(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
光重合性基が、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、エポキシ基、オキセタン基およびビニルエーテル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を含む光重合性基である、請求項1または請求項2に記載の接着性組成物。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスにおいて、ICパターンを微細化することで、小型化、多機能化および高速化等の高性能化がなされてきた。しかしながら、ICパターンの微細化は技術的限界が懸念されており、2次元配置の半導体チップを厚み方向へ積層させ3次元配置とし、半導体チップを3次元実装することで、微細化によらずに半導体デバイスの高集積化をはかる3次元実装技術が注目されており、例えば、非特許文献1に3次元Large Scale Integration(以下、LSIと呼ぶことがある)実装のためのTSV技術の研究開発動向が報告されている。
【0003】
3次元実装において、LSI等の集積度の高い半導体デバイスにおいては、複数の半導体チップを金属細線のワイヤボンディングによって電気的に接続させて1つの半導体デバイスとしてパッケージングする、System in Package(以下、SiPと呼ぶことがある)と呼ばれる3次元実装技術が実用化されている。しかしながら、SiPによる半導体チップの3次元実装において、半導体チップの外側にワイヤボンディングを行うためのスペースが必要となる。スペースを必要とすることは、半導体チップの小型化に不利である。当該スペースをなくして、さらに集積度を高める技術として、半導体チップ内を縦方向に貫通したシリコン貫通電極(TSV)を用いた3次元実装技術がある。
【0004】
TSVを用いた3次元実装技術において、半導体チップを積層させた半導体デバイスにTSVを得るための基板加工は、例えば、ICパターンが形成されたシリコン基板に穴溝を掘る工程、次いでシリコン基板の裏面を薄く研磨し、穴溝が貫通した貫通孔を得る工程、その後、貫通孔を得たシリコン基板を貼り合わせ積層した半導体デバイスを得る工程を有する。その後、貫通孔にシリコン貫通電極(TSV)を形成する。
【0005】
このうち、シリコン基板の裏面を薄く研磨し貫通孔を得る工程では、ICパターンが形成されたシリコン基板を、サポート基板とよばれる支持体上に接着剤で貼りつけた状態で研磨する必要がある。サポート基板には、通常、入手しやすく安価なことよりガラス基板が用いられる。裏面を研磨し薄くなったシリコン基板を、サポート基板より取り外し積層させて、貫通孔にTSVを加工して半導体チップが3次元実装される。このようして、ICパターンを形成した半導体チップを積層させた半導体デバイスが得られる。
【0006】
前記工程で用いられる接着剤に要求される特性としては、シリコン基板とサポート基板を良好に接着させること、耐熱性があること、およびシリコン基板を研磨し穴溝加工部を貫通孔とした後に、シリコン基板からサポート基板を剥離させた後に、シリコン基板側に接着剤の付着した接着残渣がないこと、またはあったとしても容易に除去できることが挙げられる。この際、シリコン基板からサポート基板を剥離させる剥離方法は、簡便であることが好ましい。
【0007】
特許文献1〜3に、TSV形成に使用可能な接着剤が開示されている。
【0008】
例えば、特許文献1には、特定の熱可塑性組成物を溶媒に分散または溶解させたものであり、アクティブウエハをキャリアウエハまたは基板に接合して、その後の処理や取り扱い中にアクティブウエハまたはその活性部位を保護するのに有用である、接合用組成物の使用方法が開示される。接着性組成物は接合層を形成し、当該接合層は、耐薬品性および耐熱性を有するが、製造工程の適切な段階でウエハをスライドさせて離間させることができるように軟化させることができるとされる。離間(剥離)時には接着剤を高温で軟化させたまま、機械的な力で2枚の基板を剥離させ、最後にシリコン基板に付着した接着残渣を溶剤で洗浄している。
【0009】
また、特許文献2には、マレイミド基を有するモノマーを含んでいる単量体組成物を共重合してなるポリマーを主成分とする接着剤組成物であって、熱重合禁止剤をさらに含んでいることを特徴とする接着剤組成物が開示されており、剥離時に2枚の基板を有機溶剤へ浸漬させ、剥離すると同時に接着剤を溶解させている。
【0010】
また、特許文献3には、逆に装着されたデバイスウエハをキャリヤー基板から分離する方法および装置が開示されている。本方法は、ウエハであるシリコン基板の外周部分のみに接着剤を使用し、シリコン基板の内側は接着力を発現しない樹脂を用い支持して、接着残渣が内側には発生しないようにしている。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の接着性組成物およびその使用方法、接着後の剥離方法は、光照射によって迅速な接着を行うことができ、接着後の基板研磨等に耐える接着力および耐熱性を有し、さらに不要時には剥離することができるので、例えば、半導体デバイス製造用途に適し、好ましくは半導体デバイス製造用の接着性組成物およびその接着方法、および接着後の剥離方法に採用される。さらに好ましくは、シリコン貫通電極(TSV)を有する半導体デバイス製造用の接着性組成物およびその使用方法、接着後の剥離方法に採用される。本発明の接着性組成物およびその使用方法、接着後の剥離方法について、以下に説明する。
