(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6277007
(24)【登録日】2018年1月19日
(45)【発行日】2018年2月7日
(54)【発明の名称】繊維多軸シート及びこれを用いた繊維強化プラスチック製造用プリフォーム
(51)【国際特許分類】
D04H 3/115 20120101AFI20180129BHJP
D04H 3/04 20120101ALI20180129BHJP
D04H 3/002 20120101ALI20180129BHJP
B32B 5/26 20060101ALI20180129BHJP
B32B 5/06 20060101ALI20180129BHJP
D06M 17/00 20060101ALI20180129BHJP
【FI】
D04H3/115
D04H3/04
D04H3/002
B32B5/26
B32B5/06 Z
D06M17/00 H
D06M17/00 M
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-19474(P2014-19474)
(22)【出願日】2014年2月4日
(65)【公開番号】特開2015-145547(P2015-145547A)
(43)【公開日】2015年8月13日
【審査請求日】2016年10月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001096
【氏名又は名称】倉敷紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】堀本 歴
(72)【発明者】
【氏名】田中 忠玄
(72)【発明者】
【氏名】滝澤 尚
【審査官】
長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−162151(JP,A)
【文献】
特開2012−148568(JP,A)
【文献】
特開2007−160587(JP,A)
【文献】
特表2001−516406(JP,A)
【文献】
特表2012−511450(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B11/16
15/08−15/14
B32B1/00−43/00
C08J5/04−5/10
5/24
D04H1/00−18/04
D06M17/00−17/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維束を所定角度θに多数本配列した層を複数層積層し、前記多数本の繊維束を編糸で編んで固定した繊維多軸シートであって、
前記繊維束は、長繊維からなる多数本の炭素繊維を開繊して扁平化され、ポリプロピレンの融点以下のポリオレフィン融着糸をネット状にしたスクリムの融着により仮固定され、スリット糸にされており、
前記繊維束の幅L1(mm)と前記編糸の編みピッチL2(mm)は、
L2≧(1/sinθ)×L1
(但し、θは繊維多軸シートの長さ方向に対する繊維束の絶対角度であり、0°<θ<90°)
の関係であることを特徴とする繊維多軸シート。
【請求項2】
繊維束を所定角度θに多数本配列した層を複数層積層し、前記多数本の繊維束を編糸で編んで固定した繊維多軸シートであって、
前記繊維束は、長繊維からなる多数本の炭素繊維を開繊して扁平化され、熱硬化性樹脂により仮固定され、スリット糸にされており、
前記繊維束の幅L1(mm)と前記編糸の編みピッチL2(mm)は、
L2≧(1/sinθ)×L1
(但し、θは繊維多軸シートの長さ方向に対する繊維束の絶対角度であり、0°<θ<90°)
の関係であることを特徴とする繊維多軸シート。
【請求項3】
前記繊維束の幅L1と前記編糸の編みピッチL2は、
L2=n×(1/sinθ)×L1
(但し、nは1以上の整数であり、L2は30以下である。)
の関係である請求項1又は2に記載の繊維多軸シート。
【請求項4】
前記熱硬化性樹脂はエポキシ樹脂である請求項2又は3に記載の繊維多軸シート。
【請求項5】
