特許第6277060号(P6277060)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社小野測器の特許一覧

<>
  • 特許6277060-スロットル制御装置 図000003
  • 特許6277060-スロットル制御装置 図000004
  • 特許6277060-スロットル制御装置 図000005
  • 特許6277060-スロットル制御装置 図000006
  • 特許6277060-スロットル制御装置 図000007
  • 特許6277060-スロットル制御装置 図000008
  • 特許6277060-スロットル制御装置 図000009
  • 特許6277060-スロットル制御装置 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6277060
(24)【登録日】2018年1月19日
(45)【発行日】2018年2月7日
(54)【発明の名称】スロットル制御装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 15/00 20060101AFI20180129BHJP
   F02D 11/10 20060101ALI20180129BHJP
   F02D 29/02 20060101ALI20180129BHJP
   G01M 15/02 20060101ALI20180129BHJP
【FI】
   G01M15/00
   F02D11/10 E
   F02D29/02 E
   G01M15/02
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-103350(P2014-103350)
(22)【出願日】2014年5月19日
(65)【公開番号】特開2015-219139(P2015-219139A)
(43)【公開日】2015年12月7日
【審査請求日】2017年2月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000145806
【氏名又は名称】株式会社小野測器
(74)【代理人】
【識別番号】100094330
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 正紀
(74)【代理人】
【識別番号】100109689
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 結
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 宏治
(72)【発明者】
【氏名】前岨 康祐
(72)【発明者】
【氏名】北脇 潤
【審査官】 北川 創
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−132961(JP,A)
【文献】 特開平10−082719(JP,A)
【文献】 特開2009−227186(JP,A)
【文献】 特開2002−206991(JP,A)
【文献】 特開2007−163306(JP,A)
【文献】 特開2003−294584(JP,A)
【文献】 特開2008−298793(JP,A)
【文献】 米国特許第04680959(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 15/00 − 15/14
G01M 17/00 − 17/10
F02D 9/00 − 11/10
F02D 29/00 − 29/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンが動力伝達部を介して連結されるダイナモを備え、該ダイナモに連結されたエンジンのスロットル開度を調整しながら自動車の走行特性をシミュレートする装置における、スロットル開度の制御値を求めるスロットル制御装置において、
時間的に変化する前記ダイナモの回転速度指令値と、トルク指令値および加速度指令値のうちの一方であるトルク相当指令値と、車速指令値とを与える指令部と、
前記ダイナモの回転速度を計測して時間的に変化する回転速度計測値を生成する計測部と、
前記指令部から与えられた前記回転速度指令値と前記計測部での計測により得られた前記回転速度計測値とに基づいて、該回転速度計測値が該回転速度指令値に近づくようにスロットル開度の補正値を求める第1のコントローラと、
前記指令部から与えられた前記トルク相当指令値をスロットル開度の指令値に変換する変換部を有する第2のコントローラと、
