(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
動力が入力または出力される回転軸と、前記回転軸に対して径方向に可動に支持された複数のピニオンスプロケットと、前記複数のピニオンスプロケットを前記回転軸の軸心から等距離を維持させながら径方向に同期させて移動させる移動機構とを有する複合スプロケットを二組と、前記二組の複合スプロケットに巻き掛けられた無端ベルトとを備え、前記複数のピニオンスプロケットの何れをも囲みかつ前記複数のピニオンスプロケットの何れにも接する円の半径である接円の半径に変更によって変速比を変更する変速機構であって、
前記無端ベルトは、
伸び耐性をもち動力を伝達する動力伝達部と、
前記ピニオンスプロケットの歯と噛み合い前記動力伝達部の内周側に結合されて弾性変形可能な噛合部とを有する
ことを特徴とする、変速機構。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の変速機構にかかる実施の形態を説明する。本実施形態の変速機構は、車両用変速機に用いることができる。
なお、本実施形態では、変速機構における回転軸の軸心あるいはこの軸心に平行な方向を軸方向とし、回転軸の軸心を基準に径方向および周方向のそれぞれを定める。また、変速機構における公転方向を基準に進角側および遅角側を定める。
【0016】
〔I.一実施形態〕
以下、一実施形態にかかる変速機構について説明する。
〔1.構成〕
変速機構は、
図1に示すように、二組の複合スプロケット5,5と、これらの複合スプロケット5,5に巻き掛けられた無端ベルト6とを備えている。
【0017】
二組の複合スプロケット5,5のうち、一方は、入力側の回転軸1(入力軸)と同心に一体回転する一組の複合スプロケット5(
図1では左方に示す)であり、他方は、出力側の回転軸1(出力軸)と同心に一体回転する複合スプロケット5(
図1では右方に示す)である。これらの複合スプロケット5,5はそれぞれ同様に構成されているため、下記の説明では、主に入力側の複合スプロケット5に着目し、その構成を説明する。
【0018】
複合スプロケット5とは、複数のピニオンスプロケット20および複数のガイドロッド29が多角形(ここでは十八角形)の頂点をなすようにして形成された見かけ上の大スプロケットを意味する。この複合スプロケット5は、回転軸1と、この回転軸1に対して径方向に可動に支持されたピニオンスプロケット20およびガイドロッド29とを有している。詳細には、回転軸1の軸心C
1を中心にした円周の周方向に沿って等間隔に、三個のピニオンスプロケット20が配置され、また、ピニオンスプロケット20の相互間には、それぞれ五本のガイドロッド29が配置されている。
【0019】
ピニオンスプロケット20およびガイドロッド29が多角形の頂点をなすようにして形成された見かけ上の大スプロケットの外径、即ち、複合スプロケット5の外径を変更(拡縮径)することによって、変速機構の変速比が変更される。この変速機構は、変速比を連続的に変更することができるため、無段変速機構として構成することもできるが、変速比を段階的に変更して多段の有段変速機構として構成することもできる。
【0020】
複合スプロケット5の外径は、複数のピニオンスプロケット20の何れをも囲み、且つ、複数のピニオンスプロケット20の何れにも接する円(以下、「ピニオン接円A」という)の半径に対応する。つまり、ピニオン接円Aの直径が複合スプロケットの外径である。
上記したピニオン接円Aの半径は、複数のピニオンスプロケット20と無端ベルト6との接触半径、即ち、複合スプロケット5のピッチ円の半径にも対応している。したがって、変速機構では、ピニオン接円Aの半径が変更されることで、無端ベルト6の巻き掛け半径が変更され、変速比が変更される。
【0021】
図1には、ピニオン接円Aが入力側で最小であり出力側で最大のものを例示している。以下の説明では、ピニオン接円Aについて、最小のものを最小ピニオン接円A
1と呼び、最大のものを最大ピニオン接円A
2と呼ぶ。また、大きさまたは長さに着目しない場合には単にピニオン接円Aと呼ぶ。
複合スプロケット5にかかる構成の説明では、基本的な構成要素として、無端ベルト6に噛み合うピニオンスプロケット20,無端ベルト6を案内(ガイド)するガイドロッド29,回転軸1と一体に回転する固定ディスク10,固定ディスク10に対して相対回転可能に設けられた可動ディスク19,固定ディスク10と一体に回転する第一回転部15,可動ディスク19と一体に回転する第二回転部16の順に説明する。その次に、基本的な構成要素を作動させる機構類として、相対回転駆動機構30,スプロケット移動機構40A,ロッド移動機構40B,機械式自転駆動機構50の順に説明する。その次に、二組の複合スプロケット5,5に巻きかけられた無端ベルト6について説明する。
【0022】
固定ディスク10,可動ディスク19,第一回転部15,第二回転部16は、回転軸1の軸心C
1と同心に配設されており、ディスク10,19における径方向は回転軸1の径方向と一致する。
本実施形態では、
図2に示すように、回転軸1の軸方向両端側(
図2における上端側および下端側)のそれぞれに、固定ディスク10と可動ディスク19とが互いに隣接して装備され、回転軸1の軸方向中間部にピニオンスプロケット20およびガイドロッド29ならびにこれらに巻き掛けられた無端ベルト6が配置される。また、固定ディスク10よりも可動ディスク19の方が、軸方向内側、即ち、ピニオンスプロケット20,ガイドロッド29,無端ベルト6に近い側に配置されている。
