特許第6278889号(P6278889)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6278889
(24)【登録日】2018年1月26日
(45)【発行日】2018年2月14日
(54)【発明の名称】入力装置とその制御方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06F 3/041 20060101AFI20180205BHJP
   G06F 3/044 20060101ALI20180205BHJP
【FI】
   G06F3/041 580
   G06F3/041 560
   G06F3/044 120
【請求項の数】11
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-259522(P2014-259522)
(22)【出願日】2014年12月22日
(65)【公開番号】特開2016-119010(P2016-119010A)
(43)【公開日】2016年6月30日
【審査請求日】2017年1月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプス電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108006
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 昌弘
(74)【代理人】
【識別番号】100085453
【弁理士】
【氏名又は名称】野▲崎▼ 照夫
(74)【代理人】
【識別番号】100135183
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 克之
(74)【代理人】
【識別番号】100120204
【弁理士】
【氏名又は名称】平山 巌
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 智
(72)【発明者】
【氏名】早坂 哲
(72)【発明者】
【氏名】寒川井 伸一
【審査官】 鈴木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−003978(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/090399(WO,A1)
【文献】 特表2011−501261(JP,A)
【文献】 特開2013−088982(JP,A)
【文献】 特表2008−535100(JP,A)
【文献】 特開2012−164060(JP,A)
【文献】 特開2011−128754(JP,A)
【文献】 特開2012−068893(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 3/01
3/03 − 3/0489
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出面への物体の近接状態に応じた情報を入力する入力装置であって、
前記検出面の複数の検出位置における物体の近接度合いを検出し、当該検出結果を示す検出データを前記複数の検出位置のそれぞれについて生成するセンサ部と、
前記複数の検出位置について生成された複数の前記検出データに基づいて、物体の近接度合いが周囲に比べて高くなっている前記検出位置をピーク位置として特定するピーク位置特定部と、
前記ピーク位置における前記検出データに基づいて、当該検出データが示す物体の近接度合いよりも低いしきい値を設定するしきい値設定部と、
前記ピーク位置を含む一群の検出位置であって、前記検出データが示す物体の近接度合いが前記しきい値より高い一群の検出位置によって占められた前記検出面上の領域の面積に応じた評価値を算出する評価値算出部と、
前記評価値に基づいて、前記ピーク位置に近接した物体が指又は掌の何れであるかを判定する判定部とを有し、
前記評価値算出部は、
第1の方向へ連続して並んだ第1の検出位置群であって、その中に前記ピーク位置を含んでおり、かつ、前記検出データが示す前記近接度合いが前記しきい値より高い第1の検出位置群における前記検出位置の数を第1の検出位置数として計数し、
前記第1の方向と直交する第2の方向へ連続して並んだ第2の検出位置群であって、その中に前記ピーク位置を含んでおり、かつ、前記検出データが示す前記近接度合いが前記しきい値より高い第2の検出位置群における前記検出位置の数を第2の検出位置数として計数し、
前記第1の検出位置数と前記第2の検出位置数との積に応じた前記評価値を算出する
ことを特徴とする入力装置。
【請求項2】
前記評価値算出部は、
前記第1の検出位置群において、一の前記検出位置の前記検出データが示す前記近接度合いに比べて、当該一の検出位置に対し前記ピーク位置から遠い側で隣接する前記検出位置の前記検出データが示す前記近接度合いが所定の変化幅を超えて高い場合、当該一の検出位置より前記ピーク位置から離れた前記検出位置の数が除外された前記第1の検出位置数を計数し、
前記第2の検出位置群において、一の前記検出位置の前記検出データが示す前記近接度合いに比べて、当該一の検出位置に対し前記ピーク位置から遠い側で隣接する前記検出位置の前記検出データが示す前記近接度合いが所定の変化幅を超えて高い場合、当該一の検出位置より前記ピーク位置から離れた前記検出位置の数が除外された前記第2の検出位置数を計数する
ことを特徴とする請求項に記載の入力装置。
【請求項3】
前記しきい値設定部は、前記ピーク位置について生成された前記検出データが示す前記近接度合いに対して所定の割合の近接度合いを示す前記しきい値を設定する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の入力装置。
【請求項4】
前記しきい値設定部は、前記ピーク位置について生成された前記検出データが示す前記近接度合いに対して所定の値だけ低い近接度合いを示す前記しきい値を設定する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の入力装置。
【請求項5】
前記複数の検出位置について生成された複数の前記検出データに基づいて、前記検出データに重畳するノイズのレベルを測定するノイズレベル測定部を有し、
前記しきい値設定部は、前記ノイズレベルの測定結果に応じて前記しきい値を変更する
ことを特徴とする請求項1乃至の何れか一項に記載の入力装置。
【請求項6】
検出面の複数の位置において物体の近接の度合い検出し、当該検出結果を示す検出データを前記複数の位置のそれぞれについて生成するセンサ部を備えており、前記検出面への物体の近接状態に応じた情報を入力する入力装置をコンピュータが制御する方法であって、
前記複数の検出位置について生成された複数の前記検出データに基づいて、物体の近接度合いが周囲に比べて高くなっている前記検出位置をピーク位置として特定するステップと、
前記ピーク位置における前記検出データに基づいて、当該検出データが示す物体の近接度合いよりも低いしきい値を設定するステップと、
