(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
航空機の機体の試験対象部位に対応する湾曲した供試体に、前記試験対象部位の外側と内側との圧力差に相当する内圧の印加、および除圧を含む試験サイクルを繰り返す試験方法であって、
前記供試体の外側が臨むキャビティ内を吸引により減圧させることで前記供試体に内圧を印加するにあたり、
前記キャビティ内を減圧せずに、前記キャビティの前段に位置する圧力蓄積空間を減圧させる第1ステップと、
前記圧力蓄積空間に蓄えられた負圧により前記キャビティ内を減圧させる第2ステップと、を含み、
前記第2ステップを前記内圧の印加時に行い、
前記第1ステップを前記試験サイクルにおいて少なくとも前記除圧時に行う、
ことを特徴とする航空機の強度試験方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
内圧試験は、全体の供試体(バレル)を用いる場合でも、部分供試体を用いる場合でも、専ら、供試体の内側(キャビティ)を加圧することにより行われてきた。
しかしながら、内圧試験を実施するにあたり本発明者らが検討を進めていくと、以下に示すような課題にあたった。
第1に、キャビティ内の圧力が過大となって供試体が破裂する(バースト)おそれがある。
第2に、供試体の内側がキャビティ側に位置しているので、供試体に発生した損傷(クラック等)の進展を観察するのが難しい。損傷の起点となることの多い供試体の内側を観察するためには、キャビティ内にカメラを配置したり圧力容器に観察用の窓を設ける必要がある。
【0006】
第3に、バレルを用いる場合は言うに及ばず、部分供試体を用いる場合であっても、キャビティの容積を一定以上に小さくすることができないため、必要な内圧を得るのにそれなりの時間を要する。部分供試体の内側に内構材(フレームやストリンガ)が存在するため、部分供試体と圧力容器との間には否応なく所定の間隔があくので、その間隔に相応の容積のキャビティが形成されることとなる。
【0007】
第4に、部分供試体と圧力容器との間を確実にシールするために構造の大型化を招く。
キャビティ内が加圧されることでシールが崩壊するのを避けるため、圧力容器に対して供試体を押し付ける大型の治具(
図10の治具99参照)が必要となる。
第5に、供試体の周縁部における内鋼材の欠損が、供試体の応力分布に影響を与えてしまう。
シール部材を平面に設置する必要があるため、シール部材が設置される供試体の周縁部には内構材を設けていない。そのため、キャビティ内の圧力上昇により、スキンの周縁部がスキンの面外方向に膨らむように変形すると、もはや周方向に均等な所望の応力を生じさせることができない。
【0008】
以上に挙げた課題に基づいて、本発明は、湾曲した供試体を用いて、安全かつ迅速に、しかも内圧を確実に印加して所望の応力を生じさせることができ、さらに、発生した損傷を確実に観察することができる航空機の強度試験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、航空機の機体の試験対象部位に対応する湾曲した供試体に、試験対象部位の外側と内側との圧力差に相当する内圧を印加する試験装置であって、供試体との間にキャビティを形成する圧力容器と、内圧に対して供試体を拘束する拘束部材と、を備える。
そして、本発明は、圧力容器が、供試体の外側に対向し、キャビティ内が減圧されることで供試体に内圧が印加されることを特徴とする。
本発明において、供試体の外側は、試験対象部位における外側に相当し、供試体の内側は、試験対象部位における内側に相当する。
【0010】
本発明ではキャビティ内を減圧させるので、可能な限り減圧させても最大で1atmの減圧に留まる。したがって、供試体を破裂させるほどの圧力がキャビティ内に生じないので、安全に試験を行うことができる。
また、供試体の外側が圧力容器に対向しており、圧力容器の外部に供試体の内側が露出するので、供試体の内側に発生した損傷の進展を目視で容易に観察することができる。
さらに、平滑な供試体の外側が圧力容器に対向するため、キャビティの容積を小さくする上で内構材が妨げとならないので、供試体と圧力容器とを近接させてキャビティの容積を小さくすることができる。それによって内圧印加に要する時間を短縮することができる。
【0011】
その上、キャビティ内が減圧されると、供試体と圧力容器との間の間隔を狭める向きに力が働くので、キャビティを封止するシール部材が供試体および圧力容器に押し付けられる。そのため、キャビティ内を確実に封止することができる。
