(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。
図1には、本発明の積層体の一実施形態が示されている。同図に示す積層体10は、ナノファイバ層11を有している。また積層体10は、ナノファイバ層11の一方の面側に配された基材層12を有している。積層体10の平面視において、基材層12は、ナノファイバ層11の全域を覆う大きさ及び形状をしている。つまり、積層体10の平面視においてナノファイバ層11の輪郭は、基材層12の輪郭を越えて外方に延出していない。一般には、積層体10の平面視において、ナノファイバ層11の輪郭と基材層12の輪郭とは同形であり、かつ両者の輪郭の位置は一致している。
【0012】
基材層12は、剛性の低い材料であるナノファイバ層11を支持して、該ナノファイバ層11の取り扱い性を高める目的で用いられる。この目的のために、基材層12は、剛性が高いシート材料から構成されていることが好ましい。例えば基材層12は、積層体10に適度な剛性を付与する観点から、テーバーこわさが0.01mNm以上であることが好ましい。また、テーバーこわさが0.4mNm以下、特に0.2mNm以下であることが好ましい。具体的には、基材層12のテーバーこわさは、0.01mNm以上0.4mNm以下であることが好ましく、0.01mNm以上0.2mNm以下であることが更に好ましい。テーバーこわさは、JIS P8125に規定される「こわさ試験方法」により測定される。
【0013】
特に基材層12のテーバーこわさは、ナノファイバ層11のテーバーこわさよりも高いことが、積層体10の取り扱い性が一層向上する点から好ましい。この場合、基材層12のテーバーこわさを基準とする、ナノファイバ層11のテーバーこわさの割合は、1%以上50%以下であることが好ましく、2%以上20%以下であることが更に好ましい。
【0014】
テーバーこわさとともに、基材層12の厚みも、ナノファイバ層11の取り扱い性に影響を及ぼす。この観点から、基材層12の厚みは、該基材層12の材質にもよるが、5μm以上、特に10μm以上であることが好ましい。また500μm以下、特に300μm以下であることが好ましい。具体的には、基材層12の厚みは、5μm以上500μm以下であることが好ましく、10μm以上300μm以下であることが更に好ましい。基材層12の厚みは、(株)キーエンス製のレーザ変位計LK−G82を用いて無荷重下に測定する。
【0015】
基材層12は単層又は多層の構造であり得る。また基材層12は、ナノファイバ層11に対して直接積層されていることが好ましい。つまり、基材層12とナノファイバ層11との間には、何らの層も介在していないことが好ましい。この場合、基材層12は、ナノファイバ層11に対して剥離可能に積層されていることが好ましい。このような構成とすることで、積層体10を、例えばナノファイバ層11がヒトの肌に向けて貼付した後に、基材層12をナノファイバ層11から剥離除去して、ナノファイバ層11を、ヒトの肌に残すことが可能になるという利点がある。
【0016】
基材層12としては、例えばポリオレフィン系の樹脂やポリエステル系の樹脂を始めとする合成樹脂製のフィルムを用いることができる。基材層12を、ナノファイバ層11に対して剥離可能に積層する場合には、フィルムにおけるナノファイバ層11との対向面に、シリコーン樹脂の塗布やコロナ放電処理などの剥離処理を施しておくことが、剥離性を高める観点から好ましい。フィルムの厚みやテーバーこわさは、先に述べた範囲に設定することが好ましい。
【0017】
