【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、独立行政法人科学技術振興機構、先端計測分析技術・機器開発事業に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
Youngjoo Hong, Shuichi Makita, et al.,“Three-dimensional visualization of choroidal vessels by using standard and ultra-high resolution scattering optical coherence angiography”,Optics Express,2007年 6月11日,Vol.15 No.12,P7538-P7550
【文献】
Kazuhiro Kurosawa, et al.,“Three-dimensional retinal and choroidal capillary imaging by power Doppler optical coherence angiography with adaptive optics”,Optics Express,2012年 9月24日,Vol.20 No.20,P22796-P22812
【文献】
Lian Duan, Young-Joo Hong, Yoshiaki Yasuno,“Automated segmentation and characterization of choroidal vessels in high-penetration optical coherence tomography”,Optics Express,2013年 7月 1日,Vol.21 No.13,P15787-P15808
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
光干渉断層計と、該光干渉断層計で取得したOCT計測データに基づき三次元のOCT断層画像を得て、該三次元のOCT断層画像の画像処理を行うコンピュータと、を備えた脈絡膜の血管網を選択的に可視化し解析する光干渉断層計装置であって、
前記コンピュータは、前記三次元のOCT断層画像から脈絡膜の血管の画像のみを選択的に分離して脈絡膜の血管の画像データを取得する手段、及び脈絡膜の血管の画像データに基づき脈絡膜の血管の形状の定量評価を行うためのデータを得る手段、として機能し、
前記脈絡膜の血管の画像データを取得する手段は、OCT計測データから脈絡膜の断層画像データを抽出し、該脈絡膜の断層画像データから脈絡膜における深さ方向の等間隔ごとの位置でスライスした画像のデータを抽出して、該スライスした画像のデータから脈絡膜の血管の画像データを得る構成であり、
前記脈絡膜の血管の画像データを取得する手段は、大きさの異なる複数のウィンドウのそれぞれについて、
前記スライスした画像の画素の色濃度が、予め定めた所定の閾値以上であるか否かに応じて画素毎に2値化し、血管推定部分が抽出された2値画像を得て、
該血管推定部分が抽出された2値画像において、当該ウィンドウ内における各画素に対する2値データの異なる画素の存在する割合が、予め定めた所定値以上の領域は擬血管として消去するとともに、当該ウィンドウの寸法に対する予め定めた所定の大きさの直径より小さな直径の前記血管推定部分を、ノイズであり非血管として消去して、脈絡膜の血管網の2値画像のデータを得る構成であることを特徴とする脈絡膜の血管網を選択的に可視化し解析する光干渉断層計装置。
【実施例】
【0047】
本発明に係る光干渉断層計装置1は、
図1に示すように、光干渉断層計2と、該光干渉断層計で取得したOCT計測データを画像処理するコンピュータ17とを備えている。
【0048】
光干渉断層計(OCT)2は、三次元のOCT断層画像を得るためのOCT計測データが取得できれば、どのような種類のものでもよいが、この実施例では、光干渉断層計として、波長走査型光干渉断層計(SS−OCT)を使用する。このSS−OCT2について、その概要を、まず説明する。
【0049】
図1において、波長走査型光源3から出射された出力光を、ファイバー4を通してファイバーカップラー5に送る。この出力光を、ファイバーカップラー5において、ファイバー6を通して被計測物体7への照射する物体光と、ファイバー8を通して固定参照鏡9に照射する参照光に分割する。
【0050】
