【実施例】
【0031】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0032】
[試験例1] 発芽試験方法
地上部を切除した日付又は手による採種日を「採種年月日」として定義し、乾燥・調製後の種子を、9cmのガラスシャーレ上に湿らせたろ紙を敷き、50粒×2回以上、20℃で明条件(1,500lux)にて静置し、静置後20日までに正常芽生したものを発芽したものとしてカウントした。
・正常芽生(無傷の芽、根が生じたもの)
・異常芽生(根、芽のどちらか一方が生じないものや異常であるもの、含む腐敗芽生)
・不発芽(発芽がみられなかったもの)
発芽率(%)=(静置後20日までに発芽した数/50粒)×100
【0033】
[実施例1]
(1)栽培地の検討
(a)温帯湿潤気候Cfaに該当する栽培地
温帯湿潤気候Cfaに該当する栽培地Aにおいて下記の栽培条件でコガネバナの栽培を行い、採種を行った。
2008/5 育苗圃準備 堆肥2t/10a,化成肥料40kg/10a
2008/5 播種 条播(みのる製野菜播種機)
2008/7 追肥(化成肥料20Kg/10a)
2009/6 追肥(化成肥料20Kg/10a)
2009/6 コガネバナの開花を確認
2009/8、2009/9、2009/10 地上部を地際から採種(一斉採種)
2009/8 花穂のみを採種(手摘み採種)
【0034】
約2aの畑をほぼ等分に6試験区(1試験区32m
2)に分け、以下の時期、方法により地上部を収穫し、種子収量を調査した。
一斉採種:地上部を株元から刈り取って採種
手摘み採種:花穂の部分のみを手で折り取って採種
【0035】
(試験区)
(ア)8月末に一斉採種
(イ)9月に一斉採種
(ウ)10月に一斉採種
(エ)8月末に花穂を手摘み採種
収穫後、ビニールハウス内で乾燥後、2009/1/18にすべての試験区のものを脱穀機で脱穀し、目開き4m/mの篩で萼片を取り除き、手作業でゴミを取り除いた後、吸引式風力選別機MHV−100(原島電機工業)にて風力20で選別を行った。
風力選別(20)において得られた種子を試験例1に記載の発芽試験を行った。その結果を表1に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
ケッペンの気候区分における温帯湿潤気候Cfaに該当する場所で採種したコガネバナ種子は、手摘み採種又は一斉採種のいずれの場合でも発芽率が高くても15.3%であり、高品質な種子は得られなかった。
【0038】
(b)亜寒帯湿潤気候のDfbに該当する栽培地
前記(a)で示したように、ケッペンの気候区分において温帯湿潤気候Cfaに該当する栽培地Aでは、発芽率がよくなかった。これは栽培地の気温が高いためと考えて、亜寒帯湿潤気候のDfbに該当する栽培地B(北海道)でコガネバナの栽培を下記の条件で行ったが、採種直後の発芽率はよくなかった。なお、栽培地Bの開花期(8月〜11月)の環境条件は、日最高気温が30℃以上の日数は7日であり、28℃以上の日数は13日であった。但し、日最高気温が30℃以上であった日の日最低気温との差は、9℃未満の日があった。また、開花結実期である9月から10月(但し、1日降水量30mm以上の日を除く。)の積算降水量は約130mm(1日降水量30mm以上の日(該当1日)を除かない場合の積算降水量は約160mm)であった。
更に検討を進め、採種後一定期間低温保管することで発芽率が上がることを見出した。
【0039】
(栽培条件の詳細)
2010/5 育苗圃準備 堆肥2t/10a,化成肥料40kg/10a
2010/5 播種 条播(みのる製野菜播種機)
2010/6 追肥(化成肥料20Kg/10a)
2010/8 追肥(化成肥料20Kg/10a)
2010/9 コガネバナの開花を50%以上の株で確認
2010/9、2010/10 花穂のみを収穫(手摘み採種)
2010/10 地上部を地際から刈取り採種(一斉採種)
【0040】
(2)採種後経過日数と発芽率