基材層12としては、通気性を有するシートを用いることもできる。通気性を有するシートを用いることで、基材層12を、ナノファイバ層11に対して一層剥離可能に積層することができる。この場合、基材層12単独での通気性は、JIS P8117に規定される透気抵抗度(ガーレー)で表して、0.01秒/100mL以上であることが好ましく、また30秒/100mL以下、特に20秒/100mL以下であることが好ましい。具体的には、0.01秒/100mL以上30秒/100mL以下、特に0.01秒/100mL以上20秒/100mL以下であることが好ましい。通気性を有するシートとしては、例えばメッシュシート;不織布、織布、編み地、紙などの繊維シート;及びそれらの積層体などを用いることができる。繊維シートを構成する繊維としては、繊維形成性の合成樹脂からなる繊維や、コットン及びパルプなどのセルロース系の天然繊維を用いることができる。繊維シートの坪量は、強度や取り扱い性を考慮して、0.1g/m
2以上100g/m
2以下、特に0.5g/m
2以上50g/m
2以下であることが好ましい。一方、通気性を有するシートとしてメッシュシートを用いる場合には、メッシュの目開きは、透気抵抗度が上述した範囲であることを条件として、20メッシュ/インチ以上200メッシュ/インチ以下、特に50メッシュ/インチ以上150メッシュ/インチ以下とすることが好ましい。メッシュの線径は、10μm以上200μm以下、特に30μm以上150μm以下であることが好ましい。メッシュシートを構成する材料としては、上述したフィルムを構成する材料と同様のものを特に制限なく用いることができる。
【0018】
基材層12と積層されるナノファイバ層11は、ナノファイバを含んで構成されている層である。ナノファイバ層11は、ナノファイバのみから構成されていることが好ましい。尤も、本発明の効果を損なわない限りにおいて、ナノファイバ層11が、ナノファイバに加えて、ナノファイバよりも太い他の繊維を含むことや、ナノファイバ以外の成分を含むことは妨げられない。ナノファイバは、その太さを円相当直径で表した場合、一般に10〜3000nm、特に10〜1000nmのものである。ナノファイバの太さは、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)観察によって測定することができる。
【0019】
ナノファイバの長さは本発明において臨界的でなく、ナノファイバの製造方法に応じた長さのものを用いることができる。また、ナノファイバは、ナノファイバ層11において、一方向に配向した状態で存在していてもよく、あるいはランダムな方向を向いていてもよい。更に、ナノファイバは、一般に中実の繊維であるが、これに限られず、例えば中空のナノファイバを用いることもできる。
【0020】
ナノファイバ層11においては、ナノファイバは、それらの交点において結合しているか、又はナノファイバどうしが絡み合っている。それによって、ナノファイバ層11は、それ単独でシート状の形態を保持することが可能となる。ナノファイバどうしが結合しているか、あるいは絡み合っているかは、ナノファイバ層11の製造方法によって相違する。
【0021】
ナノファイバは、高分子化合物を原料とするものである。高分子化合物としては、天然高分子及び合成高分子のいずれをも用いることができる。この高分子化合物は、水溶性のものでもよく、水不溶性のものでもよい。天然高分子としては、例えばキチン、キトサン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ヘパリン、ケラト硫酸等のムコ多糖、セルロース、ペクチン、プルラン、キシラン、リグニン、グルコマンナン、ガラクツロン、サイリウムシードガム、タマリンド種子ガム、アラビアガム、トラガントガム、変性コーンスターチ、大豆水溶性多糖、アルギン酸、カラギーナン、ラミナラン、寒天(アガロース)、フコイダン等を用いることができる。
【0022】
本明細書において「水溶性高分子化合物」とは、1気圧・常温(20℃±15℃)の環境下において、高分子化合物を、該高分子化合物に対して10倍以上の質量の水に浸漬し、十分な時間(例えば24時間以上)が経過したときに、浸漬した高分子化合物の50質量%以上が溶解する程度に水に溶解可能な性質を有する高分子化合物をいう。また、本明細書において「水不溶性高分子化合物」とは、1気圧・常温(20℃±15℃)の環境下において、高分子化合物を、該高分子化合物に対して10倍以上の質量の水に浸漬し、十分な時間(例えば24時間以上)が経過したときに、浸漬した高分子化合物の80質量%以上が溶解しない程度に水に溶解しづらい性質を有する高分子化合物をいう。
