(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
半導体製造分野を始めとして様々な分野で促進酸化処理法が利用されている。これは、オゾン+過酸化水素など、複数の酸化剤を組み合わせることによりヒドロキシルラジカルを多く発生させ、得られたヒドロキシルラジカル含有水を用いて酸化処理を行う方法である。ヒドロキシルラジカルは非常に強い酸化力を有するため、有機物などを効果的に分解、除去することができる。
【0003】
従来の促進酸化処理の一つの問題点は、処理工程に供給されるヒドロキシルラジカルの量が一定しないことであった。オゾンと過酸化水素を組み合わせてヒドロキシルラジカルを発生させる場合、ヒドロキシルラジカルの生成量は、水中のオゾン濃度、過酸化水素濃度、その他の添加剤等の濃度に複雑に依存する。また、ヒドロキシルラジカルや水に溶解したオゾンは不安定で、自己分解等によって消失しやすい。このような理由から、一定したヒドロキシルラジカル濃度を有するヒドロキシルラジカル含有水を製造することが難しかったのである。
【0004】
ヒドロキシルラジカル濃度が一定しないと、処理結果を確認するためや、処理が不十分な場合に再度の処理を行うために、処理時間がかかるという問題があった。さらに、過度な処理を行った場合には、処理対象物がダメージを受けるという問題があった。例えば半導体分野において、ガラス基板上のフォトレジスト除去工程では、マスクであるクロム膜等の欠け、剥がれ、減膜などが発生する虞があったし、シリコン半導体基板上の配線形成後のレジスト除去工程では、層間絶縁膜であるLow−k材の変質、膜厚減少などによる強度の低下、誘電率の上昇などが発生する虞があった。
【0005】
これに対して、ヒドロキシルラジカル濃度をリアルタイムで測定し、その結果をヒドロキシルラジカル含有水の製造工程にフィードバックすることによってヒドロキシルラジカル濃度を制御する装置および方法の開発が進められている。
【0006】
特許文献1には、純水にオゾン、ヒドロキシルラジカルの生成を促進する薬剤および過酸化水素を溶解させてヒドロキシルラジカル含有水を生成するに際して、そのようなフィードバック制御を行うことが記載されている。具体的には、特許文献1の明細書には、得られたヒドロキシルラジカル含有水中のヒドロキシルラジカル濃度、ヒドロキシルラジカル含有水製造工程における過酸化水素添加前後のオゾン濃度および過酸化水素添加前の薬剤濃度を測定し、ヒドロキシルラジカル濃度が所定範囲外であるときは、オゾン濃度および薬剤濃度に基づいて、オゾン発生装置によるオゾン発生量、薬剤添加量および過酸化水素添加量を調整することによってヒドロキシルラジカル濃度を制御する方法が記載されている(段落0030〜0034)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載された方法は、装置の運転中に多様な測定値に基づいて多数のパラメータを調整するものであった。しかしながら、このような方法では、ヒドロキシルラジカルの濃度を広い範囲で制御できるという利点はあるものの、いわゆる制御量の発振や発散が起こりやすく、制御が不安定になりやすいという問題があった。
【0009】
また、オゾンや薬剤添加量を調整しても、その効果は複雑な中間反応を経て最終的なヒドロキシルラジカル濃度に反映されるので、ヒドロキシルラジカル濃度をリアルタイムで制御する方法としては、制御の精度に向上の余地があった。
【0010】
本発明は上記を考慮してなされたものであり、ヒドロキシルラジカル濃度をより安定に精度良く制御することが可能な、ヒドロキシルラジカル含有水の製造装置および製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題に対して、本発明は、オゾンおよびオゾン分解抑制剤を含む水中のオゾン濃度を安定させ、次いで、これに過酸化水素を混合してヒドロキシルラジカル含有水を製造するにあたり、少なくともヒドロキシルラジカルを含むラジカル種の濃度に基づいて過酸化水素の混合量を制御する。