物体光は、ファイバー6、レンズ10、角度が可変な走査鏡11及びレンズ12を介して、被計測物体7に照射、反射され、同じルートでファイバーカップラー5に戻る。参照光は、ファイバー8、レンズ13及びレンズ14を介して固定参照鏡9に照射、反射されて同じルートでファイバーカップラー5に戻る。
【0051】
そして、これらの物体光と参照光はファイバーカップラー5で重ねられ、ファイバー15を通して光検知器16(PD(フォトダイオード)等のポイントセンサが使用される。)に送られ、スペクトル干渉信号として検出され、スペクトル干渉信号がOCT計測データとして、コンピュータ17に取り込まれる。
【0052】
コンピュータ17において、光検知器16における検知出力であるOCT計測データに基づいて、被計測物体7の奥行き方向(A方向)と走査鏡の走査方向であるB方向及びC方向の3次元のOCT断層画像が形成される。コンピュータ17には、ディスプレー18が接続されている。
【0053】
波長走査型光源3は、時間的に波長を変化させて走査する光源であり、即ち波長が時間依存性を有する光源である。これにより、A−スキャン(被計測物体の奥行き方向への走査。このスキャンの結果Aラインが得られる)をするために、固定参照鏡9を走査(光軸方向に移動して行う光軸方向の走査)することなく、被計測物体7の奥行き方向の反射率分布を得て奥行き方向の構造を取得することができる。
【0054】
従って、B−スキャン(光軸方向と直交する1次方向の走査)及びC−スキャン(光軸方向と直交する2次方向の走査)をするだけで、3次元のOCT断層画像を得るためのOCT計測データを取得することができる。
【0055】
そして、光検知器16における検知出力であるOCT計測データに基づいて、コンピュータ17によって3次元のOCT断層画像が形成され、コンピュータ17に接続されたディスプレー18で表示することができる。
【0056】
本発明に係る画像処理プログラムは、光干渉断層計装置を構成するコンピュータに搭載され、そのコンピュータを、光干渉断層計で取得されるOCT計測データを画像処理して、脈絡膜血管の太さや、血管網の厚さ等の形態を正確に取得する手段として機能させる画像処理プログラムに関する。
【0057】
(画像処理手段、画像処理プログラム)
光干渉断層計で得られたOCT計測データの処理を、コンピュータ17を用いて画像処理する画像処理手段の構成、及びコンピュータ17に搭載される本発明に係る画像処理プログラムについて、以下説明する。
【0058】
上記構成の光干渉断層計で得られたOCT計測データは、画像処理装置として使用するコンピュータ17に入力される。このコンピュータ17は通常のコンピュータであり、
図2に示すように、入力部21、出力部22、CPU23、記憶装置24及びデータバス25を備えている。コンピュータ17の記憶装置24は、本発明に係る画像処理プログラムが記憶されて搭載されている。
【0059】
コンピュータ17に入力された光干渉断層計で計測されたOCT計測データに基づき 本発明に係る画像処理プログラムは、
図3のフローに示すように、OCT断層画像を形成し、このOCT断層画像を処理して、脈絡膜の血管の画像のみを選択的に分離して脈絡膜の血管の画像データを取得する手段、及び脈絡膜の血管の画像データに基づき脈絡膜の血管の形状の定量評価を行うためのデータを得る手段(脈絡膜血管の太さや、血管網の厚さ等の形態を正確に取得する手段として機能させる手段)として、コンピュータ17を機能させる画像処理プログラムである。
【0060】
脈絡膜の血管の画像のみを選択的に分離して脈絡膜の血管の画像データを取得する手段は、
図3のフローにおける(1)〜(9)の脈絡膜の血管分離プロセスに示す各機能を行うものであり、具体的には、以下の(1)〜(9)で説明する手段を含む。
【0061】
また、脈絡膜の血管の画像データに基づき脈絡膜の血管の形状の定量評価を行うためのデータを得る手段は、
図3のフローにおける(10)〜(13)の脈絡膜の血管定量評価用データ作成プロセスに示す各機能を行うものであり、具体的には、以下の(10)〜(13)で説明する手段を含む。
【0062】
以下、OCT断層画像を画像処理するために、画像処理プログラムによって、コンピュータが機能する手段を、
図3のフローに従って、順次説明する。
【0063】
(1)脈絡膜の断層画像についての画像データを抽出する手段(
図3の(1))
