(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、以下の実施の形態では、特に必要なとき以外は同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。
【0018】
また、以下の実施の形態で用いる図面においては、平面図であっても、図面を見易くするために部分的にハッチングを付す場合がある。
【0019】
(実施の形態1)
以下に、
図1および
図2を用いて、本実施の形態の半導体装置の構造について説明する。
図1は、本実施の形態の半導体装置であるLDMOSトランジスタの構造を示す平面図である。
図2は、
図1のA−A線における断面図である。
図1および
図2に示すLDMOSトランジスタPD1は、Pチャネル型MOS型のFET(Field Effect Transistor:電界効果トランジスタ)である。
【0020】
図1では、半導体基板SBと、半導体基板SBの上面に形成された分離用の溝(分離溝)TNC内に埋め込まれた絶縁膜からなる分離絶縁膜SISと、半導体基板SBおよび分離絶縁膜SISのそれぞれの上に形成されたゲート電極GEとを示している。半導体基板SB内には、p
+型の半導体領域であるソース領域(ソース拡散層)SC、p
+型の半導体領域であるドレイン領域(ドレイン拡散層)DC、n
+型の半導体領域であるウェル領域WC、n型の半導体領域であるウェル領域WL、およびp型の半導体領域であるドリフト領域DFTが形成されている。
図1では、分離絶縁膜SISに覆われた領域における、半導体基板SB、ドリフト領域DFTおよびウェル領域WLの互いの境界を破線で示している。また、平面視においてゲート電極GEが形成されている領域にハッチングを付している。
【0021】
図1に示すように、ソース領域SC、ドレイン領域DC、ウェル領域WC、ドリフト領域DFTの一部、およびウェル領域WLの一部のそれぞれの上面は、分離絶縁膜SISから露出している。また、分離絶縁膜SISの上面には、溝HLが形成されている。
【0022】
図2に示すように、Pチャネル型のLDMOSトランジスタPD1は、半導体基板SB内に形成された、ソース領域SC、ドレイン領域DC、ウェル領域WC、ウェル領域WL、ドリフト領域DFT、n
−型の半導体領域であるウェル領域HWL、ゲート電極GE、ゲート絶縁膜GIS、分離絶縁膜SISおよび溝HLを有している。LDMOSトランジスタPD1の上部は層間絶縁膜ISに覆われており、層間絶縁膜ISを貫通するコンタクトプラグCN1、CN2およびCN3は、LDMOSトランジスタPD1に接続されている。また、層間絶縁膜IS上に形成された複数の配線INCは、コンタクトプラグCN1の上面、CN2の上面およびCN3の上面にそれぞれ接続されている。
【0023】
半導体基板SBは例えばp
−型シリコン基板であり、半導体基板SB上に形成されたゲート絶縁膜GISは例えばシリコン酸化膜からなり、半導体基板SB上にゲート絶縁膜GISを介して形成されたゲート電極GEは、例えばポリシリコンからなる。半導体基板SBの上面近傍には、n
−型の半導体領域であるウェル領域HWLが比較的深い深さで形成されている。
【0024】
また、半導体基板SBの上面には、p
+型の半導体領域であるドリフト領域DFTおよびn型の半導体領域であるウェル領域WLが、ウェル領域HWLよりも浅く形成されている。ゲート絶縁膜GISは、溝TNCおよび分離絶縁膜SISよりもソース領域SC側に形成されている。つまり、平面視においてゲート絶縁膜GISと分離絶縁膜SISとは隣接して配置されており、互いに重なっていない。
【0025】
n型のウェル領域WLより濃度の薄いn
−型のウェル領域HWLは、LDMOSトランジスタPD1の全域に亘って設けられており、ウェル領域WLとドリフト領域DFTとは、ゲート電極GEおよびゲート酸化膜の直下を境界として隣り合うように配置されている。また、ウェル領域WLはドリフト領域DFTよりも浅い深さで形成されている。
【0026】
例えば主にシリコン酸化膜からなる分離絶縁膜SISは、ウェル領域WLおよびドリフト領域DFTよりも浅い深さで半導体基板SBの上面に形成された溝TNC内に埋め込まれている。ソース領域SCおよびドレイン領域DCは、半導体基板SBの上面に、平面視においてゲート電極GE、ゲート絶縁膜GISおよび分離絶縁膜SISを挟むように配置されている。ゲート電極GEおよびドレイン領域DCの間隔は、ゲート電極GEおよびソース領域SCの間隔よりも大きい。分離絶縁膜SISはゲート電極GEとドレイン領域DCとの間に設けられており、ゲート電極GEの直下に配置されている。
【0027】
LDMOSトランジスタPD1のチャネルが形成されるウェル領域WLは、ソース領域SCの下面および側壁を覆うように形成されており、ドリフト領域DFTは、ドレイン領域DCの下面と、分離絶縁膜SISの下面および側壁とを覆うように形成されている。また、n
+型の半導体領域であるウェル領域WCの一方の側壁は、ソース領域SCに接し、ウェル領域WCの下面は、ウェル領域WLに覆われている。ソース領域SC、ドレイン領域DC、ウェル領域WCは、ウェル領域WL、ドリフト領域DFTおよび分離絶縁膜SISよりも浅い深さで半導体基板SBの上面に形成されている。ドリフト領域DFTはゲート絶縁膜GISの直下および分離絶縁膜SISの直下に亘って形成されており、ドリフト領域DFTのソース領域SC側の端部はゲート絶縁膜GISの直下に位置している。
【0028】
所望のソース−ドレイン耐圧を確保するために設けられた分離絶縁膜SISの上には、ゲート電極GEが一部覆い被さっており、この構造により得られるフィールドプレート効果により、高い耐圧を得ることができる。この被り量を大きくすることにより、分離絶縁膜SISの端部の電界が緩和し、ホットキャリアストレス中における分離絶縁膜SISのソース側端やゲート絶縁膜GISへの電子注入が抑制される。なお、本願でいう耐圧とは、特に指摘しない限り、ソースとドレインとの間の電気的な耐圧をいい、ゲートがオフしている時の耐圧をオフ耐圧、オンしている時の耐圧をオン耐圧と呼ぶ。
【0029】
