(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記イオン解離性無機分散剤及び前記イオン解離性有機分散剤の合計含有量100質量部に対して、前記イオン解離性無機分散剤の含有量が、20質量部以上95質量部以下である、請求項1に記載の多層多孔膜。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と略記する。)について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0010】
〔多層多孔膜〕
本実施形態の多層多孔膜は、
ポリオレフィン多孔膜と、
該ポリオレフィン多孔膜の片面又は両面に配された、無機フィラー、樹脂バインダー及びイオン解離性無機分散剤を含有する多孔層(以下、単に「多孔層」ともいう。)を有する。
【0011】
〔ポリオレフィン多孔膜〕
ポリオレフィン多孔膜としては、特に限定されず、ポリオレフィン樹脂を含む多孔膜を用いることができる。ポリオレフィン多孔膜中のポリオレフィン樹脂の含有量は、特に限定されないが、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは70〜100質量である。ポリオレフィン多孔膜中のポリオレフィン樹脂の含有量が上記範囲内であることにより、電池用セパレータとして用いた場合のシャットダウン性能がより向上する傾向にある。
【0012】
ポリオレフィン樹脂としては、特に限定されず、例えば、通常の押出、射出、インフレーション、及びブロー成形等に使用するポリオレフィン樹脂を用いることができる。このようなポリオレフィン樹脂の具体例としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、及び1−オクテン等のホモ重合体、並びに、これらの共重合体及びこれらの多段重合体が挙げられる。より具体的には、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、及び超高分子量ポリエチレン、アイソタクティックポリプロピレン、アタクティックポリプロピレン、エチレン−プロピレンランダム共重合体、ポリブテン、及びエチレンプロピレンラバー等が挙げられる。なお、ポリオレフィン樹脂は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0013】
このなかでも、ポリオレフィン樹脂は、ポリプロピレンを含むことが好ましい。ポリオレフィン樹脂中におけるポリプロピレンの含有量は、特に限定されないが、好ましくは1〜35質量%であり、より好ましくは3〜20質量%であり、さらに好ましくは4〜10質量%である。ポリプロピレンの含有量が1質量%以上であることにより、多孔膜の耐熱性がより向上する傾向にある。また、比較的高い融点を有するポリプロピレンの含有量が35質量%以下であることにより、本実施形態の多層多孔膜を電池用セパレータとして使用する場合、シャットダウン温度において膜が熱溶融して多孔がより閉塞しやすく(シャットダウン性)、また、より低い温度でシャットダウンが生じやすい傾向にある。
【0014】
ポリオレフィン樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、特に限定されないが、好ましくは50,000〜3,000,000であり、より好ましくは100,000〜1,000,000であり、さらに好ましくは200,000〜800,000である。ポリオレフィン樹脂のMvが50,000以上であることにより、得られるポリオレフィン多孔膜の機械的強度がより向上する傾向にある。また、ポリオレフィン樹脂のMvが3,000,000以下であることにより、生産時の成形性がより向上する傾向にある。さらに、Mvが1,000,000以下であることにより、電池用セパレータとして使用した場合に、温度上昇時に孔を閉塞しやすく、シャットダウン機能がさらに向上する傾向にある。なお、多孔膜の機械的強度を制御するために、Mvの異なるポリオレフィン樹脂を2種以上混合したものを用いてもよい。なお、ポリオレフィン樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0015】
ポリオレフィン多孔膜は、必要に応じて、フェノール系化合物、リン系化合物、又はイオウ系化合物等の酸化防止剤、ステアリン酸カルシウムやステアリン酸亜鉛等の金属石鹸類、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、防曇剤、着色顔料等の添加剤を含んでもよい。
【0016】
ポリオレフィン多孔膜の膜厚は、特に限定されないが、好ましくは0.10μm以上25μm以下であり、より好ましくは1.0μm以上20μm以下であり、さらに好ましくは3.0μm以上18μm以下であり、特に好ましくは5.0μm以上16μm以下である。ポリオレフィン多孔膜の膜厚が0.10μm以上であることにより、得られる多層多孔膜の機械的強度がより向上する傾向にある。また、ポリオレフィン多孔膜の膜厚が25μm以下であることにより、電池がより高容量化する傾向にある。なお、ポリオレフィン多孔膜の膜厚は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0017】
ポリオレフィン多孔膜の平均孔径は、特に限定されないが、好ましくは0.030μm以上0.20μm以下であり、より好ましくは0.040μm以上0.10μm以下であり、さらに好ましくは0.050μm以上0.090μm以下であり、特に好ましくは0.060μm以上0.090μm以下である。
【0018】
ポリオレフィン多孔膜の気孔率は、特に限定されないが、好ましくは25%以上65%以下であり、より好ましく30%以上60%以下であり、さらに好ましくは35%以上55%以下である。ポリオレフィン多孔膜の気孔率が25%以上であることにより、後述の無機フィラー含有分散液塗布後の透気度の増加がより抑制できる傾向にある。なお、ポリオレフィン多孔膜の気孔率は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0019】
ポリオレフィン多孔膜の熱収縮応力の最大値は、特に限定されないが、引出し方向(以下、「MD」ともいう。)、幅方向(以下、「TD」ともいう。)共に好ましくは10g以下であり、より好ましくは8g以下であり、さらに好ましくは6g以下であり、特に好ましくは4g以下である。ポリオレフィン多孔膜の熱収縮応力の最大値が10g以下であることにより、耐熱性と透過性とが共に優れる傾向にある。
【0020】
〔多孔層〕
本実施形態の多層多孔膜は、ポリオレフィン多孔膜の片面又は両面に配された、無機フィラー、樹脂バインダー及びイオン解離性無機分散剤を含有する多孔層を有する。このような多孔層を有することにより、高温時においても、ポリオレフィン多孔膜の熱収縮が抑止され、破膜による短絡を防ぐことができる。以下、各成分について説明する。
