(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記イオン液体を構成するアニオンが、塩素イオン、臭素イオン、四フッ化ホウ素イオン、硝酸イオン、チオシアネートイオン、ジシアノアミドイオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、ビス(フルオロスルホニル)イミドイオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン及びビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミドイオンから選択される、請求項1〜6のいずれか一項に記載のゲル状薄膜。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1〜3に記載の促進輸送膜を、分離対象ガスが高分圧の条件で用いると、キャリアが飽和するため、透過性能が大幅に低下する。よって、特許文献1〜3に記載の促進輸送膜は、分離対象ガスが高圧の条件では高い気体透過性能が得られないという問題点を有する。
また、多孔質含浸液膜は、分離対象ガスは液体成分を通して溶解・拡散機構により分離されるため、原理上分離対象ガスが高分圧の条件でも大幅な性能低下は生じない。しかし、分離対象ガスが高圧条件では液体が時間と共に多孔質膜から漏出し、欠陥を生じるといった問題点を有する。
さらに、高い液体含有率のゲル膜は、ゲル状組成物の強度が低いため、分離条件での圧力により物理的にピンホールが生じる、液体が漏出する、といった問題を有する。よって、従来のゲル膜を用いた気体分離膜では、分離対象ガスが高圧の条件での使用は不可能である。
【0011】
また、特許文献5及び非特許文献6の製造方法では、末端官能基がアミノ基の4官能ポリエチレングリコールを含む溶液と末端官能基がN−ヒドロキシ−スクシンイミジル基の4官能ポリエチレングリコールとを含む溶液を混合後、時間と共に硬化が進行する。よって、複合膜を作製する場合、混合した溶液の保存安定性が悪いため、ディップコート等の方法で多孔質支持体上に連続的にコーティングし薄膜状のゲル状薄膜を製造することが困難となる。また、硬化条件を調整し硬化速度を遅くした場合、硬化の進行が遅いため、コーティング後、支持体に反応溶液が染み込み欠陥を生じるといった問題が生じる。つまり、特許文献5及び非特許文献6のゲルを用いて気体分離膜を製造する場合、連続生産性やコーティング性が不十分なため、複合膜の作製が困難といった問題点を有する。
【0012】
本発明は、高い液体含有率であり、高強度かつ耐圧性を有し、多孔質支持体上への連続コーティングが可能なゲル状薄膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、鋭意研究したところ、特定のポリマーと、特定の液体とを含むゲル状薄膜であれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち、本発明は下記のとおりである。
[1]
下記式(1)で表される化合物と下記式(2)で表される化合物とのエンチオール反応によって得られるポリマーと、イオン液体、グリセリン、ポリグリセリン、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールからなる群から選択される少なくとも1種の液体と、を含むゲル状薄膜。
【0015】
【化1】
(式(1)中、n1は15〜250の整数であり、m1は3〜20の整数であり、X
1はm1価の有機基であり、Y
1は炭素数1〜15の炭化水素基、−CO−R
11−、−CO−NH−R
11−、−R
12−O−R
13−、−R
12−NH−R
13−、−R
12−CO−R
13−、−R
12−COO−R
13−、−R
12−CO−NH−R
13−、又は−R
12−O−CO−NH−R
13−であり、R
11〜R
13は各々独立に炭素数1〜10の炭化水素基である。n1同士、Y
1同士は各々互いに同一でも異なっていてもよい。)
【0016】
【化2】
(式(2)中、n2は15〜250の整数であり、m2は3〜20の整数であり、X
2はm2価の有機基であり、Y
2は炭素数1〜15の炭化水素基、−CO−、−CO−NH−、−CO−R
21−、−CO−NH−R
21−、−R
22−O−R
23−、−R
22−NH−R
23−、−R
22−CO−R
23−、−R
22−COO−R
23−、−R
22−CO−NH−R
23−、又は−R
22−O−CO−NH−R
23−であり、R
21〜R
23は各々独立に炭素数1〜10の炭化水素基であり、R
2は炭素−炭素二重結合を有する1価の有機基である。n2同士、Y
2同士、R
2同士は各々互いに同一でも異なっていてもよい。)
【0017】
[2]
式(1)で表される化合物が下記式(3)で表される化合物であり、式(2)で表される化合物が下記式(4)で表される化合物である、[1]のゲル状薄膜。
【0018】
【化3】
(式(3)中、n1は15〜250の整数であり、Y
1は炭素数1〜15の炭化水素基、−CO−R
11−、−CO−NH−R
11−、−R
12−O−R
13−、−R
12−NH−R
13−、−R
12−CO−R
13−、−R
12−COO−R
13−、−R
12−CO−NH−R
13−、又は−R
12−O−CO−NH−R
13−であり、R
11〜R
13は各々独立に炭素数1〜10の炭化水素基である。n1同士、Y
1同士は各々互いに同一でも異なっていてもよい。)
【0019】
【化4】
(式(4)中、n2は15〜250の整数であり、Y
2は炭素数1〜15の炭化水素基、−CO−、−CO−NH−、−CO−R
21−、−CO−NH−R
21−、−R
22−O−R
23−、−R
22−NH−R
23−、−R
22−CO−R
23−、−R
22−COO−R
23−、−R
22−CO−NH−R
23−、又は−R
22−O−CO−NH−R
23−であり、R
21〜R
23は各々独立に炭素数1〜10の炭化水素基であり、R
2は炭素−炭素二重結合を有する1価の有機基である。n2同士、Y
2同士、R
2同士は各々互いに同一でも異なっていてもよい。)
【0020】
[3]
R
2が、各々独立に下記式(5−1)〜(5−8)からなる群から選択される少なくとも一種である、[1]又は[2]のゲル状薄膜。
【0021】
【化5】
(式(5−1)〜(5−8)中、*は結合手を表す。)
【0022】
[4]
液体の融点が50℃以下である、[1]〜[3]のいずれかのゲル状薄膜。
[5]
液体の沸点が150℃以上である、[1]〜[4]のいずれかのゲル状薄膜。
[6]
イオン液体を構成するカチオンが、イミダゾリウムカチオン又はアンモニウムカチオンであり、イミダゾリウムカチオンは、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、エーテル基、アリル基、アミノアルキル基又はフルオロアルキル基を有し、アンモニウムカチオンは、A
1A
2A
3A
4N
+で表され、A
1、A
2、A
3及びA
4は、各々独立にフェニル基、無置換の炭素数1〜15個のアルキル基、又は、ヒドロキシル基、エーテル基、アリル基、アミノアルキル基若しくはフルオロアルキル基を有する炭素数1〜15個のアルキル基である、[1]〜[5]のいずれかのゲル状薄膜。
[7]
イオン液体を構成するアニオンが、塩素イオン、臭素イオン、四フッ化ホウ素イオン、硝酸イオン、チオシアネートイオン、ジシアノアミドイオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、ビス(フルオロスルホニル)イミドイオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン及びビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミドイオンから選択される、[1]〜[6]のいずれかのゲル状薄膜。
[8]
液体の含有率が、ゲル状薄膜の全質量を基準として30質量%〜90質量%である、[1]〜[7]のいずれかのゲル状薄膜。
[9]
100nm〜500μmの膜厚を有する、[1]〜[8]のいずれかのゲル状薄膜。
[10]
多孔質支持体と、該多孔質支持体の表面上に積層された[1]〜[9]のいずれかのゲル状薄膜と、を備える複合膜。
[11]
[1]〜[9]のいずれかのゲル状薄膜、又は[10]の複合膜を備える気体分離膜。
[12]
[1]〜[9]のいずれかのゲル状薄膜の製造方法であって、上記エンチオール反応を光及び/又は熱により行う工程を備える、ゲル状薄膜の製造方法。
