(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
放射性物質吸着剤を充填した放射性物質吸着剤充填部を複数有し、該放射性物質吸着剤充填部内に被処理水を通水させて被処理水を除染する放射能汚染水の除染処理装置において、
前記放射性物質吸着剤充填部の外周部通水方向の所定位置における表面線量率を測定する表面線量率測定部と、
表面線量率と処理水の放射能濃度との回帰式と、表面線量率と前記放射性物質吸着剤の放射能濃度との回帰式と、が記憶され、各回帰式と前記表面線量率測定部で測定した表面線量率とから、該所定位置における処理水の放射性物質濃度の推定値である処理水放射能濃度相関値、及び該所定位置における前記放射性物質吸着剤の放射能濃度の推定値である充填吸着剤放射能濃度相関値を演算算出する演算部と、
前記処理水放射能濃度相関値と前記充填吸着剤放射能濃度相関値とに基づいて、前記表面線量率の測定結果から放射能濃度を推定し、予め定められた放射能濃度基準値に達したか否かを判定する制御部と、
前記制御部により放射能濃度基準値に達した場合、被処理水の通水を開閉制御し、複数の放射性物質吸着剤充填部の通水を切替える切替え弁と、を備え、
前記複数の放射性物質吸着剤充填部の通水切替えにより、前記放射能濃度基準値に達した前記放射性物質吸着剤充填部の通水を停止させ、該放射性物質吸着剤充填部を交換可能な状態にすることを特徴とする放射能汚染水の除染処理装置。
【背景技術】
【0002】
2011年3月11日に我が国を襲った東日本大震災は大津波の発生を伴うものであり、東北地方沿岸部の市町村に壊滅的被害をもたらす未曾有の大災害となった。その津波による被害は東京電力(株)福島原子力発電所にも及び、原子炉冷却施設の機能停止、燃料棒のメルトダウン、水蒸気爆発などを引き起こし、放射性物質放出による環境汚染ならびに施設内の高レベル放射性物質汚染排液の発生という憂慮すべき事態を現出させた。そのため、放射性物質汚染排液から放射性物質を除去することは、日本国が可及的速やかに解決しなければならない課題の一つである。
原子力発電所等の放射性物質取り扱い施設から放出される主な放射性核種として、ウラン−235の核分裂反応により生成されるヨウ素−131(半減期8.02日)の放射性ヨウ素と、セシウム−134(半減期2.06年)およびセシウム−137(半減期30.07年)の放射性セシウムなどが挙げられる。
【0003】
このうち、放射性ヨウ素は、半減期が8日程度と短いため、震災直後には浄水汚泥などから検出され問題となったが、現在では沈静化している。一方、放射性セシウムは、半減期も長く、また東北地方や関東地方に幅広く拡散されたため、放射性セシウムにより汚染された土壌、落葉、瓦礫、下水汚泥、焼却灰の処理が大きな問題となっている。
放射性セシウムを除去する技術としては、その結晶格子内にセシウムイオンを選択的に取り入れることができる、ゼオライト(モルデナイト、クリノプチロライト、チャバサイトなど)、フェロシアン化合物(鉄、銅、ニッケル塩など)、粘土鉱物(モンモリロナイト、カオリナイト、イライト、バーミキュライトなど)の利用技術が知られている。
【0004】
また、放射性物質吸着能を有する粉末状の吸着剤に放射性物質含有排水を接触させた後に固液分離する方法では、粉末状の吸着剤から水分を分離することが難しいため、固液分離後に放射性物質を含有する大量の汚泥(スラリー)が発生し、その汚泥減容化処理が必要となるという課題を抱えていた。
かかる課題を解決するための手段として、水分を分離させることが比較的容易な粒状の吸着剤を利用する方法や、多孔性素材の表面や空隙部に放射性物質吸着能を有する物質を添着或いは担持させた放射性物質除去物質を利用する方法などが考えられる。
前者の方法に関しては、例えば特許文献1(特開昭56−79999号公報)において、60〜80メッシュ径のX型ゼオライトを湿潤後、硫酸銅水溶液を加えて銅イオンを吸着させたのち、フェロシアン化カリウム水溶液と反応させることにより、ゼオライトの空隙内および各面にフェロシアン化銅を生成させることにより、フェロシアン化金属化合物を添着させる添着方法、および該添着ゼオライトを吸着剤として用いる処理方法が開示されている。
【0005】
