特許第6277857号(P6277857)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6277857-切削加工装置及び切削加工方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6277857
(24)【登録日】2018年1月26日
(45)【発行日】2018年2月14日
(54)【発明の名称】切削加工装置及び切削加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23B 47/18 20060101AFI20180205BHJP
   B23Q 17/22 20060101ALI20180205BHJP
   B23Q 17/09 20060101ALI20180205BHJP
【FI】
   B23B47/18 B
   B23Q17/22 Z
   B23Q17/09 A
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-103297(P2014-103297)
(22)【出願日】2014年5月19日
(65)【公開番号】特開2015-217479(P2015-217479A)
(43)【公開日】2015年12月7日
【審査請求日】2017年2月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100083563
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 祥二
(72)【発明者】
【氏名】宗形 智
【審査官】 青山 純
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭59−109404(JP,U)
【文献】 特開2000−198005(JP,A)
【文献】 特開平07−088710(JP,A)
【文献】 特開平01−205907(JP,A)
【文献】 特開2013−163240(JP,A)
【文献】 特開2001−18105(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 35/00 − 49/06
B23Q 17/00 − 23/00
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削具ホルダに保持され第1切削部と該第1切削部より太径な第2切削部とが一体となった切削具と、被加工物に対して近接離反されると共に前記切削具を回転駆動させる駆動手段と、前記切削具の負荷変化を検知する振動センサと、制御装置とを具備し、該制御装置は前記振動センサの検知結果に基づき前記被加工物に対する前記第1切削部の切削による突抜けを検出し、突抜け検出後に予め設定された送り量だけ前記第2切削部に前記被加工物を切削させることを特徴とする切削加工装置。
【請求項2】
第1切削部と該第1切削部より太径な第2切削部とが一体となった切削具で孔加工を行う切削加工方法であって、前記第1切削部の切削による被加工物の突抜けを前記切削具の負荷変化に基づき検出する工程と、突抜け検出後に予め設定された送り量だけ前記切削具を前記被加工物に送り、前記第2切削部により前記被加工物の切削を行う工程とを有することを特徴とする切削加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削具を用いて被加工物に孔加工を施す切削加工装置及び切削加工方法、特に被加工物の下面から座刳りの底面迄の寸法が指定された孔を穿設する切削加工装置及び切削加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、被加工物に下面から座刳りの底面迄の寸法が指定された孔の切削加工を行う際には、先ずドリル等の切削具にて貫通孔を穿設し下孔加工を行った後、該下孔周辺の板厚をマイクロ波にて計測し、計測結果を基に裏面から座刳り底部迄の高さを計算し、必要な加工量を算出した上で被加工物の表面から座刳り加工を行っていた。
【0003】
従って、従来の切削加工の場合、切削加工を行う為に下孔加工と座刳り加工の2つの工程が必要であり、更に工程を移行する際に切削具の取替え等が必要だった。
【0004】
