特許第6276489号(P6276489)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6276489変性セルロースナノファイバーおよびこれを含むゴム組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6276489
(24)【登録日】2018年1月19日
(45)【発行日】2018年2月7日
(54)【発明の名称】変性セルロースナノファイバーおよびこれを含むゴム組成物
(51)【国際特許分類】
   C08B 15/06 20060101AFI20180129BHJP
   C08B 11/14 20060101ALI20180129BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20180129BHJP
   C08L 1/26 20060101ALI20180129BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20180129BHJP
   C08K 3/06 20060101ALI20180129BHJP
【FI】
   C08B15/06
   C08B11/14
   C08L1/02
   C08L1/26
   C08L21/00
   C08K3/06
【請求項の数】13
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2017-554109(P2017-554109)
(86)(22)【出願日】2017年7月5日
(86)【国際出願番号】JP2017024708
【審査請求日】2017年10月13日
(31)【優先権主張番号】特願2016-135313(P2016-135313)
(32)【優先日】2016年7月7日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 康太郎
(72)【発明者】
【氏名】小野木 晋一
(72)【発明者】
【氏名】安川 雄介
(72)【発明者】
【氏名】森田 昌浩
【審査官】 福山 則明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−052942(JP,A)
【文献】 特開2014−125607(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/147063(WO,A1)
【文献】 特開2015−048365(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/096894(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/078492(WO,A1)
【文献】 LASSEUGUETTE, Elsa,Grafting onto microfibrils of native cellulose,Cellulose,2008年,Vol. 15,pp. 571-580,ISSN 0969-0239
【文献】 藤澤 秀次 ほか,TEMPO触媒酸化セルロースナノファイバーの表面改質,セルロース学会第17回年次大会 2010 Cellulose R&D 講演要旨集,2010年,第77頁
【文献】 WEISHAUPT, Ramon et al.,TEMPO-Oxidized Nanofibrillated Cellulose as a High Density Carrier for Bioactive Molecules,Biomacromolecules,2015年,Vol. 16,pp. 3640-3650,ISSN 1525-7797
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B 15/06
C08B 11/14
C08K 3/06
C08L 1/02
C08L 1/26
C08L 21/00
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーの少なくとも一部が、以下の式(a)で表される置換基及び式(b)で表される置換基の少なくともいずれかの置換基を有する、置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバー(但し、平均繊維径が1000nm以上のものを除く)
式(a): −CONH−R1
式(b): −COO−R1
(式(a)及び(b)において、R1は、互いに独立して、少なくとも1個の不飽和結合を有する炭素数3〜30の炭化水素である。)
【請求項2】
カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーが、酸化セルロースナノファイバー又はカルボキシメチル化セルロースナノファイバーである、請求項1に記載の置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバー。
【請求項3】
酸化セルロースナノファイバーのカルボキシル基含量が、酸化セルロースナノファイバーの絶乾重量に対して0.6mmol/g〜2.0mmol/gである、請求項2に記載の置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバー。
【請求項4】
カルボキシメチル化セルロースナノファイバーのグルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が、0.01〜0.50である、請求項2に記載の置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバー。
【請求項5】
脂肪族不飽和アミン及び脂肪族不飽和アルコールの少なくともいずれかと、カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーと、のアミド化物及びエステル化物の少なくともいずれかである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバー。
【請求項6】
脂肪族不飽和アミン及び脂肪族不飽和アルコールの反応率が10%以上である、請求項5に記載の置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバー。
【請求項7】
カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーの少なくとも一部に以下の式(a)で表される置換基及び式(b)で表される置換基からなる群より選ばれる少なくとも1つの置換基を導入すること、及び、水中で脱水縮合することを含む、置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーの製造方法。
式(a): −CONH−R1
式(b): −COO−R1
(式(a)及び(b)において、R1は、互いに独立して、少なくとも1個の不飽和結合を有する炭素数3〜30の炭化水素である。)
【請求項8】
脱水縮合は、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド、その塩酸塩、及び4−(4,6−Dimethoxy−1,3,5−triazin−2−yl)−4−methylmorpholinium Chloride n−Hydrateからなる群より選ばれる少なくとも1つの脱水縮合剤を用いて行う、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
式(a)で表される置換基及び式(b)で表される置換基からなる群より選ばれる少なくとも1つの置換基は、脂肪族不飽和アミン及び脂肪族不飽和アルコールの少なくともいずれかの、カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーへの導入により行われる、請求項7又は8に記載の製造方法。
【請求項10】
脂肪族不飽和アミン及び脂肪族不飽和アルコールの反応率が10%以上である、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
請求項7〜10のいずれか1項に記載の製造方法により置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーを製造する工程、及び、前記置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーに、少なくともゴム成分を含む成分を混合し、加硫する工程を含む、ゴム組成物の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーとゴム成分を含有するゴム組成物。
【請求項13】
