【文献】
KAJI, T. et al.,Visualization of pH and pCl Distributions: Initiation and Propagation Criteria for Crevice Corrosion,Visualization of pH and pCl Distributions: Initiationand Propagation Criteria for Crevice Corrosion,米国,The Electrochemical Society,2012年 7月17日,Vol.159/No.7,C289-C297
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
ハロゲン化物イオンを含有する自然水に接するゲート、堰、配管類、海水ポンプなどや、塩分を含む醤油、味噌、食酢、ドレッシングなどの食品製造設備に使用される機器などに使用される金属材料には、耐食性が求められる。炭素鋼、低合金鋼、ステンレス鋼、Ni基合金、Tiなどから、適正な金属材料を選定するためには、腐食環境の塩濃度や温度、pHなどに応じて、適正な電気化学的な手法を採用して、耐食性を評価することが必要である。
【0003】
また、ハロゲン化物イオンを含む腐食環境で使用される構造物や機器類は、配管つなぎ目のすきま部や溶接欠陥、ゴミの付着物など、潜在的なすきま構造を有しており、ハロゲン化物によるすきま腐食などの腐食損傷が懸念される。
【0004】
すきま腐食を電気化学的に評価する方法として、JIS G 0592(ステンレス鋼の腐食すきま再不動態化電位測定方法)が知られている。また、従来から、腐食すきま再不動態化電位(E
R,CREV)と自然ポテンシャル(E
sp)とを比較し、すきま腐食が自発的に発生するかどうかを判定する試験が行われている(例えば、非特許文献1〜3、参照)。
【0005】
一方、すきま腐食の進展状況を評価するため、ガラス、石英、樹脂等の透明な物質と試験片との間にすきまを形成し、腐食媒中に浸漬した状態で、すきまの腐食状況を直接観察する試験方法が提案されている(例えば、特許文献1、参照)。
【0006】
更に、光学顕微鏡の対物レンズと試験片との間を電解液で満たし、電気化学的測定を行いながら、すきま腐食の発生状況を観察する方法が提案されている(例えば、特許文献2、参照)。この方法では、微小な領域の観察及び電気化学的測定が可能であり、すきま腐食の発生及び初期の状態については、その場観察が可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
すきま腐食の発生や進展状況を直接観察する特許文献1及び2の方法によれば、すきま腐食の面積の増加、即ち、二次元的な広がりの経時変化を評価することができる。しかし、腐食による金属材料の寿命は、特定の部位での深さ方向への腐食の進展が大きく影響するので、腐食部位の形態及びその経時的な変化を評価することが重要である。
【0010】
金属材料の腐食は、重量減や経時的な変化から求められる腐食速度によって評価することが多いが、腐食環境における金属材料の寿命の決定には、特定の部位の板厚の減少、即ち、最大すきま腐食深さの評価が重要である。
【0011】
本発明者らは、自然海水中に浸漬したSUS304鋼やSUS316L鋼などのステンレス鋼に発生したすきま腐食損傷を観察した。その結果、すきま腐食の形態には、全面腐食的に活性溶解している部位と、孔食的に腐食している部位とが混在することが判明した。すきま腐食の直接観察と電気化学測定とを組み合わせると、すきま腐食の面積と体積の増加などを評価することが可能になるが、特定の部位のすきま腐食の深さを正確に測定することはできない。
【0012】
特定の部位のすきま腐食の深さを測定するため、すきま腐食試験を中断して形状測定を行い、試験を再開した場合は、その後のすきま腐食の進展に影響が及ぶと考えられる。一方。試験時間を変えて、すきま腐食の進展による形状の変化を評価しようとすると、試験に要する時間が非常に長くなってしまう。
【0013】
