(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
真空容器内にカソード電極とアノード電極とが配置され、減圧状態で上記真空容器内に導入された反応ガスのプラズマを上記カソード電極とアノード電極との間に形成することにより、上記カソード電極に接触して取り付けられた樹脂基板に薄膜を形成するプラズマCVD装置であって、上記カソード電極における上記樹脂基板の接触面には、該樹脂基板に対する摩擦係数が0.3以下で十点平均表面粗さRzが1μm以下の低摩擦被膜がコーティングされていることを特徴とするプラズマCVD装置。
上記低摩擦被膜は、二硫化モリブデン被膜、TiN被膜、TiC被膜、CrN被膜、ハードクロムメッキ被膜、導電性DLC被膜、導電性フッ素化合物被膜のうちいずれか1種であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のプラズマCVD装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述のような眼鏡のレンズや腕時計のカバー、自動車のヘッドライト用のレンズ等の樹脂基板は3次元的に湾曲した形状を有しており、このような樹脂基板が接触して取り付けられるカソード電極の接触面も、同様の曲率で3次元的に湾曲した形状をなすことになる。しかしながら、このようなカソード電極の接触面に樹脂基板を取り付ける際や、あるいはCVD法によって薄膜を形成する際に、特に樹脂基板では接触面との擦れによって擦り傷が生じ易く、外観不良等の製品としての品位を損なって歩留まりの低下を招くおそれがあった。
【0006】
また、例えば眼鏡のレンズや腕時計のカバーなどに用いられる小型の樹脂基板は、複数の樹脂基板をマスクトレーに形成された穴にそれぞれ落とし込んで、このマスクトレーごと上記穴の位置に3次元的に湾曲した凸部を有するカソード電極の接触面に取り付けて接触させるようにしているが、この取り付けの際に樹脂基板がずれ動いて凸部に接触するときに擦り傷が生じることがある。
【0007】
このような樹脂基板のずれ動きを防ぐには、例えばセンサー等を備えることによって樹脂基板を精密に位置決めしつつ接触面に接触させることも考えられるが、装置構造の複雑化を招くことになる。また、樹脂基板がずれ動かないようにマスクトレーの移動速度を遅くして接触面に取り付けようとすると、生産性を損なうことになる。さらに、CVD法によって薄膜を形成する際には、樹脂基板はプラズマの熱により100℃またはそれ以上の温度に加熱されることもあるが、一般的に樹脂基板は線膨張係数が大きく、この熱膨張によってもカソード電極と密着した樹脂基板が擦れて傷ついてしまうおそれもある。
【0008】
本発明は、このような背景の下になされたもので、装置構造の複雑化や生産性の低下を招くことなく擦り傷の発生を防止して、歩留まり良く樹脂基板に高品位な薄膜を形成することが可能なプラズマCVD装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明は、真空容器内にカソード電極とアノード電極とが配置され、減圧状態で上記真空容器内に導入された反応ガスのプラズマを上記カソード電極とアノード電極との間に形成することにより、上記カソード電極に接触して取り付けられた樹脂基板に薄膜を形成するプラズマCVD装置であって、上記カソード電極における上記樹脂基板の接触面には、該樹脂基板に対する摩擦係数が0.3以下で十点平均表面粗さRzが1μm以下の低摩擦被膜がコーティングされていることを特徴とする。
【0010】