[13]
エンチオール反応を重合開始剤の存在下で行う、[12]のゲル状薄膜の製造方法。
[14]
式(1)で表される化合物と式(2)で表される化合物とを含む溶液を多孔質支持体の表面上にコーティングする工程と、表面上でエンチオール反応を行う工程と、を備える、[10]の複合膜の製造方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明のゲル状薄膜は高い液体含有率であり、高強度かつ耐圧性を有するため、本発明のゲル状薄膜を気体分離膜として使用した場合、分離対象ガスが低圧条件及び高圧条件において優れた気体透過性能、気体分離性能の気体分離膜を提供することができる。特に、本発明の気体分離膜は二酸化炭素の透過に優れており、二酸化炭素含有混合気体から二酸化炭素を分離する際に用いることができる。例えば、二酸化炭素とメタンの分離や二酸化炭素と窒素の分離に用いることができる。また、本発明のゲル状薄膜は多孔質膜上にコーティングし複合膜とすることで薄膜化することも可能であり、高い透過度の気体分離膜を提供することができる。さらに、本発明のゲル状薄膜は、エンチオール反応を用い光や熱を利用して短時間で硬化することで製造できるため、従来の高強度ゲルでは困難であったゲル状薄膜の複合膜の連続生産も可能である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態(以下、本実施形態)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0026】
本実施形態のゲル状薄膜は、特定のポリマーと、特定の液体とを含む。以下、詳細に説明する。
【0027】
[ポリマー]
本実施形態のゲル状薄膜において、ポリマーは、下記式(1)で表される化合物と下記式(2)で表される化合物とのエンチオール反応によって得られる多官能ポリエチレングリコール骨格を有するポリマーである。ここで、多官能ポリエチレングリコール骨格を有するポリマーとは、複数のポリエチレングリコール骨格(ポリオキシエチレン骨格)を有するポリマーを意味する。換言すれば、本実施形態に係るポリマーは、下記式(1)で表される化合物と下記式(2)で表される化合物とのエンチオール反応によって得られる付加重合体構造を有している。
【0028】
【化6】
(式(1)中、n1は15〜250の整数であり、m1は3〜20の整数であり、X
1はm1価の有機基であり、Y
1は炭素数1〜15の炭化水素基、−CO−R
11−、−CO−NH−R
11−、−R
12−O−R
13−、−R
12−NH−R
13−、−R
12−CO−R
13−、−R
12−COO−R
13−、−R
12−CO−NH−R
13−、又は−R
12−O−CO−NH−R
13−であり、R
11〜R
13は各々独立に炭素数1〜10の炭化水素基である。n1同士、Y
1同士は各々互いに同一でも異なっていてもよい。)
【0029】
【化7】
(式(2)中、n2は15〜250の整数であり、m2は3〜20の整数であり、X
2はm2価の有機基であり、Y
2は炭素数1〜15の炭化水素基、−CO−、−CO−NH−、−CO−R
21−、−CO−NH−R
21−、−R
22−O−R
23−、−R
22−NH−R
23−、−R
22−CO−R
23−、−R
22−COO−R
23−、−R
22−CO−NH−R
23−、又は−R
22−O−CO−NH−R
23−であり、R
21〜R
23は各々独立に炭素数1〜10の炭化水素基であり、R
2は炭素−炭素二重結合を有する1価の有機基である。n2同士、Y
2同士、R
2同士は各々互いに同一でも異なっていてもよい。)
【0030】
式(1)中のX
1とm1について説明する。X
1はm1価の有機基を表し、X
1の構造によりm1が決定する。X
1は、アルキル基、フェニル基、イソシアヌル環を有することが好ましく、アルキル基を有することが特に好ましい。m1は、3〜20の整数であり、3〜8の整数であることが好ましく、4であることが特に好ましい。m1が4の場合、原料合成の容易さの点から好ましい。
【0031】
式(1)中、n1は、15〜250の整数であり、35〜180の整数であることが好ましく、50〜110の整数であることがより好ましく、50〜60の整数であることが特に好ましい。複数あるn1は互いに同一でも異なっていてもよいが、複数あるn1が互いに同一であると、重合後のポリマーが均一な架橋構造になり、高強度なゲル状薄膜が得られるため好ましい。
【0032】
式(1)中、Y
1における炭素数1〜15の炭化水素基の具体的な例としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ヘキシレン基、オクチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基などが挙げられ、原料合成の容易さの点から好ましくはエチレン基である。R
11〜R
13における炭素数1〜10の炭化水素基の具体的な例としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ヘキシレン基、オクチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、フェニレン基、トリレン基などが挙げられる。複数あるY
1は、互いに同一でも異なっていてもよいが、高強度なゲル状薄膜を製造できる点から同一であることが好ましい。これは、Y
1が互いに同一であると、重合後のポリマーが均一な架橋構造になるためと推測される。
【0033】
式(2)中、X
2とm2について説明する。X
2はm2価の有機基を表し、X
2の構造によりm2が決定する。X
2は、アルキル基、フェニル基、イソシアヌル環を有することが好ましく、アルキル基を有することが特に好ましい。m2は、3〜20の整数であり、3〜8の整数であることが好ましく、4であることが特に好ましい。m2が4の場合、原料合成の容易さの点から好ましい。
【0034】
式(2)中、n2は15〜250の整数であり、35〜180の整数であることが好ましく、50〜110の整数であることがより好ましく、50〜60の整数であることが特に好ましい。複数あるn2は互いに同一でも異なっていてもよいが、複数あるn2が互いに同一であると、重合後のポリマーが均一な架橋構造になり、高強度なゲル状薄膜が得られるため好ましい。
【0035】
式(2)中、Y
2における炭素数1〜15の炭化水素基の具体的な例としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ヘキシレン基、オクチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、フェニレン基、トリレン基などが挙げられる。R
21〜R
23における炭素数1〜10の炭化水素基の具体的な例としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ヘキシレン基、オクチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、フェニレン基、トリレン基などが挙げられる。
【0036】
好ましくは、原料合成の容易さの点から、Y
2は−CO−R
21−であり、さらに好ましくは、R
21がメチレン基、つまりY
2は−CO−CH
2−である。複数あるY
2は、互いに同一でも異なっていてもよいが、高強度なゲル状薄膜を製造できる点から同一であることが好ましい。これは、Y
2が互いに同一であると、重合後のポリマーが均一な架橋構造になるためと推測される。
【0037】
式(2)中、R
2の具体的な例としては、下記式(5−1)〜(5−8)で表される有機基から選ばれる基が挙げられる。高い反応率で付加重合が進行する点から、R
2はビニル基(5−1)であることが好ましい。
【0038】
【化8】
(式(5−1)〜(5−8)中、*は結合手を表す。)
【0039】
本実施形態において、式(1)中のn1と式(2)中のn2とが同一であると、高強度なゲル状薄膜が得られるため好ましい。これは、n1とn2が同一であると、重合後の架橋構造がより均一になるためと推測される。
【0040】
本実施形態において、式(1)中のm1と式(2)中のm2とが同一であると、高強度なゲル状薄膜が得られるため好ましい。これは、m1とm2が同一であると、重合後のポリマーがより均一な架橋構造になるためと推測される。
【0041】