前記第2のコントローラで得られたスロットル開度の指令値を前記第1のコントローラで得られたスロットル開度の補正値で補正してスロットル開度の制御値を算出する算出部とを備え、
前記第2のコントローラが、前記指令部から与えられた前記トルク相当指令値および車速指令値と、前記算出部で算出されたスロットル開度の制御値とに基づいて、該トルク相当指令値から前記スロットル開度の指令値への変換係数を求めるチューニング部を有し、
前記変換部が、前記指令部から与えられる前記トルク相当指令値を前記チューニング部で求められた変換係数に従って前記スロットル開度の指令値に変換するものであることを特徴とするスロットル制御装置。
【請求項2】
前記チューニング部は、前記変換係数を、前記トルク相当指令値と前記車速指令値とを変数とする2次元平面内を2次元的に複数の領域に分けたときの各領域ごとに求めるものであって、
前記変換部は、前記指令部から与えられる前記トルク相当指令値を、該トルク相当指令値を含むとともに前記指令部から与えられる前記車速指令値を含む領域に応じた変換係数に従って前記スロットル開度の指令値に変換するものであることを特徴とする請求項1記載のスロットル制御装置。
【請求項3】
前記チューニング部は、前記変換係数を、前記スロットル開度の制御値と前記トルク指令値との比の時間平均として求めるものであることを特徴とする請求項1又は2記載のスロットル制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の走行特性をシミュレートする装置における、スロットル開度制御値を求めるスロットル制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
交通手段の発達した現代社会では、自動車はモノの運搬や人間の移動の手段として大きな役割を果たしている。自動車は、エンジンなど推進力を発生させる装置を搭載しており、こうした装置が開発された際には、その走行特性の試験が行われることが多い。このような走行特性の試験では、走行特性の試験が行われる前にNTマップなどの自動車の特性を表すグラフを作成し、このグラフを用いて、エンジンの回転速度の計測値と、指定されたパターンとして与えられたトルクの指令値とから、スロットル開度の指令値を決定することが行われる。そして、指定されたパターンとして与えられた車速の指令値と計測された車速とが等しくなるようにスロットル開度の補正値を算出し、このスロットル開度の補正値を用いてスロットル開度の指令値を補正することによってスロットル開度の制御値が決定される(例えば特許文献1参照)。このような過程を経ることにより、運転時の車速が、指定されたパターンとして与えられた車速に追従した試験を行うことができる。
【0003】
しかしながら、走行特性の試験を行うために試験前にあらかじめNTマップを作成しなければならないのは手間がかかり効率が悪い。さらに、ハイブリッド自動車や燃料電池自動車のように、エンジンの回転速度と車速との相関が小さい自動車では、このようなNTマップを用いてスロットル開度の制御値を決定することは困難である。
【0004】
この問題を解決するため、トルク指令値をスロットル開度の指令値に変換するための変換係数を求め、NTマップに代わり、トルク指令値をその変換係数に応じてスロットル開度の指令値に変換するコントローラを使用することが提案されている(特許文献2参照)。
【0005】
このAGコントローラを採用すると、NTマップのような複雑なマップをあらかじめ作成するという作業が不要となり、作業効率の良いスロットル制御装置が構築される。
【0006】
しかしながら、この特許文献2にて提案されているAGコントローラでは要求される精度を十分に満足しているとは言い難く、自動車の走行特性をさらに高精度にシミュレートすることが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−294584号公報
【特許文献2】特開2006−132961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑み、走行特性の試験を行なうための作業の効率化を図りつつ、自動車の走行特性のさらに高精度なシミュレートを行なうことのできるスロットル制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する本発明のスロットル制御装置は、エンジンが動力伝達部を介して連結されるダイナモを備え、ダイナモに連結されたエンジンのスロットル開度を調整しながら自動車の走行特性をシミュレートする装置における、スロットル開度の制御値を求めるスロットル制御装置において、
時間的に変化するダイナモの回転速度指令値と、トルク指令値および加速度指令値のうちの一方であるトルク相当指令値と、車速指令値とを与える指令部と、
