特許第6277714号(P6277714)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ セントラル硝子株式会社の特許一覧

特許6277714ヘキサフルオロイソプロパノール基を含むノボラック樹脂およびその製造方法、並びにその組成物
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6277714
(24)【登録日】2018年1月26日
(45)【発行日】2018年2月14日
(54)【発明の名称】ヘキサフルオロイソプロパノール基を含むノボラック樹脂およびその製造方法、並びにその組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 8/14 20060101AFI20180205BHJP
   C08G 59/62 20060101ALI20180205BHJP
【FI】
   C08G8/14
   C08G59/62
【請求項の数】7
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2013-266476(P2013-266476)
(22)【出願日】2013年12月25日
(65)【公開番号】特開2014-141655(P2014-141655A)
(43)【公開日】2014年8月7日
【審査請求日】2016年9月9日
(31)【優先権主張番号】特願2012-283413(P2012-283413)
(32)【優先日】2012年12月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152593
【弁理士】
【氏名又は名称】楊井 清志
(72)【発明者】
【氏名】中辻 惇也
(72)【発明者】
【氏名】山中 一広
【審査官】 江間 正起
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−273619(JP,A)
【文献】 特開昭61−009420(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 8/00− 8/38
C08G 59/00−59/72
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】
(式中、Rは、水素原子、または炭素数1〜4の直鎖状もしくは炭素数3、4の分岐鎖状のアルキル基であり、アルキル基中の水素原子の一部または全てがフッ素原子で置換されていてもよく、Rは、水素原子、フェニル基、炭素数1〜10の直鎖状もしくは炭素数3〜10の分岐鎖状のアルキル基、または炭素数3〜10の環状構造を有するアルキル基であり、フェニル基およびアルキル基中の水素原子の一部または全てがフッ素原子で置換されていてもよく、aおよびbは、それぞれ独立に、1〜3の整数であり、2≦a+b≦4であり、dは0〜2の整数である。)で表される繰り返し単位を含む、ノボラック樹脂。
【請求項2】
一般式(2)
【化2】
(式中、Rは水素原子、炭素数1〜4の直鎖状または炭素数3〜4の分岐鎖状のアルキル基であり、アルキル基中の水素原子の一部または全てがフッ素原子で置換されていてもよい。)で表される繰り返し単位を含む、請求項1に記載のノボラック樹脂。
【請求項3】
一般式(3):
【化3】
(式中、Rは水素原子、炭素数1〜4の直鎖状または炭素数3〜4の分岐鎖状のアルキル基であり、アルキル基中の水素原子の一部または全てがフッ素原子で置換されていてもよく、aおよびbはそれぞれ独立に1〜3の整数であり、2≦a+b≦4であり、dは0〜2の整数である。)
で表わされる化合物を、
一般式(4)で表わされるアルデヒド化合物
【化4】
(式中、Rは、水素原子、フェニル基、炭素数1〜10の直鎖状もしくは炭素数3〜10の分岐鎖状のアルキル基、または炭素数3〜10の環状構造を有するアルキル基であり、フェニル基およびアルキル基中の水素原子の一部または全てがフッ素原子で置換されていてもよい。)
またはパラホルムアルデヒドから選ばれるアルデヒド化合物と
酸触媒下で反応させる、請求項1に記載のノボラック樹脂の製造方法。
【請求項4】
一般式(5)
【化5】
(式中、Rは水素原子、炭素数1〜4の直鎖状または炭素数3〜4の分岐鎖状のアルキル基であり、水素原子の一部または全てがフッ素原子で置換されていてもよい。)
で表わされる化合物を、
一般式(4)で表わされるアルデヒド化合物
【化6】
(4)
(式中、Rは、水素原子である。
またはパラホルムアルデヒドから選ばれるアルデヒド化合物と
酸触媒下で反応させる、請求項2に記載のノボラック樹脂の製造方法。
【請求項5】
アルデヒド化合物がホルムアルデヒドまたはパラホルムアルデヒドである、請求項3または請求項4に記載のノボラック樹脂の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載のノボラック樹脂とエポキシ樹脂と溶媒を含む、組成物。
【請求項7】
請求項6に記載の組成物が硬化してなる硬化膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘキサフルオロイソプロパノール基を含むノボラック樹脂およびその製造方法、並びにその組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、フェノ−ル樹脂は、酸触媒または塩基触媒下にフェノ−ル類とアルデヒド化合物を反応させて得られる。酸触媒下では、フェノ−ル類がメチレン鎖により連なった主鎖を有する熱可塑性のノボラック型フェノール樹脂(以下、ノボラック樹脂と呼ぶことがある)が得られる。一方、塩基触媒下では、末端にヒドロキシメチル基を有する熱硬化性のレゾ−ル型フェノール樹脂(以下、レゾール樹脂と呼ぶことがある)が得られる。ノボラック樹脂は強靭であり絶縁性を有し、バインダー、例えば、摩擦材、一般成形材、積層材、シェルモールド、砥石、注型材および発泡剤のバインダーとして幅広く使用されている。
【0003】