しかも、シール部材は供試体の外側に配置されるので、シール部材を設ける位置が供試体の内構材との干渉によって制約されない。
さらに、内圧を印加するためにキャビティ内を加圧する場合に用いられるコンプレッサよりも安価な減圧ポンプを用いることができるので、装置コストを低減することができる。
【0012】
本発明の航空機の試験装置は、キャビティ内を吸引することで減圧させる減圧ポンプと、減圧ポンプとキャビティとを結ぶ吸引経路に設けられるタンクと、タンクとキャビティとの間に位置し、吸引経路を開閉するバルブと、を備えることが好ましい。
上記構成を採用し、キャビティ内を減圧しない間もバルブを閉じて減圧ポンプを作動させると、減圧された圧力がタンク内に蓄えられる。
そうしておいてバルブを開くと、タンク内の圧力によりキャビティ内が急速に減圧されるので、規定の圧力にまで減圧させるために要する時間を短縮することができる。
また、吸引能力がさほど大きくない普及品の減圧ポンプを用いることでコストを抑えながら、キャビティ内を所定時間内に減圧させるのに足りる吸引能力を確保することができる。
【0013】
本発明の航空機の試験装置では、供試体と圧力容器との間に、キャビティを封止するシール部材が配置され、シール部材の内部には、所定の圧力で気体が封入されることが好ましい。
そうすると、気体の反発力により、供試体および圧力容器にシール部材を密着させることができるので、キャビティをより確実に封止することができる。
【0014】
本発明の航空機の試験装置は、拘束部材を支持する支持部材を備え、拘束部材は、支持部材にピン結合されることが好ましい。
ロッドがピン結合されており、支持部材に対して回転可能であるため、供試体に面外方向の曲げ応力が発生し難い。そのため、キャビティに臨む供試体の領域の全体に亘り、所望の応力分布を再現することができる。
【0015】
本発明の航空機の試験装置は、拘束部材を支持する支持部材を備え、拘束部材において支持部材に支持される側が供試体の面外方向(供試体の面に対して交差する方向)に変位可能であることが好ましい。
内圧印加時、ロッドが変位することで、供試体における面外方向への曲げ応力を解消することができるので、所望の応力分布を再現することができる。
【0016】
本発明の航空機の試験装置において、供試体は、スキンと、スキンを支持するフレームと、スキンを補強するストリンガと、を備え、スキンの外側の周縁部には、キャビティを封止するシール部材が配置され、フレームおよびストリンガのうち少なくともフレームは、スキンの内側でシール部材に対応する位置に存在することが好ましい。
本発明においては供試体の外側にシール部材が配置されるため、フレームやストリンガを欠損させる必要はなく、供試体において内圧が印加される領域の全体にフレームやストリンガを設けることができる。そのため、スキンの周縁部が面外方向に膨らむことなく、供試体に所望の応力を生じさせることができる。
【0017】
本発明の航空機の試験装置は、軸線の周りに断面円弧状に形成された供試体に、軸線に沿って軸力を印加する装置を備えることが好ましい。
そうすると、内圧および軸力の双方を印加することで、供試体に対して、実機に即した複合的な応力場を生じさせることが可能となる。
【0018】
本発明の航空機の試験方法は、航空機の機体の試験対象部位に対応する湾曲した供試体に、試験対象部位の外側と内側との圧力差に相当する内圧の印加、および除圧を含む試験サイクルを繰り返す試験方法であって、供試体の外側が臨むキャビティ内を吸引により減圧させることで供試体に内圧を印加するにあたり、キャビティ内を減圧せずに、キャビティの前段に位置する圧力蓄積空間を減圧させる第1ステップと、圧力蓄積空間に蓄えられた負圧によりキャビティ内を減圧させる第2ステップと、を含み、第2ステップを内圧の印加時に行い、第1ステップを試験サイクルにおいて少なくとも除圧時に行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、湾曲した供試体を用いて、安全かつ迅速に、しかも内圧を確実に印加して所望の応力を生じさせることができ、さらに、発生した損傷を確実に観察することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照し、本発明の実施形態について説明する。
図1に示す複合負荷試験装置1は、湾曲した供試体10を用いて航空機の胴体構造の静強度、疲労強度、損傷許容性を試験可能である。
複合負荷試験装置1は、供試体10に内圧を印加する内圧試験装置20と、供試体10に引張方向の軸力を印加する軸力試験装置30とを備えており、内圧および軸力の双方を印加することで供試体10に複合的な応力場を生じさせることが可能である。
