(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6278163
(24)【登録日】2018年1月26日
(45)【発行日】2018年2月14日
(54)【発明の名称】ヒドロキシ桂皮酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 45/79 20060101AFI20180205BHJP
C07C 47/58 20060101ALI20180205BHJP
C07C 45/81 20060101ALI20180205BHJP
C07C 51/47 20060101ALI20180205BHJP
C07C 51/43 20060101ALI20180205BHJP
C07C 59/64 20060101ALI20180205BHJP
C07C 59/52 20060101ALI20180205BHJP
【FI】
C07C45/79
C07C47/58
C07C45/81
C07C51/47
C07C51/43
C07C59/64
C07C59/52
【請求項の数】16
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-538750(P2017-538750)
(86)(22)【出願日】2017年3月28日
(86)【国際出願番号】JP2017012636
【審査請求日】2017年10月4日
(31)【優先権主張番号】特願2016-66898(P2016-66898)
(32)【優先日】2016年3月29日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】南 野 淳
(72)【発明者】
【氏名】舩 田 茂 行
(72)【発明者】
【氏名】栗 原 宏 征
(72)【発明者】
【氏名】旭 裕 佳
(72)【発明者】
【氏名】笠 原 拓 也
(72)【発明者】
【氏名】山 田 勝 成
【審査官】
土橋 敬介
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2016/005998(WO,A1)
【文献】
国際公開第2014/187784(WO,A1)
【文献】
中国特許第101559192(CN,B)
【文献】
特開2011−140443(JP,A)
【文献】
TILAY A., et al.,Preparation of ferulic acid from agricultural wastes: Its improved extraction and purification,JOURNAL OF AGRICULTURAL AND FOOD CHEMISTRY,2008年,56,pp.7644-7648,ISSN: 1520-5118
【文献】
Noor Hasyierah Mohd Salleh et al.,Optimization of alkaline hydrolysis of paddy straw for ferulic acid extraction,INDUSTRIAL CROPS AND PRODUCTS,2011年,34,pp.1635-1640,ISSN: 0926-6690
【文献】
Xie Wei et al.,Optimization of Alkaline Hydrolysis of Lotus Root for Bound Ferulic Acid by Response Surface Methodo,FOOD SCIENCE (SINPIN KEXUE),2014年,35(10),pp.18-22,ISSN: 1002-6630
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
B01D 11/00
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース含有バイオマスにアルカリ性水性媒体を通液させてアルカリ性濾液を得る工程、および
該アルカリ性濾液を前記セルロース含有バイオマスに繰り返し通液させてヒドロキシ桂皮酸類抽出液を得る工程
を含む、ヒドロキシ桂皮酸類の製造方法。
【請求項2】
蒸発濃縮法および再結晶法から選択される少なくとも1つの方法により前記ヒドロキシ桂皮酸類抽出液からヒドロキシ桂皮酸類を分離する工程をさらに含む、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記蒸発濃縮法がプレート型濃縮機を用いて行われる、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ヒドロキシ桂皮酸類が、ヒドロキシ桂皮酸、ヒドロキシ安息香酸またはそれら化合物のメトキシ基置換体である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記ヒドロキシ桂皮酸類が、クマル酸、フェルラ酸およびバニリンのうち少なくとも1つのものである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記アルカリ性濾液を得る工程がセルロース含有バイオマスとアルカリ性水性媒体を濾過器に供給し、該濾過器を用いてセルロース含有バイオマスにアルカリ性水性媒体を通液させることを含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記通液が重力方向の自重濾過である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記アルカリ性水性媒体およびアルカリ性濾液の温度が実質的に同一に保持されている、請求項1〜7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記アルカリ性水性媒体およびアルカリ性濾液のうち少なくとも1つの温度が80℃以上100℃以下である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記アルカリ性濾液が酢酸またはその塩を含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記セルロース含有バイオマスが目開き30mm以上の篩で篩過されたものである、請求項1〜10のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項12】