前述の栽培地Bにて栽培したコガネバナの種子を、採種後、最高気温15℃〜22℃の環境下で10日間又は、最高気温5℃〜19℃の下で22日間保管後、4℃の保冷庫内で保管した。前記期間保管後の発芽率を、試験例1に記載の方法で測定した。
【0041】
図1に、セルトレイ定植で栽培したコガネバナの種子を9月28日に手作業により採種し、4℃で保管後、発芽率を調査した結果を示す。
【0042】
図2に、直播又はセルトレイ定植で栽培したコガネバナを10月25日に地上部の株元から刈り取って、4日間天日乾燥し、脱穀、風力選別して得られた種子を4℃で保管後、発芽率を調査した結果を示す。
【0043】
以上の知見から、本発明にしたがってコガネバナを栽培し、適切な時期に一斉採種した後に一定期間低温環境下で保管することにより、発芽率の高い高品質なコガネバナの種子が効率的に得られることが判った。
【0044】
(3)萼片の色と発芽率
種子の成熟度は、着蕾から種子落下までの萼片の大きさや色によって判断がつくと推察されたため、種子が落下するまで花穂はどのような経過をたどるのかの観察を前述の栽培地Bで実施した。なお、萼片の中の種子の色については、萼片が緑の段階でも常温乾燥させるとわずか数日で種子の色は緑から黒色となることから、種子の色で成熟度を判断することは困難と考え、萼片のみを観察対象とした。
【0045】
事前の観察結果から、蕾から種子の落下までを以下の10段階に分けた(
図3)。
1.蕾
2.花穂下部が開花している
3.花穂中央部が開花している
4.花穂上部が開花している
5.萼片が緑色であり、萼片の開口部が閉じている
6.萼片の先端部分が赤色である
7.萼片のほとんどが赤色である
8.萼片の一部が褐変している
9.萼片は殆ど褐変しているが茎は緑色である
10.茎の2/3以上が褐変している
前記の5及び7〜9の4段階で採種した種子の発芽率の相違を確認するため、試験例1に記載の方法で発芽試験を行った。
【0046】
採種の時期を検討する目的で、種子の成熟度を萼片の色により区別して採種最適期を検討した。(栽培地B)
いずれの成熟度(ステージ5、7、8、9)でも採種直後ではほとんど発芽しなかった。しかし、低温下(4℃)で保管した結果、106日後にいずれも発芽率が大きく上がって45〜70%となり、ステージ5が特に発芽率が向上することを見出した(
図4)。
【0047】
(4)種子100粒重と発芽率
前述の栽培地Bにて栽培したコガネバナの種子を、水洗せずに、吸引式風力選別機MHV−100(原島電機工業)を用いて比重により選別したところ、種子を0.100g/100粒以上に調整することにより発芽率が高くなることが判明した。0.100g/100粒以下では30%未満であった。
10月下旬(開花結実期)採種分の結果を
図5に示す。また、水洗すると発芽率が約20%低下した。
以上の知見から、一斉採種(地上部刈り取り)が可能になった。
【0048】
(5)種子低温保管による発芽率
前述の栽培地Bにて栽培したコガネバナの種子を直ちに4℃の保冷庫で保管した場合と常温で保管した場合(室温18〜23℃で密閉容器中に保管;以下同様)の1年後の発芽率を試験例1に記載の方法で測定した。結果を
図6に示す。
【0049】
(6)一斉採種と手摘み採種の作業効率の比較
前述の栽培地Bと栽培地C(北海道;開花結実期である9月から10月(但し、1日降水量30mm以上の日はなし。)積算降水量 約110mm)においていずれもコガネバナ種子を(4月)に播種し、開花結実期である9月下旬に一斉(機械)採種と手摘み採種を行い、採種作業に要した時間と得られた種子の量から、100gの種子を得るために必要な時間を算出した。なお、栽培地Cの開花期(8月〜11月)の環境条件は、日最高気温が30℃以上の日数は5日であり、28℃以上の日数は11日であった。但し、日最高気温が30℃以上であった日の日最低気温との差は、8℃未満の日があった。
【0050】
(一斉採種(機械採種))