OCT計測データにより、被計測物体である眼底の3次元の断層画像が得られるが、画像処理プログラムは、コンピュータを、この3次元の断層画像のうち、大まかに脈絡膜の領域に相当する断層画像についての画像データを抽出するように機能させる。
【0064】
このように脈絡膜領域を抽出するために、ブルッフ膜(脈絡膜と網膜色素上皮を隔てる構造)を検出して自動的に切り分ける。この切り出しは、脈絡膜及びブルッフ膜のA−ラインについて、網膜色素上皮から深さ方向に手前から奥に向かって信号の二乗強度を計算し、その勾配が最小値となる画素をもってブルッフ膜と認定しブルッフ膜は自動的に除去する。
【0065】
(2)脈絡膜の3次元の断層画像を等間隔ごとの深さ位置でスライスした複数の画像のデータを抽出する手段(
図3の(2))
画像処理プログラムは、コンピュータを、網膜色素上皮から、脈絡膜の深さ方向に等間隔の複数の深さ位置において、脈絡膜の3次元の断層画像をスライス(より詳しくは、深さ方向に直交して厚みを薄く切り取ること)し、各深さ位置における眼の正面から見た2次元の画像(正面像(en-face像))を抽出するように機能させる。
【0066】
なお、断層画像をスライスした脈絡膜の領域は、例えば、網膜色素上皮と脈絡膜の間に位置するブルッフ膜から例えば370μmの深さまでの領域について選択し、この領域には、脈絡膜の奥にある強膜も一部含まれる。
【0067】
即ち、ブルッフ膜のすぐ下の領域について脈絡膜を十分に含む領域(例えば370μm)を選択し、解析
領域として平坦化(薄い平坦面としてスライス)する。このとき、黄斑の周りの典型的な最大脈絡膜の厚さを考慮に入れて、ボリュームを選択するため、ほとんどの場合、脈絡膜のすべてと強膜のいくらかを含む領域となる。
【0068】
また、スペックルを減らすため適当な平均フィルター(20×20画素:水平方向に58.6μm、深さ方向に58.6μmなど)をかけ、画質の向上を図る。
【0069】
図4(a)〜(d)は、それぞれ脈絡膜の深さ方向に異なる位置でスライス(水平面に20×20画素を含み、58.6μm四方の面積であり、厚さは58.6μmでスライス)して抽出した画像を示し、網膜色素上皮からの深さが、(a)は25μm、(b)は100μm、(c)は175μm、(d)は250μmである。
【0070】
次に、画像処理プログラムは、上記(2)でスライスした複数の画像のデータについて、正面視で47μmウィンドウ(47μm四方の窓)、94μmウィンドウ(94μm四方の窓)、188μmウィンドウ(188μm四方の窓)、375μmウィンドウ(375μm四方の窓)のそれぞれについて、以下の(3)、(4)、(5)の手段を順次行うように、コンピュータを機能させる。
【0071】
(3)血管推定部分を抽出し2値画像を形成する手段(
図3の(3))
画像処理プログラムは、コンピュータを、上記(2)でスライスした複数の画像のデータについて、血管推定部分を抽出するように機能させる。ここで、血管推定部分とは、「脈絡膜の血管であろうと推定できる程度の部分」であって、実際は、血管以外の部分、陰等、非血管部分を含んでいる。
【0072】
血管推定部分を抽出し2値画像を形成する手段は、血管と非血管の画像データの色濃度の違いに着目し、上記ウィンドウ内に含まれる複数の画素毎に、色濃度が予め定めた所定の閾値以上の場合は「1」とし、該閾値未満の場合は「0」として、画素毎に2値化する。
【0073】
そして、「1」とされた画素は血管推定部分とし黒を割り当て、「0」とされた画素は非血管部分として白を割り当てて、白黒の2値画像を形成する。このような動作を、1枚の画像データの全域について、上記ウィンドウをそれぞれずらすようにして行い、1枚の画像データの全域についての白黒の2値画像を形成する。
【0074】
図5(a)はスライスした画像の一例を示す図であるが、血管推定部分を抽出し2値画像を形成する手段で、画素毎に2値化することで、
図5(b)に示すような白黒の2値画像が得られる。
【0075】
以上の手段をより詳細に説明すると次のとおりである。正面像(en-face像)を部分に分割しそのウィンドウ(領域)について次の式(数1)で決まる閾値(アダプティブ閾値という)で2値化する。
【0076】
【数1】
【0077】
ここで、x
0とx
1は横方向の座標、y
0とy
1は縦方向の座標である。和Σは(x
0、y
0) を中心とするウィンドウ(領域)内(例えば、w
xμm×w
yμm等)の画素についておこなう。I(x
i、y
i)は、OCT像強度の対数をとったものであり、g(x
