(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
プロテインAのE、D、A、B、およびCドメインから選択されるいずれかのドメインに由来し、全てのLys(リジン残基)にアミノ酸置換変異を導入したアミノ酸配列を2以上含み、
前記アミノ酸配列同士がリンカーによって連結されており、かつ、
少なくとも1つのリンカーがLys(リジン残基)またはCys(システイン残基)を含むことを特徴とするタンパク質。
請求項9に記載のDNA若しくは請求項10に記載のベクターを用いた無細胞タンパク質合成系、または、請求項11に記載の形質転換体を用いる、請求項1〜8のいずれか1項に記載のタンパク質の製造方法。
請求項1〜8のいずれか1項に記載のタンパク質をアフィニティーリガンドとして水不溶性の基材からなる担体に固定化することからなる、請求項13〜15のいずれかに記載のアフィニティー分離マトリックスの製造方法。
請求項13〜15のいずれかに記載のアフィニティー分離マトリックスに免疫グロブリンのFc領域を含むタンパク質を吸着させることを含む、免疫グロブリンのFc領域を含むタンパク質の精製方法。  
同一の標的分子に対する2以上の結合ドメインをリンカーによって連結して得られるアフィニティーリガンドを、担体に固定化することからなるアフィニティー分離マトリックスの製造方法であって、
アフィニティーリガンドを、少なくとも1つのリンカーに含まれる少なくとも1つのアミノ酸残基を介して、結合ドメインのコア領域を介さず、担体に固定化することを含む、アフィニティー分離マトリックスの製造方法。
さらに、アフィニティーリガンドを、N末端領域および/またはC末端領域を介して担体に固定化することを含む、請求項18に記載のアフィニティー分離マトリックスの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0037】
アミノ酸を置換する変異の表記について、置換位置の番号の前に、野生型、または、非変異型のアミノ酸を付し、置換位置の番号の後に、変異したアミノ酸を付して表記する。例えば、29位のGlyをAlaに置換する変異は、G29Aと記載する。
 
【0038】
「タンパク質」という用語は、ポリペプチド構造を有するあらゆる分子を含むものであって、断片化された、または、ペプチド結合によって連結されたポリペプチド鎖も、「タンパク質」という用語に包含される。また、「ドメイン」とは、タンパク質の高次構造上の単位であり、数十から数百のアミノ酸残基配列から構成され、なんらかの物理化学的または生物化学的な機能を発現するに十分なタンパク質の単位をいう。
 
【0039】
「アフィニティーリガンド」とは、抗原と抗体の結合に代表される、特異的な分子間の親和力に基づいて、ある分子の集合から標的(目的)の分子を選択的に捕集(結合)する物質を指す用語であり、単に「リガンド」と表記した場合も、「アフィニティーリガンド」と同意である。
 
【0040】
本発明におけるアフィニティーリガンドは、標的分子結合ドメイン(単量体タンパク質、単ドメイン)が2個以上、好ましくは2〜10個、より好ましくは2〜8個、さらに好ましくは2〜6個、最も好ましくは3〜6個連結された多量体タンパク質(複ドメイン型タンパク質)である。これらの多量体タンパク質は、同一の標的分子結合ドメインの連結体であるホモダイマー、ホモトリマー等のホモポリマーであっても良いし、標的分子が同一であれば、複数種類の標的分子結合ドメインの連結体であるヘテロダイマー、ヘテロトリマー等のヘテロポリマーであってもよい。
 
【0041】
本発明における標的分子結合ドメインは、リンカーを介して連結される。リンカーを介した連結は、単量体タンパク質の3次元立体構造を不安定化しない方法であることが好ましい。
 
【0042】
また、実施形態の1つとして、本発明のタンパク質を1つの構成成分として、機能の異なる他のタンパク質と融合させてもよい。融合タンパク質の例としては、アルブミンやGST(グルタチオンS−トランスフェラーゼ)が融合したタンパク質を例として挙げることができるが、これに限定されるものではない。また、DNAアプタマーなどの核酸、抗生物質などの薬物、PEG(ポリエチレングリコール)などの高分子が融合されている場合も、本発明で得られたタンパク質の有用性を利用するものであれば、本発明に包含される。
 
【0043】
タンパク質を担体に固定化する際に利用される、タンパク質側の活性基は、N末端アミノ酸のアミノ基、リジン(Lys)側鎖のアミノ基、システイン(Cys)側鎖のチオール基、C末端アミノ酸のカルボキシル基、またはグルタミン酸(Glu)側鎖およびアスパラギン酸(Asp)側鎖のカルボキシル基等であるが(非特許文献4)、これらに限定されるものではない。
 
【0044】
したがって「担体に固定化する反応に利用するアミノ酸残基」とは、例えば、アミノ基を固定化反応に係わる官能基として反応に利用する場合には、N末端アミノ酸およびリジンが該アミノ酸残基となる。なお、官能基のpKaの違いを利用して、例えばリジンのεアミノ基のみが固定化反応に係わる官能基となる場合には、リジンのみが該アミノ酸残基となる。すなわち、本発明によって得られるタンパク質は、担体に固定化して利用することが前提となっておリ、その観点から、「担体に固定化する反応に利用するアミノ酸残基」は、担体に固定化する反応の種類によって一義的に決定されるものである。反応性の観点から、固定化に利用するアミノ酸は、リジンまたはシステインであることが好ましい。官能基は、リジンのアミノ基、または、システインのチオール基であることが好ましい。システインを含むタンパク質はダイマーを形成しやすいので、タンパク質としての扱いやすさという観点からは、「担体に固定化する反応に利用するアミノ酸残基」がリジンであることがより好ましい。
 
【0045】
「ドメイン間リンカー領域」とは、連結された標的結合ドメインの連結部、すなわち、N末端側のドメイン配列のC末端領域とC末端側のドメイン配列のN末端領域がつながって出来る領域を指し、ドメインがタンデムにN個連結されたタンパク質において、リンカー領域はN−1個存在する。つまり、本明細書中においては、連結するN末端側のドメインのC末端アミノ酸と、C末端側のドメインのN末端アミノ酸の、少なくとも2個以上のアミノ酸残基からなる領域を、「ドメイン間リンカー領域」と定義する。
 
【0046】
先述の通りに、リンカー領域には、1または複数の、ドメイン配列以外のアミノ酸残基が含まれていてもよい。リンカー領域に含まれるアミノ酸残基数は、好ましくは16残基以内であり、より好ましくは8残基以内であり、さらに好ましくは4残基以内である。リンカーはリジン又はシステインを含むことが好ましく、リジンを含むことがより好ましい。
 
【0047】
本明細書における「N末端領域」および「C末端領域」は、好ましくは8残基以内であり、より好ましくは4残基以内であり、さらに好ましくは2残基以内であり、さらにより好ましくは1残基以内(いわゆるN末端、またはC末端)である。本発明のタンパク質は、少なくとも一方の末端に、リジン又はシステインを有していてもよい。
 
【0048】
本明細書における「コア領域」とは、連結する各々のドメイン配列において、N末端領域、および、ドメインのC末端領域を除く全ての領域を指す。さらに、本発明では2個以上のドメインを連結するので、「コア領域」は各々のドメイン間リンカー領域、および、タンパク質のN末端領域(最もN末端側に位置するドメインのN末端領域)、および、タンパク質のC末端領域(最もC末端側に位置するドメインのC末端領域)を除く、全ての領域を指す。
 
【0049】
本発明書における、ドメインのN末端/C末端領域を、別の観点から定義すると、ドメインの両末端に位置する特定の二次構造を取らない領域と定義することも可能である。すなわち、N末端/C末端領域は、特定の二次構造を取る領域に比べて、可動性(柔軟性)が高い。ここでいう二次構造とは、α−ヘリックス構造およびβ−ストランド(シート)構造およびターン構造が挙げられるが、これらに限定はされない。
 
【0050】
標的結合ドメインの二次構造は、同一または類似のアミノ酸配列の立体構造情報から定義することが可能である。アミノ酸配列の立体構造情報は、例えば、RCSB  Protein  Data  Bank(http://www.rcsb.org/pdb/home/home.do)から入手が可能であり、または、DSSP(http://swift.cmbi.ru.nl/gv/dssp/)のような二次構造アサイン用プログラムで推測することも可能であり、または、分光学的手法(X線、NMRなど)によって実験的に取得してもよい。
 
【0051】
なお、これらの情報の入手が困難な場合にも、ドメイン(タンパク質)のN末端/C末端のアミノ酸は、その可動性が高いことは明白である。したがって、本発明のタンパク質は、少なくとも1のアミノ酸残基からなる「N末端領域」および「C末端領域」は必ず有しており、さらに2以上のアミノ酸残基(一方のドメインのC末端アミノ酸ともう一方のドメインのN末端アミノ酸)からなる「リンカー領域」を有する。
 