前記ピーク位置を含む一群の検出位置であって、前記検出データが示す物体の近接度合いが前記しきい値より高い一群の検出位置によって占められた前記検出面上の領域の面積に応じた評価値を算出するステップと、
前記評価値に基づいて、前記ピーク位置に近接した物体が指又は掌の何れであるかを判定するステップとを有し、
前記評価値を算出するステップは、
第1の方向へ連続して並んだ第1の検出位置群であって、その中に前記ピーク位置を含んでおり、かつ、前記検出データが示す前記近接度合いが前記しきい値より高い第1の検出位置群における前記検出位置の数を第1の検出位置数として計数するステップと、
前記第1の方向と直交する第2の方向へ連続して並んだ第2の検出位置群であって、その中に前記ピーク位置を含んでおり、かつ、前記検出データが示す前記近接度合いが前記しきい値より高い第2の検出位置群における前記検出位置の数を第2の検出位置数として計数するステップと、
前記第1の検出位置数と前記第2の検出位置数との積に応じた前記評価値を算出するステップとを含む
ことを特徴とする入力装置の制御方法。
【請求項7】
前記第1の検出位置数を計数するステップは、前記第1の検出位置群において、一の前記検出位置の前記検出データが示す前記近接度合いに比べて、当該一の検出位置に対し前記ピーク位置から遠い側で隣接する前記検出位置の前記検出データが示す前記近接度合いが所定の変化幅を超えて高い場合、当該一の検出位置より前記ピーク位置から離れた前記検出位置の数が除外された前記第1の検出位置数を計数し、
前記第2の検出位置数を計数するステップは、前記第2の検出位置群において、一の前記検出位置の前記検出データが示す前記近接度合いに比べて、当該一の検出位置に対し前記ピーク位置から遠い側で隣接する前記検出位置の前記検出データが示す前記近接度合いが所定の変化幅を超えて高い場合、当該一の検出位置より前記ピーク位置から離れた前記検出位置の数が除外された前記第2の検出位置数を計数する
ことを特徴とする請求項に記載の入力装置の制御方法。
【請求項8】
前記しきい値を設定するステップは、前記ピーク位置について生成された前記検出データが示す前記近接度合いに対して所定の割合の近接度合いを示す前記しきい値を設定する
ことを特徴とする請求項6又は7に記載の入力装置の制御方法。
【請求項9】
前記しきい値を設定するステップは、前記ピーク位置について生成された前記検出データが示す前記近接度合いに対して所定の値だけ低い近接度合いを示す前記しきい値を設定する
ことを特徴とする請求項6又は7に記載の入力装置の制御方法。
【請求項10】
前記複数の検出位置について生成された複数の前記検出データに基づいて、前記検出データに重畳するノイズのレベルを測定するノイズレベル測定ステップを有し、
前記しきい値を設定するステップは、前記ノイズレベルの測定結果に応じて前記しきい値を変更する
ことを特徴とする請求項6乃至9の何れか一項に記載の入力装置の制御方法。
【請求項11】
請求項6乃至10の何れか一項に記載された入力装置の制御方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電容量の変化などを利用して物体の近接状態に応じた情報を入力する入力装置とその制御方法及びプログラムに係り、特に、コンピュータ等の各種の情報機器において指やペンなどの操作に応じた情報を入力する入力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
静電容量の変化を検出するセンサは、簡易な構成で物体(指やペンなど)の近接を検出できることから、ノート型コンピュータのタッチパッドや、スマートフォンのタッチパネルなど、各種の電子機器のユーザインターフェース装置に広く用いられている。
【0003】
下記の特許文献1には、静電容量式のタッチパネルから出力される検知信号を用いて、物体のタッチパネルへの近接状態を判定するユーザインターフェース装置が記載されている。このユーザインターフェース装置は、タッチパネルに近接した物体が指又は掌の何れであるかを判別し、その判別結果とタッチパネル上の近接位置の座標に基づいて、実行するアプリケーションを選択する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−244132号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1には、タッチパネルに近接した物体が指又は掌の何れであるかを判別す方法として、静電容量変化の位置的な分布を利用する方法が記載されている。この方法では、静電容量変化の分布の山が比較的急峻であれば指であり、これが比較的緩やかであれば掌であると判別される。
しかしながら、分布の山の急峻さをどのように評価するかについて、特許文献1には具体的な記載がない。例えば、分布曲線の周波数スペクトルを調べることによりその急峻さ評価する方法が考えられるが、この方法では計算量が多くなり、処理時間が長くなるという問題がある。
【0006】
また特許文献1には、指と掌を判別する別の方法として、所定のしきい値より大きな静電容量変化が検出されたセンサ電極の本数を計数する方法が挙げられている。この計数値は、物体の接触領域の広さを表わしており、計数値が所定のしきい値より小さい場合は指が接触したと判定され、計数値がしきい値より大きい場合は掌が接触したと判定される。
しかしながら、この方法では、判定用のしきい値を低めに設定すると、指と掌との間で計数値の違いが小さくなるため、両者の判別が難しくなるという問題がある。一方、判定用のしきい値を高めに設定すると、静電容量変化が小さい場合(例えば軽く接触している場合など)に物体の接触を検出し難くなるという問題がある。
【0007】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、検出面に近接した物体が指又は掌の何れであるかを簡易な処理で正確に判定できる入力装置とその制御方法及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の観点は、検出面への物体の近接状態に応じた情報を入力する入力装置に関する。この入力装置は、前記検出面の複数の検出位置における物体の近接度合いを検出し、当該検出結果を示す検出データを前記複数の検出位置のそれぞれについて生成するセンサ部と、前記複数の検出位置について生成された複数の前記検出データに基づいて、物体の近接度合いが周囲に比べて高くなっている前記検出位置をピーク位置として特定するピーク位置特定部と、前記ピーク位置における前記検出データに基づいて、当該検出データが示す物体の近接度合いよりも低いしきい値を設定するしきい値設定部と、前記ピーク位置を含む一群の検出位置であって、前記検出データが示す物体の近接度合いが前記しきい値より高い一群の検出位置によって占められた前記検出面上の領域の面積に応じた評価値を算出する評価値算出部と、前記評価値に基づいて、前記ピーク位置に近接した物体が指又は掌の何れであるかを判定する判定部とを有する。
【0009】