前記セルロース含有バイオマスが乾式粉砕処理されたものである、請求項1〜11のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項13】
前記セルロース含有バイオマスが草本系バイオマスである、請求項1〜12のいずれか一項に記載の糖液の製造方法。
【請求項14】
前記アルカリ性水性媒体およびアルカリ性濾液が、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムから選択される少なくとも一つの水酸化物を含む、請求項1〜13のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項15】
前記通液の繰り返し時間が30分以上3時間以下である、請求項1〜14のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項16】
前記アルカリ性濾液のpHが10以上12以下である、請求項1〜15のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
本特許出願は、先に出願された日本国特許出願である特願2016−066898号(出願日:2016年3月29日)に基づく優先権の主張を伴うものであり、かかる先の特許出願における全開示内容は、引用することにより本明細書の一部とされる。
【技術分野】
【0002】
本発明はセルロース含有バイオマスからヒドロキシ桂皮酸を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
糖質を原料とした化学品の生産プロセスは、種々の工業原料生産に利用されている。この原料となる糖質として、現在、さとうきび、澱粉、テンサイなどの食用原料に由来するものが工業的に使用されているが、今後の世界人口の増加による食用原料価格の高騰、あるいは食用と競合するという倫理的な側面から、再生可能な非食用資源、すなわちセルロース含有バイオマスより効率的に工業原料を製造するプロセスの構築が今後の課題となっている。
【0004】
セルロース含有バイオマス原料中の糖質は、複雑な構造をとる細胞壁中に埋め込まれている。したがって、工業原料となり得る物質を効率よく、直接的または間接的に取得するために、バイオマス原料にアルカリ処理を施すことが知られている。
【0005】
例えば、セルロールの酵素加水分解速度を向上させるために、セルロース含有物とアルカリ水溶液とを接触させるアルカリ処理を行い、該セルロース含有物を水および/または酸性水溶液で洗浄した後、該セルロース含有物とセルロース分解酵素及びpH緩衝剤を含む水溶液とを0〜250mMの緩衝液濃度の範囲で接触させる酵素処理を行うことが開示されている(特許文献1)。
【0006】
また、バイオマスを二軸押出機に供給し、該供給中にアルカリ性化合物の水溶液を該機内に注入し、該機内で該バイオマスと外水溶液とを混練、反応させることを特徴とするバイオマスの酵素処理用前処理法が開示されている(特許文献2)。
【0007】
また、バイオマスから糖を製造するためのコストを低減するために、草本系バイオマスまたは木質系バイオマスを、アルカリ溶液を用いて、アルカリ処理し、アルカリ処理された溶液をアルカリ溶液と固形成分とに固液分離し、分離されたアルカリ溶液にアルカリ物質を補充して、アルカリ処理工程にリサイクルする方法が開示されている(特許文献3)。
【0008】
また、酵素糖化の効率を向上させかつ中和廃液を大幅に減少させるために、 裁断、粉砕、磨砕、擂潰、または粉末化したセルロース系バイオマス原料、水酸化カルシウム、および水を含むスラリーを調製して当該原料に対するアルカリ処理を行い、その後固液分離を行い、当該固液分離によって得られた固形物、または、当該固形物と水との混合物に対して、二酸化炭素を用いて中和することによりpHを5〜8に調整し、酵素糖化反応を行うことを特徴とするセルロース系バイオマス原料の酵素糖化方法が開示されている。
さらに、上記固液分離において得られる液分から、フェルラ酸、クマル酸をはじめとするヒドロキシ桂皮酸類が取得しうることが開示されている(特許文献4)。
【0009】
ヒドロキシ桂皮酸類は、フェノール基とカルボキシル基を持っており、脱炭酸によりスチレン骨格をもつ化合物への誘導化が可能となる。また、ヒドロキシ桂皮酸類には様々な薬理機能が報告されており、多様な用途開発を促し、市場活性化と新産業創出に繋がるものと期待できる。しかしながら、セルロース含有バイオマスから高品質のヒドロキシ桂皮酸類を効率的に取得する方法が依然として求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2011−135861号公報
【特許文献2】特開昭59−192094号公報
【特許文献3】特開2014−23484号公報
【特許文献4】特開2013−220067号公報
【発明の概要】
【0011】
本発明は、セルロース含有バイオマスからヒドロキシ桂皮酸を効率的に製造する方法を提供することを目的としている。本発明はまた、セルロース含有バイオマスから高品質のヒドロキシ桂皮酸を製造する方法を提供することを目的としている。
【0012】
本発明者らは、今般、アルカリ性濾液を繰り返し利用する特定の処理をセルロース含有バイオマスに適用すると、ヒドロキシ桂皮酸類を効率的に抽出しうることを見出した。さらに、本発明者らは、上記処理により上記ヒドロキシ桂皮酸が顕著な高純度で得られることを見出した。本発明は、かかる知見に基づくものである。
【0013】
本発明は、以下の[1]〜[15]を包含する。
[1]セルロース含有バイオマスにアルカリ性水性媒体を通液させてアルカリ性濾液を得る工程、
該アルカリ性濾液を前記セルロース含有バイオマスに繰り返し通液させることによりヒドロキシ桂皮酸抽出液を得る工程
を含む、ヒドロキシ桂皮酸の製造方法。
[2]蒸発濃縮法および再結晶法から選択される少なくとも1つの方法によりヒドロキシ桂皮酸類抽出液からヒドロキシ桂皮酸分離する工程をさらに含む、[1]に記載の製造方法。
[3]蒸発濃縮法がプレート型濃縮機を用いて行われる、[2]に記載の製造方法。