コンタクトプラグCN1は、ウェル領域WCおよびソース領域SCのそれぞれの上面に、シリサイド層(図示しない)を介して電気的に接続されている。つまり、ウェル領域WCおよびソース領域SCは、それらの上面に形成されたシリサイド層(図示しない)を介してショートしている。このようにウェル領域WCおよびソース領域SCを短絡させているのは、半導体基板内の寄生バイポーラトランジスタのベース抵抗を抑えるためである。ウェル領域WCおよびソース領域SCを短絡させることで、寄生バイポーラトランジスタがオンすることを防ぐことができる。ここでいう寄生バイポーラは、例えばソース領域SC、ウェル領域WLおよびドリフト領域DFTからなるPNP接合により構成され得るものである。
【0030】
コンタクトプラグCN2は、ゲート電極GEの上面にシリサイド層(図示しない)を介して電気的に接続されている。コンタクトプラグCN3は、ドレイン領域DCの上面にシリサイド層(図示しない)を介して電気的に接続されている。
【0031】
このように、半導体基板SBの主面には一対のソース領域SCおよびドレイン領域DCが形成されており、ソース領域SCおよびドレイン領域DC間の溝TNC内には分離絶縁膜SISが設けられ、分離絶縁膜SISよりもソース領域SC側にゲート絶縁膜GISが形成されている。ゲート電極GEは、ソース領域SCおよびドレイン領域DC間において、ゲート絶縁膜GIS上および分離絶縁膜SIS上に跨がるように形成されている。つまり、ゲート電極GEはゲート絶縁膜GISの直上および分離絶縁膜SISの直上に亘って形成されている。
【0032】
分離絶縁膜SISの上面に形成された溝HL内にはゲート電極GEが埋め込まれている。ここで、
図38に示す第1比較例の半導体装置であるPチャネル型のLDMOSトランジスタCD2のように、分離絶縁膜SISの上面に溝HLを形成しない場合には、以下の問題が生じる。すなわち、ゲート電極GE端の下の半導体基板SBの表面の電界が強くなるため、オフ耐圧が低下する問題がある。また、ゲート電極GE端の下の半導体基板SBの表面において、インパクトイオン化による電子が増大し、この電子電流が寄生バイポーラトランジスタを動作させることにより、オン耐圧が低下する問題がある。これは、
図37に示すように、溝HLを有していないNチャネル型のLDMOSトランジスタCD1においても同様である。
図37は、第1比較例の半導体装置であるNチャネル型のLDMOSトランジスタを示す断面図である。
【0033】
また、Nチャネル型およびPチャネル型のLDMOSトランジスタのそれぞれでは、ホットキャリアストレス時に、STI構造のソース側の端部で電界が集中して高電界となるため、界面準位が発生し、また、衝突電離により発生した電子がSTI構造の端部に注入されることにより、オン抵抗が変動する問題が起こる。また、Pチャネル型のLDMOSトランジスタでは、これに加え、電子がゲート絶縁膜に注入される方向に電界が向いているため、STI構造の端部で電子が加速されてゲート絶縁膜に注入され、電界のバランスが崩れて耐圧が低下し、また、当該注入により生じたダメージにより、STI構造の上端部でゲート酸化膜が破壊される問題がある。
【0034】
これに対し、
図39および
図40に第2比較例としてそれぞれ示すLDMOSトランジスタCD3、CD4のように、STI構造、つまり分離絶縁膜SISの端部に段差を設けることにより、最も電界の集中するSTI構造の端部の電界を緩和させることが考えられる。
図39は、第2比較例の半導体装置であるNチャネル型のLDMOSトランジスタCD3を示す断面図である。
図40は、第2比較例の半導体装置であるPチャネル型のLDMOSトランジスタCD4を示す断面図である。
【0035】
図39および
図40に示す第2比較例のLDMOSトランジスタCD3、CD4は、本実施の形態のLDMOSトランジスタPD1(
図2参照)と異なり、溝HLを有しておらず、また、分離絶縁膜SISの底部において、ソース領域SC側の端部に段差が設けられている。
【0036】
なお、
図37および
図39に示すNチャネル型LDMOSトランジスタが、
図38および
図40に示すPチャネル型LDMOSトランジスタと異なる点は、以下の点にある。つまり、Nチャネル型LDMOSトランジスタは、ウェル領域HWLを有していない点、ソース領域SC、ドレイン領域DC、ドリフト領域DFT、ウェル領域WLおよびウェル領域WCのそれぞれの導電型がPチャネル型LDMOSトランジスタの各領域とは反対の導電型となっている点で、Pチャネル型LDMOSトランジスタとは異なっている。すなわち、Nチャネル型のLDMOSトランジスタCD3では、ソース領域SCおよびドレイン領域DCはn
+型であり、ドリフト領域DFTはn型であり、ウェル領域WLはp型であり、ウェル領域WCはp
+型である。
【0037】
なお、後述する実施の形態4のNチャネル型LDMOSトランジスタPD4(
図33参照)の構造は、上記と同様に、本実施の形態のPチャネル型のLDMOSトランジスタPD1(
図2参照)と異なる。
【0038】
ここで、
図41に、LDMOSトランジスタCD2(
図38参照)およびLDMOSトランジスタCD4(
図40参照)のそれぞれのホットキャリアストレス中の耐圧変動の実測結果を示す。
図41は、第1、第2比較例の半導体装置にストレスを与える時間の経過とオフ耐圧BVoffとの関係を示すグラフであり、LDMOSトランジスタCD2の結果を破線および白い菱形のプロットで示し、LDMOSトランジスタCD4の結果を実線および黒い四角のプロットで示している。つまり
図41は、STI構造に段差を設けない第1比較例のLDMOSトランジスタCD2と、STI構造に段差を設けた第2比較例のLDMOSトランジスタCD4のそれぞれの耐圧寿命を比較するものである。
【0039】
図41のグラフから、
図40のように段差を設けた構造においても、
図38のような段差を設けない構造と同様に、ホットキャリアストレス中に耐圧の低下が発生していることが分かる。これは、電界が集中するSTI構造のソース側端の角部が2か所に増え、STI構造の端部への電子の注入が促進されたためと考えられる。その電子注入の量を示す指標であるゲート電流Igは、
図42の実測結果から分かるように、増加している。
【0040】
このため、
図43の実測結果に示すように、上記段差を設けても、オン抵抗Rspの変動量は低減しない。上記のようにPチャネル型LDMOSトランジスタは、ホットキャリアストレス中の電子が積極的にSTI構造またはゲート酸化膜に注入されることに起因する種々の問題を有しているが、
図41〜