他方、後者の方法に関しては、例えば特許文献2(特開平9−173832号公報)において、多孔性樹脂に低沸点有機溶剤に可溶かつ水に難溶の第四級アンモニウム塩を担持させ、さらにヘキサシアノ鉄(II)酸塩(発明者注:フェロシアン化塩の別名)含有水溶液で処理したのち、この処理物を銅塩含有水溶液と接触させて該樹脂の細孔内にヘキサシアノ鉄(II)酸銅を沈積させ、次いで樹脂内の第四級アンモニウム塩を低沸点有機溶剤で抽出することを特徴とするヘキサシアノ鉄(II)酸銅担持多孔性樹脂の製造方法が開示されている。
また、特許文献3(特開2012−247407号公報)には、大量の汚染水の放射能除去を、放射線遮断の密閉容器の中で、化学的沈殿処理とイオン吸着によって除去し、適切なカルシウム濃度有するミネラル水とし、更に環境へ放出しても問題の起こらない水にするため、マイクロバブルを与えた機能性の高い水を生産して放出する方法が開示されている。
特許文献4(特開2013−140031号公報)には、放射性物質、特に放射性セシウムを簡易な方法で効率的に除去する方法として、放射性物質を含む液体を、放射性物質除去機能が付与された有機高分子よりなるイオン交換繊維及び/又はキレート繊維と接触させて微粒子状及びイオン状の放射性物質を除去する方法が開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明に係る好適な実施例について図を用いて詳細に説明する。
本発明の特徴的なことは、放射性物質吸着剤充填装置外壁部
の表面線量率の測定値から、予め実験的に求めた回帰式における相関関係より、処理水及び充填吸着剤の放射
能濃度を予測、推定し、前記放射性物質吸着剤充填装置の交換時期を特定可能とするものである(この方法を「本発明判断方法」とも称する)。
以下に
図1を用いて基本的な除染方法及び除染装置について説明する。
【0017】
<除染処理の基本的手法>
除染処理の基本的手法としては、放射性セシウムを含有する、被処理水としての放射能汚染水を、放射性物質吸着剤と接触させ、その放射性物質吸着剤に放射性セシウムを吸着させることにより除去する手法を挙げることができる。
【0018】
<放射能汚染水、被処理水>
本発明判断方法に係る放射能汚染水被処理水は、放射性セシウムや放射性ストロンチウムなどの放射性物質を含有する汚染水、中でも放射性セシウムを含有する放射能汚染水であればよい。
この際、被処理水中の放射性セシウムの濃度は特に限定するものではない。高濃度汚染水のへの適用も可能であるが、処理後の放射性廃棄物処分時の作業者被曝リスクを考慮すると、放射性セシウムによる放射
能濃度として10〜5000Bq/Lであることが好ましい。
【0019】
<放射性物質吸着剤>
放射性物質吸着剤としては、放射性物質を吸着する能力を備えた放射能物質吸着物質からなる粒子であれば任意に用いることができる。例えば、粘土鉱物、ゼオライト、難溶性フェロシアン化合物、活性炭、陰イオン交換樹脂などを挙げることができる。
但し、放射能物質吸着物剤の種類は、目的に合わせて選択し、必要に応じて組み合わせて用いれば、複数の核種を同時除去することが可能となる。
【0020】
前記粘土鉱物としては、セシウムイオンを選択吸着できる酸素配列の立体構造を持ったものであれば何れでもよい。モンモリロナイト属、イライト属、バーミキュライト属あるいはカオリナイト属のように、粘土結晶格子面上のSiO四面体層の配列により形成された6個の酸素原子による六角形構造を有しているものが好適であり、ALO八面体層の両面をSiO四面体層が挟んだ形状の三層構造をしているモンモリロナイト属、或いは、ALO八面体層とSiO四面体層からなる二層構造をしているカオリナイト属の粘土鉱物が特に好適である。
【0021】
これらの粘土鉱物としては、Na形モンモリロナイトであるベントナイト、H形モンモリロナイトである酸性白土、これらを酸処理して可溶性陽イオンを溶出させて表面活性を高めた活性白土、およびカオリン(白陶土)が挙げられる。
前記ゼオライトとしては、天然ゼオライト、合成ゼオライトのいずれでもよい。この種のゼオライトは、高い陽イオン交換能を有していることから放射性陽イオン核種を除去することができ、放射性セシウムのほかにも、放射性ストロンチウムを除去することもできる。特に、4A型合成ゼオライトはストロンチウムの選択除去性が高いことが知られている。
【0022】
前記難溶性フェロシアン化合物としては、例えばFe塩、Ni塩、Cu塩など難溶性フェロシアン化合物を挙げることができる。
前記活性炭としては、例えば石炭系、ヤシ殻系、木質系など、あらゆる種類の活性炭粉末や、フェルト状、クロス状の活性炭繊維も利用できる。
