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特許6278507燃料電池用高分子電解質、これを用いた燃料電池用触媒電極および燃料電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6278507
(24)【登録日】2018年1月26日
(45)【発行日】2018年2月14日
(54)【発明の名称】燃料電池用高分子電解質、これを用いた燃料電池用触媒電極および燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20180205BHJP
   H01M 8/1023 20160101ALI20180205BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20180205BHJP
   C08G 61/10 20060101ALI20180205BHJP
【FI】
   H01M4/86 B
   H01M8/1023
   H01M8/10 101
   C08G61/10
【請求項の数】4
【全頁数】38
(21)【出願番号】特願2013-235635(P2013-235635)
(22)【出願日】2013年11月14日
(65)【公開番号】特開2015-95424(P2015-95424A)
(43)【公開日】2015年5月18日
【審査請求日】2016年11月7日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第20回燃料電池シンポジウム予稿集(平成25年5月28日発行)第229−234頁に発表、第20回燃料電池シンポジウム(平成25年5月28、29日)でポスター発表、第62回高分子学会年次大会予稿集(平成25年5月14日発行)62巻1191頁に発表、第62回高分子学会年次大会(平成25年5月30日)で発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22〜26年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「固体高分子形燃料電池実用化推進技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】502350504
【氏名又は名称】学校法人上智学院
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】陸川 政弘
(72)【発明者】
【氏名】大島 龍也
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 康平
(72)【発明者】
【氏名】竹岡 裕子
【審査官】 前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−187826(JP,A)
【文献】 特開2009−191123(JP,A)
【文献】 特開2012−190657(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86
C08G 61/10
H01M 8/10
H01M 8/1023
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(2)または(3)に示す構造を有する、燃料電池用高分子電解質。
【化1】
(上記一般式(2)中、R31は、炭素数2以上6以下のアルキレン基であり、mは、10以上の正の数である。)
【化2】
(上記一般式(3)中、R32は、炭素数2以上6以下のアルキル基であり、mは、前記一般式(2)におけるmに同じである。)
【請求項2】
下記一般式(4)に示す構造を有する、燃料電池用高分子電解質。
【化3】
(上記一般式(4)中、R2は、独立して、炭素数2以上6以下のアルキル基またはアルコキシ基であり、R5は、−R51−C64−基または炭素数2以上6以下のアルキレン基であり、R51は、炭素数2以上6以下のアルキレン基であり、mは、10以上の正の数であり、nは、正の数であり、m個のユニット(A)およびn個のユニット(B)が共重合している。ただし、上記一般式(4)において、R5が炭素数4のアルキレン基であり、かつ、R2が炭素数4のアルコキシ基であるものを除く。))
【請求項3】
請求項1または2に記載の燃料電池用高分子電解質を含む、燃料電池用触媒電極。
【請求項4】
請求項3に記載の燃料電池用触媒電極を含む、燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用高分子電解質、これを用いた燃料電池用触媒電極および燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池(polymer electrolyte fuel cell:PEFC)に用いられる高分子電解質として、フッ素系アイオノマー材料が利用されている。しかし、フッ素系アイオノマー材料を用いた燃料電池においては、高温低加湿下における出力低下、価格、または、環境負荷の点で改善の余地があった。
【0003】
また、炭化水素系の高分子電解質(炭化水素系アイオノマー)に関する技術として、特許文献1および2に記載のものがある。
このうち、特許文献1(特開2006−312742号公報)には、固体ポリマー電解質として、主鎖中に芳香環を含むトリブロックコポリマーを用いることが記載されている。
また、特許文献2(特表2009−525360号公報)には、ホスホン酸基を含有するポリマーのブレンド膜を直接メタノール型燃料電池に用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−312742号公報
【特許文献2】特表2009−525360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、炭化水素系アイオノマーを用いようとした際には、燃料極における燃料ガス透過性が低い場合があった。また、炭化水素系アイオノマーが触媒金属に吸着する性質を有するために所望の特性が得られない場合があった。こうしたことから、炭化水素系アイオノマーを実用化するためにはなお改善の余地があった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、燃料電池の高分子電解質として好適な材料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、下記一般式(2)または(3)に示す構造を有する、燃料電池用高分子電解質が提供される。
(上記一般式(3)中、R32は、炭素数2以上6以下のアルキル基であり、mは、前記一般式(2)におけるmに同じである。)
また、本発明によれば、下記一般式(4)に示す構造を有する、燃料電池用高分子電解質が提供される。
(上記一般式(4)中、R2は、独立して、炭素数2以上6以下のアルキル基またはアルコキシ基であり、R5は、−R51−C64−基または炭素数2以上6以下のアルキレン基であり、R51は、炭素数2以上6以下のアルキレン基であり、mは、10以上の正の数であり、nは、正の数であり、m個のユニット(A)およびn個のユニット(B)が共重合している。ただし、上記一般式(4)において、R5が炭素数4のアルキレン基であり、かつ、R2が炭素数4のアルコキシ基であるものを除く。))
【0008】
また、本発明によれば、前記本発明における燃料電池用高分子電解質を含む、燃料電池用触媒電極が提供される。