【0026】
1.接着性組成物
本発明の接着性組成物は、光重合性基を有するかご型シルセスキオキサン、光重合開始剤および発泡剤を含む。また、本発明の接着性組成物において、前記光重合性基が、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、エポキシ基、オキセタン基およびビニルエーテル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を含む光重合性基であることが好ましい。
【0027】
以下、本発明の接着性組成物の要素について、それぞれ説明する。
【0028】
1−1.光重合性基を有するかご型シルセスキオキサン
かご型シルセスキオキサンは、球状シリケート(Spherosilicate)とも呼ばれる化合物である。
【0029】
本発明の接着性組成物が含む、光重合性基を有するかご型シルセスキオキサンは、以下の構造を有するオクタ(ジメチルシリル)オクタシルセスキオキサンをヒドロシリル化反応させるによって得ることができる。
【化1】
【0030】
光重合基を有するかご型シルセスキオキサンは、以下の一般式で表わされるシロキサン化合物であることが好ましい。
【化2】
【0031】
光重合性基は基BのXの部位に含まれている。光重合性基は、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、エポキシ基、オキセタン基およびビニルエーテル基からなる群から選ばれる少なくとも一種の基を含む光重合性基であり、このような光重合性基を含む基Bとして、例えば以下の構造を有するものを例示することができる。
【化3】
【0032】
これらの構造を有する光重合性のかご型シルセスキオキサンは室温で液体であり、本発明の接着性組成物として使用することができる。
【0033】
光重合基を有するかご型シルセスキオキサンの別の例としては、以下の一般式で表わされる化合物が挙げられる。
【化4】
【0034】
基Lは1個以上、8個以下であり、基Lと基Mの総和は8である。光重合性基は基LのX部分に含まれており、具体的には先述したアクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、エポキシ基、オキセタン基およびビニルエーテル基からなる群から選ばれる少なくとも一種の基を含む光重合性基である。
【0035】
基Mは光照射によってラジカル等を発生し化学変化する光重合開始剤に対して不活性な基であり、例えば、Yの部位に水素原子、または二重結合を含まない、アルキル基もしくはアリール基を含む基等が挙げることができる。このような基Mとして、例えば以下の構造を有するものを例示することができる。
【化5】
【0036】
1−2.光重合開始剤
本発明の接着性組成物が含む光重合開始剤は、可視光または紫外光の照射により、ラジカルまたはカチオンを発生するものである。発生したラジカルまたはカチオンを開始点として、重合が開始し接着性組成物を高分子化し硬化させることで、基板等を接着することができる。
【0037】
本発明の接着性組成物に用いる光重合開始剤には、光ラジカル重合開始剤または光カチオン重合開始剤を用いることが好ましい。当該光重合性開始剤は、かご型シルセスキオキサンが含む光重合基の種類により選択される。重合性基がアクリロイル基、メタクリロイル基およびビニル基である場合は、光ラジカル重合開始剤を用いることが好ましく、重合性基がエポキシ基、オキセタン基およびビニルエーテル基である場合は光カチオン重合開始剤を用いることが好ましい。
【0038】
光ラジカル重合開始剤には、分子内の結合が高エネルギー線の吸収によって開裂してラジカルを生成する分子内開裂型と、3級アミンやエ−テル等の水素供与体を併用することによってラジカルを生成する水素引き抜き型等がある。本発明の接着性組成物において、光ラジカル重合開始剤は、光を吸収することでラジカルを発生し、前記の光重合性基を有するかご型シルセスキオキサン化合物を重合することができればよい。
【0039】
例えば、分子内開裂型である2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製、商品名Darocur1173)は、光照射(特に波長200nm以上、420nm以下の紫外線領域の光)によって、炭素−炭素結合が開裂することでラジカルを生成する。
【0040】
また、水素引き抜き型としては、ベンゾフェノン、オルソベンゾイン安息香酸メチル、4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイド、カンファ−キノン等が、水素供与体との2分子反応によって、ラジカルを生成する。これらのラジカルの作用によって、アクリロイル基、メタクリロイル基またはビニル基の二重結合が開裂して重合する。
【0041】