図43の実測結果から分かるように、
図40に示す構造ではそれらの問題を解決することが困難である。また、Pチャネル型に比べ、Nチャネル型のLDMOSトランジスタ(
図37および
図39参照)ではゲート絶縁膜に電子が注入される問題およびゲート絶縁膜が破壊される問題は起きにくいが、
図41〜
図43を用いて説明したように、STI構造に段差を設けても、ホットキャリアストレス中にSTI構造に電子が注入され、素子の耐圧が低下する問題を解決することは困難である。
【0041】
なお、本願でいうゲート電流とは、半導体基板とゲート電極との間に、ゲート絶縁膜または分離絶縁膜などを介して流れる電流をいう。
図42は、第1、第2比較例の半導体装置にストレスを与える時間の経過とゲート電流Igとの関係を示すグラフである。
図43は、第1、第2比較例の半導体装置にストレスを与える時間の経過とオン抵抗Rspとの関係を示すグラフである。
図42および
図43でも、
図41と同様にLDMOSトランジスタCD2の結果を破線および白い菱形のプロットで示し、LDMOSトランジスタCD4の結果を実線および黒い四角のプロットで示している。
【0042】
上記の問題に対応するため、本実施の形態では、
図2に示す分離絶縁膜SISの上面の、ゲート絶縁膜GISおよびソース領域SCに近い側の領域に溝HLを設け、溝HL内にゲート電極GEの一部を埋め込んでいる。ここでは、溝HL内に埋め込まれたゲート電極GEが分離絶縁膜SISのソース側端近傍の半導体基板SB内の電界を緩和させるため、分離絶縁膜SIS上のゲート電極GEの被り量を必要以上に長くする必要がない。したがって、ゲート電極GEの被り量である長さLovが長くなることに起因するオフ耐圧およびオン耐圧の低下を防ぎつつ、ホットキャリア特性を改善することが可能となる。これにより、LDMOSトランジスタの耐圧変動を防ぎ、また、ゲート絶縁膜の信頼性を向上させることができるため、半導体装置の信頼性を向上させることができる。
【0043】
本実施の形態によれば、分離絶縁膜SISの一部にゲート電極GEが埋め込まれているため、最も電界の集中する分離絶縁膜SISの端部近傍の電界が緩和される。したがって、ホットキャリアストレス中における分離絶縁膜SISの端部またはゲート絶縁膜GISへの電子注入が抑制され、オン抵抗の変動を小さくすることができ、かつ、ゲート絶縁膜GISの破壊を防ぐことが可能となる。
【0044】
次に、本実施の形態の半導体装置の製造方法を、
図3〜
図8を用いて説明する。
図3〜
図8は、
図1および
図2に示した本実施の形態の半導体装置であるLDMOSトランジスタの製造方法を示す断面図である。
【0045】
まず、
図3に示すように、p
−型シリコン基板である半導体基板SBを準備する。次に、周知の写真製版(フォトリソグラフィ)技術により、LDMOSトランジスタの形成される領域を開口するようにフォトレジスト膜を形成し、半導体基板SBの上面にn型不純物を注入する。当該フォトレジスト膜を除去した後、例えば1000℃を超えるような高温熱処理によりn型不純物を半導体基板SBの上面から深い領域に拡散して、n
−型のウェル領域HWLを形成する。
【0046】
次に、
図4に示すように、STI構造を形成するためのハードマスクHMを半導体基板SBの表面上に堆積させる。このハードマスクHMは、例えばシリコン窒化膜により構成され、またはシリコン酸化膜とシリコン窒化膜との積層膜により構成されている。次に、写真製版技術により、STI形成予定領域を開口するようにフォトレジスト膜を形成する。その後、フォトレジスト膜の開口部から露出する半導体基板SBを異方性エッチングにより数百nm程度の深さ分だけ除去したのち、フォトレジスト膜を除去する。
【0047】
次に、
図5に示すように、半導体基板SB上の全面にシリコン酸化膜を堆積して溝TNC内を埋め込んだ後、CMP(Chemical Mechanical Polishing)法またはエッチバック法によりハードマスクHM上のシリコン酸化膜を除去することで、溝TNC内のみにシリコン酸化膜からなる分離絶縁膜SISを残す。その後、ハードマスクHMを等方性エッチングなどにより除去する。次に、写真製版技術により、半導体基板SBの上面に、p型のドリフト領域DFTおよびn型のウェル領域WLをイオン注入などの方法で順次形成する。なお、p型のドリフト領域DFTおよびn型のウェル領域WLはどちらを先に形成してもよい。
【0048】
次に、
図6に示すように、写真製版技術により、溝TNC内の分離絶縁膜SISの上面に溝HLを形成する部分を露出するように開口したフォトレジスト膜(図示しない)を形成する。フォトレジスト膜を開口する位置は、分離絶縁膜SISの直上であって、分離絶縁膜SISの端部からは離れており、かつ、後の工程でゲート電極GE(
図7参照)が形成される予定の領域と平面視において重なる領域に位置している。次に、例えば当該フォトレジスト膜をマスクとして異方性エッチングを行うことにより、分離絶縁膜SISの上面に溝HLを形成する。溝HLの深さは、分離絶縁膜SISの1/3以上の深さに形成されるが、分離絶縁膜SISの底面までには到達しない。その後、フォトレジスト膜を除去する。
【0049】
次に、
図7に示すように、例えば熱酸化法によりゲート絶縁膜GISを数〜数十nm程度の厚さで形成し、その上にゲート電極GEとなるポリシリコンをCVD(Chemical Vapor Deposition)法などにより形成する。このとき、溝HL内にもポリシリコンが埋め込まれる。次に、写真製版技術により、ゲート電極GEの形成予定領域のみを覆うフォトレジスト膜のパターンを形成する。このとき、溝HLはフォトレジスト膜に覆われている。その後、異方性エッチングによりポリシリコンを除去して半導体基板SBおよび分離絶縁膜SISのそれぞれの上面を露出させることで、ゲート電極GEを形成した後、フォトレジスト膜を除去する。
【0050】
次に、
図8に示すように、写真製版技術により、ドレイン領域DC、ソース領域SC、およびウェル領域WCをイオン注入などの方法で順次形成する。これにより、ソース領域SC、ドレイン領域DC、ウェル領域WC、ウェル領域WL、ドリフト領域DFT、ウェル領域HWL、ゲート電極GE、ゲート絶縁膜GIS、分離絶縁膜SISおよび溝HLを有するLDMOSトランジスタPD1を形成する。
【0051】
