(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
工程(3)で得られる粉末状のカチオン化ヒドロキシアルキルセルロース中の揮発分量が7.0質量%未満である、請求項1又は2に記載のカチオン化ヒドロキシアルキルセルロースの製造方法。
工程(2)で得られる乾燥処理されたカチオン化ヒドロキシアルキルセルロース中の水分量が5.0質量%以下である、請求項1〜3のいずれかに記載のカチオン化ヒドロキシアルキルセルロースの製造方法。
工程(2)で得られる乾燥処理されたカチオン化ヒドロキシアルキルセルロース中の揮発分量が7.0質量%以上15質量%以下である、請求項1〜4のいずれかに記載のカチオン化ヒドロキシアルキルセルロースの製造方法。
工程(1)で得られる粗カチオン化ヒドロキシアルキルセルロース中の水分量が10質量%以上100質量%以下である、請求項1〜5のいずれかに記載のカチオン化ヒドロキシアルキルセルロースの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[カチオン化ヒドロキシアルキルセルロースの製造方法]
本発明のカチオン化ヒドロキシアルキルセルロースの製造方法(以下、「本発明の製造方法」ともいう。)は、下記工程(1)〜(3)を有する。
工程(1):粉末状の原料セルロースを、該原料セルロースに対し10質量%以上100質量%以下の水の存在下でアルキレンオキシド及びカチオン化剤と反応させて、粗カチオン化ヒドロキシアルキルセルロースを得る工程
工程(2):工程(1)で得られた粗カチオン化ヒドロキシアルキルセルロースから、大気圧以下かつ40℃以上80℃以下の条件下で、機械撹拌式混合機を用いて水を除去し、乾燥処理されたカチオン化ヒドロキシアルキルセルロースを得る工程
工程(3):工程(2)で得られた乾燥処理されたカチオン化ヒドロキシアルキルセルロースから、大気圧以下かつ40℃以上80℃以下の条件下で、流動層乾燥機を用いて揮発分を除去し、粉末状のカチオン化ヒドロキシアルキルセルロースを得る工程
上記工程(1)〜(3)を有する本発明の製造方法により、ケーキングが抑制され、かつ水溶解性にも優れる粉末状のカチオン化ヒドロキシアルキルセルロースを得ることができる。
【0008】
ここで、カチオン化ヒドロキシアルキルセルロースのケーキングについて説明する。
粉末状のカチオン化ヒドロキシアルキルセルロースをパッキングケース内で保管すると凝結して押し固まる場合がある。この現象はケーキングと呼ばれる。ケーキングが発生したカチオン化ヒドロキシアルキルセルロースは流動性も低く、これを粉末状に戻すためには荷重をかける必要があり、取り扱い性の面でも好ましくない。
ケーキング発生の主要因は、カチオン化ヒドロキシアルキルセルロースの製造時に用いるアルキレンオキシドが、セルロースと反応せずに加水分解したジオールを形成する反応、さらに該ジオールとアルキレンオキシドが反応してアルキレンオキシドオリゴマー等を形成する反応等の副反応が進行し、当該アルキレンオキシドオリゴマーを主成分とする、アルキレンオキシド由来の副生成物が製品中に残存することにあると考えられている。
上記副生成物が生じる際の副反応は、以下の式で示される。
【0010】
(上記式において、(a)はアルキレンオキシド、(b)はアルキレングリコール、(c1)及び(c2)はアルキレンオキシドオリゴマーを示す。Rはアルキル基を示す。)
したがって、カチオン化ヒドロキシアルキルセルロースの製造において、前記工程(1)で粗カチオン化ヒドロキシアルキルセルロースを得た後に、上記アルキレンオキシドに由来する副生成物を除去する工程を有する必要がある。該工程を有することで、粉末状のカチオン化ヒドロキシアルキルセルロースのケーキングを抑制することができる。
当該副生成物は揮発分の一部として除去することができる。なお本発明において「揮発分」とは、水と、水以外の揮発性物質とを包含する概念であり、上記アルキレンオキシドに由来する副生成物は、水以外の揮発性物質に含まれる。
【0011】
次に、カチオン化ヒドロキシアルキルセルロースの水溶解性について説明する。カチオン化ヒドロキシアルキルセルロース中の水及び前記アルキレンオキシドに由来する副生成物は、粗カチオン化ヒドロキシアルキルセルロースを得た後に、大気圧以下の圧力条件下で加熱することにより除去できる。
しかしながら、カチオン化ヒドロキシアルキルセルロースを80℃を超える温度で加熱する工程を経ると、水不溶性のゲルが生成するという問題が生じることが本発明者らにより見出された。したがって本発明の製造方法では、水及び前記副生成物を80℃以下の温度条件下で除去することが必要である。これにより、製造工程上での水不溶性ゲルの生成を抑制し、カチオン化ヒドロキシアルキルセルロースの水溶解性を向上させることができる。
【0012】
以上を鑑みて、本発明者らは工程(1)で粗カチオン化ヒドロキシアルキルセルロースを得た後に、まず工程(2)で機械撹拌式混合機を用いて水を除去し、更に工程(3)で流動層乾燥機を用いて残余の揮発分を除去する工程を行うことで、粗カチオン化ヒドロキシアルキルセルロースから、水と前記アルキレンオキシドに由来する副生成物とを含む揮発分を80℃以下の温度条件下で効率よく除去することができ、本発明の上記課題を解決できることを見出したものである。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
<工程(1)>
工程(1)は、粉末状の原料セルロースを、該原料セルロースに対し10質量%以上100質量%以下の水の存在下でアルキレンオキシド及びカチオン化剤と反応させて、粗カチオン化ヒドロキシアルキルセルロースを得る工程である。反応系内の水の量が上記範囲であることで、粗カチオン化ヒドロキシアルキルセルロースの生産性を向上させ、ケーキングを抑制するという効果を奏する。反応系内の水の量は、反応速度を向上させ、生産性を向上させる観点から、好ましくは12質量%以上、より好ましくは15質量%以上である。また、アルキレンオキシド及びカチオン化剤の反応選択率の低下を抑制する観点、及び、揮発分を抑制し、ケーキングを抑制する観点から、好ましくは95質量%以下である。
【0014】
工程(1)において、粉末状の原料セルロースと、アルキレンオキシド及びカチオン化剤との反応方法、反応順序については特に制限はないが、反応効率の観点から、まず粉末状の原料セルロースとアルキレンオキシドとを反応させてヒドロキシアルキルセルロースを得る工程と、該ヒドロキシアルキルセルロースをカチオン化剤と反応させてカチオン化する工程とを順に有することが好ましい。
以下、工程(1)における好ましい粗カチオン化ヒドロキシアルキルセルロースの製造形態について説明する。
【0015】
(ヒドロキシアルキル化工程)
ヒドロキシアルキル化工程は、粉末状の原料セルロースとアルキレンオキシドとを反応させてヒドロキシアルキルセルロースを得る工程(以下「ヒドロキシアルキル化工程」ともいう。)である。ヒドロキシアルキル化工程は、下記工程A〜Cを有することが好ましい。
工程A:原料セルロースを粉砕処理し、粉末状の原料セルロースを得る工程
工程B:工程Aで得られた粉末状の原料セルロースと塩基化合物とを水の存在下で反応させ、粉末状のアルカリセルロースを得る工程
工程C:工程Bで得られた粉末状のアルカリセルロースとアルキレンオキシドとを反応させてヒドロキシアルキルセルロースを得る工程