【0012】
本発明のヒドロキシルラジカル含有水製造装置は、純水供給部と、前記純水にオゾンを溶解させるオゾン溶解部と、前記オゾン溶解部の上流または下流に設けられたオゾン分解抑制剤混合部と、オゾンとオゾン分解抑制剤を含む水中のオゾン濃度を安定化させるオゾン濃度安定化手段と、前記オゾン濃度安定化手段の下流に設けられた過酸化水素混合部と、前記過酸化水素混合部の下流に設けられ、少なくともヒドロキシルラジカルを含むラジカル種の濃度を測定するヒドロキシルラジカル測定部と、前記測定された少なくともヒドロキシルラジカルを含むラジカル種の濃度に基づいて前記過酸化水素混合部に供給される過酸化水素量を制御する過酸化水素制御部とを有する。
【0013】
このような構成によって、製造されるヒドロキシルラジカル含有水中のヒドロキシルラジカルの濃度を、安定に精度良く制御することが可能となる。
【0014】
好ましくは、前記オゾン濃度安定化手段は、前記オゾン溶解部および前記オゾン分解抑制剤混合部の下流に設けられ、前記オゾンとオゾン分解抑制剤を含む水を循環させる循環部を有する。
【0015】
オゾン溶解量は、過酸化水素やオゾン分解抑制剤の混合量と比べて、精度よく増減させることが難しい。このように循環部を設けることによって、オゾンとオゾン分解抑制剤を含む水中のオゾン濃度の経時的な変動を抑えて平準化することができる。
【0016】
好ましくは、前記オゾン濃度安定化手段は、前記オゾン溶解部およびオゾン分解抑制剤混合部の下流に設けられ、オゾンの濃度を測定するオゾン測定部と、前記測定されたオゾン濃度に基づいて、前記オゾン溶解部において前記純水に溶解させるオゾン量を制御するオゾン制御部とを有する。
【0017】
これにより、過酸化水素混合部に供給されるオゾンとオゾン分解抑制剤を含む水について、実際のオゾン濃度を監視しながらオゾン溶解量を制御することができるので、オゾン濃度をより安定なものとすることができる。
【0018】
前記ヒドロキシルラジカル製造装置は、前記過酸化水素混合部の下流に設けられた分岐部と、前記分岐部から前記ヒドロキシルラジカル含有水を使用する処理装置に至る第1の配管と、前記分岐部から前記ヒドロキシルラジカル測定部に至る第2の配管とを有し、前記第1および第2の配管の断面形状および/または長さは、前記ヒドロキシルラジカル含有水が前記分岐部から前記処理装置に至るのに要する時間と前記分岐部から前記ヒドロキシルラジカル測定部に至るのに要する時間とがほぼ等しくなるように形成されていてもよい。
【0019】
ヒドロキシルラジカルの濃度は、ヒドロキシルラジカル含有水が配管中を輸送される間にも減少する。このような構成によれば、実際に処理装置に供給される少なくともヒドロキシルラジカルを含むラジカル種の濃度と測定される少なくともヒドロキシルラジカルを含むラジカル種の濃度の差を小さくすることができる。
【0020】
前記過酸化水素制御部は、過酸化水素の混合量を増加させるにしたがってヒドロキシルラジカル生成量が単調に増加する範囲で、過酸化水素混合量を制御するようにしてもよい。
【0021】
好ましくは、前記オゾン分解抑制剤が2−プロパノールである。
【0022】
本発明のヒドロキシルラジカル含有水製造方法は、純水にオゾンとオゾン分解抑制剤を含む水中のオゾン濃度を安定化させる工程と、前記オゾンとオゾン分解抑制剤を含む水に過酸化水素を混合する工程とを有し、前記オゾン、オゾン分解抑制剤および過酸化水素を含む水中の少なくともヒドロキシルラジカルを含むラジカル種の濃度に基づいて前記過酸化水素の混合量が制御される。
【0023】