ダイナモの回転速度を計測して時間的に変化する回転速度計測値を生成する計測部と、
指令部から与えられた回転速度指令値と計測部での計測により得られた回転速度計測値とに基づいて、回転速度計測値が回転速度指令値に近づくようにスロットル開度の補正値を求める第1のコントローラと、
指令部から与えられた上記トルク相当指令値をスロットル開度の指令値に変換する変換部を有する第2のコントローラと、
第2のコントローラで得られたスロットル開度の指令値を第1のコントローラで得られたスロットル開度の補正値で補正してスロットル開度の制御値を算出する算出部とを備え、
上記第2のコントローラが、指令部から与えられた上記トルク相当指令値および車速指令値と、算出部で算出されたスロットル開度の制御値とに基づいて、上記トルク相当指令値からスロットル開度の指令値への変換係数を求めるチューニング部を有し、
上記変換部が、指令部から与えられる上記トルク相当指令値をチューニング部で求められた変換係数に従ってスロットル開度の指令値に変換するものであることを特徴とする。
【0010】
自動車の走行特性上、例えば、速度ゼロからある加速度を持って速度を上昇させていく場合と、ある速度で走行している状態から同じ加速度を持って速度をさらに上昇させていく場合とでは、同じ加速度を得るためであっても必要なトルクは異なっている。上掲の特許文献2で提案されているコントローラは、この点が考慮されておらず、その分、求められるスロットル開度の指令値の精度に限界がある。
【0011】
特許文献2に開示されているスロットル制御装置も、本発明における上記の第1のコントローラに相当するフィードバック制御によりスロットル開度の補正値を求めるPIDコントローラを備えている。このため、スロットル開度の指令値の精度が十分ではなかったとしても、その補正値により精度向上が期待される。
【0012】
しかしながら、フィードバック制御は時間遅れを伴い、急激な変化には追随しきれず、結局、精度が十分ではない場面が表面化することになる。
【0013】
本発明のスロットル制御装置は、トルク指令値(または加速度指令値)からスロットル開度の指令値への変換係数を、トルク指令値(または加速度指令値)のみでなく、さらに車速指令値にも基づいて求めているため、上記のような自動車の走行特性も考慮された走行性能の高精度なシミュレートを行なうことができる。また、本発明においてもNTマップを作成する作業は不要であり、自動車の走行性能の効率的な試験を行なうことができる。
【0014】
ここで、本発明のスロットル制御装置において、
上記チューニング部が、上記変換係数を、上記トルク相当指令値と車速指令値とを変数とする2次元平面内を2次元的に複数の領域に分けたときの各領域ごとに求めるものであって、
上記変換部は、指令部から与えられる上記トルク相当指令値を、そのトルク相当指令値を含むとともに指令部から与えられる車速指令値を含む領域に応じた変換係数に従ってスロットル開度の指令値に変換するものであることが好ましい。

【0015】
このようにトルク指令値(または加速度指令値)と車速指令値との双方に基づいて区分けされた領域に応じて変換係数を決定する制御方法を用いることによって、トルク指令値(または加速度指令値)と車速指令値との双方の各値ごとに変換係数を決定する制御方法よりも、変換係数を決定する作業を簡略化することができる。
【0016】
また、本発明のスロットル制御装置において、上記チューニング部は、上記変換係数を、上記スロットル開度の制御値と上記トルク相当指令値との比の時間平均として求めるものであってもよい。
【0017】
このように、スロットル開度の制御値とトルク指令値(または加速度指令値)との比の時間平均として変換係数を求める制御方法を用いることによって、スロットル開度の制御値とトルク指令値(または加速度指令値)それぞれの、時間ごとの値を用いて変換係数を決定する制御方法よりも、変換係数を決定する作業を簡略化することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のスロットル制御装置によれば、走行特性の試験を行なうための作業の効率化を図りつつ、自動車の走行特性のさらに高精度なシミュレートを行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】自動車の走行特性をシミュレートする装置の概略構成図である。
図2】第1比較例のスロットル制御装置を表すブロック図である。
図3】第2比較例のスロットル制御装置を表すブロック図である。
図4図3に示したAGコントローラの構成を表す概略図である。
図5】本発明の一実施形態としてのスロットル制御装置を表わすブロック図である。
