(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態は、炭素を主成分とする触媒担体(本明細書中では、単に「触媒担体」または「担体」とも称する)および前記触媒担体に担持される触媒金属からなる触媒ならびにイオン交換基がスルホン酸基(−SO
3H)である高分子電解質(本明細書中では、単に「電解質」とも称する)を含む、燃料電池用電極触媒層であって、触媒は、ラマン分光法によって1580cm
−1付近で計測されるGバンドのピーク強度(G強度)に対する、1620cm
−1付近で計測されるD’バンドのピーク強度(D’強度)の比R’(D’/G強度比)が0.6以下であり、かつ、BET比表面積が900m
2/g触媒担体以上であり、触媒担体重量に対する高分子電解質のスルホン酸基のモル数が、0.7mmol/g以上1.0mmol/g以下である、燃料電池用電極触媒層(本明細書中では、「電極触媒層」または「触媒層」とも称する)である。
【0011】
すなわち、本実施形態の燃料電池用触媒層において含まれる触媒は、下記構成(I)および(II)を満たす:(I)BET比表面積が900m
2/g触媒担体以上である;および(II)ラマン分光法によって1580cm
−1付近で計測されるGバンドのピーク強度(G強度)に対する、1620cm
−1付近で計測されるD’バンドのピーク強度(D’強度)の比R’(D’/G強度比)が0.6以下である。
【0012】
なお、本明細書では、ラマン分光法によって1580cm
−1付近で計測されるGバンドを、単に「Gバンド」とも称する。本明細書では、ラマン分光法によって1620cm
−1付近で計測されるD’バンドを、単に「D’バンド」とも称する。また、GバンドおよびD’バンドのピーク強度を、それぞれ、「G強度」および「D’強度」とも称する。さらに、G強度に対するD’強度の比を、単に「R’値」または「D’/G強度比」とも称する。
【0013】
ここで、Gバンドは、ラマン散乱分析で1580cm
−1付近に観測されるグラファイト(炭素原子の六角格子内振動)に起因するピークである。また、D’バンドは、ラマン散乱分析で1620cm
−1付近にGバンドの肩として観察される。このD’バンドは、グラファイト構造の乱れ(disorder)や欠陥に起因し、グラファイトの結晶サイズが小さい場合やグラフェンシートのエッジが多く存在する場合に現れる。グラフェン分子のエッジ(端部)の電子状態は、グラフェン分子中央部(六員環)と異なり、カーボン腐食の起点となりやすい。すなわち、R’値が小さいとは、グラファイト構造中に存在する電気化学的腐食の起点となるカーボン(グラフェン)のエッジ量が少ないことを意味する。ゆえに、上記(II)により、耐久性を向上でき、触媒活性の低下を効果的に抑制・防止できる。
【0014】
なお、Gバンド、D’バンドおよび後述するDバンド、ならびにこれらのピーク強度は、当該分野においてよく知られている。例えば、R. Vidano and D. B Fischbach, J. Am. Ceram. Soc. 61 (1978) 13-17やG. Katagiri, H. Ishida and A. Ishitani, Carbon 26 (1988) 565-571を参照することができる。
【0015】
上記特開2005−26174号公報に記載の担体は、カーボン粒子を2000〜3000℃で熱処理による黒鉛化を行うことによって得られる(段落「0016」)。特開2005−26174号公報に記載の担体は、黒鉛化処理により担体の耐久性を向上できる。しかしながら、担体の比表面積が250m
2/g以下と小さいため、触媒金属を担持させた際に電気二重層容量を十分に確保できない。
【0016】
これに対して、本実施形態で用いられる触媒は、上記(I)を満たす。上記(I)により、炭素粉末は十分な比表面積を有するため、電気二重層容量が大きい。このため、該触媒によれば、触媒の分散性を向上して、電気化学反応面積を増加できる、即ち、発電性能を向上できる。
【0017】
一方、耐久性向上を目的として炭素を黒鉛化してR’値を小さくすると、触媒担体は疎水的な性質を有するようになる。このため、特にフッ素系高分子電解質などの疎水性構造を主鎖に有する高分子電解質を用いた場合に、触媒金属を担持した担体に高分子電解質が吸着しやすくなる。電解質は酸素等のガスに比して触媒金属表面に吸着し易いため、かような担体を用いた場合、触媒の表面または空孔の開口部(入口)を電解質が被覆する割合が高くなる。その結果、触媒層内のガス輸送性が低下し、触媒活性の低下および発電性能の低下を招く。十分な発電性能を得るためには白金のような高価な金属を多く使用する必要があり、これは燃料電池の高コスト化を招いてしまう。
【0018】
本発明者らは上記知見に基づき、上記構成(I)および(II)を満たす触媒を用いた場合において、触媒層が下記構成(III)を満たすことによって、ガス輸送性が向上することを見出したものである;(III)触媒担体重量に対する高分子電解質のスルホン酸基のモル数が、0.7mmol/g以上1.0mmol/g以下である。
【0019】
スルホン酸基は触媒金属との相互作用が強いため、スルホン酸基量が増えると触媒金属に吸着するスルホン酸基が増える。このため、高分子電解質主鎖も触媒に近づきやすくなる。そして、疎水的性質を有する担体への高分子電解質中の疎水的構造を有する主鎖の吸着が増加し、触媒金属に対する電解質の被覆率が高くなる。一方、触媒担体重量に対する高分子電解質のスルホン酸基のモル数を1.0mmol/g以下とすることで、触媒金属と電解質との接触が抑えられるため、反応ガス(特にO
2)を部分的に電解質を介さずに直接供給し、ガス輸送性が向上できるものと考えられる。本発明者らは、触媒金属が電解質と接触しない場合であっても、水により三相界面を形成することによって、触媒を有効に利用できることを見出した。このため、触媒を部分的に電解質で被覆する(電解質を部分的にしか触媒金属と接触させない)ことにより、電解質を通過しなくとも良いサイトが多くなるため、ガス輸送性を向上できる。これにより、触媒金属まで反応ガスが(特にO
2)がより速やかにかつより効率よく輸送されるようになり、触媒が高い触媒活性を発揮できる、すなわち、触媒反応を促進できる。また、上記効果は高負荷条件下でも有効に発揮できる。したがって、本発明の触媒層を有する膜電極接合体および燃料電池は、高い電流電圧(iV)特性を示し(高い電流密度での電圧低下を抑制し)、発電性能に優れる。
【0020】
また、触媒のBET比表面積が900m
2/g以上の場合には、触媒担体が空孔、特に後述するメソ孔を多く有するため、空孔入口を高分子電解質が塞ぐことによって、空孔内へのガス輸送性が低下する。空孔内には触媒金属が担持されているため、空孔内へのガス輸送性が低下すると、触媒活性が低下することとなる。一方、触媒担体重量に対する高分子電解質のスルホン酸基のモル数を1.0mmol/g以下とすることで、触媒が部分的に高分子電解質に被覆されるために、空孔入口を高分子電解質が塞ぐことを抑制することができ、空孔内へガスを効率的に輸送することができる。
【0021】
一方、触媒担体重量に対する高分子電解質のスルホン酸基のモル数が小さいと、触媒金属への高分子電解質の吸着が少なくなり、高分子電解質が触媒層内で凝集して存在しやすくなる。結果、触媒層内のガス輸送性が低下するものと考えられる。触媒担体重量に対する高分子電解質のスルホン酸基のモル数が、0.7mmol/g以上とすることで、ガス輸送性(特に酸素輸送性)が向上できる。
【0022】
なお、上記本発明の効果が発揮されるメカニズムは推定であり、本発明は上記推定によって限定されない。
【0023】
上記実施形態によれば、電解質を通過しなくても反応ガスが到達しうる触媒金属の量を適切な範囲に調節することによりガスの輸送パスを確保するため、電極触媒層はガス輸送性が向上でき、また、触媒の比表面積が高いため、触媒活性に優れる。また、本実施形態によれば、触媒のD’/G強度比が低いため、電極触媒層は耐久性が高く、高い触媒活性が維持される。
【0024】
したがって、本実施形態の燃料電池用触媒層は、高い触媒活性を発揮でき、かつ当該活性を維持できる。また、該触媒層を有する膜電極接合体および燃料電池は、発電性能及び耐久性に優れる。したがって、本発明の他の実施形態は、上記燃料電池用電極触媒層を含む、燃料電池用膜電極接合体であり、さらに他の実施形態は、当該燃料電池用膜電極接合体を含む燃料電池である。
【0025】
以下、適宜図面を参照しながら、本発明の触媒の一実施形態、並びにこれを使用した触媒層、膜電極接合体(MEA)および燃料電池の一実施形態を詳細に説明する。しかし、本発明は、以下の実施形態のみには制限されない。なお、各図面は説明の便宜上誇張されて表現されており、各図面における各構成要素の寸法比率が実際とは異なる場合がある。また、本発明の実施の形態を図面を参照しながら説明した場合では、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0026】
また、本明細書において、範囲を示す「X〜Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50%の条件で測定する。
【0027】
[燃料電池]
燃料電池は、膜電極接合体(MEA)と、燃料ガスが流れる燃料ガス流路を有するアノード側セパレータと酸化剤ガスが流れる酸化剤ガス流路を有するカソード側セパレータとからなる一対のセパレータとを有する。本形態の燃料電池は、耐久性に優れ、かつ高い発電性能を発揮できる。
【0028】
図1は、本発明の一実施形態に係る固体高分子形燃料電池(PEFC)1の基本構成を示す概略図である。PEFC 1は、まず、固体高分子電解質膜2と、これを挟持する一対の触媒層(アノード触媒層3aおよびカソード触媒層3c)とを有する。そして、固体高分子電解質膜2と触媒層(3a、3c)との積層体はさらに、一対のガス拡散層(GDL)(アノードガス拡散層4aおよびカソードガス拡散層4c)により挟持されている。このように、固体高分子電解質膜2、一対の触媒層(3a、3c)および一対のガス拡散層(4a、4c)は、積層された状態で膜電極接合体(MEA)10を構成する。
【0029】
PEFC 1において、MEA 10はさらに、一対のセパレータ(アノードセパレータ5aおよびカソードセパレータ5c)により挟持されている。
図1において、セパレータ(5a、5c)は、図示したMEA 10の両端に位置するように図示されている。ただし、複数のMEAが積層されてなる燃料電池スタックでは、セパレータは、隣接するPEFC(図示せず)のためのセパレータとしても用いられるのが一般的である。換言すれば、燃料電池スタックにおいてMEAは、セパレータを介して順次積層されることにより、スタックを構成することとなる。なお、実際の燃料電池スタックにおいては、セパレータ(5a、5c)と固体高分子電解質膜2との間や、PEFC 1とこれと隣接する他のPEFCとの間にガスシール部が配置されるが、
図1ではこれらの記載を省略する。
【0030】
セパレータ(5a、5c)は、例えば、厚さ0.5mm以下の薄板にプレス処理を施すことで
図1に示すような凹凸状の形状に成形することにより得られる。セパレータ(5a、5c)のMEA側から見た凸部はMEA 10と接触している。これにより、MEA 10との電気的な接続が確保される。また、セパレータ(5a、5c)のMEA側から見た凹部(セパレータの有する凹凸状の形状に起因して生じるセパレータとMEAとの間の空間)は、PEFC 1の運転時にガスを流通させるためのガス流路として機能する。具体的には、アノードセパレータ5aのガス流路6aには燃料ガス(例えば、水素など)を流通させ、カソードセパレータ5cのガス流路6cには酸化剤ガス(例えば、空気など)を流通させる。
【0031】
一方、セパレータ(5a、5c)のMEA側とは反対の側から見た凹部は、PEFC 1の運転時にPEFCを冷却するための冷媒(例えば、水)を流通させるための冷媒流路7とされる。さらに、セパレータには通常、マニホールド(図示せず)が設けられる。このマニホールドは、スタックを構成した際に各セルを連結するための連結手段として機能する。かような構成とすることで、燃料電池スタックの機械的強度が確保されうる。
【0032】
なお、
図1に示す実施形態においては、セパレータ(5a、5c)は凹凸状の形状に成形されている。ただし、セパレータは、かような凹凸状の形態のみに限定されるわけではなく、ガス流路および冷媒流路の機能を発揮できる限り、平板状、一部凹凸状などの任意の形態であってもよい。
【0033】
上記のような、本発明のMEAを有する燃料電池は、優れた発電性能および耐久性を発揮する。ここで、燃料電池の種類としては、特に限定されず、上記した説明中では高分子電解質形燃料電池を例に挙げて説明したが、この他にも、アルカリ型燃料電池、ダイレクトメタノール型燃料電池、マイクロ燃料電池などが挙げられる。なかでも小型かつ高密度・高出力化が可能であるから、高分子電解質形燃料電池(PEFC)が好ましく挙げられる。また、前記燃料電池は、搭載スペースが限定される車両などの移動体用電源の他、定置用電源などとして有用である。なかでも、比較的長時間の運転停止後に高い出力電圧が要求される自動車などの移動体用電源として用いられることが特に好ましい。