【0016】
〔工程A〕
工程Aは、原料セルロースを粉砕処理し、粉末状の原料セルロースを得る工程である。工程Aで原料セルロースを粉末化することで、以後の反応を効率よく行うことができる。
【0017】
《原料セルロース》
本発明の原料セルロースとして用いられるセルロースとしては、化学的に純粋なセルロースの他、各種木材チップ、各種樹木の剪定枝材、間伐材、枝木材、建築廃材、工場廃材等の木材類;木材から製造される木材パルプ、綿の種子の周囲の繊維から得られるコットンリンターパルプ等のパルプ類;新聞紙、段ボール、雑誌、上質紙等の紙類;稲わら、とうもろこし茎等の植物茎・葉類;籾殻、パーム殻、ココナッツ殻等の植物殻類等、種々のセルロース含有原料を用いることができる。本発明においては、原料に用いる、化学的に純粋なセルロース又はセルロース含有原料をまとめて便宜的に「原料セルロース」という。
原料セルロース中のセルロースの平均重合度は特に限定はないが、本発明の製造方法で得られるカチオン化ヒドロキシアルキルセルロースを毛髪洗浄剤又は皮膚洗浄剤等に配合した場合にこれらの洗浄剤の性能を向上させる観点から、好ましくは100以上、より好ましくは200以上、更に好ましくは500以上、より更に好ましくは1000以上であり、また、同様の観点及び入手性の観点から、該重合度は好ましくは3000以下、より好ましくは2500以下、更に好ましくは2200以下、より更に好ましくは2000以下である。
原料セルロースの平均重合度とは、実施例に記載の銅−アンモニア法等により測定される粘度平均重合度をいう。
【0018】
本発明に用いられる原料セルロースの水分量は、後述するアルキレンオキシド及びカチオン化剤の反応選択率の低下を抑制する観点から、原料セルロースに対して、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下、更に好ましくは40質量%以下、より更に好ましくは30質量%以下である。
原料セルロースの水分量は、具体的には実施例に記載の方法により測定できる。
【0019】
粉末状の原料セルロースは、上記原料セルロースを必要に応じ裁断処理及び乾燥処理した後、粉砕処理することで得ることができる。
≪裁断処理≫
原料セルロースの種類や形状によっては、粉砕処理の前処理として裁断処理を行うことが好ましい。原料セルロースを裁断する方法は、原料セルロースの種類や形状により適宜の方法を選択することができるが、例えば、シュレッダー、スリッターカッター及びロータリーカッターから選ばれる1種以上の裁断機を使用する方法が挙げられる。
シート状の原料セルロースを用いる場合、裁断機としてシュレッダー又はスリッターカッターを使用することが好ましく、生産性の観点から、スリッターカッターを使用することがより好ましい。
スリッターカッターは、シートの長手方向に沿った縦方向にロールカッターで縦切りして、細長い短冊状とし、次に、固定刃と回転刃でシートの幅方向に短く横切りする裁断機であって、スリッターカッターを用いることにより、原料セルロースの形状をさいの目形状にすることができる。スリッターカッターとしては、株式会社ホーライ製のシートペレタイザを好ましく使用できる。
裁断処理後に得られる原料セルロースの大きさとしては、生産性の観点から、好ましくは1mm角以上、より好ましくは2mm角以上であり、後の粉砕処理における粉砕に要する負荷を軽減する観点及び後述する乾燥処理を効率よく容易に行う観点から、好ましくは70mm角以下、より好ましくは50mm角以下である。
【0020】
≪乾燥処理≫
原料セルロースを粉砕処理する際の水分量は、少ない方が好ましい。粉砕処理時の水分量の下限は、生産性の観点から、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上である。また、原料セルロースの粉砕効率の観点から、該水分量は好ましくは10質量%以下、より好ましくは7質量%以下、更に好ましくは4質量%以下、より更に好ましくは2質量%以下である。
一般に、市販のパルプ類、バイオマス資源として利用される紙類、木材類、植物茎・葉類、植物殻類等の原料セルロースは、5質量%を超える水分を含有しており、通常5〜30質量%程度の水分を含有している。したがって、原料セルロース、好ましくは裁断処理後に得られる原料セルロースの乾燥処理を行うことによって、原料セルロースの水分量を調整することが好ましい。
【0021】
乾燥方法としては、公知の乾燥手段を適宜選択すればよく、例えば、熱風受熱乾燥法、伝導受熱乾燥法、除湿空気乾燥法、冷風乾燥法、マイクロ波乾燥法、赤外線乾燥法、天日乾燥法、真空乾燥法、凍結乾燥法等が挙げられる。
乾燥処理はバッチ処理、連続処理のいずれでも可能であるが、生産性の観点から連続処理が望ましい。
【0022】
≪粉砕処理≫
粉砕処理に用いる粉砕機には特に制限はなく、原料セルロースを所望のメジアン径に粉末化できる装置であればよい。
粉砕機の具体例としては、高圧圧縮ロールミルや、ロール回転ミル等のロールミル、リングローラーミル、ローラーレースミル又はボールレースミル等の竪型ローラーミル、転動ボールミル、振動ボールミル、振動ロッドミル、振動チューブミル、遊星ボールミル又は遠心流動化ミル等の容器駆動媒体ミル、塔式粉砕機、攪拌槽式ミル、流通槽式ミル又はアニュラー式ミル等の媒体攪拌式ミル、高速遠心ローラーミルやオングミル等の圧密せん断ミル、乳鉢、石臼、マスコロイダー、フレットミル、エッジランナーミル、ナイフミル、ピンミル、カッターミル等が挙げられる。これらの中では、原料セルロースの粉砕効率及び生産性の観点から、容器駆動式媒体ミル又は媒体攪拌式ミルが好ましく、容器駆動式媒体ミルがより好ましく、振動ボールミル、振動ロッドミル又は振動チューブミル等の振動ミルが更に好ましく、振動ロッドミルがより更に好ましい。上記粉砕機は、1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
粉砕温度、粉砕時間等の粉砕条件には特に制限はなく、原料セルロースを所望のメジアン径を有する粉末状に粉砕できればよい。
【0023】
粉砕処理において、上記粉砕機を用いて原料セルロースの粗粉砕を行った後、更に小粒径化処理を行ってもよい。これにより、原料セルロースを効率よく小粒径化し、所望のメジアン径にすることができる。小粒径化処理に用いる装置としては、高速回転式微粉砕機等が挙げられる。
【0024】
工程Aで得られる粉末状の原料セルロースのメジアン径は、粉砕時のセルロースの重合度の低下を抑制する観点及び生産性の観点から、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上、更に好ましくは30μm以上、更により好ましくは40μm以上、より更に好ましくは50μm以上である。また、アルカリセルロースが収率よく生成する観点、アルキレンオキシド及びカチオン化剤との反応速度を向上させる観点から、好ましくは350μm以下、好ましくは300μm以下、より好ましくは200μm以下、更に好ましくは150μm以下、より更に好ましくは100μm以下である。
【0025】
また、工程Aで得られる粉末状の原料セルロースの結晶化度は、後述する工程Bでの反応性を向上させる観点から、好ましくは50%以下、より好ましくは40%以下、更に好ましくは30%以下である。該結晶化度は、原料セルロースの重合度の低下を抑制し、重合度が高いアルカリセルロースを高収率で得る観点から、好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上、更に好ましくは15%以上である。