又、座刳り底部迄の寸法が裏面から指定されている為、寸法の計測及び加工量の決定が困難であり、更に直接裏面から座刳り底部迄の高さを計測可能な計測器が存在しない為、近傍の寸法を計測した結果から必要な寸法を推測しており、実際の位置での寸法を計測できていなかった。
【0005】
又、前記被加工物には板厚の変動及びうねりが存在し、場所によって寸法が異なる為、加工位置毎に計測を行って寸法を記録する必要があり、作業時間が掛るという問題があった。
【0006】
尚、特許文献1は切削加工機用制御装置および方法に関するものであり、切削加工時の振動をAEセンサにて検出し、AEセンサの出力値と予め設定した閾値とを比較し、比較結果に基づき切削用スピンドルの送り速度を増加或は減少させるか、又は切削用スピンドルの作動を停止させる構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−291118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は斯かる実情に鑑み、正確な孔加工を可能とすると共に、作業時間の短縮を図る切削加工装置及び切削加工方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、切削具ホルダに保持され第1切削部と該第1切削部より太径な第2切削部とが一体となった切削具と、被加工物に対して近接離反されると共に前記切削具を回転駆動させる駆動手段と、前記切削具の負荷変化を検知する振動センサと、制御装置とを具備し、該制御装置は前記振動センサの検知結果に基づき前記被加工物に対する前記第1切削部の切削による突抜けを検出し、突抜け検出後に予め設定された送り量だけ前記第2切削部に前記被加工物を切削させる切削加工装置に係るものである。
【0010】
又本発明は、第1切削部と該第1切削部より太径な第2切削部とが一体となった切削具で孔加工を行う切削加工方法であって、前記第1切削部の切削による被加工物の突抜けを前記切削具の負荷変化に基づき検出する工程と、突抜け検出後に予め設定された送り量だけ前記切削具を前記被加工物に送り、前記第2切削部により前記被加工物の切削を行う工程とを有する切削加工方法に係るものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、切削具ホルダに保持され第1切削部と該第1切削部より太径な第2切削部とが一体となった切削具と、被加工物に対して近接離反されると共に前記切削具を回転駆動させる駆動手段と、前記切削具の負荷変化を検知する振動センサと、制御装置とを具備し、該制御装置は前記振動センサの検知結果に基づき前記被加工物に対する前記第1切削部の切削による突抜けを検出し、突抜け検出後に予め設定された送り量だけ前記第2切削部に前記被加工物を切削させるので、該被加工物にうねり等により板厚にバラツキがある場合でも、該被加工物の板厚を測定することなく要求通りの寸法の孔加工を行うことができ、作業工程の簡略化及び作業時間の短縮を図ることができる。
【0012】
又本発明によれば、第1切削部と該第1切削部より太径な第2切削部とが一体となった切削具で孔加工を行う切削加工方法であって、前記第1切削部の切削による被加工物の突抜けを前記切削具の負荷変化に基づき検出する工程と、突抜け検出後に予め設定された送り量だけ前記切削具を前記被加工物に送り、前記第2切削部により前記被加工物の切削を行う工程とを有するので、該被加工物にうねり等により板厚にバラツキがある場合でも、該被加工物の板厚を測定することなく要求通りの寸法の孔加工を行うことができ、作業工程の簡略化及び作業時間の短縮を図ることができるという優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施例に係る切削加工装置の概略図である。
図2】(A)〜(F)は、本発明の実施例に係る孔加工を説明する要部拡大図である。
図3】本発明の実施例に係る孔加工を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施例を説明する。
【0015】
先ず、図1に於いて、本発明の実施例に係る切削加工装置1について説明する。
【0016】
該切削加工装置1は、被加工物2の切削加工を行う切削加工機3と、該切削加工機3の駆動を制御するPC等の制御装置4とを有している。
