(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、工程の内容によってコンプライアンスの必要な方向が異なり、例えばスカラ(水平型)ロボットを用いるような工程では、平面内(XYθ)方向のコンプライアンスが有効となる場合がある。これに対し、特許文献1に開示された装置では自由度が不足しているという課題があるため、例えば方向を変えて積層することで多自由度を実現する手段があるが、積み重ねる構造のためにコンプライアンス装置としての高さが高くなり小型化が困難であるという課題がある。また、特許文献2に開示された装置では過剰な自由度を有しており小型化が困難であるという課題がある。
【0005】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、平面内方向にコンプライアンスを有し、小型化が可能であるアクティブコンプライアンス装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係るアクティブコンプライアンス装置は、対向配置された第1,2のプレートと、第1,2のプレート間に
、第1,2のプレート面に対して三角形状となるように配置され、当該第1,2のプレートを対向面内で相対的に変位させる3つのリンク機構と、各リンク機構の動作を制御する制御部とを備え、リンク機構は、第1,2のフレームと、
リンク機構の一端側に設けられ、第1のフレームを第1のプレートに対して回動自在に接続する第1の回転機構と、
リンク機構の他端側に設けられ、第2のフレームを第2のプレートに対して回動自在に接続する第2の回転機構と、第1,2のフレーム間に推力を発生させるリニアアクチュエータと、リニアアクチュエータによる第1,2のフレーム間の変位を検知する位置センサとを備え、制御部は、XYθ座標系におけるコンプライアンス値
であって、XYθ座標系における慣性、粘性、および弾性のうちの少なくとも一つを含むコンプライアンス値を設定するとともに、3つの位置センサにより検知された変位と、コンプライアンス値とに基づいて算出した推力により3つのリニアアクチュエータを制御し、かつコンプライアンス値の変更が必要であると判断した場合にコンプライアンス値を変更
する。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、上記のように構成したので、平面内方向にコンプライアンスを有し、小型化が可能であるアクティブコンプライアンス装置を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1に係るコンプライアンス装置1の構成を示す斜視図である。
コンプライアンス装置1は、平面内において位置(XY)方向および姿勢(θ)方向に対してコンプライアンスを有する装置である。すなわち、XYθの3自由度のコンプライアンスを有する装置である。このコンプライアンス装置1は、
図1に示すように、対向配置された第1,2のプレート11,12と、第1,2のプレート間に配置された第1〜3のリンク機構13a〜13cと、第1〜3のリンク機構13a〜13cの動作を制御する制御部14とから構成されている。
【0010】
第1〜3のリンク機構13a〜13cは、第1,2のプレート11,12を対向面内(平面内)で相対的にXYθ方向に変位させるものである。以下において、特に区別する必要がない場合には、第1〜3のリンク機構13a〜13cをリンク機構13と称す。
【0011】
このリンク機構13には、第1,2のフレーム131,132が設けられている。この第1のフレーム131の一端には、第1のフレーム131を第1のプレート11に対して回動自在に接続するための第1の回転機構133が設けられている。同様に、第2のフレーム132には、第2のフレーム132を第2のプレート12に回動自在に接続するための第2の回転機構134が設けられている。また、第1,2のフレーム131,132間には、第1,2のフレーム131,132間に推力を発生させるリニアアクチュエータ135が設けられている。
また、リニアアクチュエータ135には、第1,2のフレーム131,132間の変位を検知する位置センサ136が接続されている。また、位置センサ136は、リニアアクチュエータ135に内蔵されていなくても外付けされていてもよい。
【0012】