【0021】
(イオン解離性無機分散剤)
本実施形態の多層多孔膜が多孔層にイオン解離性無機分散剤を含むことにより、耐熱性がより向上する。この理由は、イオン解離性無機分散剤が無機フィラー表面と強い親和性を示し、多孔層を形成する際に用いられるスラリーにおいて、無機フィラーのスラリー溶媒に対する親和性を高めることができ、かつ電荷反発によりスラリー溶媒における無機フィラーの分散性を向上させることができるためであると考えられる。また、イオン解離性無機分散剤を用いることにより、無機フィラーだけでなく樹脂バインダーの分散性も良好となり、樹脂バインダーの凝集を抑制できることも耐熱性が向上する理由となる。しかしながら、耐熱性が向上する理由は、これらに限定されない。
【0022】
イオン解離性無機分散剤としては、特に限定されないが、例えば、無機酸塩が挙げられる。無機酸塩としては、オルトリン酸塩や縮合リン酸塩やアルミン酸塩が挙げられ、この中でも、一分子中に複数のリン酸基を有し、無機フィラー表面と強い親和性を示すと考えられる縮合リン酸塩が好ましい。縮合リン酸塩としては、特に限定されず、例えば、ポリリン酸塩、メタリン酸塩、ウルトラリン酸塩などが挙げられ、このなかでもポリリン酸塩やメタリン酸塩が好ましい。一般的に、ポリリン酸塩はオルトリン酸が鎖状に連結した構造であり、メタリン酸塩は環状に、ウルトラリン酸塩は網目状に連結した構造を有する。多孔層における無機フィラーの分散性向上の観点から、ポリリン酸塩やメタリン酸塩が特に好ましい。
【0023】
ポリリン酸塩としては、特に限定されないが、例えば、式(M
n+2P
nO
3n+1)で表される化合物が挙げられる。当該式の縮合度nは、特に限定されないが、好ましくは2〜30であり、より好ましくは2〜10であり、さらに好ましくは2〜6である。また、Mは、カチオンである。ポリリン酸塩としては、特に限定されないが、例えば、ピロリン酸塩、トリポリリン酸塩、テトラポリリン酸塩、ペンタポリリン酸塩、及びヘキサポリリン酸塩が挙げられる。このようなポリリン酸塩を用いることにより、無機フィラーへの吸着が速く安定した分散性を維持でき、樹脂バインダー等の凝集も起こりにくい傾向にある。
【0024】
メタリン酸塩としては、特に限定されないが、例えば、式(MPO
3)
nで表される化合物が挙げられる。当該式の縮合度nは、特に限定されないが、好ましくは3〜200であり、より好ましくは3〜25であり、さらに好ましくは3〜6である。また、Mは、カチオンである。メタリン酸塩としては、特に限定されないが、例えば、トリメタリン酸塩、テトラメタリン酸塩、ペンタメタリン酸塩、及びヘキサメタリン酸塩が挙げられる。このようなメタリン酸塩を用いることにより、無機フィラーへの吸着がより速くなり、安定した分散性を維持でき、樹脂バインダー等の凝集も起こりにくい傾向にある。
【0025】
イオン解離性無機分散剤を構成するカチオンとしては、特に限定されないが、例えば、無機カチオン又は有機カチオンが挙げられる。無機カチオンとしては、特に限定されないが、例えば、カリウムイオン及びナトリウムイオンのようなアルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオンが挙げられる。また、有機カチオンとしては、特に限定されないが、例えば、アミンイオン、アンモニウムイオンなどが挙げられる。このなかでも、特に樹脂バインダーとして後述のアクリル系ポリマーを用いる場合には、樹脂バインダーとの親和性の観点から、イオン解離性無機分散剤を構成するカチオンは、アミンイオンやアンモニウムイオンが好ましい。
【0026】
上記縮合リン酸塩としては、太洋化学工業社製、燐化学工業社製、サンノプコ社製、キリン協和フーズ社製などの市販品を用いることができる。イオン解離性無機分散剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0027】
多孔層中のイオン解離性無機分散剤の含有量は、無機フィラー100質量部に対して、好ましくは0.05質量部以上であり、より好ましくは0.1質量部以上であり、さらに好ましくは0.3質量部以上である。多孔層中のイオン解離性無機分散剤の含有量が0.05質量部以上であることにより、多層多孔膜の耐熱性がより向上する傾向にある。また、多孔層中のイオン解離性無機分散剤の含有量は、無機フィラー100質量部に対して、好ましくは5質量部以下であり、より好ましくは4質量部以下であり、さらに好ましくは3質量部以下である。多孔層中のイオン解離性無機分散剤の含有量が5質量部以下であることにより、多孔層における他の成分の含有比率が小さくなり、他の成分による効果が小さくなることがより抑制される傾向にある。
【0028】
また、多孔層が後述するイオン解離性有機分散剤を含有する場合において、多孔層中のイオン解離性無機分散剤の含有量は、イオン解離性無機分散剤及びイオン解離性有機分散剤の合計含有量100質量部に対して、好ましくは20質量部以上95質量部以下であり、より好ましくは30質量部以上93質量部以下であり、さらに好ましくは50質量部以上90質量部以下である。多孔層中のイオン解離性無機分散剤の含有量が上記範囲内であることにより、耐熱性がより向上する傾向にある。
【0029】
(無機フィラー)
本実施形態の多孔層が無機フィラーを含有することにより、多層多孔膜の耐熱性が向上する。多層多孔膜を非水電解液電池用セパレータとして使用する場合には、多孔層に含まれる無機フィラーは、200℃以上の融点を有し、電気絶縁性が高く、かつセパレータとしての使用条件下で電気化学的に安定であるものが好ましい。
【0030】
無機フィラーとしては、特に限定されないが、例えば、アルミナ、水酸化酸化アルミニウム(ベーマイト)、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、酸化鉄等の酸化物系セラミックス及びそれらの水和物;窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素等の窒化物系セラミックス;シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、チタン酸バリウム等のセラミックス;タルク、カオリナイト、ディカイト、ナクライト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト等の層状ケイ酸塩鉱物;ガラス繊維等が挙げられる。無機フィラーは、1種単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0031】
上記の中でも、アルミナ、水酸化酸化アルミニウム(ベーマイト)などの酸化アルミニウム系セラミックス及びそれらの水和物;カオリナイト、ディカイト、ナクライト、ハロイサイト、パイロフィライトなどのイオン交換能を持たない層状ケイ酸塩鉱物が好ましい。このような無機フィラーを用いることにより、多層多孔膜の電気化学的安定性及び耐熱特性がより向上する傾向にある。