前記陰イオン交換樹脂としては、例えば、スチレン・ジビニルベンゼンの共重合体からなる母体を有する強塩基性陰イオン交換樹脂を挙げることができ、強塩基性陰イオン交換樹脂であれば、粒状、繊維状、液状、膜状のいずれの形態であってもよい。
【0023】
<放射能汚染水の除染処理方法>
実際に、放射能汚染水の除染に使用する放射能汚染水処理装置は、
図1に示す様に、放射性物質吸着剤2を充填した放射性物質吸着剤充填部1を備え、当該放射性物質吸着剤充填部内に被処理水を一定方向に通水させて該被処理水を除染する構成を備えたものである。
【0024】
この放射能汚染水の除染処理装置は、内部に放射能物質吸着剤2が充填された放射性物質吸着剤充填部1本体と、その本体容器本体上部には流入口と排水口とを備え、流入口には被処理水流入管3が接続され、容器本体内に突設し、該排水口には、容器内部を通じて容器の底部まで伸びる集水管4が連結され、この集水管4の下端部に設けられた集水部4aは容器本体内の底部に配設されている。
このような放射性物質吸着剤充填部1において、放射性物質汚染水である被処理水は、被処理水流通管5から前記流入口を介して容器内に流入して、下向流となって放射性物質吸着剤中を通水し、放射性物質吸着剤と接触しながら放射性物質が吸着剤に次第に吸着され、容器底部の集水部4aから集水管4内に集水され、集水管上端部の排水口を介して処理水流通管5に排出される。
【0025】
(表面線量率の測定)
表面線量率の測定は、放射性物質吸着剤充填部の外周部で行う。即ち、放射性物質吸着剤充填部の外周面付近において、
図1に示す様に
、表面線量率測定部(1)〜(4)の被処理水の通水方向に対し適宜間隔をおいた位置にて行う。
【0026】
例えば、シンチレーション式サーベイメーター等のガンマ線を測定できる空間線量計を用いて測定する。
表面線量率を測定する場合、放射性物質吸着剤充填部の外周面に、測定機器の測定部を当接させて測定するようにしてもよいし、放射性物質吸着剤充填部の外周面から少し離れた位置に当該測定部を位置させて測定するようにしてもよい。必要なことは、外周面からの測定位置を常に一定とすることである。
被処理水の通水方向に適宜間隔をおいた位置にて
表面線量率を測定する際、その間隔は任意であるが、少なくとも、放射性物質吸着剤充填部の中間部付近と末端部付H金(下向き流であれば底部付近)にて測定するのが必要である。
一例としては、放射性物質吸着剤充填部を、被処理水の通水方向に2、4、6、8又は10等分した際の境界部分にて測定することが好適である。また、被処理水の通水方向に連続的にスキャンするようにして測定してもよい。
【0027】
(放射性物質吸着剤の交換時期)
除染処理後の放射性物質吸着剤2、即ち、放射性物質を吸着した吸着剤2は、適正な放射の汚染レベルとなる様に管理する必要がある。つまり、特定一般廃棄物もしくは特定産業廃棄物として埋立処分するのであれば、吸着剤の放射
能濃度を8,000Bq/kg以下に、指定廃棄物として管理型処分場に埋立処分する場合であれば、100,000Bq/kg以下に、夫々、抑える必要があり、除染処理後の放射性物質吸着剤の廃棄基準に基づいて、充填吸着剤を交換する時期を特定するのが適切である。
【0028】
(放射
能濃度の相関)
以上のことから、放射性物質吸着剤充填部の外周部におけ
る表面線量率の測定結果が、本体容器内部の処理水及び吸着剤の放射
能濃度との相関が取れれば、放射
能濃度を推定できることが理解される。
そこで、本実施例では、予め処理水及び充填吸着剤の放射
能濃度と相関する放射
能濃度相関値を求め、予め処理水及び充填吸着剤の放射能濃度を推定可能とすることによって、充填吸着剤の交換時期を特定可能とするものである。
【0029】
<通水予備試験方法>
上述の放射
能濃度相関値については、次のような予備試験を行うことによって求めることができる。
除染運転の除染処理に先立ち、通水試験装置を使用し、放射性物質吸着剤充填部の外周部で測定し
た表面線量率から処理水放射
能濃度相関値を求める。
即ち、放射能汚染水処理装置を用い被処理水の除染運転する前に、放射性物質吸着剤充填部の外周部におけ
る表面線量率と中間処理水の放射
能濃度との関係との相関関係を示す回帰式を求める予備試験を行い、得られた回帰式に基づいて、前述のように測定して得られ
た表面線量率から、予め放射
能濃度相関値を求めることができる。
