【文献】
ゴム−カーボンブラックの定量−熱分解法及び化学分解法,日本工業規格JIS K 6227:1998,日本,財産法人日本規格協会,1998年 3月31日
【文献】
ゴム−熱重量測定による加硫ゴム及び未加硫ゴム塑性の求め方(定量)−第一部:ブタジエンゴム,エチレンプロピレンゴム及びターポリマー,ブチルゴム,イソプレンゴム,スチレンブタジエンゴム,日本工業規格JIS K 6226−1:2003,日本,財団法人日本規格協会,2003年 5月20日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、塩化ビニル樹脂に含まれる黒鉛の定量分析方法は確立されていない。
【0007】
本発明の一態様は、塩化ビニル樹脂に含まれる黒鉛の定量分析方法を提供することを、主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、溶剤に塩化ビニル樹脂の可溶分を溶解させ、得られた混合物を遠心分離し、分離した不溶物を乾燥させた後、当該不溶物に含まれる黒鉛の量をTG−DTA法により測定することにより、塩化ビニル樹脂に含まれる黒鉛を定量分析することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、以下の〔1〕〜〔10〕に記載の発明を含む。
〔1〕 塩化ビニル樹脂に含まれる黒鉛の定量分析方法であって、溶剤に上記塩化ビニル樹脂の可溶分を溶解させる溶解工程と、上記溶解工程で得られた混合物を、所定値以上の遠心力で可溶物と不溶物とに遠心分離する遠心分離工程と、上記遠心分離工程で分離した不溶物を乾燥させる乾燥工程と、上記乾燥工程で乾燥させた不溶物に含まれる黒鉛の量を、TG法またはTG−DTA法により測定する測定工程と、を含む定量分析方法。
〔2〕 上記遠心分離工程での遠心力が100,000×g以上である、〔1〕に記載の定量分析方法。
〔3〕 上記遠心分離工程で分離した不溶物に対して、上記溶解工程および上記遠心分離工程を少なくとも1回行う、〔1〕または〔2〕に記載の定量分析方法。
〔4〕 上記測定工程をTG−DTA法によって行い、上記TG−DTA法で用いるサンプルパンが白金パンである、〔1〕〜〔3〕の何れか一項に記載の定量分析方法。
〔5〕 上記黒鉛が熱膨張黒鉛である、〔1〕〜〔4〕の何れか一項に記載の定量分析方法。
〔6〕 上記乾燥工程で乾燥させた不溶物の粒子径を0.5mm以下にする微粉化工程をさらに含む、〔1〕〜〔5〕の何れか一項に記載の定量分析方法。
〔7〕 上記溶剤がTHF(テトラヒドロフラン)である、〔1〕〜〔6〕の何れか一項に記載の定量分析方法。
〔8〕 上記溶解工程では、溶剤に塩化ビニル樹脂を10時間以上浸漬する、〔1〕〜〔7〕の何れか一項に記載の定量分析方法。
〔9〕 上記遠心分離の時間が0.5時間〜2時間である、〔1〕〜〔8〕の何れか一項に記載の定量分析方法。
〔10〕 上記遠心分離の温度が0℃〜30℃である、〔1〕〜〔9〕の何れか一項に記載の定量分析方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、塩化ビニル樹脂に含まれる黒鉛の定量分析方法を提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。但し、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。尚、本明細書においては特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上、B以下」を意味する。また、「質量」と「重量」は同義語であると見なす。
【0013】
本発明の一実施の形態における黒鉛の定量分析方法は、塩化ビニル樹脂に含まれる黒鉛の定量分析方法であって、溶剤に上記塩化ビニル樹脂の可溶分を溶解させる溶解工程と、上記溶解工程で得られた混合物を、所定値以上の遠心力で可溶物と不溶物とに遠心分離する遠心分離工程と、上記遠心分離工程で分離した不溶物を乾燥させる乾燥工程と、上記乾燥工程で乾燥させた不溶物に含まれる黒鉛の量を、TG法またはTG−DTA法により測定する測定工程と、を含む方法である。また、本発明の一実施の形態における黒鉛の定量分析方法は、上記乾燥工程で乾燥させた不溶物の粒子径を0.5mm以下にする微粉化工程をさらに含む方法である。
【0014】
(塩化ビニル樹脂)