上記の構成によれば、物体の近接度合いが周囲に比べて高くなっている前記ピーク位置の検出データに基づいて、当該ピーク位置の検出データが示す物体の近接度合いよりも低い前記しきい値が設定される。そして、前記ピーク位置を含む一群の検出位置であって、前記検出データが示す物体の近接度合いが前記しきい値より高い一群の検出位置によって占められた前記検出面上の領域の面積に応じた前記評価値が算出され、この評価値に基づいて、前記ピーク位置に近接した物体が指又は掌の何れであるかが判定される。これにより、前記検出データが前記しきい値を超える領域の面積に関して、指が近接した場合と掌が近接した場合とで差異が大きくなり、前記評価値に関しても両者の差異が大きくなる。そのため、前記評価値に基づいて指と掌とが正確に判別される。
【0010】
好適に、前記しきい値設定部は、前記ピーク位置について生成された前記検出データが示す前記近接度合いに対して所定の割合の近接度合いを示す前記しきい値を設定してよい。
あるいは、前記しきい値設定部は、前記ピーク位置について生成された前記検出データが示す前記近接度合いに対して所定の値だけ低い近接度合いを示す前記しきい値を設定してもよい。
【0011】
好適に、前記評価値算出部は、第1の方向へ連続して並んだ第1の検出位置群であって、その中に前記ピーク位置を含んでおり、かつ、前記検出データが示す前記近接度合いが前記しきい値より高い第1の検出位置群における前記検出位置の数を第1の検出位置数として計数してよい。前記評価値算出部は、前記第1の方向と直交する第2の方向へ連続して並んだ第2の検出位置群であって、その中に前記ピーク位置を含んでおり、かつ、前記検出データが示す前記近接度合いが前記しきい値より高い第2の検出位置群における前記検出位置の数を第2の検出位置数として計数してよい。前記評価値算出部は、前記第1の検出位置数と前記第2の検出位置数との積に応じた前記評価値を算出してよい。
これにより、前記評価値が簡易に算出される。
【0012】
好適に、前記評価値算出部は、前記第1の検出位置群において、一の前記検出位置の前記検出データが示す前記近接度合いに比べて、当該一の検出位置に対し前記ピーク位置から遠い側で隣接する前記検出位置の前記検出データが示す前記近接度合いが所定の変化幅を超えて高い場合、当該一の検出位置より前記ピーク位置から離れた前記検出位置の数が除外された前記第1の検出位置数を計数してよい。また、前記評価値算出部は、前記第2の検出位置群において、一の前記検出位置の前記検出データが示す前記近接度合いに比べて、当該一の検出位置に対し前記ピーク位置から遠い側で隣接する前記検出位置の前記検出データが示す前記近接度合いが所定の変化幅を超えて高い場合、当該一の検出位置より前記ピーク位置から離れた前記検出位置の数が除外された前記第2の検出位置数を計数してよい。
これにより、前記ピーク位置に近接する物体とは別の物体からの影響を受けて前記検出データが前記しきい値を超えている領域を、前記評価値の対象領域から除外することが可能となる。
【0013】
好適に、上記入力装置は、前記複数の検出位置について生成された複数の前記検出データに基づいて、前記検出データに重畳するノイズのレベルを測定するノイズレベル測定部を有してよい。前記しきい値設定部は、前記ノイズレベルの測定結果に応じて前記しきい値を変更してよい。
これにより、ノイズの影響による誤判定が生じ難くなる。
【0014】
本発明の第2の観点は、検出面の複数の位置において物体の近接の度合い検出し、当該検出結果を示す検出データを前記複数の位置のそれぞれについて生成するセンサ部を備えており、前記検出面への物体の近接状態に応じた情報を入力する入力装置をコンピュータが制御する方法に関する。この入力装置の制御方法は、前記複数の検出位置について生成された複数の前記検出データに基づいて、物体の近接度合いが周囲に比べて高くなっている前記検出位置をピーク位置として特定するステップと、前記ピーク位置における前記検出データに基づいて、当該検出データが示す物体の近接度合いよりも低いしきい値を設定するステップと、前記ピーク位置を含む一群の検出位置であって、前記検出データが示す物体の近接度合いが前記しきい値より高い一群の検出位置によって占められた前記検出面上の領域の面積に応じた評価値を算出するステップと、前記評価値に基づいて、前記ピーク位置に近接した物体が指又は掌の何れであるかを判定するステップとを有する。
【0015】
好適に、前記しきい値を設定するステップは、前記ピーク位置について生成された前記検出データが示す前記近接度合いに対して所定の割合の近接度合いを示す前記しきい値を設定してよい。
あるいは、前記しきい値を設定するステップは、前記ピーク位置について生成された前記検出データが示す前記近接度合いに対して所定の値だけ低い近接度合いを示す前記しきい値を設定してもよい。
【0016】
好適に、前記評価値を算出するステップは、第1の方向へ連続して並んだ第1の検出位置群であって、その中に前記ピーク位置を含んでおり、かつ、前記検出データが示す前記近接度合いが前記しきい値より高い第1の検出位置群における前記検出位置の数を第1の検出位置数として計数するステップと、前記第1の方向と直交する第2の方向へ連続して並んだ第2の検出位置群であって、その中に前記ピーク位置を含んでおり、かつ、前記検出データが示す前記近接度合いが前記しきい値より高い第2の検出位置群における前記検出位置の数を第2の検出位置数として計数するステップと、前記第1の検出位置数と前記第2の検出位置数との積に応じた前記評価値を算出するステップとを含んでよい。
【0017】
好適に、前記第1の検出位置数を計数するステップは、前記第1の検出位置群において、一の前記検出位置の前記検出データが示す前記近接度合いに比べて、当該一の検出位置に対し前記ピーク位置から遠い側で隣接する前記検出位置の前記検出データが示す前記近接度合いが所定の変化幅を超えて高い場合、当該一の検出位置より前記ピーク位置から離れた前記検出位置の数が除外された前記第1の検出位置数を計数してよい。また、前記第2の検出位置数を計数するステップは、前記第2の検出位置群において、一の前記検出位置の前記検出データが示す前記近接度合いに比べて、当該一の検出位置に対し前記ピーク位置から遠い側で隣接する前記検出位置の前記検出データが示す前記近接度合いが所定の変化幅を超えて高い場合、当該一の検出位置より前記ピーク位置から離れた前記検出位置の数が除外された前記第2の検出位置数を計数してよい。
【0018】
好適に、上記入力装置の制御用法は、前記複数の検出位置について生成された複数の前記検出データに基づいて、前記検出データに重畳するノイズのレベルを測定するノイズレベル測定ステップを有してよい。前記しきい値を設定するステップは、前記ノイズレベルの測定結果に応じて前記しきい値を変更してよい。
【0019】
本発明の第3の観点は、本発明の第2の観点に係る上記入力装置の制御方法をコンピュータに実行させるためのプログラムに関する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、検出面に近接した物体が指又は掌の何れであるかを、簡易な処理で正確に判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施形態に係る入力装置の構成の一例を示す図である。