前記熱硬化性樹脂は粉体であり、繊維束に振り掛けられ、加熱により仮固定されている請求項2〜4のいずれか1項に記載の繊維多軸シート。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の繊維多軸シートを成形して得られる繊維強化プラスチック製造用プリフォームであって、
繊維束を所定角度θに多数本配列した層を複数層積層し、前記多数本の繊維束を編糸で編んで固定した繊維多軸シートであり、
前記繊維束の幅L1と前記編糸の編みピッチL2は、
L2≧(1/sinθ)×L1
(但し、θは繊維多軸シートの長さ方向に対する繊維束の絶対角度であり、0°<θ<90°)
の関係であることを特徴とする繊維強化プラスチック製造用プリフォーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維多軸シート及びこれを用いた繊維強化プラスチック製造用プリフォームに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、炭素繊維やアラミド繊維などの強化繊維織物を複数枚積層したり、発泡体シートなどと一体化した積層体は知られている。特許文献1には、発泡体からなる内層(コア層)シートの表面に炭素繊維織物層を一体化した積層シートが提案されている。特許文献2には炭素繊維表面にエポキシ樹脂をサイジング剤として塗布し、熱硬化性樹脂との接着強度を高めることが提案されている。特許文献3には炭素繊維と熱硬化性樹脂の片面に熱可塑性樹脂層を積層し、真空成形することが提案されている。特許文献4には炭素繊維束の開繊方法が提案されている。また、特許文献5〜6には炭素繊維を開繊し分繊することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−096482号公報
【特許文献2】特開2013−116998号公報
【特許文献3】特開2009−184239号公報
【特許文献4】特開2010−270420号公報
【特許文献5】特開2009−280430号公報
【特許文献6】特開2009−191116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の炭素繊維で作成した多軸シートは、プリフォーム化する際や樹脂と複合化して成形する際にシワ、目開き、撚れなどが発生しやすい問題があった。
【0005】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、プリフォーム化する際や繊維を樹脂と複合して成形する際にシワ、目開き、撚れなどが発生しにくい繊維多軸シート及びこれを用いた繊維強化プラスチック製造用プリフォームを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の繊維多軸シートは、繊維束を所定角度θに多数本配列した層を複数層積層し、前記多数本の繊維束を編糸で編んで固定した繊維多軸シートであって、
前記繊維束は、長繊維からなる多数本の炭素繊維を開繊して扁平化され、ポリプロピレンの融点以下のポリオレフィン融着糸をネット状にしたスクリムの融着により仮固定され、スリット糸にされており、
前記繊維束の幅L1(mm)と前記編糸の編みピッチL2(mm)は、
L2≧(1/sinθ)×L1
(但し、θは繊維多軸シートの長さ方向に対する繊維束の絶対角度であり、0°<θ<90°)
の関係であることを特徴とする。
本発明の別の繊維多軸シートは、繊維束を所定角度θに多数本配列した層を複数層積層し、前記多数本の繊維束を編糸で編んで固定した繊維多軸シートであって、
前記繊維束は、長繊維からなる多数本の炭素繊維を開繊して扁平化され、熱硬化性樹脂により仮固定され、スリット糸にされており、
前記繊維束の幅L1(mm)と前記編糸の編みピッチL2(mm)は、
L2≧(1/sinθ)×L1
(但し、θは繊維多軸シートの長さ方向に対する繊維束の絶対角度であり、0°<θ<90°)
の関係であることを特徴とする。
【0007】
