(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記複合圧電体が配設された前記基材の一面側とは反対の他面側で、前記基材と前記成形樹脂体とが一体になっていることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の圧電デバイス。
前記第1電極層及び前記第2電極層の表面粗さの最大高さ(Ry)が、前記圧電体層の厚さの半分以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の圧電デバイス。
【背景技術】
【0002】
圧電素子は、電気エネルギーと機械エネルギーとの間のエネルギー変換行うことができ、このような圧電素子が各種センサに広く用いられている。一般的に知られている圧電素子は、セラミック誘電体を用いたものが多く、高温で焼結して作製されたタイプが用いられている。
【0003】
このような圧電デバイスとして、特許文献1(従来例1)では、
図8に示すような誘電体の粉体を混ぜて固めて高温で焼結したタイプの圧電素子800が開示されている。
図8は、従来例1の圧電素子800を模式的に示した断面図である。従来例1の圧電素子800は、
図8に示すように、基材801に例えばジルコニアを用い、上下の導電層(第1導電層810、第2導電層830)に例えばインジウム‐すず‐酸化物を用い、圧電体層(誘電体層)820に例えばチタン酸鉛やチタン酸ジルコニウム酸鉛を用い、450℃から800℃という高温で熱処理を行って作製している。
【0004】
従来例1のような圧電素子800では、焼成して焼き固めた誘電体を利用しているので、可撓性が要求されるような各種センサや発電に利用する用途には、殆ど使用できなかった。そこで、特許文献2(従来例2)で提案されるような複合圧電体(高分子複合圧電体910)が注目されてきた。
図9は、従来例2の高分子複合圧電体910を模式的に示した断面図である。
【0005】
従来例2の高分子複合圧電体(圧電コンポジット)910は、
図9に示すように、シアノエチル化ポリビニルアルコール(シアノエチル化PVA)からなる高分子マトリックス912中に、強誘電体材料からなる圧電体粒子914が均一に分散されている複合体916から構成されており、複合体916の下面916bに下部電極920が設けられているとともに、上面916aに上部電極922が設けられている。そして、複合体916が上下方向に分極処理(ポーリング)されている。このように、高分子複合圧電体910は、高分子マトリックス912中に圧電体粒子914が均一に分散されたコンポジット体で柔軟性を有しているので、可撓性が要求されるような用途に適用することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、このような複合圧電体(高分子複合圧電体910)に対して、得られる出力をより大きくしたいという要望があった。しかしながら、複合圧電体はコンポジット体なので、出力に対して大きく効いてくる厚みを従来例1の圧電素子800のように容易に大きくすることができないという課題があった。
【0008】
一方、このような複合圧電体を曲面形状で用いたいという要望もあり、この要望に対して、発明者等は、複合圧電体を基材に形成し、この基材を曲面形状を有する基体に貼り付けることを試みた。しかしながら、貼り付ける際に塗布した接着層の厚みにバラツキが生じ、出力される特性に悪影響を及ぼすことがあった。しかも2次元以上の曲面形状の場合には、曲面形状に倣ったように基材を貼り付けることが難しく、出力される特性に更に悪影響を及ぼすという課題があった。
【0009】
本発明は、上述した課題を解決するもので、複合圧電体が曲面形状を有する成形樹脂体に支持され、高い出力が得られる圧電デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題を解決するために、本発明の圧電デバイスは、可撓性で熱変形が可能な基材と、該基材上に配設された複合圧電体と、を備え、前記複合圧電体の変形に応じた出力が得られる圧電デバイスであって、前記複合圧電体が、有機バインダに圧電体粒子が含有された圧電体層と、該圧電体層の一面側に積層された第1電極層と、前記圧電体層の他面側に積層された第2電極層と、を有し、前記基材がインサート成形されて、曲面形状を有する成形樹脂体と一体になっていることを特徴としている。
【0011】