図6図5に示したAGコントローラの構成を示す概略図である。
図7図6に示すAGコントローラのチューニング部で算出される第1段階の制御ゲインの概念図である。
図8】スロットル制御装置による計測値と指令値との関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下では、本発明のスロットル制御装置の実施形態を説明する前に、本発明に対する比較例として、従来用いられてきた、NTマップを採用したスロットル制御装置(第1比較例)、および前掲の特許文献2にて提案されたスロットル制御装置(第2比較例)について説明する。
【0021】
図1は、自動車の走行特性をシミュレートする装置の概略構成図である。
【0022】
この図1に示す、自動車の走行特性をシミュレートする装置100には、エンジン101が動力伝達部104によって連結されるダイナモ102が備えられており、エンジン101の回転とともにダイナモ102も回転する。このダイナモ102の回転速度、すなわちエンジン101の回転速度に基づき、スロットル制御装置1がスロットル開度の制御値を決定する。このスロットル制御装置1には、後述の指令マップが備えられており、この指令マップから与えられたダイナモの回転速度の指令値およびトルク指令値と、実際の運転時におけるダイナモの回転速度の計測値およびトルク計測値とに基づき、ダイナモ制御装置103がダイナモ102を駆動するのに必要なダイナモ電流を算出する。以上が、自動車の走行特性をシミュレートする装置の説明である。次に、スロットル制御装置1の構成について説明する。
【0023】
図2は、第1比較例のスロットル制御装置を表わすブロック図である。この図2に示したスロットル制御装置1Aは、図1に1つのブロックで示したスロットル制御装置1に相当するが、ここでは第1比較例であることを表わすために、スロットル制御装置1Aと表記している。
【0024】
従来用いられてきたスロットル制御装置1Aには、ダイナモの回転速度を計測する計測部11が備えられており、この計測部11で計測されたダイナモの回転速度の計測値がPIDコントローラ12に入力される。また、このPIDコントローラ12には、指令マップ13から、時間的に変化するダイナモの回転速度の指令値も入力され、PIDコントローラ12は、計測部11で計測されたダイナモの回転速度の計測値が、指令マップ13から入力されたダイナモの回転速度の指令値に近づくように、スロットル開度の補正値を算出する。
【0025】
この図2に示すスロットル制御装置1Aには、PIDコントローラ12に加えて、NTマップ16が備えられている。このNTマップ16は、指令マップ13から時間的に変化するトルク指令値が入力され、さらに計測部11からダイナモの回転速度の計測値が入力されると、試験対象の自動車の走行特性のシミュレーションが行われる前にあらかじめ調べておいた自動車の特性データに基づき、適切なスロットル開度の指令値を出力する。そしてこのスロットル開度の指令値と、PIDコントローラ12によって算出されたスロットル開度の補正値とに基づき、算出部15によってスロットル開度の制御値が決定され、その制御値が運転に用いられる。このような過程によって、ダイナモの回転速度が、与えられたダイナモの回転速度の指令値に追従していくようになる。
【0026】
以上が、本発明に対する第1比較例としての、NTマップを用いたスロットル制御装置についての説明である。次に、前掲の特許文献2にて提案された第2比較例のスロットル制御装置について説明する。
【0027】
第2比較例のスロットル制御装置も、第1比較例のスロットル制御装置1Aと同様に、図1に示す、自動車の走行特性をシミュレートする装置に備えられている。
【0028】
図3は、第2比較例のスロットル制御装置を表すブロック図である。
【0029】
この図3に示したスロットル制御装置1Bも、図2に示したスロットル制御装置1Aと同様、図1に1つのブロックで示したスロットル制御装置1に相当するが、ここでは第2比較例であることを表わすために、スロットル制御装置1Bと表記している。
【0030】
図3に示す、第2比較例のスロットル制御装置1Bを表すブロック図において、図2にブロック図を示した第1比較例のスロットル制御装置1Aの、図面上の構成要素と同一の構成要素には同一の符号を付して示し、同一の構成要素についての重複説明は省略する。図3において、図2に示したブロック図と異なる点は、図3では、図2に示すNTマップ16の代わりにオートゲインコントローラ(以下ではAGコントローラと略す)14が備えられている点である。このAGコントローラ14では、図2に示すNTマップ16で用いられていたダイナモの回転速度の計測値は用いずに、運転時のスロットル開度の制御値に基づいて、スロットル開度の指令値が算出される。このAGコントローラ14は、指令マップ13から時間的に変化するトルク指令値が入力されると、後述する構成により、スロットル開度の制御値を参照しながらスロットル開度の指令値を算出する。以下、このAGコントローラ14の構成について説明する。
