【文献】
MAEKAWA N et al., Expression of PD-L1 on canine tumor cells and enhancement of IFN-γ production from tumor-infiltrating cells by PD-L1 blockade, PLOS ONE [online], 9(6):e98415, Published on 2014.06.10, [Retrieved on 2017.08.29], <URL: http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0098415>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、抗イヌPD−1抗体又は抗イヌPD−L1抗体や、かかる抗体を含有するイヌPD−1とイヌPD−L1との結合阻害剤や、かかる抗体を用いるイヌPD−1とイヌPD−L1との結合阻害方法や、かかる抗体をコードする遺伝子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、まずイヌPD−1及びイヌPD−L1のcDNAのクローニングに成功し、塩基配列及びアミノ酸配列を決定した。次に、イヌPD−1又はイヌPD−L1のcDNAを用いてイヌPD−1又はイヌPD−L1発現細胞株を作製し、かかる細胞株を用いてイヌPD−1又はイヌPD−L1に対するラットモノクローナル抗体の作製に成功した。さらに、得られたラットモノクローナル抗体はイヌPD−1とイヌPD−L1との結合を阻害する能力を有することを見いだし、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は以下に開示されるとおりのものである。
(1)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるイヌPD−1に特異的に結合する、以下の(a)又は(b)記載の抗イヌPD−1抗体。
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列、又は配列番号2に示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、及び配列番号3に示されるアミノ酸配列、又は配列番号3に示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を備えたことを特徴とする抗イヌPD−1抗体;
(b)配列番号4に示されるアミノ酸配列、又は配列番号4に示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、及び配列番号5に示されるアミノ酸配列、又は配列番号5に示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を備えたことを特徴とする抗イヌPD−1抗体;
(2)配列番号6に示されるアミノ酸配列からなるイヌPD−L1に特異的に結合する、以下の(c)又は(d)記載の抗イヌPD−L1抗体。
(c)配列番号7に示されるアミノ酸配列、又は配列番号7に示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、及び配列番号8に示されるアミノ酸配列、又は配列番号8に示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を備えたことを特徴とする抗イヌPD−L1抗体;
(d)配列番号9に示されるアミノ酸配列、又は配列番号9に示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、及び配列番号10に示されるアミノ酸配列、又は配列番号10に示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を備えたことを特徴とする抗イヌPD−L1抗体;
(3)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるイヌPD−1に特異的に結合する、以下の(e)又は(f)記載の抗イヌPD−1抗体。
(e)配列番号11に示されるアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号12に示されるアミノ酸配列からなるCDR2及び配列番号13に示されるアミノ酸配列からなるCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号14に示されるアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号15に示されるアミノ酸配列からなるCDR2及び配列番号16に示されるアミノ酸配列からなるCDR3を含む軽鎖可変領域を備えたことを特徴とする抗イヌPD−1抗体;
(f)配列番号17に示されるアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号18に示されるアミノ酸配列からなるCDR2及び配列番号19に示されるアミノ酸配列からなるCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号20に示されるアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号21に示されるアミノ酸配列からなるCDR2及び配列番号22に示されるアミノ酸配列からなるCDR3を含む軽鎖可変領域を備えたことを特徴とする抗イヌPD−1抗体;
(4)配列番号6に示されるアミノ酸配列からなるイヌPD−L1に特異的に結合する、以下の(g)又は(h)記載の抗イヌPD−L1抗体。
(g)配列番号23に示されるアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号24に示されるアミノ酸配列からなるCDR2及び配列番号25に示されるアミノ酸配列からなるCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号26に示されるアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号27に示されるアミノ酸配列からなるCDR2及び配列番号28に示されるアミノ酸配列からなるCDR3を含む軽鎖可変領域を備えたことを特徴とする抗イヌPD−L1抗体;