【0023】
なお、
図2は、理解を容易にすべく模式的に示したものであり、同断面にピニオンスプロケット20およびガイドロッド29ならびに相対回転駆動機構30を示し、入力側の複合スプロケット5と出力側の複合スプロケット5との間に間隔を設けて示している。
【0024】
〔1−1.ピニオンスプロケットおよびガイドロッド〕
図1に示すように、ピニオンスプロケット20およびガイドロッド29は、回転軸1の軸心C
1周りに公転する。ここでいう「公転」とは、ピニオンスプロケット20およびガイドロッド29のそれぞれが、回転軸1の軸心C
1を中心に回転することを意味する。回転軸1が回転すると、この回転に連動してピニオンスプロケット20およびガイドロッド29のそれぞれが公転する。つまり、回転軸1の回転数とピニオンスプロケット20およびガイドロッド29のそれぞれが公転する回転数とは等しい。
【0025】
〔1−1−1.ピニオンスプロケット〕
ピニオンスプロケット20は、自転しない一つのピニオンスプロケット(以下、「固定ピニオンスプロケット」という)21と、この固定ピニオンスプロケット21を基準に公転の回転位相が進角側および遅角側のそれぞれに配置され自転可能な二つの自転ピニオンスプロケット22,23とから構成されている。なお、以下の説明では、固定ピニオンスプロケット21を基準に進角側に設けられたピニオンスプロケット(進角側自転ピニオンスプロケット)を第一自転ピニオンスプロケット22と呼び、遅角側に設けられたピニオンスプロケット(遅角側自転ピニオンスプロケット)を第二自転ピニオンスプロケット23と呼ぶ。
【0026】
各ピニオンスプロケット21,22,23は、何れもその中心に設けられた支持軸(ピニオンスプロケット軸)21a,22a,23aに対して結合されている。ここでいう「自転」とは、各自転ピニオンスプロケット22,23がその支持軸22a,23aの軸心C
3,C
4周りに回転することを意味する。なお、各支持軸21a,22a,23aの軸心C
2,C
3,C
4および回転軸1の軸心C
1は、何れも相互に平行である。
【0027】
図2に示すように、第一自転ピニオンスプロケット22の支持軸22aは、軸方向両端部22A(一方の軸方向端部のみに符号を付す)が固定ディスク10および可動ディスク19に支持されている。同様に、固定ピニオンスプロケット21および第二自転ピニオンスプロケット23の各支持軸21a,23aは、軸方向両端部が固定ディスク10および可動ディスク19に支持されている。
【0028】
図1に示すように、固定ピニオンスプロケット21は、本体部21bとこの本体部21bの外周部全周に形成された歯21cとを有する。同様に、自転ピニオンスプロケット22,23は、何れも本体部22b,23bとこの本体部22b,23bの外周部全周に突出形成された歯22c,23cとを有する。
ピニオンスプロケット21,22,23に形成される歯21c,22c,23c(以下、これらを区別しないときには符号「20c」で示す)は、インボリュート形状に形成され、それぞれの形状寸法およびピッチは同一規格のものとなっている。
【0029】
なお、第一自転ピニオンスプロケット22と第二ピニオンスプロケット23とは、配設箇所および自転方向が異なるのを除いて同様に構成されるため、ここでは第一自転ピニオンスプロケット22に着目して説明する。また、以下の説明で、固定ピニオンスプロケット21,第一自転ピニオンスプロケット22および第二自転ピニオンスプロケット23を区別なく用いるときには単にピニオンスプロケット20と呼び、同様に、支持軸21a,22a,23aについても区別なく用いるときには支持軸20aと呼ぶ。
【0030】
本実施形態では、
図2に示すように、ピニオンスプロケット20は、軸方向に三列の歯車20g(一箇所のみに符号を付す)を備え、これらの歯車20gのそれぞれに対応する一本の無端ベルト6が巻き掛けられている。ここでは、ピニオンスプロケット20の三列の歯車20gは、スペーサ20s(一箇所のみに符号を付す)を介して互いに間隔をあけて設けられている。
なお、ピニオンスプロケット20の歯車20gの列数は、変速機構の伝達トルクの大きさによるが、二列または四列以上であってもよいし一列であってもよい。
【0031】
〔1−1−2.ガイドロッド〕
図1に示すように、複数のガイドロッド29は、無端ベルト6と回転軸1の軸心C
1との距離の変動(無端ベルト6の巻き掛け半径の変動)を小さくするように、即ち、回転軸1周りの無端ベルト6の軌道を可能な限り円軌道に近づけるように、無端ベルト6をガイドするものである。これらのガイドロッド29は、その径方向外側の周面に当接する無端ベルト6の軌道をガイドする。ピニオンスプロケット21,22,23およびガイドロッド29は多角形(略正多角形)の形状をなすので、無端ベルト6は、その径方向内側のピニオンスプロケット21,22,23およびガイドロッド29に当接しガイドされながら多角形の形状に沿って転動する。
なお、ガイドロッド29はそれぞれ同様に構成されるため、ここでは一つのガイドロッド29に着目して説明する。
【0032】
図1および
図2に示すように、ガイドロッド29は、ロッド支持軸29a(
図1では破線で示す)の外周に円筒状のガイド部材29bが外挿されたものであり、ロッド支持軸29aによって支持され、ガイド部材29bの外周面で無端ベルト6をガイドする。
図2に示すように、ガイドロッド29の軸方向両端部29A(一方の軸方向端部のみに符号を付す)では、ガイド部材29bからロッド支持軸29aが軸方向に突出している。詳細は後述するが、この突出したロッド支持軸29aが固定ディスク10および可動ディスク19に支持される。
