(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る対象物の保持装置の実施形態を、図面に基づいて詳細に説明する。この実施形態においては、対象物が生体由来の細胞、特に細胞凝集塊である場合について説明する。生体由来の細胞凝集塊(スフェロイド;spheroid)は、細胞が数個〜数十万個凝集して形成されている。そのため、細胞凝集塊の大きさは様々である。生きた細胞が形成する細胞凝集塊は略球形であるが、細胞凝集塊を構成する細胞の一部が変質したり、死細胞となっていたりすると、細胞凝集塊の形状は歪になる、あるいは密度が不均一となる場合がある。バイオ関連技術や医薬の分野における試験において、種々の形状を呈する複数の細胞凝集塊を本実施形態の保持装置にて保持させ、試験に適した形状の細胞凝集塊のみを選別する作業を行うことは、本発明の好適な用途である。なお、対象物は細胞凝集塊に限られるものではなく、小型の電子部品や機械部品、有機又は無機の破砕片や粒子、ペレット等であっても良い。
【0010】
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係る対象物の保持装置Dを概略的に示す側断面図である。保持装置Dは、液体Lを貯留する容器1と、対象物(細胞凝集塊C)を液体L中において保持するプレート2と、細胞凝集塊Cが容器1へ投入された後、プレート2に担持されるまでの速度を調整する流量調整機構3と、細胞凝集塊Cを容器内へ投入する投入部材4と、流量調整機構3及び投入部材4の動作を制御する制御部5とを備えている。
図2は、容器1の斜視図、
図3は、プレート2の上面図、
図4は、
図3のIV−IV線断面図である。
【0011】
容器1は、円柱形の形状を備え、その上面側に矩形の上部開口1Hを備えている。この上部開口1Hは、細胞凝集塊Cの投入、並びに、選別された細胞凝集塊Cをピックアップするための開口である。上部開口1Hの形状には特に限定はなく、例えば円形の上部開口1Hとしても良い。プレート2は、上部開口1Hの下方に配置されている。細胞凝集塊の投入の際、
図1に示す通り、細胞凝集塊Cを含む細胞懸濁液を吸引し保持している投入部材4が、上部開口1Hに対向して配置される。そして、投入部材4(分注チップ41)から前記細胞懸濁液が、容器1に貯留された細胞凝集塊を含まない液体L中に吐出される。
【0012】
容器1に貯留される液体Lは、細胞凝集塊の性状を劣化させないものであれば特に限定されず、細胞凝集塊の種類により適宜選定することができる。液体Lとしては、たとえば基本培地、合成培地、イーグル培地、RPMI培地、フィッシャー培地、ハム培地、MCDB培地、血清などの培地(細胞培養液)のほか、冷凍保存前に添加するグリセロール、セルバンカー(十慈フィールド(株)製)等の細胞凍結液、ホルマリン、蛍光染色のための試薬、抗体、精製水、生理食塩水などを挙げることができる。たとえば、細胞凝集塊として生体由来の細胞であるBxPC−3(ヒト膵臓腺癌細胞)を用いる場合には、液体LとしてはRPMI−1640培地に牛胎児血清FBS(Fetal Bovine Serum)を10%混ぜたものに、必要に応じて抗生物質、ピルビン酸ナトリウムなどのサプリメントを添加したものを用いることができる。
【0013】
容器1の形状は特に限定されないが、ここでは操作性や安定性等の観点から、高さが横幅(直径)に比べて比較的広い扁平な円柱形状のものを容器1として例示している。容器1は、透光性の樹脂材料やガラスで作製されていることが望ましい。これにより、容器1の下方に配置されたカメラ等により、プレート2に保持された細胞凝集塊を観察することができる。
【0014】
容器1は、底壁11、外周壁12、内周壁13及び天壁14を備える。底壁11は、容器1の底部を区画する平坦な円板部材である。外周壁12は、底壁11上に立設された円筒状の部材である。内周壁13は、外周壁12の内部に配置された角筒状の部材である。天壁14は、容器1の上面側において、上部開口1H以外の領域を覆う板部材である。
【0015】
外周壁12は、天壁14の外周縁に連設される上縁部121と、底壁11の外周縁に連設される下縁部122とを備える。内周壁13は、上部開口1Hから底壁11に向けて開口面積が徐々に縮小するように傾斜している。内周壁13の上端部131は、上部開口1Hを画定するものであって、天壁14の内周縁に連設されている。つまり、内周壁13の上端部131は、天壁14を介して外周壁12の上縁部121に連設されており、内周壁13は外周壁12によって支持されている。内周壁13の下端部132は、プレート2の外周縁を保持している。
【0016】
天壁14には、上下方向への貫通孔からなる作業孔141が穿孔されている。この作業孔141を通して、容器1のキャビティへの液体Lの注液、薬品類の注液、若しくは液体Lの吸液などの作業が行われる。さらに本実施形態では、作業孔141は、前記キャビティ内の圧力調整を行うための圧力口としても利用される。作業孔141には、空気抜き用のエア配管311を取り付けるための配管アダプタ15が組み付けされている。
【0017】
プレート2は、上面2Uと下面2Bとを有する矩形の板状部材である。プレート2は、下面2Bが容器1の底壁11に対して間隔を置いた状態で、内周壁13の下端部132にて保持されている。プレート2は、容器1内の液体L中に浸漬されている。つまり、プレート2の上面2Uが液体Lの液面LTよりも下方に位置するよう、容器1に液体Lが注液される。上面2Uは上部開口1Hと対向している。
【0018】
プレート2は、上面2U側に配置され細胞凝集塊を担持する複数の保持部21と、各保持部21の配置位置に形成され上面2Uから下面2Bに直線状に貫通する貫通孔22とを備えている。本実施形態では、上面視で四角形の保持部21がマトリクス状に配列されている例を示している。これは一例であり、保持部21の上面視形状は、丸形、三角形、五角形、六角形等であってもよく、これらがハニカム状、直線状、ランダムに配置されていても良い。或いは、一つの保持部21だけが備えられているプレート2としても良い。なお、容器1と同様にプレート2も、担持された細胞凝集塊の下面2B側からの撮像を可能とするために、透明な部材で形成されることが望ましい。
【0019】
図4に示すように、保持部21の縦断面の形状は、上方に開口した凹曲面211(凹部)である。貫通孔22の上面2U側の開口は、保持部21の凹曲面211の底面(もっとも深い位置)に配置されている。1の保持部21とこれに隣接する保持部21(凹曲面211)の上縁部212は、互いに近接している。
図3では、各保持部21の形状を際立たせるため、上縁部212が比較的広幅を有するように描いているが、実際は
