特許第6279269号(P6279269)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6279269
(24)【登録日】2018年1月26日
(45)【発行日】2018年2月14日
(54)【発明の名称】真空吸着装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/683 20060101AFI20180205BHJP
   C04B 41/85 20060101ALI20180205BHJP
   C04B 41/87 20060101ALI20180205BHJP
   C04B 38/00 20060101ALI20180205BHJP
   C04B 41/91 20060101ALI20180205BHJP
   B25J 15/06 20060101ALN20180205BHJP
【FI】
   H01L21/68 P
   C04B41/85 B
   C04B41/87 A
   C04B38/00 303Z
   C04B41/91 D
   !B25J15/06 D
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-198671(P2013-198671)
(22)【出願日】2013年9月25日
(65)【公開番号】特開2015-65327(P2015-65327A)
(43)【公開日】2015年4月9日
【審査請求日】2016年8月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保田 紀子
(72)【発明者】
【氏名】梅津 基宏
【審査官】 儀同 孝信
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−128633(JP,A)
【文献】 特開2013−157571(JP,A)
【文献】 特開2010−123843(JP,A)
【文献】 特開平11−283899(JP,A)
【文献】 特開平01−231345(JP,A)
【文献】 特開平06−132387(JP,A)
【文献】 特開2013−074206(JP,A)
【文献】 特開2008−177303(JP,A)
【文献】 特開2012−119591(JP,A)
【文献】 特開2005−032977(JP,A)
【文献】 特表2011−510488(JP,A)
【文献】 特開平10−022184(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
C04B 38/00
C04B 41/85
C04B 41/87
C04B 41/91
B25J 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨格粒子としてのセラミックス粒子が結合材粒子によって結合されることにより構成され、上端部において物体を支持する突起が上側に形成されているセラミックス多孔質体と、
前記セラミックス多孔質体の側部および下部の一部に対して前記結合材粒子により封止されている界面が形成されるように接合され、当該界面とは異なる部分において前記セラミックス多孔質体の気孔に連通する吸引孔が形成されているセラミックス緻密質体と、を備え、
前記セラミックス多孔質体の上部において定義される複数の領域として中央領域と、前記中央領域を環状に囲む環状領域とが定義され、前記中央領域における突起上端面密度が、前記環状領域における突起上端面密度よりも低くなるように、前記突起の上端面積および配置のうち一方または両方が調節されていることを特徴とする真空吸着装置。
【請求項2】
骨格粒子としてのセラミックス粒子が結合材粒子によって結合されることにより構成され、上端部において物体を支持する突起が上側に形成されているセラミックス多孔質体と、
前記セラミックス多孔質体の側部および下部の一部に対して前記結合材粒子により封止されている界面が形成されるように接合され、当該界面とは異なる部分において前記セラミックス多孔質体の気孔に連通する吸引孔が形成されているセラミックス緻密質体と、を備え、