つまり、ガイドロッド29は、ロッド支持軸29aと、ロッド支持軸29aにおける無端ベルト6と接触する軸方向位置に部分的に外装された円筒状のガイド部材29bとを有する。
【0033】
なお、ガイドロッド29の本数は、十五本に限らず、これよりも多くてもよいし少なくてもよい。この場合、ガイドロッド29は、ピニオンスプロケット20の相互間(ここでは三箇所)に同数設けられることが好ましい。また、ガイドロッド29を多く設けるほど複合スプロケット5を真円に近づけ、無端ベルト6と回転軸1の軸心C
1との距離の変動を小さくすることができる。
ただし、ガイドロッド29の本数を多くするほど、パーツの増加による製造コストや重量の増加を招くおそれがあるため、これらを考慮してガイドロッド29の本数を設定することが好ましい。
【0034】
〔1−2.固定ディスクおよび可動ディスク〕
固定ディスク10および可動ディスク19は、ピニオンスプロケット20およびガイドロッド29の軸方向両端部にそれぞれ対を成して設けられているが、ここでは一側に設けられた固定ディスク10,可動ディスク19に着目し、その構成を説明する。
【0035】
〔1−2−1.固定ディスク〕
固定ディスク10は、回転軸1と一体に形成されるか、或いは、何れも回転軸1と一体回転するように結合されている。
図3および
図5に示すように、固定ディスク10には、複数のピニオンスプロケット20それぞれに対応して設けられた複数のスプロケット用固定放射状溝11(一箇所のみに符号を付す)と複数のガイドロッド29それぞれに対応して設けられた複数のロッド用固定放射状溝12(一箇所のみに符号を付す)との二種の固定放射状溝が形成されている。配置箇所が異なる点を除いて、スプロケット用固定放射状溝11のそれぞれは同様に構成され、また、ロッド用固定放射状溝12のそれぞれは同様に構成されている。
【0036】
スプロケット用固定放射状溝11は、対応するピニオンスプロケット20を案内するための溝である。すなわち、対応するピニオンスプロケット20の径方向移動経路に沿ってスプロケット用固定放射状溝11が形成されている。このスプロケット用固定放射状溝11には、対応するピニオンスプロケット20の支持軸20a(一箇所のみに符号を付す)が内挿される。
【0037】
ロッド用固定放射状溝12は、対応するガイドロッド29を案内するための溝である。すなわち、対応するガイドロッド29の径方向移動経路に沿ってロッド用固定放射状溝12が形成されている。このロッド用固定放射状溝12には、対応するガイドロッド29のロッド支持軸29a(一箇所のみに符号を付す)が内挿されている。
【0038】
ここでは、固定用放射状溝11,12のそれぞれが直線状に形成されている。
これら固定用放射状溝11,12の各溝幅は、内挿される支持軸20a,29aの各外径に対応する溝幅を有する。具体的には、溝幅が対応する支持軸20a,29aの外径よりも微小に大きく設定されている。そのため、内挿される支持軸20a,29aは、滑らかに固定放射状溝11,12に沿って移動可能である。
【0039】
〔1−2−2.可動ディスク〕
図2に示すように、可動ディスク19は、ピニオンスプロケット20およびガイドロッド29を挟んで一側および他側のそれぞれに設けられる。これらの可動ディスク19は、連結シャフト19Aで互いに連結されている。ここでは、
図1に示すように、各ピニオンスプロケット21,22,23の相互間にそれぞれ連結シャフト19A(一箇所にのみ符号を付す)が設けられている。これにより、一側の可動ディスク19と他側の可動ディスク19とが一体に回転する。
【0040】
図4および
図5に示すように、可動ディスク19(
図5には破線で示す)には、上記の固定放射状溝11,12のそれぞれと軸方向から視たときに第一交差箇所CP
1で交差する複数の可動放射状溝19a,19b(何れも一箇所のみに符号を付し、
図5には破線で示す)が形成されている。なお、可動ディスク19の外形は円形であり、軸方向視で固定ディスク10の外形(円形)と一致して重合するが、便宜上、
図5では可動ディスク19の外形円を縮小して示している。
【0041】
スプロケット用可動放射状溝19aのそれぞれは、対応するスプロケット用固定放射状溝11と軸方向視で交差する。スプロケット用可動放射状溝19aには、ピニオンスプロケット20の支持軸20aが内挿される。
ロッド用可動放射状溝19bのそれぞれは、対応するロッド用固定放射状溝12と軸方向視で交差する。ロッド用可動放射状溝19bには、対応するガイドロッド29のロッド支持軸29aが内挿される。
【0042】
ここでは、可動用放射状溝19a,19bのそれぞれが曲線状に形成されている。
可動用放射状溝19a,19bの各溝幅は、内挿される支持軸20a,29aの各外径よりも微小に大きく設定されている。そのため、内挿される20a,29aは、滑らかに可動用放射状溝19a,19bに沿って移動可能である。
【0043】
〔1−3.第一回転部〕
図2に示すように、第一回転部15は、固定ディスク10と一体回転する部分、即ち、回転軸1と一体回転する部分である。ここでは、第一回転部15が回転軸1の一部に設けられている。この第一回転部15は、固定ディスク10および可動ディスク19よりも軸方向外側に配設されている。
【0044】
図2,
図7および
図8に示すように、第一回転部15には、第一カム溝15aが設けられている。この第一カム溝15aは、回転軸1の軸方向に沿って凹設して設けられている。ここでは、第一カム溝15aが回転軸1の軸心C
1と平行に形成されている。