i、y
i)はエッジ強度とよばれ、次の式(数2)で定義される。
【0078】
【数2】
【0079】
このようなフィルター(アダプティブフィルターという)により血管領域の画素を「1」、非血管領域の画素を「0」とした2値画像が得られる。このような本発明の手段は、高速にかつ簡単な手順でグレースケール画像を2値化する手段である。
【0080】
(4)ビジネスフィルターにより疑血管を消去する手段(
図3の(4))
上記(3)の血管推定部分を抽出し2値画像を形成する手段により、
図5(b)に示すような白黒の2値画像が得られるが、この2値画像に、血管でなく単なる背景部分(バックグラウンド)であっても血管と識別される非血管部分(これを「疑血管」と言う)が含まれてしまう。
【0081】
このような場合、ウィンドウ(領域)内がバックグラウンドのみで血管を含んでいない場合、適切な2値化ができずバックグラウンドも血管と分類してしまう。その場合、連続した血管ではなく、細かなエッジの集合のようになる。本発明に係る画像処理プログラムは、このような疑血管をビジネスフィルターにより消去する手段として、コンピュータを機能させる。
【0082】
ビジネスフィルターにより血管と擬血管を識別する原理は、次のとおりである。ウィンドウ内の「或る1つの画素A」(その2値データは例えば「0」)に対して、「2値データの異なる画素B」(その2値データは例えば「1」)が該ウィンドウ内に存在する場合、上記「或る画素A」はエッジピクセルとして定義される。
【0083】
このようなエッジピクセルが20%以上存在する領域にある血管推定部分は、擬血管として消去する。エッジピクセルの比率をビジネス値という。具体的には、
図5(b)に示すような白黒の2値画像の全領域について、ウィンドウをずらしてエッジピクセルの比率であるビジネス値を取得する。
【0084】
真の血管の部分の画素の2値データは「1」とし、2値画像において黒が割り当てられ、非血管の部分の画素の2値データは「0」とし、2値画像において白が割り当てられている場合に、非血管の部分の領域は、ビジネス値が高くなる。
【0085】
このビジネス値が20%以上存在する領域は、擬血管として、消去する。擬血管が消去された後の2値画像(ここでは図示しない)では、例えば、
図5(b)の中程の高さの右側の領域の偽血管の部分は消去される。
【0086】
さらに分かり易く説明すると、ビジネスフィルターは、2値画像のある特定の画素に着目し、その周囲8画素を用いてビジーであるかどうか定義する。周囲がすべて自分と同じ値であればビジーではなく、逆に、1画素でも自分と異なる値であればビジーとする。
【0087】
上記アダプティブフィルターで用いたウィンドウ(領域)と同じウィンドウ(領域)において、そのビジネス値(ビジー度)は、ビジー画素の数(エッジ画素という)の数と、本ウィンドウ(領域)の全画素数の比の値で定義される。一般にランダムな画像であればビジネス値は上がり、ウィンドウ(領域)がはっきり分かれているような画像ではビジネス値は小さくなる。
【0088】
例えば、ウィンドウ(領域)の大きさがwx×wy=375μm
のとき、ビジネス値が0.2 より大きなウィンドウ(領域)は血管を含まないウィンドウ(領域)であるとして非血管領域として「0」をセットする。
【0089】
(5)非血管画素の消去する手段(
図3の(5))
ウィンドウの大きさが血管の直径に対してかなり大きい場合は、血管におけるコントラストの変化部分が、血管と非血管を識別の支障となる。
【0090】
即ち、ウィンドウ(領域)wの大きさが血管径よりずっと大きい場合十分なコントラストが得られず、血管構造の検出がうまくいかない(後記するが経験的にはウィンドウの寸法の5分の1より小さい場合など)。逆にいえば、検出された小さいサイズ(ウィンドウの寸法の5分の1より小さい)の血管はアーチファクト(偽像、ノイズ)といえ、これを消す必要がある。
【0091】
そのために、本発明の画像処理プログラムは、上記(4)で得られた2値画像から、さらに非血管部分を構成する画素を消去する手段として、コンピュータを機能させる。以下、その機能の詳細を説明する。
【0092】
まず、上記(4)で得られた2値画像を、逆転する。即ち、血管を表示する画素は「1」で黒であったが、それを「0」で白とし、血管以外の部分を表示する画素は「0」で白であったが、それを「1」で黒とする。
【0093】
