(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【0008】
一態様において、潤滑層を有する物品は、ポリマー材料と、ポリマー材料の表面上に維持され潤滑層を形成する潤滑液と、を含み、ポリマー材料および潤滑液は、ポリマー材料が膨潤して、潤滑層を形成するのに十分な量で潤滑液を吸収するように、互いに対する親和性を有し、潤滑液は、ポリマー材料においてまたはその上に潤滑層を形成する厚さで、ポリマー材料を被覆するか、液体−ポリマー複合被覆層を形成する。
【0009】
別の態様において、反発性、非接着性、自浄性、および低摩擦性の表面の形成に使用するシステムを提供する。このシステムは、硬化可能なプレポリマーを含む流動性前駆体組成物であって、広い表面積を覆うコーティングとして塗布可能な、組成物と、硬化した前駆体組成物と共にコーティングを形成することができる潤滑液であって、硬化したポリマーと共に、硬化したポリマーの上または中に安定化される潤滑液のコーティングを形成する、潤滑液と、反発性、非接着性、自浄性、および/または低摩擦性の表面を取得する目的のために、前駆体組成物を表面上に塗布する命令と、を含む。
【0010】
一態様において、易滑性表面を有する物品は、少なくとも1つの表面であって、一般式PxSyを有する超分子ポリマーであって、式中、Pは共有結合架橋ポリマーであり、Sはこのポリマーネットワーク内の超分子ブロックであり、x+yは1であり、「y」は0〜1であり得る、超分子ポリマーと、潤滑液と、を含む、少なくとも1つの表面を含み、超分子ポリマーおよび潤滑液は、液体膨潤ポリマーの表面上に易滑性潤滑層を形成するのに十分な量で潤滑液がポリマー材料内に吸収されるように、互いに対する親和性を有する。
【0011】
1つ以上の実施形態において、ポリマーPはエラストマーを含み、例えば、ポリマーPはシリコーンエラストマーを含む。
【0012】
1つ以上の実施形態において、潤滑液はシリコーン油を含み、例えば、ポリマーPはフルオロシリコーンエラストマーを含む。
【0013】
1つ以上の実施形態において、潤滑液はペルフルオロカーボンを含み、例えば、ポリマーPは石油系ポリマーを含む。
【0014】
1つ以上の実施形態において、潤滑液は炭化水素を含む。
【0015】
1つ以上の実施形態において、ポリマーPは、単純なポリマーまたはポリマーブレンドもしくはブロックコポリマーであり得る。
【0016】
前述の実施形態のうちのいずれかにおいて、超分子ブロックは、互いまたはポリマーとのホスト−ゲスト相互作用、配位、π−π相互作用、および水素結合のうちの1つ以上を提供する非共有ブロックから選択される。
【0017】
前述の実施形態のうちのいずれかにおいて、xおよびyは、所定の膨潤比を提供するように選択され、この膨潤比は、潤滑液を有する超分子ポリマーおよび潤滑液を有さない超分子ポリマーの重量または体積の比率である。
【0018】
前述の実施形態のうちのいずれかにおいて、xおよびyは、超分子ポリマーの所定の機械的性質を提供するように選択される。
【0019】
前述の実施形態のうちのいずれかにおいて、超分子ポリマーおよび潤滑液の重量/重量比は、10:1〜1:10の範囲である、または超分子ポリマーおよび潤滑液の重量/重量比は、4:1〜1:4の範囲である、超分子ポリマーおよび潤滑液の重量/重量比は、2:1〜1:2の範囲である。
【0020】
前述の実施形態のうちのいずれかにおいて、潤滑液膨潤ポリマー材料は過剰な潤滑液を含み、過剰な潤滑液はポリマー材料と共に潤滑液が豊富な領域内に局部集中する。
【0021】
1つ以上の実施形態において、潤滑液が豊富な領域は潤滑液の貯留部である。
【0022】
1つ以上の実施形態において、吸収される潤滑液は液体の貯留部である。
【0023】
前述の実施形態のうちのいずれかにおいて、潤滑液は2つ以上の潤滑液を含む。
【0024】
1つ以上の実施形態において、第1の潤滑液は第2の潤滑液よりも低い粘度を有し、第2の潤滑液は第1の潤滑液よりも低い蒸気圧を有する。
【0025】
前述の実施形態のうちのいずれかにおいて、潤滑液は非毒性である。
【0026】
前述の実施形態のうちのいずれかにおいて、潤滑液は、表面から弾かれるべき所定の物質との非混和性および不反応性のためにさらに選択される。
【0027】
1つ以上の実施形態において、所定の物質は生体物質である。
【0028】
前述の実施形態のうちのいずれかにおいて、潤滑液は、低い蒸気圧および/または低い粘度を有するようにさらに選択される。
【0029】
前述の実施形態のうちのいずれかにおいて、物品は粗面を有する。
【0030】
1つ以上の実施形態において、潤滑剤層は粗面と共に共形層を形成する。
【0031】
1つ以上の実施形態において、潤滑剤層は、粗面を上塗りする平坦層を形成する。
【0032】
前述の実施形態のうちのいずれかにおいて、超分子ポリマーは、表面上の易滑性層を補充するために追加的な潤滑液を注入され得る流体ネットワークに結合される。
【0033】
1つ以上の実施形態において、超分子ポリマーは、表面を被覆するコーティングを含む流体ネットワークに結合される。
【0034】
1つ以上の実施形態において、流体ネットワークを含む超分子ポリマーは、その内表面または外表面を被覆するパイプ容器裏張りである。
【0035】
前述の実施形態のうちのいずれかにおいて、表面は物品上のコーティング層である。
【0036】
1つ以上の実施形態において、コーティングは、潤滑液膨潤ポリマーの2つ以上の層を含む。
【0037】
1つ以上の実施形態において、潤滑液膨潤ポリマーの2つ以上の層は、異なる性質および/または組成物を有し、互いの上に配置されて複雑でプログラム可能なコーティングを提供する。
【0038】
前述の実施形態のうちのいずれかにおいて、物品は、容器、医療用手袋、薄膜、フィルタ、パイプ、チューブ類、ワイヤ、建造物、材料、交通標識、または車両から選択される。
【0039】
別の態様において、物品に対する異物の接着力を低減する方法は、物品を提供することであって、前述の物品実施形態のうちのいずれか1つに従って、一般式PxSyを有する超分子ポリマーであって、式中、Pは共有結合架橋ポリマーであり、Sはこのポリマーネットワーク内の超分子ブロックであり、x+yは1であり、「y」は0〜1であり得る、超分子ポリマーと、潤滑液と、を含む、少なくとも1つの表面を備える、易滑性表面物品を有する物品を提供することと、異物を包含する媒体に物品を接触させることであって、物品に対する異物の接着力が、潤滑液の非存在下の物品に対する異物の接着力を下回る、接触させることと、を含む。
【0040】
1つ以上の実施形態において、超分子ポリマーは、ポリマー材料の表面に、吸収される潤滑液の層、または液体−ポリマー複合被覆層、または共形コーティングされる潤滑液層を維持する。
【0041】
1つ以上の実施形態において、物理的損傷が潤滑層の厚さに影響を与えた後、潤滑液とポリマー材料との間の平衡が、潤滑層を損傷前の厚さに実質的に復帰させる。
【0042】
1つ以上の実施形態において、潤滑液は、潤滑液の表面張力、異物との潤滑液の非混和性および不反応性、潤滑液の粘度、潤滑液の溶融温度、潤滑液の相変化温度、潤滑液の蒸気圧、またはこれらの任意の組み合わせに基づいて選択される。
【0043】
1つ以上の実施形態において、異物は流体である、または異物は、例えば氷などの固形である、または異物は、生体物質(生体分子、細胞、体液、病原菌、藻など)である、または異物は、コロニー形成可能細胞を包含する流体を含む。
【0044】
前述の実施形態のうちのいずれかにおいて、超分子ポリマーは、例えば、ポリマー、ガラス、金属、酸化物、窒化物、セラミック、セルロース(紙)、もしくはこれらの任意の組み合わせなどの有機または無機材料から選択される基質上にコーティングまたは塗布される。
【0045】
1つ以上の実施形態において、媒体は物品の表面上を移動する、または媒体は物品と静的接触する。
【0046】
前述の実施形態のうちのいずれかにおいて、物品は、潤滑層または液体−ポリマー複合被覆層を含む易滑性表面が内表面および/または外表面を被覆する導管、パイプ、もしくはチューブ、または、潤滑液がガスケットの外面を実質的に被覆して外面上に潤滑性層を形成するか、ガスケットの外面に液体−ポリマー複合被覆層を形成する、ガスケット、または、複数の貫通孔を有する薄膜であって、前記貫通孔のそれぞれがそこを通る液体もしくは気体の通過に対して開口しており、潤滑液で膨潤される、薄膜、または、カテーテル、または、追加的な潤滑剤の導入のための、生物燃料排出トレー、注入用カテーテル、もしくは補充可能容器の形をとり得る、統合された流体ネットワークを有するポリマー、または、自動制御されたパイプ、を備える。
【0047】
1つ以上の実施形態において、70%を上回る、または80%を上回る、または90%を上回る、または95%を上回る、または99%の生体膜形成の低減が、易滑性表面上で、1時間、または2時間、または8時間、または1日、または2日、または5日、または1週間、または1ヶ月後に、動的流れ下で観測される。
【0048】
1つ以上の実施形態において、易滑性表面の、コロニー形成可能細胞もしくは微生物による、40%未満、または30%未満、または20%未満、または15%未満、または10%未満、または5%未満の表面被覆率が、易滑性表面上に、1日、または2日、または5日、または1週間、または2週間、または16日後に、静的暴露下で観測される。
【0049】
別の態様において、流体導管内の直径および圧力の減少を制御する方法は、第1の厚さを有する易滑性層で少なくとも部分的に裏張りされる導管を提供することであって、前記易滑性層は、一般式PxSyを有する超分子ポリマーであって、式中、Pは共有結合架橋ポリマーであり、Sはこのポリマーネットワーク内の超分子ブロックであり、x+yは1であり、「y」は0〜1であり得る、超分子ポリマーと、潤滑液と、を含み、超分子ポリマーおよび潤滑液は、潤滑液が潤滑液膨潤ポリマーの表面上に易滑性層を形成するのに十分な量でポリマー材料内に吸収されるように、互いに対する親和性を有する、提供することと、導管を通して流体を流すことであって、易滑性層が潤滑剤を吸い上げるか失うにつれて、易滑性層の厚さが経時的に増加または減少し、直径にわたる直径および圧力の減少が所定値内で制御可能である、流すことと、を含む。
【0050】
別の態様において、堆積物を表面から除去する方法は、易滑性層で少なくとも部分的に被覆される表面を提供することであって、前記易滑性層は、一般式PxSyを有する超分子ポリマーであって、式中、Pは共有結合架橋ポリマーであり、Sはこのポリマーネットワーク内の超分子ブロックであり、x+yは1であり、「y」は0〜1であり得る、超分子ポリマーと、潤滑液と、を含み、超分子ポリマーおよび潤滑液は、潤滑液が潤滑液膨潤ポリマーの表面上に易滑性層を形成するのに十分な量でポリマー材料内に吸収されるように、互いに対する親和性を有し、易滑性層が、吸入ポートを有する、層全体にわたって配置される流体チャネルのネットワークを含む、提供することと、吸入ポートを通して前記流体チャネル内に潤滑液を導入することであって、潤滑液は、超分子ポリマーによって吸い上げられ、易滑性表面は、表面からの堆積物の接着力を低減する追加的な潤滑液を提供される、導入することと、を含む。
【0051】
1つ以上の実施形態において、堆積物を除去する方法は、表面に対する低減された接着力を有する堆積物を除去するために、表面を洗浄することをさらに含む。
【0052】
別の態様において、微生物の移動を防止する方法は、微生物移動の防止が所望される領域に近接する障壁を提供することであって、前記障壁は易滑性層を含み、前記易滑性層は、一般式PxSyを有する超分子ポリマーであって、式中、Pは共有結合架橋ポリマーであり、Sはこのポリマーネットワーク内の超分子ブロックであり、x+yは1であり、「y」は0〜1であり得る、超分子ポリマーと、潤滑液と、を含み、超分子ポリマーおよび潤滑液は、潤滑液が潤滑液膨潤ポリマーの表面上に易滑性層を形成するのに十分な量で前記ポリマー材料内に吸収されるように、互いに対する親和性を有する、提供することを含む。
【0053】
別の態様において、反発性、非接着性、自浄性、および低摩擦性の表面を形成する方法は、表面上に硬化可能なポリマーを含む流動性前駆体組成物を塗布することと、硬化ポリマーを形成するためにポリマーの硬化を開始することと、硬化前または後に、潤滑液を流動性前駆体組成物に組み込むことであって、潤滑液および硬化ポリマーが、硬化ポリマーの上または中に安定化される潤滑液のコーティングを共に形成する、組み込むことと、を含む。
【0054】
1つ以上の実施形態において、硬化ポリマーは、一般式PxSyを有する超分子ポリマーであり、式中、Pは共有結合架橋ポリマーであり、Sはこのポリマーネットワーク内の超分子ブロックであり、x+yは1であり、「y」は0〜1であり得る。
【0055】
1つ以上の実施形態において、流動性前駆体組成物は、吹き付け塗装、浸漬コーティング、スピンコーティング、スクリーン印刷、スタンピング、流しコーティング、インクジェット印刷、3D印刷、またはペンでの筆記から成る群から選択される技術を使用して表面に塗布される。
【0056】
1つ以上の実施形態において、反対側の表面は接着性材料を有する。
【0057】
1つ以上の実施形態において、表面は粗面であり、流動性前駆体組成物は、下層の表面粗さを被覆する厚さで塗布され、平坦な上塗り表面を形成する。
【0058】
1つ以上の実施形態において、表面は粗面であり、流動性前駆体組成物は、粗面の形状に従う共形層を形成する厚さで塗布される。
【0059】
1つ以上の実施形態において、潤滑液を組み込むことは、ポリマー前駆体の硬化後に発生する。
【0060】
1つ以上の実施形態において、反発性、非接着性、自浄性、および低摩擦性の表面を形成する方法は、潤滑液との親和性を有する表面を提供するために、潤滑液を組み込むことに先立って、硬化ポリマーの表面を官能化することをさらに含む。
【0061】
1つ以上の実施形態において、硬化ポリマーとの接着力を提供するために、表面が化学官能化または活性化される。
【0062】
1つ以上の実施形態において、硬化ポリマーの上または中に安定化される潤滑液は、水性液体に対して撥液性があるように選択される。
【0063】
1つ以上の実施形態において、硬化ポリマーの上または中に安定化される潤滑液は、有機液体に対して撥液性があるように選択される。
【0064】
1つ以上の実施形態において、流動性前駆体組成物は、連続的プロセスにおいて塗布される。
【0065】
1つ以上の実施形態において、表面は接着剤付き面である。
【0066】
別の態様において、反発性、非接着性、自浄性、および低摩擦性の表面の形成に使用するシステムは、硬化可能なプレポリマーを含む流動性前駆体組成物であって、広い表面積を覆うコーティングとして塗布可能な、組成物と、硬化した前駆体組成物と共にコーティングを形成することができる潤滑液であって、硬化したポリマーと共に、硬化したポリマーの上または中に安定化される潤滑液のコーティングを形成する、潤滑液と、反発性、非接着性、自浄性、および/または低摩擦性の表面を取得する目的のために、前駆体組成物を表面上に塗布するための使用説明書と、を含む。
【0067】
1つ以上の実施形態において、プレポリマーは、ペルフルオロアルキルモノマーまたはオリゴマーを含む。
【0068】
1つ以上の実施形態において、硬化剤は、紫外線エネルギー活性化、化学活性化、熱エネルギー活性化、および水分活性化硬化剤から選択される。
【0069】
1つ以上の実施形態において、潤滑剤は、フッ素化潤滑剤(液体または油)、シリコーン、鉱油、植物油、水(または生理的に適合性のある溶液を含む水溶液)、イオン液体、ポリアルファ−オレフィン(PAO)、合成エステル、ポリアルキレングリコール(PAG)、フォスフェートエステル、アルキル化ナフタレン(AN)、およびシリケートエステルから成る群から選択される。
【0070】
1つ以上の実施形態において、機械的性質または粗さを増進するため、および光学的性質または粘度を制御するために、前駆体組成物または前記潤滑剤は、例えば酸化防止剤などの小分子またはナノ粒子充填剤、UV安定剤、発泡剤または消泡剤、顔料、核化剤、および充填剤から成る群から選択される1つ以上の添加剤をさらに含む。
【0071】
1つ以上の実施形態において、潤滑剤は前駆体組成物との混合物として提供される。
【0072】
1つ以上の実施形態において、潤滑剤は前駆体組成物から分離して提供される。
【0073】
1つ以上の実施形態において、使用説明書は、前駆体組成物の硬化後の潤滑剤の塗布のために提供する。
【0074】
1つ以上の実施形態において、ポリマー前駆体は、硬化時に液晶性質を提供するように選択される。
【0075】