本実施形態において、式(1)で表される化合物と式(2)で表される化合物とをエンチオール反応(チオール−エン反応)により付加重合することで、高強度なゲル状薄膜を得ることができる。これは、式(1)で表される化合物及び式(2)で表される化合物に含まれる官能基が分子内で相互に反応せず分子内反応が起こらないため、また、式(1)で表される化合物のチオール基1つに対し、式(2)で表される化合物の炭素−炭素二重結合1つが反応するため、均一な架橋構造の付加重合体が得られることが理由だと推定される。均一な架橋構造を有すると、ポリマー内に構造的に弱い部分の発生が抑制されるため、高強度なゲル状薄膜が得られると推定される。
【0042】
本実施形態において、多官能ポリエチレングリコール骨格を有するポリマーが、上記式(1)の好ましい態様である下記式(3)で表される化合物と、上記式(2)の好ましい態様である下記式(4)で表される化合物との付加重合体構造を有することが好ましい。多官能ポリエチレングリコール骨格を有するポリマーが下記式(3)で表される化合物と下記式(4)で表される化合物との付加重合体構造を有すると、より高強度なゲル状薄膜が得られ、気体分離膜として使用した際の耐圧性が向上するため好ましい。
【0043】
【化9】
(式(3)中、n1は15〜250の整数であり、Y
1は炭素数1〜15の炭化水素基、−CO−R
11−、−CO−NH−R
11−、−R
12−O−R
13−、−R
12−NH−R
13−、−R
12−CO−R
13−、−R
12−COO−R
13−、−R
12−CO−NH−R
13−、又は−R
12−O−CO−NH−R
13−であり、R
11〜R
13は各々独立に炭素数1〜10の炭化水素基である。n1同士、Y
1同士は各々互いに同一でも異なっていてもよい。)
【0044】
【化10】
(式(4)中、n2は15〜250の整数であり、Y
2は炭素数1〜15の炭化水素基、−CO−、−CO−NH−、−CO−R
21−、−CO−NH−R
21−、−R
22−O−R
23−、−R
22−NH−R
23−、−R
22−CO−R
23−、−R
22−COO−R
23−、−R
22−CO−NH−R
23−、又は−R
22−O−CO−NH−R
23−であり、R
21〜R
23は各々独立に炭素数1〜10の炭化水素基であり、R
2は炭素−炭素二重結合を有する1価の有機基である。n2同士、Y
2同士、R
2同士は各々互いに同一でも異なっていてもよい。)
【0045】
式(3)及び式(4)のY
1、n1、Y
2、n2、R
2の好ましい範囲は、式(1)及び式(2)のY
1、n1、Y
2、n2、R
2の好ましい範囲と同一である。
【0046】
式(3)の具体的な例としては、下記式(6)で表される化合物が挙げられる。下記式(6)中、n1の好ましい範囲は式(3)中のn1の好ましい範囲と同一である。下記式(6)で表される化合物は、日本油脂(株)社から、SUNBRIGHT PTE−050SH(n1=約26)、SUNBRIGHT PTE−100SH(n1=約54)、SUNBRIGHT PTE−200SH(n1=約111)の商品名で購入することができる。
【0048】
式(4)の具体的な例としては、下記式(7−1)〜(7−3)で表される化合物が挙げられる。下記式(7−1)〜(7−3)中、n2の好ましい範囲は式(4)中のn2の好ましい範囲と同一である。原料合成の容易さ、エンチオール反応で使用する際の反応性の観点から、下記式(7−1)で表される化合物が好ましい。
【0050】
式(7−1)〜(7−3)で表される化合物は、下記式(8)で表される化合物を原料として用いて合成できる。例えば、式(7−1)で表される化合物は下記式(8)で表される化合物と3−ブテン酸とを原料に合成でき、式(7−2)で表される化合物は下記式(8)で表される化合物とアクリル酸とを原料に合成でき、式(7−3)で表される化合物は下記式(8)で表される化合物とアリルアルコールとを原料に合成できる。合成には主に縮合反応が用いられ、有機溶媒中で酸性触媒等の縮合触媒と共に加熱して縮合する方法、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩等の縮合剤を用いて縮合する方法が挙げられる。精製方法は特に限定されないが、再結晶法を用いることができる。下記式(8)で表される化合物は、例えばJENKEM USA社から4ARM−OH−10K(n2=約56)の商品名で購入できる。
【0052】
式(1)で表される化合物のその他の好ましい例として、下記式(9)で表される化合物が挙げられる。下記式(9)中、n1の好ましい範囲は式(1)中のn1の好ましい範囲と同一である。下記式(9)で表される化合物は日本油脂(株)社から、SUNBRIGHT HGEO−200SH(n1=約54)、JENKEM USA社から8ARM−SH−10K(n1=約25)の商品名で購入することができる。
【0054】
式(2)で表される化合物のその他の好ましい例として、下記式(10−1)〜(10−3)で表される化合物が挙げられる。下記式(10−1)〜(10−3)中、n2の好ましい範囲は式(2)中のn2の好ましい範囲と同一である。
【0056】
式(10−1)〜(10−3)で表される化合物は、下記式(11)で表される化合物を原料として用いて合成できる。例えば、式(10−1)で表される化合物は下記式(11)で表される化合物と3−ブテン酸とを原料に合成でき、式(10−2)で表される化合物は下記式(11)で表される化合物とアクリル酸とを原料に合成でき、式(10−3)で表される化合物は下記式(11)で表される化合物とアリルアルコールとを原料に合成できる。合成には主に縮合反応が用いられ、有機溶媒中で酸性触媒等の縮合触媒と共に加熱して縮合する方法、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩等の縮合剤を用いて縮合する方法が挙げられる。精製方法は特に限定されないが、再結晶法を用いることができる。下記式(11)で表される化合物は、例えばJENKEM USA社から8ARM−OH−10K(n2=約27)の商品名で購入できる。
【0058】
[液体]
本実施形態のゲル状薄膜に用いられる液体は、イオン液体、グリセリン、ポリグリセリン、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールから選ばれた1種以上の液体であり、好ましくは、本実施形態のゲル状薄膜を気体分離膜とした際の二酸化炭素透過性、透過選択性の観点から、イオン液体である。
【0059】
本実施形態における液体の融点は50℃以下であることが好ましく、さらに好ましくは30℃以下であり、特に好ましくは0℃以下である。液体の融点が0℃以下の場合、常温で液体が液状であり、常温で本実施形態のゲル状薄膜を気体分離膜として使用できるため好ましい。
【0060】
本実施形態において、液体の沸点が150℃以上であることが好ましい。特に好ましくは液体の沸点が200℃以上である。沸点が200℃以上の場合は、常温にて液体が揮発しにくいため、気体分離膜として使用した際の長期安定性に優れる。
【0061】
イオン液体を構成するカチオンは、イミダゾリウムカチオン又はアンモニウムカチオンから選択される。イミダゾリウムカチオンは、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、エーテル基、アリル基、アミノアルキル基及びフルオロアルキル基のいずれかの基を有する。アンモニウムカチオンは、A
1A
2A
3A
4N
+で表される。A
1、A
2、A
3、A
4は、各々独立にフェニル基、無置換の炭素数1〜15個のアルキル基、又はヒドロキシル基、エーテル基、アリル基、アミノアルキル基若しくはフルオロアルキル基を有する炭素数1〜15個のアルキル基であることが好ましい。カチオンの具体的な例としては、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオン、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムカチオン、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムカチオン、1−(2−メトキシエチル)−3−メチルイミダゾリウムカチオン、1−(2−(2−メトキシエトキシ)エチル)−3−メチルイミダゾリウムカチオン、トリブチルメチルアンモニウムカチオン、トリメチルヘキシルアンモニウムカチオン、トリメチルデシルアンモニウムカチオン、ジメチルブチルイソプロピルアンモニウムカチオン、トリエチルヘキシルアンモニウムカチオンが挙げられる。好ましくは1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオンである。