【0034】
燃料電池を運転する際に用いられる燃料は特に限定されない。例えば、水素、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、第2級ブタノール、第3級ブタノール、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどが用いられうる。なかでも、高出力化が可能である点で、水素やメタノールが好ましく用いられる。
【0035】
また、燃料電池の適用用途は特に限定されるものではないが、車両に適用することが好ましい。本発明の電解質膜−電極接合体は、発電性能および耐久性に優れ、小型化が実現可能である。このため、本発明の燃料電池は、車載性の点から、車両に該燃料電池を適用した場合、特に有利である。したがって、本発明は、本発明の燃料電池を有する車両を提供する。
【0036】
以下、本形態の燃料電池を構成する部材について簡単に説明するが、本発明の技術的範囲は下記の形態のみに制限されない。
【0037】
[電極触媒層(触媒層)]
本発明の触媒層は、カソード触媒層またはアノード触媒層のいずれであってもよいが、カソード触媒層であることが好ましい。上述したように、本発明の触媒層では、触媒と電解質とが接触しなくても、水との三相界面を形成することによって、触媒を有効に利用できるが、カソード触媒層で水が形成するからである。
【0038】
ここで、触媒層は、触媒金属が触媒担体に担持されてなる触媒および電解質を必須に含む。
【0039】
触媒層において、触媒担体重量に対する高分子電解質のスルホン酸基のモル数は、ガス輸送性向上の観点から、0.7mmol/g以上1.0mmol/g以下であり、好ましくは、0.75〜0.95mmol/gであり、より好ましくは0.8〜0.9mmol/gである。
【0040】
触媒担体重量に対する高分子電解質のスルホン酸基のモル数は、以下のようにして求められる;
【0042】
ここで、A=触媒担体に対する高分子電解質の重量比(I/C比)、B=EW(等価質量=高分子電解質のスルホン酸基1モルあたりの高分子電解質重量)[g]/[mol]([g]/[eq])
異なる2種のEWを持つ高分子電解質(イオン交換基がスルホン酸基である)を用いる場合には、各高分子電解質のI/C比に各高分子電解質のEWを除したものを用いる。
【0043】
具体的には下記のように求めることができる。以下では、2種の高分子電解質(高分子電解質1および高分子電解質2)を用いた場合について説明する。
【0045】
ここで、A1=高分子電解質1の触媒担体に対する高分子電解質の重量比(I/C比)、B1=EW(高分子電解質1のスルホン酸基量に対する高分子電解質重量)[g]/[mol]、A2=高分子電解質2の触媒担体に対する高分子電解質の重量比(I/C比)、B2=EW(高分子電解質2のスルホン酸基量に対する高分子電解質重量)[g]/[mol]
以下複数の高分子電解質を用いた場合、同様である。
【0046】
触媒担体重量に対する高分子電解質のスルホン酸基のモル数は、高分子電解質のEWおよびI/C比を適宜調整することによって制御することができる。
【0047】
(高分子電解質)
高分子電解質は、イオン交換基がスルホン酸基である限り、特に制限されず従来公知の知見が適宜参照されうる。高分子電解質は、構成材料であるイオン交換樹脂の種類によって、フッ素系高分子電解質と炭化水素系高分子電解質とに大別される。中でも、高分子電解質はフッ素系高分子電解質であることが好ましい。R’値が0.6以下である条件下では触媒は疎水性が高いが、上記(III)の構成により、疎水性の高いフッ素系高分子電解質を用いた場合であっても電解質が触媒に吸着しにくく、本発明の効果がより顕著に得られやすい。また、耐熱性、化学的安定性、耐久性、機械強度に優れるという観点からもフッ素系高分子電解質が好ましい。
【0048】
フッ素系高分子電解質を構成するイオン交換樹脂としては、例えば、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)等のパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー、トリフルオロスチレンスルホン酸系ポリマー、エチレンテトラフルオロエチレン−g−スチレンスルホン酸系ポリマー、ポリビニリデンフルオリド−パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーなどが挙げられる。中でも、パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーから構成されるフッ素系高分子電解質が用いられる。
【0049】
炭化水素系電解質として、具体的には、スルホン化ポリエーテルスルホン(S−PES)、スルホン化ポリアリールエーテルケトン、スルホン化ポリベンズイミダゾールアルキル、ホスホン化ポリベンズイミダゾールアルキル、スルホン化ポリスチレン、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(SPEEK)、スルホン化ポリフェニレン(S−PPP)などが挙げられる。
【0050】
なお、上述したイオン交換樹脂は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。また、上述した材料のみに制限されず、その他の材料が用いられてもよい。
【0051】
プロトンの伝達を担う高分子電解質においては、プロトンの伝導度が重要となる。ここで、高分子電解質のEWが大きすぎる場合には触媒層全体でのイオン伝導性が低下する。したがって、本形態の触媒層は、EWの小さい高分子電解質を含むことが好ましい。一方、EWが小さすぎる場合には、親水性が高すぎて、水の円滑な移動が困難となる。かような観点から、高分子電解質の等価質量(EW)は、500g/eq以上1200g/eq以下であることが好ましく、700g/eq以上1100g/eq以下であることがより好ましい。なお、EW(Equivalent Weight)は、プロトン伝導性を有する交換基の当量重量を表している。当量重量は、イオン交換基1当量あたりのイオン交換膜の乾燥重量であり、「g/eq」の単位で表される。EWは、市販品の高分子電解質を用いる場合には、当該製品のカタログなどに記載されている文献値を採用する。また、高分子電解質のEWが不明である場合には、水酸化ナトリウムを用いた塩基中和滴定により、求めることができる。
【0052】
また、触媒担体に対する高分子電解質の重量比(I/C比)は、イオン伝導性およびプロトン伝導性を考慮すると、0.5以上1.0以下であることが好ましく、0.6以上0.9以下であることがより好ましい。
【0053】
また、触媒層は、EWが異なる2種類以上の高分子電解質を発電面内に含み、この際、高分子電解質のうち最もEWが低い高分子電解質を流路内ガスの相対湿度が90%以下の領域に用いることが好ましい。このような材料配置を採用することにより、電流密度領域によらず、抵抗値が小さくなって、電池性能の向上を図ることができる。流路内ガスの相対湿度が90%以下の領域に用いる高分子電解質、すなわちEWが最も低い高分子電解質のEWとしては、900g/eq.以下であることが望ましい。これにより、上述の効果がより確実、顕著なものとなる。
【0054】
さらに、EWが最も低い高分子電解質を冷却水の入口と出口の平均温度よりも高い領域に用いることが望ましい。これによって、電流密度領域によらず、抵抗値が小さくなって、電池性能のさらなる向上を図ることができる。
【0055】
さらには、燃料電池システムの抵抗値を小さくするという観点から、EWが最も低い高分子電解質は、流路長に対して燃料ガスおよび酸化剤ガスの少なくとも一方のガス供給口から3/5以内の範囲の領域に用いることが望ましい。
【0056】
(触媒)
触媒は、(II)G強度に対するD’強度の比R’(D’/G強度比)が0.6以下である。
【0057】
上記(II)により、触媒担体のグラファイト構造中に存在する電気化学的腐食の起点となるカーボン(グラフェン)のエッジ量を十分少なくできる。このため、耐久性を向上でき、触媒金属を担持した際の触媒活性の低下を効果的に抑制・防止できる。さらなる耐久性の向上を考慮すると、触媒のR’値(D’/G強度比)は、0〜0.6であることが好ましく、0〜0.51であることがより好ましい。
【0058】
上記に加えて、触媒は、(II’)G強度に対するD強度の比R(D/G強度比)が1.7以上であることが好ましい。なお、本明細書では、ラマン分光法によって1360cm
−1付近で計測されるDバンドを、単に「Dバンド」とも称する。また、Dバンドのピーク強度を、「D強度」とも称する。さらに、G強度に対するD強度の比を、単に「R値」または「D/G強度比」とも称する。ここで、Dバンドは、ラマン散乱分析で1360cm
−1付近に観測され、グラファイト構造の乱れ(disorder)や欠陥に起因し、グラフェン分子の配向性が高い場合やグラファイト化度(黒鉛化度)が高い場合に現れる。すなわち、R値が大きいとは、炭素粉末(担体)のグラファイト化度(黒鉛化度)が低いことを意味する。ゆえに、R値を1.7以上とすることで、炭素粉末表面積当たりの電気二重層容量がより大きくなり、触媒活性をより効果的に向上できる。電気二重層容量(触媒活性)のさらなる向上を考慮すると、触媒のR値(D/G強度比)は、1.75を超えて2.5以下であることが好ましく、1.8〜2.4であることがより好ましい。
【0059】
なお、本明細書において、R’値は、顕微ラマン分光器にて、触媒(または後述する触媒担体前駆体)のラマンスペクトルを計測し、D’バンドと呼ばれる1620cm
−1付近のピーク強度(D’強度)と、Gバンドと呼ばれる1580cm
−1付近のピーク強度(G強度)との相対的強度比、つまりピーク面積比(D’強度/G強度)を算出することにより求められる。同様にして、R値は、顕微ラマン分光器にて、触媒(または後述する触媒担体前駆体)のラマンスペクトルを計測し、Dバンドと呼ばれる1360cm
−1付近のピーク強度(D強度)と、Gバンドと呼ばれる1580cm
−1付近のピーク強度(G強度)との相対的強度比、つまりピーク面積比(D強度/G強度)を算出することにより求められる。該ピーク面積は、下記に示されるラマン分光測定により求められたものを採用する。
【0060】
(ラマン分光測定法)
ラマンスペクトルは、測定装置として、顕微レーザーラマンSENTERRA(ブルカー・オプティクス製)を使用し、室温(25℃)で、露光30秒×積算4回、以下の条件にて測定する。なお、Gバンド、D’バンド及びDバンドのピークは、ガウス分布によるピークフィッティングによって決定できる。
【0062】
触媒は、(I)BET比表面積が900m
2/g触媒担体以上である。より好ましくは1000m
2/g触媒担体以上、さらに好ましくは1000〜3000m
2/g触媒担体であり、特に好ましくは1100〜1800m
2/g触媒担体である。上記したような比表面積であれば、触媒は十分な比表面積を有するため、大きな電気二重層容量を達成できる。
【0063】
また、上記したような比表面積であれば、下記説明を行うメソ孔及びミクロ孔を十分に確保できるため、ガス輸送を行うのに十分なミクロ孔(より低いガス輸送抵抗)を確保しつつ、メソ孔により多くの触媒金属を格納(担持)できる。さらに、触媒層での電解質と触媒金属とを物理的に離すことができる(触媒金属と電解質との接触をより有効に抑制・防止できる)。ゆえに、触媒金属の活性をより有効に利用できる。加えて、ミクロ孔がガスの輸送パスとして作用して、水により三相界面をより顕著に形成して、触媒活性をより向上できる。
【0064】
本実施形態では、電解質が触媒を部分的に被覆するため、触媒金属が担持されているメソ孔の入り口を電解質が塞ぐことを抑制し、触媒金属へ効率的にガスを輸送することができる。
【0065】
なお、本明細書において、「BET比表面積(m
2/g触媒担体)」は、窒素吸着法により測定される。詳細には、サンプル(炭素粉末、触媒粉末) 約0.04〜0.07gを精秤し、試料管に封入する。この試料管を真空乾燥器で90℃×数時間予備乾燥し、測定用サンプルとする。秤量には、株式会社島津製作所製電子天秤(AW220)を用いる。なお、塗布シートの場合には、これの全重量から、同面積のテフロン(登録商標)(基材)重量を差し引いた塗布層の正味の重量約0.03〜0.04gを試料重量として用いる。次に、下記測定条件にて、BET比表面積を測定する。吸着・脱着等温線の吸着側において、相対圧(P/P
0)約0.00〜0.45の範囲から、BETプロットを作成することで、その傾きと切片からBET比表面積を算出する。
【0067】
触媒は、下記(a)〜(c):