従って、このように構成されたプラズマCVD装置では、カソード電極における樹脂基板の接触面に、該樹脂基板に対する摩擦係数が0.3以下でJIS B 0601:1994における十点平均表面粗さRz(JIS B 0601:2001における十点平均表面粗さRzjis)が1μm以下の低摩擦被膜がコーティングされていることにより、カソード電極に取り付ける際に樹脂基板がずれ動いたり、薄膜を形成する際に樹脂基板が熱膨張したりしても、接触面との摩擦によって樹脂基板が傷付くことが少ない。さらに、樹脂基板の取り付けの際には、この低摩擦被膜によって案内されるようにして樹脂基板が接触面に密着して接触させられるので、センサー等の使用を少なくできるとともに、マスクトレーの移動速度を極端に遅くしたりせずとも、樹脂基板を正確に位置決めすることができる。
【0011】
また、このようなプラズマCVD装置においては、上述のように温度上昇する樹脂基板の変形や変質を防ぐため、カソード電極内に冷却媒体を流通して、その接触面を通しての冷却熱伝達により樹脂基板の冷却を図ることが、例えば特許文献2に記載されている。そして、このような樹脂基板の冷却効果を確実に奏するためにも、上記低摩擦被膜の十点平均表面粗さRzを1μm以下として平滑にすることにより、樹脂基板との密着性を確保して冷却熱の伝達性を向上させることができる。
【0012】
なお、低摩擦被膜は漏洩抵抗が10
8Ω以下であるのが望ましい。例えば厚生労働省所轄独立行政法人産業安全研究所発行の静電気安全指針によれば、漏洩抵抗が10
8Ω以下の場合は帯電の大きさが小さいまたは殆ど無しとされる。樹脂基板をカソード電極の接触面に接触させて薄膜を形成し、薄膜形成後は樹脂基板を分離して次の樹脂基板を接触させるという操作を繰り返す上述のようなプラズマCVD装置では、カソード電極が帯電するとCVD法によって発生した副生成物が微粒子(パーティクル)となって接触面に付着し、これも樹脂基板を傷つける要因となるが、低摩擦被膜の漏洩抵抗が10
8Ω以下であれば、このような突起による樹脂基板の品位の低下も防ぐことができる。
【0013】
ここで、上述のような摩擦係数および表面粗さと、さらに漏洩抵抗とを満足する低摩擦被膜としては、二硫化モリブデン被膜、TiN被膜、TiC被膜、CrN被膜、ハードクロムメッキ(工業用クロムメッキ)被膜、導電性DLC被膜、導電性フッ素化合物被膜のうちいずれか1種が挙げられる。単なるフッ素樹脂の被膜は絶縁性樹脂(誘電体)であるので、電力損失を生じるとともに、熱伝導率が低いため上述した冷却効果も損なわれるおそれがあるが、例えば導電性を有するフィラーを分散した導電性フッ素化合物被膜であれば、上述のような摩擦係数と表面粗さ、および漏電抵抗を満足するとともに、電力損失を生じることなく冷却効果も維持することができる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明によれば、センサー等の使用を少なくできて装置構造の簡略化を図るとともに、マスクトレーの移動速度も極端に遅くすることなく生産性を維持しつつ、樹脂基板を精密に位置決めしなくてもカソード電極の接触面に接触させることができ、樹脂基板の擦り傷の発生を防いで製品の品位を低下させることなく、歩留まり良く薄膜を形成することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1ないし
図3は、本発明の第1の実施形態を示すものである。本実施形態のプラズマCVD装置1は容量結合型のものであり、真空容器2内の上部にカソード電極3が、下部にはアノード電極4が、上下方向に間隔をあけて互いに対向するように配置されている。真空容器2の排気口2Aには真空ポンプ5が接続されていて、この真空ポンプ5により真空容器2内は減圧状態とされる。カソード電極3とアノード電極4は、アルミニウム合金、ステンレスのような鋼材、銅などの金属材料により形成されている。
【0017】