そして、2つの画素より小さな直径の粒部分は消去する。このような動作の目的は、大きな血管の小さな孔の部分を埋めることにある。このようなことをしないと、次に説明する形態的な分析(morphlogical analysys)において、上記粒部分は、2つの隣接する薄い血管として認識されてしまうから、その前処理として行うのである。
【0094】
上記前処理を行ってから、形態的な分析(morphlogical analysys)を行う。本発明者らは、本発明の研究開発の過程で、上記(4)に示すビジネスフィルターにより疑血管を消去する手段では、ウィンドウの寸法より小さな直径(ウィンドウの寸法に対する予め定めた所定の大きさの直径より小さな直径、具体的には、ウィンドウの寸法の1/5より小さな直径)の血管は識別できないという知見を得た。
【0095】
換言すると、ウィンドウの寸法の1/5より小さな直径の血管推定部分は、ノイズであって非血管であるから消去する。このような知見に基づいて、形態的な分析(morphlogical analysys)の手始めとして、ウィンドウの寸法より1/5より小さな直径の血管推定部分は、ノイズであって非血管であるから消去する。
【0096】
次に、形態的な分析(morphlogical analysys)として、ヘイウッドの円形ファクタ(Heywood Circularity Factor:「有る形状の外周の長さ」/「円周の長さ」)を用いて、血管とは異なる形状である、円形又は円形に近い形状の部分を構成する画素を消去する。このヘイウッドの円形ファクタ(Heywood Circularity Factor)自体は、
周知であって、(「有る形状の外周の長さ」/「円周の長さ」)で定義される。
【0097】
具体的には、ヘイウッドの円形ファクタ<1.5の部分を構成する画素を消去する。このファクタが1.5未満であると、円形又は円形に近い形状で長細い血管ではないと認識され、1.5以上あると、長細いもの、即ち、血管と認識される。このようにして、非血管部分を構成する画素を消去する。
【0098】
以上整理すると、まず、2値画像を反転する(血管領域が「0」、それ以外が「1」)。2画素以下の「1」の領域を除去する(「0」とする)。これは大血管中の小さな穴(ノイズ)を除去するためである。
【0099】
次いで除去したい構造の円(たとえば直径w/5)とのコンボリューション(たたみ込み演算)をおこない、「1」の値を持つ領域を広げる(ダイレーション)。次いで領域の縮小(エロージョン)をおこなうことにより、小さい構造は除去されるが、大きな構造は維持される。
【0100】
(6)網膜色素上皮周辺の高反射構造体を分離する手段(
図3の(6))
脈絡膜のOCT断層画像には、その手前にある網膜の血管の陰が投影されており、これが脈絡膜の血管として誤認されてしまう。この誤認は、脈絡膜の厚さや脈絡膜の血管の太さを正確に定量評価する際に、阻害要因となる。この陰を取り除く必要がある。
【0101】
その解決の手始めとして、本発明に係る画像処理プログラムは、コンピュータを、網膜色素上皮周辺の高反射構造体を分離する手段として機能させる。この手段は、
図3のフロー図に示すように、上記(1)の脈絡膜を抽出する動作と並行して、下記のような動作を行う。
【0102】
即ち、網膜色素上皮と視細胞(光受容体)との内節外節結合部(IS/OSライン)は、高い反射率を持つ高反射構造体であり、この内節外節結合部に網膜血管が位置している。そのため、網膜血管の投影像はこの高反射構造体である内節外節結合部に最もはっきり投影されて見える。
【0103】
そのため、OCT断層画像の光強度の正の最大勾配位置から高反射構造体に投影された網膜血管の投影像が抽出できる。具体的には、ブルッフ膜の前側の領域の深さ方向の勾配(変化度)を計測し光強度の正の最大勾配位置検出することで、網膜色素上皮と視細胞(光受容体)との内節外節結合部の位置のデータを得る。
【0104】
そして、この内節外節結合部及びブルッフ膜の位置のデータを使用することで、網膜色素上皮周辺の高反射構造体を分離して光強度を抽出することができる。分離された高反射構造体における光強度を平均することによって、
図6(a)に示すように、高反射構造体における画像を得る。このようなデータは、次に説明する網膜血管の陰の信号を特定
する。
【0105】
(7)網膜血管による陰を分離する手段(
図3の(7))