(a)触媒は半径が1nm未満の空孔および半径1nm以上の空孔を有し、前記半径が1nm未満の空孔の空孔容積は0.3cc/g担体以上であり、かつ触媒金属は前記半径1nm以上の空孔の内部に担持されている;
(b)触媒は半径が1nm以上5nm未満の空孔を有し、該空孔の空孔容積は0.8cc/g担体以上であり、かつ触媒金属の比表面積は60m
2/g担体以下である;
(c)触媒は半径が1nm未満の空孔および半径1nm以上の空孔を有し、前記半径が1nm未満の空孔の空孔分布のモード半径が0.3nm以上1nm未満であり、かつ触媒金属は前記半径1nm以上の空孔の内部に担持されている、の少なくとも一を満たすことが好ましい。なお、本明細書では、上記(a)を満たす触媒を「触媒(a)」と、上記(b)を満たす触媒を「触媒(b)」と、上記(c)を満たす触媒を「触媒(c)」と、も称する。
【0068】
上記に代えてまたは上記に加えて、触媒は、下記(d):
(d)触媒は半径1nm以上の空孔の空孔分布のモード半径が1nm以上5nm未満であり、触媒金属は半径1nm以上の空孔の内部に担持され、前記モード半径が触媒金属の平均粒半径以下であり、かつ前記半径1nm以上5nm未満の空孔の空孔容積が0.4cc/g担体以上である、を満たすことが好ましい。なお、本明細書では、上記(d)を満たす触媒を「触媒(d)」とも称する。
【0069】
以下、上記好ましい形態である触媒(a)〜(d)について詳述する。
【0070】
(触媒(a)および(c))
触媒(a)は、触媒担体および前記触媒担体に担持される触媒金属からなり、下記構成(a−1)〜(a−3)を満たす:(a−1)前記触媒は半径が1nm未満の空孔(一次空孔)および半径1nm以上の空孔(一次空孔)を有する;(a−2)前記半径が1nm未満の空孔の空孔容積は0.3cc/g担体以上である;および(a−3)前記触媒金属は前記半径1nm以上の空孔の内部に担持されている。
【0071】
また、触媒(c)は、触媒担体および前記触媒担体に担持される触媒金属からなり、下記構成(a−1)、(c−1)および(a−3)を満たす:(a−1)前記触媒は半径が1nm未満の空孔および半径1nm以上の空孔を有する;(c−1)前記半径が1nm未満の空孔の空孔分布のモード半径が0.3nm以上1nm未満である;および(a−3)前記触媒金属は前記半径1nm以上の空孔の内部に担持されている。
【0072】
なお、本明細書中では、半径が1nm未満の空孔を「ミクロ孔」とも称する。また、本明細書中では、半径1nm以上の空孔を「メソ孔」とも称する。
【0073】
上述したように、本発明者らは、触媒金属が電解質と接触しない場合であっても、水により三相界面を形成することによって、触媒金属を有効に利用できることを見出した。このため、上記触媒(a)及び(c)について、上記(a−3)触媒金属を電解質が進入できないメソ孔内部に担持する構成をとることによって、触媒活性を向上できる。一方、触媒金属を電解質が進入できないメソ孔内部に担持する場合には、酸素等のガスの輸送距離が増大してガス輸送性が低下するため、十分な触媒活性を引き出せずに、高負荷条件では触媒性能が低下してしまう。これに対して、上記(a−2)電解質や触媒金属がほとんどまたは全く進入できないミクロ孔の空孔容積を十分確保するまたは上記(c−1)ミクロ孔のモード径を大きく設定することによって、ガスの輸送パスを十分確保できる。ゆえに、メソ孔内の触媒金属に酸素等のガスを効率よく輸送できる、すなわち、ガス輸送抵抗を低減できる。当該構成により、ガス(例えば、酸素)がミクロ孔内を通過して(ガス輸送性が向上して)、ガスを効率よく、触媒金属と接触させることができる。したがって、触媒(a)及び(c)を触媒層に使用する場合には、ミクロ孔が大容積で存在するため、メソ孔に存在する触媒金属の表面に当該ミクロ孔(パス)を介して反応ガスを輸送できるため、ガス輸送抵抗をより低減できる。ゆえに、触媒(a)及び(c)を含む触媒層は、より高い触媒活性を発揮できる、すなわち、触媒反応をより促進できる。このため、触媒(a)及び(c)を用いた触媒層を有する膜電極接合体および燃料電池は、発電性能をさらに向上できる。
【0074】
図2は、触媒(a)及び(c)の形状・構造を示す概略断面説明図である。
図2に示されるように、触媒(a)及び(c)20は、触媒金属22および触媒担体23からなる。また、触媒20は、半径が1nm未満の空孔(ミクロ孔)25および半径1nm以上の空孔(メソ孔)24を有する。ここで、触媒金属22は、メソ孔24の内部に担持される。また、触媒金属22は、少なくとも一部がメソ孔24の内部に担持されていればよく、一部が触媒担体23表面にされていてもよい。しかし、触媒層での電解質と触媒金属の接触を防ぐという観点からは、実質的にすべての触媒金属22がメソ孔24の内部に担持されることが好ましい。ここで、「実質的にすべての触媒金属」とは、十分な触媒活性を向上できる量であれば特に制限されない。「実質的にすべての触媒金属」は、全触媒金属において、好ましくは50重量%以上(上限:100重量%)、より好ましくは80重量%以上(上限:100重量%)の量で存在する。
【0075】
本明細書において、「触媒金属がメソ孔の内部に担持される」ことは、触媒担体への触媒金属の担持前後のメソ孔の容積の減少によって確認できる。詳細には、触媒担体(以下、単に「担体」とも称する)は、ミクロ孔およびメソ孔を有し、各空孔はそれぞれ一定の容積を有しているが、触媒金属がこれらの空孔に担持されると、各空孔の容積は減少する。したがって、触媒金属担持前の触媒(担体)のメソ孔の容積と触媒金属担持後の触媒(担体)のメソ孔の容積の差[=(担持前の容積)−(担持後の容積)]が0を超える場合には、「触媒金属がメソ孔の内部に担持される」こととなる。同様にして、触媒金属担持前の触媒(担体)のミクロ孔の容積と触媒金属担持後の触媒(担体)のミクロ孔の容積の差[=(担持前の容積)−(担持後の容積)]が0を超える場合には、「触媒金属がミクロ孔の内部に担持される」こととなる。好ましくは、触媒金属が、ミクロ孔よりメソ孔に多く担持される(即ち、担持前後のメソ孔の容積の減少値>担持前後のミクロ孔の容積の減少値)。これにより、ガス輸送抵抗を低減し、ガス輸送のためのパスを十分確保できるからである。ガス輸送抵抗の低減、ガス輸送のためのパスの確保などを考慮すると、上記触媒金属担持前後のメソ孔の空孔容積の減少値が0.02cc/g以上であることが好ましく、0.02〜0.4cc/gであることがより好ましい。
【0076】
また、(触媒金属担持後の触媒の)半径1nm未満の空孔(ミクロ孔)の空孔容積は0.3cc/g担体以上である、および/または(触媒金属担持後の触媒の)ミクロ孔の空孔分布のモード半径(最頻度径)が0.3nm以上1nm未満であることが好ましい。より好ましくは、ミクロ孔の空孔容積は0.3cc/g担体以上でありかつミクロ孔の空孔分布のモード半径が0.3nm以上1nm未満である。ミクロ孔の空孔容積および/またはモード径が上記したような範囲にあれば、ガス輸送を行うのに十分なミクロ孔が確保でき、ガス輸送抵抗が小さい。このため、当該ミクロ孔(パス)を介して十分量のガスをメソ孔に存在する触媒金属の表面に輸送できるため、高い触媒活性を発揮できる、即ち、触媒反応を促進できる。また、ミクロ孔内には電解質(アイオノマ)や液体(例えば、水)が侵入できず、ガスのみを選択的に通す(ガス輸送抵抗を低減できる)。ガス輸送性の向上効果を考慮すると、より好ましくは、ミクロ孔の空孔容積は、0.3〜2cc/g担体であり、0.4〜1.5cc/g担体であることが特に好ましい。また、より好ましくは、ミクロ孔の空孔分布のモード半径は、0.4〜1nmであり、0.4〜0.8nmであることが特に好ましい。なお、本明細書では、半径1nm未満の空孔の空孔容積を単に「ミクロ孔の空孔容積」とも称する。同様にして、本明細書では、ミクロ孔の空孔分布のモード半径を単に「ミクロ孔のモード径」とも称する。
【0077】
(触媒金属担持後の触媒の)半径1nm以上5nm未満の空孔(メソ孔)の空孔容積は、特に制限されないが、0.4cc/g担体以上、より好ましくは0.4〜3cc/g担体であり、特に好ましくは0.4〜1.5cc/g担体であることが好ましい。空孔容積が上記したような範囲にあれば、メソ孔により多くの触媒金属を格納(担持)でき、触媒層での電解質と触媒金属とを物理的に離すことができる(触媒金属と電解質との接触をより有効に抑制・防止できる)。ゆえに、触媒金属の活性をより有効に利用できる。また、多くのメソ孔の存在により、触媒反応をより効果的に促進できる。加えて、ミクロ孔がガスの輸送パスとして作用して、水により三相界面をより顕著に形成して、触媒活性をより向上できる。なお、本明細書では、半径1nm以上5nm未満の空孔の空孔容積を単に「メソ孔の空孔容積」とも称する。
【0078】
(触媒金属担持後の触媒の)半径1nm以上の空孔(メソ孔)の空孔分布のモード半径(最頻度径)は、特に制限されないが、1〜5nm、より好ましくは1〜4nmであり、特に好ましくは1〜3nmであることが好ましい。上記したようなメソ孔の空孔分布のモード径であれば、メソ孔により十分量の触媒金属を格納(担持)でき、触媒層での電解質と触媒金属とを物理的に離すことができる(触媒金属と電解質との接触をより有効に抑制・防止できる)。ゆえに、触媒金属の活性をより有効に利用できる。また、大容積のメソ孔の存在により、触媒反応をより効果的に促進できる。加えて、ミクロ孔がガスの輸送パスとして作用して、水により三相界面をより顕著に形成して、触媒活性をより向上できる。なお、本明細書では、メソ孔の空孔分布のモード半径を単に「メソ孔のモード径」とも称する。
【0079】
本明細書において、「ミクロ孔の空孔の半径(nm)」は、窒素吸着法(MP法)により測定される空孔の半径を意味する。また、「ミクロ孔の空孔分布のモード半径(nm)」は、窒素吸着法(MP法)により得られる微分細孔分布曲線においてピーク値(最大頻度)をとる点の空孔半径を意味する。ここで、ミクロ孔の空孔半径の下限は、窒素吸着法により測定可能な下限値、すなわち、0.42nm以上である。同様にして、「メソ孔の空孔の半径(nm)」は、窒素吸着法(DH法)により測定される空孔の半径を意味する。また、「メソ孔の空孔分布のモード半径(nm)」は、窒素吸着法(DH法)により得られる微分細孔分布曲線においてピーク値(最大頻度)をとる点の空孔半径を意味する。ここで、メソ孔の空孔半径の上限は、特に制限されないが、5nm以下である。
【0080】
本明細書において、「ミクロ孔の空孔容積」は、触媒に存在する半径1nm未満のミクロ孔の総容積を意味し、担体1gあたりの容積(cc/g担体)で表される。「ミクロ孔の空孔容積(cc/g担体)」は、窒素吸着法(MP法)によって求めた微分細孔分布曲線の下部の面積(積分値)として算出される。同様にして、「メソ孔の空孔容積」は、触媒に存在する半径1nm以上5nm未満のメソ孔の総容積を意味し、担体1gあたりの容積(cc/g担体)で表される。「メソ孔の空孔容積(cc/g担体)」は、窒素吸着法(DH法)によって求めた微分細孔分布曲線の下部の面積(積分値)として算出される。
【0081】
本明細書において、「微分細孔分布」とは、細孔径を横軸に、触媒中のその細孔径に相当する細孔容積を縦軸にプロットした分布曲線である。すなわち、窒素吸着法(ミクロ孔の場合にはMP法;メソ孔の場合にはDH法)により得られる触媒の空孔容積をVとし、空孔直径をDとした際の、差分空孔容積dVを空孔直径の対数差分d(logD)で割った値(dV/d(logD))を求める。そして、このdV/d(logD)を各区分の平均空孔直径に対してプロットすることにより微分細孔分布曲線が得られる。差分空孔容積dVとは、測定ポイント間の空孔容積の増加分をいう。
【0082】
ここで、窒素吸着法(MP法)によるミクロ孔の半径及び空孔容積の測定方法は、特に制限されず、例えば、「吸着の科学」(第2版 近藤精一、石川達雄、安部郁夫 共著、丸善株式会社)、「燃料電池の解析手法」(高須芳雄、吉武優、石原達己 編、化学同人)、R. Sh. Mikhail, S. Brunauer, E. E. Bodor J.Colloid Interface Sci.,26, 45(1968)等の公知の文献に記載される方法が採用できる。本明細書では、窒素吸着法(MP法)によるミクロ孔の半径及び空孔容積は、R. Sh. Mikhail, S. Brunauer, E. E. Bodor J.Colloid Interface Sci.,26, 45(1968)に記載される方法によって、測定された値である。
【0083】
また、窒素吸着法(DH法)によるメソ孔の半径及び空孔容積の測定方法もまた、特に制限されず、例えば、「吸着の科学」(第2版 近藤精一、石川達雄、安部郁夫 共著、丸善株式会社)や「燃料電池の解析手法」(高須芳雄、吉武優、石原達己 編、化学同人)、D. Dollion, G. R. Heal : J. Appl. Chem., 14, 109 (1964)等の公知の文献に記載される方法が採用できる。本明細書では、窒素吸着法(DH法)によるメソ孔の半径及び空孔容積は、D. Dollion, G. R. Heal : J. Appl. Chem., 14, 109 (1964) に記載される方法によって、測定された値である。