これによれば、本発明の圧電デバイスは、成形樹脂体が複合圧電体のベース基材となり、ベース基材の厚みが増すこととなる。このため、圧電デバイスを同じ量だけ変形させた場合に得られる出力が大きくなる。また、2次元以上の曲面形状であっても、その形状に倣って複合圧電体が形成されることとなる。これらのことにより、複合圧電体が曲面形状を有する成形樹脂体に支持され、高い出力が得られる圧電デバイスを提供することができる。
【0012】
また、本発明の圧電デバイスは、前記圧電体粒子が分極された強誘電体であり、前記圧電体粒子のキュリー温度が250℃以上であることを特徴としている。
【0013】
これによれば、成形樹脂体のインサート成形の際に、250℃程度に加熱された溶融樹脂が金型内に流されたとしても、金型内の圧電体層の温度をキュリー温度以下とすることができる。このため、分極処理が行われた圧電体粒子の分極が消失されるのを抑制することが可能となる。
【0014】
また、本発明の圧電デバイスは、前記圧電体粒子のキュリー温度が375℃以上の温度であることを特徴としている。
【0015】
これによれば、成形樹脂体のインサート成形の際に、250℃程度に加熱された溶融樹脂が金型内に流されたとしても、金型内の圧電体層の温度をキュリー温度の2/3以下とすることができる。このため、一般的に強誘電体の脱分極の起こり始める脱分極温度がキュリー点の2/3程度であるとされているので、成形樹脂体のインサート成形の際の熱で、圧電体粒子の分極が確実に消失されなく、確実な圧電性能を有した圧電デバイスを得ることができる。
【0016】
また、本発明の圧電デバイスは、前記基材が熱可塑性樹脂からなり、前記有機バインダが熱可塑性樹脂からなり、前記第1電極層が、熱可塑性樹脂の第1バインダ樹脂と、該第1バインダ樹脂中に分散した第1導電性粒子と、を有し、前記第2電極層が、熱可塑性樹脂の第2バインダ樹脂と、該第2バインダ樹脂中に分散した第2導電性粒子と、を有し、前記有機バインダが250℃における溶融粘度が300Pa・s以上であることを特徴としている。
【0017】
これによれば、基材、有機バインダ、第1バインダ樹脂及び第2バインダ樹脂がいずれも熱可塑性樹脂からなるので、成形樹脂体のインサート成形の際に、基材、第1電極層、圧電体層、第2電極層が軟化することで、基材及び複合圧電体の形状を金型の形状に倣ったものとすることができる。また、第1電極層と第2電極層との間に位置する圧電体層の有機バインダとして、250℃における溶融粘度が300Pa・s以上であるものを用いたので、成形樹脂体のインサート成形の際に、250℃程度に加熱された溶融樹脂が金型内に流されたとしても、圧電体層の有機バインダの剛性がある程度保たれるので、インサート成形時の熱で、第1電極層と第2電極層とが短絡するのを防ぐことができる。
【0018】
また、本発明の圧電デバイスは、前記複合圧電体が配設された前記基材が、前記インサート成形される前に加熱及び加圧されて曲面形状に変形されており、前記有機バインダが、140℃における貯蔵弾性率が1MPa以上で、かつ損失弾性率が0.1MPa以上であることを特徴としている。
【0019】
これによれば、複合圧電体が配設された基材を曲面形状に熱変形するプレフォーミングにおいて、140℃前後の加熱と加圧による圧力とが複合圧電体にかけられたとしても、圧電体層が加圧に耐えられる剛性を有しており、第1電極層と第2電極層間が短絡することを防止できる。このことにより、確実な圧電性能を有した複合圧電体が得られ、出力性能がより優れた圧電デバイスを提供することができる。
【0020】
また、本発明の圧電デバイスは、前記複合圧電体が配設された前記基材の一面側とは反対の他面側で、前記基材と前記成形樹脂体とが一体になっていることを特徴としている。
【0021】
これによれば、成形樹脂体の厚みに加え基材の厚みがベース基材の厚みとなる。このため、ベース基材のより増した厚みに応じて圧電体層の伸びが大きくなるので、複合圧電体からの出力がより大きくなる。このことにより、より感度の大きい圧電デバイスを提供することができる。
【0022】
また、本発明の圧電デバイスは、前記基材の一面側には、前記複合圧電体を覆う熱可塑性樹脂からなるオーバーコート層が設けられていることを特徴としている。
【0023】
これによれば、オーバーコート層が熱可塑性樹脂からなるので、インサート成形時において、オーバーコート層が軟化することで、成形樹脂体の形状に倣って変形することができる。また、基材の一面側の最も外側にオーバーコート層を設けたので、このオーバーコート層で複合圧電体を保護することができる。
【0024】
また、本発明の圧電デバイスは、前記第1電極層及び前記第2電極層の表面粗さの最大高さ(Ry)が、前記圧電体層の厚さの半分以下であることを特徴としている。