本発明において、セルロースの結晶化度とは原料セルロースのI型結晶構造に由来する結晶化度を示し、X線結晶回折測定の結果から下記計算式(I)により求められる。
結晶化度(%)=〔(I
22.6−I
18.5)/I
22.6〕×100 (I)
〔式中、I
22.6は、X線回折におけるセルロースI型結晶の格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度を示し、I
18.5は、アモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折強度を示す。〕
【0026】
〔工程B〕
工程Bは、工程Aで得られた粉末状の原料セルロースと塩基化合物とを水の存在下で反応させ、粉末状のアルカリセルロースを得る工程である。
アルカリセルロースは、例えば、セルロースに、塩基量として該セルロースの主鎖を構成するセルロースのアンヒドログルコース単位(以下「AGU」ともいう。)1モルあたり0.3モル以上1.2モル以下の塩基化合物、及び水を添加して得られるアルカリセルロースが挙げられる。本明細書において塩基量(モル)とは、塩基化合物量(モル)に塩基の価数を乗じた値をいい、例えば、水酸化カルシウム等の2価の塩基化合物1モルは、塩基量としては2モルに相当する。
【0027】
《塩基化合物》
工程Bで用いられる上記塩基化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物、トリメチルアミン、トリエチルアミン等の3級アミン類等が挙げられる。これらの中では、入手性及び経済性の観点から、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物から選ばれる1種以上が好ましく、アルカリ金属水酸化物がより好ましく、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムから選ばれる1種以上が更に好ましい。
上記塩基化合物は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
塩基化合物の形状に特に限定はなく、固体又は液体であってよいし、水等の溶媒に溶解させた溶液の形であってよい。塩基化合物の添加方法には特に制限はないが、粉末状の原料セルロースと塩基化合物とを均一に混合する観点からは、塩基化合物の溶液を粉末状の原料セルロースに噴霧する方法が好ましい。
アルカリセルロース製造時の塩基化合物の添加量は、反応速度を向上させる観点から、塩基量としてAGU1モルあたり、好ましくは0.3モル以上、より好ましくは0.5モル以上、更に好ましくは0.7モル以上、より更に好ましくは0.9以上であり、また、最終的に得られるカチオン化ヒドロキシアルキルセルロースのカチオン基の均一性を向上させる観点、及び経済性の観点から、好ましくは1.2モル以下、より好ましくは1.1モル以下、更に好ましくは1.0モル以下である。
【0028】
アルカリセルロース製造時の水分量は、反応速度を向上させ、アルカリセルロースを高収率で得る観点から、原料セルロースに対して好ましくは10質量%以上、より好ましくは30質量%以上であり、更に好ましくは40質量%以上であり、また、アルキレンオキシド及びカチオン化剤の反応選択率の低下を抑制する観点、揮発分を抑制し、ケーキングを抑制する観点から、好ましくは100質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは70質量%以下、より更に好ましくは60質量%以下である。
【0029】
工程Bでは、アルカリセルロースの生成速度を加速する目的で、上記水分量に調整した後に、熟成を行うことが好ましい。熟成とは、水分量調整後の粉末状セルロースと塩基化合物との混合物を、撹拌しながら、又は撹拌せずに、所定の時間、特定温度下に置くことをいう。
熟成時の温度は、アルカリセルロースの生成速度の観点から、好ましくは35℃以上、より好ましくは40℃以上、更に好ましくは45℃以上であり、また、アルカリセルロースの重合度低下を抑制する観点から、好ましくは90℃以下、より好ましくは80℃以下、更に好ましくは70℃以下、更に好ましくは60℃以下である。
熟成時間は、熟成温度及び粉末状の原料セルロースのメジアン径等によりアルカリセルロース化の速度が変化することから、それに応じて適宜変更することができる。通常、室温においても24時間以内にアルカリセルロース化指数の増大が飽和に達する。よって生産性の観点から、熟成を行う場合の熟成時間は、好ましくは24時間以下であり、より好ましくは12時間以下、更に好ましくは6時間以下、より更に好ましくは4時間以下であり、また、アルカリセルロースを高収率で得る観点から、好ましくは0.1時間以上、より好ましくは0.2時間以上、更に好ましくは0.5時間以上、更により好ましくは1時間以上である。
上記の塩基化合物の添加、水の添加、及び熟成は、生成するアルカリセルロースの着色を避ける観点、及び粉末状の原料セルロースや生成するアルカリセルロースの重合度の低下を避ける観点から、必要に応じて窒素等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0030】
工程Bで用いる装置としては、粉末状の原料セルロースと塩基化合物との混合、撹拌が可能な、プロシェアミキサー、レーディゲミキサー、ハイスピードミキサー等のミキサーや、粉体、高粘度物質、樹脂等の混練に用いられる、いわゆるニーダー等の混合機を挙げることができる。中でも製造効率を高める観点から、プロシェアミキサー、レーディゲミキサー、及びハイスピードミキサーから選ばれるミキサーが好ましく、プロシェアミキサー、レーディゲミキサーがより好ましい。
【0031】
〔工程C〕
工程Cは、工程Bで得られた粉末状のアルカリセルロースとアルキレンオキシドとを反応させてヒドロキシアルキルセルロースを得る工程である。
【0032】
《アルキレンオキシド》
本発明で用いられるアルキレンオキシドとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、1,2−エポキシヘキサン、1,2−エポキシオクタン、1,2−エポキシデカン、1,2−エポキシドデカン、1,2−エポキシオクタデカン等の炭素数2以上20以下のアルキレンオキシドが好ましく挙げられる。上記アルキレンオキシドは、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中では、反応選択率及び得られるヒドロキシアルキルセルロースの水溶性の観点から、炭素数2以上6以下のアルキレンオキシドが好ましく、炭素数2以上4以下のアルキレンオキシドがより好ましく、エチレンオキシド、プロピレンオキシド及びブチレンオキシドから選ばれる1種以上が更に好ましく、プロピレンオキシドがより更に好ましい。
【0033】