図7には、第一カム溝15a(一箇所のみに符号を付す)が周方向に間隔をおいて三箇所に設けられたものを例示するが、第一カム溝15aの形成箇所や形成個数は、周囲の構成や要求仕様等に応じて設定すればよく、種々の形状や個数のものを採用することができる。
【0045】
〔1−4.第二回転部〕
図2,
図6および
図7に示すように、第二回転部16は、可動ディスク19と接続部17を介して接続されている。
【0046】
まず、接続部17について説明する。
接続部17は、可動ディスク19および第二回転部16と一体に回転し、固定ディスク10を覆うように配設されている。この接続部17は、固定ディスク10の外周(径方向外側)を覆う軸方向接続部17aと、固定ディスク10の軸方向外側を覆う径方向接続部17bとを有する。
【0047】
接続部17においては、可動ディスク19と第二回転部16との接続のうち、軸方向成分の離隔分を接続しているのが軸方向接続部17aであり、径方向の離隔分を接続しているのが径方向接続部17bである。
軸方向接続部17aは、回転軸1の軸心C
1と同心に設けられるとともに軸方向に延びる円筒形状をなしている。この軸方向接続部17aは、
図2に示すように、軸方向内側が可動ディスク19の外周端部(外周部)19tに結合され、軸方向外側が次に説明する径方向接続部17bに接続されている。
【0048】
径方向接続部17bは、径方向外側が軸方向接続部17aに接続され、径方向内側が第二回転部16に接続されている。この径方向接続部17bは、回転軸1の軸心C
1と同心に設けられるとともに径方向に延在する円盤から次に説明する肉抜き部17cによって肉抜きされた形状をなしている。
図6に示すように、径方向接続部17bには、肉抜き部17cが設けられている。ここでは、三箇所に設けられた扇形の肉抜き部17cが、相互間に径方向接続部17bを挟んで等間隔に設けられたものを例示している。なお、肉抜き部17cの形状や形成個数は、周囲の構成や要求仕様等に応じて設定すればよく、種々の形状や個数のものを採用することができる。ただし、肉抜き部17cが省略され、円盤状に径方向接続部17bが形成されていてもよい。
【0049】
次に、
図2,
図6〜
図8を参照して、第二回転部16について説明する。
第二回転部16は、可動ディスク19の外周端部19tに上記の接続部17a,17bを介して連結されるとともに第一回転部15近傍の外周を覆うように設けられ、回転軸1の軸心C
1と同心の円筒形状に形成されている。
【0050】
第二回転部16には、第二カム溝16aが設けられている。この第二カム溝16aは、第一カム溝15aの外周に隣接するとともに回転軸1に沿って設けられ、径方向視で第一カム溝15aと交差する。また、第二カム溝16aは、軸方向に交差するように設けられている。
なお、
図7には第二カム溝16a(一箇所にのみ符号を付す)が三箇所に設けられたものを例示するが、第二カム溝16aの形成箇所や形成個数は、第一カム溝15aの形成箇所や形成個数に応じて設定される。
【0051】
〔1−5.相対回転駆動機構〕
相対回転駆動機構30は、複合スプロケット5,5を機械的に連動させる機構である。この相対回転駆動機構30は、上述した第一回転部15に設けられた第一カム溝15aと第二回転部16に設けられた第二カム溝16aとに加えて、第一カム溝15aと第二カム溝16aとが交差する第二交差箇所CP
2(何れも一箇所にのみ符号を付す)に配設されたカムローラ90と、このカムローラ90を軸方向に移動させる変速用フォーク35と、この変速用フォーク35を軸方向に移動させる軸方向移動機構31とを備えている。
以下、カムローラ90,変速用フォーク35,軸方向移動機構31の順に説明する。
【0052】
〔1−5−1.カムローラ〕
図2および
図7に示すように、カムローラ90は、円柱状に形成されている。このカムローラ90は、回転軸1の軸心C
1に直交する方向に沿った軸心を有し、第一カム溝15aと第二カム溝16aとが交差する第二交差箇所CP
2に挿通されている。このため、カムローラ90は、回転軸1の回転に連動して回転軸1の軸心C
1を中心に回転する。なお、カムローラ90の外周には、第一カム溝15aに対応する箇所にベアリング91aが外装され、同様に、第二カム溝16aに対応する箇所にベアリング91bが外嵌されている。
カムローラ90の一端部90aは、第二交差箇所CP
2から径方向外側に突出されて設けられている。
【0053】
なお、図示省略するが、カムローラ90は、カム溝15a,16aから脱落しないように、適宜の抜け止め加工が施されている。かかる抜け止め加工としては、例えばカムローラ90の他端部に頭部を設け、あるいは、抜け止めピンを追加し、カムローラ90が軸方向に移動可能であって径方向に移動しないようにすることが挙げられる。
【0054】
〔1−5−2.変速用フォーク〕
変速用フォーク35は、二組の複合スプロケット5,5に跨って設けられる。ここでは、変速用フォーク35が軸方向視でメガネ形状に形成されている。
この変速用フォーク35は、各複合スプロケット5,5に対応して設けられた円環状のカムローラ支持部35a(一側にのみ符号を付す)と、各カムローラ支持部35aを連結するブリッジ部35bとを有する。カムローラ支持部35aの径方向内側には、上記の第一回転部15および第二回転部16が配設されている。
なお、変速用フォーク35は、ディスク10,19に対して平行なプレート状の部材であって、無端ベルト6を基準としたときのディスク10,19に対して軸方向外側に並設されている。
【0055】