【0025】
これによれば、第1電極層と第2電極層との互いに対向する向きにおいて、最も突出する位置が重なったとしても、第1電極層と第2電極層とが圧電体層内で短絡することを防ぐことができる。
【0026】
また、本発明の圧電デバイスは、前記圧電体粒子がニオブ酸カリウムであることを特徴としている。
【0027】
これによれば、より感度特性が良い複合圧電体が得られ、出力性能がより優れた圧電デバイスを提供することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の圧電デバイスは、成形樹脂体が複合圧電体のベース基材となり、ベース基材の厚みが増すこととなる。このため、圧電デバイスを同じ量だけ変形させた場合に得られる出力が大きくなる。また、2次元以上の曲面形状であっても、その形状に倣って複合圧電体が形成されることとなる。これらのことにより、複合圧電体が曲面形状を有する成形樹脂体に支持され、高い出力が得られる圧電デバイスを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0031】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態の圧電デバイス101を説明する斜視図である。
図2は、
図1に示すY1側から見た圧電デバイス101の側面図である。
図3は、
図2に示すP部分の縦断面図である。
図4は、圧電デバイス101の複合圧電体5の部分を示した断面模式図である。
図4では、説明を分かり易くするため、断面を示すハッチングは入れていない。なお、
図1ないし
図4は、説明を分かり易くするために模式的に示しているので、実際のサイズとは異なっており、特に、厚み方向(
図3に示すZ方向)のサイズは大きく異なっている。
【0032】
本発明の第1実施形態の圧電デバイス101は、
図1及び
図2に示すように、上面側にドーム状の曲面形状を有し全体が六角形状に形成されており、
図3に示すように、曲面形状を有する成形樹脂体1と、成形樹脂体1と一体になっている基材3と、基材3の一面3a上に配設された複合圧電体5と、複合圧電体5を覆うオーバーコート層7と、から構成されている。他に、本発明の第1実施形態では、成形樹脂体1と基材3との間に、接着を確実なものにするための薄い粘着剤N2が用いられている。そして、圧電デバイス101は、操作者がドーム状の曲面形状の部分を押圧等の操作を行うことによりその部分が変形し、その部分の複合圧電体5が変形してその変形に応じた出力が得られるものである。
【0033】
先ず、圧電デバイス101の成形樹脂体1は、その材質として、アクリル樹脂(PMMA、Polymethyl methacrylate)やポリカーボネート樹脂(PC、polycarbonate)、或いはそれらのポロマーアロイ樹脂等の合成樹脂を用い、射出成形機で射出成形して作製されている。そして、
図1に示すように、全体が六角形状でドーム状の曲面形状を有した形状で形成されている。その際には、基材3を金型に同時にセットして、インサート成形している。
【0034】
次に、圧電デバイス101の基材3は、ポリエチレンテレフタレート(PET、Polyethylene terephthalate)等の熱可塑性樹脂からなるシート状のフィルム基材であり、可撓性を有し、
図3に示すように、成形樹脂体1の曲面形状の凸側に配設され、基材3の他面3z側(一面3a側とは反対側)で、基材3と成形樹脂体1とが一体になっている。その際には、前述したように、成形樹脂体1と基材3との間に、接着を確実なものにするための薄い粘着剤N2が設けられている。
【0035】
また、基材3は、熱可塑性樹脂を用いているので、熱変形が可能であり、前述したインサート成形される前に加熱及び加圧されて、成形樹脂体1の上面における曲面形状に倣った形状で変形されている。なお、可撓性の基材3に、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)のフィルム基材を好適に用いたが、他の熱可塑性の合成樹脂、例えば、ポリエチレン(PE、Polyethylene)、ポリエチレンナフタレート(PEN、Polyethylene naphthalate)、ポリフェニレンサルファイド(PPS、Poly Phenylene Sulfide)等のフィルム基材であっても良い。また、熱変形が可能な基材3であれば良く、例えば、熱硬化性樹脂である、ポリイミド(PI、polyimide)、アラミド樹脂(芳香族ポリアミド、Aromatic polyamid)等のフィルム基材であっても良いし、前述した材質に無機フィラーを充填したフィラー入りのフィルム基材であっても良い。また、合成樹脂に限るものでもない。