[4]ヒドロキシ桂皮酸類が、ヒドロキシ桂皮酸、ヒドロキシ安息香酸、またはそれらの化合物のメトキシ基置換体である、[1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]ヒドロキシ桂皮酸類が、クマル酸、フェルラ酸およびバニリンのうち少なくとも1つのものである、[1]〜[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]前記アルカリ性濾液を得る工程がセルロース含有バイオマスとアルカリ性水性媒体を濾過器に供給し、該濾過器を用いてセルロース含有バイオマスにアルカリ性水性媒体を通液させることを含む、[1]〜5のいずれかに記載の製造方法。
[7]通液が重力方向の自重濾過である、[1]〜[6]のいずれかに記載の製造方法。
[8]アルカリ性水性媒体およびアルカリ性濾液の温度が実質的に同一に保持されている、[1]〜[7]のいずれかに記載の製造方法。
[9]アルカリ性水性媒体およびアルカリ性濾液のうち少なくとも1つの温度が80℃以上100℃以下である、[1]〜[8]のいずれかに記載の糖液の製造方法。
[10]アルカリ性濾液が酢酸またはその塩を含む、[1]〜[9]のいずれかに記載の製造方法。
[11]セルロース含有バイオマスが目開き30mm以上の篩で篩過されたものである、[1]〜[10]のいずれかに記載の製造方法。
[12]セルロース含有バイオマスが乾式粉砕処理されたものである、[1]〜[11]のいずれかに記載の製造方法。
[13]セルロース含有バイオマスが草本系バイオマスである、[1]〜[12]のいずれかに記載の糖液の製造方法。
[14]アルカリ性水性媒体およびアルカリ性濾液が、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムから選択される少なくとも一つの水酸化物を含む、[1]〜[13]のいずれかに記載の製造方法。
[15]通液の繰り返し時間が30分以上3時間以下である、[1]〜[14]のいずれかに記載の製造方法。
[16]アルカリ性濾液のpHが10以上12以下である、[1]〜[15]のいずれかに記載の製造方法。
【0014】
本発明によれば、アルカリ性濾液を繰り返し用いて、セルロース含有バイオマスから効率的にヒドロキシ桂皮酸類を取得することができる。本発明は、ヒドロキシ桂皮酸類の製造においてアルカリ使用量および反応時間を大幅に低減する上で有利である。本発明はまた、セルロース含有バイオマスから顕著に高純度なヒドロキシ桂皮酸類を製造する上で有利である。本発明は、顕著に高純度なヒドロキシ桂皮酸類を効率的に生産しうることから、工業原料や飼料・食品、抗生物質代替品など多様な用途に有利に利用することができる。
【0015】
本発明のヒドロキシ桂皮酸類の製造方法は、セルロース含有バイオマスにアルカリ性水性媒体を通液させてアルカリ性濾液を得る工程、該アルカリ性濾液を前記セルロース含有バイオマスに繰り返し通液させてヒドロキシ桂皮酸抽出液を得る工程、およびヒドロキシ桂皮酸類抽出液からヒドロキシ桂皮酸類を分離する工程を含むことを特徴としている。セルロース含有バイオマスにアルカリ性濾液をそのまま通液させることを繰り返すことにより、顕著に高純度なヒドロキシ桂皮酸類を効率的に取得しうることは意外な事実である。
【0016】
本発明の「ヒドロキシ桂皮酸類」とは、桂皮酸(3−フェニル−2−プロペン酸)の誘導体または類縁体であって、少なくともヒドロキシ基を有するものを意味する。かかるヒドロキシ桂皮カルボン酸類の具体的な例としては、ヒドロキシ桂皮酸、ヒドロキシ安息香酸、またはそれらの化合物のメトキシ基置換体が挙げられ、好ましくはクマル酸、フェルラ酸またはバニリン等が挙げられる。
【0017】
本発明の方法では、まず、セルロース含有バイオマスとアルカリ性水性媒体とを濾過器中に供給することが好ましい。本発明において、セルロース含有バイオマスおよびアルカリ性水性媒体は予め混合して濾過器内に供給してもよく、両者を別々に濾過器内に供給してもよいが、濾過器中に予め供給されたセルロース含有バイオマス上にアルカリ性水性媒体を添加することが好ましい。
【0018】
本発明のセルロース含有バイオマスとは、すくなくともセルロースを含む生物資源のことを指す。セルロース含有バイオマスの好適な例としては、バガス、スイッチグラス、ネピアグラス、エリアンサス、コーンストーバー、わら(稲わら、麦わら)、油椰子空果房などの草本系バイオマス、あるいは樹木、木屑、廃建材などの木質系バイオマス、さらに藻類、海草など水生環境由来のバイオマス、コーン外皮、小麦外皮、大豆外皮、籾殻などの穀物皮類バイオマスなどが挙げられるが、バガス、稲わら、油椰子空果房などの草本系バイオマスがより好ましく利用される。
【0019】
本発明のセルロース含有バイオマスの形状は特に限定されないが、粉砕処理されていることが好ましい。粉砕手段は特に限定されず、ボールミル、振動ミル、カッターミル、ハンマーミル、ウィレーミル、ジェットミルなど各種材料の粗粉砕に慣用されている機械を用いて行うことができる。この機械的な粉砕は乾式および湿式のいずれでもよいが、好ましくは乾式粉砕である。粉砕処理後は必要に応じて分級してもよい。好ましい粒度の範囲は、セルロース含有バイオマスが通過する篩の目開の大きさによって設定することができる。セルロース含有バイオマスが通過する篩の目開の好ましい範囲は、例えば、8mm程度以上、8mm程度以上20mm程度以下、20mm程度以上、20mm程度以上30mm程度以下、30mm程度以上、30mm程度以上50mm程度以下、50mm程度以上、50mm程度以上70mm程度以下、70mm程度以上である。
【0020】
また、本発明のセルロース含有バイオマスの含水率は特に限定されないが、好ましい範囲は、例えば、3%程度以上、3%程度以上60%程度以下、5%程度以上、5%程度以上60%程度以下、5%程度以上55%程度以下、5%程度以上55%程度以下である。
【0021】
また、本発明のアルカリ性水性媒体は、アンモニア、アンモニア水、水酸化物を含む水性媒体などのアルカリ性水溶液が挙げられるが、好ましくは水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムから選択される少なくとも一つの水酸化物を含む水性媒体であり、より好ましくは水酸化ナトリウム水溶液または水酸化カリウム水溶液である。
【0022】