本発明は、このような実情に鑑み、すきま腐食を発生、進展させながら、すきま腐食の形態、特に深さ方向のプロファイルの測定を行うことにより、すきま腐食による腐食損傷の程度や経時変化を評価できる、すきま腐食試験装置及び方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、すきま腐食試験を行いながら、試験片に生じるすきま腐食の形態、特に深さ方向のプロファイルの測定を行うため、光学的に物体の三次元形状を測定する装置を利用する方法を検討した。その結果、溶液を満たした腐食セルで、光透過性を有するすきま形成手段と、試験片とを接触させ、試験片の表面に発生するすきま腐食の形状測定を、すきま形成手段を通して行うことで、最大のすきま腐食の深さ及びその時間的な変化を測定できるとの知見を得た。
【0015】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、その要旨とするところは以下の通りである。
[1] 試験片の表面観察及び形状測定が可能な光透過性物質からな
り、試験片と対向する面に凸部を有するすきま形成手段を有し、溶液が充填される腐食セルと、
参考電極を備え、上記試験片との電位差を制御し、上記試験片の電位を一定に保持してすきま腐食を発生させる電位制御手段と、
試験片に発生するすきま腐食の深さ方向プロファイルを測定する光学系形状測定手段と
を有することを特徴とするすきま腐食試験装置。
[2] 前記試験片は円柱状であり、前記すきま形成手段は円盤状であり、前記腐食セルの胴体部は円筒状であることを特徴とする上記[1]に記載のすきま腐食試験装置。
[3] 前記すきま形成手段は、両面が鏡面研磨されていることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載のすきま腐食試験装置。
[
4] 前記すきま形成手段の前記凸部を除く基部の厚みは3〜5mmであり、前記基部から突出した凸部の厚みは0.3〜3mmであることを特徴とする上記[
3]に記載のすきま腐食試験装置。
[
5] 試験片の表面観察及び形状測定が可能な光透過性物質からな
り、該試験片と対向する面に凸部を有するすきま形成手段に接触するように腐食セルの内部に試験片を設置する工程と、前記腐食セルに溶液を充填する工程と、
上記試験片と参考電極との電位差を制御し、上記試験片の電位を一定に保持してすきま腐食を発生させる工程と、光学系形状測定手段によってすきま腐食の深さ方向プロファイルを測定する工程とを有することを特徴とするすきま腐食試験方法。
[
6] 前記試験片は円柱状であり、前記すきま形成手段は円盤状であることを特徴とする上記[
5]に記載のすきま腐食試験方法。
[
7] 前記すきま形成手段は、両面が鏡面研磨されていることを特徴とする上記[
5]又は[
6]に記載のすきま腐食試験方法。
[
8] 前記すきま形成手段の前記凸部を除く基部の厚みは3〜5mmであり、前記凸部の厚みは0.3〜3mmであることを特徴とする上記[
5]〜[7]のいずれかに記載のすきま腐食試験方法。
[
9] 前記試験片と参照電極との電位差を制御する電位制御手段によって、前記すきま腐食の発生後、前記試験片の電位をそのまま一定に保持する工程と、前記試験片の電位を、すきま腐食を発生させる工程の電位よりも卑な電位に保持する工程とを有することを特徴とする上記[
5]〜[
8]のいずれかに記載のすきま腐食試験方法。
[10] 前記すきま腐食を発生させる工程の電位は、100〜600mVであり、前記すきま腐食の発生後、前記試験片の電位をそのまま一定に保持する工程の保持時間は5〜60分であることを特徴とする上記[
9]に記載のすきま腐食試験方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、試験片に生じるすきま腐食の形態及び形状、特に深さ方向のプロファイルを測定することが可能になり、すきま腐食の進展による金属材料の使用寿命を精度良く評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の腐食セルの一例を説明する図である。
【
図2】本発明の腐食セルのネジ切り構造部位を説明する図である。
【
図3】試験片を支持する台座の一例を説明する図である。