硫黄を更に含む、請求項12に記載のゴム組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバー、およびこれを含むゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、セルロースナノファイバーと呼ばれる、植物繊維をナノレベルまで細かくほぐすことによって製造される素材をゴム組成物に含有させることにより、引張強度などゴム組成物における各種強度を向上させる技術が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、平均径が0.5μm未満の短繊維とゴムラテックスとを撹拌混合して得られるゴム/短繊維のマスターバッチが記載され、前記短繊維の例としてセルロースが挙げられている。この文献によれば、あらかじめ平均繊維径が0.5μm未満の短繊維を水中でフィブリル化させた分散液とし、これをゴムラテックスと混合して乾燥させることにより、短繊維をゴム中に均一に分散させることができ、このゴム/短繊維のマスターバッチを利用することにより、ゴム補強性と耐疲労性のバランスが取れたゴム組成物を得ることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−206864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のゴム組成物において、短繊維とゴム成分は分子間力で結合していると考えられるが、分子間力は結合の種類の中でも比較的弱い結合である。そのため、このゴム組成物に対して大きなひずみを与えると、結合が切れる、すなわち短繊維とゴム成分との間に空隙が発生することがあり、結果として十分な補強性と耐疲労性が得られない場合があった。
【0006】
そこで、本発明は、大きなひずみを与えた場合でも、十分な補強性と耐疲労性を持ったゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた。すなわち、セルロースナノファイバー中にカルボキシル基あるいはカルボキシル基を含む基を導入し、得られるカルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーのカルボキシル基に、さらに不飽和結合を有する炭化水素基を含む置換基を導入した。このようにして得られる置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーをゴム成分と組み合わせると、互いの不飽和結合の隣に位置するα−メチル又はα−メチレンのC−Hからの脱水素により、硫黄等の架橋剤と架橋反応を行うことが可能となることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は以下を提供する。
〔1〕カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーの少なくとも一部が、以下の式(a)で表される置換基及び式(b)で表される置換基の少なくともいずれかの置換基を有する、置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバー。
式(a): −CONH−R1
式(b): −COO−R1
(式(a)及び(b)において、R1は、互いに独立して、少なくとも1個の不飽和結合を有する炭素数3〜30の炭化水素である。)
〔2〕カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーが、酸化セルロースナノファイバー又はカルボキシメチル化セルロースナノファイバーである、〔1〕に記載の置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバー。
〔3〕酸化セルロースナノファイバーのカルボキシル基含量が、酸化セルロースナノファイバーの絶乾重量に対して0.6mmol/g〜2.0mmol/gである、〔2〕に記載の置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバー。
〔4〕カルボキシメチル化セルロースナノファイバーのグルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が、0.01〜0.50である、〔2〕に記載の置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバー。
〔5〕脂肪族不飽和アミン及び脂肪族不飽和アルコールの少なくともいずれかと、カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーと、のアミド化物及びエステル化物の少なくともいずれかである、〔1〕〜〔4〕のいずれか1項に記載の置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバー。
〔6〕脂肪族不飽和アミン及び脂肪族不飽和アルコールの反応率が10%以上である、〔5〕に記載の置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバー。
〔7〕カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーの少なくとも一部に以下の式(a)で表される置換基及び式(b)で表される置換基からなる群より選ばれる少なくとも1つの置換基を導入すること、及び、水中で脱水縮合することを含む、置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーの製造方法。
式(a): −CONH−R1
式(b): −COO−R1
〔8〕脱水縮合は、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド、その塩酸塩、及び4−(4,6−Dimethoxy−1,3,5−triazin−2−yl)−4−methylmorpholinium Chloride n−Hydrateからなる群より選ばれる少なくとも1つの脱水縮合剤を用いて行う、〔7〕に記載の製造方法。
〔9〕式(a)で表される置換基及び式(b)で表される置換基からなる群より選ばれる少なくとも1つの置換基は、脂肪族不飽和アミン及び脂肪族不飽和アルコールの少なくともいずれかの、カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーへの導入により行われる、〔7〕又は〔8〕に記載の製造方法。
〔10〕脂肪族不飽和アミン及び脂肪族不飽和アルコールの反応率が10%以上である、〔9〕に記載の製造方法。
〔11〕〔7〕〜〔10〕のいずれか1項に記載の製造方法により置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーを製造する工程、及び、脱水縮合後に加硫する工程を含む、ゴム組成物の製造方法。
〔12〕〔1〕〜〔6〕のいずれか1項に記載の置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーとゴム成分を含有するゴム組成物。
〔13〕硫黄を更に含む、〔12〕に記載のゴム組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、大きなひずみを与えた場合でも、十分な補強性と耐疲労性を持ったゴム組成物を提供することができる。
【0010】
本発明のゴム組成物において、このような効果が得られる理由は明らかではないが、以下のように推測される。変性セルロースナノファイバーとゴム成分が、硫黄を介した共有結合により化学的に強く結合しているため、ゴム組成物に大きなひずみを与えた場合でも、斯かる結合が切れにくく、ゴム組成物の強度を向上させているのではないかと推測される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバー>
変性セルロースナノファイバーは、セルロース原料から変性及び解繊を経て得られる微細繊維である。カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーは、カルボキシル基を少なくとも1つ有する変性セルロースナノファイバーを意味する。セルロース骨格にカルボキシル基が結合していてもよいし、カルボキシル基を含む基(例:カルボキシメチル基などのカルボキシアルキル基;カルボキシレート基;アルデヒド基)が結合していてもよい。
【0012】
<セルロース原料>
セルロース原料の由来は、特に限定されないが、例えば、植物(例えば、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、農地残廃物、布、パルプ(針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹未漂白サルファイトパルプ(NUSP)、針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、再生パルプ、古紙等)、動物(例えばホヤ類)、藻類、微生物(例えば、酢酸菌(アセトバクター))、微生物産生物等が挙げられる。本発明で用いるセルロース原料は、これらのいずれかであってもよいし2以上の組み合わせであってもよいが、好ましくは植物又は微生物由来のセルロース原料(例えば、セルロース繊維)であり、より好ましくは植物由来のセルロース原料(例えば、セルロース繊維)である。
【0013】
セルロース原料の数平均繊維径は特に制限されないが、一般的なパルプである針葉樹クラフトパルプの場合は30〜60μm程度、広葉樹クラフトパルプの場合は10〜30μm程度である。その他のパルプの場合、一般的な精製を経たものは50μm程度である。例えばチップ等の数cm大のものを精製したものである場合、リファイナーやビーター等の離解機で機械的処理を行い、50μm程度にすることが好ましい。
【0014】
<平均繊維径>
変性セルロースナノファイバーの平均繊維径は、2nm以上又は500nm以下であることが好ましく、4〜300nm程度であることがより好ましい。セルロースナノファイバーの平均繊維径および平均繊維長は、原子間力顕微鏡(AFM)または透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、各繊維を観察した結果から得られる繊維径および繊維長を平均することによって得ることができる。