アルカリ性水性媒体のアルカリ濃度の上限値は、特に限定されないが、好ましくは3、2、1.5、1.0、0.7、0.6、0.5、0.4または0.3重量%程度であり、下限値は、好ましくは0.0.5、0.1、0.2、0.3、0.4または0.5重量%程度である。また、好ましいアルカリ濃度の範囲は、例えば、0.05重量%程度以上0.3重量%程度以下、0.1重量%程度以上3重量%程度以下、0.1重量%程度以上2重量%程度以下、より好ましい範囲は0.1〜2重量%程度、0.3重量%程度以上1.5重量%程度以下、0.7重量%程度以上1.5重量%程度以下、さらに好ましい範囲は0.3重量%程度以上1.5重量%程度以下または0.7重量%程度以上1.5重量%程度以下である。
【0023】
また、アルカリ性水性媒体のpHの下限値は、アルカリ性である限り特に限定されないが、7以上、好ましくはpH8以上、より好ましくはpH9以上、さらに好ましくはpH10以上である。pHの上限値は、pH14未満であれば、特に限定はされないが、アルカリの使用量を少なくする観点で、pH12以下で設定することができる。また、好ましいpHの範囲は、例えば、7以上13.5以下、8以上13.5以下、より好ましいpHの範囲は9以上13.5以下、さらに好ましいpHの範囲は10以上12以下の範囲である。
【0024】
また、アルカリ性水性媒体には、所望により酢酸またはその塩を添加してもよい。アルカリ性水性媒体に酢酸またはその塩を添加することは、本発明の反応効率を向上する上で好ましい。好ましいアルカリ性水性媒体中の酢酸の濃度は、例えば、0.05重量%程度以上5.0重量%程度以下、0.08重量%程度以上3.0重量%程度以下、0.08重量%程度以上2.5重量%程度以下、0.08重量%程度以上2.3重量%程度以下、0.1重量%程度以上2.0重量%程度以下、より好ましい範囲は0.08重量%程度以上2.3重量%程度以下または0.1重量%程度以上2.0重量%程度以下である。
【0025】
アルカリ性水性媒体の温度の上限値は、特に限定されないが、好ましくは110、100、95、90、80、75、70℃程度であり、下限値は、好ましくは35,40、50、60、65℃程度である。また、好ましいアルカリ性水性媒体の温度の範囲は、例えば、35℃程度以上100℃程度以下、40℃程度以上100℃程度以下、50℃程度以上100℃程度以下、60℃℃程度以上100℃程度以下、65℃程度以上100℃程度以下、80℃程度以上100℃程度以下であり、より好ましい温度の範囲は60℃程度以上100℃程度以下、65℃程度以上100℃程度以下、80℃程度以上100℃程度以下であり、さらに好ましい温度の範囲は65℃程度以上100℃程度以下または80℃程度以上100℃程度以下である。
【0026】
また、本発明において、アルカリ水性媒体と、セルロース含有バイオマス(乾燥重量)との重量割合は、特に限定されないが、好ましい範囲は、例えば、100:1〜2:1、90:1〜3:1、50:1〜5:1、30:1〜5:1、25:1〜7:1、25:1〜7:1、25:1〜5:1、20:1〜5:1である。
【0027】
また、本発明において、アルカリ水性媒体と、セルロース含有バイオマス(乾燥重量)との割合は、後述する参考例5に記載のアルカリ使用量(アルカリ反応量ともいう)を指標として設定することもできる。好ましいアルカリ使用量の範囲は、例えば、20mg/g程度以上300mg/g程度以下、30mg/g程度以上200mg/g程度以下、40mg/g程度以上200mg/g程度以下、45mg/g程度以上180mg/g程度以下、45mg/g程度以上150mg/g程度以下、45mg/g程度以上120mg/g程度以下、50mg/g程度以上100mg/g程度以下、50mg/g程度以上90mg/g程度以下であり、より好ましいアルカリ使用量の範囲は45mg/g程度以上120mg/g程度以下、50mg/g程度以上100mg/g程度以下、50mg/g程度以上90mg/g程度以下である。
【0028】
また、本発明の濾過器は、本発明を実施しうる特に限定されないが、セルロース含有バイオマスを少なくとも収容するバイオマス収容部と、セルロース含有バイオマスにアルカリ水性媒体を通液させる濾過部と、濾過部から得られるアルカリ性濾液を回収して循環させる濾液循環部とを少なくとも備えていることが好ましい。
【0029】
濾過器のバイオマス収容部の形状は、特に限定されず、筒上、箱状、膜状、スリット状、板状またはベルト状(移動式)等にしてもよい。また、バイオマス収容部は、セルロース含有バイオマス、アルカリ性水性媒体およびアルカリ性濾液を器内に供給するための少なくとも1つの開口部を上面または側面に有し、かつ濾過部と隣接していることが好ましい。また、バイオマス収容部の底面に濾過部が配置されていることが好ましい。また、本発明の濾過器は、バイオマス収容部と濾過部とが一体的に構成されていることが好ましい。
【0030】
バイオマス収容部のサイズは、特に限定されず、少なくともセルロース含有バイオマスを収容できる容量または面積であることが好ましい。例えば、バイオマス収容部が筒上または箱上である場合、バイオマス収容部は、セルロース含有バイオマスと、アルカリ性水性媒体とを共に収容しうる容量を有することが好ましい。また、バイオマス収容部が板状またはベルト状である場合、バイオマス収容部は、セルロース含有バイオマスを収容部上に配置できるように十分な面積を有することが好ましい。
【0031】
濾過部の形状は、特に限定されないが、セルロース含有バイオマスをその上に配置して濾過するため、板状、膜状またはベルト状であることが好ましい。さらに、濾過部は、セルロース含有バイオマスを通過させずかつアルカリ水性媒体を通過させる孔を有することが好ましい。濾過部は、精密濾過膜(MF)、限外濾過膜(UF)で構成することもできる。
【0032】
濾過部の孔の平均孔径は、セルロース含有バイオマスの粒度に応じて適宜設定することができるが、好ましい平均孔径の範囲は、例えば、0.001μm〜5mm、0.01μm〜5mm、0.1μm〜5mmである。ここで、「平均孔径」とは、ポロメーター(コースター社)を用いてミーンフローポイント法により測定される平均流量孔径をいう。