その他、市販の光ラジカル重合開始剤を用いることができる。例えば、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製の光ラジカル重合開始剤Darocurシリ−ズから、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン(商品名、Darocur1173)、DarocurTPOまたはIrgacureシリ−ズから、2−ヒロドキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン(商品名Irgacure127)、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(商品名、Irgacure184)、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン(商品名、Irgacure2959)、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1(商品名、Irgacure369、Irgacure379)、2−(ジメチルアミノ)−2−[(4−メチルフェニル)メチル]−1−[4−(4−モルホリニル)フェニル]−1−ブタノン(商品名、Irgacure379EG)、オキシフェニル酢酸と2−[2−オキソ−2−フェニルアセトキシエトキシ]エチルエステルとオキシフェニル酢酸と2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチルエステルの混合物(商品名、Irgacure754)、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン(商品名、Irgacure907、Irgacure1700、Irgacure1800、Irgacure1850、Irgacure1870)、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド(商品名、Irgacure819)、ビス(η5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロ−ル−1−イル)−フェニル)チタニウム(商品名、Irgacure784)またはIrgacure4265を使用することができる。
【0042】
光カチオン重合開始剤は、高エネルギー線の照射によって、カチオン重合を開始させる酸触媒を発生させる化合物であり、特にオニウム塩の化学構造を有するものが保存安定性および耐熱性の面で有用である。市販の光カチオン重合開始剤としては、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモナート(みどり化学株式会社製、商品名TPS103)またはビス(4−tert−ブチルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロアンチモナート(みどり化学株式会社製、商品名BBI−103)を挙げることができる。
【0043】
本発明の接着性組成物に用いる、光重合開始剤の光の吸収効率を向上させる目的で、光増感剤を添加する事もできる。光増感剤として、例えばアントラセン、2−エチル−9,10−ジメトキシアントラセンまたは2−イソプロピルチオキサントンを使用することができる。また市販の増感剤として、日本化薬株式会社製、商品名、KAYACURE DETX−Sを挙げることができる。
【0044】
1−3.発泡剤
本発明の接着性組成物には、加熱により気体を発生する発泡剤を用いることが好ましい。当該発泡剤には、加熱によって化学構造が変わり気体を発生する化合物、吸着成分が脱離して気体を発生する化合物、または、熱的に不安定な化学結合を有し加熱により分解して気体を発生する有機化合物が挙げられる。本発明の接着性組成物において、所望の発泡温度を有する発泡剤を選択することで、基板が剥離する際の温度を、所望の温度に調整できる。特に、TSV用貫通孔の加工において本発明の接着性組成物により接着してなるサポート基板からシリコン基板が、自発的に剥離する際の温度を、所望の温度に調整できる。
【0045】
加熱によって化学構造が変わり発泡する発泡剤は、有機化合物と無機化合物とに分けられる。有機化合物の例としては、約245℃で窒素およびアンモニア等を発生するヒドラゾジカルボンアミド(三協化成株式会社製、商品名セルマイク142)、200℃近傍で窒素および二酸化炭素等を発生するアゾジカルボンアミド(三協化成株式会社製、商品名セルマイクCE)、200℃近傍で窒素等を発生するN、N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン(永和化成工業株式会社製、商品名セルラーD)、160℃近傍で窒素等を発生する4、4’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)(永和化成工業株式会社製、商品名ネオセルボン)が挙げられる。無機化合物の例としては、140℃以上で二酸化炭素を発生する炭酸水素ナトリウムが挙げられる。また市販の発泡剤として、325℃近傍で窒素を発生する永和化成工業株式会社製、商品名、セルテトラBHT−2NH3、350℃近傍で窒素を発生する永和化成工業株式会社、商品名、セルテトラBHT−PIPEが挙げられる。
【0046】
加熱によって吸着成分が脱離して気体を発生する化合物としては、例えば、300℃近傍で吸着水を分離し水蒸気を発生するホウ酸亜鉛(早川商事株式会社製、商品名 FireBreakZB)が挙げられ発泡剤として使用することができる。