【0015】
<平均アスペクト比>
変性セルロースナノファイバーの平均アスペクト比は、通常は10以上である。上限は特に限定されないが、通常は1000以下である。平均アスペクト比は、下記の式により算出することができる:
アスペクト比=平均繊維長/平均繊維径
【0016】
<カルボキシル基を含む置換基の導入>
カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーの製造方法は特に限定されないが、例えば、セルロース原料を変性するとともにカルボキシル基、又はカルボキシル基を含む置換基を導入する変性方法が挙げられる。斯かる変性方法は特に限定されないが、例えば、酸化、エーテル化、リン酸化、エステル化、シランカップリング、フッ素化、カチオン化などが挙げられる。中でも酸化、カルボキシメチル化が好ましい。
【0017】
<酸化>
酸化によりセルロース原料を変性して得られるカルボキシル基含有変性セルロースナノファイバー(酸化セルロースナノファイバー)に含まれる、セルロースナノファイバーの絶乾重量に対するカルボキシル基の量は、好ましくは0.5mmol/g以上又は0.6mmol/g以上、より好ましくは0.8mmol/g以上、更に好ましくは1.0mmol/g以上である。上限は、好ましくは3.0mmol/g以下、より好ましくは2.5mmol/g以下、更に好ましくは2.0mmol/g以下である。従って、0.5mmol/g〜3.0mmol/g又は0.6mmol/g〜3.0mmol/gが好ましく、0.8mmol/g〜2.5mmol/g又は0.6mmol/g〜2.5mmol/gがより好ましく、1.0mmol/g〜2.0mmol/g又は0.6mmol/g〜2.0mmol/gが更に好ましい。
【0018】
酸化の方法は特に限定されないが、1つの例としては、N−オキシル化合物、及び、臭化物、ヨウ化物若しくはこれらの混合物からなる群から選択される化合物の存在下で酸化剤を用いて水中で酸化する方法が挙げられる。この方法によれば、セルロース表面のグルコピラノース環のC6位の一級水酸基が選択的に酸化され、アルデヒド基と、カルボキシル基及びカルボキシレート基からなる群より選ばれる基が生じる。反応時のセルロース原料の濃度は特に限定されないが、5重量%以下が好ましい。
【0019】
N−オキシル化合物とは、ニトロキシラジカルを発生しうる化合物をいう。N−オキシル化合物としては例えば、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシル(TEMPO)が挙げられる。N−オキシル化合物としては、目的の酸化反応を促進する化合物であれば、いずれの化合物も使用できる。
【0020】
N−オキシル化合物の使用量は、原料となるセルロースを酸化できる触媒量であれば特に制限されない。例えば、絶乾1gのセルロースに対して、0.01mmol以上が好ましく、0.02mmol以上がより好ましい。上限は、10mmol以下が好ましく、1mmol以下がより好ましく、0.5mmol以下が更に好ましい。従って、N−オキシル化合物の使用量は絶乾1gのセルロースに対して、0.01〜10mmolが好ましく、0.01〜1mmolがより好ましく、0.02〜0.5mmolがさらに好ましい。
【0021】
臭化物とは臭素を含む化合物であり、例えば、臭化ナトリウム等の、水中で解離してイオン化可能な臭化アルカリ金属が挙げられる。また、ヨウ化物とはヨウ素を含む化合物であり、例えば、ヨウ化アルカリ金属が挙げられる。臭化物又はヨウ化物の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択すればよい。臭化物及びヨウ化物の合計量は絶乾1gのセルロースに対して、0.1mmol以上が好ましく、0.5mmol以上がより好ましい。上限は、100mmol以下が好ましく、10mmol以下がより好ましく、5mmol以下が更に好ましい。従って、臭化物及びヨウ化物の合計量は絶乾1gのセルロースに対して、0.1〜100mmolが好ましく、0.1〜10mmolがより好ましく、0.5〜5mmolがさらに好ましい。
【0022】
酸化剤は、特に限定されないが、例えば、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸、それらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物などが挙げられる。中でも、安価で環境負荷の少ないことから、次亜ハロゲン酸又はその塩が好ましく、次亜塩素酸又はその塩がより好ましく、次亜塩素酸ナトリウムが更に好ましい。酸化剤の使用量は、絶乾1gのセルロースに対して、0.5mmol以上が好ましく、1mmol以上がより好ましく、3mmol以上が更に好ましい。上限は、500mmol以下が好ましく、50mmol以下がより好ましく、25mmol以下が更に好ましい。従って、酸化剤の使用量は絶乾1gのセルロースに対して、0.5〜500mmolが好ましく、0.5〜50mmolがより好ましく、1〜25mmolがさらに好ましく、3〜10mmolがさらにより好ましい。N−オキシル化合物を用いる場合、酸化剤の使用量はN−オキシル化合物1molに対して1mol以上が好ましい。上限は、40molが好ましい。従って、酸化剤の使用量は、N−オキシル化合物1molに対して1〜40molが好ましい。
【0023】
酸化反応時のpH、温度等の条件は特に限定されず、一般に、比較的温和な条件であっても反応を効率よく進行する。反応温度は4℃以上が好ましく、15℃以上がより好ましい。上限は40℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましい。従って、反応温度は4〜40℃が好ましく、15〜30℃程度、すなわち室温であってもよい。反応液のpHは、8以上が好ましく、10以上がより好ましい。上限は、12以下が好ましく、11以下がより好ましい。従って、反応液のpHは、好ましくは8〜12、より好ましくは10〜11程度である。通常、酸化反応の進行に伴ってセルロース中にカルボキシル基が生成するため、反応液のpHは低下する傾向にある。そのため、酸化反応を効率よく進行させるためには、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性溶液を添加して、反応液のpHを上記の範囲に維持することが好ましい。酸化の際の反応媒体は、取扱い性の容易さや、副反応が生じにくいこと等から、水が好ましい。
【0024】
酸化反応における反応時間は、酸化の進行の程度に従って適宜設定することができ、通常は0.5時間以上である。上限は通常は6時間以下、好ましくは4時間以下である。従って、酸化における反応時間は通常0.5〜6時間、例えば、0.5〜4時間程度である。
【0025】
酸化は、2段階以上の反応に分けて実施してもよい。例えば、1段目の反応終了後に濾別して得られた酸化セルロースを、再度、同一または異なる反応条件で酸化させることにより、1段目の反応で副生する食塩による反応阻害を受けることなく、効率よく酸化させることができる。
【0026】
カルボキシル化(酸化)方法の別の例として、オゾン処理により酸化する方法が挙げられる。この酸化反応により、グルコピラノース環の少なくとも2位及び6位の水酸基が酸化されると共に、セルロース鎖の分解が起こる。オゾン処理は通常、オゾンを含む気体とセルロース原料とを接触させることにより行われる。気体中のオゾン濃度は、50g/m3以上であることが好ましい。上限は、250g/m3以下であることが好ましく、220g/m3以下であることがより好ましい。従って、気体中のオゾン濃度は、50〜250g/m3であることが好ましく、50〜220g/m3であることがより好ましい。オゾン添加量は、セルロース原料の固形分を100質量部に対し、0.1質量部以上であることが好ましく、5質量部以上であることがより好ましい。上限は、通常30質量部以下である。従って、オゾン添加量は、セルロース原料の固形分100質量部に対し、0.1〜30質量部であることが好ましく、5〜30質量部であることがより好ましい。オゾン処理温度は、通常0℃以上であり、好ましくは20℃以上である。上限は通常50℃以下である。従って、オゾン処理温度は、0〜50℃であることが好ましく、20〜50℃であることがより好ましい。オゾン処理時間は、通常は1分以上であり、好ましくは30分以上である。上限は通常360分以下である。従って、オゾン処理時間は、1〜360分程度であり、30〜360分程度が好ましい。オゾン処理の条件がこれらの範囲内であると、セルロースが過度に酸化及び分解されることを防ぐことができ、酸化セルロースの収率が良好となる。
【0027】
オゾン処理後に得られる結果物に対しさらに、酸化剤を用いて追酸化処理を行ってもよい。追酸化処理に用いる酸化剤は、特に限定されないが、例えば、二酸化塩素、亜塩素酸ナトリウム等の塩素系化合物;酸素、過酸化水素、過硫酸、過酢酸などが挙げられる。追酸化処理の方法としては例えば、これらの酸化剤を水またはアルコール等の極性有機溶媒中に溶解して酸化剤溶液を作成し、溶液中にセルロース原料を浸漬させる方法が挙げられる。
【0028】
酸化セルロースナノファイバーに含まれるカルボキシル基、カルボキシレート基、アルデヒド基の量は、上記した酸化剤の添加量、反応時間をコントロールすることで調整することができる。