【0036】
次に、圧電デバイス101の複合圧電体5は、
図3に示すように、基材3の一面3a側に設けられており、基材3の一面3a上に積層された第1電極層15と、第1電極層15上に積層された圧電体層55と、圧電体層55上に積層された第2電極層25と、を備えて構成されている。なお、この複合圧電体5は、所望のパターンで基材3上に形成されているが、
図1及び
図2では、説明を容易にするため、複合圧電体5の詳細なパターンは図示していない。
【0037】
先ず、複合圧電体5の第1電極層15は、
図4に示すように、例えばポリエステル樹脂等の熱可塑性樹脂からなる第1バインダ樹脂B1と、第1バインダ樹脂B1中のマトリックスに分散した、例えば導電性のカーボン粉等の第1導電性粒子C1と、を有して構成されている。その際には、第1バインダ樹脂B1中の第1導電性粒子C1の含有率は、5〜70(vol%)になるように調整され、その厚みは、5〜20μm程度である。
【0038】
次に、複合圧電体5の圧電体層55は、
図4に示すように、例えばポリエステル樹脂等の熱可塑性樹脂からなる有機バインダB5と、有機バインダB5のマトリックス中に分散した圧電体粒子P5と、を有して構成されている。そして、圧電体層55は、有機バインダB5に圧電体粒子P5が含有された層を形成しており、層厚方向に分極処理がされている。
【0039】
また、本発明の第1実施形態では、この有機バインダB5として、250℃における溶融粘度が300Pa・s以上で、140℃における貯蔵弾性率が1MPa以上で、かつ損失弾性率が0.1MPa以上である、特性を有した合成樹脂を用いている。
【0040】
また、本発明の第1実施形態では、この圧電体粒子P5として、ペロブスカイト構造の結晶構造であるニオブ酸カリウム(KNbO
3)を好適に用いている。これにより、より感度特性が良い複合圧電体5が得られ、出力性能がより優れたものとなる。なお、圧電体粒子P5として、圧電体粒子P5のキュリー温度が250℃以上、好ましくは375℃以上の温度の特性を有した圧電体(強誘電体)を用いるのが良い。例えば、375℃以上のキュリー温度を有した、435℃のニオブ酸カリウム、490℃のチタン酸鉛、570℃のメタニオブ酸鉛、573℃の水晶及び1210℃のニオブ酸リチウム等や、例えば、250℃以上のキュリー温度を有した、320℃のチタン酸ジルコン酸鉛(所謂PZT)及び365℃のニオブ酸ナトリウム等が挙げられる。
【0041】
最後に、複合圧電体5の第2電極層25は、第1電極層15と同様に、
図4に示すように、例えばポリエステル樹脂等の熱可塑性樹脂からなる第2バインダ樹脂B2と、第2バインダ樹脂B2中のマトリックスに分散した、例えば導電性のカーボン粉等の第2導電性粒子C2と、を有して構成されている。その際には、第2バインダ樹脂B2中の第2導電性粒子C2の含有率は、5〜70(vol%)になるように調整され、その厚みは、5〜20μm程度である。なお、第1バインダ樹脂B1及び第2バインダ樹脂B2として、熱可塑性樹脂を好適に用いたが、これに限るものではなく、エポキシ樹脂やフェノール樹脂等の熱硬化樹脂を用いても良い。
【0042】
以上のように構成された複合圧電体5は、
図3及び
図4に示すように、圧電体層55を挟むようにして、圧電体層55の一面55a側に第1電極層15、他面55z側に第2電極層25が設けられており、圧電体層55の変形に応じた出力が第1電極層15と第2電極層25との間に得られるものである。その際には、第1電極層15及び第2電極層25の表面粗さの最大高さ(Ry)を、圧電体層55の厚さの半分以下にするのがより好適である。なお、最大高さ(Ry)は、JIS規格、JIS B 0601(1994)で規定されている方法で測定した値とする。また、ここで云う圧電体層55の厚さ(A膜厚)とは、基材3に形成された第1電極層15の平均膜厚(B膜厚)を測定し、更に第1電極層15上に圧電体層55を形成した2層の平均膜厚(C膜厚)を測定し、C膜厚からB膜厚を引いた値をA膜厚(圧電体層55の厚さ)としている。
【0043】
これにより、第1電極層15と第2電極層25との互いに対向する向きにおいて、最も突出する位置が重なったとしても、第1電極層15と第2電極層25とが圧電体層55内で短絡することを防ぐことができる。
【0044】
最後に、圧電デバイス101のオーバーコート層7は、例えばアクリル樹脂等の熱可塑性樹脂からなる合成樹脂材料を用いており、