別の態様において、詰まりおよび汚損に対する抵抗性がある薄膜は、膨潤性ポリマーを含み、薄膜の厚さ全体に配置される少なくとも1つの細孔を有する薄膜であって、前記貫通細孔のそれぞれがそこを通る液体もしくは気体の通過に対して開口している、薄膜と、第1の粘度を有する第1の潤滑液であって、潤滑層を提供するために少なくとも1つの細孔を含む薄膜の少なくとも1つの外層内に可溶化される、第1の潤滑液と、を含む。
【0076】
1つ以上の実施形態において、薄膜は、第2の粘度を有する第2の潤滑液であって、薄膜の潤滑剤膨潤ポリマー上に液体層を形成する、第2の潤滑液をさらに含む。
【0077】
1つ以上の実施形態において、薄膜は膨潤性ポリマーから形成される。
【0078】
1つ以上の実施形態において、薄膜は膨潤性ポリマーを含むコーティングである。
【0079】
1つ以上の実施形態において、細孔は、直径約1μm〜最大1mm程度の薄膜フィルタの開口部/スリットを含む。
【0080】
1つ以上の実施形態において、第2の粘度は第1の粘度を上回る。
【0081】
本発明に係る上記ならびに他の目的および利点は、全体を通して同様の参照文字が同様の部分を指す、添付図面と併せて、以下の詳細な説明を考慮した上で明らかになるだろう。
【発明を実施するための形態】
【0083】
本開示は、ポリマーが液体を吸収し、ポリマー(本明細書において「自己潤滑性ポリマー」とも称される)の表面上に潤滑層を形成するように、潤滑液およびポリマーを組み合わせることによって形成される易滑性表面について説明する。本開示に係る潤滑層、または易滑性表面は、接触角履歴現象および外部物質の接着力を低減し得る欠陥のない表面を生成する、極度に滑らかな、絶えず潤滑な液界面である。ある特定の実施形態において、潤滑層は防接着および防汚性質を示す。本開示に係る易滑性表面は、広範囲の物質の接着を防止することができる。表面上に固着しない例示的な物質としては、液体、液体混合物、複合流体、微生物、固体、および気体(または蒸気)が挙げられる。例えば、水などの液体、油性塗料、炭化水素およびそれらの混合物、有機溶媒、原油などの複合流体、複合生体分子(例えば、タンパク質、糖類、脂質など)を含有する液体、または生体細胞などが弾かれ得る。液体は純正液体および複合流体の両方であり得る。ある特定の実施形態において、自己潤滑性ポリマーは、オムニフォビック、疎水性、および/または疎油性/親水性であるように設計され得る。別の例として、例えば生体分子など(例えば、タンパク質、多糖類など)、生体液(例えば、尿、血液、唾液、分泌物など)、生体細胞、組織、および細菌、原虫、胞子、藻、昆虫、小動物、ウイルス、菌類などの生体全体などの生体物質が、潤滑層によって弾かれ得る。別の例として、氷のような固体、霜、紙、付箋紙、糊もしくは無機粒子含有塗料、砂、塵粒子、食品、一般的な家庭内汚染物質などが、潤滑層から弾かれ得るか、容易に取り除かれ得る。
【0084】
自己潤滑性ポリマーは、そのポリマー材料に対する化学親和性を有する液体で溶媒和される架橋ポリマー(例えば、ゴムまたはエラストマーなど)を含む。化学親和性は、ポリマーにある量の液体を吸収させ膨潤させる溶媒効果を生み出す。架橋ポリマーは、多量の溶媒を吸収することによって、その体積を最大何倍かまで増加させることができる。膨潤ポリマーネットワークは、化学結合(架橋)によって接続される分子ストランドによって結び付けられる。架橋ポリマーは、多量の溶媒を吸収することによって、その体積を何倍か増加させることができる。本明細書において言及する液体吸収効果は、相互作用が分子レベルであるという点で、ナノおよびマイクロ多孔質媒体内の液体の毛細管作用と区別される。つまり、溶媒化などの分子間相互作用のため、潤滑液はポリマーと相互作用する。ポリマーを膨潤させるために、ポリマーと潤滑液との間の混合エンタルピーは、共に混合されるとき容易に互いと混合する、および/または互いの間でエネルギー的に起こりやすい化学的相互作用を受けるように、十分に低くなくてはならない。比較すると、毛細管効果は、固体および液体の界面における表面エネルギー的考察によって引き起こされ、下層の固体の膨潤なしに液体が明確に定義された既存のマイクロスケールチャネル内に排出されることをもたらす。
【0085】
ポリマー内の吸収される(および/または溶解された)液体は、薄い潤滑剤層をポリマーの表面に維持し、平衡に達するように貯留部として作用し得る。したがって、潤滑液はポリマーを膨潤させ、ポリマーの表面に潤滑剤層を維持することができる。潤滑剤およびポリマーの適切な組み合わせ(例えば、本明細書で説明される通り、適用例に基づく)により、潤滑剤−ポリマー材料は、例えば水性液体、細胞、体液、微生物、および氷などの固体粒子などの広範囲の流体および固体に対する自己補充性、非固着性、易滑性挙動を保有する。ポリマー膨潤の貯留部効果のため、コーティングされた物品は、潤滑液の補充の必要なしに、長期間にわたって易滑性表面を示すことができる。
【0086】
図1Aは、ある特定の実施形態に従って、その上に易滑性表面が形成されるポリマー100を含む物品の概略図である。示される通り、ポリマー100は下層材料102上に配置される。ポリマー100は、第1の外向きに配置される固体表面104、および下層材料102に接触する第2の固体表面106を含む。以下にさらに説明する通り、様々なポリマー(例えば、シリコーンまたはフルオロシリコーンなど)が広範囲の材料または生成物表面上に配置またはコーティングされ得る。
図1Aが下層材料102を示す一方、ポリマー100は下層材料上に配置される必要はなく、代わりに、自由形成された物品(例えば、ポリマーから形成されたガスケット、パイプ、医療用チューブ、薄膜などとして)であっても良い。
【0087】
潤滑液は、ポリマーに対する親和性を有し、ポリマーに液体を吸収させ液体の潤滑剤層をポリマーの表面に蓄積させるように選択される。
図1Bは、ある特定の実施形態に従って、液体潤滑剤108を吸収するように膨潤する、
図1Aのポリマー100を示す。ポリマー100は、矢印110が示す通り、液体潤滑剤108を吸収する。
図1Cは、液体潤滑剤108を吸収するように体積が膨張した膨潤ポリマー100の表面104上に形成された、もたらされる潤滑剤層112の概略図である。平衡プロセスは、膨潤ポリマー100に、潤滑剤層112を固体表面104上に維持させる。潤滑剤層112は、異物(例えば、固体および液体)が、潤滑剤層112、およびしたがって下層ポリマーに接着しない、または著しく低減された接着力を有するように、固体表面104上に滑らかな表面を形成する。
【0088】
1つ以上の実施形態において、弾かれる(または接着しない)物質は、潤滑剤層内で溶解性または混和性がなく、それが、異物が示す低い接着力に寄与する。潤滑液および環境物質が互いに非混和性であるために、2つの間の混合エンタルピーは、共に混合されるときに互いから分離して移相する、および/または互いとの間の実質的化学反応を受けないように、十分に高くなくてはならない(例えば、水/油、昆虫/油、氷/油など)。ある特定の実施形態において、潤滑液および環境物質は、2つの間の実質的混合なしに、物理的に異なる位相/物質のままであるように、互いと実質的に化学的に不活性である。2つの液体の間の卓越した非混和性のためには、いずれの相における溶解性も、500重量百万分率(ppmw)未満でなければならない。例えば、ペルフルオロ化された流体(例えば、3M Fluorinert(商標))内の水の溶解性は約10ppmwであり、ポリジメチルシロキサン(MW=1200)内の水の溶解性は約1ppmである。場合によっては、易滑性表面は、一時的に難非混和性液体と共に維持され得る。この場合、いずれかの位相における液体の溶解性は、500重量千分率(ppthw)未満である。500ppthwを上回る溶解性について、液体は混和性であると言われる。ある特定の実施形態について、潤滑液と、弾かれるべき液体もしくは固体または物体との間の、十分に遅い混和性または相互反応性を利用し、所望の期間にわたって、もたらされる自己潤滑性ポリマーの満足のいく性能をもたらすことができる。
【0089】
ポリマーは、弾かれるべき流体、複合流体、または望ましくない固体よりむしろ、潤滑液によって優先的に膨潤されるべきであり、したがって潤滑層は、弾かれるべき液体または固体によって置換されることはできない。これは、潤滑液が、下層ポリマーに対して、弾かれるべき液体よりもより良い溶媒として作用するべきであるということを意味する。これらの要因は、永久的である、または、ポリマー表面の所望の寿命もしくは使用期間、または部分的に劣化した注入液の再塗布が実行されるまでの期間に十分な期間持続するように設計され得る。
【0090】
ポリマー内の吸収される潤滑液は、ポリマー上の潤滑剤層の平衡を維持するように貯留部として作用する(例えば、せん断または物理的損傷の場合)。
図2Aは、ある特定の実施形態に従った、膨潤ポリマー202上の潤滑剤層200の初期平衡厚dを示す。潤滑剤によって膨潤されたポリマー202は下層材料204上に配置される。ポリマー202内に吸収される(溶解される)潤滑液は、例えば、潤滑液の低い表面張力(または表面エネルギー)のために、平衡表面潤滑剤層200(厚さd)を維持することができる。
図2A内の拡大された領域206は、潤滑液の初期平衡厚dを示す、潤滑剤層200の一部の拡大図である。いくつかの実施形態において、厚さdは、0≦d≦1000nmの範囲内である。例えば、d≧1000nmの場合、液体潤滑剤は、ヒトの観測者によって触れられ得るか、表面から流出し得る。したがって、水平表面を利用し、著しいせん断を伴わない特定の適用例において、より厚い層が使用可能であるが、液体およびポリマーは、dが1000nm閾値を下回るように選択され得る(いくつかの実施形態において、dは0≦d≦1000nmの間に自然に形成し得る)。
【0091】
図2Bは、潤滑剤層200の初期平衡厚dに影響を与える物理的損傷230に晒される、
図2Aの潤滑剤層200を示す。示される通り、損傷230は、損傷領域232内の潤滑剤層200の厚さを薄くさせる。潤滑剤層200は、膨潤ポリマー202の外表面234がほとんど露出する(または露出する)ように損傷している。
【0092】
図2Cは、ある特定の実施形態に従って、その初期平衡厚dに復帰する
図2Bの潤滑剤層200を示す。矢印250は、膨潤ポリマー202によって吸収される潤滑液が、ポリマー202の外側を潤滑層200まで進むことを示す。矢印250Aおよび250Bは、潤滑液が潤滑層200の損傷した部分(損傷領域232)を充填することを示す。潤滑液とポリマー材料202との間の平衡は、潤滑層200を、膨潤ポリマー202の表面にわたって均一な厚さdに実質的に復帰させる。結果として、膨潤ポリマー200の自己修復、自己潤滑性質がある。結果として、平衡が潤滑液を貯留部から潤滑層に流し、潤滑層に対するいかなる損傷をも修復させるように、無孔質ポリマーは、潤滑液の貯留部を維持することができる。損傷が表面に与えられるとき、自己修復は容易であり得、数分または数秒内ですら発生し得る。例えば、潤滑液の粘度を低減し、損傷領域内への流体の流れを促すように、表面をある温度まで温めることによって、修復プロセスを促進または加速することが可能である。
【0093】
自己潤滑性ポリマー(例えば、上述の通り潤滑液と組み合わせられたポリマー)は、コーティングまたは層として生成物上に組み込まれるか、独立型生成物として使用され得る。1つ以上の実施形態において、ポリマー構造体(例えば、層または物品)は無孔質、つまり、潤滑液が毛細管作用を使用してポリマー体に浸透することを可能にするマイクロまたはマクロ孔構造を包含しない。無孔質ポリマー(例えば、シリコーンまたはフルオロシリコーンなど)は、広範囲の材料または生成物表面上に配置またはコーティングされ得る。例えば、自己潤滑性ポリマーは、手袋、医療用デバイスおよびインプラント、ボトル表面、注射器吸引具、Oリング、薄膜フィルタ、マクロ流体およびマイクロ流体導管(例えば、医学的応用を含むチューブ類またはパイプライン)、風力または水力タービン、航空機構造体、電気系統、ラブオンチップ、衣類、雨靴、レンズ、および/または同類のものの上に、コーティングまたは層として組み込まれ得る。
図3は、ある特定の実施形態に従って、手袋300およびボトル302の内表面の上に形成された自己潤滑性ポリマーの易滑性表面の例示的な適用例を示す。示される通り、各物品は、手袋300の材料またはボトル302の材料のいずれかである、および下層材料304を含む。ポリマー306は、下層材料304上に配置され、それに結合される。ポリマー306は、潤滑液で膨潤され、ポリマー306の上に配置される潤滑層308を形成する。
【0094】
別の例として、潤滑剤−ポリマー材料は、例えば、Oリング、薄膜、パイプもしくはチューブ、カテーテル、および/または同様のものなどの流体導管などの独立型物品として使用可能である。
図4は、独立型膨潤チューブの一例を示す。
【0095】
別の例として、潤滑剤−ポリマー材料は、マイクロスケールで多孔質であるか構造化されていても良い。
【0096】
開示される自己潤滑性ポリマーは、広範囲のポリマーおよび潤滑液から生成可能である。ポリマー材料は、広範囲のゴムおよびエラストマー、ならびに特定の溶媒潤滑液の存在下で著しく膨潤し得る他のポリマーから選択され得る。特に、ポリマーは、適切な溶液の存在下で膨潤することが知られるゴムまたはエラストマーのポリマーであっても良い。いくつかの実施形態において、ポリマーは無孔質材料である。ポリマー、例えばエラストマーまたはゴムは、典型的には共有結合架橋ポリマーである。ポリマーは、単純な単一ポリマー、またはポリマーブレンドもしくはコポリマーなどのポリマーの複雑な混合物であっても良い。架橋の特質および程度はポリマーの性質を変更し得る。例えば、架橋密度は、どの程度ポリマーが膨潤するかを制御するために使用可能である(例えば、軽度に架橋したポリマーは、高度に架橋したポリマーよりも膨潤し得る)。他の実施形態において、膨潤比が大きい、および/または膨潤率が高いように、架橋は、物理的、したがって可逆的および/または溶媒化によって容易に破壊可能であり得る。いくつかの実施形態において、ポリマーは、コポリマーもしくはブレンドポリマーまたは複合材料(例えば、ナノ粒子またはマイクロスケール充填剤材料を含有するポリマーの混合物)である。いくつかの実施形態において、ポリマーは、共有結合により、および物理的に架橋したブロックのコポリマーである。いくつかの実施形態において、ポリマーは、潤滑剤注入により異なる膨潤度をその後有する領域内にパターン化され得る。
【0097】
易滑性ポリマー表面を取得するためのポリマーの事後膨潤
1つ以上の実施形態において、ポリマーが第1に調製され、そのポリマーは次いで潤滑液で膨潤される。ポリマーは、コーティングとして、または成形された物品として調製可能な、任意のポリマーであり得る。方法は単純かつ万能であり、既存のコーティングシステムおよび物品に容易に適合可能である。ポリマーでコーティングされた物品、または成形されたポリマー物品を、例えば、液体内への浸漬、または潤滑液を物品上に流すことによって、過剰な膨潤潤滑液に接触させる。膨潤に必要な時間は変動し得、潤滑液を加熱すること、または所望の膨潤が達成された後に容易かつ選択的に除去され得る揮発性溶媒と潤滑剤を混合することによって、プロセスは加速され得る。
【0098】
例示的なポリマーとしては、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM、エチレン、プロピレン、およびジエン成分のターポリマー)などの、天然および合成エラストマーと、シス−1,4−ポリイソプレン天然ゴム(NR)およびトランス−1,4−ポリイソプレングッタペルカなどの、天然および合成ポリイソプレンと、イソプレンゴムと、ポリクロロプレン、Neoprene、およびBayprenなどのクロロプレンゴム(CR)と、ブチルゴム(イソブチレンおよびイソプレンのコポリマー)と、スチレン−ブタジエンゴム(スチレンおよびジエンのコポリマー、SBR)と、ブナNゴムとも呼ばれるニトリルゴム(ブタジエンおよびアクリロニトリルのコポリマー、NBR)と、エピクロロヒドリンゴム(ECO)と、ポリアクリルゴム(ACM、ABR)と、Viton、Tecnoflon、Fluorel、Aflas、およびDai−Elのフルオロエラストマー(FKM、およびFEPM)と、Tecnoflon PFR、Kalrez、Chemraz、Perlastのペルフルオロエラストマー(FFKM)と、ポリエーテルブロックアミド(PEBA)と、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、(Hypalon)と、エチレン−酢酸ビニル(EVA)と、ポリブタジエンと、ポリエーテルウレタンと、ペルフルオロカーボンゴムと、フッ素化炭化水素(Viton)と、シリコーンと、フルオロシリコーンと、ポリウレタンと、ポリジメチルシロキサンと、ビニルメチルシリコーンと、係る例示的なポリマーのうちの1つ以上が、カーボンブラック、酸化チタン、シリカ、アルミナ、ナノ粒子などの他の充填剤材料と化合されるこれらの複合材料と、が挙げられる。特定のポリマーを本明細書において記述したが、このリストはあくまで例示であり、限定的であることを意図しない。