【0032】
酸化アルミニウム系セラミックス及びそれらの水和物としては、特に限定されないが、例えば、水酸化酸化アルミニウムがより好ましい。また、イオン交換能を持たない層状ケイ酸塩鉱物としては、安価で入手も容易なため、カオリナイトで主に構成されているカオリンがより好ましい。カオリンには湿式カオリン及びこれを焼成処理した焼成カオリンがあるが、焼成カオリンは焼成処理の際に結晶水が放出されるのに加え、不純物が除去されるので、電気化学的安定性の点で特に好ましい。
【0033】
無機フィラーの平均粒径は、特に限定されないが、好ましくは0.10μm以上3.0μm以下であり、より好ましくは、0.20μm以上2.0μm以下であり、さらに好ましくは0.50μm以上1.2μm以下であり、よりさらに好ましくは0.50μm以上0.80μm以下である。無機フィラーの平均粒径が0.10μm以上であることにより、電池用セパレータとして使用した場合のショート温度をより高くできる傾向にある。また、無機フィラーの平均粒径が3.0μm以下であることにより、多孔層の厚みをより薄くできる傾向にある。さらに、無機フィラーの平均粒径が2.0μm以下であることにより、多孔層の密度がより高くなり、熱収縮抑制の効果が著しく向上する傾向にある。無機フィラーの平均粒径は、水を分散媒としてレーザー式粒度分布測定装置を用いて粒径分布を測定し、粒子数の累積頻度が50%となる粒径の値として求めることができる。
【0034】
多孔層中の無機フィラーの含有量は、特に限定されないが、好ましくは50%以上100%未満であり、より好ましくは55%以上99.99%以下であり、さらに好ましくは60%以上99.9%以下であり、特に好ましくは65%以上99%以下であり、最も好ましくは90%以上99%以下である。多孔層中の無機フィラーの含有量が上記範囲内であることにより、耐熱性等がより向上する傾向にある。
【0035】
(樹脂バインダー)
多孔層に含まれる樹脂バインダーは、無機フィラーを多孔膜上に結着するための機能を有する。多層多孔膜をリチウムイオン二次電池用セパレータとして使用する場合には、多孔層に含まれる樹脂バインダーは、リチウムイオン二次電池の電解液に対して不溶であり、かつリチウムイオン二次電池の使用範囲で電気化学的に安定なものを用いることが好ましい。
【0036】
このような樹脂バインダーとしては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン、α−ポリオレフィン等のポリオレフィン樹脂;ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系ポリマーとこれらを含むコポリマー;ブタジエン、イソプレンなどの共役ジエンをモノマー単位として含むジエン系ポリマー又はこれらを含むコポリマー及びその水素化物;アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステルなどをモノマー単位として含むアクリル系ポリマー又はこれらを含むコポリマー及びその水素化物;エチレンプロピレンラバー、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル等のゴム類;エチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体;ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリエステル等の融点及び/又はガラス転移温度が180℃以上の樹脂及びこれらの混合物等が挙げられる。樹脂バインダーは、1種単独で用いても又は2種類以上を併用してもよい。このなかでも、フッ素系ポリマー、ジエン系ポリマー、及びアクリル系ポリマーが好ましく、アクリル系ポリマーがより好ましい。このような樹脂バインダーを用いることにより、結着性や耐熱性、透過性がより向上する傾向にある。特に、アクリル系ポリマーを用いることにより、耐酸化性がより向上する傾向にある。また、フッ素系ポリマーをもちいることにより、電気化学的安定性がより向上する傾向にある。
【0037】
フッ素系ポリマーとしては、特に限定されないが、例えば、フッ化ビニリデンのホモポリマー、フッ化ビニリデンと共重合可能なモノマーとのコポリマーが挙げられる。フッ素系ポリマー中のフッ化ビニリデンモノマー単位の含有量は、特に限定されないが、好ましくは40質量%以上であり、より好ましくは50質量%以上であり、さらに好ましくは60質量%以上である。
【0038】
フッ化ビニリデンと共重合可能なモノマーとしては、特に限定されないが、例えば、フッ化ビニル、テトラフルオロエチレン、トリフルオロクロロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ヘキサフルオロイソブチレン、パーフルオロアクリル酸、パーフルオロメタクリル酸、アクリル酸又はメタクリル酸のフルオロアルキルエステル等のフッ素含有エチレン性不飽和化合物;シクロヘキシルビニルエーテル、ヒドロキシエチルビニルエーテル等のフッ素非含有エチレン性不飽和化合物;ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等のフッ素非含有ジエン化合物等を挙げることができる。
【0039】
フッ素系ポリマーとしては、特に限定されないが、フッ化ビニリデンのホモポリマー、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレンコポリマー、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレンコポリマー等が好ましい。このなかでも、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレンコポリマーがより好ましい。フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレンコポリマーのモノマー組成は、特に限定されないが、例えば、フッ化ビニリデン30〜90質量%、テトラフルオロエチレン50〜9質量%及びヘキサフルオロプロピレン20〜1質量%である。フッ素系ポリマーは、1種単独で用いても又は2種以上を併用してもよい。
【0040】
ジエン系ポリマーとしては、二重結合を2つ有するジエンモノマー単位を繰り返し単位として含むポリマーであれば特に限定されず、例えば、ジエンモノマーのホモポリマー又はジエンモノマーと共重合可能なモノマーとのコポリマーが挙げられる。ジエンモノマーとしては、特に限定されず、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−フェニル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、4,5−ジエチル−1,3−オクタジエン、3−ブチル−1,3−オクタジエンなどが挙げられる。ジエンモノマーは1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0041】