アルカリセルロースに導入されるアルキレンオキシ基の、該ヒドロキシアルキルセルロースの主鎖を構成するセルロースのAGUあたりの導入数の平均値(以下「アルキレンオキシ基の置換度」ともいう)は、得られるカチオン化ヒドロキシアルキルセルロースの性能の観点から、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.3以上、更に好ましくは0.5以上、より更に好ましくは0.8以上であり、そして、好ましくは3.0以下、より好ましくは2.5以下、更に好ましくは2.0以下、より更に好ましくは1.5以下である。
【0034】
工程Cにおけるアルキレンオキシドの添加量は、所望のアルキレンオキシ基の導入量に応じて適宜調整すればよいが、得られるカチオン化ヒドロキシアルキルセルロースの水溶性の観点から、ヒドロキシアルキルセルロースの主鎖を構成するセルロースのAGU1モルあたり、好ましくは0.1モル以上、より好ましくは0.5モル以上、更に好ましくは1.0モル以上、より更に好ましくは1.5モル以上である。また、アルキレンオキシドの反応選択率の低下を抑制する観点、及び揮発分を低減してケーキングを抑制する観点から、好ましくは10モル以下、より好ましくは5.0モル以下、更に好ましくは4.0モル以下、より更に好ましくは3.0モル以下、より更に好ましくは2.5モル以下である。
アルキレンオキシドの添加時の形態には特に制限はなく、アルキレンオキシドは気体であっても液体であってもよい。アルキレンオキシドが液体状態である場合にはそのまま用いてもよいし、粘度の低減等による取り扱い性の向上のために、アルキレンオキシドの良溶媒で希釈した形で用いてもよい。
アルキレンオキシドの添加方法にも特に制限はなく、一括添加でも、分割添加でも、連続的添加でもよく、又はこれらを組み合わせて行うこともできる。アルキレンオキシドを均一に分散させて反応を行うために、粉末状のアルカリセルロースを攪拌しながらアルキレンオキシドを分割又は連続的に添加することが好ましい。
【0035】
工程Cで用いられる反応装置としては、工程Bで用いる装置と同様のものが挙げられる。反応装置は、用いるアルキレンオキシドが反応温度において気体である場合には、密閉性が高く、かつ圧力条件下の反応に耐えうる耐圧装置であることが好ましい。
反応時の温度は、用いるアルキレンオキシドの反応性等により適宜調整すればよく、特に限定されないが、反応速度の観点から、好ましくは0℃以上、より好ましくは20℃以上、更に好ましくは30℃以上であり、また、アルキレンオキシド又はアルカリセルロースの分解抑制の観点から、好ましくは200℃以下、より好ましくは100℃以下、更に好ましくは80℃以下である。
反応時間は、アルキレンオキシドの反応速度、所望のエーテル基の導入量等により適宜調整すればよい。反応時間は、アルキレンオキシドの反応収率の観点から、好ましくは0.1時間以上、より好ましくは0.2時間以上、更に好ましくは0.5時間以上、より更に好ましくは1時間以上、より更に好ましくは2時間以上であり、好ましくは72時間以下、より好ましくは18時間以下、更に好ましくは12時間以下、より更に好ましくは9時間以下である。
アルキレンオキシドを滴下又は分割で添加する場合、上記反応時間は、滴下又は分割での添加に要する時間を含む。
反応終了後は、必要に応じて塩基化合物の酸による中和、及び含水イソプロピルアルコール、含水アセトン溶媒等での洗浄等といった公知の精製操作を行って、ヒドロキシアルキルセルロースを単離することもできる。また、アルキレンオキシド由来の副生成物を低減させる観点から、反応終了後に、減圧下で残存アルキレンオキシドを除去する工程を行うことが好ましい。
反応条件においてアルキレンオキシドが気体である場合、反応は加圧条件下で行うことが好ましい。その際の反応圧力は、アルキレンオキシドの沸点、系内のアルキレンオキシドの存在量、反応温度等を調整することにより適宜調整可能である。反応時の圧力は通常0.001MPa以上、10MPa以下(ゲージ圧)であり、アルキレンオキシド付加反応の速度、及び設備負荷の観点から、0.005MPa以上が好ましく、0.02MPa以上がより好ましく、そして、1MPa以下が好ましく、0.5MPa以下がより好ましい。
【0036】
(カチオン化工程)
次に、上記ヒドロキシアルキルセルロースとカチオン化剤とを反応させてヒドロキシアルキルセルロースをカチオン化し(以下「カチオン化工程」ともいう)、粗カチオン化ヒドロキシアルキルセルロースを得る。
【0037】
《カチオン化剤》
本発明で用いられるカチオン化剤は、下記一般式(1)又は(2)で表される化合物である。
【0039】
一般式(1)及び(2)において、R
1〜R
3は、各々独立に、炭素数1以上4以下の直鎖又は分岐鎖の炭化水素基を示す。本発明の方法で製造されるカチオン化ヒドロキシアルキルセルロース、中でもカチオン化ヒドロキシプロピルセルロース(以下、「C−HPC」ともいう)やカチオン化ヒドロキシエチルセルロースの水溶性の観点及びカチオン化剤の入手性の観点から、R
1〜R
3はメチル基又はエチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
一般式(1)及び(2)において、Xはハロゲン原子を示す。該ハロゲン原子の具体例としては、塩素、臭素及びヨウ素等が挙げられるが、本発明の方法で製造されるカチオン化ヒドロキシアルキルセルロースの水溶性の観点及びカチオン化剤の入手性の観点から、塩素又は臭素がより好ましく、塩素が更に好ましい。
一般式(2)において、Zはハロゲン原子を示し、前記と同様の観点から、塩素又は臭素が好ましく、塩素がより好ましい。
【0040】
一般式(1)及び(2)で表される化合物の具体例としては、グリシジルトリメチルアンモニウム、グリシジルトリエチルアンモニウム、グリシジルトリプロピルアンモニウム等の各々の塩化物、臭化物又はヨウ化物や、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウム、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリエチルアンモニウム、又は3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリプロピルアンモニウム等の塩化物、3−ブロモ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウム、3−ブロモ−2−ヒドロキシプロピルトリエチルアンモニウム、3−ブロモ−2−ヒドロキシプロピルトリプロピルアンモニウム等の臭化物や、3−ヨード−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウム、3−ヨード−2−ヒドロキシプロピルトリエチルアンモニウム、3−ヨード−2−ヒドロキシプロピルトリプロピルアンモニウム等のヨウ化物等が挙げられる。
これらの中では、入手性の観点から、グリシジルトリメチルアンモニウム又はグリシジルトリエチルアンモニウムの塩化物又は臭化物、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウム、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリエチルアンモニウム等の塩化物、3−ブロモ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウム、3−ブロモ−2−ヒドロキシプロピルトリエチルアンモニウム等の臭化物が好ましく、グリシジルトリメチルアンモニウム塩化物又は3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウム塩化物がより好ましく、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウム塩化物が更に好ましい。