また、本発明によれば、前記本発明における燃料電池用触媒電極を含む、燃料電池が提供される。
【0009】
なお、これらの各構成の任意の組み合わせや、本発明の表現を方法、装置などの間で変換したものもまた本発明の態様として有効である。
【0010】
たとえば、本発明によれば、前記本発明における燃料電池用高分子電解質の燃料電池への使用が提供される。
また、本発明によれば、前記本発明における燃料電池用高分子電解質を用いて燃料電池用触媒電極を形成する工程を含む燃料電池用触媒電極の製造方法、ならびに、前記燃料電池用触媒電極を用いて燃料電池を形成する工程を含む燃料電池の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、燃料電池の高分子電解質として好適な材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態における燃料電池の構成を示す断面図である。
図2】実施例における化合物の質量分析(Mass Spectrometry:MS)による測定結果を示す図である。
図3】実施例における化合物のMS測定結果を示す図である。
図4】実施例における化合物のMS測定結果を示す図である。
図5】実施例における化合物のMS測定結果を示す図である。
図6】実施例における化合物のMS測定結果を示す図である。
図7】実施例における化合物のMS測定結果を示す図である。
図8】実施例における化合物のMS測定結果を示す図である。
図9】実施例における化合物のMS測定結果を示す図である。
図10】実施例における高分子電解質の評価結果を示す図である。
図11】実施例における高分子電解質の評価結果を示す図である。
図12】実施例におけるMEAの評価結果を示す図である。
図13】実施例におけるMEAの評価結果を示す図である。
図14】実施例におけるMEAの評価結果を示す図である。
図15】実施例におけるMEAの評価結果を示す図である。
図16】実施例におけるMEAの評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には共通の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0014】
本実施形態における燃料電池用高分子電解質は、主鎖が芳香族炭化水素骨格を有するポリフェニレン系高分子であり、さらに具体的には、固体高分子電解質である。本実施形態における燃料電池用高分子電解質は、下記一般式(1)に示す構造を有する。
【0015】
【化2】
【0016】
(上記一般式(1)中、ユニット(A)において、R1は、独立して、水素原子、−C=OC6334基または−OR5SO3H基であり、mは10以上の正の数である。ただし、2つのR1がいずれも水素原子になることはない。ユニット(B)において、R2は、炭素数2以上6以下のアルキル基またはアルコキシ基であり、nは0または正の数である。
1が−C=OC6334基であるとき、R3は、−R31−SO3H基または−R32基である。R31は炭素数2以上6以下のアルキレン基であり、R32は、炭素数2以上6以下のアルキル基である。R4は、水素原子または−SO3H基である。ただし、R4が水素原子であるとき、R3は、−R31−SO3H基である。
1が−OR5SO3H基であるとき、R5は、−R51−C64−基または炭素数2以上6以下のアルキレン基であり、R51は、炭素数2以上6以下のアルキレン基であり、nは0でなく、m個のユニット(A)およびn個のユニット(B)がランダム共重合している。)
【0017】
上記一般式(1)に示した固体高分子電解質は、主鎖に芳香族炭化水素骨格を有するとともに、側鎖に極性基および疎水基を有する。
上記一般式(1)におけるユニット(A)は、側鎖に極性基を含むユニットである。極性基は、具体的には−SO3H基である。
また、上記一般式(1)において、疎水基は、特定のアルキル基、アルキレン基またはアルコキシ基を含む。疎水基は、たとえばユニット(A)中の極性基が含まれる側鎖において極性基の近傍に設けられる。また、疎水基がユニット(B)に設けられていてもよい。
【0018】
ユニット(A)において、R1は、独立して、水素原子、−C=OC6334基または−OR5SO3H基である。mは10以上の正の数である。2つのR1のうち少なくとも1つは水素原子ではない。
1つ以上のR1が−C=OC6334基であるとき、R3は、−R31−SO3H基または−R32基である。また、このとき、もう1つのR1は、たとえば水素原子である。
31は、ガス透過性の向上または水溶性の抑制の観点から、炭素数2以上、好ましくは3以上のアルキレン基である。また、高分子電解質の電導性の低下を抑制する観点から、R31は、炭素数6以下、好ましくは4以下のアルキレン基である。アルキレン基は、直鎖状等の鎖状および環状のいずれであってもよく、また、分岐鎖を有していてもよい。
32は、ガス透過性の向上または水溶性の抑制の観点から、炭素数2以上、好ましくは3以上のアルキル基である。また、高分子電解質の電導性の低下を抑制する観点から、R32は、炭素数6以下のアルキル基である。アルキル基は、直鎖状等の鎖状および環状のいずれであってもよく、また、分岐鎖を有していてもよい。
4は、水素原子または−SO3H基である。ただし、R4が水素原子であるとき、R3は、−R31−SO3H基である。
また、R4が−SO3H基であるとき、水溶性の抑制の観点から、R3が−R32基であることが好ましい。
【0019】
1が−C=OC6334基であるとき、高分子電解質がユニット(A)により構成されることが好ましい。つまり、ユニット(B)におけるnが0であってもよい。
【0020】
また、水溶性抑制、ガス透過性および電導性のバランスの観点から、本実施形態における高分子電解質は、極性基である−SO3H基に隣接して、または、−SO3H基が結合する炭素原子に隣接する炭素原子に特定のアルキル鎖が設けられていてもよい。たとえば、2つのR1のうち1つが水素原子であり、もう1つが−C=OC6334基であってもよく、さらに具体的には、上記一般式(2)または(3)に示す構造を有していてもよい。
【0021】
【化3】
【0022】
(上記一般式(2)中、R31およびmは、それぞれ、前記一般式(1)におけるR31およびmに同じである。)
【0023】
【化4】
【0024】
(上記一般式(3)中、R32およびmは、それぞれ、前記一般式(1)におけるR32およびmに同じである。)
【0025】
また、以上においては、R1が−C=OC6334基であり、高分子電解質がユニット(A)により構成される例を挙げたが、ユニット(B)における(B)が0でない、つまり、高分子電解質がユニット(A)および(B)の共重合体であってもよい。このとき、ユニット(A)および(B)の重合の形態に制限はなく、ランダム共重合体、ブロック共重合体のいずれの態様とすることもできる。
【0026】
ユニット(B)において、R2は、炭素数2以上6以下のアルキル基またはアルコキシ基である。アルキル基またはアルコキシ基は、直鎖状等の鎖状および環状のいずれであってもよく、また、分岐鎖を有していてもよい。
【0027】
次に、ユニット(A)中、R1が−OR5SO3H基である例を説明する。たとえば、2つのR1がいずれも−OR5SO3H基であるとき、上記一般式(1)は、以下の構造となる。
【0028】
【化5】
【0029】
(上記一般式(4)中、R2、R5、mおよびnは、それぞれ、前記一般式(1)におけるR2、R5、mおよびnに同じである。)
【0030】
