(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
駆動力源と車輪とを結ぶ動力伝達経路に、複数の係合装置を備えると共に当該複数の係合装置の係合の状態に応じて変速比の異なる複数の変速段が選択的に形成される変速装置が設けられた車両用駆動装置を制御対象とする制御装置であって、
より変速比の低い変速段に切り替えるアップシフト制御の開始後、変速段の切り替えのために係合する前記係合装置である係合側係合装置の係合圧を増加させると共に変速段の切り替えのために解放する前記係合装置である解放側係合装置の係合圧を減少させるトルク相制御を実行し、前記トルク相制御の開始後、前記解放側係合装置の回転速度差を増加させ前記係合側係合装置の回転速度差を減少させる回転変化を行うイナーシャ相制御を実行する変速制御部を備え、
前記変速制御部は、前記イナーシャ相制御において、前記駆動力源のトルクを低下させるトルクダウン制御を実行し、前記トルク相制御の実行時期に対する前記トルクダウン制御の開始時期を、少なくとも、前記アップシフト制御の開始前の前記駆動力源のトルクである変速開始前トルクに応じて変更し、
前記変速制御部は、更に、前記イナーシャ相制御の開始後、前記係合側係合装置の係合圧を一時的に増加させる係合圧増加制御を実行すると共に、前記変速開始前トルクに応じて前記係合圧増加制御における係合圧の一時的な増加量を変更する車両用駆動装置の制御装置。
前記変速制御部は、前記アップシフト制御の前の変速段の変速比及び前記アップシフト制御の後の変速段の変速比の一方又は双方が低くなるに従って、前記トルク相制御の実行時期に対する前記トルクダウン制御の開始時期を連続的又は段階的に遅くすると共に、前記係合圧増加制御における係合圧の一時的な増加量を連続的又は段階的に大きくする請求項1又は2に記載の車両用駆動装置の制御装置。
前記変速制御部は、前記変速開始前トルクが小さくなるに従って、前記トルク相制御の実行時期に対する前記トルクダウン制御の開始時期を連続的又は段階的に遅くする請求項1から3のいずれか一項に記載の車両用駆動装置の制御装置。
前記変速制御部は、前記変速開始前トルクが小さくなるに従って、前記トルクダウン制御における前記駆動力源のトルクの低下速度を連続的又は段階的に小さくする請求項1から4のいずれか一項に記載の車両用駆動装置の制御装置。
前記変速制御部は、前記アップシフト制御後の変速段の変速比が低くなるに従って、前記トルク相制御の実行時期に対する前記トルクダウン制御の開始時期を連続的又は段階的に遅くする請求項1から5のいずれか一項に記載の車両用駆動装置の制御装置。
前記変速制御部は、前記トルクダウン制御として、当該トルクダウン制御の開始後、前記駆動力源のトルクを次第に低下させる漸次ダウン制御を実行すると共に、前記解放側係合装置の回転速度差が生じた後、前記漸次ダウン制御を終了し、前記駆動力源のトルクを前記漸次ダウン制御よりも早い速度で低下させる急速ダウン制御を実行し、前記トルク相制御の実行時期に対する前記漸次ダウン制御の開始時期を、前記変速開始前トルクが小さくなるに従って連続的又は段階的に遅くする請求項1から6のいずれか一項に記載の車両用駆動装置の制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0023】
実施形態に係る車両用駆動装置1の制御装置30(以下、単に制御装置30と称す)について図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係る車両用駆動装置1及び制御装置30の概略構成を示す模式図である。この図において、実線は駆動力の伝達経路を示し、破線は作動油の供給経路を示し、一点鎖線は信号の伝達経路を示している。
車両用駆動装置1には、駆動力源と車輪Wとを結ぶ動力伝達経路2に、変速装置TMが備えられている。変速装置TMは、複数の係合装置C1、B1、・・を備えると共に、当該複数の係合装置C1、B1、・・の係合の状態に応じて変速比の異なる複数の変速段が選択的に形成される。
【0024】
本実施形態では、駆動力源として内燃機関ENGと回転電機MGとが備えられている。変速装置TMの入力軸Iに回転電機MGが駆動連結され、入力軸Iに機関係合装置SSCを介して内燃機関ENGが駆動連結されている。このように、内燃機関ENGと車輪Wとを結ぶ動力伝達経路2に、内燃機関ENGの側から順に、機関係合装置SSC、回転電機MG、及び変速装置TMが設けられている。
【0025】
なお、本願において、「駆動連結」とは、2つの回転要素が駆動力を伝達可能に連結された状態を指し、当該2つの回転要素が一体的に回転するように連結された状態、或いは当該2つの回転要素が一又は二以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む概念として用いている。このような伝動部材としては、回転を同速で又は変速して伝達する各種の部材が含まれ、例えば、軸、歯車機構、ベルト、チェーン等が含まれる。また、このような伝動部材として、回転及び駆動力を選択的に伝達する係合装置、例えば摩擦係合装置や噛み合い式係合装置等が含まれていてもよい。
【0026】
ハイブリッド車両には、車両用駆動装置1を制御対象とする制御装置30が備えられている。本実施形態に係わる制御装置30は、回転電機MGの制御を行う回転電機制御ユニット32と、変速装置TM及び機関係合装置SSCの制御を行う動力伝達制御ユニット33と、これらの制御装置を統合して車両用駆動装置1の制御を行う車両制御ユニット34と、を有している。また、ハイブリッド車両には、内燃機関ENGの制御を行う内燃機関制御装置31も備えられている。
【0027】
制御装置30は、
図2に示すように、変速制御部43などの機能部を備えている。
変速制御部43は、より変速比の低い変速段に切り替えるアップシフト制御を行う。変速制御部43は、アップシフト制御の開始後、変速段の切り替えのために係合する係合装置である係合側係合装置の係合圧を増加させると共に変速段の切り替えのために解放する係合装置である解放側係合装置の係合圧を減少させるトルク相制御を実行し、トルク相制御の開始後、解放側係合装置の回転速度差ΔW1を増加させ係合側係合装置の回転速度差ΔW2を減少させる回転変化を行うイナーシャ相制御を実行するように構成されている。
このような構成において、変速制御部43は、イナーシャ相制御において、駆動力源のトルクを低下させるトルクダウン制御を実行し、トルク相制御の実行時期に対するトルクダウン制御の開始時期を、少なくとも、アップシフト制御の開始前の駆動力源のトルクである変速開始前トルクに応じて変更する点に特徴を有している。
以下、本実施形態に係る車両用駆動装置1及び制御装置30について、詳細に説明する。
【0028】
1.車両用駆動装置1の構成
まず、本実施形態に係るハイブリッド車両の車両用駆動装置1の構成について説明する。
図1に示すように、ハイブリッド車両は、車両の駆動力源として内燃機関ENG及び回転電機MGを備え、これらの内燃機関ENGと回転電機MGとが直列に駆動連結されるパラレル方式のハイブリッド車両となっている。ハイブリッド車両は、変速装置TMを備えており、当該変速装置TMにより、入力軸Iに伝達された内燃機関ENG及び回転電機MGの回転速度を変速すると共にトルクを変換して出力軸Oに伝達する。
【0029】
内燃機関ENGは、燃料の燃焼により駆動される熱機関であり、例えば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの公知の各種内燃機関を用いることができる。本例では、内燃機関ENGのクランクシャフト等の機関出力軸Eoが、機関係合装置SSCを介して、回転電機MGに駆動連結された入力軸Iと選択的に駆動連結される。すなわち、内燃機関ENGは、摩擦係合装置である機関係合装置SSCを介して回転電機MGに選択的に駆動連結される。また、機関出力軸Eoには、図示しないダンパが備えられており、内燃機関ENGの間欠的な燃焼による出力トルク及び回転速度の変動を減衰して、車輪W側に伝達可能に構成されている。
【0030】
回転電機MGは、車両用駆動装置1を収容するケースCSに固定されたステータStと、このステータと対応する位置で径方向内側に回転自在に支持されたロータRoと、を有している(
図3参照)。この回転電機MGのロータRoは、入力軸Iと一体回転するように駆動連結されている。回転電機MGは、直流交流変換を行うインバータを介して蓄電装置としてのバッテリに電気的に接続されている。そして、回転電機MGは、電力の供給を受けて動力を発生するモータ(電動機)としての機能と、動力の供給を受けて電力を発生するジェネレータ(発電機)としての機能と、を果たすことが可能とされている。すなわち、回転電機MGは、インバータを介してバッテリからの電力供給を受けて力行し、或いは内燃機関ENGや車輪Wから伝達される回転駆動力により発電し、発電された電力は、インバータを介してバッテリに蓄電される。
【0031】
駆動力源が駆動連結される入力軸Iには、変速装置TMが駆動連結されている。本実施形態では、変速装置TMは、変速比の異なる複数の変速段を有する有段の自動変速装置である。変速装置TMは、これら複数の変速段を形成するため、遊星歯車機構等の歯車機構と複数の係合装置C1、B1・・・とを備えている。変速装置TMは、各変速段の変速比で、入力軸Iの回転速度を変速するとともにトルクを変換して、出力軸Oへ伝達する。変速装置TMから出力軸Oへ伝達されたトルクは、出力用差動歯車装置DFを介して左右二つの車軸AXに分配されて伝達され、各車軸AXに駆動連結された車輪Wに伝達される。ここで、変速比は、変速装置TMにおいて各変速段が形成された場合の、出力軸Oの回転速度に対する入力軸Iの回転速度の比であり、本願では入力軸Iの回転速度を出力軸Oの回転速度で除算した値である。すなわち、入力軸Iの回転速度を変速比で除算した回転速度が、出力軸Oの回転速度になる。また、入力軸Iから変速装置TMに伝達されるトルクに、変速比を乗算したトルクが、変速装置TMから出力軸Oに伝達されるトルクになる。
【0032】
本実施形態では、
図4の作動表に示すように、変速装置TMは変速比(減速比)の異なる6つの変速段(第一段1st、第二段2nd、第三段3rd、第四段4th、第五段5th、及び第六段6th)を前進段として備えている。これらの変速段を構成するため、変速装置TMは、第一遊星歯車機構PG1及び第二遊星歯車機構PG2を備えてなる歯車機構と、6つの係合装置C1、C2、C3、B1、B2、OWCと、を備えて構成されている。ワンウェイクラッチOWCを除くこれら複数の係合装置C1、B1・・・の係合及び解放を制御して、第一遊星歯車機構PG1及び第二遊星歯車機構PG2の各回転要素の回転状態を切り替え、複数の係合装置C1、B1・・・を選択的に係合することにより、6つの変速段が切り替えられる。なお、変速装置TMは、上記6つの変速段のほかに、一段の後進段Revも備えている。
【0033】