【0099】
上述の通り液体がポリマーを膨張させ液体を吸収させるように、選択されたポリマーに対する親和性を有する広範囲の液体(溶媒)から、適当な潤滑剤が選択され得る。1つ以上の実施形態において、潤滑剤は、ポリマーにとって「優れた溶媒」である、つまり、ポリマーのセグメントと溶媒分子との間の相互作用がエネルギー的に起こりやすく、ポリマーのセグメントを拡大させる。優れた溶媒において、ポリマー−流体の接触の数を最大化させるために、ポリマー鎖が膨張する。溶媒の性質は、ポリマーおよび溶媒分子の化学組成物、ならびに溶液温度の両方によって決まる。液体は、純正液体、液体(溶液)の混合物、および/または複合流体(固体成分と組み合わせられた液体)、またはポリマーの自己潤滑性作用により環境に排出され得る分子化合物を含有する複合流体であり得る。
【0100】
例示的なポリマー−溶媒/潤滑剤の組み合わせを以下の表1に示す。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【0101】
潤滑液は、ポリマー内に容易に吸収され、極めて滑らかな表面をポリマー上に形成する能力を一般的に保有する。いくつかの実施形態において、潤滑液は、ポリマーに吸収されると実質的に分子的に平坦な表面を形成する能力を保有する。表面は、溶媒含有量において変動し得、ポリマー表面における全てまたは実質的に全ての溶媒から溶媒およびポリマーの混合物まで多岐にわたり、それによってポリマー−溶媒混合物または複合体を形成する。この層は一連の組成物に関して特定の流体特性を保有するため、環境物質に対する易滑性表面を提示する滑らかな上塗りを形成することができる。膨潤ポリマーは、ポリマーを膨潤してその表面に潤滑剤を提供するのに十分な潤滑液を必要とする。潤滑液の具体的な体積は、ポリマーの特質、架橋度、および意図される用途によって決まる。いくつかの実施形態において、潤滑液はバルクポリマー層の全体を膨潤させ、他の実施形態において、潤滑液はポリマーの膨潤した最上層を生成し、ポリマーのバルク全体を膨潤させない。潤滑液の異なる膨潤体積を使用する表面の易滑性質は、以下に詳細に説明する接触角履歴現象などの、表面性質を測定する確立された方法を使用して、容易に判定可能である。
【0102】
係る性質を示す任意の溶媒が選択可能である一方、いくつかの実施形態において、全ての(ポリマーを膨潤させる)溶媒が既定の適用例に適切であるとは限らない。潤滑剤の選択は、例えば、水溶液との接触、環境暴露、生物医学的応用(例えば、血液、他の体液または組織、および/または細菌との接触)、炭化水素、アルコール、および/または同様のものなどの、ポリマーおよび潤滑剤の適用によって決まり得る。潤滑液の他の望ましい性質としては、例えば、(a)低い表面張力、(b)用途に特定の液体、複雑液体、または固体(例えば、水、血液、細菌、香辛料、氷、油)への暴露との非混和性、(c)低粘度および/または蒸気圧(蒸発率)が挙げられ得る。
【0103】
ある特定の実施形態において、1つの潤滑液の代わりに、潤滑性−膨潤性の液体の組み合わせが使用可能である。例えば、潤滑性組成物は、高粘度潤滑液および低揮発性(低蒸気圧)潤滑液を含み得る。低粘度潤滑液は、向上した可動性および運動を表面に提供し、易滑性表面を急速に形成し、表面からの汚染物質の素早い滑り落ち、および表面層の再潤滑を誘導する。低揮発性潤滑液は、易滑性ポリマー表面が長期の寿命および貯留部効果を示すように、低減された蒸発損失を提供する。具体的な適用に有利な潤滑剤の他の組み合わせを使用しても良い(例えば、高および低Tにおいて作用する成分を有するように、異なる溶融温度を有する液体、水性液体および有機液体の両方を弾くことができる組み合わせを提供するように、暴露される環境に対する異なる親和性を有する液体、ポリマーブレンドまたはコポリマーなどの選択的な膨潤を提供するように、コポリマーの異なるブロックまたはポリマーブレンドの異なる成分に対する親和性を有する液体の組み合わせ)。潤滑液の組み合わせの使用は、事後膨潤ポリマーシステム、ワンポット硬化可能組成物、および超分子ポリマーネットワーク(以下に説明される)を含む、本明細書において説明される全てのポリマーシステムに適用する。
【0104】
潤滑液は、多数の異なる液体から選択可能である。一般的に、潤滑液はそれが溶媒和するポリマーと化学的に適合される。例えば、ポリマーが、ポリジメチルシロキサン(PDMS)などの疎水性ポリマーであるとき、潤滑液は、シリコーン油、炭化水素、および/または同様のものなどの疎水性液体であり得る。実例として、シリコーンエラストマー(例えば、共有結合により架橋されたもの)は、シリコーン油で膨潤することができる。例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)エラストマーは、シリコーン油(例えば、メチル、ヒドロキシル、または水素化物終端PDMSなど)と共に使用可能である。水素化物終端PDMSは、一連の潤滑液との優れた膨潤を示すことが実証されてきた。PDMS内のヒドロキシル終端シリコーン油はまた、疎油性/親水性表面を提供する別の種類の膨潤性ポリマーである。
図4は、水素化物終端PDMS油(例えば、Sigma−Aldrich Co.,LLC製のものなど)への暴露により、(a)膨潤前および(b)膨潤後のPDMSチューブ(Saint−Gobain Performance Plastics Corporation製のものなど)を示す。PDMSチューブは、PDMS油の吸収のため、約100%重量が増加した。
【0105】
他の例において、ポリマーはフルオロエラストマーなどの疎油性ポリマーであり、潤滑液はペルフルオロ化炭化水素またはフルオロシリコーン化合物などを含む。実例として、フッ素化シリコーンエラストマーは、ペルフルオロポリエーテル(例えばDuPontによるKRYTOX潤滑剤群またはSolvayによるFomblin潤滑剤群など)で膨潤可能である。特に、3級のペルフルオロアルキルアミン(例えば、ペルフルオロトリ−nペンチルアミン、3MによるFC−70、ペルフルオロトリ−n−ブチルアミンFC−40など)、ペルフルオロアルキルスルフィドおよびペルフルオロアルキルスルホキシド、ペルフルオロアルキルエーテル、ペルフルオロシクロエーテル(FC−77など)およびペルフルオロポリエーテル(例えばDuPontによるKRYTOX潤滑剤群またはSolvayによるFomblin潤滑剤群など)、ペルフルオロアルキルホスフィンおよびペルフルオロアルキルホスフィンオキシド、ならびにこれらの混合物が、ペルフルオロカーボンならびに言及される級の任意および全ての要素とのこれらの混合物と同様に、これらの適用に使用可能である。加えて、長鎖のペルフルオロ化カルボン酸(例えば、ペルフルオロオクタデカン酸および他の同族体)、フッ素化ホスホン酸およびスルホン酸、フッ素化シラン、およびこれらの組み合わせが、潤滑液として使用可能である。これらの化合物内のペルフルオロアルキル基は、線状または分枝状であり得、いくつかまたは全ての線状および分枝状基は、部分的にのみフッ素化され得る。
【0106】
別の例において、ポリマーが石油由来である場合、潤滑液は炭化水素であり得る。他の例としては、様々な炭化水素と共に使用されるEPDMゴムが挙げられる。
【0107】
さらに他の実施形態において、ポリマーはポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)(「NIPA」)などの親水性ポリマーであり、潤滑液は水または他の親水性溶媒である。
【0108】
適切なポリマー/潤滑剤の組み合わせのさらなる指針として、ポリマーと溶媒との間の相互作用が調査されてきており、http://www.ingersollrandproducts.com/_downloads/ChemGuide_8677−P.pdfで見られ、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる「ARO Chemical Compatibility Guideline」などの既知のガイドラインを参照することによって、適切なポリマーおよび溶媒の選択がなされ得る。これおよび類似のガイドラインは、様々な化学物質(例えば、材料が化学物質を吸収するため、しばしば「不適合性の」組み合わせと称されるもの)と相互作用し得る異なる材料を示す。係る組み合わせは、適用環境次第で、ここに提示される自己潤滑性材料にとって優れた潤滑剤−ポリマーの組み合わせとなり得る(例えば、潤滑剤/基質は、潤滑剤/基質の適用に基づいて選択され得る)。
【0109】
いくつかの実施形態において、ポリマーは、所望の膨潤レベルを提供するように、または膨潤状態において所望の弾力性を有するポリマーを提供するように、調整可能である。例えば、その原初の体積の何倍までも膨潤することができるポリマーを使用することが望ましい場合がある。追加的な膨潤は、膨潤ポリマー内部から表面潤滑剤層を補充することによって易滑性表面の耐用年数を延長するために使用可能である、潤滑剤の「貯留部」を提供する。
【0110】
易滑性ポリマー表面の調製のためのプレポリマー組成物
1つ以上の実施形態において、組成物は、プレポリマー組成物として調製される。コーティングは、膨潤性ポリマーのポリマー前駆体、ならびにポリマー形成に必要または所望される任意の硬化剤、架橋剤、または他の添加剤を含む。以下に詳細に説明する通り、いくつかの実施形態において、組成物は潤滑液も含み得る。この場合、組成物はその膨潤状態において調製されるため、別個の膨潤ステップを行う必要はない。
【0111】
ベース樹脂またはプレポリマーは、重合可能なモノマー、末端基官能化オリゴマーまたはポリマー、側基官能化オリゴマーまたはポリマー、テレケリックオリゴマーまたはポリマーを含み得る。テレケリックポリマーまたは末端官能化ポリマーは、2つの反応性末端基を有する高分子であり、架橋剤、鎖延長剤、ならびにブロックおよびグラフトコポリマー、星形、超分枝、または樹枝状ポリマーを含む、様々な高分子構造体の重要な構成ブロックとして使用される。テレケリックポリマーまたはオリゴマーは、その反応性末端基を通してさらなる重合または他の反応に入ることができる。定義により、テレケリックポリマーは、両方の末端が同じ官能性を保有する、ジ末端官能性ポリマーである。ポリマーの鎖末端が同じ官能性でない場合、それらは末端官能性ポリマーと称される。
【0112】
低分子量プレポリマーは、高分子の分子量を増加させる、末端官能化ポリマーと硬化剤の反応によって「硬化」または固化され得る。例示的な硬化剤は、2つ以上の反応基、または二官能性架橋剤を有する、他のオリゴマーまたはポリマーを含む。例示的なテレケリックポリマーとしては、ポリエーテルジオール、ポリエステルジオール、ポリカーボネートジオール、およびポリアルカジエンジオールが挙げられる。例示的な末端官能化ポリマーとしては、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリビニル、およびポリスチレンも挙げられる。
【0113】
1つ以上の実施形態において、ポリマー前駆体は、ペルフルオロ化ポリマーを含み得る。例えば、フッ素化交互アリール/アルキルビニレンエーテル(FAVE)ポリマーは、1,4−ブタンジオールまたは4−ヒドロキシベンジルアルコールを用いた、アリールトリフルオロビニルエーテル(TFVE)の付加重合から調製可能である。Keckら、Polymer Internationalによる、オンラインで第1に公開された記事:28 JAN 2013,DOI:10.1002/pi.4447、「Preparation of partially fluorinated aryl/alkyl vinylene ether polymers」を参照されたい。
【0114】
他の実施形態において、ポリマー前駆体は、例えばペルフルオロアルキルメタクリレートなどの、ペルフルオロアルキルモノマーであっても良い。他の実施形態において、重合を開始するために開始剤が含まれても良い。例えば、光開始剤、熱開始剤、水分感受性触媒、または他の触媒が含まれ得る。重合は、例えば紫外線エネルギー、熱エネルギー、または水分などの適当な誘因に、組成物を暴露することによってもたらされる。
【0115】
固化可能な組成物が適切な潤滑液と組み合わせて使用される。
【0116】
1つ以上の実施形態において、固化可能な組成物はまた、潤滑液を含む。いくつかの実施形態において、硬化に先立って、固化可能な組成物に潤滑液が添加される。潤滑液は、ベース樹脂または硬化剤と混和性があり、前駆体組成物内に存在する潤滑液の量次第で、潤滑液はポリマーネットワーク内に残って硬化ポリマーを膨潤させる。いくつかの実施形態において、潤滑液は、ポリマーを完全に膨潤させるために必要な量の100%未満または実質的に100%の量で存在する。過剰な潤滑液が存在する場合、過剰な液体は、硬化ポリマーから排除され、格子間領域または二次相内に分離する場合がある。過剰な潤滑剤は、ポリマーネットワークに吸収され得る量を超える量の潤滑剤であっても良い。
図38は、過剰な潤滑液の領域を含むポリマーネットワークシステムの略図である。この場合、潤滑性成分は層の3次元の厚さ全体にわたって注入され、層自体が潤滑液の貯留部として機能することができる。他の実施形態において、潤滑液は硬化後に塗布される。いくつかの実施形態において、硬化ポリマーシート(つまり、基質)は、潤滑液で膨潤されて易滑性ポリマー表面を形成する。係る包接は、表面の潤滑剤被覆層の除去または損傷時、または加熱処理後に、ポリマーから「吹き出し」、表面を補充する類まれな能力を示す、潤滑剤の追加的なバルク貯留部を提供する。
図39を参照されたい。
【0117】
いくつかの実施形態において、固化可能な組成物は、特定の適用例に所望され得る特定の性質を与える添加剤を含んでも良い。例えば、固化可能な組成物は、機械的性質または粗さを増進するためのナノ粒子充填剤、酸化防止剤、UV安定剤、発泡剤もしくは消泡剤、顔料、蛍光染料、核化剤(概して、固体の結晶化度を制御し、それ故にそれらの光学的、熱的、および機械的性質に影響を与えるため)、または光学的性質または粘度を制御するための充填剤を含み得る。
【0118】
易滑性ポリマーシステムは、使用される潤滑液を第1に特定することによって設計される。その選択は、弾かれるべき固体または液体物とのその非混和性または低い混合エンタルピー、ならびに動作条件(例えば、高T条件に対する熱安定性、UV安定性、または、必要な場合、耐腐食性など)に基づき得る。潤滑液を有する混和性/相溶性樹脂システム(モノマー、オリゴマー、または低分子量ポリマー/架橋剤)を提供するように、プレポリマーベースが次いで選択され得る。樹脂および関連する架橋剤の化学的および物理的性質は、互いに対する親和性を有する基質および潤滑剤の実用的な組み合わせを提供するように選択され得る。後続のステップにおいて、硬化/架橋相互関係が、樹脂/潤滑液システムの相溶性を阻害しないように選択され得る。
【0119】
固化可能な組成物を使用する易滑性ポリマーシステムの設計に当たり、例えば、弾かれるべき固体または液体物とのその非混和性または低い混合エンタルピーに基づいて、潤滑液が第1に選択され得る。潤滑剤はまた、可用性または所望の表面性質(親水性、疎油性など)に基づいて選択されても良い。例示的な潤滑液としては、例えばフッ素化潤滑剤(液体または油)、シリコーン、鉱油、植物油、水(または生理的に適合性のある溶液を含む水溶液)、イオン液体、ポリアルファ−オレフィン(PAO)、合成エステル、ポリアルキレングリコール(PAG)、フォスフェートエステル、アルキル化ナフタレン(AN)、芳香族、およびシリケートエステルなどの、親水性、疎水性、および疎油性の液体が挙げられる。潤滑液が特定されると、潤滑液と適合性のあるプレポリマーまたはベース樹脂が選択される。それ故に、例えば、プレポリマーは、硬化状態で潤滑液と混和性または溶解性があるように選択される。加えて、プレポリマーは、潤滑液との安定性および非反応性があり、プレポリマー状態で潤滑液との混和性があり、硬化の際に潤滑液によって膨潤可能でなければならない。次に、適切な硬化剤または架橋剤が選択される。硬化剤はまた、望ましくは潤滑剤と化学的に非反応性または実質的に非反応性である。
【0120】