【0023】
合成高分子としては、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチル、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリウレタン、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリエチレングリコール、ポリ乳酸グリコール、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレンオキシド等を用いることができる。
【0024】
ナノファイバ層11は単層構造であってもよく、あるいは多層構造であってもよい。ナノファイバ層11が単層構造である場合、該ナノファイバ層11は水不溶性であることが好ましい。一方、多層構造である場合、各層は水溶性のものであってもよく、あるいは水不溶性のものであってもよい。例えば水溶性の第1ナノファイバ層と、水不溶性の第2ナノファイバ層との2層構造のナノファイバ層11を用いることができる。この場合、基材層12との対向面に、第1ナノファイバ層及び第2ナノファイバ層のいずれを位置させてもよいが、好ましくは基材層12との対向面に第2ナノファイバ層を配置し、積層体10の外方を向く面に第1ナノファイバ層を配置することが、ナノファイバ層11を対象物に安定的に貼付固定し得る点から好ましい。
【0025】
ナノファイバ層11の厚みは、該ナノファイバ層11が単層構造であるか、多層構造であるかを問わず、積層体10の具体的な用途に応じて適切な範囲が設定される。積層体10を、例えばヒトの肌に貼付するために用いる場合には、ナノファイバ層11の厚みを50nm以上1mm以下、特に500nm以上500μm以下に設定することが好ましい。ナノファイバ層11の厚みは、(株)キーエンス製のレーザ変位計LK−G82を用いて無荷重下に測定する。
【0026】
ナノファイバシートとしての取り扱い性を良くするためには、乾燥状態で粘着力が発現しない方が好ましい。本発明の積層体10によれば、乾燥状態でナノファイバ層11に粘着性が発現していなくても、ナノファイバの微細構造に起因してナノファイバ層11に本来的に発現する密着力によって、該ナノファイバ層11の対象物への転写が容易になる。
【0027】
図1に示すとおり、積層体10は、その厚み方向に沿った断面を観察したとき、ナノファイバ層11と基材層12との積層厚みが異なる少なくとも2つの領域を有している。具体的には、相対的に積層厚みが大きい第1領域21と、第1領域21よりも積層厚みが相対的に小さい第2領域22とを有している。第1領域21と第2領域22とは直接に隣接しており、両領域の間に他の領域は存在していない。第1領域21においては、その全域において厚みは一定になっている。第2領域22についても同様であり、第2領域22はその全域において厚みが一定になっている。第1領域21及び第2領域22それぞれの積層厚みは、例えば(株)キーエンス製のレーザ変位計LK−G82を用いて無荷重下に測定することができる。
【0028】
第1領域21は、基材層12をナノファイバ層11から剥離するときの起点となる領域である。一方、第2領域22は、基材層12とナノファイバ層11とが密着している領域であり、ナノファイバ層11を対象物に貼付するまでの間、ナノファイバ層11を基材層12に支持させておき、該ナノファイバ層11の取り扱い性を高めるための領域である。
【0029】
積層体10の厚み方向に沿って観察したとき、第1領域21のナノファイバ層は、積層体10の外方を向く外方部位31と、基材層12と対向接触する内方部位32とを有している。外方部位31と内方部位32とはナノファイバ層の厚み方向に連続しながら隣接している。両部位の間に他の部位は介在していない。外方部位31は、繊維の存在密度が相対的に高い部位である。繊維の存在密度とは、繊維絡合体の厚さ方向と平行な任意の断面1mm