【0062】
イオン液体を構成するアニオンとしては、塩素イオン、臭素イオン、四フッ化ホウ素イオン、硝酸イオン、チオシアネートイオン、ジシアノアミドイオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、ビス(フルオロスルホニル)イミドイオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン、ビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミドイオンであることが好ましい。好ましくはビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオンである。
【0063】
本実施形態において用いられるイオン液体の具体的な例としては、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムジシアノアミド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムジシアノアミド、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムジシアノアミド、1−(2−メトキシエチル)−3−メチルイミダゾリウム(ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−(2−(2−メトキシエトキシ)エチル)−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートが挙げられる。好ましくは、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムジシアノアミド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートである。これらのイオン液体を用いてゲル状薄膜を作製し、気体分離膜として使用した場合、二酸化炭素の透過性、選択性のバランスが良好なため好ましい。
【0064】
[ゲル状薄膜の製造方法]
本実施形態のゲル状薄膜をより詳細に説明するために、ゲル状薄膜(自立膜)又はゲル状薄膜が多孔質支持体の表面上に積層された複合膜の製造方法をまず説明する。しかし、この製造方法に限定されるものではなく、ゲル状薄膜が得られれば、どのような製造方法でもよい。
【0065】
本実施形態のゲル状薄膜を作製する方法を説明する。エンチオール反応を用いてゲル状薄膜を得る製造法としては、以下の製膜法(a)〜製膜法(c)が挙げられる。製膜法(a)は、式(1)で表される化合物、式(2)で表される化合物及び液体を含む反応溶液を作製する工程と、反応溶液を薄膜状に成形する工程と、エンチオール反応を行う工程、により製造する方法である。製膜法(b)は、式(1)で表される化合物、式(2)で表される化合物、液体及び揮発性溶媒からなる反応溶液を作製する工程と、反応溶液を薄膜状に成形する工程と、エンチオール反応を行う工程と、揮発性溶媒を除去する工程、により製造する方法である。製膜法(c)は、式(1)で表される化合物、式(2)で表される化合物及び反応溶媒からなる反応溶液を作製する工程と、反応溶液を薄膜状に成形する工程と、エンチオール反応を行う工程と、得られた膜を液体及び希釈溶媒からなる混合溶媒に浸漬し得られた膜に混合溶媒を染み込ませる工程と、希釈溶媒を除去する工程により製造する方法である。製膜法(a)〜製膜法(c)において、重合開始剤等の添加剤を添加することができる。粘度の調整が可能であり薄膜化が容易である点から、製膜法(b)、製膜法(c)が好ましい。
【0067】
製膜法(a)における、式(1)で表される化合物及び式(2)で表される化合物及び液体からなる反応溶液を作製する工程を説明する。該工程において、式(1)で表される化合物のチオール基のモル数と式(2)で表される化合物の炭素−炭素二重結合のモル数が同モル数になるように配合することが好ましい。同じモル数になるように配合することで、重合反応が均一に進行し、高強度のゲル状薄膜を得ることができる。反応溶液の配合については、式(1)で表される化合物と式(2)で表される化合物の合計量100質量部に対して液体を43〜900質量部配合することが好ましい。より好ましくは100〜400質量部である。反応溶液の配合比率を調整することで、得られるゲル状薄膜の液体含有率を調整することができる。
【0068】
製膜法(a)における、反応溶液を薄膜状に成形する工程において、ゲル状薄膜を自立膜として得る場合、石英板と石英板の間にスペーサーを挟み、その隙間に液を流し込む方法、ガラス板等の平面基板上にスピンコートする方法、ガラス板等にディップコート法やハンドコート法等で塗布する方法が挙げられる。
【0069】
製膜法(a)における、反応溶液を薄膜状に成形する工程において、ゲル状薄膜を複合膜として得る場合、多孔質支持体の表面上であって少なくとも片面に反応溶液を塗布する方法が好ましい。塗布の方法としては、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、スピンコート、バーコート、ダイコート、ブレードコート、エアナイフコート、グラビアコート、ロールコーティング、スプレーコート、ディップコート、フロートコート、コンマロール法、キスコート、スクリーン印刷、インクジェット印刷等が挙げられる。連続生産を考慮した場合、平膜形状の多孔質支持体に塗布する場合は主表面上にフロートコート、中空糸形状の多孔質支持体に塗布する場合はディップコートが好ましい。
【0070】
多孔質支持体は、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂等、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン等の含フッ素樹脂等、ポリスチレン、酢酸セルロース、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリアラミド等の各種樹脂多孔質膜;不織布と多孔質膜の複合積層体などが好ましい。多孔質膜の好ましい例は、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアクリロニトリル、酢酸セルロース、ポリイミドである。不織布の好ましい例は、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、レーヨン、ナイロン、アクリル、ビニロン等の樹脂で作製された不織布である。また、多孔質支持体の形状としては、平膜状、管状、中空糸状などいずれの形状もとることができる。
【0071】
多孔質支持体の膜厚は5μm〜5mmが好ましく、より好ましくは10μm〜1000μmである。膜厚が5μmより小さいと、支持体としての機械的強度が充分でない場合が多く、5mmより大きいと膜の柔軟性が損なわれ取り扱いが難しくなる傾向があり、また、気体透過の抵抗が大きくなることがあるため好ましくない。
【0072】
多孔質支持体の孔の大きさは0.001μm〜1μmが好ましく、より好ましくは0.01μm〜0.1μmである。孔の大きさが0.001μmよりも小さい場合、得られる複合膜の気体透過度が不十分となる場合がある。逆に孔の大きさが1μmより大きい場合、反応溶液を薄膜状に成形する工程において、反応溶液が孔中に浸透し孔中に充填されてしまったり、ピンホールが発生したりするといった問題を生じる傾向にある。
【0073】
製膜法(a)における、エンチオール反応を行う工程は、光(光重合反応)又は熱(熱重合反応)を用いることが好ましい。簡便にエンチオール反応を進行できる観点から、光重合反応が好ましい。なお、熱重合反応と光重合反応とを併用して行うこともでき、例えば熱重合反応の後に光重合反応を行うか、光重合反応させた後に熱重合反応するか、あるいは光重合反応と熱重合反応とを同時に行うこともできる。
【0074】
光重合反応はγ線、紫外線、可視光線、電子線などの照射によって進行することが好ましい。装置の入手容易性の観点から紫外線及び電子線が好ましく、特に紫外線が好ましい。
【0075】
紫外線は、200〜400nmの波長を用いて、10〜5000mJ/cm
2で照射されることが好ましい。波長は、より好ましくは約250〜360nmである。500〜3000mJ/cm
2で照射することがさらに好ましく、600〜2000mJ/cm
2で照射することが特に好ましい。
【0076】