図3に示すように、基材3の一面3a側に複合圧電体5を覆うようにして設けられている。このため、成形樹脂体1の曲面形状に倣って変形することができ、凸状形状の曲面形状を有した成形樹脂体1の形状においても、このオーバーコート層7で複合圧電体5を保護することができる。
【0045】
以上のように構成された圧電デバイス101は、複合圧電体5が配設された基材3が曲面形状を有する成形樹脂体1と一体になっているので、成形樹脂体1が複合圧電体5のベース基材となり、ベース基材の厚みが増すこととなる。このため、圧電デバイス101を同じ量だけ変形させた場合に得られる出力が大きくなる。
【0046】
更に、複合圧電体5が配設された基材3の一面3a側とは反対の他面3z側で、基材3と成形樹脂体1とが一体になっているので、成形樹脂体1の厚みに加え基材3の厚みがベース基材の厚みとなる。このため、ベース基材のより増した厚みに応じて圧電体層55の伸びが大きくなるので、複合圧電体5からの出力がより大きくなる。このことにより、より感度の大きい圧電デバイス101を提供することができる。
【0047】
次に、本発明の第1実施形態に係わる圧電デバイス101の製造方法について、工程図を用いて、具体的な数値例を交えながら説明する。
図5は、本発明の第1実施形態に係わる圧電デバイス101の工程を説明する模式図であって、
図5(a)は、準備工程P1終了後を示した断面図であり、
図5(b)は、圧電体形成工程P2の第1電極工程P21終了後を示した断面図であり、
図5(c)は、圧電体形成工程P2の圧電体積層工程P22終了後を示した断面図であり、
図5(d)は、圧電体形成工程P2の第2電極工程P23終了後を示した断面図であり、
図5(e)は、圧電体形成工程P2のコート層形成工程P24終了後を示した断面図であり、
図5(f)は、圧電体形成工程P2の粘着剤工程P25終了後を示した断面図である。
図6は、
図5(f)に続く工程を説明した模式図であって、
図6(a)は、分極工程P3終了後を示した断面図であり、
図6(b)は、フォーミング工程P4終了後を示した断面図であり、
図6(c)は、成形工程P5終了後を示した断面図である。なお、
図5及び
図6は、説明を分かり易くするために模式的に示しているので、厚み方向(
図5及び
図6の上下方向)のサイズは実際のサイズと大きく異なっている。
【0048】
本発明の第1実施形態に係わる圧電デバイス101の製造方法は、
図5に示すように、基材3を準備する準備工程P1と、基材3の一面3aに複合圧電体5を形成する圧電体形成工程P2と、
図6に示すように、複合圧電体5に分極処理を行う分極工程P3と、基材3を熱変形させるフォーミング工程P4と、基材3をインサート成形する成形工程P5と、を有して構成されている。
【0049】
先ず、基材3となるフィルム基材を準備する準備工程P1を行う。この準備工程P1は、可撓性で熱変形が可能なフィルム基材を準備し、ひずみを緩和するためのアニール工程を行った後、所望の箇所に穴明けを行う穴加工工程を行う。そして、フィルム基材を所望のサイズに切断する切断工程を行い、
図5(a)に示す基材3を準備する。
【0050】
次に、基材3の一面3aに複合圧電体5を形成する圧電体形成工程P2を行う。この圧電体形成工程P2は、基材3の一面3a上に第1電極層15を形成する第1電極工程P21と、第1電極層15上に圧電体層55を積層する圧電体積層工程P22と、圧電体層55上に第2電極層25を積層する第2電極工程P23と、複合圧電体5を覆うようにして基材3の一面3a側にオーバーコート層7を形成するコート層形成工程P24と、基材3の他面3z側に粘着剤N2を設ける粘着剤工程P25と、有して構成されている。そして、いずれの工程においても、スクリーン印刷法を用いて、各層を形成している。
【0051】
圧電体形成工程P2の第1電極工程P21は、先ず、ポリエステル樹脂等の第1バインダ樹脂B1と、カルビトールアセテート等の溶剤と、カーボンブラックやグラファイト等のカーボン粉と、を混合して導電性のカーボンペーストとし、このカーボンペーストを所望のパターンで基材3の一面3a上に印刷する。そして、このカーボンペーストを加熱して乾燥及び固化させ、
図5(b)に示すように、基材3の一面3a上に第1電極層15を形成する。その際の第1電極層15の厚みは、5μm〜20μm程度である。また、第1電極層15における表面粗さの最大高さ(Ry)は、3μm〜8μm程度である。なお、カーボン粉としてグラファイトを用いた場合には、この最大高さ(Ry)を小さく抑えるために、グラファイトの平均粒径を小さくすることが好適であり、具体的には、平均粒径が1μm以下のグラファイトを用いるのが良い。
【0052】