内圧試験装置20と軸力試験装置30とは、互いに力の受け渡しがない、独立した力の系を構成している。
【0022】
内圧試験装置20は、
図1〜
図3に示すように、枠体21と、供試体10の外表面10Aに対向する圧力容器22と、供試体10と圧力容器22との間のキャビティ23(空間)を封止するシール部材24と、印加される内圧に対して供試体10を拘束する多数のロッド25と、キャビティ23内を減圧させる減圧ポンプ26と、リザーバタンク27とを備える。
枠体21、圧力容器22、およびロッド25は、互いに剛結合されている。
【0023】
航空機の胴体には、上空において低下した外気圧と機内与圧との圧力差によって張力が作用する。
本実施形態は、かかる圧力差に相当する内圧を供試体10に印加するにあたり、供試体10の外表面10Aが臨むキャビティ23内を減圧させることを最大の特徴とする。
【0024】
供試体10は、試験対象とする胴体の部位(試験対象部位)に対応する。試験対象部位は、窓枠や整備用の扉などの開口部が設けられる部位、部材同士をファスナで結合した部位、開口部やファスナ結合部がない一般部などから任意に選択することができる。
【0025】
図4(a)に示す供試体10は、胴体の一般部に対応しており、軸線の周りに断面円弧状に形成されている。
供試体10は、スキン11と、スキン11を内側から支持する複数のフレーム12と、スキン11を内側から補強する複数のストリンガ13とを備える。
スキン11は、胴体の内側から外側に向けて凸となるように円弧状に湾曲している。
スキン11の周方向の端縁は、いずれも軸線に対して平行であるが、それらの一方または両方が軸線に対して傾斜していることも許容される。
【0026】
フレーム12は、スキン11の内側の面に、周方向に沿って設けられている。
ストリンガ13は、スキン11の内側の面に、軸線方向に沿って設けられている。
本実施形態の供試体10のスキン11、フレーム12、およびストリンガ13は、実機と同様にアルミニウム合金から形成されている。スキン11、フレーム12、およびストリンガ13の材料として、その他の金属材料、あるいは、ガラス繊維や炭素繊維などの強化繊維を含有する繊維強化樹脂(FRP;Fiber Reinforced Plastics)を用いることができる。
【0027】
スキン11の周方向の両端には、ロッド25に結合される結合具28がファスナで固定される。
結合具28が設けられるスキン11の端部は、
図4(b)に示すように、内側と外側からそれぞれ補剛板111が重ねられて固定されることで補強されている。補剛板111は、スキン11の長手方向(軸線方向)に沿って帯状に形成することができる。
なお、補剛板111を設ける代わりに、あるいはそれと併用して、スキン11の板厚を増してもよい。
【0028】
複数のフレーム12の各々の周方向の両端には、ロッド25に結合される結合具29がファスナで固定される。
フレーム12およびストリンガと13は、スキン11に重ねられた補剛板111に干渉しない程度に、スキン11の端縁に近いぎりぎりの位置にまで延びている。つまり、補剛板111が設けられることによるフレーム12およびストリンガ13の欠損部は、最小限に抑えられている。
【0029】
枠体21は、
図2に示すように、下方に配置される下部枠体211と、上方に配置される上部枠体212とを備える。下部枠体211および上部枠体212はいずれも、鋼材を用いて平面視矩形状に組まれている。
下部枠体211は、図示しないスタンドにより床に設置される。下部枠体211上には、圧力容器22が設けられる。下部枠体211において圧力容器22を支持する部分には、上下方向に延びる補強用のリブ211Aが形成されている。圧力容器22の内側にも同様のリブ22Rが形成されている。
下部枠体211の四隅からは支柱213が立ち上がっており、各支柱213の先端は上部枠体212の四隅に接続されている。
上部枠体212は、供試体10を拘束するロッド25を支持する。
【0030】
圧力容器22は、
図3に示すように、供試体10の外表面10Aの略全域に亘り対向する。
圧力容器22の周縁には、圧力容器22の側壁に対して内側に突出したシール部22Bが形成されている。シール部22Bは平面視矩形状に形成されており、シール部22Bの上面にシール部材24が配置される。
圧力容器22と供試体10の外表面10Aとの間にキャビティ23が形成される。
ここで、圧力容器22に対向する供試体10の外表面10Aは平滑である。圧力容器22に供試体10の内側10Bが対向するように供試体10が配置される場合(