上記一般式(4)は、疎水基が極性基を含むユニットに加えて、極性基を含むユニットとは別のユニットにも設けられた構造の例である。
5は、−R51−C64−基または炭素数2以上6以下のアルキレン基である。アルキレン基は、直鎖状等の鎖状および環状のいずれであってもよく、また、分岐鎖を有していてもよい。
5が−R51−C64−基であるとき、R51は、炭素数2以上のアルキレン基であり、ガス透過性の向上の観点から、炭素数2以上、好ましくは3以上のアルキレン基である。また、高分子電解質の電導性の低下を抑制する観点から、R51は、炭素数6以下、好ましくは4以下のアルキレン基である。アルキレン基は、直鎖状等の鎖状および環状のいずれであってもよく、また、分岐鎖を有していてもよい。
一般式(4)中、nは0でなく、m個のユニット(A)およびn個のユニット(B)がランダム共重合している。
また、mとnのユニット比は、高分子電解質のイオン交換容量(ion exchange capacity:IEC)に応じて決めることができ、たとえばIECが0.8meq g-1以上3.3meq g-1以下となるようなユニット比とすることができる。
【0031】
次に、本実施形態における高分子電解質の製造方法を説明する。
本実施形態における高分子電解質は、たとえば、
ユニット(A)またはユニット(B)に対応するジハロゲノフェニルベンゼン系のモノマーを所定の方法で準備する工程(工程1)と、
工程1で準備したモノマーまたはその変換体に触媒を作用させて重合することにより、重合体を得る工程(工程2)と、
工程2の後、重合体中のスルホン基を脱保護して上記一般式(1)に示した高分子電解質を得る工程(工程3)と、を含む。
以下、各工程を説明する。
【0032】
工程1においては、製造する高分子電解質の構造に応じてジハロゲノフェニルベンゼン系のモノマーを準備する。ユニット(A)および(B)に対応するモノマーの例をそれぞれ下記一般式(11)および(12)に示す。
【0033】
【化6】
【0034】
(上記一般式(11)中、R1'は、一般式(1)におけるR1において、スルホン酸基が保護されている基であり、X1はハロゲンである。)
【0035】
【化7】
【0036】
(上記一般式(12)中、R2は、一般式(1)におけるR2であり、X2はハロゲンである。)
【0037】
上記一般式(11)において、スルホン酸基の保護基としては、たとえば、炭素数2以上10以下の炭化水素基等が挙げられる。炭化水素基は、脂肪族炭化水素基および芳香族炭化水素基のいずれでもよく、脂肪族炭化水素基として、直鎖状または分岐鎖を有する鎖状アルキル基、環状アルキル基が挙げられる。
スルホン酸基の保護基として、さらに具体的には、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基等のブチル基;n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基等のペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基等のヘキシル基;シクロヘキシル基、ジメチルフェニル基等が挙げられる。
【0038】
また、上記一般式(11)および(12)において、ハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等が挙げられる。
【0039】
工程2では、モノマーまたはその変換体に触媒を作用させて重合することにより、重合体を得る。重合方法としては、触媒移動型縮合重合法、および、Ni(0)(ゼロ価ニッケル)カップリング重合法などが挙げられる。
【0040】
以下、触媒移動型縮合重合法を例に説明する。重合条件は、モノマー、触媒、グリニャール試薬の種類等に応じて決めることができ、具体的な条件については、実施例の項で後述する。
【0041】
触媒として、たとえばニッケル、パラジウム、コバルト等の遷移金属のハロゲン錯体が用いられる。具体的には、[1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]ジクロロニッケル(II)、[1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン]ニッケル(II)ジクロリド、ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(II)ジクロリド等のニッケル触媒が挙げられる。
【0042】
また、触媒とともにイソプロピルマグネシウムクロリド等のグリニャール試薬等を用いることもできる。
【0043】
また、重合溶媒の具体例としては、モノマーの溶解性の観点から、たとえば、N−メチルピロリドン(NMP)、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の非プロトン性極性溶媒が挙げられる。
【0044】
工程3では、得られたポリマーにおけるスルホン酸の保護基を、保護基の種類に応じて所定の方法で脱保護する。
以上の手順により、本実施形態における高分子電解質が得られる。
【0045】
本実施形態において、高分子電解質の分子量に制限はないが、重量平均分子量Mwをたとえば5×103以上、好ましくは、3×104以上とする。分子量の測定方法については、実施例の項で後述する。
また、高分子電解質のIECは、たとえば0.5meq g-1以上4meq g-1以下、好ましくは0.8meq g-1以上3.3meq g-1以下とする。
【0046】
得られた高分子電解質は、たとえばフッ素系アイオノマーの代替となる安価で低環境負荷な炭化水素系アイオノマーとしてなど、燃料電池用の高分子電解質として好適に用いられる。
また、本実施形態における燃料電池は、本実施形態における高分子電解質を含む。
【0047】
図1は、本実施形態における燃料電池の構成を模式的に示す断面図である。
図1に示した燃料電池100は、燃料極(アノード)105、固体電解質膜107および酸化剤極(空気極、カソード)113から構成される膜−電解質接合体(Membrane Electrode Assembly:MEA)115を有する。
燃料極105は、拡散層101および触媒層103から構成される。また、酸化剤極113は、拡散層111および触媒層109から構成される。燃料極105の拡散層101、および、酸化剤極113の拡散層111の外側には、それぞれ、セパレータ117およびセパレータ119が配設され、これらのセパレータが膜−電解質接合体115を挟持する。
【0048】
本実施形態における高分子電解質は、たとえば触媒電極のアイオノマーとして好適に用いられる。また、本実施形態における燃料電池用触媒電極は、本実施形態における高分子電解質を含む。
本実施形態における高分子電解質は、さらに具体的には、燃料極105の触媒層103または酸化剤極113の触媒層109のアイオノマーに好適に用いられる。中でも、酸化剤極113の触媒層109に本実施形態における高分子電解質を用いることにより、酸化剤極113におけるガス(たとえば酸素、水素)拡散性を向上させることができるため、好ましい。
【0049】
燃料電池100において、各極の拡散層、触媒および固体電解質膜107としては、たとえば以下の材料が用いられる。
拡散層101および拡散層111としては、多孔質材料等が用いられ、カーボンペーパー、カーボン不織布等の炭素材料が挙げられる。
燃料極105の触媒層103および酸化剤極113の触媒層109には、たとえば触媒金属を担持した炭素粒子が用いられる。