圧電体形成工程P2の圧電体積層工程P22は、先ず、ポリエステル樹脂等の有機バインダB5とカルビトールアセテート等の溶剤とニオブ酸カリウム(KNbO
3)の圧電体粒子P5とを混合して圧電体ペーストとし、この圧電体ペーストを所望のパターンで第1電極層15上に印刷する。そして、この圧電体ペーストを加熱して乾燥及び固化させ、
図5(c)に示すように、第1電極層15上に圧電体層55を積層して形成する。その際の圧電体層55の厚みは、10μm〜25μm程度である。なお、この圧電体層55の印刷工程を繰り返して行うことで、圧電体層55の厚みを100μm程度にすることができる。
【0053】
圧電体形成工程P2の第2電極工程P23は、ポリエステル樹脂等の第2バインダ樹脂B2とカルビトールアセテート等の溶剤とカーボンブラックやグラファイト等のカーボン粉とを混合して導電性のカーボンペーストとし、このカーボンペーストを所望のパターンで圧電体層55上に印刷する。そして、このカーボンペーストを加熱して乾燥及び固化させ、
図5(d)に示すように、圧電体層55上に第2電極層25を積層して形成する。その際の第2電極層25の厚みは、第1電極層15と同様に、5μm〜20μm程度である。
【0054】
圧電体形成工程P2のコート層形成工程P24は、カルビトール等の溶剤にアクリル樹脂等の合成樹脂が溶かされた絶縁インクを用い、この絶縁インクを基材3の一面3a側に複合圧電体5を覆うようにして印刷する。そして、この絶縁インクを加熱して乾燥及び固化させ、
図5(e)に示すように、基材3の一面3a側にオーバーコート層7を形成する。その際のオーバーコート層7の厚みは、5μm〜15μm程度である。
【0055】
圧電体形成工程P2の粘着剤工程P25は、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)やポリカーボネート樹脂(PC)との接着性が良好な粘着剤N2を用い、この粘着剤N2を基材3の他面3z側に印刷する。そして、この粘着剤N2を乾燥させ、
図5(f)に示すように、基材3の他面3z側に粘着剤N2を形成する。
【0056】
次に、複合圧電体5の圧電体層55に分極処理を行う分極工程P3を行う。この分極工程P3は、圧電体層55を130℃前後の温度に加熱して、第1電極層15及び第2電極層25間に圧電体層55の厚みに応じた直流電圧を1〜10(V/μm)程度、印加する。そして、常温に戻した後、第1電極層15と第2電極層25との間を図示しない端子部において短絡させて余分な容量を除去して処理を終了する。なお、直流電圧の印加は、4〜6(V/μm)が好適である。このようにして、圧電体層55は、
図6(a)に示すような分極された状態へと、簡単に処理を行うことができる。なお、
図6(a)に示す一点鎖線は、分極の方向を示している。
【0057】
次に、基材3を熱変形させて曲面形状を形成するフォーミング工程P4を行う。このフォーミング工程P4は、先ず、複合圧電体5が形成された基材3を金型に挟み込んで型締めを行い、次に、金型で、140℃前後の加熱と6kN前後の加圧を行う。そして、金型に形成された曲面形状に倣うようにして基材3を熱変形し、
図6(b)に示すように、曲面形状を有した基材3が形成される。この際に、本発明の第1実施形態では、圧電体層55の有機バインダB5として、140℃における貯蔵弾性率が1MPa以上でかつ損失弾性率が0.1MPa以上であるものを用いたので、140℃前後の加熱と加圧による圧力とが複合圧電体5にかけられたとしても、圧電体層55が加圧に耐えられる剛性を有しており、第1電極層15と第2電極層25間が短絡することを防止できる。なお、この金型の曲面形状は、成形樹脂体1の曲面形状に倣った形状で作製されている。
【0058】
最後に、成形樹脂体1を成形する成形工程P5を行う。この成形工程P5は、ポリカーボネート樹脂(PC)等の熱可塑性樹脂を用い、曲面形状を有した基材3を80℃程度に加熱された成形金型にセットして、インサート成形を行う。そして、
図6(c)に示すように、成形金型で形成された成形樹脂体1の曲面形状に倣うようにして基材3が熱変形し、曲面形状を有する成形樹脂体1と基材3とが一体になって形成される。この際には、250℃程度に加熱された溶融樹脂が金型内に流されて、複合圧電体5が形成された基材3に対して加熱及び加圧が行われる。このような場合であっても、圧電体粒子P5のキュリー温度が250℃以上であるので、金型内の圧電体層55の温度をキュリー温度以下とすることができる。このため、分極処理が行われた圧電体粒子P5の分極が消失されるのを抑制することが可能となる。しかも、圧電体粒子P5のキュリー温度が375℃以上の場合は、金型内の圧電体層55の温度をキュリー温度の2/3以下とすることができる。このため、一般的に強誘電体の脱分極の起こり始める脱分極温度がキュリー点の2/3程度であるとされているので、成形樹脂体1のインサート成形の際の熱で、圧電体粒子P5の分極が確実に消失されなく、確実な圧電性能を有した圧電デバイス101を得ることができる。