開花結実期である9月から10月に栽培したコガネバナの地上部を豆刈り機で地際からすべて刈り取り、ビニールハウス内で数日乾燥させた。乾燥後、汎用麦用脱穀機により脱穀を行い不要な茎葉等の異物の篩過及び風選(吸引式風力選別機HMV−100 原島電気工業製)を行い、種子の100粒重が約0.1g以上となるように調整し、最終的な種子を得た。
【0051】
採種に要する作業時間は、刈り取り、脱穀、篩過及び風選時間を合計して算出した。
得られた種子量X(g)、作業時間Y(分)とした場合、種子100gを得るのに必要な時間(T)は、以下のとおり算出される。
T=(Y/X)×100
【0052】
(手摘み採種)
開花結実期である9月から10月に栽培したコガネバナを目視で確認し、3〜4回結実(熟した)部位を目視で選び手で折り取りバケツ又は袋に入れて集めた。得られた結実部位を、(ビニールの上に広げて)数日間乾燥し、もんだり、叩いたりした後、篩で余分な茎葉等を取り除いた後に風選し、最終的な種子を得た。採種に要する作業時間は、手折りに要した時間、篩過及び風選時間を合計して算出した。
種子100gを得るのに必要な時間(1人あたり換算)及び時間短縮割合(一斉採種/手摘み採種)を表2に示す。
【0053】
【表2】
【0054】
(7)開花時期(8月〜11月)の温度条件(i)〜(iii)の一つを満たさない栽培地での採種
亜寒帯湿潤気候のDfbに該当し、開花結実期である9月から10月(但し、1日降水量30mm以上の日を除く。)の積算降水量が約165mm(1日降水量30mm以上の日(該当2日)を除かない場合の積算降水量は約310mm)である栽培地D(北海道)にて栽培したコガネバナの種子を用いて、試験例1に記載の方法で保管条件の相違による発芽率の確認試験を行った。開花期(8月〜11月)の環境条件は、日最高気温が30℃以上の日数は4日であり、28℃以上の日数は10日であった。但し、日最高気温が30℃以上であった日の日最低気温との差は、9℃未満の日があり、温度条件(iii)を満たさなかった。発芽率は、50粒×2反復の平均値で算出した。保管条件は、20日間の常温保管の後に、10℃、4℃の2条件で、密閉容器中で保管した。
【0055】
10℃及び4℃で保管した場合、発芽率の上昇は緩やかであり、100日が経過した時点でもまだ発芽率が最高ではなく、播種の時期に高い発芽率が維持される。
【0056】
本試験の結果、開花結実期である9月〜10月に採種後、実際に播種される翌年4月以降までには、約150日〜200日以上あるため、採種後できる限り速やかに乾燥し、密閉状態、−20℃〜15℃で保管するか、4℃以下(好ましくは、4℃〜−15℃)の低温でゆっくりと乾燥させ、脱穀風選処理し、密閉状態、−20℃〜15℃で保管することが好ましいことがわかった。
【0057】
更に、この方法を用いることにより、コガネバナの種子を播種後1年で採種とオウゴン(地下部)の収穫が同時にできるので栽培効率が更に向上した。
結果を表3に示す。
【0058】
【表3】
【0059】
(8)栽培・採種方法
亜寒帯湿潤気候のDfbに該当し、開花結実期である9月から10月(但し、1日降水量30mm以上の日を除く。)の積算降水量が約約180mm(1日降水量30mm以上の日(該当2日)を除かない場合の積算降水量は約260mm)の栽培地E(北海道)6aの圃場に、コガネバナ種子を4月に機械(みのる製野菜播種機)で播種して栽培した。
【0060】
開花結実期である10月に地上部を一斉に機械(汎用の豆刈り機)で収穫した。開花期(8月〜11月)の環境条件は、日最高気温が30℃以上の日数は7日であり、28℃以上の日数は15日であった。また、日最高気温が30℃以上であった日の日最低気温との差は、いずれも10℃以上であった。
【0061】
収穫した地上部は、半分は圃場に寒冷紗を敷いた上に積み上げて、雨水を遮断するビニルシートで覆い、約1週間保存乾燥した。残りの半分はビニールハウス内で約1週間保管、乾燥させた。乾燥後、脱穀(汎用の小麦用脱穀機)、篩過及び風力による比重選別を吸引式風力選別機MHV−100(原島電機工業)で行い、0.2kgのコガネバナ種子を得た。