各極の触媒の種類は同じであってもよいし異なっていてもよい。触媒金属の種類として、白金、金、銀、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウムといった貴金属等が挙げられる。
また、固体電解質膜107の材料としては、たとえば、ナフィオン(登録商標、以下同じ。)、フレミオン(登録商標)、アシプレックス(登録商標)、Dow Membrane等のパーフルオロスルホン酸ポリマーが挙げられる。また、本実施形態における高分子電解質により固体電解質膜107を構成することもできる。
【0050】
また、燃料電池100は、たとえば以下の方法で製造される。
含浸法等の所定の方法により炭素粒子に触媒を担持させて各極の触媒(触媒担持体)を得る。得られた触媒と高分子電解質とを溶媒に分散させて、各極の拡散層に塗布し、燃料極105および酸化剤極113を得る。このとき、高分子電解質に本実施形態における高分子電解質を用いることができる。
そして、燃料極105、固体電解質膜107および酸化剤極113をこの順に配置して熱圧着等により接合し、膜−電解質接合体115を得る。
その後、膜−電解質接合体115の両側に各極のセパレータが配置され、図1に示した燃料電池100が得られる。
【0051】
燃料電池100の用途に制限はなく、たとえば車載用、家庭(コージェネレーション等)用が挙げられる。
また、燃料電池100に供給される燃料および酸化剤の種類に制限はなく、燃料としてたとえば水素等の気体燃料;メタノール等の液体燃料を用いることができる。また、酸化剤は、たとえば空気(酸素)とすることができる。
【0052】
次に、本実施形態の作用効果を説明する。
本実施形態における高分子電解質は、柔軟なアルキル鎖が側鎖構造の特定の位置に導入されているため、燃料電池に用いたときの電池特性に優れており、燃料電池用の固体電解質として好適に用いられる。また、本実施形態により、たとえばガス透過性に優れる高分子電解質が得られるため、燃料電池の触媒電極、さらに具体的には酸化剤極のアイオノマーとして用いることもできる。
また、本実施形態によれば、たとえば、とくに低加湿条件下における出力特性を向上させることもできるため、フッ素系アイオノマーにかわる優れた材料として用いることもできる。PEFCの低加湿運転が可能になれば、高出力、低コスト化につながるため、次世代型燃料電池の開発の加速につながる材料として期待される。
【0053】
以上、本発明の実施形態について述べたが、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良などは本発明に含まれるものである。
以下、参考形態の例を付記する。
1. 下記一般式(1)に示す構造を有する、燃料電池用高分子電解質。
(上記一般式(1)中、ユニット(A)において、R1は、独立して、水素原子、−C=OC6334基または−OR5SO3H基であり、mは10以上の正の数である。ただし、2つのR1のうち少なくとも1つは水素原子ではない。ユニット(B)において、R2は、独立して、炭素数2以上6以下のアルキル基またはアルコキシ基であり、nは0または正の数である。
1が−C=OC6334基であるとき、R3は、−R31−SO3H基または−R32基である。R31は炭素数2以上6以下のアルキレン基であり、R32は、炭素数2以上6以下のアルキル基である。R4は、水素原子または−SO3H基である。ただし、R4が水素原子であるとき、R3は、−R31−SO3H基である。
1が−OR5SO3H基であるとき、R5は、−R51−C64−基または炭素数2以上6以下のアルキレン基であり、R51は、炭素数2以上6以下のアルキレン基であり、nは0でなく、m個のユニット(A)およびn個のユニット(B)がランダム共重合している。)
2. 1.に記載の燃料電池用高分子電解質において、下記一般式(2)または(3)に示す構造を有する、燃料電池用高分子電解質。
(上記一般式(2)中、R31およびmは、それぞれ、前記一般式(1)におけるR31およびmに同じである。)
(上記一般式(3)中、R32およびmは、それぞれ、前記一般式(1)におけるR32およびmに同じである。)
3. 1.に記載の燃料電池用高分子電解質において、下記一般式(4)に示す構造を有する、燃料電池用高分子電解質。
(上記一般式(4)中、R2、R5、mおよびnは、それぞれ、前記一般式(1)におけるR2、R5、mおよびnに同じである。)
4. 1.乃至3.いずれか一つに記載の燃料電池用高分子電解質を含む、燃料電池用触媒電極。
5. 4.に記載の燃料電池用触媒電極を含む、燃料電池。
【実施例】
【0054】
以下の例において、モノマー化合物またはその前駆体の同定は、核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance:NMR)法、質量分析(Mass Spectrometry:MS)、元素分析または赤外分光法(Infrared Spectroscopy:IR)によりおこなった。
【0055】
また、以下の例において、ポリマーの分子量は、以下の装置および条件にておこなった。
装置:島津製作所社製Class-Vp system
カラム:Shodex KD-804、Shodex KD-805(以上、昭和電工社製)
溶媒:THF
標準:ポリスチレン標準物質
検出:屈折率計
【0056】
(実施例1)
本実施例では、スキーム1および2の手順に従い、以下に示すポリマー:Poly(2-(4-ethyl-3-sulfobenzoyl)-1,4-phenylene)(S-PEtBP)を合成した。
【0057】
【化8】
【0058】
(2,5-Dichlorophenyl)(4-ethyl-3-(neopentylsulfonyl)phenyl)methanone(NS-EtDBP)の合成
まず、スキーム1に従い、モノマーであるNS-EtDBPを合成した。
【0059】
【化9】
【0060】
ジクロロベンゼンクロライド(DCBC)の合成
500mlの三口丸底フラスコに、2,5-ジクロロ安息香酸(DCBA)50.4g(0.264mol)と1,2-ジクロロエタン200mlを入れ、ジムロート冷却管、窒素導入管、及び滴下漏斗を取り付けた。さらに冷却管にアルカリトラップと塩化カルシウム管を取り付けて、系内を窒素で置換した。溶液を攪拌しながら、オイルバス中で85℃に加熱した。フラスコ内の固体が完全に溶解した後、塩化チオニル29.0mlを滴下漏斗より徐々に滴下した。滴下終了後、2時間加熱還流を続けた。エバポレーターを用いて溶液中の1,2-ジクロロエタンを留去した。黄褐色の残渣を、減圧蒸留により精製し、淡黄色透明液体のDCBCを得た(14mmHg、110℃、収量47.7g、収率86%)。
【0061】
(2,5-Dichlorophenyl)(4-ethylphenyl)methanone(EtDBP)の合成
表1に示す仕込み組成にて、以下の手順でEtDBPを合成した。
三口丸底フラスコに還流冷却管、塩化カルシウム管、窒素導入管、およびアルカリトラップを取り付け、DCBC、エチルベンゼンを入れた。窒素雰囲気下、塩化アルミニウムを数回に分けて加え、オイルバスで75℃に加熱し3時間攪拌した。得られた褐色の粘性液体を氷水に展開し、その後ジクロロメタン100mLを加え、室温でしばらく撹拌した。白濁した上層(水層)と黄色透明の下層(有機層)に分離し、残った水層を1,2-ジクロロメタンで抽出した。これを3回繰り返した後、先に回収した有機層と合わせた。得られた有機層を10質量%塩酸、炭酸水素ナトリウム水溶液および精製水の順で三回ずつ洗浄し、硫酸マグネシウム上で乾燥させた。ジクロロメタンをエパポレーターにより留去し、エチルベンゼンを真空エバポレーターにより留去し、黄色透明固体の粗生成物を得た。メタノールで二回再結晶を行った。その後、吸引ろ過(メンブランフィルター、親水、ポアサイズ1.0μm)により回収し、45℃で24時間減圧乾燥することにより、白色結晶を得た。生成物の収量および収率を表1にあわせて示した。また、生成物のMSによる同定結果を図2に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