このような構成によって、得られるヒドロキシルラジカル含有水中のヒドロキシルラジカルの濃度を、安定に精度良く制御することが可能となる。
【0024】
好ましくは、前記オゾンとオゾン分解抑制剤を含む水中のオゾン濃度を安定化させる工程が、前記オゾンとオゾン分解抑制剤を含む水を循環させる工程を有する。
【発明の効果】
【0025】
本発明の製造装置または方法によれば、ヒドロキシルラジカル含有水中のヒドロキシルラジカルの濃度をより安定に精度良く制御することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の第1の実施形態を
図1に基づいて説明する。
【0028】
図1は本実施形態のヒドロキシルラジカル含有水製造装置の全体構成を示したものである。
図1において、ヒドロキシルラジカル製造装置10は、上流から順に、純水供給部20、オゾンガス発生装置31が接続されたオゾン溶解部30、オゾン分解抑制剤である2−プロパノールの供給装置41が接続された2−プロパノール(イソプロピルアルコール、以下「IPA」と略す)混合部40、循環部51、および過酸化水素供給装置61が接続された過酸化水素混合部60を有し、ヒドロキシルラジカル含有水を処理装置100に供給する。循環部51はタンク50およびオゾン測定部53を有し、オゾン測定部53はオゾン制御部56と電気的に接続されている。過酸化水素混合部60の下流にはヒドロキシルラジカル測定部70が設けられ、過酸化水素制御部71に電気的に接続されている。
【0029】
オゾン溶解部30には、公知の構成を用いることができる。例えば、オゾンガス発生装置31で放電や紫外線照射によって発生させたオゾンガスを、バブリングや多孔質膜を介して純水に溶解させることができる。オゾン溶解量の制御は、オゾンガス発生装置31への電力投入量や、オゾン溶解部30へのオゾンガス供給量を制御することによって行うことができる。純水に溶解させるオゾン濃度は、典型的には100ppm以下である。
【0030】
IPA混合部40には、公知の構成を用いることができる。例えば、IPAを純水で希釈した溶液をIPA供給装置41から供給して、オゾンを含む水に添加し、ミキサー等で混合することができる。IPAの混合量の制御は、IPA混合部40の流量調整弁等を制御することによって行うことができる。IPA混合量は、典型的には、IPA濃度にして100ppm以下である。なお、本実施形態では純水にオゾンを溶解させた後にIPAを混合しているが、これに限られるものではなく、純水にIPAを混合した後にオゾンを溶解させてもよい。
【0031】
循環部51は、オゾンとIPAを含む水(以下「IPAオゾン水」という)を一時的に貯留するタンク50から、ポンプ52によって、供給ヘッダ54を経由してタンク50に戻る経路を有する。
【0032】
循環部51内には、IPAオゾン水中のオゾン濃度をリアルタイムで測定するオゾン測定部53が設けられている。オゾン測定部53はオゾン制御部56に電気的に接続されている。オゾン制御部56は、測定されたオゾン濃度に基づいて、オゾンガス発生装置31への電力投入量や、オゾン溶解部30へのオゾンガス供給量等を制御することができる。また、オゾン濃度が低下したときには、IPAオゾン水排出部55から循環部51からIPAオゾン水を排出し、新しいIPAオゾン水を補給することができる。このように排液、補給を繰り返して、次工程である過酸化水素混合部60に供給されるIPAオゾン水中のオゾン濃度を所定の範囲内に維持し、安定したものとすることができる。
【0033】
また、オゾン測定部53とオゾン制御部56を設けることによって、次工程である過酸化水素混合部60に供給されるIPAオゾン水中のオゾン濃度を確認することができるし、装置の運転開始時に立ち上げに要する時間を短縮することができるという効果が得られる。
