(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記した従来のプラズマ発生装置では、次のような問題がある。
上記従来のプラズマ発生装置では、セラミックスを誘電体層に用いるので、誘電体層にフレキシブル性がない。このため、大規模で所望の面形状のプラズマ発生装置を作製することは難しい。したがって、大きい処理面積を要するプラズマ発生装置を所望の形状に作成するには、小型の放電デバイスを多数並べて設置する必要がある。この結果、プラズマ発生装置の配線が多数且つ煩雑になり、作製作業に手間を要し、製造コストが高くなるという問題があった。さらに、高電圧を印加して放電させるため、省エネルギーの面でも問題がある。
【0005】
これに対して、面放電方式のプラズマ発生装置に用いられている誘電体層を、高耐熱で高誘電率の高分子樹脂で形成する技術を提案することができる。
高分子樹脂は、フレキシブル性が高く、しかも、誘電体層を薄いフィルム状に形成することができるので、大きい処理面積を要するプラズマ発生装置を所望の形状に作成することが容易である。
【0006】
ところで、誘電体バリア放電を誘電体の表面に連続して行わせ、プラズマを安定且つ広領域で発生させるには、高電圧の交流電圧を2つの電極間に印加する必要がある。
しかし、高分子樹脂は、セラミックスに比べて、電圧に対する耐久性が弱く、高分子樹脂を誘電体層に用いたプラズマ発生装置では、その寿命が短い。しかも、高分子樹脂の絶縁破壊電圧に近い放電電圧が必要なプラズマ発生装置では、高分子樹脂を誘電体層に用いることができない。
したがって、フレキシブル性に優れた高分子樹脂を誘電体層に用いることで、大規模且つ各種面形状に対応したプラズマ発生装置を作製することが可能であるが、高電圧を印加する必要があることから、装置寿命の面や省エネルギーの面で問題が生じる。
【0007】
この発明は、上述した課題を解決するためになされたもので、大規模且つ各種面形状に対応した装置の作製を可能すると共に、装置寿命の長寿化と省エネルギー化とを可能にしたプラズマ発生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、誘電体層と、この誘電体層内に
横並びに配設された第1及び第2の電極と、これら第1及び第2の電極に所定の電圧を印加するための電源とを備えるプラズマ発生装置であって、誘電体層を、
ポリイミド樹脂、フッ素系樹脂又はシリコーン樹脂のいずれかの高分子樹脂で形成し、
電圧が印加されない第1の金属層を、この誘電体層の表面から所定距離だけ離した状態で配設すると共に、表面側から第1及び第2の電極の全体を覆うように第1及び第2の電極に対面させた構成とする。
かかる構成により、フレキシブル性に富んだ高分子樹脂を用いるので、大面積で且つ所望の形状を有した誘電体層を形成することができる。
そして、電源によって、例えば交流電圧を第1及び第2の電極に印加すると、第1の電極と第2の電極とが互いに逆の極性を有した状態になる。
このとき、第1の金属層が、第1及び第2の電極の全体を覆うように第1及び第2の電極に対面しているので、第1の電極が正極(又は負極)の状態である場合には、第1の金属層のうちこの第1の電極に対面する領域が負極(又は正極)の状態になる。このため、誘電体バリア放電が、第1の電極の全面と第1の金属層の対面領域との間で発生する。一方、第2の電極は、負極(又は正極)の状態にあるので、第1の金属層のうちこの第2の電極に対面する領域が正極(又は負極)の状態になる。このため、誘電体バリア放電が、第2の電極の全面と第1の金属層の対面領域との間で発生する。
したがって、誘電体バリア放電が、第1及び第2の電極のほぼ全面と第1の金属層のほぼ全面との間で生じ、プラズマが、第1の金属層と誘電体層との間の間隙のほぼ全領域に発生する。
放電を横並びの第1及び第2の電極間で直接行わせる面放電では、プラズマを安定且つ広領域に発生させるためには、相当の高電圧を必要とする。しかし、上記のように、この発明のプラズマ発生装置を用いることで、安定且つ広領域のプラズマを、低電圧で発生させることができる。
この結果、低電圧放電により、樹脂の劣化が少なく、装置の長寿命化が可能となる。さらに、低電圧での駆動が可能であるので、エネルギ消費量も低減化することができる。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1に記載のプラズマ発生装置において、第2の金属層を、この誘電体層の裏面から所定距離だけ離した状態で配設すると共に、裏面側から上記第1及び第2の電極の全体を覆うように第1及び第2の電極に対面させた構成とする。