測定対象となる塩化ビニル樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)、塩化ビニルと他の単量体との共重合体、重合体に塩化ビニル単量体をグラフト共重合したグラフト共重合体、これら(共)重合体の塩化ビニル単位がさらに塩素化された重合体(塩素化ポリ塩化ビニル等)等が挙げられる。塩化ビニル樹脂は、一種類の(共)重合体であってもよく、二種類以上の(共)重合体の混合物であってもよい。また、塩化ビニル樹脂の形態は、特に制限されず、例えば、ペレット等の、製品原料の状態であってもよく、耐火ビニルパイプ等の成形品(製品)であってもよい。或いは、成形品(製品)を製造するときに廃棄される不要部分、製品を使用した後の廃棄物であってもよい。
【0015】
塩化ビニルと共重合させる上記他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン等のα−オレフィン類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;ブチルビニルエーテル、セチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル類;N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のN−置換マレイミド類;等が挙げられる。これら単量体は、一種類のみを塩化ビニルと共重合させてもよく、二種類以上を塩化ビニルと共重合させてもよい。また、塩化ビニル単量体をグラフト共重合させる上記重合体としては、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−酢酸ビニル−一酸化炭素共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−ブチルアクリレート−一酸化炭素共重合体、エチレン−メチルメタクリレート共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ポリウレタン、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等が挙げられる。これら重合体は、一種類のみを用いてもよく、二種類以上を用いてもよい。
【0016】
(黒鉛)
定量分析される黒鉛としては、例えば、熱膨張黒鉛、カーボンブラック等が挙げられる。上記熱膨張黒鉛とは、層間にイオンまたは分子等が挿入されることによって、熱による膨張特性が付与された黒鉛を指す。
【0017】
以下、本発明の一実施の形態における黒鉛の定量分析方法を構成する各工程に関して説明する。
【0018】
[溶解工程]
溶解工程では、溶剤に上記塩化ビニル樹脂の可溶分を溶解させる。具体的には、溶剤に塩化ビニル樹脂を浸漬し、必要に応じて攪拌することで、塩化ビニル樹脂に含まれる可溶分を溶剤に溶解させる。溶剤に塩化ビニル樹脂を浸漬する時間は、10時間以上であることが好ましく、20時間以上であることがより好ましい。浸漬時間の上限は、2日間程度であることが好ましい。また、溶剤の温度は、0℃〜35℃であることが好ましく、15℃〜25℃であることがより好ましい。さらに、塩化ビニル樹脂は、可溶分の溶解を促進させて浸漬時間を短くするために、予め細かく裁断または粉砕しておくことが好ましい。
【0019】
上記溶剤は、塩化ビニル樹脂に含まれる、黒鉛を含む不溶物以外の成分を可溶分として溶解させることができる溶剤であればよく、特に制限されない。上記溶剤としては、例えば、THF(テトラヒドロフラン)、アセトン、クロロホルム等が挙げられ、THFが特に好ましい。
【0020】
塩化ビニル樹脂100mgに対する上記溶剤の使用量は、2.5mL〜10mLであることが好ましく、5.0mL〜10.0mLであることがより好ましい。
【0021】
[遠心分離工程]
遠心分離工程では、上記溶解工程で得られた混合物、即ち、塩化ビニル樹脂と溶剤との混合物を、所定値以上、好ましくは100,000×g以上、より好ましくは150,000×g以上の遠心力で可溶物と不溶物とに遠心分離(超遠心分離)する。上記可溶物とは、溶剤と塩化ビニル樹脂の可溶分との混合物を指し、上記不溶物とは、黒鉛を含む、溶剤に溶解しない物質を指す。
【0022】
遠心分離の時間は、0.5時間〜2時間であることが好ましく、0.5時間〜1.5時間であることがより好ましい。また、遠心分離の温度は、0℃〜30℃であることが好ましく、5℃〜20℃であることがより好ましい。これにより、可溶物と不溶物とを十分に遠心分離することができる。
【0023】
尚、遠心分離後の不溶物は、定法に従って分取すればよい。