予備試験としては、運転時の放射性物質吸着剤充填部に充填する放射性物質吸着剤と実質的に同じ放射性物質吸着剤を充填した放射性物質吸着剤充填部を備え、該放射性物質吸着剤充填部内に被処理水を一定方向に通水させて被処理水を除染する方法である。
【0030】
(通水試験装置)
図2に示す通水試験装置は、
図1に示された実際に除染運転を行う放射能汚染水処理装置、即ち、放射性物質吸着剤充填部1を想定したものである。
この装置は、透明ポリ塩化ビニル製で内径50mm、高さ3500mmの3塔の放射性物質吸着剤充填塔を直列に接続してなる構成のものである。
【0031】
各充填塔は、充填層1〜5による高さ350mmの5段のカラムに分けられ、各段に放射性物質吸着剤が400mLずつ充填されている。
また、放射性物質吸着剤充填塔の外周部には、被処理水の流入部から、被処理水の通水方向に350mm間隔をおいた位置(
図2の矢印部)
を表面線量率測定点とすると共に、
図2の処理水1〜5に示す様に、
各表面線量率測定点の真下に夫々、処理水採取部を設けた。なお、各段のカラム高さは350mmなので、同じ位置で測定すると、350mm間隔になる。
被処理水は、海水に焼却灰を浸漬して、放射性セシウムCs134およびCs137の合計として放射
能濃度それぞれ約10、30、50Bq/Lに調製したものを使用し、放射性物質吸着剤は、モルデナイト系天然ゼオライト粒子(水ing株式会社製ゼオライト系放射性セシウム吸着剤「エバサイトN−100」、粒径2mm〜3mm)を使用した。
【0032】
(予備試験方法)
上述の様に、放射
能濃度をそれぞれ約10、30、50Bq/Lに調製した各被処理水を、通水線速度LV=5m/hでそれぞれ5日間ずつ通水した。被処理水の溶解塩類濃度は32,000mg/L、pH値は7.2であった。
処理水および各塔各段の中間処理水は、
図2に示す夫々の採取位置(処理水1〜5)から、適時、中間処理水を採水し、中間処理水の放射
能濃度(Bq/L)を測定した。
次に、通水試験終了後、各塔各段の充填吸着剤を全量取り出して、各段毎に均一に混合し、各段の充填吸着剤の放射
能濃度(Bq/kg(未乾燥))を測定した。
処理水および充填吸着剤の試料採取直前には、各塔各段の測定点におけ
る表面線量率(μSv/h)を測定した。
【0033】
尚、被処理水、中間処理水及び充填吸着剤の放射
能濃度の測定は、放射
能濃度等測定方法ガイドライン(環境省、平成25年3月)に準拠してゲルマニウム半導体検出器によるガンマ線スペクトロメトリーにより、セシウム濃度(Bq/L)又は(Bq/kg)を測定することで行った。
表面線量率(μSv/h)については、放射
能濃度等測定方法ガイドライン(環境省、平成25年3月)に準拠して、シンチレーション式サーベイメーターを用いて、放射性物質吸着剤充填塔の外周表面にセンサー部を接触させた位置の空間線量を測定した。
【0034】
以上の様にして、本出願人は
、表面線量率と処理水の放射
能濃度との間
、表面線量率と充填吸着剤の放射
能濃度との間、夫々に相関関係があることを見出したことから、当該相関関係を、処理過程における処理水および充填吸着剤の放射能濃度の推定及び充填吸着剤の交換時期の把握に利用できることを想起し、本発明に至った。
【0035】
図7には、予備試験で測定して得られた、充填塔外周部
の表面線量率と処理水放射
能濃度との関係をグラフで示し、
図8には
、表面線量率と充填吸着剤放射
能濃度の関係をグラフで示す。
【0036】
当
該表面線量率と処理水放射
能濃度の関係の回帰式を求めたところ、下記(i)式の回帰式が得られ、決定係数(R
2)0.9585という高い相関関係が得られた。
処理水放射能濃度=282.05×表面線量率−13.599・・・・・・・(i)式
(Bq/L) (μSv/h)
【0037】
他方、充填塔外周部
の表面線量率と充填吸着剤放射
能濃度との関係の回帰式を求めたところ、下記(ii)式の回帰式が得られ、同様に決定係数(R
2)0.9803という高い相関関係が得られた。
充填吸着剤放射
能濃度=106,045×表面線量率−6,518.8・・・・・(ii)式
(Bq/kg) (μSv/h)
【0038】
(除染運転)
次に、実際の除染運転によるシミュレーションを行うために、前述した
図1に示す様に、上記放射性物質吸着剤54Lを、放射性物質吸着剤充填容器(充填高さ1050mm)に充填した処理装置に、上記被処理水(放射
能濃度約30Bq/L)を通水線速度LV=5m/hで通水した。
【0039】