【0052】
リガンドを担体に固定化する際に利用するアミノ酸残基が、その領域内において数残基程度位置がずれても、本発明の効果を奏する。
 
【0053】
また、本発明は、同一の標的分子に対する2以上の結合ドメインをリンカーによって連結して得られるアフィニティーリガンドを、担体に固定化することからなるアフィニティー分離マトリックスの製造方法であって、アフィニティーリガンドを、少なくとも1つのリンカーに含まれる少なくとも1つのアミノ酸残基を介して、結合ドメインのコア領域を介さず、担体に固定化することを含む、アフィニティー分離マトリックスの製造方法に関する。さらに、アフィニティーリガンドを、N末端領域および/またはC末端領域を介して担体に固定化することを含むことが好ましい。当該アフィニティーリガンドは、担体に固定化する反応に利用するアミノ酸残基が、(A)タンパク質の各々のドメイン間リンカー領域の少なくとも1つの領域に少なくとも1個以上存在し、かつ、(B)タンパク質のN末端領域および/またはC末端領域に存在してもよく、かつ、(C)タンパク質の各々のドメインのコア領域中には存在しないタンパク質である。当該タンパク質について、3個の標的分子結合ドメインが連結されたタンパク質を例に挙げて補足する。
 
【0054】
なお、簡略化のため、「3個の標的分子結合ドメインが連結されたタンパク質」は「3ドメイン体」と、「担体に固定化する反応に利用するアミノ酸残基」は「固定化用残基」と、それぞれ表記する。本明細書の定義に従うと、3ドメイン体は2個のリンカー領域を有することになる。
 
【0055】
つまり、本発明で得られるタンパク質は、(A)の条件を満たすために、リンカー領域に、少なくとも1個以上の固定化用残基を有することになり、つまり、固定化用残基の形態は、(a)N末端側のリンカー領域にのみ存在、(b)C末端側のリンカー領域にのみ存在、または、(c)両方のリンカー領域に存在の、いずれかの形態となる。固定化用残基は、両方のリンカー領域に存在することが、好ましい。
 
【0056】
(B)の条件については、次の(d)〜(g)の4つの形態が考えられる。固定化用残基が3ドメイン体の、(d)N末端領域にのみ存在、(e)C末端領域にのみ存在、(f)N末端領域およびC末端領域の両方に存在、または、(g)N末端領域およびC末端領域のどちらにも存在しない、の4つの形態である。
 
【0057】
そして、(C)の条件を満たすため、固定化用残基は上記に示した形態以外に、タンパク質中に存在することはない。
図1を用いて説明すると、タンパク質が3ドメイン体であり、かつ、固定化用残基は各々のリンカー/末端領域に1個ずつである場合には、
図1の(4)〜(15)のいずれかの形態となる。
 
【0058】
各々のリンカー領域(N/C末端領域)の固定化残基の数は、1〜8個が好ましく、1〜4個がより好ましく、1〜2個がさらに好ましく、1個であるのがさらにより好ましい。
 
【0059】
また、タンパク質(複ドメイン体1分子中)の固定化残基の数は、リガンドのリークを抑制する観点からは、多い方が好ましい。タンパク質中のドメイン数をNとすると、N−2個以上であることが好ましく、N−1個以上であることがより好ましく、N個以上であることがさらに好ましい。
 
【0060】
本発明における、アフィニティーリガンドが標的とする分子は、標的分子結合ドメインが結合可能な全ての分子であるが、例えば、免疫グロブリンのFc領域を含むタンパク質が挙げられ、具体的には、免疫グロブリンG(IgG)および免疫グロブリンG誘導体が挙げられる。
 
【0061】
ここで、「免疫グロブリンG誘導体」とは、例えば、ヒト免疫グロブリンGの一部のドメインを他生物種の免疫グロブリンGのドメインに置き換えて融合させたキメラ型免疫グロブリンGや、ヒト免疫グロブリンGのCDR(Complementarity  Determinig  Regions)部分を他生物種抗体のCDR部分に置き換えて融合させたヒト型化免疫グロブリンG、Fc領域の糖鎖に分子改変を加えた免疫グロブリンG、ヒト免疫グロブリンGのFv領域とFc領域とを融合させた人工免疫グロブリンGなどの、改変型人工タンパク質を総称する名称である。
 
【0062】
免疫グロブリンGおよび免疫グロブリンG誘導体を標的とする標的分子結合ドメインは、様々な免疫グロブリン結合性タンパク質に含まれる。その免疫グロブリン結合性タンパク質の種類としては、Staphylcoccus  aureus由来のプロテインA、Streptococcus  sp.Group  C/G由来のプロテインG、Peptostreptococcus  magnus由来のプロテインL、groupA  Streptococcus由来のプロテインH、Haemophilus  influenzae由来のプロテインD、Streptococcus  AP4由来のプロテインArp、ヒト由来FcγR等が例として挙げられるが、これらに限定されるものではない。
 
【0063】
本発明において、免疫グロブリンG結合ドメインとして、プロテインAのE、D、A、B、および、Cドメインが挙げられる。これらのドメインは、免疫グロブリンの相補性決定領域(CDR)以外の領域に結合することができる免疫グロブリン結合性タンパク質であり、免疫グロブリンのFc領域、Fab領域、および、Fab領域中の特にFv領域の、各々の領域に対して結合する。一般的には、各々のドメインは、Fab(Fv)領域よりもFc領域に対してより強く結合する(非特許文献3)。
 
【0064】
本発明において、担体に固定化する反応に利用するアミノ酸残基がリジン残基である場合には、プロテインAの免疫グロブリン結合ドメインのアミノ酸配列中の、末端を除く全てのLysがLys以外のアミノ酸で置換変異されたアミノ酸配列を連結の対象にする必要がある。
 
【0065】
なお、末端を含めて全てのLys残基がLys以外のアミノ酸で置換変異されたアミノ酸配列にした後で、ドメイン配列の末端領域の1つ以上のアミノ酸をLysに置換変異したアミノ酸配列を利用しても良いし、ドメイン配列以外のアミノ酸として、1つ以上のLys残基をリンカー領域や末端領域に付与しても良い。
 
【0066】
また、担体に固定化する反応に利用するアミノ酸残基がシステインである場合には、プロテインAの免疫グロブリン結合ドメインのアミノ酸配列中にCysは含まれないので、ドメイン配列の末端領域の1つ以上のアミノ酸をCysに置換変異したアミノ酸配列、または、ドメイン配列以外のアミノ酸として、1つ以上のCys残基をリンカー領域や末端領域に付与すれば良い。
 
【0067】
このように、本発明においては、連結する標的分子結合ドメインの末端領域を除くアミノ酸配列中に、担体に固定化し得るアミノ酸残基が存在する場合には、それらのアミノ酸残基を置換変異することが必要である。同時に、本発明の変異を導入することによって、標的分子結合ドメインがその標的分子に対する結合力を失わないことが重要である。
 
【0068】
本発明における具体的な実施形態の1つとして、配列番号1〜5に示す、野生型のプロテインAのE、D、A、B、および、Cドメインのいずれかのドメインの配列を基に例示する。各々のドメインは、
図2に示すような形でアラインメントすることができる。
 
【0069】
簡略化のために、ここではCドメイン(配列番号5)を基準として例示する。例えば、残基番号については、Cドメインの31位に対応する残基は、A、Bドメインでは、同じ31位であり、Eドメインでは29位、Dドメインでは34位に相当する。「全てのLys(リジン残基)」は、プロテインAのE、D、A、Bドメインにおける、Cドメインの4、7、35、49、50、および、58位に対応する6つのLysのことを指す。各々のドメインは互いに配列同一性が高く、アラインメントすることができる。例えば、アミノ酸配列多重アラインメント用プログラムであるClustal(http://www.clustal.org/omega/)で確かめることが可能である。
 
【0070】
プロテインAのCドメインの場合のみ、4、7、35、42、49、50、および、58位の7つのLys残基のことを指す。ただし、変異を導入する前のアミノ酸配列が欠失変異を受けた配列の場合、例えば1〜4位が欠失した配列の場合は、上述の数に限定されない。さらに、「末端を除く全てのリジン残基」というのは、プロテインAの各ドメインの場合においては、Cドメインの58位のLysを除く全てのリジン残基に該当する。
 
【0071】
本発明においては、このCドメインのC末端のリジン残基は、連結したときに、ドメイン間のリンカー領域、または、連結後のタンパク質(複ドメイン体)のC末端領域に必ず存在する。したがって、リジン残基を固定化に利用する際にも、このリジン残基だけは置換変異しなくてもよい。
 
【0072】
「Lys残基に対するアミノ酸置換変異」について、置換置換により導入されるアミノ酸の種類は、非タンパク質構成アミノ酸や非天然アミノ酸を含め、特に限定されないが、遺伝子工学的生産の観点から、天然型アミノ酸を好適に用いることができる。
 
【0073】
さらに、アミノ酸置換変異は、半数以上がアルギニン(Arg)への置換変異であることが好ましく、2つを除いて全てがArgへの置換変異であることがより好ましく、1つを除いて全てがArgへの置換変異であることがさらに好ましく、全てがArgへの置換変異であることがさらにより好ましい。これは、ArgはLysと物性が似た塩基性アミノ酸であり、タンパク質全体の物性に与える影響が比較的小さいからである。
 