【0029】
カルボキシル基含量の測定方法の一例を以下に説明する。酸化セルロースの0.5質量%スラリー(水分散液)60mlを調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定する。電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下式を用いて算出することができる:
カルボキシル基含量〔mmol/g酸化セルロース又はセルロースナノファイバー〕=a〔ml〕×0.05/酸化セルロース質量〔g〕
【0030】
<カルボキシメチル化>
カルボキシメチル化により得られるカルボキシル基含有変性セルロースナノファイバー(カルボキシル化セルロースナノファイバー)中の無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度は、0.01以上が好ましく、0.05以上がより好ましく、0.10以上がさらに好ましい。上限は、0.50以下が好ましく、0.40以下がより好ましく、0.35以下が更に好ましい。従って、カルボキシメチル置換度は、0.01〜0.50が好ましく、0.05〜0.40がより好ましく、0.10〜0.35が更に好ましい。
【0031】
カルボキシメチル化の方法は、特に限定されないが例えば、出発原料としてのセルロース原料をマーセル化し、その後エーテル化する方法が挙げられる。溶媒としては例えば、水、アルコール(例えば低級アルコール)及びこれらの混合溶媒が挙げられる。低級アルコールとしては例えば、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、第3級ブチルアルコールが挙げられる。混合溶媒における低級アルコールの混合割合は、通常は60重量%以上又は95重量%以下であり、60〜95重量%であることが好ましい。溶媒の量は、セルロース原料に対し通常は3重量倍である。上限は特に限定されないが20重量倍である。従って、溶媒の量は3〜20重量倍であることが好ましい。
【0032】
マーセル化は通常、出発原料とマーセル化剤を混合して行う。マーセル化剤としては例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化アルカリ金属が挙げられる。マーセル化剤の使用量は、出発原料の無水グルコース残基当たり0.5倍モル以上が好ましく、0.7倍モル以上がより好ましく、0.8倍モル以上がさらに好ましい。上限は、通常20倍モル以下であり、10倍モル以下が好ましく、5倍モル以下がより好ましい、従って、0.5〜20倍モルが好ましく、0.7〜10倍モルがより好ましく、0.8〜5倍モルがさらに好ましい。
【0033】
マーセル化の反応温度は、通常0℃以上であり、好ましくは10℃以上である。上限は70℃以下、好ましくは60℃以下である。従って、反応温度は、通常0〜70℃、好ましくは10〜60℃である。反応時間は、通常15分以上、好ましくは30分以上である。上限は、通常8時間以下、好ましくは7時間以下である。従って、反応時間は通常15分〜8時間、好ましくは30分〜7時間である。
【0034】
エーテル化反応は通常、カルボキシメチル化剤をマーセル化後に反応系に追加して行う。カルボキシメチル化剤としては例えば、モノクロロ酢酸ナトリウムが挙げられる。カルボキシメチル化剤の添加量は、セルロース原料のグルコース残基当たり通常は0.05倍モル以上が好ましく、0.5倍モル以上がより好ましく、0.7倍モル以上であることがさらに好ましい。上限は、通常10.0倍モル以下であり、5モル以下が好ましく、3倍モル以下がより好ましい、従って、好ましくは0.05〜10.0倍モル、より好ましくは0.5〜5倍モル、更に好ましくは0.7〜3倍モルである。反応温度は、通常30℃以上、好ましくは40℃以上であり、上限は通常90℃以下、好ましくは80℃以下である。従って反応温度は通常30〜90℃、好ましくは40〜80℃である。反応時間は、通常30分以上であり、好ましくは1時間以上である。上限は、通常は10時間以下、好ましくは4時間以下である。従って反応時間は、通常30分〜10時間、好ましくは1時間〜4時間である。カルボキシメチル化反応の間必要に応じて、反応液を撹拌してもよい。
【0035】
カルボキシメチル化セルロースナノファイバーのグルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度の測定方法としては例えば、次の方法が挙げられる:1)カルボキシメチル化セルロース繊維(絶乾)約2.0gを精秤して、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。2)メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えた液100mLを加え、3時間振とうして、カルボキシメチルセルロース塩(CM化セルロース)を酸型CM化セルロースにする。3)酸型CM化セルロース(絶乾)を1.5〜2.0g精秤し、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。4)80%メタノール15mLで酸型CM化セルロースを湿潤し、0.1NのNaOHを100mL加え、室温で3時間振とうする。5)指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1NのH2SO4で過剰のNaOHを逆滴定する。6)カルボキシメチル置換度(DS)を、次式によって算出する。
【0036】
A=[(100×F−(0.1NのH2SO4)(mL)×F’)×0.1]/(酸型CM化セルロースの絶乾質量(g))
DS=0.162×A/(1−0.058×A)
A:水素型CM化セルロースの1gの中和に要する1NのNaOH量(mL)
F’:0.1NのH2SO4のファクター
F:0.1NのNaOHのファクター
【0037】
<置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバー>
置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーは、カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーの少なくとも一部に、以下の式(a)で表される置換基及び式(b)で表される置換基からなる群より選ばれる少なくとも1つの置換基を有する、変性セルロースナノファイバーである。すなわち、置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーは、式(a)で表される置換基及び式(b)で表される置換基からなる群より選ばれる少なくとも1つの置換基を有する変性セルロースナノファイバーであり、カルボキシル基を有していてもよい。
式(a): −CONH−R1
式(b): −COO−R1
【0038】
式(a)及び(b)のR1は、互いに独立して、少なくとも1個の不飽和結合を有する炭化水素である。炭化水素の炭素数は、3以上が好ましい。上限は30以下が好ましく、20以下が好ましい。従って、炭化水素の炭素数は、3〜30が好ましく、3〜20がより好ましい。不飽和結合は、二重結合および三重結合のいずれでもよく、二重結合が好ましい。不飽和結合の数の上限は特に限定されないが、6個以下程度が好ましい。不飽和結合の数が2個以上の場合、炭化水素基の炭素数の下限は、2Y+1(Yは、不飽和結合の数を示す)である。不飽和結合が二重結合である場合、cis体あるいはtrans体の構造異性体が存在する、いずれの構造異性体でもよい。炭化水素は、直鎖状でもよく、分岐鎖を有していてもよく、環状でもよい。
【0039】
1としては例えば、ヘキセニル基(例:1−ヘキセニル基)、ドデセニル基(例:1−ドデセニル基)、オクタデセニル基(例:9−オクタデセニル基)、オクタデカジエニル基(例:9,12−オクタデカジエニル基(リノレイル基))、オクタデカトリエニル基(例:9,12,15−オクタデカトリエニル基)、アリル基、プロペニル基(1−プロペニル基)、ブチル基(例:1−ブチル基、3−ブチル基)、ウンデセニル基、ヘキサデセニル基(例:9−ヘキサデセニル基(パルミトレイル基)、エイコサテトラエニル基(アラキドニル基;例:5,8,11,14−エイコサテトラエニル基)、ドコセニル基、テトラメチルヘキサデセニル基(例:3,7,11,15−テトラメチル−1−ヘキサデセニル基、3,7,11,15−テトラメチル−2−ヘキサデセニル基)、ジメチルオクテニル基(例:3,7−ジメチル−7−オクテニル基)、ジメチルオクタジエニル基(例:3,7−ジメチル−1,6−オクタジエニル基)などのアルケニル基が挙げられる。式(a)及び(b)で表される置換基は、1または2以上の置換基を有していてもよい。
【0040】
式(a)で表される基としては例えば、R1として例示したアルケニル基を有するアミド基が挙げられる。式(b)で表される基としては例えば、R1として例示したアルケニル基を有するエステル基が挙げられる。
【0041】
置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーの製造方法は特に限定されないが、例えば、カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーの少なくとも1つにカルボキシル基に脂肪族不飽和アミン又は脂肪族不飽和アルコールを脱水縮合させる方法が挙げられる。
【0042】