(9)栽培・採種方法
亜寒帯湿潤気候のDfbに該当し、開花結実期である9月から10月(但し、1日降水量30mm以上の日を除く。)の積算降水量が約122mm(1日降水量30mm以上の日(該当2日)を除かない場合の積算降水量は約244mm)の栽培地F(北海道)1aの圃場に、コガネバナ種子を4月に機械(みのる製野菜播種機)で播種して栽培した。栽培条件は、実施例1(1)(b)と同じであり、開花結実期である(10月)に地上部を一斉に機械(汎用の豆刈り機)で収穫した。開花期(8月〜11月)の環境条件は、日最高気温が30℃以上の日数は4日であり、28℃以上の日数は15日であった。また、日最高気温が30℃以上であった日の日最低気温との差は、10℃以上であった。
【0062】
開花結実期に栽培したコガネバナの地上部を豆刈り機で地際からすべて刈り取り、ビニールハウス内で数日乾燥させた。乾燥後、汎用麦用脱穀機により脱穀を行い不要な茎葉等の異物の篩過及び風選(吸引式風力選別機MHV−100 原島電気工業製)を行い、種子の100粒重が約0.15g以上となるように調整し、最終的な種子を得た。
得られた種子を密閉容器中で92日間、低温保管(−16.3℃〜14.5℃、平均0.58℃)した後の種子の発芽率は約80%であり、高品質な種子を得ることができた。
【0063】
(10)栽培・採種方法
亜寒帯湿潤気候のDfbに該当し、開花結実期である9月から10月(但し、1日降水量30mm以上の日を除く。)の積算降水量が約93mm(1日降水量30mm以上の日(該当4日)を除かない場合の積算降水量は約約360mm)の栽培地G(北海道)1aの圃場で、実施例1(1)(b)と同じ方法でコガネバナを栽培した。開花期(8月〜11月)の環境条件は、日最高気温が30℃以上の日数は4日であり、28℃以上の日数は15日であった。また、日最高気温が30℃以上であった日の日最低気温との差は、約10℃であった。
【0064】
開花結実期である10月に地上部を一斉に機械(汎用の豆刈り機)で収穫した。
収穫した地上部は、−11.5℃〜17.2℃、平均1.1℃で約15週間保存乾燥し、乾燥後、脱穀(汎用の小麦用脱穀機)、不要な茎葉等の異物の篩過及び風力による比重選別を吸引式風力選別機MHV−100(原島電機工業)で行い、0.9kgのコガネバナ種子を得た。種子の100粒重は約0.147gであった。
【0065】
得られた種子を密閉容器中で7日間、低温保管(4℃)した後の種子の発芽率は約81%であり、発芽率の高い高品質な種子であることがわかった。
7日間の低温負荷を行わなかった場合の発芽率は、約12%であり、低温負荷による発芽率の向上が確認された。
【0066】
(11)栽培・採種方法
亜寒帯湿潤気候のDfbに該当し、開花結実期である9月から10月(但し、1日降水量30mm以上の日を除く。)の積算降水量が約123mm(1日降水量30mm以上の日(該当6日)を除かない場合の積算降水量は約370mm)の栽培地H(北海道)で、実施例1(1)(b)と同じ方法でコガネバナを栽培した。開花期(8月〜11月)の環境条件は、日最高気温が30℃以上の日数は0日であり、28℃以上の日数は7日であった。
【0067】
開花結実期である10月に地上部を一斉に機械(汎用の豆刈り機)で収穫した。
収穫した地上部は、−2.3℃〜11.6℃、平均5.24℃で約6週間保存乾燥し、乾燥後、脱穀(汎用の小麦用脱穀機)、不要な茎葉等の異物の篩過及び風力による比重選別を吸引式風力選別機MHV−100(原島電機工業)で行い、約75gのコガネバナ種子を得た。種子の100粒重は約0.134gであった。
【0068】
得られた種子を密閉容器中で7日間、低温保管(4℃)した後の種子の発芽率は90%であり、発芽率の高い高品質な種子であることがわかった。
7日間の低温負荷を行わなかった場合の発芽率は、約60%であり、低温負荷による発芽率の向上が確認された。