カムローラ支持部35aには、径方向内側の全周にわたって溝部35cが凹設されている。溝部35cは、カムローラ90の突出長さに対応する深さを有し、カムローラ90の一端部90aを収容している。すなわち、溝部35cは、径方向長さが少なくともカムローラ90の突出長さの円環状空間を有する。
【0056】
この溝部35cには、カムローラ90と転がり接触しうる転動体35d(一箇所にのみ符号を付す)が設けられている。この転動体35dは、回転軸1の軸心C
1を中心に回転するカムローラ90が溝部35cの側壁に接触したときにカムローラ90が軸心周りに回転することを抑制するために設けられている。すなわち、溝部35cの側壁を形成するカムローラ支持部35aに、転動体35dが配設されている。ここでは、複数の転動体35dが溝部35cの全周にわたって配設されている。なお、転動体35dとしてニードルベアリングを例示するが、これに替えて、ボールベアリングを用いてもよい。
【0057】
〔1−5−3.軸方向移動機構〕
図2および
図7に示すように、軸方向移動機構31は、変速用フォーク35を軸方向に移動するために、モータ32と、モータ32の出力軸(駆動軸)32aの回転運動を直線運動に切り替える運動変換機構33と、変速用フォーク35を支持するとともに運動変換機構33によって直線運動されるフォーク支持部34とを備えている。なお、モータ32としては、ステッピングモータを用いることができる。
以下、軸方向移動機構31について、フォーク支持部34,運動変換機構33の順に説明する。
【0058】
フォーク支持部34は、モータ32の出力軸32aと同心の筒軸を有する円筒状に形成されている。このフォーク支持部34には、モータ32の出力軸32aが内挿されている。図示省略するが、出力軸32aは無端ベルト6の軌道の内側に配置されている。
また、フォーク支持部34は、内周にモータ32の出力軸32aに形成された雄ネジ部32bに螺合する雌ネジ部34aが螺設され、外周に変速用フォーク35のブリッジ部35bと係合するフォーク溝34bが凹設されている。
【0059】
フォーク溝34bは、変速用フォーク35のブリッジ部35bの厚み(軸方向長さ)に対応する幅(軸方向長さ)に形成されている。このフォーク溝34bにはブリッジ部35bの中間部(二つの複合スプロケット5,5の間)が嵌入され、フォーク支持部34と変速用フォーク35のブリッジ部35bとが一体に結合される。
【0060】
運動変換機構33は、出力軸32aの雄ネジ部32bと、フォーク支持部34の雌ネジ部34aとを有する。出力軸32aが回転すると、雄ネジ部32bと雌ネジ部34aとの螺合によって、雌ネジ部34aが形成されたフォーク支持部34が軸方向に移動される。すなわち、軸方向移動機構31は、モータ31の回転運動を運動変換機構33によって直線運動に変換し、この直線運動でフォーク支持部34を軸方向に直線運動させる。
上記の変速用フォーク35,軸方向移動機構31を含む相対回転駆動機構30は、ピニオンスプロケット21,22,23から軸方向にシフトして設けられている。
【0061】
〔1−5−4.相対回転駆動〕
以下、相対回転駆動機構30による可動ディスク19の固定ディスク10に対する相対回転駆動について説明する。
軸方向移動機構31によってフォーク支持部34が軸方向に直線運動されると、フォーク支持部34に結合された変速用フォーク35が軸方向に移動し、この移動にともなってカムローラ90も軸方向に移動される。
【0062】
第一カム溝15aと第二カム溝16aとが交差する第二交差箇所CP
2に配設されるカムローラ90が軸方向に移動されると、第二交差箇所CP
2も軸方向に移動する。第一カム溝15aが設けられた第一回転部15は回転軸1および固定ディスク10と一体回転するため、第二交差箇所CP
2が軸方向に移動すると、第一回転部15に対して第二カム溝16aが設けられた第二回転部16が相対的に回転される。
第二回転部16は可動ディスク19と一体回転し、第一回転部10は固定ディスク10と一体回転するので、第一回転部15に対して第二回転部16が相対回転されると、固定ディスク10に対して可動ディスク19が相対的に回転される。
【0063】
〔1−6.スプロケット移動機構およびロッド移動機構〕
次に、
図2および
図5を参照して、スプロケット移動機構40Aおよびロッド移動機構40Bを説明する。
スプロケット移動機構40Aは、複数のピニオンスプロケット20を移動対象とし、また、ロッド移動機構40Bは、複数のガイドロッド29を移動対象としている。
これらの移動機構40A,40Bは、各移動対象(複数のピニオンスプロケット20,複数のガイドロッド29)を回転軸1の軸心C
1から等距離を維持させながら径方向に同期して移動させるものである。
【0064】
スプロケット移動機構40Aは、固定ディスク10と可動ディスク19と相対回転駆動機構30(
図2および
図7参照)とから構成されている。同様に、ロッド移動機構40Bは、固定ディスク10と可動ディスク19と相対回転駆動機構30とから構成されている。
このように、それぞれの移動機構40A,40Bの構成は、各移動対象が異なるだけで、その他の構成は同様である。
【0065】
次に、
図5(a)〜
図5(c)を参照して、移動機構40Aおよび40Bによる移動を説明する。
図5(a)は、最小ピニオン接円A
1となった状態における可動ディスク19の固定ディスク10に対する位相を示している。このとき、固定放射状溝11,12と可動放射状溝19a,19bとが交差する第一交差箇所CP
1は、回転軸1の軸心C
1に対して最も近接している。
【0066】