本発明の繊維強化プラスチック製造用プリフォームは、前記の繊維多軸シートを成形して得られる繊維強化プラスチック製造用プリフォームであって、前記繊維多軸シートは、繊維束を所定角度θに多数本配列した層を複数層積層し、前記多数本の繊維束を編糸で編んで固定した繊維多軸シートであって、前記繊維束の幅L1と前記編糸の編みピッチL2は、L2≧(1/sinθ)×L1(但し、θは繊維多軸シートの長さ方向に対する繊維束の絶対角度であり、0°<θ<90°)の関係であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、繊維束の幅は編糸の編みピッチ以下とすることにより、樹脂と複合化して成形する際の賦形性が良く、シワ、目開き、撚れなどが発生しにくい繊維多軸シートを提供できる。すなわち、繊維束の幅は編糸の編みピッチより短いことにより、繊維束を構成する繊維には自由度(遊び)ができ、成形時に変形してもシワ、目開き、撚れなどが発生しにくくなり、高品位な繊維強化樹脂(FRP,CFRP)成形品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は本発明の一実施態様の炭素繊維多軸シートの模式的斜視図である。
【
図2】
図2は同、炭素繊維多軸シートのスリット糸の幅と編糸の編みピッチの寸法を説明する拡大斜視図である。
【
図3】
図3は従来例の炭素繊維多軸シートの模式的斜視図である。
【
図4】
図4は本発明の一実施態様の開繊糸をスリットし扁平束状のスリット糸を製造する工程を示す模式的平面図である。
【
図5】
図5は同、スリット糸を巻き取った模式的斜視図である。
【
図6】
図6は同、開繊糸にスクリムを貼り付けた模式的平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の繊維多軸シートは、繊維束を所定角度に多数本配列した層を複数層積層し、繊維束を編糸で編んで固定した繊維多軸シートである。本発明の多軸シートに使用できる繊維は、炭素繊維、アラミド繊維などがある。以下は炭素繊維を例に挙げて説明する。
【0011】
図面を用いて説明すると、例えば
図1に示す炭素繊維多軸シート10となる。この炭素繊維多軸シート10は、例えば+45°の角度の扁平状炭素繊維束からなるスリット糸1と、−45°の角度のスリット糸2を積層し、スリット糸2に対し編み針3を用いて編糸5で編んで固定されている。積層数は2以上であればよく、通常2〜6程度の積層数が用いられる。通常編み方としては、トリコット編みやチェーン編みが用いられる。トリコット編みの場合、編表はチェーン状(いわゆるループ状)になり、編裏はジグザグ状になるが、編みピッチは編表のチェーン状の部分のピッチで測定する。チェーン編みの場合、編表はチェーン状(いわゆるループ状)になり、編裏は直線状になるが、この場合は編表及び編裏、いずれで測定しても良い。なお、トリコット編みの場合、
図1のように編み針が下からシートを突き刺す場合は、上面側がジグザグとなるのが通常であるが、
図1では説明のため便宜的に上面側にチェーン状のステッチ状態の概略を示している。また、編糸5とスリット糸1との角度も、繊維多軸シートの長さ方向に対する繊維束の角度θと実質的に同一であるので、
図1ではθと表示している。
【0012】
本発明の炭素繊維多軸シートを構成する炭素繊維束はスリット糸を使用する。このスリット糸の幅は編糸の編みピッチより短い。
図2は炭素繊維多軸シートのスリット糸の幅と編糸の編みピッチの寸法を説明する拡大斜視図である。スリット糸1a〜1cの幅L1は、編糸5a,5bの編みピッチL2以下とする。すなわち、L2≧(1/sinθ)×L1(但し、θは繊維多軸シートの長さ方向に対する繊維束の絶対角度であり、0°<θ<90°)の関係とする。これによりスリット糸を構成する炭素繊維には自由度(遊び)がとれ、賦形性が良くなる。自由度(遊び)ができると、プリフォーム化時や成形時に様々なストレスが掛かっても各炭素繊維は追従し、シワ、目開き、撚れなどが発生しにくくなる。
【0013】
これに対して従来技術の炭素繊維開繊糸をスリットせずに使用すると、編糸7a,7bは
図3に示すように幅広な開繊糸6a,6bの内部を複数個所編み込むことが必要になる。すなわち、開繊糸6a,6bの幅L1と編糸7a,7bの編みピッチL2の関係は、L1>L2とする必要がある。そうすると、炭素繊維は編糸7a,7bでしっかり固定されてしまい、自由な動きはできなくなる。したがって、このような多軸シートを使用するとプリフォーム化時や成形時にシワ、目開き、撚れなどの欠点が発生しやすくなる。