脂肪族不飽和アミン及び脂肪族不飽和アルコールは、それぞれの分子構造の中に少なくとも1個の不飽和結合を有する炭化水素基を有するアミン及びアルコールである。炭化水素基の炭素数は、好ましくは3以上である。これにより不飽和結合の隣に位置するα−メチル又はα−メチレンのC−Hからの脱水素により、硫黄等の架橋剤等と反応を行うことが可能となる。炭化水素基の炭素数の上限は30以下であり、好ましくは20以下である。従って、炭化水素基の炭素数は、好ましくは3〜30であり、より好ましくは3〜20である。炭化水素は、直鎖状でもよく、分岐鎖を有していてもよい。不飽和結合は、二重結合および三重結合のいずれでもよく、二重結合が好ましい。不飽和結合の数の上限は特に限定されるものではないが、6個程度が好ましい。不飽和結合の数が2個以上の場合は、炭化水素基の炭素数の下限は、2Y+1(Yは、不飽和結合の数を示す)となる。不飽和結合が二重結合である場合、cis体あるいはtrans体の構造異性体を有するが、特に限定されず、どちらの構造異性体も適用することができる。脂肪族不飽和アミンは少なくとも1つのアミノ基を含めばよく、上限は特に限定されないが、1個すなわちモノアミンであることが好ましい。脂肪族不飽和アルコールは少なくとも1つのヒドロキシル基を含めばよく、上限は特に限定されないが、1個すなわちモノアルコールが好ましい。
【0043】
脂肪族不飽和アミンとしては例えば、1−ヘキセニルアミン、1−ドデセニルアミン、9−オクタデセニルアミン(オレイルアミン)、9,12−オクタデカジエニルアミン(リノールアミン)、9,12,15−オクタデカトリエニルアミン、リノレイルアミンが挙げられ、オレイルアミンが好ましい。
【0044】
脂肪族不飽和アルコールとしては例えば、アリルアルコール、クロチルアルコール、3-ブテン−2−オール、メチルビニルアルコール、オレイルアルコール、リノレイルアルコール、ウンデシレニルアルコール、パルミトレイルアルコール、アラキドニルアルコール、エルシルアルコール、フィトール、イソフィトール、リナロール、ロジノールが挙げられ、オレイルアルコールが好ましい。
【0045】
脱水縮合に際し、脱水縮合剤を用いてもよい。脱水縮合剤は、特に限定されないが、水系で使用できるものが好ましく、例えば、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド(EDC)及びその塩酸塩(EDC・HCl)、4−(4,6−Dimethoxy−1,3,5−triazin−2−yl)−4−methylmorpholinium Chloride n−Hydrate(DMT−MM)が挙げられる。脱水縮合剤は1種単独であってもよく、または2種以上の組み合わせでもよい。脱水縮合剤の配合量は、セルロースナノファイバーのグルコース単位1モルに対して、0.1モル以上が好ましく、0.4モル以上がより好ましい。上限は特に限定されず、20モル以下が好ましく、10モル以下がより好ましい。従って、0.1〜20モル程度が好ましく、0.4〜10モル程度がより好ましい。または、セルロースナノファイバーのカルボキシル基またはカルボキシメチル基に対して2倍モル以上が好ましく、3倍モル以上がより好ましく、4倍モル以上がさらに好ましく、5倍モル以上がさらにより好ましい。上限は特に限定されず、10倍モル以下が好ましく、9倍モル以下がより好ましく、8倍モル以下がさらに好ましい。
【0046】
脱水縮合における反応温度は、10℃以上が好ましく、20℃以上がより好ましい。上限は、90℃以下が好ましく、80℃以下がより好ましい。これにより、セルロースナノファイバーの劣化の発生を抑制できる。従って、10〜90℃程度が好ましく、20〜80℃程度がより好ましい。脱水縮合は、水中で行うことが好ましい。
【0047】
置換カルボキシル基含有変性セルロースファイバーの、式(a)及び(b)で表される置換基の導入度(DS)は、0.01以上が好ましく、0.03以上がより好ましく、0.05以上が更に好ましい。上限は、1.5以下が好ましく、1.3以下がより好ましく、1.0以下が更に好ましい。従って、0.01〜1.5程度が好ましい。DSは、置換カルボキシル基含有変性セルロースファイバーから副生成物等を除去した後、重量増加率、元素分析、中和滴定法、FT−IR、1H及び13C−NMR等の分析方法により分析することができる。また、置換カルボキシル基含有変性セルロースファイバーの、式(a)及び(b)で表される置換基の導入度は、脂肪族不飽和アミン及び脂肪族不飽和アルコールの反応率(%)で表すことができる。反応率は、10%以上が好ましく、20%以上がより好ましく、30%以上がさらに好ましい。上限は100%以下が好ましく、95%以下がより好ましく、90%以下がさらに好ましい。反応率は下記方法により算出する。
前述の方法により、脂肪族不飽和アミン及び脂肪族不飽和アルコールの導入前後のカルボキシル基含量(mmol/g)またはカルボキシメチル置換度(DS)を測定し、その差分から算出する。
反応率(%)=(導入前の値−導入後の値)/(導入前の値)×100
【0048】
脱水縮合反応後、脱水縮合剤に由来して生成する副生成物は、公知の洗浄操作によって生成物から分離除去することができる。
【0049】
<分散>
セルロース原料からカルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーを得る際、置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーを得る際、及び解繊処理の際の少なくともいずれかにおいて、セルロース原料又はそれぞれのナノファイバーの分散処理を行い、セルロース原料の分散体を調製してもよい。溶媒は、セルロース原料を分散できるものであれば特に限定されないが、例えば、水、有機溶媒(例えば、メタノール等の親水性の有機溶媒)、それらの混合溶媒が挙げられる。セルロース原料を分散させる溶媒は、セルロース原料が親水性であることから、水であることが好ましい。
【0050】
分散体中の変性セルロースの固形分濃度は、通常は0.1重量%以上、好ましくは0.2重量%以上、より好ましくは0.3重量%以上である。これにより、セルロース繊維原料の量に対する液量が適量となり効率的である。上限は、通常10重量%以下、好ましくは6重量%以下である。これにより流動性を保持することができる。
【0051】
<解繊>
解繊は、セルロース原料に対し行ってもよいし、セルロース原料からカルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーを得る際、置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーを得る際、または置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーに対して行ってもよいし、両方行ってもよい。
【0052】
解繊に用いる装置は特に限定されないが、例えば、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などのタイプの装置が挙げられ、高圧又は超高圧ホモジナイザーが好ましく、湿式の高圧又は超高圧ホモジナイザーがより好ましい。装置は、セルロース原料又は変性セルロース(通常は分散液)に強力なせん断力を印加できることが好ましい。装置が印加できる圧力は、50MPa以上が好ましく、より好ましくは100MPa以上であり、さらに好ましくは140MPa以上である。装置は、セルロース原料又は変性セルロース(通常は分散液)に上記圧力を印加でき、かつ強力なせん断力を印加できる、湿式の高圧または超高圧ホモジナイザーが好ましい。これにより、解繊を効率的に行うことができる。解繊装置での処理(パス)回数は、1回でもよいし2回以上でもよく、2回以上が好ましい。
【0053】
解繊をセルロース原料の分散体に対して行う場合、分散体中のセルロース原料の固形分濃度は、通常は0.1重量%以上、好ましくは0.2重量%以上、より好ましくは0.3重量%以上である。これにより、セルロース繊維原料の量に対する液量が適量となり効率的である。上限は、通常10重量%以下、好ましくは6重量%以下である。これにより流動性を保持することができる。
【0054】
解繊(高圧ホモジナイザーでの解繊)、又は必要に応じて解繊前に行う分散処理に先立ち、必要に応じて予備処理を行ってもよい。予備処理は、高速せん断ミキサーなどの混合、攪拌、乳化、分散装置を用いて行えばよい。
【0055】
<置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーの形態>
置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーの形態は、特に限定されるものではなく、例えば、変性セルロースナノファイバーの分散液、分散液の乾燥固形物、分散液の湿潤固形物、セルロースナノファイバーと水溶性高分子との混合液、混合液の乾燥固形物、混合液の湿潤固形物などが挙げられる。湿潤固形物とは、分散液と乾燥固形物との中間の態様の固形物である。水溶性高分子としては例えば、セルロース誘導体(カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース)、キサンタンガム、キシログルカン、デキストリン、デキストラン、カラギーナン、ローカストビーンガム、アルギン酸、アルギン酸塩、プルラン、澱粉、かたくり粉、クズ粉、陽性澱粉、燐酸化澱粉、コーンスターチ、アラビアガム、ジェランガム、ゲランガム、ポリデキストロース、ペクチン、キチン、水溶性キチン、キトサン、カゼイン、アルブミン、大豆蛋白溶解物、ペプトン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸ソーダ、ポリビニルピロリドン、ポリ酢酸ビニル、ポリアミノ酸、ポリ乳酸、ポリリンゴ酸、ポリグリセリン、ラテックス、ロジン系サイズ剤、石油樹脂系サイズ剤、尿素樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミド・ポリアミン樹脂、ポリエチレンイミン、ポリアミン、植物ガム、ポリエチレンオキサイド、親水性架橋ポリマー、ポリアクリル酸塩、でんぷんポリアクリル酸共重合体、タマリンドガム、グァーガム及びコロイダルシリカ並びにそれら2つ以上の混合物が挙げられる。この中でも、カルボキシメチルセルロース及びその塩を用いることが相溶性の点から好ましい。