【
図4】本発明の腐食セルのすきま形成手段の一例を説明する図である。
【
図5】本発明の腐食セルの押さえリングの一例を説明する図である。
【
図6】本発明の腐食セルの外側ネジ付きリングの一例を説明する図である。
【
図8】本発明のすきま腐食試験装置の光学系形状測定手段の一例を説明する図である。
【
図9】海水に漬浸されたステンレス鋼の自然電位の変化を説明する図である。
【
図10】自然浸漬状態で発生するすきま腐食と電位の変化を模擬する定電位電解処理を説明する図である。
【
図11】本発明の試験方法によって測定された電位−時間曲線及びそれに対応した電流−時間曲線の一例を説明する図である。
【
図12】本発明のすきま腐食試験装置によって撮影されたすきま内の画像の一例を説明する図である。
【
図13】本発明のすきま腐食試験装置によって測定されたすきま腐食深さ断面プロフィールの一例を説明する図である。
【
図14】すきま腐食の総面積及び総体積の測定方法及び測定結果の一例を説明する図である。
【
図15】本発明のすきま腐食試験装置によって測定された、
図13のすきま腐食深さ断面プロフィールを拡大して説明する図である。
【
図16】すきま腐食深さの経時変化の一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のすきま腐食試験装置について説明する。
【0019】
本発明のすきま腐食試験装置は、主に、試験片が設置され、溶液が充填される腐食セルと、試験片に発生するすきま腐食の深さ方向プロファイルを測定する光学系形状測定手段と、によって構成される。光学系形状測定手段は、すきま腐食の形状の測定を行う位置を特定するため、すきま腐食の観察を行う機能を兼ね備えている。
【0021】
図1は、本発明の腐食セルの一例を説明する図である。下方の図が腐食セルの正面図で、上方の図が腐食セルの上面図である。腐食セルは、密閉構造であり、試験片1を設置するネジ付き台座10と、試験片1を格納し、試験溶液4で満たされる胴体部である外側ネジ付きリング8と、腐食セル内に設置された試験片1にすきま腐食を発生させるすきま形成手段とを有している。すきま形成手段は、光透過性物質5及び光透過性物質凸部6によって構成され、内側ネジ付き押えリング7によって外側ネジ付きリング8に固定される。
【0022】
図2は、本発明の腐食セルのネジ切り構造部位を説明する図である。下方の図が腐食セルの正面図で、上方の図が腐食セルの上面図である。ネジ部を太線で示してある。円筒状の外側ネジ付きリング8の外側の上部及び下部にはネジが備えられ、それぞれ、内側ネジ付き押さえリング9の上部の内側及び内側ネジ付き押さえリング7の下部の内側に設けられたネジと螺合することにより、腐食セルは密閉構造となる。
【0023】
また、
図1及び2に示した腐食セルは、電位制御や電気化学測定を行うことができるように、電極として対極2(白金電極CE)及び参照電極3(RE)を備えている。電極及び試験片1を、図示しない電位制御手段(ポテンショスタット)に接続すれば、定電位電解や電気化学測定による腐食量の評価などを行うことができる。腐食セルの外側ネジ付きリング8に設けられた電極を通す穴は、シール材などによって塞がれ、密閉構造が保たれる。
【0024】
図3は、試験片を支持するネジ付き台座の一例を説明する図である。下方の図がネジ付き台座の正面図で、上方の図がネジ付き台座の上面図である。試験片1は円柱状であり、下部に設けられたネジと、ネジ付き台座10の中央の穴に設けられたネジとを螺合することにより、試験片1をネジ付き台座10に設置する。ネジを回転すると、試験片1とすきま形成手段との距離を調整することができる。腐食セルの外側ネジ付きリング8を円筒状とし、試験片1を円柱状とすることにより、溶液中で腐食セルを組み立てることが可能なり、容易に腐食セル内への空気の混入を防止することができる。腐食セルの外側ネジ付きリング8は、アクリル製が好ましい。
【0025】