【0031】
図4は、図3に示したAGコントローラの構成を表す概略図である。
【0032】
AGコントローラ14は、トルク指令値に制御ゲインを乗じることによってスロットル開度の指令値を算出する変換部14aと、トルク指令値とスロットル開度の制御値を参照しながら制御ゲインを決定するチューニング部14bとを有している。このチューニング部14bが、変換部14aにおいて用いられる制御ゲインを、常時書きかえていくことにより、スロットル開度の指令値の制御が行われる。
【0033】
このように、第2比較例のスロットル制御装置1Bは、自動車の走行特性をシミュレートしている最中に、シミュレートされる自動車の走行特性である、トルク指令値とスロットル開度の指令値との関係を学習することができる。このため、第1比較例のスロットル制御装置のように自動車の走行特性をシミュレートする前にあらかじめNTマップを作成する手間を省くことができ、効率がよい。さらにこの第2比較例のスロットル制御装置1Bは、スロットル開度の指令値を決定する際に、トルク指令値とスロットル開度の制御値とを用いていてエンジンの回転速度の計測値を用いる必要がないので、ハイブリッド自動車や燃料電池自動車のように、エンジンの回転速度と車速との相関が小さい自動車の走行特性をシミュレートする場合にも用いることができる。
【0034】
前述の通り、自動車を、例えば速度ゼロからある加速度を持って速度を上昇させていく場合と、ある速度で走行している状態から同じ加速度を持って速度をさらに上昇させていく場合とでは、同じ加速度を得るためであっても必要とするトルクは異なっている。それにも拘らず、この第2比較例のスロットル制御装置1Bの場合、AGコントローラ14のチューニング部14b(図4参照)では、制御ゲインを求めるにあたり、自動車の速度については考慮されておらず、必ずしも十分な精度であるとは言えない。
【0035】
以上の第1比較例および第2比較例の説明を踏まえ、次に、本発明の実施形態について説明する。
【0036】
図5は本発明の一実施形態としてのスロットル制御装置を表わすブロック図である。
【0037】
この図5に示す本発明の一実施形態としてのスロットル制御装置1Cも、第1比較例および第2比較例のスロットル制御装置1A,1Bと同様に、図1に示す自動車の走行特性をシミュレートする装置に備えられている。この図5に示したスロットル制御装置1Cも、上述の第1比較例および第2比較例のスロットル制御装置1A,1B(図2図3参照)と同様、図1に1つのブロックで示したスロットル制御装置1に相当するが、ここでは本発明の一実施形態であることを表すために、スロットル制御装置1Cと表記している。
【0038】
図5に示すスロットル制御装置1Cにおいて、図3に示した第2比較例のスロットル制御装置1Bの図面上の構成要素と同一の構成要素には同一の符号を付して示し、同一の構成要素についての重複説明は省略する。
【0039】
図5において、図3に示した第2比較例との相違点は、図3に示す指令マップ13およびAGコントローラ14に代えて、それぞれ指令マップ18およびAGコントローラ17を備えている点である。
【0040】
図3に示す指令マップ13はダイナモの回転速度の指令値とトルク指令値とを与える指令マップである。これに対し、図5に示す指令マップ18は、それらダイナモの回転速度の指令値とトルク指令値とに加え、車速指令値を与える指令マップである。ここでトルクは加速度に関連しており、この指令マップ18は、トルク指令値に代えて加速度指令値を与えるものであってもよい。ただし、本実施形態の説明においては、一例としてトルク指令値を用いることとする。
【0041】
図5に示すAGコントローラ17は、トルク指令値が入力されると、スロットル開度の指令値を算出して出力する。この点では、図3に示すAGコントローラ14と同じである。ただし、図3に示すAGコントローラ14は、トルク指令値とスロットル開度の制御値とに基づいて、制御ゲインが算出されているが、図5に示すAGコントローラ17は、制御ゲインを算出するにあたり、さらに車速指令値も参照している。
【0042】
図6は、図5に示したAGコントローラの構成を示す概略図である。この図6に示すAGコントローラ17は、変換部17aとチューニング部17bとを有する。
【0043】