2当たりに存在する繊維の本数である。内方部位32は、繊維の存在密度が外方部位31よりも相対的に低い部位であり、空気を多量に含んでいる。積層体10を平面視したとき、外方部位31と内方部位32とは同形をしており、かつ同位置に存在している。
【0030】
一方、第2領域22に関しては、該領域22における繊維の存在密度は一定になっている。そして、第2領域22の繊維の存在密度は、第1領域21の外方部位31の繊維の存在密度と略一致しており、第2領域22と第1領域21の外方部位31とは、継ぎ目なく連続している。したがって、第2領域22と、第1領域21の内方部位32との繊維の存在密度を比較すると、第2領域22の繊維の存在密度の方が、第1領域21の内方部位32の繊維の存在密度よりも高くなっている。なお上述した「略一致している」とは、第2領域22の繊維の存在密度を基準として、第2領域22の繊維の存在密度と第1領域21の外方部位31の繊維の存在密度との差が±1%の範囲内であることをいう。
【0031】
第1領域21の内方部位32と基材層12との付着力をF
1とし、第2領域22と基材層12との付着力をF
2としたとき、本発明においては、F
2>F
1であることが好ましい。付着力F
1,F
2の差異は、主として、繊維の存在密度の差異に起因している。上述のとおり、第1領域21の内方部位32の繊維の存在密度の方が、第2領域22の繊維の存在密度よりも低くなっており、かつ空気を多量に含んだ層になっているので、そのことに起因して、第1領域21の内方部位32の付着力F
1の方が、第2領域22の付着力F
2よりも低くなる。
【0032】
図2には、積層体10を、ナノファイバ層11の側から平面視した状態での一例が示されている。積層体10は、長手方向Xとそれに直交する幅方向Yとを有する縦長の形状を有している。ナノファイバ層11において、積層厚みの大きな第1領域21は、基材層12をナノファイバ層11から剥がし始める位置Pを含む縁Eに沿って幅Wを有するように存在している。縁Eは、積層体10の輪郭の一部をなしている。幅Wの方向は、基材層12をナノファイバ層11から剥がす方向と同方向とする。
図2に示す実施形態では、紙面の左右方向が幅Wの方向となる。基材層12をナノファイバ層11から剥がす方向は、一般に、平面視での積層体10における長手方向X又は幅方向Yと一致する。
図2に示す実施形態では、剥がす方向は長手方向と一致している。
【0033】
積層体10を対象物に付着させて、ナノファイバ層11を対象物の表面に転写する操作を容易にする観点から、積層体10のサイズは、該積層体10の平面視での投影図における最長線を横幅とし、横幅と直交する方向の長さを縦幅としたとき、横幅及び縦幅はいずれも30cm以下、特に25cm以下であることが好ましい。また、1cm以上、特に1.5cm以上であることが好ましい。具体的には、横幅及び縦幅は1cm以上30cm以下であることが好ましく、1.5cm以上25cm以下であることが更に好ましい。横幅及び縦幅は同一でも良く、あるいは異なっていてもよい。
【0034】
第1領域21と第2領域22とは、積層体10の幅方向Yに沿って延びる直線Lを境界線として長手方向Xに沿って隣接している。第1領域21は、剥がし始める位置Pから境界線Lまでの長さである幅Wが、好ましくは0.5mm以上、更に好ましくは1mm以上になっている。剥がし始める位置Pは、縁E上の位置からの幅Wが0.5mm以上となる位置とする。なお第1領域21は、縁E上の任意の位置からの幅Wがすべて0.5mm以上であることは要せず、縁E上の少なくとも1点の位置、例えば剥がし始める位置Pからの幅Wが0.5mm以上であればよい。幅Wの上限値は、20mm以下であることが好ましく、10mm以下であることが更に好ましい。具体的には、幅Wは0.5mm以上20mm以下であることが好ましく、1mm以上10mm以下であることが更に好ましい。