1つ以上の環境において、プレポリマー前駆体は、例えば(ペルフルオロオクチル)エチルメタクリレートなどの、ある程度の不飽和度を有するものか、または硬化プロセスで使用可能な他の反応性部分を有する末端官能化される、フッ素化モノマーまたはオリゴマーを含む。例えば、モノマーはアリル系であっても良く、アリルヘプタフルオロブチレート、アリルヘプタフルオロイソプロピルエーテル、アリル1H,1H−ペンタデカフルオロオクチルエーテル、アリルペンタフルオロベンゼン、アリルペルフルオロヘプタノアート、アリルペルフルオロノナノアート、アリルペルフルオロオクタノアート、アリルテトラフルオロエチルエーテル、およびアリルトリフルオロアセテートを含み得る。モノマーはイタコンまたはマレイン酸系であっても良く、ヘキサフルオロイソプロピルイタコネート、ビス(ヘキサフルオロイソプロピル)イタコネート、ビス(ヘキサフルオロイソプロピル)マレート、ビス(ペルフルオロオクチル)イタコネート、ビス(ペルフルオロオクチル)マレート、ビス(トリフルオロエチル)イタコネート、ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)マレート、モノ−ペルフルオロオクチルマレート、およびモノ−ペルフルオロオクチルイタコネートを含み得る。モノマーは、アクリレートおよびメタクリレート(メタクリルアミド)系であっても良く、2−(N−ブチルペルフルオロオクタンスルファミド)エチルアクリレート、1H,1H,7H−ドデカフルオロヘプチルアクリレート、トリヒドロペルフルオロヘプチルアクリレート、1H,1H,7H−ドデカフルオロヘプチルメタクリレート、トリヒドロペルフルオロヘプチルメタクリレート、1H,1H,11H−エイコサフルオロウンデシルアクリレート、トリヒドロペルフルオロウンデシルアクリレート、1H,1H,11H−エイコサフルオロウンデシルメタクリレート、トリヒドロペルフルオロウンデシルメタクリレート、2−(N−エチルペルフルオロオクタンスルファミド)エチルアクリレート、2−(N−エチルペルフルオロオクタンスルファミド)エチルメタクリレート、1H,1H,2H,2H−ヘプタデカフルオロデシルアクリレート、1H,1H,2H,2H−ヘプタデカフルオロデシルメタクリレート、1H,1H−ヘプタフルオロブチルアクリルアミド、1H,1H−ヘプタフルオロブチルアクリレート、1H,1H−ヘプタフルオロブチルメタクリルアミド、1H,1H−ヘプタフルオロ−n−ブチルメタクリレート、1H,1H,9H−ヘキサデカフルオロノニルアクリレート、1H,1H,9H−ヘキサデカフルオロノニルメタクリレート、2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロブチルアクリレート、2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロブチルメタクリレート、ヘキサフルオロイソプロピルアクリレート、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロピルアクリレート、1H,1H,5H−オクタフルオロペンチルアクリレート、1H,1H,5H−オクタフルオロペンチルメタクリレート、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルアクリレート、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルメタクリレート、ペルフルオロシクロヘキシルメチルアクリレート、ペルフルオロシクロヘキシルメチルメタクリレート、ペルフルオロヘプトキシポリ(プロピロキシ)アクリレート、ペルフルオロヘプトキシポリ(プロピロキシ)メタクリレート、ペルフルオロオクチルアクリレート、1H,1H−ペルフルオロオクチルアクリレート、1H,1H−ペルフルオロオクチルメタクリレート、およびヘキサフルオロイソプロピルメタクリレートを含み得る。他の適当なモノマーとしては、ペンタフルオロスチレン、ペルフルオロシクロペンテン、4−ビニルベンジルヘキサフルオロイソプロピルエーテル、4−ビニルベンジルペルフルオロオクタノアート、ビニルヘプタフルオロブチレート、ビニルペルフルオロヘプタノアート、ビニルペルフルオロノナノアート、ビニルペルフルオロオクタノアート、ビニルトリフルオロアセテート、トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル−1,1−メチルジメトキシシラン、トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル−1−ジメチルメトキシシラン、およびシナメートが挙げられる。例えば、PDMS前駆体(即ち、Sylgard(登録商標)184)、1,4−ビス[ジメチル[2−(5−ノルボルネン−2−イル)エチル]シリル]ベンゼン、1,3−ジシクロヘキシル−1,1,3,3−テトラキス(ジメチルシリルオキシ)ジシロキサン、1,3−ジシクロヘキシル−1,1,3,3−テトラキス(ジメチルビニルシリルオキシ)ジシロキサン、1,3−ジシクロヘキシル−1,1,3,3−テトラキス[(ノルボルネン−2−イル)エチルジメチルシリルオキシ]ジシロキサン、1,3−ジビニルテトラメチルジシロキサン、1,1,3,3,5,5−ヘキサメチル−1,5−ビス[2−(5−ノルボルネン−2−イル)エチル]トリシロキサン、シラトラングリコール、1,1,3,3−テトラメチル−1,3−ビス[2−(5−ノルボルネン−2−イル)エチル]ジシロキサン、2,4,6,8−テトラメチル−2,4,6,8−テトラビニルシクロテトラシロキサン、およびN−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]−N′−(4−ビニルベンジル)エチレンジアミンなどの、シリコーンモノマーも使用可能である。例示的な潤滑剤は、シリコーン油、鉱油、ペルフルオロ化油または植物油などの、疎水性もしくは疎油性の油を、潤滑剤および架橋剤として含む。(ペルフルオロオクチル)エチルメタクリレートと共に使用される例示的な架橋剤は、ペルフルオロポリエーテルジメタクリレートである。重合はUVへの暴露によって開始される。
【0121】
ポリマー前駆体および架橋/硬化剤は、潤滑液との優れた親和性を有する硬化ポリマーを提供するように選択される。以下の表は、潤滑剤、ポリマー前駆体、および基質の例示的な組み合わせを提供する。
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【0122】
超分子包接を有するポリマー組成物
一実施形態において、ポリマーは超分子ポリマーである。超分子ポリマーは、そのモノマー反復単位が非共有結合によって接続されるポリマーである。超分子ポリマーを接続する非共有結合力は、物理的なマイクロ相分離領域内のホスト−ゲスト相互作用、配位、π−π相互作用、水素結合、および縮合相互作用を含む。示された1つのシステムは、四重水素結合を使用して超分子ポリマーを形成する。一実施形態において、ポリマーは、化学的架橋、例えば、共有、および物理的(超分子)架橋、例えば、イオン性の両方、水素結合、整列結晶サブドメインの形成、π−π相互作用などを含むように変性可能である。膨潤すると、ポリマーセグメントとの有利な相互作用に加えて、適量の優れた溶媒が物理的架橋を破壊し、ポリマーがさらにより大きな程度まで膨潤することを可能にする。利用可能な官能性部分との反応によるポリマー合成の間に、物理的架橋剤をポリマーシステムに導入しても良い。典型的な反応性部分は、アミノ、カーボキシル、ヒドロキシル、およびチオール基を含む。架橋剤自体が、水素結合またはイオン性架橋などを通して可逆的架橋ができる基を含む。例えば、ポリマーまたはポリマー前駆体、例えば、適切に官能化されたオリゴマー、または低分子量樹脂、または重合可能なモノマーが、共有および物理的架橋の両方を有する高度にネットワーク化されたポリマーを取得するために、直接または有機溶媒内のいずれかで架橋剤と組み合わせられ得る。
【0123】
一実施形態において、膨潤性ポリマー組成物は、式PxSyを一般的に有する超分子包接を有する主要ポリマーネットワークを含み、式中、Pは共有結合架橋ポリマーであり、Sはこのポリマーネットワーク内の超分子ブロックであり、x+yは1であり、「y」は0〜1であり得る。「0」は、前述の通り超分子添加がない単純なポリマーの場合に対応する。Pブロック内で、反復単位およびポリマー鎖の長さは、架橋度(およびそれ故に膨潤度)ならびに機械的性質(例えばヤング率)を調節するために変更可能である。Sブロック内の変動は、架橋強度およびポリマーネットワーク形成の速度を制御するために使用可能である。架橋剤は、この動的特徴のために刺激応答性である。例えば、水素結合架橋剤は、熱応答性である。この架橋剤によって接続されるポリマーネットワーク内で、温度の上昇は、潤滑剤を吸い上げるポリマーネットワークの能力を向上させる。具体的なPxSyシステムに関して、変動する「y」は、最終的なポリマーネットワーク内のポリマー鎖全体の長さおよび架橋度を変更する。膨潤度および機械的性質の両方が、最適化された「y」値を有する。「y」を増加または減少させることで、最終的な性質を調節することができる(例えば、膨潤度を上昇させる、または材料を軟化させる)。加えて、その動的架橋特質のため、自己修復性質はこの種類の材料に対してとりわけ効果的である。
【0124】
反応生成物(ゲル状の稠度で典型的にもたらされる)は、所望の形状またはコーティングにさらに加工可能である。例えば、ゲル状コーティングは、溶媒内に吸い上げられて基質上にコーティングされ得る。あるいは、ポリマーは、射出および圧力成形などの従来のポリマー加工によって、溶媒なしで加工可能である。
スキームIに示す通り、その反応をPDMSおよびジ−イソシアネート架橋剤を用いて例示する。
スキームI
【化1】
【0125】
ポリジメチルシロキサン上の反応性アミノ基は、ジ−イソシアネートと反応し、近隣の尿素基と水素結合することができる尿素部分を形成する。
図5は、PDMSセグメント550の相互接続した共有結合ネットワーク、ならびに尿素基の間の水素結合のブロック560を示す、ポリマーネットワークの略図である。水素結合は、拡大
図570により詳細に示される。
【0126】
一実施形態において、PはシリコーンでありSは尿素であり、x/y比は1である。それぞれが独自の利点(膨潤比、または機械的性質、または表面における潤滑剤補充率、または吸収可能な潤滑剤の種類、またはこれらの組み合わせという観点であろうとなかろうと)を有する、xおよびyの任意の他の組み合わせが可能である。いくつかの例において、PxSyポリマーネットワークは、アミノプロピル終端シリコーンおよびジ−イソシアネートの縮合共重合によって取得される。シリコーンブロックの長さは30反復単位〜320反復単位で変更され得、反復単位はジメチルシロキサンもしくは他のアルキルシロンキサンまたはジフェニルシロキサンであり得る。短い長さのPブロックは、優れた機械的性質だがシリコーン潤滑剤に対する小さな膨潤能力を示す。Pブロックの長さを増加させることは、材料を軟性にするが、高粘性の潤滑剤を吸い上げることができるようにする。ジ−イソシアネートは、イソホロンジ−イソシアネート、ヘキサメチレンジ−イソシアネート(HDI)、トルエン2,4−ジ−イソシアネート(TDI)、4,4′−メチレンビス(フェニルイソシアネート)、4,4′−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、1,4−フェニレンジ−イソシアネート、1,3−フェニレンジ−イソシアネート、m−キシリレンジ−イソシアネート、トリレン−2,6−ジ−イソシアネート、1,4−シクロヘキシレンジ−イソシアネート、1,8−ジ−イソシアネートオクタン、1,4−ジ−イソシアネートブタン、3,3′−ジメトキシ−4,4′−ビフェニレンジ−イソシアネート、4−クロロ−6−メチル−1,3−フェニレンジ−イソシアネート、1,3−ビス(1−イソシアネート−1−メチルエチル)ベンゼン、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサンであり得る。2つのイソシアネートを接続するリンカー基はまた、水素結合架橋剤の形成および最終的な強度への影響を有する。単結合基、例えば、C1−C6などの小鎖アルキル基が架橋の形成率に好ましい一方、剛性芳香族基の使用は架橋剤の強度を増進する。
【0127】
超分子ブロックを有するポリマーネットワークは、易滑性自己潤滑性ポリマーに有利ないくつかの性質を示す。
1)超分子ポリマーネットワークは自己修復性である。架橋剤は動的であり、ポリマーのクラッキング、例えば、損傷があると、ポリマーを通して亀裂位置に拡散し、損傷後に完全に回復することができる。損傷、とりわけ鈍頭物体からの損傷は、固定効果をもたらす表面上の欠陥を誘導し、それによって性能を低減する。自己修復性基質は、欠陥を回復し、易滑性能を回復する。
2)超分子ポリマーネットワークは、素早い架橋を有する。ポリマー鎖の間の架橋は直ちに形成する(多くの硬化時間は必要ない)。
3)超分子ポリマーネットワークは調節可能である。ポリマーネットワークシステムは、膨潤性質を制御するように調整可能である。膨潤度、および/または膨潤率は、ポリマーP成分の寸法、超分子部分の特質、およびその2つの相対的比率を調節することによって、上昇または低下され得る。したがって膨潤比は、単純な共有結合ポリマーによって達成される膨潤の狭い範囲と比較して何倍にも変動され得る。潤滑剤量は、PxSy内のx/yの比率を変更することによって制御可能であり、易滑性能の制御を可能にする。例えば、Pブロックの増加は、「P」のような潤滑剤に対する溶解性を上昇させる。高い潤滑剤含有量は、予期されない洗浄および損傷後の持続性の易滑性能および回復能力のために好ましい。
4)係るコポリマーの機械的性質は、組成、ポリマーP成分の寸法、超分子部分の特質、およびその2つの相対的比率次第で、細かく調節可能である。したがって機械的性質は、単純な共有結合ポリマーにおいて達成される機械的性質の狭い範囲と比較して何倍にも変動され得る。
5)PxSyポリマーは、有利な作動能力および形状記憶性質を有する新型のバイモルフ材料を生成するように積層可能である。2つの層が異なる膨潤能力を有するバイモルフにおいて、バイモルフはソフトロボット工学のための自浄性作動装置として潜在的に使用される。加えて、海洋および生物医学的用途において特に有用となるであろう防汚および摩擦低減性質を有する自己潤滑性ソフトロボットが期待される。
6)PxSyシステムの別の利点は、PおよびSブロックが異なる性質を有し、したがって選択的に指定可能であるということである。例えば、特定の溶媒はPブロックを膨潤させるがSブロックは膨潤させない、またはその逆である。「S」ブロックは、カーゴを装填するように設計可能である(光分解性コネクタなどの応答性誘発基を組み合わせることによる薬剤、添加剤など)。外部刺激への暴露後、装填されたカーゴは、適切な環境への迅速な排出のために「S」領域から排出され得る。
7)超分子ポリマーネットワークは、応答性ポリマーであっても良い。ほとんどの超分子架橋機構は、例えば温度、pH、謙虚さ、光、磁気、電界、および特定の分子などの、外部刺激への応答性を示す。これはシステムを「スマート」にし、刺激の適用時にその性質を調節すること、または性質を「オン」および「オフ」に切り替えることを可能にする。それは、潤滑剤の粘度、従って易滑性性能を制御するために使用可能である。さらに、コーティングの接着性と易滑性との間の切り替えを制御することでさえ可能になり得る。
8)超分子ポリマーネットワークは、一般的に熱可塑性であり、この性質は加工性および持続可能性という利点をそれらに提供する。それらは熱可塑性ポリマーとして、溶媒内に溶解される、もしくは加工可能な程度まで軟化する、任意の表面に塗布される、または必要時に再利用および再塗布されることができる。これは、形成後にその形状が変化せず、重合後に加工できない通常の熱硬化性ポリマーエラストマー/ネットワークと対照的である。
9)プレポリマー混合物の組成は、合成の間、ポリマー層全体に勾配性質または任意の必要な非均一組成を有するポリマーコーティングを生成するように変更可能である。
【0128】
超分子ポリマーネットワークを、例えばシリコーン油などのPDMSに対する優れた溶媒内に浸漬させると、水素結合は動的に結合および非結合され、ポリマーセグメントに対してさらに優れた可動性を提供し、シリコーン油がポリマーネットワークを膨潤することを可能にする。例えば、長いPDMSセグメントを有する超分子PDMSネットワークは、通常の共有結合により架橋されたPDMSの200%の値と比較して、600%の膨潤度を示す。
【0129】