なお、除染運転を行う放射性物質吸着剤充填容器と、予備通水試験で使用した放射性物質吸着剤充填容器との形状の相違を補正するため、事前に、セシウム137標準溶液を夫々の容器に満水とした状態で表面線量率の濃度換算係数を求めた。これにより、除染運転を行う放射性物質吸着剤充填容器
の表面線量率の補正を行なった。
以下、この補正値を補
正表面線量率と記述する。
【0040】
予備実験と実装置の塔径が異なると、表面線量率が異なることについては、標準溶液を用いた補正で対処するものとする。
標準溶液を用いた校正に関する記載のある資料については、
「水道水等の放射能測定マニュアル」 平成23年10月 厚生労働省健康局水道課 を参照。
【0041】
通水期間中は、それぞれ充填高さ950、650、350、50mmに相当する
各表面線量率測定部(1)〜(4)で表面線量率を測定し、運転状況の監視を行った。
充填塔外周部の補
正表面線量率と、前記回帰式(i)式、(ii)式から算出した被処理水放射
能濃度及び充填吸着剤放射
能濃度(充填吸着剤濃度)の関係を下記表1に示す。
【0043】
処理後の放射性物質吸着剤を特定産業廃棄物として埋立処分する場合、廃棄物の放射
能濃度は8,000Bq/kg以下とする必要があるため、上記表1の結果より、充填吸着剤放射
能濃度が7,300Bq/kgと推定される補
正表面線量率0.13μSv/hを運転監視の目安として管理したところ、通水5日経過後の補
正表面線量率測定値が下記表2に示す通りとなった。
【0045】
処理水を採取し、運転停止後、充填吸着剤を取り出して全量を均一混合したコンポジット試料を採取して、夫々の放射
能濃度を測定したところ、処理水は20Bq/L,充填吸着剤は7,000Bq/kgと、ほぼ推定量通りの放射
能濃度となっており
、表面線量率の監視に基づいて、運転管理が可能であることが検証できた。
前述した予備試験では、より相関性を高めるために、除染運転時に使用する放射性物質吸着剤、被処理水、共に、実質的に同じものを使用することが望ましい。
例えば、予備試験において、放射性物質吸着剤についてゼオライトを使用するのであれば、同種のゼオライトを使用する。また、被処理水についても、同様に実質的に同じものを使用し、例えば同じ現場から採取された放射能汚染水を使用することが望ましい。
【0046】
次に、
図11には、2筒の放射性物質吸着剤充填部1を直列接続した場合の装置を示す。
放射性物質吸着剤充填部1の本体は、前述した
図1と同様のものである。
上記放射性物質吸着剤充填部1に充填される放射性物質吸着剤は、エバサイトA−200 54Lであり、上記被処理水(海水に焼却灰を浸漬して、放射性セシウムCs134およびCs137の合計として放射
能濃度約100Bq/Lに調製した放射能汚染水を使用)を通水線速度LV=8m/hで通水し、被処理水の溶解塩類濃度は32,000mg/L、pH値は7.2であった。通水期間中は、
図11に示し
た表面線量率測定位置(1)〜(4)
で表面線量率を測定し、補
正表面線量率による除染の運転状況の監視を行った。
【0047】
本実施例は、前述した、
図1、
図2と同じ方法で予備試験を行った。
放射性物質吸着剤充填部の外周部で測定した補
正表面線量率から被処理水放射
能濃度相関値を求めることができる回帰式(iii)式、及び、放射性物質吸着剤充填部の外周部で測定し
た表面線量率から充填吸着剤放射
能濃度相関値を求めることができる回帰式(iv)式を算出した。
【0048】
(予備試験方法)
上記予備試験で求められた、放射性物質吸着剤充填装置
の表面線量率と処理水放射
能濃度との関係を
図9に示し
、表面線量率と充填吸着剤放射
能濃度との関係を
図10に示す。
【0049】
これより
、表面線量率と処理水放射
能濃度の関係の一次回帰式を求めたところ、(iii)式の一次回帰式が得られ、決定係数(R
2)0.9442という高い相関関係が得られた。
処理水放射
能濃度=64.856×表面線量率−7.1556・・・・・・・(iii)式
(Bq/L) (μSv/h)
【0050】
他方
、表面線量率と充填吸着剤放射
能濃度の関係の一次回帰式を求めたところ、(iv)式の一次が得られ、同様に決定係数(R
2)0.9989という高い相関関係が得られた。
充填吸着剤放射
能濃度=62,641×表面線量率−4,343.2・・・・(iv)式
(Bq/kg) (μSv/h)
【0051】
充填塔外周部
の表面線量率と、前記回帰式(iii)式、前記回帰式(iv)式から算出した処理水放射