次に、層間絶縁膜ISを、例えばCVD法を用いて半導体基板SB上の全面に堆積した後、写真製版技術により層間絶縁膜ISに複数の接続孔を形成する。これらの接続孔内にタングステンなどの導体を埋め込むことにより、コンタクトプラグCN1〜CN3を形成する。次に、層間絶縁膜IS上に、必要数の配線層を形成する。LDMOSトランジスタに接続された配線INCは、この配線層を構成している。配線の主な材料には、例えばAl(アルミニウム)またはCu(銅)などが用いられる。このようにして、
図1および
図2に示すような構造を形成する。また、図示はしていないが、最上層の配線層には、電極パッドを形成する。
【0052】
以下では、本実施の形態の半導体装置の効果について説明する。本実施の形態の目的である、ホットキャリアストレス時のオン抵抗の変動の抑制、およびゲート酸化膜破壊の防止に関し、その有効な指標となるのが、ストレス中の電子注入量を反映したゲート電流Igである。本実施の形態の構造の特徴的な部分である、溝HL(
図2参照)内のゲート電極GE(
図2参照)が、このゲート電流Igの低減に有効であることを、以下、詳細に説明する。
【0053】
まず、溝HLが設けられていない構造を有するLDMOSトランジスタCD2(
図38参照)のゲート電流Igについて説明する。このゲート電流Igは、分離絶縁膜SISの端部近傍の電界を小さくすることにより減少させることができる。LDMOSトランジスタCD2において、ゲート電流Igを減らすために有効な手法は、ゲート電極GEの分離絶縁膜SISに対する被り量である長さLovを増やすことである。
図44は、LDMOSトランジスタCD2における長さLovに対する、ゲート電流Igの変化を示すデバイスシミュレーション結果のグラフである。
【0054】
ここで、長さLovは、分離絶縁膜SIS直下のドリフト領域DFTの長さ、つまり分離絶縁膜SISの直下のドレイン領域の長さLdとの比率(パーセント表示)で示されており、p型のドリフト領域DFTの長さLdは一定である。ゲート電極GEの被り量である長さLovが大きくなると、分離絶縁膜SISのソース側端の電界が緩和されるため、ゲート電流Igは小さくなる。しかし、
図45に示すように、オフ耐圧BVoffおよびオン耐圧BVonが低下する問題が発生する。
【0055】
図45は、LDMOSトランジスタCD2における長さLovに対する、オフ耐圧BVoffおよびオン耐圧BVonの変化を示すグラフである。
図45では、オフ耐圧BVoffのグラフを実線および黒い菱形のプロットで示し、オン耐圧BVonのグラフを破線および白い三角のプロットで示している。
【0056】
次に、本実施の形態の構造について、
図2に示す溝HL内のゲート電極GEの平面的な位置がゲート電流Igに与える影響に着目して説明する。溝HL内のゲート電極GEの平面的な位置を表すレイアウトパラメータとしては、溝HLの幅Lt、分離絶縁膜SISのソース側端と溝HLとの距離Ls、および、ゲート電極GEの分離絶縁膜SISに対する被り量である長さLovが挙げられる。なお、幅Lt、距離Lsおよび長さLovは、いずれもLDMOSトランジスタを構成するソース領域およびドレイン領域が並ぶ方向であって、半導体基板の主面に沿う方向における長さである。
【0057】
また、
図2に示すように、半導体基板SBの主面に対して垂直な方向における分離絶縁膜SISの厚さはLyで表わされ、同方向における溝HLの深さはLxで表わされる。つまり、溝HLの深さLxは、分離絶縁膜SISの上面から溝HLの底面までの距離である。
【0058】
以下に、それぞれのパラメータの値を変えた場合のゲート電流Igの変化について、デバイスシミュレーション結果を交えて説明する。
【0059】
図9は、
図2に示す本実施の形態のLDMOSトランジスタPD1における、溝HLの幅Ltに対する、ゲート電流Igの変化を表したデバイスシミュレーション結果のグラフである。ここで、溝HLの幅Ltは、ゲート電極GEの分離絶縁膜SISに対する被り量である長さLovとの比率(パーセント表示)で示されており、長さLovの値は一定である。なお、このシミュレーションでは、距離比Ls/Lovは6.8%に、深さ比Lx/Lyは77%に固定されている。また、第1比較例のLDMOSトランジスタCD2(
図38参照)のように、溝HLが形成されていない場合、つまり溝HLの幅Ltが0%で固定されている場合のゲート電流Igの値は、
図9において破線の丸で示す値となる。
【0060】
図9に示すように、溝HLの幅Ltを0%から約50%にまで大きくしていくと、ゲート電流Igは小さくなっていき、約50%でゲート電流Igは最小となる。したがって、溝HLを設けない第1比較例のLDMOSトランジスタCD2(
図38参照)に比べ、本実施の形態のLDMOSトランジスタPD1(
図2参照)は、約3桁程度ゲート電流Igを低減することが可能である。
【0061】
ここで、
図10に、本実施の形態の半導体装置における分離絶縁膜のソース領域側の端部を拡大した断面図を示す。
図10では、分離絶縁膜SISと半導体基板SBとの境界に沿って、特定の点B1、B2およびC1を示している。B1は分離絶縁膜SISと半導体基板SBとの境界における上端部であり、B2は分離絶縁膜SISの底面におけるソース領域側の端部であり、C1はゲート電極GEのドレイン領域側の端部の直下における、分離絶縁膜SISと半導体基板SBの境界である。
【0062】
分離絶縁膜SISのソース側端に沿った、
図10の断面図の境界ラインB1−B2における半導体基板SB側の電界のシミュレーション結果のグラフを
図11に示し、境界ラインB1−B2における半導体基板SB側のインパクトイオン化発生レート(IIGR)のシミュレーション結果のグラフを
図12に示す。これらの結果が示すように、
図10に示す溝HL内のゲート電極GEにより、分離絶縁膜SISのソース側端の電界が緩和され、インパクトイオンの発生量が抑えられている。よって、インパクトイオン化率を下げることができるため、分離絶縁膜SISまたはゲート絶縁膜GISに対する電子注入を低減することができる。
【0063】
なお、
図11および
図12では、本実施の形態のLDMOSトランジスタPD1の結果を実線で示し、第1比較例のLDMOSトランジスタCD2(
図38参照)の結果を破線で示している。ここで、実線で示す本実施の形態のグラフの距離比Lt/Lovは43%であり、破線で示す第1比較例のグラフにおいて、幅Lt=0である。