また、制御部14は、位置センサ136により検知された第1,2のフレーム131,132間の変位に基づいて、リニアアクチュエータ135で発生する推力の制御を行うものである。この制御部14は、
図2に示すように、コンプライアンス値設定部141、センサ値取得部142、変位量計算部143、推力計算部144、推力出力部145およびコンプライアンス値変更判断部146から構成されている。
【0013】
コンプライアンス値設定部141は、第2のプレートで発生するXYθ方向のコンプライアンス値を設定するものである。また、コンプライアンス値変更判断部146により、コンプライアンス値の変更が必要と判断された場合には、コンプライアンス値の変更を行う。例えば、作業工程の変更などの際に、上位コントローラからの指令があった場合などにコンプライアンスの変更が行われる。
【0014】
センサ値取得部142は、位置センサ136による検知結果を示すセンサ値を取得するものである。
【0015】
変位量計算部143は、センサ値取得部142により取得された位置センサ136のセンサ値に基づいて、第1,2のフレーム131,132間の変位量を計算するものである。
【0016】
推力計算部144は、変位量計算部143により計算された第1,2のフレーム131,132間の変位量に基づいて、リニアアクチュエータ135に要する推力を計算するものである。
【0017】
推力出力部145は、推力計算部144により計算された推力をリニアアクチュエータ135に出力するものである。
【0018】
コンプライアンス値変更判断部146は、コンプライアンス装置1が適用された自動組立設備における作業の種類に応じて、例えば上位コントローラがコンプライアンス設定を変更すると判断した場合に、コンプライアンス値設定部141により設定されたコンプライアンス値の変更の要否を判断するものである。
【0019】
そして、外力によって、第1,2のプレート11,12でXYθ方向に生じた相対的な変位がリンク長の変位としてあらわれるので、リンク機構13の変位を検出する位置センサ136によって検知し、制御部14でその検知結果および予め設定したコンプライアンス値を用いて推力を演算し、リニアアクチュエータ135でその推力を発生する。これによって、コンプライアンス装置1を、平面内(XYθ)方向に対して、それぞれに自在のコンプライアンス性を持たせたアクティブコンプライアンス装置として用いることができる。
【0020】
次に、上記のように構成されたコンプライアンス装置1のアクチュエータが発生する推力の計算について示す。
まず、本発明のコンプライアンス装置1は、
図3に示すように、第1のプレート11上の3箇所の回転機構接続部(B
1〜B
3)と、第2のプレート12上の3箇所の回転機構接続部(E
1〜E
3)とを、第1〜3のリンク機構13a〜13c(長さL
1〜L
3)で第1,2の回転機構133,134を介して結合した構成とする。
【0021】
また、座標系として、第1のプレート11上の座標系ΣX
B−Y
Bと、第2のプレート12上の座標系Σx
e−y
eを設定する。座標系Σx
e−y
eは、座標系ΣX
B−Y
Bに対して相対位置・角度が変化する座標系である。
【0027】
このとき、座標系ΣX
B−Y
Bで表した第2の回転機構134の位置は下式(6)のように表される。
【0028】
このときのリンク機構13の長さは下式(7)のように表すことができる。
【0029】
具体的には、式(6)より
がリンク機構13の長さとなる。
【0032】
次に、行列Jの各要素を求める。式(9)において
とする。つまり、
【0033】
このとき、行列Jの各要素は下式(13)のように計算できる。
【0036】
ここで、仮想仕事の原理より、[リンク機構13の仮想仕事=第2のプレート12の仮想仕事]が成立するので、
が得られる。そして、式(17)を変形すると、
が得られる。つまり、下式(19)が成立する。
【0037】
となる。この式(20)を(19)に代入すると、
が得られる。
【0039】
次に、本発明のコンプライアンス装置1を任意のコンプライアンス特性を発生するデバイスとして使用する場合(アクティブコンプライアンスとして使用する場合)について示す。
【0040】
この式(22)を式(21)に代入すると
【0042】
次に、本発明のコンプライアンス装置1を適用した第2のプレート12の変位とリンク機構13で発生する推力との関係についての計算の例を
図4に示す。
各回転機構の位置を、Bx