5-(2,5-Dichlorobenzoyl)-2-ethylbenzene-1-sulfonyl chloride(SC-EtDBP)の合成
表2に示す仕込み組成にて、以下の手順でSC-EtDBPを合成した。
200ml三口フラスコに滴下漏斗、還流冷却管、窒素導入管、塩化カルシウム管、およびアルカリトラップを取り付け、EtDBPを入れた。そこに滴下漏斗からクロロスルホン酸を滴下し、窒素雰囲気下、オイルバス中で、80℃にて3時間攪拌した。
得られた赤褐色溶液を100mlの精製中に展開し、その後ジクロロメタン100mlを加え、室温でしばらく撹拌した。白濁した上層(水層)と肌色の下層(有機層)に分離し、残った水層を1,2-ジクロロメタンで抽出した。これら操作を3回繰り返した後、先に回収した有機層と合わせた。得られた有機層を5%水酸化ナトリウム水、精製水の順で洗浄した。エバポレーターによりジクロロメタンを留去し、40℃で24時間減圧乾燥することで、SC-EtDBPを得た。生成物の収量および収率を表2にあわせて示した。
【0064】
【表2】
【0065】
(2,5-Dichlorophenyl)(4-ethyl-3-(neopentylsulfonyl)phenyl)methanone(NS-EtDBP)の合成
200 ml三口フラスコに滴下漏斗、塩化カルシウム管、および窒素導入管を取り付け、クロロホルムに溶解させたSC-EtDBP(5.79g、15.3mmol)を入れた。窒素雰囲気下で、この溶液にピリジン、次いで2,2-ジメチル-1-プロパノール(2.03g、23.0mmol)のクロロホルム溶液を加え、室温(25℃、以下同じ。)にて20時間撹拌した。得られた褐色の粘性液体を硫酸アンモニウム水溶液で洗浄した後、精製水で洗浄し、クロロホルムをエバポレーターにより留去した。得られた淡黄色透明粘性液体を精製エタノールで2回再結晶し、60℃で24時間減圧乾燥することで、白色針状結晶のNS-EtDBP(3.12g、7.27mmol)を得た(収率48%)。また、生成物のMSによる同定結果を図3に示す。
【0066】
以上により得られたNS-EtDBPをモノマーとして、スキーム2に示す手順で重合をおこない、S-PEtBPを得た。
【0067】
【化10】
【0068】
Poly(2-(4-ethyl-3-(neopentylsulfonyl)benzoyl)-1,4-phenylene(NS-PEtBP)の合成
表3に示す仕込み組成にて以下の手順で重合反応をおこない、NS-PEtBPを得た。
アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、50 ml三口フラスコにNaI、PPh3、Zn、NMPおよびニッケルビス(トリフェニルホスフィン)ジクロリドNi(PPh3)2Cl2を入れ、触媒を調製した。また、NS-EtDBPをNMPに溶解し、滴下漏斗に入れ、三口フラスコに取り付けた。グローブボックスから取り出し、アルゴン雰囲気下、40℃にてスリーインワンモーターで攪拌した。触媒溶液が深紅色に変化後、15分経過したところでオイルバスを65℃に上げると同時に滴下漏斗よりモノマー溶液を加え、24時間高速撹拌した。
反応終了後、得られた暗赤色固体をメタノール300ml(含HCl30ml)中で24時間攪拌し、固体を吸引ろ過(メンブランフィルター、疎水、ポアサイズ3.0μm)し、50℃で24時間減圧乾燥した。得られた固体をクロロホルム(5質量%)に溶解し、吸引ろ過(桐山ろ紙5A)後、約10倍量のメタノールに再沈澱した。沈殿を回収後、50℃で減圧乾燥させた。引き続き50℃で24時間減圧乾燥することで白色固体のNS-PEtBPを得た。生成物の収量および収率を表3にあわせて示した。
【0069】
【表3】
【0070】
Poly(2-(4-ethyl-3-sulfobenzolyl)-1,4-phenylene)(S-PEtBP)の合成
表4に示す仕込み組成にて以下の手順で脱保護をおこない、S-PEtBPを得た。
100mlの三口フラスコに還流冷却管、塩化カルシウム管、滴下漏斗を取り付け、NS-PEtBPと精製したNMPを入れ、窒素雰囲気下、80℃で攪拌した。固体が完全に溶解した後、滴下漏斗からジエチルアミン臭化水素酸のNMP溶液を滴下し、反応溶液を120℃に上昇させ24時間攪拌した。反応終了後、得られた茶褐色粘性溶液をメタノール300ml(含HCl 30ml)中で24時間攪拌した。得られた白色固体を吸引ろ過(メンブランフィルター、親水、ポアサイズ1.0μm)し、1 mol dm-3 HCl水溶液中で24時間攪拌した。
【0071】
攪拌後の液を精製水中に投与し、pH試験紙でろ液がほぼ中性になるまで攪拌し、吸引ろ過(メンブランフィルター、親水、ポアサイズ1.0μm)後、80℃で24時間減圧乾燥した。得られた茶色固体をNMP (10質量%)に溶解し、吸引ろ過(桐山ろ紙5A)後、約10倍量のジエチルエーテルに再沈澱した。沈殿物を吸引ろ過(メンブランフィルター、疎水、ポアサイズ3.0μm)し、80℃で24時間減圧乾燥することで、茶色固体のS-PEtBPを得た。生成物の収量および収率を表4にあわせて示した。
また、得られたポリマーの分子量はMn=57,400、Mw=155,000であった。
【0072】
【表4】
【0073】
(実施例2)
本実施例では、スキーム3および4の手順に従い、以下に示すポリマー:Poly(2-(4-butyl-3-sulfobenzoyl)-1,4-phenylene)(S-PBuBP)の合成をおこなった。
【0074】
【化11】
【0075】
(4-Butyl-3-(neopentylsulfonyl)phenyl)(2,5-dichlorophenyl)methanone(NS-BuDBP)の合成)
まず、スキーム3に従い、モノマーであるNS-BuDBPを合成した。
【0076】
【化12】
【0077】
(4-Butylphenyl)(2,5-dichlorophenyl)methanone(BuDBP)の合成
300mlの三口丸底フラスコに還流冷却管、塩化カルシウム管、窒素導入管、およびアルカリトラップを取り付け、実施例1に記載の方法で合成したDCBC(48.8g、233mmol)、n-ブチルベンゼン(32.2g、240mmol)を入れた。窒素雰囲気下、塩化アルミニウム(40.1g、301mmol)を数回に分けて加え、オイルバスで75℃に加熱し3時間攪拌した。得られた褐色の粘性液体を氷水に展開し、その後クロロホルムを加え、室温でしばらく撹拌した。白濁した上層(水層)と黄色透明の下層(有機層)に分離し、残った水層を100mlのクロロホルムで抽出した。これを3回繰り返した後、先に回収した有機層と合わせた。得られた有機層を10質量%塩酸、炭酸水素ナトリウム水溶液、および精製水の順で三回ずつ洗浄し、塩化カルシウムで24時間乾燥させた。クロロホルムをエバポレーターにより留去し、ブチルベンゼンを真空エバポレーターにより留去した。得られた黄色固を体精製メタノールで2回再結晶し、40℃で24時間減圧乾燥することで、白色固体のBuDBP(38.2g、124mmol)を得た(収率53%)。また、生成物のMSによる同定結果を図4に示す。