【0034】
さらに、循環部51の効果によって、オゾン濃度の経時的な変動を抑えて平準化することができる。オゾン溶解量は、オゾンガス発生装置31でのオゾン生成効率が変動しやすいことなどによって経時的に変動しやすく、かつ精度よく増減させることが難しい。これに対して、IPAオゾン水を循環部51で循環させることによって、オゾン濃度が変動する場合にもこれを平準化することができるのである。なお、オゾン分解抑制剤を含まないオゾン水を循環させることは、オゾンが自己分解して消失するため現実的でない。しかし、IPAなどのオゾン分解抑制剤を混合することによって、循環部51におけるオゾン濃度の減少を実用的に問題のない程度に抑えながら、オゾン濃度を平準化することが可能となる。
【0035】
このように、本実施形態においては、タンク50を有する循環部51、オゾン測定部53およびオゾン制御部56が、IPAオゾン水中のオゾン濃度を安定化させるオゾン濃度安定化手段を構成している。
【0036】
過酸化水素混合部60は、循環部51の下流に設けられ、IPAオゾン水に過酸化水素を混合する。IPAオゾン水に過酸化水素を混合することにより多くのヒドロキシルラジカルが生成して、ヒドロキシルラジカル含有水が得られる。過酸化水素混合部60には公知の構成を用いることができる。例えば、濃度が調整された過酸化水素水を過酸化水素供給装置61から供給して、IPAオゾン水に添加してし、ミキサー等で混合することができる。過酸化水素混合量の制御は、過酸化水素混合部60の流量調整弁等を制御することによって行うことができる。過酸化水素混合量は、典型的には過酸化水素濃度にして2000ppm以下である。
【0037】
過酸化水素混合部60の下流には、少なくともヒドロキシルラジカルを含むラジカル種の濃度をリアルタイムで測定するヒドロキシルラジカル測定部70が設けられている。ヒドロキシルラジカル含有水の濃度測定方法としては、例えば、紫外光の吸収を利用した方法を用いることができる。ヒドロキシルラジカル測定部70は過酸化水素制御部71に電気的に接続されている。なお、ヒドロキシルラジカル以外のラジカル種としては、スーパーオキシド、ヒドロペルオキシルラジカル等の水溶性ラジカルが挙げられる。これら他のラジカル種の影響については後述する。
【0038】
過酸化水素制御部71は、リアルタイムで測定されたヒドロキシルラジカルを含むラジカル種の濃度に基づいて、過酸化水素混合量を制御することができる。過酸化水素混合量を制御した結果はヒドロキシルラジカル生成量に迅速に反映されるので、本実施形態の方法はヒドロキシルラジカル含有水製造工程でヒドロキシルラジカル濃度をリアルタイムで制御するのに適している。なお、本実施形態は、過酸化水素制御部71が過酸化水素混合量を制御するにあたって、オゾン測定部53で測定されたオゾン濃度を考慮することを排除するものではない。また、過酸化水素制御部71とオゾン制御部56は、物理的には1台のパソコン、プログラマブルロジックコントローラー(PLC)などを共用して実現されていてもよい。
【0039】
得られたヒドロキシルラジカル含有水は処理装置100に供給される。過酸化水素混合により生成したヒドロキシルラジカルは、ヒドロキシルラジカル含有水が処理装置100へと輸送される間にも減少する。そのため、過酸化水素混合部60と処理装置100の距離は短い方が好ましい。また、ヒドロキシルラジカル測定部70と処理装置100の距離も短い方が好ましい。測定されるラジカル種濃度と処理装置100に供給されるヒドロキシルラジカル含有水中のラジカル種濃度との差を小さくすることができるからである。
【0040】
さらに、ヒドロキシルラジカル測定部70は、処理装置100内に設けられていてもよい。例えば、処理装置100が半導体製造工程におけるバッチ式洗浄装置であるときは、ヒドロキシルラジカル測定部70をその洗浄槽の導入管に設けてもよい。また、例えば、処理装置100が半導体製造工程における枚葉式洗浄装置であるときは、ヒドロキシルラジカル測定部70をその吐出ノズルの途中に設けてもよい。