(h)配列番号29に示されるアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号30に示されるアミノ酸配列からなるCDR2及び配列番号31に示されるアミノ酸配列からなるCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号32に示されるアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号33に示されるアミノ酸配列からなるCDR2及び配列番号34に示されるアミノ酸配列からなるCDR3を含む軽鎖可変領域を備えたことを特徴とする抗イヌPD−L1抗体;
(5)上記(1)〜(4)のいずれか記載の抗体を含有することを特徴とするイヌPD−1とイヌPD−L1との結合阻害剤。
(6)上記(1)〜(4)のいずれか記載の抗体を用いることを特徴とするイヌPD−1とイヌPD−L1との結合阻害方法。
(7)上記(1)〜(4)のいずれか記載の抗体をコードする遺伝子。
【発明の効果】
【0012】
本発明の抗体は、イヌPD−1又はイヌPD−L1を認識して結合可能であることから、イヌPD−1又はイヌPD−L1の発現解析や機能解析が可能となるほか、イヌPD−1とイヌPD−L1との結合阻害剤として用いることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の抗イヌPD−1抗体としては、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるイヌPD−1に特異的に結合し、
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列、又は配列番号2に示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、及び配列番号3に示されるアミノ酸配列、又は配列番号3に示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を備えたことを特徴とする抗イヌPD−1抗体;
(b)配列番号4に示されるアミノ酸配列、又は配列番号4に示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、及び配列番号5に示されるアミノ酸配列、又は配列番号5に示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を備えたことを特徴とする抗イヌPD−1抗体;
の(a)又は(b)記載の抗イヌPD−1抗体であれば特に制限されないが、
(a’)配列番号2に示されるアミノ酸配列、又は配列番号2に示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び配列番号3に示されるアミノ酸配列、又は配列番号3に示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域とを備えたことを特徴とする抗イヌPD−1抗体;(b’)配列番号4に示されるアミノ酸配列、又は配列番号4に示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び配列番号5に示されるアミノ酸配列、又は配列番号5に示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を備えたことを特徴とする抗イヌPD−1抗体;
の(a’)又は(b’)記載の抗イヌPD−1抗体であることが好ましく、かかる抗イヌPD−1抗体はイヌPD−1を認識して結合可能であることから、イヌPD−1の発現解析や機能解析が可能となるほか、イヌPD−1とイヌPD−L1との結合を阻害することが可能となる。
【0015】
また、本発明の抗イヌPD−L1抗体としては、配列番号6に示されるアミノ酸配列からなるイヌPD−L1に特異的に結合し、
(c)配列番号7に示されるアミノ酸配列、又は配列番号7に示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、及び配列番号8に示されるアミノ酸配列、又は配列番号8に示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を備えたことを特徴とする抗イヌPD−L1抗体;
(d)配列番号9に示されるアミノ酸配列、又は配列番号9に示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、及び配列番号10に示されるアミノ酸配列、又は配列番号10に示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を備えたことを特徴とする抗イヌPD−L1抗体;
の(c)又は(d)記載の抗イヌPD−L1抗体であれば特に制限されないが、
(c’)配列番号7に示されるアミノ酸配列、又は配列番号7に示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び配列番号8に示されるアミノ酸配列、又は配列番号8に示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を備えたことを特徴とする抗イヌPD−L1抗体;(d’)配列番号9に示されるアミノ酸配列、又は配列番号9に示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び配列番号10に示されるアミノ酸配列、又は配列番号10に示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を備えたことを特徴とする抗イヌPD−L1抗体;
の(c’)又は(d’)記載の抗イヌPD−L1抗体であることが好ましく、かかる抗イヌPD−L1抗体はイヌPD−L1を認識して結合可能であることから、イヌPD−L1の発現解析や機能解析が可能となるほか、イヌPD−1とイヌPD−L1との結合を阻害することが可能となる。
【0016】
本発明の抗イヌPD−1抗体の他の態様としては、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるイヌPD−1に特異的に結合し、