【0035】
第1領域21は、基材層12をナノファイバ層11から剥がす方向と直交する方向の長さDが、積層体10の幅方向Yの長さに対して30%以上であることが好ましく、50%以上であることが更に好ましい。また、100%以下であることが好ましい。具体的には、長さDは、積層体10の幅方向Yの長さに対して30%以上100%以下であることが好ましく、50%以上100%以下であることが更に好ましい。
【0036】
積層体10の平面視の状態で、第1領域21が占める面積の割合は3%以上であることが好ましく、4%以上であることが更に好ましい。また、80%以下であることが好ましく、50%以下であることが更に好ましい。具体的には、第1領域21が占める面積の割合は3%以上80%以下であることが好ましく、4%以上50%以下であることが更に好ましい。この範囲に設定することで、ナノファイバ層11の取り扱い性を高めつつ、基材層12を容易に剥離することができる。
【0037】
図3には、
図2に示す形態の積層体10の斜視図が示されている。同図及び先に説明した
図1に示すとおり、基材層12はその周縁に摘まみ部13を有している。摘まみ部13は、基材層12のうち、ナノファイバ層11における第1領域21に対応する領域の周縁に位置している。摘まみ部13は、特に、基材層12をナノファイバ層11から剥がし始める位置Pに配置されていることが好ましい。摘まみ部13は、基材層12の延出部位からなり、摘まみ部13と基材層12とは一体的に形成されている。これに代えて、基材層12に別材としての摘まみ部13を取り付けてもよい。摘まみ部13は、基材層12をナノファイバ層11から剥離する操作を行うときに、操作者が指で摘まむことで剥離操作を容易にするために用いられる。
【0038】
以上の構成の積層体10によれば、第1領域21は、第2領域22に比べて、積層厚みが大きくなっているので、積層体10を指で摘まんだときに、第1領域21と第2領域22との厚みの差を容易に認識することができ、基材層12をナノファイバ層11から剥がす位置、すなわち第1領域21を容易に見つけることができるので、剥がす操作を円滑に行うことができる。特に、第1領域21と第2領域22とで、基材層12とナノファイバ層11との付着力F
1,F
2に差異があり、第1領域21の方が付着力が小さい場合には、第1領域21において、基材層12をナノファイバ層11から容易に剥離することができる。基材層12に、上述の摘まみ部13が設けられている場合には、剥離操作を一層容易に行うことができる。
【0039】
積層体10は、例えばヒトやヒト以外の動物の皮膚、歯茎、歯などの対象物の表面に適用することができる。一例として、ヒトの肌に貼付されて使用される美容のための皺隠しシートや、美容のためのシミ隠しシートが挙げられる。積層体10を対象物の表面に付着させる場合、積層体10におけるナノファイバ層11の表面又は対象物の表面を、液状物で湿潤させた状態下に、該ナノファイバ層11を対象物の表面に対向させて当接させることが好ましい。これによって、表面張力の作用でナノファイバ層11が対象物の表面に良好に密着する。次いで、積層体10における第1領域21において基材層12をナノファイバ層11から剥離することで、ナノファイバ層11が対象物の表面に転写される。特に、ナノファイバ層11に水溶性ポリマーを含むナノファイバが含有されている場合には、前記液状物を対象物とナノファイバ層11との間に介在させることで、水溶性ポリマーが液状物に溶解して、溶解した水溶性ポリマーがバインダとして作用して、ナノファイバ層11と対象物との密着性が一層向上するという利点がある。この利点を一層顕著なものとする観点から、ナノファイバ層11を、基材層12側に位置する水不溶性ナノファイバを含む水不溶性ナノファイバ層と、積層体10の外面を向き、かつ水溶性ナノファイバを含む水溶性ナノファイバ層との多層構造とすることが好ましい。
【0040】