変換部17aは、図4に示すAGコントローラ14における変換部14aと同じ構成であり、指令マップ18から与えられたトルク指令値に制御ゲインを乗じることによってスロットル開度の指令値を算出する。この変換部17aで用いられる制御ゲインは、本発明にいう変換係数の一例に相当する。
【0044】
チューニング17bは、トルク指令値とスロットル開度の制御値、さらに車速指令値を参照しながら、この変換係数としての制御ゲインを決定する。このチューニング17bは、変換部17aにおいて用いられる制御ゲインを常時書き換えていく。
【0045】
試験開始時は、ダイナモの回転速度をダイナモの回転速度の指令値に追従させるために、PIDコントローラ12によって算出されるスロットル開度の補正値が大きいが、チューニング部17bが制御ゲインを更新していくことによってこの補正値は小さくなっていく。この制御ゲインは、更新に伴い一定値に収束していくが、収束するまでの時間は短時間であり、収束後は更新を行わずに収束後の固定された制御ゲインを用いてもよい。
【0046】
本実施形態では、以下に説明するように、制御ゲインは2段階の算出過程を経て算出される。
【0047】
図7は、図6に示すAGコントローラのチューニング部で算出される第1段階の制御ゲインの概念図である。ここでも、トルク指令値または加速度指令値のうち、一例としてトルク指令値を用いて説明することとする。
【0048】
ここでは、トルク指令値(横軸)と車速指令値(縦軸)とを変数とする2次元平面内を2次元的に複数の領域に分けたときの各領域ごとに制御ゲインが算出される。ここでは一例として、車速指令値については、0〜5(km/h)、5〜15(km/h)、15〜25(km/h)、25〜40(km/h)、40〜70(km/h)、70(km/h)以上の6つの範囲に区分けされている。これらの車速指令値の各領域を、ここでは、SP〜SPと表記する。また、トルク指令値については、一例として、0〜50(Nm)、50〜150(Nm)、150〜250(Nm)、250〜350(Nm)、350〜450(Nm)、450〜550(Nm)550〜650(Nm)の7つの領域に区分けされている。ここでは、これらのトルク指令値の各領域を、TQ〜TQと表記する。そして、第1段階として、車速指令値の各範囲SP(i=1〜6)とトルク指令値の各範囲TQ(j=1〜7)との各組合せ(2次元的な各領域)ごとに制御ゲインAGの各代表値を決定する。すなわち、ここでは、車速指令値の各領域SP(i=1〜6)のそれぞれについて、指令トルクが0(Nm)、100(Nm)、200(Nm)、300(Nm)、400(Nm)、500(Nm)、600(Nm)のそれぞれの制御ゲインAGi,0、AGi,100、AGi,200、AGi,300、AGi,400、AGi,500、AGi,600を各代表値として算出する。チューニング部17bでは、これらの代表値を、スロットル開度の制御値を参照しながら順次更新していく。これらの代表値は、車速指令値(SP_REF)が各領域SP(i=1〜6)内にあり、かつトルク指令値(TQ_REF)が各領域TQ(j=1〜7)内にある各総時間Tにおける、スロットル開度の制御値(TH_FB)をトルク指令値(TQ_REF)で割り算した値の時間平均値として算出される。式で表すと、制御ゲインAGについては、
【0049】
【数1】
として算出される。
【0050】
この式(1)において、Tは、車速指令値(SP_REF)が領域SP内にあり、およびトルク指令値(TQ_REF)が領域TQ内にあった過去の総時間、
TH_FBは、領域SP内および領域TQ内にあったときのスロットル開度の制御値、
TQ_REFは、領域SP内および領域TQ内にあったときのトルク制御値
である。代表値としての他の制御ゲインAG100〜AG600についても同様である。
【0051】
図7に示すチューニング部17bでは、スロットル開度の制御値TH_FBを参照しながら、代表値としての制御ゲインAG〜AG600を順次更新していく。そしてさらに以下の第2段階の演算により制御ゲインAGを繰り返し算出して、その繰り返し算出した制御ゲインAGを変換部17aに与える。変換部17aは、チューニング部17bから与えられた制御ゲインAGに従って、スロットル開度の指令値を順次更新していく。
【0052】
チューニング部17bでは、上記のようにして算出した、各領域SP(i=1〜6)および各領域TQ(j=1〜7の双方に対応する各代表値としての制御ゲインをAGij(i=1〜6,j=1〜7)と表記したときに、これらをトルク指令値(TQ_REF)を変数として直線で結んで得られるグラフによって、変換部17aに与える制御ゲインを算出する。
【0053】
ここでは、指令マップ18から現在与えられている車速指令値SP_REFがある1つの領域SP(i=1〜6)内にあるものとする。すなわち、ここではiを固定して考える。このとき指令マップ18から現在与えられているトルク指令値TQ_REFが領域TQ(j=1〜7)のいずれに含まれるかに応じて、