図4に示すように上縁部212同士は隣接している。このため、隣接する凹曲面211の上縁部212同士が接することにより形成される稜線部分は、鋭利な凸状の部分となっている。保持部21の変形実施形態では、凹曲面211に代えて、保持部21の開口面積が上方から下方に向けて小さくなるような直線状の傾斜壁面、階段状の壁面とされる。或いは、開口面積が上方から下方に向けて一定の、円筒型、角筒形の凹部からなる保持部21とすることもできる。
【0020】
保持部21には、一般は1個の細胞凝集塊が収容されることが企図されている。但し、1の保持部21に、指定個数の細胞凝集塊を収容させたり、指定量(総体積又は総面積)の細胞凝集塊を収容させたりする場合もある。貫通孔22のサイズは、所望のサイズの細胞凝集塊は通過できず、所望のサイズ以外の小さな細胞凝集塊や夾雑物を通過させるサイズに選ばれている。プレート261の下面2Bと容器1の底壁11との間の距離は、前記夾雑物等を底壁11上に堆積させるのに十分な高さが選ばれる。
【0021】
容器1内には、当該容器1の底壁11、外周壁12、内周壁13、天壁14及びプレート2によって囲まれる、囲繞領域CAが形成されている。この囲繞領域CAと外部とは、上述の作業孔141及び貫通孔22によって連通している。容器1は、予め作業孔141を通して、液体L(細胞凝集塊Cを含まない細胞培養液)が注液される。具体的には、液面LTがプレート2を完全に浸漬する高さであって、天壁14よりも低い高さ(内周壁13の上下方向の中間付近の高さ)まで、液体Lは容器1内に注液される。
【0022】
このように、液体Lの液面LTがプレート2よりも上方に位置するように液体Lが容器1に貯留され、作業孔141が封止された状態においては、プレート2上に滞留する液体Lにて貫通孔22が塞がれることによって、囲繞領域CAが密閉された領域となる。そして、このような液面LTの高さであると、囲繞領域CA内の液面上には、空気が滞留する(閉じ込められる)空間が形成される。つまり、外周壁12及び内周壁13の上方部分と、天壁14と、液面LTとで囲まれる閉鎖空間Aが形成される。作業孔141は、この閉鎖空間Aに連通している。
【0023】
流量調整機構3(流量規制部)は、エア配管311の途中に組み付けられ、エア配管311を流れる空気の流量をゼロ(閉止)から所定の流量まで制御することが可能な弁動作を行う弁部材と、エア配管311内に空気流を発生させるポンプ部材とを含む。エア配管311は、一端が配管アダプタ15(作業孔141)に接続され、他端が大気に開放された配管である。前記ポンプ部材は、正逆の空気流、すなわち閉鎖空間Aの空気を吸引する方向の空気流と、閉鎖空間Aに空気を吐出して該閉鎖空間Aを加圧する方向の空気流とを発生する。
【0024】
流量調整機構3の主な機能は、プレート2の上面2Uの側から下面2Bの側に向けて制御された流速で、貫通孔22を通過する液流LC(
図6参照)を発生させることである。この機能に特化するならば、前記ポンプ部材の機能を流量調整機構3から省くことができる。流量調整機構3は、流量調整機構3は、投入部材4による細胞凝集塊Cの容器1への投入後に、エア配管311を通して閉鎖空間Aの空気を制御された流量で抜くことによって液流LCを発生させる。流量調整機構3は、液流LCの流速を調整することで、細胞凝集塊Cの沈降速度、つまり細胞凝集塊Cが上部開口1Hから投入されてからプレート2の保持部21に担持されるまでの速度を調整する。
【0025】
投入部材4は、細胞凝集塊Cを保持すると共に、保持している細胞凝集塊Cを、上部開口1Hを通して容器1内へ投入するための部材である。投入部材4は、分注チップ41(チップ部材)と、この分注チップ41が下端に取り付けられるヘッド42とを含む。分注チップ41は、断面積が上方から下方に向けて徐々に小さくなる円錐状の筒体であり、その下端に吸引又は吐出のための開口41Tを備える。ヘッド42は、上下方向に延びる筒状の部材であり、開口41Tに吸引力及び吐出力を発生させる機構を備えている。ヘッド42が吸引力を発生させると、細胞凝集塊Cを含む細胞懸濁液が開口41Tから分注チップ41内に吸引される。吸引された細胞懸濁液は、分注チップ41内で保持可能である(
図1に示す状態)。この状態でヘッド42が吐出力を発生させると、細胞凝集塊Cを含む細胞懸濁液が開口41Tから吐出される。
【0026】
制御部5は、マイクロコンピュータ等からなり、予め定められたプログラムに基づいて流量調整機構3及び投入部材4の動作を制御する。具体的には制御部5は、流量調整機構3の前記弁部材を制御して、閉鎖空間Aから空気を抜く際の流量を調整することで、液流LCの速度を制御する。また、制御部5は、流量調整機構3のポンプ部材を制御して、閉鎖空間Aからの空気の吸引動作及び閉鎖空間Aへの空気の送り動作を制御する。さらに、制御部5は、投入部材4のヘッド42を制御して、分注チップ41へ細胞懸濁液を吸引させる動作、吸引された細胞懸濁液を所定の吐出量で分注チップ41から吐出させる動作を制御する。
【0027】
図5は、分注チップ41から吐出された細胞凝集塊がプレート2に担持される状況を説明するための模式図である。ここでの細胞凝集塊の担持作業は、種々の細胞凝集塊や夾雑物の中から所望の細胞凝集塊を選別する作業でもある。この細胞選別動作が行われる際、予め細胞凝集塊を含まない液体L(細胞培養液)が容器1内に注液される。上述の通り、液体Lの液面LTの高さは、プレート2が液体L中に完全に浸漬される高さとされる。その後、容器1の上部開口1Hを通してプレート2上の液面LTに向けて、選別対象となる細胞凝集塊Cと不可避的に混在する夾雑物Cxとを含む細胞懸濁液が、分注チップ41から注入される。
【0028】
注入された前記細胞懸濁液に含まれる細胞凝集塊C及び夾雑物Cxは、液面LTから下方に向けて自重により液体L内を沈降する。
図5では、2つの細胞凝集塊C1、C2と3つの夾雑物Cx1、Cx2、Cx3を模式的に示している。プレート2が備える多数の保持部21は、半球状のキャビティ(凹曲面211)が密に配列されており、保持部21同士を区切る稜線(上縁部212)は鋭利である。従って、沈降する細胞凝集塊C1、C2及び夾雑物Cx1、Cx2、Cx3は、上縁部212付近に滞留することなく、いずれかの保持部21の凹曲面211内に導かれる。
【0029】
所定のサイズを備える細胞凝集塊C1、C2は、貫通孔22を通過することができない。従って、これら細胞凝集塊C1、C2は、導入された保持部21上で担持されることになる。一方、夾雑物Cxは、一般に細胞凝集塊Cよりは相当小さいサイズであり、貫通孔22を通過し得る。このため、凹曲面211内に導かれた夾雑物Cxは、貫通孔22を通過して、容器1の底壁11上に落下する。