紫外線等を照射する場合、添加剤として光重合開始剤を用いてもよい。光重合開始剤を用いない場合、紫外線等の光を直接チオール基が吸収し、チオラジカルが発生することで重合が進行する。光重合開始剤を用いるとラジカルが発生しやすくなるため好ましい。光重合開始剤としては、公知のものを使用でき、具体的には、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾインとそのアルキルエーテル類;アセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノン、4−(1−t−ブチルジオキシ−1−メチルエチル)アセトフェノン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン−1、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパノンオリゴマー等のアセトフェノン類;2−メチルアントラキノン、2−アミルアントラキノン、2−t−ブチルアントラキノン、1−クロロアントラキノン等のアントラキノン類;2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、4−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン、1−クロロ−4−プロポキシチオキサントン、2−(3−ジメチルアミノ−2−ヒドロキシ)−3,4−ジメチル−9H−チオキサントン−9−オンメソクロリド等のチオキサントン類;アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタール等のケタール類;ベンゾフェノン、4−(1−t−ブチルジオキシ−1−メチルエチル)ベンゾフェノン、3,3’,4,4’−テトラキス(t−ブチルジオキシカルボニル)ベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4−フェニルベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチル−ジフェニルサルファイド、3,3’,4,4’−テトラ(t−ブチルパーオキシルカルボニル)ベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン、4−ベンゾイル−N,N−ジメチル−N−[2−(1−オキソ−2−プロペニルオキシ)エチル]ベンゼンメタナミニウムブロミド、(4−ベンゾイルベンジル)トリメチルアンモニウムクロリド等のベンゾフェノン類;アシルフォスフィンオキサイド類及びキサントン類が挙げられる。これらは単独又は2種以上の混合物として使用することができる。
【0077】
光重合開始剤の添加量は、式(1)で表される化合物と式(2)で表される化合物との合計質量100質量部に対し0.1〜10質量部が好ましく、0.5〜3質量部がより好ましい。
【0078】
熱重合反応は、40℃〜120℃で、30分〜24時間加熱することにより行われることが好ましい。約60〜80℃で、約2〜4時間加熱することがさらに好ましい。
【0079】
熱重合反応を行う場合、添加剤として熱重合開始剤を用いてもよい。具体的には、メチルエチルケトンパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシオクトエート、t−ブチルパーオキシベンゾエー卜、ラウロイルパーオキサイド等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系化合物等が挙げられる。また、熱重合時には硬化促進剤を混合して使用してもよく、硬化促進剤としては、ナフテン酸コバルトやオクチル酸コバルト等又は3級アミン等が好ましい。
【0080】
熱重合開始剤の添加量は、式(1)で表される化合物と式(2)で表される化合物との合計質量100質量部に対し、0.1〜10質量部が好ましく、0.5〜3質量部がより好ましい。
【0082】
製膜法(b)における式(1)で表される化合物、式(2)で表される化合物及び液体及び揮発性溶媒からなる反応溶液を作製する工程を説明する。該工程において、式(1)で表される化合物のチオール基のモル数と式(2)で表される化合物の炭素−炭素二重結合のモル数とが同モル数になるように配合することが好ましい。同じモル数で配合することで、重合反応が均一に進行し、高強度のゲル状薄膜を得ることができる。反応溶液の配合については、式(1)で表される化合物と式(2)で表される化合物との合計質量100質量部に対して液体を43〜900質量部、揮発性溶媒を10〜5000質量部配合することが好ましく、液体を100〜400質量部、揮発性溶媒を500〜3000質量部配合することがより好ましい。反応溶液の配合量により、得られるゲル状薄膜の液体含有率を調整することができる。また、希釈溶媒の配合量により反応溶液の粘度を調整でき、反応溶液を薄膜状に成形する工程において複合膜を作製する際にコーティングが容易となる。
【0083】
製膜法(b)における反応溶液に含まれる揮発性溶媒としては、式(1)で表される化合物及び式(2)で表される化合物と相溶性があり、かつ、ある程度揮発性を有する溶媒を用いることができる。例えば、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−ブタノール、2−メチル−2−プロパノール、1,2−ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、酢酸、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジオキサン、1,3−ジオキサン、アセトン、メチルエチルケトン、クロロホルム、ジクロロメタン、ベンゼン、トルエン、シクロヘキサン、ヘキサン、ヘプタン、アセトニトリル、ニトロメタンなどから選ばれる1種又は2種以上を混合液として用いることができる。好ましくはクロロホルム、ジエチルエーテル、ジクロロメタン、1,4−ジオキサン、より好ましくはジクロロメタンが用いられる。
【0084】
製膜法(b)における反応溶液を薄膜状に成形する工程とエンチオール反応を行う工程とを実施する方法は、それぞれ製膜法(a)における反応溶液を薄膜状に成形する工程とエンチオール反応を行う工程とで述べた方法と同様にして行うことができる。
【0085】
製膜法(b)における揮発性溶媒を除去する工程は、常圧又は真空下で20℃〜120℃で、約30分〜24時間加熱することが好ましい。40℃〜80℃で、2〜4時間加熱することがより好ましい。
【0086】
製膜法(b)において、揮発性溶媒を除去する工程とエンチオール反応とを行う工程の順番を入れ替えてもよい。また、揮発性溶媒を除去すると同時に光重合反応や熱重合反応によりエンチオール反応を行ってもよい。
【0088】
製膜法(c)における式(1)で表される化合物、式(2)で表される化合物及び反応溶媒からなる反応溶液を作製する工程を説明する。該工程において、式(1)で表される化合物のチオール基のモル数と式(2)で表される化合物の炭素−炭素二重結合のモル数とが同モル数になるように配合することが好ましい。同じモル数で配合することで、重合反応が均一に進行し、高強度のゲル状薄膜を得ることができる。また、反応溶液は、式(1)で表される化合物と式(2)で表される化合物との合計質量100質量部に対して反応溶媒を100〜9900質量部配合することが好ましく、500〜2000質量部配合することがより好ましい。反応溶媒の配合量により反応溶液の粘度を調整できるため、反応溶液を薄膜状に成形する工程において複合膜を作製する際にコーティングが容易となる。
【0089】
反応溶媒は、式(1)で表される化合物及び式(2)で表される化合物と相溶性があり、かつ、ある程度揮発性を有する溶媒を用いることができる。例えば、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−ブタノール、2−メチル−2−プロパノール、1,2−ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、酢酸、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジオキサン、1,3−ジオキサン、アセトン、メチルエチルケトン、クロロホルム、ジクロロメタン、ベンゼン、トルエン、シクロヘキサン、ヘキサン、ヘプタン、アセトニトリル、ニトロメタンなどから選ばれる1種又は2種以上を混合液として用いることができる。好ましくは、水、ジエチルエーテル、クロロホルム、ジクロロメタン、1,4−ジオキサン、より好ましくは水、ジクロロメタンが用いられる。