また、ノボラック樹脂は、電子材料分野において、フォトレジストおよび半導体封止材等に使用されている。
【0004】
例えば、ポジ型フォトレジストとしては、アルカリ現像液に可溶なノボラック樹脂とナフトキノンジアジド等のキノンジアジド基を含む組成物を用いることが知られている。尚、フォトリソグラフィでは、有機アルカリである水酸化テトラメチルアンモニウム(Tetramethyl ammonium hydroxide、以下、TMAHと呼ぶことがある)の、濃度2.38質量%の水溶液が用いられる。明細書において特に断らない限り、アルカリ現像液とは本液を指す。
【0005】
前記組成物は、フォトリソグラフィにおいて、露光後にアルカリ現像が可能であり、高い解像力を示し、IC(Integrated Circuit:)およびLSI(Large Scale Integration)等の集積回路製造、液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)の製造、並びに半導体の印刷原版であるフォトマスクの製造等に利用されている。また、優れた耐熱性も有するノボラック樹脂は、プラズマドライエッチングに利用される。
【0006】
LCDにおいては、STN(Super−twisted Nematic)からTFT(Thin Film Transistor)へ続く技術の進展に伴い、画素は微細化され、画素幅が数μmのレベルであることが求められおり、本レベルに対応する感度がレジストに要求される。レジストの重要な特性は、レジストとしての感度がよいこと、現像パターニング後のレジストパターンの解像度、基板との密着性、耐熱性および回路線幅均一度(CD uniformity)に優れること、並びに残膜率が高いことである。
【0007】
また、アルカリ現像液への溶解が速い、言いかえればアルカリ現像液に対する溶解速度(ADR:Alkali Dissolution Rate:以下、アルカリ溶解速度ということがある。)が大きいことも重要な特性である。
【0008】
これら特性の中で耐熱性を有することより、アルカリ現像液に可溶なノボラック樹脂とナフトキノンジアジド等のキノンジアジド基を含む組成物がレジストとして注目されている。
【0009】
耐熱性を向上させるため、キシレノール、トリメチルフェノール等のアルキルフェノール類を用いて検討されたレジストの例があるが、耐熱性の向上は僅かであった。また、分子量を上げて軟化点を高くし耐熱性を向上させると、分子量を上げたことでレジスト感度が低下する不具合が生じた。
【0010】
特許文献1および特許文献2に、フェノール、m−クレゾールまたはp−クレゾールに、ホルムアルデヒドまたはモノヒドロキシ芳香族アルデヒドを反応させた樹脂が開示され、高耐熱性、高解像度および高感度を両立するフォトレジスト用フェノ−ル樹脂とされている。
【0011】
一方、半導体封止材は、エポキシ樹脂と硬化剤を含む組成物が用いられ、硬化剤としては、酸無水物およびフェノール樹脂等が用いられる。しかしながら、硬化剤に酸無水物を用いたエポキシ樹脂組成物の硬化物は、透明性を有するものの耐熱性に劣り、高温の環境下で透明性が劣化しやすい、また、所望の耐湿性および保存安定性が得られない等の問題がある。硬化剤にフェノール樹脂を用いたエポキシ樹脂は、耐熱性および耐湿性を有するが、酸化することで着色する等、透明性の維持に問題がある。
【0012】
特許文献3には、光透過性および耐湿性を有するエポキシ樹脂組成物として、硬化剤に環状テルペン骨格含有ジフェノールを使用した光透明性エポキシ樹脂組成物が開示されている。
【0013】
このように、エポキシ樹脂に耐熱性、耐湿性および透明性を損なわずバランスよく併せ持たせるための、硬化剤が求められている。
【0014】
非特許文献1には、ヘキサフルオロイソプロパノール基を有するアルコキシベンゼンの製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平2−84414号公報
【特許文献2】特開2002−107925号公報
【特許文献3】特開2004−315683号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】(The Journal of Organic Chemistry,1965,30,1003−1005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、フェノール樹脂の特徴である耐熱性に加え、耐湿性、透明性をバランスよく有し、特にアルカリ溶解速度が大きいノボラック樹脂を提供することを目的とする。また、本発明は、エポキシ樹脂に対し硬化剤として使用した際に、黄変を抑制する作用のある、ノボラック樹脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前記問題を解決する手段として、本発明者らは、鋭意検討した結果、ヘキサフルオロイソプロパノール基(2−ヒドロキシ−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロピル基、−C(CFOH、以下、HFIP基と呼ぶことがある)を含む、HFIP基含有フェノール類またはHFIP基含有アルコキシベンゼン類を出発原料とし、アルデヒド化合物と重合反応を行うことで、新規なHFIP基含有ノボラック樹脂を得、本発明を完成するに至った。ノボラック樹脂に、基中のOH基とF(フッ素)の分極により極性を有するHFIP基を導入することで樹脂の極性を高め酸性側に傾かせ、アルカリ現像液に対する樹脂の溶解性を高め、アルカリ溶解速度を向上させることができる。
【0019】
尚、本発明において、フェノール類とは芳香環の水素原子がヒドロキシル基に置換した化合物をいい、アルコキシベンゼン類とはフェノール類のヒドロキシル基の水素原子がアルキル基に置換した化合物をいい、ノボラック樹脂とは、これらフェノール類またはアルコキシベンゼン類とアルデヒド化合物より合成した樹脂をいう。
【0020】
即ち、本発明は以下の発明1〜7よりなる。
【0021】
[発明1]
一般式(1)