【0014】
本発明の繊維多軸シートを構成する繊維束は、長繊維からなる多数本の炭素繊維を開繊して得られる開繊糸が好ましく、当該扁平化された開繊糸を、複数本にスリットした扁平束状のスリット糸が特に好ましい。開繊糸の製造方法については、前記特許文献4等により既に知られているので、詳細説明は省略する。開繊糸を用いる理由は、次の通りである。
(1)扁平化された開繊糸は薄いため、樹脂が含浸しやすく、強度の高い成形品が得やすい。また、繊維強化樹脂(FRP)に成形する際、薄いシートを複数枚積層した方が物理的強度が向上しやすい。
(2)扁平化された開繊糸を使用すると、単位面積当たりの重量(目付)の軽い炭素繊維多軸シートが得られる。
(3)例えば24K(Kは1000本のこと)品以上の炭素繊維のような繊維本数とトータル繊度の大きい炭素繊維束原糸を開繊糸とすることで、扁平化された開繊糸が得られるが、それでは繊維束の幅が、多軸シート製造装置の編みピッチの機械的限界、例えば30mm程度を超えてしまうことが多い。また、1Kや3Kのような最初から薄く扁平状の炭素繊維は極めてコストが高い。そこで、コスト的に安い上記24K品以上のような炭素繊維を扁平化された開繊糸とし、それを複数本にスリットした扁平束状のスリット糸とすることで、コスト的にも有利となる。
【0015】
本発明で使用する扁平束状のスリット糸は、例えば
図4に示す方法で製造できる。ロール11から炭素繊維の開繊糸12を引き出し、固定ロール14と金属製回転刃13からなるスリッターに供給してスリット糸16a〜16eとし、ガイド15a〜15eを通過させてリール17a〜17eに巻き取る。
図5はリール17に巻き取ったスリット糸16を示している。
【0016】
本発明の炭素繊維多軸シートを構成するスリット糸の幅(L1)と編糸の編みピッチ(L2)の関係
は、L2≧(1/sinθ)×L1(但し、θは繊維多軸シートの長さ方向に対する繊維束の絶対角度であり、0°<θ<90°)である。上記関係であることより、成形体やプリフォーム作成時の目開きやシワが少なくなり、賦形性に有利となる。本発明の炭素繊維多軸シートを構成するスリット糸の幅(L1)と編糸の編みピッチ(L2)の関係として、さらに好ましくは、大略L2=n×(1/sinθ)×L1(但し、nは1以上の整数であり、L2は30以下。)である。隣り合うスリット糸の境界部分に編み糸が位置する方が、より賦形性に有利だからである。なお、nは1以上であるが、好ましくはn=1〜3である。この範囲であれば、賦形性を低下させない程度の自由度(遊び)が得られ、より高品位な成形品やプリフォームを得ることができる。ただし、L2は30mm以下である。30mmを超える編みピッチは、編み機械的に困難である。
【0017】
所定角度θは通常±30°〜±60°であり、例えば+30°と−30°の組み合わせ、+45°と−45°の組み合わせ、+60°と−60°の組み合わせ、及びこれらの中から任意の複数組の組み合わせがある。本発明においては、前記角度はプラスマイナスを削除し、絶対値で表示する。
【0018】
前記スリット糸はカットされた炭素繊維を含んでも良い。
図4に示すように、炭素繊維の開繊糸を金属製回転刃によってスリットするので、一部の炭素繊維はカットされるからである。一部の炭素繊維がカットされても、炭素繊維強化樹脂成形体の品質には影響しない。
【0019】
扁平束状のスリット糸は0.5〜30mm程度であり、通常は1〜15mmが好ましく、さらに好ましくは2〜9mmであり、とくに好ましくは3〜7mmである。見かけ厚さは0.01〜0.5mmが好ましく、さらに好ましくは0.03〜0.3mmである。
【0020】
本発明の炭素繊維多軸シートに使用するスリット糸には形態を仮固定しておくための樹脂が付与されていることが好ましい。ここで「仮固定」とは、多軸シートを形成するまではスリット糸の扁平化した形態を維持するが、成形時の温度及び/又は圧力によって、スリット糸を構成する炭素繊維に自由度(遊び)が生ずる止め方を言う。仮固定は開繊糸の状態でしてもよいし、スリット糸にしてからでもよい。取扱い性の良さから、開繊糸の状態で仮固定するのが好ましい。
【0021】