前記セラミックス多孔質体の上部において定義される複数の領域として中央領域と、前記中央領域を環状に囲む環状領域とが定義され、前記中央領域における突起上端面密度が、前記環状領域における突起上端面密度よりも低くなるように、かつ、複数の前記環状領域のうち一の環状領域における突起上端面密度が、前記一の環状領域の外側にある他の環状領域における突起上端面密度よりも高くなるように、前記突起の上端面積および配置のうち一方または両方が調節されていることを特徴とする真空吸着装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の真空吸着装置において、
前記中央領域に対する前記環状領域の突起上端面密度比が4〜25の範囲に含まれるように、前記突起の上端面積および配置のうち一方または両方が調節されていることを特徴とする真空吸着装置。
【請求項4】
請求項記載の真空吸着装置において、
前記一の環状領域に対する前記他の環状領域の突起上端面密度比が0.25〜6.25の範囲に含まれるように、前記突起の上端面積および配置のうち一方または両方が調節されていることを特徴とする真空吸着装置。
【請求項5】
請求項1〜4のうちいずれか1つに記載の真空吸着装置において、
前記セラミックス多孔質体の上部に複数の突起が分散配置されるように形成され、
前記複数の領域のそれぞれにおける前記複数の突起の配置態様が同一である一方、前記複数の領域のそれぞれにおける前記複数の突起の上端部の面積が差別化されることにより、前記複数の領域のそれぞれにおける突起上端面密度が差別化されていることを特徴とする真空吸着装置。
【請求項6】
請求項1〜4のうちいずれか1つに記載の真空吸着装置において、
前記セラミックス多孔質体の上部に複数の突起が分散配置されるように形成され、
前記複数の領域のそれぞれにおける前記複数の突起の上端部の面積が同一である一方、前記複数の領域のそれぞれにおける前記複数の突起の配置態様が差別化されることにより、前記複数の領域のそれぞれにおける突起上端面密度が差別化されていることを特徴とする真空吸着装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば、ラップ等の湿式加工を行うために半導体ウエハまたはガラス基板などの対象物を真空吸着する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ウエハ(試料)を支持する複数の突起が形成されているセラミックス多孔質体からなる載置部と、セラミックス多孔質体の気孔に連通する吸引孔が形成され、セラミックス多孔質体の周縁部を封止するように載置部を支持する支持部とを備えている真空吸着装置が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3817613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、たとえば周辺部が中央部よりも上に反っているウエハが載置部に載置された際、このウエハが複数の突起のうち一部の突起(たとえば中央部の突起)に当接する一方、他の突起から浮き上がった状態になる。このため、ウエハの重力が一部の突起に集中的に作用し、当該一部の突起を構成するセラミックス多孔質体の脱粒に由来するパーティクルの発生頻度、ひいてはウエハへの付着頻度が高くなる可能性がある。
【0005】
そこで、本発明は、ウエハ等の吸着対象である物体に反り等の変形が存在する場合であっても、当該物体に対するパーティクルの付着頻度の低減を図ることができる真空吸着装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、次の(1)〜()の真空吸着装置を提供する。
【0007】
(1)骨格粒子としてのセラミックス粒子が結合材粒子によって結合されることにより構成され、上端部において物体を支持する突起が上側に形成されているセラミックス多孔質体と、
前記セラミックス多孔質体の側部および下部の一部に対して前記結合材粒子により封止されている界面が形成されるように接合され、当該界面とは異なる部分において前記セラミックス多孔質体の気孔に連通する吸引孔が形成されているセラミックス緻密質体と、を備え、
前記セラミックス多孔質体の上部において定義される複数の領域として中央領域と、前記中央領域を環状に囲む環状領域とが定義され、前記中央領域における突起上端面密度が、前記環状領域における突起上端面密度よりも低くなるように、前記突起の上端面積および配置のうち一方または両方が調節されている真空吸着装置。
【0009】