また、濾過部は孔形状は、特に限定されず、例えばスリットのような一方向に長い切込み等が挙げられる。また、ろ過部の開口率は特に限定されないが、5%以上60%以下が好ましく、10%以上40%以下がより好ましい。開口率を上記範囲内とすることは、バイオマスの微粒子が目詰まりを起こして濾過が遅くなったり、濾過器上にバイオマスが保持できなくなることを防止する上で有利である。また孔形状がスリットのような切込みの場合、その幅は上記同様0.001μm〜5mm、0.01μm〜5mm、0.1μm〜5mmであることが好ましい。
【0033】
濾過部の材質としては、特に限定されるものではないが、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、塩素化ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリオレフィン、ポリビニルアルコール、ポリメチルメタクリレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリ4フッ化エチレン、ポリアクリレート等の有機材料、あるいは鉄、チタン、アルミ、ステンレス等の金属、あるいはセラミック等の無機材料が挙げられる。
【0034】
また、濾液循環部の形状は、濾過部から得られるアルカリ性濾液を回収し、再度濾過に用いうる限り特に限定されない。好適な濾液循環部は、例えば、濾過部の下に配置されかつ濾液を回収するための開口部を備えた回収容器部(バケット等)を少なくとも備えている。
【0035】
濾液循環部は、固定して設置してもよく、運搬・移動可能なように設置してよい。特に、濾液循環部が運搬・移動可能な場合、例えば、アルカリ性濾液を回収した後、濾液循環部をバイオマス収容部付近に運搬してアルカリ性濾液をそのままバイオマス収容部に注ぐことにより循環濾過を実施することができる。
【0036】
また、濾液循環部は、運搬・移動を通常行わない場合、濾液循環部からバイオマス収容部へアルカリ性濾液を循環させるためライン部(パイプ等)をさらに備えていてもよい。
ライン部は、アルカリ性濾液をバイオマス収容部に再注入するための注入口(例えば、シャワー状の開口部)を備えていることが好ましい。さらに、濾液循環部は、アルカリ性濾液を循環させる駆動力を付与するためのポンプをさらに備えていることが好ましい。また、濾液循環部は保温または加温できる機能を有していることが好ましい。かかる保温または加温機能のある濾液循環部を使用することは、特に初期の反応温度が高熱である場合に温度低下によって反応の進行が妨げられるのを防止する上で有利である。また、本発明の濾液循環部は、その全部または一部をジャケット式またはトレース式にて内部に蒸気や温水を共有することにより強制的に保温または昇温することがより好ましい。
なお、濾液循環部およびバイオマス収容部の材質は、特に限定されず、例えば、上述の濾過部の材質と同様とすることができる。
【0037】
本発明の濾過器としては、公知の循環式抽出(濾過)装置を用いることも可能である。
濾過器の好適な例としては、ベルト式濾過機(DeSmet社LM)、バスケット式濾過機、ロータリー式濾過機(Carousel、Rotocell、REFLEX)、ボノット式濾過機、スクリーン濾過式等が挙げられるが、より好ましくはタンク内スクリーン濾過式装置(イズミフードマシナリ社)、トコンベア式スクリーン濾過式装置(Crown Iron Works社、モデル2、モデル3)等である。かかる循環式抽出(濾過)装置を用いることは、高温または高圧容器を用いる従来の前処理装置と比較して、工業設備のコストを低減する上で有利である。
【0038】
また、本発明の一つの態様によれば、複数の濾過器を並列に連結して用いてもよい。かかる態様においては、例えば、第一の濾過器から排出される第一のアルカリ性濾液を第一のライン部を介して第二の濾過器に注入し、第二の濾過器から排出される第二のアルカリ性濾液を第二のライン部を介して第三の濾過器に注入し、第三の濾過器から排出される第三のアルカリ性濾液を第三のライン部を介して第一の濾過器に注入するように、各濾過器を連結することができる。
【0039】
また、本発明の別の態様によれば、濾過器は、一つのバイオマス収容部および濾過部と、複数の濾液循環部とを備えていてもよい。かかる態様においては、例えば、バイオマス収容部および濾過部は一体的に構成しかつ孔を有する移動式ベルト状とすることができる。そして、移動式ベルトの下に、複数の濾液循環部を配置することができる。かかる態様によれば、バイオマスをベルトにより移動させつつ、アルカリ性濾液を循環させて前処理反応を実施することができ、反応効率を向上させる上で有利である。
【0040】
また、別の好ましい態様によれば、セルロース含有バイオマスと、アルカリ性水性媒体またはアルカリ性濾液とを対向接触させることが可能な濾過器を用いてもよい。かかる濾過器には、例えば、対向接触の間はバイオマス収容部を密閉できるように、開口部および濾過部との接触面に開閉可能な蓋を配置してもよい。また、対向接触の際に必要な加圧を行うための加圧部をさらに配置してもよい。かかる対向接触可能な濾過器を使用することは、反応効率をさらに向上する上で有利である。
【0041】
本発明の方法においては、セルロース含有バイオマスにアルカリ性水性媒体を通液させて、アルカリ性濾液を得る。本発明の通液は、好ましくはアルカリ液の重量を利用した、重力方向の自重濾過によることが好ましい。かかる自重濾過は、通液速度を緩やかにして反応効率を向上させ、バイオマスを圧密化して反応を均一化するのに有利である。特に、ポンプで強制的に通液する場合、自重濾過は反応を効果的に均一化する上で特に好ましい。
【0042】
また、アルカリ性濾液のpHは、アルカリ性水性媒体と同様の範囲内であってよく、好ましいpHの範囲は、例えば、7以上12以下、8以上12以下、より好ましいpHの範囲は9以上12以下、さらに好ましいpHの範囲は10以上12以下の範囲である。アルカリ性濾液のpHは反応が進行するとともに低下していく傾向がある。これはアルカリ反応が進行すると可溶性リグニンの成分が中和剤の役割を果たすためであり、この低下度合いによって反応の進行状態を測ることが可能である。特に循環濾過終了時(反応後)のpHの範囲は、初期のアルカリ濃度等により適宜調整することができるが、好ましくは、例えば、7以上12.5以下、8以上12.5以下、より好ましいpHの範囲は9以上12以下、さらに好ましいpHの範囲は10以上12以下の範囲である。アルカリ性濾液のpHが上記範囲にあるか測定することは、後続する加水分解工程を行うのに十分なレベルまで反応が進行しているかを評価する上で有効的な手段である。なお、本発明のアルカリ性濾液には、アルカリを追加せずにそのまま濾過循環に利用することが好ましい。かかる本発明によれば、アルカリ性濾液に対してアルカリの追加を行わなくても反応効率を向上することができ、コストを低減する上で有利である。