【0074】
本発明における具体的な実施形態の1つとして、本発明の変異を導入する前の配列は、野生型のプロテインAのE、D、A、B、および、Cドメインの変異体であってもよい。例えば、配列番号6に示す、BドメインにA1VとG29Aという変異を導入したZドメインと呼ばれるアミノ酸配列も、Bドメインに由来する配列であり、Zドメインに本発明の変異を導入することも、当然ながら、本発明の範囲に含まれる。
 
【0075】
なお、このZドメインについては、NMR分光法により、高い精度で立体構造が解明されており、過去に公知になったBドメイン、Eドメインの立体構造情報と合わせて、プロテインAの免疫グロブリンG結合ドメインのαヘリックス領域を定義している(Tashiro  M.他  著、「J.Mol.Biol.」、1997年、272巻、573−590頁、および、RCSB  Protein  Data  BankのPDB  code:2SPZ)。
 
【0076】
図2のアラインメントには、Zドメインの配列、および、定義されたαヘリックス構造のアサインを示している。「*」がαヘリックスであり、「n」が各々のドメインで保存されているヘリックスのNキャップ、「c」が各々のドメインで保存されているヘリックスのCキャップである。
 
【0077】
先述の通り、特定の二次構造を取らないN末端側/C末端側の配列を、ドメインのN末端/C末端領域と考える場合、プロテインAの免疫グロブリンG結合ドメインのN末端領域は、好ましくはCドメインの1位〜6位に対応するアミノ酸残基(E、Dドメインは長さが異なる)であり、より好ましくはCドメインの1位〜5位に対応するアミノ酸残基である。
 
【0078】
同様に、プロテインAの免疫グロブリンG結合ドメインのC末端領域は、好ましくはCドメインの55位〜58位に対応するアミノ酸残基であり、より好ましくは、57位〜58位に対応するアミノ酸残基である。
 
【0079】
本発明における実施形態を別の視点から示すと、本発明のタンパク質は、ドメインが連結されたタンパク質(複ドメイン体)において、各ドメインのN末端/C末端領域を除くドメイン内部領域には、担体への固定化点となるアミノ酸残基を含まない。本発明のタンパク質は、タンパク質中のドメイン内部領域を除く領域に、担体への固定化点となるアミノ酸残基を少なくとも1個含む。
 
【0080】
本発明の変異を導入する前のドメインのアミノ酸配列は、好ましくは、配列番号1〜5のいずれかのアミノ酸配列、または、配列番号1〜5のいずれかのアミノ酸配列に対して、以下の(1)〜(4)の少なくとも1つの変異を導入したアミノ酸配列である。
 
【0081】
(1)各ドメインにおけるCドメインの29位に対応するアミノ酸残基が、
Ala、Val、Leu、Ile、Phe、Tyr、Trp、Thr、Ser、Asp、Glu、Arg、His、または、Metのいずれかである、
(2)各ドメインにおけるCドメインの33位に対応するアミノ酸残基が、
Leu、Ile、Phe、Tyr、Trp、Thr、Asp、Glu、Asn、Gln、Arg、His、または、Metのいずれかである、
(3)各ドメインにおけるCドメインの36位に対応するアミノ酸残基が、
Leu、Ile、Phe、Tyr、Trp、Glu、Arg、His、または、Metのいずれかである、
(4)各ドメインにおけるCドメインの37位に対応するアミノ酸残基が、
Leu、Ile、Phe、Tyr、Trp、Glu、Arg、His、または、Metのいずれかである。
 
【0082】
さらに、より好ましくは、以下の(5)〜(8)の少なくとも1つの条件に合致するアミノ酸残基置換が導入されたアミノ酸配列である。
(5)各ドメインにおけるCドメインの29位に対応するアミノ酸残基が、
Ala、Glu、または、Argのいずれかである、
(6)各ドメインにおけるCドメインの33位に対応するアミノ酸残基が、
Leu、Thr、または、Gluのいずれかである、
(7)各ドメインにおけるCドメインの36位に対応するアミノ酸残基が、
Ile、または、Argのいずれかである、
(8)各ドメインにおけるCドメインの37位に対応するアミノ酸残基が、
Leu、Ile、Glu、Arg、または、Hisのいずれかである。
 
【0083】
本発明のタンパク質において、次に示す20個のアミノ酸残基が、90%以上保持されていることが好ましく、95%以上保持されていることがより好ましい。
 
【0084】
例えば、Gln−9、Gln−10、Phe−13、Tyr−14、Leu−17、Pro−20、Asn−21、Leu−22、Gln−26、Arg−27、Phe−30、Ile−31、Leu−34、Pro−38、Ser−39、Leu−45、Leu−51、Asn−52、Gln−55、Pro−57(残基番号はCドメインに対応する)のうち、90%以上が保持されていることが好ましい。同時に、全体としての配列同一性が、80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましく、95%以上であることがさらにより好ましい。
 
【0085】
本発明は、上述のタンパク質をアフィニティーリガンドとして利用し、該リガンドを水不溶性の基材からなる担体に固定化して得られるアフィニティー分離マトリックスも、実施形態の1つとして包含する。
 
【0086】
本発明に用いる水不溶性の基材からなる担体としては、ガラスビーズ、シリカゲルなどの無機担体、架橋ポリビニルアルコール、架橋ポリアクリレート、架橋ポリアクリルアミド、架橋ポリスチレンなどの合成高分子や、結晶性セルロース、架橋セルロース、架橋アガロース、架橋デキストランなどの多糖類からなる有機担体、さらにはこれらの組み合わせによって得られる有機−有機、有機−無機などの複合担体などが挙げられる。市販品としては、多孔質セルロースゲルであるGCL2000、アリルデキストランとメチレンビスアクリルアミドを共有結合で架橋したSephacryl  S−1000、アクリレート系の担体であるToyopearl、アガロース系の架橋担体であるSepharose  CL4B、および、セルロース系の架橋担体であるCellufineなどを例示することができる。ただし、本発明における水不溶性担体は、例示したこれらの担体のみに限定されるものではない。また、本発明に用いる水不溶性担体は、本アフィニティー分離マトリックスの使用目的および方法からみて、表面積が大きいことが望ましく、適当な大きさの細孔を多数有する多孔質であることが好ましい。担体の形態としては、ビーズ状、モノリス状、繊維状、膜状(中空糸を含む)などいずれも可能であり、任意の形態を選ぶことができる。
 
【0087】
アフィニティーリガンドを担体に固定化する反応に利用するアミノ酸残基がリジンである場合、リガンドの固定化方法は、リガンドに存在するリジンのεアミノ基を介して、従来のカップリング法で担体に共有結合する方法であれば、特に限定されない。
 
【0088】
また、結果的に、一部のリガンドがN末端のαアミノ基を介して担体に固定化されても、タンパク質のN末端で固定化されるので、本発明の範囲内である。
 
【0089】
カップリング法としては、担体を臭化シアン、エピクロロヒドリン、ジグリシジルエーテル、トシルクロライド、トレシルクロライド、ヒドラジン、および、過ヨウ素酸ナトリウムなどと反応させて担体を活性化し(あるいは担体表面に反応性官能基を導入し)、リガンドとして固定化する化合物とカップリング反応を行い固定化する方法、また、担体とリガンドとして固定化する化合物が存在する系にカルボジイミドのような縮合試薬、または、グルタルアルデヒドのように分子中に複数の官能基を持つ試薬を加えて縮合、架橋することによる固定化方法が挙げられる。
 
【0090】
担体に固定化する反応に利用するアミノ酸残基がシステインである場合、リガンドの固定化方法は、リガンドに存在するシステインのチオール基を介して、従来のカップリング法で担体に共有結合する方法であれば、特に限定されない。
 
【0091】
カップリング法としては、同様に、担体をエピクロロヒドリン、などと反応させて担体を活性化し、リガンドとして固定化する化合物とカップリング反応を行う方法などが挙げられる。また、リガンドと担体の間に複数の原子からなるスペーサー分子を導入しても良いし、担体にリガンドを直接固定化しても良い。
 
【0092】
アフィニティー分離マトリックスを用いた標的分子の精製法は、一般的なアフィニティーカラム・クロマトグラフィ精製法に準じる手順により達成することができる。例えば、免疫グロブリンGを標的分子とする場合、すでに市販品として存在するプロテインAカラムを用いたアフィニティーカラム・クロマトグラフィ精製法に準じる手順により達成することができる(非特許文献3)。
 
【0093】
すなわち、免疫グロブリンのFc領域を有するタンパク質を含有する緩衝液を中性となるように調製した後、該溶液を本発明のアフィニティー分離マトリックスを充填したアフィニティーカラムに通過させ、免疫グロブリンのFc領域を有するタンパク質を吸着させる。
 
【0094】
次いで、アフィニティーカラムに純粋な緩衝液を適量通過させ、カラム内部を洗浄する。この時点では所望の免疫グロブリンのFc領域を有するタンパク質はカラム内の本発明のアフィニティー分離マトリックスに吸着されている。
 