アノード電極4の上面には上下方向に偏平した箱形をなす導入ヘッド6が配設されており、この導入ヘッド6内に導入された反応ガスGが導入ヘッド6の上面に形成された多数の吹き出し口6Aから真空容器2内に噴出させられる。反応ガスGとしては、例えば特許文献2に記載されているのと同様に透明性を維持しつつ硬質の薄膜を形成する場合には、オルガノシロキサン、またはオルガノシロキサンと酸素ガスとの混合ガスが導入される。また、アノード電極4はアース接地されている。
【0018】
一方、カソード電極3は、マッチングボックス7を介して高周波電源8に接続されている。また、カソード電極3は、絶縁シール9によって真空容器2と絶縁されているとともに、その上面と外周面とがシールド部材10によって間隔をあけて覆われている。さらに、カソード電極3は冷却手段11に接続されていて、この冷却手段11から供給される冷却媒体がカソード電極3内に流通させられる。
【0019】
また、アノード電極4側に向けられるカソード電極3の下面は接触面3Aとされており、この接触面3Aに接触するようにして、
図2および
図3に示すような樹脂基板12が取り付けられる。本実施形態における樹脂基板12はアクリル樹脂やポリカーボネート樹脂、あるいはウレタン系樹脂等から成り、例えば眼鏡のレンズや時計のカバー等に用いられる比較的小さな円盤状のコンタクトレンズ型のものであって、ただしその板厚方向(
図3における上下方向)に直交する長手方向(例えば
図3における左右方向)と、これら板厚方向と長手方向とに直交する幅方向(例えば
図3において図面に直交する方向)とに湾曲(長手方向と幅方向の中央に向かうに従い下方に凸曲)する3次元形状をなしている。
【0020】
このような樹脂基板12は、
図2および
図3に示すマスクトレー13に配置されて接触面3Aに取り付けられる。マスクトレー13は、樹脂材料によって形成されて、接触面3Aを覆う例えば
図2に示すような平板状をなしており、このマスクトレー13には樹脂基板12が設置される多数の貫通穴13Aが間隔をあけて格子状に形成されている。貫通穴13Aは、
図3に示すように、アノード電極4側に向けられるマスクトレー13の下面側が樹脂基板12の外形寸法よりも僅かに一回り小さな寸法となり、上面側は逆に樹脂基板12の外形寸法よりも僅かに一回り大きな寸法となるように、下面側に向かうに従い内径が漸次縮径するテーパ穴状に形成されている。
【0021】
このような貫通穴13Aに樹脂基板12は、
図2に矢線で示すようにマスクトレー13の上面側から落とし込まれるようにして配置される。すなわち、樹脂基板12の外周縁部が上述のようにテーパ穴状をなす貫通穴13Aの内周縁部に下方に向けて当接して引っ掛かるようにして、樹脂基板12がマスクトレー13に配置される。こうして樹脂基板12が配置されたマスクトレー13は、カソード電極3とアノード電極4との間に水平方向から差し入れられた後に
図3に矢線で示すように所定のストロークで上昇させられ、
図1に示すようにカソード電極3の接触面3Aに固定されて取り付けられる。
【0022】
さらに、このカソード電極3の上記接触面3Aには、マスクトレー13の上記貫通穴13Aに対応する位置に、それぞれ凸部3Bが形成されている。これらの凸部3Bは、貫通穴13Aに配置された樹脂基板12の上面がなす凹曲面に密着するような寸法、形状に表面(下面)が湾曲(凸曲)した3次元形状をなしている。なお、これらの凸部3B以外の部分の接触面3Aは水平な平坦面とされて、マスクトレー13の上面が密着可能とされている。
【0023】
そして、このような凸部3Bが形成されたカソード電極3の接触面3Aには、その全面に亙って、
図3に拡大して示すように上述のような樹脂基板12に対する摩擦係数が0.3以下で、JIS B 0601:1994における十点平均粗さによる表面粗さRzが1μm以下の低摩擦被膜14がコーティングされている。ただし、