図4において、「○」は各係合装置が係合状態にあることを示しており、「無印」は、各係合装置が解放状態にあることを示している。「(○)」は、エンジンブレーキを行う場合などにおいて、係合装置が係合した状態にされることを示している。また、「△」は、一方向に回転する場合には解放した状態となり、他方向に回転する場合には係合した状態となることを示している。
【0034】
第一段(1st)は、第一クラッチC1及びワンウェイクラッチOWCが係合されて形成される。エンジンブレーキを行うときなどは、第一段は、第一クラッチC1及び第二ブレーキB2が係合されて形成される。第二段(2nd)は、第一クラッチC1及び第一ブレーキB1が係合されて形成される。第三段(3rd)は、第一クラッチC1及び第三クラッチC3が係合されて形成される。第四段(4th)は、第一クラッチC1及び第二クラッチC2が係合されて形成される。第五段(5th)は、第二クラッチC2及び第三クラッチC3が係合されて形成される。第六段(6th)は、第二クラッチC2及び第一ブレーキB1が係合されて形成される。
後進段(Rev)は、第三クラッチC3及び第二ブレーキB2が係合されて形成される。
これらの各変速段は、入力軸I(内燃機関ENG)と出力軸Oとの間の変速比(減速比)が大きい順に、第一段、第二段、第三段、第四段、第五段、及び第六段となっている。
【0035】
第一遊星歯車機構PG1は、
図3に示すように、複数のピニオンギヤP1を支持するキャリアCA1と、ピニオンギヤP1にそれぞれ噛み合うサンギヤS1及びリングギヤR1と、の三つの回転要素を有したシングルピニオン型の遊星歯車機構とされている。第二遊星歯車機構PG2は、第一サンギヤS2及び第二サンギヤS3の二つのサンギヤと、リングギヤR2と、第一サンギヤS2及びリングギヤR2の双方に噛み合うロングピニオンギヤP2並びにこのロングピニオンギヤP2及び第二サンギヤS3に噛み合うショートピニオンギヤP3を支持する共通のキャリアCA2と、の四つの回転要素を有したラビニヨ型の遊星歯車機構とされている。
【0036】
第一遊星歯車機構PG1のサンギヤS1は、非回転部材としてのケースCSに固定されている。キャリアCA1は、第三クラッチC3により第二遊星歯車機構PG2の第二サンギヤS3と選択的に一体回転するように駆動連結されるとともに、第一クラッチC1により第二遊星歯車機構PG2の第一サンギヤS2と選択的に一体回転するように駆動連結され、第一ブレーキB1によりケースCSに選択的に固定される。リングギヤR1は、入力軸Iと一体回転するように駆動連結されている。
第二遊星歯車機構PG2の第一サンギヤS2は、第一クラッチC1により第一遊星歯車機構PG1のキャリアCA1と選択的に一体回転するように駆動連結される。キャリアCA2は、第二クラッチC2により入力軸Iと選択的に一体回転するように駆動連結されるとともに、第二ブレーキB2又はワンウェイクラッチOWCにより非回転部材としてのケースCSに選択的に固定される。ワンウェイクラッチOWCは、一方向の回転のみを阻止することによりキャリアCA2を選択的にケースCSに固定する。リングギヤR2は、出力軸Oと一体回転するように駆動連結されている。第二サンギヤS3は、第三クラッチC3により第一遊星歯車機構PG1のキャリアCA1と選択的に一体回転するように駆動連結されるとともに、第一ブレーキB1によりケースCSに選択的に固定される。
【0037】
本実施形態では、変速装置TMが有するワンウェイクラッチOWCを除く複数の係合装置C1、C2、C3、B1、B2は、いずれも摩擦係合装置とされている。具体的には、これらは油圧により動作する多板式クラッチや多板式ブレーキにより構成されている。これらの係合装置C1、C2、C3、B1、B2は、油圧制御装置PCから供給される油圧により、係合の状態が制御される。なお、機関係合装置SSCも摩擦係合装置である。
【0038】
摩擦係合装置は、その係合部材間の摩擦により、係合部材間でトルクを伝達する。摩擦係合装置の係合部材間に回転速度差(滑り)がある場合は、動摩擦により回転速度の大きい方の部材から小さい方の部材に伝達トルク容量の大きさのトルク(スリップトルク)が伝達される。摩擦係合装置の係合部材間に回転速度差(滑り)がない場合は、摩擦係合装置は、伝達トルク容量の大きさを上限として、静摩擦により摩擦係合装置の係合部材間に作用するトルクを伝達する。ここで、伝達トルク容量とは、摩擦係合装置が摩擦により伝達することができる最大のトルクの大きさである。伝達トルク容量の大きさは、摩擦係合装置の係合圧に比例して変化する。係合圧とは、入力側係合部材(摩擦板)と出力側係合部材(摩擦板)とを相互に押し付け合う圧力(又は力)である。本実施形態では、係合圧は、供給されている油圧の大きさに比例して変化する。すなわち、本実施形態では、伝達トルク容量の大きさは、摩擦係合装置に供給されている油圧の大きさに比例して変化する。
【0039】
各摩擦係合装置は、リターンばねを備えており、ばねの反力により解放側に付勢されている。そして、各摩擦係合装置の油圧シリンダに供給される油圧により生じる力がばねの反力を上回ると、各摩擦係合装置に伝達トルク容量が生じ始め、各摩擦係合装置は、解放状態から係合状態に変化する。この伝達トルク容量が生じ始めるときの油圧を、ストロークエンド圧と称す。各摩擦係合装置は、供給される油圧がストロークエンド圧を上回った後、油圧の増加に比例して、その伝達トルク容量が増加するように構成されている。なお、摩擦係合装置は、リターンばねを備えておらず、油圧シリンダのピストンの両側にかかる油圧の差圧によって制御させる構造でもよい。
【0040】
本実施形態において、係合状態とは、係合装置に伝達トルク容量が生じている状態であり滑り係合状態と直結係合状態とが含まれる。解放状態とは、係合装置に伝達トルク容量が生じていない状態である。また、滑り係合状態とは、係合装置の係合部材間に回転速度差(滑り)がある係合状態であり、直結係合状態とは、係合装置の係合部材間に回転速度差(滑り)がない係合状態である。また、非直結係合状態とは、直結係合状態以外の係合状態であり、解放状態と滑り係合状態とが含まれる。
【0041】
なお、摩擦係合装置には、制御装置30により伝達トルク容量を生じさせる指令が出されていない場合でも、係合部材(摩擦部材)同士の引き摺りによって伝達トルク容量が生じる場合がある。例えば、ピストンにより摩擦部材同士が押圧されていない場合でも、摩擦部材同士が接触し、摩擦部材同士の引き摺りによって伝達トルク容量が生じる場合がある。そこで、「解放状態」には、制御装置30が摩擦係合装置に伝達トルク容量を生じさせる指令を出していない場合に、摩擦部材同士の引き摺りにより、伝達トルク容量が生じている状態も含まれるものとする。
【0042】
2.油圧制御系の構成
車両用駆動装置1の油圧制御系は、車両の駆動力源や専用のモータによって駆動される油圧ポンプから供給される作動油の油圧を所定圧に調整するための油圧制御装置PCを備えている。油圧制御装置PCは、各係合装置C1、B1・・・、SSCなどに対して供給される油圧を調整するための複数のリニアソレノイド弁などの油圧制御弁を備えている。油圧制御弁は、制御装置30から供給される指令油圧の信号値に応じて弁の開度を調整することにより、当該信号値に応じた油圧の作動油を各係合装置C1、B1・・・、SSCなどに供給する。制御装置30から各リニアソレノイド弁に供給される信号値は電流値とされている。そして、各リニアソレノイド弁から出力される油圧は、基本的に制御装置30から供給される電流値に比例する。
油圧制御装置PCは、油圧調整用のリニアソレノイド弁から出力される油圧(信号圧)に基づき一又は二以上の調整弁の開度を調整することにより、当該調整弁からドレインする作動油の量を調整して作動油の油圧を一又は二以上の所定圧に調整する。所定圧に調整された作動油は、それぞれ必要とされるレベルの油圧で、変速装置TMが有する複数の係合装置C1、B1・・・及び機関係合装置SSC等に供給される。
【0043】
3.制御装置の構成
次に、車両用駆動装置1の制御を行う制御装置30及び内燃機関制御装置31の構成について、
図2を参照して説明する。
制御装置30の制御ユニット32〜34及び内燃機関制御装置31は、CPU等の演算処理装置を中核部材として備えるとともに、当該演算処理装置からデータを読み出し及び書き込みが可能に構成されたRAM(ランダム・アクセス・メモリ)や、演算処理装置からデータを読み出し可能に構成されたROM(リード・オンリ・メモリ)等の記憶装置等を有して構成されている。そして、制御装置のROM等に記憶されたソフトウェア(プログラム)又は別途設けられた演算回路等のハードウェア、或いはそれらの両方により、制御装置30の各機能部41〜45などが構成されている。また、制御装置30の制御ユニット32〜34及び内燃機関制御装置31は、互いに通信を行うように構成されており、センサの検出情報及び制御パラメータ等の各種情報を共有するとともに協調制御を行い、各機能部41〜45の機能が実現される。
【0044】
また、車両用駆動装置1は、センサSe1〜Se5などのセンサを備えており、各センサから出力される電気信号は制御装置30及び内燃機関制御装置31に入力される。制御装置30及び内燃機関制御装置31は、入力された電気信号に基づき各センサの検出情報を算出する。
入力回転速度センサSe1は、入力軸Iの回転速度を検出するためのセンサである。入力軸Iには回転電機MGのロータRoが一体的に駆動連結されているので、制御装置30は、入力回転速度センサSe1の入力信号に基づいて回転電機MGの回転速度(角速度)、並びに入力軸Iの回転速度を検出する。出力回転速度センサSe2は、出力軸Oの回転速度を検出するためのセンサである。制御装置30は、出力回転速度センサSe2の入力信号に基づいて出力軸Oの回転速度(角速度)を検出する。また、出力軸Oの回転速度は車速に比例するため、制御装置30は、出力回転速度センサSe2の入力信号に基づいて車速を算出する。機関回転速度センサSe3は、機関出力軸Eo(内燃機関ENG)の回転速度を検出するためのセンサである。内燃機関制御装置31は、機関回転速度センサSe3の入力信号に基づいて内燃機関ENGの回転速度(角速度)を検出する。
【0045】
シフト位置センサSe4は、運転者により操作されるシフトレバーの選択位置(シフト位置)を検出するためのセンサである。制御装置30は、シフト位置センサSe4の入力信号に基づいてシフト位置を検出する。シフトレバーは、パーキングレンジ(Pレンジ)、後進走行レンジ(Rレンジ)、ニュートラルレンジ(Nレンジ)、前進走行レンジ(Dレンジ)などに選択可能とされている。また、シフトレバーは、Dレンジの一種として、形成する前進変速段の範囲を制限する「2レンジ」や「Lレンジ」などの変速段制限レンジが選択可能に構成されている。また、シフトレバーは、Dレンジを選択しているときに、変速装置TMに対してアップシフトを要求する「アップシフト要求スイッチ」やダウンシフトを要求する「ダウンシフト要求スイッチ」を操作可能に構成されている。
アクセル開度センサSe5は、アクセルペダルの操作量を検出するためのセンサである。制御装置30は、アクセル開度センサSe5の入力信号に基づいてアクセル開度を検出する。