(e)配列番号11に示されるアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号12に示されるアミノ酸配列からなるCDR2及び配列番号13に示されるアミノ酸配列からなるCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号14に示されるアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号15に示されるアミノ酸配列からなるCDR2及び配列番号16に示されるアミノ酸配列からなるCDR3を含む軽鎖可変領域を備えたことを特徴とする抗イヌPD−1抗体;
(f)配列番号17に示されるアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号18に示されるアミノ酸配列からなるCDR2及び配列番号19に示されるアミノ酸配列からなるCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号20に示されるアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号21に示されるアミノ酸配列からなるCDR2及び配列番号22に示されるアミノ酸配列からなるCDR3を含む軽鎖可変領域を備えたことを特徴とする抗イヌPD−1抗体;
の(e)又は(f)記載の抗イヌPD−1抗体を挙げることができる。
【0017】
本発明の抗イヌPD−L1抗体の他の態様としては、配列番号6に示されるアミノ酸配列からなるイヌPD−L1に特異的に結合し、
(g)配列番号23に示されるアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号24に示されるアミノ酸配列からなるCDR2及び配列番号25に示されるアミノ酸配列からなるCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号26に示されるアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号27に示されるアミノ酸配列からなるCDR2及び配列番号28に示されるアミノ酸配列からなるCDR3を含む軽鎖可変領域を備えたことを特徴とする抗イヌPD−L1抗体;
(h)配列番号29に示されるアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号30に示されるアミノ酸配列からなるCDR2及び配列番号31に示されるアミノ酸配列からなるCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号32に示されるアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号33に示されるアミノ酸配列からなるCDR2及び配列番号34に示されるアミノ酸配列からなるCDR3を含む軽鎖可変領域を備えたことを特徴とする抗イヌPD−L1抗体;
の(g)又は(h)記載の抗イヌPD−L1抗体を挙げることができる。
【0018】
上記抗イヌPD−1抗体や抗イヌPD−L1抗体(以後、これらを総称して「本件抗イヌ抗体」ともいう)の種類としては特に制限されないが、モノクローナル抗体を挙げることができ、モノクローナル抗体の配列から組換えタンパクとして作製されるキメラ抗体、イヌ化抗体や、抗体をペプシンで消化して得られるF(ab’)2、抗体をパパインで消化して得られるFab、重鎖可変領域と軽鎖可変領域とを、アミノ酸架橋によって連結させたScFv、ScFvが二量体化したdiabodyなどの抗体の一部からなる抗体断片も含まれる。
【0019】
本発明において、「90%以上の同一性」とは、同一性が90%以上であることを意味し、好ましくは93%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の同一性を意味する。
【0020】
本件抗イヌ抗体をコードする遺伝子としては、例えば、上記抗イヌPD−1抗体をコードする遺伝子として、配列番号2に示されるアミノ酸配列、又は配列番号2に示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列をコードする遺伝子、及び配列番号3に示されるアミノ酸配列、又は配列番号3に示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列をコードする遺伝子とを備えた遺伝子であって、かかる遺伝子によって得られる抗体が配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるイヌPD−1に特異的に結合する遺伝子を挙げることができ、具体的には、配列番号35に示される塩基配列と、配列番号36に示される塩基配列とを備えた遺伝子を挙げることができる。このほか、配列番号11〜13に示される重鎖可変領域のCDR1〜3のアミノ酸配列をコードする遺伝子、及び配列番号14〜16に示される軽鎖可変領域のCDR1〜3のアミノ酸配列をコードする遺伝子を備えた遺伝子を挙げることができる。
【0021】
また、上記抗イヌPD−1抗体をコードする遺伝子の他の態様としては、配列番号4に示されるアミノ酸配列、又は配列番号4に示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列をコードする遺伝子、及び配列番号5に示されるアミノ酸配列、又は配列番号5に示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列をコードする遺伝子とを備えた遺伝子であって、かかる遺伝子によって得られる抗体が配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるイヌPD−1に特異的に結合する遺伝子を挙げることができ、具体的には、配列番号37に示される塩基配列と、配列番号38に示される塩基配列とを備えた遺伝子を挙げることができる。このほか、配列番号17〜19に示される重鎖可変領域のCDR1〜3のアミノ酸配列をコードする遺伝子、及び配列番号20〜22に示される軽鎖可変領域のCDR1〜3のアミノ酸配列をコードする遺伝子を備えた遺伝子を挙げることができる。
【0022】