能濃度および充填吸着剤放射
能濃度との関係を、夫々表3、表4に示した。
【0052】
下記表において、処理水の濃度は、処理水放射
能濃度であり、充填吸着剤は、充填吸着剤放射
能濃度の意味である。
【0055】
処理後の放射性物質吸着剤を指定廃棄物として
管理型処分場に埋立処分する場合、100,000Bq/kg以下とする必要がある。また事業場及び最終処分場周辺の公共水域の水中の限度濃度としては、Cs134は60Bq/L、Cs137は90Bq/L、かつ、下記(v)式の基準が求められている。
Cs134の濃度/60+Cs137の濃度/90+Cs137 ≦1・・・(v)式
(Bq/L) (Bq/L) (Bq/L) (Bq/L)
【0056】
試験時のCs134とCs137の存在比率は、およそ4:6であったため、この比率で合計Cs濃度を割り振った計算値を下記表5に示す。
【0058】
表3、表4及び表5の結果より、処理水の放射
能濃度60Bq/L,充填吸着剤放射
能濃度60,000Bq/kg以下を管理目標として、相当する補
正表面線量率 1.0μSv/hを第1筒の運転監視の目安として管理したところ、通水、5日経過後の表面線量率測定値が下記表6に示すとおりとなった。
【0060】
第1筒及び第2筒処理水を採取し、運転停止後、各筒の充填吸着剤を取り出してそれぞれの全量を均一混合したコンポジット試料を採取して放射
能濃度を測定したところ、第1筒処理水は35Bq/L,第2筒処理水は10Bq/L未満、第1筒充填吸着剤は47,000Bq/kg、第2筒充填吸着剤は7,000Bq/kgと、ほぼ推定量とおりの放射
能濃度となっており、本発明に係
る表面線量率の監視に基づく運転管理が可能であることが確認できた。
【0061】
なお、本例の様な2筒直列方式の場合、第1筒が管理基準に達した時点で第1筒を取り外し、それまでの第2筒を前段、二段目に新しい筒を後段に直列して処理を継続するメリーゴーラウンド方式の管理にも適用が可能である。
【実施例】
【0062】
<放射能汚染水の除染処理装置>
次に、以下、放射能汚染水の除染処理装置について、具体例を
図3〜
図6を用いて詳細に説明する。
図において、
図3は実施例1、
図4は実施例2、
図5は実施例3、
図6は実施例4とする。
【0063】
<実施例1>
(装置の基本構成の説明)
実施例1を示す
図3には、前述した
図1に示す放射性物質吸着剤充填部と同様の放射性物質吸着剤充填部12が開示され、該本体容器内部には、放射性物質吸着剤11が充填され、容器の外周側面には図示の様
に表面線量
率測定装置13が複数所定の一定間間隔をあけて設置される。
前記放射性物質吸着剤充填部12、外周部の材質は、FRPなどのプラスチック、或いは、鉛、アルミニウムやステンレスなどの金属、その他、放射線を取扱いに好適な硬質の材料から形成することができる。
そして、
図3に示す様に本実施例において特徴的な制御部14、報知部15を備えている。
尚、前述した
図1と共通する部材、構成、作用については、説明を省略する。
【0064】
前記制御部14は、前記複数の
表面線量
率測定装置13及び報知部15に接続されており、該
表面線量
率測定装置13からの各測定値を報知部15により報知する制御を行う。
前記報知部15は、制御部からの測定結果、演算結果、判定結果等を画像表示として出力するCRT、又はその各結果や吸着剤、充填部の交換時期を音声で知らせる音声出力するための装置である。
【0065】
(装置の基本作用の説明)
前記制御部14は、各線量率測定装置13で測定した表面線量率に基づいて処理水放射
能濃度相関値又は充填吸着剤放射
能濃度相関値を回帰式により演算算出し、その線量測定値、演算算出結果、処理水放射
能濃度相関値又は充填吸着剤放射
能濃度相関値が基準値を超えた否かを判定し、これら測定結果、演算結果、判定結果を図示しない記憶部で記憶し、前記報知部15へ報知する。
【0066】
ここで、前記制御装置14は、図示しない計数部を備えており、予め設定した所定の時間間隔で、
各表面線量率測定装置13により線量を測定する。そして、そ
の表面線量率の測定結果に基づいて、処理水放射
能濃度相関値、充填吸着剤放射
能濃度相関値を演算算出し、その処理水放射
能濃度相関値、填吸着剤放射
能濃度相関値が予め定められた基準値を超えた否かを判定し、基準値を超えた場合には、超えた旨を、前記報知部15により放射線管理者に報知させることができる。