【0024】
そして、黒鉛の分析精度をより向上させるには、上記遠心分離工程で分離した不溶物に対して、上記溶解工程および上記遠心分離工程を少なくとも1回行うことが好ましい。具体的には、新たな溶剤に、上記遠心分離工程で分離した不溶物を浸漬し、必要に応じて攪拌することで、不溶物に残存する可溶分を溶剤に溶解させた後、得られた混合物を、所定値以上、好ましくは100,000×g以上、より好ましくは150,000×g以上の遠心力で可溶物と不溶物とに遠心分離することを少なくとも1回行うことが好ましい。これにより、不溶物に残存する可溶分を十分に除去することができるので、黒鉛の分析精度をより向上させることができる。
【0025】
[乾燥工程]
乾燥工程では、上記遠心分離工程で分離した不溶物を乾燥させる。乾燥させる方法としては、例えば、自然乾燥、デシケータ内にて減圧(真空)乾燥させる方法等が挙げられるものの、特に制限されない。
【0026】
乾燥温度は、溶剤の種類に応じて設定すればよいものの、0℃〜100℃であることが好ましく、50℃〜70℃であることがより好ましい。また、乾燥時間は、乾燥温度に応じて設定すればよいものの、2時間以上であることが好ましく、3時間以上であることがより好ましい。乾燥時間の上限は、4時間程度であることが好ましい。さらに、減圧(真空)乾燥させる場合の減圧度は、−0.1Pa〜−0.01Paであることが好ましい。尚、減圧(真空)乾燥させる方法以外の方法を用いて、即ち、減圧することなく、不溶物を乾燥させてもよい。
【0027】
[微粉化工程]
微粉化工程は、上記乾燥工程で乾燥させた不溶物の粒子径が大きく、そのままではTG法またはTG−DTA法による測定に用いることが難しい場合に行われる工程である。具体的には、微粉化工程では、上記乾燥工程で乾燥させた不溶物をすり潰し、粒子径を0.5mm以下、より好ましくは0.3mm以下にする。不溶物をすり潰す方法としては、例えば、乳棒および乳鉢を用いる方法等が挙げられるものの、特に制限されない。尚、微粉化工程は、不溶物の粒子径が大きく、そのままではTG法またはTG−DTA法による測定に用いることが難しい場合に行われる工程であるので、粒子径の測定方法は、特に制限されない。
【0028】
[測定工程]
測定工程では、上記乾燥工程で乾燥させた不溶物に含まれる黒鉛の量をTG(熱重量)法またはTG−DTA(熱重量−示差熱分析)法により測定し、好ましくはTG−DTA法により測定する。
【0029】
TG法またはTG−DTA法で用いるサンプルパンは、アルミナパンまたは白金パンであることが好ましく、白金パンであることがより好ましい。白金パンを用いることにより、サンプルパンに付着している水の影響や腐食の影響をより低減することができるので、黒鉛の分析精度をより向上させることができる。
【0030】
測定工程は、下記熱分解工程、冷却工程、および燃焼工程を含んでいる。
【0031】
以下、上記測定工程をTG−DTA法によって行う場合を例に挙げて説明する。尚、上記測定工程をTG法によって行う場合においても、同様の工程を行えばよい。
【0032】
<熱分解工程>
上記TG−DTA法による測定では、先ず、サンプルパンに測定対象である不溶物を適量秤量する。そして、当該不溶物を、熱分解工程として、窒素気流中で室温から600℃まで加熱し、熱分解させる。熱分解温度が600℃未満であると、不溶物に含まれる有機物の熱分解が不十分となって正確な分析値が得られない場合がある。
【0033】
熱分解昇温速度は、20℃/分〜60℃/分であることが好ましく、30℃/分〜55℃/分であることがより好ましい。熱分解昇温速度を50℃/分よりも速くすると、不溶物に含まれる有機物の熱分解が不十分となって正確な分析値が得られない場合がある。
【0034】
昇温後の熱分解時間は、有機物の熱分解が十分に行われるように、5分間以上であることが好ましく、10分間以上であることがより好ましい。
【0035】
600℃まで加熱する間に、第一の重量減少が起こる。第一の重量減少は、不溶物に含まれる有機物の熱分解によって生じる。熱分解工程を行うことにより、窒素気流中、600℃における重量減少量、即ち、不溶物に含まれる有機物の重量を測定する。
【0036】
<冷却工程>
上記熱分解工程後に、不溶物を、冷却工程として、窒素気流中で600℃から400℃にまで冷却する。冷却温度が400℃よりも高いと、次の燃焼工程でサンプルパンに空気または酸素を導入したときに、測定対象である黒鉛が直ちに燃焼してしまい、正確な分析値が得られない場合がある。
【0037】
