特許第6278235号(P6278235)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6278235
(24)【登録日】2018年1月26日
(45)【発行日】2018年2月14日
(54)【発明の名称】遊星ローラ式変速機
(51)【国際特許分類】
   F16H 13/08 20060101AFI20180205BHJP
【FI】
   F16H13/08 E
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-272833(P2013-272833)
(22)【出願日】2013年12月27日
(65)【公開番号】特開2015-127557(P2015-127557A)
(43)【公開日】2015年7月9日
【審査請求日】2016年11月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100087701
【弁理士】
【氏名又は名称】稲岡 耕作
(74)【代理人】
【識別番号】100101328
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 実夫
(74)【代理人】
【識別番号】100137062
【弁理士】
【氏名又は名称】五郎丸 正巳
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 肇
【審査官】 塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−053358(JP,A)
【文献】 実開平04−022635(JP,U)
【文献】 特開平06−074313(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸と、
前記入力軸の周囲において当該入力軸に同心状に配置された固定輪と、
前記入力軸および前記固定輪の双方に転がり接触する複数の円筒状の遊星ローラと、
出力軸と、
前記出力軸に、当該出力軸に同伴回転可能に固定されたキャリア本体と、前記キャリア本体から、前記複数の遊星ローラに1対1対応でスラスト方向に延びて設けられ、対応する前記遊星ローラの内部を挿通する複数のピンとを有するキャリアと、
各ピンの外周と対応する前記遊星ローラの内周との間に、スラスト方向に対向した状態で2列配置され、当該遊星ローラを回転可能に支持する複数対の第1および第2のラジアル軸受とを含み、
前記キャリア本体側と反対側の前記第1のラジアル軸受の第1の内輪は、前記ピンの外周におけるキャリア本体側と反対側の第1の領域に締まり嵌めにより外嵌されており、
前記キャリア本体側の前記第2のラジアル軸受の第2の内輪は、前記ピンの外周におけるキャリア本体側の第2の領域に隙間嵌めにより外嵌されており、
各第2のラジアル軸受と前記キャリア本体との間に介装され、前記第2の内輪を、前記キャリア本体から離反するスラスト方向に向けて弾性的に押圧する弾性部材をさらに含むことを特徴とする、遊星ローラ式変速機。
【請求項2】
前記弾性部材は、各ピンの外周を取り囲む円環板状の弾性部材本体と、前記弾性部材本体において、前記第2の内輪の円周方向所定部位を押圧すべく、円周方向の一つの部位から前記キャリア本体側と反対側に向けて突出する突部とを有し、
前記突部の前記第2の内輪への押圧により、当該第2の内輪が、前記入力軸に直交する面に対し、スラスト方向に沿って傾斜していることを特徴とする、請求項1に記載の遊星ローラ式変速機。
【請求項3】
前記第1領域は、大径円筒面を含み、
前記第2領域は、前記大径円筒面と同軸で、当該大径円筒面よりも小径の小径円筒面を含む、請求項1または2に記載の遊星ローラ式変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、遊星ローラ式変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、遊星ローラ式変速機(トラクションドライブ)が知られている。遊星ローラ式変速機は、入力軸と、出力軸と、入力軸に同心状に配置された固定輪と、入力軸および固定輪の双方に転がり接触する複数の円筒状の遊星ローラと、出力軸に固定されたキャリアとを備える。遊星ローラ式変速機では、キャリアから突出するピンにより、各遊星ローラの内周を挿通して当該遊星ローラを回転可能に支持するタイプのものが知られている。