これにより、例えば、上記基準値を超えた場合、処理水に放射性物質が漏出した時期が予測でき、充填吸着剤充填部の交換時期であることを特定できることになる。
【0067】
前記報知部15により、放射線管理者は、放射性物質吸着剤充填部内部の被処理水、又は充填吸着剤の放射
能濃度を目視等でリアルタイムに知ることができる。
例えば、前記基準値を超えない場合には、通水処理を継続した状態、つまり、除染運転状態において、充填吸着剤、処理水の放射線汚染レベルや、放射性物質吸着帯の移動状況を随時、確認することが可能となる。
以上のことから、放射線管理者は、放射性部物質除去剤を容器本体から取出して放射濃度を測定する必要がなく、手間と時間、被爆リスクを低減でき、放射能レベルを正確に把握でき、管理を軽減することが可能となる。
【0068】
<実施例2>
次に、
図4を用いて実施例2を説明する。
尚、前述した
図1、
図2と共通する部材、構成、作用については、説明を省略する
。
【0069】
図4に示す様に、前記放射性物質吸着剤充填部は、2筒の放射性物質吸着剤充填槽20と予備充填槽30とを有し、これらには、被処理水を供給する供給管21に切替え弁24、25が配置され、前記切替え弁24、25と制御装置としての制御部・演算部27とが接続されている。これにより、この装置は、該制御装置が、前記切替え弁24、25を切替え、開閉制御することを特徴とする。
【0070】
(装置の構成の説明)
即ち、放射性物質吸着剤充填槽20の前段に、共通する実質同一の予備充填槽30を配置し、被処理水供給管21を途中で分岐させ、前記吸着剤充填槽20に接続する分岐管22と、前記予備充填槽30に接続する分岐管23と分けて、両方の分岐管22、23に夫々、流路切替用自動弁としての切替え弁24、25を設けている。
前記予備充填槽30に対し、実際に除染運転を行う他方の放射性物質吸着剤充填槽20には、該充填槽20の外周部において、被処理水の通水方向に適宜間隔をおいた位置
に表面線量率測定装置26を複数配置し、その
各表面線量率測定装置26と、制御部と演算部とから成る前記制御装置(制御部・演算部27)を接続すると共に、該制御装置は前記流路切替用自動弁としての切替え弁24、25と接続している。
【0071】
(装置の作用の説明)
このような構成の装置によれば、除染運転中に、
各表面線量率測定装置26が放射性物質吸着剤充填槽の外周部におけ
る表面線量率を随時計測して、前記制御装置がその測定結果を受け、制御装置は、
該表面線量率に基づいて、処理水放射
能濃度相関値又は充填吸着剤放射
能濃度相関値を演算部27で演算算出し、得られた処理水放射
能濃度相関値、充填吸着剤放射
能濃度相関値が基準値、即ち、予め設定した基準値、放射
能濃度管理値を超えた否かを判定する。
そして、該基準値を超えた場合には、前記切替え弁24,25に切替えが行われ、除染運転側の一方の切替え弁24が自動的に閉鎖、予備運転側の他方の切替え25が自動的に開放し、予備充填槽30に被処理水が供給され、除染処理が自動的に継続させることができる。この際、切替え弁24が閉鎖された放射性物質吸着剤充填槽20は、被処理水が通水されない状態になり、該吸着剤充填槽20の取り外しが可能となり、交換することが可能となる。
ここで、予備充填槽30の通水運転を行った場合には、除染運転における放射性物質吸着剤充填槽20
の表面線量率測定値をこの運転中は演算算出から除外される。
【0072】
図4を用いて、以下、通水する充填槽20と予備充填槽30の動作に関して説明する。
前記制御・演算部27では、充填槽20
の表面線量率と共に、該充填槽20と予備充填槽30との累積通水時間を計測している。
通常運転時(充填槽20を通水し,予備充填槽30は通水しない状態)では
、表面線量率測定値は充填槽20のみの値から放射能濃度推定値の演算算出を行い、充填槽20が放射能濃度管理値に達した時点で充填槽20の通水を停止すると共に、切替え弁24,25を切り替えて、予備充填槽30に通水する。
【0073】
予備充填槽30は、前記累積通水時間によって放射能濃度管理値到達点として通水を停止する機構であるため、予備充填槽30の通水時には、制御・演算部27で累積通水時間を計測・記録している。予め設定した累積通水時間、或は充填槽20の累積通水時間の短い方に達したら通水を停止させる。
そして、前記充填槽20が放射能濃度管理値に達して停止し、予備充填槽30に通水している状態の時には、該充填槽20の放射性物質吸着剤を交換した後、通水を予備充填槽30から充填槽20に戻して通水して運転をする。