図2】物体の近接による検出データの位置的な変化を表わすグラフの一例を示す図であり、指が近接した場合と掌が近接した場合との比較を示す。
図3】評価値算出部において算出される評価値について説明するための図である。図3Aは、ピーク位置の周辺において検出データがしきい値より高い値を持つ検出位置を表した図である。図3Bは、ピーク位置を通りX方向に並んだ一連の検出位置の検出データを表したグラフである。
図4】本実施形態に係る入力装置における指と掌の判別動作の一例を説明するためのフローチャートである。
図5】評価値算出部における評価値の算出処理の一例を説明するための第1のフローチャートである。
図6】評価値算出部における評価値の算出処理の一例を説明するための第2のフローチャートである。
図7】評価値算出部における評価値の算出処理の一例を説明するための第3のフローチャートである。
図8】評価値算出部における評価値の算出処理の一例を説明するための第4のフローチャートである。
図9】本実施形態に係る入力装置の一変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の実施形態に係る入力装置の構成の一例を示す図である。
図1に示す入力装置は、センサ部10と、処理部20と、記憶部30と、インターフェース部40を有する。本実施形態に係る入力装置は、センサが設けられた検出面に指やペンなどの物体を近接させることによって、その近接状態に応じた情報を入力する装置である。なお、本明細書における「近接」とは、接触した状態で近くにあることと、接触しない状態で近くにあることを両方含む。
【0023】
[センサ部10]
センサ部10は、検出面に分布する複数の検出位置において、指やペンなどの物体の近接の度合いをそれぞれ検出する。例えばセンサ部10は、物体の近接に応じて静電容量が変化する容量性センサ素子(キャパシタ)12がマトリクス状に形成されたセンサマトリクス11と、容量性センサ素子12の静電容量に応じた検出データを生成する検出データ生成部13と、容量性センサ素子12に駆動電圧を印加する駆動部14を有する。
【0024】
センサマトリクス11は、縦方向(Y方向)に延在した複数の駆動電極Lxと、横方向(X方向)に延在した複数の検出電極Lyを備える。複数の駆動電極Lxは横方向(X方向)へ平行に並び、複数の検出電極Lyは縦方向(Y方向)へ平行に並ぶ。複数の駆動電極Lxと複数の検出電極Lyが格子状に交差しており、互いに絶縁されている。駆動電極Lxと検出電極Lyの交差部付近に容量性センサ素子12が形成される。なお、図1の例では電極(Lx,Ly)の形状が短冊状に描かれているが、他の任意の形状(ダイヤモンドパターンなど)でもよい。
【0025】
駆動部14は、センサマトリクス11の各容量性センサ素子12に駆動電圧を印加する。具体的には、駆動部14は、処理部20の制御に従って、複数の駆動電極Lxから順番に一の駆動電極Lxを選択し、当該選択した一の駆動電極Lxの電位を周期的に変化させる。駆動電極Lxの電位が所定の範囲で変化することにより、この駆動電極Lxと検出電極Lyとの交差点付近に形成された容量性センサ素子12に印加される駆動電圧が所定の範囲で変化し、容量性センサ素子12において充電や放電が生じる。
【0026】
検出データ生成部13は、駆動部14による駆動電圧の印加に伴って容量性センサ素子12が充電又は放電される際に各検出電極Lyにおいて伝送される電荷に応じた検出データを生成する。すなわち、検出データ生成部13は、駆動部14の駆動電圧の周期的な変化と同期したタイミングで、各検出電極Lyにおいて伝送される電荷をサンプリングし、そのサンプリングの結果に応じた検出データを生成する。
【0027】
例えば、検出データ生成部13は、容量性センサ素子12の静電容量に応じた電圧を出力する静電容量−電圧変換回路(CV変換回路)と、CV変換回路の出力信号をデジタル信号に変換し、検出データとして出力するアナログ−デジタル変換回路(AD変換回路)を有する。
CV変換回路は、駆動部14の駆動電圧が周期的に変化して容量性センサ素子12が充電又は放電される度に、処理部20の制御に従って、検出電極Lyにおいて伝送される電荷をサンプリングする。具体的には、CV変換回路は、検出電極Lyにおいて正又は負の電荷が伝送される度に、この電荷若しくはこれに比例した電荷を参照用のキャパシタに移送し、参照用のキャパシタに発生する電圧に応じた信号を出力する。例えば、CV変換回路は、検出電極Lyにおいて周期的に伝送される電荷若しくはこれに比例した電荷の積算値や平均値に応じた信号を出力する。AD変換回路は、処理部20の制御に従って、CV変換回路の出力信号を所定の周期でデジタル信号に変換し、検出データとして出力する。
【0028】
なお、上述の例において示したセンサ部10は、電極間(Lx,Ly)に生じる静電容量(相互容量)の変化によって物体の近接を検出するものであるが、この例に限らず、他の種々の方式によって物体の近接を検出してもよい。例えば、センサ部10は、物体の接近によって電極とグランドの間に生じる静電容量(自己容量)を検出する方式でもよい。自己容量を検出する方式の場合、検出電極に駆動電圧が印加される。また、センサ部10は、静電容量方式に限定されるものではなく、例えば抵抗膜方式や電磁誘導式などでもよい。
【0029】
[処理部20]
処理部20は、入力装置の全体的な動作を制御する回路であり、例えば、記憶部30に格納されるプログラムの命令コードに従って処理を行うコンピュータや、特定の機能を実現するロジック回路を含んで構成される。処理部20の処理は、その全てをコンピュータとプログラムにより実現してもよいし、その一部若しくは全部を専用のロジック回路で実現してもよい。
【0030】
図1の例において、処理部20は、センサ制御部21と、2次元データ生成部22と、ピーク位置特定部23と、しきい値設定部24と、評価値算出部25と、判定部26を有する。
【0031】
センサ制御部21は、検出面の複数の検出位置(センサマトリクス11の各容量性センサ素子12)における検出データを1サイクルごとに生成する周期的な検出動作を行うようにセンサ部10を制御する。具体的には、センサ制御部21は、駆動部14における駆動電極の選択とパルス電圧の発生、並びに、検出データ生成部13における検出電極の選択と検出データの生成が周期的に適切なタイミングで行われるように、これらの回路を制御する。
【0032】
2次元データ生成部22は、センサ部10の検出結果に基づいて、操作面の複数の位置における物体の近接の度合を示す複数の検出データを含んだ行列形式の2次元データ31を生成し、記憶部30に格納する。
【0033】