図4は、本発明の腐食セルのすきま形成手段の一例を説明する図である。下方の図がすきま形成手段の正面図で、上方の図がすきま形成手段の上面図である。すきま形成手段は、光透過性物質5及び光透過性物質凸部6によって構成されている。光透過性物質5は、光透過性物質の厚みaと、光透過性物質の直径bとを有する。光透過性物質凸部6は、光透過性物質凸部の高さcと、光透過性物質凸部の直径dとを有する。しかし、すきま形成手段は、凸部のない単純な円盤状でもよい。
【0026】
すきま形成手段に光透過性物質凸部6を設ける場合、光透過性物質凸部6を除く基部の厚みである光透過性物質の厚みaを3〜5mmとする。光透過性物質の厚みaを3mm以上とすることにより、試験片1の位置をネジで調整し、光透過性物質凸部6に接触させる際に、誤って過大な応力が負荷されても、すきま形成手段の破損を防止することができる。また、すきま腐食を観察する場合、光透過性物質の厚みaの厚みを5mm以下とすれば、光透過性物質凸部6の厚みを加えても、光が透過する厚みは8mm以下になり、色収差や画像の歪みなどの発生を抑制することができる。
【0027】
そして、基部から突出した部位の厚みである光透過性物質凸部の高さcを0.3〜3mmにする。腐食セル内に電極を設置し、試験片と標準電極との電位差を制御する電位制御手段によって、定電位電解処理を行う場合、光透過性物質凸部の高さcを0.3mm以上にすることにより、金属イオンの蓄積を防止することができる。また、対極2(白金電極CE)から発生する気泡が、すきまに停滞することを防ぐには、光透過性物質凸部の高さcを3mm以下にする。好ましくは、1〜2mmである。
【0028】
試験片1とすきま形成手段との間にすきまが形成され、すきま腐食が生じ、進展する。このとき、すきま腐食は、すきまの外周部の近傍で進展し易い。光学系形状測定手段で、すきま腐食の深さを測定する場合、すきま腐食が発生する位置よりも外側では、すきま腐食が発生していないことが好ましい。
【0029】
すきま形成手段に光透過性物質凸部6を設けると、すきま腐食は、光透過性物質凸部6よりも外側では進行しないため、すきま腐食の形状測定を精度良く行うことが可能になる。
【0030】
すきま腐食の形状測定は、光学的な原理に基づく光学系形状測定手段で行うことから、すきま形成手段の材質は、光透過性の物質とする。
【0031】
光透過性の物質としては、例えば、石英製ガラス板、パイレックス(登録商標)ガラス、鉛ガラスなどガラス類や、アクリル、ポリカーボネイトなどの樹脂類、ホタル石、人工ルビーや人工ジルコンなどの鉱石又は人工鉱石類を用いることができる。このうち、石英製ガラス板は、入手が容易で、強度が高く、耐薬品性が高いなどの利点があるため、好ましい素材である。
【0032】
すきま腐食の発生及び進展や試験溶液の変化を観察するためには、すきま形成手段の試験片1に接する側の面と、その反対側の空気に触れる側の面との両面に、鏡面研磨を施すことが好ましい。
【0033】
図5は、本発明の腐食セルの押さえリングの一例を説明する図である。下方の図が押さえリングの正面図で、上方の図が押さえリングの上面図である。
図5に示すように、腐食セルの押さえリング7、9が円筒状であるため、それに合わせて、すきま形成手段は円盤状である。
【0034】
図6は、本発明の腐食セルの外側ネジ付きリングの一例を説明する図である。外側ネジ付きリング8は、ゴム製のパッキン溝11を備えている。
【0035】
図7は、本発明の試験片の一例を説明する図である。上方の図が試験片の正面図で、下方の図が試験片の下面図である。試験片1の下部側面にネジ切り12が施されており、試験片1を設置するネジ付き台座10と連結させ、光透過性物質凸部6と試験片1との間に生じるすきま部の締め付け具合を調製できるように工夫してある。また、試験片1下部には、マイナス溝13があり、光透過性物質凸部6と試験片1との間に生じるすきま部の締め付けを容易なものとした。
【0036】
次ぎに、光学系形状測定手段について説明する。
【0037】
図8は、本発明のすきま腐食試験装置の光学系形状測定手段の一例を説明する図である。光学系形状測定手段は、胴体14と、その上部略中央に配置される観察レンズ15と、観察レンズ15の両側に配置する計測レンズ16とを含んでいる。そして、胴体14の略中央のXYステージ上に、試験片17を格納した腐食セル18を設置し、試験片17の表面に複数の異なる方向に設置したLED光源から光を照射し、反射光を捉えて、三角測量の原理により、表面の凹凸を計測する。