図5では、夾雑物Cx1が貫通孔22を通過しつつあり、夾雑物Cx2、Cx3が底壁11上に落下した状態を示している。このように、選別対象の細胞凝集塊C1、C2はプレート2の保持部21にトラップされ、無用な夾雑物Cx1、Cx2、Cx3は、容器1の底壁11に回収される。以上のような細胞選別動作は、1回のみ実行される場合、或いは必要に応じて複数回繰り返される場合がある。
【0030】
一つの代表的な保持装置Dの使用例では、上記の細胞選別動作の後、容器1の下方に配置されたカメラにより、細胞凝集塊Cを担持したプレート2の画像が撮像される。取得された画像が解析され、
図3のようにn列m行にマトリクス配置された保持部21群のうち、どの保持部21に細胞凝集塊Cが担持されているかが座標情報で特定される。並行して、シリンダチップが装着され、XYZ方向に移動可能なヘッドが準備される。前記ヘッドが上部開口1H上に配置され、前記座標情報に基づきターゲットとする保持部21にシリンダチップがアプローチするよう、ヘッドの動作が制御される。そして、シリンダチップにより、当該保持部21に担持されている細胞凝集塊Cが吸引される。吸引された細胞凝集塊Cは、前記ヘッドにより他のシャーレやウェルプレートまで搬送され、これらに吐出される。
【0031】
ところで、上述の通り、細胞凝集塊Cのプレート2の保持部21への収容は、分注チップ41から吐出された後、細胞凝集塊Cの自然沈降に依存する。また、分注チップ41から細胞懸濁液の吐出に伴う液流の影響も受ける。さらに、前記細胞懸濁液の吐出によって生成される貫通孔22を流れる液流の影響も、細胞凝集塊Cの保持部21への収容に影響を与える。前記液流が急速なものであると細胞凝集塊Cの沈降速度が速くなり、細胞凝集塊Cがプレート2の鋭利な上縁部212に衝突したり、貫通孔22に吸い込まれたりして、細胞凝集塊Cにダメージが与えられることが生じ得る。一方、細胞凝集塊Cの沈降速度が遅すぎると、保持部21に細胞凝集塊Cを保持させるのに時間が掛かりすぎる不具合が生じる。本実施形態では、これらの不具合を防止するために、流量調整機構3により、細胞凝集塊Cが液体Lに投入されてから保持部21に担持されるまでの速度が調整される。
【0032】
図6に基づいて、流量調整機構3の動作を説明する。
図6は、
図1の状態から、分注チップ41内に保持されていた細胞凝集塊Cが、細胞懸濁液と共に開口41Tから上部開口1Hへ投入された後の状態を示している。この投入の際、制御部5は流量調整機構3を制御して、エア配管311が閉止された状態、つまり圧力口である配管アダプタ15を「閉」の状態にしている。このため、閉鎖空間Aの空気は逃げ場が無い状態である。
【0033】
従って、細胞凝集塊Cを含む細胞懸濁液が投入された分だけ、容器1中における内周壁13の内側であってプレート2の上方の液体層(以下、上部液体層LSという)の液面LTは、上位レベルLT1に上昇する。細胞凝集塊Cは、上部液体層LS内において浮遊している。これに対し、閉鎖空間Aが面している液体Lの液面LTは不動である。これは、上部液体層LSと囲繞領域CA内の液体Lとは貫通孔22を通して連通しているものの、閉鎖空間Aから空気が逃げることができないからである。
【0034】
細胞凝集塊Cの投入を終えると、制御部5は流量調整機構3を制御して、エア配管311を所定の開度とし、空気が通過できるようにする。つまり、圧力口である配管アダプタ15が「開」の状態に変更される。エア配管311の開度は、細胞凝集塊Cの比重や性質に応じて決定される。圧力口が開となると、閉鎖空間Aの体積は変化可能な状態となる。すなわち、上部液体層LSの液面高さ(LT)と囲繞領域CA内の液体Lの液面高さ(LT1)との高低差(圧力差)が是正されるように、囲繞領域CA内の液面LTは矢印a1で示すように上昇する。これと同時に、閉鎖空間Aの空気は、矢印a2で示すように、エア配管311を通して外部に抜け出る。このような液面是正に伴って、貫通孔22には、プレート2の上面側から下面側に流れる液流LCが発生する。液流LCの発生によって、上部液体層LSの液面は、上位レベルLT1から徐々に低下する。
【0035】
上部液体層LS内で浮遊している細胞凝集塊Cの沈降速度は、液流LCに大きく依存する。当然に、液流LCの速度が速いほど、各保持部21が備える貫通孔22に細胞凝集塊Cが吸い寄せられ易くなり、前記沈降速度は速くなる。また、液流LCの速度は、閉鎖空間Aから空気を抜く速度に依存する。従って、流量調整機構3によるエア配管311の開度調整により、エア配管311を矢印a2方向に通過する空気の流量を規制することにより、液流LCの速度、ひいては細胞凝集塊Cの沈降速度を制御することができる。例えば、細胞凝集塊Cをゆっくり沈降させたい場合は、エア配管311の開度を小さくし、液流LCの速度を比較的遅くすれば良い。逆に、早期の沈降が望まれる場合は、液流LCの速度を比較的早くすれば良い。このようにして、液流LCの速度を調整することによって、細胞凝集塊Cを所望の沈降速度で保持部21に担持させることができる。
【0036】
図7は、細胞凝集塊Cの沈降が完了し、プレート2(保持部21)に細胞凝集塊Cが担持されている状態を示している。上部液体層LSの液面と囲繞領域CA内の液体Lの液面とは、同じ高さになっている。但し、細胞凝集塊Cを含む細胞懸濁液が投入された分、液体Lの液面は事前の液面LTよりも高い増加レベルLT2に至っている。
【0037】
ところで、上記のような細胞凝集塊Cの投入動作において、1つの保持部21に複数個の細胞凝集塊Cが収容されてしまう場合がある。一般に、一つの保持部21には一つの細胞凝集塊Cが保持されることが、細胞凝集塊Cの画像観察や前記シリンダチップによる個別吸引が容易であるという観点から望ましい。しかし、分注チップ41から細胞凝集塊Cを吐出させ、液流LCのアシストで沈降させるだけでは、細胞凝集塊Cが概ね均等にプレート2上にばら撒かれた状態を形成することができない場合が生じ得る。
【0038】
本実施形態の保持装置Dは、このような事象を想定して、一旦プレート2に担持された細胞凝集塊Cを、再度上部液体層LSに分散させることが可能な機能を備えている。
図8は、プレート2上の細胞凝集塊Cが、逆方向の液流LCRにより上部液体層LSに分散されている状態を示す図である。
【0039】