これらカチオン化剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0041】
上記カチオン化剤とヒドロキシアルキルセルロースとの反応により、下記一般式(3)又は(4)で示される4級アンモニウム塩置換プロピレンオキシ基(以下、「カチオン基」ともいう。)が、ヒドロキシアルキルセルロースに導入される。
【0043】
一般式(3)及び(4)中、R
1〜R
3及びXは、前記一般式(1)及び(2)におけるR
1〜R
3及びXと同義である。
カチオン基は、ヒドロキシアルキルセルロースの一部又は全部の水酸基の水素原子と置換してもよいし、既にヒドロキシアルキルセルロースに結合したカチオン基の末端水酸基の水素原子と置換してもよい。一般式(3)又は(4)において、末端に存在する4級アンモニウム塩置換プロピレンオキシ基の酸素原子は、水素原子と結合し、水酸基となっている。
【0044】
ヒドロキシアルキルセルロースに導入されるカチオン基の、該ヒドロキシアルキルセルロースの主鎖を構成するセルロースのAGUあたりの導入数の平均値(以下「カチオン基の置換度」ともいう)は、得られるカチオン化ヒドロキシアルキルセルロースの性能の観点から、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.02以上、更に好ましくは0.03以上、より更に好ましくは0.05以上、より更に好ましくは0.10以上であり、そして、好ましくは2.5以下、より好ましくは1以下、更に好ましくは0.6以下、より更に好ましくは0.4以下、より更に好ましくは0.3以下である。
カチオン化剤の添加量としては、上記所望のカチオン基の置換度になるよう適宜調整すればよいが、好ましくはヒドロキシアルキルセルロースの主鎖を構成するセルロースのAGU1モルあたり、好ましくは0.01モル以上、より好ましくは0.05モル以上、更に好ましくは0.10モル以上、より更に好ましくは0.2モル以上、より更に好ましくは0.3モル以上であり、好ましくは10モル以下、より好ましくは4.0モル以下、更に好ましくは2.5モル以下、より更に好ましくは1.5モル以下、より更に好ましくは1.0モル以下である。
【0045】
カチオン化剤を用いる際、高純度のカチオン化剤をそのまま添加してもよいが、操作性の観点から、水等の溶媒中に溶解して溶液の形で添加してもよい。
添加方法は、一括、分割、連続的添加又はこれらを組み合わせて行うことができるが、ヒドロキシアルキルセルロースに対し、カチオン化剤を均一に分散させて反応を行うために、ヒドロキシアルキルセルロースを攪拌しながら分割又は連続的に添加することが好ましい。また、ヒドロキシアルキルセルロースに対しカチオン化剤を均一に分散させる観点からは、カチオン化剤の溶液をヒドロキシアルキルセルロースに噴霧して添加することが好ましい。
【0046】
《触媒》
カチオン化反応では、塩基又は酸触媒を用いることができる。
塩基触媒としては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物、トリメチルアミンやトリエチルアミン、トリエチレンジアミン等の3級アミン類が挙げられる。酸触媒としては、ランタニドトリフラート等のルイス酸触媒等が挙げられる。
これらの中では、セルロースの重合度の低下が起こりにくいことから塩基触媒が好ましく、アルカリ金属水酸化物がより好ましく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが更に好ましい。これらの触媒は、1種又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
触媒の使用量は、ヒドロキシアルキルセルロース及びカチオン化剤の双方に対して触媒量で十分であり、具体的には、ヒドロキシアルキルセルロース分子中のAGUあたり、好ましくは0.1モル%以上、より好ましくは1モル%以上、更に好ましくは5モル%以上であり、そして、好ましくは150モル%以下、より好ましくは100モル%以下である。
なお、工程Cのヒドロキシアルキルセルロースを得る反応に用いた塩基化合物をそのまま触媒として用いてもよいし、新たに塩基化合物を添加してもよい。
【0047】
カチオン化剤として前記一般式(2)で表される化合物を用いる場合、反応に際し理論量のハロゲン化水素が生成することから、塩基を触媒に用いる場合には、上記の触媒の使用量に加え、更にカチオン化剤に対し理論量の塩基を添加することが好ましい。
添加する触媒の形状としては、高純度の触媒をそのまま添加してもよく、水等の溶媒中に溶解した溶液を添加してもよい。
また触媒の添加方法も、一括、分割、連続的添加又はこれらを組み合わせて行うことができる。これらのうち、触媒をヒドロキシアルキルセルロースに対し均一に分散させて反応を行うために、ヒドロキシアルキルセルロースの攪拌を行いながら分割又は連続的に添加する方法が好ましい。
またヒドロキシアルキル化反応終了後に触媒の中和や除去等を行うことなく、ヒドロキシアルキル化反応で用いた触媒をそのままカチオン化反応で用いることもできる。塩の生成による精製負荷の増大を考慮すると、ヒドロキシアルキル化反応で用いた触媒をそのまま用いることが好ましい。
【0048】
カチオン化反応時の水分量は、反応速度を向上させる観点から、ヒドロキシアルキル化反応の際に用いた原料セルロースに対し、好ましくは10質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、また、ヒドロキシアルキルセルロースが粉末状態を維持し、カチオン化反応の選択率を向上させ、生産性を向上させる観点から、好ましくは100質量%以下、より好ましくは95質量%以下である。
触媒及び/又はカチオン化剤が水溶液であって、反応開始時の反応系内の水分量が上記水分量範囲を越える場合には、減圧、昇温等の通常の脱水操作を行って、上記水分量範囲になるように調整することができる。これら脱水操作は、触媒及び/又はカチオン化剤水溶液の反応容器内への導入が終わった後に行ってもよいが、これら水溶液の反応容器内への導入と同時に行ってもよい。
【0049】
《非水溶媒》
水以外の溶媒は存在しなくてもカチオン化反応は進行するが、カチオン化剤や触媒の均一分散を目的として、非水溶媒共存下に反応を行うこともできる。
非水溶媒の使用量は、ヒドロキシアルキル化反応の際に用いた原料セルロースに対し、0〜40質量%であれば生産性がよいのみならず、ヒドロキシアルキルセルロースが粉末状態を維持できるため、効率のよい攪拌が可能で、均一な反応が可能である。かつ、カチオン化剤の分解や非水溶媒との副反応を抑え、効率のよいカチオン化が進行するため好ましい。非水溶媒の使用量は、0〜30質量%が好ましく、0〜20質量%がより好ましい。
【0050】