図10参照)とは違って、供試体10と圧力容器22との間にフレーム12やストリンガ13が存在しない。
そのため、本実施形態では、キャビティ23内を減圧した際に供試体10が圧力容器22へと引き付けられても、圧力容器22に干渉しない程度に、供試体10と圧力容器22との間の間隔を狭めている。そうすることで、キャビティ23の容積を小さくしている。
【0031】
圧力容器22には、キャビティ23内から圧力容器22の外部へと通じる吸引経路41および開放経路42が設けられる。
【0032】
シール部材24は、圧力容器22のシール部22Bと供試体10の外表面10Aの周縁部との間に配置されることでキャビティ23を封止する。キャビティ23内には、供試体10の外表面10Aの略全域が臨む。
図3には、シール部材24の好適な形状例が示されている(
図9参照)。このΩ状の横断面形状を有するシール部材24は、幅方向両側に押さえ板243を配置し、押さえ板243、シール部材24、およびシール部22Bを締結することによって圧力容器22に固定されている。押さえ板243は、シール部材24の長さ方向において多数が配置されている。
シール部材24は、供試体10の周縁に沿って平面視矩形の環状に配置される。
供試体10の周方向の端部において、シール部材24は、スキン11の端縁に対して、スキン11に重ねられた補剛板111(
図4(b))を超える位置まで退いて配置される。
【0033】
本実施形態のシール部材24は、ゴム、エラストマ等の弾性材料から押出成形されたホースである。シール部材24の両端が互いに接続されることで、シール部材24の内側には環状に連続した空間が形成される。その空間には所定の圧力でエアが封入される。そのため、しわができやすいシール部材24の屈曲部においても、エアの反発力により、供試体10およびシール部22Bとの間に隙間を作らずにキャビティ23を封止することができる。
内圧試験装置20は、シール部材24の内部を加圧するシール用ポンプ24Pを備える。
【0034】
ロッド25は、キャビティ23内の減圧により圧力容器22に向けて引っ張られる供試体10を支持する。
ロッド25は、供試体10の周方向の両端側にそれぞれ、供試体10の端部における接線方向に沿って配置される。そうすると、実機においては供試体10の周方向に連続する部位の存在がロッド25により模擬されるので、供試体10を周方向に拘束することができる。
【0035】
キャビティ23内の減圧時、供試体10に面外方向の曲げ応力を生じさせずに供試体10の曲率を維持するために、ロッド25の長さや角度が可変であることが好ましい。
ロッド25は、供試体10の周方向の端部に結合具28を介して固定される第1ロッド251と、上部枠体212にブラケット253を介して固定される第2ロッド252と、第1ロッド251および第2ロッド252を連結するターンバックル254とを有する。
【0036】
ターンバックル254には、第1ロッド251の端部と第2ロッド252の端部とがねじ込まれる。第1ロッド251の端部と第2ロッド252の端部とは逆ねじである。ターンバックル254を軸周りに回すと、ロッド25の長さを伸縮させることができる。
ブラケット253と、第2ロッド252とはピン結合されている。そのため、ロッド25は、上端を支点として回転可能であり、上部枠体212に対する角度を自在に変える。
【0037】
ロッド25には、
図4(a)に示すように、供試体10において隣り合うフレーム12,12の間でスキン11に結合具28を介して結合されるもの(ロッド25A)と、フレーム12に結合具29を介して結合されるもの(ロッド25B)とがある。
結合具28は、スキン11を厚み方向に掴むように断面C字状に形成されている。
また、結合具28は、ロッド25による拘束力を供試体10の軸線方向に拡げるために、第1ロッド251の基端に結合される側からスキン11に結合される側に向けて次第に拡がっている(概ね台形状)。そして、結合具28は、軸線方向に間隔をおいて配置される複数のファスナによりスキン11に結合される。
結合具29は、フレーム12を厚み方向に掴むように断面C字状に形成されている。
【0038】
ロッド25Aにより、スキン11や各フレーム12が軸線方向において均一に拘束されることが望まれる。
そのため、各ロッド25、供試体10のスキン11やフレーム12のそれぞれの応力を歪ゲージなどで検出し、それらの応力に基づいて、ロッド25の長さや角度を調整することが好ましい。
ここで、ロッド25の長さや角度の振れが応力に与える影響を小さくするために、ロッド25は長い方が好ましい。