上記(6)で説明したとおり、網膜血管は、脈絡膜の画像データに陰として入り込み、スライスした画像のデータ内で脈絡膜の血管として誤認されてしまう。この誤認は、脈絡膜の厚さや脈絡膜の血管の太さを正確に定量評価する際に、阻害要因となる。
【0106】
そのため、上記(6)で得られた高反射構造体における画像を利用して、網膜血管による陰を脈絡膜の血管とは分離する必要がある。本発明に係る画像処理プログラムは、コンピュータを、網膜血管による陰を分離する手段として機能させ、次のような動作を行わせる。
【0107】
高反射構造体における画像データを、線状を強調するフィルターであるフランジフィルターにかけて、適当な閾値を持つ非線形2値化処理(フランジフィルターなど)をおこない、血管部分を「1」、それ以外を「0」として、
図6(b)に示すような画像データを得る。
【0108】
その後、血管の連続性を確保するためにモルフォロジカルクロージング処理(「1」の値を持つ領域の縮小(エロージョン)の後で領域を広げる(ダイレーション)処理)をおこない、これにより、実際より若干太めに抽出された網膜血管画像の影は脈絡膜血管画像から差し引かれる。これにより、網膜血管像は完全に除去され、
図6(c)に示すような2値画像のデータを得ることができる。
【0109】
(8)光強度に基づき画素を分類する手段(
図3の(8))
前記したとおり、大きさの異なる4つのウィンドウについて、上記(3)〜(5)のプロセスを行うが、後記する理由によって、4つのウィンドウについて得られたデータについて、適切に組み合わせて、最終的に、脈絡膜の血管の厚さ、直径等の定量的評価を行う。
【0110】
この4つのウィンドウについて得られたデータの適切な組み合わせのために、事前に大きな血管に相当する画素と、中小の血管に相当する画素を、次のように分類しておく。本発明に係る画像処理プログラムは、コンピュータを、OCT断層画像における各画素の光強度に基づき画素を分類する手段として機能させる。
【0111】
結合プロセスでは、上記(1)で得られた脈絡膜の断面像部分における全ての画素を、まず、大きな血管を構成する画素と、中小の血管を構成する画素に分ける。計測光は、脈絡膜を通過し、血液で散乱するために、厚い脈絡膜の血管のOCTで得られるスペクトル干渉信号の強度、即ちOCT断層画像の光強度は、網膜色素上皮近くに存在する薄い中小の血管よりも小さい。
【0112】
このようなOCT断層画像の光強度の違いによって、主に薄い中小の血管に対応する明るい画素と、主に厚い血管に相当する暗い画素に分類する。実際は、この分類は、周知のオオツ閾値(非特許文献8参照)によって行われ、全ての画素について、同時に、OCT断層画像のその光強度がオオツ閾値より、大きい場合は中小の血管に分類し、小さい場合は大きな血管に分類し、大まかな分類であるが分類データを生成する。
【0113】
(9)異なるウィンドウに基づく画像処理データを結合する手段(
図3の(9))
観測している全視野(たとえば6mm四方)を複数の領域に分割する場合、いくつかのスケールに分割し、それぞれから血管構造を抽出し、合成する手段が有効である。
【0114】
例えば、6mm四方を複数の、たとえば、1/128、1/64、1/32、1/16の4つのスケールに分割すると、その領域の大きさは、それぞれ、w(=w
x=w
y)=47μm、94μm、188μm、375μm となる。
【0115】
血管径は数ミクロンから数百ミクロンに及んでいるため、アダプティブ閾値によって、それぞれの分割はそれに最適な直径の血管を抽出することができる。よって、上記複数の(4つの)スケールの結果を組み合わせて血管を抽出する手段が有効となる。
【0116】
この点についてさらに分かり易く説明する。上記(5)に示す手段によって、ウィンドウの寸法より1/5より小さな直径の血管推定部分は、ノイズであって非血管であるから消去した。しかしながら、それは、真の小さな血管が分離されることではない。小さなウィンドウは、適切な分離に適切ではない。
【0117】
その理由は次のとおりである。血管推定部分を抽出し2値画像を形成する手段は、ウィンドウ内に含まれる複数の画素毎に、色濃度が所定の閾値以上の場合は「1」とし、該閾値未満の場合は「0」として、画素毎に2値化した。
【0118】
もし、血管と背景の間の境界における真の縁部の画素の数が、当該ウィンドウ内できわめて少ない場合は、上記(5)に示す手段は適切な閾値を提供することができない。それ故、小さなウィンドウは、大きな直径を有する血管を識別できない。
【0119】