【0046】
3−1.車両制御ユニット34
車両制御ユニット34は、統合制御部45を備えている。統合制御部45は、内燃機関ENG、回転電機MG、変速装置TM、及び機関係合装置SSC等に対して行われる各種トルク制御、及び各係合装置の係合制御等を車両全体として統合する制御を行う。
統合制御部45は、アクセル開度、車速、及びバッテリの充電量等に応じて、車輪Wの駆動のために要求されているトルクであって、入力軸I側から出力軸O側に伝達される目標駆動力である車両要求トルクを算出するとともに、内燃機関ENG及び回転電機MGの運転モードを決定する。運転モードとして、回転電機MGのみを駆動力源として走行する電動モードと、少なくとも内燃機関ENGを駆動力源として走行するパラレルモードと、を有する。例えば、アクセル開度が小さく、バッテリの充電量が大きい場合に、運転モードとして電動モードが決定され、それ以外の場合、すなわちアクセル開度が大きい、もしくはバッテリの充電量が小さい場合に、運転モードとしてパラレルモードが決定される。
【0047】
そして、統合制御部45は、車両要求トルク、運転モード、及びバッテリの充電量等に基づいて、内燃機関ENGに対して要求する出力トルクである内燃機関要求トルク、回転電機MGに対して要求する出力トルクである回転電機要求トルク、機関係合装置SSCに供給する油圧の目標である指令油圧、及び変速装置TMの各係合装置C1、B1・・・に供給する油圧の目標である指令油圧を算出し、それらを他の制御ユニット32、33及び内燃機関制御装置31に指令して統合制御を行う。なお、基本的に、内燃機関要求トルクと回転電機要求トルクの合計が、車両要求トルクに一致するように設定される。
【0048】
3−2.内燃機関制御装置31
内燃機関制御装置31は、内燃機関ENGの動作制御を行う内燃機関制御部41を備えている。本実施形態では、内燃機関制御部41は、統合制御部45又は変速制御部43から内燃機関要求トルクが指令されている場合は、内燃機関ENGが内燃機関要求トルクを出力するように制御するトルク制御を行う。
【0049】
3−3.回転電機制御ユニット32
回転電機制御ユニット32は、回転電機MGの動作制御を行う回転電機制御部42を備えている。本実施形態では、回転電機制御部42は、統合制御部45又は変速制御部43から回転電機要求トルクが指令されている場合は、回転電機MGが回転電機要求トルクを出力するように制御する。具体的には、回転電機制御部42は、インバータが備える複数のスイッチング素子をオンオフ制御することにより、回転電機MGの出力トルクを制御する。
【0050】
3−4.動力伝達制御ユニット33
動力伝達制御ユニット33は、変速装置TMの制御を行う変速制御部43と、機関係合装置SSCの制御を行う機関係合制御部44と、を備えている。
【0051】
3−4−1.機関係合制御部44
機関係合制御部44は、機関係合装置SSCの係合状態を制御する。本実施形態では、機関係合制御部44は、機関係合装置SSCに供給される油圧が、統合制御部45又は変速制御部43から指令された機関係合装置SSCの指令油圧に一致するように、油圧制御装置PCに備えられた各リニアソレノイド弁に供給される信号値を制御する。
【0052】
3−4−2.変速制御部43
変速制御部43は、複数の係合装置C1、B1、・・の係合及び解放を制御して、変速装置TMに形成する変速段を切り替える変速制御を行う。
本実施形態では、変速制御部43は、車速、アクセル開度、及びシフト位置などのセンサ検出情報に基づいて変速装置TMに形成させる目標変速段を決定する。そして、変速制御部43は、油圧制御装置PCを介して変速装置TMに備えられた複数の係合装置C1、B1・・・に供給される油圧を制御することにより、各係合装置C1、B1・・・を係合又は解放して目標とされた変速段を変速装置TMに形成させる。具体的には、変速制御部43は、油圧制御装置PCに各係合装置の目標油圧(指令油圧)を伝達し、油圧制御装置PCは、伝達された目標油圧(指令油圧)に応じた油圧を各係合装置に供給する。本実施形態では、変速制御部43は、油圧制御装置PCが備えた各リニアソレノイド弁に供給される信号値を制御することにより、各係合装置に供給される油圧を制御するように構成されている。
【0053】
本実施形態では、変速制御部43は、不図示のメモリに格納された変速マップを参照し、目標変速段を決定する。変速マップは、アクセル開度及び車速と、変速装置TMにおける目標変速段との関係を規定したマップである。変速マップには複数のアップシフト線と複数のダウンシフト線とが設定されており、車速及びアクセル開度が変化して変速マップ上でアップシフト線又はダウンシフト線を跨ぐと、変速制御部43は、変速装置TMにおける新たな目標変速段を決定して変速段を変更すると判定する。また、変速制御部43は、運転者によるシフトレバーの選択位置(シフト位置)の変更により、アップシフト要求又はダウンシフト要求があった場合に、目標変速段を変更する場合がある。なお、ダウンシフトとは変速比の小さい変速段から変速比の大きい変速段への変更を意味し、アップシフトとは変速比の大きい変速段から変速比の小さい変速段への変更を意味する。
【0054】
変速制御部43は、変速段を切り替える変速制御を行なう場合は、各係合装置C1、B1・・・の指令油圧を制御して、各係合装置C1、B1・・・の係合又は解放を行い、変速装置TMに形成させる変速段を目標変速段に切り替える。この際、変速制御部43は、変速段の切り替えのために解放される係合装置である解放側係合装置、及び変速段の切り替えのために係合される係合装置である係合側係合装置を設定する。そして、変速制御部43は、予め計画された変速制御のシーケンスに従い、解放側係合装置を解放させると共に係合側係合装置を係合させる、いわゆるつなぎ替え変速を行う。
【0055】
具体的には、変速制御部43は、変速前の変速段を形成する複数の係合装置の内、変速後の変速段を形成する複数の係合装置との間で共通していない係合装置を解放側係合装置に設定する。変速制御部43は、変速後の変速段を形成する複数の係合装置の内、変速前の変速段を形成する複数の係合装置との間で共通していない係合装置を係合側係合装置に設定する。
例えば、変速前の変速段が第二段2ndで、変速後の変速段が第三段3rdである場合は、
図4に示すように、第一ブレーキB1が解放側係合装置に設定され、第三クラッチC3が係合側係合装置に設定される。
また、係合側係合装置は、変速制御の開始前は解放され、変速制御により係合される係合装置である。解放側係合装置は、変速制御の開始前は係合され、変速制御により解放される係合装置である。
【0056】
なお、変速制御中は、変速制御部43は、統合制御部45に代わって、内燃機関ENGに対して要求する内燃機関要求トルク、回転電機MGに対して要求する回転電機要求トルク、及び変速装置TMの各係合装置C1、B1・・・に供給する油圧の目標である指令油圧を算出し、それらを他の制御ユニット32、33及び内燃機関制御装置31に指令して統合制御を行う。
【0057】
3−4−2−1.アップシフト制御
変速制御部43は、より変速比が低い変速段に切り替えるアップシフト制御を実行する。変速制御部43は、アップシフト制御の開始後、係合側係合装置の係合圧を増加させると共に解放側係合装置の係合圧を減少させるトルク相制御を実行し、トルク相制御の開始後、解放側係合装置の回転速度差ΔW1を増加させ係合側係合装置の回転速度差ΔW2を減少させる回転変化を行うイナーシャ相制御を実行する。
【0058】
<トルク相制御>
本実施形態では、変速制御部43は、トルク相制御において、係合側係合装置に供給する目標油圧(指令油圧)を、係合側基準圧まで次第に増加させると共に、解放側係合装置の目標油圧(指令油圧)を、解放側係合装置が解放状態になるストロークエンド圧以下まで次第に減少させるように構成されている。本例では、変速制御部43は、係合側基準圧を、係合側係合装置が変速開始前トルク(車両要求トルクであってもよい)を出力軸O側に伝達可能な係合圧(油圧)に設定している。具体的には、変速制御部43は、変速開始前トルクに、係合側係合装置に作用する歯車の歯数比を乗算して係合側係合装置の伝達トルク容量を算出し、算出した伝達トルク容量を実現する目標油圧(指令油圧)を算出する。
【0059】
ここで、変速開始前トルクは、アップシフト制御の開始前(本例では開始時)に入力軸Iに伝達されている駆動力源のトルクである。本実施形態では、駆動力源のトルクは、基本的に車両要求トルクと一致するように制御されるため、変速制御部43は、アップシフト制御の各制御において、変速開始前トルクとして、車両要求トルクを用いるように構成されてもよい。また、アップシフト制御中にアクセルペダルが操作されるなどして車両要求トルクが変化する場合に対応するため、変速制御部43は、変速開始前トルクとして、アクセル開度に応じて逐次変化する現在の車両要求トルクの値を用いるように構成されてもよい。いずれにしても、アップシフト制御中に車両要求トルクが変化しないと仮定した場合は、変速制御部43は、変速開始前トルクに応じて、アップシフト制御の各制御を実施すると考えることができる。
【0060】
トルク相制御は、トルクの関係を、アップシフト制御後の状態に移行させるが、回転速度の関係を、アップシフト制御前の状態に維持し、係合側係合装置を滑り係合状態にし、解放側係合装置を解放状態にすることを意図している。
【0061】
本実施形態では、変速制御部43は、予め定めたトルク相制御の期間で、解放側係合装置の目標油圧(指令油圧)を、解放側基準圧からストロークエンド圧まで、所定の傾きで次第に減少させると共に、同じ予め定めたトルク相制御の期間で、係合側係合装置の目標油圧(指令油圧)を、ストロークエンド圧から係合側基準圧まで所定の傾きで次第に増加させるように構成されている。本例では、変速制御部43は、解放側基準圧を、解放側係合装置が変速開始前トルク(車両要求トルクであってもよい)を出力軸O側に伝達可能な係合圧(油圧)に設定している。具体的には、変速制御部43は、変速開始前トルクに、解放側係合装置に作用する歯車の歯数比を乗算して解放側係合装置の伝達トルク容量を算出し、算出した伝達トルク容量を実現する目標油圧(指令油圧)を算出する。
【0062】
<プレ相制御>
本実施形態では、変速制御部43は、アップシフト制御の開始後であってトルク相制御の開始前に、解放側係合装置及び係合側係合装置の係合圧を、トルク相制御のために予め変化させるプレ相制御を実行するように構成されている。
変速制御部43は、プレ相制御において、係合側係合装置の係合圧をストロークエンド圧まで増加させると共に、解放側係合装置の係合圧を完全係合圧から解放側基準圧まで低下させるように構成されている。ここで、完全係合圧は、駆動力源から各係合装置に伝達されるトルクが変動しても滑りのない係合状態を維持するために設定される最大限の係合圧(供給油圧、指令油圧)である。
【0063】
<イナーシャ相制御>
変速制御部43は、イナーシャ相制御において、解放側係合装置の回転速度差ΔW1を増加させ係合側係合装置の回転速度差ΔW2を減少させる回転変化を行う。このために、変速制御部43は、入力軸Iの回転速度を、変速前同期回転速度から変速後同期回転速度まで低下させる。