かかる構成により、誘電体バリア放電が、第1及び第2の電極のほぼ全面と第1の金属層のほぼ全面との間だけでなく、第1及び第2の電極のほぼ全面と第2の金属層のほぼ全面との間で生じ、プラズマが、第1の金属層と誘電体層との間の間隙だけでなく、第2の金属層と誘電体層との間の間隙のほぼ全領域に発生する。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2に記載のプラズマ発生装置において、金属層と誘電体層との間隙に生じた流体を金属層の表面側に流出させるための複数の孔を、金属層に設けた構成とする。
かかる構成により、誘電体バリア放電によって、金属層と誘電体層との間隙に生じたオゾンやラジカル等の流体を、金属層の孔を通じて外部に流出させることができる。この結果、ワークを金属層の近傍に配することで、このワークに対して、殺菌処理,表面改質処理,脱臭処理及び洗浄処理を行うことができる。
【0011】
請求項4の発明は、請求項3に記載のプラズマ発生装置において、金属層を、メッシュ状に形成した構成とする。
【0012】
請求項5の発明は、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のプラズマ発生装置において、金属層を、殺菌作用のある金属で形成した構成とする。
かかる構成により、殺菌性を有する金属イオンが、金属層から発生し、このイオンが金属層と誘電体層との間隙に生じたオゾンやラジカル等の流体と混合する。この結果、ワークに対する殺菌効果をさらに高めることができる。
【発明の効果】
【0013】
以上詳しく説明したように、この発明のプラズマ発生装置によれば、フレキシブル性に富んだ高分子樹脂を用いることで、大面積で且つ所望の形状の誘電体層を有した装置の作製を可能にするだけでなく、低電圧放電によって、装置の長寿命化と省エネルギ化とを可能にするという優れた効果がある。
特に、請求項2の発明に係るプラズマ発生装置によれば、プラズマを誘電体層の両面の領域で発生させることができるので、オゾン等を広範囲に拡散させることができるという効果がある。
また、請求項3及び請求項5の発明に係るプラズマ発生装置によれば、ワークに対する効果的な殺菌処理等が可能となるいう効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明の最良の形態について図面を参照して説明する。
【0016】
(実施例1)
図1は、この発明の第1実施例に係るプラズマ発生装置の斜視図であり、
図2は、
図1の矢視A−A断面図であり、
図3は、プラズマ発生装置の分解斜視図である。
【0017】
図1に示すプラズマ発生装置1−1は、誘電体バリア放電によってプラズマを発生させるための装置であり、誘電体層3と、誘電体層3内に形成された第1及び第2の電極4,5と、交流電源6と、第1の金属層7とを備えている。
【0018】
図2に示すように、誘電体層3は、第1及び第2の電極4,5を絶縁するための層体であり、高分子樹脂層31,32で成る。
具体的には、第1及び第2の電極4,5を、この高分子樹脂層31上に積層形成した。そして、高分子樹脂層32を、これら第1及び第2の電極4,5全体を被覆するように、高分子樹脂層31上に積層形成した。
この実施例では、高分子樹脂層31,32を、高耐熱で高誘電率の高分子樹脂であるポリイミド樹脂で形成した。
【0019】
第1及び第2の電極4,5は、
図3に示すように、同形平板状の層体であり、高分子樹脂層31と平行になるように、高分子樹脂層31上に横並びに配設されている。
交流電源6は、交流電圧を第1及び第2の電極4,5に印加するための電源であり、交流電源6の一方の入出力端が配線61を通じて第1の電極4に接続し、他方の入出力端が配線62を通じて第2の電極5に接続している。
【0020】
第1の金属層7は、誘電体層3と同形の長方形層体であり、殺菌作用のある金属で形成されている。例えば、銀,銅,亜鉛,アルミニウム,鉛,又は金等で第1の金属層7を形成することができる。
具体的には、ブラスト加工等によって、所定高さの支持部33,34を、高分子樹脂層32の両縁部にそれぞれ形成し、第1の金属層7を、支持部33,34上に架けるように形成した。これにより、第1の金属層7は、第1及び第2の電極4,5全体を表面側から覆った状態で、第1及び第2の電極4,5に対面している。そして、この第1の金属層7と高分子樹脂層32とが、空気等の気体を通す間隙Sを画成している。