【化1】
【0022】
(式中、Rは、水素原子、または炭素数1〜4の直鎖状もしくは炭素数3、4の分岐鎖状のアルキル基であり、アルキル基中の水素原子の一部または全てがフッ素原子で置換されていてもよく、Rは、水素原子、フェニル基、炭素数1〜10の直鎖状もしくは炭素数3〜10の分岐鎖状アルキル基、または炭素数3〜10の環状構造を有するアルキル基であり、フェニル基およびアルキル基中の水素原子の一部または全てがフッ素原子で置換されていてもよく、aおよびbは、それぞれ独立に、1〜3の整数であり、2≦a+b≦4であり、dは0〜2の整数である。)で表される繰り返し単位を含む、ノボラック樹脂。
【0023】
[発明2]
一般式(2)
【化2】
【0024】
(式中、Rは水素原子、炭素数1〜4の直鎖状または炭素数3〜4の分岐鎖状のアルキル基であり、アルキル基中の水素原子の一部または全てがフッ素原子で置換されていてもよい。)で表される繰り返し単位を含む、発明1のノボラック樹脂。
【0025】
[発明3]
一般式(3):
【化3】
【0026】
(式中、Rは水素原子、炭素数1〜4の直鎖状または炭素数3〜4の分岐鎖状のアルキル基であり、アルキル基中の水素原子の一部または全てがフッ素原子で置換されていてもよく、aおよびbはそれぞれ独立に1〜3の整数であり、2≦a+b≦4であり、dは0〜2の整数である。)
で表わされる化合物を、
一般式(4)で表わされるアルデヒド化合物
【化4】
【0027】
(Rは、水素原子、フェニル基、炭素数1〜10の直鎖状もしくは炭素数3〜10の分岐鎖状アルキル基、または炭素数3〜10の環状構造を有するアルキル基であり、フェニル基およびアルキル基中の水素原子の一部または全てがフッ素原子で置換されていてもよい。)
またはパラホルムアルデヒドから選ばれるアルデヒド化合物と
酸触媒下で反応させる、発明1に記載のノボラック樹脂の製造方法。
【0028】
[発明4]
一般式(5)
【化5】
【0029】
(式中、Rは水素原子、炭素数1〜4の直鎖状または炭素数3〜4の分岐鎖状のアルキル基であり、水素原子の一部または全てがフッ素原子で置換されていてもよい。)
で表わされる化合物を、
一般式(4)で表わされるアルデヒド化合物
【化6】
【0030】
(Rは、水素原子、フェニル基、炭素数1〜10の直鎖状もしくは炭素数3〜10の分岐鎖状アルキル基、または炭素数3〜10の環状構造を有するアルキル基であり、フェニル基およびアルキル基中の水素原子の一部または全てがフッ素原子で置換されていてもよい。)
またはパラホルムアルデヒドから選ばれるアルデヒド化合物と
酸触媒下で反応させる、発明2に記載のノボラック樹脂の製造方法。
【0031】
[発明5]
アルデヒド化合物がホルムアルデヒドまたはパラホルムアルデヒドである、発明3または発明4のノボラック樹脂の製造方法。
【0032】
[発明6]
発明1のノボラック樹脂とエポキシ樹脂と溶剤を含む、組成物。
【0033】
[発明7]
発明6の組成物が硬化してなる硬化膜。
【発明の効果】
【0034】
本発明において、ノボラック樹脂にHFIP基を導入した新規なHFIP基含有ノボラック樹脂を得た。本発明のHFIP基含有ノボラック樹脂は、ノボラック樹脂の有する耐熱性に加え、HFIP基をノボラック樹脂に含有させたことにより、アルカリ溶解速度が大きい。
【0035】
本発明のHFIP基含有ノボラック樹脂は硬化剤とした場合に、高温下でもエポキシ樹脂の黄変を抑制し、耐熱性および透明性を与える。
【発明を実施するための形態】
【0036】
1. HFIP基含有ノボラック樹脂
本発明のHFIP基含有ノボラック樹脂について、以下に示す。
【0037】
本発明は、以下の一般式(1)で表わされるくり返し単位を含むHFIP基含有ノボラック樹脂(以下、HFIP基含有ノボラック樹脂(1)と呼ぶことがある)である。
【化7】
【0038】
(式中、Rは、水素原子、または炭素数1〜4の直鎖状もしくは炭素数3、4の分岐鎖状のアルキル基であり、アルキル基中の水素原子の一部または全てがフッ素原子と置換されていてもよく、Rは、水素原子、フェニル基、炭素数1〜10の直鎖状もしくは炭素数3〜10の分岐鎖状のアルキル基、または炭素数3〜10の環状構造を有するアルキル基であり、フェニル基およびアルキル基中の水素原子の一部または全てがフッ素原子で置換されていてもよく、aおよびbは、それぞれ独立に、1〜3の整数であり、2≦a+b≦4であり、dは0〜2の整数である。)
合成の容易さおよび原料の入手の容易さから、式(1)中のRは水素原子、あるいはメチル基であることが好ましい。また、Rは水素原子であることが好ましい。また、aは1または2が好ましく、1がより好ましい。bは1が好ましい。
【0039】
HFIP基含有ノボラック樹脂(1)が含むくり返し単位には、例えば、以下のものを例示することができる。
【化8】
【化9】
【0040】
また、合成の容易さにより、HFIP基含有化合物(1)は、以下の一般式(2)で表わされるくり返し単位を含むHFIP基含有化合物である(以下、HFIP基含有化合物(2)と呼ぶことがある)ことが好ましい。
【化10】
【0041】
(式中、Rは水素原子、炭素数1〜4の直鎖状または炭素数3〜4の分岐鎖状のアルキル基であり、アルキル基中の水素原子の一部または全てがフッ素原子で置換されていてもよい。)
HFIP基含有ノボラック樹脂(2)が含むくり返し単位には、例えば、以下のものを例示することができる。
【化11】
【0042】
本発明は、アルカリ(例えばTMAH)に解け難いノボラック樹脂にHFIP基を導入することで、アルカリ溶解速度を向上させたHFIP基含有ノボラック樹脂(1)を得たものである。
【0043】
本発明のHFIP基含有ノボラック樹脂(1)は、有機溶剤に可溶であり、湿式塗布が可能であることより、レジスト材料として用いることができる。
【0044】
通常、レジスト材料の重量平均分子量が大きいとアルカリ溶解速度が小さくなり、現像においてアルカリ溶解時間が長くなる。しかしながら、本発明のHFIP基含有ノボラック樹脂(1)は、構造中にHFIP基を有することでアルカリ溶解速度が大きく、重量平均分子量が大きく高分子量であっても、アルカリ溶解時間が短いという特徴を有する。