【0064】
図9に示すように、溝HLの幅Ltを約50%からさらに大きくしていくと、ゲート電流は逆に増加していく。これは、
図13および
図14に示すように、高電界領域がドレイン側にシフトし、インパクトイオンの発生量が増えて、溝HLの底の部分を介してゲート電流Igが流れるためである。
図13は、
図10の断面図の境界ラインB2−C1、つまり分離絶縁膜SISの底部の半導体基板SB側の電界のシミュレーション結果を示すグラフである。
図14は、
図10の断面図の境界ラインB2−C1、つまり分離絶縁膜SISの底部の半導体基板SB側のインパクトイオン化発生レート(IIGR)のシミュレーション結果を示すグラフである。
【0065】
なお、
図13および
図14では、本実施の形態のLDMOSトランジスタPD1の結果を実線および一点鎖線で示し、第1比較例のLDMOSトランジスタCD2(
図38参照)の結果を破線で示している。ここで、実線で示す本実施の形態のグラフの距離比Lt/Lovは43%であり、一点鎖線で示す本実施の形態のグラフの距離比Lt/Lovは98%であり、破線で示す第1比較例のグラフの幅Lt=0である。また、
図13および
図14では、距離比Ls/Lovを6.8%に固定し、深さ比Lx/Lyを77%に固定している。
【0066】
図15は、
図2に示す溝HLの幅Ltに対するオフ耐圧BVoffおよびオン耐圧BVonの変化を表したデバイスシミュレーション結果のグラフである。
図9と同様に、グラフの横軸は、溝HLの幅Ltと、ゲート電極GEの分離絶縁膜SISに対する被り量である長さLovとの比率(パーセント表示)で示されており、長さLovの値は一定である。
図15の黒い菱形のプロットを結ぶ実線のグラフ、および白い三角のプロットを結ぶ破線のグラフは、本実施の形態のLDMOSトランジスタPD1(
図2参照)についてのオフ耐圧BVoff、オン耐圧BVonのそれぞれの計測結果を示すものである。
【0067】
オフ耐圧BVoffおよびオン耐圧BVonはいずれも、幅Ltが約50%を超えたあたりから急激に低下するが、幅Ltが約50%以内であれば、各耐圧の低下は殆どない。したがって、幅Ltを例えば40%に設定すれば、各耐圧を殆ど低下させることなく、ゲート電流Igを3桁低減させることが可能となる(
図9参照)。つまり、ホットキャリア特性が改善されており、ゲート絶縁膜GISを介してゲート電流Igが流れることを防ぐことができるため、半導体装置の寿命を延ばすことができる。このように、溝HLの幅Ltは、オフ耐圧BVoffおよびオン耐圧BVonの低下が小さく、かつ、ゲート電流Igを可能な限り小さくできる長さとすることが望ましい。
【0068】
LDMOSトランジスタの性能指標として、耐圧と並んで重要な項目であるオン抵抗Rspについて、以下に説明する。
図16に示すように、本実施の形態の構造では、溝HLの幅Ltを40%程度のところに設定することにより、溝HLを形成しない第1比較例のLDMOSトランジスタCD2(
図38参照)に比べて、約5%の改善効果を得ることができる。
図16は、距離比Lt/Lovと、オン抵抗Rspとの関係を示すグラフである。ここでも、距離比Ls/Lovは6.8%であり、深さ比Lx/Lyは77%であり、長さLovの値は一定である。また、第1比較例のLDMOSトランジスタCD2(
図38参照)のように、溝HLの幅Ltが0%で固定されている場合のオン抵抗Rspの値は、
図16において破線の丸で示す値となる。
【0069】
このようにオン抵抗Rspを低減することができるのは、溝HLを設けて溝HL内にゲート電極GEを形成することで、ゲート電極GEの直下の半導体基板SB内にホールの蓄積層が形成され、これにより、当該蓄積層が形成された半導体基板SB内の抵抗が下がるためである。
【0070】
一方、第1比較例のLDMOSトランジスタCD2(
図38参照)では、
図21に示すように、ゲート電極GEの被り量である長さLovとドリフト領域DFTの長さLdとの比率(パーセント表示)を、オフ耐圧BVoffおよびオン耐圧BVonを70V以上確保できる上限である70%程度にまで大きくしたとしても、オン抵抗Rspは2%程度の改善効果しか得られない。したがって、本実施の形態の構造では、オン抵抗Rspの低減に関しても、相対的に大きな効果が得られるというメリットがある。
【0071】
図21は、長さLovおよび長さLdとの比率(パーセント表示)と、オン抵抗Rspとの関係を示すグラフである。
図21では、本実施の形態のLDMOSトランジスタPD1(
図2参照)の結果を実線で示し、第1比較例のLDMOSトランジスタCD2の結果を破線で示している。なお、
図21において計測したLDMOSトランジスタPD1の各距離の比は、Ls/Ld=5%、Lt/Ld=15%、Lx/Ly=77%で固定されている。また、長さLdの値は一定である。
【0072】
以下では、
図2に示す溝HLのドレイン側端の位置を固定した場合、つまり、Ls+Ltを一定とした場合において、分離絶縁膜SISのソース側端と溝HLとの距離Lsを変化させたときの結果について述べる。
【0073】
図17は、分離絶縁膜SISのソース側端と溝HLとの距離Lsに対する、ゲート電流Igの変化を表したデバイスシミュレーション結果のグラフである。黒い菱形のプロットを結ぶ実線のグラフは、本実施の形態のLDMOSトランジスタPD1(
図2参照)についての計測結果を示すものである。また、第1比較例のLDMOSトランジスタCD2(
図38参照)におけるゲート電流Igの計測結果を破線で示している。
【0074】
ここで、分離絶縁膜SISのソース側端と溝HLとの距離Lsは、ゲート電極GEの分離絶縁膜SISに対する被り量である長さLovとの比率(パーセント表示)で示されており、長さLovの値は一定である。なお、このシミュレーションでは、距離比(Ls+Lt)/Lovは27%に、深さ比Lx/Lyは77%に固定されている。
【0075】
図17において、破線よりも高い位置に実線のグラフが示されていることから、溝HLの距離Lsが長さLovの0.068〜2.3%のとき、LDMOSトランジスタPD1のゲート電流Igは、LDMOSトランジスタCD2のゲート電流Igの値よりも1/3桁程度増加していることが分かる。なお、Ls/Lovが0.068%であることは、距離Lsがゲート絶縁膜GISの厚さに相当していることを意味する。このようにゲート電流Igが増加しているのは、距離Lsが短すぎることで、