【0047】
熱的に不安定な化学結合を有し加熱により分解して気体を発生する有機化合物には、ヘミアセタール結合、3級カーボネート結合、3級カルボキシレート結合、アセタール結合またはスルホン酸エステルを有する化合物が挙げられる。これらの結合を有する有機化合物は、所定の温度で熱分解することから、その熱分解生成物を発泡剤として使用することができる。当該有機化合物とは、例えば、以下に示す反応式(1)〜(5)に従って、熱分解する有機化合物である。尚、R
5、R
6はアルキル基またはアリール基を示す。
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【0048】
1−4.その他、添加物
本発明の接着性組成物に、シリコン基板と接着性組成物の接着力を向上させる等、接着力を制御する目的で、極性基を有する化合物を添加しても良い。例えば、メタクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、ペンタエリスリトールトリアクリレート(大阪有機化学工業株式会社製、商品名ビスコート#300)、エポキシアクリレート(大阪有機化学工業株式会社製、商品名ビスコート#540)、トリ(2−アクリロイルオキシエチル)ホスフェート(大阪有機化学工業株式会社製、商品名ビスコート3PA)、またはビス(2−メタクリロイルオキシエチル)リン酸エステル(日本化薬株式会社製、商品名KAYAMER PM−2)等の極性基を有する化合物を添加することで、より強固な接着が可能になる。
【0049】
当該化合物は、接着性組成物の全質量に対して、1質量%以上、40質量%以下で添加することができる。1質量%より少ないと接着力を向上させる効果がなく、40質量%を超えて加える必要はなく、光重合性基を有するかご型シルセスキオキサン、光重合開始剤、発泡剤の作用を阻害する虞がある。
【0050】
1−5.接着性組成物の組成比
本発明の接着性組成物の組成比は、光重合性基を有するかご型シルセスキオキサン、光重合開始剤、発泡剤を含有しており、質量比で表して、光重合性基を有するかご型シルセスキオキサン、光重合開始剤および発泡剤が、かご型シルセスキオキサン:光重合開始剤:発泡剤=50質量%〜98%質量:1質量%〜10質量%:1質量%〜質量49%の範囲内であることが好ましい。この範囲外では接着力が弱い、発泡し過ぎる等の不具合を生じやすい。
【0051】
2.接着方法
本発明の接着性組成物を用いた接着方法について説明する。特に、3次元実装技術におけるTSVのための貫通孔加工における、シリコン基板とサポート基板の接着方法について説明する。
【0052】
本発明は、上記接着性組成物で基板同士を接着させる、接着方法である。当該接着方法をTSVによる3次元実装技術における貫通孔加工用いる場合、接着させる基板同士とは、ICパターン加工のためのシリコン基板と、シリコン基板を研磨する際の支えのためのサポート基板であり、サポート基板には安価なガラス基板を用いることが好ましい。これら基板間に配置された接着性組成物に光を照射して接着性組成物を硬化させ、基板同士を接着させることが好ましい。この際、接着性組成物との接着強度を向上させるために、ガラス基板の接着面に光重合性基を有するアルコキシシランの加水分解縮合物を予め塗布してあることが好ましい。
【0053】
以下、
図1を用いて、TSVによる半導体チップの3次元実装技術における、本発明の接着性組成物を用いた接着方法を説明するが、本発明の接着性組成物を用いた接着方法の実施形態は
図1に限定されるものではない。
【0054】
図1は、ガラス基板とシリコン基板の接着および剥離工程の説明図であり、(A)が接着前の概略図であり、(B)が接着後の概略図であり、(C)が剥離後の概略図である。
【0055】
即ち、TSVによる半導体チップの3次元実装技術における、本発明の接着性組成物を用いた接着方法の好ましい実施形態は、
図1の(A)に示すように、光重合性基を有するアルコキシシランの加水分解縮合物をあらかじめ片面に塗布し塗布層1としたサポート基板としてのガラス基板Gの塗布面と、本発明の接着性組成物2を有するシリコン基板Sを重ね合わせ、
図1の(B)に示す積層状態とした後、塗布層1および接着性組成物2に光を照射して、ガラス基板Gとシリコン基板Sを接着する接着方法である。尚、接着において、ガラス基板Gおよびシリコン基板Sの表面は清浄であることが好ましい。
【0056】
2−1.光重合性基を有するアルコキシシランの加水分解縮合物
前述の光重合性基を有するアルコキシシランの加水分解縮合物とは、以下の一般式(1)または一般式(2)で表わされるアルコキシシランを、各々少なくとも1種類以上用い、加水分解縮合して得られる縮合物である。
【0057】
一般式(1):(R
1)
zSi(OR
2)
4−z
(式(1)中、R
1はそれぞれ独立にメチル基またはフェニル基であり、R
2はそれぞれ独立にメチル基またはエチル基であり、zは0〜3の整数である。)
一般式(2):(R
3)
zSi(OR
4)
4−z
(式(2)中、R
3は光重合性基であり、R
4はそれぞれ独立にメチル基またはエチル基であり、R
3はそれぞれ独立にアクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、エポキシ基、オキセタン基およびビニルエーテル基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基を含む光重合性基であり、zは1〜3の整数である。