【0064】
ここで、変速前同期回転速度は、解放側係合装置の回転速度差ΔW1がゼロであると仮定した場合の入力軸Iの回転速度であり、変速制御部43は、出力軸Oの回転速度にアップシフト制御前の変速段の変速比を乗算して、変速前同期回転速度を算出する。入力軸Iの回転速度と変速前同期回転速度との回転速度差は、解放側係合装置の回転速度差ΔW1に比例するため、変速制御部43は、入力軸Iの回転速度と変速前同期回転速度との回転速度差により、解放側係合装置の回転速度差ΔW1を判定するように構成されている。
【0065】
また、変速後同期回転速度は、係合側係合装置の回転速度差ΔW2がゼロであると仮定した場合の入力軸Iの回転速度であり、変速制御部43は、出力軸Oの回転速度にアップシフト制御後の変速段の変速比を乗算して、変速後同期回転速度を算出する。入力軸Iの回転速度と変速後同期回転速度との回転速度差は、係合側係合装置の回転速度差ΔW2に比例するため、変速制御部43は、入力軸Iの回転速度と変速後同期回転速度との回転速度差により、係合側係合装置の回転速度差ΔW2を判定するように構成されている。
【0066】
変速制御部43は、イナーシャ相制御において、入力軸Iに伝達されている駆動力源のトルクを低下させるトルクダウン制御を実行するように構成されている。本実施形態では、変速制御部43は、駆動力源のトルクを、変速開始前トルク(車両要求トルクであってもよい)から低下させるように構成されている。
【0067】
3−4−2−2.アップシフト制御の課題
図5に示す、比較例のタイムチャートを参照して、アップシフト制御の課題を説明する。
時刻T02から時刻T03までのトルク相制御において、解放側係合装置の目標油圧(指令油圧)をストロークエンド圧以下まで減少させても、実際の油圧は遅れて減少している。本実施形態に係る変速装置TMの係合装置では、油圧減少の遅れは、ストロークエンド圧付近に近づくに従い大きくなっている。これは、本実施形態に係る変速装置TMの係合装置は、リターンばねの力で、係合装置に供給された油圧を油圧制御装置PC側に押し戻すように構成されており、残圧の抜けが遅くなるためである。
そのため、解放側係合装置の目標油圧(指令油圧)をストロークエンド圧以下まで減少させた後(時刻T03後)も、実際の油圧は、しばらくの間(時刻T03から時刻T05)、ストロークエンド圧より大きくなり、伝達トルク容量が生じており、解放されていない。
一方、係合装置の油圧を増加させる場合は、油圧制御装置PCから能動的に油圧が供給されるので、目標油圧(指令油圧)の増加に対する実際の油圧の増加の遅れは、油圧を減少させる場合の遅れよりも小さい。
【0068】
なお、入力側伝達トルクのグラフに示すように、トルク相制御の間(時刻T02から時刻T03の間)では、入力軸Iに伝達された駆動力源のトルクを、滑り係合状態の係合側係合装置と直結係合状態の解放側係合装置とで分担して、出力軸O側に伝達している。具体的には、係合側係合装置は滑り係合状態になるので、次第に増加している伝達トルク容量に正の符号(+1)を乗算したトルクを入力軸Iから出力軸O側に伝達しており、解放側係合装置は、次第に減少している伝達トルク容量に正の符号を乗算した上限と伝達トルク容量に負の符号(−1)を乗算した下限との範囲内で、駆動力源のトルクから係合側係合装置の伝達トルクを減算したトルクを伝達している。
【0069】
なお、
図5に示すタイムチャートの入力側伝達トルクのグラフにおいて、係合側係合装置又は解放側係合装置の伝達トルク及び伝達トルク容量は、係合側係合装置又は解放側係合装置を介して、入力軸Iから出力軸O側に伝達されるトルク、すなわち入力軸Iを基準に換算した伝達トルク及び伝達トルク容量を示している。
また、
図5に示すタイムチャートの出力側伝達トルクのグラフにおいて、係合側係合装置又は解放側係合装置の伝達トルクは、係合側係合装置又は解放側係合装置を介して、入力軸I側から出力軸Oに伝達されるトルク、すなわち出力軸Oを基準に換算した伝達トルクを示している。
【0070】
図5に示す比較例では、本実施形態と異なり、トルク相制御により解放側係合装置の目標油圧(指令油圧)をストロークエンド圧まで減少させるのと同時(時刻T03)に、駆動力源のトルクをステップ的に低下させてトルクダウン制御を開始している。そのため、解放側係合装置を伝達する入力側伝達トルクが、伝達トルク容量に負の符号を乗算した下限まで低下しており、滑り係合状態に移行している(時刻T03)。
【0071】
解放側係合装置の入力側伝達トルクが伝達トルク容量に応じた下限まで減少したので、出力側伝達トルクのグラフに示すように、解放側係合装置を介して出力軸Oに伝達されるトルクが大幅に低下している(時刻T03)。このため、解放側係合装置の出力側伝達トルクと係合側係合装置の出力側伝達トルクとを合計した出力トルクが大幅に低下している(時刻T03)。
図5に示す例は、駆動力源の変速開始前トルクが低く、出力軸Oに伝達されるトルクが低いため、出力軸Oへの伝達トルクの大きさに対する低下量が相対的に大きくなっている。
【0072】
従って、比較例のように、解放側係合装置の油圧の減少遅れを考慮せずに、駆動力源のトルクダウン制御を開始すると、伝達トルク容量が残存している解放側係合装置を介して出力軸Oに解放側係合装置の伝達トルク容量に応じた負トルクが伝達され、出力軸Oにトルクの落ち込みが伝達される恐れがあった。特に、出力軸Oに伝達されるトルクが小さい場合には、出力軸Oへの伝達トルクに対するトルクの落ち込みが相対的に大きくなり、運転者に与える違和感が大きくなる恐れがあった。
【0073】
そこで、解放側係合装置の油圧の減少遅れ、及び出力軸Oへの伝達トルクを考慮して、トルクダウン制御を実行し、出力軸Oに伝達されるトルクの落ち込みによる運転者に与える違和感を抑制することが望まれる。
【0074】
3−4−2−3.トルクダウン開始時期の変更制御
そこで、変速制御部43は、イナーシャ相制御において、駆動力源のトルクを低下させるトルクダウン制御を実行する際に、トルク相制御の実行時期に対するトルクダウン制御の開始時期を、少なくとも、アップシフト制御の開始前の駆動力源のトルクである変速開始前トルク(車両要求トルクであってもよい)に応じて変更するように構成されている。
【0075】
アップシフト制御の開始前の駆動力源の変速開始前トルクに応じて出力軸Oへの伝達トルクが変化する。上記の構成によれば、変速開始前トルクに応じて、トルク相制御の実行時期に対するトルクダウン制御の開始時期を適切に変更し、出力軸Oに伝達されるトルクの落ち込みによる運転者に与える違和感を抑制することができる。
【0076】
本実施形態では、変速制御部43は、変速開始前トルク(車両要求トルクであってもよい)が小さくなるに従って、トルク相制御の実行時期に対するトルクダウン制御の開始時期を連続的又は段階的に遅くするように構成されている。
上述したように、変速開始前トルクが小さくなるに従って、出力軸Oへの伝達トルクが小さくなり、トルクダウン制御によるトルクの落ち込みが、出力軸Oの伝達トルクに対して相対的に大きくなり、運転者に与える違和感が大きくなる恐れがあった。上記の構成によれば、変速開始前トルクが小さくなるに従って、トルク相制御の実行時期に対するトルクダウン制御の開始時期を遅らせることができるので、トルクダウン制御の開始時における解放側係合装置の残圧を減少させ、伝達トルク容量を減少させることができる。よって、変速開始前トルクが小さくなるに従って、トルクダウン制御により解放側係合装置を介して出力軸Oに伝達される負トルクの大きさを減少させることができる。従って、出力軸Oに伝達されるトルクが低い場合に、出力軸Oの伝達トルクに対するトルクの落ち込みを相対的に低減することができ、運転者に与える違和感を低減することができる。
【0077】
本実施形態では、
図6に示すような、変速開始前トルクと、トルク相制御の実行時期に対するトルクダウン制御の開始時期との関係を予め定めた開始時期の設定マップが、制御装置30の記憶装置に予め記憶されており、変速制御部43は、記憶装置から読み出した開始時期の設定マップを用い、変速開始前トルク(車両要求トルク)に基づいて、トルク相制御の実行時期に対するトルクダウン制御の開始時期を設定するように構成されている。
【0078】
トルク相制御の実行時期に対するトルクダウン制御の開始時期として、トルク相制御の終了時点からトルクダウン制御の開始時点までの遅れ時間が設定されている。ここで、トルク相制御の終了時点は、係合側係合装置に供給する目標油圧(指令油圧)を係合側基準圧まで増加させると共に、解放側係合装置の目標油圧(指令油圧)をストロークエンド圧まで減少させたときとされている。
【0079】
本実施形態では、変速制御部43は、
図6の開始時期の設定マップに示すように、変速開始前トルクが、予め定めた第一トルクT1以下の低トルク域にあるときは、トルク相制御の実行時期に対するトルクダウン制御の開始時期を予め定めた一定値に設定し、変速開始前トルクが、予め定めた第二トルクT2以上の高トルク域にあるときは、トルク相制御の実行時期に対するトルクダウン制御の開始時期を、低トルク域の設定値よりも早い側の予め定めた一定値に設定し、変速開始前トルクが、予め定めた第一トルクT1と第二トルクT2との間の中トルク域にあるときは、変速開始前トルクが小さくなるに従って、トルク相制御の実行時期に対するトルクダウン制御の開始時期を、高トルク域の所定値から低トルク域の所定値まで連続的に遅くなるように設定する。
【0080】
変速制御部43は、アップシフト制御後の変速段の変速比が低くなるに従って、トルク相制御の実行時期に対するトルクダウン制御の開始時期を連続的又は段階的に遅くするように構成されている。
【0081】
変速開始前トルクの値が同じでも、アップシフト制御後の変速段の変速比が低くなるに従って、出力軸Oに伝達されるトルクが低下するため、運転者に与える違和感が大きくなり得る。上記の構成によれば、アップシフト制御後の変速段の変速比が低くなるに従って、トルクダウン制御の開始時期を遅くすることで、出力軸Oに伝達されるトルクが低くなる場合に、出力軸Oへの伝達トルクに対するトルクの落ち込みを相対的に低減することができ、運転者に与える違和感を低減することができる。
【0082】
本実施形態では、アップシフト制御後の変速段毎に、
図6に示すような開始時期の設定マップが、制御装置30の記憶装置に予め記憶されており、変速段の変速比が低くなるに従って、トルクダウン制御の開始時期が変化する中トルク域が、変速開始前トルクにおいて低トルク側にシフトするように設定される。
【0083】
なお、アップシフト制御後の変速段の変速比に加えて、アップシフト制御前の変速段の変速比に応じても、トルク相制御の実行時期に対するトルクダウン制御の開始時期を変更するように構成されてもよい。