【0017】
前記被加工物2は例えば鋼製の板材であり、板厚Aを有している。尚、該被加工物2は表面積が大きいことから、うねり等により場所によって板厚に変動があり、最も板厚の大きい場所では、板厚は板厚公差の最大値を考慮してA′(図示せず)となっている。
【0018】
前記切削加工機3は、エンドミル等の切削具5と、該切削具5を保持する切削具ホルダ6と、該切削具ホルダ6を介して前記切削具5を前記被加工物2に対して近接離反させると共に、前記切削具5を回転駆動させる駆動手段7とを有し、前記切削具ホルダ6には前記切削具5の振動を検知する振動センサ、例えばAE(Acoustic Emission)センサ8が設けられている。前記切削具5の振動は、該切削具5に作用する負荷によって発生し、前記AEセンサ8で振動を検知することで、前記切削具5の負荷状態が検知できる。従って、前記AEセンサ8は振動を検知すると共に、前記切削具5の負荷状態を検知する負荷検知センサとしても機能する。
【0019】
又、前記切削具5は、例えば軸長L1 を有する第1切削部9と、該第1切削部9の上端に連続する例えば軸長L2 を有する第2切削部11とから構成されている。該第2切削部11は前記第1切削部9と同心で太径となっており、前記第1切削部9により前記被加工物2に貫通孔12が穿設され、前記第2切削部11により前記貫通孔12と同心の座刳り13が形成される様になっている。
【0020】
前記第1切削部9の軸長L1 は、前記被加工物2の下面から前記座刳り13の底面迄の寸法である要求寸法Dに、余裕代α(αは任意の値)を加えた長さとなっている。又、前記第2切削部11の軸長L2 は、前記被加工物2の板厚の最大値A′から要求寸法Dを引いた長さよりも大きくなっている。
【0021】
前記制御装置4は、前記駆動手段7と電気的に接続されると共に、前記AEセンサ8と電気的に接続されている。前記制御装置4には、予め振動の閾値が設定され記憶されている。前記第1切削部9が前記被加工物2を突抜けることで負荷が急激に減少し、発生する振動も急激に減少する。前記制御装置4は前記AEセンサ8により検知された前記切削具5の振動と、前記閾値とを比較し、比較結果に基づき前記第1切削部9が前記被加工物2を突抜けたかどうかを判断し、判断結果により前記切削具5が所定の動作を行う様前記駆動手段7を制御する様になっている。又、前記制御装置4には、前記第1切削部9の軸長L1 と要求寸法Dとの差である余裕代αが突抜け検出後の送り量として設定され、突抜け後に前記切削具5が余裕代αだけ座刳り加工を行う様前記駆動手段7を制御する様になっている。
【0022】
又、該駆動手段7は前記制御装置4からの指示に基づき、前記切削加工機3を回転させると共に、前記被加工物2に対して近接離反させる様になっている。
【0023】
図2(A)〜(F)、及び図3のフローチャートを参照して、前記切削加工装置1を用いて前記被加工物2に孔加工を施す場合について説明する。尚、図2(A)〜(F)中では、便宜上前記切削加工装置1を簡略化して示している。
【0024】
STEP:01 前記制御装置4が操作され、該制御装置4により孔加工開始の指示が入力されると、孔加工の前段階として、先ず前記駆動手段7が前記切削具5を前記被加工物2上の所定の切削位置に移動させた後(図2(A)参照)、前記被加工物2に向って送り、前記第1切削部9の下端を前記被加工物2の表面と接触させる(図2(B)参照)。
【0025】
STEP:02 前記被加工物2の所定の切削位置で、前記第1切削部9の下端を前記被加工物2の表面と接触させた後、前記切削具5を更に前記被加工物2に向って送ることで、該被加工物2の切削加工が開始される(図2(C)参照)。
【0026】
STEP:03 該被加工物2の切削加工中、切削時の負荷により前記切削具5には予め設定した閾値以上の振動が発生しており、該振動は前記AEセンサ8にて検知され、検知結果は前記制御装置4にリアルタイムで出力される。該制御装置4は、前記AEセンサ8からの検知結果と閾値とを比較し、検知結果が閾値を下回った時、即ち前記AEセンサ8に検知される振動数が閾値より低下した時を前記第1切削部9が前記被加工物2を突抜けたと判断しており、検知結果が閾値を上回っている状態では前記第1切削部9が前記被加工物2を突抜けていないと判断され、該被加工物2の切削加工が続行される。
【0027】