【0058】
例えば、式(1)で表わされるアルコキシシランとしてのフェニルトリメトキシシラン(R
1=フェニル基、R
2=メチル基、z=1)またはジメチルジエトキシシラン(R
1=メチル基、R
2=エチル基、z=2)、および式(2)で表わされるアルコキシシランとしての3−(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレート(R
3=プロピルメタクリレート基、R
4=メチル基、z=1)から得られる加水分解縮合物は、以下に示した部分構造を有しているものと考えられる。尚、図中の波線は、その先も結合が連続していることを意味する。
【化11】
【0059】
2−2.サポート基板
TSVによる3次元実装技術において、シリコン基板Sと貼り合わせるためのサポート基板は、ガラス基板または石英等を用いる。ガラスの種類としては、ソーダライムガラス、無アルカリガラス、またはホウケイ酸ガラスのいずれを使用してもよい。半導体チップを浸す可能性のあるアルカリ分を含まず、半導体製造における使用実績があること、価格が安いこと等を考慮すると、無アルカリガラスの使用が好ましい。
【0060】
2−3.予備接着工程[予めガラス基板に塗布層形成]
TSVによる3次元実装技術においては、
図1に示すように、本発明の接着剤組成物により接着する際に、サポート基板、例えば、ガラス基板Gに、光重合性基を有するアルコキシシランの加水分解縮合物を有機溶剤に溶解させたキャスト溶液を予め塗布した、塗布層1を形成することが好ましい。さらに、塗布後、加熱して塗布層1から有機溶剤を除去し、そのまま当該縮合物を硬化させることで、ガラス基板Gの表面に塗布層1を形成することが好ましい。
【0061】
その際の光重合性基は、接着性組成物層2中に含まれる光重合性基と同一、もしくは類似の光重合性基であることが好ましい。例えば、その後のガラス基板Gとシリコン基板Sの接着に使用する、接着性組成物中2に重合性基としてメタクリロイル基が含まれる場合、ガラス基板に予め塗布し塗布層1に用いる、光重合性基を有する前記アルコキシシランの加水分解縮合物には、メタクリロイル基またはアクリロイル基を含むことが好ましい。このように光重合性基に同一、もしくは類似の光重合性基を用いることで、予め光重合性基を有する前記アルコキシシランの加水分解縮合物を塗布してなるガラス基板上の塗布層1と本発明の接着性組成物を塗布してなるシリコン基板の接着性組成物層2に化学結合を形成させ、より強固に接着させることが可能となる。前記塗布層1は多数のシラノール基を有しており、ガラス表面と極めて強固に接着し、接着性組成物層2と化学結合する。具体的には、ガラス基板表面のシラノール基(−SiOH)に、重合性基を有するアルコキシシランの加水分解縮合物のシラノール基が結合し強い接着が得られる。
【0062】
塗布層1を形成する際、ガラス基板Gの表面を親水化した後、前記キャスト溶液をガラス基板Gに塗布することが好ましい。尚、ガラス基板G表面を親水化する方法はどのような方法を用いてもよいが、例えば、セリアによるガラス基板G表面の湿式研磨、紫外光(UV)照射、オゾンまたは酸素プラズマ接触によるガラス基板G表面の有機物を分解させる乾式処理、濃硫酸と30質量%濃度の過酸化水素水を質量比で3:1で混合させた溶液でガラス基板G表面を清浄化するピラニア処理が挙げられ、親水化処理ができれば、いずれの方法を用いてもよい。
【0063】
ガラス基板Gに塗布層1を形成する際に、キャスト液に用いる有機溶剤としては、加水分解縮合物を溶解させることができる有機溶剤であれば、特に限定はされない。例えばプロピレングリコールメチルエーテルアセテート(Propylene Glycol Methyl Ether Acetate;以下、PGMEAと呼ぶことがある)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(Propylene Glycol Monomethyl Ether;以下、PGMEと呼ぶことがある。)等が挙げられる。塗布の方法としては、ガラス基板G上に平坦な薄膜が形成できる方法であればよく、スピンコート法、ディップコート法、バーコート法、ロールコート法またはスリットコート法が挙げられる。これらの方法の中で、半導体プロセスで一般的に使用され、塗布面に良好な平坦性が得られるスピンコート法を用いることが好ましい。塗布層1の厚みは特に限定されないが、スピンコート法で成膜する場合、膜厚0.5μm〜3μmの膜が形成しやすく好ましい。
【0064】
尚、キャスト溶液中に光重合開始剤を添加することもでき、接着時の紫外線照射によって、塗布層1と接着性組成物層2の間で、より広範囲で化学結合の形成が行われ、強固な接着が期待でき、光重合開始剤を添加することが好ましい。
【0065】
2−4.接着工程
ガラス基板Gの塗布面に本発明の接着性組成物を塗布し接着性組成物層2を設ける際の塗布方法には、スピンコート法、ロールコート法、スリットコート法、スクリーン印刷法またはインクジェット法が挙げられる。
【0066】