【0056】
<乾燥>
置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーの乾燥固形物及び湿潤固形物は、置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーの分散液又は置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーと水溶性高分子の混合液を乾燥して調製すればよい。乾燥方法は特に限定されないが、例えば、スプレードライ、圧搾、風乾、熱風乾燥、及び真空乾燥が挙げられる。乾燥装置としては例えば、連続式のトンネル乾燥装置、バンド乾燥装置、縦型乾燥装置、垂直ターボ乾燥装置、多重段円板乾燥装置、通気乾燥装置、回転乾燥装置、気流乾燥装置、スプレードライヤ乾燥装置、噴霧乾燥装置、円筒乾燥装置、ドラム乾燥装置、スクリューコンベア乾燥装置、加熱管付回転乾燥装置、振動輸送乾燥装置等、回分式の箱型乾燥装置、真空箱型乾燥装置、及び撹拌乾燥装置等が挙げられる。これらの乾燥装置は、単独で用いてもよいし、2つ以上組み合わせて用いてもよい。乾燥装置は、ドラム乾燥装置が好ましい。これにより、均一に被乾燥物に熱エネルギーを直接供給することができるので、エネルギー効率を高めることができる。また、必要以上に熱を加えずに直ちに乾燥物を回収することができる。
【0057】
<ゴム組成物>
本発明のゴム組成物は、置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーおよびゴム成分を含む。
【0058】
<ゴム成分>
ゴム成分は通常、有機高分子を主成分とする、弾性限界が高く弾性率の低い成分である。ゴム成分は、天然ゴムおよび合成ゴムに大別され、本発明においてはいずれでもよく、両者の組み合わせでもよい、合成ゴムとしては例えば、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、クロロプレンゴム、スチレン−イソプレン共重合体ゴム、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合体ゴム、イソプレン−ブタジエン共重合体ゴム等のジエン系ゴム、エチレン−プロピレンゴム(EPM、EPDM)、ブチルゴム(IIR)、アクリルゴム(ACM)、エピクロロヒドリンゴム(CO、ECO)、フッ素ゴム(FKM)、シリコーンゴム(Q)、ウレタンゴム(U)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)が挙げられる。天然ゴムとしては例えば、水素化天然ゴム、脱タンパク天然ゴム等が挙げられる。ゴム成分は、1種単独でもよく、2種以上の組み合わせでもよい。ゴム成分は、固形状及び液状のいずれでもよい。液状のゴム成分としては例えば、ゴム成分の分散液、ゴム成分の溶液が挙げられる。溶媒としては例えば、水、有機溶媒が挙げられる。
【0059】
<メチレンアクセプター化合物、及びメチレンドナー化合物>
ゴム組成物は、メチレンアクセプター化合物及び/又はメチレンドナー化合物を含んでいてもよい。
【0060】
メチレンアクセプター化合物とは通常、メチレン基を受容でき、かつ、メチレンドナー化合物と混合して加熱することにより硬化反応し得る化合物である。メチレンアクセプター化合物としては例えば、フェノール、レゾルシノール、レゾルシン、クレゾールなどのフェノール化合物及びその誘導体、レゾルシン系樹脂、クレゾール系樹脂、フェノール樹脂が挙げられる。フェノール樹脂としては例えば、上記フェノール化合物及びその誘導体とホルムアルデヒド、アセトアルデヒドなどのアルデヒド化合物との縮合物が挙げられる。フェノール樹脂は、縮合の際の触媒によりノボラック樹脂(酸性触媒)、レゾール樹脂(アルカリ性触媒)に分類できるが、本発明においてはいずれを使用してもよい。フェノール樹脂は、オイル又は脂肪酸で変性されていてもよい。オイル及び脂肪酸としては例えば、ロジン油、トール油、カシュー油、リノール酸、オレイン酸、リノレイン酸などが挙げられる。
【0061】
メチレンドナー化合物とは通常、メチレン基を供与でき、かつ、メチレンアクセプター化合物と混合して加熱することにより硬化反応し得る化合物である。メチレンアクセプター化合物としては例えば、ヘキサメチレンテトラミン、メラミン誘導体が挙げられる。メラミン誘導体としては例えば、ヘキサメチロールメラミン、ヘキサメトキシメチルメラミン、ペンタメトキシメチルメラミン、ペンタメトキシメチロールメラミン、ヘキサエトキシメチルメラミン、ヘキサキス−(メトキシメチル)メラミン等が挙げられる。
【0062】
メチレンアクセプター化合物とメチレンドナー化合物の組み合わせとしては例えば、クレゾール、クレゾール誘導体又はクレゾール系樹脂とペンタメトキシメチルメラミンとの組み合わせ、レゾルシン、レゾルシン誘導体又はレゾルシン系樹脂とヘキサメチレンテトラミンとの組み合わせ、カシュー変性フェノール樹脂とヘキサメチレンテトラミンとの組み合わせ、フェノール樹脂とヘキサメチレンテトラミンとの組み合わせが挙げられる。中でもクレゾール、クレゾール誘導体又はクレゾール系樹脂とペンタメトキシメチルメラミンとの組み合わせ、レゾルシン、レゾルシン誘導体又はレゾルシン系樹脂とヘキサメチレンテトラミンとの組み合わせが好ましい。
【0063】
置換カルボキシル基含有変性セルロースファイバーとゴム成分を混合する方法は特に限定されるものではないが、例えば、置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーとゴム成分を水中に分散させ、混合することが、ゴム成分中に置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーを均一に分散させることができるという点から好ましい。水を除去する方法は特に制限されず、オーブンでそのまま乾燥させてもよく、あるいはpHを2〜6に調整して凝固させ脱水・乾燥させてもよい。
【0064】
<含有量>
ゴム成分に対する置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーの含有量は、ゴム成分100重量%に対して0.1重量%以上が好ましく、1重量%以上がより好ましく、3重量%以上がさらに好ましい。これにより引張強度の向上効果が十分に発現し得る。上限は、50重量%以下が好ましく、40重量%以下が好ましく、30重量%以下が更に好ましい。これにより、製造工程における加工性を保持することができる。従って、0.1〜50重量%が好ましく、1〜40重量%がより好ましく、3〜30重量%が更に好ましい。
【0065】
ゴム組成物がメチレンアクセプター化合物を含む場合その含有量は、ゴム成分100重量%に対して1重量%が好ましく、1.3重量%以上がより好ましく、1.5重量%以上がさらに好ましい。これにより引張強度の向上効果が十分に発現し得る。上限は、50重量%以下が好ましく、20重量%以下が好ましく、10重量%以下が更に好ましい。これにより、製造工程における加工性を保持することができる。従って、1〜50重量%が好ましく、1.3〜20重量%がより好ましく、1.5〜10重量%が更に好ましい。
【0066】
ゴム組成物がメチレンドナー化合物を含む場合その含有量は、メチレンアクセプター化合物100重量%に対して10重量%以上が好ましく、20重量%以上がより好ましく、25重量%以上がさらに好ましい。これにより引張強度の向上効果が十分に発現し得る。上限は、100重量%以下が好ましく、90重量%以下が好ましく、85重量%以下が更に好ましい。これにより、製造工程における加工性を保持することができる。従って、10〜100重量%が好ましく、20〜90重量%がより好ましく、25〜85重量%が更に好ましい。
【0067】
本発明のゴム組成物は、必要に応じて1又は2以上の任意成分を含んでいてもよい。任意成分としては例えば、補強剤(カーボンブラック、シリカ等)、シランカップリング剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、架橋用配合剤(硫黄等の架橋剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、スコーチ防止剤等)、オイル、硬化レジン、ワックス、老化防止剤、着色剤、素練り促進剤、軟化剤・可塑剤、硬化剤(フェノール樹脂、ハイスチレン樹脂等)、発泡剤、充填剤(カーボンブラック、シリカ等)、カップリング剤、粘着剤(マクロン樹脂、フェノール、テルペン系樹脂、石油系炭化水素樹脂、ロジン誘導体等)、分散剤(脂肪酸等)、接着増進剤(有機コバルト塩等)、滑剤(パラフィンおよび炭化水素樹脂、脂肪酸および脂肪酸誘導体等)などゴム工業で使用され得る配合剤が挙げられる。このうち硫黄、加硫促進剤が好ましい。加硫促進剤としては例えば、N−t−ブチル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミドが挙げられる。