【0095】
次いで、適切なpHに調製した酸性緩衝液をカラムに通液し、所望の免疫グロブリンのFc領域を有するタンパク質を溶出することにより、高純度な精製が達成される。標的分子の溶出には、該マトリックスからの標的分子の解離を促進する物質を含む溶液であれば、特に酸性緩衝液には限定されない。
 
【0096】
本発明のアフィニティー分離マトリックスは、リガンド化合物や担体の基材が完全に機能を損なわない程度の、適当な強酸性、または、強アルカリ性の純粋な緩衝液(適当な変性剤、または、有機溶剤を含む溶液の場合もある)を通過させて洗浄することにより、再利用が可能である。
 
【0097】
本発明はまた、上記タンパク質をコードする塩基配列を有するDNAに関する。該タンパク質をコードする塩基配列は、その塩基配列を翻訳したアミノ酸配列が、該タンパク質を構成するものであればいずれでも良い。そのような塩基配列を有するDNAは、通常用いられる公知の方法、例えば、ポリメラーゼ・チェーン・リアクション(以下、PCRと略す)法を利用して取得できる。
 
【0098】
また、前記DNAは公知の化学合成法で合成することも可能であり、さらに、DNAライブラリーから得ることもできる。当該塩基配列は、コドンが縮重コドンで置換されていても良く、翻訳されたときに同一のアミノ酸をコードしている限り、本来の塩基配列と同一である必要性は無い。該塩基配列を一つまたはそれ以上有する組換えDNA、または、該組換えDNAがプラスミドまたはファージである組換えDNA、さらには、該DNAを有するベクターにより形質転換された形質転換微生物/細胞、または、該DNAを導入した遺伝子改変生物、または、該DNAを転写の鋳型DNAとする無細胞タンパク質合成系を用いて得ることができる。
 
【0099】
また、本発明のタンパク質は、タンパク質発現を補助する作用、または、精製を容易にする公知の蛋白質との融合蛋白質として取得することができる。すなわち、本発明のタンパク質を含む融合タンパク質をコードする組換えDNAを少なくとも一つ含有する微生物、または、細胞を得ることができる。該タンパク質の例としては、マルトース結合タンパク質(MBP)、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)等が挙げられるが、それらのタンパク質に限定されるものではない。
 
【0100】
本発明のタンパク質をコードするDNAを改変するための部位特異的な変異の導入は、以下のように、組換えDNA技術、PCR法等を用いて行うことができる。
 
【0101】
すなわち、組換えDNA技術による変異の導入は、例えば、本発明のタンパク質をコードする遺伝子中において、変異導入を希望する目的の部位の両側に適当な制限酵素認識配列が存在する場合に、それら制限酵素認識配列部分を前記制限酵素で切断し、変異導入を希望する部位を含む領域を除去した後、化学合成等によって目的の部位のみに変異導入したDNA断片を挿入するカセット変異法によって行うことができる。
 
【0102】
また、PCRによる部位特異的変異の導入は、例えば、タンパク質をコードする二本鎖プラスミドを鋳型として、+および−鎖に相補的な変異を含む2種の合成オリゴプライマーを用いてPCRを行うダブルプライマー法により、行うことができる。
 
【0103】
また、本発明の単量体タンパク質(1つのドメイン)をコードするDNAを、意図する数だけ直列に連結することにより、多量体タンパク質をコードするDNAを作製することもできる。例えば、多量体タンパク質をコードするDNAの連結方法は、DNA配列に適当な制限酵素部位を導入し、制限酵素で断片化した2本鎖DNAをDNAリガーゼで連結することができる。制限酵素部位は1種類でもよいが、複数の異なる種類の制限酵素部位を導入することもできる。
 
【0104】
多量体タンパク質をコードするDNAを作製する方法は、これら連結する方法に限らない。例えば、プロテインAをコードするDNA(例えば、国際公開第WO06/004067号公報)に上記の変異導入法を適用することで作製することも可能である。また、多量体タンパク質をコードするDNAにおいて、各々の単量体タンパク質をコードする塩基配列が同一の場合には、宿主にて相同組み換えを誘発する可能性があるので、連結されている単量体タンパク質をコードするDNAの塩基配列間の配列同一性が90%以下であることが好ましく、85%以下であることがより好ましい。
 
【0105】
本発明の「発現ベクター」は、前述したタンパク質、または、その部分アミノ酸配列をコードする塩基配列、およびその塩基配列に作動可能に連結された宿主で機能しうるプロモーターを含む。通常は、前述したタンパク質をコードする遺伝子を、適当なベクターに連結もしくは挿入することにより得ることができ、遺伝子を挿入するためのベクターは、宿主中で自律複製可能なものであれば特に限定されず、プラスミドDNAやファージDNAをベクターとして用いることができる。
 
【0106】
例えば、大腸菌を宿主として用いる場合には、pQE系ベクター(キアゲン社製)、pET系ベクター(メルク社製)、および、pGEX系ベクター(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)のベクターなどが挙げられる。
 
【0107】
ブレビバチルス属細菌の遺伝子の発現に有用なプラスミドベクターとしては、例えば、枯草菌ベクターとして公知であるpUB110、または、pHY500(特開平2−31682号公報)、pNY700(特開平4−278091号公報)、pNU211R2L5(特開平7−170984号公報)、pHT210(特開平6−133782号公報)、または、大腸菌とブレビバチルス属細菌とのシャトルベクターであるpNCMO2(特開2002−238569号公報)などが挙げられる。
 
【0108】
本発明の形質転換体は、宿主となる細胞へ本発明の組換えベクターを導入することにより得ることができる。宿主への組換え体DNAの導入方法としては、例えばカルシウムイオンを用いる方法、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法、アグロバクテリウム感染法、パーティクルガン法、または、ポリエチレングリコール法などが挙げられるが、これに限定されるものではない。
 
【0109】
また、得られた遺伝子の機能を宿主で発現する方法としては、本発明で得られた遺伝子をゲノム(染色体)に組み込む方法なども挙げられる。
 
【0110】
宿主となる細胞は、特に限定されるものではないが、安価に大量生産する上では、大腸菌、枯草菌、ブレビバチルス属、スタフィロコッカス属、ストレプトコッカス属、ストレプトマイセス属(Streptomyces)、コリネバクテリウム属(Corynebacterium)等のバクテリア(真正細菌)を好適に使用しうる。ブレビバチルス属細菌として、ブレビバチルス・チョウシネンシスが挙げられる。
 
【0111】
本発明のタンパク質は、前記した形質転換体を培地で培養し、培養菌体中(菌体ぺリプラズム領域中も含む)、または、培養液中(菌体外)に本発明のタンパク質を生成蓄積させ、該培養物から所望のタンパク質を採取することにより製造することができる。
 
【0112】
また、本発明のタンパク質は、前記した形質転換体を培地で培養し、培養菌体中(菌体ぺリプラズム領域中も含む)、または、培養液中(菌体外)に、本発明のタンパク質を含む融合タンパク質を生成蓄積させ、該培養物から該融合タンパク質を採取し、該融合タンパク質を適切なプロテアーゼによって切断し、所望のタンパク質を採取することにより製造することができる。
 
【0113】
本発明の形質転換体を培地で培養する方法は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行われる。得られた形質転換体の培養に用いる培地は、該タンパク質を高効率、高収量で生産できるものであれば特に制限は無い。具体的には、グルコース、蔗糖、グリセロール、ポリペプトン、肉エキス、酵母エキス、カザミノ酸などの炭素源や窒素源を使用することが出来る。
 
【0114】
その他、カリウム塩、ナトリウム塩、リン酸塩、マグネシウム塩、マンガン塩、亜鉛塩、鉄塩等の無機塩類が必要に応じて添加される。栄養要求性の宿主細胞を用いる場合は、生育に要求される栄養物質を添加すればよい。また、必要であればペニシリン、エリスロマイシン、クロラムフェニコール、ネオマイシンなどの抗生物質が添加されても良い。
 
【0115】
さらに、菌体内外に存在する宿主由来のプロテアーゼによる当該目的タンパク質の分解、低分子化を抑えるために、公知の各種プロテアーゼ阻害剤、すなわちPhenylmethane  sulfonyl  fluoride(PMSF)、Benzamidine、4−(2−aminoethyl)−benzenesulfonyl  fluoride(AEBSF)、Antipain、Chymostatin、Leupeptin、Pepstatin  A、Phosphoramidon、Aprotinin、Ethylenediaminetetra  acetic  acid(EDTA)、および/または、その他市販されているプロテアーゼ阻害剤を適当な濃度で添加しても良い。
 
【0116】
さらに、本発明のタンパク質を正しくフォールディングさせるために、例えば、GroEL/ES、Hsp70/DnaK、Hsp90、Hsp104/ClpBなどの分子シャペロンを利用しても良い(例えば、共発現、または、融合タンパク質化などの手法で、本発明のタンパク質と共存させる)。なお、本発明のタンパク質の正しいフォールディングを目的とする場合には、正しいフォールディングを助長する添加剤を培地中に加える、および、低温にて培養するなどの手法もあるが、これらに限定されるものではない。
 