【0045】
フォトリソグラフィにおいて、レジストのアルカリ溶解速度が大きいことは、パターニング時間が短くてすみ、溶け残りによるパターン欠陥の低下につながる。本発明のHFIP基含有ノボラック樹脂(1)は、液晶表示装置回路および半導体集積回路の微細回路製造用レジスト材料としてレジスト材料に使用するに際し、アルカリ溶解時間が短いという優位な特性を有する。
【0046】
また、HFIP基含有ノボラック樹脂(1)は、HFIP基がエポキシ基と反応するため、HFIP基を含む化合物はエポキシ樹脂の硬化剤として働き、硬化したエポキシ樹脂に透明性および高温下の使用でも黄変しない耐熱性を与えるので、フラットパネルディスプレイ用のコーティング材、電子回路用基板本体用保護膜または半導体用保護膜、または半導体封止材の製造に用いることができる。
【0047】
特にRがメチル基である場合、加熱、例えばレジストのベーキング等の操作によって、HFIP基含有ノボラック樹脂(1)中の芳香環がキノイド化し可視光吸収性の二重結合が生成することなく、透明性を維持することができるという効果がある。
【0048】
2.HFIP基含有ノボラック樹脂の製造方法
2−1.HFIP基含有化合物
本発明のHFIP基含有ノボラック樹脂(1)は、一般式(3)で表わされるHFIP基含有化合物(以下、HFIP基含有化合物(3)と呼ぶことがある)およびアルデヒド化合物を酸触媒下、反応させることにより得られる。
【0049】
即ち、本発明は、HFIP基含有化合物(3)およびアルデヒド化合物を酸触媒下で反応させる、HFIP基含有ノボラック樹脂(1)の製造方法である。尚、HFIP基含有化合物(3)は、HFIP基を一つ以上有するフェノール誘導体である
以下、順を追って説明する。
【0050】
本発明のHFIP基含有ノボラック樹脂(1)の原料化合物であるHFIP基含有化合物(3)は、一般式(3)で表わされるHFIP基含有フェノールまたはHFIP基含有アルコキシベンゼンである。
【0051】
一般式(3):
【化12】
【0052】
(式中、Rは、水素原子、または炭素数1〜4の直鎖状もしくは炭素数3、4の分岐鎖状のアルキル基であり、アルキル基中の水素原子の一部または全てがフッ素原子と置換されていてもよく、aおよびbは、それぞれ独立に、1〜3の整数であり、2≦a+b≦4であり、dは0〜2の整数である。)
本発明の本発明のHFIP基含有ノボラック樹脂(1)の原料化合物であるHFIP基含有化合物(3)は、HFIP基を一つ以上有するフェノール誘導体である。以下の反応式に示すように、HFIP基含有化合物(3)を、酸触媒下でアルデヒド化合物と重合させて、ノボラック樹脂であるHFIP基含有ノボラック樹脂(1)とする。
【化13】
【0053】
HFIP基含有化合物(3)に属するフェノール類は、原料のフェノール類を酸触媒存在下、ヘキサフルオロアセトン((CFC=O、以下、HFAと呼ぶことがある。)、またはヘキサフルオロアセトン三水和物と反応させることで合成することができ、以下の化合物を例示することができる。
【化14】
【0054】
以下の反応式に示すように、HFIP基含有化合物(3)に属するアルコキシベンゼンは、原料のアルコキシベンゼンを酸触媒存在下、ヘキサフルオロアセトンまたはヘキサフルオロアセトン三水和物と反応させることで製造することができる。以下に、アルコキシベンゼンにメトキシベンゼンを用い、ヘキサフルオロアセトンまたはヘキサフルオロアセトン三水和物と反応させてHFIP基含有化合物(3)に属するアルコキシベンゼンを得る反応式を示す。
【化15】
【0055】
また、アルコキシベンゼンを有機金属試薬と反応させる、あるいはハロゲン化アルコキシベンゼンを有機金属試薬と反応させ、金属−ハロゲン交換反応することでメタル化した後、ヘキサフルオロアセトンと反応させて合成することができる。
【0056】
HFIP基含有化合物(3)であるアルコキシベンゼンを、以下に例示する。
【化16】
【0057】
HFIP基含有化合物(3)は、合成しやすいことより、以下の一般式(5)で表わされる化合物(以下、HFIP基含有化合物(5)と呼ぶことがある。)であることが好ましい。
【0058】
一般式(5)
【化17】
【0059】
(式中、Rは水素原子、炭素数1〜4の直鎖状または炭素数3〜4の分岐鎖状のアルキル基であり、水素原子の一部または全てがフッ素原子と置換されていてもよい。)
具体的には、以下の化合物を例示することができる。
【化18】
【0060】
2−2.アルデヒド化合物
本発明のHFIP基含有ノボラック樹脂(1)を製造する際に、酸触媒下、HFIP基含有化合物(3)と反応させるアルデヒド化合物(4)は、炭素数1〜6のアルデヒド化合物である。具体的には、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒドまたはベンズアルデヒドを例示することができる。
【0061】
本発明において、ホルムアルデヒドまたはパラホルムアルデヒド、即ち(CHO)、(nは重合度)が好適に使用される。ホルムアルデヒドは、具体的にはホルムアルデヒドの37質量%以上の水溶液であるホルマリンでもよい。パラホルムアルデヒド、即ち(CHO)は、3量体であるトリオキサンに代表されるホルムアルデヒドが連なった重合体であり、酸触媒下で分解しホルムアルデヒドを発生し、発生したホルムアルデヒドがHFIP化合物(3)と反応し本発明の本発明のHFIP基含有ノボラック樹脂が合成される。
【0062】
2−3.酸触媒
使用される酸触媒としては、反応触媒として作用すればよく、具体的には、無機酸、例えば、塩酸、硫酸またはポリリン酸等、有機酸、例えば、トリフルオロ酢酸、パラトルエンスルホン酸またはトリフルオロメタンスルホン酸等を例示することができる。酸性度の高い酸が好ましく、塩酸、硫酸、トリフルオロ酢酸、またはトリフルオロメタンスルホン酸から選択することが好ましい。
【0063】
2−4.HFIP基含有ノボラック樹脂の製造方法。
【0064】