降温速度は、自然冷却であってもよいし、測定時間を短くするために、−10℃/分〜−60℃/分、より好ましくは−30℃/分〜−55℃/分であってもよい。降温後の冷却時間は、3分間以上であることが好ましく、5分間以上であることがより好ましい。降温速度を−50℃/分よりも速くすると、或いは、冷却時間を3分間未満にすると、黒鉛の冷却が不十分となって正確な分析値が得られない場合がある。
【0038】
<燃焼工程>
上記冷却工程後に、不溶物を、燃焼工程として、空気気流または酸素気流中で400℃から800℃まで加熱し、燃焼させる。燃焼温度が800℃未満であると、黒鉛が完全に燃焼しない場合がある。燃焼昇温速度は、20℃/分〜60℃/分であることが好ましく、30℃/分〜55℃/分であることがより好ましい。燃焼昇温速度を50℃/分よりも速くすると、黒鉛の燃焼が不十分となって正確な分析値が得られない場合がある。
【0039】
昇温後の燃焼保持時間は、黒鉛の燃焼が十分に行われるように、20分間以上であることが好ましく、30分間以上であることがより好ましい。
【0040】
800℃まで加熱する間に、第二の重量減少が起こる。第二の重量減少は、黒鉛の燃焼によって生じる。燃焼工程を行うことにより、空気気流または酸素気流中、800℃における重量減少量、即ち、不溶物に含まれる黒鉛の重量を測定する。
【0041】
そして、下記算出方法により、塩化ビニル樹脂に含まれる黒鉛の量を算出する。
【0042】
〔塩化ビニル樹脂に含まれる黒鉛の量の算出方法〕
測定対象として秤量した塩化ビニル樹脂の重量を[M]、遠心分離で分離し、乾燥させた(熱分解前の)不溶物の重量を[W1]、塩化ビニル樹脂に含まれる不溶分の含有率を[R1]とすると、当該含有率[R1]は、下記式(1)で示される。
【0043】
[R1]=[W1]/[M]×100 …(1)
不溶物の熱分解後の重量を[W2]、不溶物の熱分解による重量減量を[W4]とすると、当該重量減量[W4]は、下記式(2)で示される。
【0044】
[W4]=[W1]−[W2] …(2)
不溶物の燃焼後の重量を[W3]、黒鉛の燃焼による重量減量を[W5]とすると、当該重量減量[W5]は、下記式(3)で示される。
【0045】
[W5]=[W2]−[W3] …(3)
黒鉛の減少率、即ち、不溶物に含まれる黒鉛の含有率を[R2]とすると、当該含有率[R2]は、下記式(4)で示される。
【0046】
[R2]=[W5]/[W1]×100 …(4)
塩化ビニル樹脂に含まれる黒鉛の含有率を[R3]とすると、当該含有率[R3]は、下記式(5)で示される。
【0047】
[R3]=[R1]×[R2]/100 …(5)
従って、上記含有率[R3]を算出することにより、塩化ビニル樹脂に含まれる黒鉛の定量分析を行うことができる。
【0048】
尚、塩化ビニル樹脂に含まれる黒鉛の含有率が既知である場合には、当該含有率を[A]とすると、分析の誤差率[B]は、下記式(6)で示される。
【0049】
[B]=([A]−[R3])/[A]×100 …(6)
分析の誤差率は、20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましく、0%に近いことが最も好ましい。
【0050】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例および比較例を用いて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されて解釈されるべきではない。
【0052】
〔実施例1〕
測定対象である塩化ビニル樹脂として、熱膨張黒鉛を含む塩化ビニル樹脂成形品を用いて、当該熱膨張黒鉛の定量分析を行った。
【0053】
先ず、8mLのTHFに、細かく裁断した300mgの塩化ビニル樹脂成形品(試料)を23℃で10時間浸漬した(溶解工程)。得られた混合物を、遠心分離機としてCS100FNX,S58Aアングルロータ(日立工機(株)製)を用いて、100,000×g(40,000回転/分),1時間,15℃の条件で遠心分離(超遠心分離)し、可溶物と不溶物とに分離した(遠心分離工程)。上記不溶物を60℃で4時間、加熱乾燥させた(乾燥工程)。
【0054】
続いて、TG−DTA法により、上記不溶物の黒鉛の重量減少を測定した(測定工程)。サンプルパンとしてアルミナパンを用いた。測定装置としてTG−8120/DTA((株)リガク製)を用いて、窒素気流(200mL/分)中で、熱分解温度:600℃、熱分解昇温速度:20℃/分、熱分解時間:10分間の条件で熱分解工程を行い、窒素気流(200mL/分)中で、冷却温度:400℃、降温速度:自然冷却、冷却時間:5分間の条件で冷却工程を行い、空気気流(200mL/分)中で、燃焼温度:800℃、燃焼昇温速度:20℃/分、燃焼保持時間:30分間の条件で燃焼工程を行った。