【0003】
遊星ローラの内周とピンの外周との間に隙間が生じていると、遊星ローラの公転の際に、この隙間がバックラッシとして機能し、回転ムラが発生するおそれがある。そのような回転ムラの発生を防止すべく、遊星ローラの内周とピンの外周との間に、2列型の深溝玉軸受などのラジアル軸受を配置することが提案されている(たとえば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−174026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示すタイプの遊星ローラ型変速機において、前述のようなバックラッシュの発生をより効果的になくすためには、2列配置されたラジアル軸受に予圧を与えて、これらのラジアル軸受の軸受内部隙間を負隙間に維持することが考えられる。ラジアル軸受に対する予圧としては、たとえば定位置予圧が考えられる。たとえば第1および第2ラジアル軸受がアンギュラ型である場合には、スラスト内部隙間を負隙間とするために、各ラジアル軸受の差幅を管理する必要がある。
【0006】
しかしながら、このようなラジアル軸受には、適正な予圧量が要求される。予圧量が小さいと、遊星ローラの内周とラジアル軸受の外周との間に隙間が生じるおそれがあり、また、予圧量が大きいと、遊星ローラの円滑な公転が阻害されたり、遊星ローラの内周に圧痕が発生したりするおそれがある。
それに加え、遊星ローラ変速機において、各遊星ローラがトルク伝達のために固定輪と入力軸との双方に圧接した状態で配置されるから、各遊星ローラの内径は、円周方向に関してばらつく。このような内径のばらつきを含めて、遊星ローラとラジアル軸受との間に隙間が生じず、かつ圧痕等が発生しない範囲の量の予圧を付与する必要がある。以上により、遊星ローラとピンとの間に介装されるラジアル軸受には、非常に厳しい軸受内部隙間精度が要求される。その結果、高コストになるおそれがある。
【0007】
そこで、この発明の目的は、高コストをかけることなく、遊星ローラの内周とラジアル軸受の外周との間の隙間に起因する回転ムラの発生を抑制または防止でき、これにより、回転精度の高い、安価な遊星ローラ式変速機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するための請求項1に記載の発明は、入力軸(11)と、前記入力軸の周囲において当該入力軸に同心状に配置された固定輪(12)と、前記入力軸および前記固定輪の双方に転がり接触する複数の円筒状の遊星ローラ(13)と、出力軸(6)と、前記出力軸に、当該出力軸に同伴回転可能に固定されたキャリア本体(10)と、前記キャリア本体から、前記複数の遊星ローラに1対1対応でスラスト方向(X1,X2)に延びて設けられ、対応する前記遊星ローラの内部を挿通する複数のピン(16)とを有するキャリア(17)と、各ピンの外周と対応する前記遊星ローラの内周との間に、スラスト方向に対向した状態で2列配置され、当該遊星ローラを回転可能に支持する複数対の第1および第2のラジアル軸受(19,20)とを含み、前記キャリア本体側と反対側の前記第1のラジアル軸受の第1の内輪(31)は、前記ピンの外周におけるキャリア本体側と反対側の第1の領域(22)に締まり嵌めにより外嵌されており、前記キャリア本体側の前記第2のラジアル軸受の第2の内輪(36)は、前記ピンの外周におけるキャリア本体側の第2の領域(23)に隙間嵌めにより外嵌されており、各第2のラジアル軸受と前記キャリア本体との間に介装され、前記第2の内輪を、前記キャリア本体から離反するスラスト方向(X1)に向けて弾性的に押圧する弾性部材(50;100)をさらに含むことを特徴とする、遊星ローラ式変速機(5;105)である。
【0009】
なお、この項において、括弧内の英数字は、後述の実施形態における対応構成要素の参照符合を表すものであるが、これらの参照符号により特許請求の範囲を実施形態に限定する趣旨ではない。