【0043】
また、アルカリ性濾液では、濾過前のアルカリ性水性媒体の温度を実質的に保持することが好ましい。例えば、アルカリ性濾液の好適な温度は、アルカリ性水性媒体と実質的に同一の範囲内(±0.5〜1℃程度の差の範囲内)であってよく、好ましい温度の範囲は、例えば、35℃程度以上100℃程度以下、40℃程度以上100℃程度以下、50℃程度以上100℃程度以下、60℃℃程度以上100℃程度以下、65℃程度以上100℃程度以下、80℃程度以上100℃程度以下であり、より好ましい温度の範囲は60℃程度以上100℃程度以下、65℃程度以上100℃程度以下、80℃程度以上100℃程度以下であり、さらに好ましい温度の範囲は65℃程度以上100℃程度以下または80℃程度以上100℃程度以下である。アルカリ性濾液を上記温度に保持することは、濾過器のに公知の保温機器または加熱機器を設置することにより実施することができる。
【0044】
また、本発明の方法では、上述の通り、セルロース含有バイオマスに通液させて得られるアルカリ性濾液を、セルロース含有バイオマスに通液させることを繰り返すことによりヒドロキシ桂皮酸類抽出液を準備する。本発明において、アルカリ性濾液をアルロース含有バイオマスに通液させることを繰り返す循環工程は、上述の濾過器を用いて実施することができる。
【0045】
アルカリ性濾液をセルロース含有バイオマスに通液させることを繰り返す時間は、特に限定されないが、好適な繰り返し時間は、例えば、20分程度以上72時間程度以下、20分程度以上48時間程度以下、20分程度以上24時間程度以下、30分程度以上48時間程度以下、30分程度以上24時間程度以下、30分程度以上12時間程度以下、30分程度以上6時間程度以下または30分程度以上3時間程度以下ある。
【0046】
また、アルカリ性濾液をセルロース含有バイオマスに通液させることを繰り返す回数は、特に限定されないが、好適な回数は、例えば、少なくとも2回以上、2回以上20000以下、2回以上10000以下、2回以上1000以下、3回以上10000以下、3回以上1000以下または3回以上100以下である。
【0047】
上記循環濾過により、セルロース含有バイオマスから、セルロース含有固形分と、ヒドロキシ桂皮酸類抽出液とを得ることができる。濾過して得られたセルロース含有固形分には、公知装置を用いて濾過、加圧等を施し、得られる液分をヒドロキシ桂皮酸類抽出液に加えてもよい。
【0048】
本発明の方法によれば、ヒドロキシ桂皮酸類抽出液中に、クマル酸、フェルラ酸、バニリンをはじめとするヒドロキシ桂皮酸を効率的に抽出することができる。かかるヒドロキシ桂皮酸は、新規生分解性ポリマー原料等として有利に利用することができ、工業生産上有利である。ヒドロキシ桂皮酸類抽出液のクマル酸、フェルラ酸、バニリンの濃度は、各工程の反応条件等に応じて適宜設定することができるが、上記抽出液における好適なクマル酸の濃度は、例えば、500mg/L程度以上2000mg/L程度以下、600mg/L程度以上2000mg/L程度以下、700mg/L程度以上2000g/L程度以下、750mg/L程度以上2000mg/L程度以下、750g/L程度以上1500mg/L程度以下または750mg/L程度以上1200mg/L程度以下である。
【0049】
また、上記抽出液における好適なフェルラ酸の濃度は、例えば、30mg/L程度以上500mg/L程度以下、40mg/L程度以上400mg/L程度以下、50mg/L程度以上300mg/L程度以下、50mg/L程度以上250mg/L程度以下、60mg/L程度以上250mg/L程度以下または60mg/L程度以上250mg/L程度以下である。
【0050】
また、上記抽出液における好適なバニリンの濃度は、例えば、2mg/L程度以上30mg/L程度以下、3mg/L程度以上20mg/L程度以下、4mg/L程度以上20mg/L程度以下、5mg/L程度以上20mg/L程度以下または5mg/L程度以上15mg/L程度以下である。
【0051】
本発明の方法においては、上記抽出液からヒドロキ桂皮酸を分離取得することができる。上記分離方法は、特に限定されず、蒸発濃縮法、濾過、常圧乾燥、凍結乾燥、蒸発乾固、再結晶等の公知手法が挙げられるが、蒸発濃縮法が好ましい。また、蒸発濃縮法に用いる装置は、特に限定されないが、プレート式濃縮装置が好ましい。プレート型濃縮機を使用することは、抽出液の発泡制御を制御して蒸留液へのヒドロキシ桂皮酸類の混入を防ぎ、効率的にヒドロキシ桂皮酸類を取得する上で有利である。
【0052】
また、本発明の上記抽出液は、高純度のヒドロキ桂皮酸の結晶を生成する上で有利に利用することができる。例えば、本発明の抽出液を所望により濃縮した後、4℃程度にて24時間の条件で静置した場合、得られる結晶中のヒドロキシ桂皮酸類の純度は、少なくとも95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上である。また、上記のヒドロキシ桂皮酸類の結晶は、好ましくはクマル酸およびフェルラ酸の混合結晶である。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。また、特に指摘されない限り、本明細書に記載の単位および測定方法は日本工業規格(JIS)による。
【0054】
参考例1:ヒドロキシ桂皮酸類の濃度の測定方法
液に含まれるヒドロキシ桂皮酸類(クマル酸、フェルラ酸など)およびその他の芳香族化合物(バニリンなど)の濃度は、以下に示す条件でHPLCにより分析し、標品との比較により定量した。
カラム:Synergi HidroRP 4.6mm×250mm(Phenomenex製)
移動相:アセトニトリル−0.1%H3PO4(流速1.0mL/min)
検出方法:UV(283nm)
温度:40℃。
【0055】
参考例2:有機酸の濃度の測定方法
糖液に含まれる有機酸(酢酸、ギ酸)は、以下に示す条件でHPLCにより分析し、標品との比較により定量した。