【0084】
上記したような特定の空孔分布を有する触媒の製造方法は、特に制限されないが、通常、担体の空孔分布(ミクロ孔及びメソ孔)を上記したような空孔分布とすることが重要である。具体的には、ミクロ孔及びメソ孔を有し、かつミクロ孔の空孔容積が0.3cc/g担体以上である担体の製造方法としては、特開2010−208887号公報(米国特許出願公開第2011/318254号明細書、以下同様)や国際公開第2009/75264号(米国特許出願公開第2011/058308号明細書、以下同様)などの公報に記載される方法が好ましく使用される。また、ミクロ孔及びメソ孔を有し、かつミクロ孔の空孔分布のモード半径が0.3nm以上1nm未満である担体の製造方法としては、特開2010−208887号公報や国際公開第2009/75264号などの公報に記載される方法が好ましく使用される。
【0085】
(触媒(b))
触媒(b)は、触媒担体および前記触媒担体に担持される触媒金属からなり、下記構成(b−1)〜(b−3)を満たす:(b−1)半径が1nm以上5nm未満の空孔を有する;(b−2)半径が1nm以上5nm未満の空孔の空孔容積は0.8cc/g担体以上である;および(b−3)触媒金属の比表面積は60m
2/g担体以下である。
【0086】
上記(b−1)〜(b−3)の構成を有する触媒によれば、触媒の空孔内が水で満たされることが抑制された上で、反応ガスの輸送に寄与する空孔が十分に確保される。その結果、ガス輸送性に優れた触媒を提供することができる。詳細には、ガス輸送に有効なメソ孔の容積が十分確保され、さらに、触媒金属の比表面積を小さくすることで、触媒金属が担持されたメソ孔内に保持される水の量を十分減らすことができる。ゆえに、メソ孔内が水で満たされることが抑制されるため、メソ孔内の触媒金属に酸素等のガスをより効率よく輸送することができる。すなわち、触媒におけるガス輸送抵抗をより低減することができる。その結果、本実施形態の触媒(b)は、触媒反応が促進され、より高い触媒活性を発揮することができる。このため、本実施形態の触媒(b)を用いた触媒層を有する膜電極接合体および燃料電池は、発電性能をさらに向上できる。
【0087】
図3は、本発明の一実施形態に係る触媒(b)の形状・構造を示す概略断面説明図である。
図3に示されるように、本発明の触媒20’は、触媒金属22’および触媒担体23’からなる。また、触媒20’は、半径1nm以上5nm未満の空孔(メソ孔)24’を有する。ここで、触媒金属22’は、主としてメソ孔24’の内部に担持される。また、触媒金属22’は、少なくとも一部がメソ孔24’の内部に担持されていればよく、一部が触媒担体23’表面に担持されていてもよい。しかし、触媒層での電解質(電解質ポリマー、アイオノマー)と触媒金属の接触を防ぎ、触媒活性を向上させるという観点からは、実質的にすべての触媒金属22’がメソ孔24’の内部に担持されることが好ましい。触媒金属が電解質と接触すると、触媒金属表面の面積比活性が減少する。これに対し、上記構成により、電解質が触媒担体23’のメソ孔24’内に入り込まないようにすることができ、触媒金属22’と電解質とが物理的に分離される。そして、水により三相界面を形成することができる結果、触媒活性が向上する。ここで、「実質的にすべての触媒金属」とは、十分な触媒活性を向上できる量であれば特に制限されない。「実質的にすべての触媒金属」は、全触媒金属において、好ましくは50重量%以上(上限:100重量%)、より好ましくは80重量%以上(上限:100重量%)の量で存在する。
【0088】
触媒(b)における半径1nm以上5nm未満の空孔(メソ孔)の空孔容積は0.8cc/g担体以上である。メソ孔の空孔容積は、好ましくは0.8〜3cc/g担体であり、特に好ましくは0.8〜2cc/g担体であることが好ましい。空孔容積が上記したような範囲にあれば、反応ガスの輸送に寄与する空孔が多く確保されるため、反応ガスの輸送抵抗を低減することができる。したがって、メソ孔内に格納される触媒金属の表面に反応ガスが速やかに輸送されるため、触媒金属が有効に利用される。さらに、メソ孔の容積が上記範囲にあれば、メソ孔内に触媒金属を格納(担持)でき、触媒層での電解質と触媒金属とを物理的に分離することができる(触媒金属と電解質との接触をより有効に抑制・防止できる)。このように、メソ孔内の触媒金属と、電解質との接触が抑制される上記態様であれば、担体表面に担持される触媒金属の量が多い時と比較して、触媒の活性をより有効に利用できる。
【0089】
また、触媒(b)において、触媒金属(触媒成分)は、比表面積が60m
2/g担体以下である。触媒金属の比表面積は、好ましくは5〜60m
2/g担体であり、より好ましくは5〜30m
2/g担体であり、特に好ましくは10〜25m
2/g担体である。触媒金属の表面は親水性であり、触媒反応により生成する水が吸着しやすいため、触媒金属が格納されたメソ孔には、水が保持されやすくなる。メソ孔内に水が保持されると、ガスの輸送経路が狭くなり、かつ、水中の反応ガスの拡散速度は遅いため、ガスの輸送性が低下する。これに対し、触媒金属の比表面積を上記範囲のように比較的小さくすることにより、触媒金属の表面に吸着する水の量を減らすことができる。その結果、メソ孔内に水が保持されにくくなり、触媒中、さらには触媒層中の含水率を低くすることができる。したがって、反応ガスの輸送抵抗を低減させることができ、触媒金属が有効に利用される。なお、本発明における「触媒金属の比表面積」は、例えば、Journal of Electroanalytical Chemistry 693 (2013) 34-41等に記載される方法によって測定できる。本明細書では、「触媒金属の比表面積」は、以下の方法によって測定された値を採用する。
【0090】
(触媒金属の比表面積の測定方法)
カソード触媒層について、サイクリックボルタンメトリーによる電気化学的有効表面積(ECA:Electrochemical surface area)を求める。ここで、対向するアノードには、測定温度において飽和するよう加湿した水素ガスを流通させ、これを参照極および対極として用いる。カソードには同様に加湿した窒素ガスを流通させておき、測定を開始する直前に、カソード入口および出口のバルブを閉じ、窒素ガスを封入する。この状態で、電気化学測定装置(北斗電工(株)製、型番:HZ-5000)を用いて下記条件にて測定する。
【0092】
上記したような特定の空孔容積を有する触媒の製造方法は、特に制限されないが、担体のメソ孔容積を上記したような空孔分布とすることが重要である。具体的には、メソ孔を有し、かつメソ孔の空孔容積が0.8cc/g担体以上である担体の製造方法としては、特開2010−208887号公報(米国特許出願公開第2011/318254号明細書、以下同様)、国際公開第2009/075264号(米国特許出願公開第2011/058308号明細書、以下同様)などの公報に記載される方法が好ましく使用される。
【0093】
上記触媒(a)及び(c)では、触媒金属の少なくとも一部がメソ孔の内部に担持されており、上記触媒(b)では、触媒金属の少なくとも一部がメソ孔の内部に担持されていることが好ましい。ここで、触媒金属がメソ孔内に担持される際の、メソ孔内に担持される触媒金属の大きさが、メソ孔の大きさに比して大きいことが好ましい(実施形態(i))。当該構成により、触媒金属と担体の空孔内壁面との距離が縮まり、水が存在しうる空間を減少する、すなわち触媒金属表面に吸着する水の量が減る。また、水が空孔内壁面の相互作用を受けることにより、金属酸化物の形成反応が遅くなり、金属酸化物が形成されにくくなる。その結果、触媒金属表面の失活をより抑制することができる。ゆえに、本実施形態(i)の触媒は、より高い触媒活性を発揮できる、すなわち、触媒反応をより促進できる。
【0094】
上記実施形態(i)において、(触媒金属担持後の触媒の)メソ孔の空孔分布のモード半径(最頻度径)は、1nm以上5nm以下であることが好ましく、より好ましくは1nm以上4nm以下であり、さらに好ましくは1nm以上3nm以下であり、特に好ましくは1nm以上2nm以下である。上記したような空孔分布のモード半径であれば、メソ孔に十分量の触媒金属を格納(担持)でき、触媒層での電解質と触媒金属とを物理的に離すことができる(触媒金属と電解質との接触をより有効に抑制・防止できる)。ゆえに、触媒金属の活性をより有効に利用できる。また、大容積の空孔(メソ孔)の存在により、本発明による作用・効果をさらに顕著に発揮して、触媒反応をより効果的に促進できる。
【0095】
また、上記実施形態(i)において、(触媒金属担持後の触媒の)触媒金属(触媒金属粒子)の平均粒径は、好ましくは2nm以上7nm以下、より好ましくは3nm以上5nm以下である。触媒金属の平均粒径が前記空孔分布のモード半径の2倍以上であれば(前記モード半径が前記触媒金属の平均粒径の半分以下であれば)、触媒金属と担体の空孔内壁面との距離が縮まり、水が存在しうる空間が減少する、すなわち触媒金属表面に吸着する水の量が減る。また、水が壁面との相互作用を受けることにより、金属酸化物の形成反応が遅くなり、金属酸化物が形成されにくくなる。その結果、触媒金属表面の失活が抑制され、高い触媒活性を発揮できる、すなわち、触媒反応を促進できる。また、触媒金属が空孔(メソ孔)内に比較的強固に担持され、触媒層内で電解質と接触するのをより有効に抑制・防止される。また、電位変化による溶出を防止し、経時的な性能低下をも抑制できる。このため、触媒活性をより向上できる、すなわち、触媒反応をより効率的に促進できる。
【0096】
(触媒(d))
触媒(d)は、触媒担体および前記触媒担体に担持される触媒金属からなり、下記構成(d−1)〜(d−4)を満たす:(d−1)触媒は半径1nm以上の空孔の空孔分布のモード半径が1nm以上5nm未満である;(d−2)触媒金属は半径が1nm以上の空孔の内部に担持される;(d−3)前記モード半径が前記触媒金属の平均粒径の半分以下である;および(d−4)半径が1nm以上5nm未満の空孔の空孔容積が0.4cc/g担体以上である。なお、本願明細書では、「平均粒径の半分(平均粒径の1/2倍)」を、「平均粒半径」とも称する。
【0097】
上記(d−1)〜(d−4)の構成を有する触媒によれば、触媒金属を電解質が進入できない空孔(メソ孔)内部に担持する構成をとることにより、空孔内部の触媒金属が水により三相界面を形成して、触媒を有効に利用する。その結果、触媒の活性を向上できる。詳細には、特に上記(d−3)空孔のモード半径を触媒金属の平均粒径の半分以下とすることにより、触媒金属と担体の空孔内壁面との距離が縮まり、水が存在しうる空間が減少する、すなわち触媒金属表面に吸着する水の量が減る。また、水が空孔内壁面の相互作用を受けることにより、金属酸化物の形成反応が遅くなり、金属酸化物が形成されにくくなる。その結果、触媒金属表面の失活をより抑制することができる。ゆえに、本実施形態の触媒(d)は、高い触媒活性を発揮できる、すなわち、触媒反応を促進できる。このため、本実施形態の触媒(d)を用いた触媒層を有する膜電極接合体および燃料電池は、発電性能に優れる。
【0098】
本発明の一実施形態に係る触媒(d)は、触媒金属および担体からなる。また、触媒は、空孔(メソ孔)を有する。ここで、触媒金属は、メソ孔の内部に担持される。また、触媒金属は、少なくとも一部がメソ孔の内部に担持されていればよく、一部が担体表面にされていてもよい。しかし、触媒層での電解質と触媒金属の接触を防ぐという観点からは、実質的にすべての触媒金属がメソ孔の内部に担持されることが好ましい。ここで、「実質的にすべての触媒金属」とは、十分な触媒活性を向上できる量であれば特に制限されない。「実質的にすべての触媒金属」は、全触媒金属において、好ましくは50重量%以上(上限:100重量%)、より好ましくは80重量%以上(上限:100重量%)の量で存在する。
【0099】
触媒(d)のメソ孔の空孔容積は、0.4cc/g担体以上であり、好ましくは0.45〜3cc/g担体であり、より好ましくは0.5〜1.5cc/g担体である。空孔容積が上記したような範囲にあれば、メソ孔により多くの触媒金属を格納(担持)でき、触媒層での電解質と触媒金属とを物理的に離すことができる(触媒金属と電解質との接触をより有効に抑制・防止できる)。ゆえに、触媒金属の活性をより有効に利用できる。また、多くのメソ孔の存在により、触媒反応をより効果的に促進できる。
【0100】
触媒(d)のメソ孔の空孔分布のモード半径(最頻度径)は、1nm以上5nm未満であり、好ましくは1nm以上4nm以下であり、より好ましくは1nm以上3nm以下であり、さらに好ましくは1nm以上2nm以下である。上記したような空孔分布のモード半径であれば、メソ孔に十分量の触媒金属を格納(担持)でき、触媒層での電解質と触媒金属とを物理的に離すことができる(触媒金属と電解質との接触をより有効に抑制・防止できる)。ゆえに、触媒金属の活性をより有効に利用できる。また、大容積の空孔(メソ孔)の存在により、本発明による作用・効果をさらに顕著に発揮して、触媒反応をより効果的に促進できる。