請求項2に記載の発明は、前記弾性部材(100)は、各ピンの外周を取り囲む円環板状の弾性部材本体(101)と、前記弾性部材本体において、前記第2の内輪の円周方向(Y)所定部位を押圧すべく、円周方向の一つの部位から前記キャリア本体側と反対側に向けて突出する突部(102)とを有し、前記突部の前記第2の内輪への押圧により、当該第1の内輪が、入力軸に直交する面(103)に対し、スラスト方向に沿って傾斜していることを特徴とする、請求項1に記載の遊星ローラ式変速機(105)である。
【0010】
請求項3に記載の発明は、前記第1領域は、大径円筒面を含み、前記第2領域は、前記大径円筒面と同軸で、当該大径円筒面よりも小径の小径円筒面を含む、請求項1または2に記載の遊星ローラ式変速機である。
【発明の効果】
【0011】
高コストをかけることなく、遊星ローラの内周とラジアル軸受の外周との間の隙間に起因する回転ムラの発生を抑制または防止できる。ゆえに、回転精度の高い、安価な遊星ローラ式変速機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る遊星ローラ式変速機が搭載された画像形成装置の概略構成を示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係る遊星ローラ式変速機の要部を拡大して示す断面図である。
図3図1の切断面線III−IIIから見たときの模式的な断面図である。
図4】本発明の他の実施形態に係る弾性部材を示す図である。
図5】本発明の他の実施形態に係る遊星ローラ式変速機の要部を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る遊星ローラ式変速機5が搭載された印刷機等の画像形成装置の動力伝達部1の概略構成を示す図である。図2は、本発明の一実施形態に係る遊星ローラ式変速機5の要部を拡大して示す断面図である。図3は、図1の切断面線III−IIIから見たときの模式的な断面図である。
【0014】
画像形成装置の動力伝達部1は、被駆動体2と、被駆動体2を回転駆動する遊星ローラ式変速ユニット3と、被駆動体2の被駆動体入力軸4と遊星ローラ式変速機5の出力軸6とを連結するカップリング7とを含む。動力伝達部1では、遊星ローラ式変速ユニット3は、出力軸6が水平になる横向きの状態で載置されている。
遊星ローラ式変速ユニット3は、電動モータ8と、遊星ローラ式変速機5と、電動モータ8および遊星ローラ式変速機5を一体的に収容するハウジング9とを含む。ハウジング9は、電動モータ8を収容保持するたとえばアルミニウム製のモータハウジング9Aと、次に述べる出力軸6の一部およびキャリア本体10を収容保持するたとえばアルミニウム製のキャリアハウジング9Bとを含む。
【0015】
遊星ローラ式変速機5は、入力軸11と、固定輪(太陽輪)12と、複数(この実施形態ではたとえば3つ)の遊星ローラ13と、出力軸6と、遊星ローラ13の内部を挿通する複数(遊星ローラ13と同数)のピン16を有するキャリア17と、各ピン16と対応する遊星ローラ13との間に介装された第1および第2のラジアル軸受19,20と、キャリア17と第2の内輪36との間に介装され、第2の内輪36(図2参照)を、第1のスラスト方向(キャリア本体10から離反するスラスト方向)X1に向けて弾性的に押圧する弾性部材50とを含む。以下の説明では、一方(図1および図2の右方)に向かうスラスト方向を第1のスラスト方向X1とし、他方(図1および図2の左方)に向かうスラスト方向を第2のスラスト方向X2として説明する。また、第1および第2のラジアル軸受19,20や弾性部材50、遊星ローラ13の円周方向を、それぞれ円周方向Y(図2参照)として説明する。
【0016】
入力軸11には、電動モータ8のモータ軸8Aが連結されている。なお、モータ軸8Aを入力軸11として設けてもよい。
固定輪12は、モータハウジング9Aとキャリアハウジング9Bとの間に、入力軸11と同心状に挟まれた状態で固定されている。固定輪12は、円環状をなし、たとえば軸受鋼を用いて形成されている。モータハウジング9A、固定輪12およびキャリアハウジング9Bは、複数本のボルト15により固定されている。