これは、アップシフト制御前の変速段の変速比は、解放側係合装置を介して出力軸Oに伝達されるトルクに比例するため、アップシフト制御前の変速段の変速比が高くなるに従って、解放側係合装置の残圧が同じ大きさでも、出力軸Oに伝達されるトルクの落ち込み量が大きくなり得る。よって、変速段を一段飛ばしてアップシフトする場合など、アップシフト制御後の変速段の変速比が同じでも、アップシフト制御前の変速段の変速比が高くなるに従って、トルク相制御の実行時期に対するトルクダウン制御の開始時期を遅くすればよい。
【0084】
或いは、変速制御部43は、アップシフト制御前の変速段の変速比及びアップシフト制御後の変速段の変速比の一方又は双方が低くなるに従って、トルク相制御の実行時期に対するトルクダウン制御の開始時期を連続的又は段階的に遅くするように構成されてもよい。
【0085】
<トルク低下速度変更制御>
本実施形態では、変速制御部43は、変速開始前トルク(車両要求トルクであってもよい)が小さくなるに従って、トルクダウン制御における駆動力源のトルクの低下速度を連続的又は段階的に小さくするように構成されている。
【0086】
この構成によれば、変速開始前トルクが小さくなるに従って、駆動力源のトルクの低下速度が小さくされるので、トルクダウン制御のトルク低下量を小さくすることができる。よって、トルクダウン制御により、残圧がある解放側係合装置を介して出力軸Oに伝達される負トルクの大きさを減少させることができる。従って、出力軸Oに伝達されるトルクが低い場合に、出力軸Oの伝達トルクに対するトルクの落ち込みを相対的に低減することができ、運転者に与える違和感を低減することができる。
【0087】
本実施形態では、
図7に示すような、変速開始前トルクと、駆動力源のトルクの低下速度との関係を予め定めた低下速度の設定マップが、制御装置30の記憶装置に予め記憶されており、変速制御部43は、記憶装置から読み出した低下速度の設定マップを用い、変速開始前トルク(車両要求トルク)に基づいて、駆動力源のトルクの低下速度を設定するように構成されている。
本実施形態では、変速制御部43は、
図7の低下速度の設定マップに示すように、変速開始前トルクが、予め定めた第一トルクT1以下の低トルク域にあるときは、駆動力源のトルクの低下速度を予め定めた一定値に設定し、変速開始前トルクが、予め定めた第二トルクT2以上の高トルク域にあるときは、駆動力源のトルクの低下速度を、低トルク域の設定値よりも大きい、予め定めた一定値に設定し、変速開始前トルクが、予め定めた第一トルクT1と第二トルクT2との間の中トルク域にあるときは、変速開始前トルクが小さくなるに従って、駆動力源のトルクの低下速度を、高トルク域の所定値から低トルク域の所定値まで連続的に小さくなるように設定する。
【0088】
変速制御部43は、アップシフト制御後の変速段の変速比が低くなるに従って、トルクダウン制御における駆動力源のトルクの低下速度を連続的又は段階的に小さくするように構成されている。
本実施形態では、アップシフト制御後の変速段毎に、
図7に示すような低下速度の設定マップが、制御装置30の記憶装置に予め記憶されており、変速段の変速比が低くなるに従って、駆動力源のトルクの低下速度が変化する中トルク域が、変速開始前トルクにおいて低トルク側にシフトするように設定される。
なお、アップシフト制御後の変速段の変速比に加えて、アップシフト制御前の変速段の変速比に応じても、駆動力源のトルクの低下速度を変更するように構成されてもよい。
【0089】
<漸次ダウン制御、急速ダウン制御>
本実施形態では、変速制御部43は、トルクダウン制御として、当該トルクダウン制御の開始後、駆動力源のトルクを次第に低下させる漸次ダウン制御を実行すると共に、解放側係合装置の回転速度差ΔW1が生じた後、漸次ダウン制御を終了し、駆動力源のトルクを漸次ダウン制御よりも速い速度で低下させる急速ダウン制御を実行するように構成されている。
【0090】
そして、変速制御部43は、トルク相制御の実行時期に対する漸次ダウン制御の開始時期を、変速開始前トルク(車両要求トルクであってもよい)が小さくなるに従って連続的又は段階的に遅くするように構成されている。また、変速制御部43は、漸次ダウン制御における駆動力源のトルクの低下速度を、変速開始前トルク(車両要求トルクであってもよい)が小さくなるに従って、連続的又は段階的に小さくするように構成されている。
【0091】
本実施形態では、変速制御部43は、解放側係合装置の回転速度差ΔW1が、予め定めた開始判定速度差以上になった場合に、急速ダウン制御を開始するように構成されている。変速制御部43は、急速ダウン制御の開始後、駆動力源のトルクを、変速開始前トルク(車両要求トルクであってもよい)に対して予め定めたトルク低下量だけ低いトルクまで、漸次ダウン制御よりも速い速度で(例えばステップ的に)低下させるように構成されている。本実施形態では、変速制御部43は、駆動力源のトルクの低下として、回転電機MGの出力トルクを低下させるように構成されている。なお、変速制御部43は、駆動力源のトルクの低下として、内燃機関ENGの出力トルクを低下させるように構成されてもよく、或いは内燃機関ENGの出力トルク及び回転電機MGの出力トルクの双方に配分して低下させるように構成されてもよい。或いは、変速制御部43は、機関係合装置SSCが解放状態にされる電動モードにおいて、回転電機MGの出力トルクを低下させるように構成されてもよい。また、変速制御部43は、係合側係合装置の回転速度差ΔW2の変化に応じてトルク低下量を変化させるように構成されてもよい。
【0092】
変速制御部43は、係合側係合装置の回転速度差ΔW2が、予め定めた終了判定速度差以下になった場合に、トルクダウン制御を終了し、駆動力源のトルクを変速開始前トルク(車両要求トルクであってもよい)まで増加させる。また、変速制御部43は、係合側係合装置の係合圧を、完全係合圧まで増加させて、アップシフト制御を終了する。
【0093】
<係合圧増加制御>
しかし、変速開始前トルクが小さくなるに従って、トルク相制御の実行時期に対するトルクダウン制御の開始時期を遅らせたり、トルクダウン制御における駆動力源のトルクの低下速度を小さくしたりすると、残圧がある解放側係合装置が直結係合状態から滑り係合状態に移行するタイミングが遅れ、イナーシャ相制御の終了時期が遅れる恐れがある。
【0094】
そこで、本実施形態では、変速制御部43は、イナーシャ相制御の開始後、係合側係合装置の係合圧を一時的に増加させる係合圧増加制御を実行すると共に、変速開始前トルクに応じて係合圧増加制御における係合圧の一時的な増加量を変更するように構成されている。この構成によれば、変速開始前トルクに応じて、係合圧の一時的な増加量を適切に変更し、運転者が感じる違和感を抑制することができる。
【0095】
本実施形態では、変速制御部43は、変速開始前トルク(車両要求トルクであってもよい)が小さくなるに従って、係合圧増加制御における係合圧の一時的な増加量を連続的又は段階的に大きくするように構成されている。
ここで、係合圧を一時的に増加させるとは、具体的には、変速制御部43が、係合側係合装置の係合圧を増加させた後、係合圧を減少させるように構成されていることであり、係合圧の一時的な増加量とは、減少後の係合圧を基準圧にした最大の増加量である。すなわち、変速制御部43は、減少後の係合圧を基準圧として、係合側係合装置の係合圧を基準圧よりも増加させた後、基準圧まで減少させる。
本実施形態では、減少後の係合圧を基準圧は、上記した係合側基準圧になるように設定されている。
【0096】
係合圧増加制御による係合側係合装置の伝達トルクの増加により、解放側係合装置の伝達トルクを低下させることができる。そして、解放側係合装置の伝達トルクが、解放側係合装置の伝達トルク容量に負の符号を乗算した下限まで低下すると、解放側係合装置が滑り係合状態に移行し、回転変化を開始させることができる。よって、係合圧増加制御を実行し、係合圧の一時的な増加量を大きくすることにより、解放側係合装置が滑り係合状態に移行するタイミングが遅れることを抑制できる。
また、係合側係合装置の係合圧の増加が一時的であるので、時間の経過と共に減少していく解放側係合装置の残圧に合わせて、増加させた係合側係合装置の係合圧を減少させることができる。
また、係合圧増加制御により係合側係合装置の係合圧を一時的に増加させると、係合側係合装置を介して出力軸Oに伝達されるトルクを一時的に増加させることができる。係合圧増加制御による出力軸Oへの伝達トルクの増加により、解放側係合装置を介して出力軸Oに伝達される負トルクを打ち消すことができ、運転者に与える違和感を低減することができる。
【0097】
本実施形態では、変速制御部43は、トルク相制御において係合側係合装置の目標油圧(指令油圧)を係合側基準圧まで増加させた後、係合圧増加制御を開始するように構成されている。変速制御部43は、係合圧増加制御の開始後、係合側係合装置の目標油圧(指令油圧)を、係合側基準圧から、更に、設定した一時的な増加量分だけ次第に増加させるように構成されている。そして、変速制御部43は、係合側係合装置の目標油圧(指令油圧)を、一時的な増加量分だけ増加させた後、係合側基準圧まで次第に減少させるように構成されている。ここで、係合圧増加制御による減少後の係合側係合装置の係合圧が、係合側基準圧であると定義することもできる。
【0098】
変速制御部43は、係合圧増加制御における目標油圧(指令油圧)の減少速度の大きさを、係合圧増加制御及びトルク相制御における目標油圧(指令油圧)の増加速度の大きさよりも、小さくするように構成されている。また、変速制御部43は、係合圧増加制御における目標油圧(指令油圧)の減少速度を、解放側係合装置の残圧の減少速度に対応する速度に設定するように構成されている。
【0099】
これにより、解放側係合装置に残圧がある場合に、係合圧増加制御等により、解放側係合装置が直結係合状態から滑り係合状態に移行されて、解放側係合装置の伝達トルクが、残圧により生じた伝達トルク容量に応じた負トルクまで低下したとしても、当該解放側係合装置の負の伝達トルクを、係合圧増加制御により増加した係合側係合装置の伝達トルクにより打ち消して、出力軸Oへの伝達トルクの低下を抑制することができる。
【0100】
本実施形態では、
図8に示すような、変速開始前トルクと、係合圧の一時的な増加量との関係を予め定めた増加量の設定マップが、制御装置30の記憶装置に予め記憶されており、変速制御部43は、記憶装置から読み出した増加量の設定マップを用い、変速開始前トルク(車両要求トルク)に基づいて、係合圧の一時的な増加量を設定するように構成されている。
本実施形態では、変速制御部43は、
図8の増加量の設定マップに示すように、変速開始前トルクが、予め定めた第一トルクT1以下の低トルク域にあるときは、係合圧の一時的な増加量を予め定めた一定値に設定し、変速開始前トルクが、予め定めた第二トルクT2以上の高トルク域にあるときは、係合圧の一時的な増加量を、低トルク域の設定値よりも小さい、予め定めた一定値に設定し、変速開始前トルクが、予め定めた第一トルクT1と第二トルクT2との間の中トルク域にあるときは、変速開始前トルクが小さくなるに従って、係合圧の一時的な増加量を、高トルク域の所定値から低トルク域の所定値まで連続的に大きくするように設定する。