スリット糸の形態を仮固定しておくための樹脂は、熱硬化性樹脂の場合はエポキシ樹脂が好ましい。エポキシ樹脂は炭素繊維との親和性ないしは接着性が良好で、成形性も良いからである。エポキシ樹脂は粉体で振り掛けることもできるし、液体に分散させて振り掛け又は含浸させてもよい。エポキシ樹脂の使用量は1〜30g/m
2程度、好ましくは3〜20g/m
2程度が用いられる。
【0022】
仮固定用樹脂として熱可塑性樹脂を使用する場合は、成形温度より低い軟化点の樹脂を使用することが好ましい。成形時に炭素繊維に自由度(遊び)を発生させるためである。例えば成形時にポリプロピレン(PP)フィルムと炭素繊維を一体成形する場合(成形温度はPPの融点より高い)、仮固定用樹脂はPPと同じ融点又はPPより低い融点のポリオレフィンが好ましい。例えばPP、ポリエチレン(PE)、又は他のポリオレフィンを使用する。
【0023】
仮固定手段としてスクリム(支持体)を固定しておくこともできる。
図6にスクリムで固定した例を示す。炭素繊維開繊糸21の一表面に低融点融着糸22a,22b,22cをネット状にしたスクリムを融着している。20はスクリムで固定した炭素繊維開繊糸である。スクリムを構成する低融点融着糸は例えばポリエチレン糸を使用できる。
【0024】
本発明の炭素繊維多軸シートの単位面積当たりの重量(目付)は50〜400g/m
2の範囲が好ましく、さらに好ましくは100〜300g/m
2である。
【0025】
本発明の炭素繊維多軸シートの編み糸(ステッチ糸)は任意の繊維素材を使用できるが、一例としてポリエチレンテレフタレート糸が好ましい。
【0026】
本発明の炭素繊維多軸シートを用いた成形方法としては、熱プレス成形、真空成形、熱変形を利用した曲げ加工成形等がある。この炭素繊維多軸シートは、シワ、目開き、撚れなどが発生しにくいことから、深絞り成形できる利点がある。
【0027】
成形する際には、炭素繊維多軸シートを1枚使用しても良いし、複数枚積層しても良い。ポリプロピレン(PP)等の熱可塑性フィルムと本発明の炭素繊維多軸シートを重ねて成形する際には、フィルムは炭素繊維多軸シートの層間と両表面に重ねて成形することもできる。別の方法としては、内層(コア層)に発泡樹脂シート又は非発泡樹脂シートを入れて成形することもできる。本発明で得られる繊維多軸シートは、熱硬化樹脂をマトリックス樹脂として用いた繊維強化プラスチックや熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂として用いた繊維強化プラスチックのいずれにも使用でき、好ましくは、繊維強化プラスチック用プリフォーム基材として、特に熱硬化樹脂をマトリックス樹脂として繊維強化プラスチック用プリフォーム基材として好ましく用いられる。
【0028】
本発明の炭素繊維多軸シートを使用した成形方法の一例として熱プレス法を挙げると、熱プレス工程の雰囲気温度は150〜190℃が好ましく、さらに好ましくは160〜180℃である。加圧力は1MPa程度が好ましい。加熱時間は0.5〜5分間が好ましく、さらに好ましくは1〜4分間である。冷却工程の時間は0.5〜5分間が好ましく、さらに好ましくは1〜4分間である。冷却温度は30℃程度以下になるまでが好ましい。成形後の積層シート全体の厚みは0.3〜5mmが好ましい。
【0029】
本発明の製造方法は前記方法に限らず、1回ごとの加熱加圧プレスと冷却法によっても製造できる。また、大量生産を考える場合、上記バッチ法ではなく連続生産法で製造することもできる。
【実施例】
【0030】
以下実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。なお本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0031】
<評価方法>
ヘルメット形状の金型を用いてプレス成形した成形品を目視観察して、目開き(繊維間の開き)、シワ(繊維基材に発生するシワ)、繊維の撚れ(繊維の折れ、座屈)の有無を評価した。評価基準は次の通りとした。
目開き:2mm以上の繊維間の開き箇所の数
シワ:多軸シートに発生するシワの数
撚れ:繊維の折れ及び座屈の数
【0032】
(実施例1)
