特許第6277845号(P6277845)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6277845-蒸留装置 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6277845
(24)【登録日】2018年1月26日
(45)【発行日】2018年2月14日
(54)【発明の名称】蒸留装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 3/32 20060101AFI20180205BHJP
【FI】
   B01D3/32 Z
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-87813(P2014-87813)
(22)【出願日】2014年4月22日
(65)【公開番号】特開2015-205248(P2015-205248A)
(43)【公開日】2015年11月19日
【審査請求日】2017年2月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】110000512
【氏名又は名称】特許業務法人山田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】崔 原栄
【審査官】 関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−507397(JP,A)
【文献】 特開昭60−125201(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 1/00−5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被蒸留原料の蒸留が行われる蒸留塔と、
前記蒸留塔から排出された塔底液の一部を加熱するリボイラと、
前記リボイラによって気化された塔底液を前記蒸留塔へ導く塔底還流流路と、
前記蒸留塔の塔頂部から留出する塔頂蒸気を凝縮させる伝熱物質循環部と、を備え、
前記伝熱物質循環部は、熱交換を行う伝熱物質と、伝熱物質が流れる閉じた循環流路と、前記循環流路に配されて伝熱物質を圧縮させる圧縮機と、前記循環流路のうち圧縮された伝熱物質が流れる流路の圧力を解放させる減圧弁と、を有し、
伝熱物質は、塔頂蒸気と熱交換させた後に前記圧縮機によって圧縮させられて、前記リボイラで加熱される前の塔底液の温度よりも温度が高められ、前記リボイラで加熱される前の塔底液と熱交換することによって少なくとも一部を気化させ、その後、前記減圧弁によって減圧させられて塔頂蒸気よりも低い温度に下げられて、塔頂蒸気と熱交換されることを特徴とする蒸留装置。
【請求項2】
前記塔底還流流路は、前記リボイラで加熱される前の塔底液のうち伝熱物質によって気化された蒸気を、前記リボイラを介さずに前記蒸留塔へ戻す連絡流路を有することを特徴とする請求項1に記載の蒸留装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部からの入熱量を抑制した省エネルギー型の蒸留装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、蒸留装置は、蒸留塔で原料を気化させ沸点の差を利用して分離する方法である。蒸留装置は、蒸留塔の下部から抜き出した塔底液の一部をリボイラで加熱し、蒸留塔内に再投入して塔底液のうち主に低沸点成分を気化させている。そして、気化した低沸点成分は、蒸留塔の頂部から蒸気として取り出したのちに凝縮機で冷却され液体として回収される。
【0003】
すなわち、蒸留装置は、同一装置の下部でリボイラによって塔底液を加熱して気化させ、頂部で凝縮機によって気化させた低沸点成分を冷却しているので装置全体としてエネルギーの無駄が生じている。ここで、気化させた低沸点成分の熱を、リボイラで加熱する前の塔底液に伝達することができれば、エネルギーの無駄をなくし、リボイラへの入熱量を抑制できる。