【0101】
上記したような特定の空孔分布を有する触媒の製造方法は、特に制限されないが、担体のメソ孔容積等を上記したような空孔分布とすることが重要である。かような担体の製造方法としては、特開2010−208887号公報、国際公開第2009/075264号などに記載される方法が好ましく使用される。
【0102】
(触媒担体)
触媒担体は、炭素を主成分とする。ここで、「炭素を主成分とする」とは、炭素のみからなる、実質的に炭素からなる、の双方を含む概念であり、炭素以外の元素が含まれていてもよい。「実質的に炭素からなる」とは、全体の80重量%以上、好ましくは全体の95重量%以上(上限:100重量%未満)が炭素から構成されることを意味する。
【0103】
触媒担体は、特に限定されるものではないが、炭素粉末であることが好ましい。さらに、後述の触媒担持処理によってもR’値は実質的に同一であることから、触媒が上記(II)の条件を満たすためには、触媒担体も下記(II)を満たすことが好ましい:(II)G強度に対するD’強度の比R’(D’/G強度比)が0.6以下である。
【0104】
上記(II)により、グラファイト構造中に存在する電気化学的腐食の起点となるカーボン(グラフェン)のエッジ量を十分少なくできる。このため、このような炭素粉末を触媒に用いることによって、耐久性を向上でき、触媒金属を担持した際の触媒活性の低下を効果的に抑制・防止できる。さらなる耐久性の向上を考慮すると、炭素粉末のR’値(D’/G強度比)は、0〜0.6であることが好ましく、0〜0.51であることがより好ましい。
【0105】
上記に加えて、さらに、後述の触媒担持処理によってもR値は実質的に同一であることから、触媒が上記(II’)の条件を満たすためには、触媒担体も(II’)G強度に対するD強度の比R(D/G強度比)が1.7以上であることが好ましい。このような触媒担体はグラファイト化度(黒鉛化度)が低いため、炭素粉末表面積当たりの電気二重層容量が大きくなり、触媒活性をより効果的に向上できる。電気二重層容量(触媒活性)のより向上を考慮すると、触媒担体のR値(D/G強度比)は、1.75を超えて2.5以下であることが好ましく、1.8〜2.4であることがより好ましい。
【0106】
触媒担体のBET比表面積は、触媒成分を高分散担持させるのに充分な比表面積であればよい。担体のBET比表面積は、実質的に触媒のBET比表面積と同等であるため、担体のBET比表面積は、好ましくは900m
2/g以上、より好ましくは1000m
2/g以上、特に好ましくは1100m
2/g以上である。また、担体のBET比表面積の上限は、特に制限されないが、3000m
2/g以下であると好ましく、1800m
2/g以下であるとより好ましい。上記したような比表面積であれば、十分なメソ孔及び場合によっては十分なミクロ孔を確保できるため、メソ孔により多くの触媒金属をより分散性良く格納(担持)できる。また、ガス輸送を行うのに十分なメソ孔及び場合によってはミクロ孔を確保できるため、ガス輸送抵抗をより低減できる。また、触媒層での電解質と触媒金属とを物理的に離す(触媒金属と電解質との接触をより有効に抑制・防止できる)。ゆえに、触媒金属の活性をより有効に利用できる。また、触媒金属粒子の近傍における局所的な流束が小さくなるため、反応ガスが速やかに輸送され、触媒金属が有効に利用される。また、多くの空孔(メソ孔)及び場合によってはミクロ孔の存在により、本発明による作用・効果をさらに顕著に発揮して、触媒反応をより効果的に促進できる。また、触媒担体上での触媒成分の分散性と触媒成分の有効利用率とのバランスが適切に制御できる。加えて、ミクロ孔がガスの輸送パスとして作用して、水により三相界面をより顕著に形成して、触媒活性をより向上できる。
【0107】
また、触媒担体の大きさは、特に限定されない。担持の容易さ、触媒利用率、電極触媒層の厚みを適切な範囲で制御するなどの観点からは、触媒担体の平均粒径(直径)が好ましくは5〜2000nm、より好ましくは10〜200nm、特に好ましくは20〜100nm程度とするのがよい。「触媒担体の平均粒径」の値としては、特に言及のない限り、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数〜数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。また、「粒子径(直径)」とは、粒子の中心を通りかつ粒子の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離を意味するものとする。
【0108】
触媒が上記構成(a)〜(d)のいずれかの要件を満たす場合、触媒担体も同様の構成(a)〜(d)の要件を満たすことが好ましい。
【0109】
触媒担体は、下記構成(1)〜(3)の少なくとも一を満たすことが好ましい。(1)(a−1)半径が1nm未満の空孔(一次空孔)および半径1nm以上の空孔(一次空孔)を有する;および(a−2)前記半径が1nm未満の空孔の空孔容積は0.3cc/g担体以上である。(2)(a−1)半径が1nm未満の空孔および半径1nm以上の空孔を有する;および(c−1)前記半径が1nm未満の空孔の空孔分布のモード半径が0.3nm以上1nm未満である。(3)(d−1)半径1nm以上の空孔の空孔分布のモード半径が1nm以上5nm未満である;および(d−4)半径が1nm以上5nm未満の空孔の空孔容積が0.4cc/g担体以上である。さらに、(3)において、(b−2)半径が1nm以上5nm未満の空孔の空孔容積は0.8cc/g担体以上であることが好ましい。この際の、(a−2)におけるミクロ孔の空孔容積、(c−1)におけるミクロ孔の空孔分布のモード半径、(d−1)における半径1nm以上の空孔の空孔分布のモード半径、(d−4)の半径が1nm以上5nm未満の空孔の空孔容積のより好適な範囲等は、上記触媒(a)〜(d)の欄に記載のものと同様である。
【0110】
(触媒金属)
触媒を構成する触媒金属は、電気的化学反応の触媒作用をする機能を有する。アノード触媒層に用いられる触媒金属は、水素の酸化反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。また、カソード触媒層に用いられる触媒金属もまた、酸素の還元反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。具体的には、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、タングステン、鉛、鉄、銅、銀、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属およびこれらの合金などから選択されうる。
【0111】
これらのうち、触媒活性、一酸化炭素等に対する耐被毒性、耐熱性などを向上させるために、少なくとも白金を含むものが好ましく用いられる。すなわち、触媒金属は、白金であるまたは白金と白金以外の金属成分を含むことが好ましく、白金または白金含有合金であることがより好ましい。このような触媒金属は、高い活性を発揮できる。特に触媒金属が白金である場合には、小粒径の白金を炭素粉末(担体)表面に分散できるため、白金使用量を低減しても重量あたりの白金表面積を維持できる。また、触媒金属が白金と白金以外の金属成分を含む場合には、高価な白金の使用量を低減できるため、コストの観点から好ましい。前記合金の組成は、合金化する金属の種類にもよるが、白金の含有量を30〜90原子%とし、白金と合金化する金属の含有量を10〜70原子%とするのがよい。なお、合金とは、一般に金属元素に1種以上の金属元素または非金属元素を加えたものであって、金属的性質をもっているものの総称である。合金の組織には、成分元素が別個の結晶となるいわば混合物である共晶合金、成分元素が完全に溶け合い固溶体となっているもの、成分元素が金属間化合物または金属と非金属との化合物を形成しているものなどがあり、本願ではいずれであってもよい。この際、アノード触媒層に用いられる触媒金属およびカソード触媒層に用いられる触媒金属は、上記の中から適宜選択されうる。本明細書では、特記しない限り、アノード触媒層用およびカソード触媒層用の触媒金属についての説明は、両者について同様の定義である。しかしながら、アノード触媒層およびカソード触媒層の触媒金属は同一である必要はなく、上記したような所望の作用を奏するように、適宜選択されうる。
【0112】
触媒金属(触媒成分)の形状や大きさは、特に制限されず公知の触媒成分と同様の形状および大きさが採用されうる。形状としては、例えば、粒状、鱗片状、層状などのものが使用できるが、好ましくは粒状である。
【0113】
触媒金属(触媒金属粒子)の平均粒径(直径)は、特に制限されないが、3nm以上、より好ましくは3nm超30nm以下、特に好ましくは3nm超10nm以下であることが好ましい。触媒金属の平均粒径が3nm以上であれば、触媒金属が炭素粉末(例えば、炭素粉末のメソ孔内)に比較的強固に担持され、触媒層内で電解質と接触するのをより有効に抑制・防止される。また、触媒担体がミクロ孔を有する場合には、ミクロ孔が触媒金属で塞がれずに残存し、ガスの輸送パスがより良好に確保されて、ガス輸送抵抗をより低減できる。また、電位変化による溶出を防止し、経時的な性能低下をも抑制できる。このため、触媒活性をより向上できる、すなわち、触媒反応をより効率的に促進できる。一方、触媒金属粒子の平均粒径が30nm以下であれば、触媒担体(例えば、炭素粉末のメソ孔内部)に触媒金属を簡便な方法で担持することができ、触媒金属の電解質被覆率を低減することができる。触媒(a)および/または(c)を触媒として使用する場合には、触媒金属(触媒金属粒子)の平均粒径は、3nm以上、より好ましくは3nm超30nm以下、特に好ましくは3nm超10nm以下であることが好ましい。また、触媒(b)を触媒として使用する場合には、触媒金属(触媒金属粒子)の平均粒径は、3nmを超える大きさであると好ましい。より好ましくは3nm超30nm以下、特に好ましくは3nm超10nm以下である。触媒金属の平均粒径が3nmを超える大きさであれば、触媒金属の比表面積を小さくすることができる。その結果、上記のように、触媒金属表面に吸着する水の量を低減することができ、反応ガスの輸送に寄与するメソ孔を多く確保することができる。したがって、反応ガスの輸送抵抗をより低減できる。また、電位変化による溶出を防止し、経時的な性能低下をも抑制できる。このため、触媒活性をより向上させることができる。すなわち、触媒反応をより効率的に促進することができる。一方、触媒金属粒子の平均粒径が30nm以下であれば、担体のメソ孔内部に触媒金属を簡便な方法で担持することができ、触媒金属の電解質被覆率を低減することができる。さらに、触媒(d)を触媒として使用する場合には、触媒金属の平均粒径は、メソ孔の空孔分布のモード半径の2倍以上である(前記モード半径は前記触媒金属の平均粒径の半分以下である)。この際、触媒金属(触媒金属粒子)の平均粒径は、好ましくは2nm以上7nm以下、より好ましくは3nm以上5nm以下である。触媒金属の平均粒径が前記空孔分布のモード半径の2倍以上であれば、触媒金属と担体の空孔内壁面との距離が縮まり、水が存在しうる空間が減少する、すなわち触媒金属表面に吸着する水の量が減る。また、水が壁面との相互作用を受けることにより、金属酸化物の形成反応が遅くなり、金属酸化物が形成されにくくなる。その結果、触媒金属表面の失活が抑制され、高い触媒活性を発揮できる、すなわち、触媒反応を促進できる。また、触媒金属が空孔(メソ孔)内に比較的強固に担持され、触媒層内で電解質と接触するのをより有効に抑制・防止される。また、電位変化による溶出を防止し、経時的な性能低下をも抑制できる。このため、触媒活性をより向上できる、すなわち、触媒反応をより効率的に促進できる。
【0114】
なお、本発明における「触媒金属粒子の平均粒径」または「触媒金属粒子の平均粒半径」は、X線回折における触媒金属成分の回折ピークの半値幅より求められる結晶子径や、透過型電子顕微鏡(TEM)より調べられる触媒金属粒子の粒子径の平均値として測定されうる。本明細書では、「触媒金属粒子の平均粒径」または「触媒金属の平均粒半径」は、X線回折における触媒金属成分の回折ピークの半値幅より求められる結晶子半径である。
【0115】
単位触媒塗布面積当たりの触媒金属の含有量(mg/cm
2)は、十分な触媒の担体上での分散度、発電性能が得られる限り特に制限されず、例えば、1mg/cm
2以下である。ただし、触媒が白金または白金含有合金を含む場合、単位触媒塗布面積当たりの白金含有量が0.2mg/cm
2以下であることが好ましい。本実施形態の触媒層では、触媒金属への電解質被覆が抑制されているため、触媒重量あたりの活性を向上させることができるため、高価な触媒の使用量を低減することが可能となる。下限値は発電性能が得られる限り特に制限されず、例えば、0.01mg/cm
2以上である。
【0116】