1=21.2mm,By
1=21.2mm,Bx
2=−29.0mm,By
2=7.8mm,Bx
3=7.8mm,By
3=−29.0mm,ex
1=−21.2mm,ey
1=21.2mm,ex
2=−7.8mm,ey
2=−29.0mm,ex
3=29.0mm,ey
3=7.8mmとした。
また、下記の計算例ではコンプライアンス装置1は、X方向にのみ柔らかいバネのように動き、Y,θ方向には硬いバネのように動くアクティブコンプライアンスデバイスとして(KX=0.1N/mm,KY=1000N/mm,Kθ=1000N/rad)とし、慣性および粘性は省略した。
【0043】
例えば、原点位置(X,Y,θ)=(0,0,0)の位置から開始して、X=3mmまで外力によって移動させられる際に、Y方向に0.1mm、θ方向に0.1degずれた場合、
図4のように各リンク機構13の推力を発生させればよいことになる。
【0044】
次に、上記のように構成されたコンプライアンス装置1の制御部14による制御動作について、
図5を参照しながら説明する。
制御部14による制御動作では、
図5に示すように、まず、コンプライアンス値設定部141は、各リンク機構13のコンプライアンス値を設定する(ステップST61)。
【0045】
次いで、センサ値取得部142は、位置センサ136による検知結果を示すセンサ値を取得する(ステップST62)。
【0046】
次いで、変位量計算部143は、位置センサ136のセンサ値から、変位量を計算する(ステップST63)。
【0048】
次いで、推力出力部145は、推力計算部144により計算された推力をリニアアクチュエータ135に出力する(ステップST65)。
【0049】
次いで、コンプライアンス値変更判断部146は、例えば上位コントローラからの指令によってコンプライアンス値設定部141により設定されたコンプライアンス値を変更する必要があるかを判断する(ステップST66)。このステップST66において、コンプライアンス値変更判断部146が、コンプライアンス値の変更が必要と判断した場合には、シーケンスはステップST61に戻り、新たなコンプライアンス値の設定が行われる。一方、ステップST66において、コンプライアンス値変更判断部146が、コンプライアンス値の変更は不要と判断した場合には、シーケンスはステップST62に戻る。
【0050】
次に、上記のように構成されたコンプライアンス装置1の適用例について、
図6,7を参照しながら説明する。
図6はこの発明の実施の形態1に係るコンプライアンス装置1をロボット51とハンド52との間に取り付けた場合を示す斜視図である。
図6に示すように、
図1に示すコンプライアンス装置1を自動組立設備におけるロボット51とハンド52との間に取り付けて使用することで、ロボット51とパレット53に収納された組立対象の部品54との位置誤差を吸収し、過大な力がハンド52および部品54に加わることを回避することができる。その際、コンプライアンス値を自在に設定・変更できることで(アクティブコンプライアンスデバイス)、多種の部品や作業(きついはめあい部品の場合にはバネ定数設定値を大きくする、破損しやすい部品の場合にはバネ定数設定値を小さくするなど)に対応できる。また、XYθ方向のコンプライアンス値を独立して変更可能にすることで、複数方向からの作業がある場合(複数部品を組み立てる場合で、つきあて方向のことなる場合など)に対応できる。例えば、パレット53に収納された部品54をハンド52を用いてピックアップする際に、ハンド52と部品54とが位置誤差(部品54の寸法誤差、ロボット51の位置決め誤差)などにより精密に位置あわせできていない場合であっても、本発明のコンプライアンス装置1によりXYθ方向を柔らかくして、部品に負荷をかけずにピックアップし、その後の組み立て工程では、方向に応じて硬さを変えるなどして、複数の工程に対して適切な方向に適切な大きさの柔らかさを実現することができる。また、本発明の構成では、リニアアクチュエータ135がリンクの伸縮機構と一体化しており、第1,2のプレート11,12間に駆動機構やセンサが納まるので、小型化が可能となっている。
【0051】
図7はこの発明の実施の形態1に係るコンプライアンス装置1を治具55に取り付けた場合を示す斜視図である。
図7に示すように、