図1に示すように、シリコン基板Sとガラス基板Gの間に接着性組成物層2を配し、接着性組成物層2の反対側であるガラス基板Gの裏面側より、光を照射させることで接着を行う。接着性組成物層2は、光の照射を行うことで、光重合開始剤の作用により重合反応が進行硬化し、シリコン基板Sとガラス基板Gとが接着する。
【0067】
その際、光の波長は光重合開始剤の吸収波長を考慮して選択すればよく、特に限定されるものではないが、光源である発光装置の価格および入手の容易さ等を考慮すると、好ましくは波長200nm以上、470nm以下の光が使いやすい。本波長域の紫外線の光源には、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、中圧水銀灯、低圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンフラッシュランプまたは紫外発光ダイオード(LED)が挙げられる。前述のようにガラス基板Gには、接着強度を上げるための塗布層1を、予め設けることが好ましい。
【0068】
光重合開始剤に2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製、商品名、Darocur1173)を用いた場合は、高圧水銀灯や超高圧水銀灯といった紫外線を用いる。また、光重合開始剤にビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド(商品名、Irgacure819)を用いた場合は、光重合開始剤の吸収が長波長側にも存在することから、高圧水銀灯、超高圧水銀灯の他に、波長405nmや420nm、若しくは470nmのLED光源を用いることもできる。
【0069】
尚、本発明の接着性組成物による接着方法を用いれば、TSV加工時にシリコン基板Sとサポート基板としてのガラス基板Gを接着させる場合、ガラス基板Gの裏面側より接着性組成物層2に対し光を照射することで、接着性組成物層2を硬化させ、室温(20℃)にてシリコン基板Sとガラス基板Gを迅速に接着することができる。
【0070】
3.剥離方法
本発明の接着性組成物およびそれを用いた接着方法による接着部位は、加熱することで発泡し、剥離することができる。本剥離は、接着性組成物に含まれる発泡剤の作用による。
【0071】
本発明の剥離方法は、本発明の接着性組成物を用いて、シリコン基板Sとガラス基板Gを接着させた後、加熱してシリコン基板Sとガラス基板Gを剥離する剥離方法である。本発明の接着性組成物は発泡剤を含んでおり、加熱により接着性組成物層2中の発泡剤が発泡することにより、シリコン基板Sとガラス基板Gが剥離する。
【0072】
具体的には、
図1の(C)に示すように、光照射により硬化した接着性組成物層2中の発泡剤が加熱することで発泡することで、シリコン基板Sと接着性組成物層2の間で剥がれて、シリコン基板Sとガラス基板Gが剥離する。その際、シリコン基板S側には接着性組成物の残渣が残らないため、シリコン基板Sを洗浄する必要はない。このことは、ガラス基板Gと塗布層1との接着力、および塗布層1と接着性組成物層2の結合が、接着性組成物層2とシリコン基板Sの接着力より強いことによる。表面にシラノール基を多数有するガラス基板Gに比べ、シリコン基板S表面はシラノール基がないか、または少ない。
【0073】
例えば、TSVの3次元実装等のためには、シリコン基板Sとガラス基板Gが接着した状態で、ホットプレートまたはオーブン等を用いて、発泡剤が発泡開始する温度以上に加熱し、本発明の接着性組成物層2を発泡させて、ガラス基板Gとシリコン基板Sを剥離する。発泡剤にヒドラゾジカルボンアミド(発泡温度:245℃)を使用した場合、剥離温度は、その発泡温度をやや上回る温度が好ましく、具体的には260℃が好ましい。発泡剤が発泡することによって、シリコン基板Sとガラス基板Gが自発的に剥離する。接着性組成物層2の残渣はシリコン基板S側には残らず、すべてガラス基板G側へ付着する。
【0074】
即ち、上記理由により、剥離は接着性組成物層2とシリコン基板Sの間で選択的に生じ、接着性組成物層2の残渣はシリコン基板S側に付着しない。
【0075】
4.本発明の接着性組成物の積層半導体への応用
本発明の接着性組成物はTSVによる半導体チップの3次元実装技術に有用であり。本発明の接着性組成物によるTSVによる3次元実装技術は、次世代のマイクロプロセッサー等のロジック半導体、Dynamic Random Access Memory(DRAM)等の揮発性メモリー、フラッシュメモリー、またはMicro Electro Mechanical Systems(MEMS)への応用が考えられる。
【実施例】
【0076】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0077】
始めに、ガラス基板Gに塗布層1を設けるための光重合基を有するアルコキシシランの加水分解縮合物を合成した。続いて、それをプロピレングリコールメチルエーテルアセテート(PGMEA)へ溶解させ、キャスト溶液を調整した後、ガラス基板Gに無アルカリガラスを用いその表面を塗布した。
【0078】
次に接着性組成物として、以下の2種類の接着性組成物を調整した。実施例1においては、光重合性基を有するかご型シルセスキオキサンを合成し、そこへ光重合開始剤、所定の温度で発泡する発泡剤を添加して接着性組成物とし、シリコン基板Sへ塗布して接着性組成物層2を得た。
【0079】