図2に示す分離絶縁膜SISのソース側の端部と溝HLとの間の領域を通る電子電流がゲート電流Igに加わったためである。なお、本願でいうゲート絶縁膜GISの厚さ(膜厚)とは、半導体基板SBの主面に対して垂直な方向におけるゲート絶縁膜GISの上面から下面までの距離を指す。
【0076】
すなわち、距離Lsがゲート絶縁膜GISの厚さと同等である場合、ゲート電流Igが増加して半導体装置の信頼性が低下するため、距離Lsはゲート絶縁膜GISの膜厚よりも大きい値である必要がある。このように、溝HLは、分離絶縁膜SISのソース領域SC側の端部から離れて形成されている。具体的には、溝HLのソース領域SC側の端部は、分離絶縁膜SISのソース領域SC側の端部よりもドレイン領域DC側に離れた箇所に位置している。
【0077】
図17に示すように、距離Lsを2.3%から7%程度にまで大きくしていくと、ゲート電流Igは小さくなっていき、約7%のときにゲート電流Igは最小となる。さらに溝HLの距離Lsを大きくしていくと、ゲート電流Igは増加に転じる。これは、溝HL内のゲート電極GEが、最も電界の強くなる分離絶縁膜SISのソース側の端部から離れて、フィールドプレート効果が弱まるためである。
【0078】
なお、
図18の耐圧のシミュレーション結果から分かるように、溝HLの距離Lsを変化させることによるオフ耐圧BVoffおよびオン耐圧BVonの低下は見られない。
図18は、距離Lsに対する、オフ耐圧BVoffおよびオン耐圧BVonの値を表したデバイスシミュレーション結果のグラフである。
図18の黒い菱形のプロットを結ぶ実線のグラフ、および白い三角のプロットを結ぶ破線のグラフは、本実施の形態のLDMOSトランジスタPD1(
図2参照)についてのオフ耐圧BVoff、オン耐圧BVonのそれぞれの計測結果を示すものである。
【0079】
図18において、
図2に示す分離絶縁膜SISのソース側端と溝HLとの距離Lsは、ゲート電極GEの分離絶縁膜SISに対する被り量である長さLovとの比率(パーセント表示)で示されており、長さLovの値は一定である。なお、このシミュレーションでは、距離比(Ls+Lt)/Lovは27%に、深さ比Lx/Lyは77%に固定されている。
【0080】
このように、溝HLの距離Lsの値を決定する際も、ゲート電流Igが可能な限り小さくなるような最適値を設定することが望ましい。例えば、距離Lsがゲート絶縁膜GISの厚さと同程度では、LDMOSトランジスタCD2よりもゲート電流Igが増加するので好ましくなく、距離Lsの値は、ゲート絶縁膜GISの膜厚よりも大きい必要がある。
【0081】
また、溝HLのドレイン領域DC側の端部は、ゲート電極GEのドレイン領域DC側の端部よりもソース領域SC側に位置している。つまり、ゲート電極GEは溝HLよりもドレイン領域DC側に突き出すように形成されている。すなわち、溝HLよりもドレイン領域DC側の領域において、ゲート電極GEと当該ゲート電極GEの直下の半導体基板SBとの間には分離絶縁膜SISが介在している。このようにして、溝HLよりもドレイン領域DC側にゲート電極GEを延在させなければ、フィールドプレート効果を十分に得ることができず、ゲート電極GEの下の半導体基板SB内において電界が大きくなる問題が生じる。
【0082】
したがって本実施の形態では、ゲート電極GEのドレイン領域DC側の端部は、溝またはそれよりもソース領域SC側で終端しているのではなく、溝HLのドレイン領域DC側の端部の直上よりもドレイン領域DC側に位置している。言い換えれば、溝HLは、ゲート電極GEのドレイン領域DC側の端部よりもソース領域SC側に離れて形成されている。
【0083】
以下では、ゲート電極GEの分離絶縁膜SISに対する被り量である長さLovを変化させたときの結果について述べる。
図19は、ゲート電極GEの分離絶縁膜SISに対する被り量である長さLovに対する、ゲート電流Igの変化を示したデバイスシミュレーション結果のグラフである。ここで、長さLovは、
図2に示す分離絶縁膜SISの直下のドリフト領域DFTの長さLdとの比率(パーセント表示)で示されており、分離絶縁膜SISの直下のドリフト領域DFTの長さLdは一定である。なお、このシミュレーションでは、LDMOSトランジスタPD1(
図2参照)の構成について、距離比Ls/Ldは5.0%に、距離比Lt/Ldは15%に、深さ比Lx/Lyは77%に固定されている。また、
図19おいて、黒い菱形のプロットを結ぶ実線のグラフは、本実施の形態のLDMOSトランジスタPD1(
図2参照)についての計測結果を示すものである。
【0084】
図19に示すように、ゲート電極GEの被り量である長さLovを小さくしていくと、分離絶縁膜SISのソース側端の電界が強まるため、ゲート電流Igは大きくなっていく。また、長さLovが50%を下回ると、
図20の耐圧シミュレーション結果に示されているように、オフ耐圧BVoffが低下してしまう。これは、分離絶縁膜SISのソース側端の電界が強まって、オフ状態でのブレークダウンポイントが、ゲート電極GEのドレイン側端直下の半導体基板SBの表面から、分離絶縁膜SISのソース側端へ遷移し、ここの電界でオフ耐圧BVoffが決定されるようになったためである。なお、ブレークダウンポイントとは電界が最大となる箇所を指し、ブレークダウンポイントにてインパクトイオン化が起こり、これにより電子・正孔対が発生する。
【0085】
なお、
図20は、距離比Lov/Ldとオフ耐圧BVoffおよびオン耐圧BVonとの関係を示すグラフであり、このシミュレーションでは、LDMOSトランジスタPD1(
図2参照)の構成について、距離比Ls/Ldは5.0%に、距離比Lt/Ldは15%に、深さ比Lx/Lyは77%に固定されている。
図20の黒い菱形のプロットを結ぶ実線のグラフ、および白い三角のプロットを結ぶ破線のグラフは、本実施の形態のLDMOSトランジスタPD1(
図2参照)についてのオフ耐圧BVoff、オン耐圧BVonのそれぞれの計測結果を示すものである。
【0086】
オン抵抗Rspも、
図21のオン抵抗Rspのシミュレーション結果に示されているように、長さLovを小さくするほど増加する。したがって、