【0068】
本発明のゴム組成物が硫黄を含有することにより、ゴム成分を加硫させることができ、さらに変性セルロースファイバー中の変性された置換基とゴム成分との間で架橋構造を形成することができる。硫黄の含有量としては、ゴム成分100重量部に対して、0.1重量部以上が好ましく、0.5重量部以上がより好ましく、1重量部以上がさらに好ましい。上限は、50重量部以下が好ましく、35重量部以下が好ましく、20重量部以下が更に好ましい。従って、0.1〜50重量部程度が好ましく、0.5〜35重量部程度がより好ましく、1〜20重量部程度がさらに好ましい。
【0069】
ゴム組成物が加硫促進剤を含む場合その含有量は、ゴム成分に対し0.1重量%以上が好ましく、0.3重量%以上がより好ましく、0.4重量%以上がさらに好ましい。上限は、5重量%以下が好ましく、3重量%以下が好ましく、2重量%以下が更に好ましい。
【0070】
<製造方法>
ゴム組成物は、置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバー及びゴム成分、並びに必要に応じて含まれる各成分を混合して製造することができる。
【0071】
混合における材料添加の順序は、特に限定されず、各成分を一度に混合してもよいし、いずれかの材料を先に混合した後で残りの材料を混合してもよい。第1の例としては、変性セルロースナノファイバーとゴム成分を先に混合し、得られるマスターバッチにそれ以外の材料(例えば、ステアリン酸)を混合する方法が挙げられる。具体的には例えば、変性セルロースナノファイバーの分散液とゴム成分の分散液(ラテックス)を混合し(例:ミキサー等による撹拌)、水を除去し、得られるマスターバッチ(通常は固形物)に対し、ステアリン酸を含む成分を添加して素練り及び混練り(例:オープンロール等の装置)する。これにより、ゴム成分中に置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーを均一に分散させることができる。
【0072】
第2の例としては、置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバー、ゴム成分、及び必要に応じて添加されるそれ以外の材料を含む各成分を一度に混合し、水を除去する方法が挙げられる。具体的には例えば、置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーの分散液、ゴム成分の分散液(ラテックス)、それ以外の材料を混合し(例:ミキサー等による撹拌)、得られる混合物から水を除去する。これにより、いずれの成分をも均一に分散させることができる。
【0073】
マスターバッチ又は混合物から水を除去する方法は、特に制限されず、例えば、オーブンなどの乾燥器で乾燥させる方法、pHを2〜6に調整して凝固させて脱水及び乾燥する方法、混合物にギ酸、硫酸、有機酸などの酸又は塩化ナトリウム等の塩を添加し凝固させる方法が挙げられる。
【0074】
第3の例としては、ゴム成分に対しそれ以外の成分を任意の順番で添加し混合する方法が挙げられる。具体的には例えば、ゴム成分の固形物に対し、置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーの固形物、必要に応じて添加されるそれ以外の材料を任意の順番で混合し、同様にオープンロール等の装置で素練り及び混練りする。これにより、水を除去する工程を省略できる。
【0075】
素練り及び混練り装置としては例えば、ミキサー、ブレンダー、二軸混練機、ニーダー、ラボプラストミル、ホモジナイザー、高速ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、オープンロール、遊星式攪拌装置、3本ロール等の混合又は攪拌できる装置などが挙げられる。
【0076】
混合の際の(例えば、素練り及び混練りの際の)の温度は、常温程度(15〜30℃程度)でもよいが、ゴム成分が架橋反応しない程度に高温に加熱してもよい。例えば140℃以下、より好ましくは120℃以下である。また下限は70℃以上、好ましくは80℃以上である。従って加熱温度は、70〜140℃程度が好ましく、80〜120℃程度がより好ましい。硫黄及び加硫促進剤の添加時期は、メチレンアクセプター化合物とメチレンドナー化合物の添加時期より後であることが好ましい。すなわち、硫黄及び加硫促進剤を添加せずにメチレンアクセプター化合物とメチレンドナー化合物を含む材料を混合して素練り開始後に、硫黄及び加硫促進剤を追加してさらに素練り及び混練りを行うことが好ましい。これにより、メチレンアクセプター化合物とメチレンドナー化合物が加熱により予備的に縮合し、その縮合物とゴム成分及び化学変性セルロースナノファイバーとの相互作用が効果的に発揮され得る。
【0077】
混合終了後に、必要に応じて成形を行ってもよい。成形装置としては、例えば、金型成形、射出成形、押出成形、中空成形、発泡成形等の各種成形用の装置が挙げられ、最終製品の形状、用途、成形方法に応じて適宜選択すればよい。成形材料の形状としては、例えば、シート、ペレット、粉末等が挙げられる。
【0078】
混合終了後に、好ましくは成形前に、加熱する(加硫、架橋)ことが好ましい。メチレンアクセプター化合物とメチレンドナー化合物が加熱により縮合反応して三次元網状構造体を形成し、この構造体がゴム成分及びセルロースナノファイバーとそれぞれ相互作用することにより、ゴム組成物を効果的に補強することができる。
【0079】
架橋については、架橋反応が進む条件であれば、温度に特に制限は無いが、一般的には、混練りされたマスターバッチを加熱することで架橋(硫黄を含む場合は加硫ともいう)するとゴム組成物が得られる。加熱温度は、140℃以上が好ましく、200℃以下が好ましく、180℃以下がより好ましい。従って、加熱温度は140〜200℃程度が好ましく、140〜180℃程度がより好ましい。加熱装置としては例えば、型加硫、缶加硫、連続加硫等の加硫装置が挙げられる。加硫方法としては、プレス加硫等が挙げられる。
【0080】
最終製品とする前に、必要に応じ仕上げ処理を行ってもよい。仕上げ処理としては例えば、研磨、表面処理、リップ仕上げ、リップ裁断、塩素処理などが挙げられ、これらの処理のうち1つのみを行ってもよいし、2つ以上の組み合わせであってもよい。
【0081】
本発明の加硫ゴム組成物の用途は、特に制限されず、例えば、自動車、電車、船舶、飛行機等の輸送機器等;パソコン、テレビ、電話、時計等の電化製品等;携帯電話等の移動通信機器等;携帯音楽再生機器、映像再生機器、印刷機器、複写機器、スポーツ用品等;建築材;文具等の事務機器等、容器、コンテナー等が挙げられる。これらに限定されず、ゴムや柔軟なプラスチックが用いられている部材への適用が可能であり、タイヤへの適用が好適である。タイヤとしては例えば、乗用車用、トラック用、バス用、重車両用などの空気入りタイヤが挙げられる。
【実施例】
【0082】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、各実施例における各数値の測定/算出方法が特に記載されていない場合には、明細書中に記載されている方法により測定/算出されたものである。
【0083】
<製造例1>置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーの製造
針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(白色度85%)500g(絶乾)をTEMPO(Sigma Aldrich社)1.95g(絶乾1gのセルロースに対し0.025mmol)と臭化ナトリウム51.4g(絶乾1gのセルロースに対し1mmol)を溶解した水溶液500mlに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を次亜塩素酸ナトリウムが6.0mmol/gになるように添加し、酸化反応を開始した。反応中は系内のpHが低下するが、3M水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。次亜塩素酸ナトリウムを消費し、系内のpHが変化しなくなった時点で反応を終了した。反応後の混合物に塩酸を添加し、pHを2.4にした後、ガラスフィルターで濾過してパルプ分離し、パルプを十分に水洗することで酸化されたパルプ(酸化(カルボキシル化)セルロースナノファイバー)を得た。この時のパルプ収率は90%であり、酸化反応に要した時間は90分、カルボキシル基含量は1.6mmol/gであった。
【0084】
上記の工程で得られた酸化パルプ11.8gを水で1%(w/v)に調整し、オレイルアミン(東京化成工業株式会社製)25.2g、およびEDC・HCl16.4g(酸化セルロースナノファイバーのカルボキシル基に対し5倍モル)を添加し、室温にて3時間撹拌することにより脱水縮合反応を行った。
【0085】
反応後、副生成物等を洗浄によって分離除去することにより、変性パルプを得た。オレイルアミンの反応率は88%であった。
【0086】