炭素繊維束として、三菱レイヨン社製、商品名“PYROFIL TRW 40 50L”(50K,Kは1000本のこと)、トータル繊度3750texを使用し、薄く扁平化し、均一厚さで幅20mmに開繊した。得られた開繊糸の一表面に
図6に示すスクリム(ポリエチレン糸を使用)を熱融着して形態の仮固定をした。次に
図4に示す方法で開繊糸を幅4mmにスリットした。スリット糸は5本得られた。
【0033】
得られた幅4mmのスリット糸を使用して、
図1に示すように+45°と−45°にバイアスした2層構造の多軸シートを編成した。編糸はポリエチレンテレフタレートフィラメント(PET)糸(8.3tex)を用い、スリット糸1本ごとに縛るように編成した。編みピッチは5.7mmとした。得られた多軸シートの目付は300g/m
2であった。
【0034】
得られた炭素繊維多軸シートを4枚使用し、上下表面と層間に厚さ100μmのポリプロピレン(PP)フィルムを積層し、この状態でヘルメット形状の金型を用いてプレス成形した。熱プレス工程の雰囲気温度は170℃、加圧力は1MPa、加熱時間は3分間とし、30℃程度以下になるまで冷却した。成形後の積層シート全体の厚みは1.5mmであった。得られたヘルメット成形品の評価はまとめて表1に示す。
【0035】
(実施例2)
開繊糸の形態仮固定用樹脂として、スクリムに換えてプリフォーム用のエポキシ樹脂を使用した以外は実施例1と同様に多軸シートを作成した。エポキシ樹脂はパウダー状態のもの(HUNTSMAN社製、商品名"XB3366")を15g/m
2の割合で開繊糸に振り掛けて、150℃、2分間加熱して仮固定した。この条件ではエポキシ樹脂は部分硬化状態である。この開繊糸を幅4mmにスリットし多軸シートに編成した。編みピッチは5.7mmとした。得られた多軸シートの目付は300g/m
2であった。
【0036】
得られた炭素繊維多軸シートを4枚使用し、この状態でヘルメット形状の金型を用いてプレス成形した。熱プレス工程の雰囲気温度は170℃、加圧力は1MPa、加熱時間は2分間とし、30℃程度以下になるまで冷却した。成形後の積層シート全体の厚みは1.5mmであった。得られたヘルメット成形用プリフォームの評価はまとめて表1に示す。
【0037】
(比較例1)
幅20mmの炭素繊維の開繊糸をそのままの状態で使用して多軸シートを編成した。編成は、+45°と−45°にバイアスした2層構造の多軸シートとした。編糸はポリエチレンテレフタレートフィラメント(PET)糸(8.3tex)を用い、編みピッチは4mmとした。得られた多軸シートの目付は300g/m
2であった。成形方法は実施例1と同様にした。得られたヘルメット成形品の評価はまとめて表1に示す。
【0038】
(比較例2)
幅20mmの炭素繊維の開繊糸をそのままの状態で使用して多軸シートを編成した。編成は、+45°と−45°にバイアスした2層構造の多軸シートとした。編糸はポリエチレンテレフタレートフィラメント(PET)糸(8.3tex)を用い、編みピッチは4mmとした。得られた多軸シートの目付は300g/m
2であった。成形方法は実施例2と同様であるが、プレス工程前に実施例2で用いたパウダー状エポキシ樹脂を15g/m
2の割合で多軸シートに散布した。得られたヘルメット成形用プリフォームの評価はまとめて表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
表1から、本発明の実施例品は目開き、シワ、撚れがなく、高品位な成形品であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の多軸シートを用いた成形品は、自動車部品、自動車内装品、家電製品、医療用保護具、スーツケース、容器、棚、パレット、パネル、バッグ、自動倉庫用スリーブボックス、ドア、ロール回収用長尺ボックス、畳の芯材、展示ブース様壁材、Tボード(トラック用当て板)、簡易テーブルセット等の民生用積層品に適用できる。
【符号の説明】
【0042】
1,1a〜1c,2,16,16a〜16e スリット糸
3 編み針
4,5,5a,5b,7a,7b 編糸
6a,6b,12 開繊糸
10 炭素繊維多軸シート
11 ロール
13 金属製回転刃
14 固定ロール
17a〜17e リール
20 スクリムで固定した炭素繊維開繊糸
21 炭素繊維開繊糸
22a,22b,22c 低融点融着糸