(2)骨格粒子としてのセラミックス粒子が結合材粒子によって結合されることにより構成され、上端部において物体を支持する突起が上側に形成されているセラミックス多孔質体と、
前記セラミックス多孔質体の側部および下部の一部に対して前記結合材粒子により封止されている界面が形成されるように接合され、当該界面とは異なる部分において前記セラミックス多孔質体の気孔に連通する吸引孔が形成されているセラミックス緻密質体と、を備え、
前記セラミックス多孔質体の上部において定義される複数の領域として中央領域と、前記中央領域を環状に囲む環状領域とが定義され、前記中央領域における突起上端面密度が、前記環状領域における突起上端面密度よりも低くなるように、かつ、複数の前記環状領域のうち一の環状領域における突起上端面密度が、前記一の環状領域の外側にある他の環状領域における突起上端面密度よりも高くなるように、前記突起の上端面積および配置のうち一方または両方が調節されている真空吸着装置。
【0010】
)前記(1)または(2)記載の真空吸着装置において、前記中央領域に対する前記環状領域の突起上端面密度比が4〜25の範囲に含まれるように、前記突起の上端面積および配置のうち一方または両方が調節されている真空吸着装置。
【0011】
)前記()記載の真空吸着装置において、前記一の環状領域に対する前記他の環状領域の突起上端面密度比が0.25〜6.25の範囲に含まれるように、前記突起の上端面積および配置のうち一方または両方が調節されている真空吸着装置。
【0012】
)前記(1)〜()のうちいずれか1つに記載の真空吸着装置において、前記セラミックス多孔質体の上部に複数の突起が分散配置されるように形成され、前記複数の領域のそれぞれにおける前記複数の突起の配置態様が同一である一方、前記複数の領域のそれぞれにおける前記複数の突起の上端部の面積が差別化されることにより、前記複数の領域のそれぞれにおける突起上端面密度が差別化されている真空吸着装置。
【0013】
)前記(1)〜()のうちいずれか1つに記載の真空吸着装置において、前記セラミックス多孔質体の上部に複数の突起が分散配置されるように形成され、前記複数の領域のそれぞれにおける前記複数の突起の上端部の面積が同一である一方、前記複数の領域のそれぞれにおける前記複数の突起の配置態様が差別化されることにより、前記複数の領域のそれぞれにおける突起上端面密度が差別化されている真空吸着装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明の真空吸着装置によれば、たとえば、セラミックス多孔質体の上部における複数の領域のうち、ウエハ等の物体が当該多孔質体に載置される際に最初に当接する一の領域の突起上端面密度が、他の領域の突起上端面密度よりも相対的に低くなるように調節されている。これにより、複数の領域間で突起上端面密度に差がない場合と比較して、当該一の領域における物体と突起との当初接触面積の低減、ひいてはパーティクルの発生頻度の低減が図られる。
【0015】
また、複数の領域間で突起上端面密度に差がない場合と比較して、当該一の領域における物体と突起との当初非接触面積の増大、ひいてはセラミックス多孔質体の開気孔によるパーティクルの受容容量の向上が図られる。セラミックス緻密質体を通じてセラミックス多孔質体の気孔が真空吸引された際に、開気孔に入り込んだパーティクルが舞い上がることなく当該開気孔に捕捉されうるので、物体に対するパーティクルの付着頻度の低減が図られる。
【0016】
さらに、当該真空吸引によって、当該一の領域とは異なる他の領域においても物体が突起に接触するように当該物体の変形が是正されたような形態で、物体がセラミックス多孔質体に真空吸着保持されうる、
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1実施形態としての真空吸着装置の概略断面図。
図2】突起の構成説明図。
図3】本発明の第1実施形態としての真空吸着装置の上面図。
図4】本発明の第2実施形態としての真空吸着装置の上面図。
図5】本発明の第3実施形態としての真空吸着装置の上面図。
図6】本発明の真空吸着装置の機能説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(真空吸着装置の構成)