図3では説明のため、低摩擦被膜14の膜厚は厚く示されている。この低摩擦被膜14は、本実施形態では二硫化モリブデン被膜、TiN被膜、TiC被膜、CrN被膜、ハードクロムメッキ被膜、導電性DLC被膜、導電性フッ素化合物被膜のうちいずれか1種より成るものであって、その漏洩抵抗が10
8Ω以下とされており、また膜厚は0.1μm〜1.0mmの範囲内で略一定の厚さとされている。
【0024】
このような低摩擦被膜14がコーティングされたカソード電極3の接触面3Aに、貫通穴13Aに樹脂基板12が設置されたマスクトレー13を上述のように所定のストロークで上昇させて取り付ける際、例えば樹脂基板12が貫通穴13Aに精密に位置決めされて配置されていなかったり、あるいはマスクトレー13を上昇させたときの衝撃によって樹脂基板12が貫通穴13A内でずれ動いたりしても、樹脂基板12は接触面3Aの凸部3B表面にコーティングされた低摩擦被膜14に接触することで、この凸部3Bがなす3次元形状に倣うように案内されて該凸部3Bと密着する。
【0025】
従って、センサー等を頻繁に用いて樹脂基板12を正確に位置決めしたり、樹脂基板12がずれ動かないようにマスクトレー13を上昇させるときの移動速度を極端に遅くしたりせずとも、樹脂基板12を確実に凸部3Bと密着させることができる。このため、装置構造の簡略化と生産性の向上を図りつつ、貫通穴13Aからアノード電極4側に臨んだ樹脂基板12の表面に硬質の薄膜を形成することが可能となる。
【0026】
そして、このように樹脂基板12が凸部3Bに倣って案内される際には、低摩擦被膜14の樹脂基板12に対する摩擦係数が0.3以下で抵抗が少なく、また表面粗さRzが1μm以下で滑らかであるため、凸部3Bに密着した樹脂基板12の裏面が摩擦によって傷付くことが少なく、傷によって樹脂基板12の透明度が低下するのを防いで高品位の製品を歩留まり良く製造することができる。また、本実施形態ではカソード電極3に冷却手段11が接続されていて、薄膜を形成する際の樹脂基板12の熱膨張を抑制するようにされているが、万一このような冷却手段11にも関わらず樹脂基板12に熱膨張が生じても、膨張により樹脂基板12が凸部3Bに擦れて傷が付いたりするのも防ぐことができる。
【0027】
また、本実施形態のプラズマCVD装置1では、上述のようにカソード電極3が冷却手段11に接続されていて、薄膜の形成時にはこの冷却手段11から供給される冷却媒体によりカソード電極3の接触面3Aから低摩擦被膜14を介して樹脂基板12が冷却させられて、上述のような樹脂基板12の熱膨張を防ぐことができる。そして、上記低摩擦被膜14は、その表面粗さRzが1μm以下と平滑にされていて、これにより樹脂基板12と接触面3Aの凸部3Bとの密着性を十分に確保することができるので、冷却効果の向上を図ることができる。
【0028】
ここで、低摩擦被膜14の樹脂基板12に対する摩擦係数が0.3より大きかったり、表面粗さRzが1μmより大きかったりすると、上述のように樹脂基板12がカソード電極3の接触面3Aの凸部3Bに倣って案内されるときに擦れてしまい、擦り傷の発生を十分に抑えることができなくなるおそれがある。なお、このような1μm以下の表面粗さRzは、例えば低摩擦被膜14をコーティングした後に必要に応じてカソード電極3の接触面3Aの少なくとも凸部3Bに研磨を施すことにより、得ることができる。
【0029】
一方、この低摩擦被膜14は漏洩抵抗が10