【0090】
製膜法(c)における反応溶液を薄膜状に成形する工程とエンチオール反応を行う工程を実施する方法は、それぞれ製膜法(a)における反応溶液を薄膜状に成形する工程とエンチオール反応を行う工程で述べた方法と同様にして行うことができる。
【0091】
製膜法(c)における得られた膜を液体と希釈溶媒との混合溶媒に浸漬し得られた膜に混合溶媒を染み込ませる工程を説明する。該工程において、混合溶媒はゲル100質量部に対し1000質量部以上用いることが好ましい。過剰量の混合溶媒を用いることで、ゲル状薄膜の内部に液体と希釈溶媒を染み込ませることができる。なお、エンチオール反応を行う工程の際に用いた反応溶媒は混合溶媒により十分希釈されるため、また、希釈溶媒を除去する工程において同時に除去されるため、最終的に得られるゲル状薄膜には残存しない。液体と希釈溶媒との混合比率は液体100質量部に対し希釈溶媒が25質量部〜5000質量部であることが好ましく、250質量部〜2000質量部であることが特に好ましい。液体と希釈溶媒の混合比率を調整することで、得られるゲル状薄膜の液体含有率を調整することができる。溶媒に浸漬する時間は、好ましくは30分〜24時間、さらに好ましくは1時間〜12時間、特に好ましくは4時間〜8時間である。なお、反応溶媒を任意の乾燥法により除去してから、得られた膜を液体と希釈溶媒との混合溶媒に浸漬し得られた膜に混合溶媒を染み込ませる工程を行ってもよい。または、得られた膜を別の溶媒に一度置換させた後に、得られた膜を液体と希釈溶媒との混合溶媒に浸漬し得られた膜に混合溶媒を染み込ませる工程を行ってもよい。
【0092】
希釈溶媒は、液体と相溶性があり、かつ、ある程度揮発性を有する溶媒を用いることができる。そのような溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、ジエチルエーテル、ジクロロメタン、クロロホルム、1,4−ジオキサンが好ましく、メタノールがより好ましい。
【0093】
製膜法(c)における希釈溶媒を除去する工程は、常圧又は真空下で20℃〜120℃で、30分〜24時間加熱することが好ましい。40℃〜80℃で、2〜4時間加熱することがより好ましい。
【0094】
[ゲル状薄膜]
本実施形態において、液体の含有率は、ゲル状薄膜の全質量を基準として、好ましくは30質量%〜90質量%であり、より好ましくは40〜80質量%であり、特に好ましくは50〜70質量%である。本実施形態のゲル状薄膜を気体分離膜として使用した際、液体の含有率が90質量%を超える場合、ゲル状薄膜の強度が低下しピンホールを生じやすくなる、液体の漏出が生じるといった問題が生じる傾向にあるため、気体分離膜として適さない。液体の含有率が30質量%未満の場合、高気体透過性能である液体成分の寄与が少なくなり気体の透過性が減少する傾向にあるため適さない。
【0095】
本実施形態のゲル状薄膜の膜厚は、100nm〜500μmであることが好ましい。さらに好ましくは100nm〜100μm、特に好ましくは100nm〜50μmである。ゲル状薄膜を気体分離膜として使用する際、膜厚が薄いと高透過度の気体分離膜となるため好ましい。
【0096】
本実施形態において、
図1に示すようにゲル状薄膜1を自立膜としてもよく、
図2に示すようにゲル状薄膜1を多孔質支持体2上に積層し、複合膜3としてもよい。複合膜とすると、ゲル状薄膜を多孔質支持体上に薄膜化し気体分離膜として使用できる点から好ましい。また、気体分離膜として使用した際、耐圧性が向上する点から好ましい。
【0097】
[気体分離膜]
本実施形態によって製造したゲル状薄膜1は気体分離膜として使用することができる。ゲル状薄膜1は自立膜としてもよいが、薄膜化を容易にできる点、耐圧性の点から多孔質支持体2に積層された複合膜3であってもよい。本実施形態における気体分離膜は、ゲル状薄膜の製造方法と同様にして製造することができる。
【0098】
自立膜又は複合膜は、気体分離膜モジュールとすることが好ましい。モジュールの例としては、スパイラル型、中空糸型、プリーツ型、管状型、プレート&フレーム型などが挙げられる。
【0099】
気体分離膜を使用する際の温度条件は、好ましくは10℃〜100℃、さらに好ましくは15℃〜90℃、特に好ましくは20℃〜70℃である。
【0100】
気体分離膜を使用する際の圧力条件は、分離対象ガスの圧力が0.1MPa〜10MPaであることが好ましい。本実施形態のゲル状薄膜は耐圧性を有するため、分離対象ガスの圧力が1MPa以上の高圧条件でも使用可能である。
【0101】
本実施形態の気体分離膜は、二酸化炭素含有混合気体から二酸化炭素を分離する気体分離膜として用いることができる。この技術は、油田のオフガス、ゴミ焼却や火力発電の排ガス、天然ガス等からの二酸化炭素の分離回収に利用することができる。
【実施例】
【0102】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0103】
[実施例1]
<末端がビニル基の4官能ポリエチレングリコール(4ARM−PEG−ビニル−10K)の合成>
まず、内容量500mLのガラス製1口フラスコにp−トルエンスルホン酸・一水和物(PTSA)3.6g、テトラヒドロフラン(和光純薬工業(株):試薬特級)50mLを加え、スターラ−で撹拌し溶解した。溶解後、4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)5.6gをテトラヒドロフラン50mLで溶解した溶液にゆっくり加えた。10分間撹拌後、析出した白色沈殿を濾過し、得られた沈殿物を塩化メチレン(和光純薬工業(株):試薬特級)とヘキサン(和光純薬工業(株):試薬特級)とを用い再結晶し、白色の針状結晶を得た(PTSA/DMAP:収率72%)。次に、内容量200mLのガラス製フラスコを用い、ディーン・スターク装置を準備した。これに末端が水酸基の4官能ポリエチレングリコール(JENKEM USA社製:4ARM−PEG−10K(商品名)、分子量10000Da)5g、3−ブテン酸(東京化成工業(株)製)12g、トルエン(和光純薬工業(株)製:試薬特級)15g、PTSA/DMAPを440mg加え、窒素置換した。副生成物として発生する水を共沸により除去し、必要に応じてトルエンを注ぎ足しながら120℃で3時間還流させた。冷却後、飽和食塩水を加え、クロロホルム(和光純薬工業(株):試薬特級)を用いて抽出し、炭酸水素ナトリウム(和光純薬工業(株)製)飽和水溶液で不純物を抽出により取り除いた。エバポレーターでクロロホルムを除去した後、エタノール(和光純薬工業(株)製:試薬特級)とヘキサンとを用いて再結晶を行い、白色結晶を得た(収率89%)。
1H−NMR測定により、白色結晶が、末端がビニル基の4官能ポリエチレングリコール(4ARM−PEG−ビニル−10K)であることを確認した。
【0104】
<ゲル状薄膜の作製>
内容量10mLのスクリュー管に、合成した4ARM−PEG−ビニル−10Kを750mg、末端がチオール基の4官能ポリエチレングリコール(JENKEM USA社製:4ARM−SH−10(商品名)、分子量10000Da)750mg、IRGACURE2959(商品名)(Ciba製)15mg、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(東京化成工業(株)製)3.6gを加え、撹拌し、気泡が無くなるまで静置した。石英板を2枚用い、スペーサーとしてPS20(商品名)(セプロ社製、ポリスルホン製UF膜、膜厚190μm程度)を2枚重ねて挟んだ。配合した溶液を石英板と石英板との間に流し込み、露光機(UVシステムズ製:FUSION VPS−6)で1512mJ/cm
2(254nmにおける露光量)照射した。照射後、12時間静置し、石英板をゆっくりとはがしゲル状薄膜の自立膜を得た。得られたゲル状薄膜は十分に自立性があった。
【0105】
[実施例2]
内容量10mLのスクリュー管に4ARM−PEG−ビニル−10Kを125mg、末端がチオール基の4官能ポリエチレングリコール(JENKEM USA社製:4ARM−SH−10(商品名)、分子量10000Da)125mg、IRGACURE2959(商品名)(Ciba製)2.5mg、塩化メチレン(東京化成工業(株)製)4、16g、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(東京化成工業(株)製)594mg加え、撹拌し、気泡が無くなるまで静置した。石英板を2枚用い、スペーサーとしてPS20(商品名)(セプロ社製、ポリスルホン製UF膜、膜厚190μm程度)を2枚重ねて挟んだ。配合した溶液を石英板と石英板との間に流し込み、露光機(UVシステムズ製:FUSION VPS−6)で1512mJ/cm