非水溶媒は特に限定されないが、極性溶媒が好ましい。極性溶媒としては、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の炭素数1以上5以下のアルコール系溶媒;1,4−ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶媒;ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。これらの中では、カチオン化剤との副反応抑制という観点から、炭素数3以上5以下の2級又は3級アルコール、エーテル系溶媒、非プロトン性極性溶媒が好ましい。
上記非水溶媒は、単独で又は2種以上を混合して用いることもできる。
【0051】
カチオン化反応で用いられる反応装置としては、製造効率を高める観点から、後述する工程(2)で用いる機械撹拌式混合機を使用することが好ましい。
カチオン化反応において、ヒドロキシアルキルセルロース、カチオン化剤、触媒及び必要であれば水及び/又は非水溶媒の添加順序は特に限定されないが、ヒドロキシアルキルセルロースに触媒、及び、必要であれば水及び/又は非水溶媒を添加し、十分攪拌混合して触媒を均一に分散した後、カチオン化剤を添加することが好ましい。
カチオン化反応における反応温度は、反応速度、カチオン化剤の分解や得られるカチオン化ヒドロキシアルキルセルロースの着色抑制の観点から、好ましくは0℃以上、より好ましくは20℃以上、更に好ましくは40℃以上であり、そして、好ましくは100℃以下、より好ましくは90℃以下、更に好ましくは80℃以下である。
また、反応時の着色抑制の観点から、カチオン化反応は、窒素等の不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましい。
反応終了後は、必要に応じて触媒の中和、含水イソプロピルアルコール、含水アセトン溶媒等での洗浄等といった精製操作を行って、粗カチオン化ヒドロキシアルキルセルロースを単離することもできる。
【0052】
上記工程(1)で得られる粗カチオン化ヒドロキシアルキルセルロース中の水分量は、ヒドロキシアルキル化及びカチオン化の反応効率の観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上であり、工程(2)の生産性の観点から、好ましくは100質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。
また、工程(1)で得られる粗カチオン化ヒドロキシアルキルセルロースは、水と、前述のアルキレンオキシドに由来する副生成物とを主成分とする揮発分を含有する。
【0053】
<工程(2)>
工程(2)は、工程(1)で得られた粗カチオン化ヒドロキシアルキルセルロースから、大気圧以下かつ40℃以上80℃以下の条件下で、機械撹拌式混合機を用いて水を除去し、乾燥処理されたカチオン化ヒドロキシアルキルセルロースを得る工程である。
前述したように、工程(1)で得られた粗カチオン化ヒドロキシアルキルセルロースから、水とアルキレンオキシド由来の副生成物とを含む揮発分を除去する際に、工程(2)及び工程(3)でそれぞれ異なる装置を用いることで、大気圧以下かつ40℃以上80℃以下の条件下においても当該揮発分を効率よく除去することができる。工程(2)では、機械撹拌式混合機を用いることにより主として水が除去されるが、水以外の揮発分の一部も同時に除去されることを妨げない。
【0054】
(機械攪拌式混合機)
工程(2)で用いられる機械撹拌式混合機は、少なくとも攪拌翼を有する混合機である。該機械撹拌式混合機を用いて、粗カチオン化ヒドロキシアルキルセルロースの粉体を攪拌しながら乾燥処理することにより、粉体の凝集を抑制しつつ、大気圧以下かつ40℃以上80℃以下の条件下においても効率よく水を除去することができる。粉体の凝集を抑制しつつ乾燥効率を向上させる観点から、攪拌翼及びチョッパー翼等の解砕翼を有する機械攪拌式混合機が好ましい。
機械撹拌式混合機の市販品としては、ヘンシェルミキサー(日本コークス工業株式会社製)、スーパーミキサー(株式会社カワタ製)、レーディゲミキサー(株式会社マツボー製)、アミクソンミキサー(amixson GmbH製)、ハイスピードミキサー(深江工業株式会社製;株式会社アーステクニカ製;等)、SPG混合機(株式会社ダルトン製)、バーチカルグラニュレーター(株式会社パウレック製)、ニュースピードニーダー(岡田精工株式会社製)、ハイフレックスグラル(株式会社アーステクニカ製)、ナウターミキサー(ホソカワミクロン株式会社製)、SVミキサー(株式会社神鋼環境ソリューション製)等の垂直軸回転型混合機やプロシェアミキサー(大平洋機工株式会社製)、アペックス・グラニュレーター(大平洋機工株式会社製)、スパルタンリューザー(株式会社ダルトン製)、リボンミキサー(槇野産業株式会社製)、ニーダー等の水平軸回転型混合機が挙げられる。
これらの中でも、粉体の凝集を抑制し、乾燥効率を向上させる観点から、ヘンシェルミキサー、高速流動式混合機であるスーパーミキサー、ショベル羽根による浮遊拡散混合と多段式チョッパー羽根による高速剪断分散の2つの機能を備えた混合機であるプロシェアミキサー、特徴的なスキ状ショベルを用いる混合機であり、チョッパー翼の設置が可能なレーディゲミキサー、アミクソンミキサー、アペックス・グラニュレーター、スパルタンリューザー、ハイスピードミキサー、SPG混合機、バーチカルグラニュレーター、ハイフレックスグラル等の機械撹拌式高速流動型混合機が好適に用いられ、レーディゲミキサー、ハイスピードミキサー、プロシェアミキサーがより好適に用いられ、ハイスピードミキサーが好ましい。
【0055】
〔攪拌翼〕
上記機械撹拌式混合機において用いられる攪拌翼は、ブレード型、アーム型、リボン型、多段ブレード型、二連アーム型、ベッカーショベル、すき状ショベル、のこ歯状ショベル、二軸羽根型、多段チョッパー型、3翼、フラット羽根、C型羽根などが挙げられる。粉体の凝集を抑制し、乾燥効率を向上させる観点から、ベッカーショベル、すき状ショベル、のこ歯状ショベル、3翼、フラット羽根、C型羽根が好ましい。
攪拌翼の径は、反応装置、反応スケールに依存するが、粉体の凝集を抑制し、乾燥効率を向上させる観点から、好ましくは0.1m以上、より好ましくは0.15m以上であり、また、上限は限定されないが、好ましくは5m以下、より好ましくは2m以下、更に好ましくは1m以下である。
【0056】
工程(2)における粗カチオン化ヒドロキシアルキルセルロースの攪拌の周速は、粉体の凝集を抑制し、乾燥効率を向上させる観点から、好ましくは1m/秒以上、より好ましくは3m/秒以上、更に好ましくは4m/秒以上であり、また、エネルギー効率の観点から、好ましくは10m/秒以下、より好ましくは8m/秒以下、更に好ましくは7m/秒以下である。
上記攪拌の周速とは、混合機の主翼である攪拌翼の周速(攪拌翼先端の移動速度=攪拌翼径×円周率×回転数)を意味する。
【0057】
〔解砕翼〕
機械攪拌式混合機の中でも、粉体の凝集を抑制し、乾燥効率を向上させる観点から、上記攪拌翼の他にチョッパー翼等の解砕翼を有する混合機がより好適である。
解砕翼を有する機械攪拌式混合機としては、プロシェアミキサー、レーディゲミキサー、アミクソンミキサー、ハイスピードミキサー、バーチカルグラニュレーター等が挙げられ、これらの中でも、粉体の凝集を抑制し、乾燥効率を向上させる観点から、好ましくはハイスピードミキサーである。
解砕翼の周速としては、粉体の凝集を抑制し、乾燥効率を向上させる観点から、好ましくは0.5m/秒以上、より好ましくは3m/秒以上、更に好ましくは5m/秒以上であり、また、エネルギー効率の観点から、好ましくは35m/秒以下、より好ましくは20m/秒以下、更に好ましくは15m/秒以下、より更に好ましくは10m/秒以下である。