【0078】
2-Butyl-5-(2,5-dichlorobenzoyl)benzene-1-sulfonyl chloride(SC-BuDBP)の合成
表5に示す仕込み組成にて、以下の手順でSC-BuDBPを合成した。
100ml三口フラスコに滴下漏斗、還流冷却管、窒素導入管、塩化カルシウム管、およびアルカリトラップを取り付け、BuDBPを入れた。そこに滴下漏斗からクロロスルホン酸を滴下し、窒素雰囲気下、オイルバスで攪拌した。反応終了後、得られた黄褐色の粘性液体を100mlの氷水中に展開し、氷浴上で攪拌した。
得られた白色沈殿物と水槽を分離し、水層をジクロロエタンで3回抽出した。得られた有機層と白色沈殿物を合わせ、炭酸水素ナトリウム水溶液、精製水の順で洗浄した後、エバポレーターによりジクロロエタンを留去した。得られた白色固体を吸引ろ過(メンブランフィルター、疎水、ポアサイズ1.0μm)後、ろ紙上の結晶を冷却したn-ヘキサンで洗浄した。これを40℃で24時間減圧乾燥することで、SC-BuDBPを得た。生成物の収量および収率を表5にあわせて示した。
【0079】
【表5】
【0080】
(4-Butyl-3-(neopentylsulfonyl)phenyl)(2,5-dichlorophenyl)methanone(NS-BuDBP)の合成
表6に示す仕込み組成にて、以下の手順でNS-BuDBPを合成した。
200ml三口フラスコに滴下漏斗、塩化カルシウム管、および窒素導入管を取り付け、クロロホルムに溶解させたSC-BuDBPを入れた。窒素雰囲気下で、この溶液にピリジン、次いで2,2-ジメチル-1-プロパノールのクロロホルム溶液を加え、室温にて20時間撹拌した。得られた褐色の粘性液体を硫酸アンモニウム水溶液、次いで精製水で洗浄し、クロロホルムをエバポレーターにより留去した。得られた白色固体を精製メタノールで2回再結晶し、45℃で24時間減圧乾燥することで、針状結晶のNS-BuDBPを得た。生成物の収量および収率を表6にあわせて示した。また、生成物のMSによる同定結果を図5に示す。
【0081】
【表6】
【0082】
以上により得られたNS-BuDBPをモノマーとして、スキーム4に示す手順で重合をおこない、S-PBuBPを得た。
【0083】
【化13】
【0084】
Poly(2-(4-butyl-3-(neopentylsulfonyl)benzoyl)-1,4-phenylene(NS-PBuBP)の合成
アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、100ml三口フラスコにNaI 0.037g(0.25mmol)、PPh3 0.209g(0.798mmol)、Zn 0.193g(2.96mmol)、およびNi(PPh3)2Cl2 0.039g(0.060mmol)を入れ、触媒を調整した。また、NS-BuDBP 0.913g(1.99mmol)をNMP 1mlに溶解し、滴下漏斗に入れ、三口フラスコに取り付けた。NMP 2mlを触媒に加えた後、グローブボックスから取り出し、アルゴン雰囲気下、40℃にてスリーインワンモーターで攪拌した。触媒溶液が深紅色に変化後、15分経過したところでオイルバスを65℃に上げると同時に滴下漏斗よりモノマー溶液を加え、24時間高速撹拌した。
反応終了後、得られた暗赤色固体をメタノール300ml(含HCl30ml)中で24時間攪拌し、固体を吸引ろ過(メンブランフィルター、疎水、ポアサイズ3.0μm)し、50℃で24時間減圧乾燥した。得られた固体をクロロホルム(5質量%)に溶解し、吸引ろ過(桐山ろ紙 5A)後、約10倍量のメタノールに再沈澱した。沈殿を回収後、50℃で減圧乾燥させた。再沈殿および減圧乾燥について同様な操作を行い、50℃で24時間減圧乾燥することで白色固体のNS-PBuBPを得た(収量0.342g、収率92%)。
【0085】
Poly(2-(4-butyl-3-sulfobenzoyl)-1,4-phenylene)(S-PBuBP)の合成
100mlの三口フラスコに還流冷却管、塩化カルシウム管、滴下漏斗を取り付け、NS-PBuBP 1.40gと精製したNMP 7mlを入れ、窒素雰囲気下、80℃で攪拌した。固体が完全に溶解した後、滴下漏斗からジエチルアミン臭化水素酸のNMP溶液を滴下し、反応溶液を120℃に上昇させ24時間攪拌した。反応終了後、得られた茶褐色粘性溶液をメタノール300ml(含HCl30ml)中で24時間攪拌した。得られた白色固体を吸引ろ過(メンブランフィルター、親水、ポアサイズ1.0μm)し、1 mol dm-3 HCl水溶液中で、室温にて24時間攪拌した。
攪拌後の液を精製水中に投与し、pH試験紙でろ液がほぼ中性になるまで攪拌し、吸引ろ過(メンブランフィルター、親水、ポアサイズ1.0μm)後、80℃で24時間減圧乾燥した。得られた茶色固体をNMP(10質量%)に溶解し、吸引ろ過(桐山ろ紙 5A)後、約10倍量のジエチルエーテルに再沈澱した。沈殿物を吸引ろ過(メンブランフィルター、疎水、ポアサイズ3.0μm)し、80℃で24時間減圧乾燥することで、茶色固体のS-PBuBPを得た(収量0.75g、収率54%)。
また、得られたポリマーの分子量はMn=42,400、Mw=121,000であった。
【0086】
(実施例3)
本実施例では、以下の手順により、以下に示すポリマー:Poly(2-(4-(3-sulfopropyl)benzoyl-1,4-phenylene)(S-PrPBP)を合成した。
【0087】
【化14】
【0088】
(4-(3-Bromopropyl)phenyl)(2,5-dichlorophenyl)methanone(BDCM)の合成
スキーム5に示す手順でBDCMを合成した。
【0089】
【化15】
【0090】
窒素雰囲気下、三口フラスコに、ジムロート冷却管、塩化カルシウム管、及びアルカリトラップを取り付けた。三口フラスコの側管に、窒素導入管、滴下漏斗を取り付け、実施例1に記載の方法で合成したDCBC 47.7g(0.227mol)、ジクロロメタン170mlを入れ、塩化アルミニウム35.0g(0.263mol)を加えて、氷水中で10分間攪拌した。滴下漏斗より(3-bromopropyl)benzene(3-PPB)45.2 g(0.227mol)をゆっくりと滴下し、4時間攪拌した。溶液は茶褐色溶液となった。反応溶液を、体積分率で塩酸10%を含む氷水中に展開し、1時間攪拌した。溶液は白黄色の不透明溶液となった。反応溶液を含む氷水を分液漏斗に入れ、下層の桃色有機層を抽出し、10 %水酸化ナトリウム水溶液で1回、水で4回繰り返し洗浄し、抽出した有機層を無水硫酸マグネシウムを加えて24時間乾燥させた。溶液は橙色となった。その後エバポレーターで、ジクロロメタンを留去し、得られた固体を再結晶により2回精製し、白色透明固体のBDCMを得た(収量36.7g、収率43%)。また、生成物のMSによる同定結果を図6に示す。
【0091】
Sodium 3-(4-(2,5-dichlorobenzoyl)phenyl)propane-1-sulfonate(DPS-Na)の合成
スキーム6に示す手順でDPS-Naを合成した。
【0092】
【化16】
【0093】