なお、本明細書において、「単位触媒塗布面積当たりの触媒金属(白金)含有量(mg/cm
2)」の測定(確認)には、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP)を用いる。所望の「単位触媒塗布面積当たりの触媒金属(白金)含有量(mg/cm
2)」にせしめる方法も当業者であれば容易に行うことができ、スラリーの組成(触媒濃度)と塗布量を制御することで量を調整することができる。
【0117】
また、触媒金属が白金を含む場合、触媒に対する白金含有量が、20重量%以上60重量%以下であることが好ましく、より好ましくは20重量%以上50重量%未満とするのがよい。担持量が前記範囲であれば、十分な触媒成分の担体上での分散度、発電性能の向上、経済上での利点、単位重量あたりの触媒活性が達成できるため好ましい。なお、本発明における「触媒担持率」は、触媒金属を担持する前の担体と、触媒金属を担持させた後の触媒の重量を測定することにより求められる値である。
【0118】
触媒層には、必要に応じて、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体などの撥水剤、界面活性剤などの分散剤、グリセリン、エチレングリコール(EG)、ポリビニルアルコール(PVA)、プロピレングリコール(PG)などの増粘剤、造孔剤等の添加剤が含まれていても構わない。
【0119】
触媒層の(乾燥膜厚)は、好ましくは0.05〜30μm、より好ましくは1〜20μm、さらに好ましくは2〜15μmである。なお、上記は、カソード触媒層およびアノード触媒層双方に適用される。しかし、カソード触媒層及びアノード触媒層の厚さは、同じであってもあるいは異なってもよい。
【0120】
(触媒層の製造方法)
本発明の触媒層を製造する方法は、特に限定されず、例えば、特開2010−21060号公報に記載される方法などの公知の方法が同様にしてあるいは適宜修飾して適用される。以下、好適な実施形態について説明する。
【0121】
まず、触媒を準備する。触媒は触媒担体に触媒金属を担持することによって得ることができる。
【0122】
触媒担体は、炭素材料を熱処理することによって得ることが好ましい。かような熱処理によって、R’値(D’/G強度比)が0.6以下である触媒担体を得ることができる。
【0123】
炭素材料のBET比表面積は、特に制限されないが、触媒担体のBET比表面積が上記条件(I)を満たすためには、好ましくは900m
2/g以上、より好ましくは1000〜3000m
2/g、さらに好ましくは1100〜1800m
2/g、特に好ましくは1200〜1800m
2/gである。上記したような比表面積であれば、十分なガス輸送性(より低いガス輸送抵抗)および性能(十分量の触媒金属担持)を達成できる。また、特にBET比表面積の大きい担体を使用することによって、触媒金属を担体内部(特にメソ孔)により効率よく担持(格納)できる。
【0124】
炭素材料は、下記構成(1)〜(3)の少なくとも一を満たすことが好ましい。(1)(a−1)半径が1nm未満の空孔(一次空孔)および半径1nm以上の空孔(一次空孔)を有する;および(a−2)前記半径が1nm未満の空孔の空孔容積は0.3cc/g担体以上である。(2)(a−1)半径が1nm未満の空孔および半径1nm以上の空孔を有する;および(c−1)前記半径が1nm未満の空孔の空孔分布のモード半径が0.3nm以上1nm未満である。(3)(d−1)半径1nm以上の空孔の空孔分布のモード半径が1nm以上5nm未満である;および(d−4)半径が1nm以上5nm未満の空孔の空孔容積が0.4cc/g担体以上である。さらに、(3)において、(b−2)半径が1nm以上5nm未満の空孔の空孔容積は0.8cc/g担体以上であることが好ましい。この際の、(a−2)におけるミクロ孔の空孔容積、(c−1)におけるミクロ孔の空孔分布のモード半径、(d−1)における半径1nm以上の空孔の空孔分布のモード半径、(d−4)の半径が1nm以上5nm未満の空孔の空孔容積のより好適な範囲等は、上記触媒(a)〜(d)の欄に記載のものと同様である。
【0125】
上記炭素材料は、特開2010−208887号公報や国際公開第2009/75264号等の公報に記載される方法にしたがって製造される。なお、炭素材料の所望の空孔を得るための熱処理の条件は材料に応じて異なり、所望の空孔構造が得られるように適宜決定される。一般に、加熱温度を高温とすると空孔分布のモード径は空孔直径大の方向にシフトする傾向がある。このような熱処理条件は、空孔構造を確認しつつ、材料に応じて決定すればよく、当業者であれば容易に決定することができるであろう。
【0126】
炭素材料の材質は、主成分がカーボンであれば、特に制限されないが、上述したR’値または上述したBET比表面積を満たす触媒担体を形成しやすいものが好ましい。また、空孔容積またはモード径を有する空孔(一次空孔)を担体の内部に形成することができ、かつ、触媒成分をメソ孔内部に分散状態で担持させるのに充分な比表面積と充分な電子伝導性とを有するものがより好ましい。具体的には、カーボンブラック(ケッチェンブラック、オイルファーネスブラック、チャネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなど)、活性炭などからなるカーボン粉末が挙げられる。なお、「主成分がカーボンである」とは、主成分として炭素原子を含むことをいい、炭素原子のみからなる、実質的に炭素原子からなる、の双方を含む概念であり、炭素原子以外の元素が含まれていてもよい。「実質的に炭素原子からなる」とは、2〜3重量%程度以下の不純物の混入が許容されうることを意味する。
【0127】
炭素材料の平均粒径(平均2次粒子径)は、特に制限されないが、20〜100nmであることが好ましい。または、担持の容易さ、触媒利用率などの観点から、炭素材料の平均粒径(平均1次粒子径)が1〜10nm、好ましくは2〜5nmとするのがよい。かような範囲であれば、担体に上記空孔構造を設けた場合であっても機械的強度が維持され、かつ、触媒層を適切な範囲で制御することができる。「炭素材料の平均粒径」の値としては、特に言及のない限り、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数〜数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。また、「粒子径(直径)」とは、粒子の中心を通りかつ粒子の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離を意味するものとする。
【0128】
炭素材料の熱処理条件は、上記構成(II)(R’値(D’/G強度比)が0.6以下)、さらに、構成(I)(BET比表面積が900m
2/g担体以上)を満たす触媒担体が得られるように行うことが好ましい。具体的には、熱処理温度は1300℃を超えて1880℃以下であることが好ましく、1380〜1880℃であることがより好ましく、1400〜1860℃であることがさらに好ましい。熱処理における昇温速度は、100〜1000℃/時間であることが好ましく、300〜800℃/時間であることが特に好ましい。熱処理時間(所定の熱処理温度での保持時間)は、1〜10分であることが好ましく、2〜8分であることが特に好ましい。なお、熱処理は、空気雰囲気下でも、あるいはアルゴンガスや窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下で行うことができる。このような条件であれば、上記構成(I)の比表面積及び(II)のR’値または上記構成(I)、(II)及び(II’)のR値を満たす炭素粉末が簡便に得られる。なお、熱処理条件が上記下限を下回る(熱処理条件が緩やかすぎる)場合には、炭素(グラフェン)のエッジ量を十分低減できない可能性がある。逆に、熱処理条件が上記上限を超える(熱処理条件が厳しすぎる)場合には、黒鉛化が進みすぎて、炭素(グラフェン)のBET比表面積が小さくなりすぎる可能性がある。
【0129】
上記炭素材料を熱処理することによって得られたものが触媒担体となる。
【0130】
次いで、触媒担体へ触媒金属を担持させる。
【0131】
触媒担体への触媒金属の担持方法は、特に制限されない。好ましくは、(i)触媒担体の表面に触媒金属を析出させる工程(析出工程)、および(ii)前記析出工程後に、熱処理を行い、前記触媒金属の粒径を増大させる工程(熱処理工程)を含む。上記方法は、析出後に熱処理を施して触媒金属の粒形を増大させる。このため、触媒担体の空孔(特にメソ孔)内部に粒子径の大きな触媒金属を担持することができる。
【0132】
以下、上記触媒の製造方法の好ましい形態を説明するが、本発明は下記形態に限定されない。
【0133】
(i)析出工程
本工程では、触媒担体の表面に触媒金属を析出させる。本工程は、既知の方法であり、例えば、触媒金属の前駆体溶液に、触媒担体を浸漬した後、還元する方法が好ましく使用される。
【0134】
ここで、触媒金属の前駆体としては、特に制限されず、使用される触媒金属の種類によって適宜選択される。具体的には、上記白金等の触媒金属の塩化物、硝酸塩、硫酸塩、塩化物、酢酸塩およびアミン化合物などが例示できる。より具体的には、塩化白金(ヘキサクロロ白金酸六水和物)、塩化パラジウム、塩化ロジウム、塩化ルテニウム、塩化コバルトなどの塩化物、硝酸パラジウム、硝酸ロジウム、硝酸イリジウムなどの硝酸塩、硫酸パラジウム、硫酸ロジウムなどの硫酸塩、酢酸ロジウムなどの酢酸塩、ジニトロジアンミン白金硝酸、ジニトロジアンミンパラジウムなどのアンミン化合物などが好ましく、例示される。また、触媒金属の前駆体溶液の調製に使用される溶媒は、触媒金属の前駆体を溶解できるものであれば特に制限されず、使用される触媒金属の前駆体の種類によって適宜選択される。具体的には、水、酸、アルカリ、有機溶媒などが挙げられる。触媒金属の前駆体溶液中の触媒金属の前駆体の濃度は、特に制限されないが、金属換算で0.1〜50重量%であることが好ましく、より好ましくは0.5〜20重量%である。
【0135】
還元剤としては、水素、ヒドラジン、チオ硫酸ナトリウム、クエン酸、クエン酸ナトリウム、L−アスコルビン酸、水素化ホウ素ナトリウム、ホルムアルデヒド、メタノール、エタノール、エチレン、一酸化炭素等が挙げられる。なお、水素などの常温でガス状の物質は、バブリングで供給することもできる。還元剤の量は、上記触媒金属の前駆体を触媒金属に還元できる量であれば特に制限されず、公知の量を同様にして適用できる。
【0136】
析出条件は、触媒金属が触媒担体に析出できる条件であれば特に制限されない。例えば、析出温度は、溶媒の沸点付近の温度、より好ましくは室温〜100℃であることが好ましい。また、析出時間は、1〜10時間、より好ましくは2〜8時間であることが好ましい。なお、上記析出工程は、必要であれば、撹拌・混合しながら行ってもよい。
【0137】
これにより、触媒金属の前駆体が触媒金属に還元されて、触媒金属が触媒担体に析出(担持)する。
【0138】
(ii)熱処理工程
本工程では、上記(i)析出工程後に、熱処理を行い、前記触媒金属の粒径を増大させる。
【0139】
熱処理条件は、触媒金属の粒径が増大できる条件であれば特に制限されない。例えば、熱処理温度は、300〜1200℃、より好ましくは500〜1150℃、特に好ましくは700〜1000℃であることが好ましい。また、熱処理時間は、0.02〜3時間、より好ましくは0.1〜2時間、特に好ましくは0.2〜1.5時間であることが好ましい。なお、熱処理工程は、水素雰囲気で行われてもよい。
【0140】
これにより、触媒金属は、触媒担体で(特に触媒担体のメソ孔内で)粒径を増大させることができる。このため、触媒金属粒子は、系外に(触媒担体から)脱離しにくくなる。ゆえに、触媒をより有効に利用できる。
【0141】
続いて、上記で得られた触媒、高分子電解質、および溶剤を含む触媒インクを作製する。溶剤としては、特に制限されず、触媒層を形成するのに使用される通常の溶媒が同様にして使用できる。具体的には、水、シクロヘキサノール、炭素数1〜4の低級アルコール、プロピレングリコール、ベンゼン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。これらの他にも、酢酸ブチルアルコール、ジメチルエーテル、エチレングリコール、などが溶媒として用いられてもよい。これらの溶剤は、1種を単独で使用してもあるいは2種以上の混合液の状態で使用してもよい。
【0142】
中でも、溶剤としては、水の含有比率の高い水−アルコール混合溶媒を用いることが好ましい。このように水の含有比率の高い混合溶媒を分散媒として使用することによって、電解質がメソ孔の入口を被覆することを防ぐことができるため好ましい。この際、水およびアルコールの混合重量比(水/アルコール)が55/45〜95/5であることが好ましく、60/40以上91/9未満であることがより好ましい。
【0143】