8Ω以下であって、帯電することが少なく、または殆ど帯電することがない。このため、マスクトレー13に配置した樹脂基板12を接触面3Aに接触させて薄膜を形成し、薄膜を形成した後は樹脂基板12をカソード電極3から分離して次に薄膜を形成する樹脂基板12を接触させるといった操作を繰り返すときに、CVD法によって発生した副生成物がカソード電極3の帯電により微粒子(パーティクル)として接触面3Aに付着するのを防ぐことができる。従って、このような微粒子によって樹脂基板12が傷付くことも防止することができ、一層高品位の製品を歩留まり良く製造することが可能となる。
【0030】
なお、これら摩擦係数や表面粗さRz、漏洩抵抗は上記の値以下で小さいほど望ましいが、いずれも0となることはない。このうち、摩擦抵抗と漏洩抵抗の下限値は低摩擦被膜14の種類によって決定される。このような0.3以下の摩擦係数と10
8Ω以下の漏洩抵抗とを有する低摩擦被膜14としては、上述したように二硫化モリブデン被膜、TiN被膜、TiC被膜、CrN被膜、ハードクロムメッキ被膜、導電性DLC被膜、導電性フッ素化合物被膜のうちいずれか1種が挙げられる。
【0031】
次に、
図4は、本発明の第2の実施形態のプラズマCVD装置21を示すものであり、
図1ないし
図3に示した第1の実施形態と共通する部分には同一の符号を配して説明を省略する。第1の実施形態では、1つのマスクトレー13に複数の貫通穴13Aが形成されていて、各貫通穴13Aに3次元的に湾曲した樹脂基板12が配置されるとともに、カソード電極3の接触面3Aにも貫通穴13Aに対応した位置に同数の凸部3Bが形成されており、これらの凸部3Bに樹脂基板12が密着してカソード電極3と接触するのに対し、第2の実施形態ではカソード電極3の接触面3Aが1つの3次元的に湾曲(凸曲)した凸部3Bをなしていて、この凸部3Bに同じく3次元的に湾曲した1つの樹脂基板12が密着して接触させられることを特徴としている。
【0032】
また、本実施形態では、マスクトレー13も、樹脂基板12に薄膜を形成する部分に1つの貫通穴13Aが形成された枠型をなしているとともに、樹脂基板12の湾曲に合わせて3次元的に湾曲しており、樹脂基板12のアノード電極4側に向けられる下面の外周縁部を支持してカソード電極3の接触面3Aに固定される。さらに、このアノード電極4と上記導入ヘッド6のカソード電極3側に向けられる上面とは、樹脂基板12との上下方向の間隔が略一定となるように、下方に凸曲した樹脂基板12および接触面3Aとは逆に下方に凹曲するように形成されている。
【0033】
そして、この第2の実施形態においても、カソード電極3の接触面3Aには第1の実施形態と同様の低摩擦被膜14がコーティングされている。従って、樹脂基板12がカソード電極3の接触面3Aに接触する際のずれ動きによる擦り傷や、樹脂基板12の取り付け、取り外しを繰り返すうちに接触面3Aに微粒子が付着することによる擦り傷の発生を防止することができ、高品質の樹脂基板12を歩留まり良く製造することができる。また、本実施形態ではアノード電極4および導入ヘッド6の上面と樹脂基板12との上下方向の間隔が略一定とされるので、より均一な膜厚の薄膜を形成することもできる。さらに、この第2の実施形態では、例えば自動車のヘッドライト用のレンズ等の比較的大きな樹脂基板12にも薄膜を形成することができる。
【0034】
なお、この第2の実施形態や第1の実施形態においても、カソード電極3とアノード電極4は上下方向に対向しているが、樹脂基板12を垂直に保持可能であれば水平方向に対向していてもよい。また、第1、第2の実施形態では樹脂基板12が板厚方向に直交する長手方向と幅方向とに湾曲した3次元形状とされているが、長手方向と幅方向の一方だけに湾曲した円筒面形状などでもよく、また平板状であってもよい。
【0035】