500ml三口フラスコに、BDCM 18.9g(50.8 mmol)、エタノール180ml、水75mlを加え入れた。フラスコにスターラーチップを入れ、その上に窒素導入管を付けたジムロート冷却管を付け、攪拌しながらオイルバスで加熱した。そこに亜硫酸ナトリウム18.9g(150mmol)を加え入れ、系内を窒素雰囲気下で、48時間、100℃で加熱還流を続けた。溶液は次第に白く懸濁した。反応溶液からエバポレーターにより水とエタノールを留去した。得られた白色固体をフラスコに移し、熱水を加えてオイルバスで加熱し、白色固体を完全に溶解させた。その後桐山ろ紙(5A)を用いて熱ろ過を行い、冷却させ、白色固体を得た。得られた白色固体を、メンブランフィルター(親水、ポアサイズ1.0μm)でろ過後、水で洗浄し、白色板状固体を得た。その後メタノール・アセトンを用いて再結晶した(収量12.8g、収率72%)。また、生成物のMSによる同定結果を図7に示す。
【0094】
3-(4-(2,5-Dichlorobenzoyl)phenyl)propane-1-sulfonyl chloride(SC-PrDBP)の合成
スキーム7に示す手順でSC-PrDBPを合成した。
【0095】
【化17】
【0096】
100ml三口フラスコに、スターラーチップを入れ、側管に窒素導入管と滴下漏斗、上側に塩化カルシウム管とアルカリトラップを付けたジムロート冷却管を付け、窒素雰囲気下、DPS-Na 9.03g(22.9mmol)とDMF 15mlを加えた。氷浴で冷却してから、塩化チオニル9.01g(75.5mmol)を滴下漏斗から加え入れ、室温で3時間撹拌を続けた。溶液は次第に黄色く懸濁した。反応溶液をジクロロメタン150mlと水100mlの混合溶媒に展開し、有機層を抽出後、炭酸水素ナトリウム水溶液、水で洗浄した後、エバポレーターにより溶媒を留去した。残渣の透明淡黄色液体を真空乾燥することにより、白色板状固体を得た(収量:8.48g、収率:94%)。また、生成物のMSによる同定結果を図8に示す。
【0097】
(2,5-Dichlorophenyl)(4-(3-(neopentylsulfonyl)propyl)phenyl)methanone(NS-PrDBP)の合成
スキーム8に示す手順でNS-PrDBPを合成した。
【0098】
【化18】
【0099】
100ml三口フラスコに、スターラーチップを入れ、側管に窒素導入管と滴下漏斗、上側に塩化カルシウム管を付け、窒素雰囲気下で、SC-PrDBP 8.48g(21.6mmol)を入れ、ピリジン3.41g(43.1mmol)、ジクロロメタン15mlを加えた。そこにネオペンチルアルコール1.90g(21.6 mmol)をジクロロメタン10mlに溶解させ滴下漏斗から加え入れ、室温下で20時間撹拌を続けた。溶液は次第に透明粘性液体となった。反応溶液をクロロホルムに展開し、有機層を抽出後、塩酸水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液、水で洗浄した後、エバポレーターにより溶媒を留去した。得られた固体を、メンブランフィルター(疎水、ポアサイズ1.0μm)でろ過後、ヘキサンで洗浄し、40℃で減圧乾燥を行うことで、白色板状固体を得た。その後、2-プロパノール/ヘキサンを用いて再結晶を三回行い、透明針状結晶のNS-PrDBPを得た(収量:5.40g、収率:56%)。また、生成物のMSによる同定結果を図9に示す。
【0100】
Poly(2-(4-(3-neopentylsulfonyl)propyl)benzoyl-1,4-phenylene)(NS-PrPBP)の合成
以上により得られたNS-PrDBPを用いて重合をおこない、スキーム9に示す手順でNS-PrPBPを合成した。
【0101】
【化19】
【0102】
アルゴン雰囲気のグローブボックス内で、100ml三口フラスコに、ニッケルビス(トリフェニルホスフィン)ジクロリドとトリフェニルホスフィン、活性化させた亜鉛粉末とヨウ化ナトリウムを表7に示した分量で入れ、NMPを加え、触媒溶液を調製した。
次に、NS-PrDBPのNMP溶液を50mlサンプル瓶内で調製して、フラスコの側管に取り付けた滴下漏斗内に加えた。
上部に、テフロン(登録商標)フィンを付けた撹拌棒を挿入したバキュームシーラーを取り付けた後、グローブボックスから取り出し、アルゴン雰囲気下、40℃で15分間、スリーインワンモーターを用いて撹拌した。触媒溶液の色は次第に赤褐色に変化し、その後NS-PrDBPのNMP溶液を滴下漏斗から素早く滴下して、65℃で24時間撹拌した。
反応終了後、得られた暗黒色粘性体をメタノール・塩酸溶液中に加え、24時間撹拌して触媒を取り除いた。沈殿物をメンブランフィルター(疎水、ポアサイズ1.0μm)でろ過し、50℃で減圧乾燥して、淡黄色固体の粗NS-PrPBPを得た。さらに良溶媒のクロロホルムに溶解して貧溶媒であるメタノールに再沈殿し、沈殿物をろ過し、減圧乾燥した。この操作を2度繰り返し、白色綿状固体のNS-PrPBPを得た。
仕込み量、収量・収率は表7に示した通りである。
【0103】
【表7】
【0104】
Poly(2-(4-(3-sulfopropyl)benzoyl-1,4-phenylene)(S-PrPBP)の合成
スキーム10に示す手順でS-PrDBPを合成した。
【0105】
【化20】
【0106】
300ml三口フラスコにNS-PrPBPを量り入れ、側管にそれぞれ窒素導入管とジムロート冷却管を接続し、そこにNMPを加え入れ窒素雰囲気にした後、バキュームシーラーを取り付け、スリーインワンモーターを用い300rpmで撹拌しながら、80℃で加熱して固体を完全に溶解させた。そこに、ジエチルアミン臭化水素酸塩をNMPに溶解させ、パスツールで加え入れ、120℃で24時間加熱撹拌した。溶液は次第に茶褐色となった。その後、反応溶液を、撹拌中の10%塩酸を含むメタノール溶液にゆっくり滴下し、室温にて24時間撹拌を続けた。沈殿物をメンブランフィルター(疎水、ポアサイズ1.0μm)で回収し、50℃で減圧乾燥することで、赤褐色固体の粗精製S-PrPBPを得た。さらに粗精製固体をNMPに加熱溶解させて、THFに再沈殿させることにより精製した。得られた沈殿物をメンブランフィルター(疎水、ポアサイズ3.0μm)で回収し、S-PrPBPを得た。
仕込み量、収量・収率は表8に示した通りである。なお、表8において、収率は、脱保護が100%行われているとして、ポリマー重量から算出した。
また、得られたポリマーの分子量はMn=65,000、Mw=213,000であった。
【0107】
【表8】
【0108】
(実施例4)
本実施例においては、以下の手順でランダムコポリマーH-r-SPr(本明細書中、「SPr-r-H」ともいう。)の合成をおこなった。
【0109】
GrignardモノマーM1およびM3の調製
GrignardモノマーM1およびM3の調製手順をスキーム11に示す。また、仕込み組成を表9に示す。
【0110】
【化21】
【0111】
グローブボックス内でアルゴン雰囲気下にしたサンボトル中で、1,4-dibromo-2,5-dihexyloxybenzene(DBHB)および1,4-di[4-(2,2-dimetylpropoxysulfonyl)phenyl]propoxylbenzene(NS-DBPrB)をそれぞれTHFに溶解し、isopropylmagnesium chloride lithiumchloride complexのTHF溶液を加え、40℃で5時間反応させることで0.455Mのモノマー溶液を調製した。
【0112】
【表9】
【0113】
得られた各モノマー溶液を用いて、スキーム12に示す手順および表10に示す条件で重合反応をおこなった。
【0114】
【化22】
【0115】