様々なポリマー/架橋剤/潤滑剤の組み合わせが、これら超分子構造体を調製するために使用可能である。1つ以上の実施形態において、ポリマーPはシリコーン系ポリマーである。疎水性超分子構造体の生成に使用可能な例示的なシリコーンモノマーとしては、Sylgard(登録商標)182、Sylgard(登録商標)184、Ecoflex、1,4−ビス[ジメチル[2−(5−ノルボルネン−2−イル)エチル]シリル]ベンゼン、1,3−ジシクロヘキシル−1,1,3,3−テトラキス(ジメチルシリルオキシ)ジシロキサン、1,3−ジシクロヘキシル−1,1,3,3−テトラキス(ジメチルビニルシリルオキシ)ジシロキサン、1,3−ジシクロヘキシル−1,1,3,3−テトラキス[(ノルボルネン−2−イル)エチルジメチルシリルオキシ]ジシロキサン1,3−ジビニルテトラメチルジシロキサン、1,1,3,3,5,5−ヘキサメチル−1,5−ビス[2−(5−ノルボルネン−2−イル)エチル]トリシロキサン、シラトラングリコール、1,1,3,3−テトラメチル−1,3−ビス[2−(5−ノルボルネン−2−イル)エチル]ジシロキサン、2,4,6,8−テトラメチル−2,4,6,8−テトラビニルシクロテトラシロキサン、およびN−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]−N′−(4−ビニルベンジル)エチレンジアミンなどのPDMS前駆体が挙げられる。オムニフォビック超分子構造体の生成に使用可能な例示的なフルオロシリコーンモノマーとしては、例えば、アリルヘプタフルオロブチレート、アリルヘプタフルオロイソプロピルエーテル、アリル1H,1H−ペンタデカフルオロオクチルエーテル、アリルペンタフルオロベンゼン、アリルペルフルオロヘプタノアート、アリルペルフルオロノナノアート、アリルペルフルオロオクタノアート、アリルテトラフルオロエチルエーテル、およびアリルトリフルオロアセテートなどの、アリルモノマーと、例えば、ビス(ヘキサフルオロイソプロピル)イタコネート、ビス(ヘキサフルオロイソプロピル)マレート、ビス(ペルフルオロオクチル)イタコネート、ビス(ペルフルオロオクチル)マレート、ビス(トリフルオロエチル)イタコネート、ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)マレート、モノ−ペルフルオロオクチルマレート、およびモノ−ペルフルオロオクチルイタコネートなどの、イタコネートおよびマレートモノマーと、例えば、2−(N−ブチルペルフルオロオクタンスルファミド)エチルアクリレート、1H,1H,7H−ドデカフルオロヘプチルアクリレート、トリヒドロペルフルオロヘプチルアクリレート、1H,1H,7H−ドデカフルオロヘプチルメタクリレート、トリヒドロペルフルオロヘプチルメタクリレート、1H,1H,11H−エイコサフルオロウンデシルアクリレート、トリヒドロペルフルオロウンデシルアクリレート、1H,1H,11H−エイコサフルオロウンデシルメタクリレート、トリヒドロペルフルオロウンデシルメタクリレート、2−(N−エチルペルフルオロオクタンスルファミド)エチルアクリレート、2−(N−エチルペルフルオロオクタンスルファミド)エチルメタクリレート、1H,1H,2H,2H−ヘプタデカフルオロデシルアクリレート、1H,1H,2H,2H−ヘプタデカフルオロデシルメタクリレート、1H,1H−ヘプタフルオロブチルアクリルアミド、1H,1H−ヘプタフルオロブチルアクリレート、1H,1H−ヘプタフルオロブチルメタクリルアミド、1H,1H−ヘプタフルオロ−n−ブチルメタクリレート、1H,1H,9H−ヘキサデカフルオロノニルアクリレート、1H,1H,9H−ヘキサデカフルオロノニルメタクリレート、2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロブチルアクリレート、2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロブチルメタクリレート、ヘキサフルオロイソプロピルアクリレート、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロピルアクリレート fw 222.1 bp 74、1H,1H,5H−オクタフルオロペンチルアクリレート、1H,1H,5H−オクタフルオロペンチルメタクリレート、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルアクリレート、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルメタクリレート、ペルフルオロシクロヘキシルメチルアクリレート、ペルフルオロシクロヘキシルメチルメタクリレート、ペルフルオロヘプトキシポリ(プロピロキシ)アクリレート、ペルフルオロヘプトキシポリ(プロピロキシ)メタクリレート、ペルフルオロオクチルアクリレート、1H,1H−ペルフルオロオクチルアクリレート、1H,1H−ペルフルオロオクチルメタクリレート、ヘキサフルオロイソプロピルメタクリレートなどの、アクリレートおよびメタクリレート(メタクリルアミド)モノマーと、例えば、ペンタフルオロスチレン[653−34−9]97% fw 194.1 bp 140 1.406、ペルフルオロシクロペンテン、4−ビニルベンジルヘキサフルオロイソプロピルエーテル、4−ビニルベンジルペルフルオロオクタノアート、ビニルヘプタフルオロブチレート、ビニルペルフルオロヘプタノアート fw 390.1、ビニルペルフルオロノナノアート fw 490.1、ビニルペルフルオロオクタノアート fw 440.1、ビニルトリフルオロアセテート、ヘキサフルオロイソプロピルイタコネート fw 280.1、トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル−1,1−メチルジメトキシシラン、およびトリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル−1−ジメチルメトキシシランなどの、その他と、が挙げられる。例示的な組み合わせを以下の表3に示す。
【表3-1】
【表3-2】
【表3-3】
【0130】
いくつかの実施形態において、ポリマーの表面は構造化されていない(例えば、
図1Aに示す表面104のように平坦である)。いくつかの実施形態において、
図6に示す通り、ポリマー表面は構造化されている(例えば、毛細管現象によって潤滑層を停止する(助けをする)または超疎水性表面を促進するため)。
図6および7は、いくつかの例示的な組織化された表面を示す。
図6Aは、ある特定の実施形態に従って、その上に潤滑剤層504が形成される粗面502を有するポリマー500の概略図である。ポリマー500は、下層材料506の上に配置される(例えば、
図3に示すボトルまたは手袋)。粗面502は、潤滑層504を固定する。表面の粗さは、典型的な適用例において、およそ潤滑層の厚さ、つまり、最大1000nmである。構造体の特徴的長さが1000nmより大きい場合、潤滑層は構造体の形状を共形的にコーティングし、それに従う場合がある。構造化表面および係る表面の生成方法の詳細な説明は、2012年1月19日出願の「Slippery surfaces with high pressure stability,optical transparency,and self−healing characteristics」と題する国際出願PCT/US12/21928号に見られ、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。いくつかの実施形態において、潤滑剤層は構造化表面の形状に従う(例えば、全ての組織を上塗りする滑らかな層を形成する代わりに)。例えば、潤滑剤層の平衡厚が組織の高さを下回る場合、潤滑剤は構造化表面の形状に従い得る。
【0131】
いくつかの実施形態において、組織化された表面は所望の形状を使用して形成され得る。組織化された表面は、パターン化されたマイクロ構造体であっても良い(
図6B〜6Cを参照のこと)。例えば、組織化された表面は、パターン化された柱510などの特定の隆起した構造体または突起部を提供することによって、2次元の平坦面上に形成され得る(
図5Bを参照のこと)。いくつかの実施形態において、隆起した構造体の幅は、それらの高さに沿って一定である。いくつかの実施形態において、隆起した構造体の幅は、遠位末端から基礎表面に接近するにつれて増加する。隆起した構造体は、円形、楕円形、または多角形(例えば、三角形、四角形、五角形、六角形、八角形など)を含むがこれらに限定されない、様々な横断面の隆起した柱であり得、円筒形、ピラミッド形、円錐形、もしくは角柱形のカラムを形成する。それらの表面は、滑らかであるか、例えば、ボッシュプロセスに見られるスカロップの通り、規則的もしくは不規則的な状態の波形であっても良い。上述の例示的な基質は均一な形状および寸法を有する隆起した柱を図示するが、既定の基質上の隆起した柱の形状、方位、および/または寸法は異なり得る。別の例において、パターン化された溝520を利用しても良い(
図6Cを参照のこと)。係る組織化された表面構造は、表面潤滑剤層504を維持し停止する助けとなり得る
【0132】
パターン化された表面構造は、パターン化された柱(例えば、
図6Bに示す通り)、パターン化された突起(例えば、隆起したドット)、および/またはパターン化された孔から成る場合がある。
図7Aは、ある特定の実施形態に従って、パターン化された柱、突起、または孔602を有する構造化表面600の俯瞰図である。例えば、組織化された表面は、多孔質材料を形成するように2次元の平坦面上に細孔602を形成することによって形成可能である。
図7Bは、実質的に平行な溝610(例えば、
図6Cに示すものなど)を有する構造化表面の俯瞰図である。
図7Cは、れんが構造(例えば、各箱形状部分が近隣の部分に隣接する(または近接する)ように並べて設置される長方形箱形状部分620)またはハチの巣構造体(例えば、パターン化された線630で示される隆起壁構造)を有する構造化表面の俯瞰図である。
【0133】
他の実施形態において、潤滑剤層は構造化表面の形状に従い、共形する滑らかなコーティングを形成する(例えば、全ての組織を上塗りする滑らかな層を形成する代わりに)。例えば、潤滑剤層の厚さが組織の高さを下回る場合、潤滑剤は構造化表面の形状に従い得る。全ての組織を上塗りする滑らかな層が最高性能を提供する一方、構造化表面の形状に従い、減少した潤滑剤層から発生し得る、共形する滑らかな潤滑剤コーティングは、潤滑剤を注入されなかった下層基質よりも著しく優れた性能を依然として示す。
【0134】
金属含有基質を使用する組織化された表面の調製に関連するさらなる情報は、2012年7月13日出願の「HIGH SURFACE AREA METAL OXIDE−BASED COATING FOR SLIPS」と題する同時係属米国特許出願第61/671,645号に見られ、参照によりその全体が組み込まれる。コロイド鋳型法を使用するナノ構造表面の調製に関連する、さらなる情報は、本件と同日に出願の「SLIPPERY LIQUID−INFUSED POROUS SURFACES HAING IMPROVED STABILITY」と題する同時係属国際出願に見られ、参照によりその全体が組み込まれる。
【0135】
コーティングプロセス
固化可能な組成物は、従来のコーティング技術を使用して表面に塗布可能である、粘性だが流動性の混合物である。例として、コーティングは、吹き付け、吹き付け塗装、浸漬コーティング、流しコーティング、スピンコーティング、スクリーン印刷、スタンピング、またはペンでの筆記によって塗布され得る。1つ以上の実施形態において、固化可能な組成物の粘度は、せん断率またはせん断率の履歴次第であるという点で、固化可能な組成物は非ニュートン流体である。具体的には、組成物がせん断下で流れるように、この組成物はせん断減粘を示す。
【0136】
固化可能な組成物が硬化前に流れる能力のため、組成物は様々な表面および形状に塗布可能である。表面は、滑らかであるか、組織化されていても良い。固化可能な組成物の粘度は、広範囲の塗布技術に適用可能になるように調節可能である。
【0137】
組織化された、または粗い形態の場合、固化可能な組成物は、組成物が下層基質の平坦でない表面内に流れることを可能にする粘度であり得、そのような厚さで塗布され得、滑らかな上部表面を提供し得る。粗い基質上に滑らかな上部表面を有することが望ましい場合、組成物は表面特徴に接着し、大きく伸びたり流れたりしない。コーティングは、下層表面の粗く、隆起した特徴の完全な被覆率を確かならしめるために、滑らかな下層表面に使用されるものよりも厚くても良い。
【0138】
他の実施形態において、固化可能な組成物は、組成物が下層基質上に共形層を形成し、下層基質の平坦でない表面を薄くコーティングすることを可能にする粘度であり得、そのような厚さで塗布され得、それによって粗いまたは平坦でない上部表面を提供し得る。1つ以上の実施形態において、下層基質は、マイクロスケールまたはナノスケールの組織を有するシートプラスチック生成物であっても良い。
【0139】
他の実施形態において、下層表面は実質的に滑らかであり、コーティングは滑らかな層として塗布される。他の場合において、層に粗さを与えるために粒子または他の充填剤を添加しても良い。
【0140】
上記の実施形態のうちのいずれにおいても、潤滑液は、固化可能な組成物の成分として含有されるか、ベースが堆積され硬化された後の別個のステップにおいてポリマー内に注入されても良い。固化可能な組成物は、その前駆体状態で使用者に供給され得、使用者は、最終的な形態にそれを変換するために、最終的な調節をすることができる。
【0141】
これら成分の混合物は、様々な混合方法によって形成可能である。混合物は、選択された塗布方法(流延、成形、吹き付けなど)に対して混合物の粘度および稠度を制御するために、前処理(熟成、ソフトベーキング)されても良い。混合物は、形状またはコーティング層を形成するために、基質上に塗布され、固化(光硬化、熱硬化、水分硬化、化学的硬化など)され得る。混合物は、自立型の2D(シート、皮膜)または3D(チューブ、パイプ、ボトル、容器、レンズ、および他の形状)物体に成形され得る。流動性の固化可能な組成物は、例えば、供給心棒から供給され、流動性の固化可能な組成物が吹き付け、スクリーン印刷、浸漬コーティング、ブレード描画などによって塗布される塗布領域内に向けられ得る基質としての連続的なプラスチックシートを提供することによって、連続的プロセスにおいて塗布され得る。コーティングされたプラスチックシートは、随意に、例えば、UVまたは熱エネルギーへの暴露によって硬化が開始される第2の領域に次いで向けられる。随意の潤滑液がプロセスのさらなるものとして塗布され得るか、コーティングされた物品が吸い上げ心棒上に保管され得る。
【0142】
これら成分の全てが、共に、任意の数の組み合わせ/ステップにおいて塗布され得る。
【0143】
自己潤滑性ポリマーの一般的な易滑性は、潤滑液内での膨潤後に大いに上昇し、表面と接触する液体に対して非常に低い接触角履歴現象(CAH)を有する。接触角は、その同類のものといかに強く相互作用するかと比較して、液体および固体分子がいかに強く互いと相互作用するかの現れである。接触角は、一般的には、液体/蒸気界面が固体表面に接する液体を通して測定される角度である。それは、液体による固体表面の湿潤性を数値化し得、接触角が小さい場合、液体の滴は固体上に広がる傾向があり、接触角が広い場合、液体の滴は玉のようになる傾向がある。既定の温度および圧力における固体、液体、および蒸気の任意の既定の系は、その平衡接触角に対する一意的な値を有し得る。実際には、接触角のスペクトルが通常観測され、いわゆる上昇する(最大)接触角から減少する(最小)接触角まで変動する。上昇する接触角と減少する接触角との間の相違が、接触角履歴現象(CAH)と定義される。接触角履歴現象のより低い値は、より良い反発性および自浄性能の指標として一般的に見なされる。言い換えると、表面の易滑性、およびそれ故に液滴の可動性ならびにその表面からの除去は、より低い接触角履歴現象表面の上で上昇する。
【0144】