上記抗イヌPD−L1抗体をコードする遺伝子としては、配列番号7に示されるアミノ酸配列、又は配列番号7に示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列をコードする遺伝子、及び配列番号8に示されるアミノ酸配列、又は配列番号8に示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列をコードする遺伝子とを備えた遺伝子であって、かかる遺伝子によって得られる抗体が配列番号6に示されるアミノ酸配列からなるイヌPD−L1に特異的に結合する遺伝子を挙げることができ、具体的には、配列番号39に示される塩基配列と、配列番号40に示される塩基配列とを備えた遺伝子を挙げることができる。このほか、配列番号23〜25に示される重鎖可変領域のCDR1〜3のアミノ酸配列をコードする遺伝子、及び配列番号26〜28に示される軽鎖可変領域のCDR1〜3のアミノ酸配列をコードする遺伝子を備えた遺伝子を挙げることができる。
【0023】
上記抗イヌPD−L1抗体をコードする遺伝子の他の態様としては、配列番号9に示されるアミノ酸配列、又は配列番号9に示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列をコードする遺伝子、及び配列番号10に示されるアミノ酸配列、又は配列番号10に示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列をコードする遺伝子とを備えた遺伝子であって、かかる遺伝子によって得られる抗体が配列番号6に示されるアミノ酸配列からなるイヌPD−L1に特異的に結合する遺伝子を挙げることができ、具体的には、配列番号41に示される塩基配列と、配列番号42に示される塩基配列とを備えた遺伝子を挙げることができる。このほか、配列番号29〜31に示される重鎖可変領域のCDR1〜3のアミノ酸配列をコードする遺伝子、及び配列番号32〜34に示される軽鎖可変領域のCDR1〜3のアミノ酸配列をコードする遺伝子を備えた遺伝子を挙げることができる。
【0024】
上記抗イヌPD−1抗体又は抗イヌPD−L1抗体をコードする遺伝子をベクターに組み込むことによって、上記抗イヌPD−1抗体又は抗イヌPD−L1抗体をコードする遺伝子の発現ベクターを作製することができる。かかる発現ベクターに用いるベクターとしては、上記抗イヌPD−1抗体又は抗イヌPD−L1抗体をコードする遺伝子を発現できるものであればよく、プラスミドベクターでも、ファージベクターでもよい。
【0025】
上記モノクローナル抗体は、慣用のプロトコールに従って作製することが可能である。たとえば、遺伝子組換え技術により、上記本件抗イヌ抗体をコードする遺伝子を発現させることにより、組換え抗体として作製することが可能である。組換え抗体を作製する方法としては、例えば本件抗イヌ抗体をコードする遺伝子を発現ベクターに組み込み、かかる発現ベクターをチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞などの哺乳類細胞株や、大腸菌、酵母細胞、昆虫細胞、植物細胞などの宿主細胞へ導入して、宿主細胞において組換え抗体を生産させる方法を挙げることができる(Peter J. Delves, ANTIBODY PRODUCTION ESSENTIAL TECHNIQUES, WILEY, 1997参照)。発現ベクターに組み込む本件抗イヌ抗体をコードする遺伝子の塩基配列は、発現させる宿主細胞に合わせてコドン配列の最適化がされていてもよい。
【0026】
また、トランスジェニック動物作製技術を用いて本件抗イヌ抗体をコードする遺伝子が組み込まれたマウス、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ニワトリ、ブタなどのトランスジェニック動物を作製し、かかるトランスジェニック動物の血液、ミルク中などから大量に産生することも可能である。
【0027】
さらに、上記モノクローナル抗体は、配列番号1又は6に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質を発現する細胞を抗原としてマウス、ラットなどのヒト以外の動物へ投与し、本件抗イヌ抗体を産生する細胞クローンを細胞融合技術(ハイブリドーマ法(Kohler G, et al., Nature 256:495-497, 1975参照)、トリオーマ法、ヒトB細胞ハイブリドーマ法(Danuta Kozbor, et al., Immunology Today 4, 72-79, 1983参照)及びEBV−ハイブリドーマ法(Cole et al., MONOCLONAL ANTIBODIES AND CANCER THERAPY:77-96, Alan R.Liss, Inc.,1985)参照)によりスクリーニングすることにより作製することが可能である。
【0028】
上記イヌ化抗体は、たとえば重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を有する抗体の定常領域をイヌ抗体の定常領域に置換することにより作製することが可能である。イヌ抗体の定常領域としては公知のものを採用することができる。
【0029】
作製した本件抗イヌ抗体は、例えば、ProteinA、ProteinGカラムによるクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、硫安塩析法、ゲル濾過、アフィニティクロマトグラフィーなどを用いて精製することができる。
【0030】
本件抗イヌ抗体を含有することを特徴とするイヌPD−1とイヌPD−L1との結合阻害剤としては、本件抗イヌ抗体を含有していれば特に制限されず、抗イヌPD−1抗体及び/又は抗イヌPD−L1抗体を複数種類含んでいてもよい。かかる結合阻害剤は、イヌPD−1とイヌPD−L1との結合を阻害することから、PD−L1を発現しているイヌのがんの治療剤として用いることもできる。なお、本発明における結合阻害には、in vivoにおける結合阻害もin vitroにおける結合阻害も含まれる。
【0031】
上記結合阻害剤は、製剤化のために通常使用され薬学的に許容される賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、防腐剤、等張化剤、安定化剤、分散剤、酸化防止剤、着色剤、香味剤、緩衝剤などの添加物を含んでいてもよい。また、上記結合阻害剤をイヌに投与する場合の投与方法としては、経口投与のほか、注射や点滴、塗布、坐剤、鼻腔内スプレーなどによる非経口投与とすることもでき、適宜任意の形態に製剤することができる。