【0038】
光学系形状測定手段は、市販の装置を用いることができるが、マクロ的な観察機能を有することが好ましい。光学系形状測定手段に、試験片及び溶液を格納した腐食セルを設置し、すきま腐食試験を行いながら、深さ方向の形状を測定することができる。光学系形状測定手段として、例えば、キーエンス社製VR−3000 3Dマクロスコープを好適に用いることができる。
【0039】
本発明のすきま腐食試験方法について説明する。
【0040】
本発明のすきま腐食試験方法は、主に、光透過性物質からなるすきま形成手段に接触するように、腐食セルの内部に試験片を設置し、腐食セルに溶液を充填し、光学系形状測定手段によって、すきま腐食の深さ方向プロファイルを測定して、試験するものである。そして、すきま腐食は、次に説明するように、試験片の電位を制御して発生させる。
【0041】
電位を制御しながらすきま腐食試験を行う場合、自然浸漬状態で起こるすきま腐食現象における電位の変化を模擬する。そのために、すきま腐食の発生後、電位をしばらく保持してから、卑な電位とすることが好ましい。これは、本発明者らが、海水中での金属材料の自然電位の解析を行った結果に基づいている。
【0042】
図9は、海水に漬浸されたステンレス鋼の自然電位の変化を説明する図であり、ステンレス鋼を海水に浸漬し、すきま腐食を発生させた際の、自然電位の経時変化である。自然電位は、卑な電位から徐々に貴な電位になり、ほぼ一定値となるが、ある時間経つと、自然電位は急激に卑な電位方向にシフトする。これは、すきま腐食の発生により、発生部位とその周辺の領域の電位が卑な電位になり、試験片の全体の電位が卑化したものと考えられる。
【0043】
図10は、自然浸漬状態で発生するすきま腐食と電位の変化を模擬する定電位電解処理を説明する図である。自然浸漬状態で発生するすきま腐食と電位の変化を模擬するため、試験の初期には、貴な電位E
1に保持し、すきま腐食の発生後もしばらく電位E
1で保持してから、電位E
1よりも卑な電位E
2に保持することが好ましい。
【0044】
本発明者らは、一般的な金属材料の場合、E
1は概ね100〜600mVであり、例えば、SUS304鋼では、概ね100mV以上であることを知見した。したがって、自然浸漬状態のすきま腐食を模擬するため、E
1を100mV以上とする。E
1を高くすれば、すきま腐食が発生するまでの時間を短縮することができる。一方、孔食など、すきま腐食以外の腐食の発生を抑制するために、E
1を600mV以下とする。好ましくは、150〜500mV、より好ましくは、200〜400mVである。
【0045】
また、すきま腐食が発生してから、卑な電位とするまでの保持時間t
1を、300秒(5分)以上とする。また、保持時間t
1を長くすると、すきま腐食の進展度合いが増大するが、時間的な制約の観点から、3600秒(60分)以下とする。
【0046】
その後の定電位値E
2は、例えば、一般的なSUS304鋼の場合、100〜250mVであることが知見された。この時の保持時間t
2も任意であるが、時間的制約の観点からは25000秒(約420分)以内が望ましい。
【実施例】
【0047】
次に、本発明のすきま腐食試験装置及びすきま腐食試験方法の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0048】
SUS304鋼を直径20mm、高さ39mmの円柱状の試験片に加工し、試験片全体を30%硝酸、50℃の溶液に約1h間浸漬して、試験片の表面全体を不動態化させた。硝酸水溶液浸漬による不動態化処理は、試験片のすきま部以外の部位での、腐食の発生を防止するために行った。その後、試験片の下端にリード線をビスで固定した。試験片のすきま形成手段側の面(試験面)は、試験を開始する直前に、湿式で♯400番研磨した。
【0049】
試験片の周囲に白金電極(対極CE)を配置し、小型の参照電極(飽和KCl溶液を用いた銀−塩化銀電極、RE)を装着した。円筒状の外側ネジ付きリングと、試験片を設置したネジ付き台座と、すきま形成手段を固定する内側ネジ付き押さえリングで腐食セルを形成し、人工海水を充填した。その後、ネジ付き台座の穴に設けたネジと螺合する試験片の下部に設けたネジによって、石英ガラス製のすきま形成手段の光透過性物質凸部に試験片を接触させた。