広範囲の物質が、本開示に係る易滑性表面によって弾かれ得る。例えば、弾かれる物質は、例えば、炭化水素およびそれらの混合物(例えば、ペンタンからヘキサデカンおよび鉱油まで、パラフィン系超軽質原油、パラフィン系軽質原油、パラフィン系軽質〜中間質原油、パラフィン系−ナフテン系中間質原油、ナフテン系中質〜重質原油、芳香族系−中質中間質〜重質原油、芳香族系−ナフテン系重質原油、芳香族系−アスファルト系原油など)、ケトン(例えば、アセトンなど)、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ジプロピレングリコール、エチレングリコール、およびグリセロールなど)、水(例えば、0〜6.1Mのナトリウムクロライド、0〜4.6Mのカリウムクロライドなどの広範囲の塩分濃度を有するもの)、酸(例えば、濃フッ化水素酸、塩酸、硝酸など)、およびベース(例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなど)、ならびに氷などの、極性および非極性液体ならびにそれらの固化形態を含み得る。弾かれる物質は、昆虫、小動物、原虫、細菌、ウイルス、菌類、体液および組織、タンパク質などの生体物質を含み得る。弾かれる物質は、液体内に懸濁される固体粒子を含んでも良い。弾かれる物質は、表面から弾かれるか、容易に除去されるかのいずれかの、塵、コロイド懸濁液、吹き付け塗料、食品、一般的な家庭内物質などの非生体物質を含んでも良い。弾かれる物質は、接着剤および接着性皮膜を含んでも良い。このリストは例示を意図し、本開示に係る易滑性表面は非接着性であり多数の他の種類の物質を首尾よく弾くことが想定される。
【0145】
いくつかの実施形態において、ポリマーの上に潤滑剤層を形成することによって潤滑剤として作用する、吸収される液体に加えて(またはその代わりに)、二次の種が吸収される液体内に溶解され得る。例えば、吸収される液体内に抗菌性化合物を溶解し、ポリマーを細菌に暴露させる処理をしても良い。別の例として、吸収される液体内に生物活性薬剤を溶解し、その薬剤を投与しても良い。いくつかの実施形態において、潤滑液が潤滑層として作用する液体−ポリマー複合体を(例えば、ポリマーの上の純正液体潤滑剤層の代わりに)形成するように、潤滑液がポリマーに注入される。
【0146】
ある特定の実施形態において、全てのパイプ、チューブ、または他の物品が、完全に自己潤滑性ポリマーから作られる。この場合、係る流体導管は、それらの両方の表面(外表面および内表面)が易滑性挙動を示すようにすることができる。例えば、係るパイプまたはチューブは、カテーテル、輸血チューブ類などとして、とりわけ生物医学的な環境で適用可能であり得る。別の例として、係るパイプまたはチューブは、内表面が油を流すための易滑性挙動を提供し、外表面が環境に対する易滑性挙動を提供する(例えば、パイプラインが寒い環境内に伸びる場合の防氷コーティングなど)、油輸送のために使用可能である。
【0147】
固化した形状またはコーティングは、透明にされ得る。発明において有用なモノマーの興味深い性質は、液晶挙動を示すその能力である。長いペルフルオロカーボン鎖は、より低い温度で結晶領域を形成することができ、それは流延または成形されるポリマーシートに不透明性を与える。しかしながら、温度を上昇させることは、材料が非晶質状態に遷移するにつれて透明性の上昇をもたらす。
【0148】
固化可能な組成物は、特に下層表面が不規則であり均質でないとき、広い表面上への塗布に適切である。
【0149】
例示的な適用例としては、屋根の下部の防氷コーティング、冷却塔上の防汚コーティング、海洋構造体、壁、標識、および他の屋外構造体上の落書き防止コーティング、特に広い表面積に対する固着防止表面仕上げ、防汚チューブおよびパイプ(例えば、医療用カテーテル)として、自浄性レンズとして、およびレンズ、窓、太陽電池パネル上の自浄性かつ掃除しやすいコーティングが挙げられる。
【0150】
1つの具体的な実施形態において、ポリマーはカテーテルとして使用される。利用可能なカテーテル材料は利点および不利益の両方を有し、カテーテル材料の選択は多くの場合は用途次第である。一般的に、ポリウレタンおよびシリコーンの両方に生体適合性があり、長期間のカテーテル法に適した選択である。しかしながら、詰まりおよび生体膜形成ならびに日和見感染が、カテーテルの長期間使用に伴う問題である。一実施形態において、カテーテルは自己潤滑性カテーテルであり、例えば、カテーテルは、易滑性、反発性の液体層を形成するようにシリコーン油で膨潤されたシリコーンポリマーカテーテルである。反発性表面は、細胞の付着を防止し、それによって生体膜形成を著しく低減する。ポリマー膨潤の貯留部効果のため、潤滑液の補充の必要なしに、カテーテルは長期間にわたって易滑性表面を示すことができる。カテーテルが血液と共に使用されるある特定の実施形態において、抗凝固剤が潤滑液内に含まれても良い。同様に、他の医学的応用において、感染を防ぐために抗菌剤が含まれても良い。
【0151】
他の実施形態において、膨潤ポリマーシステムは、パイプ内の抵抗低減のために使用され得る。特に、膨潤性ポリマーコーティングは、使用されるポリマー/潤滑剤の組み合わせ次第で、その中で圧力が経時的に上昇、低下、または一定であり続けるようにプログラムされるパイプまたは他の流体導管を提供するために使用可能である。一実施形態において、内表面が膨潤ポリマー層でコーティングされる剛性パイプが、十分な潤滑層のために流体を容易に第1に輸送し、したがって低い圧力減少を有する。潤滑剤が減耗するにつれて易滑性質は低減し、それは通常のパイプ内では圧力の上昇をもたらす。しかしながら、潤滑剤の除去は膨潤ポリマー層の厚さも低減し、それ故にパイプの内径を増加させる。直径が大きければ大きいほど圧力減少が小さくなるため、表面性質の劣化が原因で、直径の増加は圧力減少の増加に反作用する(
図25および26)。超分子PDMS(または任意の他の材料)の組成を変えることによって、具体的な適用に必要な通りに、圧力の減少が自動制御され一定であり続けるか、経時的に増加または減少するように、両方の機能を制御することができる(超分子ポリマーPxSy内のx/y比が膨潤の程度およびしたがってチューブの排出/寸法を決定するため)。
【0152】
大きな体積の変化にわたって膨潤を細かく制御することができるPySxシステムの使用は、特に有利である。超分子包接を有するこれらのポリマーは、良く制御された膨潤比を有し得る。さらに、各層が独自の特性を有するが、互いを制御しあうような状態で、互いの上に合成されることもできる。それらの潤滑剤の経時的な損失は異なり、したがって、どの層が上にあるか次第で、それらの流れ抵抗は異なる。一実施形態において、パイプ裏張りは、規則性ポリマー(例えば、PDMS)の二重層および超分子PDMS(上部または下部の上に1つ)の二重層、または徐々に変化するx/y比を有するポリマー層を含む。層は共に、非線形であっても、関連するプログラムされた圧力制御を有する、プログラムされた体積変化を有する、制御されたシステムを形成する。したがって、排出/直径/流れパターンのほとんど無制限のレパートリーをプログラムすることができる。1つ以上の実施形態において、パイプ裏張りは、潜在的なポンプ能力を有するパイプに沿った領域でパターン化され得る。
【0153】
パイプ直径を用いた流体圧力の制御を、
図25Aおよび25Bに示す。
図25Aは、潤滑液レベルがパイプを「易滑性形態」にする膨潤ポリマー、例えば、超分子PDMSの裏張りを有するパイプを示す。流れがパイプを通じて継続しながら、溶媒が流体の流れの中に排出される。
図25Bに示す通り、溶媒が排出されるにつれて、膨潤しているポリマーが通り、パイプは「部分的易滑性形態」に移ることができる。滑りの低減は層流形態の流体抗力を上昇させると予期されるが、パイプ直径は今や拡大され、圧力の減少を低減する(および流体抗力の付随低減)。さらなる潤滑剤の損失は、かさねてパイプ直径の増加およびその結果起きる圧力の減少を伴う、さらなる収縮および滑りの低減をもたらし得る。
図26は、圧力の減少およびパイプ直径の経時的な図表である。圧力の減少は潤滑剤排出特性によって決まる。圧力の減少を平衡または経時的に低減されるレベルのいずれかに維持し得る、2つの考えられる排出プロファイルを図に示す。いくつかの実施形態において、素早い収縮に起因する圧力の変化は、潤滑層の損失に起因する流れ抵抗よりも明白である。この場合、流れは経時的にのみ改善する。
【0154】
その中で膨潤が発生するパイプ直径を用いた流体圧力の制御は、流体からの溶媒がポリマー裏張りに吸収されるにつれて、内径が経時的に小さくなることを示す、
図27A〜27Cに示される。
図28は、圧力の減少(上昇)およびパイプ直径の経時的な図表である。圧力の減少は潤滑剤排出特性によって決まる。圧力の減少を平衡または経時的に上昇するレベルのいずれかに維持し得る、2つの考えられる排出プロファイルを図に示す。他の実施形態において、パイプはチューブを膨潤させない非混和性流体を輸送する。ポリマー組成物および塗布される潤滑剤、易滑性の経時的な損失に関連するそれらの具体的な特性、および体積の関連する変化を弄ることができるので、いかなる動的流れプロファイルでもプログラム可能である。層またはパターン内の異なるPxSyの組み合わせは、単純なパイプでは達成不可能な流れの細かい調節および制御/プログラミングを可能にする。
【0155】
別の実施形態において、PxSyポリマーの膨潤性質は、超分子連鎖を可逆的に破壊する、温度などの外部刺激によって調節可能である。超分子ブロックは可逆的であり、したがってTなどに応じて集合または分解のいずれかをすることができる。Tの変化は、膨潤超分子ポリマーの体積を変化させる。
【0156】
一般的に、膨潤ポリマーコーティングの厚さを調節することによって、パイプの内部直径は制御可能である。組成の変更、温度または潤滑剤粘度の変動、組成勾配の生成、およびポリマーネットワークに対する潤滑剤の親和性の制御によって、膨潤度を制御することが可能である。潤滑剤は、超分子ブロックに影響を与えずにポリマーの架橋Pブロックを選択的に膨潤するか、両方を膨潤するように選択され得る。それ故に、パイプ直径の制御は、1)膨潤動力学または安定(平衡)膨潤を使用して達成され得る。動的膨潤において、直径は膨潤時間(潤滑剤の流れがパイプを通過する時間)によって決まる。それは制御可能かつプログラム可能である。安定膨潤(易滑性質は高膨潤状態に見られる)において、直径は潤滑剤流れの存在下で温度(または他の刺激)によって変化し得る。
【0157】
他の実施形態において、膨潤性ポリマーを組み込むデバイスは、表面を補充する、または表面上に留められるいかなる汚染物質を排出するために、追加的な潤滑剤を注入され得る流体ネットワークを含み得る。一例において、チャネル(マイクロ流体またはミリ流体の)ネットワークを有するPDMSシートは溶媒/潤滑剤内で膨潤され、もし潤滑剤の易滑性作用が減少するとき、流体ネットワークは、PDMSの被覆層全体に拡散し膨潤させる追加的な潤滑剤を注入され、その外表面上に潤滑層を生成し、蓄積された不要な材料を表面から排出する。システムは、藻排出、バイオマス排出トレー、氷排出、化粧品排出などの多くの用途に使用可能である。例えば、ポリマー層は、化粧品ボトルの壁部をコーティングし、潤滑剤、例えば、ココナッツ油などを注入されることができる。ミリ流体ネットワークは、ポリマーと、それを通じて必要なときにより多くの油を追加することができる壁部との間に配置される。長時間使用のためのスマートカテーテル(例えば、超分子PDMSからの)は、それを通じてより多くの潤滑剤を注入し、PDMS内に拡散し細菌などを排出することができる、外側に通じるチャネルを有するミリ流体ネットワークを有し得る。
【0158】
発明の態様および実施形態を、例示のみを目的とし、発明を限定することを意図しない以下の実施例に記述する。
【0159】
実施例1.2−(ペルフルオロオクチル)エチルメタクリレートに基づくペルフルオロ化ポリマーおよびエラストマーの合成および性質。
2−(ペルフルオロオクチル)エチルメタクリレートを、ペルフルオロポリエーテルジメタクリレート(分子量約4kDa、MD40、Solvay Chemicals)と、架橋剤50%〜0%の範囲の体積比で、10%のKrytox(商標)100潤滑剤を随意に追加して混合した。UV光開始剤(Darocur 1173)を、モノマーおよび架橋剤の溶液に、5%で添加した。プレポリマー溶液をポリジメチルシロキサン(PDMS)型に充填し、特性評価および試験のためのバルク試料を生成した。充填された型をUVチャンバ内で、窒素で2分間パージし、続いて3分間硬化させた。試料の透明性および変形性は、モノマー:架橋剤比およびプレポリマー溶液内への潤滑剤の組み込み次第であった。もたらされた硬化コーティングの画像を
図8に示す。モノマー体積パーセントが上部に記載される異なるペルフルオロ化試料のバルクスクエアは、透明性の相違を示す。+10%は、光硬化に先立って10体積%のKrytox(商標)100潤滑剤を添加したことを意味する。
【0160】
試料の接触角を判定した。95%(体積単位)の2−(ペルフルオロオクチル)エチルメタクリレートおよび5%のMD40から成る試料から調製した基質についての接触角は120°であった。バルクポリマー試料を、Krytox(商標)100などの潤滑剤内で一定期間インキュベートし、続いてレンズ紙および空気を使用して試料を完全に乾燥させ、残存する溶媒または汚染物質を除去した。例えば、1:1(v:v)のモノマー:架橋剤の混合物は、Krytox(商標)100潤滑剤内で一晩かけてインキュベーションした後、28質量%膨張した。
図9Aは、弾性ペルフルオロ化ネットワーク平方体の変形性、および基質(50%の2−(ペルフルオロオクチル)エチルメタクリレートから成る試料)の上の水の高接触角の実例である。これらの実施例はKrytox(商標)100潤滑剤を含んだ。
【0161】
実施例2.2−(ペルフルオロオクチル)エチルアクリレートに基づくペルフルオロ化ポリマーおよびエラストマーの接触角、変形性、および膨潤。
別の例において、ポリマーコーティングおよびポリマーレプリカの調製に当たって、ペルフルオロオクチルエチルアクリレート(PFOA)をモノマーとして使用し、ポリマーレプリカの撥水性および透明性をコーティングされた試料と比較した。ペルフルオロオクチルエチルアクリレート(PFOA)の重合から調製されたポリマーコーティングで、スライドガラスをコーティングした。ペルフルオロオクチルエチルアクリレート(PFOA)およびMD40を含むポリマー前駆体から、ナノ構造パターンを有するポリマーレプリカを調製した。両方の試料の撥水性および透明性の実例を
図9Bに示す。
図9B(左)において、球体の染色された水滴が、調製されたままのポリマーでコーティングされたスライドガラス上に高対照角で乗っており、撥水性を示している。
図9B(右)において、表面上のナノ構造パターン(虹領域)を有するポリマーレプリカ(PFOA/MD40、50/50)を示す。官能化スライドガラスおよびポリマー皮膜の両方がより優れた透明性を示す。
【0162】
図10は、100%のペルフルオロオクチルエチルアクリレート(PFOA)および混合ポリマー組成物PFOA/MD40、50/50(v/v)を使用して調製されたポリマーの、荷重対歪の図表である。架橋剤の添加は、ポリマー強度を著しく向上させた。
【0163】
実施例3.フルオロゲルの調製
ペルフルオロオクチルエチルアクリレート(PFOA)(モノマー)、MD40(架橋剤)、およびFC70(潤滑剤)の前駆体から作られたフッ素化ポリマーを、様々な比率で調製した。
図11は、ペルフルオロオクチルエチルアクリレート(PFOA)(モノマー)、MD40(架橋剤)、およびFC70(潤滑剤)比率または1:1:1および1:1:1.5および1:1:2および1:1:3を有する前駆体組成物から調製された4枚のポリマーシートの写真である(組成比は図中にマークされている)。ここで、合成の間に、潤滑剤をポリマー前駆体内に直接的に注入し、重合後にフルオロゲルを得た。
【0164】
フッ素化潤滑剤でのフルオロゲルの膨潤は、ポリマーシートを易滑性ポリマー表面にする重要な手段である。膨潤液は潤滑剤として機能し、炭化水素油から複合流体までのほとんどの液体を弾く。つまり、フルオロゲルには、少なくとも3つの独特な性質がある:(1)ポリマーはフッ素化潤滑剤に対する非常に高い親和性を有するため、フッ素化潤滑剤でポリマーを潤滑する前にそれを修正する必要がない、(2)ポリマー自体がフッ素化潤滑剤によって膨潤され得、膨潤ポリマーは異なる複合流体に対してなかなか優れた易滑性能力を示す(液体接触角、防タンパク質付着の画像、血液滴の滑りのデータを参照されたい)、(3)硬化プロセス前に、官能性添加剤として、ポリマー前駆体にフッ素化潤滑剤が添加され得る。したがって、1つの単一のステップが易滑性薄膜を作るために必要である。
【0165】
実施例4.ペルフルオロ化シートの液晶性質
ペルフルオロオクチルエチルアクリレート(PFOA)をモノマーとして使用して調製されたフッ素化ポリマーの、熱誘導された可逆的な液晶挙動を調査した。調製されたままのフッ素化ポリマーは、ポリマー鎖の結晶性領域のため室温で不透明であり、温度が最大75℃まで上昇すると透明に変わり、ポリマーは非晶質に遷移した。温度が低下すると、係る遷移は完全に可逆的であった。パターン化された領域(虹領域:ナノ支柱)は、明らかな変化を少しも示さず、それは係る遷移下でナノ組織がいくらかの機械的安定性を保つことができるということを意味する。