トルク指令値(TQ_REF)が領域TQ内(0〜100(Nm))にあるときは、制御ゲイン(AGC_GAIN)を、
AGC_GAIN=(TQ_REF−0)×(AG100−AG0)/(100−0) + AG0・・・(2)
によって決定し、トルク指令値(TQ_REF)が領域TQ内(100〜200(Nm))にあるときは、制御ゲイン(AGC_GAIN)を、
AGC_GAIN=(TQ_REF−100)×(AG200−AG100)/(200−100) + AG100・・・(3)
によって決定し、トルク指令値(TQ_REF)が領域TQ内(200〜300(Nm))にあるときは、制御ゲイン(AGC_GAIN)を、
AGC_GAIN=(TQ_REF−200)×(AG300−AG200)/(300−200) + AG200・・・(4)
によって決定し、トルク指令値(TQ_REF)が領域TQ内(300〜400(Nm))にあるときは、制御ゲイン(AGC_GAIN)を、
AGC_GAIN=(TQ_REF−300)×(AG400−AG300)/(400−300) + AG300・・・(5)
によって決定し、トルク指令値(TQ_REF)が領域TQ内(400〜500(Nm))にあるときは、制御ゲイン(AGC_GAIN)を
AGC_GAIN=(TQ_REF−400)×(AG500−AG400)/(500−400) + AG400・・・(6)
によって決定し、トルク指令値(TQ_REF)が領域TQ内(500〜600(Nm))にあるときは、制御ゲイン(AGC_GAIN)を、
AGC_GAIN=(TQ_REF−500)×(AG600−AG500)/(600−500) + AG500・・・(7)
によって決定する。
【0054】
トルク指令値(TQ_REF)が範囲TQ内にあるとき、あるいはそれ以上のときも、上記の式(7)を適用して、変換部17aに与える制御ゲインAGC_GAIN(i=1〜6)を決定する。
【0055】
本実施形態では、このようにして制御ゲインAGC_GAINが繰り返し更新されて変換部17aに与えられる。変換部17aではチューニング部17bから繰り返し与えられた制御ゲインAG_GAINに従って、トルク指令値からスロットル開度の指令値への変換を繰り返す。
【0056】
以下では、自動車の走行特性をシミュレートした時に計測されるダイナモの回転速度がダイナモの回転速度の指令値に追従していく様子をグラフを用いて説明する。ここでは、本発明に対する比較例として、同じ指令値に対する、前述の第2比較例のスロットル制御装置による制御結果も合わせて説明する。
【0057】
図8は、スロットル制御装置による計測値と指令値との関係を示した図である。この図8において、実線は上述の実施形態のスロットル制御装置1Cに則した実施例を示しており、点線は、前述の第2比較例を示している。この図8では、ダイナモの回転速度を試験対象の自動車の車速に換算して表示している。
【0058】
図8(A)は、車速計測値[km/h]、図8(B)は、車速指令誤差[km/h]=(車速計測値−車速指令値)、図8(C)は、スロットル開度[%]である。
【0059】
図8(B)を参照すると分かるように、本発明の実施例(実線)の方が車速指令誤差[km/h]が減少している。このことから、本発明の実施例の方が第2比較例よりも制御精度が向上していることが分かる。
【0060】
また、本発明の実施例の方が制御精度が向上したことにより、図8(C)に示すようにスロットル開度[%]のばたつきも低減している。
【0061】
すなわち、本実施形態のスロットル制御装置1Cによれば、図2に示すNTマップを用いた第1比較例のスロットル制御装置1Aと比べNTマップ作成というエンジン試験の前準備を省くことができ、かつ図3に示す第2比較例のスロットル制御装置1Bと比べ、高精度な制御を行なうことができる。
【0062】
尚、ここでは、加速度指令値とトルク指令値とのうちの一例としてトルク指令値を用いて説明したが、本発明では、トルク指令値に代えて加速度指令値を採用してもよい。またトルク指令値と加速度指令値を切り換えて出力するように構成してもよい。
【符号の説明】
【0063】
1,1A,1B,1C スロットル制御装置
11 車速計測部
12 PIDコントローラ
13,18 指令マップ
14,17 AGコントローラ
14a,17a 変換部
14b,17b チューニング部
16 NTマップ
100 装置
101 エンジン
102 ダイナモ
103 ダイナモ制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8