さらに、樹脂基板12の材質としては、上述のアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ウレタン系樹脂のほか、特許文献2に記載されたジエチレングリコールビスアリルカーボネート重合体、含硫黄ウレタン系樹脂、フマル酸エステルアリル系樹脂、トリアジン環アクリル樹脂、臭素配合系樹脂、含硫黄ウレタン−ラジカル樹脂、チオエーテルエステル系樹脂などを用いることができる。
【実施例】
【0036】
次に、本発明の実施例を挙げて、その効果について実証する。本実施例では、まず、曲率半径120mmの球面状の凸部が形成されたアルミニウム合金より成るカソード電極の接触面に、低摩擦被膜としてハードクロムメッキ被膜を平均膜厚40μmでコーティングしたプラズマCVD装置を用意した。これを実施例1とする。この実施例1の低摩擦被膜の後述する樹脂基板に対する摩擦係数は0.17、表面粗さ計で5箇所を測定したときの十点平均表面粗さRzの平均値は0.1μm、漏洩抵抗は<0.1Ωであった。
【0037】
また、この実施例1に対する比較例1として、実施例1と同様の大きさの凸部が形成されたカソード電極の接触面に低摩擦被膜がコーティングされていない、アルミニウム合金の電極材料が露出したままのプラズマCVD装置も用意した。この比較例1の接触面の樹脂基板に対する摩擦係数は0.35、表面粗さ計で5箇所を測定したときの十点平均表面粗さRzの平均値は1.6μm、漏洩抵抗は<0.1Ωであった。
【0038】
そして、これら実施例1と比較例1の接触面の凸部に、マスクトレーに配置したウレタン系樹脂より成る樹脂基板を2秒に100mmのストロークで精密な位置決めを行わずに上下動させて接触、分離を10回繰り返し、擦り傷の有無を目視で確認した。なお、この樹脂基板は凸部に接触する上面が凸部と同じく曲率半径120mmの球面の一部をなす凹曲面とされた3次元形状のものであり、板厚3mm、直径75mmの円盤状である。その結果、比較例1では凸部に接触した樹脂基板の上面に長さ1mm以上の擦り傷が10本以上発生していたのに対し、実施例では擦り傷の発生は認められなかった。
【0039】
次いで、実施例1と同じ大きさの球面状の凸部が形成されたステンレスより成るカソード電極の接触面に、低摩擦被膜としてAμcoat(日本フッ素工業株式会社の登録商標)被膜を平均膜厚1μmでコーティングしたプラズマCVD装置を用意した。これを実施例2とする。この実施例2の低摩擦被膜の樹脂基板に対する摩擦係数は0.2、表面粗さ計で5箇所を測定したときの十点平均表面粗さRzの平均値は0.6μm、漏洩抵抗は10
6Ωであった。
【0040】
また、この実施例2に対する比較例として、実施例2と同様の大きさの凸部が形成されたカソード電極の接触面にフッ素樹脂被膜を平均膜厚30μmで異なる表面粗さでコーティングした2種のプラズマCVD装置も用意した。これらを比較例2、3とする。これら比較例2、3のフッ素樹脂被膜の樹脂基板に対する摩擦係数はともに0.16、表面粗さ計で5箇所を測定したときの十点平均表面粗さRzの平均値は、比較例2が5.2μm、比較例3は4.1μm、漏洩抵抗は10
16Ωであった。
【0041】
そして、これら実施例2と比較例2、3とで、実施例1および比較例1と同様のウレタン系樹脂より成る樹脂基板を2秒に100mmのストロークで上下動させて接触面(凸部)への接触、分離を10回繰り返し、擦り傷の有無を目視で確認した。その結果、比較例2では樹脂基板の上面に長さ1mm以上の擦り傷が9本、比較例3では4本発生していたのに対し、実施例2では擦り傷の発生は認められなかった。また、これら実施例2および比較例2、3によって樹脂基板に実際に薄膜を形成する作業を行ったところ、絶縁性樹脂であるフッ素樹脂被膜をコーティングした比較例2、3ではCVD法によって発生した副生成物の微粒子が接触面に確認されたのに対し、実施例2ではこのような微粒子の発生は認められなかった。