図1に模式的に示されている本発明の真空吸着装置は、略円板状のセラミックス多孔質体10と、セラミックス多孔質体10を収容するような凹部を有する略有底円筒状のセラミックス緻密質体20とを備えている。
【0019】
セラミックス多孔質体10は、骨格粒子としてのセラミックス粒子が結合材粒子によって結合されることにより構成されている。セラミックス多孔質体10の上側には、その上端部において物体を支持する複数の突起12が上面11から上方に突出するように形成されている。
【0020】
各突起12の形状は、任意形状が採用されるが、たとえば図2(a)に示されているように略円柱状に形成されていてもよく、図2(b)に示されているように略円錐台状に形成されている。突起12の上面半径dは0.2〜2.0[mm]、その高さhは0.1〜0.3[mm]両者の比d/hは1〜10の範囲に調節される。
【0021】
セラミックス緻密質体20は、セラミックス多孔質体10の側部および下部の一部に対して結合材粒子により封止されている界面が形成されるように接合されている。セラミックス緻密質体20には、当該界面とは異なる部分においてセラミックス多孔質体10の気孔に連通する吸引孔22が形成されている。吸引孔22は凹部中央を上下に貫通しており、その上部において中央部から横方向に放射状に延在する溝に連通し、その下部において経路を介して真空ポンプに連通している。
【0022】
(真空吸着装置の製造方法)
まず、骨格粒子と、結合材粒子とが、水またはアルコールとともに混合されることによりスラリーが調整される(スラリー調整工程)。原料の混合法としては、ボールミルまたはミキサーを用いた混合法等、公知の方法が採用される。水またはアルコールの添加量は特に限定されず、所望の流動性が得られるように適当に調整されればよい。骨格粒子は、平均粒子径が20〜60[μm]であるセラミックス粉末により構成されている。セラミックスとしては、アルミナまたは炭化珪素等が採用されうる。
【0023】
結合材粒子として二酸化珪素粉末と、1A族、2A族および3A族の元素のそれぞれの酸化物、水酸化物、硝酸塩および炭酸塩から選ばれる少なくとも1種以上の添加物粉末とが用いられてもよい。二酸化珪素粉末の供給源としては、水を分散媒として二酸化珪素の粒子を分散させたコロイド溶液が用いられてもよい。二酸化珪素の平均粒子径は0.5[μm]以下であることが好ましい。二酸化珪素の添加量は、セラミックス粉末に対し、5〜30重量%であることが好ましい。
【0024】
骨格粒子との結合力を高めるために、1A族、2A族および3A族の元素のそれぞれの酸化物、水酸化物、硝酸塩および炭酸塩のうち少なくとも1種の添加物粉末の添加量は、例えば骨格粒子を構成するセラミックス粉末に対し、酸化物換算で3〜20重量%の範囲に含まれるように調節されることが好ましい。当該添加物粉末は二酸化珪素との反応により、骨格粒子間の強固な結合材としての役割を果たす。1A族、2A族および3A族の元素のそれぞれの酸化物、水酸化物、硝酸塩および炭酸塩のそれぞれの平均粒子径は1.0[μm]以下であることが好ましい。当該粒子径が、1.0[μm]を超えると未反応物質として残存するためである。例えば、1A族元素としてNa、2A族元素としてCa、3A族元素としてBが挙げられる。
【0025】
次に、セラミックス緻密質体20の吸引孔22が蝋または樹脂等の部材により閉塞される。その上で、凹部にスラリーが充填される(スラリー充填工程)。この際、必要に応じて、スラリーにおける残留気泡を除去するための真空脱泡のほか、スラリー中の添加物粉末の充填率を高めるための振動が加えられる。
【0026】
さらに、凹部にスラリーが充填されたセラミックス緻密質体20が乾燥される。その上で、セラミックス緻密質体20がスラリーの乾燥物とともに結合材の軟化点以上の温度で熱処理される(焼成工程)。これにより、スラリー由来のセラミックス多孔質体10が形成される。そして、ブラスト加工等の適当な加工により、セラミックス多孔質体10の上部に突起12が形成される(突起形成工程)。
【0027】
(第1実施形態))
本発明の第1実施形態としての真空吸着装置においては、図3に示されているように、半径Rの略円形状のセラミックス多孔質体10の上部において半径R1の略円形状の中央領域A1と、中央領域A1を円環状に囲む幅R2(=R−R1)の環状領域A2とが複数の領域として定義されている。
【0028】