ジエン系ポリマー中のジエンモノマー単位の含有量は、特に限定されないが、ジエン系ポリマーの総量に対して、好ましくは40質量%以上であり、より好ましくは50質量%以上であり、さらに好ましくは60質量%以上である。
【0042】
ジエンモノマーと共重合可能なモノマーとしては、特に限定されないが、例えば、後述の(メタ)アクリレートモノマーや下記のモノマー(以下、「その他のモノマー」ともいう。)を挙げることができる。その他のモノマーは、特に限定されず、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸などの不飽和カルボン酸類;スチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、ビニル安息香酸、ビニル安息香酸メチル、ビニルナフタレン、クロロメチルスチレン、ヒドロキシメチルスチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン等のスチレン系モノマー;エチレン、プロピレン等のオレフィン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン原子含有モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビエルエーテル等のビニルエーテル類;メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、ブチルビニルケトン、ヘキシルビニルケトン、イソプロペニルビニルケトン等のビニルケトン類;N−ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の複素環含有ビニル化合物;アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などのアミド系モノマー;ペンテンオール等のヒドロキシ基含有ビニルモノマー;ビニルスルホン酸、メチルビニルスルホン酸、(メタ)アクリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリル酸−2−スルホン酸エチル、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸などのスルホン酸基含有モノマー;メタクリル酸2−アミノエチル等のアミノ基含有モノマー;アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル、α−シアノエチルアクリレート等のシアノ基含有モノマーなどが挙げられる。ジエンモノマーと共重合可能なモノマーは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0043】
アクリル系ポリマーとしては、(メタ)アクリレートモノマー単位を含むポリマーであれば特に限定されず、(メタ)アクリレートモノマーのホモポリマー、(メタ)アクリレートモノマーと共重合可能なモノマーとのコポリマーが挙げられる。なお、本明細書において「(メタ)アクリル酸」とは「アクリル酸又はメタクリル酸」を示し、「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート又はメタクリレート」を示す。なお、アクリル系ポリマーとしては、特に限定されないが、ラテックス状であることが好ましい。
【0044】
(メタ)アクリレートモノマーとしては、特に限定されないが、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、n−テトラデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート;アミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有(メタ)アクリレート;グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリレートが挙げられる。(メタ)アクリレートモノマーは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0045】
アクリル系ポリマー中の(メタ)アクリレートモノマー単位の含有量は、特に限定されないが、アクリル系ポリマーの総量に対して、好ましくは40質量%以上であり、より好ましくは50質量%以上であり、さらに好ましくは60質量%以上である。
【0046】
(メタ)アクリレートモノマーと共重合可能なモノマーとしては、特に限定されないが、例えば、上記ジエン系ポリマーの項目で列挙したその他のモノマーが挙げられる。(メタ)アクリレートモノマーと共重合可能なモノマーは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。その他のモノマーの中でも、不飽和カルボン酸類を用いることが好ましい。不飽和カルボン酸類としては、特に限定されないが、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸のハーフエステル、マレイン酸のハーフエステル、フマル酸のハーフエステルなどのモノカルボン酸;イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等のジカルボン酸が挙げられる。このなかでも、好ましくはアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸であり、さらに好ましくはアクリル酸、メタクリル酸である。
【0047】
また、樹脂バインダーとして、ポリビニルアルコールを使用する場合、そのケン化度は、好ましくは85%以上100%以下であり、より好ましくは90%以上100%以下であり、さらに好ましくは95%以上100%以下であり、特に好ましくは99%以上100%以下である。ケン化度が85%以上であることにより、多層多孔膜を電池用セパレータとして使用した際に、短絡する温度(ショート温度)が向上し、安全性能がより向上する傾向にある。
【0048】
ポリビニルアルコールの重合度は、好ましくは200以上5000以下であり、より好ましくは300以上4000以下であり、特に好ましくは500以上3500以下である。重合度が200以上であることにより、少量のポリビニルアルコールで無機フィラーを強固に結着でき、多孔層の力学的強度を維持しながら多孔層形成による多層多孔膜の透気度増加を抑えることができる傾向にある。また、重合度5000以下であることにより、分散液を調製する際のゲル化等を防止できる傾向にある。
【0049】