本発明のHFIP基含有ノボラック樹脂(1)は、HFIP基含有化合物(3)およびアルデヒド化合物を、酸触媒下、縮重合反応することで得られる。HFIP基含有ノボラック樹脂(2)は、HFIP基含有化合物(5)とアルデヒド化合物を、酸触媒下、縮重合反応することで得られる。
【0065】
その際、重量平均分子量およびアルカリ溶解速度、活性水素当量を調整するために、HFIP基含有化合物(3)またはHFIP基含有化合物(5)と併せて、HFIP基を有しない一価フェノール類または二価フェノール類を用いることができる。
【0066】
このようなフェノール類は特に限定されないが、具体的には、フェノール、p−クレゾ−ル、m−クレゾール、o−クレゾ−ル、2、3−キシレノ−ル、2、4−キシレノ−ル、2、5−キシレノ−ル、2、6−キシレノ−ル、3、4−キシレノ−ル、3、5−キシレノ−ル、2、3、5−トリメチルフェノ−ル、2、3、6−トリメチルフェノ−ル、カテコール、レゾルシノールまたはヒドロキノンを例示することができる。
【0067】
本発明のHFIP基含有ノボラック樹脂の製造方法において、HFIP基含有化合物(3)とHFIP基を有しない前記フェノール類とを合わせた全てのフェノール類に対するモル比で表わして、アルデヒド化合物の使用モル比を、0.5以上、1.5以下とすることで、所望の重量平均分子量を有するフェノール樹脂を得ることができる。さらに好ましいアルデヒド化合物の使用モル比は、0.6以上、1.2以下である。
【0068】
本発明のHFIP基含有ノボラック樹脂の重量平均分子量は1500以上、100000以下が好ましく、さらに好ましくは2000以上、60000以下である。重量平均分子量が1500より低いと耐熱性が劣化し、100000よりと高いと、アルカリ現像液および有機溶剤に溶けにくい。尚、本発明において、重量平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography:GPC)にて、テトラヒドロフランを溶剤とし測定し、ポリスチレン換算で算出した値である。
【0069】
本発明のHFIP基含有ノボラック樹脂の製造方法は、攪拌装置を備えた反応容器中に、前述のHFIP基含有化合物、アルデヒド化合物、酸触媒および反応溶剤を採取し、必要に応じてHFIP基を有しないフェノール類等を加え、所定温度に昇温することで、重縮合反応させることで行う。
【0070】
反応溶剤としては、HFIP基含有化合物(3)または、HFIP基含有化合物(5)が溶解することが好ましく、有機酸、例えば、酢酸、プロピオン酸、無水酢酸、トリフルオロ酢酸、ハロゲン系溶剤、例えば、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、塩化メチレン、四塩化炭素、オルトジクロロエタン、芳香族炭化水素系溶剤、例えば、ベンゼン、トルエンまたはキシレンを例示することができる。これらの溶剤は、単独で用いてもよく、混合して用いてもよい。
【0071】
これら反応溶剤を使用することは必須ではなく、反応途中の反応物が固体、液体の何れであっても反応は進行する。但し、一般的には、反応溶剤を用いて反応物を溶解させ均一な溶液状態、もしくは溶解しないとしても懸濁液状態とすることで、副反応を伴うことなく、目的とする反応のみを進行させることができる。
【0072】
重縮合反応時の温度は、使用する反応溶剤により異なるが、0℃以上、200℃以下の温度範囲で行うことができる。0℃より低い温度では重合反応が進行し難く、200℃より高い温度では反応制御が難しく、目的のHFIP基含有ノボラック樹脂を安定して得ることが困難となる。特に好ましくは、20℃以上、140℃以下である。
【0073】
上記反応終了後、得られるHFIP基含有ノボラック樹脂の溶解度、または使用した反応溶剤の種類に応じ、再沈殿、水洗、抽出、溶剤留去等の操作を行い、酸触媒を除去し、常圧および減圧下で脱水することで、HFIP基含有ノボラック樹脂を得ることができる。
【0074】
3.HFIP基含有ノボラック樹脂とエポキシ樹脂を含む組成物
次に本発明のHFIP基含有ノボラック樹脂(1)またはHFIP基含有ノボラック樹脂(2)、およびエポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂組成物について説明する。
【0075】
本発明のHFIP基含有ノボラック樹脂であるHFIP基含有ノボラック樹脂(1)またはHFIP基含有ノボラック樹脂(2)は、分子内にHFIP基および芳香環に直接結合した水酸基であるフェノール性水酸基を有しており、エポキシ樹脂と混合し、加熱することで、エポキシ樹脂と、HFIP基または芳香環に直接結合した水酸基を反応させて硬化物を得ることもできる。
【0076】
[エポキシ樹脂]
エポキシ樹脂は、分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する構造のものであればよい。
【0077】
例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、アミノフェノール型エポキシ樹脂、テトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂、ヒドロキノン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ナフタレンジオール型エポキシ樹脂、β−ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、α−ナルトールアラルキル型エポキシ樹脂、アミノジフェニルメタンテトラグリシジルアミン等のアミン化合物とエピハロヒドリンとから製造されるエポキシ樹脂、リン含有エポキシ樹脂、ビスチオエーテル型エポキシ樹脂、レゾルシノール型エポキシ樹脂、アルキレングリコール型エポキシ樹脂、トリスフェニルメタン型エポキシ樹脂、トリスフェニルメタン型エポキシ樹脂、レゾルシノール型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂またはオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂を例示することができる。