図8に示す例では、高トルク域において、係合圧の一時的な増加量がゼロに設定されており、係合圧増加制御が実行されない。なお、高トルク域において、係合圧の一時的な増加量がゼロより大きく設定され、係合圧増加制御が実行されてもよい。
【0101】
変速制御部43は、アップシフト制御後の変速段の変速比が低くなるに従って、係合圧増加制御における係合圧の一時的な増加量を連続的又は段階的に大きくするように構成されている。
本実施形態では、アップシフト制御後の変速段毎に、
図8に示すような増加量の設定マップが、制御装置30の記憶装置に予め記憶されており、変速段の変速比が低くなるに従って、係合圧の一時的な増加量が変化する中トルク域が、変速開始前トルクにおいて低トルク側にシフトするように設定される。
なお、アップシフト制御後の変速段の変速比に加えて、アップシフト制御前の変速段の変速比に応じても、係合圧の一時的な増加量を変更するように構成されてもよい。
【0102】
変速制御部43は、アップシフト制御前の変速段の変速比及びアップシフト制御後の変速段の変速比の一方又は双方が高くなるに従って、係合圧増加制御における係合圧の一時的な増加量を連続的又は段階的に大きくするように構成されてもよい。
【0103】
3−4−2−4.フローチャート
次に、アップシフト制御の処理について、
図9のフローチャートを参照して説明する。
まず、変速制御部43は、アップシフト制御を開始する条件が成立したか否か判定する(ステップ♯01)。変速制御部43は、アップシフト制御の開始条件が成立した場合(ステップ♯01:Yes)に、上記したように、解放側係合装置及び係合側係合装置の係合圧を予め変化させるプレ相制御を実行する(ステップ♯02)。そして、変速制御部43は、プレ相制御の実行後、上記したように、係合側係合装置の係合圧を増加させると共に解放側係合装置の係合圧を減少させるトルク相制御を開始する(ステップ♯03)。
【0104】
変速制御部43は、トルク相制御の開始後、イナーシャ相制御の開始条件が成立した場合(ステップ♯04:Yes)に、イナーシャ相制御を開始する。
本実施形態では、変速制御部43は、係合側係合装置に供給する目標油圧(指令油圧)を係合側基準圧まで増加させると共に、解放側係合装置の目標油圧(指令油圧)をストロークエンド圧まで減少させたとき(トルク相制御の終了時)に、イナーシャ相制御の開始条件が成立したと判定するように構成されている。
【0105】
変速制御部43は、イナーシャ相制御の開始後、上記したように、変速開始前トルクなどに基づいて、係合側係合装置の係合圧の一時的な増加量を設定する(ステップ♯05)。そして、変速制御部43は、上記したような係合圧増加制御を開始する(ステップ♯06)。
また、変速制御部43は、イナーシャ相制御の開始後、上記したように、変速開始前トルクなどに基づいて、トルク相制御の実行時期に対するトルクダウン制御の開始時期を設定する(ステップ♯07)。本実施形態では、トルク相制御の実行時期に対するトルクダウン制御の開始時期として、トルク相制御の終了時点からトルクダウン制御の開始時点までの遅れ時間が設定される。
変速制御部43は、上記したように、変速開始前トルクなどに基づいて、トルクダウン制御(漸次ダウン制御)における駆動力源のトルクの低下速度を設定する(ステップ♯08)。
【0106】
変速制御部43は、トルク相制御の終了時点から設定した遅れ時間が経過し、トルクダウン制御の開始時期になったと判定した場合(ステップ♯09)に、設定した低下速度に基づき、漸次ダウン制御を開始する(ステップ♯10)。
変速制御部43は、解放側係合装置の回転速度差ΔW1が、予め定めた開始判定速度差以上になった場合(ステップ♯11:Yes)に、急速ダウン制御を開始する(ステップ♯12)。
【0107】
変速制御部43は、急速ダウン制御の開始後、係合側係合装置の回転速度差ΔW2が、予め定めた終了判定速度差以下になった場合(ステップ♯13:Yes)に、トルクダウン制御を終了し、駆動力源のトルクを変速開始前トルクまで増加させる(ステップ♯14)。
また、変速制御部43は、係合側係合装置の係合圧を、完全係合圧まで増加させて(ステップ♯15)、アップシフト制御を終了する。
【0108】
3−4−2−5.制御挙動の例
次に、アップシフト制御の制御挙動の例について説明する。
図10に、変速開始前トルクが、
図6から
図8における低トルク域である場合の制御挙動を示し、
図11に、変速開始前トルクが、中トルク域の中心付近である場合の制御挙動を示し、
図12に、変速開始前トルクが、高トルク域である場合の制御挙動を示している。
【0109】
3−4−2−5−1.低トルク域
まず、
図10を参照して、変速開始前トルクが低トルク域である場合について説明する。
変速制御部43は、駆動力源が、車両要求トルクに応じたトルクを入力軸Iに伝達している状態で、時刻T11で、目標変速段を変速比のより小さい変速段に変更したため、アップシフト制御を開始すると判定している。目標変速段は、例えば、車速の増加によりアップシフト線を跨いだ場合や、シフト位置が変更された場合等に変更される。
なお、アップシフト制御の開始時(時刻T11)の駆動力源のトルクである変速開始前トルクは、
図6から
図8における低トルク域に該当している。
【0110】
<プレ相>
変速制御部43は、時刻T11から時刻T12の期間で、プレ相制御を行い、解放側係合装置及び係合側係合装置の係合圧を予め変化させている。
変速制御部43は、時刻T11から時刻T12の期間で、解放側係合装置の目標油圧(指令油圧)を完全係合圧から解放側基準圧まで低下させると共に、係合側係合装置の目標油圧(指令油圧)をストロークエンド圧まで増加させている。なお、係合側係合装置の供給油圧の立ち上がりを速めるため、係合側係合装置の目標油圧が一時的にステップ的に増加されている。解放側基準圧は、解放側係合装置が変速開始前トルク(車両要求トルク)を出力軸O側に伝達可能な係合圧(油圧)に設定されている。
【0111】
<トルク相>
変速制御部43は、プレ相制御の実行後、時刻T12から時刻T13のトルク相制御の期間で、トルク相制御を行っている。具体的には、変速制御部43は、時刻T12から時刻T13の期間で、係合側係合装置の目標油圧(指令油圧)を、ストロークエンド圧から係合側基準圧まで所定の傾きで増加させると共に、解放側係合装置の目標油圧(指令油圧)を、解放側基準圧からストロークエンド圧まで所定の傾きで減少させている。係合側基準圧は、係合側係合装置が変速開始前トルク(車両要求トルク)を出力軸O側に伝達可能な係合圧(油圧)に設定されている。
【0112】
油圧のグラフに示すように、解放側係合装置の目標油圧(指令油圧)をストロークエンド圧まで減少させても、実際の油圧は遅れて減少しており、油圧減少の遅れは、ストロークエンド圧付近に近づくに従い大きくなっている。これは、上記したように、リターンばねの力で油圧を油圧制御装置PC側に押し戻すように構成されており、残圧の抜けが次第に遅くなるためである。
そのため、解放側係合装置の目標油圧(指令油圧)をストロークエンド圧以下まで減少させた後(時刻T13後)も、実際の油圧は、しばらくの間(時刻T13から時刻T17)、ストロークエンド圧より大きくなっており、伝達トルク容量が生じ、解放状態になっていない。
一方、係合側係合装置の目標油圧(指令油圧)の増加に対する実際の油圧の増加の遅れは、油圧制御装置PCから能動的に油圧が供給されるので、解放側係合装置の遅れよりも小さくなっている。
【0113】
入力側伝達トルクのグラフに示すように、係合側係合装置の実際の油圧がストロークエンド圧を上回ると、伝達トルク容量が生じ始め、実際の油圧の増加に比例して、伝達トルク容量が増加している(時刻T12から時刻T13)。係合側係合装置は滑り係合状態になり、係合側係合装置の伝達トルク容量に正の符号(+1)を乗算したトルクが、係合側係合装置を介して入力軸Iから出力軸O側に伝達されている。
ここで、係合側係合装置又は解放側係合装置を介して入力軸Iから出力軸O側に伝達されるトルクを入力側伝達トルクとする。また、
図10から
図12に示すタイムチャートの入力側伝達トルクのグラフにおいて、係合側係合装置又は解放側係合装置の伝達トルク及び伝達トルク容量は、係合側係合装置又は解放側係合装置を介して、入力軸Iから出力軸O側に伝達されるトルク、すなわち入力軸Iを基準に換算した伝達トルク及び伝達トルク容量を示している。
【0114】
一方、解放側係合装置の伝達トルク容量は、目標油圧の減少に対して遅れて減少している実際の油圧に比例して減少している(時刻T12以降)。
解放側係合装置は直結係合状態であり、解放側係合装置の伝達トルク容量に正の符号を乗算した上限と、伝達トルク容量に負の符号を乗算した下限との間で、入力軸Iから解放側係合装置に作用するトルクを伝達する。解放側係合装置には、駆動力源のトルクから、係合側係合装置の入力側伝達トルクを減算したトルクが作用し、解放側係合装置は、当該減算したトルクを、解放側係合装置の伝達トルク容量の上下限の範囲内で、入力軸Iから出力軸O側に伝達している(時刻T12から時刻T14)。
このように、解放側係合装置の実際の油圧における減少遅れは、係合側係合装置の実際の油圧における増加遅れよりも大きいため、駆動力源のトルクから、係合側係合装置の入力側伝達トルクを減算したトルクは、解放側係合装置の伝達トルク容量の上下限の範囲内に納まり、直結係合状態に維持される。この状態では、駆動力源のトルクから、係合側係合装置の入力側伝達トルクと解放側係合装置の入力側伝達トルクとを減算したトルクはゼロになっている。
【0115】
出力側伝達トルクのグラフに示すように、出力軸Oには、係合側係合装置を介して、係合側係合装置の入力側伝達トルクにアップシフト制御後の変速段の変速比を乗算したトルクが伝達され、解放側係合装置を介して、解放側係合装置の入力側伝達トルクにアップシフト制御前の変速段の変速比を乗算したトルクが伝達されている。
ここで、係合側係合装置又は解放側係合装置を介して入力軸I側から出力軸Oに伝達されるトルクを出力側伝達トルクとする。また、
図10から
図12に示すタイムチャートの出力側伝達トルクのグラフにおいて、係合側係合装置又は解放側係合装置の伝達トルクは、係合側係合装置又は解放側係合装置を介して、入力軸I側から出力軸Oに伝達されるトルク、すなわち出力軸Oを基準に換算した伝達トルクを示している。
【0116】
アップシフト制御後の変速段の変速比は、アップシフト制御前の変速段の変速比よりも小さいので、同じ入力側伝達トルクでも、係合側係合装置の出力側伝達トルクの方が、解放側係合装置の出力側伝達トルクよりも低くなっている。係合側係合装置の出力側伝達トルクと、解放側係合装置の出力側伝達トルクとの合計が、出力軸Oに伝達される合計トルク(出力トルク)となる。
【0117】
<イナーシャ相制御>
変速制御部43は、係合側係合装置に供給する目標油圧(指令油圧)を係合側基準圧まで増加させると共に、解放側係合装置の目標油圧(指令油圧)をストロークエンド圧まで減少させた後(トルク相制御の終了後)に、イナーシャ相制御を開始している(時刻T13)。