N個の突起12が、面積S(=πR2)のセラミックス多孔質体10の上部において、間隔が一定の三角格子の格子点に相当する箇所に配置されている。すなわち、中央領域A1における突起12の密度が、環状領域A2における突起12の密度と同一になるように複数の突起12が配置されている。その一方、中央領域A1における突起12の径d1(図3参照)が、環状領域A2における突起12の径d2よりも小さく設計されている。これにより、中央領域A1における突起上端面密度D1(=n×πd12(n=N/S)が、環状領域A2における突起上端面密度D2(=n×πd22)よりも低くなるように調節されている。
【0029】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態としての真空吸着装置は、図4に示されているように、中央領域A1における突起12の密度N1が、環状領域A2における突起12の密度N2よりも低くなるように複数の突起12の配置が調節されている。一方、すべての突起12の上端径dが同一に調節されている。これにより、中央領域A1における突起上端面密度D1(=N1×πd2)が、環状領域A2における突起上端面密度D2(=N2×πd2)よりも低くなるように調節されている。その他の構成は第1実施形態と同様なので説明を省略する。
【0030】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態としての真空吸着装置においては、図5に示されているように、半径Rの略円形状のセラミックス多孔質体10の上部において半径R1の略円形状の中央領域A1と、中央領域A1を二重に円環状に囲む幅R2、R3の内側環状領域A2および外側環状領域A3とが複数の領域として定義されている。
【0031】
中央領域A1、内側環状領域A2および外側環状領域A3のそれぞれにおける突起12の径d1、d2およびd3の大小関係が、不等式d1<d3<d2により表わされるように調節されている。これにより、中央領域A1、内側環状領域A2および外側環状領域A3のそれぞれにおける突起上端面密度D1(=n×πd12)、D2(=n×πd22)およびD3(=n×πd32)の大小関係が、不等式D1<D3<D2により表わされるように調節されている。その他の構成は第1実施形態と同様なので説明を省略する。
【0032】
(第4実施形態)
本発明の第4実施形態としての真空吸着装置においては、各領域A1〜A3における突起の密度N1〜N3の大小関係が不等式N1<N3<N2により表わされるように調節されることにより、突起上端面密度D1〜D3の大小関係が、不等式D1<D3<D2により表わされるように調節されている(第2実施形態参照)。その他の構成は第3実施形態と同様なので説明を省略する。
【0033】
(他の実施形態)
第3または第4実施形態の変形実施形態として、各領域A1〜A3における突起上端面密度D1〜D3の大小関係が、不等式D1<D2<D3により表わされるように調節されていてもよい。
【0034】
前記実施形態においては円形状の中央領域A1および一または複数の円環状の環状領域A2(A3)が複数の領域として定義されていたが、その他、さまざまな形態で複数の領域が定義され、各領域Ak(k=1,2,‥)における突起上端面密度Dkが差別化されていてもよい。たとえば、中央領域A1または環状領域A2のうち少なくとも一方が周方向について分割されることにより略扇形状の領域が複数領域として定義されてもよい。
【0035】
前記実施形態では各突起12の上端面積または配置密度の差別化によって各領域における突起上端面密度が差別化されていたが、上端面積および配置密度の両方の差別化によって各領域における突起上端面密度が差別化されていてもよい。
【0036】
複数の突起12が離散的に配置されるのではなく、複数の突起12の一部または全部がまとめられたような連続した突起が形成されていてもよい。
【0037】
(作用効果)
図6(a)(b)に破線で示されているように、中央部よりも周縁部が反り上がっている状態のウエハWが吸着保持対象である場合について考察する。
【0038】