水は、特に制限されず、水道水、純水、イオン交換水、蒸留水等が使用できる。また、アルコールも、特に制限されない。具体的には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−ブタノール、2−メチル−2−プロパノール、シクロヘキサノールなどが挙げられる。これらのうち、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−ブタノールおよび2−メチル−2−プロパノールが好ましい。このような親和性が高い低級アルコールを用いることで、電解質の極端な偏在を防ぐことができる。また、上記のアルコールのうち、沸点が100℃未満のアルコールを用いることがより好ましい。沸点が100℃未満のアルコールとしては、メタノール(沸点:65℃)、エタノール(沸点:78℃)、1−プロパノール(沸点:97℃)、2−プロパノール(沸点:82℃)、および2−メチル−2−プロパノール(沸点:83℃)からなる群より選択されるものが例示できる。上記アルコールを1種単独で、または2種以上を混合して用いることができる。
【0144】
上述したように、高分子電解質は、構成材料であるイオン交換樹脂の種類によって、フッ素系高分子電解質と炭化水素系高分子電解質とに大別される。これらのうち、電解質は、フッ素系高分子電解質であることが好ましい。このように疎水性のフッ素系高分子電解質を用いることによって、溶媒中の水比率を高くすることで電解質がさらに凝集しやすくなる。
【0145】
触媒インクを構成する溶剤の量は、電解質を完全に溶解できる量であれば特に制限されない。具体的には、触媒粉末および高分子電解質などを合わせた固形分の濃度が、電極触媒インク中、1〜50重量%、より好ましくは5〜30重量%程度とするのが好ましい。
【0146】
なお、撥水剤、分散剤、増粘剤、造孔剤等の添加剤を使用する場合には、触媒インクにこれらの添加剤を添加すればよい。この際、添加剤の添加量は、本発明の上記効果を妨げない程度の量であれば特に制限されない。例えば、添加剤の添加量は、それぞれ、電極触媒インクの全重量に対して、好ましくは5〜20重量%である。
【0147】
次に、基材の表面に触媒インクを塗布する。基材への塗布方法は、特に制限されず、公知の方法を使用できる。具体的には、スプレー(スプレー塗布)法、ガリバー印刷法、ダイコーター法、スクリーン印刷法、ドクターブレード法など、公知の方法を用いて行うことができる。
【0148】
この際、触媒インクを塗布する基材としては、固体高分子電解質膜(電解質層)やガス拡散基材(ガス拡散層)を使用することができる。かような場合には、固体高分子電解質膜(電解質層)またはガス拡散基材(ガス拡散層)の表面に触媒層を形成した後、得られた積層体をそのまま膜電極接合体の製造に利用することができる。あるいは、基材としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)[テフロン(登録商標)]シート等の剥離可能な基材を使用し、基材上に触媒層を形成した後に基材から触媒層部分を剥離することにより、触媒層を得てもよい。
【0149】
最後に、触媒インクの塗布層(膜)を、空気雰囲気下あるいは不活性ガス雰囲気下、室温〜150℃で、1〜60分間、乾燥する。これにより、触媒層が形成される。
【0150】
[膜電極接合体/燃料電池]
本発明のさらなる実施形態によれば、上記燃料電池用電極触媒層を含む、燃料電池用膜電極接合体が提供される。すなわち、固体高分子電解質膜2、前記電解質膜の一方の側に配置されたカソード触媒層と、前記電解質膜の他方の側に配置されたアノード触媒層と、前記電解質膜2並びに前記アノード触媒層3a及び前記カソード触媒層3cを挟持する一対のガス拡散層(4a,4c)とを有する燃料電池用膜電極接合体が提供される。そしてこの膜電極接合体において、前記カソード触媒層およびアノード触媒層の少なくとも一方が上記に記載した実施形態の触媒層である。
【0151】
ただし、プロトン伝導性の向上および反応ガス(特にO
2)の輸送特性(ガス拡散性)の向上の必要性を考慮すると、少なくともカソード触媒層が上記に記載した実施形態の触媒層であることが好ましい。ただし、上記形態に係る触媒層は、アノード触媒層として用いてもよいし、カソード触媒層およびアノード触媒層双方として用いてもよいなど、特に制限されるものではない。
【0152】
本発明のさらなる実施形態によれば、上記形態の膜電極接合体を有する燃料電池が提供される。すなわち、本発明の一実施形態は、上記形態の膜電極接合体を挟持する一対のアノードセパレータおよびカソードセパレータを有する燃料電池である。
【0153】
以下、
図1を参照しつつ、上記実施形態の触媒層を用いたPEFC 1の構成要素について説明する。ただし、本発明は触媒層に特徴を有するものである。よって、燃料電池を構成する触媒層以外の部材の具体的な形態については、従来公知の知見を参照しつつ、適宜、改変が施されうる。
【0154】
(電解質膜)
電解質膜は、例えば、
図1に示す形態のように固体高分子電解質膜2から構成される。この固体高分子電解質膜2は、PEFC 1の運転時にアノード触媒層3aで生成したプロトンを膜厚方向に沿ってカソード触媒層3cへと選択的に透過させる機能を有する。また、固体高分子電解質膜2は、アノード側に供給される燃料ガスとカソード側に供給される酸化剤ガスとを混合させないための隔壁としての機能をも有する。
【0155】
固体高分子電解質膜2を構成する電解質材料としては特に限定されず従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、先に高分子電解質として説明したフッ素系高分子電解質や炭化水素系高分子電解質を用いることができる。この際、触媒層に用いた高分子電解質と必ずしも同じものを用いる必要はない。
【0156】
電解質層の厚さは、得られる燃料電池の特性を考慮して適宜決定すればよく、特に制限されない。電解質層の厚さは、通常は5〜300μm程度である。電解質層の厚さがかような範囲内の値であると、製膜時の強度や使用時の耐久性及び使用時の出力特性のバランスが適切に制御されうる。
【0157】
(ガス拡散層)
ガス拡散層(アノードガス拡散層4a、カソードガス拡散層4c)は、セパレータのガス流路(6a、6c)を介して供給されたガス(燃料ガスまたは酸化剤ガス)の触媒層(3a、3c)への拡散を促進する機能、および電子伝導パスとしての機能を有する。
【0158】
ガス拡散層(4a、4c)の基材を構成する材料は特に限定されず、従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、炭素製の織物、紙状抄紙体、フェルト、不織布といった導電性および多孔質性を有するシート状材料が挙げられる。基材の厚さは、得られるガス拡散層の特性を考慮して適宜決定すればよいが、30〜500μm程度とすればよい。基材の厚さがかような範囲内の値であれば、機械的強度とガスおよび水などの拡散性とのバランスが適切に制御されうる。
【0159】
ガス拡散層は、撥水性をより高めてフラッディング現象などを防止することを目的として、撥水剤を含むことが好ましい。撥水剤としては、特に限定されないが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系の高分子材料、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられる。
【0160】
また、撥水性をより向上させるために、ガス拡散層は、撥水剤を含むカーボン粒子の集合体からなるカーボン粒子層(マイクロポーラス層;MPL;微多孔質層、図示せず)を基材の触媒層側に有するものであってもよい。
【0161】
カーボン粒子層に含まれるカーボン粒子は特に限定されず、カーボンブラック、グラファイト、膨張黒鉛などの従来公知の材料が適宜採用されうる。なかでも、電子伝導性に優れ、比表面積が大きいことから、オイルファーネスブラック、チャンネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラックが好ましく用いられうる。カーボン粒子の平均粒径は、10〜100nm程度とするのがよい。これにより、毛細管力による高い排水性が得られるとともに、触媒層との接触性も向上させることが可能となる。
【0162】
カーボン粒子層に用いられる撥水剤としては、上述した撥水剤と同様のものが挙げられる。なかでも、撥水性、電極反応時の耐食性などに優れることから、フッ素系の高分子材料が好ましく用いられうる。
【0163】
カーボン粒子層におけるカーボン粒子と撥水剤との混合比は、撥水性および電子伝導性のバランスを考慮して、重量比で90:10〜40:60(カーボン粒子:撥水剤)程度とするのがよい。なお、カーボン粒子層の厚さについても特に制限はなく、得られるガス拡散層の撥水性を考慮して適宜決定すればよい。
【0164】
(膜電極接合体の製造方法)
膜電極接合体の作製方法としては、特に制限されず、従来公知の方法を使用できる。例えば、固体高分子電解質膜に触媒層をホットプレスで転写または塗布し、これを乾燥したものに、ガス拡散層を接合する方法や、ガス拡散層の微多孔質層側(微多孔質層を含まない場合には、基材層の片面)に触媒層を予め塗布して乾燥することによりガス拡散電極(GDE)を2枚作製し、固体高分子電解質膜の両面にこのガス拡散電極をホットプレスで接合する方法を使用することができる。ホットプレス等の塗布、接合条件は、固体高分子電解質膜や触媒層内の高分子電解質の種類(パ−フルオロスルホン酸系や炭化水素系)によって適宜調整すればよい。
【0165】
(セパレータ)
セパレータは、固体高分子形燃料電池などの燃料電池の単セルを複数個直列に接続して燃料電池スタックを構成する際に、各セルを電気的に直列に接続する機能を有する。また、セパレータは、燃料ガス、酸化剤ガス、および冷却剤を互に分離する隔壁としての機能も有する。これらの流路を確保するため、上述したように、セパレータのそれぞれにはガス流路および冷却流路が設けられていることが好ましい。セパレータを構成する材料としては、緻密カーボングラファイト、炭素板などのカーボンや、ステンレスなどの金属など、従来公知の材料が適宜制限なく採用できる。セパレータの厚さやサイズ、設けられる各流路の形状やサイズなどは特に限定されず、得られる燃料電池の所望の出力特性などを考慮して適宜決定できる。
【0166】
さらに、燃料電池が所望する電圧を発揮できるように、セパレータを介して膜電極接合体を複数積層して直列に繋いだ構造の燃料電池スタックを形成してもよい。燃料電池の形状などは、特に限定されず、所望する電圧などの電池特性が得られるように適宜決定すればよい。
【0167】
上述したPEFCや膜電極接合体は、発電性能および耐久性に優れる触媒層を用いている。したがって、当該PEFCや膜電極接合体は発電性能および耐久性に優れる。
【0168】
本実施形態のPEFCやこれを用いた燃料電池スタックは、例えば、車両に駆動用電源として搭載されうる。
【実施例】
【0169】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0170】
参考例1
国際公開第2009/75264号に記載の方法により、炭素材料Aを作製した。なお、炭素材料Aは、(a−1)ミクロ孔およびメソ孔を有する;(a−2)ミクロ孔の空孔容積は0.3cc/g担体以上である;(c−1)ミクロ孔の空孔分布のモード半径が0.3nm以上1nm未満である;(d−1)メソ孔の空孔分布のモード半径が1nm以上5nm未満である;および(d−4)メソ孔の空孔容積が0.4cc/g担体以上であるの各要件を満たす。
【0171】
得られた炭素材料Aを、アルゴン雰囲気下で、500℃/時間の昇温速度で、1800℃にまで加熱した後、この温度で5分間保持して、平均粒径100nmの担体Aを作製した。
【0172】
この担体AのR値およびR’値を測定したところ、それぞれ、2.10および0.35であった。
【0173】
このようにして得られた担体Aについて、ミクロ孔及びメソ孔の空孔容積、ミクロ孔及びメソ孔のモード径ならびにBET比表面積を測定した。その結果、ミクロ孔の空孔容積が0.69cc/g;メソ孔の空孔容積が1.09cc/g;ミクロ孔のモード径が0.77nm;メソ孔のモード径が1.67nm;およびBET比表面積が1226m
2/gであった。
【0174】
担体Aを用い、これに触媒金属として平均粒径3.2nmの白金(Pt)を担持率が30重量%となるように担持させて、触媒粉末Aを得た。すなわち、白金濃度4.6重量%のジニトロジアンミン白金硝酸溶液を1000g(白金含有量:46g)に担体Aを46g浸漬させ攪拌後、還元剤として100%エタノールを100ml添加した。この溶液を沸点で7時間、攪拌、混合し、白金を担体Aに担持させた。そして、濾過、乾燥することにより、担持率が30重量%の触媒粉末を得た。その後、水素雰囲気において、温度900℃に1時間保持し、平均粒径100nmの触媒粉末Aを得た。この触媒粉末AのR値およびR’値を測定したところ、それぞれ、2.10および0.35であった。
【0175】