【0059】
また、基材3、有機バインダB5、第1バインダ樹脂B1、第2バインダ樹脂B2及びオーバーコート層7がいずれも熱可塑性樹脂からなるので、成形樹脂体1のインサート成形の際に、基材3、第1電極層15、圧電体層55、第2電極層25及びオーバーコート層7が軟化することで、基材3及び複合圧電体5の形状を金型の形状に倣ったものとすることができる。このことにより、2次元以上の曲面形状であっても、その形状に倣って複合圧電体5が形成されることとなる。
【0060】
また、第1電極層15と第2電極層25との間に位置する圧電体層55の有機バインダB5として、250℃における溶融粘度が300Pa・s以上であるものを用いたので、成形樹脂体1のインサート成形の際に、250℃程度に加熱された溶融樹脂が金型内に流されたとしても、圧電体層55の有機バインダB5の剛性がある程度保たれるので、インサート成形時の熱で、第1電極層15と第2電極層25とが短絡するのを防ぐことができる。
【0061】
また、基材3の一面3a側に形成された最も外側にオーバーコート層7を設けているので、インサート成形時において、オーバーコート層7で複合圧電体5を保護することができる。
【0062】
以上のように構成された本発明の第1実施形態の圧電デバイス101における、効果について、検証結果を交えながら、以下に纏めて説明する。
図7は、本発明の第1実施形態に係わる圧電デバイス101のシミュレーション結果を示したグラフである。横軸はベース基材の厚みであり、縦軸は出力電圧値である。ここで云うベース基材の厚みとは、基材3の厚みと成形樹脂体1の厚みを合わせた厚みである。
【0063】
本発明の第1実施形態の圧電デバイス101は、複合圧電体5が配設された基材3がインサート成形されて、曲面形状を有する成形樹脂体1と一体になっているので、成形樹脂体1が複合圧電体5のベース基材となり、ベース基材の厚みが増すこととなる。このため、
図7に示すように、圧電デバイス101を同じ量だけ変形させた場合に得られる出力がベース基材の厚みに応じて大きくなる。また、2次元以上の曲面形状であっても、その形状に倣って複合圧電体5が形成されることとなる。これらのことにより、複合圧電体5が曲面形状を有する成形樹脂体1に支持され、高い出力が得られる圧電デバイス101を提供することができる。
【0064】
また、圧電体粒子P5のキュリー温度が250℃以上であるので、成形樹脂体1のインサート成形の際に、250℃程度に加熱された溶融樹脂が金型内に流されたとしても、金型内の圧電体層55の温度をキュリー温度以下とすることができる。このため、分極処理が行われた圧電体粒子P5の分極が消失されるのを抑制することが可能となる。
【0065】
また、圧電体粒子P5のキュリー温度が375℃以上であるので、成形樹脂体1のインサート成形の際に、250℃程度に加熱された溶融樹脂が金型内に流されたとしても、金型内の圧電体層55の温度をキュリー温度の2/3以下とすることができる。このため、一般的に強誘電体の脱分極の起こり始める脱分極温度がキュリー点の2/3程度であるとされているので、成形樹脂体1のインサート成形の際の熱で、圧電体粒子P5の分極が確実に消失されなく、確実な圧電性能を有した圧電デバイス101を得ることができる。
【0066】
また、基材3、有機バインダB5、第1バインダ樹脂B1及び第2バインダ樹脂B2がいずれも熱可塑性樹脂からなるので、成形樹脂体1のインサート成形の際に、基材3、第1電極層15、圧電体層55、第2電極層25が軟化することで、基材3及び複合圧電体5の形状を金型の形状に倣ったものとすることができる。また、第1電極層15と第2電極層25との間に位置する圧電体層55の有機バインダB5として、250℃における溶融粘度が300Pa・s以上であるものを用いたので、成形樹脂体1のインサート成形の際に、250℃程度に加熱された溶融樹脂が金型内に流されたとしても、圧電体層55の有機バインダB5の剛性がある程度保たれるので、インサート成形時の熱で、第1電極層15と第2電極層25とが短絡するのを防ぐことができる。
【0067】