積層体10におけるナノファイバ層11の表面又は対象物の表面を湿潤状態にするためには、例えば各種の液状物を該面に塗付又は噴霧すればよい。塗布又は噴霧される液状物としては、例えば、水を含み、かつ5000mPa・s程度以下の粘性を有する物質が用いられる。そのような液状物としては、例えば水、水溶液及び水分散液等が挙げられる。またO/WエマルションやW/Oエマルション等の乳化液、増粘剤で増粘された水溶液なども挙げられる。具体的には、対象物である肌の表面を湿潤させるための液体として、化粧水、乳液や化粧クリームを用いることができる。
【0041】
また、積層体10におけるナノファイバ層11の面のうち、外方を向く面は、該面にイオン交換水を滴下して10秒後における静的接触角が140度以下、特に135度以下であることが好ましく、125度以下であることが更に好ましい。また、0度以上であることが好ましい。具体的には、静的接触角は0度以上140度以下、特に0度以上135度以下、更に0度以上125度以下であることが好ましい。静的接触角をこの範囲に設定することで、ナノファイバ層11が、液状物で湿潤させた対象物に接触する際に、短時間でなじむことができ、対象物とナノファイバ層11との密着性がより一層向上するので好ましい。
【0042】
静的接触角の具体的な測定方法は次のとおりである。測定装置には、協和界面科学(株)製の自動接触角計DM500を用いる。その装置を用い、23℃・50%RHの環境下、ナノファイバ層11の外面に5μLのイオン交換水を滴下する。滴下から10秒経過した後の接触角を測定する。
【0043】
対象物とナノファイバ層11との間に介在させる液状物は、該対象物がヒトの肌である場合には、ナノファイバ層11の肌への転写後に、乾燥に起因して該ナノファイバ層11が白く浮き上がることを防止する観点から、水そのものよりも、化粧水、乳液又はクリームなどの、油又は界面活性剤を含有する液を用いることが好ましい。
【0044】
積層体10において、基材層12の表面にナノファイバ層11を形成するには例えば、先に述べた特許文献1ないし4に記載されている公知の電界紡糸法を用いることができる。このようにして、
図4(a)に示すとおり、基材層12の一方の面に、高分子化合物のナノファイバを含むナノファイバ層11を形成する。次に、
図4(b)に示すとおり、形成されたナノファイバ層11のうち、第1領域21の形成予定域21Aを基材層12から一旦剥がして該形成予定域21Aを毛羽立たせる。その後に、
図4(c)に示すとおり、形成予定域21を基材層12に貼り付ける。これら一連の操作によって、ナノファイバ層11における第1領域21には、
図1に示すとおり、積層体10の外方を向く外方部位31と、基材層12と対向接触する内方部位32とが形成される。内方部位32はナノファイバの毛羽立ち部位から主として構成されているので、繊維の存在密度が低く、空気を多量に含む嵩高な状態になっている。したがって、内方部位32は基材層12との付着力が、第2領域22よりも低くなる。その結果、第1領域21は、第2領域22よりも基材層12から容易に剥離するようになる。
【0045】
図4(b)に示すとおり、形成されたナノファイバ層11のうち、第1領域21の形成予定域21Aを毛羽立たせる方法としては、次の手段を用いてもよい。すなわち、基材層12の一方の面に高分子化合物のナノファイバを含むナノファイバ層を形成する前に、あらかじめ、フィルムや紙といったシート状のマスキング材を第1領域21の形成予定域21Aと一致する状態で基材層12の上に重ねて配置する。そして、その上からナノファイバ層11を形成する。ナノファイバ層11を形成した後、マスキング材を取り除くことで、マスキング材とナノファイバ層11との対向面が摩擦により毛羽立ち、ナノファイバ層11における第1領域21には内方部位32が形成される。
【0046】
図5(a)ないし(c)には、積層体10の別の実施形態が示されている。