【0166】
実施例5.オムニフォビック性の実例
図12は、上述の通りペルフルオロオクチルエチルアクリレート(PFOA)(モノマー)、MD40(架橋剤)を使用して調製された、調製されたままのポリマーのオムニフォビック性の実例を提供する。(PFOA/MD40、50/50)。左側の画像は、表面上にハチの巣パターンを有するエラストマーレプリカ上の浅瀬部分を示し、表面の著しい湿潤を示している。パターンに次いで潤滑液(Krytox100)を注入した。右側の画像は、潤滑剤注入後に係る表面上を滑り落ちるシリコーン油滴を示す。
【0167】
実施例6.ペルフルオロ化ネットワークの膨潤の研究
ペルフルオロ化ネットワークの膨潤は、化学組成物および潤滑剤が何であるかに影響され得る。異なる荷重のペルフルオロヘキシルエチルアクリレート(PFOA)モノマーを有する、ペルフルオロ化ポリマーの膨潤の程度を調査した。0%、50%、75%、および95%(v/v)のペルフルオロヘキシルエチルアクリレート(PFOA)モノマーを有するポリマー試料をKrytox100またはFC−70内で膨潤させ、易滑性ポリマー表面を調製した。これらの試料の膨潤プロファイルは、大部分がKrytox100内のペルフルオロヘキシルエチルアクリレート(PFOA)モノマーである試料については約10%から、FC−70内の同じ組成物についてはほとんど100%まで、著しく変動した。異なる組成および潤滑剤:(A)Krytox100および(B)FC−70を有する、2−(ペルフルオロヘキシル)エチルアクリレート系試料の膨潤度を、
図13の棒グラフに示す。
【0168】
潤滑剤で膨潤された後に低下した値を示した異なる量の2−(ペルフルオロヘキシル)エチルアクリレートモノマーを用いて調製されたバルク試料上の水に対する接触角履歴現象を、以下の表に報告する。接触角の低減は、易滑性ポリマー表面の形成と一致する。さらに、易滑性材料のワンポット調製のためにポリマー前駆体混合物に組み込まれる増加する量の潤滑剤で、接触角履歴現象の減少を示した。Krytox101を異なる潤滑剤:前駆体混合物の体積比で含有する、50%(v/v)のペルフルオロオクチルエチルアクリレートから調製されたペルフルオロ化ネットワーク上の水接触角を、
図13(C)に図示する。
【表4】
【0169】
易滑性ポリマー表面は液体に長期間暴露される場合があるため、係る暴露の効果を知ることは有益である。異なる溶媒への暴露後の、50%の2−(ペルフルオロヘキシル)エチルアクリレート試料の質量変化率を以下に報告する。重量損失または増加は、溶媒に対する試料の耐化学性および親和性の欠如に関連し得る。質量の減少は、ゾル画分の損失に対応し得ることに留意されたい。
【表5】
【0170】
図14は、血液などの生体液を弾く、膨潤および非膨潤ペルフルオロ化ネットワークの効果を図示する。膨潤および非膨潤ペルフルオロ化ネットワークへの血液の適用:(A)FC−70で膨潤された50%の2−(ペルフルオロヘキシル)エチルアクリレート系ネットワーク(左、PFN−FC70)、50%の2−(ペルフルオロオクチル)エチルアクリレート(中間、オクト)、および50%の2−(ペルフルオロヘキシル)エチルアクリレート(右、ヘクス)血液適用前試料。(B)膨潤したペルフルオロ化ネットワークによって血液が弾かれたように見えた一方、血液適用後、潤滑剤で膨潤しなかったペルフルオロ化ネットワークは、残った血液を示した。
【0171】
実施例7.ポリマーを膨潤して完全な機能性を達成するために必要な溶媒体積の影響
臨界体積の溶媒が吸収された後、膨潤ポリマーは易滑性(低い接触角履歴現象に表される通り)になる。調査のために、モデルポリマーとしてのポリジメチルシロキサン(PDMS)および溶媒としての液体PDMS(水素化物終端、分子量約580、Sigma Aldrich)を使用した。固体PDMSを体積約1インチ×1インチ×0.2インチに切断し、0.5mL、1mL、および2mLの液体PDMSで、それぞれ約27時間インキュベートした。インキュベーション後、静的接触角(θ
static)、前進接触角(θ
adv)、および後退接触角(θ
rec)、ならびに接触角履歴現象(Δθ)を測定した。結果を表6に報告する。測定結果に基づき、膨潤PDMSの完全な機能性を達成するために、臨界体積の溶媒が必要であることが明らかである。この具体的な実施例において、完全な易滑性を達成するために必要な最小体積の溶媒は、約0.5mL毎cm
3の固体PDMSである。
【表6】
【0172】
実施例8.ビス(3−アミノプロピル)終端PDMSおよびトルエン2,4−ジ−イソシアネートまたは1,6−ジイソシアネートヘキサンを使用するPxSyポリマーネットワークの縮合重合。
官能性アミノ末端基を有するPDMSおよびジ−イソシアネート架橋剤を直接または有機溶媒(典型的なTHF)内で混合し、もたらされるゲル状化合物は直接的に使用可能である。ビス(3−アミノプロピル)終端PDMS((Mn=2500、2.500g)を、THF(1ml)内のトルエン2,4−ジイソシアネート(0.174g)に添加した添加した。粘性混合物を加熱および振とうし、均質な液体を得た。室温(25℃)で24時間保管した後、さらなる活用のために有機ゲルを取得し保管した。取得したポリマーをuPDMSと名付け、「u」は尿素ブロックを表し、n=1および2はそれぞれ1,6−ジイソシアネートヘキサンおよびトルエン2,4−ジ−イソシアネート架橋剤を表す。それら後者は非共有相互作用によってポリマーネットワークを形成することができる。
【0173】
uPDMSを製造する2つの方策がある:a)重合から取得されるゲル状物質をTHF内に溶解し、スピンコーティング、浸漬コーティング、溶媒流延などによって異なる基質上にコーティングしても良い、b)流し込み方法(加熱し、次いで射出/プレスする)によって、溶媒なしのゲル状物質を加工しても良い。加工後、PDMSブロックまたはPDMSコーティングされた基質を、飽和するまで(典型的な時間、24時間)潤滑剤内に浸漬する。uPDMSは、基質上の強い接着力を示す。表7は、ガラス、アルミニウム、およびテフロン上の、uPDMS2のせん断接着強度を示す。
【表7】
【0174】
本明細書において「通常の」または「n−PDMS」と称される、超分子ブロックy=0を有さず、0.6MPaの最大強度を有する従来のPDMSと比較して、uPDMS2のせん断接着強度はアルミニウム基質上で著しく増進した(3.5MPa)。接着力は、ポリ(ビニルアセテート)白糊(PVA、Elmer’s Glue−All、4±1MPa)、エチルシアノアクリレート(Krazy Glue、7±1MPa)、および2液性エポキシ11±1MPa)などの専門的な接着剤と同等でさえあった。uPDMSはまた、優れた機械的性質を示す。
【0175】
係る上等の接着性質を、
図33A〜33Cに示す。
図33Aは、「乾燥」PDMS2ポリマーネットワーク、「乾燥」尿素系超分子ポリマー系uPDMS、およびシリコーン油で膨潤したuPDMSポリマー系の、応力対伸長の図表である。図表は、uPDMSが最長(約1100%)を有する一方、nPDMSが約250%の最も乏しい伸長を有したことを示す。潤滑剤の吸収の結果としてのポリマー鎖の延長のため、潤滑液の追加は伸長を約550%まで低減した。uPDMSはまた、
図33B〜33Cに示す通り、著しい荷重を支えることができる。
図33Bは、uPDMS2コーティング(上の画像)および層の概略断面図(下の画像)の、スライドガラスの写真である。スライドガラスの破損後、全ての破片はポリマーコーティングに依然として固着する。さらに、「破損した」スライドは、卓越した機械的性質、および重い荷重を失敗なく支える能力を依然として示した。
図33Cは、0.5kgの荷重を支えるuPDMS2皮膜を示し、易滑性であるだけでなく機械的に頑丈である丈夫なコーティングを形成するということを示している。
【0176】
易滑性表面および物品としての使用のための、これら超分子PDMSポリマーネットワークの性質を調査するために、類似条件下で、3つの異なる超分子ポリマーを、異なる粘度の異なるシリコーン油で膨潤した。膨潤度および滑り角を判定し、以下の表8に報告する。膨潤度および滑り角は、選択した架橋剤および潤滑剤として使用したシリコーン油に基づいて変動した。一般的に、より低い粘度の油で膨潤した試料が、より大きな膨潤度およびより低い滑り角を有する傾向にあった。
【表8】
【0177】
両方ともシリコーン油で膨潤した超分子PDMSおよび通常のPDMSに対する水接触角を取得し比較した。超分子PDMSに対する水接触角および滑り角は、通常の膨潤PDMSに類似したが、滑り角は著しく低減し、表面からの溶滴の非常に容易な除去を示している。
【表9】
【0178】
記述したシステムは、本システム内の2つの自己修復レベル、機能性回復および材料修復を示す。著しい鈍的または引掻損傷の後、乾燥uPDMS2は120℃において5分でそれ自身を回復することができる。潤滑剤の存在がこの回復能力を増進した。
図34A〜34Dは、120重量%の潤滑剤の存在下でuPDSM2コーティングに導入された引掻傷の自己修復の経時的シーケンスを示す。損傷は1分未満で回復した。機能性回復能力は潤滑剤含有量によって決まる。不飽和状態において、滑り性能は損傷後完全に回復しなかった。原因は、バルク材料から損傷場所に拡散できないようにポリマーネットワークに強く付着した潤滑剤に封入された効果にあった。この場合、皮膜が自己修復するときにのみ、易滑性能が回復する。過飽和の場合、損傷が形成すると直ちに易滑性能が回復した(
図35A〜35Dを参照のこと。水滴が通過するとき、その場所への過剰な潤滑剤の拡散、および創傷部分の上に形成される潤滑剤ブリッジの形成が原因で、損傷部分は完全回復の前でさえも固定が発生しない。
【0179】
図36は、自己修復プロセスの機構の機構を図示する概略図である。過飽和において、皮膜は膨潤ポリマーおよび余分な潤滑剤領域から成った。損傷が形成するにつれて(試料に適用される圧力をたびたび伴って)、潤滑剤領域は抑制され、潤滑剤はこれらの「カプセル化構造体」から排出する。過飽和状態のため、潤滑剤の排出はエネルギー的に起こりやすい。潤滑剤は、潤滑性層を接続し、潤滑性層の適合性およびバルク領域の飽和状態に起因して潤滑剤ブリッジを初めに形成する。ポリマー鎖は、最大限に延長されて過飽和状態の潤滑剤を封入し、ポリマー鎖のコイル特質のためにエントロピー的に不都合な状態をもたらす。このエントロピー効果は、H結合架橋剤の分解によって排出され得る。ポリマーネットワークとの類似する組成のため、H結合架橋剤の強度は潤滑剤含有量と共にたいして変化しなかった。したがって、潤滑剤含有量の増加は、ポリマー構造のエントロピー寄与、およびしたがって架橋剤が剥離する可能性を増加させただけであった。自由ポリマー鎖は、今度は潤滑剤と共に損傷場所に拡散し、新しい架橋ネットワークを形成し、損傷を回復/修復する。
【0180】
実施例9.易滑性の潤滑剤注入した膨潤シリコーンチューブ類の防生物付着性能。
抗生物質に基づく治療の乱用に起因する多剤および汎薬剤耐性生物の増加のため、院内感染の防止は時宜的かつ重要な目標である。導尿カテーテル上の生体膜形成が依然として院内感染の主な原因である一方、効果的な処置は分かりにくいままである。この目的を達成するために、シリコーン油内で膨潤したポリ−ジメチシロキサン(シリコーン)の防生物付着性能を調査した。固体シリコーンポリマーは、シリコーン油内に浸漬される膨潤する。膨潤は、固体ポリマー表面を包囲する易滑性、疎水性、かつ極度に平坦な液体表面層を生成する。膨潤後、表面は極度に易滑性になり、水滴は表面上の可動性が高い。
図15は、カテーテルチューブの体積変化を示す経時的な膨潤比の図表である。商業的なシリコーン試料は、24時間の期間にわたって膨潤し、1.17±0.01のほぼ最大値を達成し、24時間で最大膨潤比に接近する(n=3、平均±標準偏差)。膨潤は、シリコーン試料の拘束されない寸法を1.4倍増加させる。平坦なシリコーンの膨潤および未膨潤試料の静的接触角(CA)、CA履歴現象、および滑り角を測定し、
図16に報告する(nは1つの試料の10の測定結果であり、エラーバーは±標準偏差である)。膨潤シリコーンの易滑性表面は、未膨潤シリコーン表面よりも著しく低いCA履歴現象および滑り角を示す。
【0181】
緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)をモデル生物として使用し、膨潤および未膨潤シリコーン上で、量的クリスタルバイオレットアッセイによって、生体膜成長を数値化した。蠕動ポンプによって動く膨潤および未膨潤シリコーンチューブ類を通じて、活性培地を流した。実験の設定の略図を
図17に示す。未膨潤および膨潤チューブ類を通じて緑膿菌の撹拌培養物を流し、標準クリスタルバイオレット(CV)着色によって、チューブの内表面上の生体膜の存在を数値化した。
図18に示す通り、標準クリスタルバイオレット着色の手順を、チューブ類の短い試料に適合させた。吸収度値を正常化し、吸収度値を内部円周(IC)で除算することによって、未膨潤および膨潤試料内の異なるチューブ類の直径を計算に入れた。低、中、および高せん断率で、0、8、24、および48時間成長させた、CV着色した生体膜の吸収度値を、
図19Aに報告する。成長は未膨潤チューブ類上で生じるとはいえ、著しくより少ない成長が膨潤試料上に観測される。CV着色したチューブの写真が
図19Bに示され、紫色(写真の白黒画上では暗色)は生体膜の存在を示す。低減された量の生体膜が、特に高せん断率の膨潤チューブ類試料上にある。48時間の閉ループ培養後、低せん断率(10s
−1、47.8s
−1)の膨潤シリコーン上の生体膜形成は1/8に低減し、最高試験済みせん断率(270.4s
−1)では1/134に低減した。さらに、
図19Cは、低せん断条件で48時間成長させ、高せん断条件で5秒および5分間「洗浄した」生体膜の存在を数値化する図表である。単純な5秒の洗浄ステップは、膨潤チューブ類上に存在する生体膜のいかなる形跡を、ほぼ完全に除去する。
【0182】
共焦点像は、生体膜形成が膨潤シリコーン上で実質的に低減されることを裏付ける。未膨潤および膨潤チューブ類上に、低せん断条件で48時間成長させた、緑色蛍光タンパク質(GFP)発現緑膿菌によって形成される生体膜を、空気乾燥させ、直立共焦点顕微鏡で画像化した。細菌は、未膨潤シリコーンチューブ類上に、約40μmの厚さの生体膜を容易に形成した。しかしながら、表面上に存在した小さく容易に除去される細菌凝集体、および膨潤チューブ類の壁部に侵入した検出菌を例外として、生体膜は、膨潤チューブ類の表面上に同じ条件で存在しなかった。卓越した防生物付着性能、製造の単純さ、安価な製造、およびさらには患者の安心に対する改善を考慮すると、このアプローチは、臨床的に実践され、後にカテーテル関連の感染の世界的発生率を低減する、著しい可能性を示す。未膨潤および膨潤シリコーンチューブ類上の、典型的な緑膿菌生体膜の共焦点像を示す、
図37を参照されたい。未膨潤および膨潤チューブ類上に、低せん断条件で48時間成長させた、緑色蛍光タンパク質(GFP)発現緑膿菌によって形成される生体膜を、空気乾燥させ、直立共焦点顕微鏡で画像化した。(
図37A、Bに示す通り)細菌は、未膨潤シリコーンチューブ類上に、約40μmの厚さの生体膜を容易に形成する。(C、D)生体膜は、膨潤チューブ類上に同じ条件下で存在しない(表面は暗く見え、蛍光マーカーで標識されていない)。いくつかの小さく容易に除去される細菌凝集体(明るい点)が表面上に存在すること、および検出菌が膨潤チューブ類の壁部に侵入したことに留意されたい。
図37(E)は、チューブを細菌培養物に晒した後の、上部に未膨潤領域を有し、膨潤領域を下部に有する、着色したシリコーンチューブ類の写真を示す(着色は暗紫色、または白黒画では暗灰色に見え、細菌膜形成に特徴的である)。残りの未膨潤部分上に生体膜が明らかに存在する一方、生体膜はチューブの膨潤部分上に形成しない。
【0183】
実施例10.膨潤PDMSが藻類生体膜の接着に抵抗する能力
緑藻ボツリオコッカスブラウニー(Botryococcus−braunii)を、未処理またはPDMSの層をスピンコーティングし、過剰なシリコーン油でその後に膨潤した、スライドガラス上またはガラスビーカー内に成長させた。2週間後、液体を表面から除去し、クロロフィルaおよびバイオマス分析によって残りの藻類生体膜を数値化した。膨潤PDMS表面は、液体内の藻類生体膜形成の抑制を見せなかった(これらの層の藻に対する非毒性を示唆する)一方、液体除去時のガラス対照と比較して、表面に対する生体膜の付着の明らかな低減を示した。