カラム:Shim−Pack SPR−HとShim−Pack SCR101H(株式会社島津製作所製)の直列
移動相:5mM p−トルエンスルホン酸(流速0.8mL/min)
反応液:5mM p−トルエンスルホン酸、20mM ビストリス、0.1mM EDTA・2Na(流速0.8mL/min)
検出方法:電気伝導度
温度:45℃。
【0056】
参考例3:含水率の測定方法
実施例で用いるセルロース含有バイオマスの含水率を測定した。含水率は、赤外線水分計(「FD−720」、ケット科学研究所製)を使用して、試料を120℃の温度に保持し、蒸発後の安定値と初期値との差分から得られる値である含水率を測定した。今回、実施例で測定した原料の含水率を表1に示す。バガス、稲わら、油椰子空果房は草本系バイオマスに分類される。
【0057】
【表1】
【0058】
参考例4:アルカリ反応量の計算方法
アルカリ反応量の計算方法については、例えば含水率x(%)のセルロース含有バイオマス原料a(g)に対して、y(%)の例えば水酸化ナトリウム水溶液b(g)を添加して反応する場合、アルカリの反応量(単位:mg/g-dryバイオマス)は以下の式1で表される。
アルカリ反応量 = y×b×1000/{(100−x)×a} (式1)
【0059】
実施例1:濾過方法を用いる効果(反応時間の短縮およびアルカリ使用量の低減)
カッターミル(奈良機械製作所バリオニクスBRX-400)を使用しバガスを粉砕した。粉砕条件は、カッターミルの篩の目開きを50mmと設定し、回転速度600rpm、供給速度1000kg/hrで供給しながら粉砕を行った。
得られた粉砕バガス(含水率:50%)を多機能抽出機(イズミフードマシナリ社製)に5.0kg投入し、上記多機能抽出機のタンク上部のスプレーボールから所定濃度の水酸化ナトリウム水溶液45kg(初期温度:90℃、pHは約13付近)を添加し、タンク内に付設された濾過網から自重濾過で得られた液(アルカリ性濾液)を再度スプレーボールから入れることを繰り返した。なお、濾過網から上部のスプレーボールの間に加温する機構を設けて温度を監視しながら反応を所定時間行った。反応中は、アルカリ性濾液が90℃から低下しないように調整した。また、上記多機能抽出機に付設されている攪拌羽根は使用せず、バガスおよびセルロース含有固形分は濾過網上に置き、攪拌羽根などで形状を整えたりスラリー化する動作は行わなかった。所定の反応時間にアルカリ性濾液を循環濾過に使用し続け、濾過により抽出液とセルロース含有固形分とに分離した。
【0060】
また、固形分を目開き3mmのステンレス製ザルで濾過し、ザルの上面に残った固形分をザル面に対し手で押え付けて絞った。得られた液分を抽出液に加えた。この最終的な抽出液を参考例1の方法で分析した結果を表2に示す。比較例1および2と比べて、自重濾過によりヒドロキシ桂皮酸類が効率的に得られることが判明した。また、アルカリ濃度0.5%の結果から、抽出液における概ねの反応状態をpHにより予想できることが判った。
【0061】
【表2】
【0062】
比較例1:静置して反応させた場合(反応時間およびアルカリ使用量)
実施例1の粉砕バガス(含水率:50%)0.5kgおよび所定濃度の水酸化ナトリウム水溶液4.5kgを10Lのステンレス容器に添加し、内容物を攪拌しながら内部温度が90℃になるまでガスコンロで加温した。次に、バガスと水酸化ナトリウム水溶液を入れたステンレス容器を、90℃で安定した状態の気流式オーブンに入れて静置してサンプルを得た。なお、保持時間を反応時間とし、水酸化ナトリウム水溶液の濃度を変化させたサンプルを表3の通り複数作製した。
【0063】
得られたサンプルを目開き3mmのステンレス製ザルで濾過して濾液を得、ザルの上面に残った固形分をザル面に対し手で押え付けて絞った。得られた液分を濾液に加えて抽出液を得た。この抽出液を参考例1の方法で分析した結果を表3に示す。反応後の液分のpHについても以下に示す。
【0064】
【表3】
【0065】
比較例2:攪拌して反応させた場合(反応時間およびアルカリ使用量)
実施例1の粉砕バガス(含水率:50%)0.5kgおよび所定濃度の水酸化ナトリウム水溶液4.5kgを8Lの反応槽に添加し、反応槽に電熱ヒーター式のジャケットを装着し、内容物を攪拌しながら内部温度が90℃になるまで加熱した。90℃に達した時点から反応時間を開始し、攪拌反応を所定時間行いサンプルを得た。
【0066】
得られたサンプルを目開き3mmのステンレス製ザルで濾過して濾液を得、ザルの上面に残った固形分をザル面に対し手で押え付けて絞った。得られた液分を濾液に加えて抽出液を得た。この抽出液を参考例1の方法で分析した結果を表4に示す。反応後の液分のpHについても以下に示す。
【0067】
【表4】
【0068】
実施例2:酢酸を添加した場合の効果
水酸化ナトリウム水溶液濃度を0.5%としかつ反応時間を2.0時間とする実施例1に記載の反応条件に統一し、さらに、表5に記載の所定濃度になるように酢酸を水酸化ナトリウム水溶液に添加して検討を行い、濾過により抽出液とセルロース含有固形分とを得た。
また、実施例1同様、固形分を目開き3mmのステンレス製ザルで濾過し、ザルの上面に残った固形分をザル面に対し手で押え付けて絞った。得られた液分を抽出液に加えた。
この最終的な抽出液を参考例1の方法で分析した結果を表5に示す。結果から反応液中の酢酸が本反応に寄与していることが判明した。
【0069】
【表5】
【0070】
実施例3:バガスの粉砕度に関する検討
カッターミル(奈良機械製作所バリオニクスBRX-400)を使用しバガスを粉砕し検討した。カッターミルの篩の目開きを8mm、20mm、30mm、 50mm(実施例1)または70mmに設定して検討を行い、濾過により抽出液と残渣とを得た。また、反応条件は、水酸化ナトリウム水溶液濃度を0.5%としかつ反応時間を2.0時間とする実施例1に記載の条件に統一した。
また、実施例1同様、セルロース含有固形分を目開き3mmのステンレス製ザルで濾過し、ザルの上面に残った固形分をザル面に対し手で押え付けて絞った。得られた液分を抽出液に加えた。この最終的な抽出液を参考例1の方法で分析した結果を表6に示す。
【0071】
【表6】
【0072】
実施例4:その他の原料検討/稲わら・油椰子空果房・木屑(スギ)
稲わら(含水率:10%)、油椰子空果房(含水率:15%)、スギ木屑(含水率5%)を用いて、カッターミルで実施例1と同じ条件で粉砕して、各原料バイオマスを得た。