【0041】
ヒドロキシルラジカル含有水を複数の処理装置100に供給する場合には、供給ヘッダ54、62より下流部分の構成を、各処理装置100に対応させて複数設けることができる。
【0042】
次に、本実施形態におけるヒドロキシルラジカル生成反応と、オゾン、オゾン分解抑制物質および過酸化水素の役割について説明する。
【0043】
ヒドロキシルラジカルは、主としてオゾンと過酸化水素の反応によって生成される。なお、反応式中の「・」はその化合物が活性種であることを示す(以下において同じ)。
O
3+H
2O
2 → OH・+HO
2・+O
2
H
2O
2 ⇔ HO
2−+H
+
O
3+HO
2− → OH・+O
2−・+O
2
O
2−・+H
+ ⇔ HO
2・
【0044】
オゾンは水との反応によって自己分解するため、これを抑制するためにオゾン分解抑制剤が用いられる。オゾンの自己分解反応は複雑な一連の素反応を経て進行する。オゾン分解抑制剤は、この反応過程で生成するヒドロキシルラジカル(OH)、ヒドロペルオキシラジカル(HO
2)等と反応することによって、オゾンの分解反応を停止させるものと考えられている。
【0045】
オゾン分解抑制剤としては、各種の水溶性有機化合物、無機酸またはその塩などを用いることができる。水溶性有機化合物としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール(IPA)などのアルコール類、アセトン、酢酸、蟻酸、クエン酸が挙げられる。
【0046】
また、ヒドロキシルラジカル自体も反応性に富むため消失しやすいが、オゾン分解抑制剤はヒドロキシルラジカル濃度を維持する効果も有する。これは、オゾン分解抑制剤が存在することによって、ヒドロキシルラジカルを消費、生成する連鎖反応が進行し、結果としてヒドロキシルラジカル濃度が維持されるものである。オゾン分解抑制剤が水溶性有機化合物(RH)である場合の反応機構は次のとおり推定される。
RH+OH・ → R・+H
2O
R・+O
2 → RO
2・
RO
2・+RH → ROOH+R・
RO
2・+HO
2・ → RO・+O
2+OH・
【0047】
オゾン分解抑制剤のうち、水溶性有機化合物としては、沸点が低いこと、オゾンとの反応速度が小さいこと、ヒドロキシルラジカル濃度維持効果が高いこと、などから、IPAが好適に用いられる。
【0048】
上記一連の反応式から分かるように、一般に促進酸化処理法において生成するラジカルはヒドロキシルラジカル(HO)だけではなく、スーパーオキシド(O
2−)、ヒドロペルオキシラジカル(HO
2)、水溶性有機化合物に起因するラジカル(R、RO、RO
2)などのラジカル種も生成する。これらのうち、オゾンや過酸化水素よりも酸化力が強く、促進酸化処理において中心的な役割を果たすのがヒドロキシルラジカルである。本実施形態のヒドロキシルラジカル含有水もヒドロキシルラジカル以外のラジカル種を含むものと考えられる。
【0049】
ここで、ヒドロキシルラジカル濃度を測定するにあたり、その方法によっては、他のラジカル種の影響を受けることがある。例えば、特定波長の光の吸光度によってヒドロキシルラジカル濃度を測定するにあたり、吸光度が他のラジカル種によっても影響を受ける場合などである。しかし、本実施形態のヒドロキシルラジカル測定部70には、そのような方法を採用することもできる。ヒドロキシルラジカル含有水の製造工程管理という点からは、ヒドロキシルラジカル測定部による測定結果とヒドロキシルラジカル濃度が相関関係を有して対応していれば十分であり、ヒドロキシルラジカル単体の濃度を正確に測定することまでは要しないからである。したがって、本実施形態のヒドロキシルラジカル測定部70において、少なくともヒドロキシルラジカルを含むラジカル種の濃度を測定することで、ヒドロキシルラジカル含有水中のヒドロキシルラジカルの濃度を安定に精度良く制御することが可能となる。