そして、相対回転駆動機構30によって可動ディスク19の回転位相を固定ディスク10に対して変更すると、
図5(b),
図5(c)の順に、第一交差箇所CP
1がそれぞれ同期しながら回転軸1の軸心C
1から遠ざかる。なお、
図5(c)は、最大ピニオン接円A
2となった状態における可動ディスク19の固定ディスク10に対する位相を示している。
【0067】
このようにして、スプロケット移動機構40Aは、ピニオンスプロケット20のそれぞれを、回転軸1の軸心C
1から等距離を維持させながら径方向に同期して移動させる。同様に、ロッド移動機構40Bは、ガイドロッド29のそれぞれを、回転軸1の軸心C
1から等距離を維持させながら径方向に同期して移動させる。
一方、相対回転駆動機構30によって可動ディスク19の回転位相の変更方向を上記の方向と反対にすれば、ピニオンスプロケット20およびガイドロッド29の移動方向が反転し、ピニオンスプロケット20およびガイドロッド29は回転軸1の軸心C
1に近づく。
【0068】
スプロケット移動機構40Aによりピニオンスプロケット20が移動されると、ピニオンスプロケット20の相互間の距離が変わることにより、無端ベルト6に対してピニオンスプロケット20の位相ズレが発生してしまう。そこで、かかる位相ズレを解消するために、機械式自転駆動機構50が装備されている。
【0069】
〔1−7.機械式自転駆動機構〕
次に、
図2および
図6を参照して、機械式自転駆動機構50を説明する。ここでは、機械式自転駆動機構50がピニオンスプロケット20を挟んで対称に構成されるため、一側の構成に着目して説明する。
機械式自転駆動機構50は、上記したように、自転ピニオンスプロケット22,23を回転させ、無端ベルト6に対するピニオンスプロケット20間の位相ズレを解消するように自転ピニオンスプロケット22,23をスプロケット移動機構40Aと連動して機械的に自転駆動するものである。言い換えれば、機械式自転駆動機構50は、スプロケット移動機構40Aによる複数のピニオンスプロケット20の径方向移動に伴って、無端ベルト6に対する複数のピニオンスプロケット20の位相ズレを解消するように自転ピニオンスプロケット22,23をスプロケット移動機構40Aと連動して自転駆動するものである。
ただし、機械式自転駆動機構50は、径方向移動時の固定ピニオンスプロケット21を自転させない構成も有している。
【0070】
まず、機械式自転駆動機構50について、固定ピニオンスプロケット21(
図1参照)を自転させないための構成を説明する。
図6に示すように、固定ピニオンスプロケット21の支持軸21aは、固定ディスク10のスプロケット用固定放射状溝11に挿通されている。この支持軸21aには、案内部材59が一体的に結合されている。
【0071】
案内部材59は、スプロケット用固定放射状溝11に内挿されて径方向に案内される。この案内部材59は、径方向の所定長さにわたってスプロケット用固定放射状溝11に接触するように対応する形状に形成されている。このため、固定ピニオンスプロケット21を自転させるような回転力が作用したときには、案内部材59は、スプロケット用固定放射状溝11に対して回転力を伝達するとともに、この回転力の反作用(抗力)で固定ピニオンスプロケット21を固定するものといえる。すなわち、案内部材59は、スプロケット用固定放射状溝11において径方向に摺動可能であって回り止め機能を有する形状に形成されている。なお、ここでいう所定長さとは、固定ピニオンスプロケット21を自転させるような回転力の抗力が確保可能な長さである。
【0072】
図6では、スプロケット用固定放射状溝11が径方向に長手方向を有する矩形状に形成されており、この矩形状よりも小さい矩形状に形成された案内部材59を例示している。
また、スプロケット用固定放射状溝11の内壁に接する案内部材59の側壁、特に案内部材59の四隅に、ベアリングを装着すれば、案内部材59のよりスムーズな摺動を確保することができる。
【0073】
次に、機械式自転駆動機構50について、自転ピニオンスプロケット22,23を自転駆動するための構成について説明する。
機械式自転駆動機構50は、自転ピニオンスプロケット22,23の支持軸22a,23aのそれぞれと一体回転するように固設されたピニオン51,52と、ピニオン51,52のそれぞれに対応して噛合するように設けられたラック53,54と、を有する。
【0074】
ピニオン51,52は、自転ピニオンスプロケット22,23の各支持軸22a,23aにおける軸方向両端部にそれぞれ設けられている。かかるピニオン51,52にそれぞれ対応するラック53,54は、スプロケット用固定放射状溝11,11の延在方向に沿って固設されている。
【0075】
なお、以下の説明では、第一自転ピニオンスプロケット22のピニオン(進角側ピニオン)51を第一ピニオン51と呼び、この第一ピニオン51と噛合するラック(進角側ラック)53を第一ラック53と呼んで区別する。同様に、第二ピニオンスプロケット23のピニオン(遅角側ピニオン)52を第二ピニオン52と呼び、この第二ピニオン52と噛合するラック(遅角側ラック)54を第二ラック54と呼ぶ。
【0076】
図6に示すように、第一ラック53は、第一ピニオン51に対して公転方向基準で遅角側に配置される。逆に、第二ラック54は、第二ピニオン52に対して公転方向基準で進角側に配置される。このため、ピニオン51,52およびラック53,54は、ピニオン51,52が拡径方向または縮径方向に移動されると、ピニオン51,52はこれに噛合するラック53,54によって互いに逆方向に回転されるように配設されている。
【0077】