【0032】
上記結合阻害剤中に含まれる本件抗体の量は、0.0001〜50重量%、好ましくは0.001〜5重量%を挙げることができる。
【0033】
本件抗イヌ抗体を用いることを特徴とするイヌPD−1とイヌPD−L1との結合阻害方法としては、本件抗イヌ抗体を用いるかぎり特に制限されず、抗イヌPD−1抗体及び/又は抗イヌPD−L1抗体を複数種類用いてもよい。
【0034】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【0035】
なお、以下の実施例におけるPCRに用いるプライマーを表1に示す。
【0037】
また、以下の実施例で用いたラット腎臓細胞株であるNRK細胞、及びヒト腎臓細胞株であるHEK293T細胞は、10%FBS、100units/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシン、55μMの2−メルカプトエタノールを添加したDMEM培地で維持した。これらの細胞株は加湿インキュベーターにより、5%CO
2ガス濃度下、37℃で培養したものを用いた。
【実施例1】
【0038】
[cPD1又はcPDL1に対するラットモノクローナル抗体の作製]
1.cPD1又はcPDL1のcDNAクローニング
(プライマーの設計)
cPD1のcDNAを増幅するためのフォワードプライマー(YTM1142:配列番号43)とリバースプライマー(YTM1143:配列番号44)は、NCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/guide/) Accession No.XM_543338の配列に基づいて設計し、cPDL1のcDNAsを増幅するためのフォワードプライマー(YTM1144:配列番号45)とリバースプライマー(YTM1145:配列番号46)は、NCBI Accession No.XM_005615936.1の配列に基づいて設計した。なお、Accession No.XM_543338及びAccession No.XM_005615936.1の配列は、イヌにおいて発現が確認されていない遺伝子である。
【0039】
(PCR反応)
上記プライマー対を用い、正常なイヌの胸腺のcDNAをテンプレートとし、KOD−Plus−Neo(東洋紡社製)を用い、その添付のプロトコールに従ってcPD1遺伝子とcPDL1遺伝子を増幅した。PCRは、プレ変性を94℃で2分行い、その後98℃で10秒の変性、58℃で30秒のアニーリング、68℃で60秒の伸長を35サイクル行い、さらに最終伸長を68℃で10分行った。
【0040】
(ベクターへの挿入及び塩基配列の決定)
上記で調製したPCR産物をゲル精製し、pBluescript SK(-)ベクターのSmaI部位に挿入し、インサートとしてcPD1又はcPDL1遺伝子を含むコンストラクトベクター(pBS-cPD1、pBS-cPDL1)を作製した。かかるコンストラクトベクターはフォワードプライマー(M13(-20):配列番号47)とリバースプライマー(M13 reverse:配列番号48)を用い、BigDye(登録商標)Termination v3.1 Cycle Sequencing Kit (Perkin-Elmer社製)及びABI Prism(登録商標)377自動DNAシークエンサー(Applied Biosystems社製)によって塩基配列を決定した。得られたcPD1の塩基配列及びその塩基配列がコードするアミノ酸配列を
図1に、cPDL1の塩基配列及びその塩基配列がコードするアミノ酸配列を
図2に示すと共に、cPD1の塩基配列を配列番号49、アミノ酸配列を配列番号1に、cPDL1の塩基配列を配列番号50、アミノ酸配列を配列番号6に示す。
【0041】
2.ラットモノクローナル抗体の作製
(cPD1又はcPDL1発現ベクターの構築)
cPD1又はcPDL1タンパク質を過剰発現するレトロウイルスベクターを構築した。まず、cPD1の配列とcPDL1の配列のC末端に2つのFLAGタグ配列を加えるため、cPD1の増幅には、pBS-cPD1をテンプレートとし、フォワードプライマー(YTM1142:配列番号43)と、cPD1配列のC末端にFLAGタグ配列を含むリバースプライマー(YTM1167:配列番号51)とを用い、cPDL1の増幅には、pBS-cPDL1をテンプレートとし、フォワードプライマー(YTM1144:配列番号45)と、cPDL1配列のC末端にFLAGタグ配列を含むリバースプライマー(YTM1168:配列番号52)を用いて一次PCRを行った。
【0042】
次に、各一次PCR産物をテンプレートとし、一次PCRと同様のフォワードプライマーと、1stFLAGタグ配列にアニールするダブルFLAGタグ配列を含むリバースプライマー(YTM838:配列番号53)を用いて、二次PCRを行った。得られた各PCR産物をpMxs-IPベクターのEcoRIとNotI部位に挿入し、pMx-IP-cPD1-FL、pMx-IP-cPDL1-FL#9を作製した。
【0043】
(形質導入細胞の作製)
一般的なトランスフェクション方法によって、pMx-IP-cPD1-FL、pMx-IP-cPDL1-FL#9をNRK細胞にトランスフェクトし、cPD1を安定発現するNRK細胞、cPDL1を安定発現するNRK細胞を作製した。まず、トランスフェクションを行う1日前にNRK細胞(3.5×10
5個)を6ウェルディッシュに播種した。細胞のトランスフェクションは、Lipofectamine 2000(Invitrogen社製)を用い、添付のプロトコールに従って行った。トランスフェクション後の細胞を48時間インキュベートし、その後、安定な形質導入細胞を得るために7.5μg/mlのプロマイシン(Sigma-Aldrich社製)の存在下で培養し、cPD1を安定発現するNRK細胞(NRK/cPD1)、cPDL1を安定発現するNRK細胞(NRK/cPDL1)を作製した。
【0044】
上記NRK/cPD1及びNRK/cPDL1において、cPD1及びcPDL1が安定発現していることは、一次抗体として、抗FLAG M2抗体(1:1000希釈、Sigma-Aldrich社製)、二次抗体としてIgG−Dylight(登録商標)488−標識抗マウス(Biolegend社製)を用いた免疫蛍光法によって確認した。