変速制御部43は、イナーシャ相制御の開始後、係合圧増加制御を開始し、係合側係合装置の目標油圧(指令油圧)を、係合側基準圧から、係合圧の一時的な増加量分だけ次第に増加させた後、係合側基準圧まで次第に減少させている(時刻T13から時刻T17)。
図10に示す例は、変速開始前トルクが低トルク域に該当しているので、係合圧の一時的な増加量は、比較的大きく設定されている。
【0118】
一方、変速開始前トルクが低トルク域に該当しているので、トルク相制御の終了時点からトルクダウン制御の開始時点までの遅れ時間(時刻T13から時刻T15)が大きく設定されている。そのため、係合圧増加制御の開始後、しばらくの間は、トルクダウン制御が開始されていない。
【0119】
係合圧増加制御により、係合側係合装置の目標油圧が、係合側基準圧よりも増加されるに従い、係合側係合装置の入力側伝達トルクが、駆動力源のトルクよりも増加する。このため、駆動力源のトルクから、係合側係合装置の入力側伝達トルクを減算したトルクが負トルクになり、解放側係合装置の入力側伝達トルクがゼロより低下していく(時刻T13から時刻T14)。
解放側係合装置の入力側伝達トルクが、解放側係合装置の伝達トルク容量に負の符号を乗算した下限まで低下すると(時刻T14)、解放側係合装置は、作用している全てのトルクの伝達できなくなり、係合部材間に滑りが生じ始め、直結係合状態から滑り係合状態に移行する(時刻T14以降)。滑り係合状態になると、解放側係合装置の伝達トルク容量に負の符号を乗算したトルクが、解放側係合装置を介して入力軸Iから出力軸O側に伝達されるようになる。
【0120】
このように、低トルク域では係合圧増加制御による係合側係合装置の入力側伝達トルクの増加量は、解放側係合装置の残圧による伝達トルク容量に対応する入力側伝達トルクよりも大きくなるように設定されており、係合圧増加制御により解放側係合装置を滑り係合状態に移行できる。
【0121】
解放側係合装置が滑り係合状態になると、駆動力源のトルクから、係合側係合装置の入力側伝達トルクと解放側係合装置の入力側伝達トルクとを減算した入力軸Iに作用するトルクは、ゼロより小さい負トルクになり、入力軸Iの回転速度は、変速前同期回転速度から低下し始める(時刻T14以降)。
【0122】
これまで説明したように、解放側係合装置に残圧がある状態で滑り係合状態に移行させるためには、解放側係合装置の入力側伝達トルクを、残圧による伝達トルク容量に負の符号を乗算した下限まで低下させる必要があり、解放側係合装置の出力側伝達トルクはゼロより低い負トルクまで低下する。
しかし、係合圧増加制御により増加されている係合側係合装置の出力側伝達トルクにより、負トルクとなる解放側係合装置の出力側伝達トルクを、打ち消して出力トルクの低下を抑制することができる。このとき、入力側伝達トルク基準では、係合側係合装置の伝達トルクは、解放側係合装置の伝達トルクよりも大きいが、アップシフト制御後の変速段の変速比は、アップシフト制御前の変速段の変速比よりも小さいため、出力側伝達トルク基準では、係合側係合装置の伝達トルクを、解放側係合装置の伝達トルクにつり合わせて、適切に打ち消すことが可能になり、運転者に与える違和感を低減することができる。逆にいうと、このように出力側伝達トルク基準で適切に打ち消すことができるように、係合圧増加制御の増加量が予め調整され設定されている。
【0123】
変速制御部43は、トルクダウン制御の開始の遅れ時間の経過後、漸次ダウン制御を開始している(時刻T15)。なお、変速開始前トルクが低トルク域に該当しているので、駆動力源のトルクの低下速度は小さく設定されている。
図10に示す例では、漸次ダウン制御の開始時点(時刻T15)では、解放側係合装置は、既に滑り係合状態になっており、伝達トルク容量に応じた負トルクを伝達しているため、漸次ダウン制御によっては、解放側係合装置の入力側伝達トルクは変化しない。しかし、漸次ダウン制御による駆動力源のトルクの低下量は、入力軸Iの慣性系に作用し、入力軸Iの回転速度の低下速度が増加している(時刻T15から時刻T16)。
また、
図10に示す例とは異なり、解放側係合装置が滑り係合状態になっていなくても、駆動力源のトルクの低下速度が小さくされているので、解放側係合装置の入力側伝達トルクの低下を緩やかにすることができ、運転者に与える違和感を低減することができる。
【0124】
一方、トルクダウン制御の開始の遅れ時間が大きく設定され、駆動力源のトルクの低下速度が小さく設定されているので、
図5の比較例に比べて、イナーシャ相制御の開始後、回転変化が起きるまでの遅れが大きくなっているが、上記のように、変速開始前トルクが小さい場合でも、出力軸Oへの伝達トルクの落ち込みを大幅に低減できているので、全体として、運転者に与える違和感を低減できている。
【0125】
このように、変速開始前トルクが小さい場合は、回転変化を開始させることに対するトルクダウン制御の寄与度が、係合圧増加制御の寄与度よりも小さくなっている。よって、出力軸Oの伝達トルクの落ち込みを低減することができ、運転者に与える違和感を低減できている。
【0126】
変速制御部43は、時刻T16で、解放側係合装置の回転速度差ΔW1が、予め定めた開始判定速度差以上になったので、急速ダウン制御を開始している。変速制御部43は、急速ダウン制御の開始後、駆動力源のトルクを、変速開始前トルク(車両要求トルク)に対して予め定めたトルク低下量だけ低いトルクまで、漸次ダウン制御よりも速い速度で(本例ではステップ的に)低下させている。急速ダウン制御による駆動力源のトルクの低下量は、入力軸Iの慣性系に作用し、入力軸Iの回転速度の低下速度が更に増加している(時刻T16から時刻T17)。
【0127】
変速制御部43は、時刻T17で、係合側係合装置の回転速度差ΔW2が、予め定めた終了判定速度差以下になったので、トルクダウン制御を終了し、駆動力源のトルクを変速開始前トルク(車両要求トルク)まで増加させている。また、変速制御部43は、係合側係合装置の係合圧を、完全係合圧まで増加させて、アップシフト制御を終了している。
【0128】
3−4−2−5−2.中トルク域
次に、
図11を参照して、変速開始前トルクが中トルク域である場合について説明する。
時刻T23までは、
図10の時刻T13までと、変速開始前トルクが変化することにより変化する点を除き同様であるので説明を省略する。
アップシフト制御の開始時(時刻T21)の駆動力源のトルクである変速開始前トルクは、
図6から
図8における中トルク域の中心付近に該当している。
【0129】
図11に示す場合も、
図10の場合と同様に、解放側係合装置の実際の油圧における減少の遅れは、ストロークエンド圧付近に近づくに従って大きくなっており、目標油圧(指令油圧)をストロークエンド圧以下まで減少させた後(時刻T23後)も、実際の油圧は、しばらくの間(時刻T23から時刻T28)、ストロークエンド圧より大きくなっており、伝達トルク容量が生じ、解放状態になっていない。
一方、係合側係合装置の目標油圧(指令油圧)の増加に対する実際の油圧の増加の遅れも、
図10の場合と同様に、解放側係合装置の遅れよりも小さくなっている。
【0130】
<イナーシャ相制御>
変速制御部43は、トルク相制御の終了後に、イナーシャ相制御を開始している(時刻T23)。
変速制御部43は、イナーシャ相制御の開始後、係合圧増加制御を開始し、係合側係合装置の目標油圧(指令油圧)を、係合側基準圧から、係合圧の一時的な増加量分だけ次第に増加させた後、係合側基準圧まで次第に減少させている(時刻T23から時刻T27)。
図11に示す例は、変速開始前トルクが中トルク域に該当しているので、係合圧の一時的な増加量は、中間的な値に設定されている。
また、変速開始前トルクが中トルク域に該当しているので、トルク相制御の終了時点からトルクダウン制御の開始時点までの遅れ時間(時刻T23から時刻T24)が中間的な値に設定されている。
【0131】
係合側係合装置の目標油圧が、係合側基準圧よりも増加されるに従い、係合側係合装置の入力側伝達トルクが、駆動力源のトルクよりも増加し、係合側係合装置の入力側伝達トルクがゼロより低下していく(時刻T23から時刻T24の間)。中トルク域では、係合圧の一時的な増加量が、中間的な値に設定されているので、解放側係合装置の入力側伝達トルクの低下が、
図10に示した低トルク域の場合に比べてやや緩やかになっている。
【0132】
変速制御部43は、トルクダウン制御の開始の遅れ時間が経過したので、漸次ダウン制御を開始している(時刻T24)。なお、変速開始前トルクが中トルク域に該当しているので、駆動力源のトルクの低下速度は中間的な値に設定されている。
漸次ダウン制御の開始後、駆動力源のトルクが低下していくので、駆動力源のトルクから、係合側係合装置の入力側伝達トルクを減算した負トルクの大きさが大きくなり、解放側係合装置の入力側伝達トルクの低下速度が増加する(時刻T24から時刻T25)。
【0133】
解放側係合装置の入力側伝達トルクが、解放側係合装置の伝達トルク容量に負の符号を乗算した下限まで低下すると、解放側係合装置は、直結係合状態から滑り係合状態に移行している(時刻T25以降)。滑り係合状態になると、解放側係合装置の伝達トルク容量に負の符号を乗算した負トルクが、解放側係合装置を介して入力軸Iから出力軸O側に伝達されるようになる。
【0134】
中トルク域でも、係合圧増加制御により係合側係合装置の出力側伝達トルクが増加されているので、負トルクとなる解放側係合装置の出力側伝達トルクを、ある程度打ち消して出力トルクの低下を抑制することができる。
【0135】
また、駆動力源のトルクの低下速度が中間的な値に設定され、トルクダウン制御の開始までの遅れ時間が中間的な値に設定されているので、
図10に示した低トルク域の場合に比べて、解放側係合装置が滑り係合状態になった後の、入力軸Iの回転速度の低下速度が大きくなっており、イナーシャ相制御を開始してから急速ダウン制御を開始するまでの期間(時刻T23から時刻T26)が短縮している。
【0136】
このように、変速開始前トルクが中間的な大きさである場合は、回転変化を開始させることに対するトルクダウン制御の寄与度、及び係合圧増加制御の寄与度は中間的なバランスとなっている。よって、イナーシャ相制御の開始後、回転変化が起きるまでの遅れを短縮できると共に、出力軸Oの伝達トルクの落ち込みを、運転者に与える違和感を抑制できる程度に低減することができている。
【0137】
変速制御部43は、時刻T26で、解放側係合装置の回転速度差ΔW1が、予め定めた開始判定速度差以上になったので、急速ダウン制御を開始している。変速制御部43は、急速ダウン制御の開始後、駆動力源のトルクを、変速開始前トルク(車両要求トルク)に対して予め定めたトルク低下量だけ低いトルクまで、漸次ダウン制御よりも速い速度で(本例ではステップ的に)低下させている。急速ダウン制御による駆動力源のトルクの低下量は、入力軸Iの慣性系に作用し、入力軸Iの回転速度の低下速度が更に増加している(時刻T26から時刻T27)。
【0138】