【0050】
次に、過酸化水素混合量とヒドロキシルラジカル生成量の関係を
図6に示す。
図6より、オゾン濃度が大きいほどヒドロキシルラジカル生成量は多くなり、オゾン濃度が小さいほどヒドロキシルラジカル生成量は少なくなる。オゾン濃度が同じ場合は、過酸化水素混合量を増やすに従ってヒドロキシルラジカル生成量が増加し、ある混合量を超えると、過酸化水素混合量を増やすに従ってヒドロキシルラジカル生成量は減少する。つまりヒドロキシルラジカル生成量はある過酸化水素混合量に対して最大となる。ヒドロキシルラジカル生成量が最大となる過酸化水素混合量は、オゾン濃度やIPAなどオゾン分解抑制剤の混合量に依存するがその影響は小さく、あまり変化しない。過酸化水素混合量をヒドロキシルラジカル生成量が最大となる量よりも多くすると、残留オゾン濃度がほぼゼロになることが分かっている。
【0051】
ここで、過酸化水素制御部71によって制御される過酸化水素混合量の範囲は、処理対象物の特性等に応じて選択することができる。過酸化水素制御部71は、
図6においてヒドロキシルラジカル生成量が単調に増加する範囲(
図6のA)で過酸化水素混合量を制御することができる。ただし、過酸化水素混合量が少なすぎると、ヒドロキシルラジカル生成量が安定しないので好ましくない。例えば、オゾン濃度60ppm、IPA濃度15ppmの場合、過酸化水素濃度が約300ppmでヒドロキシルラジカル生成量が最大となるので、過酸化水素制御部71は過酸化水素濃度が100〜300ppm程度の範囲で、過酸化水素混合量を制御することができる。これにより、必要最小限の過酸化水素混合量でヒドロキシルラジカル濃度を制御できるため経済的である。
【0052】
本実施形態のヒドロキシル含有水製造装置および方法による効果をまとめると次のとおりである。
【0053】
複雑な一連の反応の結果、ヒドロキシルラジカルの生成および消失は、オゾン、オゾン分解抑制剤、過酸化水素の濃度に複雑に依存することとなる。しかしここで、最終的に得られるヒドロキシルラジカル濃度を制御するために、これらの濃度のすべてを変動させると、いわゆる制御量の発振や発散が起こりやすく、制御が不安定になりやすい。例えば、最終的なヒドロキシルラジカル濃度を大きくするには、オゾン溶解量を増やす、オゾン分解抑制剤混合量を増やす、オゾン濃度に応じて過酸化水素混合量を増やすまたは減らすなど、いくつもの選択肢がある。これらのパラメータをすべて変動させると、製造条件のわずかな変動によって、それぞれのパラメータが予期しない値に発散する虞がある。
【0054】
これに対して、本実施形態のヒドロキシルラジカル含有水製造装置および方法は、所要のヒドロキシルラジカル濃度を得るために、IPAオゾン水中のオゾン濃度を予め設定した範囲に安定化させ、次いで、最終的に得られるヒドロキシルラジカル濃度に基づいて過酸化水素混合量を制御する。これにより、ヒドロキシルラジカル含有水中のヒドロキシルラジカルの濃度をより安定に精度良く制御することが可能となる。
【0055】
次に、本発明の第2の実施形態を
図2に基づいて説明する。
【0056】
第2の実施形態のヒドロキシルラジカル含有水製造装置は、第1の実施形態のそれと、
図1における過酸化水素混合部60より上流部分については同じ構成を有する。本実施形態の過酸化水素混合部60以降の構成を
図2に示す。
【0057】