【0078】
これら、エポキシ樹脂には市販品を用いることができ、例えば、三菱化学株式会社製ビスフェノールA型エポキシ樹脂である品名jER−827、jER−828、ビフェニル型エポキシ樹脂である品名jER YX4000H、アミノフェノール型エポキシ樹脂であるjER630、例えば、新日鐵化学株式会社製ビスフェノールA型エポキシ樹脂である品名エポトートYDF−170、エポトートYDF−8170、テトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂である品名YSLV−80XY、ヒドロキノン型エポキシ樹脂である品名エポトートYDC−1312、フェノールノボラック型エポキシ樹脂である品名エポトートYDPN―638、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂であるエポトートYDCN−701、ビスフェノールフルオレン型エポキシ樹脂であるエポトートZX−1201、ビスフェノールS型エポキシ樹脂である品名エポトートTX−0710、ナフタレンジオール型エポキシ樹脂である品名エポトートZX−1355およびエポトートZX−1711、β−ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂である品名エポトートESN−155、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂である品名エポトートESN−355およびエポトートESN−375、α−ナルトールアラルキル型エポキシ樹脂である品名エポトートESN475VおよびエポトートESN−485、ジアミノジフェニルメタンテトラグリシジルアミン等のアミン化合物とエピハロヒドリンとから製造されるエポキシ樹脂である、品名エポトートYH−434、リン含有エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂をリン含有フェノール化合物等の変性剤と反応して得られるリン含有エポキシ樹脂である、品名、エポトートFX−289B、エポトートFX−305およびTX−0932A、ビスチオエーテル型エポキシ樹脂である品名YSLV−120TE、レゾルシノール型エポキシ樹脂である品名エポトートZX−1684、アルキレングリコール型エポキシ樹脂であるTX−0929およびTX−0934、日本化薬株式会社製トリスフェニルメタン型エポキシ樹脂である品名EPPN−501H、住友化学株式会社製の多価フェノール樹脂のフェノール化合物とエピハロヒドリンとから製造されるトリスフェニルメタン型エポキシ樹脂である、品名TMH−574、ナガセケムテックス株式会社製であるレゾルシノール型エポキシ樹脂であるデナコールEX−201、またはDIC株式会社製ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂である商品名、エピクロンHP−7200Hを例示することができ、これら市販品と同等のものを使用することができる。
【0079】
[硬化促進剤]
HFIP基含有ノボラック樹脂とエポキシ樹脂を含む組成物を硬化させる際は、硬化促進剤を加えてもよく、公知のものを用いることができる。例えば、第3級アミン、第4級アンモニウム塩、イミダゾール類、有機ホスフィン化合物または第4級ホスホニウム塩を例示することができる。
【0080】
具体的には、第3級アミンとしては、例えば、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールまたは1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7を例示することができ、イミダゾール類としては、例えば、イミダゾール、2−メチルイミダゾール、2,4−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、または2−フェニル−4−メチルイミダゾールを例示することができ、有機ホスフィン化合物としては、例えば、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリ(p−メチルフェニル)ホスフィンまたはトリ(ノニルフェニル)ホスフィンを例示することができ、第4級ホスホニウム塩としては、例えば、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウムテトラフェノキシボレート、またはテトラフェニルホスホニウムテトラ安息香酸ボレート、テトラフェニルホスホニウムテトラナフトエ酸ボレートを例示することができる。
【0081】
[配合比]
本発明のHFIP基含有ノボラック樹脂とエポキシ樹脂を含む組成物における、HFIP含有ノボラック樹脂とエポキシ樹脂との配合比は、HFIP含有ノボラック樹脂中のフェノール性水酸基とHFIP基の全量に対し、モル比で表して、好ましくは、エポキシ基が0.5以上、1.5以下である。さらに好ましくは、0.8以上、1.2以下である。硬化促進剤は、HFIP含有ノボラック樹脂の質量に対して、質量比で表わして、好ましくは、0.1%以上、5%以下である。
【0082】
[溶剤]
本発明に係る溶剤は、有機溶剤としては、組成物が溶解するものであればよく、アミド系溶剤であるN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミドまたはN−メチル−2−ピロリドン、他の溶剤として、シクロヘキサノン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(以下、PGMEAと呼ぶことがある。)またはγ―ブチロラクトンを例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0083】
4.組成物を含む硬化膜