次に、実施例1と同様の多機能抽出機を用い、表7に記載の各原料バイオマスの量に対し、アルカリ反応量が約90mg/g−dryバイオマスとなるように、0.43%の水酸化ナトリウム水溶液52kgを添加して検討を行った。次に、実施例1と同様の手法により90℃の条件で2時間反応を行い、濾過により抽出液とセルロース含有固形分とを得た。
また、実施例1同様、固形分を目開き3mmのステンレス製ザルで濾過し、ザルの上面に残った固形分をザル面に対し手で押え付けて絞った。得られた液分を抽出液に加えた。
この最終的な抽出液を参考例1の方法で分析した結果を表8に示す。
【0073】
【表7】
【0074】
【表8】
【0075】
比較例3
実施例4と比較する対象として、稲わら(含水率:10%)、油椰子空果房(含水率:15%)、スギ木屑(含水率5%)について静置または攪拌反応した場合についての検討例を述べる。比較例1および2と同様の検討を上記各原料を用いて行った。
静置反応の場合は、表9に記載の量に従い、実施例4で得た各原料バイオマスと0.43%水酸化ナトリウム水溶液を10Lのステンレス容器に添加した。
攪拌反応については、表9に記載の量に従い、実施例4で得た各原料バイオマスと0.43%の水酸化ナトリウム水溶液を8Lの反応槽に添加した。
比較例1および2と同様、得られたサンプルを目開き3mmのステンレス製ザルで濾過して濾液を得、ザルの上面に残った固形分をザル面に対し手で押え付けて絞った。得られた液分を濾液に加えて抽出液を得た。この抽出液を参考例1の方法で分析した結果を表10に示す。反応後の液分のpHについても以下に示す。
【0076】
【表9】
【0077】
【表10】
【0078】
実施例5:アルカリ性濾液の温度検討
実施例1の反応温度の条件を変えて検討した。具体的には、水酸化ナトリウム水溶液の初期温度およびアルカリ性濾液の反応中温度の両方が、70℃、75℃、80℃、90℃または95℃となるように設定した。反応条件は、水酸化ナトリウム水溶液濃度を0.5%としかつ反応時間を2.0時間とする実施例に1記載の条件に統一し、濾過により抽出液と固形分とを得た。
また、実施例1同様、固形分を目開き3mmのステンレス製ザルで濾過し、ザルの上面に残った固形分をザル面に対し手で押え付けて絞った。得られた液分を抽出液に加えた。
この最終的な抽出液を参考例1の方法で分析した結果を表11に示す。
【0079】
【表11】
【0080】
実施例6:水酸化カリウムを用いた検討
実施例で使用するアルカリを水酸化ナトリウムから水酸化カリウムに変えた場合について述べる。反応時間は2.0時間と設定し、実施例1に記載の方法に従い、濾過により抽出液とセルロース含有固形分とを得た。また、実施例1同様、固形分を目開き3mmのステンレス製ザルで濾過し、ザルの上面に残った固形分をザル面に対し手で押え付けて絞った。得られた液分を抽出液に加えた。この最終的な抽出液を参考例1の方法で分析した結果を表12に示す。表2(水酸化ナトリウム)および表12(水酸化カリウム)の比較から、重量ベースのアルカリ使用量として水酸化ナトリウムと比較して1.5〜2倍量が必要であることがわかった。
【0081】
【表12】
【0082】
実施例7:クマル酸・フェルラ酸混合結晶の調製
実施例1の方法に従い、アルカリ反応(アルカリ反応量90mg/gバイオマス、反応時間:2時間)を複数回行い、合計100kg(約100L)の抽出液を得た。抽出液をプレート型濃縮機(日阪製作所製 グローバル濃縮試験機GY−02型)で蒸発濃縮し、濃縮液(5L、80℃)および蒸留液を得た。得られた両液を希釈し、参考例1の方法により、ヒドロキシ桂皮酸類の含有量を測定した。結果を表14に示す。プレート型濃縮機を使用することで蒸留液側への検出は抑制されていた。
【0083】
【表13】
【0084】
また、上記濃縮液を4℃の冷蔵庫に1日間保管したところ、100gの結晶が析出した。得られた結晶の純度を測定したところ、純度は99%以上(クマル酸、フェルラ酸以外の成分も含めた全固形分の重量に対するクマル酸およびフェルラ酸の重量)であり、クマル酸およびフェルラ酸の高純度結晶体であることが判った。
【0085】
なお、上記と同様に蒸発濃縮をエバポレータを用いて実施したところ、蒸留液においてクマル酸、フェルラ酸が100mg/L以上検出された。
【0086】
実施例8:模擬的な対向接触抽出の検討
底面に3mmのパンチング孔が開きかつその上にバイオマスを入れることができる自重濾過が可能なアクリル筒を接着させたユニットを製作した。当該ユニットでは、90℃の環境を保つことができる気流式オーブン内でパンチング孔から得られた濾液をアクリル筒の上から入れて再濾過できるようにした。本系を用いて、バガス100g、アルカリ液900gを使って反応を行った。反応方法としては、以下の方法Aと方法Bを実施した。
【0087】
方法A
上記ユニットを用いて、実施例1と同様にして90℃で1時間運転した。
【0088】
方法B
バガスとアルカリ液が対向接触することを模擬的に再現するため、上記ユニットを3系列(ユニット1、2、3という)用意し、ユニット1ではユニット2で得られるアルカリ性濾液を使用して粉砕バガスと20分間反応し、次にユニット2ではユニット3で得られるアルカリ性濾液を使用してユニット1で20分間処理した後のセルロース固形分と20分間反応し、次にユニット3では0.5%水酸化ナトリウム水溶液とユニット2で20分間反応させた。
【0089】
方法Aで得られたアルカリ性濾液、および方法Bのユニット1の反応後得られたアルカリ性濾液について、参考例1による濃度分析結果を行った。
結果を表15に示す。
【0090】
表15において、方法Bの方が、クマル酸、フェルラ酸の生成量が増大していた。対向接触により反応効率が向上したことが判る。
【0091】
【表14】
【要約】
本発明は、セルロース含有バイオマスから高品質のヒドロキシ桂皮酸類を効率的に製造する方法に関する。より具体的には、本発明は、セルロース含有バイオマスにアルカリ性水性媒体を通液させてアルカリ性濾液を得る工程、該アルカリ性濾液を前記セルロース含有バイオマスに繰り返し通液させてヒドロキシ桂皮酸類抽出液を得る工程、およびヒドロキシ桂皮酸類抽出液からヒドロキシ桂皮酸類を分離する工程を含む、ヒドロキシ桂皮酸類の製造方法に関する。