多孔層中の樹脂バインダーの含有量は、特に限定されないが、無機フィラー100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上であり、より好ましくは0.7質量部以上であり、さらに好ましくは1.2質量部以上であり、特に好ましくは1.5質量部以上である。多孔層中の樹脂バインダーの含有量が0.5質量部以上であることにより、樹脂バインダーと無機フィラーとの結着性がより向上する傾向にある。また、多孔層中の樹脂バインダーの含有量は、好ましくは10質量部以下であり、より好ましくは8質量部以下であり、さらに好ましくは7質量部以下である。多孔層中の樹脂バインダーの含有量が10質量部以下であることにより、イオン透過性がより向上する傾向にある。
【0050】
〔その他の添加剤〕
多孔層は、無機フィラー、樹脂バインダー、及びイオン解離性無機分散剤以外のその他の添加剤を含んでもよい。その他の添加剤としては、特に限定されないが、例えば、イオン解離性有機分散剤などが挙げられる。
【0051】
(イオン解離性有機分散剤)
本実施形態の多孔層は、多層多孔膜の耐熱性の観点から、多孔層がイオン解離性有機分散剤をさらに含有することが好ましい。イオン解離性有機分散剤を含むことにより耐熱性が向上する理由は、イオン解離性無機分散剤以外の分散剤を併用することにより、スラリー中での無機フィラー及び樹脂バインダーの分散安定性をさらに向上させることができるためであると考えられるが、特に限定されない。
【0052】
イオン解離性有機分散剤としては、特に限定されないが、有機酸塩を挙げることができる。有機酸塩としては、例えば、アニオン系、又はカチオン系の各種高分子系界面活性剤を用いることができる。イオン解離性有機分散剤は、耐熱性の観点から、イオン解離性の酸基(カルボキシル基、スルホン酸基、アミノ酸基、マレイン酸基など)またはイオン解離性の酸塩基(カルボン酸塩基、スルホン酸塩基、マレイン酸塩基など)を複数含有するものが好ましい。具体的には、イオン解離性有機分散剤としては、ポリカルボン酸塩、ポリアクリル酸塩、ポリメタクリル酸塩がより好ましい。イオン解離性有機分散剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0053】
多孔層中のイオン解離性有機分散剤の含有量は、特に限定されないが、イオン解離性無機分散剤及びイオン解離性有機分散剤の合計含有量100質量部に対して、好ましくは20質量部以上95質量部以下であり、より好ましくは30質量部以上93質量部以下であり、さらに好ましくは50質量部以上90質量部以下である。多孔層中のイオン解離性無機分散剤の含有量が20質量部以上95質量部以下であることにより、耐熱性がより向上する傾向にある。
【0054】
(多孔層の特性等)
本実施形態における多孔層の層厚は、好ましくは0.1μm以上10μm以下であり、より好ましくは0.5μm以上8μm以下であり、さらに好ましくは1μm以上6μm以下であり、特に好ましくは1.5μm以上5μm以下である。多孔層の層厚が0.1μm以上であることにより、耐熱性がより向上する傾向にある。また、多孔層の層厚が10μm以下であることにより、電池がより高容量化し、セパレータのイオン透過性がより向上し、使用時の無機フィラーの粉落ちがより抑制される傾向にある。
【0055】
本実施形態において、多孔層は、多層多孔膜の状態で、ポリオレフィン多孔膜の透過性を著しく阻害しない程度の透過性を備えれば足りるが、多孔層を形成したことによる多層多孔膜の透気度の増加率は、好ましくは0%以上200%以下であり、より好ましくは0%以上100%以下であり、さらに好ましくは0%以上70%以下である。なお、多孔層形成前のポリオレフィン多孔膜の透気度が100秒/100cc未満の場合は、多孔層を形成した後の多層多孔膜の透気度増加率は好ましくは0%以上500%以下である。
【0056】
〔多層多孔膜の物性〕
本実施形態の多層多孔膜は、ポリオレフィン多孔膜と、該ポリオレフィン多孔膜の片面又は両面に配された多孔層と、を有する。本実施形態の多層多孔膜の透気度は、特に限定されないが、好ましくは10秒/100cc以上650秒/100cc以下であり、より好ましくは20秒/100cc以上500秒/100cc以下であり、さらに好ましくは30秒/100cc以上450秒/100cc以下であり、特に好ましくは50秒/100cc以上400秒/100cc以下である。多層多孔膜の透気度が10秒/100cc以上であることにより、耐自己放電性がより向上する傾向にある。また、多層多孔膜の透気度が650秒/100cc以下であることにより、充放電特性がより向上する傾向にある。
【0057】
本実施形態の多層多孔膜の最終的な膜厚は、特に限定されないが、好ましくは2μm以上20μm以下であり、より好ましくは5μm以上19μm以下であり、さらに好ましくは7μm以上18μm以下であり、特に好ましくは9μm以上17μm以下である。多層多孔膜の最終的な膜厚が2μm以上であることにより、機械強度がより向上する傾向にある。また、多層多孔膜の最終的な膜厚が20μm以下であることにより、電池がより高容量化する傾向にある。
【0058】
本実施形態の多層多孔膜の150℃での熱収縮率は、特に限定されないが、MD、TD共に、好ましくは0%以上15%以下であり、より好ましくは0%以上10%以下であり、さらに好ましくは0%以上5%以下である。MD及びTDの両方向における150℃での熱収縮率が15%以下であることにより、電池の異常発熱時においてもセパレータの破膜を防ぐことができるので、正負極間の接触を抑制でき、より良好な安全性能が得られる傾向にある。
【0059】
本実施形態の多層多孔膜のシャットダウン温度は、特に限定されないが、好ましくは120℃以上160℃以下であり、より好ましくは120℃以上150℃以下である。多層多孔膜のシャットダウン温度が160℃以下であることにより、電池が発熱した場合などにおいても、電流遮断を速やかに促進し、より良好な安全性能が得られる傾向にある。一方、多層多孔膜のシャットダウン温度が120℃以上であることにより、例えば100℃前後での高温化の使用、熱処理等を実施できるので好ましい。
【0060】
本実施形態の多層多孔膜のショート温度は、特に限定されないが、好ましくは180℃以上であり、好ましくは190℃以上であり、さらに好ましくは200℃以上である。多層多孔膜のショート温度が180℃以上であることにより、電池異常発熱においても放熱するまで正負極間の接触を抑制し得るため、より良好な安全性能が得られる傾向にある。
【0061】
〔多層多孔膜の製造方法〕
本実施態様の多層多孔膜の製造方法は、ポリオレフィン多孔膜の片面又は両面に、無機フィラー、樹脂バインダー及びイオン解離性無機分散剤を含有する分散液を塗布する塗布工程を有する。また、多層多孔膜の製造方法は、必要に応じてポリオレフィン多孔膜を製造する工程を有してもよい。
【0062】