上述の通り流量調整機構3は、エア配管311内に空気流を発生させるポンプ部材を備えている。制御部5は、細胞凝集塊Cのプレート2上における分散状態が良好でない場合、流量調整機構3を制御して、エア配管311に矢印a3方向の空気流を僅かな期間だけ発生させる。この空気流は、配管アダプタ15を介して閉鎖空間Aに入り込み、当該閉鎖空間Aが面する液面LTを押圧する(矢印a4参照)。囲繞領域CAは密閉状態にあるので、矢印a4の押圧力の逃げ場は、プレート2の貫通孔22しかない。従って、貫通孔22には、既述の液流LCとは逆に、プレート2の下面側から上面側に流れる逆液流LCRが発生する。このような逆液流LCRが発生すると、保持部21に重なり合うように担持されている細胞凝集塊Cは、上方に舞い上がる(上昇する)。この後、細胞凝集塊Cは自然沈降するが、上部液体層LS内に細胞凝集塊Cが分散されるので、プレート2への分散性は改善される。
【0040】
逆液流LCRを発生させる期間、速度等は、細胞凝集塊Cの性質に応じて適宜定められる。要するに、逆液流LCRは、細胞凝集塊Cを一時的にプレート2上の液体L内へ舞い上がらせることができれば、その期間や速度等に制限はない。また、逆液流LCRを発生させた後に直ちに流量調整機構3によってエア配管311を閉とし、細胞凝集塊Cの上部液体層LS内における分散が進行した後に、上記で説明した通りのエア配管311の開度調整を行い、再び液流LCを発生させるようにしても良い。なお、細胞凝集塊Cのプレート2上における分散状態は、上述のカメラが取得する細胞凝集塊Cを担持したプレート2の画像に基づき、制御部5に判定させるようにすることができる。
【0041】
<第2実施形態>
図9は、本発明の第2実施形態に係る対象物の保持装置D1を概略的に示すブロック図である。第2実施形態の保持装置D1は、細胞凝集塊Cを分注チップ41により吸引させ、これを第1実施形態と同様な容器1に吐出させるまでの構成を備えた装置の具体例である。保持装置D1は、容器1、プレート2、流量調整機構3、チューブ10、投入部材4A、制御部51、ヘッドユニット61及びボールねじ装置6Mを備えている。
【0042】
容器1、プレート2及び流量調整機構3は、先に第1実施形態で説明したものと同様であるため、ここでは説明を省略する。チューブ10は、細胞凝集塊Cを含む細胞懸濁液Lxを収容する、上面開口の容器である。チューブ10に貯留されている細胞懸濁液Lxは、投入部材4Aによりその一部が吸引され、その後に容器1へ吐出される。
【0043】
投入部材4Aは、ヘッドユニット61に搭載され、下端に開口41Tを備えた分注チップ41(チップ部材)と、分注チップ41が下端に取り付けられるヘッド42Aとを含む。第1実施形態と異なる点は、開口41Tに吸引力及び吐出力を発生させる機構として、ピストンヘッド43及びピストンロッド44と、その駆動部45とが備えられている点である。
【0044】
ヘッド42Aは、上下方向に延びる筒状の部材である。ピストンヘッド43は、ヘッド42Aの内部に、上下方向に移動自在に配置されている。ピストンヘッド43の外周面にはシール部材(図示せず)が取り付けられ、気密性が確保されている。ピストンロッド44もヘッド42Aの内部に収容され、その下端にピストンヘッド43が取り付けられている。駆動部45は、ヘッドユニット61内に組み付けられ、駆動モータ及び駆動伝達機構を含み、ピストンヘッド43を上下方向に移動させる。さらに駆動部45は、ヘッド42A自体をヘッドユニット61に対して上下方向に移動するように駆動する。
【0045】
駆動部45がヘッド42Aを下降させることで、分注チップ41の開口41Tを、チューブ10内の細胞懸濁液Lxに浸漬させることができる。駆動部45がヘッド42Aを上昇させると、分注チップ41をチューブ10の上空に退避させることができる。また、駆動部45がピストンロッド44を上昇させると、ヘッド42A内においてピストンヘッド43も上昇する。これにより、開口41Tには吸引力が発生し、分注チップ41内に細胞懸濁液Lxが吸引・保持される。一方、ピストンロッド44が下降されると、開口41Tには吐出力が発生し、分注チップ41内に保持されている細胞懸濁液Lxが吐出される。
【0046】
ボールねじ装置6Mは、ボールねじモータ62と、該モータ62によって軸回りに正逆回転駆動されるねじ軸63とを含む。ねじ軸63には図略のナット部材が係合されている。前記ナット部材は、ねじ軸63が回転駆動されることによって、左右方向に移動する。ヘッドユニット61は前記ナット部材に取り付けられている。すなわち、分注チップ41を搭載しているヘッドユニット61は、ボールねじ装置6Mによって左右方向に移動される。本実施形態では、ヘッドユニット61は、チューブ10の上空と容器1の上空との間を移動する。
【0047】
制御部51は、上述の通り流量調整機構3を制御して容器1内の閉鎖空間Aの空気抜き動作を制御するほか、駆動部45及びボールねじモータ62の動作を制御する。具体的には制御部51は、駆動部45を制御することによって、ヘッド42Aの上下動と、ピストンロッド44の上下動による分注チップ41の細胞懸濁液Lxの吸引及び吐出動作とを制御する。また、制御部51は、ボールねじモータ62を制御することによって、ヘッドユニット61(分注チップ41)の左右方向の移動動作を制御する。
【0048】
続いて、制御部51による保持装置D1の制御動作を、
図10に示すフローチャートに基づいて説明する。
図11〜
図16は、
図10のフローチャートの主要ステップを実行している状態を示す図である。なお、
図11〜
図16では、
図9に記載している部材の一部を省略して記載している。
【0049】
先ず制御部51は、1回当たりの吸引動作で分注チップ41に吸引させる細胞懸濁液Lxの容量の指定を、ユーザーから受け付ける(ステップS1)。この容量指定に基づいて、制御部51は、駆動部45によりピストンロッド44(ピストンヘッド43)を上昇させる長さを決定する。ピストンロッド44の上昇量が多いほど、分注チップ41が吸引する細胞懸濁液Lxの量は増加する。
【0050】
次に制御部51は、ボールねじモータ62を動作させて、ヘッドユニット61(ヘッド42A)をチューブ10の上空へ移動させる(ステップS2)。チューブ10の上面開口部に、ヘッド42Aの下端に装着された分注チップ41が対向している。ヘッド42Aは上昇位置にあり、ピストンロッド44は、上下方向の可動範囲の最下位置まで下降している。
図9は、このような状態を示している。
【0051】
続いて制御部51は、駆動部45を動作させ、ヘッド42Aを下降させ、分注チップ41の開口41Tを含む下方部分を、チューブ10内の細胞懸濁液Lxに浸漬させる。そして制御部51は、駆動部45によりピストンロッド44をステップS1の指定に応じた長さだけ上昇させ、開口41Tに吸引力を発生させる。かかる動作により、チューブ10に貯留された細胞凝集塊Cを含む細胞懸濁液Lxの一部が、分注チップ41内に吸引される(ステップS3)。その後、