HFIP基含有ノボラック樹脂とエポキシ樹脂を含む組成物を有機溶剤に溶解させ、ガラス基板またはシリコン基板等の基体に塗布し、その後、加熱することにより架橋硬化させて、硬化膜とすることができる。本発明のHFIP基含有ノボラック樹脂とエポキシ樹脂を含む組成物の硬化において、HFIP基含有ノボラック樹脂はエポキシ樹脂の硬化剤として有効に作用する。
【0084】
前記有機溶剤に組成物を溶解させる際の濃度は、特に限定されるものではないが、組成物の質量割合が、5質量%以上50質量%以下であることが好ましく、さらに好ましくは、10質量%以上40質量%以下である。中でも、濃度が高いほうが、硬化膜の作成において、厚みのある膜を作成することができる。
【0085】
前記塗布の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、スピンコーター、スリットスピンコーター、ロールコーター、ダイコーター、カーテンコーターなどを用いて、前記支持体に直接塗布する方法が挙げられる。
【0086】
硬化の際の加熱温度(硬化温度)は、特に限定されないが、45〜220℃が好ましく、より好ましくは100〜200℃である。また、硬化の際に加熱する時間(硬化時間)は、特に限定されないが、30〜600分が好ましく、より好ましくは60〜480分である。硬化温度と硬化時間が上記範囲の下限値より低い場合は、硬化が不十分となり、逆に上記範囲の上限値より高い場合は、樹脂成分の分解が起きる場合があるので、いずれも好ましくない。硬化条件は種々の条件に依存するが、例えば、硬化温度を高くした場合は硬化時間を短く、硬化温度を低くした場合は硬化時間を長くする等により、適宜調整することができる。
【0087】
本発明のHFIP基含有ノボラック樹脂は耐熱性を有しているので、HFIP基含有ノボラック樹脂を硬化剤とし硬化したエポキシ樹脂の硬化物も耐熱性を有する。HFIP基含有ノボラック樹脂を用いると、透明性の硬化物を得ることもできる。
【0088】
本発明のHFIP基含有ノボラック樹脂とエポキシ樹脂を含む組成物は、基体に塗布後硬化膜とすることできる、即ち、湿式成膜後、硬化膜とすることができ、当該硬化膜は、FPDおよび電子回路用基板保護材、または半導体封止材として有用である。
【実施例】
【0089】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0090】
1.HFIP基含有化合物の合成および耐熱性およびアルカリ溶解速度の評価
[重量平均分子量および核磁気共鳴スペクトルの測定方法]
HFIP基含有ノボラック樹脂の重量平均分子量の測定方法および核磁気共鳴(NMR:Nuclear Magnetic Resonance)スペクトルの測定方法を表1に示す。
【表1】
【0091】
[HFIP基含有ノボラック樹脂の合成]
実施例1
攪拌装置を備えた反応容器中に、HFIP基含有化合物(5A)としての4−(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−ヒドロキシプロパン−2−イル)フェノール5.20g(0.02モル)、パラホルムアルデヒド0.60g(0.02モル)、および溶剤として酢酸10gを採取し、室温(以下、約20℃を指す)下で攪拌した。次いで、酸触媒として濃硫酸2.76gを室温下で徐々に滴下しつつ緩やかに昇温し、60℃で5時間攪拌して、以下に示す重縮合反応を行った。
【化19】
【0092】
nは正の整数である。
【0093】
反応終了後に反応液を室温まで戻した後、蒸留水200gの入った大型ビーカー内に、上記反応液を徐々に注ぎ、式(2A)で表わされる繰り返し単位を含むHFIP含有ノボラック樹脂(2A)を析出させた。このHFIP基含有ノボラック樹脂(2A)を濾過した後、蒸留水200gで分散洗浄を行い、再度濾過を行った。真空乾燥機内で、減圧下、50℃で10時間乾燥して、重縮合物であるHFIP基含有ノボラック樹脂(2A)5.0gを、収率90%で得た。得られたHFIP基含有ノボラック樹脂(2A)の重量平均分子量およびNMRの測定結果を、以下に示す。
【0094】
重量平均分子量(Mw)=2600
1H−NMR(溶剤、アセトン−d6, TMS): δ7.37〜7.59(2H, m), 4.07(2H, s)
19F−NMR(溶剤、アセトン−d6, CClF): δ −74.5 (6F,s)
実施例2
攪拌装置を備えた反応容器中に、HFIP基含有化合物(5B)としての4−(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−ヒドロキシプロパン−2−イル)アニソール10.96g(0.04モル)、パラホルムアルデヒド1.20g(0.04モル)、および溶剤としてトリフルオロ酢酸60gを加えて室温下で攪拌した。次いで、酸触媒として、濃硫酸7.36gを室温下で徐々に滴下しつつ緩やかに昇温し、60℃で5時間攪拌して、以下に示す重縮合反応を行った。
【化20】
【0095】
反応終了後、実施例1と同様の操作を行い、式(2B)で表される繰り返し単位を含むこのHFIP基含有ノボラック樹脂(2B)10.2gを、収率89%で得た。得られたHFIP基含有ノボラック樹脂(2B)の重量平均分子量およびNMRの測定結果を、以下に示す。
【0096】
重量平均分子量(Mw)=42000
1H−NMR(溶剤、アセトン−d6, TMS): δ7.41(2H, s), 4.21(2H, s) , 3.64(3H,s)
19F−NMR(溶剤、アセトン−d6, CClF): δ −74.6 (6F,s)
比較例1
攪拌装置を備えた反応容器中に、室温でメタクレゾール6.00g(0.055モル)、パラクレゾール4.00g(0.037モル)を採取した後、100℃まで昇温した。次いで、ホルムアルデヒド濃度37質量%のホルマリン5.00g(メタクレゾールおよびパラクレゾールを合わせたフェノール類に対してのモル比0.675)を、反応容器内温97〜103℃を保ちつつ徐々に滴下し、その後2時間還流反応を行った。その後、大気圧下で内温150℃まで上昇させ脱水した。次いで、75mmHgの減圧下で反応容器内温200℃まで上昇させ、脱水・脱モノマーを行い、ノボラック樹脂7.91gを得た。得られたノボラック樹脂の重量平均分子量の測定結果を、以下に示す。