例えば2次元データ生成部22は、センサ部10から出力される検出データを、行列形式で記憶部30の記憶領域(現在値メモリ)に格納する。2次元データ生成部22は、現在値メモリに格納した行列形式の検出データと、記憶部30の別の記憶領域(ベース値メモリ)に予め格納した行列形式のベース値との差を演算し、それらの演算結果を2次元データ31として記憶部30に格納する。ベース値メモリには、検出面に物体が近接していない状態における検出データの基準となる値(ベース値)が記憶される。2次元データ31の各要素は、物体が検出面に近接していない状態からの検出データの変化量(検出データΔD)を表す。
【0034】
ピーク位置特定部23は、2次元データ生成部22において生成された2次元データ31に基づいて、物体の近接度合いが周囲に比べて高くなっている検出位置を「ピーク位置P」として特定する。
【0035】
例えばピーク位置特定部23は、2次元データ31の各検出データΔDを順に選択し、当該選択した検出データΔDとこれに隣接する周囲の検出データΔDとをそれぞれ比較する。選択した検出データΔDが隣接する検出データΔDに比べて何れも高い値を有する場合(例えば、選択した検出データΔDと隣接する検出データΔDとの差が何れも所定のしきい値を超える場合)、ピーク位置特定部23は、当該選択した検出データΔDに対応する検出面上の検出位置をピーク位置Pとして特定する。
【0036】
なお、ピーク位置特定部23は、上述のように2次元データ31の検出データΔDに基づいてピーク位置Pを特定してもよいし、ベース値が減算されていない元の検出データに基づいてピーク位置Pを特定してもよい。
【0037】
また、ピーク位置特定部23は、検出データΔDが示す物体の近接度合いが所定の値より低い検出位置については、周囲に比べて相対的に近接度合いが高い場合でも、ピーク位置Pとして特定しないようにしてもよい。これにより、ノイズによって生じた検出データΔDのピークが物体の近接によるものとして処理され難くなる。
【0038】
ピーク位置特定部23は、一のピーク位置Pを特定した場合、これに一の識別番号iを割り当てる。識別番号iは、検出面に近接した個々の物体を識別するための情報である。ピーク位置特定部23は、一の識別番号iが割り当てられたピーク位置P(以下“P[i]”と記す)と、このピーク位置P[i]に対応する検出データΔD(以下“ΔD(P[i])”と記す)を一まとまりの情報(近接物情報32)として記憶部30に保存する。
【0039】
しきい値設定部24は、ピーク位置P[i]における検出データΔD(P[i])に基づいて、この検出データΔD(P[i])が示す物体の近接度合いよりも低いしきい値ΔDth[i]を設定する。
【0040】
例えば、しきい値設定部24は、検出データΔD(P[i])が示す物体の近接度合いに対して所定の割合の近接度合いを示すようにしきい値ΔDth[i]を設定する。具体的には、しきい値設定部24は、検出データΔD(P[i])に所定の係数K(0<K<1)を乗算して得られる値をしきい値ΔDth[i]として設定する。しきい値設定部24は、しきい値ΔDth[i]を近接物情報32に付属する情報として記憶部30に保存する。
【0041】
評価値算出部25は、ピーク位置P[i]の周辺でしきい値ΔDth[i]よりも近接度合いが高い領域の面積に応じた評価値S[i]を算出する。すなわち、評価値算出部25は、ピーク位置P[i]を含む一群の検出位置であって、検出データΔDが示す物体の近接度合いがしきい値ΔDth[i]より高い一群の検出位置によって占められた検出面上の領域の面積に応じた評価値S[i]を算出する。
【0042】
例えば、評価値算出部25は、検出面上のX方向へ等間隔で連続して並んでおり、その中にピーク位置P[i]を含んでおり、かつ、検出データΔDが示す物体の近接度合いがしきい値ΔDth[i]より高い一群の検出位置である「第1の検出位置群」について、その検出位置の数(第1の検出位置数)を計数する。また、評価値算出部25は、検出面上のY方向へ等間隔で連続して並んでおり、その中にピーク位置P[i]を含んでおり、かつ、検出データΔDが示す物体の近接度合いがしきい値ΔDth[i]より高い一群の検出位置である「第2の検出位置群」について、その検出位置の数(第2の検出位置数)を計数する。評価値算出部25は、この第1の検出位置数と第2の検出位置数との積に応じた評価値S[i]を算出する。
【0043】
ただし、評価値算出部25は、上述した第1の検出位置数,第2の検出位置数を計数する場合に、別の物体の影響によって検出データΔDの値が高くなっている領域を評価値S[i]の対象領域に含めないようにするため、次に述べる制約を設けている。
すなわち評価値算出部25は、第1の検出位置群において、一の検出位置の検出データΔDが示す近接度合いに比べて、当該一の検出位置に対しピーク位置P[i]から遠い側で隣接する検出位置の検出データΔDが示す近接度合いが所定の変化幅Wthを超えて高い場合、当該一の検出位置よりピーク位置Pから離れた検出位置の数が除外された第1の検出位置数を計数する。また、評価値算出部25は、第2の検出位置群において、一の検出位置の検出データΔDが示す近接度合いに比べて、当該一の検出位置に対しピーク位置Pから遠い側で隣接する検出位置の検出データΔDが示す近接度合いが変化幅Wthを超えて高い場合、当該一の検出位置よりピーク位置Pから離れた検出位置の数が除外された第2の検出位置数を計数する。
つまり、ピーク位置Pから遠ざかっているにも関わらず近接度合いが変化幅Wthを超えて高くなった場合、その位置より先(ピーク位置Pより更に遠ざかる方向)は別の物体の近接による影響を受けた領域であることが予想されるため、評価値S[i]の対象領域から除外される。
【0044】
評価値算出部25は、算出した評価値S[i]を近接物情報32に付属する情報として記憶部30に保存する。
【0045】
判定部26は、評価値算出部25において算出された評価値S[i]に基づいて、ピーク位置P[i]に近接した物体が指又は掌の何れであるかを判定する。例えば判定部26は、評価値S[i]を所定のしきい値Sthと比較し、評価値S[i]がしきい値Sthより大きい場合は掌であると判定し、評価値S[i]がしきい値Sthより小さい場合は指であると判定する。判定部26は、この判定結果も近接物情報32に付属する情報として識別番号iごとに記憶部30に保存する。
【0046】
また、判定部26は、近接する物体のうち1つでも掌であると判定した場合、検出面における物体の接触状態を「掌接触状態」と判定し、近接する物体が全て指であると判定した場合は「指接触状態」と判定する。この接触状態は、後述するインターフェース部40を通じて他の制御装置に伝送され、手指の操作によるユーザインターフェースに利用される。例えば「掌接触状態」の場合、物体の接触位置の情報が無視されて、特定のアプリケーションが実行される。
【0047】
[記憶部30]
記憶部30は、処理部20において処理に使用される定数データや変数データを記憶する。処理部20がコンピュータを含む場合、記憶部30は、そのコンピュータにおいて実行されるプログラムを記憶してもよい。記憶部30は、例えば、DRAMやSRAMなどの揮発性メモリ、フラッシュメモリなどの不揮発性メモリ、ハードディスクなどを含んで構成される。
【0048】
[インターフェース部40]