アルゴン雰囲気下にしたフラスコ中で、Ni(dppe)Cl2をTHFに溶解し、触媒溶液を調製した。室温で触媒溶液に、調製したM1とM3モノマー溶液の混合溶液を添加し、30時間撹拌した。撹拌後、HCl aq./methanol混合溶液(1:5、v/v)に展開し撹拌した。沈殿物を吸引ろ過し、60℃で24時間減圧乾燥した。得られた固体をchloroformに溶解し、methanol/acetone溶液(1:1、v/v)への再沈澱により精製を行った。
【0116】
【表10】
【0117】
ランダムコポリマーH-r-SPrの合成
スキーム13に示す手順および表11に示す条件で脱保護反応をおこなった。
【0118】
【化23】
【0119】
還流冷却管をつけた三口フラスコにポリマーとNMPを入れ、窒素雰囲気下、80℃で攪拌した。固体が完全に溶解した後、反応溶液を120℃に上昇させdiethylaminehydrobromideのNMP溶液を滴下し48時間攪拌した。茶褐色粘性溶液をジエチルエーテル中に展開し、吸引ろ過により回収した。得られた赤褐色固体を1M HCl aq.中で48時間、次に精製水中で24時間攪拌し、吸引ろ過で回収した後、60℃で24時間減圧乾燥した。
得られたポリマーにおいて、m=134、n=314であった。
【0120】
【表11】
【0121】
(実施例5)
本実施例では、実施例1で得られたS-PEtBPおよび実施例2で得られたS-PBuBPの各種溶媒への溶解性を評価した。結果をそれぞれ表12および表13に示す。表12および表13において、「×」は溶媒に不溶であったことを示し、「○」は溶媒に可溶であったことを示す。
これまで、剛直な骨格からなるポリフェニレン構造では溶解性などの加工時の作業性の点で改善の余地があった。
これに対し、各実施例で得られたS-PEtBP、S-PBuBP骨格では、柔軟なアルキル基を側鎖に導入したことにより、表12および表13に示すように、有機溶媒に対する溶解性が向上した。
【0122】
【表12】
【0123】
【表13】
【0124】
(実施例6)
本実施例では、以上の実施例で得られたポリマーのアイオノマーとしての特性を評価した。
【0125】
(水素・酸素ガス透過係数の測定)
実施例1〜3で得られたポリマー、および、アルキル基を導入していない類似のポリマー(以下に示すS−PPBP)について、ガス透過係数を測定した。なお、以下に、用いたポリマーの構造および逆滴定法または元素分析法により求めたIECを示す。
【0126】
【化24】
【0127】
まず、各ポリマーについて、以下の方法で試料膜を形成した。
各ポリマーをDMSO等の良溶媒に溶解(5質量%)し、これをろ過した。ガラス基板上に溶液をキャストし、80℃で12時間乾燥、さらに80℃で3時間減圧乾燥した。基板からはく離後、1mol/l HCl水溶液、精製水で洗浄し、その後65℃で24時間減圧乾燥した。
【0128】
3.5 x 3.5 cmの正方形に成型した試料膜をセルに設置し、ガスクロマトグラフG2700T (Yanaco社製)を取り付けたフロー式ガス・水蒸気透過度測定装置GTR-20XFMD(GTRテック社製)装置を用いて測定を行なった。30ml min-1の割合で酸素、水素ガスを供給し、80℃、相対湿度0から90%において、膜中を透過した酸素と水素の量からガス透過係数(P)を求めた。水素と酸素のキャリアーガスとしてそれぞれアルゴンとヘリウムを用いた。
測定条件は以下の通りである。
測定温度:80℃
測定湿度:0-90% RH
水素ガス供給量:30ml min-1
酸素ガス供給量:30ml min-1
結果を図10に示す。
【0129】
また、実施例4で得られたランダム共重合体およびNafion 112(デュポン社製)についても、上記に準じた方法で膜の作製およびガス透過性を評価した。結果を図11に示す。
【0130】
図10および図11より、実施例1〜4で得られた高分子電解質は、いずれも、ガス透過性に優れていた。また、図11より、実施例4で得られた高分子電解質では、Nafion 112をも上回る高いガス透過性を示した。
よって、各実施例で得られた高分子電解質は、いずれも、たとえば燃料電池の触媒電極用のアイオノマーとして好適に用いることができる。
【0131】
(発電特性の評価)
以下の手順でMEAを作製し、その発電特性を評価した。
触媒電極のアイオノマーとして、各実施例で得られた高分子電解質またはナフィオンを用い、以下の手順でMEAを作製した。触媒電極作製時の触媒およびアイオノマーの配合および用いた溶媒を表14に示す。
【0132】
【表14】
【0133】
表14に示した原料を用いて、アイオノマー溶液が5質量%となるように触媒インクを調製した。溶媒は単一溶媒またはアルコールに5質量%の水を加えた混合溶媒とした。また、MEA中の、アイオノマー材料および白金の量は、いずれも1.0 mg cm-2程度とした。
白金担持カーボン(Pt/C、田中貴金属社製)をサンプル瓶に測りとり、水をわずかに加えた。スターラーを用いて50℃で2分間撹拌、1分間脱泡することにより触媒を水に十分になじませた。次にアイオノマー溶液をサンプル瓶に滴下し、先程と同様にスターラーを用いて3時間撹拌することにより触媒インクを作成した。作成した触媒インクをミクロスパーテルでカーボンペーパー(SGLカーボン社製)に塗布し、ヒートスターラーで乾燥した。その後、カーボンペーパーを80℃で3時間減圧乾燥し、10分間、130℃ 、100 kgcm-2でKaptonとステンレス板で挟み、ホットプレスすることにより表面処理をした。
次に、電解質膜(Nafion211膜)を得られた触媒電極の触媒塗布面で挟み込むようにして、10分間、130℃、100 kgcm-2でKaptonとステンレス板で挟み、ホットプレスした。
【0134】
得られたMEAについて、FUEL CELL TEST SYSTEM SERIES 890B(東洋テクニカ社製)を用いて発生した電圧を測定し、燃料電池評価装置(型式PEM-8900-18、東洋テクニカ社製)を用いて以下の条件にて評価を行った。
測定条件
セル温度:80℃
アノード・カソード温度:80℃〜53℃(100%RH〜30%RH)
アノードガス:H2
アノードガス供給流量:0.5L min-1
カソードガス:合成空気(酸素20%含有)
カソードガス供給流量:1.0 L min-1
アノード・カソード供給ガス背圧:0.1 MPaG
【0135】
図12図14は、それぞれ、触媒電極のアイオノマーとして実施例1で得られたS-PEtBP、実施例2で得られたS-PBuBPおよび実施例3で得られたS-PrPBPの結果を示す図である。また、図15は、実施例4で得られたSPr-r-Hの結果を示す図である。
また、図16は、触媒電極のアイオノマーとして実施例1〜3で得られた高分子電解質およびNafionを用いたMEAの80℃における出力密度の湿度依存性を示す図である。
【0136】
図12図15より、実施例1〜4で得られた高分子電解質を触媒電極のアイオノマーとして用いたMEAは、セル電圧、出力密度およびセル抵抗の特性のバランスに優れているとともに、低湿度の条件における特性低下が効果的に抑制されていた。
また、図16より、実施例1〜3のアイオノマーを用いることにより、低湿度の条件において、ナフィオンを上回る優れた出力特性が得られることがわかる。
【符号の説明】
【0137】
100 燃料電池
101 拡散層
103 触媒層
105 燃料極
107 固体電解質膜
109 触媒層
111 拡散層
113 酸化剤極
115 膜−電解質接合体
117 セパレータ
119 セパレータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図15
図16