【0117】
大腸菌を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、LB培地(トリプトン  1%、酵母エキス  0.5%、NaCl  1%)、または、2xYT培地(トリプトン  1.6%、酵母エキス  1.0%、NaCl  0.5%)等が挙げられる。
 
【0118】
ブレビバチルス属細菌を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、TM培地(ペプトン  1%、肉エキス  0.5%、酵母エキス  0.2%、グルコース  1%、pH  7.0)、または、2SL培地(ペプトン  4%、酵母エキス  0.5%  、グルコース  2%、pH  7.2)等が挙げられる。
 
【0119】
また、培養温度は、15〜42℃、好ましくは20〜37℃で、通気攪拌条件で好気的に数時間〜数日培養することにより本発明のタンパク質を、培養細胞内(ぺリプラズム領域内を含む)、または、培養溶液(細胞外)に蓄積させて回収する。場合によっては、通気を遮断し嫌気的に培養してもよい。
 
【0120】
組換えタンパク質が分泌生産される場合には、培養終了後に、遠心分離、ろ過などの一般的な分離方法で、培養細胞と分泌生産されたタンパク質を含む上清を分離することにより生産された組換えタンパク質を回収することができる。
 
【0121】
また、培養細胞内(ぺリプラズム領域内を含む)に蓄積される場合にも、例えば、培養液から遠心分離、ろ過などの方法により菌体を採取し、次いで、この菌体を超音波破砕法、フレンチプレス法などにより破砕し、および/または、界面活性剤等を添加して可溶化することにより、細胞内に蓄積生産されたタンパク質を回収することができる。
 
【0122】
本発明のタンパク質の精製はアフィニティークロマトグラフィー、陽イオンまたは陰イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー等を単独でまたは適宜組み合わせることによって行うことができる。
 
【0123】
得られた精製物質が目的のタンパク質であることの確認は、通常の方法、例えばSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動、N末端アミノ酸配列分析、ウエスタンブロッティング等により行うことができる。
 