【0017】
固定輪12内には、複数の遊星ローラ13が収容配置されている。複数の遊星ローラ13は、固定輪12と入力軸11との間に形成される環状空間に、等角度間隔で配置されている。各遊星ローラ13は、入力軸11の外周面および固定輪12の内周面の双方に潤滑剤を介して圧接状態で転がり接触するように配置されている。各遊星ローラ13は、円筒状(または円環状)をなし、たとえば軸受鋼を用いて形成されている。
【0018】
キャリア17は、円板状のキャリア本体10と、キャリア本体10の一方面(図1の右側)10Aから、一方面10Aと垂直をなして突設された複数本の円柱状のピン16とを含む。ピン16は、図1および図2に示すようにキャリア本体10と別部品であってもよいし、キャリア本体10と一体に設けられたものであってもよい。各ピン16は、円柱状をなし、たとえば軸受鋼を用いて形成されている。各ピン16は、対応する遊星ローラ13内を挿通して、当該遊星ローラ13を遊嵌状態で回転可能に支持している。
【0019】
キャリア本体10の他方面10B(図1および図2の左側)側には、出力軸6が固定されている。また、出力軸6は、その途中部の一箇所が、1つの転がり軸受18を介して第2のハウジングに支持されている。そのため、出力軸6は回転自在に設けられている。
第1および第2のラジアル軸受19,20は、それぞれ、たとえば単列のアンギュラ玉軸受であり、スラスト方向X1,X2に対向した状態で、背面組み合わせ(DB)により2列配置されている。第1および第2のラジアル軸受19,20の組の数は、遊星ローラ13と同数である。第1および第2のラジアル軸受19,20は、対応する遊星ローラ13を回転可能に支持している。
【0020】
電動モータ8からの回転駆動力が出力軸6に付与されることにより、各遊星ローラ13が所定の自転方向に自転するとともに、所定の公転方向に公転する。遊星ローラ13の公転に伴って、キャリア17が回転(自転)する。キャリア17の回転駆動力が出力軸6を通じて遊星ローラ式変速機5から取り出され、この回転駆動力を用いて、画像形成装置の被駆動体2が回転駆動される。
【0021】
次に、図2を参照しながら、本発明の特徴部分について説明する。
ピン16は2段の円柱状をなしている。ピン16の外周面21においてキャリア17から露出する領域は、先端側から順に、大径円筒面からなる第1の領域(キャリア本体10側と反対側の領域)22と、第1の領域と同軸の小径円筒面からなる第2の領域(キャリア本体10側の領域)23とを含む。第1の領域22に第1のラジアル軸受19が外嵌配置され、第2の領域23に第2のラジアル軸受20が外嵌配置される。第1および第2の領域22,23は、微小高さの段突部24を介して接続されている。より具体的には、第1の領域22は、第1のラジアル軸受19の次に述べる第1の内輪31の内径よりも大径を有しているが、第2の領域23は、第2のラジアル軸受20の次に述べる第2の内輪36の内径よりも小径を有している。
【0022】
第1のラジアル軸受19は、第1の内輪31と、第1の外輪32と、第1の内外輪31,32の間に配置された転動体としての複数の第1の玉33と、第1の玉33を第1の内外輪31,32間で略等間隔に保持するための第1の保持器(図示しない)とを含む。第1の内輪31の外周面には、第1の内輪軌道34が形成されている。また、第1の外輪32の内周面には、第1の外輪軌道35が形成されている。第1の軌道34,35は円弧軌道である。
【0023】
第1のラジアル軸受19は、ピン16の第1の領域22と、遊星ローラ13の内周面13Aの第1のスラスト方向X1側(図2の右側)部分との間に介装されている。前述のように、第1の領域22が第1の内輪31の内径よりも大径であるために、第1の内輪31は、第1の領域22に締まり嵌めにより外嵌されている。
第2のラジアル軸受20は、第2の内輪36と、第2の外輪37と、第2の内外輪36,37の間に配置された転動体としての複数の第2の玉38と、第2の玉38を第2の内外輪36,37間で略等間隔に保持するための第2の保持器(図示しない)とを含む。第2の内輪36の外周面には、第2の内輪軌道39が形成されている。また、第2の外輪37の内周面には、第2の外輪軌道40が形成されている。第2の軌道39,40は円弧軌道である。