【0045】
(ラットモノクローナル抗体の作製)
cPD1又はcPDL1に対するラットモノクローナル抗体を作製するために、上述で作製したNRK/cPD1又はNRK/cPDL1(500μlの上記DMEM培地中、1×10
7個)を等量のTiter Max(登録商標)Gold(CytRx社製)で乳化し、7週齢のSprague−Dawleyラット(九動社製)の後足蹠に皮肉投与した。投与から2週間後に、膝窩のリンパ節細胞を単離し、P3U1細胞と融合させた。すなわち、リンパ節単球細胞(1×10
8個)とP3U1細胞(2×10
7個)と混合し、無血清のRPMI1640培地で2回洗浄した。上澄みを除去後、細胞を37℃で2分インキュベートし、37℃の0.5mlポリエチレングリコール1500(Roche Diagnostics社製)を加え、さらに37℃の9ml無血清RPMI1640培地を加え、900rpmで5分、室温にて遠心した。上澄みを除去後、10%FBSとhypoxanthine-aminopterin-thymidine(HAT:Life Technologies社製)を含む36mlのGIT培地(和光純薬工業社製)で懸濁し、加湿インキュベーターにより、5%CO
2ガス濃度下、37℃で1時間培養した。4mlのBM-Condimed H1培地(Roche Diagnostics社製)を加え、細胞を4つの96ウェル組織培養プレートに播種(100μl/ウェル)して培養した。コロニーが得られた後、cPD1又はcPDL1を発現するNRK細胞陽性ハイブリドーマをELISA法やフローサイトメトリーで同定し、かかるハイブリドーマを限定希釈によりクローニングし、cPD1を発現するNRK細胞陽性ハイブリドーマとしてハイブリドーマ3B7−D9、ハイブリドーマ4F12−E6、cPDL1を発現するNRK細胞陽性ハイブリドーマとしてハイブリドーマH7−9、ハイブリドーマG11−6を得た。以後、ハイブリドーマ3B7−D9によって産生された抗体を「3B7−D9」、ハイブリドーマ4F12−E6によって産生された抗体を「4F12−E6」、ハイブリドーマH7−9によって産生された抗体を「H7−9」、ハイブリドーマG11−6によって産生された抗体を「G11−6」ともいう。なお、ハイブリドーマ3B7−D9、4F12−E6、H7−9、G11−6は国立大学法人山口大学共同獣医学部に保管されており、一定の条件下で分譲可能である。
【実施例2】
【0046】
[抗cPD1抗体又は抗cPDL1抗体であることの確認]
(抗体濃度及び細胞数)
cPD1に対するラットモノクローナル抗体である3B7−D9、4F12−E6と、上記で作製したNRK/cPD1との結合や、cPDL1に対するラットモノクローナル抗体であるH7−9、G11−6と、上記で作製したNRK/cPDL1との結合を、以下に示すフローサイトメトリー解析により調べた。各ラットモノクローナル抗体の濃度は0、0.04、0.156、0.625、2.5、10μg/mlであり、NRK/cPD1(2×10
5個)又はNRK/cPDL1(2×10
5個)を用いた。
【0047】
(フローサイトメトリー解析)
フローサイトメトリー解析に用いる細胞株の染色は次の文献(Mizuno et al., J Vet Med Sci, 71(12):1561-1568, 2009)に記載の方法に従って行った。一次抗体としては、精製したcPD1又はcPDL1に対する各ラットモノクローナル抗体を用いた。二次抗体としては抗ラットIgG−PE(Southern biotech社製)を用いた。サンプルはBD AccuriC6 (BD Bioscience社製)を用いて解析し、得られた結果をFlowJo software (Treestar社製)によって解析した。
【0048】
(結果)
結果を
図3に示す。
図3(A)はcPD1に対するラットモノクローナル抗体(anti-cPD1 mAb)とNRK/cPD1との結合を調べた結果であり、
図3(B)はcPDL1に対するラットモノクローナル抗体(anti-cPD-L1 mAb)とNRK/cPDL1との結合を調べた結果である。横軸は作製した抗体に対する蛍光標識二次抗体の蛍光強度、縦軸は各ラットモノクローナル抗体の濃度を示す。
図3に示すように、いずれのラットモノクローナル抗体を用いた場合でも蛍光強度が増加しており、cPD1に対するラットモノクローナル抗体である3B7−D9、4F12−E6はNRK/cPD1と結合し、cPDL1に対するラットモノクローナル抗体であるH7−9、G11−6は、NRK/cPDL1に結合することが確認された。すなわち、3B7−D9、4F12−E6は抗cPD1抗体であり、H7−9、G11−6は、抗cPDL1抗体であることが明らかとなった。
【実施例3】
【0049】
[ラットモノクローナル抗体によるPD−1とPD−L1との結合阻害試験]
1.cPD1とヒトIgFc領域との融合タンパク質、ヒトのPD−L1(hPDL1)とヒトIgFc領域との融合タンパク質の作製
(hPDL1発現プラスミドの構築)
hPDL1発現プラスミドを構築するため、ヒトのバーキットリンパ腫細胞株(Raji)由来のcDNAをテンプレートとし、フォワードプライマー(YTM1150:配列番号54)とリバースプライマー(YTM1151:配列番号55)を用いてhPDL1を増幅した。PCRによる増幅は上記実施例1と同様に行った。増幅したPCR産物をpBluescript SK(-)ベクターのSmaI部位に導入した。このプラスミドをEcoRIとNotIで切断し、得られた断片をpMxs-IPベクターのEcoRIとNotI部位に連結し、hPDL1発現プラスミドであるpMx-IP-hPDL1#21を作製した。
【0050】
(融合タンパク質発現ベクターの作製)