2(254nmにおける露光量)照射した。照射後、12時間静置し、石英板をゆっくりとはがし膜を取出した。70℃、2時間真空下で乾燥して塩化メチレンを除去し、ゲル状薄膜の自立膜を得た。得られたゲル状薄膜は十分に自立性があった。
【0106】
[実施例3]
内容量10mLのスクリュー管に4ARM−PEG−ビニル−10Kを125mg、末端がチオール基の4官能ポリエチレングリコール(JENKEM USA社製:4ARM−SH−10(商品名)、分子量10000Da)125mg、IRGACURE2959(商品名)(Ciba製)2.5mg、塩化メチレン(東京化成工業(株)製)4、76g加え、撹拌し、気泡が無くなるまで静置した。石英板を2枚用い、スペーサーとしてPS20(商品名)(セプロ社製、ポリスルホン製UF膜、膜厚190μm程度)を2枚重ねて挟んだ。配合した溶液を石英板と石英板の間に流し込み、露光機(UVシステムズ製:FUSION VPS−6)で1512mJ/cm
2(254nmにおける露光量)照射した。照射後、12時間静置し、石英板をゆっくりとはがし膜を取り出した。得られた膜をメタノールに12時間浸漬した後、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド:メタノール=1:7(質量比)の溶液に浸漬した。70℃、2時間真空下で乾燥することでメタノールを除去し、ゲル状薄膜の自立膜を得た。得られたゲル状薄膜は十分に自立性があった。
【0107】
[実施例4]
実施例3の1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド:メタノール=1:7(質量比)の溶液をポリエチレングリコール400(和光純薬(株)製):メタノール=1:7(質量比)の溶液に代えた以外は、実施例3と同様にしてゲル状薄膜の自立膜を得た。
【0108】
[実施例5]
実施例3の1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド:メタノール=1:7(質量比)の溶液をグリセリン(和光純薬(株)製):メタノール=1:7(質量比)の溶液に代えた以外は、実施例3と同様にしてゲル状薄膜の自立膜を得た。
【0109】
[実施例6]
内容量10mLのスクリュー管に4ARM−PEG−ビニル−10Kを125mg、末端がチオール基の4官能ポリエチレングリコール(JENKEM USA社製:4ARM−SH−10(商品名)、分子量10000Da)125mg、IRGACURE2959(Ciba製)2.5mg、蒸留水4.75gを加え、撹拌し、気泡が無くなるまで静置した。石英板の上にPS20(商品名)(セプロ社製、ポリスルホン製UF複合膜)をポリスルホン層が上向きになるように置き、その上に溶液をのせ、もう一枚の石英板を重ねて挟んだ。露光機(UVシステムズ製:FUSION VPS−6)で1512mJ/cm
2(254nmにおける露光量)照射し、12時間静置した。石英板をゆっくりとはがし、得られた膜をメタノールに12時間浸漬した後、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド:メタノール=1:7(質量比)の溶液に浸漬した。浸漬後、70℃、2時間真空下で乾燥することでメタノール除去し、ゲル状薄膜の複合膜を得た。
【0110】
[実施例7]
実施例6の1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボラート(東京化成工業(株)製)に代えた以外は、実施例6と同様にしてゲル状薄膜の複合膜を得た。
【0111】
[実施例8]
内容量20mLのスクリュー管に4ARM−PEG−ビニル−10Kを500mg、末端がチオール基の4官能ポリエチレングリコール(JENKEM USA社製:4ARM−SH−10(商品名)、分子量10000Da)500mg、IRGACURE2959(商品名)(Ciba製)10mg、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド2.33g、塩化メチレン7.17gを加え、撹拌し、気泡が無くなるまで静置した。溶液をゆっくりとシャーレに展開し、PAN50(商品名)(セプロ社製:ポリアクリロニトリルUF複合膜)のポリアクリロニトリル層のみにフロートコート(溶液表面に浮遊・接触させ連続的に引き上げる方法)で塗工を行った。コート後、露光機(UVシステムズ製:FUSION VPS−6)を用い、1512mJ/cm
2(254nmにおける露光量)で照射した。照射後12時間静置した後、得られた膜に対して上記と同様に再び溶液でフロートコート、露光の工程を行った。得られた膜を12時間静置後、70℃で12時間真空乾燥を行い、ゲル状薄膜の複合膜を得た。
【0112】
[実施例9]
内容量20mLのスクリュー管に4ARM−PEG−ビニル−10Kを500mg、末端がチオール基の4官能ポリエチレングリコール(JENKEM USA社製:4ARM−SH−10(商品名)、分子量10000Da)500mg、IRGACURE2959(商品名)(Ciba製)10mg、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド2.33g、塩化メチレン7.17gを加え、撹拌し、気泡が無くなるまで静置した。PVDF製中空糸UF膜(旭化成ケミカルズ(株)製)を20cmの長さに切り、先端を圧着して封止し、2gの重りをつけ、溶液に浸漬し垂直に引き上げることでディップコートを行った。コート後、中空糸を金属製の枠に貼り付け、中空糸の全面を数回に分けて露光機(UVシステムズ製:FUSION VPS−6)で1512mJ/cm
2(254nmにおける露光量)照射した。照射後12時間静置した後、得られた膜に対して上記と同様に再び溶液でディップコート、露光の工程を行った。得られた膜を12時間静置後、70℃で12時間真空乾燥を行い、ゲル状薄膜の複合膜を得た。
【0113】
[比較例1]
実施例6のメタノールに12時間浸漬する工程と1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド:メタノール=1:7(質量比)の溶液に浸漬する工程とを行わなかった以外は、実施例6と同様にして複合膜を得た。
【0114】
[比較例2]
文献(Journal of American Chemical Society (2005)、127号、4976〜4983頁)を参考とし、内容量10mLのスクリュー管にメタクリル酸メチル(東京化成工業(株)製)1.5g、エチレングリコールジメタクリラート(東京化成工業(株)製)59mg、2,2’−アゾビス(イソ ブチロニトリル)(東京化成工業(株)製)49mg、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド3.5g加え、溶解した。ガラス板を2枚用い、スペーサーとしてPS20(セプロ社製、膜厚190μm程度)を2枚重ねて挟んだ。配合した溶液をガラス板の間の隙間に流し込み、100℃、12時間加熱した。加熱後、ガラス板をゆっくりとはがし、自立膜を得た。
【0115】
[比較例3]
比較例2のメタクリル酸メチル(東京化成工業(株)製)1.5gを500mgに、エチレングリコールジメタクリラート(東京化成工業(株)製)59mgを20mgに、2,2’−アゾビス(イソ ブチロニトリル)(東京化成工業(株)製)49mgを32mgに、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド3.5gを4.5gに代えた以外は、比較例2と同様にして自立膜を得た。
【0116】
[比較例4]
旭化成ケミカルズ社製ポリエチレン多孔質膜ハイポア(登録商標)NB630(膜厚30μm)に1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを十分に染み込ませ、表面の液体をキムワイプでふき取り、多孔質支持体に液体を染み込ませた多孔質含浸液膜を作製した。
【0117】
[比較例5]
比較例4の1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボラートを代えた以外は、比較例4と同様にして多孔質含浸液膜を作製した。
【0118】
[比較例6]