【0004】
しかし、気化させた低沸点成分は、リボイラで加熱する前の塔底液よりも温度が低いため、そのままでは熱交換をすることができない。そこで、特許文献1に記載の発明では、気化させた低沸点成分を圧縮して温度を上げ、蒸留塔の熱源として利用し、外部からの入熱量を抑えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−231782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の発明では、気化させた低沸点成分を直接圧縮して蒸留塔の熱源として利用する構成である。このため、気化させた低沸点成分の流量が安定しないと蒸留塔の運転に影響を与えるおそれがあった。
【0007】
そこで、本発明は、低沸点成分の流量によって蒸留塔の運転に影響を与えずに外部からの入熱量を抑制する蒸留装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の蒸留装置は、被蒸留原料の蒸留が行われる蒸留塔と、前記蒸留塔から排出された塔底液の一部を加熱するリボイラと、前記リボイラによって気化された塔底液を前記蒸留塔へ導く塔底還流流路と、前記蒸留塔の塔頂部から留出する塔頂蒸気を凝縮させる伝熱物質循環部と、を備え、前記伝熱物質循環部は、熱交換を行う伝熱物質と、伝熱物質が流れる閉じた循環流路と、前記循環流路に配されて伝熱物質を圧縮させる圧縮機と、前記循環流路のうち圧縮された伝熱物質が流れる流路の圧力を解放させる減圧弁と、を有し、伝熱物質は、塔頂蒸気と熱交換させた後に前記圧縮機によって圧縮させられて、前記リボイラで加熱される前の塔底液の温度よりも温度が高められ、前記リボイラで加熱される前の塔底液と熱交換することによって少なくとも一部を気化させ、その後、前記減圧弁によって減圧させられて塔頂蒸気よりも低い温度に下げられて、塔頂蒸気と熱交換されることを特徴としている。
【0009】
前記塔底還流流路は、前記リボイラで加熱される前の塔底液のうち伝熱物質によって気化された蒸気を、前記リボイラを介さずに前記蒸留塔へ戻す連絡流路を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の蒸留装置によれば、低沸点成分の流量によって蒸留塔の運転に影響を与えずに外部からの入熱量を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】蒸留装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態の一例(以下、実施例と略称する)を、図面を参照しながら説明する。図1は、蒸留装置1の概略構成図である。蒸留装置1は、蒸留に使用される塔状の蒸留塔2と、塔底液の一部を加熱するリボイラ3と、塔頂蒸気を凝縮する伝熱物質循環部4と、を備えている。
【0013】
蒸留塔2は、例えば、水平な棚板が塔内に複数設置されて区切られた棚段塔であり、中段から被蒸留原料Fが連続的に供給される。蒸留塔2は、被蒸留原料Fの沸点の差を利用して分離を行う。蒸留塔2は、塔底の缶出流路5から高沸点成分に富んだ塔底液が得られ、塔頂の留出流路6から低沸点成分に富んだ塔頂蒸気が得られる。塔底液は、一部が熱交換流路7を通ってリボイラ3へ導かれ、残部が缶出液として次工程に導かれる。そして、低沸点成分に富んだ塔頂蒸気は、留出流路6を通って伝熱物質循環部4で冷却される。
【0014】
リボイラ3は、缶出流路5から排出された塔底液の一部を加熱して気化する。そして、リボイラ3によって蒸気にされた塔底液は、リボイラ3と蒸留塔2とをつなぐ塔底還流流路8によって蒸留塔2へ戻される。液化した塔頂蒸気である留出液は、一部が還流流路10を通って蒸留塔2の塔頂部へ還流され、残部が次工程で用いられる。
【0015】
伝熱物質循環部4は、熱交換を行う伝熱物質Mと、伝熱物質Mが循環して流れる閉じた循環流路11と、循環流路11に配されて伝熱物質Mを圧縮させる圧縮機12と、循環流路11のうち圧縮された伝熱物質Mが流れる流路の圧力を解放させる減圧弁13と、を有している。