cPD1又はhPDL1の細胞外領域と、ヒトIgG2 Fc領域との融合タンパク質とを発現するベクターを構築した。かかる発現ベクターを作製するために、実施例1で作製したpMx-IP-cPD1-FLをテンプレートとしてフォワードプライマー(YTM1153:配列番号56)とリバースプライマー(YTM1154:配列番号57)を用いてPCRを行うことでcPD1の細胞外領域を増幅し、上述で作製したpMx-IP-hPDL1#21をテンプレートとしてフォワードプライマー(YTM1157:配列番号58)とリバースプライマー(YTM1158:配列番号59)を用いてPCRを行うことでhPDL1の細胞外領域を増幅した。それぞれのPCR産物は、cPD1についてはBamHI、hPDL1についてはBglIIで切断し、pFUSE-hIgG2-Fc2ベクター(Invivogen社製)のEcoRVとBgIII部位にクローニングし、cPD1の細胞外領域と、ヒトIgG2 Fc領域との融合タンパク質とを発現するベクター(pFUSE-cPD1-hIg#2)、hPDL1の細胞外領域と、ヒトIgG2 Fc領域との融合タンパク質とを発現するベクター(pFUSE-hPDL1-hIg#9)を作製した。
【0051】
(融合タンパク質の作製及び精製)
上述で作製したベクターpFUSE-cPD1-hIg#2、pFUSE-hPDL1-hIg#9、又は空ベクターのpFUSE-hIgG2-Fc2をHEK293T細胞株にトランスフェクトした。まず、トランスフェクションを行う1日前に、2×10
6個のHEK293T細胞を4つの10cmディッシュに播種した。次に、7.5μgの各ベクターと30μlの1mg/ml PEI Maxを含む375μlのOPTI-MEMを混合して室温で15分インキュベートし、細胞に加えた。トランスフェクションから24時間後に、培地をGIT無血清培地(和光純薬工業社製)に置換し、さらに細胞を48時間培養した。4日目と8日目の各トランスフェクト細胞から上澄みを集め、rProtein A agarose(GE healthcare社製)によって精製した。続いて、可溶性タンパク質を透析によって脱塩し、cPD1の細胞外領域とhIgG2 Fc領域との融合タンパク質(cPD1−hIg)、及び、hPDL1の細胞外領域とhIgG2 Fc領域との融合タンパク質(hPDL1−hIg)を作製した。上記融合タンパク質の純度は、SDS−PAGEとウェスタンブロッティングによって確認した。
【0052】
2.PD−1とPD−L1との結合試験
後述するラットモノクローナル抗体によるPD−1とPD−L1との阻害試験の予備試験として、hPDL1−hIgとNRK/cPD1との結合、又はcPD1−hIgとNRK/cPDL1との結合を、上記フローサイトメトリー解析と同様の方法で調べた。hPDL1−hIg、cPD1−hIgの濃度は0、0.04、0.156、0.625、2.5、10、40μg/mlとし、NRK/cPD1(2×10
5個)又はNRK/cPDL1(2×10
5個)を用いた。結果を
図4に示す。
図4(A)はhPDL1−hIgとNRK/cPD1との結合を調べた結果であり、
図4(B)はcPD1−hIgとNRK/cPDL1との結合を調べた結果である。横軸は作製した融合タンパク質に対する蛍光標識二次抗体の蛍光強度、縦軸はhPDL1−hIg又はcPD1−hIgの濃度を示す。
図4に示すように、hPDL1−hIgはNRK/cPD1に結合し、cPD1−hIgはNRK/cPDL1に結合することが明らかとなった。
【0053】
3.ラットモノクローナル抗体によるPD−1とPD−L1との結合阻害試験
(フローサイトメトリー解析)
(1)NRK/cPD1に、cPD1に対するラットモノクローナル抗体(3B7−D9、4F12−E6)を反応させ、その後hPDL1−hIgを反応させることで、hPDL1−hIgとNRK/cPD1との結合をcPD1に対するラットモノクローナル抗体が阻害するか、(2)NRK/cPDL1に、cPDL1に対するラットモノクローナル抗体(H7−9、G11−6)を反応させ、その後cPD1−hIgを反応させることで、cPD1−hIgとNRK/cPDL1との結合をcPDL1に対するラットモノクローナル抗体が阻害するか、又は(3)cPD1に対するラットモノクローナル抗体(3B7−D9、4F12−E6)とcPD1−hIgを反応させ、その後その混合反応物をNRK/cPDL1に反応させることで、cPD1−hIgとNRK/cPDL1との結合をcPD1に対するラットモノクローナル抗体が阻害するか、の3点をそれぞれ調べた。各抗体によるPD−1とPD−L1との結合阻害は上記フローサイトメトリー解析と同様に調べた。各ラットモノクローナル抗体の濃度は0、0.04、0.156、0.625、2.5、10μg/mlとし、hPDL1−hIg、cPD1−hIgの濃度は40μg/mlとし、NRK/cPD1(2×10
5個)又はNRK/cPDL1(2×10
5個)を用いた。
【0054】
(結果)
結果を
図5、6に示す。
図5(A)はcPD1に対するラットモノクローナル抗体によるhPDL1−hIgとNRK/cPD1との結合阻害を調べた結果であり、
図5(B)はcPDL1に対するラットモノクローナル抗体によるcPD1−hIgとNRK/cPDL1との結合阻害を調べた結果であり、
図6はcPD1に対するラットモノクローナル抗体によるcPD1−hIgとNRK/cPDL1との結合阻害を調べた結果である。横軸は作製した抗体に対する蛍光標識二次抗体の蛍光強度、縦軸左は各ラットモノクローナル抗体の濃度、縦軸右はhPDL1−hIg又はcPD1−hIgの有り(+)/無し(−)を示す。
図5(A)、(B)、
図6に示すように、hPDL1−hIgとNRK/cPD1との結合や、cPD1−hIgとNRK/cPDL1との結合をcPD1に対するラットモノクローナル抗体である3B7−D9、4F12−E6が阻害し、cPD1−hIgとNRK/cPDL1との結合をcPDL1に対するラットモノクローナル抗体であるH7−9、G11−6が阻害することが明らかとなった。
【実施例4】
【0055】
[ラットモノクローナル抗体の重鎖及び軽鎖の塩基配列の決定]
トータルRNAを実施例1で得られた各ハイブリドーマ細胞株から単離し、全ての可変領域と定常領域の5’領域を含む、免疫グロブリン重鎖(IgG2a)の塩基配列とκ軽鎖の塩基配列を5’RACE PCR法によって得た。
【0056】