【0058】
工程(2)では、上記機械撹拌式混合機を用いて、大気圧以下かつ40℃以上80℃以下の条件下で、粗カチオン化ヒドロキシアルキルセルロースから水を除去し、乾燥処理されたカチオン化ヒドロキシアルキルセルロースを得る。
工程(2)における処理温度は、水不溶性のゲルの生成を抑制し、カチオン化ヒドロキシアルキルセルロースの水溶解性を向上させる観点から、80℃以下であり、好ましくは75℃以下である。工程(2)における処理温度が80℃を超えると水不溶性のゲルが生成し、カチオン化ヒドロキシアルキルセルロースの水溶解性が低下する。また、生産性を向上させる観点から、工程(2)における処理温度は40℃以上であり、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上である。
【0059】
工程(2)における処理圧力は大気圧以下であり、大気圧下又は減圧下において行うことができるが、水の除去効率の観点から、減圧下において行うことが好ましい。減圧度としては、好ましくは−0.02MPa以下、より好ましくは−0.05MPa以下、更に好ましくは−0.08MPa以下である。また、エネルギー効率の観点から、好ましくは−0.098MPa以上、より好ましくは−0.095MPa以上である。
【0060】
工程(2)における処理時間は、水の除去効率の観点から、好ましくは1時間以上、より好ましくは2時間以上、更に好ましくは3時間以上であり、生産性の観点から、好ましくは10時間以下、より好ましくは8時間以下、更に好ましくは6時間以下である。
【0061】
工程(2)で得られる乾燥処理されたカチオン化ヒドロキシアルキルセルロースは、後述する工程(3)の生産性を向上させる観点から、水分量が低いほど好ましい。当該水分量は、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、更に好ましくは1.5質量%以下、より更に好ましくは1.0質量%以下である。また、工程(2)の生産性の観点から、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上である。
乾燥処理されたカチオン化ヒドロキシアルキルセルロース中の水分量は、カールフィッシャー水分測定装置等により測定することができ、具体的には実施例に記載の方法により測定できる。
【0062】
工程(2)で得られる乾燥処理されたカチオン化ヒドロキシアルキルセルロース中の揮発分の含有量は、工程(3)の生産性を向上させる観点から、好ましくは15質量%以下、より好ましくは13質量%以下、更に好ましくは12質量%以下、より更に好ましくは11質量%以下である。また、工程(2)の生産性の観点から、当該揮発分は、好ましくは7.0質量%以上、より好ましくは8.0質量%以上、更に好ましくは9.0質量%以上である。なお工程(2)では水が除去されるため、乾燥処理されたカチオン化ヒドロキシアルキルセルロース中の揮発分の主成分は、前述のアルキレンオキシド由来の副生成物である。
乾燥処理されたカチオン化ヒドロキシアルキルセルロース中の揮発分量は、赤外線水分計等を用いて測定することができ、具体的には実施例に記載の方法により測定できる。
【0063】
<工程(3)>
工程(3)は、工程(2)で得られた乾燥処理されたカチオン化ヒドロキシアルキルセルロースから、大気圧以下かつ40℃以上80℃以下の条件下で流動層乾燥機を用いて揮発分を除去し、粉末状のカチオン化ヒドロキシアルキルセルロースを得る工程である。工程(2)の後に工程(3)を行うことにより、乾燥処理されたカチオン化ヒドロキシアルキルセルロース中に残存する、アルキレンオキシド由来の副生成物を含む揮発分を効率よく除去することができる。これにより、当該副生成物の残存に起因するケーキングを抑制し、かつ水溶解性にも優れる粉末状のカチオン化ヒドロキシアルキルセルロースを得ることができる。
【0064】
(流動層乾燥機)
工程(3)で用いられる流動層乾燥機とは、缶体に温めた流動化空気を供給し、内部に投入した粉体を流動循環させながら乾燥することを目的とした装置である。流動層乾燥機の市販品としては、ダイナミックドライヤー(株式会社アーステクニカ製)、スプレードライヤー(株式会社大川原製作所製)、グラット流動層造粒乾燥装置(株式会社パウレック製)、フロードライヤー(株式会社ダルトン)、振動流動層装置(株式会社マツボー製)、スパイラフロー(フロイント産業株式会社製)等が挙げられる。
カチオン化ヒドロキシアルキルセルロースの凝集を防ぎ、揮発分の低減効率を向上させる観点から、流動層乾燥機の底部に回転翼を取りつけたものが好ましい。
【0065】
回転翼を有する流動層乾燥機を用いる場合において、工程(3)における、乾燥処理されたカチオン化ヒドロキシアルキルセルロースを攪拌する際の周速は、粉体の凝集を抑制し、揮発分の低減効率を向上させる観点から、好ましくは1m/秒以上、より好ましくは3m/秒以上、更に好ましくは4m/秒以上であり、また、エネルギー効率の観点から、好ましくは10m/秒以下、より好ましくは8m/秒以下、更に好ましくは6m/秒以下である。
【0066】
工程(3)における処理温度は、水不溶性のゲルの生成を抑制し、カチオン化ヒドロキシアルキルセルロースの水溶解性を向上させる観点から、80℃以下であり、好ましくは75℃以下である。工程(3)における処理温度が80℃を超えると水不溶性のゲルが生成し、カチオン化ヒドロキシアルキルセルロースの水溶解性が低下する。また生産性を向上させる観点から、工程(3)における処理温度は40℃以上であり、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上である。
【0067】
工程(3)における処理圧力は大気圧以下であり、大気圧下、又は減圧下においても行うことができるが、経済性の観点から、大気圧下で行うことが好ましい。揮発分の低減効率を向上させる観点から、流動層乾燥機に空気を供給して揮発分を低減することが好ましい。なお、装置の条件等により、微加圧になる場合も、大気圧とする。
供給する空気の風速は、揮発分の低減速度を向上させる観点から、好ましくは0.1m/秒以上、より好ましくは0.5m/秒以上、更に好ましくは1.0m/秒以上であり、経済性の観点から、好ましくは3.0m/秒以下、より好ましくは2.5m/秒以下、更に好ましくは2.0m/秒以下である。
【0068】
工程(3)における処理時間は、揮発分を低減し、ケーキングを抑制する観点から、好ましくは1時間以上、より好ましくは2時間以上、更に好ましくは3時間以上であり、生産性の観点から、好ましくは14時間以下、より好ましくは10時間以下、更に好ましくは8時間以下、より更に好ましくは6時間以下である。
【0069】
(粉末状のカチオン化ヒドロキシアルキルセルロース)
工程(3)で得られる粉末状のカチオン化ヒドロキシアルキルセルロース中の揮発分量は、カチオン化ヒドロキシアルキルセルロースのケーキングを抑制する観点から、少ないほど好ましい。なお工程(2)で水が除去されているため、当該揮発分の主成分は、前述のアルキレンオキシド由来の副生成物である。当該揮発分量は、粉末状のカチオン化ヒドロキシアルキルセルロース中、好ましくは7.0質量%未満、より好ましくは6.0質量%以下、更に好ましくは5.5質量%以下である。また、生産性の観点から、好ましくは3.0質量%以上、より好ましくは4.0質量%以上である。