STEP:04 前記AEセンサ8の振動数が閾値を下回り、前記制御装置4により前記第1切削部9が前記被加工物2を突抜けたと判断されると、前記制御装置4により切削加工の停止が指示され、前記駆動手段7が前記切削具5の駆動を停止させ、前記被加工物2の切削を一旦停止する(図2(D)参照)。
【0028】
STEP:05 前記第1切削部9の突抜けを検知し、前記切削具5の駆動を停止させると、次に前記制御装置4の指示により、前記駆動手段7が前記切削具5を再度駆動させ、余裕代αだけ前記切削具5に送りを与える(図2(E)参照)。
【0029】
STEP:06 該切削具5が余裕代αだけ送りを与えられることで、前記被加工物2の表面には、前記貫通孔12と同心に前記座刳り13が形成され、該座刳り13の形成後前記駆動手段7が前記切削具5の駆動を停止させる。この時、前記第1切削部9が前記被加工物2を突抜けた時点、即ち前記第1切削部9の下端が前記被加工物2の下面と面一となった状態から、余裕代αだけ前記切削具5を送ることで、前記被加工物2の下面から前記座刳り13の底面迄の距離は、前記第1切削部9の軸長L1 から余裕代αを引いた値となる。従って、前記被加工物2の下面から前記座刳り13の底面迄の距離が要求寸法Dとなり、前記被加工物2の板厚を測定することなく要求通りの寸法の前記貫通孔12を得ることができる。
【0030】
STEP:07 最後に、前記制御装置4の指示により、前記駆動手段7が前記切削具5を切削加工時とは逆向きに回転させると共に、前記第1切削部9が前記貫通孔12から完全に離脱する迄上昇させ、前記切削具5を退避させることで孔加工を終了する(図2(F)参照)。
【0031】
上述の様に、本実施例では、前記切削具5を前記第1切削部9と、該第1切削部9の上端に連続する該第1切削部9より太径な前記第2切削部11とが一体に成型された構造とし、前記被加工物2の下面から前記座刳り13の底面迄の寸法である要求寸法Dに余裕代αを加えた長さを前記第1切削部9の軸長L1 とし、該第1切削部9が前記被加工物2を突抜けたのを検知した後、該被加工物2に向って余裕代αだけ前記切削具5に送りを与える様にしている。
【0032】
従って、前記被加工物2の下面から、前記第2切削部11によって切削された前記座刳り13の底面までの寸法は、軸長L1 から余裕代αを引いた値、即ち要求寸法Dとなるので、前記被加工物2にうねり等により板厚にバラツキがある場合でも、測定器にて該被加工物2の板厚を測定することなく要求通りの寸法の前記貫通孔12を正確に穿設することができ、作業工程の簡略化及び作業時間の短縮を図ることができる。
【0033】
又、前記第1切削部9と前記第2切削部11とが一体に成型されているので、前記貫通孔12の穿設、及び前記座刳り13の形成を一度の切削工程で行うことができ、工程数が少なくなると共に、作業途中での工具交換が必要なくなり、作業工程の簡略化及び作業時間の短縮を図ることができる。
【0034】
又、前記切削具ホルダ6に前記AEセンサ8を取付け、切削時の振動により前記被加工物2に対する前記第1切削部9の突抜けを検知する様にしているので、振動の変化により突抜けを正確に検知することができ、正確な孔加工を行うことができる。
【0035】
更に、前記第2切削部11の軸長を、前記被加工物2の板厚の最大値A′から要求寸法Dを引いた長さよりも大きくしているので、該被加工物2の板厚のバラツキに拘らず前記座刳り13を形成でき、加工不良を防止することができる。
【0036】
尚、前記AEセンサ8により、切削時と突抜け時の振動の変化を検出できればよいので、該AEセンサ8は前記切削具ホルダ6以外の場所、例えば前記切削加工機3の主軸を支持している部分、或は前記被加工物2側に取付けてもよい。
【0037】
又、該被加工物2に対する前記第1切削部9の突抜けを検知できればよいので、切削時の振動を検知する以外の方法で検知してもよく、例えば切削加工時のトルク等により前記切削具5に掛る負荷変化を検出することで、前記第1切削部9の突抜けを検知してもよいのは言う迄もない。
【符号の説明】
【0038】
1 切削加工装置 2 被加工物
3 切削加工部 4 制御装置
5 切削具 6 切削具ホルダ
7 駆動手段 8 AEセンサ
9 第1切削部 11 第2切削部
12 貫通孔 13 座刳り
L1 第1切削部の軸長 L2 第2切削部の軸長
図1
図2
図3