さらに、このような第1の金属層7の表面には、多数の孔71が設けられている。これらの孔71は、間隙S内に生じた流体を第1の金属層7の表面側の外部に流出させるための孔である。この実施例では、各孔71を、略正方形状に形成して、第1の金属層7上に等間隔に配列した。
【0021】
次に、この実施例のプラズマ発生装置1−1が示す作用及び効果について説明する。
図4は、実施例のプラズマ発生装置によるプラズマ発生状態を示す概略断面図であり、
図5は、一般的な面放電によるプラズマ発生状態を示す概略断面図である。
【0022】
図4に示すように、プラズマ発生装置1−1を下向きにした状態で、交流電源6をオンにすると、交流電圧が配線61,62を通じて第1及び第2の電極4,5に印加する。
交流電圧が印加すると、第1及び第2の電極4,5は、互いに逆の極性を有した状態になる。例えば、図に示すように、第1の電極4が、正極の場合には、第2の電極5が負極になる。
このとき、第1の金属層7が、第1及び第2の電極4,5全体を覆うように対面しているので、正極の第1の電極4に対面する第1の金属層7の領域7Aが負極の状態になる。この結果、平行平板放電と同様の誘電体バリア放電が、第1の電極4と第1の金属層7の領域7Aとの間で生じ、プラズマP1が、間隙S内において、第1の電極4の全面に亘って発生する。
一方、負極の第2の電極5に対面する第1の金属層7の領域7Bは、正極の状態になる。この結果平行平板放電と同様の誘電体バリア放電が、第2の電極5と第1の金属層7の領域7Bとの間で生じ、プラズマP2が、間隙S内において、第2の電極5の全面に亘って発生する。
したがって、この実施例のプラズマ発生装置1−1を駆動することで、プラズマP1,P2を、第1及び第2の電極4,5の全面領域、即ち間隙Sのほぼ全領域に発生させることができる。
【0023】
ところで、
図5に示すような第1の金属層7を有しない一般的なプラズマ発生装置では、面放電の誘電体バリア放電が行われる。なお、
図5において、符号2は、基材である。
すなわち、この実施例のプラズマ発生装置1−1の駆動電圧と同電位で、
図5のプラズマ発生装置を駆動させると、面放電による誘電体バリア放電が第1及び第2の電極4,5間に生じ、プラズマP3が第1及び第2の電極4,5の境界部分に発生する。
したがって、プラズマP3を、第1及び第2の電極4,5の全面領域に亘って安定的に発生させるためには、プラズマ発生装置1−1の駆動電圧よりも遙かに高い交流電圧を第1及び第2の電極4,5に印加する必要がある。このような高電圧の印加は、誘電体層3の劣化や絶縁破壊を招き、装置を短命にすると共に、エネルギ消費の増大を招く。
【0024】
これに対して、この実施例のプラズマ発生装置1−1では、高分子樹脂層31の裏面側(
図4の上面側)で面放電が行われるものの、上記したように、高分子樹脂層32の表面側(
図4の下面側)の間隙S内では、平行平板放電と同様の放電が行われるので、低い交流電圧で、プラズマP1,P2を、第1及び第2の電極4,5の全面領域に亘って安定的に発生させることができる。このため、誘電体層3の劣化や絶縁破壊を招くおそれが少なく、装置の長寿命化とエネルギ消費量の低減化とを図ることができる。
【0025】
図6は、流体の流出状態を示す概略断面図である。
図4に示したように、プラズマP1,P2が、プラズマ発生装置1−1の間隙Sのほぼ全領域で発生すると、
図6に示すように、オゾンやラジカル等の流体Gが生じる。
この流体Gは、第1の金属層7の孔71からプラズマ発生装置1−1の外部に流出する。したがって、図示しないワークを第1の金属層7の下側近傍に配しておくことにより、ワークが殺菌処理,表面改質処理,脱臭処理及び洗浄処理されることとなる。
さらに、この実施例では、第1の金属層7を銀,銅,亜鉛,アルミニウム,鉛,又は金等で形成したので、プラズマ発生装置1−1を駆動すると、殺菌性が高い金属イオンが、第1の金属層7から飛び出し、第1の金属層7の孔71から流出したオゾンやラジカル等の流体Gと混合する。この結果、ワークに対する殺菌効果がさらに高まることとなる。
【0026】
また、この実施例のプラズマ発生装置1によれば、誘電体層3を高分子樹脂で形成しているので、誘電体層3をセラミックで形成した場合に比べて、大面積の誘電体層3を形成することができる。