特許文献5を参考とし、ゲル状薄膜を作製した。内容量10mLのスクリュー管に、末端がN−ヒドロキシスクシンイミジル基の4官能ポリエチレングリコールであるSUNBRIGHT PTE−100GS(商品名)(日本油脂(株)製:分子量 10000Da)260mg、リン酸バッファー(pH=7.72)0.40g、リン酸クエン酸バッファー(pH=6.42)0.40g、蒸留水2.44gを加え混合しA液とした。また、内容量10mLのスクリュー管に、末端がアミノ基の4官能ポリエチレングリコールであるSUNBRIGHT PTE−100PA(商品名)(日本油脂(株)製:分子量10000Da)260mg、リン酸バッファー(pH=7.72)0.81g、蒸留水2.44gを加え混合しB液とした。A液とB液とを混合し、シャーレに展開し、PAN50(商品名)(セプロ社製:ポリアクリロニトリルUF複合膜)のポリアクリロニトリル層のみにフロートコート(溶液表面に浮遊・接触させ連続的に引き上げる方法)で塗工を行った。約10分後にゲル化は進行し、溶液は高粘性液体となり、最終的に硬化した。ゲル化が経時的に進行したため、PAN50に均一にフロートコートすることができなかった。
【0119】
[比較例7]
内容量10mLのスクリュー管に、末端がN−ヒドロキシスクシンイミジル基の4官能ポリエチレングリコールであるSUNBRIGHT PTE−100GS(商品名)(日本油脂(株)製:分子量 10000Da)111mg、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド260mg、塩化メチレン2.7gを加え混合しC液とした。また、別の内容量10mLのスクリュー管に、末端がアミノ基の4官能ポリエチレングリコールであるSUNBRIGHT PTE−100PA(商品名)(日本油脂(株)製:分子量10000Da)111mg、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド260mg、塩化メチレン2.7gを加え混合しD液とした。C液とD液とを混合し、シャーレに展開し、PAN50(商品名)(セプロ社製:ポリアクリロニトリルUF複合膜)のポリアクリロニトリル層のみにフロートコート(溶液表面に浮遊・接触させ連続的に引き上げる方法)で塗工を行った。C液とD液とを混合後、素早くゲル化が進行し硬化したため、PAN50に均一にフロートコートすることができなかった。
【0120】
[比較例8]
比較例7のコーティング方法をフロートコートからディップコートに変更し、PAN50をPVDF製中空糸UF膜(旭化成ケミカルズ(株)製)に変更した以外は、比較例7と同様にしてゲル状薄膜を作製した。ディップコートは、PVDF製中空糸UF膜を20cmの長さに切り、先端を圧着して封止し、2gの重りをつけ、溶液に浸漬し垂直に引き上げることで行った。先端を封止し2gの重りをつけ、溶液に浸漬して行った。C液とD液とを混合後、素早く反応が進行し硬化したため、均一にディップコートすることはできなかった。
【0121】
(液体含有率)
実施例1〜実施例5のゲル状薄膜の自立膜については、次の方法で液体含有率を測定した。まず、ゲル状薄膜の質量を正確に計測し(計測値をW1とする)、薄膜を過剰量のメタノールに24時間浸漬した後、12時間70℃真空乾燥を行い、薄膜の質量を再び計測した(計測値をW2とする)。液体含有率(質量%)=(W1−W2)/W1×100の式により液体含有率を計算した。実施例6〜7のゲル状薄膜の複合膜については、同じ組成の自立膜を作製し、実施例1〜実施例5と同様の方法で液体含有率を測定した。比較例1〜比較例3のゲル状薄膜については、モノマーの配合量から液体含有率を計算で算出した。結果を表1〜2にまとめた。
【0122】
(膜厚)
実施例1〜実施例5、比較例2〜比較例3のゲル状薄膜の自立膜については膜厚計(DIGIMATIC INDICATOR IDF−130:ミツトヨ(株)製)により膜厚を測定した。実施例6〜7、比較例1のゲル状薄膜の複合膜については、走査型電子顕微鏡(JCM−5100型、JEOL製)によって、断面を観察することによって測定した。結果を表1〜2にまとめた。
【0123】
(耐圧性、高圧透過測定)
実施例1〜実施例7、比較例1〜比較例5において、分離対象ガスが高圧条件での耐圧性、透過測定を
図3、
図4の装置を用い実施した。50℃、ドライ条件(0%湿度)下で、40%二酸化炭素(CO
2)/60%窒素(N
2)の混合ガスを用い、差圧8.0MPa条件にて測定した。耐圧性に関しては、12時間測定後、液体の漏出が生じず、透過測定可能なものを「OK」とした。液体の漏出はサンプルセル17の焼結板24又はPermeate出口25付近の内壁に液滴が観察されるかで判断した。透過測定が可能かどうかは、膜に欠陥が生じず、8.0MPaの差圧を保つことができるかどうかで判断した。一方、液体の漏出や、物理的な欠陥が発生し測定が不可能な場合を「NG」とした。また、透過測定に関しては、透過流量を石鹸膜流量計20で測定し、透過ガス比率をサンプルポート19からシリンジでガスを採取しガスクロマトグラフィーで測定した。測定値よりCO
2の透過係数(PCO
2)を、測定値及び下記式(12)より理想分離係数(α
*CO
2/N
2)をそれぞれ算出して比較した。結果を表1〜2に示す。なお、下記式(12)中、Feedは分離対象ガスを、Permeateは透過ガスを表す。
【0124】
【数1】
【0125】
(低圧透過測定)
実施例1〜実施例7において、低圧差圧での透過測定を実施した。ジーティーアールテック社製差圧式ガス・水蒸気透過率測定装置(GTR30XAAS)にて、相対湿度0%、50℃の条件下で、40%二酸化炭素(CO
2)/60%窒素(N
2)の混合ガス、40%二酸化炭素(CO
2)/60%メタン(CH4)の混合ガスを用い測定し、二酸化炭素の透過係数(PCO
2)、理想分離係数(α
*CO
2/N
2、α
*CO
2/CH
4)を比較した。結果を表1〜2に示す。
【0126】
表1〜2の記号や略称を説明する。
P:透過係数(1Barrer=1×10
−10[cm
3(STP)cm/cm
2/s/cmHg)
α
*:理想分離係数
emimTFSA:1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド
emimBF
4:1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボラート
PEG400:ポリエチレングリコール400
−:未実施
測定不可能:膜に欠陥やピンホール等が生じ、測定に必要な差圧を維持できなくなった状態。
【0127】
<コーティング評価>
実施例8〜実施例9、比較例6〜比較例8について、コーティング性を評価した。支持体上に欠陥なくコートできたものを「OK」、できなかったものを「NG」とした。CO
2とN
2の分離係数が15以上のものを欠陥なくコートできたと判断した。実施例8、比較例6、比較例7についてはジーティーアールテック社製差圧式ガス・水蒸気透過率測定装置(GTR30XAAS)にて、相対湿度0%、50℃の条件下で、40%二酸化炭素(CO
2)/60%窒素(N
2)の混合ガスを用い評価した。実施例9、比較例8については、ジーティーアールテック社製等圧式ガス透過率測定装置(GTR20FMAK)にて、相対湿度0%、50℃の条件下で、40%二酸化炭素(CO
2)/60%窒素(N
2)を用い評価した。結果を表3に示す。
【0128】
【表1】
【0129】
【表2】
【0130】
【表3】
【0131】
表1〜2の結果より、本発明の好適な実施例により、高い液体含有率かつ耐圧性のあるゲル状薄膜を提供することが可能であることがわかった。このゲル状薄膜は高い液体含有率であるため、高気体透過性能の気体分離膜として使用できた。これはゲル状薄膜の液体含有率が高く、高透過性能である液体の透過性能への寄与が大きくなるためと考えられた。例えば、比較例1のように液体を有さない場合、薄膜は耐圧性を有するが、気体透過性能が大きく減少した。また、耐圧性、高圧透過測定の結果より、本発明の好適な実施例であるゲル状薄膜は優れた耐圧性を有することがわかった。よって、本発明の好適な実施例であるゲル状薄膜を気体分離膜として用いた際、天然ガス等の高圧の分離対象ガスの処理に対しても使用可能であることがわかった。
【0132】
表3より、本発明の好適な実施例であるゲル状薄膜は、エンチオール反応を用いることでフロートコート、ディップコートで多孔質支持体の表面にゲル状薄膜をコートした複合膜を提供することが可能であることがわかった。本発明の好適な実施例であるゲル状薄膜は、これらの方法を用いることで欠陥なく多孔質支持体にコーティングすることが可能であり、さらに連続プロセスへの適用することが可能であることがわかった。