図11に示すように、制御部51は駆動部45を動作させ、ヘッド42Aを上昇させる。これにより、細胞凝集塊Cを保持した分注チップ41もチューブ10の上に移動する。
【0052】
続いて、
図12に示すように、ヘッドユニット61が容器1の上空に移動される。すなわち、制御部51はボールねじモータ62を動作させ、ヘッドユニット61をねじ軸63に沿って右方へ移動させる。ヘッドユニット61は、容器1の上空で停止される。分注チップ41は、容器1の上部開口1H(プレート2)と対向している(ステップS4)。
【0053】
制御部51は、分注チップ41に吸引された細胞懸濁液Lxの吐出速度、つまり単位時間当たりの吐出量V1を指定する(ステップS5)。この吐出量V1は、ユーザーから予め設定されたものである。指定された吐出量V1は、ピストンロッド44の下降速度の調整によって実現される。容器1には、細胞培養液からなる液体Lが予め所定の液量(プレート2が液体L中に浸漬される液面高さ)で注液されている。容器1内には上述の閉鎖空間Aが形成されている。この
図12の状態では、制御部51は流量調整機構3を制御して、圧力口である配管アダプタ15が「閉」の状態、つまりエア配管311を閉じて閉鎖空間Aから空気が抜け出さない状態としている(ステップS6)。
【0054】
次に、分注チップ41から容器1へ細胞凝集塊Cを含む細胞懸濁液Lxが吐出される(ステップS7)。制御部51は駆動部45を制御し、
図13に示すように、ヘッド42Aを下降位置に移動させる。この状態では、分注チップ41が上部開口1Hに入り込み、プレート2に接近している。分注チップ41の下降位置は、開口41Tが液体L中に入り込む位置でも、液体Lの液面よりもやや上方の位置であっても良い。
【0055】
しかる後、制御部51は駆動部45を制御し、ピストンロッド44を下降させる。このときの下降速度は、ステップS5で指定された吐出量V1(吐出速度)に対応するものである。これにより、分注チップ41に保持されている細胞懸濁液Lxは、上部開口1Hを通して容器1内に吐出される。
図14は、前記吐出が行われた後の状態を示している。吐出された細胞懸濁液Lxに含まれていた細胞凝集塊Cは、プレート2上の液体L中において浮遊している。ここでも、配管アダプタ15は「閉」の状態に維持されている。この後、図示は省略しているが、ヘッド42Aは上昇位置に移動される。
【0056】
次に制御部51は、容器1の閉鎖空間Aからの空気抜き速度、つまり単位時間当たりの空気抜き出し流量V2を指定する(ステップS8)。この抜き出し流量V2は、ユーザーによって予め設定されたものである。指定された抜き出し流量V2は、流量調整機構3によるエア配管311の開度の調整によって実現される(ステップS9)。
【0057】
ここで制御部51は、抜き出し流量V2を、分注チップ41から吐出させる細胞懸濁液Lxの単位時間当たり吐出量V1よりも少なくなるように設定する(V1>V2)。V1>V2の関係で閉鎖空間Aからの空気抜きを実行させることで、細胞凝集塊Cをゆっくりとプレート2上に沈降させることができる。従って、細胞凝集塊Cへのダメージを抑制することができる。V1とV2の比は、例えば、吐出量V1を1とするとき、抜き出し流量V2は3/4〜1/4程度とすることが望ましく、1/2程度とすることが特に望ましい。
【0058】
細胞懸濁液Lxの吐出が完了した後、制御部51は、流量調整機構3を動作させてステップS9で指定された流量V2で閉鎖空間Aの空気抜きが行われるよう、圧力口である配管アダプタ15を「開」の状態とする(ステップS10)。
図15は、配管アダプタ15が「開」とされた直後の状態を示している。細胞懸濁液Lxが投入された分だけ、プレート2の上方の上部液体層LSの液面LTは、上位レベルLT1に上昇している。しかし、配管アダプタ15が「開」とされることで、閉鎖空間Aの空気がエア配管311を通して抜け出し始めると、先に
図6に基づき詳述した通り、プレート2の貫通孔22には、その上面側から下面側に流れる液流LCが発生する。液流LCの発生によって、上部液体層LSの液面は上位レベルLT1から徐々に低下し、また細胞凝集塊Cはプレート2上へ沈降してゆく。これに呼応して、閉鎖空間Aが対向する液面LTは矢印a1で示すように上昇する。
【0059】
制御部51は、配管アダプタ15が「開」とされた後、閉鎖空間Aからの空気抜き量が、ステップS1で指定した細胞懸濁液Lxの吸引量、すなわちステップS7における分注チップ41からの細胞懸濁液Lxの吐出量と同量になるか否かを確認する(ステップS11)。この確認は、単位時間当たりの抜き出し流量V2と時間との積と、ステップS1での細胞懸濁液Lxの吸引量とを比較することによる。
【0060】
空気抜き量が細胞懸濁液Lxの吐出量に到達していない場合(ステップS11でNO)、ステップS10に戻って空気抜きが継続される。一方、空気抜き量が細胞懸濁液Lxの吐出量に到達すると(ステップS11でYES)、制御部51は、流量調整機構3を動作させて圧力口である配管アダプタ15を「閉」とする(ステップS12)。
図16は、このステップS12の状態を示している。この状態では、細胞凝集塊Cの沈降が完了し、プレート2(保持部21)に細胞凝集塊Cが担持されている。上部液体層LSの液面と閉鎖空間Aが対向する液面とは、同じ高さになっている。但し、細胞凝集塊Cを含む細胞懸濁液が投入された分、液体Lの液面は事前の液面LTよりも高い増加レベルLT2に至っている。上記の閉動作により、閉鎖空間Aの壁面と液体Lとの間で発生する表面張力の作用を抑止することができる。前記表面張力は、閉鎖空間Aの液面上昇、その反面としてプレート2上の液面加工を惹起し、甚だしい場合にはプレート2の上面を干上がらせてしまう。上述の制御によって、閉鎖空間Aとプレート2上との液面バランスの均衡を達成でき、干上がりの回避のために必要以上に液体L(培地)を注液する必要性を無くすることができる。なお、空気抜き量と細胞懸濁液Lxの吐出量とが同量となった後(ステップS11でYES)、液流LCが止まっていない場合には、配管アダプタ15を「開」のままで維持させても良い。これにより、細胞凝集塊Cを保持部21の底部に保持させ易くなる。
【0061】
以上説明した保持装置D1によれば、容器1に投入された細胞凝集塊Cを、制御された沈降速度でプレート2に担持させることができる。従って、夾雑物と細胞凝集塊との選別のために貫通孔22を有するプレート2を用いても、細胞凝集塊Cにダメージを与えないようにすることができる。この点を、本発明の比較例に係る保持装置を示す
図17を参照して説明する。
【0062】