【0024】
第2のラジアル軸受20は、ピン16の第2の領域23と、遊星ローラ13の内周面13Aの第2のスラスト方向X2側(図2の左側)部分との間に介装されている。前述のように、第2の領域23が第2の内輪36の内径よりも小径であるために、第2の内輪36は、第2の領域23に隙間嵌めにより外嵌されている。
この実施形態では、第1および第2のラジアル軸受20は、互いに共通する諸元を有している。
【0025】
第1の内輪31と第2の内輪36との間には、遊星ローラ13の内周面13Aに形成された円環状溝41に嵌合された円環状のスペーサ42が介装されている。第1および第2の内輪31,36がそれぞれスペーサ42に当接することにより、第1および第2の内輪36のスラスト方向X1,X2の位置決めが達成されている。
弾性部材50は円環板状をなし、ピン16の外周面21を取り囲んだ状態で配置されている。弾性部材50は弾性材料(たとえばばね鋼)を用いて形成されている。弾性部材50は、全周にわたって、第2の内輪36を押圧する。弾性部材50は、第2の内輪36の他端面36Aとキャリア本体10の一方面10Aとに挟まれた状態で位置決めされている。第2の内輪36の他端面36Aとキャリア本体10の一方面10Aとの幅は、装着前の弾性部材50の厚みよりも小さい。そのため、弾性部材50は、弾性収縮した状態で第2の内輪36の他端面36Aとキャリア本体10の一方面10Aとの間に介装されており、その介装状態において、弾性部材50が第2の内輪36の他端面36Aを、第1のスラスト方向X1(キャリア本体10から離反するスラスト方向)に向けて弾性的に押圧する。弾性部材50は、全周にわたって、第2の内輪36の他端面36Aを押圧する。第2の内輪36に第1のスラスト方向X1に沿う荷重が付与されることにより、第2のラジアル軸受20のスラスト内部隙間を負隙間にできる。その結果、第2のラジアル軸受20に予圧が付与される(定圧予圧)。弾性部材50の材料や装着状態における弾性部材の収縮量は、第2のラジアル軸受20の予圧量が適正範囲になるように、選択および設定されている。
【0026】
図3に示すように、各遊星ローラ13は、トルク伝達のために固定輪12と入力軸11との双方に圧接した状態で配置されている。そのため、遊星ローラ式変速機5に装着された状態において各遊星ローラ13は公転方向RDに長軸を有する楕円形をなしている。遊星ローラ13に作用する圧接力が大きい場合には、楕円の離心率が大きくなり、遊星ローラ13の公転方向RDの端部付近において遊星ローラ13の内周が大径化する。その結果、第2のラジアル軸受20の予圧量が不十分な場合には、遊星ローラ13の公転方向RDの端部付近において、遊星ローラ13の内周とピン16の外周との間に隙間が生じるおそれがある。また、それだけでなく、遊星ローラ13の内径が円周方向Yに関してばらつくため、ラジアル軸受19,20の外周の遊星ローラ13内周に対する圧接量が、円周方向Yに関してばらつくおそれがある。
【0027】
しかしながら、前述のように、第1のラジアル軸受19の第1の内輪31がピン16の外周に圧入固定されており、かつ、ピン16の外周に隙間嵌めにより外嵌された第2の内輪36が、弾性部材50によって第1のスラスト方向X1に向けて弾性的に押圧されているので、遊星ローラ13の内周と第1のラジアル軸受19の外周との間の隙間を円周方向Y全域に亘ってなくすことができ、かつ、ラジアル軸受19,20の外周の遊星ローラ13内周に対する圧接量を所望の範囲内に保つことができる。
【0028】
この実施形態によれば、第1のラジアル軸受19の第1の内輪31は、ピン16の第1の領域22に締まり嵌めにより外嵌されており、換言すると、第1の内輪31はピン16の外周に圧入固定されている。すなわち、第1のラジアル軸受19が、ピン16の外周と、遊星ローラ13の内周との双方に対して圧入されている。そのため、遊星ローラ13の内周とラジアル軸受19,20の外周との間に隙間が生じるのをより確実に防止できる。
【0029】