【0027】
(実施例2)
次に、この発明の第2実施例について説明する。
図7は、この発明の第2実施例に係るプラズマ発生装置を示す断面図である。
【0028】
この実施例は、高分子樹脂のフレキシブル性を利用してプラズマ発生装置を作製した点が、上記第1実施例と異なる。
すなわち、上記実施例1のプラズマ発生装置1−1のように、誘電体層3を高分子樹脂で形成することで、大面積の誘電体層3を有した装置を作製することができる。この実施例では、高分子樹脂のフレキシブル性を利用することで、
図7に示すように、円筒状のプラズマ発生装置1−2を作製することができる。
【0029】
具体的には、第1及び第2の電極4,5を高分子樹脂層31,32で挟んだ誘電体層3を形成し、多数の孔71を有した第1の金属層7を、高分子樹脂層32の支持部33,34上に架けるように形成した。そして、第1の金属層7を内側にした状態で、この誘電体層3と第1の金属層7とを一体に円筒状に形成した。 このように、誘電体層3をフレキシブル性の高い高分子樹脂で形成することで、各種の面形状を有したプラズマ発生装置1の作製が可能である。この実施例では、誘電体層3と第1の金属層7とを筒状に湾曲させて、プラズマ発生装置1−2を作製したが、誘電体層3を円形に形成して、円盤状のプラズマ発生装置を作製することもできる。
その他の構成、作用及び効果は、上記第1実施例と同様であるので、それらの記載は省略する。
【0030】
(実施例3)
次に、この発明の第3実施例について説明する。
図8は、この発明の第3実施例に係るプラズマ発生装置を示す斜視図である。
この実施例のプラズマ発生装置1−3は、第1の金属層の構造が、上記第1及び第2実施例と異なる。
すなわち、多数の孔71を有した第1の金属層7の代わりに、メッシュ状の第1の金属層7’を用い、この第1の金属層7’を誘電体層3の上方に配設した。
その他の構成、作用及び効果は、上記第1及び第2実施例と同様であるので、それらの記載は省略する。
【0031】
(実施例4)
次に、この発明の第4実施例について説明する。
図9は、この発明の第4実施例に係るプラズマ発生装置を示す断面図である。
この実施例のプラズマ発生装置1−4は、第1の金属層を誘電体層3の両面に設けた点が、上記第1〜第3実施例と異なる。
すなわち、
図9に示すように、誘電体層3の裏面である高分子樹脂層31の裏面両縁部に、所定高さの支持部33’,34’をそれぞれ形成し、第2の金属層70を、これら支持部33’,34’上に架けるように形成した。これにより、第2の金属層70は、第1及び第2の電極4,5全体を裏面側から覆った状態で、第1及び第2の電極4,5に対面している。そして、この第2の金属層70と高分子樹脂層31とが、空気等の気体を通す間隙S’を画成している。
【0032】
かかる構成により、プラズマを間隙S,S’のほぼ領域で安定的に発生させることができ、この結果、プラズマによって生じたオゾン等を、をプラズマ発生装置1−4の両面から広い範囲に拡散させることができる。
その他の構成、作用及び効果は、上記第1〜第3実施例と同様であるので、それらの記載は省略する。
【0033】
なお、この発明は、上記実施例に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内において種々の変形や変更が可能である。
例えば、上記実施例では、第1及び第2の電極を、2つの同形平板状の層体4,5で形成したが、これに限定されるものではない。例えば、
図10に示すように、第1及び第2の電極として、2つの櫛歯状の電極4’,5’を適用し、これら第1及び第2の電極4’,5’を噛み合わせた構成とすることもできる。
【0034】
また、上記実施例では、高分子樹脂層31,32として、ポリイミド樹脂を適用したが、これに限らず、フッ素系樹脂又はシリコーン樹脂等も適用することができる。
【0035】
また、上記第1〜第3実施例では、多数の孔71を有した第1の金属層7を備えるプラズマ発生装置について例示したが、
図11に示すように、孔を有しない第1の金属層7’’を備えたプラズマ発生装置も、この発明の範囲に含まれることは勿論である。
【0036】
さらに、上記実施例では、電源として交流電源6を適用したが、第1及び第2の電極に印加する電圧は、交流電圧だけでなく、例えば急上昇して急降下するパルス状の電圧等、正方向でのみ(又は負方向でのみ)で変化する電圧をも含む概念である。