【実施例】
【0124】
以下に実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例で取得した各種タンパク質は、「ドメインを示すアルファベット−導入した変異(野生型ではWild)」の形で表記する。
【0125】
例えば、プロテインAの野生型Cドメインは「C−wild」、変異G29Eを導入したCドメイン変異体は「C−G29E」という形で表記する。2種類の変異を同時に導入した変異体は、スラッシュを用いて併記する。
【0126】
例えば、変異G29E、および、変異S13Lを導入したCドメイン変異体は、「C−G29E/S13L」という形で表記する。また、単ドメインを複数連結したタンパク質は、ピリオドをつけて、連結した数に「d」をつけて併記する。
【0127】
例えば、変異G29E、および、変異S13Lを導入したCドメイン変異体を5連結したタンパク質は、「C−G29E/S13L.5d」と表記する。
【0128】
[実施例1]
リガンドの発現プラスミド調製
C末端のLys−58を除くLys残基を別のアミノ酸に置換したプロテインAのCドメイン変異体(C−K04R/K07R/G29A/S33R/K35R/K42R/K49Q/K50R.1d、配列番号7)をもとに、アフィニティーリガンドを設計した。本実施例では、このドメインを5個連結したC−K04R/K07R/G29A/S33R/K35R/K42R/K49Q/K50R.5d(配列番号8)、4個連結したC−K04R/K07R/G29A/S33R/K35R/K42R/K49Q/K50R.4d(配列番号9)、および、連結した4個のC末端側に位置するドメインのみLys−58をArgに置換した配列番号9の単残基変異体C−K04R/K07R/G29A/S33R/K35R/K42R/K49Q/K50R(C末K58R).4d(配列番号10)を、アフィニティーリガンドとして利用することとし、その発現プラスミドを以下の手順で調製した。
【0129】
C−K04R/K07R/G29A/S33R/K35R/K42R/K49Q/K50R.5dをコードし、5’末端にNcoI認識サイト、3’末端にXbaI認識サイトを付与したDNA(配列番号11)を外注によって全合成した(Eurogentec社)。このサブクローニング後の発現プラスミド(pUC57)を、制限酵素(NcoIおよびXbaI:ともにタカラバイオ社製)で消化して取得したC−K04R/K07R/G29A/S33R/K35R/K42R/K49Q/K50R.5dをコードするDNAを、ブレビバチルス発現用ベクターpNK3260’へライゲーションし、配列番号8のアミノ酸配列をコードするDNAがブレビバチルス発現用ベクターpNK3260’に挿入された発現プラスミドを調製した。
【0130】
また、この配列番号8のアミノ酸配列をコードするDNAが挿入されたpNK3260’を鋳型として、配列番号12〜13のオリゴヌクレオチドプライマー(外注によって合成、シグマアルドリッチジャパン株式会社)を用いたPCRによって、C−K04R/K07R/G29A/S33R/K35R/K42R/K49Q/K50R.4dをコードするDNA(配列番号14、NcoI/XbaIサイトを含む)を合成し、制限酵素(NcoIおよびXbaI)で消化後、pNK3260’へライゲーションした。
【0131】
同様にして、配列番号8のアミノ酸配列をコードするDNAが挿入されたpNK3260’を鋳型として、配列番号12および15のオリゴヌクレオチドプライマーを用いたPCRによって、C−K04R/K07R/G29A/S33R/K35R/K42R/K49Q/K50R(C末K58R).4dのコードDNA(配列番号16、NcoI/XbaIサイトを含む)を合成し、制限酵素(NcoIおよびXbaI)で消化後、pNK3260’へライゲーションした。
【0132】
DNAポリメラーゼであるBlend  Taq(TOYOBO社製)を用いたPCR法、および、Ligation  high  ver.2(TOYOBO社製)を用いたライゲーション反応は、TOYOBO社のプロトコルに従い実施した。制限酵素による消化反応はタカラバイオ社のプロトコルに従い実施した。
【0133】
最終的に、配列番号8〜10のアミノ酸配列をコードするDNAが、ブレビバチルス発現用ベクターpNK3260’に挿入された発現プラスミドを各々調製した。
【0134】
NK3260’は、公知のブレビバチルス発現ベクター(国際公開第06/004067号パンフレット)に対し、発現したいタンパク質コードDNAをNcoI/XbaIサイトで挿入できるよう変異処理したベクターである。
【0135】
また、上記とは変異の種類が一部異なるプロテインAのCドメイン変異体(C−K04R/K07R/G29A/S33L/K35R/K42R/K49R/K50R.1d、配列番号17)をベースとし、このドメインを3個連結したC−K04R/K07R/G29A/S33L/K35R/K42R/K49R/K50R.3d(配列番号18)の発現プラスミドを同様の手法にて調製した。配列番号18のアミノ酸配列をコードするDNAは、上記と同様に外注によって全合成しており(Eurogentec社)、NcoI/XbaIサイトを含むコード部分のDNA配列は配列番号19に示す。
【0136】
[実施例2]
リガンドの発現・精製
実施例1で得られた発現プラスミドを用いて、ブレビバチルス・チョウシネンシスFY−1株の形質転換を行った。形質転換は、公知の方法による電気導入法にて実施した(「Biosci.Biotech.Biochem.」、1997年、61号、202−203頁)。なお、ブレビバチルス・チョウシネンシスFY−1株は、ブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−OK株(特開平6−296485号公報)に変異処理をして得られたPhe・Tyr要求性株である。
【0137】
ブレビバチルス・チョウシネンシスFY−1組換え菌を、60μg/mLのネオマイシンを含む5mLの3YC培地(ポリペプトン  3%、酵母エキス  0.2%、グルコース  3%、硫酸マグネシウム  0.01%、硫酸鉄  0.001%、塩化マンガン  0.001%、塩化亜鉛  0.0001%)にて、30℃で3日間の振盪培養を行った。
【0138】
培養物を遠心処理して菌体を分離し、得られた培養上清から、SP  Fast  Flowカラム(GEヘルスケア・ジャパン(株)製)を利用した陽イオン交換クロマトグラフィーにて、目的のタンパク質を精製(粗精製)した。具体的には、酢酸ナトリウムを終濃度50mMになるように添加し、さらに塩酸でpH4.0に調製した培養上清を、陽イオン交換用緩衝液A(50mM  CH
3COOH−CH
3COONa,pH4.0)にて平衡化したSP  Fast  Flowカラムに添加し、陽イオン交換用緩衝液Aで洗浄後、陽イオン交換緩衝液Aと陽イオン交換緩衝液B(50mM  CH
3COOH−CH
3COONa,1M  NaCl,pH4.0)を利用した塩濃度勾配にて、途中に溶出される目的タンパク質を分取した。
【0139】
次に、HiTrap  Qカラム(GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社製)を利用した陰イオン交換クロマトグラフィーにて目的タンパク質を精製した。具体的には、分取した目的タンパク質溶液を超純水に透析し、陰イオン交換用緩衝液A(50mM  Tris−HCl,pH8.0)にて平衡化したHiTrap  Qカラムに添加し、陰イオン交換用緩衝液Aで洗浄後、陰イオン交換緩衝液Aと陰イオン交換緩衝液B(50mM  Tris−HCl,1M  NaCl,pH8.0)を利用した塩濃度勾配にて、途中に溶出される目的タンパク質を分取した。
【0140】
分取した目的タンパク質溶液を超純水に透析し、透析後の水溶液を最終精製サンプルとした。なお、カラムを用いたクロマトグラフィーによるタンパク質精製は、全てAKTAprime  plusシステム(GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社製)を利用して実施した。
【0141】
[実施例3]
リガンドのヒト免疫グロブリンに対する親和性の解析
表面プラズモン共鳴を利用したバイオセンサーBiacore  3000(GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社製)を用いて、実施例2で取得したリガンドの、免疫グロブリンとの親和性を解析した。ヒト血漿から分画したヒト免疫グロブリンG製剤(以後は、ヒトIgGと記する)をセンサーチップに固定化し、実施例2で取得したリガンドをチップ上に流して、両者の相互作用を検出した。
【0142】
ヒトIgGのセンサーチップCM5への固定化は、N−hydroxysuccinimide(NHS)、および、N−ethyl−N’−(3−dimethylaminopropyl)carbodiimide  hydrochloride(EDC)を用いたアミンカップリング法にて行い、ブロッキングにはEthanolamineを用いた(センサーチップや固定化用試薬は、全てGEヘルスケアバイオサイエンス株式会社製)。
【0143】
ヒトIgGとして市販されているガンマガード(バクスター社)を、固定化用緩衝液(10  mM  CH
3COOH−CH
3COONa、pH4.5)でリガンドの終濃度が50μg/mL程度になるよう希釈し、Biacore  3000付属のプロトコルに従い、ヒトIgGをセンサーチップへ固定した。また、チップ上の別のフローセルに対して、EDC/NHSにより活性化した後にEthanolamineを固定化する処理を行うことで、ネガティブ・コントロールとなるリファレンスセルも用意した。
【0144】
リガンド溶液は、ランニング緩衝液(20mM  NaH
2PO
4−Na
2HPO
4、150mM  NaCl、0.005%  P−20、pH7.4)を用いて、16、32、64、128nMに希釈した溶液を用いた。各々のリガンド溶液を、流速40μL/minで2.5分間センサーチップに添加した。測定温度25℃にて、添加時(結合相、2.5分間)、および、添加終了後(解離相、2.5分間)の結合反応曲線を順次観測した。各々の観測終了後に、0.1M  Gly(pH2.5)、および、20mM  NaOHを、各々0.5分間ずつ順に添加し、センサーチップを再生した。
【0145】
この操作は、センサーチップ上に残った添加タンパク質の除去が目的であり、固定化したヒトIgGの結合活性がほぼ完全に戻ることを確認した。得られたセンサーグラム(リファレンスセルの結合反応曲線を差し引いたセンサーグラム)に対して、システム付属ソフトBIA  evaluationを用いた1:1の結合モデルによるフィッティング解析を行い、リガンドのヒトIgGに対する親和定数(K
A  =  k
on/k
off)を算出した。
【0146】
表1に示すように、各種複ドメイン型Cドメイン変異体のヒトIgGに対する親和定数K
A(M
−1)は、10の9乗オーダーであった。これは、例えば、公知の5ドメイン型リガンドC−G29A/S33E.5d(比較例1)と同程度であった。本発明は固定化時の標的分子の結合“容量”を向上する技術であり、標的分子に対する分子レベルでの結合“力”はほぼ同等であることが重要なので、本結果は本発明の妥当性を示すデータであるといえる。
【0147】
【表1】
【0148】
[実施例4]
リガンドを担体に固定化したアフィニティー分離マトリックスの試作
カップリング目的官能基をアミノ基とする市販のリガンド固定化用カップリングカラムを利用して、実施例2で得られたリガンドを固定化したアフィニティー分離マトリックスを作製した。