また、第2のラジアル軸受20の第2の内輪36は、ピン16の第2の領域23に隙間嵌めにより外嵌されている。第2の内輪36の他端面36Aとキャリア本体10の一方面10Aとの間に介装された弾性部材50は、第2の内輪36を、第1のスラスト方向X1に向けて弾性的に押圧する。第1のスラスト方向X1に向かう荷重が第2の内輪36に付与されることにより、第2のラジアル軸受20のスラスト内部隙間を負隙間にすることができる。弾性部材50の材料等の選択等により弾性部材50の弾性押圧力を調整することにより、第2のラジアル軸受20のスラスト内部隙間量(負の隙間量)を所望大きさに設定できる。
【0030】
つまり、第1のラジアル軸受19には予圧を与えないのであるが、第2のラジアル軸受20に予圧を与え、その予圧量を調整する。これにより、円周方向Y全域に亘って、遊星ローラ13の内周とラジアル軸受19,20の外周との間の隙間をなくすことができ、かつ、ラジアル軸受19,20の外周の遊星ローラ13内周に対する圧接量を所望の範囲内に保つことができる。第2のラジアル軸受20に付与する予圧の調整のために、第2のラジアル軸受20の差幅を管理する必要がないので、高コスト化しない。
【0031】
以上により、高コストをかけることなく、遊星ローラ13の内周とラジアル軸受19,20の外周との間の隙間を円周方向Y全域に亘ってなくすことができ、かつ、ラジアル軸受19,20の外周の遊星ローラ13内周に対する圧接量を所望の範囲内に保つことができる。これにより、遊星ローラ13の内周と第1および第2のラジアル軸受19,20の内周との間の隙間に起因する回転ムラの発生を抑制または防止できる。ゆえに、回転精度の高い、安価な遊星ローラ式変速機5を提供することができる。
【0032】
図4は、本発明の他の実施形態に係る遊星ローラ式変速機105に搭載される弾性部材100を示す図である。図(a)は、弾性部材100の平面図であり、図(b)は、図(a)を矢視Bから見た図である。図5は、本発明の他の実施形態に係る遊星ローラ式変速機105の要部を拡大して示す断面図である。図5では、第2のラジアル軸受20および弾性部材100の構成だけを示し、その他の構成については図示を省略している。
【0033】
遊星ローラ式変速機105が、前述の実施形態に係る遊星ローラ式変速機5と相違する点は、弾性部材50に代えて弾性部材100を用いた点である。
図4に示すように、弾性部材100は、各ピン16の外周を取り囲む円環板状の弾性部材本体101と、弾性部材本体101において円周方向Yの一つの部位から第1のスラスト方向X1に向けて突出する突部102とを有している。突部102は、弾性部材本体101と一体的に設けられている。弾性部材100は弾性材料(たとえばばね鋼)を用いて形成されている。
【0034】
図5に示すように、この実施形態では、弾性部材100の円周方向Yに関し、突部102が最も内周側に位置した状態で、弾性部材100が第2の内輪36の他端面36Aとキャリア本体10の一方面10A(図2等参照)との間に介装されている。
弾性部材100の装着状態においては、弾性部材100は、全周にわたって、第2の内輪36を押圧する。この状態で、突部102は、第2の内輪36の他端面36Aの円周方向Yの最も内周部分に当接し、当該部分を押圧している。そのため、弾性部材100の装着状態において、第2の内輪36はスラスト方向X1,X2に沿って傾斜している。具体的には、第2の内輪36(の中心軸線)に直交する面36Bが、入力軸11(図2等参照)に直交する面103に対し回転半径方向外方に向かうに従って第2のスラスト方向X2に向かってα°だけ傾斜している。
【0035】
第2の内輪36が、入力軸11に直交する面103に対し、スラスト方向X1,X2に沿って傾斜しているので、円弧軌道からなる第2の内輪36の軌道39におけるボール38の接触点Pの集合(図5では、接触点Pの集合を太字の実線で示している)は、外輪37の円周方向Yから見て、入力軸11(図2等参照)に直交する面103に対し回転半径方向外方に向かうに従って第1のスラスト方向X1に向かってβ°だけ傾斜している。そのため、接触点Pの集合は、スラスト方向X1,X2から見たとき、公転方向RDに長軸を有する楕円形をなしている。この実施形態では、スラスト方向X1,X2から見たときに楕円をなす接触点Pの集合の離心率が、楕円形をなす遊星ローラ13(図3等参照)と略一致するように、突部102の突出量が設定されている。