変速制御部43は、時刻T27で、係合側係合装置の回転速度差ΔW2が、予め定めた終了判定速度差以下になったので、トルクダウン制御を終了し、駆動力源のトルクを変速開始前トルク(車両要求トルク)まで増加させている。また、変速制御部43は、係合側係合装置の係合圧を、完全係合圧まで増加させて、アップシフト制御を終了している。
【0139】
3−4−2−5−3.高トルク域
次に、
図12を参照して、変速開始前トルクが高トルク域である場合について説明する。
時刻T33までは、
図10の時刻T13までと、変速開始前トルクが変化することにより変化する点を除き同様であるので説明を省略する。
アップシフト制御の開始時(時刻T31)の駆動力源のトルクである変速開始前トルクは、
図6から
図8における高トルク域に該当している。
【0140】
図12に示す場合も、
図10の場合と同様に、解放側係合装置の実際の油圧における減少の遅れは、ストロークエンド圧付近に近づくに従って大きくなっており、目標油圧(指令油圧)をストロークエンド圧以下まで減少させた後(時刻T33後)も、実際の油圧は、しばらくの間(時刻T33から時刻T37)、ストロークエンド圧より大きくなっており、伝達トルク容量が生じ、解放状態になっていない。
一方、係合側係合装置の目標油圧(指令油圧)の増加に対する実際の油圧の増加の遅れも、
図10の場合と同様に、解放側係合装置の遅れよりも小さくなっている。
【0141】
<イナーシャ相制御>
変速制御部43は、トルク相制御の終了後に、イナーシャ相制御を開始している(時刻T33)。
本例では、高トルク域において、係合圧増加制御における係合圧の一時的な増加量はゼロに設定されている。よって、
図12に示す例では、係合圧増加制御が実行されていない。
また、トルク相制御の終了時点からトルクダウン制御の開始時点までの遅れ時間(時刻T23から時刻T24)がゼロ付近の値に設定されている(
図12に示す例では、説明の簡略化のためゼロに設定している)。
【0142】
変速制御部43は、トルク相制御の終了後、漸次ダウン制御を開始している(時刻T33。なお、変速開始前トルクが高トルク域に該当しているので、駆動力源のトルクの低下速度は比較的大きな値に設定されている。
漸次ダウン制御の開始後、駆動力源のトルクが比較的大きな傾きで低下していくので、駆動力源のトルクから、係合側係合装置の入力側伝達トルクを減算した負トルクの大きさが大きくなり、解放側係合装置の入力側伝達トルクの低下速度が大きくなっている(時刻T33以降)。
【0143】
解放側係合装置の入力側伝達トルクは、
図11に示した中トルク域の場合よりも早期に解放側係合装置の伝達トルク容量に負の符号を乗算した下限まで低下し、解放側係合装置は、直結係合状態から滑り係合状態に移行している(時刻T34以降)。滑り係合状態になると、解放側係合装置の伝達トルク容量に負の符号を乗算した負トルクが、解放側係合装置を介して入力軸Iから出力軸O側に伝達されるようになる。
また、解放側係合装置が滑り係合状態になった後の、入力軸Iの回転速度の低下速度が大きくなっており、イナーシャ相制御を開始してから急速ダウン制御を開始するまでの期間(時刻T33から時刻T35)が中トルク域の場合よりも短縮している。
【0144】
高トルク域では、出力軸Oに伝達されるトルクが大きいので、係合圧増加制御により解放側係合装置により伝達される負トルクを打ち消さなくても、運転者に与える違和感が大きくなり難い。
【0145】
このように、変速開始前トルクが大きい場合は、回転変化を開始させることに対するトルクダウン制御の寄与度が、係合圧増加制御の寄与度よりも大きくなっている。よって、イナーシャ相制御の開始後、回転変化が起きるまでの遅れを短縮できると共に、回転変化の進行を早めることができている。
【0146】
変速制御部43は、時刻T35で、解放側係合装置の回転速度差ΔW1が、予め定めた開始判定速度差以上になったので、急速ダウン制御を開始している。変速制御部43は、急速ダウン制御の開始後、駆動力源のトルクを、変速開始前トルク(車両要求トルク)に対して予め定めたトルク低下量だけ低いトルクまで、漸次ダウン制御よりも速い速度で(本例ではステップ的に)低下させている。急速ダウン制御による駆動力源のトルクの低下量は、入力軸Iの慣性系に作用し、入力軸Iの回転速度の低下速度が更に増加している(時刻T35から時刻T36)。
【0147】
変速制御部43は、時刻T36で、係合側係合装置の回転速度差ΔW2が、予め定めた終了判定速度差以下になったので、トルクダウン制御を終了し、駆動力源のトルクを変速開始前トルク(車両要求トルク)まで増加させている。また、変速制御部43は、係合側係合装置の係合圧を、完全係合圧まで増加させて、アップシフト制御を終了している。
【0148】
〔その他の実施形態〕
最後に、その他の実施形態について説明する。なお、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用されるものに限られず、矛盾が生じない限り、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0149】
(1)上記の実施形態において、制御装置30は、複数の制御ユニット32〜34を備え、これら複数の制御ユニット32〜34が分担して複数の機能部41〜45を備える場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、制御装置30は、上述した複数の制御ユニット32〜34を任意の組み合わせで統合又は分離した制御装置として備えるようにしてもよく、複数の機能部41〜45の分担も任意に設定することができる。
【0150】
(2)上記の実施形態においては、変速装置TMは、2つの遊星歯車機構を有し、6つの係合装置を有し、6つの前進変速段を有し、各変速段は2つの係合装置が係合されることにより形成される場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、変速装置TMは、少なくとも1つ以上の係合装置の係合で形成される変速段を2つ以上有していれば、どのような構成であってもよい。すなわち、変速装置TMは、2つ以上又は1つの遊星歯車機構を有してもよく、2つ以上の係合装置を有してもよく、2つ以上の前進変速段を有してもよく、各変速段は1つの係合装置が係合されることにより、或いは3つ以上の係合装置が係合されることにより形成されてもよい。
【0151】
(3)上記の実施形態において、
図6に示したトルク相制御の実行時期に対するトルクダウン制御の開始時期の設定マップにおいて、中トルク域において、トルクダウン制御の開始時期が連続に変化され、低トルク域及び高トルク域において、トルクダウン制御の開始時期が一定値に設定されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、変速制御部43は、トルク相制御の実行時期に対するトルクダウン制御の開始時期を、少なくとも、変速開始前トルクに応じて変更すれば、どのような傾向であってもよい。
【0152】
また、変速制御部43は、少なくとも、変速開始前トルクが小さくなるに従って、トルク相制御の実行時期に対するトルクダウン制御の開始時期を連続的又は段階的に遅くすれば、どのような傾向であってもよい。例えば、低トルク域、中トルク域、及び高トルク域の全域に亘って、連続的又は段階的に、トルクダウン制御の開始時期が変化されてもよい。
また、変速開始前トルクの一部の区間において、変速開始前トルクが小さくなるに従って、トルク相制御の実行時期に対するトルクダウン制御の開始時期が速くされていてもよい。
【0153】
(4)上記の実施形態において、
図7に示した駆動力源のトルクの低下速度の設定マップにおいて、中トルク域において、低下速度が連続に変化され、低トルク域及び高トルク域において、低下速度が一定値に設定されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、変速制御部43は、少なくとも、変速開始前トルクが小さくなるに従って、トルクダウン制御における駆動力源のトルクの低下速度を連続的又は段階的に小さくすれば、どのような傾向であってもよい。例えば、低トルク域、中トルク域、及び高トルク域の全域に亘って、連続的又は段階的に、低下速度が変化されてもよい。
また、変速開始前トルクの一部の区間において、変速開始前トルクが小さくなるに従って、トルクダウン制御における駆動力源のトルクの低下速度が大きくされていてもよい。
【0154】
(5)上記の実施形態において、
図8に示した係合圧の一時的な増加量の設定マップにおいて、中トルク域において、低下速度が連続に変化され、低トルク域及び高トルク域において、増加量が一定値に設定されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、変速制御部43は、少なくとも、変速開始前トルクが小さくなるに従って、係合圧増加制御における係合圧の一時的な増加量を連続的又は段階的に大きくすれば、どのような傾向であってもよい。例えば、低トルク域、中トルク域、及び高トルク域の全域に亘って、連続的又は段階的に、増加量が変化されてもよい。
また、変速開始前トルクの一部の区間において、変速開始前トルクが小さくなるに従って、係合圧増加制御における係合圧の一時的な増加量が小さくされていてもよい。
【0155】
(6)上記の実施形態において、変速制御部43は、変速開始前トルクが小さくなるに従ってトルクダウン制御の開始時期を遅くする開始遅延制御、及び変速開始前トルクが小さくなるに従って駆動力源のトルクの低下速度を小さくする速度低下制御の双方を行うように構成されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、変速制御部43は、開始遅延制御及び速度低下制御の一方又は双方を実行するように構成されていればよく、例えば、開始遅延制御及び速度低下制御の一方が実行されるように構成されてもよい。或いは、変速制御部43は、変速開始前トルクの動作点に応じて、開始遅延制御及び速度低下制御の一方を実施したり、開始遅延制御及び速度低下制御の双方を実施したりするように、実施する制御を切り替えるように構成されてもよい。ここで、開始遅延制御又は速度低下制御を実施しないとは、変速開始前トルクが小さくなっても、トルクダウン制御の開始時期が遅くされず(例えば一定にされる)、又は駆動力源のトルクの低下速度が小さくされない(例えば一定にされる)ことを意味する。
【0156】
(7)上記の実施形態において、変速制御部43は、トルクダウン制御として、漸次ダウン制御及び急速ダウン制御を実行し、トルク相制御の実行時期に対する漸次ダウン制御の開始時期を、変速開始前トルクが小さくなるに従って遅くするように構成されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、変速制御部43は、漸次ダウン制御を実行せず、急速ダウン制御を実行するように構成され、トルク相制御の実行時期に対する急速ダウン制御の開始時期を、変速開始前トルクが小さくなるに従って遅くするように構成されてもよい。