また、有機バインダB5として、140℃における貯蔵弾性率が1MPa以上でかつ損失弾性率が0.1MPa以上であるものを用いたので、複合圧電体5が配設された基材3を曲面形状に熱変形するプレフォーミングにおいて、140℃前後の加熱と加圧による圧力とが複合圧電体5にかけられたとしても、圧電体層55が加圧に耐えられる剛性を有しており、第1電極層15と第2電極層25間が短絡することを防止できる。このことにより、確実な圧電性能を有した複合圧電体5が得られ、出力性能がより優れた圧電デバイス101を提供することができる。
【0068】
また、複合圧電体5が配設された基材3の一面3a側とは反対の他面3z側で、基材3と成形樹脂体1とが一体になっているので、成形樹脂体1の厚みに加え基材3の厚みがベース基材の厚みとなる。このため、ベース基材のより増した厚みに応じて圧電体層55の伸びが大きくなるので、複合圧電体5からの出力がより大きくなる。このことにより、より感度の大きい圧電デバイス101を提供することができる。
【0069】
また、オーバーコート層7が熱可塑性樹脂からなるので、インサート成形時において、オーバーコート層7が軟化することで、成形樹脂体1の形状に倣って変形することができる。また、基材3の一面3a側の最も外側にオーバーコート層7を設けたので、このオーバーコート層7で複合圧電体5を保護することができる。
【0070】
また、電極層(第1電極層15及び第2電極層25)の表面粗さの最大高さ(Ry)が圧電体層55の厚さの半分以下なので、第1電極層15と第2電極層25との互いに対向する向きにおいて、最も突出する位置が重なったとしても、第1電極層15と第2電極層25とが圧電体層55内で短絡することを防ぐことができる。
【0071】
また、圧電体粒子P5がニオブ酸カリウムであるので、より感度特性が良い複合圧電体5が得られ、出力性能がより優れた圧電デバイス101を提供することができる。
【0072】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば次のように変形して実施することができ、これらの実施形態も本発明の技術的範囲に属する。
【0073】
<変形例1>
上記第1実施形態では、上面側にドーム状の曲面形状を有した形状の成形樹脂体1であったが、これに限るものではない。例えば、曲面形状が凹状の形状であっても良いし、曲面形状が細長い形状であっても良いし、角部に曲面形状を有した形状であっても良いし、全体が曲面形状であっても良い。
【0074】
<変形例2>
上記第1実施形態では、成形樹脂体1の材質に熱可塑性樹脂を用いて、射出成形を行ない成形樹脂体1を成形したが、熱硬化性樹脂を用いても良い。その際には、トランスファー成形を行い成形樹脂体を成形する。このトランスファー成形の場合は、溶融樹脂の金型内での温度が170〜180℃程度なので、250℃以上のキュリー温度よりも低くなっており、インサート成形の場合と比較して、分極処理が行われた圧電体粒子P5の分極が消失される虞をより低減されている。
【0075】
<変形例3>
上記第1実施形態では、インサート成形される前に、複合圧電体5が配設された基材3を予め加熱及び加圧するフォーミング工程P4を行ったが、このフォーミング工程P4を行わないこともできる。その際には、成形樹脂体1の成形時の熱と圧力で、基材3を曲面形状を有する形状にすることとなる。
【0076】
<変形例4>
上記第1実施形態では、複合圧電体5が配設された基材3の他面3z側で、基材3と成形樹脂体1とを一体にした構成であったが、複合圧電体5が配設された基材3の一面3a側で、基材3と成形樹脂体1とを一体にした構成であっても良い。
【0077】
<変形例5>
上記第1実施形態では、成形樹脂体1と基材3との接着を確実なものにするため、薄い粘着剤N2を用いた構成としたが、粘着剤N2を用いなく、成形樹脂体1と基材3とを、直に接着して一体化しても良い。
【0078】
<変形例6>
上記第1実施形態では、複合圧電体5として、圧電体層55を挟んで第1電極層15及び第2電極層25の一組で構成したが、これに限るものではない。例えば、第2電極層25の上層に新たな圧電体層及び新たな電極層を設け、第2電極層25を第1電極層とし、新たな電極層を第2電極層として、2層の圧電体層(圧電体層55と新たな圧電体層)を設ける構成でも良い。これにより、複合圧電体から得られる出力を大きくすることができる。また、このようにして積層した2層の圧電体層の構成に限らず、3層以上の複数層の圧電体層を構成しても良い。
【0079】
本発明は上記実施の形態に限定されず、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更することが可能である。