比較例に係る保持装置で用いられる容器100は、容器本体101と、該容器本体101の開口を部分的に塞ぐ蓋部材102とからなる。蓋部材102には、細胞懸濁液Lxが注液される上部開口100Hが設けられている。プレート2は、蓋部材102で保持されている。容器本体101と蓋部材102との間には隙間Gが存在し、囲繞領域CA内の領域A1(本実施形態の閉鎖空間Aに相当)の空気は常時外部と流通できる状態である。
【0063】
このような容器100の上部開口100Hから、分注チップ41にて細胞凝集塊Cを含む細胞懸濁液Lxが投入されたとする。この場合、細胞懸濁液Lxの投入と同時に領域A1の空気が抜け始める。つまり、プレート2の貫通孔22を通過する液流LCが、細胞懸濁液Lxの投入と同時に発生する。この液流LCに引きずられて、本来プレート2に担持させるべきサイズを備えた細胞凝集塊Cが、変形して貫通孔22を通過したり、プレート2に衝突して損傷したりする不具合が生じ得る。これに対し、本実施形態では、液流LCを発生させるタイミング及び液流LCの速さを、配管アダプタ15を「閉」とするタイミング及び空気抜き流量の制御によって適正にすることができるので、比較例装置のように細胞凝集塊Cにダメージを与える不具合は生じない。また、細胞凝集塊Cの沈降速度を、遅すぎない適正な速度にコントロールできる利点もある。
【0064】
<第3実施形態>
上記第2実施形態では、培地となる液体L(細胞培養液)が予め容器1内に貯留され、また、分注チップ41からの1回の吐出動作で容器1への細胞懸濁液Lxの分注が完了することを想定した例を示した。第3実施形態では、液体Lの容器1への注液動作の一例を含み、分注チップ41から細胞懸濁液Lxを容器1へ複数回吐出させることを想定した例を示す。
【0065】
図18は、第3実施形態に係る対象物の保持装置において用いられるチューブ10Aを示す図である。このチューブ10Aがチューブ10に代替される以外は、本実施形態の保持装置の構成は、
図9に示した保持装置D1の構成と同じである。チューブ10Aは、下端付近がすり鉢状で、下端以外の部分が円筒状である。チューブ10Aの下端部分には、細胞凝集塊Cを含む細胞懸濁液Lxが貯留され、その上方部分には上澄み液SLが貯留されている。上澄み液SLは、細胞凝集塊Cがチューブ10Aの下端部分へ沈降することによって形成される、細胞凝集塊Cが存在しない液体層である。本実施形態では、この上澄み液SLを容器1に注液し、培地となる液体Lとして用いる。
【0066】
図19は、第3実施形態における、制御部51による保持装置の制御動作を示すフローチャートである。以下、
図9に示す装置構成を参照しつつ、第3実施形態の制御動作を説明する。なお、
図9において、チューブ10が
図18に示すチューブ10Aに代替されているものとする。
【0067】
処理が開始されると、制御部51は、容器1に注液すべき上澄み液SLの容量の指定を、ユーザーから受け付ける(ステップS21)。ここで指定される容量は、少なくともプレート2の上面が上澄み液SLで覆われるような液量である。次に制御部51は、分注チップ41からの上澄み液SLの吐出速度、つまり単位時間当たりの吐出量V11の指定を受け付ける(ステップS22)。
【0068】
また制御部51は、1単位の分注動作において容器1に注液すべき細胞懸濁液Lxの容量の指定を、ユーザーから受け付ける(ステップS23)。そして制御部51は、分注チップ41からの細胞懸濁液Lxの吐出速度、つまり単位時間当たりの吐出量V12の指定を受け付ける(ステップS24)。上澄み液SLの吐出量V11は、迅速な注液を実現するために比較的多い値に設定され、細胞懸濁液Lxの吐出量V12は、細胞凝集塊Cへのダメージを回避するために比較的少ない値に設定される。
【0069】
続いて制御部51は、流量調整機構3を制御して、圧力口である配管アダプタ15を「開」の状態とする。つまり、閉鎖空間Aを大気に開放する(ステップS25)。これは、容器1の囲繞領域CA(
図1)に上澄み液SLが進入できるようにするためである。その後、制御部51は、ボールねじモータ62を動作させて、ヘッドユニット61(ヘッド42A)をチューブ10Aの上空へ移動させる(ステップS26)。ステップS26の実行後は、チューブ10Aの上面開口部に、ヘッド42Aの下端に装着された分注チップ41が対向している。また、ヘッド42Aは上昇位置にあり、ピストンロッド44は、上下方向の可動範囲の最下位置まで下降している。
【0070】
次に制御部51は、駆動部45を動作させ、ヘッド42Aを下降させる。この下降量は、分注チップ41の開口41Tを含む下方部分が、チューブ10Aの上方に存在する上澄み液SLの層に届く、比較的浅い下降量である。この下降後に制御部51は、駆動部45によりピストンロッド44を予め定められた単位長さだけ上昇させ、開口41Tに吸引力を発生させる。かかる動作により、単位吸引量に相当する上澄み液SLが、分注チップ41内に吸引される(ステップS27)。その後、制御部51は駆動部45を動作させ、ヘッド42Aを上昇させる。
【0071】
続いて、ヘッドユニット61が容器1の上空に移動される。すなわち、制御部51はボールねじモータ62を動作させ、分注チップ41が容器1の上部開口1H(プレート2)と対向する位置まで、ヘッドユニット61を右方へ移動させる(ステップS28)。しかる後、制御部51は駆動部45を制御し、ピストンロッド44を下降させる。このときの下降速度は、ステップS22で指定された吐出量V11(吐出速度)に対応するものである。これにより、分注チップ41に保持されている上澄み液SLは、上部開口1Hを通して容器1内に吐出される(ステップS29)。
【0072】
次いで制御部51は、上澄み液SLの容器1への注液量が、ステップS21で指定した容量に達したか否かを確認する(ステップS30)。指定容量に達していない場合(ステップS30でNO)、ステップS26に戻り、同じ動作が繰り返される。つまり、上澄み液SLの前記吸引及び吐出動作が繰り返される。一方、指定容量に達した場合(ステップS30でYES)、細胞懸濁液Lxの注液に備え、制御部51は流量調整機構3を制御して、配管アダプタ15を「閉」の状態とする。つまり、閉鎖空間Aから空気が抜け出さない状態が形成される(ステップS31)。
【0073】
その後、制御部51は、ボールねじモータ62を動作させて、ヘッドユニット61(ヘッド42A)をチューブ10Aの上空へ移動させる(ステップS32)。続いて制御部51は、駆動部45を動作させ、ヘッド42Aを下降させる。この下降量は、分注チップ41の開口41Tが、チューブ10Aの下端付近に存在する細胞懸濁液Lxの層に届く、比較的深い下降量である。この下降後に制御部51は、駆動部45によりピストンロッド44を予め定められた単位長さだけ上昇させ、単位吸引量に相当する細胞懸濁液Lxを分注チップ41内に吸引させる(ステップS33)。その後、制御部51は駆動部45を動作させ、ヘッド42Aを上昇させる。