本実施形態の製造方法において、ポリオレフィン多孔膜の製造方法は、特に限定されず、例えば、ポリオレフィン樹脂と可塑剤とを溶融混練してシート状に成形後、可塑剤を抽出することで多孔化させる方法、ポリオレフィン樹脂を溶融混練して高ドロー比で押出した後、熱処理と延伸によってポリオレフィン結晶界面を剥離させることで多孔化させる方法、ポリオレフィン樹脂と無機充填材とを溶融混練してシート上に成形後、延伸によってポリオレフィン樹脂と無機充填材との界面を剥離させることで多孔化させる方法、ポリオレフィン樹脂を溶解後、ポリオレフィン樹脂に対する貧溶媒に浸漬させポリオレフィン樹脂を凝固させると同時に溶剤を除去することで多孔化させる方法など、公知の方法が挙げられる。
【0063】
本実施形態の製造方法では、特に限定されないが、塗布工程に先立ち、ポリオレフィン多孔膜表面を積極的に表面処理すると、無機フィラー含有樹脂分散液がより均一に塗布し易くなる上に、塗布後の無機フィラー含有樹脂層とポリオレフィン多孔膜表面との接着性が向上するため、好ましい。
【0064】
表面処理の方法は、ポリオレフィン多孔膜の多孔質構造が著しく損なわれなければ特に限定しないが、例えばコロナ放電処理法、機械的粗面化法、溶剤処理法、酸処理法、紫外線酸化法などが挙げられる。
【0065】
ポリオレフィン多孔膜を製造した後、塗布工程において、ポリオレフィン多孔膜の片面又は両面に、無機フィラー、樹脂バインダー及びイオン解離性無機分散剤を含有する分散液を塗布する。
【0066】
本実施形態の製造方法において用いる分散液は、無機フィラー、樹脂バインダーに加えてイオン解離性無機分散剤を含有するため、分散液における無機フィラーの分散安定性がより向上する。分散液は、樹脂バインダーを含むため、多孔膜と無機フィラー及び無機フィラー同士の結着性がより向上する。
【0067】
本実施形態の製造方法において、無機フィラーは、特に限定されず、前記のものが使用できる。
【0068】
また、本実施形態の製造方法において、樹脂バインダーは、特に限定されず、前記のものが使用できる。このなかでも多孔層を多孔膜の少なくとも片面に積層した際、イオン透過性が低下しにくいという点から、脂肪族共役ジエン系単量体や不飽和カルボン酸単量体、及びこれらと共重合可能な他の単量体を乳化重合して得られるラテックスを用いることが好ましい。さらに、電気化学的安定性や結着性の観点から、樹脂バインダーはアクリル系ポリマー、特にアクリルラテックスであることが好ましい。特に、使用する無機フィラーによっては、アクリル系ポリマー添加時に凝集が起こりやすいが、本実施形態の製造方法においてはイオン解離性無機分散剤を含む分散剤を用いるため、樹脂バインダーの凝集を抑制することができる。
【0069】
本実施形態の製造方法において、イオン解離性無機分散剤は、特に限定されず、前記のものが使用できる。
【0070】
分散液の溶媒は、特に限定されないが、例えば、N−メチルピロリドンやN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、水、エタノール、トルエン、熱キシレン、ヘキサンなどが挙げられる。無機フィラー、樹脂バインダーの分散性の観点から水が好ましい。
【0071】
分散液は、イオン解離性有機分散剤をさらに含むことが好ましい。分散液がイオン解離性有機分散剤を含むことにより、分散液中での無機フィラー及び樹脂バインダーの分散安定性がより向上する傾向にある。イオン解離性有機分散剤としては、特に限定されず、上記と同様のものが使用できる。イオン解離性有機分散剤は、イオン解離性無機分散剤と共に、本実施形態の製造方法の分散液において、分散剤としての役割を果たす。
【0072】
分散液がイオン解離性有機分散剤をさらに含む場合において、分散液中のイオン解離性無機分散剤の含有量は、特に限定されないが、イオン解離性無機分散剤及びイオン解離性有機分散剤の合計含有量100質量部に対して、好ましくは20質量部以上95質量部以下であり、より好ましくは30質量部以上93質量部以下であり、さらに好ましくは50質量部以上90質量部以下である。分散液中のイオン解離性無機分散剤の含有量が20質量部以上95質量部以下であることにより、無機フィラー及び樹脂バインダーのスラリー溶媒中における分散性がより向上する傾向にある。
【0073】
本実施形態の製造方法では、分散液を安定化させるため、あるいはポリオレフィン多孔膜への塗工性を向上させるために、界面活性剤等の分散剤、増粘剤、湿潤剤、消泡剤、酸やアルカリを含めたpH調製剤等の各種添加剤を加えてもよい。これらの添加剤は、溶媒除去や可塑剤抽出の際に除去できるものが好ましいが、リチウムイオン二次電池の使用範囲において電気化学的に安定で、電池反応を阻害しないものであれば、電池内に残存してもよい。
【0074】
本実施形態の製造方法において、無機フィラー、樹脂バインダー及びイオン解離性無機分散剤を溶媒に溶解又は分散させる方法は、特に限定されず、例えば、ボールミル、ビーズミル、遊星ボールミル、振動ボールミル、サンドミル、コロイドミル、アトライター、ロールミル、高速インペラー分散、ディスパーザー、ホモジナイザー、高速衝撃ミル、超音波分散、撹拌羽根等による機械撹拌等が挙げられる。
【0075】
本実施形態の製造方法において、分散液をポリオレフィン多孔膜に塗布する方法については、必要とする層厚や塗布面積を実現できる方法であれば特に限定しない。例えば、グラビアコーター法、小径グラビアコーター法、リバースロールコーター法、トランスファロールコーター法、キスコーター法、ディップコータ−法、ナイフコータ−法、エアドクタコーター法、ブレードコーター法、ロッドコーター法、スクイズコーター法、キャストコーター法、ダイコーター法、スクリーン印刷法、スプレー塗布法等が挙げられる。また、用途に応じて無機フィラー含有樹脂分散液をポリオレフィン多孔膜の片面だけに塗布してもよいし、両面に塗布してもよい。
【0076】
本実施形態の製造方法では、分散液を塗布後、溶媒を除去することが好ましい。溶媒を除去する方法としては、例えば、ポリオレフィン多孔膜を固定しながらその融点以下の温度にて乾燥する方法、低温で減圧乾燥する方法、樹脂バインダーに対する貧溶媒に浸漬して樹脂バインダーを凝固させると同時に溶媒を抽出する方法、などが挙げられる。
【0077】
〔非水電解液電池用セパレータ〕
本実施形態の非水電解液電池用セパレータは、上記多層多孔膜を備える。多層多孔膜は耐熱性を有し、非水電解液電池用セパレータとして好適に用いることができる。本実施形態の多層多孔膜は、良好な耐熱性、イオン透過性(透気度)を両立し得る。このような多層多孔膜を非水電解液電池用セパレータとして用いた場合、安全性能や出力特性等に優れた非水電解液電池を実現し得る。
【0078】
なお、上述した各種パラメータについては、特に断りの無い限り、後述する実施例における測定法に準じて測定される値である。
【実施例】