【0016】
すなわち、伝熱物質循環部4は、熱交換を行う伝熱物質Mが閉じた循環流路11の内部を循環している。そして、循環流路11には、圧縮機12と減圧弁13が配されている。伝熱物質Mは、循環流路11の途中に配された圧縮機12に入ると圧縮されて昇温する。そして、伝熱物質Mは、減圧弁13を通ると減圧されて降温する。
【0017】
ここで、循環流路11のうち、圧縮機12の出口から減圧弁13までの流路を高圧側流路と呼び、減圧弁13から圧縮機12の入口までの流路を低圧側流路と呼ぶ。循環流路11は、高圧側流路の一部が熱交換流路7の傍らに互いの内部を流れる流体が熱交換可能に配され、低圧側流路の一部が留出流路6の傍らに互いの内部を流れる流体が熱交換可能に配される。
【0018】
低圧側流路を流れる伝熱物質Mは、留出流路6を流れる温度Tの塔頂蒸気と熱交換される。ここで、低圧側流路を流れる伝熱物質Mのうち熱交換される前の伝熱物質Mは、塔頂蒸気の温度Tよりも温度が低い温度Tで熱交換される。これによって、伝熱物質Mは、塔頂蒸気を冷却して液化させる。
【0019】
低圧側流路を流れる伝熱物質Mは、留出流路6を流れる塔頂蒸気と熱交換して温度Tから温度Tになったのち、圧縮機12によって圧縮させられ、温度がリボイラ3で加熱される前の塔底液の温度Tよりも高い温度Tに上げられる。その後、伝熱物質Mは、高圧側流路に流される。
【0020】
高圧側流路を流れる伝熱物質Mは、熱交換流路7を流れる塔底液(リボイラ3で加熱される前の塔底液)と熱交換される。ここで、高圧側流路を流れる伝熱物質Mのうち熱交換される前の伝熱物質Mは、塔底液の温度Tよりも温度が高いTで熱交換される。これによって、伝熱物質Mは、熱交換流路7を流れる塔底液の少なくとも一部を気化させる。気化された塔底液は、連絡流路9から塔底還流流路8を流れて蒸留塔2へ導かれる。熱交換流路7を流れる塔底液のうち、蒸気にならなかった残部は、リボイラ3に導かれる。
【0021】
高圧側流路を流れる伝熱物質Mは、熱交換流路7を流れる塔底液と熱交換して温度Tになったのち、減圧弁13を通ることによって減圧されて、温度が塔頂蒸気の温度Tよりも低い温度Tに下げられて、低圧側流路に流される。この低圧側流路を流れる伝熱物質Mは、留出流路6を流れる温度Tの塔頂蒸気と熱交換される。
【0022】
以上に説明した本発明の蒸留装置1は、伝熱物質循環部4が閉じた循環流路11を有し、この循環流路11を流れる伝熱物質Mを介して塔頂蒸気の熱エネルギーを、塔底液を気化させるエネルギーに用いることができる。よって、装置全体としてエネルギーの無駄をなくすことができる。
【0023】
また、本発明の蒸留装置1は、循環流路11を有する伝熱物質循環部4が蒸留塔2の流路と独立している。このため、従来技術のように塔頂蒸気そのものを蒸留塔2の熱源に使用する構成と比較して蒸留塔2に与える影響を抑えることができる。また、本発明の蒸留装置1は、従来技術のように塔頂蒸気そのものを圧縮機12に流し込む構成と異なり被蒸留原料Fの種類によって圧縮機12に損傷を与える等の影響を受けることがない。
【0024】
さらに、本発明の蒸留装置1は、塔底還流流路8がリボイラ3で加熱される前の塔底液のうち伝熱物質Mによって気化された蒸気を、リボイラ3を介さずに蒸留塔2へ戻す連絡流路9を有している。このため、リボイラ3へ流れ込む塔底液を減らすことができ、リボイラ3を小型化できる。
【0025】
以下、本発明のように伝熱物質循環部4が閉じた循環流路11を有し、この循環流路11を流れる伝熱物質Mを介して塔頂蒸気の熱エネルギーを、塔底液を気化させるエネルギーに用いる本発明の蒸留装置1の入熱と、循環流路11を有さず、塔頂蒸気の熱エネルギーを、塔底液を気化させるエネルギーに用いない通常の蒸留装置(以下、通常の蒸留装置と呼ぶ)の入熱と、をシミュレーションソフトによって算出し、比較して本発明の効果を確認する。
【0026】