【0149】
水不溶性基材として、市販のプレパックカラム「Hitrap  NHS  activated  HP」1mL(GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社製)を使用した。このカラムは、架橋アガロースをベースとし、カップリング目的官能基をアミノ基とするタンパク性リガンド固定化用の活性基が導入済みなので、製品マニュアルに従ってリガンドを固定化した。氷浴で冷やした1mM  HClを、流速1mL/minで2mL分流す操作を3回行い、カラム中のイソプロパノールを除去した。
【0150】
その後すぐに、カップリング緩衝液(0.2M  NaHCO
3、0.5M  NaCl、pH8.3)でリガンドを希釈した溶液を同じ流速で1mL添加し、カラムの上下に栓をして25℃で30分間静置することで、取得したリガンドをカラムに固定化した。
【0151】
その後開栓し、カップリング緩衝液を同じ流速で3mL流して、未反応リガンドを回収した。その後、ブロッキング用緩衝液(0.5M  ethanol  amine、0.5M  NaCl、pH8.3)を2mL流す操作を3回実施し、洗浄用緩衝液(0.1M  Acetate、0.5M  NaCl、pH4.0)を2mL流す操作を3回実施した。
【0152】
ブロッキング用緩衝液と洗浄用緩衝液を流す一連の操作は交互に3回ずつ行った。最後に標準緩衝液(20mM  NaH
2PO
4−Na
2HPO
4、150mM  NaCl、pH7.4)を2mL流してアフィニティー分離カラムの作製を完了した。
【0153】
固定化反応で置換されたNHSは280nmに吸収を持つ。脱塩カラムHiTrap  Desalting  5mL(GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社製)を用いてNHSを除去し、未反応リガンドのみの280nmの吸光度(Abs
280)を測定し、固定化収率を算出した。HiTrap  Desaltingを利用することで、分子量5,000以上の成分(ここではリガンド)と分子量1,000以下の成分(置換されたNHS)を分離することが可能である。
【0154】
未反応リガンド500μLをHiTrap  Desalting  5mLに通液し、カップリング緩衝液を1mL添加した後、さらにカップリング緩衝液を1.5mL添加して、この時の溶出液1.5mLを回収し、280nmの吸光度を測定した。HPLCやビウレット法による検討で事前に導いた算出式(Abs
280=0.484のときに1mg/mL)を用いて濃度を算出した。
【0155】
リガンド希釈溶液の濃度(仕込み量)、リガンド固定化量、および、固定化収率を表2に示す。
【0156】
例えば、C−K04R/K07R/G29A/S33L/K35R/K42R/K49R/K50R.3d(配列番号18)の場合、リガンド中の2つのドメイン間リンカー領域およびC末端に1個ずつあるリジン残基の側鎖のアミノ基が固定化に利用され、ほとんどが
図1の(4)で示す形態でマトリックスに固定化されている。なお、リガンドのN末端のアミノ酸のアミノ基で固定化される可能性も否定できないが、反応性の観点からはその可能性は低い。わずかな割合でN末端のアミノ酸で固定化された場合も、
図1の(6)で示す形態で固定化されるため、本発明で得られる効果に違いはないと推察される。また、ドメイン数は異なるが、5ドメイン型のC−K04R/K07R/G29A/S33R/K35R/K42R/K49Q/K50R.5d(配列番号8)、および、4ドメイン型のC−K04R/K07R/G29A/S33R/K35R/K42R/K49Q/K50R.4d(配列番号9)も同様の形態、すなわち
図1の(4)の形態で固定化される。また、配列番号9からC末のLysのみを無くしたC−K04R/K07R/G29A/S33R/K35R/K42R/K49Q/K50R(C末K58R).4d(配列番号10)は、
図1の(7)の形態で固定化される。
【0157】
【表2】
【0158】
[実施例5]
試作アフィニティー分離マトリックスのヒトIgG結合容量評価
試作アフィニティー分離マトリックスのヒトIgG結合容量を評価するために、アフィニティークロマトグラフィー実験による抗体dBC測定を行った。
【0159】
ヒトIgGとしては、ガンマグロブリン(ニチヤク株式会社製)を、標準緩衝液(100mM  NaH
2PO
4−Na
2HPO
4、138mM  NaCl、2.7mM  KCl、pH7.4)で150倍に希釈して1mg/mLの濃度に調製した溶液を用いた。
【0160】
また、クロマトシステムAKTAexplorer  100(GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社製)のセルを、この溶液が100%通過しているときのAbs
280(100%  Abs
280)をあらかじめ測定した。なお、HiTrap  NHS  Activated  HP(1mL)はφ0.7×2.5cm(0.96mL)なので、一連の操作では1mLを1CVとした。
【0161】
クロマトシステムAKTAexplorer  100に試作アフィニティー分離マトリックスを接続し、流速1.0mL/minで標準緩衝液(100mM  NaH
2PO
4−Na
2HPO
4、138mM  NaCl、2.7mM  KCl、pH7.4)を5CV流して平衡化した。次に、流速0.2mL/min(31cm/h)でヒトIgG溶液を流し、モニタリング吸光度が100%  Abs
280の5%を超えるまで続けた。その後、流速1.0mL/minで標準緩衝液を5CV流し、続いて、溶出緩衝液(35mM  Acetate、pH3.5)を3CV流し、ヒトIgGを溶出した。モニタリング吸光度が100%  Abs
280の5%を超えたときまでに流したヒトIgGの総量を抗体dBC(抗体5%dBC)とした。  
【0162】
試作した5ドメイン型のアフィニティー分離マトリックスの評価結果を表3に示す。
【0163】
【表3】
【0164】
また、表3の結果を、横軸を固定化量、縦軸を抗体dBCとしてプロットしたグラフを
図3に示す。
【0165】
本発明によって得られたアフィニティー分離マトリックスは、比較例1で得られたアフィニティー分離マトリックスに対して、ほぼ同等のリガンド固定化量において、有意に高い抗体dBCを示すことを確認した。異なる2種類のリガンドの抗体dBCを異なる固定化量3点で比較した
図3のプロットの傾向から、担体固定化時に
図1の(4)で示す形態でリガンドが固定化された本発明のアフィニティー分離マトリックスは、
図1の(1)で示す形態で固定化された場合に比較して、抗体dBCが明確に高い傾向を示しているといえる。
試作した4ドメイン型のアフィニティー分離マトリックスの評価結果を表4に示す。
【0166】
【表4】
【0167】
本発明によって得られた、例えば、
図1の(7)の形態でリガンドが固定化されたアフィニティー分離マトリックスは、
図1の(4)の形態でリガンドが固定化されたアフィニティー分離マトリックスと同程度の抗体dBCを示すことが分かった。
【0168】
つまり、
図1の(4)〜(7)のどの形態でも、先に示した抗体dBC向上効果が期待され、理論的には、(4)〜(15)のどの形態でも同様の効果が期待される。また、ドメイン数が変わっても、同じような効果が見られることも分かった。
試作した3ドメイン型のアフィニティー分離マトリックスの評価結果を表5に示す。
【0169】
【表5】
【0170】
本発明によって得られたアフィニティー分離マトリックスは、比較例2で得られたアフィニティー分離マトリックスに対して、ほぼ同等のリガンド固定化量において、有意に高い抗体dBCを示した。本データは、本発明で得られたアフィニティー分離マトリックスは、
図1の(2)の形態でリガンドが固定化されたアフィニティー分離マトリックスと比較して、有意に高い抗体dBCを示す一例といえる。
【0171】
また、ドメイン数、および、配列が変わっても、ドメインの抗体結合機能があれば、同じような効果が見られることが分かった。
【0172】
[比較例1]
C−G29A/S33E.5d
担体への固定化時に、
図1の(1)の形態で固定化される5ドメイン型のリガンドを参照用リガンドとして取得し、該リガンドを固定化したアフィニティー分離マトリックスを調製した。
【0173】
C−G29A/S33E.5d(配列番号20)の発現プラスミドの調製方法は、公開特許文献(国際公開第2010/110288号公報)の記載に準ずる。コードDNAの配列は配列番号21に示される通りであり、例えば、本配列のDNAを全合成し、市販のブレビバチルス発現用プラスミド(例えばpNCMO2、タカラバイオ社製)に挿入することでも、容易に発現プラスミド調製が可能である。
【0174】
リガンドの発現・精製は、実施例2に記載の手法にて実施した。取得したリガンドのヒトIgGに対する親和性を実施例3に記載の手法にて同様に測定し、結果は表1に記載した。実施例4に記載の手法にて、取得したリガンドを固定化したアフィニティー分離マトリックスを調製し、実施例5に記載の方法で抗体dBCを測定し、結果を表3及び
図3に記載した。
【0175】
[比較例2]
C−K04R/K07R/G29A/S33L/K35R/K42R/K49R/K50R/(C末以外K58R).3d
担体への固定化時に、
図1の(2)の形態で固定化される3ドメイン型のリガンドを参照用リガンドとして取得し、該リガンドを固定化したアフィニティー分離マトリックスを調製した。
【0176】
C−K04R/K07R/G29A/S33L/K35R/K42R/K49R/K50R/(C末以外K58R).3d(配列番号22)をコードし、5’末端にNcoI認識サイト、3’末端にXbaI認識サイトを付与したDNA(配列番号23)を外注によって全合成した(Eurogentec社)。
【0177】
本リガンドは、3番目のドメインのLys−58(リガンド配列のC末端)でのみ担体に固定化される。そのDNAを利用した発現プラスミドは、実施例1に記載の方法で調製し、実施例2に記載の方法でリガンドを発現・精製した。取得したリガンドのヒトIgGに対する親和性を実施例3に記載の手法で測定し、その親和定数(K
A)は表5に示した。また、実施例4に記載の手法で、取得したリガンドを担体に固定化してアフィニティー分離マトリックスを調製し、実施例5に記載の手法で抗体dBCを求めた結果を、表5に併記した。
【0178】
[実施例6]
マトリックス用セルロースビーズの作製
(1)セルロース分散液Bの作製
旭化成ケミカルズ社製局方セルロースPH−F20JP(メジアン粒径:21μm)76gと蒸留水800gを混合し、攪拌しながら4℃に調整した。次いで設定温度と攪拌を維持しながら4℃に調整したアルカリ水溶液Aを400g投入し、30分間攪拌した。
【0179】
(2)多孔質セルロースビーズの作製
4℃に調整されたセルロース分散液B1276gと、4℃に調整したオルトジクロロベンゼン7801gと、4℃に調整したソルビタンモノオレエート(span80相当品)78gを混合し、ディスクタービン(Rushton  turbine)翼2枚を取り付けたステンレス容器内にて460rpm(Pv値:5.0kW/m
3)で4℃、15分間攪拌し、エマルションを作製した。設定温度と攪拌を維持しながら4℃に調整されたメタノール592gを凝固溶媒として加えた。また凝固溶媒の添加所要時間は5秒であった。その後、攪拌数と設定温度を維持しながら30分間攪拌した。加圧濾過を行った後、洗浄液としてメタノール3000gを用いて洗浄を行い、次いで3000gの水で洗浄を行い、多孔質セルロースビーズを得た。多孔質セルロースビーズを得た。得られた多孔質セルロースビーズは、38μmと90μmの篩を用いて湿式分級した。