【0055】
図1は、定量分析方法の測定工程における、時間と試料の減少重量および温度との関係を示すグラフである。当該グラフにおいて、不溶物の熱分解前の重量から熱分解後の重量を差し引くことにより、有機物の熱分解による重量減を、上記式(2)を用いて求めた。また、当該グラフにおいて、不溶物の熱分解後の重量から燃焼後の重量を差し引くことにより、熱膨張黒鉛の燃焼による重量減を、上記式(3)を用いて求めた。そして、熱膨張黒鉛の減少率、即ち、不溶物に含まれる熱膨張黒鉛の含有率を、上記式(4)を用いて求めた後、塩化ビニル樹脂成形品に含まれる熱膨張黒鉛の含有率を、上記式(5)を用いて求めた。
【0056】
その結果、上記式(6)を用いて求めた分析の誤差率は、10%であった。測定条件および誤差率をまとめて表1に示す。
【0057】
〔実施例2〕
熱分解昇温速度を50℃/分、降温速度を−50℃/分、燃焼昇温速度を50℃/分に変更し、熱分解前の不溶物をすり潰してその粒子径を0.5mm以下にした(微粉化工程)以外は、実施例1と同様にして、不溶物の黒鉛の重量減少を測定し、熱膨張黒鉛の含有率を求めて、分析の誤差率を算出した。測定条件および誤差率をまとめて表1に示す。
【0058】
〔実施例3〕
8mLのTHFに、細かく裁断した100mgの塩化ビニル樹脂成形品(試料)を23℃で10時間浸漬した。その後、熱分解前の不溶物をすり潰さなかった以外は、実施例2と同様にして、不溶物の黒鉛の重量減少を測定し、熱膨張黒鉛の含有率を求めて、分析の誤差率を算出した。測定条件および誤差率をまとめて表1に示す。
【0059】
〔実施例4〕
熱分解前の不溶物をすり潰してその粒子径を0.5mm以下にした以外は、実施例3と同様にして、不溶物の黒鉛の重量減少を測定し、熱膨張黒鉛の含有率を求めて、分析の誤差率を算出した。測定条件および誤差率をまとめて表1に示す。
【0060】
実施例3と実施例4とを比較すると、熱分解前の不溶物を微粉化することにより、誤差率が小さくなることが分かった。
【0061】
〔実施例5〕
サンプルパンを白金パンに変更した以外は、実施例2と同様にして、不溶物の黒鉛の重量減少を測定し、熱膨張黒鉛の含有率を求めて、分析の誤差率を算出した。測定条件および誤差率をまとめて表1に示す。
【0062】
〔実施例6〕
サンプルパンを白金パンに変更した以外は、実施例4と同様にして、不溶物の黒鉛の重量減少を測定し、熱膨張黒鉛の含有率を求めて、分析の誤差率を算出した。測定条件および誤差率をまとめて表1に示す。
【0063】
実施例2と実施例5と、および、実施例4と実施例6とを比較すると、アルミナパンよりも白金パンの方が、誤差率が小さくなることが分かった。
【0064】
〔実施例7〕
実施例5において、遠心分離工程で分離した不溶物に対して、溶解工程および遠心分離工程を1回行った以外は、即ち、THFへの溶解および遠心分離を2回行った以外は、実施例5と同様にして、不溶物の黒鉛の重量減少を測定し、熱膨張黒鉛の含有率を求めて、分析の誤差率を算出した。測定条件および誤差率をまとめて表1に示す。
【0065】
実施例5と実施例7とを比較すると、可溶物と不溶物との遠心分離を2回行うことにより、黒鉛の分析精度をより向上させることができることが分かった。
【0066】
〔比較例1〕
8mLのTHFに、細かく裁断した300mgの塩化ビニル樹脂成形品(試料)を23℃で10時間浸漬した。得られた混合物から不溶物を濾過によって分離し、60℃で12時間、加熱乾燥させた。つまり、遠心分離を行わずに、TG−DTA法の測定対象である不溶物を得た。
【0067】
そして、サンプルパンとして白金パンを用い、降温速度を−10℃/分、燃焼保持時間を15分間に変更した以外は、実施例1と同様にして、不溶物の黒鉛の重量減少を測定し、熱膨張黒鉛の含有率を求めて、分析の誤差率を算出した。測定条件および誤差率をまとめて表1に示す。
【0068】
実施例1と比較例1とを比較すると、遠心分離を行わずに、TG−DTA法の測定対象である不溶物を得た場合には、誤差率が大きくなり、黒鉛の分析精度が低下することが分かった。
【0069】
【表1】
【0070】
上記結果から、本発明の一態様によれば、塩化ビニル樹脂に含まれる黒鉛の定量分析方法を行うことができることが分かった。