【0039】
図5に示すように、減圧ポンプ26、リザーバタンク27、およびキャビティ23は、供試体10に内圧を印加する圧力系統を構成する。その圧力系統の吸引経路41を太い実線で示し、開放経路42を太い破線で示す。
減圧ポンプ26は、リザーバタンク27を介してキャビティ23内のエアを外部へと吸い出すことでキャビティ23内の圧力を大気圧に対して例えば−0.5atm程度の負圧にまで減少させる。
【0040】
リザーバタンク27は、吸引経路41の途中に設けられ、内部に負圧のエアを貯留する。リザーバタンク27の内部は圧力蓄積空間として機能する。
リザーバタンク27とキャビティ23との間には、吸引経路41を開閉する減圧バルブ41Vが設けられる。
本実施形態では、吸引経路41を通じてキャビティ23内を減圧させる間だけでなく、キャビティ23内を大気圧に開放させる間にも、減圧ポンプ26を作動させる。
減圧バルブ41Vを閉じて減圧ポンプ26を作動させると、リザーバタンク27内のエアを減圧ポンプ26により継続的に吸引して減圧させることができる。
そうしておいて減圧バルブ41Vを開くと、十分に減圧されたリザーバタンク27内へとキャビティ23内のエアが一気に吸引されるので、キャビティ23内を迅速に減圧させることが可能となる。
リザーバタンク27とキャビティ23とを接続する管路の径は、流路抵抗を下げるために大きく設定することが好ましい。
また、必要に応じて、リザーバタンク27内の圧力を検出する圧力センサが設けられる。
リザーバタンク27は、互いに連結された複数のタンクから構成することもできる。
【0041】
開放経路42には、キャビティ23内を大気圧に開放させる際に開かれる開放バルブ42Vが設けられる。
減圧バルブ41Vおよび開放バルブ42Vの各々を連系して開閉動作させることにより、キャビティ23内の減圧、およびキャビティ23内の大気圧開放を行うことができる。
【0042】
キャビティ23内の減圧および大気圧開放は、手動で行うこともできるが、本実施形態では、減圧バルブ41Vおよび開放バルブ42Vとして制御信号により自動的に開閉可能な自動弁を採用するとともに、減圧バルブ41Vおよび開放バルブ42Vの開閉動作を制御する制御装置100を設けている。
制御装置100は、キャビティ23内の圧力を示す圧力信号を圧力センサ101から受け取り、減圧バルブ41Vおよび開放バルブ42Vのそれぞれに、開または閉を指示する制御信号を送る。
制御装置100は、後述するように軸力印加も制御する。
制御装置100として、シーケンサやコンピュータを用いることができる。
【0043】
次に、軸力試験装置30について説明する。
飛行中、航空機の胴体構造には、曲げが加えられることで張力が作用する。
軸力試験装置30は、かかる曲げを模擬した引張方向の軸力を供試体10に印加する。
軸力試験装置30は、
図1に示すように、供試体10を四方から取り囲む平面視矩形状の枠体31と、枠体31に設けられる油圧式の荷重印加装置32とを備える。
枠体31、荷重印加装置32、および供試体10は互いに剛結合されている。
【0044】
枠体31内の一端側には供試体10が配置され、枠体31内の他端側には荷重印加装置32が配置される。
枠体31は、図示しないスタンドにより床に設置される。
【0045】
枠体31は、供試体10の軸線方向に沿って延びる一対のビーム311,311と、ビーム311,311の一端同士を連結するエンド312と、ビーム311,311の他端同士を連結するエンド313とを備える。
ビーム311,311は、内圧試験装置20の下部枠体211(
図2)上に接合されている。
エンド312には、供試体10の一端側でスキン11に設けられた複数のワイヤ33が設けられる。
複数のワイヤ33は、供試体10の軸線に沿って互いに平行に配置される。
エンド313には、荷重印加装置32が設けられる。
【0046】
荷重印加装置32は、油圧により、供試体10をエンド313に向けて引っ張る。荷重印加装置32の内部には、冷却用の水が導入される。
上述の制御装置100は、軸力負荷、除荷を指示する制御信号を荷重印加装置32に送る。
【0047】
荷重印加装置32は、エンド313の中央に、供試体10の軸線に沿って設けられる。荷重印加装置32の先端には、治具35および複数のワイヤ34を介して供試体10が結合される。
複数のワイヤ34は、供試体10のスキン11と治具35とを連結しており、供試体10の軸線に沿って互いに平行に配置される。
ワイヤ34、および上記のワイヤ33は、長さの調整などによって張力が適切に設定されることが好ましい。
【0048】
