるように、領域126、128、及び130の非球面状のプロファイルは、眼内レンズの全体的な光学的性能に僅かな影響しか及ぼさない。その点において、眼内レンズ120によると、良質な遠見視力が提供されるとともに、図7及び図8に関連して後述する通り、焦点深度が増大されて近見視力が改善される。
【0024】
図7及び図8を参照すると、異なるラインペア毎ミリメートル(lp/mm)における眼内レンズ120のスルーフォーカスMTFを領域126、128、及び130の各々について表すグラフが示されている。特に、図7は、20/20の視力と等しい100lp/mmにおける眼内レンズ120のスルーフォーカスMTFを、領域130(6.0mm)、領域128(2.0mm)、及び領域126(1.5mm)について表すグラフである。図8は、20/40の視力と等しい50lp/mmにおける眼内レンズ120のスルーフォーカスMTFを、領域130(6.0mm)、領域128(2.0mm)、及び領域126(1.5mm)について表すグラフである。
【0025】
図7をより具体的に参照すると、図示されるように、20/20の視力における領域130については、近視化(myopic shift)が存在しておらずMTFが非常に大きくなっており、その結果として生じる狭小なスルーフォーカスによって、大型の瞳孔寸法における良質な遠見視力が提供される。20/20の視力における領域128については、0.4ディオプトリの増大した屈折力を概ね生じさせる近視化が存在しており、スルーフォーカスが広幅化されている。最後に、20/20の視力における領域126については、0.6ディオプトリの増大した屈折力を概ね生じさせる近視化が存在しており、スルーフォーカスが領域128と比較してもさらに広幅化されている。図示されるように、増大した屈折力が領域126及び領域128の光学的プロファイルによって付与されるものの、良質な遠見視力をもたらす比較的大きいMTFがそれら領域において維持される。従って、20/20の視力と等しい数値における眼内レンズ120によると、遠見視力の所望の改善が維持されるとともに、焦点深度が増大されて近見視力が改善される。幾つかの事例において、領域126及び領域128の少なくともいずれか一方の非球面性プロファイルによると、3ディオプトリに達する増大した焦点深度が付与される。
【0026】
ここで、図8を参照すると、図示されるように、20/40の視力における領域130については、近視化が存在しておらずMTFが非常に大きくなっており、その結果として生じる狭小なスルーフォーカスによって、大型の瞳孔寸法における良好な遠見視力が提供される。20/40の視力における領域128については、0.35ディオプトリの増大した屈折力を概ね生じさせる近視化が存在しており、スルーフォーカスが広幅化されている。最後に、20/40の視力における領域126については、0.55ディオプトリの増大した屈折力を概ね生じさせる近視化が存在しており、スルーフォーカスが領域128と比較してもさらに広幅化されている。図示されるように、増大した屈折力が領域126及び領域128の光学的プロファイルによって付与されるものの、良質な遠見視力をもたらす比較的高いMTFがそれら領域において維持される。従って、20/40の視力と等しい数値における眼内レンズ120によると、近視力の所望の改善が維持されるとともに、焦点深度が増大されて近見視力が改善される。幾つかの事例において、領域126及び領域128の少なくともいずれか一方の非球面性プロファイルによると、3ディオプトリに達する増大した焦点深度が付与される。
【0027】
ここで、図9を参照すると、本発明の非球面状のデザインの代わりに標準的な球面を採用した眼内レンズのスルーフォーカスMTFを表すグラフが示されている。特に、図9は、20/20の視力と等しい100lp/mmにおける球面状の眼内レンズのスルーフォーカスMTFを表すグラフである。図示されるように、レンズの最も好ましい焦点がより大型の瞳孔直径(例えば、5mm)向けに設定されるときに瞳孔寸法が縮小されると、焦点が遠視側に移動する。これは標準的な球面状のレンズにおいて明確な球面収差が発生する結果である。それに対して、本発明の眼内レンズの異なる領域ごとの非球面性プロファイルによると、遠見視力の所望の改善が維持されるとともに、焦点深度が増大されて近見視力が改善される。
【0028】
眼内レンズ120の前方光学面122は非球面性プロファイルが変化する3つの領域を有するように説明されたものの、他の実施形態における前方光学面は、より少数の領域(すなわち、2つの領域)、又はより多数の領域(例えば、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、又は9つ以上の領域)を有する。一般に、領域の個数とは無関係に、それら領域の各々は、少なくとも隣接する領域の非球面性プロファイルとは異なる非球面プロファイルを有する。さらに、前方光学面122の領域126、128、及び130は、完全に別個の非球面性プロファイルを有する別個の区別された領域として説明されたものの、幾つかの実施形態においては、異なる非球面性プロファイル間の円滑な移行が促進されるように、隣接する領域を接続する移行区域が設けられることが理解される。その点において、幾つかの事例における移行区域は、隣接する領域の非球面性プロファイルを組み合わせることによって形成される非球面性プロファイルを有する。
【0029】
一般に、本発明の眼内レンズは、任意の適切な生体適合性材料から形成されうる。例えば、幾つかの事例において、レンズは軟質アクリルポリマー(例えば、アルコン社がAcrysof(登録商標)の商標で販売する市販レンズを形成するのに使用される材料)から形成される。本発明の眼内レンズは、特許文献1に開示される材料から形成されうる。特許文献1は参照することによって本明細書に完全に組み込まれる。幾つかの事例において、低侵襲の手術法を使用して挿入するのが容易になるように、眼内レンズは折畳み可能である。特に、眼内レンズは、4.0mm未満の長さを有する切開部を通って挿入されるように形成されうる。幾つかの事例において、切開部は3.5mm未満の長さを有する。さらに、幾つかの実施形態において、眼内レンズは、眼内レンズが眼球内で適切に位置決めされることを容易にする触覚部(図示されない)を有しうることが理解される。幾つかの実施形態において、眼内レンズは眼内リングに連結するように形成される。
【0030】
具体的な実施形態が示されて説明されたものの、広範な改変、変更、及び置換が前述した内容から考慮される。本発明の範囲から逸脱することなく、そのような変形を前述した内容に加えうることが理解される。従って、添付の特許請求の範囲は広範に解釈されるとともに本発明に整合する態様で解釈されるのが適切である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9