ここで、予備充填槽30は、あくまでも充填槽20の予備であり、充填槽20の放射能濃度管理値到達時及び放射性物質吸着剤を交換時に通水するための充填槽である。
【0074】
予備充填槽30の停止時においても、予備充填槽30の通水した時間はその値を保持したままにしており、次回、使用時の通水時間は前回の合計として放射能濃度管理値到達基準となる累積通水時間として使用する。予備充填槽30は、充填している放射性物質吸着剤を交換した時に累積通水時間をゼロにリセットする。
この様にして、充填槽20と予備充填槽30の動作制御が行われる。
以上の動作は、以下、
図5、
図6についても、同様である。
【0075】
<実施例3>
次に、
図5を用いて実施例3を説明する。
尚、前述した
図3、
図4と共通する部材、構成、作用については、説明を省略する。
【0076】
(装置の構成の説明)
図5に示す様に、実施例3は、前述した実施例2の
図4に示す放射性物質吸着剤充填槽20を多数設け、図では4筒直列接続した場合の例を示したものである。
図において、4筒直列接続された放射性物質吸着剤充填槽20A、20B、20C、20Dを、夫々の外周部適宜箇所
に表面線量率測定装置26を配置し、被処理水を、切替え弁24、25を介して通水し供給する様に接続されている。
【0077】
(装置の作用の説明)
従って、前述した
図4の実施例2で説明した様に、制御装置(制御部・演算部27)の切替え弁24、25の開閉制御により、随時、予備充填槽30から放射性物質吸着剤充填槽20A、次に20B、更に20C,20Dと、切替えを行っていき、前述した様に、予め定められた基準値に濃度の測定結果が達した際、随時、各充填層20A,20B.20C,20Dの取り外し、交換が可能となる。
【0078】
<実施例4>
更に、
図6を用いた実施例4を説明する。
【0079】
(装置の構成の説明)
図6に示す実施例4は、前述した
図4、
図5に示した予備充填槽30を設けない場合の構成である。
図6に示す様に、例えば除染運転で使用する放射性物質吸着剤充填槽20E、20Fを少なくとも2筒を配設し、被処理水供給管31を途中で分岐させて、一方の放射性物質吸着剤充填槽20Eに接続する分岐管32と、他方の放射性物質吸着剤充填槽20Fに接続する分岐管33と分岐して、夫々、両方の分岐管32、33に、流路切替用自動弁41、42を配設する。
更に、放射性物質吸着剤充填槽20Eの処理水排水管34を分岐させて、一方の分岐管35を排出系とし、他方の分岐管36を、放射性物質吸着剤充填槽20Fの被処理水の通水供給口に接続し、該両方の分岐管35,36に夫々、流路切替用自動弁43、44を配設する。
同様にして、放射性物質吸着剤充填槽20Fの処理水排水管37を分岐させ、一方の分岐管38を排出系とし、他方の分岐管39を前記放射性物質吸着剤充填槽20Eの被処理水の通水供給口に接続し、該両方の分岐管38、39に、夫々、流路切替用自動弁45、46を配設する。
【0080】
(装置の作用の説明)
この様な構成により、前述した予備充填槽30を設けずにして、一方の放射性物質吸着剤充填槽20Eが交換時期に達した時に、自動的に、その放射性物質吸着剤充填槽20Eへの被処理水への供給が停止し、交換可能となり、他方の放射性物質吸着剤充填槽20Fにより除染処理が自動的に継続可能となり、本実施例では、2筒の放射性物質吸着剤充填槽20E,20Fを交互に交換しながら、滞りなく除染運転、作業が行なえる。
【0081】
<他の変形例の説明>
前述した実施例2、実施例3、実施例4の各図では、実施例1の
図3に示す報知部15を省略しているが、実施例1と同様に報知部15を設けても良い。
また、前記制御部14も、同様な制御内容で設けることが可能であり、これらにより、放射能濃度の監視、管理を、従来よりも向上させることが可能となる。
前述した放射性物質吸着剤充填部は、管、塔、槽、容器(カートリッジ式含む)、カラムなど、その形態は任意であるが、複数設ける場合、同一の材質、大きさ、容量のものを適用する。
【0082】
(実施例の効果)
除染処理に使用している充填吸着剤の放射能汚染レベルや放射性物質吸着帯の移動状況を監視することが可能となり、被処理水に放射性物質が漏出する時期を予測し、当該放射性物質吸着剤の交換時期を決定することが可能となり、放射性物質処理施設運転作業者や管理者の放射線被曝リスクを低減することができる。