インターフェース部40は、入力装置と他の制御装置(入力装置を搭載する情報機器のコントロール用ICなど)との間でデータをやり取りするための回路である。処理部20は、記憶部30に記憶される情報(物体の座標情報、物体数、接触状態など)をインターフェース部40から図示しない制御装置へ出力する。また、インターフェース部40は、処理部20のコンピュータにおいて実行されるプログラムを不図示のディスクドライブ装置(非一時的記録媒体に記録されたプログラムを読み取る装置)やサーバなどから取得して、記憶部30にロードしてもよい。
【0049】
次に、上述した構成を有する入力装置における指と掌の判別動作について説明する。
【0050】
図2は、物体の近接による検出データΔDの位置的な変化を表わすグラフの一例を示す図であり、指が近接した場合と掌が近接した場合との比較を示す。図2において示すように、指が近接した場合、検出データΔDがピーク値に近い値を持つ領域が狭くなっており、ピーク位置に比較的近い所から検出データΔDの下降が始まっている。一方、掌が近接した場合は、検出データΔDがピーク値に近い値を持つ領域が指に比べて広くなっており、ピーク位置から比較的離れたところで検出データΔDの下降が始まっている。
【0051】
図2において“ΔDth1”と“ΔDth2”は、しきい値設定部24により設定されるしきい値を示す。“ΔDth1”は「指」の場合のしきい値を示し、“ΔDth2”は「掌」の場合のしきい値を示す。図2の例において、しきい値ΔDth1,ΔDth2は、ピーク位置P1,P2の検出データΔDに対して80%の値に設定されている。「指」の場合、検出データΔDがピーク値に近い値を持つ領域が狭いため、検出データΔDの値がしきい値Dth1を超える領域が狭くなる。これに対し、「掌」の場合は、検出データΔDがピーク値に近い値を持つ領域が広いため、検出データΔDの値がしきい値Dth2を超える領域が広くなる。つまり、「指」の場合と「掌」の場合とでは、検出データΔDの値がしきい値を超える領域の面積が大きく異なる。その結果、評価値算出部25により算出される評価値Sは、「指」の場合と「掌」の場合とで大きく異なる。
【0052】
一方、図2において“TH”は固定のしきい値を示す。仮にしきい値を固定値とした場合、「指」と「掌」の両方を確実に検出できるようにするため、しきい値はある程度低い値に設定する必要がある。ところが、しきい値が低くなると、図2において示すように、検出データΔDの値がしきい値を超える領域の幅に関して、「指」と「掌」との差異が小さくなる。すなわち、検出データΔDの値がしきい値を超える領域の面積に関して「指」と「掌」との差異が小さくなり、評価値Sについても両者の差異は小さくなる。
【0053】
判定部26では、評価値Sがしきい値Sthより大きいか否かによって「指」と「掌」が判別されるため、「指」と「掌」の評価値Sの差異が大きいほど判別精度が向上する。従って、本実施形態に係る入力装置では、しきい値ΔDthをピーク位置Pの検出データΔDに応じて相対的に変化させることにより、固定のしきい値を用いる場合に比べて「指」と「掌」との判別精度が向上する。
【0054】
図3は、評価値算出部25において算出される評価値Sについて説明するための図である。図3Aは、ピーク位置Pの周辺において検出データΔDがしきい値ΔDthより高い値を持つ検出位置を示す。図3Bは、このピーク位置Pを通りX方向に並んだ一連の検出位置における検出データΔDを表したグラフである。
【0055】
図3Aには、X方向へ連続して並んだ検出位置の列とY方向へ連続して並んだ検出位置の列がそれぞれ図解されている。黒い丸印“●”は、検出データΔDの値がしきい値ΔDthより高い検出位置を示し、白い丸印“○”は、検出データΔDの値がしきい値ΔDthより低い検出位置を示す。2本の検出位置の列は、ピーク位置Pにおいて直角に交差している。2本の検出位置の列において、X方向に連続して並ぶ黒い丸印“●”の集まりが第1の検出位置群51であり、Y方向に連続して並ぶ黒い丸印“●”の集まりが第2の検出位置群52である。評価値算出部25は、第1の検出位置群51に含まれる検出位置の数(第1の検出位置数)と、第2の検出位置群52に含まれる検出位置の数(第2の検出位置数)との積を評価値Sとして算出する。
【0056】
図3Aにおいて示すように、第1の検出位置数は、検出データΔDがしきい値ΔDthより高い値を持つ領域のX方向への広がりを示し、第2の検出位置数は、検出データΔDがしきい値ΔDthより高い値を持つ領域のY方向への広がりを示す。従って、第1の検出位置数と第2の検出位置数との積である評価値Sは、検出データΔDがしきい値ΔDthより高い値を持つ領域を矩形とみなした場合における、その矩形領域の面積に応じた大きさを持つ。
【0057】
ただし、第1の検出位置群51では、ピーク位置Pに対して右側2番目の検出位置の検出データΔDに比べて、その更に右側に隣接する検出位置の検出データΔDが高い値を有しており、その差Wが変化幅Wthを超えている。これは、ピーク位置Pに対応する指FNG1の右側に別の指FNG2が存在し、その影響によって検出データΔDの値が上昇したためである。そのため、評価値算出部25は、第1の検出位置群51のうちピーク位置Pに対して右側の2番目の検出位置よりピーク位置Pから離れた検出位置(すなわち、ピーク位置Pに対して右側の3番目以降の検出位置)の数を、第1の検出位置数から除外する。これにより、図3の例では、第1の検出位置数はピーク位置Pを含めて「6」となる。
【0058】
図4は、本実施形態に係る入力装置における指と掌の判別動作の一例を説明するためのフローチャートである。
【0059】
動作を開始する際、2次元データ生成部22は、記憶部30のベース値メモリに格納した各検出位置のベース値をそれぞれ所定の値に初期化する(ST100)。
【0060】
2次元データ生成部22は、センサ部10から各検出位置の検出データを周期的に入力し(ST110)、入力した検出データとベース値メモリに格納したベース値との差を演算し、その演算結果を各検出位置の検出データΔDとして記憶部30に格納する(ST120)。
【0061】
ピーク位置特定部23は、記憶部30に格納された各検出位置の検出データΔDに基づいて、物体の近接度合が周囲に比べて高くなっているピーク位置Pを特定するとともに、ピーク位置Pが特定された物体の数Mを計数する(ST130)。また、ピーク位置特定部23は、特定したM個のピーク位置Pの各々に「0」から「M−1」までの識別番号i(0≦i≦M−1)を割り当てる。
【0062】
しきい値設定部24は、識別番号iを「0」に初期化し(ST140)、ピーク位置P[i]における検出データΔD(P[i])に基づいてしきい値ΔDth[i]を設定する(ST150)。しきい値設定部24は、検出データΔD(P[i])に所定の係数K(0<K<1))を乗算し、その乗算結果をしきい値ΔDth[i]として設定する。
【0063】
しきい値設定部24においてしきい値ΔDth[i]が設定されると、評価値算出部25は、ピーク位置P[i]の周辺でしきい値ΔDth[i]よりも近接度合いが高い領域の面積に応じた評価値S[i]を算出する(ST160)。
【0064】