シミュレーションソフトは、ASPEN Plusを用い、被蒸留原料Fをメタノールと水が67対33の組成のメタノール水溶液として100(kg/h)で蒸留塔2に投入し、還流比を1.5、蒸留塔2の段数を18段とした場合に、塔頂成分としてメタノール(98.9%)が67(kg/h)で得られ、塔底成分として水(97.8%)が33(kg/h)で得られるような条件で設定した。
【0027】
以上の条件でシミュレーションを行った結果、通常の蒸留装置で、Boilup Ratioは2.77、リボイラ3への必要な熱エネルギーが0.052(Gcal/h)であることが分かった。つまり、通常の蒸留装置は、0.052(Gcal/h)の入熱が必要である。
【0028】
続いて、本発明の蒸留装置1の構成において、上述の条件及び、Boilup Ratioは2.77とし、伝熱物質Mをアセトンとしてシミュレーションを行った。
【0029】
先ず、塔頂成分の蒸発熱を、アセトンを用いて回収することを検討する。塔頂蒸気は、還流比が1.5であるため、67+67×1.5=167(kg/h)である。この塔頂蒸気の熱エネルギーを回収するために必要なアセトンの量を計算すると360(kg/h)である。
【0030】
次に、このアセトンを圧縮機12で圧縮させて温度を上げ、塔底成分と熱交換させて少なくともその一部を気化させることを検討する。ここで、圧縮したアセトンの熱量は、圧縮機12の動力損失がないと仮定した場合、圧縮機12の出口圧力によって決定する。
【0031】
表1は、圧縮機12の出口圧力(bar)に対する圧縮機12への入熱(Gcal/h)、リボイラ3への入熱(Gcal/h)、圧縮機12とリボイラ3への入熱計(Gcal/h)を示す表である。
【表1】
【0032】
表1によれば、例えば、アセトンを圧縮機12の出口圧力で5(bar)とした場合、圧縮機12への入熱が0.009(Gcal/h)必要で、圧縮したアセトンとの熱交換によって気化しなかった塔底液を気化させる為にリボイラ3への入熱が0.008(Gcal/h)必要である。そして、本発明の蒸留装置1は、装置全体で0.017(Gcal/h)の入熱が必要であることが分かる。
【0033】
また、通常の蒸留装置は、先に述べたとおりリボイラ3へ0.052(Gcal/h)の入熱が必要である。よって、本発明の蒸留装置1は、通常の蒸留装置と比較して約三分の一の入熱で運用が可能であることが分かる。
【0034】
ここで、リボイラ3によって気化される塔底成分の量は、Boilup Ratioが2.77であるため、33×2.77=91.4(kg/h)である。アセトンを18.7(bar)まで圧縮させると、同じ量の塔底成分を蒸発させることができる。
【0035】
表1によると、その際、圧縮機12への入熱は0.017(Gcal/h)必要である。リボイラ3への入熱は、当然ながら必要なくリボイラ3を省略することができる。よって、本発明の蒸留装置1は、装置全体で0.017(Gcal/h)の入熱が必要である。通常の蒸留装置と比較すると、本発明の蒸留装置1は、この場合も約三分の一の入熱で運用が可能である。
【0036】
また、表1に示すとおり、圧縮機12の出口圧力を10(bar)、15(bar)にしても装置全体への入熱は0.018(Gcal/h)、0.017(Gcal/h)であり、いずれの場合も通常の蒸留装置と比較して約三分の一の入熱で運用が可能であることが分かる。
【0037】
よって、本発明の蒸留装置1は、通常の蒸留装置と比較して入熱を減らして運用が可能であることが立証された。また、本発明の蒸留装置1を運用する際は、なるべく低圧で運用することが好ましい。
【0038】
なお、本発明の蒸留装置は、上述の実施例にのみ限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更することができる。
【符号の説明】
【0039】
1 蒸留装置
2 蒸留塔
3 リボイラ
4 伝熱物質循環部
8 塔底還流流路
9 連絡流路
11 循環流路
12 圧縮機
13 減圧弁
M 伝熱物質
図1