本発明の第1および第2実施形態の真空吸着装置によれば、図6(a)に示されているように、ウエハWがセラミックス多孔質体10に載置された際、ウエハWは中央領域A1に配置されている突起12に接触する一方、環状領域A2に配置されている突起12から離間している。本発明の第1および第2実施形態の真空吸着装置によれば、前記のように中央領域A1(ウエハWが最初に当接する一の領域)の突起上端面密度D1が、環状領域A2の突起上端面密度D2よりも相対的に低くなるように調節されている。これにより、複数の領域A1およびA2の間で突起上端面密度D1およびD2に差がない場合(D1=D2の場合)と比較して、中央領域A1におけるウエハWと突起12との当初接触面積(D1×πR12)の低減、ひいてはパーティクルの発生頻度の低減が図られる。
【0039】
また、複数の領域A1およびA2の間で突起上端面密度D1およびD2に差がない場合(D1=D2の場合)と比較して、中央領域A1におけるウエハWと突起12との当初非接触面積(上面11)の増大、ひいてはセラミックス多孔質体10の開気孔によるパーティクルの受容容量の向上が図られる。セラミックス緻密質体20を通じてセラミックス多孔質体10の気孔が真空吸引された際に、開気孔に入り込んだパーティクルが舞い上がることなく当該開気孔に捕捉されうるので、ウエハWに対するパーティクルの付着頻度の低減が図られる。
【0040】
さらに、当該真空吸引によって、図6(a)に実線で示されているように、環状領域A2においてもウエハWが突起12に接触するように当該ウエハWの変形が是正されたような形態で、物体がセラミックス多孔質体に真空吸着保持されうる。
【0041】
本発明の第3および第4実施形態の真空吸着装置によれば、本発明の第1および第2実施形態の真空吸着装置による作用効果に加えて、次のような作用効果が奏される。すなわち、セラミックス緻密質体20を通じてセラミックス多孔質体10の気孔が真空吸引される際、ウエハWと突起12との接触範囲は中心から径方向外側に徐々に拡張されていく。ここで、ウエハWとの間隔が比較的小さい内側環状領域A2における突起12よりも、当該間隔が比較的大きい外側環状領域A3における突起12のほうが、ウエハWと当接する際の衝撃が大きくなると推察される。
【0042】
しかるに、内側環状領域A2における突起上端面密度D2が、外側環状領域A3における突起上端面密度D3よりも高くなるように調節されているので、当該大小関係が逆の場合(D2<D3の場合)と比較して、ウエハWと外側環状領域A3における突起12との当接に由来するパーティクルの発生頻度の低減が図られる。
【0043】
(実施例)
平均粒子径50[μm]のアルミナ粉末(純度75%)と、結合材粒子を構成する粒子径6.8[μm]の硼珪酸ガラス(SiO2+B23)とが混合されることによりスラリーが調製された。骨格粒子に対する結合材粒子の質量比は15に調節された。セラミックス緻密質体およびスラリーの乾燥物が1000[℃]で3[hr]にわたって熱処理された。スラリー由来のセラミックス多孔質体10の上部がブラスト加工されることにより突起12が形成された。
【0044】
(実施例1)
第1実施形態にしたがって、中央領域A1(半径R1=102[mm])における突起12の上端面の径d1が0.2[mm]に調節され、環状領域A2(幅R2=51[mm])における突起12の上端面の径d2が1.0[mm]に調節されることにより、実施例1の真空吸着装置が製造された。突起12の間隔は2.0[mm]に調節された。突起上端面密度比D1:D2が1:25に調節された。
【0045】
(実施例2)
環状領域A2における突起12の上端面の径d2が1.2[mm]に調節されることにより、突起上端面密度比D1:D2が1:36に変更されたほかは、実施例1と同様の条件下で実施例2の真空吸着装置が製造された。
【0046】
(実施例3)
第2実施形態にしたがって、中央領域A1(半径R1=102[mm])における突起12の上端面の径d1が0.2[mm]に、突起12の間隔は4.0[mm]に調節された。環状領域A2(幅R2=51[mm])における突起上端面の径d2が0.2[mm]に、突起12の間隔が2.0[mm]に調節されることにより、実施例3の真空吸着装置が製造された。突起上端面密度比D1:D2が1:4に調節された。
【0047】
(実施例4)
第3実施形態にしたがって、中央領域A1(半径R1=102[mm])における突起12の上端面の径d1が0.2[mm]に調節され、内側環状領域A2(幅R2=51[mm])における突起12の上端面の径d2が1.0[mm]に調節され、かつ、外側環状領域A3(幅R3=77[mm])における突起12の上端面の径d3が0.5[mm]に調節されることにより、実施例4の真空吸着装置が製造された。各領域A1〜A3における突起上端面密度D1〜D3の大小関係が、不等式D1<D3<D2により表わされる。突起上端面密度比D1:D2:D3が1:25:6.25に調節された。