まず、単離したRNAを逆転写酵素Superscript(登録商標)IIIを用いて逆転写した。プライマーとしては、軽鎖の増幅にはYTM171(配列番号60)、重鎖の増幅にはYTM172(配列番号61)を用いた。逆転写反応後、TdT酵素反応によりpolyCを付加し、その後、軽鎖の増幅にはフォワードプライマー(YTM166:配列番号62)とリバースプライマー(YTM171:配列番号60)、重鎖の増幅にはフォワードプライマー(YTM166:配列番号62)とリバースプライマー(YTM172:配列番号61)を用いて一次PCRを行った。PCR産物をゲル精製し、軽鎖又は重鎖の全ての可変領域を増幅するために、フォワードプライマー(YTM170:配列番号63)とリバースプライマー(YTM173:配列番号64)、又はフォワードプライマー(YTM170:配列番号63)とリバースプライマー(YTM174:配列番号65)を用いてnested PCRを行った。ハイブリドーマ3B7−D9及びハイブリドーマG11−6においては、5’RACEや一次PCRにおけるプライマーとしてYTM171の代わりにYTM1224(配列番号42)、を用いた。Nested PCR産物をpBluescript SK(-)ベクターにクローニングし、その塩基配列及びその塩基配列がコードするアミノ酸配列を決定した。
【0057】
3B7−D9の重鎖可変領域の塩基配列を配列番号35に、アミノ酸配列を配列番号2に、軽鎖可変領域の塩基配列を配列番号36に、アミノ酸配列を配列番号3に、4F12−E6の重鎖可変領域の塩基配列を配列番号37に、アミノ酸配列を配列番号4に、軽鎖可変領域の塩基配列を配列番号38に、アミノ酸配列を配列番号5に、H7−9の重鎖可変領域の塩基配列を配列番号39に、アミノ酸配列を配列番号7に、軽鎖可変領域の塩基配列を配列番号40に、アミノ酸配列を配列番号8に、G11−6の重鎖可変領域の塩基配列を配列番号41に、アミノ酸配列を配列番号9に、軽鎖可変領域の塩基配列を配列番号42に、アミノ酸配列を配列番号10に示す。
【0058】
さらに、それぞれの重鎖可変領域及び軽鎖可変領域のCDRのアミノ酸配列を、既知の抗体のアミノ酸配列と比較することにより同定した。3B7−D9の重鎖可変領域のCDR1〜3のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号11〜13、軽鎖可変領域のCDR1〜3のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号14〜16に、4F12−E6の重鎖可変領域のCDR1〜3のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号17〜19、軽鎖可変領域のCDR1〜3のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号20〜22に、H7−9の重鎖可変領域のCDR1〜3のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号23〜25、軽鎖可変領域のCDR1〜3のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号26〜28に、G11−6の重鎖可変領域のCDR1〜3のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号29〜31、軽鎖可変領域のCDR1〜3のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号32〜34に示す。
【実施例5】
【0059】
[IFN−γの産生増強]
3頭のイヌ(A,B,C)より末梢血単核細胞(PBMC)を回収し、PBMCを96ウェル丸底プレート中にウェル当たり2×10
5個、isotype(ラットIgG2a:eBioscience社製)、PD−1に対するラットモノクローナル抗体(anti−PD−1:4F12−E6)、又はcPDL1に対するラットモノクローナル抗体(anti−PD−L1:G11−6)を10μg/mlの濃度となるように加えて、さらにコンカナバリンA(ConA)を5μg/mlとなるように加えて3日間刺激培養し、得られた培養上清中のイヌIFN−γをcanine IFN-gamma DuoSet ELISA(R&D社製)により測定した。結果を
図7に示す。
【0060】
図7から明らかなように、ConA刺激により産生されるIFNγは、anti−PD−1である4F12−E6やanti−PD−L1であるG11−6の存在下で産生増強される傾向がみられた。このことから、ConA刺激によりイヌのT細胞ではPD−1及びPD−L1の発現が増強し、それらがそのPD−L1がPD−1に結合することで過剰なT細胞の活性化を防いでいる可能性が示唆され、得られたPD−1及びPD−L1抗体は、イヌの細胞上に発現するPD−1及びPD−L1両分子の相互作用を阻害できることが示唆された。
【実施例6】
【0061】
[PMA(Phorbol-12-myristate-13-acetate)/ionomycin(iono)又はConA存在下でのPD−1又はPD−L1の発現誘導]
イヌPBMCをPMA/ionomycin又はConA存在下で3日間培養し、PBMCを回収後、CD3陽性分画(T細胞)におけるPD−1、PD−L1の発現を、cPD1に対するラットモノクローナル抗体(4F12−E6)又はcPDL1に対するラットモノクローナル抗体(G11−6)を用いてフローサイトメトリー解析した。結果を
図8に示す。
【0062】
図8から明らかなように、活性化イヌT細胞には、PD−1もPD−L1も発現が誘導されていることが明らかとなった。このように、本発明の抗体を用いることで、T細胞におけるPD−1又はPD−L1の発現を調べることが可能であること、換言すれば、イヌの細胞における細胞表面に発現するPD−1やPD−L1の発現を調べることが可能であることが明らかとなった。
【実施例7】
【0063】
[IL−4又はGM−CSF存在下でのPD−1又はPD−L1の発現誘導]
イヌPBMCより磁気ビーズにより分離したCD14陽性単球をIL−4及びGM−CSF存在下で6日間培養し、未成熟樹状細胞を誘導した。未成熟樹状細胞であることは、MHC ClassII抗体(eBioscience社製)を同時に染色することで確認した。得られた未成熟樹状細胞におけるPD−1又はPD−L1の発現をcPD1に対するラットモノクローナル抗体(4F12−E6)、又はcPDL1に対するラットモノクローナル抗体(G11−6)を用いてフローサイトメトリー解析した結果を
図9に示す。
【0064】
図9に示すとおり、PD−1は発現しておらず、PDL−1が発現していることが確認できた。このように、本発明の抗体を用いることで、未成熟樹状細胞におけるPD−1又はPD−L1の発現を調べることが可能であることが明らかとなった。