脈絡膜の血管の直径は、数μmから数百μmの範囲まであるので、直径において広いレインジで血管を識別することが必要である。そのために、本発明では、前記したとおり、複数の大きさのウィンドウを使用して画像処理を行い、マルチスケールで広い直径範囲について、血管の識別を可能とするのである。
【0120】
本実施例では、前記のとおり、ウィンドウの縦横の大きさwを、47μm、94μm、188μm、375μmとしたが、これは、6mmの画像の1/128、1/64、1
/32、1/16に相当する大きさである。
【0121】
本発明に係る画像処理プログラムは、コンピュータを、4つの異なる大きさウィンドウに基づいて得られた画像処理データを結合する手段(どの大きさのウィンドウに基づく画像処理データを使用するか選択する手段)として機能させる。
【0122】
この画像処理データを結合する手段は、次のようにしてどの大きさのウィンドウに基づく画像処理データV(x
i,y
i,z
i,w)を使用するか選択する。ここで、wの大きさのウィンドウに基づく2値画像のデータ(血管画素は「1」、非血管画素は「0」)である。
【0123】
(ア)I(x
i,y
i,z
i)≧k
*の場合は、V(x
i,y
i,z
i,w=47)∪V(x
i,y
i,z
i,w=94)の画像処理データが使用できる。
【0124】
ここで、I(x
i,y
i,z
i)は、OCT断層画像のx
i,y
i,z
iの画素の光強度(対数値)であり、k
*はオオツ閾値である。V(x
i,y
i,z
i,w=47)は、w=47μmのウィンドウに基づく2値画像のデータである。V(x
i,y
i,z
i,w=94)は、w=94μmのウィンドウに基づく2値画像のデータである。∪は論理和演算を意味する。
【0125】
要するに、上記(8)においてオオツ閾値k
*以上で分類された画素に対応して、47μm又は94μmの大きさのウィンドウに基づく2値画像処理データを採用する。これは、小さな血管については、小さなウィンドウに基づく2値画像処理データを採用するという意味である。
【0126】
(イ)I(x
i,y
i,z
i)≧k
*ではない場合は、V(x
i,y
i,z
i,w=94)∪V(x
i,y
i,z
i,w=188)∪V(x
i,y
i,z
i,w=375)の2値画像のデータが使用できる。
【0127】
ここで、V(x
i,y
i,z
i,w=188)はw=188μmのウィンドウに基づく2値画像のデータであり、V(x
i,y
i,z
i,w=375)はw=375μmのウィンドウに基づく2値画像のデータである。∪は論理和演算を意味する。
【0128】
要するに、上記(8)においてオオツ閾値k
*以上ではないと分類された画素に対応して、94μm、188μm又は375μmの大きさのウィンドウに基づく2値画像のデータを採用する。これは、大きな血管については、大きなウィンドウに基づく2値画像のデータを採用するという意味である。
【0129】
以上のようにして、本発明に係る画像処理プログラムは、コンピュータを、断層画像の画素の光強度に対応して、大きさの異なるウィンドウに基づく2値画像のデータを組み合わせる作業を行う機能をさせることとなる。
【0130】
なお、上記(6)における網膜色素上皮周辺の高反射構造体を分離する手段と、上記(7)における網膜血管による陰を分離する手段による2値画像のデータは、この(9)のプロセスにおいて、異なる大きさのウィンドウに基づく2値画像のデータに反映される。
【0131】
(10)脈絡膜の血管の直径を見積もる手段(
図3の(10))
本発明に係る画像処理プログラムは、上記(9)において最終的に得られた2値画像のデータに基づき、白黒の2値画像の各部の血管の直径を見積もる手段として機能させる。
【0132】
具体的には、血管の長手方向に直交する方向の長さをもって直径とする。円形パターンによるモルフォロジカルオープニング(「1」の値を持つ領域の領域を広げる(ダイレーション)の後で縮小(エロージョン)処理)によってパターンより大きな直径を持つ血管が抽出される。
【0133】
従って、抽出したい最小の直径をd
1とし、最大の直径をd
imaxとすると、d
i=i×d
1(i=1……imax) の径の円でモルフォロジカルオープニングすることで血管径を分類することができる。
【0134】
(11)脈絡膜の血管の直径の分布データを作成する手段(
図3の(11))