【0048】
(実施例5)
内側環状領域A2における突起12の上端面の径d2が1.0[mm]に調節され、かつ、外側環状領域A3における突起12の上端面の径d3が0.28[mm]に調節されることにより、突起上端面密度比D1:D2:D3が1:25:2.0に変更されたほかは、実施例4と同様の条件下で実施例5の真空吸着装置が製造された。
【0049】
(実施例6)
第3実施形態の変形実施形態にしたがって、中央領域A1(半径R1=102[mm])における突起12の上端面の径d1が0.2[mm]に調節され、内側環状領域A2(幅R2=51[mm])における突起12の上端面の径d2が0.4[mm]に調節され、かつ、外側環状領域A3(幅R3=77[mm])における突起12の上端面の径d3が1.2[mm]に調節されることにより、実施例6の真空吸着装置が製造された。各領域A1〜A3における突起上端面密度D1〜D3の大小関係が、不等式D1<D2<D3により表わされる。突起上端面密度比D1:D2:D3が1:4:36に調節された。
【0050】
(実施例7)
内側環状領域A2における突起12の上端面の径d2が0.6[mm]に調節され、かつ、外側環状領域A3における突起12の上端面の径d3が1.8[mm]に調節されることにより、突起上端面密度比D1:D2:D3が1:9:81に変更されたほかは、実施例6と同様の条件下で実施例7の真空吸着装置が製造された。
【0051】
(実施例8)
第4実施形態にしたがって、中央領域A1(半径R1=102[mm])における突起12の間隔は10[mm]に調節される。内側環状領域A2(幅R2=51[mm])における突起12の間隔が3[mm]に調節され、かつ、外側環状領域A3(幅R3=77[mm])における突起12の間隔が4[mm]に調節されることによって実施例8の真空吸着装置が製造された。突起12の径を0.2[mm]と調節された。各領域A1〜A3における突起上端面密度D1〜D3の大小関係が、不等式D1<D3<D2により表わされる。突起上端面密度比D1:D2:D3が1:11:6.25に調節された。
【0052】
(比較例)
(比較例1)
中央領域A1および環状領域A2の区分なく、突起12の上端面の径dが1.2[mm]に調節された。その他は第1実施例と同様の製造条件下で比較例1の真空吸着装置が製造された。
【0053】
(比較例2)
中央領域A1(半径R1=102[mm])における突起12の上端面の径d1が0.6[mm]に調節され、環状領域A2(幅R2=55[mm])における突起12の上端面の径d2が0.2[mm]に調節された。その他は第1実施例と同様の製造条件下で比較例2の真空吸着装置が製造された。
【0054】
(評価)
表1には、実施例および比較例のそれぞれの真空吸着装置により基板Wの真空吸着保持が5回にわたり繰り返された場合の、当該基板Wに対するパーティクルの平均付着個数の観測結果が示されている。基板Wに対するパーティクルの付着個数は、レーザー式のウエハ表面検査装置により計測された。
【0055】
【表1】
【0056】
表1から明らかなように、実施例1〜8の真空吸着装置によれば、比較例1〜2の真空吸着装置よりも基板Wに対するパーティクルの付着数量の低減が図られている。第3および第4実施形態にしたがった実施例4、5および8の真空吸着装置によれば、第1および第2実施形態にしたがった実施例1〜3の真空吸着装置、および、その他の実施例6および7の真空吸着装置よりも基板Wに対するパーティクルの付着数量のさらなる低減が図られている。
【0057】
D1:D2が1:4〜25の範囲に含まれる実施例1および3の真空吸着装置によれば、D1:D2が1:4〜25の範囲から外れている実施例2の真空吸着装置よりも基板Wに対するパーティクルの付着数量の低減が図られている。D2:D3が1:0.25〜6.25の範囲に含まれる実施例4の真空吸着装置によれば、D2:D3が1:0.25〜6.25の範囲から外れている実施例5の真空吸着装置よりも基板Wに対するパーティクルの付着数量の低減が図られている。
【符号の説明】
【0058】
10‥セラミックス多孔質体、12‥突起、20‥セラミックス緻密質体、22‥吸引孔。
図1
図2
図3
図4
図5
図6