【0074】
続いて、ヘッドユニット61が容器1の上空に移動される(ステップS34)。しかる後、制御部51は駆動部45を制御し、ピストンロッド44を下降させる。このときの下降速度は、ステップS24で指定された吐出量V12(吐出速度)に対応するものである。これにより、分注チップ41に保持されている細胞懸濁液Lxは、上部開口1Hを通して容器1内に吐出される(ステップS35)。
【0075】
次いで制御部51は、細胞懸濁液Lxの容器1への注液量が、ステップS23で指定した容量に達したか否かを確認する(ステップS36)。指定容量に達していない場合(ステップS36でNO)、ステップS32に戻り、同じ動作が繰り返される。つまり、細胞懸濁液Lxの前記吸引及び吐出動作が繰り返される。
【0076】
一方、指定容量に達した場合(ステップS36でYES)、制御部51は、容器1の閉鎖空間Aからの空気抜き速度、つまり単位時間当たりの空気抜き出し流量を指定する(ステップS37)。このステップS37の処理は、先に
図10のフローチャートにおいて説明したステップS8の処理と同じである。以下のステップS38〜ステップS41の処理も、
図10のステップS9〜ステップS12と同じである。重複を避けるため、ここでは説明を省略する。
【0077】
<第4、第5実施形態>
続いて、上述の流量調整機構3のより具体的な例を2つ、第4、第5実施形態として例示する。
図20は、本発明の第3実施形態に係る対象物の保持装置D2を概略的に示すブロック図である。保持装置D2は、第1実施形態と同じ容器1、プレート2及び投入部材4に加え、他の実施形態に係る流量調整機構3Aと、その動作を制御する制御部52とを備えている。
【0078】
流量調整機構3Aは、コック32、バルブ33及びポンプ34を含む。エア配管311は、一端が配管アダプタ15に接続され、他端側に向けて順次、三方分岐管312、コック32及びバルブ33が組み入れられ、他端は大気に開放されている。三方分岐管312には分岐管313の一端が接続され、他端にはポンプ34が接続されている。
【0079】
コック32は、エア配管311の開度を規制する絞り弁を備える。このコック32により、エア配管311を通過することができる空気の量、つまり単位時間当たりの空気抜き量が決定される。バルブ33は、例えば電磁弁であり、エア配管311を閉止又は開放する弁装置である。ポンプ34は、例えばソレノイド型のポンプであり、一回の動作で一定量の空気を吐出することができるポンプである。制御部52は、バルブ33の開閉動作と、ポンプ34の動作を制御する。
【0080】
制御部52は、投入部材4から細胞凝集塊Cを含む細胞懸濁液を吐出させたる際、バルブ33を「閉」とする。つまり、圧力口である配管アダプタ15が「閉」とされる。細胞懸濁液の吐出が完了した後、制御部52は、バルブ33を「開」とする。これにより、閉鎖空間Aの空気抜きが開始される。この点は、先の第1実施形態と同じである。但し、この際に制御部52は、ポンプ34を動作させる。ポンプ34の動作により、分岐管313及び三方分岐管312を通して、エア配管311に一定量の空気が供給される。
【0081】
ポンプ34から供給される空気は、閉鎖空間Aの空気と共にエア配管311の他端から大気中に放出されることになる。このことは、閉鎖空間Aの空気が一気に抜け出してしまうことを阻止する。つまり、閉鎖空間Aの空気がエア配管311を通して大気中へ抜け出すに際し、コック32により流量が規制されている上に、ポンプ34から空気が供給されることで加圧力がエア配管311内に加えられる。これにより、閉鎖空間Aの空気の抜け出しがさらに規制されるようになる。また、ポンプ34からの空気の供給量を制御することで、閉鎖空間Aからの空気の抜け出し量をより細かく制御することが可能となる。
【0082】
さらに、本実施形態の流量調整機構3Aによれば、先に
図8に基づいて説明した、一旦プレート2に担持された細胞凝集塊Cを舞い上がらせる逆液流LCRの形成にも対応することができる。制御部52は、逆液流LCRを発生させる際、バルブ33を「閉」とする。これにより、分岐管313は大気と遮断され、閉鎖空間Aとだけ連通する。この状態で、制御部52はポンプ34を動作させ、空気を一定量吐出させる。この空気は、分岐管313及びエア配管311を介して閉鎖空間Aへ導入される。従って、閉鎖空間Aは加圧されるので、逆液流LCRを発生させることができる。
【0083】
図21は、本発明の第5実施形態に係る対象物の保持装置D3を概略的に示すブロック図である。保持装置D3は、第1実施形態と同じ容器1、プレート2及び投入部材4に加え、他の実施形態に係る流量調整機構3Bと、その動作を制御する制御部53とを備えている。第4実施形態と相違する点は、流量調整機構3Bが、コック32及びバルブ33に代えて、同様な働きを為すマスフローコントローラー35を備えている点である。
【0084】
マスフローコントローラー35は、エア配管311の開度を規制する絞り弁としての機能、及びエア配管311の開閉を行う機能の双方を有している。このマスフローコントローラー35の動作は、制御部53によって制御される。制御部53は、マスフローコントローラー35及びポンプ34を制御して、第3実施形態と同様に液流LC及び逆液流LCRを発生させる。
【0085】
<配管例の説明>
以下、容器1に対する配管の好ましい例を
図22〜
図24に基づいて説明する。ここで挙げるのは、上記実施形態で例示したエア配管311に代替される配管態様である。
図22では、エルボ管143とワンタッチジョイント144とを備える配管例を示している。エルボ管143の一端は容器1の配管アダプタ15に接続され、他端にワンタッチジョイント144が取り付けられている。容器1はテーブルBの上に載置されている。
【0086】
テーブルBには、先の実施形態で示した流量調整機構3、3A、3Bの構成部材が備えられている。テーブルBの上面には、流量調整機構3、3A、3Bの終端部であって、ワンタッチジョイント144を受け入れるレセプタクル144Aが設けられている。この配管例によれば、容器1をテーブルBに載置すると共に、ワンタッチジョイント144をレセプタクル144Aに接続するだけで、閉鎖空間Aからの空気の抜き出し、及び閉鎖空間Aへの空気の吐出の経路が確保できる利点がある。
【0087】