上記の工程で得られた変性パルプを水で1.0%(w/v)に調整し、超高圧ホモジナイザー(20℃、150Mpa)で3回処理して、置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーの水分散液を得た。置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーの平均繊維径は4nm、アスペクト比は150であった。
【0087】
<製造例2>置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーの製造
パルプを混ぜることができる撹拌機に、パルプ(NBKP(針葉樹晒クラフトパルプ)、日本製紙製)を乾燥質量で253g、水酸化ナトリウムを乾燥質量で56.3g(パルプのグルコース残基当たり0.9倍モル)加え、パルプ固形分が20%(w/v)になるように水を加えた。その後、30℃で30分攪拌した後にモノクロロ酢酸ナトリウムを127g(パルプのグルコース残基当たり0.7倍モル)添加した。30分撹拌した後に、70℃まで昇温し1時間撹拌した。その後、反応物を取り出して中和、洗浄して、グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度0.25のカルボキシルメチル化したパルプを得た。
【0088】
上記の工程で得られたカルボキシメチル化パルプを水で1%(w/v)に調整し、オレイルアミン(東京化成工業株式会社製)25.2g、およびEDC・HCl16.4g(カルボキシメチルセルロースナノファイバーのグルコース単位当たりのカルボキシメチル基に対し5倍モル)を添加し、室温にて3時間撹拌することにより脱水縮合反応を行った。反応後、副生成物等を洗浄によって分離除去することにより、変性パルプを得た。オレイルアミンの反応率は79%であった。
【0089】
その後、カルボキシメチル化したパルプを水で固形分1%とし、高圧ホモジナイザーにより20℃、150MPaの圧力で5回処理することにより解繊し置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーの水分散液を得た。置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーの平均繊維径は15nm、平均アスペクト比は100であった。
【0090】
<製造例3>置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーの製造
製造例1において、オレイルアミンを1−ヘキセニルアミンに変更した以外は、製造例1と同様にして置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーを得た。置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーにおける1−ヘキセニルアミンの反応率は85%、平均繊維径は4nm、平均アスペクト比は150であった。
【0091】
<製造例4>置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーの製造
製造例1において、オレイルアミンをオレイルアルコール(東京化成工業株式会社製)に変更した以外は、製造例1と同様にして置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーを得た。置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーにおけるオレイルアルコールの反応率は64%、平均繊維径は4nm、平均アスペクト比は150であった。
【0092】
<比較製造例1>カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーの製造
製造例1において、酸化パルプを脱水縮合反応させずに解繊したほかは、製造例1と同様にして、カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバー(酸化セルロースナノファイバー)を得た。カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーのカルボキシル基含量は1.6mmol/g、平均繊維径は4nm、平均アスペクト比は150であった。
【0093】
なお、上記製造例におけるカルボキシル基含量、カルボキシメチル置換度、オレイルアルミン反応率は、上段にて説明した方法により測定された。
【0094】
<実施例1>
製造例1で得られた変性セルロースナノファイバーの1%水分散液を、天然ゴムラテックス(商品名:HAラテックス、レヂテックス社、固形分濃度65%)100gに、ラテックスの絶乾固形分に対する絶乾相当の変性セルロースナノファイバーの量として5重量%混合し、TKホモミキサー(8000rpm)で60分間攪拌した。この水性懸濁液を、70℃の加熱オーブン中で10時間乾燥させることにより、マスターバッチを得た。
【0095】
上記の方法により得たマスターバッチに対し、酸化亜鉛、ステアリン酸をマスターバッチ中のゴム成分に対しそれぞれ6重量%、0.5重量%混合し、オープンロール(関西ロール株式会社製)にて、30℃で10分間混練することによって混練物を得た。この混練物に対し、硫黄および加硫促進剤(BBS、N−t−ブチル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド)を、混練物中のゴム成分に対しそれぞれ3.5重量%、0.7重量%加え、オープンロール(関西ロール株式会社製)を用い、30℃で10分間混練して、未加硫ゴム組成物のシートを得た。得られた未加硫ゴム組成物のシートを、金型にはさみ、150℃で10分間プレス加硫することにより、厚さ2mmの加硫ゴムシートを得た。
【0096】
得られた加硫ゴムシートを、所定の形状の試験片に裁断し、JIS K6251「加硫ゴムおよび熱可塑性ゴム−引張特性の求め方」に従い、引張強度を示すものとして、100%ひずみ時、および300%ひずみ時における応力、破断強度をそれぞれ測定した。各々の数値が大きい程、加硫ゴム組成物が良好に補強されており、ゴムの機械強度に優れることを示す。
【0097】
<実施例2>
実施例1において、置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーを製造例2で得られた置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーに変更した以外は、実施例1と同様に行った。
【0098】
<実施例3>
実施例1において、置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーを製造例3で得られた置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーに変更した以外は、実施例1と同様に行った。
【0099】
<実施例4>
実施例1において、置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーを製造例4で得られた置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーに変更した以外は、実施例1と同様に行った。
【0100】
<比較例1>
実施例1において、置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーを比較製造例1で得られたカルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーに変更した以外は、実施例1と同様に行った。
【0101】
<比較例2>
実施例1において、セルロースナノファイバーをゴム成分に混合しなかった以外は、実施例1と同様に行った。
【0102】
【表1】
【0103】
表1から以下の点が明らかである。不飽和炭化水素基が導入されている変性セルロースナノファイバーを含有する実施例1〜4の加硫ゴム組成物では、不飽和炭化水素基が導入されていない変性セルロースナノファイバーを含有する比較例1の加硫ゴム組成物に対し、100%ひずみ時及び300%ひずみ時の両方における応力が高く、破断強度も大きかった。比較例1の加硫ゴム組成物の応力及び破断強度が比較例2のゴム組成物と比較して大差がなかったのに対し、実施例1〜4の加硫ゴム組成物の応力及び破断強度は、比較例2のゴム組成物と比較して顕著に優れていた。これらの結果は、置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーがゴム組成物の補強に有用であること、及び、置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーを含むゴム組成物は良好な機械強度を示すことをゴム組成物の製造に用いることができることを示している。
【要約】
大きなひずみを与えた場合でも、十分な補強性と耐疲労性を持ったゴム組成物を提供することを提供することを課題とし、カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバーの少なくとも一部が、式(a):−CONH−R1で表される置換基及び式(b):−COO−R1で表される置換基(式(a)及び(b)において、R1は、互いに独立して、少なくとも1個の不飽和結合を有する炭素数3〜30の炭化水素である。)の少なくともいずれかの置換基を有する、置換カルボキシル基含有変性セルロースナノファイバー、及びこれを含むゴム組成物を提供すること。