本発明に係る画像処理プログラムは、上記(10)において得られた2値画像の各部の血管の直径の見積もりデータに基づき、脈絡膜の血管の直径の分布データを作成する手段として機能させる。
【0135】
上記(10)における血管径を分類する処理を、異なる深さの正面像(en-face像)に施すことにより、
図7に示すような血管径の分布を求めることができる。
【0136】
図7(a)〜(d)は、それぞれ網膜色素上皮(RPE)から25μm、100μm、175μm、250μmだけ、深さ方向の内部にある正面像(en-face像)の血管径の分布を示す図であり、明るさは、血管径を示しており、明るさと血管径の大きさの指標は
図7の下に示す。但し、脈絡膜血管のない領域と網膜血管の領域は、明るさとは関係なく、黒く見える部分である。
【0137】
ところで、上記のとおり血管径の分布を求める手段は、円形パターンが小さくなると多くの時間を要する。円形パターンの直径を最大の検出したい血管径に固定し(例えば、d
1=d
f(=d
imax))、その代わり、血管像の正面像(en-face像)をN/i× N/iにリサイズ(画素数を減らし画像サイズをi 分の1にすること)しながらモルフォロジカルオープニングをおこなうことで、高速に血管径の分類をおこなうことができる。
【0138】
(12)脈絡膜の血管網の厚さを計測する手段(
図3の(12))
本発明に係る画像処理プログラムは、上記(10)において得られた2値画像の各部の血管の直径の見積もりデータに基づき、脈絡膜の血管網の厚さを計測する手段として機能させる。
【0139】
この脈絡膜の血管網の厚さを計測する手段は、具体的には、次のとおりである。脈絡膜血管網の厚さは、網膜色素上皮(RPE)と脈絡膜血管の後ろ側(奥側)の包絡面をなめらかに結んだエンベロプ(いわば、血管網の領域に風呂敷をかけたような面)の
領域の厚さである。
【0140】
このエンベロープを能動的変形表面モデル(active deformable surface model)を用いて抽出する。まず、網膜色素上皮(RPE)を平坦化し裏返し、上部(眼底の奥側)から変形可能なメッシュをかける。
ここでの説明では、z座標(眼底の深さ方向の座標)について、手前側(眼底の奥側)を正(z)とする。
【0141】
メッシュにおける格子点を制御点とし、この制御点に相互作用(力)を与えると表面の変形がおこり、なめらかで、最適なエンベロープとなる。この作業をすべての制御点に繰り返しおこなう。相互作用(力)F
jは下記の式で定義される。
【0142】
F
j(τ) =αF
j(τ)+βR
j(τ)+G
ここで、τは繰り返し数、jは制御点の番号であり、Gは負の定数(重力のようなもの)でメッシュ(制御点)全体に下向きの力をかける。R
j(τ)は変形表面の局所的な硬直性で、次の式(数3)で表される。
【0143】
【数3】
【0144】
ここでS(x
i、y
i)は制御点間を、例えば、2次元のバイキュービック補間(求める位置の周辺の4×4(16点)の高さ情報を用いて面を3次関数で表し補間する方法)等適当な補間方法によって得られたなめらかな表面であり、(u
j、ν
j)はj番目の制御点の座標である。P
j(τ)は局所的な場所における平均血管径から定義される斥力である。
【0145】
局所的な場所は、例えば、制御点を中心としてメッシュの大きさにとることができる。αとβは正の定数で上記3つの力のバランスをとる。制御点の位置(z座標)は繰り返し操作により更新される。つまり、制御点の位置は、次の式(数4)に示される。
【0146】
【数4】
【0147】
ここで、z
j(τ)はτ番目の繰り返しにおけるj番目の制御点の位置であり、F
θは予め決められている正の閾値である。繰り返しはすべての制御点が安定(収束)するまで繰り返される。収束したら制御点について、例えば、2次元のバイキュービック補間等、適当な補間をおこない血管網のエンベロープを求める。
【0148】
(13)脈絡膜の血管網の厚さマップを作成する手段(
図3の(13))
本発明に係る画像処理プログラムは、上記(12)において得られた脈絡膜の血管網の厚さを計測データに基づき、脈絡膜の血管網の厚さマップを作成する手段として機能させる。
【0149】
以上、脈絡膜の血管網を選択的に可視化し解析する光干渉断層計装置及びその画像処理プログラムを実施するための形態を実施例に基づいて説明したが、本発明はこのような実施例に限定されることなく、特許請求の範囲記載の技術的事項の範囲内で、いろいろな実施例があることは言うまでもない。