【0180】
(3)架橋
上記多孔質セルロースビーズ20体積部に蒸留水を加えて30体積部とし、反応容器に移した。ここに架橋剤としてグリセロールポリグリシジルエーテルを含有するデナコールEX−314(ナガセケムテックス社製)を2.3重量部投入し、40℃に調整しながら攪拌を続けた。40℃に調整後、30分間攪拌した。次いで、2N  NaOH水溶液7.1体積部を用意し、1時間に1/4ずつ加えた。この間、温度を40℃に維持し、攪拌も継続した。最後の1/4量を添加後、同温度で1時間攪拌した。反応終了後、吸引濾過をしながら、ビーズの20倍体積量以上の蒸留水で洗浄し、架橋1回ビーズを得た。
【0181】
得られた架橋1回ビーズを容器に移し、蒸留水を加えて、全量を架橋多孔質セルロースビーズの10倍体積量とし、オートクレーブを用いて、120℃で1時間加温した。室温まで放冷した後、ビーズの5倍体積量以上のRO水で洗浄し、エポキシ基がグリセリル基に変化したオートクレーブ済みの架橋1回ビーズを得た。
【0182】
次いで、このオートクレーブ済みの架橋1回ビーズ20体積部に蒸留水を加えて30体積部とし、反応容器に移した。ここに架橋剤としてグリセロールポリグリシジルエーテルを含有するデナコールEX−314を2.3重量部投入し、40℃に調整しながら攪拌を続けた。40℃に調整後、30分間攪拌した。次いで、2N  NaOH水溶液7.1体積部を用意し、1時間に1/4ずつ加えた。この間、温度を40℃に維持し、攪拌も継続した。最後の1/4量を添加後、同温度で1時間攪拌した。反応終了後、吸引濾過をしながら、ビーズの20倍体積量以上の蒸留水で洗浄し、架橋2回ビーズを得た。
【0183】
得られた架橋2回ビーズを容器に移し、蒸留水を加えて、全量を架橋多孔質セルロースビーズの10倍体積量とし、オートクレーブを用いて120℃で60分間加温した。室温まで放冷した後、ビーズの5倍体積量以上の蒸留水で洗浄し、オートクレーブ済みの架橋2回ビーズを得た。
【0184】
[実施例7]
リガンドをセルロースビーズに固定化したアフィニティー分離マトリックス試作例
実施例6で得られた架橋多孔質セルロースビーズ3.5mLを遠沈管に入れ、RO水を加えて、全量を6mLとした。これを25℃にてミックスローターMR−3(アズワン社製)上に取り付けた後、撹拌した。次に過ヨウ素酸ナトリウム(和光純薬工業社製)をRO水に溶解した、11.16mg/mLの過ヨウ素酸ナトリウム水溶液を2.0mL加え、25℃で1時間撹拌した。反応後、グラスフィルター(シバタ社製  11GP100)上で、濾液の電気伝導度が1μS/cm以下となるまでRO水で洗浄し、ホルミル基含有架橋多孔質セルロースビーズを得た。洗浄濾液の電気伝導度は、導電率計ECTester10  Pure+(EUTECH  INSTRUMENTS社製)で測定した。
【0185】
得られたホルミル基含有架橋多孔質セルロースビーズ3.5mLをグラスフィルター(シバタ社製  11GP100)上で、pH12の0.6Mクエン酸  バッファー(和光純薬工業社製クエン酸三ナトリウム二水和物、水酸化ナトリウム、RO水を用いて調製)で置換した。置換後のホルミル基含有架橋多孔質セルロースビーズを、クエン酸バッファーを用いて遠沈管に移し、総体積量7.5mLとなるように液量を調整した。ここに、実施例2で得られたリガンド溶液を加えた後、6℃にて23時間、ミックスローターMR−3を用い、攪拌させながら反応した。
【0186】
その後、反応液を回収(反応液1)し、pH8の0.1Mクエン酸ナトリウム水溶液(和光純薬工業社製クエン酸三ナトリウム二水和物、RO水を用いて調整)で置換して、6℃で4時間ミックスローターMR−3を用いて、攪拌した。引き続き、5.5重量%濃度のジメチルアミンボラン水溶液(和光純薬工業社製ジメチルアミンボランとRO水で調製)を1.93mL加えて、6℃で1時間攪拌した後、反応温度を25℃に上昇し、25℃で18時間、ミックスローターMR−3を用いて攪拌しながら反応した。反応後、反応液を回収した(反応液2)。反応液1及び2の278nm付近の吸収極大のUV吸光度を測定し、仕込んだリガンド量から差し引くことで、リガンド固定化量を算出した。リガンドの仕込み量、リガンド固定化量及び固定化収率は表6に示す。
【0187】
【表6】
【0188】
反応後のビーズをグラスフィルター11GP100(シバタ社製)上で、ビーズの3倍体積量のRO水で洗浄した。次いで、3倍体積量の0.1Nクエン酸一水和物(関東化学社製クエン酸一水和物とRO水で調製)を加え、当該ビーズに0.1Nクエン酸一水和物を加えて全量を30mL以上とし、遠沈管に入れ、25℃で30分間攪拌しながら、酸洗浄を行った。酸洗浄後、ビーズをグラスフィルター11GP100上で、ビーズの3倍体積量のRO水で洗浄し、次いで、3倍体積量の0.05M水酸化ナトリウム+1M硫酸ナトリウム水溶液を加えた。次に、当該ビーズに、0.05M水酸化ナトリウム+1M硫酸ナトリウム水溶液を加えて全量を30mL以上とし、遠沈管に入れ、室温で30分間攪拌しながら、アルカリ洗浄を行った。
【0189】
アルカリ洗浄後、ビーズをグラスフィルター(シバタ社製  11GP100)上で、ビーズの20倍体積量のRO水で洗浄した。次に、ビーズの3倍量の0.1Nクエン酸ナトリウム水溶液を加え、濾液が中性になっていることを確認した後、RO水を用いて、洗浄濾液の電導度が1μS/cm以下になるまで洗浄し、目的とするアフィニティー分離マトリックスを得た。洗浄濾液の電導度は導電率計ECTester10  Pure+で測定した。
【0190】
[実施例8]
セルロースベースのアフィニティー分離マトリックスのヒトIgG結合容量評価
実施例7で試作したアフィニティー分離マトリックスのヒトIgG結合容量を評価するために、アフィニティークロマトグラフィー実験による抗体dBC測定を行った。
【0191】
クロマトシステムとしてAKTAexplorer  100(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を用い、直径0.5cm、高さ15cmのカラムに22μmのメッシュを取り付け、試作アフィニティー分離マトリックスをそれぞれ3mL入れ、線速450cm/hで20%エタノール水溶液を1時間通液して、試作アフィニティー分離マトリックス充てんカラムを得た。以降は実施例5と同様にして、IgGの動的結合容量の測定を実施した。
【0192】
試作したセルロースベースのアフィニティー分離マトリックスの評価結果を表7に示す。
【0193】
【表7】
【0194】
本発明によって得られたセルロースベースのアフィニティー分離マトリックスは、比較例3で得られたアフィニティー分離マトリックスに対して、ほぼ同等のリガンド固定化量において、有意に高い抗体dBCを示すことを確認した。したがって、本発明によって得られたアフィニティー分離マトリックスは、マトリックスのベースとなる基材の種類に依らず、同様の抗体dBC向上効果を示すといえる。
【0195】
[実施例9]
リガンドのリーク量の測定
リガンドのリーク量を評価するために、実施例4で得られたアフィニティー分離マトリックスを用いて、ヒトIgGを該マトリックスに添加し酸性溶液で溶出した後の、IgG溶出液に含まれるリガンドの量を測定した。クロマトシステムとしてAKTAexplorer  100を用いた。フラクションコレクターに15mlの採取用チューブをセットし、溶出液の採取用チューブについては、あらかじめ中和液を入れておいた。実施例5と同様にしてIgGを溶出させ、溶出液を回収した。
【0196】
溶出液中のIgG量とリガンド(プロテインA)量を測定し、精製IgG中にリークしたリガンド濃度(リーク量)を求めた。リーク量については、文献に記載のELISA法に従って定量した(Steindl  F.他著,  「Journal  of  Immunological  Methods」2000年、235巻、61−69頁)。リガンドのリーク定量結果を表8に示す。
【0197】
【表8】
【0198】
本発明によって得られた
図1の(4)の形態でリガンドが固定化されたアフィニティー分離マトリックスは、比較例4で得られた
図1の(2)で得られた形態でリガンドが固定化されたアフィニティー分離マトリックスに比較して、有意にリガンドのリークが抑えられていることを確認した。本発明は、高い抗体dBCと低いリガンド・リークの両立が可能といえる。
【0199】
[比較例3]
C−G29A/S33E.5dをセルロースビーズに固定化したアフィニティー分離マトリックス
比較例1で得られたC−G29A/S33E.5dを、以下の手法にて、セルロースビーズに固定化したアフィニティー分離マトリックスを取得した。実施例7と同様にしてホルミル化担体を作製し、得られたホルミル基含有架橋多孔質セルロースビーズ3.5mLをグラスフィルター(シバタ社製  11GP100)上で、pH12の0.25Mクエン酸  バッファー(和光純薬工業社製クエン酸三ナトリウム二水和物、水酸化ナトリウム、RO水を用いて調製)で置換した。pH12の0.25Mクエン酸バッファーを用い、置換後のホルミル基含有架橋多孔質セルロースビーズを、遠沈管に入れ、総体積量7.5mLとなるように液量を調整した。ここに、C−G29A/S33E.5d溶液(66.7mg/mL)を0.63g加えた後、6℃にて23時間、ミックスローターMR−3を用い、攪拌させながら反応した。
【0200】
その後2.4Mクエン酸水(和光純薬工業社製クエン酸一水和物、RO水を用いて調製)を用いて反応溶液pHを5.0に調整し、6℃で4時間ミックスローターMR−3を用いて、攪拌した。以降は実施例6と同様に還元と洗浄操作を実施した。リガンド希釈溶液の濃度(仕込み量)、リガンド固定化量、および、固定化収率については、表6に併記する。アフィニティー分離マトリックスのヒトIgG結合容量を実施例8に記載の方法で測定した。その結果を表7に併記する。
【0201】
[比較例4]
C−K04R/K07R/G29A/S33R/K35R/K42R/K49Q/K50R/(C末以外K58R).5dをアガロースベースの担体に固定化したアフィニティー分離マトリックス
担体への固定化時に、
図1の(2)の形態で固定化される5ドメイン型のリガンドを参照用リガンドとして取得し、該リガンドを固定化したアフィニティー分離マトリックスを調製した。
【0202】
プロテインAのCドメイン変異体(C−K04R/K07R/G29A/S33R/K35R/K42R/K49Q/K50R/K58R.1d、配列番号24)をベースとし、このドメインを5個連結し、かつ、C末端側に位置するドメインのみLys−58にArg変異を導入しない、C−K04R/K07R/G29A/S33R/K35R/K42R/K49Q/K50R/(C末以外K58R).5d(配列番号25)の発現プラスミドを、同様の手法にて調製した。配列番号25のアミノ酸配列をコードするDNAは、実施例1と同様に外注によって全合成しており(Eurogentec社)、NcoI/XbaIサイトを含むコード部分のDNA配列は配列番号26に示す。実施例2と同様の手法にて、C−K04R/K07R/G29A/S33R/K35R/K42R/K49Q/K50R/K58R(C末以外K58R).5d(配列番号25)を発現・精製し、リガンドを取得した。このリガンドを固定化したアフィニティー分離マトリックスを実施例4と同様の方法で作製した。リガンド希釈溶液の濃度(仕込み量)12.1mg/mLで調製した結果、リガンド固定化量は9.4mg/mL−gelであり、固定化収率が77%であった。アフィニティー分離マトリックスからの、リガンドのリーク量を実施例9に記載の方法で測定した。その結果を表8に併記する。