治具35は、荷重印加装置32により印加される軸力を供試体10の周方向に均一に伝えるために、荷重印加装置32の先端に結合される側からスキン11に結合される側に向けて次第に拡がっている。
荷重印加装置32として、公知の油圧式疲労試験機を用いることができる。
【0049】
次に、
図6および
図7を参照し、複合負荷試験装置1を用いて内圧および軸力を負荷する疲労試験を行う場合について説明する。
まず、
図7に示すように、圧力容器22にシール部材24を配置し、その上から、供試体10を下方に向けて凸となるように配置する。すると、供試体10の外側(外表面10A)が圧力容器22に対向し、供試体10の内側が露出する。
【0050】
本実施形態では、
図6に示すように、キャビティ23内の減圧および除圧(大気圧開放)、軸力の負荷および除荷を含むサイクルを通じて減圧ポンプ26を連続して作動させる。
サイクルを開始する際には、減圧バルブ41Vを閉じた状態で減圧ポンプ26を作動させることにより、リザーバタンク27内が十分に減圧されているとする。
そして、サイクルの開始時に、制御装置100により減圧バルブ41Vを開く。すると、リザーバタンク27内の圧力によりキャビティ23内が急速に減圧される。
ここで、リザーバタンク27内の圧力検出値が所定の値にまで達したら減圧バルブ41Vを開くこともできるし、減圧ポンプ26の作動開始時から事前の実験により定めた時間が経過したら減圧バルブ41Vを開くこともできる。
【0051】
制御装置100は、キャビティ23内の圧力が規定の負圧にまで達していることが確認されるまでキャビティ23内の圧力検出値を監視する。
上述のようにキャビティ23の容積が小さいので、リザーバタンク27によりキャビティ23内の圧力を規定値にまで一気に到達させることができる。
もし、リザーバタンク27による吸引後にキャビティ23内の圧力が規定の負圧にまで達していなくても、その後も、減圧ポンプ26によりリザーバタンク27を介してキャビティ23内が吸引されるのでで、キャビティ23内の圧力はすぐに規定値に達する。
サイクルの開始時から規定の負圧への減圧が完了するまでは(内圧印加ステップS1)、例えば数秒程度のごく短時間で行われる。
【0052】
キャビティ23内が減圧されると、供試体10の外側の圧力(飛行中の外気圧に相当)が内側の圧力(飛行中の機内与圧に相当)に対して小さくなる。これは、飛行中の航空機の胴体の内外に生じる圧力差と同様である。そのため、本実施形態によれば、実機の環境と同様の試験が可能である。
キャビティ23内の圧力は、大気圧に対して負圧であり、供試体10には、
図7に白抜きの矢印で示すように、径方向内側から外側に向けて圧力(内圧)が発生する。ここで、供試体10において内圧が印加される領域の全体に亘りフレーム12およびストリンガ13が設けられているので、印加された内圧によって供試体10の周縁部でスキン11が局所的に面外方向に変形するようなことがない。そのため、供試体10に対して周方向に均一な応力を生じさせることができる。
【0053】
供試体10は、ロッド25により供試体10の周方向に拘束される。ロッド25には、
図7に太い実線の矢印で示す反力が作用する。このときロッド25が上端を支点として回転可能であるため、供試体10に面外方向の曲げ応力が発生し難い。そのため、キャビティ23に臨む供試体10の領域全体に亘り、円筒状の供試体(バレル)を用いた場合と同様の応力分布を再現することができる。
供試体10に印加された内圧により、供試体10と圧力容器22とにシール部材24が押し付けられて密着する。シール部材24が座屈しないように、シール部材24の内部の圧力を調整することができる。
【0054】
制御装置100は、上記で述べた内圧印加と並行して、あるいは規定の負圧にまで減圧された後、軸力を負荷する。本実施形態では、試験時間を短縮するために、内圧印加と軸力負荷とを同時に行う。軸力負荷は、荷重印加装置32に指令を出すことにより即座に(例えば数秒以内)実行される。軸力と上述の内圧とは、供試体10に対して同時に、重畳して印加される。
なお、内圧印加と軸力負荷とを順次行うこともできる。内圧印加および軸力負荷のいずれを先に行ってもよい。
【0055】
圧力および負荷を所定時間だけ保持した後、制御装置100は、軸力を除荷し、開放バルブ42Vを開いて除圧する(除圧ステップS2)。それぞれのタイミングは、適宜に定めることができる。
開放経路42を通じてエアが抜けることでキャビティ23内の圧力が大気圧あるいはその近傍の圧力にまで下がると、試験の1サイクルを終える。