本実施形態のヒドロキシルラジカル含有水製造装置10は、過酸化水素混合部60の下流に分岐部80が設けられ、分岐部80から処理装置100に至る第1の配管81と、ヒドロキシルラジカル測定部70に至る第2の配管82を有する。ヒドロキシルラジカル測定部70が過酸化水素制御部71に電気的に接続されていること、過酸化水素制御部71が測定された少なくともヒドロキシルラジカルを含むラジカル種の濃度に基づいて過酸化水素混合量を制御可能であることは、第1の実施形態と同様である。
【0058】
前記第1の配管81および第2の配管82の断面形状および/または長さは、ヒドロキシルラジカル含有水が分岐部80から処理装置100に至るのに要する時間と、分岐部80からヒドロキシルラジカル測定部70に至るのに要する時間とがほぼ等しくなるように形成されている。ヒドロキシルラジカル濃度はヒドロキシルラジカル含有水が配管中を輸送される間にも減少する。ヒドロキシルラジカル濃度の減少の程度は時間の経過に最も強く影響されるので、本実施形態の構成によれば、実際に処理装置100に供給されるヒドロキシルラジカル含有水中の少なくともヒドロキシルラジカルを含むラジカル種の濃度と測定される少なくともヒドロキシルラジカルを含むラジカル種の濃度の差を小さくすることができる。
【0059】
次に、本発明の第3の実施形態を
図3に基づいて説明する。
【0060】
第3の実施形態のヒドロキシルラジカル含有水製造装置は、第1の実施形態のそれと、
図1におけるIPA混合部40より上流部分および過酸化水素混合部60より下流部分については同じ構成を有する。本実施形態のヒドロキシルラジカル含有水製造装置は、オゾン安定化手段の構成において、第1の実施形態と異なる。本実施形態のIPA混合部40〜過酸化水素混合部60間の構成を
図3に示す。
【0061】
本実施形態のヒドロキシルラジカル含有水製造装置10は、IPA混合部40の下流に、タンク50、ポンプ52およびオゾン測定部53を有する。または、オゾン測定部53は、タンク50内のオゾン濃度を測定するように設けられていてもよい。IPAオゾン水は、タンク50に一時的に貯留されることによって、オゾン濃度が平準化される。タンク50内のIPAオゾン水は、必要に応じて撹拌することができる。
【0062】
オゾン測定部53はオゾン制御部56に電気的に接続されている。オゾン測定部53およびオゾン制御部56の機能および効果は、第1の実施形態におけるそれと同様である。
【0063】
本実施形態では、第1の実施形態における循環部(
図1の51)を有しないので、第1の実施形態と比べて、IPAオゾン水中のオゾン濃度を平準化させる効果では劣るが、装置の構成をより単純にできる点でメリットがある。
【0064】
このように、本実施形態においては、タンク50、オゾン測定部53およびオゾン制御部56が、IPAオゾン水中のオゾン濃度を安定化させるオゾン濃度安定化手段を構成している。
【0065】
次に、本発明の第4の実施形態を
図4に基づいて説明する。
【0066】
第4の実施形態のヒドロキシルラジカル含有水製造装置は、第1の実施形態のそれと、
図1におけるIPA混合部40より上流部分および過酸化水素混合部60より下流部分については同じ構成を有する。本実施形態のヒドロキシルラジカル含有水製造装置は、オゾン安定化手段の構成において、第1の実施形態と異なる。本実施形態のIPA混合部40〜過酸化水素混合部60間の構成を
図4に示す。
【0067】
本実施形態のヒドロキシルラジカル含有水製造装置10は、IPA混合部40の下流に、オゾン測定部53を有する。オゾン測定部53はオゾン制御部56に電気的に接続されている。オゾン制御部56は、測定されたオゾン濃度に基づいて、オゾンガス発生装置(
図1の31)への電力投入量や、オゾン溶解部(
図1の30)へのオゾンガス供給量等を制御することができる。
【0068】
本実施形態では、第1の実施形態における循環部(
図1の51)や、第3の実施形態におけるタンク(