図5(a)においては、積層体10の輪郭が略円形であり、また第1領域21と第2領域22との境界線Lが直線ではなく、積層体10の外縁に向けて凸状に湾曲した滑らかな曲線となっている。
図5(b)においては、積層体10の輪郭が略円形であり、また第1領域21と第2領域22との境界線Lが波線になっている。
図5(c)においては、積層体10の輪郭が矩形であり、長手方向の端部から所定の距離だけ隔てた矩形の領域が第1領域21になっている。
【実施例】
【0047】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」及び「部」はそれぞれ「質量%」及び「質量部」を意味する。
【0048】
〔実施例1〕
水溶性高分子化合物としてプルラン(林原商事(株))を用いた。1.5gのプルランを8.5gのイオン交換水に溶解して水溶性ナノファイバ形成液を得た。また、水不溶性高分子化合物としてポリビニルブチラール(エスレック(登録商標)BM−1、積水化学工業(株))を用いた。1.2gのポリビニルブチラールを8.8gのエタノールに溶解して水不溶性ナノファイバ形成液を得た。
シリコーン樹脂によって剥離処理された厚み45μmの剥離紙を基材層として用いた。剥離紙は長さ40mm、幅20mmのものであった。剥離紙の長手方向端部は、所定幅で折り返されて、摘まみ部が形成されていた。剥離紙のテーバーこわさは0.05mNmであった。
電界紡糸装置を用い、剥離紙の剥離面に向けて、水不溶性ナノファイバ形成液を噴霧して水不溶性ナノファイバ層を形成した。印加電圧は32kV、電極間距離は200mm、液吐出量は1mL/hとした。
その上に、電界紡糸装置を用い、水溶性ナノファイバ形成液を噴霧して水溶性ナノファイバ層を形成した。印加電圧は28kV、電極間距離は200mm、液吐出量は1mL/hとした。このようにして形成された2層構造のナノファイバ層の厚みは75μmであった。
剥離紙の長手方向端部から1.2mmまでの間の第1領域形成予定域に存在するナノファイバ層を手で一旦剥離して毛羽立たせた。20秒経過後に、剥離したナノファイバ層を剥離紙に付着させた。このようにして第1領域及び第2領域からなるナノファイバ層を有する積層体を得た。第1領域における積層厚みは230μmであり、第2領域における積層厚みは120μmであった。第1領域の面積の割合は3%であった。また、ナノファイバ層の面のうち、外方を向く面の静的接触角は32度であった。
【0049】
〔実施例2〕
実施例1において、剥離紙の長手方向端部から32mmまでの間の第1領域形成予定域に存在するナノファイバ層を手で一旦剥離して毛羽立たせた。20秒経過後に、剥離したナノファイバ層を剥離紙に付着させた。このようにして第1領域及び第2領域からなるナノファイバ層を有する積層体を得た。第1領域における積層厚みは230μmであり、第2領域における積層厚みは120μmであった。第1領域の面積の割合は80%であった。また、ナノファイバ層の面のうち、外方を向く面の静的接触角は32度であった。
【0050】
〔実施例3〕
水不溶性高分子化合物としてポリアミド(アミラン(登録商標)CM8000グレード、東レ(株))を用いた。1.0gのポリアミドを4.0gのエタノールに溶解して水不溶性ナノファイバ形成液を得た。
シリコーン樹脂によって剥離処理された厚み45μmの剥離紙を基材層として用いた。剥離紙は長さ40mm、幅20mmのものであった。剥離紙の長手方向端部は、所定幅で折り返されて、摘まみ部が形成されていた。
電界紡糸装置を用い、剥離紙の剥離面に向けて、水不溶性ナノファイバ形成液を噴霧して水不溶性ナノファイバ層を形成した。印加電圧は35kV、電極間距離は200mm、液吐出量は1mL/hとした。このようにして形成された単層構造のナノファイバ層の厚みは35μmであった。
剥離紙の長手方向端部から1.2mmまでの間の第1領域形成予定域に存在するナノファイバ層を手で一旦剥離した。20秒経過後に、剥離したナノファイバ層を剥離紙に付着させた。このようにして第1領域及び第2領域からなるナノファイバ層を有する積層体を得た。第1領域における積層厚みは132μmであり、第2領域における積層厚みは80μmであった。第1領域の面積の割合は3%であった。また、ナノファイバ層の面のうち、外方を向く面の静的接触角は124度であった。