評価値算出部25において評価値S[i]が算出されると、しきい値設定部24は識別番号iを1だけインクリメントし(ST170)、インクリメント後の識別番号iを物体数Mと比較する(ST180)。識別番号iが物体数Mより小さい場合、しきい値設定部24はステップST50に戻り、再びしきい値ΔDth[i]の設定を行う。
【0065】
識別番号iが物体数Mに達した場合、判定部26は、ステップST160において算出された評価値S[0]〜S[M−1]をそれぞれしきい値Sthと比較する(ST190)。評価値S[0]〜S[M−1]の何れか1つでもしきい値Sthを超える場合、判定部26は、接触状態を「掌接触状態」と判定する(ST200)。評価値S[0]〜S[M−1]が全てしきい値Sthより小さい場合、判定部26は、接触状態を「指接触状態」と判定する(ST210)。
【0066】
図5図8は、評価値算出部25における評価値Sの算出処理(ST160)の一例を説明するためのフローチャートである。
【0067】
まず評価値算出部25は、検出データΔDがしきい値ΔDth[i]を超える矩形領域のX方向の境界を定めるX座標(XP、XN)及びY座標(YP、YN)をピーク位置P[i]の座標に初期化する(ST300)。すなわち、評価値算出部25は、“XP”,“XN”をピーク位置P[i]のX座標である“X(P[i])”に初期化し、“YP”,“YN”をピーク位置P[i]のY座標である“Y(P[i])”に初期化する。
【0068】
なお、ここで「X座標」は、検出位置のマトリクス状の配列におけるX方向(図3Aの例では左から右へ向かう方向)の順番を示しており、最小値Xminから最大値Xmaxまでの整数値を有する。また「Y座標」は、検出位置のマトリクス状の配列におけるY方向(図3Aの例では上から下へ向かう方向)の順番を示しており、最小値Yminから最大値Ymaxまでの整数値を有する。
【0069】
次に評価値算出部25は、検出データΔDがしきい値ΔDth[i]を超える矩形領域の境界の座標“XP”,“XN”,“YP”,“YN”をそれぞれ検索する。評価値算出部25は、ステップST310〜ST350(図5)において“XP”を検索し、ステップST410〜ST450(図6)において“XN”を検索し、ステップST510〜ST550(図7)において“YP”を検索し、ステップST610〜ST650(図8)において“YN”を検索する。
以下、検出位置のX座標及びY座標を“(X,Y)”で表す。
【0070】
ST310〜ST350:
評価値算出部25は、座標“XP+1”と最大値Xmaxを比較する(ST310)。座標“XP+1”が最大値Xmaxを超える場合、評価値算出部25は、座標“XP”の検索を終了してステップST410に移行する。
座標“XP+1”が最大値Xmax以下の場合、評価値算出部25は、座標“(XP+1,Y(P[i])”の検出位置における検出データ“ΔD(XP+1,Y(P[i]))”をしきい値ΔDth[i]と比較する(ST320)。
検出データ“ΔD(XP+1,Y(P[i]))”がしきい値ΔDth[i]より低い場合、評価値算出部25は、座標“XP”の検索を終了してステップST410に移行する。
検出データ“ΔD(XP+1,Y(P[i]))”がしきい値ΔDth[i]より高い場合、評価値算出部25は、検出データ“ΔD(XP+1,Y(P[i]))”から検出データ“ΔD(XP,Y(P[i]))”を減算した差“W”を算出し(ST330)、これを所定の変化幅Wthと比較する(ST340)。
評価値算出部25は、差“W”が変化幅Wthより小さい場合、座標“XP”を1だけインクリメントさせ(ST350)、ステップST310以降の処理を繰り返す。差“W”が変化幅Wthを超える場合、評価値算出部25は、座標“XP”の検索を終了してステップST410に移行する。
【0071】
ST410〜ST450:
評価値算出部25は、座標“XN−1”と最小値Xminを比較する(ST410)。座標“XN−1”が最小値Xminより小さい場合、評価値算出部25は、座標“XN”の検索を終了してステップST510に移行する。
座標“XN−1”が最小値Xmix以上の場合、評価値算出部25は、座標“(XN−1,Y(P[i])”の検出位置における検出データ“ΔD(XN−1,Y(P[i]))”をしきい値ΔDth[i]と比較する(ST420)。
検出データ“ΔD(XN−1,Y(P[i]))”がしきい値ΔDth[i]より低い場合、評価値算出部25は、座標“XN”の検索を終了してステップST510に移行する。
検出データ“ΔD(XN−1,Y(P[i]))”がしきい値ΔDth[i]より高い場合、評価値算出部25は、検出データ“ΔD(XN−1,Y(P[i]))”から検出データ“ΔD(XN,Y(P[i]))”を減算した差“W”を算出し(ST430)、これを所定の変化幅Wthと比較する(ST440)。
評価値算出部25は、差“W”が変化幅Wthより小さい場合、座標“XN”を1だけデクリメントさせ(ST450)、ステップST410以降の処理を繰り返す。差“W”が変化幅Wthを超える場合、評価値算出部25は、座標“XN”の検索を終了してステップST510に移行する。
【0072】
ST510〜ST550:
評価値算出部25は、座標“YP+1”と最大値Ymaxを比較する(ST510)。座標“YP+1”が最大値Ymaxを超える場合、評価値算出部25は、座標“YP”の検索を終了してステップST610に移行する。
座標“YP+1”が最大値Ymax以下の場合、評価値算出部25は、座標“(X(P[i]),YP+1)”の検出位置における検出データ“ΔD(X(P[i]),YP+1)”をしきい値ΔDth[i]と比較する(ST520)。
検出データ“ΔD(X(P[i]),YP+1)”がしきい値ΔDth[i]より低い場合、評価値算出部25は、座標“YP”の検索を終了してステップST610に移行する。
検出データ“ΔD(X(P[i]),YP+1)”がしきい値ΔDth[i]より高い場合、評価値算出部25は、検出データ“ΔD(X(P[i]),YP+1))”から検出データ“ΔD(X(P[i]),YP)”を減算した差“W”を算出し(ST530)、これを所定の変化幅Wthと比較する(ST540)。
評価値算出部25は、差“W”が変化幅Wthより小さい場合、座標“YP”を1だけインクリメントさせ(ST550)、ステップST510以降の処理を繰り返す。差“W”が変化幅Wthを超える場合、評価値算出部25は、座標“YP”の検索を終了してステップST610に移行する。
【0073】
ST610〜ST650:
評価値算出部25は、座標“YN−1”と最小値Yminを比較する(ST610)。座標“YN−1”が最小値Yminをより小さい場合、評価値算出部25は、座標“YN”の検索を終了してステップST660に移行する。
座標“YN−1”が最小値Ymin以上の場合、評価値算出部25は、座標“(X(P[i]),YN−1)”の検出位置における検出データ“ΔD(X(P[i]),YN−1)”をしきい値ΔDth[i]と比較する(ST620)。
検出データ“ΔD(X(P[i]),YN−1)”がしきい値ΔDth[i]より低い場合、評価値算出部25は、座標“YN”の検索を終了してステップST660に移行する。