すなわち、機械式自転駆動機構50は、スプロケット移動機構40Aにより移動されたピニオンスプロケット20の径方向位置に応じて、自転ピニオンスプロケット22,23の自転にかかる回転位相を設定するものである。つまり、機械式自転駆動機構50によって、ピニオンスプロケット20の径方向位置と自転ピニオンスプロケット22,23の自転にかかる回転位相とは一対一の対応関係となる。
このように、機械式自転駆動機構50は、固定ピニオンスプロケット21が自転しないように案内し、自転ピニオンスプロケット22,23が自転するように案内する。
【0078】
なお、ピニオン51,52に対するラック53,54の位置関係が異なる点を除いては、第一ピニオン51と第二ピニオン52とは同様に構成され、また、第一ラック53と第二ラック54とは同様に構成されている。
【0079】
〔1−8.無端ベルト〕
次に、無端ベルト6について説明する。
図1、
図2および
図10に示すように、無端ベルト6は、外周側の動力伝達部61と内周側の噛合部62とが互いに結合されて二重構造をなす動力伝達部材である。ここでは、
図2および
図9に示すように、動力伝達部61の幅方向端部61aと噛合部62の幅方向端部62aとが互いに結合されている。動力伝達部61と噛合部62との結合手法としては、縫合や接着などが挙げられる。なお、動力伝達部61および噛合部62の幅(延在方向に直交する長さ)は同一であるが、便宜上、
図9では動力伝達部61の幅を拡大して示している。
【0080】
この無端ベルト6では、動力伝達部61が動力を伝達し、噛合部62がピニオンスプロケット20の歯20cと噛み合う。動力伝達部61と噛合部62とでは伸縮性が異なる。具体的には、動力伝達部61が伸び耐性を有するのに対し、噛合部62が弾性変形可能に構成されている。
動力伝達部61は、幅方向にも動力伝達方向(延在方向)にも伸び耐性を有する。ただし、動力伝達部61はピニオン接円Aの拡縮径に対応可能な可撓性をもちあわせている。例えば、アラミド樹脂から動力伝達部61を成形することができる。
【0081】
噛合部62は、おもに動力伝達方向に弾性変形可能に構成されている。この噛合部62は、弾性変形させる力が印加されると、その力が印加された領域の周辺だけ局所的に変形するように形成されている。例えばステンレスなどを用いた鍛造繊維を編み込んで噛合部62を形成することができる。なお、鍛造繊維とは、鍛造された金属を繊維状にしたものをいう。
噛合部62には、ピニオンスプロケット20の歯20cが入り込む溝611(一箇所にのみ符号を付す)が形成されている。この溝611は、歯20cのピッチに対応した間隔で動力伝達方向に沿ってそれぞれ配置されている。ピニオンスプロケット20が三列の歯車20gを有するため、三列の溝611が設けられている。
【0082】
ここでは、無端ベルト6の幅方向端部側に設けられた二列の溝611が動力伝達方向基準で同位置に配置され、これら両端部に配置される溝611に対して、幅方向中間部の溝611のピッチが半歯分だけズラされて配置されている。なお、
図9には、溝611の形状として正面視で菱形のものを例示するが、溝611の形状はその他の多角形状や丸型形状などに形成されてもよい。
また、溝611の各列のピッチに対応して、ピニオンスプロケット20の各列の位相もそれぞれ設定されている。すなわち、軸方向端部それぞれのピニオンスプロケット20に対して軸方向中央部のピニオンスプロケット20の位相が半歯分(半ピッチ分)ズラされて配置される。
【0083】
この噛合部62は、弾性変形していない状態から動力伝達方向に沿ってピニオンスプロケット20の半歯分だけ弾性変形可能に形成されている。具体的に言えば、噛合部62は、弾性変形していない状態から動力伝達方向に向けて半歯分だけ弾性変形可能であるとともに、動力伝達方向と反対方向に向けても半歯分だけ弾性変形可能である。つまり、噛合部62の弾性変形範囲は、ピニオンスプロケット20の一歯分のピッチに対応する。
【0084】
溝611に着目して言い換えれば、噛合部62の弾性変形により、弾性変形していない状態から動力伝達方向に沿ってピニオンスプロケット20の半歯分だけ溝611が移動可能に設けられている。
図9には、溝611の移動範囲(噛合部62の変形範囲)を二点鎖線で例示する。噛合部62の弾性的な変形量(変形長さ)は、例えば鍛造繊維の編み方によって設定される。
図10に例示するように、噛合部62とピニオンスプロケット20の歯20cとが噛み合う場合には、噛合部62が半歯分だけ弾性変形する。このとき、噛合部62は、材料(ここでは鍛造繊維)の強度で動力に対抗し、また、噛合部62とピニオンスプロケット20の歯20cとの噛み合いが生じる数ピッチの範囲内でのみ局所的に弾性変形する。なお、
図10では、弾性変形していない状態の噛合部62を二点鎖線で示し、ピニオンスプロケット20を実線および二点鎖線で互いに半歯分(半ピッチ分)だけ位相がズレたものを示す。
【0085】
〔2.作用および効果〕
本発明の一実施形態にかかる変速機構は、上述のように構成されるため、以下のような作用および効果を得ることができる。
(1)ピニオンスプロケット20の歯20cに噛み合う噛合部62が弾性を有するため、ピニオンスプロケット20の歯20cと無端ベルト6の噛合部62との位相ズレを吸収することができる。すなわち、歯20cとこれに噛合する噛合部62との噛み合いを安定させることができる。
また、入力側の複合スプロケット5におけるピニオンスプロケット20の歯20cから噛合部62に伝達された動力は、噛合部62の幅方向端部62aから動力伝達部61の幅方向端部61aに伝達される。動力伝達部61が伸び耐性を有するため、動力が張力として伝達される。すなわち、動力伝達部61の幅方向端部61aから伝達された動力は、その伝達方向に沿う張力となって伝達される。