【0036】
以上によりこの実施形態によれば、弾性部材本体101から第1のスラスト方向X1に向けて突出する突部102が第2の内輪36を押圧することにより、当該第2の内輪36が、入力軸11に直交する面103に対しスラスト方向X1,X2に沿って傾斜している。この状態で、スラスト方向X1,X2から見たときの、第2の内輪36の軌道39におけるボール38の接触点Pの集合の形状が、固定輪12および入力軸11からの圧接状態における遊星ローラ13と同様、公転方向RDに長軸を有する楕円形をなす。これにより、スラスト方向X1,X2から見たときの接触点Pの集合の形状を、固定輪12および入力軸11からの圧接状態における遊星ローラ13の形状と合致させることができる。これにより、遊星ローラ13の内周とピン16の外周との間の隙間の発生を、より一層確実に防止できる。また、第2のラジアル軸受20に付与される予圧量を円周方向Yに関して、より一層均一にできるから、回転ムラの発生を、より確実に防止できる。
【0037】
以上、この発明の一実施形態について説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。
前述の図1および図2に示す実施形態において、弾性部材100を、円周方向Yに関し、突部102が最も外周側に位置した状態になるように配置してもよい。この場合、突部102は、第2の内輪36の他端面36Aの円周方向Yの最も外周部分に当接し、当該部分を押圧する。これにより、第2の内輪36は、当該第2の内輪36が、入力軸11に直交する面103に対し、回転半径方向内方に向かうに従って第1のスラスト方向X1に向かうように、入力軸11に直交する面103に対しスラスト方向X1,X2に沿って傾斜している。
【0038】
また、前述の各実施形態では、ピン16として2段の円柱状のピン16を例に挙げて説明したが、ピン16が単一の円筒面を有していてもよい。この場合、第1および第2のラジアル軸受19,20として、装着前における、第1の内輪31の内径がピン16の外径よりも小さく、かつ第2の内輪36の内径がピン16の外径よりも大きく設定されたものがそれぞれ選択されている。これにより、第1および第2のラジアル軸受19,20の装着状態では、第1の内輪31がピン16の外周に締まり嵌めにより外嵌されており、かつ第2の内輪36がピン16の外周に隙間嵌めにより外嵌されている。
【0039】
また、第1および第2のラジアル軸受19,20として、アンギュラ型の玉軸受を例に挙げて説明したが、ラジアル軸受19,20として、深溝型の玉軸受を採用できる。また、ラジアル軸受19,20は、玉軸受に限られず、ころ軸受であってもよい。
また、前述の各実施形態では、遊星ローラ式変速機5,105を画像形成装置に搭載する場合を例に挙げて説明したが、他の装置に適用される遊星ローラ式変速機にも本発明を適用することができる。
【0040】
弾性部材50,100は、前述のものに限られず、たとえば皿ばねを弾性部材50,100として採用できる。
また、第2実施形態に係る弾性部材として、弾性部材100に代えてばね座金を採用することもできる。この場合、第2の内輪36とキャリア本体10との間に介装された状態において、ばね座金の切り口が最も内周側の位置または最も外周側の位置に位置していることが望ましい。
【0041】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0042】
5…遊星ローラ式変速機、6…出力軸、10…キャリア本体、11…入力軸、12…固定輪、13…遊星ローラ、16…ピン、17…キャリア、19…第1のラジアル軸受、20…第2のラジアル軸受、22…第1の領域、23…第2の領域、31…第1の内輪、36…第2の内輪、50…弾性部材、100…弾性部材、101…弾性部材本体、102…突部、103…入力軸に直交する面、105…遊星ローラ式変速機、X1…第1のスラスト方向(キャリア本体から離反するスラスト方向)、X2…第2のスラスト方向、Y…円周方向
図1
図2
図3
図4
図5