検出データ“ΔD(X(P[i]),YN−1)”がしきい値ΔDth[i]より高い場合、評価値算出部25は、検出データ“ΔD(X(P[i]),YN−1)”から検出データ“ΔD(X(P[i]),YN)”を減算した差“W”を算出し(ST630)、これを所定の変化幅Wthと比較する(ST640)。
評価値算出部25は、差“W”が変化幅Wthより小さい場合、座標“YN”を1だけデクリメントさせ(ST650)、ステップST610以降の処理を繰り返す。差“W”が変化幅Wthを超える場合、評価値算出部25は、座標“YN”の検索を終了してステップST660に移行する。
【0074】
座標“XP”,“XN”,“YP”,“YN”をそれぞれ検索すると、評価値算出部25は、矩形領域のX方向における検出位置の数“XP−XN+1”と、矩形領域のY方向における検出位置の数“YP−YN+1”との積を評価値S[i]として算出する(ST660)。
【0075】
以上説明したように、本実施形態に係る入力装置によれば、物体の近接度合いが周囲に比べて高くなっているピーク位置Pの検出データΔDに基づいて、当該ピーク位置Pの検出データΔDが示す物体の近接度合いよりも低いしきい値ΔDthが設定される。そして、このピーク位置Pを含む一群の検出位置であって、検出データΔDが示す物体の近接度合がしきい値ΔDthより高い一群の検出位置によって占められた検出面上の領域の面積に応じた評価値Sが算出され、当該評価値Sに基づいて、ピーク位置Pに近接した物体が指又は掌の何れであるかが判定される。
これにより、検出データΔDの値がしきい値ΔDthを超える領域の面積に関して「指」と「掌」との差異が大きくなり、評価値Sについても両者の差異が大きくなる。そのため、固定のしきい値を用いる場合に比べて、「指」と「掌」との判別を正確に行うことができる。
【0076】
また、本実施形態に係る入力装置によれば、ピーク位置Pの周囲で検出データΔDの値がしきい値ΔDthを超える領域の面積に応じた評価値Sを用いるため、スペクトル解析などの複雑な処理が不要であり、簡易な処理で「指」と「掌」の判別を行うことができる。
【0077】
更に、本実施形態に係る入力装置によれば、検出面上のX方向へ連続して並んでおり、その中にピーク位置Pが含まれており、かつ、検出データΔDが示す物体の近接度合いがしきい値ΔDthより高い「第1の検出位置群」について、その検出位置の数(第1の検出位置数)が計数される。また、検出面上のY方向へ連続して並んでおり、その中にピーク位置Pが含まれており、かつ、検出データΔDが示す物体の近接度合いがしきい値ΔDthより高い「第2の検出位置群」について、その検出位置の数(第2の検出位置数)が計数される。そして、この第1の検出位置数と第2の検出位置数との積に応じた評価値Sが算出される。これにより、評価値Sを簡易に算出できるため、「指」と「掌」をより簡易な処理で判別できる。
【0078】
また、本実施形態に係る入力によれば、X方向に並ぶ第1の検出位置群において、一の検出位置の検出データΔDが示す近接度合いに比べて、当該一の検出位置に対しピーク位置Pから遠い側で隣接する検出位置の検出データΔDが示す近接度合いが所定の変化幅Wthを超えて高い場合、当該一の検出位置よりピーク位置Pから離れた検出位置の数が除外された第1の検出位置数が計数される。また、Y方向に並ぶ第2の検出位置群において、一の検出位置の検出データΔDが示す近接度合いに比べて、当該一の検出位置に対しピーク位置Pから遠い側で隣接する検出位置の検出データΔDが示す近接度合いが変化幅Wthを超えて高い場合、当該一の検出位置よりピーク位置Pから離れた検出位置の数が除外された第2の検出位置数が計数される。これにより、ピーク位置Pに近接する物体とは別の物体からの影響を受けて検出データΔDがしきい値ΔDthより高くなっている領域を、評価値Sの対象領域から除外できる。従って、別の物体が検出面に近接している場合でも、ピーク位置Pに近接する物体の近接領域の広さを評価値Sによって正確に表すことが可能となり、「指」と「掌」との判別を正確に行うことができる。
【0079】
以上、本発明の種々の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態にのみ限定されるものではなく、種々のバリエーションを含んでいる。
【0080】
上述した実施形態では、ピーク位置Pの検出データΔDの近接度合いに対して所定の割合の近接度合いを示すしきい値ΔDthが設定される例を挙げているが、本発明はこれに限定されない。本発明の他の実施形態では、ピーク位置Pの検出データΔDが示す近接度合いに対して所定の値αだけ低い近接度合いを示すように、しきい値設定部24においてしきい値ΔDthを設定してもよい(ΔDth=ΔD−α)。この場合も、ピーク位置Pの検出データΔDが示す近接度合いが変化すると、これに応じてしきい値ΔDthが相対的に変化するため、検出データΔDの値がしきい値ΔDthを超える領域の面積に関して、「指」と「掌」との差異を大きくすることができる。従って、「指」と「掌」の評価値Sの差異を大きくすることができるため、「指」と「掌」の判別精度を向上できる。
【0081】
また、上述した実施形態では、ピーク位置Pの検出データΔDに応じてしきい値ΔDthが相対的に変化する例を挙げたが、本発明の他の実施形態では、ノイズレベルの測定値に応じてしきい値ΔDthを更に調節してもよい。図9は、その一変形例を示す図である。図9に示す入力装置は、図1に示す入力装置と同様の構成を有するとともに、処理部20に含まれる処理ブロックとして、ノイズレベル測定部27を有する。ノイズレベル測定部27は、検出面の複数の検出位置について生成された複数の検出データΔD(ベース値を減算する前の検出データでもよい)に基づいて、値の変動の大きさなどから、検出データΔDに重畳するノイズのレベルを測定する。しきい値設定部24は、ノイズレベル測定部27によるノイズレベルの測定結果に応じて、しきい値ΔDthを変更する。例えばしきい値設定部24は、ノイズレベルが大きい場合には、ノイズを指や掌として誤認識しないようにするため、しきい値ΔDthを上昇させる。
このように、しきい値ΔDthをノイズレベルに応じて変更することにより、ノイズによる誤判定を生じ難くすることができる。
【0082】
本発明の入力装置は、指等の操作による情報を入力するユーザインターフェース装置に限定されない。すなわち、本発明の入力装置は、人体に限定されない様々な物体の検出面への近接状態に応じた情報を入力する装置に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0083】
10…センサ部、11…センサマトリクス、13…検出データ生成部、14…駆動部、20…処理部、21…センサ制御部、22…2次元データ生成部、23…ピーク位置特定部、24…しきい値設定部、25…評価値算出部、26…判定部、27…ノイズレベル測定部、30…記憶部、40…インターフェース部。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9