図1に示すコンプライアンス装置1を部品54組立を行う治具55に設置することで、ロボット51と組立対象の部品54との位置誤差を吸収し、過大な力がハンド52および部品54に加わることを回避することができる。その際、平面内のXYθ方向のコンプライアンス値を独立して変更可能とすることで、多種の部品54や作業に対応できる。例えば、治具55に固定された部品54aにロボット51のハンド52で把持した部品54bを挿入する際に、Xやθ方向はハンド52によって部品がセンタリングされるため高い位置精度が出ているが、Y方向には位置がずれている場合がある。その場合、Y方向のみを柔らかく設定することで、ハンド52と部品54a,54bとが位置誤差(部品54a,54bの寸法誤差、ロボット51の位置決め誤差)などにより精密に位置あわせできていない場合であっても、本発明のコンプライアンス装置1によりその位置誤差を吸収することができる。
【0052】
次に、この発明の実施の形態1に係るコンプライアンス装置1の運用例について、
図8〜10を参照しながら説明する。
本発明のコンプライアンス装置1のように、コンプライアンス設定を各方向に個別に設定/変更できる構成は、下記のようなケースの作業で有効である。
【0053】
図8に示す作業では、治具55aにしっかりとクランプされたワーク56に搭載されている破損しやすい部品54c(例えば、予め半田実装されている電子部品など)に対して、面541と面542にロボットの手先に取り付けられた半田コテを用いてリード57a,57bの半田付けを行う。なお、
図8の符号58a,58bはパッドである。また、リード57aはY方向に(精密な)位置決めを行う必要があり、リード57bはX方向に(精密な)位置決めを行う必要があるとする。
このような作業の場合、ワーク56が治具55に固定されているため、部品54cの寸法ばらつきや、部品54cの搭載位置のばらつき、治具55aによるワーク56のクランプ位置のばらつき、ロボット51の位置決め誤差などにより、半田付けの際に、部品54cに過大な負荷を与えてしまう場合や、逆に半田コテがリード57a,57bに当たらずに離れてしまう場合がある。
【0054】
この治具55aの下部に本発明のコンプライアンス装置1を搭載すると、
図9のようになる。
そして、
図10(a)に示すように、このコンプライアンス装置1により、リード57a側に半田付けするときにはX方向のバネ定数設定を小さく、θ方向とY方向のバネ定数設定を非常に大きくする。これにより、θ方向とY方向については位置決め状態で、X方向については半田コテを押し込み気味にすることで、リード57aに半田コテを確実にあてつつ、過大な負荷をかけずに半田付けを行うことができる。
【0055】
次に、
図10(b)に示すように、このコンプライアンス装置1により、リード57b側に半田付けするときにはY方向のバネ定数設定を小さく、θ方向とX方向のバネ定数設定を非常に大きくする。これにより、θ方向とX方向については位置決め状態で、Y方向については半田コテを押し込み気味にすることで、リード57bにコテを確実にあてつつ、過大な負荷をかけずに半田付けを行うことができる。
このように、異なる工程を同一の治具55aを用いて実装することができるようになる。
【0056】
以上のように、この実施の形態1によれば、対向配置された第1,2のプレート11,12と、第1,2のプレート11,12間に配置され、当該第1,2のプレート11,12を対向面内で相対的に変位させる3つのリンク機構13と、各リンク機構13の動作を制御する制御部14とを備え、リンク機構13は、第1,2のフレーム131,132と、第1のフレーム131を第1のプレート11に対して回動自在に接続する第1の回転機構133と、第2のフレーム132を第2のプレート12に対して回動自在に接続する第2の回転機構134と、第1,2のフレーム131,132間に推力を発生させるリニアアクチュエータ135と、リニアアクチュエータ135による第1,2のフレーム133,134間の変位を検知する位置センサ136とを備え、制御部14は、位置センサ136による検知結果に基づいてリニアアクチュエータ135を制御するよう構成したので、平面内方向にコンプライアンスを有し、小型化が可能であるアクティブコンプライアンス装置を得ることができる。
【0057】
なお、本願発明はその発明の範囲内において、実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは実施の形態の任意の構成要素の省略が可能である。