【0051】
〔実施例4〕
水不溶性高分子化合物としてポリビニルブチラール樹脂(S−LEC(登録商標)BM−1、積水化学工業(株))を用いた。1.2gのポリビニルブチラール樹脂を8.8gのエタノールに溶解して水不溶性ナノファイバ形成液を得た。
シリコーン樹脂によって剥離処理された厚み45μmの剥離紙を基材層として用いた。剥離紙は長さ40mm、幅20mmのものであった。剥離紙の長手方向端部は、所定幅で折り返されて、摘まみ部が形成されていた。
電界紡糸装置を用い、剥離紙の剥離面に向けて、水不溶性ナノファイバ形成液を噴霧して水不溶性ナノファイバ層を形成した。印加電圧は32kV、電極間距離は200mm、液吐出量は1mL/hとした。このようにして形成された単層構造のナノファイバ層の厚みは75μmであった。
剥離紙の長手方向端部から1.2mmまでの間の第1領域形成予定域に存在するナノファイバ層を手で一旦剥離した。20秒経過後に、剥離したナノファイバ層を剥離紙に付着させた。このようにして第1領域及び第2領域からなるナノファイバ層を有する積層体を得た。第1領域における積層厚みは141μmであり、第2領域における積層厚みは120μmであった。第1領域の面積の割合は3%であった。また、ナノファイバ層の面のうち、外方を向く面の静的接触角は133度であった。
【0052】
〔比較例1〕
実施例1において、ナノファイバ層の剥離及びそれに引き続く付着を行わなかった。これ以外は実施例1と同様にして積層体を得た。
【0053】
〔比較例2〕
実施例1において、剥離紙の長手方向端部から34mmまでの間の第1領域形成予定域に存在するナノファイバ層を手で一旦剥離した。20秒経過後に、剥離したナノファイバ層を剥離紙に付着させた。このようにして第1領域及び第2領域からなるナノファイバ層を有する積層体を得た。第1領域における積層厚みは230μmであり、第2領域における積層厚みは120μmであった。第1領域の面積の割合は85%であった。また、ナノファイバ層の面のうち、外方を向く面の静的接触角は32度であった。
【0054】
〔評価1〕
実施例及び比較例で得られた積層体について、ヒトの肌へのナノファイバ層の転写の良否を評価した。健常なヒトの上腕内側部を4μL/cm
2の量のイオン交換水で濡らし、その部位に、積層体におけるナノファイバ層が対向するように該ナノファイバ層を当接させた。次いで、摘まみ部を指で摘まんで引き上げてナノファイバ層を肌に転写させる操作を行った。この操作を5回行い、転写成功回数が4回又は5回である場合を「○」とし、2回又は3回である場合を「△」とし、1回以下である場合を「×」と評価した。その結果を以下の表1の転写評価1に示す。
【0055】
〔評価2〕
実施例及び比較例で得られた積層体について、ヒトの肌へのナノファイバ層の転写の良否を評価した。健常なヒトの上腕内側部を4μL/cm
2の量の「ソフィーナボーテ(登録商標)化粧水とてもしっとり」(花王(株)製)で濡らし、その部位に、積層体におけるナノファイバ層が対向するように該ナノファイバ層を当接させた。次いで、摘まみ部を指で摘まんで引き上げてナノファイバ層を肌に転写させる操作を行った。この操作を5回行い、転写成功回数が4回又は5回である場合を「○」とし、2回又は3回である場合を「△」とし、1回以下である場合を「×」と評価した。その結果を以下の表1の転写評価2に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
表1に示す結果から明かなとおり、各実施例の積層体を用いると、ナノファイバ層を肌に首尾よく転写できることが判る。これに対して、比較例1の積層体は、基材層にナノファイバ層が一部残留してしまった。比較例2の積層体は、ナノファイバ層が剥離してしまい、取り扱い性が困難であった。