実施例2においては、実施例1の接着性組成物中に、無アルカリガラス基板とシリコン基板Sの接着強度を上げるための極性基を有する化合物を添加した。得られた接着性組成物を用いて接着性組成物層2を得、無アルカリガラス基板Gとシリコン基板Sを紫外線照射にて接着し、その後、加熱によって剥離させた。剥離後のシリコン基板Sの表面を目視で観察し、接着性組成物層2の残渣が付着していない結果を良好と判断した。
【0080】
比較例1として、本発明の範疇にない発泡剤を含まない接着性組成物を評価した。次いで、参考例1として、ガラス基板に塗布層1を設けない接着方法を評価した。参考例2として、ガラス基板のセリア研磨を行わない接着方法を評価した。
【0081】
実施例1
<光重合性基を有するアルコキシシランの加水分解縮合物の合成>
ジムロートと撹拌翼を具備した2Lフラスコ内にフェニルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、商品名 KBM−103)140.40g、ジメチルジエトキシシラン(信越化学工業株式会社製、商品名 KBE−22)131.14g、3−(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレート(東京化成株式会社製)48.56g、イソプロピルアルコール213.32g、水160.96g、酢酸0.10gを採取した後、オイルバスにて90℃まで昇温した状態で、撹拌速度200rpmにて6時間撹拌し反応させた。静置し室温(20℃)にした後、イソプロピルエーテル400ml、水400mlを加えて、分液ロートにて有機層を分取した。硫酸マグネシウムを用いて脱水した後、エバポレーターにて有機溶媒を留去して、無色透明の固形物170.68gを得た。このようにして光重合性基を有するアルコキシシランの加水分解縮合物を得た。次いで、当該縮合物をPGMEAへ溶解させ、縮合物濃度33質量%のキャスト溶液とした。
【0082】
<ガラス基板への塗布>
直径100ミリ、厚み1.1ミリの無アルカリガラス基板G(コーニング株式会社製、品番 7059)の表面を酸化セリウムの微粒子(アルドリッチ株式会社製)で研磨した。続いて上記キャスト液を、スピンコーターを用いて、無アルカリガラス基板G表面に1000rpmで10秒間、スピンコートした。次いで、200℃のホットプレート上にて約20分間加熱乾燥させて、無アルカリガラス基板Gの表面に塗布層1を形成した。触針式表面形状測定器(米国Veeco製、形式 Dektak8)を用いて塗布層1の厚みを測定したところ、0.7μmであった。
【0083】
[接着性組成物の調製]
<光重合性かご型シルセスキオキサンの合成>
以下の反応式(6)にしたがって、メタクリロイル基を有するかご型シルセスキオキサンを合成した。
【0084】
200mlナスフラスコ内にオクタ(ジメチルシリル)オクタシルセスキオキサン(米国ハイブリッドプラスチックス社、商品名SH1310)10.26g、メタクリル酸アリル10.81g(東京化成株式会社製)、トルエン100ml、白金触媒として1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン白金(0)錯体のキシレン溶液(白金濃度、2質量%)(アルドリッチ株式会社)30mgを採取した後、室温(20℃)で終夜(24hr)撹拌した。その後、エバポレーターでトルエンと未反応のメタクリル酸アリルを除去し、光重合性かご型シルセスキオキサンを薄黄色の液体として、17.6gを得た。
【化12】
【0085】
<接着性組成物の調製>
上記光重合性かご型シルセスキオキサンから分取した1.03gに、光ラジカル重合開始剤(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製、商品名、Darocur1173)を0.02g、発泡剤として炭酸水素ナトリウム(和光純薬株式会社製)を0.26g加え、接着性組成物を得た。
【0086】
[シリコン基板とガラス基板の接着および剥離評価]
直径100ミリのシリコン基板S上に前記接着性組成物0.6gをスピンコーターで塗布し接着性組成物層2を形成した。次いで、
図1の(B)に示すように、このシリコン基板Sを、塗布層1と接着性組成物層2が接するように、無アルカリガラス基板Gと重ね合わせた。紫外線を、無アルカリガラス基板Gから見て、接着性組成物層2の反対側より紫外線照射機(HOYA−SCHOTT製、商品名、UV LIGHT SOURCE EX250)で紫外線を30秒間照射して、塗布層1と接着性組成物層2を硬化させ、シリコン基板Sと無アルカリガラス基板Gを接着した。次いで、接着したシリコン基板Sと無アルカリガラス基板Gを、ホットプレートを用いて、室温(20℃)から160℃まで昇温させたところ、160℃に到達後、接着性組成物層2中の発泡剤が発泡開始し、約1分後にシリコン基板Sと無アルカリガラス基板Gが自発的に剥離した。剥離はシリコン基板Sと接着性組成物層2の間で起こり、接着性組成物層2の残渣はガラス基板Gのみに付着しており、シリコン基板Sへの残留付着は認められなかった。このことは、剥離は接着性組成物層2とシリコン基板Sの間で選択的に生じたことによる。
【0087】
実施例2