【0050】
電極及び試験片をリード線によって、ポテンショスタットに接続し、キーエンス社のVR−3000型3D マクロスコープのXYステージ上に腐食セルを設置した。25℃、空気飽和条件で、10分間、自然電位を測定した。その後、電位E
1を499mVとして第一の定電位電解を行い、試験片にすきま腐食の発生が確認されてから約10分間、E
1の電位に保持した。続いて、E
2の電位を、それぞれ、249mV、199mV、149mV及び99mVとし、22000秒間保持する第二定電位電解を行った。すきま腐食試験を行いながら、すきま腐食の観察及びすきま部の深さ測定を行った。
【0051】
図11は、本発明の試験方法によって測定された電位−時間曲線及びそれに対応した電流−時間曲線の一例を説明する図である。ここで、すきま腐食進展時間とは、全測定時間tから、すきま腐食の発生が目視確認された時間t
VIを引いた(t−t
VI)で示される時間である。t
VIに達してから600秒経過すると同時に、試験片の電位E
2を各電位に保持した。E
2に応じて、これに対応する電位は種々に変化するが、概して、E
2が貴な電位ほど試験片に流れる電流は大きくなっている。
【0052】
図12は、本発明のすきま腐食試験装置によって撮影されたすきま内の画像の一例を説明する図である。この画像は、
図11の結果のうち、E
1=499mV、E
2=249mVの電位−すきま腐食進展時間曲線と、これに対応するすきま内の観察画像である。すきま腐食が、時間の経過と共に徐々に広がってゆく様子を観察することができた。
【0053】
図13は、本発明のすきま腐食試験装置によって測定されたすきま腐食深さ断面プロフィールの一例を説明する図であり、E
2=249mV、22000s後のすきま腐食部画像と、二次元及び三次元のすきま腐食深さ分布である。そして、すきま部の最も腐食が進行している位置での概観を示している。E
2=249mV、22000s後のすきま腐食深さ分布では、円で示した位置での腐食深さが最も深くなっている。グラフは、すきま腐食深さ断面プロフィールの一例であり、図中に円で示した位置を通る直線上の深さを示している。
【0054】
このような測定を複数回繰り返すことにより、最も深い箇所の特定が可能であり、また、腐食面積及び体積を求めることができる。
図14は、すきま腐食の総面積及び総体積の測定方法及び測定結果の一例を説明する図である。
図14は、
図13と同じ位置での結果である。深さ閾値を5μmに設定し、これより深いものだけを表示している。
【0055】
図14の計測領域指定の図に示すNo.1〜3において測定した、体積、断面積、表面積、平均深さ、最大深さの結果を表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
図15は、本発明のすきま腐食試験装置によって測定された、
図13のすきま腐食深さ断面プロフィールを拡大して説明する図である。すなわち、
図15は、すきま部の一番深い位置(
図13に円で示した位置)の高倍率解析結果を示しており、すきま腐食深さは、270μmであった。
図15は、最も深くなる箇所のすきま腐食深さ断面プロフィールであり、この位置を定点とし、測定初期からの深さプロフィールの時間変化を求めることも可能である。
【0058】
図16は、すきま腐食深さの経時変化の一例を説明する図であり、E
2=249mV、199mV、149mV及び99mVでの最大すきま腐食深さD
maxを、すきま腐食進展時間(t−t
VI)に対してプロットしたものである。いずれも、定電位値をE
1からE
2に切り替え直後のすきま腐食進展時間600秒の時点では、本測定ではD
maxは近似的に0である。これは、測定閾値を5μmとしているためで、工学的に問題とならないほど小さい。すきま腐食進展時間の増加とともに、いずれのE
2においても、徐々にD
maxは増加し、E
2の電位が貴な電位ほど明らかに、D
maxは高くなることが明確になった。