図3の50)を有しないので、IPAオゾン水中のオゾン濃度を平準化する効果はあまりない。しかしながら、オゾン制御部56がバルブ97、98を調節することにより、オゾン濃度が所望の範囲内にないときはIPAオゾン水を排出部55から排出し、オゾン濃度が所望の範囲内にあるときはIPAオゾン水を過酸化水素混合部60に供給することができる。これにより、次工程である過酸化水素混合部60に供給されるIPAオゾン水中のオゾン濃度を、所定の範囲内に維持して、安定したものとすることができる。
【0069】
このように、本実施形態においては、オゾン測定部53およびオゾン制御部56が、IPAオゾン水中のオゾン濃度を安定化させるオゾン濃度安定化手段を構成している。
【0070】
次に、本発明の第5の実施形態を
図5に基づいて説明する。
【0071】
第5の実施形態のヒドロキシルラジカル含有水製造装置は、第1の実施形態のそれと、
図1におけるIPA混合部40より上流部分については同じ構成を有する。本実施形態のヒドロキシルラジカル含有水製造装置は、ヒドロキシルラジカル含有水を処理装置に供給する部分の構成において、第1の実施形態と異なる。本実施形態のIPA混合部40以降の構成を
図5に示す。
【0072】
本実施形態のヒドロキシルラジカル含有水製造装置10は、IPAオゾン水に過酸化水素を混合した後に、供給ヘッダ63を介して、複数の処理装置100にヒドロキシルラジカル含有水を分配している。
図1と同じ番号を付した構成要素の機能は、第1の実施形態におけるそれと同様である。
【0073】
本実施形態は、第1の実施形態と比べて、各処理装置100に供給するヒドロキシルラジカル含有水中のヒドロキシルラジカル濃度の制御精度という点で劣るが、複数の処理装置100にヒドロキシルラジカル含有水を供給する場合でも装置の製造コストが抑えられる点でメリットがある。
【0074】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、その技術的思想の範囲内で種々の変形が可能である。
【0075】
例えば、上記実施形態のオゾン溶解部30は、オゾンガス発生装置31で発生したオゾンガスを純水中に溶解させるものであった。しかし、オゾン溶解部30はこれに限られるものではなく、オゾン溶解部30が純水中で水酸化によってオゾンを生成、溶解させるものであってもよい。この場合、オゾン溶解量の制御は、水酸化に使用される電力量等を制御することに行うことができる。
【0076】
また、オゾン分解抑制剤としては、無機酸またはその塩などを用いることができる。水溶性有機化合物としては、無機酸またはその塩としては、例えば、塩酸、硫酸、炭酸、炭酸塩、炭酸水素塩、亜硝酸、亜硝酸塩、亜硫酸、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、フッ酸が挙げられる。無機酸としては、ヒドロキシルラジカル含有水使用後の処理が簡単なことなどから、炭酸が好適に用いられる。
オゾン分解抑制剤が炭酸である場合の反応機構は次のとおり推定される。
CO
2+H
2O ⇔ HCO
3−+H
+
HCO
3− ⇔ CO
32−+H
+
CO
32−+OH・ → CO
3−・+OH
−
CO
3−・+OH・ → CO
2+HO
2−
O
3+HO
2− → OH・+O
2−・+O
2
なお、炭酸と過酸化水素との反応によって生じたヒドロペルキシルラジカルとオゾンとによるヒドロキシルラジカル生成反応は次のとおりである。
CO
2+H
2O ⇔ HCO
3−+H
+
HCO
3− ⇔ CO
32−+H
+
CO
32−+OH・ → CO
3−・+OH
−
CO
3−・+H
2O
2 → HCO
3−+HO
2・
HO
2・ ⇔ O
2−・+H
+
O
2−・+O
3 → O
3−・+O
2
O
3−・+H
2O → OH・+O
2+OH
−