実施例1の接着性組成物中に、無アルカリガラス基板とシリコン基板Sの接着強度を上げるための極性基を有する化合物である、ペンタエリスリトールトリアクリレート(大阪有機化学工業株式会社製、商品名 ビスコート#300)を、前記光重合性シルセスキオキサンに対して20質量%添加し、さらに発泡剤を炭酸水素ナトリウムからヒドラゾジカルボンアミドに変更した以外は、実施例1と同様の無アルカリガラス基板G、シリコン基板Sを用い、実施例1と同様の手順で評価した。
【0088】
[シリコン基板とガラス基板の接着および剥離評価]
シリコン基板Sに接着性組成物を0.6g塗布し、無アルカリガラス基板Gと貼り合わせた。実施例1と同様にして紫外線を30秒間照射して、接着させた。続いて剥離を行うため、ホットプレートを用いて、室温(20℃)から260℃まで昇温させた。260℃に到達後、接着性組成物層2中の発泡剤が発泡開始し、約40秒後に、シリコン基板Sと無アルカリガラス基板Gが剥離した。剥離はシリコン基板Sと接着性組成物層2の間で起こり、接着性組成物層2の残渣はガラス基板Gのみに付着しており、シリコン基板Sへの残留付着は認められなかった。このことは、剥離は接着性組成物層2とシリコン基板Sの間で選択的に生じたことによる。
【0089】
以上、実施例1、2によって、本発明の接着性組成物が、シリコン基板Sと無アルカリガラス基板Gを接着させるのに有効に作用し、接着性組成物に含まれる発泡剤が所定の温度で発泡し、シリコン基板Sに接着性組成物層2の残渣を残すことなく、シリコン基板Sと接着性組成物層2が剥離できることを確かめた。
【0090】
比較例1
接着性組成物中に発泡剤を添加しない以外は、実施例2と同様に行った。
【0091】
詳しくは、実施例2と同様の手順で、シリコン基板Sの接着面に接着性組成物0.6gをスピンコーターにて塗布し接着性組成物層2を設け、塗布層1を設けた無アルカリガラス基板Gと貼り合わせた。実施例2と同様の手順で、紫外線を30秒間照射して、シリコン基板Sと無アルカリ基板Gを接着させた後、ホットプレートにて室温から260℃まで昇温させた。しかしながら、発泡剤が添加されていないため、260℃においても剥離しなかった。さらにホットプレートの温度を上げたところ、320℃においても、剥離しなかった。320℃において、接着性組成物層2に白濁が認められ、接着性組成物層2に変質が生じていた。このように接着性組成物中に発泡剤を添加しない場合、剥離の駆動力に発泡を用いることが出来ないため、シリコン基板Sと無アルカリガラス基板Gを自発的に剥離させることはできなかった。
【0092】
参考例1
無アルカリガラス基板Gに塗布層1を設けず、セリアによる研磨のみで表面処理した無アルカリガラス基板Gを使用した以外は、実施例1と同様に行った。
【0093】
詳しくは、実施例1と同様の手順で、シリコン基板Sの接着面に接着性組成物0.6gをスピンコーターにて塗布し接着性組成物層2を設け、塗布層1を設けていない無アルカリガラス基板Gと貼り合わせた。実施例1〜3と同様の手順で、紫外線を30秒間照射して、シリコン基板Sと無アルカリ基板Gを接着させた後、ホットプレートにて室温から160℃まで昇温させた。160℃に到達後、約1分後に、シリコン基板Sと無アルカリガラス基板Gが剥離した。接着残渣はシリコン基板Sとガラス基板Gの両方に付着しており、良好な結果は得られなかった。このように無アルカリガラス基板Gに塗布層1を設けない場合、アルカリガラス基板Gと接着性組成物層2の接着力が低下し、シリコン基板Sにも接着残渣が観測された。
【0094】
参考例2
接着面のセリア研磨を行わずに塗布層1を設けた無アルカリガラスGを使用した以外は、実施例1と同様に行った。
【0095】
詳しくは、実施例1と同様の手順で、シリコン基板Sの接着面に接着性組成物0.6gをスピンコーターにて塗布し接着性組成物層2を設け、塗布層1を設けた無アルカリガラス基板Gと貼り合わせた。実施例1と同様の手順で、紫外線を30秒間照射して、シリコン基板Sと無アルカリガラス基板Gを接着させた後、ホットプレートにて室温から160℃まで昇温させた。160℃に到達後、約1分後に、シリコン基板Sと無アルカリガラス基板が剥離した。接着残渣はシリコン基板とガラス基板の両方に付着しており、良好な結果は得られなかった。このように無アルカリガラス基板Gにセリア研磨処理を行わない場合、アルカリガラス基板Gと塗布層1の接着力が低下し、シリコン基板Sにも接着残渣が観測された。
【0096】
[評価結果]
表1に実施例1、2の結果を、表2に比較例1、参考例1、2の結果を纏めた。
【表1】
【0097】
表1に示すように、実施例1、2においては、無アルカリガラス基板Gをセリア研磨した後、加水分解縮合物で塗布した。無アルカリガラス基板Gの当該塗布面とシリコン基板Sとを、本発明の接着性組成物で接着させた後、発泡剤の作用によって、剥離させた実験の結果である。何れの結果においても所望の温度で剥離し、シリコン基板Sに接着残渣は認められず、良好な結果であった。
【表2】
【0098】
表2において、比較例1に発泡剤を用いなかった場合の実験結果、参考例1に加水分解縮合物による塗布を行わなかった場合の実験結果、参考例2にアルカリガラスG接着面のセリア研磨を行わなかった場合の実験結果を示す。比較例1の発泡剤を用いなかった場合、シリコン基板Sと無アルカリガラス基板Gは加熱しても剥離しなかった。参考例1の加水分解縮合物による塗布を行わなかった場合、および参考例2の無アルカリガラスG接着面のセリア研磨を行わなかった場合、ともにシリコン基板Sに接着残渣が認められ、所望の結果が得られなかった。