図2に示す溝HL内にゲート電極GEを設けることと、ゲート電極GEの被り量である長さLovが十分な長さであることの両方が、オン抵抗Rsp耐圧およびゲート電流Igを含む総合的な特性を向上させるために不可欠であることが分かる。つまり、被り量である長さLovは、ゲート電極GEが溝HLを十分覆い被せるように設定されている必要がある。
【0087】
次に、本実施の形態の半導体装置の構造について、溝HL内のゲート電極GEの深さLxがゲート電流Igに与える影響に着目して説明する。
図22は、
図2に示す溝HLの深さLxに対する、ゲート電流Igの変化を表したデバイスシミュレーション結果のグラフである。ここで、深さLxは、分離絶縁膜SISの厚さLyとの比(パーセント表示)で示されており、厚さLyは一定である。なお、このシミュレーションおよび後述する
図23〜
図25のグラフでは、距離比Ls/Lovは6.8%に、距離比Lt/Lovは20%に固定されている。また、第1比較例のLDMOSトランジスタCD2(
図38参照)のように、溝HLが形成されていない場合、つまり溝HLの深さLxが0である場合のゲート電流Igの値は、
図22において破線の丸で示す値となる。
【0088】
図22に示すように、溝HLの深さ比Lx/Lyを0%から77%にまで大きくしていくと、ゲート電流Igは減少していき、約77%にてゲート電流Igは最小となる。ここで、深さ比Lx/Lyが0%の場合と比べて、深さ比Lx/Lyが33%の場合にはゲート電流Igは1桁程度減少し、良好なゲート電流特性を得ることができる。このようにゲート電流Igが減少するのは、溝HL内のゲート電極GEのフィールドプレート効果が強まるためである。このとき、
図23の耐圧シミュレーション結果に示されているように、オフ耐圧BVoffおよびオン耐圧BVonの低下は見られない。
【0089】
なお、
図23は、深さ比Lx/Lyとオフ耐圧BVoffおよびオン耐圧BVonとの関係を示すグラフである。
図23の黒い菱形のプロットを結ぶ実線のグラフ、および白い三角のプロットを結ぶ破線のグラフは、本実施の形態のLDMOSトランジスタPD1(
図2参照)についてのオフ耐圧BVoff、オン耐圧BVonのそれぞれの計測結果を示すものである。
【0090】
図22に示すように、溝HLの深さ比Lx/Lyを約77%からさらに増やしていくと、ゲート電流Igは増加に転じる。これは、
図24に示す電界および
図25に示すインパクトイオン化発生レートのシミュレーション結果に示されているように、溝HLの底部での電界が強まって、インパクトイオンの量が増加したためである。また、溝HLの深さ比Lx/Lyを77%から過剰に大きくすると、溝HLの底部に残されている分離絶縁膜SISが薄くなり、ここに大きなゲート電流Igが流れることにより、絶縁膜の破壊を誘発することが懸念される。
【0091】
図24は、
図10の断面図の境界ラインB2−C1の半導体基板SB側の電界のシミュレーション結果を示すグラフである。
図25は、
図10の断面図の境界ラインB2−C1の半導体基板SB側のインパクトイオン化発生レート(IIGR)のシミュレーション結果を示すグラフである。
【0092】
このように、溝HLの深さにおいても、ゲート電流Igを可能な限り小さくできる最適値に設定することが望ましい。例えば深さ比Lx/Lyが96%であることは、溝HLの底部に残されている絶縁膜の厚さがゲート絶縁膜GIS程度の厚さであることに相当するが、このとき、ゲート電流Igは、溝HLを設けない第1比較例のLDMOSトランジスタCD2(
図38参照)よりも増加しており、好ましくない。つまり、溝HLの底部の分離絶縁膜SISの厚さは、ゲート絶縁膜GISの膜厚よりも大きいことが望ましい。よって、溝HLの底は分離絶縁膜SISの途中深さに位置しており、溝HLは分離絶縁膜SISを貫通していない。
【0093】
したがって、溝HLの底部での電界を弱めてゲート電流Igを低減する観点から、溝HLの深さは、分離絶縁膜SISの膜厚の33%以上であることが望ましい。つまり、溝HLの深さは分離絶縁膜SISの膜厚の1/3以上であることが望ましい。また、溝HLの直下の分離絶縁膜SISの膜厚は、ゲート絶縁膜GISの膜厚よりも大きいことが望ましい。
【0094】
(実施の形態2)
本実施の形態では、LDMOSトランジスタの分離絶縁膜の上面に設ける溝の幅を、前記実施の形態に比べて小さくし、そのような溝を分離絶縁膜の上面に複数設けることについて、
図26〜
図28を用いて説明する。
図26は、本実施の形態の半導体装置であるLDMOSトランジスタPD2aを示す平面図であり、
図27は、本実施の形態の半導体装置の変形例であるLDMOSトランジスタPD2bを示す平面図である。また、
図28は本実施の形態の半導体装置であるLDMOSトランジスタPD2aを示す断面図であり、
図28は
図26のD−D線における断面図である。なお、
図27のE−E線における断面図は、
図28に示す断面図と同様の構造となる。
【0095】
図28に示すLDMOSトランジスタPD2aは、
図2を用いて説明した前記実施の形態1と同様にPチャネル型の素子である。本実施の形態のLDMOSトランジスタPD2aは、溝HLが複数個配置されている点を除いて、前記実施の形態1において説明したLDMOSトランジスタPD1(
図2参照)と同様の構成を有している。平面視において溝HLの形状は、
図26に示すようにスリット状になっていてもよく、
図27のようにドット状になっていてもよい。また、スリット同士の間、またはドット同士の間の間隔は同一でもよく、異なっていてもよい。
【0096】
図29に、本実施の形態のLDMOSトランジスタPD2aにおけるゲート電流Igと、LDMOSトランジスタPD1(
図2参照)のゲート電流Igとを比較したグラフを示す。ここでは、
図26に示すLDMOSトランジスタPD2aにおいて、分離絶縁膜SISのソース側の端部から溝HLまでの最短の距離をLsとし、ソース・ドレイン間の方向における全ての溝HLを含む全体の溝領域の幅をLtと表す。
図29および後述する
図30および
図31では、距離比Ls/Lovは6.8%に、距離比Lt/Lovは20%に、深さ比Lx/Lyは77%にそれぞれ固定されている。
【0097】
図29に示すように、LDMOSトランジスタPD2aとLDMOSトランジスタPD1とを比較すると、少なくとも、LDMOSトランジスタPD2aのLsおよびLtの値が、LDMOSトランジスタPD1のLsおよびLtの値とそれぞれ同じであれば、LDMOSトランジスタPD2aにおいても前記実施の形態1と同様の効果が得られることが分かる。また、