【0079】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の物性は以下の方法により測定した。なお、特に記載のない限り各種測定および評価は室温23℃、1気圧、相対湿度50%の条件で行った。
【0080】
(1)ポリオレフィン系樹脂の粘度平均分子量Mv
ASTM−D4020に基づき、ポリオレフィン系樹脂のデカリン溶媒の135℃における極限粘度[η](dl/g)を求めた。
ポリエチレンのMvは次式により算出した。
[η]=6.77×10−4Mv0.67
ポリプロピレンのMvは、次式により算出した。
[η]=1.10×10−4Mv0.80
【0081】
(2)多層多孔膜及びポリオレフィン多孔膜の膜厚(μm)、並びに多孔層の層厚(μm)
多層多孔膜及びポリオレフィン多孔膜の膜厚は、ダイヤルゲージ(尾崎製作所社製、商品名「PEACOCK No.25」)にて測定した。具体的には、MD方向100mm×TD方向100mmの寸法を有するサンプルを切り出し、格子状に9箇所(3点×3点)の局所膜厚を測定し、得られた9箇所の局所膜厚の相加平均値を膜厚とした。また、多孔層の層厚は、多層多孔膜の膜厚とポリオレフィン多孔膜の膜厚(多孔層を剥離して測定)との差から算出した。
【0082】
(3)多層多孔膜及びポリオレフィン多孔膜の透気度(秒/100cc)、透気度増加率(%)
多層多孔膜及びポリオレフィン多孔膜の透気度(秒/100cc)の測定には、JIS P−8117準拠のガーレー式透気度計(東洋精機製G−B2(商標))を用いた。内筒重量は567gで、直径28.6mm、645mm
2の面積を空気100mLが通過する時間を透気度として測定した。
一方、透気度増加率は、以下の式にて算出した。
透気度増加率(%)=100×(多層多孔膜の透気度−ポリオレフィン多孔膜の透気度)/ポリオレフィン多孔膜の透気度
【0083】
(4)ポリオレフィン多孔膜の気孔率(%)
10cm×10cm角の試料をポリオレフィン多孔膜から切り取り、その体積(cm
3)と質量(g)を求め、膜密度を0.95(g/cm
3)として次式を用いて計算した。
気孔率=(1−質量/体積/0.95)×100
【0084】
(5)ポリオレフィン多孔膜のMD及びTDの熱収縮最大応力(g)
島津製作所製TMA50(商標)を用いて測定した。TDの幅を3mmとして切り出したポリオレフィン多孔膜のサンプルを、チャック間距離が10mmとなるようにチャックに固定し、専用プローブにセットした。初期荷重を1.0gとし、30℃から200℃まで10℃/minの昇温速度で加熱し、その時発生する荷重(g)を測定し、その最大値をMDの最大熱収縮応力(g)とした。また、MDの幅を3mmとして切り出したポリオレフィン多孔膜のサンプルを用いたこと以外は、同様の操作を行い、TDの熱収縮最大応力(g)を測定した。
【0085】
(6)無機フィラーの平均粒径
無機フィラーの平均粒径は、水を分散媒としてレーザー式粒度分布測定装置(日機装(株)製マイクロトラックMT3300EX)を用いて粒径分布を測定し、累積頻度が50%となる粒径を平均粒径とした。
【0086】
(7)多層多孔膜のMD及びTDの150℃熱収縮率
多層多孔膜をMD方向に100mm、TD方向に100mmに切り取り、150℃のオーブン中に1時間静置した。このとき、サンプルを2枚の紙にはさむことで、温風が直接サンプルにあたらないようにした。サンプルをオーブンから取り出し冷却した後、長さ(mm)を測定し、以下の式にてMD及びTDの熱収縮率を算出した。
MD熱収縮率(%)=(100−加熱後のMDの長さ)/100×100
TD熱収縮率(%)=(100−加熱後のTDの長さ)/100×100
【0087】
[実施例1]
(ポリオレフィン多孔膜の製造)
Mvが700,000のポリエチレン47質量部と、Mv300,000のポリエチレン46質量部と、Mv400,000のポリプロピレン7質量部とを、タンブラーブレンダーを用いてドライブレンドした。次いで、得られた純ポリマー混合物99質量部に対して酸化防止剤としてペンタエリスリチル−テトラキス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を1質量部添加し、合計100質量部とし、再度タンブラーブレンダーを用いてドライブレンドすることにより、ポリマー等混合物を得た。二軸押出機内を窒素で置換を行った後に、窒素雰囲気下で、得られたポリマー等混合物を二軸押出機へフィーダーにより供給した。また流動パラフィン(37.78℃における動粘度7.59×10
−5m
2/s)を押出機シリンダーにプランジャーポンプにより注入した。
【0088】
二軸押出機内でポリマー等混合物と流動パラフィンとを溶融混練し、押し出される全混合物中に占める流動パラフィン量比が65質量部となるように、フィーダー及びポンプを調整した。溶融混練条件としては、設定温度を200℃とし、スクリュー回転数を240rpmとし、吐出量を12kg/hとした。続いて、溶融混練物を、T−ダイを経て表面温度25℃に制御された冷却ロール上に押出しキャストすることにより、厚み1600μmのゲルシートを得た。
次に、得られたゲルシートを同時二軸テンター延伸機に導き、二軸延伸を行った。設定延伸条件は、MD倍率7.0倍、TD倍率7.0倍、設定温度125℃とした。
次に、延伸したゲルシートをメチルエチルケトン槽に導き、メチルエチルケトン中に充分に浸漬して流動パラフィンを抽出除去し、その後メチルエチルケトンを乾燥除去した。
次に、乾燥したゲルシートをTDテンターに導き、熱固定を行った。熱固定時の延伸温度・倍率は128℃、2.0倍で行い、その後の緩和時の温度・緩和率を133℃、0.80とした。その結果、膜厚12μm、気孔率40体積%、透気度130秒/100cc、MD最大熱収縮応力2.5g、TD最大熱収縮応力2.6gの多孔膜を得た。
【0089】
(アクリル系ポリマーの合成)
攪拌機、還流冷却器、滴下槽及び温度計を取り付けた反応容器に、初期仕込みとして水65質量部、アクアロンKH10(ポリオキシエチレン−1−(アリルオキシメチル)アルキルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩:100%固形分/第一工業製薬(株)製)0.5質量部を投入し、反応容器中の温度を80℃に保ち、ペルオキソ二硫酸アンモニウムの10%水溶液1.5質量部を添加した。添加した5分後に、メチルメタクリレート26.5質量部、シクロヘキシルメタクリレート6質量部、ブチルアクリレート25質量部、2−エチルヘキシルメタクリレート35質量部、メタクリル酸1質量部、アクリル酸1.5質量部、グリシジルメタクリレート3質量部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート2質量部と、アクアロンKH10を1.5質量部、ペルオキソ二硫酸アンモニウム10%水溶液1.5質量部、水55質量部からなる乳化混合液を150分かけて滴下槽から反応容器に投入した。反応系のpHは4以下に維持した。乳化混合液の投入が終了してからそのまま反応容器の温度は80℃に保ち、120分間攪拌を続けた。その後、室温まで冷却した。