このようにして得られた触媒粉末Aについて、ミクロ孔及びメソ孔の空孔容積、ミクロ孔及びメソ孔のモード径ならびにBET比表面積を測定した。その結果、触媒粉末Aの、ミクロ孔の空孔容積が0.69cc/g担体;メソ孔の空孔容積が0.93cc/g担体;ミクロ孔のモード径が0.75nm;メソ孔のモード径が1.88nm;およびBET比表面積が1226m
2/g触媒担体であった。
【0176】
参考例2
ミクロ孔の空孔容積が1.04cc/g;メソ孔の空孔容積が0.92cc/g;ミクロ孔のモード径が0.65nm;メソ孔のモード径が1.2nm;およびBET比表面積が1770m
2/gである、炭素材料Bを調製した。具体的には、国際公開第2009/75264号などに記載の方法により炭素材料Bを作製した。
【0177】
上記炭素材料Bを、アルゴン雰囲気下で、500℃/時間の昇温速度で、1700℃にまで加熱した後、この温度で5分間保持して、BET比表面積が1378m
2/gである担体Bを作製した。
【0178】
この担体BのR値およびR’値を測定したところ、それぞれ、1.99および0.42であった。
【0179】
また、このようにして得られた担体Bについて、平均粒径(直径)、ミクロ孔及びメソ孔の空孔容積、ミクロ孔及びメソ孔のモード径ならびにBET比表面積を測定した。その結果、担体Bの、平均粒径(直径)は91.5nm、ミクロ孔の空孔容積は0.43cc/g担体、メソ孔の空孔容積は0.69cc/g担体、ミクロ孔のモード径は0.66nm、メソ孔のモード径は2.8nm、BET比表面積が1378m
2/gであった。
【0180】
担体Bを用いて参考例1と同様にして触媒粉末を製造し、平均粒径105nmの触媒粉末Bを得た。この触媒粉末BのR値およびR’値を測定したところ、それぞれ、1.99および0.42であった。
【0181】
このようにして得られた触媒粉末Bについて、ミクロ孔及びメソ孔の空孔容積、ミクロ孔及びメソ孔のモード径ならびにBET比表面積を測定した。その結果、ミクロ孔の空孔容積が0.41cc/g担体;メソ孔の空孔容積が0.52cc/g担体;ミクロ孔のモード径が0.72nm;メソ孔のモード径が1.66nm;およびBET比表面積が1234m
2/g触媒担体であった。
【0182】
参考例3
参考例2で得られた炭素材料Bを、アルゴン雰囲気下で、500℃/時間の昇温速度で、1600℃にまで加熱した後、この温度で5分間保持して、BET比表面積が1522m
2/gである担体Cを作製した。
【0183】
この担体CのR値およびR’値を測定したところ、それぞれ、1.81および0.50であった。
【0184】
また、このようにして得られた担体Cについて、平均粒径(直径)、ミクロ孔及びメソ孔の空孔容積、ミクロ孔及びメソ孔のモード径ならびにBET比表面積を測定した。その結果、担体Cの、平均粒径(直径)は89nm、ミクロ孔の空孔容積は0.73cc/g担体、メソ孔の空孔容積は1.17cc/g担体、ミクロ孔のモード径は0.73nm、メソ孔のモード径は2.4nm、BET比表面積が1522m
2/gであった。
【0185】
担体Cを用いて参考例1と同様にして触媒粉末を製造し、平均粒径90nmの触媒粉末Cを得た。この触媒粉末CのR値およびR’値を測定したところ、それぞれ、1.81および0.50であった。
【0186】
このようにして得られた触媒粉末Cについて、ミクロ孔及びメソ孔の空孔容積、ミクロ孔及びメソ孔のモード径ならびにBET比表面積を測定した。その結果、ミクロ孔の空孔容積が0.84cc/g担体;メソ孔の空孔容積が1.1cc/g担体;ミクロ孔のモード径が0.71nm;メソ孔のモード径が1.66nm;およびBET比表面積が1522m
2/g触媒担体であった。
【0187】
参考例4
参考例2で得られた炭素材料Bを用いた担体DのR値およびR’値を測定したところ、それぞれ、1.64および0.61であった。また、このようにして得られた担体Dについて、平均粒径(直径)、ミクロ孔及びメソ孔の空孔容積、ミクロ孔及びメソ孔のモード径ならびにBET比表面積を測定した。その結果、担体Dの、平均粒径(直径)は91.5nm、ミクロ孔の空孔容積は1.04cc/g担体、メソ孔の空孔容積は1.23cc/g担体、ミクロ孔のモード径は0.65nm、メソ孔のモード径は2.1nm、BET比表面積が1768m
2/gであった。
【0188】
担体Dを用いて参考例1と同様にして触媒粉末を製造し、触媒粉末Dを得た。この触媒粉末DのR値およびR’値を測定したところ、それぞれ、1.64および0.61であった。
【0189】
参考例5
参考例2で得られた炭素材料Bを、アルゴン雰囲気下で、500℃/時間の昇温速度で、1300℃にまで加熱した後、この温度で5分間保持して、担体Eを作製した。この担体EのR値およびR’値を測定したところ、それぞれ、1.75および0.66であった。また、このようにして得られた担体Eについて、平均粒径(直径)、ミクロ孔及びメソ孔の空孔容積、ミクロ孔及びメソ孔のモード径ならびにBET比表面積を測定した。その結果、担体Eの、平均粒径(直径)は91.5nm、ミクロ孔の空孔容積は1.06cc/g担体、メソ孔の空孔容積は1.21cc/g担体、ミクロ孔のモード径は0.66nm、メソ孔のモード径は2.1nm、BET比表面積が1768m
2/g触媒担体であった。
【0190】
担体Eを用いて参考例1と同様にして触媒粉末を製造し、触媒粉末Eを得た。この触媒粉末EのR値およびR’値を測定したところ、それぞれ、1.75および0.66であった。
【0191】
参考例6
ケッチェンブラック(EC300J)(BET比表面積が715m
2/g)を担体Fとして使用した。この担体FのR値およびR’値を測定したところ、それぞれ、1.78および0.74であった。また、このようにして得られた担体Fについて、平均粒径(直径)、ミクロ孔及びメソ孔の空孔容積、ミクロ孔及びメソ孔のモード径ならびにBET比表面積を測定した。その結果、担体Fの、平均粒径(直径)は53nm、ミクロ孔の空孔容積は0.35cc/g担体、メソ孔の空孔容積は0.49cc/g担体、ミクロ孔のモード径は0.45nm、メソ孔のモード径は2.2nm、BET比表面積が715m
2/g触媒担体であった。
【0192】
実験1:白金被覆の評価
参考例2及び3で製造された本発明の担体BおよびCならびに参考例6で製造された担体Fについて、担体重量に対して50重量%の白金を担持した場合の、白金比表面積(COMSA)をCO吸着法により測定した。結果を
図4に示す。
【0193】
図4から、BET比表面積が900m
2/g以上である担体(炭素粉末)BおよびCは、BET比表面積が900m
2/g未満である担体Fに比べて、白金比表面積が有意に大きいことが分かる。触媒のBET比表面積は担体のBET比表面積と同程度であることから、触媒のBET比表面積900m
2/g以上とすることによって、触媒の電気二重層容量を有意に向上できると、考察される。
【0194】
実験2:耐久性評価
触媒粉末A〜Eについて、下記方法に従って、耐久性を評価した。結果を下記表1に示す。すなわち、三電極式の電気化学セルを用い、ポテンショスタットとして、北斗電工社製電気化学システムHZ−5000+HR301を用いた。作用極として、グラッシーカーボン回転電極(GC−RDE)(φ(直径)=5mm)を用い、参考例で作製した各触媒粉末を分散媒としての水と1−プロパノール混合溶媒に分散させたインクを乾燥膜厚が1μmとなるようにコーティングして乾燥させた電極を用いた。対極にカーボン、参照電極には可逆水素電極(RHE)を使用した。電解液は、0.1M 過塩素酸を用い、O
2で飽和させた。測定は60℃で行なった。触媒有効表面積(ECA)の算出は、サイクリックボルタムメトリ(CV)により実施した。測定実施前に、1.0Vの電位で30秒間、電位走査を実施した。その後、1.0〜1.5Vの電位範囲を0.5V/sの電位掃引速度で上昇(1秒)下降(1秒)し、これを1サイクル(2秒/サイクル)とした。この電位サイクルを繰り返すと、電位サイクルの増加とともに、サイクリックボルタムメトリ法で計測される0.6V付近のキノン−ハイドロキノン還元電流のピーク電位が低電位側にシフトする。この還元電流の変化からカーボンの状態及び電気二重層容量の変化を見積もった。具体的には、還元電流の電位が0.5V以下となるまでに繰り返すことができたサイクル数を耐久性の指標とした。
【0195】
【表1】
【0196】
表1の結果から、参考例1〜3の触媒粉末A〜Cは、参考例4および5の触媒粉末D及びEに比べて、還元電流の低下するサイクル数が大きいことが示される。これから、R’(D’/G強度比)が0.6以下であり、BET比表面積が900m
2/g触媒担体以上である触媒は、電気二重層容量の低下が小さく、有意に高い活性を維持できる(耐久性に優れる)と、考察される。
【0197】
実施例1
参考例1で作製した触媒粉末Aと、高分子電解質としてのアイオノマ分散液(パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー、Aciplex(登録商標)SS700、EW=700g/eq(g/mol)、旭化成社製)とを、カーボン担体に対する高分子電解質の重量比が0.6となるよう混合した。さらに、水:n−プロピルアルコール=6:4(重量比)である溶媒を固形分率(Pt+カーボン担体+高分子電解質)が15重量%となるよう添加して、カソード触媒インクを調製した。
【0198】
別途、ケッチェンブラックEC300J(ケッチェンブラックインターナショナル株式会社製)を、アルゴン雰囲気下、2000〜3000℃で5〜20時間、熱処理することによって、グラファイトケッチェンブラック(粒径:30〜60nm)を担体として作製した。この担体を用い、これに触媒金属として平均粒径2.5nmの白金(Pt)を担持率が50重量%となるように担持させて、触媒粉末を得た。この触媒粉末と、高分子電解質としてのアイオノマ分散液(Nafion(登録商標)D2020,EW=1100g/eq(g/mol)、DuPont社製)とをカーボン担体に対する高分子電解質の重量比が0.9となるよう混合した。さらに、溶媒としてノルマルプロピルアルコール溶液(50%)を固形分率(Pt+カーボン担体+アイオノマ)が7重量%となるよう添加して、アノード触媒インクを調製した。
【0199】
次に、高分子電解質膜(Dupont社製、NAFION NR211、厚さ:25μm)の両面の周囲にガスケット(帝人Dupont社製、テオネックス、:25μm(接着層:10μm))を配置した。次いで、高分子電解質膜の片面の露出部にカソード触媒インクをスプレー塗布法により、5cm×2cmのサイズに塗布した。スプレー塗布を行うステージを60℃に1分間保つことで触媒インクを乾燥し、膜厚(乾燥膜厚)が10μmのカソード触媒層を得た。このときの白金担持量は0.15mg/cm
2である。次に、カソード触媒層と同様に電解質膜上にスプレー塗布および熱処理を行うことで膜厚(乾燥膜厚)が10μmのアノード触媒層を形成した。
【0200】
得られた積層体の両面をガス拡散層(24BC,SGLカーボン社製)で挟持し、膜電極接合体(1)(MEA(1))を得た。
【0201】
実施例2
カソード触媒インクの調製において、高分子電解質として、アイオノマ分散液(Nafion(登録商標)D2020,EW=1100g/eq(g/mol)、DuPont社製)を用い、カーボン担体に対する高分子電解質の重量比が0.9となるよう混合したこと以外は、実施例1と同様にして、膜電極接合体(2)(MEA(2))を得た。
【0202】
実施例3
カソード触媒インクの調製において、触媒粉末Aの代わりに触媒粉末Bを用いたこと以外は、実施例2と同様にして、膜電極接合体(3)(MEA(3))を得た。
【0203】
比較例1
カソード触媒インクの調製において、カーボン担体に対する高分子電解質の重量比が0.9となるよう混合したこと以外は、実施例1と同様にして、膜電極接合体(4)(MEA(4))を得た。
【0204】
比較例2
カソード触媒インクの調製において、カーボン担体に対する高分子電解質の重量比が0.6となるよう混合したこと以外は、実施例2と同様にして、膜電極接合体(5)(MEA(5))を得た。
【0205】
実験3:酸素輸送に起因する電圧低下評価
実施例1〜3、比較例1及び2のMEA(1)〜(5)を用いて、80℃、100%RH、200kPa、1A/cm
2におけるH
2(アノード)/Air(カソード)とH
2(アノード)/O
2(カソード)の電圧の差(O
2 gain[mV])を評価した。
【0206】
結果を表2に示す。
【0207】
【表2】
【0208】
表2の結果から、実施例1〜3のMEA(1)〜(3)は、比較例1及び2のMEA(4)及び(5)に比べて、酸素輸送に起因する電圧低下が低いことがわかる。これから、本発明の燃料電池用触媒層を用いると、ガス輸送性が向上すると考察される。
【0209】
本出願は、2014年10月29日に出願された日本特許出願番号2014−220577号に基づいており、その開示内容は、参照され、全体として、組み入れられている。