引き続き、あるいは所定の時間間隔をおいて、制御装置100により上述のサイクルが繰り返される。繰り返し数は、航空機の耐用年数、想定されるフライト数から算出することができ、例えば、数十万回である。
【0056】
上述のサイクルが繰り返される間、供試体10におけるクラックの発生、進展の状況を観察する。
ここで、供試体10の内側が圧力容器22の外部に露出しているので、カメラを用いることなく目視により、スキン11の内側の面(裏面)、フレーム12、およびストリンガ13に生じうるクラックの観察を行うことができる。
また、供試体10の外側(スキン11の表面)に対向する窓を圧力容器22に設けることにより、その窓を通じて供試体10の外側を観察することが可能となる。供試体10が圧力容器22側に凸となる向きで配置されており、しかも、圧力容器22の窓から供試体10の外表面10Aまでが近いので、供試体10の外側も良く観察することができる。
【0057】
供試体10において疲労強度の評価対象となる評価部位は、例えば、供試体10の中央部を含む所定の範囲に設定される。この評価部位を観察することにより、疲労強度を評価することができる。
供試体10の略全域に亘り、飛行中に胴体構造に生じる応力に相当する所望の応力分布が実現されるので、供試体10の広い範囲に亘って評価部位を設定することができる。
【0058】
静強度、損傷許容性の試験についても、以上で説明した内圧印加および軸力負荷の手順と同様にして行うことができる。
【0059】
以上で説明したように、本実施形態では、キャビティ23内を減圧させる。減圧させることができるのは、原理的に、最大1atmである。したがって、供試体10がバーストするほどの圧力がキャビティ23内に生じないので、安全に試験を行うことができる。
【0060】
また、圧力容器22の外部に供試体10の内側が露出しているので、供試体10の内側に発生したクラックの進展を目視で容易に観察することができる。
さらに、キャビティ23の容積を小さくする上で障害物となるフレーム12やストリンガ13がキャビティ23内にないので、供試体10の外表面10Aと圧力容器22の内壁とを近づけてキャビティ23の容積を極力小さくすることができる。そうすると、内圧印加に要する時間を短縮することができるので、疲労試験を短期間で終えることができる。
【0061】
その上、キャビティ23内を減圧すると、供試体10と圧力容器22との間の間隔を狭める向きに力が働くので、シール部材24が供試体10および圧力容器22に押し付けられる。そのため、キャビティ23内を確実に封止することができる。
【0062】
またさらに、平滑な供試体10の外側にシール部材24が配置されるため、シール部材を設ける位置がフレーム12やストリンガ13との干渉によって制約されない。シール部材24を設置するためにフレーム12やストリンガ13を欠損させる必要はなく、供試体10において内圧が印加される領域の全体にフレーム12やストリンガ13を設けることができる。そうすると、スキン11の周縁部が面外方向に膨らむことなく、供試体10に所望の応力を生じさせることができる。
【0063】
加圧方式では、供試体10の端部を強力に掴んで圧力容器22に押し付ける、剛性の高い大型の治具(
図10の治具99)が必要となるが、本実施形態ではそういった治具を必要としない。用いる結合具28,29は、供試体10とロッド25とを確実に結合させる剛性を有していればよい。
大型の治具を用いると、治具とシール部材24とが干渉するために、供試体10の周縁部から離れた位置でシールせざるを得ない。そうすると、供試体10における受圧領域が減少し、評価部位も狭くなってしまう。
本実施形態によれば、治具によってシール部材24が供試体10の中央部に向けて追いやられることなく、供試体10の周縁部の付近でシールすることができる。そして、シール部材24の直上にフレーム12およびストリンガ13が存在するために、供試体10に面外曲げ応力を極力生じさせないで所望の応力分布を実現することができる。
したがって、疲労強度、静強度、損傷許容性を精度良く評価することができる。
【0064】
さらに、本実施形態によれば、加圧方式で用いるコンプレッサよりも減圧ポンプ(真空ポンプ)26は安価であるため装置コストを低減することができる。
【0065】
以上に加えて、本実施形態では、リザーバタンク27を用いることでサイクルタイムの短縮、および装置コストの低減を図っている。
上述したように、キャビティ23内を減圧しない間も減圧ポンプ26を連続して作動させており、キャビティ23内を減圧させていない余剰の時間において、リザーバタンク27に負圧を蓄えている。