【0090】
冷却後、200メッシュの金網でろ過を行い、凝集物等を除去した。ろ過後、25%のアンモニア水でpHを8に調整し、その後、固形分が45%となるよう水を添加し調整した。
【0091】
(多孔層の形成)
無機フィラーである水酸化酸化アルミニウム粒子(平均粒径1.0μm)94質量部、樹脂バインダーである合成したアクリル系ポリマー(固形分濃度45%)6.0質量部、及びイオン解離性無機分散剤であるポリリン酸アミン塩(分散剤)1.0質量部を100質量部の水にそれぞれ均一に分散させて多孔層形成用分散液を調製した。調製した多孔層形成用分散液を、上記ポリオレフィン多孔膜の表面にグラビアコーターを用いて塗布した。その後、60℃にて乾燥して水を除去し、多孔膜上に厚さ2μmの多孔層を形成した、総膜厚14μmの多層多孔膜を得た。結果を表1に記載する。なお、「ポリリン酸」としてはトリポリリン酸を用いた(他の実施例も同様)。
【0092】
[実施例2]
多孔層形成用分散液中の分散剤を、ポリリン酸アミン塩0.95質量部と、イオン解離性有機分散剤であるポリカルボン酸アンモニウム(サンノプコ製SNディスパーサント5468)0.05質量部と、の混合物とした以外は実施例1と同様にして多層多孔膜を得た。結果を表1に記載する。
【0093】
[実施例3]
多孔層形成用分散液中の分散剤を、ポリリン酸アミン塩0.8質量部とポリカルボン酸アンモニウム(サンノプコ製SNディスパーサント5468)0.2質量部と、の混合物とした以外は実施例1と同様にして多層多孔膜を得た。結果を表1に記載する。
【0094】
[実施例4]
多孔層形成用分散液中の分散剤を、ポリリン酸アミン塩0.6質量部とポリカルボン酸アンモニウム(サンノプコ製SNディスパーサント5468)0.4質量部と、の混合物とした以外は実施例1と同様にして多層多孔膜を得た。結果を表1に記載する。
【0095】
[実施例5]
多孔層形成用分散液中の分散剤を、ポリリン酸アミン塩0.2質量部とポリカルボン酸アンモニウム(サンノプコ製SNディスパーサント5468)0.8質量部と、の混合物とした以外は実施例1と同様にして多層多孔膜を得た。結果を表1に記載する。
【0096】
[実施例6]
多孔層形成用分散液中の分散剤を、ポリリン酸アミン塩0.05質量部とポリカルボン酸アンモニウム(サンノプコ製SNディスパーサント5468)0.95質量部と、の混合物とした以外は実施例1と同様にして多層多孔膜を得た。結果を表1に記載する。
【0097】
[実施例7]
多孔層の厚みを5μmにした以外は実施例3と同様にして多層多孔膜を得た。結果を表1に記載する。
【0098】
[実施例8]
多孔層の厚みを7μmにした以外は実施例3と同様にして多層多孔膜を得た。結果を表1に記載する。
【0099】
[実施例9]
多孔層の厚みを10μmにした以外は実施例3と同様にして多層多孔膜を得た。結果を表1に記載する。
【0100】
[実施例10]
多孔層形成用分散液中の分散剤を、ポリリン酸アミン塩0.8質量部と、イオン解離性有機分散剤であるポリアクリル酸ナトリウム0.2質量部と、の混合物とした以外は実施例3と同様にして多層多孔膜を得た。結果を表1に記載する。
【0101】
[実施例11]
粘度平均分子量(Mv)2000,000の超高分子量ポリエチレン12質量部とMv280,000の高密度ポリエチレン12質量部とMv150,000の直鎖状低密度ポリエチレン16質量部とシリカ(平均粒径8.3μm)17.6質量部と、可塑剤としてフタル酸ジオクチル(DOP)を42.4質量部を混合造粒した後、Tダイを装着した二軸押出機にて混練・押出し、厚さ90μmのシート状に成形した。該成形物から塩化メチレンにてDOPを、水酸化ナトリウムにてシリカを抽出除去し多孔膜とした。該多孔膜を118℃に加熱のもと、縦方向に5.3倍延伸した後、横方向に1.8倍延伸した。その結果、膜厚11μm、気孔率48体積%、透気度55秒/100cc、MD最大熱収縮応力8.7g、TD最大熱収縮応力0.9gの多孔膜を得た。
【0102】
上記ポリオレフィン多孔膜を基材に用いたこと以外は実施例3と同様にして多層多孔膜を得た。結果を表1に記載する。
【0103】
[実施例12]
多孔層形成用分散液中の無機フィラーとして焼成カオリン(平均粒径1.0μm)を用いた以外は実施例1と同様にして多層多孔膜を得た。結果を表1に記載する。
【0104】
[実施例13]
多孔層形成用分散液中の無機フィラーとしてアルミナ(平均粒径1.0μm)を用いた以外は実施例1と同様にして多層多孔膜を得た。結果を表1に記載する。
【0105】
[実施例14]
多孔層形成用分散液中の分散剤として、ポリリン酸アンモニウム塩を用いた以外は実施例1と同様にして多層多孔膜を得た。結果を表1に併記記載する。
【0106】
[実施例15]
多孔層形成用分散液中の分散剤として、ポリリン酸ナトリウム塩を用いた以外は実施例1と同様にして多層多孔膜を得た。結果を表1に併記記載する。
【0107】
[実施例16]
多孔層形成用分散液中の分散剤を、ポリリン酸アミン塩0.3質量部にした以外は実施例1と同様にして多層多孔膜を得た。結果を表1に記載する。
【0108】
[実施例17]
多孔層形成用分散液中の分散剤を、ポリリン酸アミン塩2.5質量部にした以外は実施例1と同様にして多層多孔膜を得た。結果を表1に記載する。
【0109】
[実施例18]
多孔層形成用分散液中の無機フィラーを90質量部、樹脂バインダーを10質量部にした以外は実施例1と同様にして多層多孔膜を得た。結果を表1に記載する。
【0110】
[実施例19]
多孔層形成用分散液中の無機フィラーを98質量部、樹脂バインダーを2質量部にした以外は実施例1と同様にして多層多孔膜を得た。結果を表1に記載する。
【0111】
[比較例1]
多孔層形成用分散液に、無機フィラーである水酸化酸化アルミニウム粒子(平均粒径1.0μm)94質量部、及び樹脂バインダーであるアクリル系ポリマー(固形分濃度45%)6質量部を100質量部の水にそれぞれ均一に分散させて、多孔層形成用分散液を調製した。得られた多孔層形成用分散液を用いたこと以外は、実施例11と同様にして多層多孔膜を得た。結果を表1に記載する。
【0112】
[比較例2]
多孔層形成用分散液中の分散剤を、ポリカルボン酸アンモニウム1質量部とした以外は実施例1と同様にして多層多孔膜を得た。結果を表1に記載する。
【0113】
[比較例3]
多孔層形成用分散液中の分散剤を、ポリアクリル酸ナトリウム1質量部とした以外は実施例1と同様にして多層多孔膜を得た。結果を表1に記載する。
【0114】
【表1】
【0115】
本出願は、2012年10月31日に日本国特許庁へ出願された日本特許出願(特願2012−240637)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。