したがって、動力を安定して伝達することができる。また、噛合部62への歯20cの噛み合い時の音や振動を抑制することができる。
【0086】
(2)噛合部62は、弾性変形していない状態から動力伝達方向に沿ってピニオンスプロケット20の半歯分だけ弾性変形可能に形成されているため、噛合部62の弾性変形範囲は、ピニオンスプロケット20の一歯分のピッチに対応する。したがって、ピニオンスプロケット20の歯20cと無端ベルト6の噛合部62とが何れの位相であっても噛合部62に歯20cを安定して噛み合わせることができる。
また、噛合部62の必要以上な弾性変形が抑えられ、動力伝達効率の低下を抑えることができる。
【0087】
(3)伸び耐性を有する動力伝達部61の幅方向端部61aと弾性変形可能な噛合部62の幅方向端部62aとが互いに結合されているため、噛合部62が幅方向に変形するのを動力伝達部61によって抑えることができる。したがって、噛合部62の弾性的な変形量を精度よく設定することができ、また、動力伝達効率の低下を抑えることができる。
【0088】
(4)噛合部62は、鍛造繊維が編まれて形成されているため、例えばゴムやバネのように伸び切って復元不能になることを抑えることができる。
また、噛合部62の弾性的な変形量は、例えば鍛造繊維の編み方によって設定することができる。この噛合部62が最も弾性変形したときには、鍛造繊維の材料強度で動力を伝達することができる。
【0089】
(5)ピニオンスプロケット20の歯20cは、インボリュート形状に形成されているため、噛合部62に対する歯20cの歯離れ性を確保することができ、動力伝達効率を確保することができる。
また、溝611のピッチがズラされて配置されているため、ピニオンスプロケット20それぞれと噛合部62との噛み合い箇所が動力伝達方向に分散され、耐久性を向上させることができる。
【0090】
〔II.その他〕
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。上述した一実施形態の各構成は、必要に応じて取捨選択することができ、適宜組み合わせてもよい。
上述の一実施形態では、動力伝達部61および噛合部62からなる二層構造の無端ベルト6を例示したが、動力伝達部61または噛合部62が多層構造をなしていてもよい。例えば、外壁面に多数の溝611(孔)が形成された筒状体を偏平させて二層にしたうえで、一方の層および他方の層それぞれの溝611の位置を一致させることにより形成された二層の噛合部62を適用してもよい。また、幅方向の伸び耐性を有する層と動力伝達方向の伸び耐性を有する層とが合わせられた動力伝達部61を適用してもよい。
【0091】
また、ピニオンスプロケット20の歯20cは、インボリュート形状でなくてもよい。例えば、歯20cの先端がフック形状に形成されていてもよい。この場合、歯20cが無端ベルト6の噛合部62に更に噛み込みやすくなり、動力伝達効率を確保することができる。ただし、噛み込みにより無端ベルト6の耐久性が低下するおそれがある。そのため、噛合部62の溝611を囲繞する周壁に、ビーズを嵌め込んだり樹脂を含浸させたりすることが好適である。
【0092】
また、噛合部62において各列の溝611は、上述した配置に限らない。例えば、溝611は、各列で動力伝達方向基準の位置が異なってもよいし、何れも動力伝達方向基準で同位置に配置されてもよい。
また、噛合部62の弾性変形量は、ピニオンスプロケット20の半歯分に限らず、種々の変形量に設定可能である。変形量を大きくするほど、無端ベルト6の噛合部62とピニオンスプロケット20との位相ズレが吸収されて噛み合いが安定しやすくなるものの、動力伝達効率が低下する。そのため、噛み合いの安定と動力伝達効率との双方を考慮して、噛合部62の弾性変形量を設定するのが好ましい。
【0093】
また、動力伝達部61と噛合部62との結合箇所は、幅方向端部61a,62aに限られない。例えば、溝611どうしの間(幅方向中間部)において動力伝達部61と噛合部62とが結合されていてもよい。この場合、各列の溝611の弾性変形量のばらつきを抑えることができ、安定した動力伝達に寄与する。
【0094】
また、噛合部62は、鍛造繊維が編みこまれたものに限らず、樹脂繊維や炭素繊維が編みこまれたものであってもよい。さらに、噛合部62が溝611の形成されていない帯状の部材であってもよい。この場合、ピニオンスプロケット20の歯20cと噛み合う噛合部62は、歯20cに対応する形状で圧縮変形する。このような噛合部62の構成では、ピニオンスプロケット20の歯20cに噛み合う箇所が圧縮変形しやすく形成され、その他の箇所が圧縮変形しにくく形成されることが好適である。
【0095】
また、ピニオンスプロケット20のうち、自転ピニオンスプロケット21,22が自転するものを示したが、ピニオンスプロケット20の何れもが自転しなくてもよい。この場合、ピニオン接円Aの拡縮経時にピニオンスプロケット20が無端ベルト6に対する位相のズレは、無端ベルト6の噛合部62の弾性によって吸収することができる。
るおそれがあるため、上記の位相ズレ許容動力伝達機構が装備されるのが好ましい。
また、ガイドロッド29のガイド部材29bは省略してもよい。つまり、ガイドロッド29がロッド支持軸29aから構成されてもよい。この場合、最小ピニオン接円A
1を更に小さくすることが可能となり、レシオカバレッジの拡大に寄与する。