そうしておいて減圧バルブ41Vを開くと、リザーバタンク27が大きな吸引能力を発揮し、キャビティ23内をより短時間で規定の圧力にまで減圧させることができる。そのため、サイクルタイムを短縮することができる。
あるいは、吸引能力がさほど大きくない減圧ポンプ26を用いることでコストを抑えながら、キャビティ23内を所定時間内に規定圧力にまで吸引するのに足りる吸引能力を確保することができる。
【0066】
リザーバタンク27を用いる上記の制御は、減圧ポンプ26の能力と、試験サイクルとに見合ったリザーバタンク27の容量を選定することによって十分な効果を得ることができる。減圧ポンプ26の能力に対してリザーバタンク27の容量が小さいと、減圧ポンプ26による吸引により、減圧可能な圧力域(真空域)にすぐに到達してしまうので、それ以降は、減圧ポンプ26を稼働させても、リザーバタンク27内に負圧を蓄えることができない。一方、減圧ポンプ26の能力に対してリザーバタンク27の容量が大き過ぎると、キャビティ23内を減圧させていない余剰の時間のうちにリザーバタンク27内を十分に減圧させることができないので、余剰時間に減圧ポンプ26を稼働させる意義が損なわれる。
【0067】
また、加圧方式とは違ってロッド25が圧力容器22を貫通していないので、圧力容器22の構造が簡略となる。しかも、ロッド25と結合された供試体10を圧力容器22にセットする際の工数を低減することもできる。
さらに、複合負荷試験装置1は、力の系や電気系統が内部で完結しているスタンドアロンタイプなので、電源、水道を備えた場所に設置するだけで利用することができる。
【0068】
内圧試験装置20は、本実施形態では軸力試験装置30と一体化されているが、単体の装置として構成することもできる。
【0069】
図8は、上記実施形態の内圧試験装置20の改良例を示す。
ロッド25において上部枠体212に支持される側は、上部枠体212に設けられる図示しない昇降機構により、
図8に白抜き矢印で示すように上下方向に沿って変位可能である。
内圧印加時、ロッド25に拘束されていることで供試体10に小さいながら生じる面外方向への曲げ応力が、ロッド25の上または下への変位によって解消される。
それにより、バレルに内圧を印加する場合と同様の応力分布を再現することができる。
【0070】
図9は、キャビティ23を封止するシール部材の改良例を示す。
シール部材240は、圧力容器22のシール部22B(
図3)に配置される帯板状の固定部241と、固定部241上に設けられた筒状部242とを有する。シール部材240は、Ωの文字に似た断面形状を呈する。固定部241および筒状部242は押出成形により一体に形成することができる。
固定部241を圧力容器22のシール部22Bに沿って配置すると、シール部材240は圧力容器22に対して位置決めされる。
筒状部242の上端は、供試体10の外表面10Aの周縁部に接触する。固定部241と筒状部242との間は括れているので、筒状部242は固定部241に対して搖動可能である。
筒状部242の内側には、所定の圧力でエアが封入される。
【0071】
内圧印加時に、キャビティ23内の圧力の状況により、圧力容器22と供試体10とが相対変位しうる。その場合に、シール部材240の長さ方向に交差する向きに筒状部242が揺動し、供試体10の外表面10Aに密着した状態を保つ。したがって、キャビティ23内を封止された状態に維持できる。
【0072】
上記以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
本発明における拘束部材としては、上記実施形態で例示したロッドの他、ワイヤやベルト等を用いることができる。また、拘束部材として、ガラス繊維や炭素繊維により形成されたロープを用いることもできる。繊維のロープは、繊維強化樹脂から形成されたスキンに熱硬化性あるいは熱可塑性の樹脂を用いて接着することができる。供試体の端縁に密に設けた繊維ロープによって供試体を拘束すれば、拘束力が分散されるので、繊維強化樹脂から形成された供試体を破損させることなく拘束することができる。
【0073】
本発明におけるシール部材には、中空部が形成されていてもいなくてもよい。中空部があっても、必ずしも気体を封入する必要はない。
【0074】
供試体は、円筒状の胴体の部位に対応するものに限らず、例えば、機内の与圧区画を他の区画に対して隔てる圧力隔壁に対応するものであってもよい。
その場合、ドーム状に形成される供試体の形状に、圧力容器22の形状を対応させる。そして、供試体の中心に対して等しい角度に複数のロッドを設けることにより、全周に亘りバランスよく供試体を拘束することができる。