図23の配管例は、ワンタッチジョイント144と、容器1内に配置される内部管145とを備えている。内部管145は、容器1に貯留される液体の液面高さよりも長い長さを有する直線管である。内部管145の上端は閉鎖空間A内に開口し、下端にはワンタッチジョイント144が取り付けられている。ワンタッチジョイント144のジョイント部分は、容器1の底壁から下方に突出している。テーブルBには、
図22の配管例と同様なレセプタクル144Aが具備されている。この配管例によれば、ワンタッチジョイント144をレセプタクル144Aに位置合わせした状態で、容器1をテーブルBに載置するだけで、閉鎖空間Aに対する空気通路を確保できる。
【0088】
図24の配管例は、配管アダプタ15にピペットチップ146の先端を嵌め入れる配管例である。配管アダプタ15の内周面には、密閉性を確保するためのシールリング16が取り付けられる。ピペットチップ146は、先端開口を通して空気の吸引/吐出を行うことができる。ピペットチップ146は、ピストン部材の機械的動作により前記吸引/吐出を行うものや、手動で前記吸引/吐出を行うものを用いることができる。あるいは、吸液していない分注チップ41を、ピペットチップ146に代替して用いることもできる。ピペットチップ146の動作により、閉鎖空間Aに対する空気の吐出及び吸引を行うことができる。
【0089】
なお、上述した具体的実施形態には以下の構成を有する発明が主に含まれている。
【0090】
本発明の一局面に係る対象物の保持装置は、液体を貯留する容器であって、貯留した液体中に対象物を投入させるための上部開口と、底壁とを備える容器と、前記対象物を保持すると共に、保持している前記対象物を、前記上部開口を通して前記容器内へ投入する投入部材と、上面と下面とを有し、前記上面が前記上部開口に対向し、前記下面が前記容器の前記底壁に対して間隔を置いた状態で前記液体中に浸漬され、前記上面側に配置され前記対象物を担持する1又は複数の保持部と、前記保持部の配置位置に形成され前記上面から前記下面に貫通する貫通孔とを備えるプレートと、前記投入部材による前記対象物の投入後に、前記上面の側から前記下面の側に向けて制御された流速で前記貫通孔を通過する液流を発生させることで、前記対象物が前記投入から前記保持部に担持されるまでの速度を調整する液流調整機構と、を備える。
【0091】
上記の保持装置によれば、対象物は、容器が貯留する液体中に浸漬されたプレートの保持部に保持される。保持部には、貫通孔が付設されている。液流調整機構は、前記対象物の投入後に、プレートの上面の側から下面の側に向けて制御された流速で前記貫通孔を通過する液流を発生させる。前記液流は、投入された対象物の沈降に影響を与える。従って、前記対象物が前記プレートに保持されるまでの速度を、前記液流によって調整することができる。
【0092】
上記の保持装置において、前記保持部は、上部が開口した凹部であり、前記貫通孔の前記上面の側の開口は、前記凹部の底面に配置されていることが望ましい。
【0093】
この保持装置によれば、保持部が凹部からなるので、対象物を凹部の側壁面で拘束した状態で良好に保持することができる。また、貫通孔の開口が凹部の底面に配置されているので、対象物を前記液流によって凹部に導き易い利点がある。
【0094】
上記の保持装置において、前記投入部材が、対象物が混合された懸濁液を保持すると共に、前記懸濁液の吐出口を備えたチップ部材であり、前記チップ部材は、前記懸濁液を、前記上部開口を通して前記容器内へ吐出することが望ましい。
【0095】
この保持装置によれば、対象物が懸濁液に混合された状態で容器に投入されるので、飛散の怖れなく対象物を容器内の液体中へ投入させることができる。また、投入動作も、前記チップ部材の吐出動作だけであるので、簡易且つ容易である。
【0096】
上記の保持装置において、前記容器は、前記液体を所定の液面高さで貯留する容器であり、前記上部開口を画定する上端部と、前記プレートの周縁を保持する下端部とを備える筒状の内周壁と、前記内周壁に連設される上縁部と、前記底壁に連設される下縁部とを備える筒状の外周壁と、を備え、前記容器内には、前記内周壁、前記外周壁、前記底壁及び前記プレートによって囲繞領域が形成され、前記液体の液面が前記プレートよりも上方に位置するように当該容器が前記液体を貯留した状態においては、前記囲繞領域内の液面上に閉鎖空間が形成され、前記液流調整機構は、前記懸濁液の吐出の後に、前記閉鎖空間の空気を制御された流量で抜くことで、前記液流を発生させることが望ましい。
【0097】
この保持装置によれば、容器及びプレートの形状的と液面高さの設定とにより、前記囲繞領域内の液面上に閉鎖空間が形成される。前記液流は、前記閉鎖空間の空気を抜くことにより形成される。従って、前記液流をシンプルな機構で発生させることができる。
【0098】
この場合、保持装置は、前記チップ部材が、前記懸濁液を単位時間当たり吐出量V1で前記容器内へ吐出する場合に、前記液流調整機構は、単位時間当たりの流量がV1よりも少ない流量V2で、前記閉鎖空間の空気を抜くことが望ましい。
【0099】
この保持装置によれば、V1>V2の関係で、前記懸濁液の吐出と前記閉鎖空間からの空気抜きが実行されるので、対象物をゆっくりとプレート上に沈降させることができる。従って、対象物へのダメージを抑制することができる。
【0100】
上記の保持装置において、前記容器は、前記閉鎖空間に連通する作業孔を備え、前記作業孔に一端が接続され、他端が大気に開放された空気抜き用の配管をさらに備え、前記液流調整機構は、前記配管に組み付けられた流量規制部を備える。
【0101】
この保持装置によれば、前記懸濁液の吐出によって加圧された状態となる前記閉鎖空間の空気を、前記配管を通して抜くことができる。この配管には流量規制部が組み付けられているので、前記液流の速度を前記流量規制部による規制度合いによって制御することができる。
【0102】
この場合、保持装置は、前記作業孔と前記流量規制部との間において前記配管に分岐接続され、前記配管内に空気を吐出することが可能なポンプをさらに備えることが望ましい。
【0103】
この保持装置によれば、前記配管による空気抜き時にポンプから空気を当該配管に送り込むことにより、前記閉鎖空間の空気が急激に抜けてしまうことを防止できる。
【0104】
上記の対象物の保持装置において、前記対象物が、生体由来の細胞であること、とくに細胞凝集塊であることが望ましい。
【0105】
以上説明した本発明に係る対象物の保持装置によれば、容器に投入された対象物を容器中の液体に浸漬されたプレートにて保持させるに際し、前記対象物が前記プレートに保持されるまでの速度を調整することができる。従って、対象物にダメージや変形を与えず当該対象物の的確な画像を得ることができ、また作業効率の良い対象物の保持装置を提供することができる。