図20Aに見られる通り、成長の2週間後、液体成長媒体の除去の後に、未処理ビーカー(左の3つ)上に藻が明らかに見受けられた。対照的に、シリコーン油膨潤PDMSでコーティングされたビーカー(右の3つ)は、接着性の藻類生体膜の、とりわけ垂直表面上の著しい低減を示した。
図20Bは、ビーカー(左)内に残る生体膜のクロロフィルa含有量を示し、
図20Bは、ビーカー(右)内に残る生体膜のバイオマスを示す。シリコーン油膨潤PDMSでコーティングされたビーカーは、両方の低減を示した。アスタリスクは、99%の信頼水準における統計的有意性を表す。
【0184】
藻は、処理済みの表面上で非常に低い接着力を実証した。
図21Aは、未処理の上半分および藻に2週間暴露した後の膨潤PDMSでコーティングされた下半分を有するスライドガラスを示す。液体媒体からスライドを取り除くと、生体膜は下半分から剥がれ、それを綺麗にした。
図21Bに示す通り、藻暴露後のPDMSの表面のX線光電子分光分析は、タンパク質または他の生体分子が検出不可能である、PDMSからの痕跡のみを示す。
【0185】
本技術は、工業規模での藻の成長の全ての態様に、可能性として適用可能である。藻またはその媒体(成長皿またはチューブ、備品、器具)に接触する、または可能性として接触し得る、任意の材料が処理され得る。廃水処理施設、工業製造施設、または非無菌水と接触している材料などの、容易な生体膜除去が所望される任意の適用例において、膨潤SLIPSをさらに使用し得る。さらなる適用例としては科学的使用さえも挙げられ、完全な無傷藻類または細菌生体膜の排出は、係る生物学的構図の理解および創造的使用に役立つであろう。
【0186】
実施例11.膨潤PDMS SLIPS上の細菌移動
カテーテルに沿う細菌の移動は、感染の広がりに寄与し得る。本実施例は、未処理のカテーテルと比較して、ポリマーシステムを潤滑液で膨潤するように処理されるカテーテルは、細菌移動を低減することができるということを示す。
【0187】
図22に従って実験手順を設定し、カテーテルを2つの寒天培養プレートの間に位置付け、「カテーテルブリッジ」として機能させた。水で膨潤したヒドロゲル、およびシリコーン油で膨潤したPDMSの、2つの材料をカテーテルブリッジのために試験した。調査した細菌種は、その群挙動および病院内で感染を引き起こす能力で知られる生物である、ミラビリス変形菌(Proteus mirabilis)であった。
【0188】
膨潤ヒドロゲルブリッジ上の移動は明らかであったが、膨潤PDMSブリッジ上の移動は発生しなかった。生菌はヒドロゲル上にのみ存在した。
【0189】
本技術は、留置またはフォーリーカテーテル、間欠的および外部カテーテルに適用可能である。加えて、任意の防感染表面(例えば手術道具用パッドなど)、開放環境で長期間の無菌状態を必要とする病院備品、創傷包帯、および細菌移動の防止または制限を必要とするが、易滑性表面を依然として必要とする任意の状況(例えば、血管造影手順)に本技術を適用し得る。
【0190】
実施例12.薄膜内の詰まりを低減するための膨潤ポリマーの使用。
薄膜フィルタの使用は、廃棄有機物が酸素の存在下で細菌/他の微生物の好気性消化によって分解される廃水処理において主要な役割を果たす。この目的を達成するために、マイクロ/ミリスケールの酸素を廃水内に輸送することを可能にする細かい開口部/スリットを有する薄膜/チュービング類を通じて、酸素を排水内に送達する。しかしながら、廃水は、例えばナトリウムクロライド(海水)、カルシウムカーボネート(送水管)、微生物、例えば、細菌)などの、汚損、落屑、または詰まりを発生させ得る有機および無機固体の高度に複雑な混合物を含有し、それが薄膜スリットを塞いで効率的な気体輸送を妨げる。この問題を解決するために、一般的なゴム(例えば、エチレンプロピレンジエンモノマー、シリコーン、ポリウレタン、フルオロエラストマー)上の潤滑剤膨潤コーティングが、この目的のために特に使用されるように開発され得る。
【0191】
一般的なゴムおよびエラストマー(例えば、エチレンプロピレンジエンモノマー、シリコーン、ポリウレタン、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリスルホン(PSF)、ポリエーテルスルホン(PES)、フルオロエラストマー(VITON(登録商標))、ポリ塩化ビニル(PVC)、およびナノカーボン系材料)から作られる膨潤性ポリマー層を第1に堆積することによって、易滑性表面を薄膜フィルタ内にコーティングしても良い。潤滑性流体は、広範囲のペルフルオロ化流体(3級のペルフルオロアルキルアミン(例えば、ペルフルオロトリ−n−ペンチルアミン、3MによるFC−70、ペルフルオロトリ−n−ブチルアミンFC−40など)、ペルフルオロアルキルスルフィドおよびペルフルオロアルキルスルホキシド、ペルフルオロアルキルエーテル、ペルフルオロシクロエーテル(FC−77など)およびペルフルオロポリエーテル(DuPontによるKRYTOX潤滑剤群など)、ペルフルオロアルキルホスフィンおよびペルフルオロアルキルホスフィンオキシドを含むがこれらに限定されない、ならびにこれらの混合物が、これらの適用に使用可能である)と、炭化水素の混合物(例えば、鉱油)、ポリジメチルシロキサン、およびこれらの官能性修飾体の混合物と、食品適合性液体(オリーブ油、菜種油、ココナツ油、トウモロコシ油、ぬか油、綿実油、ブドウ種子油、大麻油、からし油、パーム油、落花生油、カボチャ種子油、サフラワー油、胡麻油、大豆油、ヒマワリ油、茶種子油、くるみ油、および上記の油のうちの任意の混合物を含むがこれらに限定されない)と、から選択可能である。
【0192】
潤滑剤に対する膨潤性ポリマーの化学親和性次第で、固体の化学官能化および粗化を行って化学親和性をさらに増進しても良い。例えば、潤滑性流体を2ステッププロセスで塗布しても良い。第1のステップにおいて、薄膜フィルタ(約1μm〜最大1m)の開口部/スリットの全てを、流体が寸法の面で完全に湿潤するように、低表面張力、低粘度の流体(前処理層として)を薄膜材料に塗布する。第2のステップにおいて、それ自体が高流量、高せん断条件に対する保護層として作用する薄膜材料に、低表面張力、高粘度の流体(保護層として)を塗布する。層の厚さは約100nm〜最大10μmの範囲で塗布され得る。一般的に、低粘度の流体は20Cで0.1cSt〜100cStの動粘性率を有する流体であり、高粘度の流体は20Cで100cStを上回る動粘性率を有する流体である。これら潤滑性流体は、吹き付けコーティング、浸漬コーティング、または物理的な擦り込みプロセスのいずれかによって、薄膜フィルタに直接的に塗布可能である。これらの易滑性コーティングを用い、卓越した熱安定性、耐化学性(強酸およびアルカリに対して)、UV耐性、ならびに圧力安定性を提供するようにこれらのコーティングが調整され得る高塩分濃度環境下で(非処理薄膜フィルタと比較して)、汚損(即ち、スリットの遮蔽)および詰まり(即ち、スリットの閉塞)を効果的に防止することができるということが示された。
【0193】
図23は、特徴的寸法Dおよびスリット開口部dを有する薄膜フィルタの概略断面図、ならびに対応する製造プロセスを図示する。固体の間の親和性を改善するために、化学的な官能化を行っても良い。加えて、この概略図には2つの潤滑ステップのみを図示するが、例えば、高/低温度、高/低圧力、高/低放射線暴露、または高/低せん断流れ環境などの様々な環境条件に合わせて調整される、様々な粘度溶融温度および化学組成を有する潤滑剤を用いる、複数の潤滑ステップを適用しても良い。
【0194】
薄膜処理の1つの例示的な方法を以下に詳細に説明する。エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)薄膜ディスク(約1mm以下の開口部を有する)を、12.4cStの粘度のペルフルオロポリエーテル(室温)、例えば、DuPont Krytox100で、第1に処理することができる。潤滑剤は、その低表面張力および低粘度のために、小さな薄膜開口部を含んでEPDM材料を完全に湿潤することができる。この前処理した薄膜を用い、ペルフルオロポリエーテルの高粘度潤滑剤(例えば、DuPont Krytox 105、室温で粘度522cSt)を薄膜上に塗布およびコーティングすることができる。この高粘度潤滑剤は、防汚性、詰まり防止性、および耐せん断性の層として機能し得る。これらの潤滑剤は、吹き付け/物理的な擦り込みプロセスのいずれかによって、薄膜上に塗布することができる。膨潤ポリマーで処理した薄膜は、高い撥水性および複雑な水性流体に対する反発性があることを示している。薄膜は、液浸環境下で長い間(即ち、1ヶ月を超える)使用可能であり、無機(例えば、ナトリウムクロライド)および有機汚損(例えば、細菌生体膜)の両方、ならびに詰まりを防止し、薄膜の閉塞を防ぐことを示してきた。これは、薄膜汚損に起因する追加的なエネルギー損失なしに(動作の数日以内に汚損/詰まりが発生し得る非膨潤薄膜と比較して)、目標の圧力レベルで薄膜が動作することを可能にする。潜在的適用例としては、低コストおよび維持管理不要の非汚損機能が非常に望ましい、通気性薄膜/チューブ(気体輸送のため)、廃水濾過、および微生物燃料電池が挙げられ得る。
【0195】
実施例13.膨潤ポリマー上の凍着
液体PDMS(水素化物)を注入したポリジメチルシロキサン(PDMS)をモデルシステムとして使用して、膨潤ポリマーの凍着特性を調査した。特に、PDMS上の氷の垂直および正接の接着力は2kPa未満であることが示され、これは一般的に使用される工学材料よりも2桁分低い(
図24Aを参照のこと)。ポリマーが潤滑剤で完全に注入/膨潤されている限り、コーティングの厚さは凍着特性に影響を与えない。
【0196】
実施例14.過剰なシリコーン油で膨潤したPDMSコーティングの凍着(せん断)試験。
10gのPDMS前駆体および硬化剤(1:10)ならびに4gのシリコーン油を、65℃で3時間かけて硬化することによって、膨潤した易滑性PDMS皮膜を生成した。調製した皮膜を、−10℃で40%相対湿度の冷却プレート上に次いで設置した。10mLの水滴を調製した皮膜上に設置し、それは凍結した。その上に凍結した水滴を設置した冷却プレートを、1mm/分の速度で上方に移動させた。氷滴は、力センサに接続される木製ロッドに当たるまで、プレートと共に上に移動した。
図24Bを参照されたい。センサで記録される力は、表面上の氷の接着力と相互関係がある。調製されたままの基質の上の氷滴のせん断接着力を、このプロセスの間に計測する。
図24Bに示すこの特定の場合において、単一の氷滴に対して測定されるせん断力は45mNであり、せん断接着力は約4kPaと測定される。
【0197】
実施例15.PDMS裏張りパイプ内の抵抗低減
基剤を10、硬化剤を1の割合で、Thinky Mixerで、2000rpmで1分間混合してPDMSを作った。真空オーブン内で、PDMS混合物を室温で脱気し、次いで−20℃の冷却装置で保管した。
【0198】
これらの実験において、ピペットをパイプとして使用した。外径が滑らかになるまで内部パイプを研磨した。他の設備との寸法の適合性を確かならしめるために、鋭い刃先の鋸を使用して外部および内部パイプの両方の上端部を切断した。PDMSの硬化後の容易な取り外しのため、内部パイプにテフロン系離型スプレー(Dry Film Release Agent MR 311スプレー)を吹き付けた。内部パイプを外部パイプ内に配置した後、下部をパラフィルムで密封した。内部と外部パイプとの間の間隙内にPDMSを流し込み、裏張りがパイプ周囲に均一な厚さを有することを確かならしめるために上部に蓋をした。パイプを真空オーブン内に設置し、PDMSに第2の脱気を受けさせた。気泡が全てなくなったら、70℃のオーブンで一晩かけてパイプを硬化した。PDMSが硬化したら、内部パイプを取り除いた。
【0199】
PDMSを膨潤するために、Dupont Krytoxペルフルオロ油、シリコーン油、粘度5cstのMomentive Element 14シリコーン油、鉱油、Pecosil FSL−150、およびPecosil FSF−150を含む、様々な潤滑剤を使用した。優れた膨潤比を確かならしめるために、コーティングされたパイプを潤滑剤に24時間より長く液浸した。
図29に図示する通り、膨潤比は大幅に変動したが、Momentive Element 14シリコーン油が最高の膨潤度を示した。
【0200】
PRO 3600 Standaデジタル分度器を使用して、Momentive Element 14シリコーン油(最大の膨潤比を有する潤滑剤)で膨潤したPDMS裏張りパイプの傾斜角を測定した。パイプをホルダ内に設置し、10μLの脱イオン水の液滴をパイプ内に設置した。裏張されたパイプを手動で傾斜させ、液滴が滑り始めた角度を傾斜角として記録した。Momentive Element 14シリコーン油へのPDMS裏張りパイプのより長い暴露に対して、傾斜角はより小さくなり、したがって易滑性が改善した。
図32は、(a)膨潤PDMS裏張りチューブ類の断面像、および(b)シリコーン油(Momentive Element 14 5A)内の膨潤時間の関数として(a)に示すチューブ内の水滴(10μL)の滑り角を示す。
【0201】
実施例16.制御された汚損排出のための膨潤ポリマーデバイス
汚損皮膜の形成および持続性は、広範囲の領域において重大な問題である。これに対抗するため、潤滑剤−油膨潤ポリマー表面からの生体膜の制御された排出を可能にする、新しい種類の膨潤ポリマーデバイスを提案する。
図30Aに概略的に示す係るデバイスのうちの1つは、第2の(より薄い)ポリマー層(3)で被覆されるインプリント流体ネットワーク(4)を有する、ポリマーのベース層(2)から成る。流体ネットワークは、追加的な潤滑剤の導入のためにデバイスの外側に伸びる侵入ポート(1)を包含する。
【0202】
図31は、
図30Aに示すデバイスの動作の方法を示す。使用に先立って、デバイス全体を潤滑剤で膨潤し、流体ネットワークを完全に充填する(
図31、1)。ほとんどの膨潤ポリマーと同様に、潤滑剤の薄層がデバイス表面上に初めは存在する。この層が劣化する、および/または汚損層が上に蓄積すると、流体ネットワークを介して中央のデバイス内に追加的な潤滑剤が注入される(
図31、2)。この潤滑剤はポリマー被覆層全体に拡散し、表面の潤滑剤層を厚くし、不要な物質を表面から排出する(
図31、3)。表面上の誘導される流体の流れ、例えば流水は、汚染物質を表面から除去することができる(
図31、4)。この汚損層は、流れまたは何らかの他の力を導入することによって、次いで完全に除去可能であり、再使用の準備が整った綺麗な表面を暴露する(
図31、5)。
【0203】
シリコーン−油膨潤PDMS上の、持続性の藍色細菌生体膜の排出から得られる暫定的結果は、下からの潤滑剤の追加は、これらの種類の汚損層の除去に効果的な手段であることを示している。生体膜に被覆される平均領域%は、潤滑剤の追加前の約88%から潤滑剤の追加後の約21%まで低減した。いくつかの場合において、生体膜は単一片として完全に除去された。
【0204】
図30Bは、再潤滑および吸収される物質の排出が必要なとき、流体ネットワークを通してその中に潤滑剤が注入され得る、パイプ、チューブ、または容器内で使用可能な、同じデバイス原理の概略的表現を示す。潤滑剤注入のための統合された流体ネットワークを有する係る膨潤ポリマーデバイスは、長期間の保管または機能を必要とするカテーテルまたは容器に適用しても良い。例えば、ボトル壁部と膨潤ポリマー表面との間に統合された流体ネットワークを有する化粧品ボトルに、包含される流体の油成分(例えば、オリーブ油、ココナツ油など)を注入しても良く、それはその機能が低下するとポリマーを膨潤させ、新しい潤滑剤層をその表面上に生成する。この手順は、容器の保管または動作時間の間に複数回適用しても良い。融合性哺乳類細胞層ならびに生体膜を含むがこれらに限定されない、無傷細胞層の全体を排出する方法として、このアプローチを使用しても良い。
【0205】
本明細書において説明される全てのパラメータおよび構成は例示的であることが意図され、本発明に係るシステムおよび方法が使用される具体的な適用によって実際のパラメータおよび構成が決まるということを、当業者は容易に理解するであろう。当業者は、本明細書において説明される発明の具体的な実施形態に対する多くの等価物を認識するか、または日常実験のみを使用して確認することができるであろう。したがって、前述の実施形態はほんの一例として提示され、本発明は具体的に説明されるものとは違う方法で実施され得るということを理解されたい。本発明は、本明細書において説明されるそれぞれ個別の特徴、システム、または方法を対象とする。加えて、係る特徴、システム、または方法が互いに矛盾しない場合、2つ以上の係る特徴、システム、または方法の任意の組み合わせが、本発明の範囲内に含まれる。