図30および
図31に示すように、オフ耐圧BVoff、オン耐圧BVon、オン抵抗Rspのそれぞれの値についても、前記実施の形態1と同等に維持されることが分かる。つまり、本実施の形態のLDMOSトランジスタPD2aにおいても、前記実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0098】
なお、
図30は、LDMOSトランジスタPD2aおよびLDMOSトランジスタPD1のそれぞれにおけるオフ耐圧BVoffおよびオン耐圧BVonを比較するグラフである。
図30において、オフ耐圧BVoffは実線のグラフで示され、オン耐圧BVonは破線のグラフで示されている。また、
図31は、LDMOSトランジスタPD2aおよびLDMOSトランジスタPD1のそれぞれにおけるオン抵抗Rspを比較するグラフである。
図26および
図28に示すLDMOSトランジスタPD2aと同様に、
図27に示すLDMOSトランジスタPD2bについても、前記実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0099】
本実施の形態では、さらに、複数の溝HLのそれぞれの幅が前記実施の形態1に比べて小さくなるため、ゲート電極GEとなるポリシリコンの埋込性が良好となり、溝HLの上部でのポリシリコンの表面段差を低減することができる。つまり、溝HLの幅が大きい場合には、溝HLを埋め込むゲート電極GEの上面に大きな凹部が形成され、この凹部の段差に起因して加工時に問題が生じる虞があるが、本実施の形態では当該問題が生じることを防ぐことができる。すなわち、ゲート電極GEの加工時に想定される問題であって、例えば、微細加工で使用されるARC(Anti-Reflective Coating:反射防止膜)がこの部分で残渣となって残る問題などが解消される。
【0100】
(実施の形態3)
本実施の形態では、LDMOSトランジスタの分離絶縁膜の底部にライナー絶縁膜を形成する場合について説明する。
【0101】
図32は、本実施の形態の半導体装置であるLDMOSトランジスタPD3を示す断面図である。LDMOSトランジスタPD3は、分離絶縁膜SISの下に、ライナー絶縁膜LISが形成されている点を除いて、前記実施の形態1に係るLDMOSトランジスタPD1(
図2参照)と同様の構造を有している。つまり、溝TNC内には、ライナー絶縁膜LISを介して分離絶縁膜SISが形成されている。すなわち、溝TNCの底面上には、ライナー絶縁膜LISおよび分離絶縁膜SISが順に形成されている。ライナー絶縁膜LISは、例えばシリコン窒化膜で構成されている。このような構成であっても、前記実施の形態1と同様の効果が得られる。
【0102】
なお、ここではライナー絶縁膜LISも分離絶縁膜を構成している。つまり、本実施の形態において、分離絶縁膜は2層の絶縁膜からなる積層構造を有している。また、溝HLの底面は、当該2層の絶縁膜の境界、つまり分離絶縁膜SISとライナー絶縁膜LISとの境界に達している。つまり溝HLはライナー絶縁膜LISに達しており、溝HLの底面は分離絶縁膜SISとライナー絶縁膜LISとを含む分離絶縁膜の底面に達していない。言い換えれば、分離絶縁膜が複数の絶縁膜を積層した構造を有する場合において、溝HLは、当該分離絶縁膜を構成する当該複数の絶縁膜のうち、最下層の絶縁膜に達している。
【0103】
本実施の形態では、さらに、分離絶縁膜SISの上面に溝HLを形成する異方性エッチングを行う際、分離絶縁膜SISとライナー絶縁膜LISとのエッチング選択比の違いにより、溝HLの形成をライナー絶縁膜LISの直上で止めることが比較的容易にできるため、溝HLの深さLxをライナー絶縁膜LISの厚さで制御することができる。したがって、溝HLの深さの制御性が向上し、ゲート電流Igの低減を、比較的安定的に実現することができる。
【0104】
(実施の形態4)
図33に、本実施の形態の半導体装置であるLDMOSトランジスタPD4の断面図を示す。LDMOSトランジスタPD4は、前記実施の形態1のLDMOSトランジスタPD1(
図2参照)をNチャネル型に変更したものである。本実施の形態においても、溝HLに埋め込まれたゲート電極GEにより高いフィールドプレート効果が得られる。このため、
図34のシミュレーション結果に示すように、LDMOSトランジスタPD4では、第1比較例のNチャネル型のLDMOSトランジスタCD1(
図37参照)に比べて、電界が低減されることで、インパクトイオン化発生レート(IIGR)の大きさが反映されるウェル電流Iwが約1桁低減する。したがって、本実施の形態の半導体装置では、ホットキャリアストレス中のオン抵抗Rspの変動を抑制することができるため、半導体装置の信頼性を向上させることができる。
【0105】
ここで、
図35のシミュレーション結果が示す通り、溝HLを設けることによる、オフ耐圧BVoffおよびオン耐圧BVonの低下はなく、かつ、
図36のシミュレーション結果が示す通り、オン抵抗が6.0%低減されるという効果がある。
【0106】
なお、
図34はLDMOSトランジスタPD4およびLDMOSトランジスタCD1のそれぞれにおけるウェル電流Iwを比較するグラフである。
図35はLDMOSトランジスタPD4およびLDMOSトランジスタCD1のそれぞれにおけるオフ耐圧BVoffおよびオン耐圧BVonを比較するグラフである。
図35において、オフ耐圧BVoffは実線のグラフで示され、オン耐圧BVonは破線のグラフで示されている。
図36はLDMOSトランジスタPD4およびLDMOSトランジスタCD1のそれぞれにおけるオン抵抗Rspを比較するグラフである。
図34〜
図36のそれぞれにおいて、溝HL無と表記された位置のプロットがLDMOSトランジスタCD1の値であり、溝HL有と表記された位置のプロットがLDMOSトランジスタPD4の値である。
【0107】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0108】
例えば、上記の各実施の形態では、LDMOSトランジスタの分離絶縁膜をSTI構造であるものとして説明したが、分離絶縁膜はLOCOS構造を有していてもよい。