【0097】
重量平均分子量(Mw)=4200
[HFIP基含有ノボラック樹脂の耐熱性およびアルカリ溶解性の評価]
実施例1で得られたHFIP基含有ノボラック樹脂(2A)、実施例2で得られたHFIP基含有ノボラック樹脂(2B)および比較例1で得られたノボラック樹脂の、重量平均分子量、5%質量減少温度(℃)およびアルカリ溶解速度の測定を行った。結果を表2に示した。
【0098】
耐熱性およびアルカリ溶解速度の測定方法を以下に示す。
【0099】
<耐熱性の測定>
熱質量・示差熱分析計(株式会社リガク製、型番、TG8120)を用いて、空気気流下中、10℃/分の昇温速度で30℃から500℃まで加熱して、実施例1で得られたHFIP基含有ノボラック樹脂(2A)、実施例2で得られたHFIP基含有ノボラック樹脂(2B)および比較例1で得られたノボラック樹脂の5%質量減少温度を測定した。
【0100】
<アルカリ溶解速度の測定>
実施例1で得られたHFIP基含有ノボラック樹脂(2A)、実施例2で得られたHFIP基含有ノボラック樹脂(2B)および比較例1で得られたノボラック樹脂を、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)に溶解した。次いで、サイズ0.2μm径のメンブレンフィルタ−で濾過した。次いで、スピンコーターを用い4インチシリコンウェハー上に厚み3μmになるように塗布し、110℃で60秒間ホットプレ−ト上で乾燥させて塗膜とした。次いでアルカリ現像液(テトラメチルアンモニウムヒドロオキサイド2.38質量%水溶液)を用い、完全に膜が消失するまでの時間を測定し、膜厚を溶解するまでの時間で割った値を、アルカリ溶解速度とした。
【表2】
【0101】
表2に示すように、本発明のHFIP基含有ノボラック樹脂(2A)、HFIP基含有ノボラック樹脂(2B)および比較例1で得られたノボラック樹脂の5%質量減少温度(℃)は同等であるが、比較例1で得られたノボラック樹脂に比べて、アルカリ溶解速度は2倍以上大きい。本願発明の本発明のHFIP基含有ノボラック樹脂(2A)、HFIP基含有ノボラック樹脂(2B)は、レジスト材料として、耐熱性に加えアルカリ溶解速度が大きいという好ましい特性を備えることがわかった。
【0102】
2.HFIP基含有ノボラック樹脂とエポキシ樹脂を含む組成物
[組成物の合成および硬化膜の成膜]
実施例3
実施例1で得られたHFIP基含有ノボラック樹脂(2A)にビスフェノール型エポキシ樹脂(三菱化学株式会社製 品名jER−828、エポキシ当量190g/eq)、およびトリフェニルホスフィンを表3に記載の質量比で混合し、これをPGMEAに溶解して、30質量%の溶液とした。得られた溶液をガラス基板上にスピンコートし、200℃のオーブン内で60分間加熱乾燥して、膜厚2μmの硬化膜を得た。
【0103】
実施例4
実施例2で得られたHFIP基含有ノボラック樹脂(2B)、ビスフェノール型エポキシ樹脂(三菱化学株式会社製、品名jER−828、エポキシ当量190g/eq)、および硬化促進剤としてトリフェニルホスフィンを用い、実施例3と同様にして硬化膜を得た。
【0104】
比較例2
比較例1で得られたノボラック樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂(三菱化学株式会社製 品名jER−828、エポキシ当量190g/eq)、および硬化促進剤としてトリフェニルホスフィンを用い、実施例3と同様にして硬化膜を得た。
【0105】
比較例3
メチルテトラヒドロ無水フタル酸、ビスフェノール型エポキシ樹脂(三菱化学株式会社製、品名jER−828、エポキシ当量190g/eq)、および硬化促進剤としてトリフェニルホスフィンを用い、実施例3と同様にして硬化膜を得た。
【0106】
以下に、実施例3−4、比較例2−3で用いた化合物の質量比を示す。
【表3】
【0107】
[硬化膜の評価]
本発明の範疇に属する実施例3、4のHFIP基含有ノボラック樹脂とエポキシ樹脂を含む組成物を加熱硬化させてなる膜と本発明に属さない比較例2,3の組成物を加熱硬化させてなる膜の評価を行った。評価方法を以下に示す。
【0108】
<光透過率>
実施例3、4および比較例2、3で得た硬化膜の波長400nmにおける光透過率を、紫外可視分光光度計(株式会社島津製作所製、型番UV−3150)を用い測定した。
【0109】
<耐熱試験後の光透過率>
実施例3、4および比較例2、3で得た硬化膜を用い、150℃で168時間放置した後の、波長400nmにおける光透過率を測定した。
【0110】
<5%質量減少温度>
実施例3、4および比較例2、3で得た硬化膜をガラス基板上から削り取り、熱質量・示差熱分析計(株式会社リガク製、品名、TG8120)を用い、乾燥空気の気流下中、10℃/分の昇温速度で30℃から500℃まで加熱して5%質量減少温度を測定した。
【0111】
<耐湿性>
実施例3、4および比較例2、3で得た硬化膜を用い、85 ℃、85%RHの条件下、168時間放置した後の、硬化膜の状態を目視で観察した。
【0112】
以上、光透過率、耐熱試験後の光透過率、5%質量減少温度、耐湿性の評価結果を表4に示す。
【表4】
【0113】
表4に示したように、本発明の実施例3、4の組成物が硬化してなる硬化膜は、光透過率が高く透明性を有する。また、耐熱試験後の光透過率が高いことから、耐熱性を有する。
【0114】
特に芳香環に−OCHが付加した構造のHFIP基含有ノボラック樹脂を用いた実施例4の硬化物は、耐熱試験後においても光透過率95%を保持した。このことは、芳香環がキノイド化し可視光吸収性の二重結合が生成することなく透明性を維持することができたことによると思える。
【0115】
また、実施例3−4の硬化物は、十分な5%質量減少温度を有しており、耐湿性があり、半導体用保護膜として有用なこれら特性を備えていた。これに対して、比較例2の組成物が硬化してなる硬化膜は、透明性がなく、比較例3の組成物が硬化してなる硬化膜は、耐湿性がない。