【0070】
本発明の製造方法で得られる粉末状のカチオン化ヒドロキシアルキルセルロースは、例えば、シャンプーやリンス、トリートメント、コンディショナー等の洗浄剤組成物の配合成分や分散剤、改質剤、凝集剤等の幅広い分野で利用することができる。
【実施例】
【0071】
以下の実施例において、「%」は特に断らない場合、結晶化度(%)を除き、「質量%」を意味する。
【0072】
(1)パルプの水分量の測定
パルプの水分量の測定には、赤外線水分計「FD−610」(株式会社ケット科学研究所製)を使用した。120℃にて測定を行い、30秒間の質量変化率が0.1%以下となる点を測定の終点とした。測定された水分量の値を、パルプ中の原料セルロースに対する質量%に換算した。
【0073】
(2)原料セルロースのメジアン径の測定
原料セルロースのメジアン径は、レーザー回析/散乱式粒度分布測定装置「LS13 320」(ベックマン・コールター株式会社製)を用い、セルロースを乾式法(トルネード方式)にて測定した。具体的にはサンプル20mLをセルに仕込み、吸引して測定を行った。
【0074】
(3)セルロースの結晶化度の算出
パルプのセルロース及び粉末状の原料セルロースの結晶化度は、株式会社リガク製の「Rigaku RINT 2500VC X−RAY diffractometer」を用いて以下の条件で測定し、下記式(I)に基づいて算出した。測定条件は、X線源:Cu/Kα−radiation、管電圧:40kV、管電流:120mA、測定範囲:2θ=5〜45°,X線のスキャンスピード:10°/minで測定した。測定用のサンプルは面積320mm
2×厚さ1mmのペレットを圧縮し作製した。
結晶化度(%)=〔(I
22.6−I
18.5)/I
22.6〕×100 (I)
〔式中、I
22.6は、X線回折におけるセルロースI型結晶の格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度を示し、I
18.5は、アモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折強度を示す。〕
【0075】
(4)セルロースの平均重合度の測定(銅−アンモニア法)
パルプのセルロース及び粉末状の原料セルロースの粘度平均重合度は、以下に示す方法によって測定した。
(i)測定用溶液の調製
メスフラスコ(100mL)に塩化第一銅0.5g、25%アンモニア水20〜30mLを加え、完全に溶解した後に、水酸化第二銅1.0g、及び25%アンモニア水を加えて、メスフラスコの標線の一寸手前までの量とした。これを30〜40分撹拌して、完全に溶解した。その後、精秤したパルプ又は粉末状の原料セルロース(105℃、20kPaで12時間減圧乾燥したもの)を加え、メスフラスコの標線まで上記アンモニア水を満たした。空気が入らないように密封し、マグネチックスターラーで12時間撹拌して溶解した。同じように添加するパルプ量を20〜500mgの範囲で変えて、異なる濃度の測定用溶液を調製した。
(ii)粘度平均重合度の測定
上記(i)で得られた測定用溶液(銅アンモニア水溶液)をウベローデ粘度計に入れ、恒温槽(20士0.1℃)中で1時間静置したのち、液の流下速度を測定した。種々のパルプ濃度(g/dL)の銅アンモニア溶液の流下時間(t(秒))とパルプ無添加の銅アンモニア水溶液の流下時間(t
0(秒))から、下記式により、それぞれの濃度における還元粘度(η
sp/c)を以下の式より求めた。
η
sp/c=(t/t
0−1)/c
(式中、cはパルプ又は粉末状の原料セルロースの濃度(g/dL)である。)
更に、還元粘度をc=0に外挿して固有粘度[η](dL/g)を求め、以下の式より粘度平均重合度(DP
v)を求めた。
DP
v=2000×[η]
(式中、2000はセルロースに固有の係数である。)
【0076】
(5)ヒドロキシプロピルセルロース中のプロピレンオキシ基導入量の算出
実施例で得られたヒドロキシプロピルセルロース(HPC)に導入されたプロピレンオキシ基の主鎖のAGUあたりの導入数の平均値(以下「プロピレンオキシ基の置換度」ともいう)は、第十五改正日本薬局方に記載の「ヒドロキシプロピルセルロースの分析法」に従って得られた値から求めた。
具体的には、実施例で得られたHPCの水溶液を乳酸でpHが5〜6となるように中和した後、透析膜(分画分子量1000)により精製し、水溶液を凍結乾燥して得られた精製HPC中のヒドロキシプロポキシ基含有量〔式量(−OC
3H
6OH)=75.09〕(b(モル/g))(%)を、下記計算式(2)から求めた。
b(モル/g)=ガスクロマトグラフ分析から求められるヒドロキシプロポキシ基含有量(%)/(75.09×100) (2)
次に、得られた値bと下記計算式(3)からHPCのプロピレンオキシ基の置換度(m)を算出した。
b=m/(162+m×58.08) (3)
【0077】
(6)カチオン化ヒドロキシプロピルセルロース中のカチオン基導入量の算出
実施例で得られたカチオン化ヒドロキシプロピルセルロース(C−HPC)に導入されたカチオン基の置換度は、元素分析による塩素元素量の測定値、及び分析対象がヒドロキシプロピルセルロースではなくC−HPCであることを除き、第十五改正日本薬局方に記載の「ヒドロキシプロピルセルロースの分析法」に従って得られた値から求めた。
具体的には、実施例で得られたC−HPCの水溶液を透析膜(分画分子量1000)により精製後、水溶液を凍結乾燥して精製C−HPCを得た。得られたC−HPCの塩素含有量(%)を元素分析によって測定し、精製C−HPC中に含まれるカチオン基の数と対イオンである塩化物イオンの数を同数であると近似して、下記計算式(4)から、C−HPC単位質量中に含まれるカチオン基の量(a(モル/g))を求めた。
a(モル/g)=元素分析から求められる塩素含有量(%)/(35.5×100) (4)
次に、得られたa、前記(5)で得られたプロピレンオキシ基の置換度(m)と、下記計算式(5)からC−HPCのカチオン基の置換度(k)を算出した。
a=k/(162+k×151.5+m×58) (5)
〔式中、kは、C−HPCのカチオン基の置換度を示す。
【0078】
(7)カチオン化ヒドロキシプロピルセルロース中の水分量の測定
水分気化装置「EV−2000」(平沼産業株式会社)を使用し、あらかじめ150℃に加温した気化室に試料0.01〜0.05gを載せ、水分を気化させた。気化させた水分を、0.15〜0.3L/minの窒素ガスにて、カールフィッシャー水分測定装置「AQV−2200」(平沼産業株式会社製)中の、40〜60mLのメタノールが入った試料容器へと送入した。該試料容器におけるメタノール中の水分をカールフィッシャー液(ハイドラナール−コンポジット5)で滴定し、以下の式より水分量を求めた。
水分量(%)=(滴定量×試薬の力価×100)/(試料量×1000)
(式中、試薬の力価は、カールフィッシャー試薬の滴定量から、水分量を換算するときの値で、滴定液1mLあたりの水の当量を表す。ハイドラナール−コンポジット5の力価は5mgH
2O/mLである。)
なお、カールフィッシャー液の滴定量は、1回の滴定あたり0.01mLとし、カールフィッシャー液滴定後、30秒後の指示電極値が200μA以上となる点を滴定終了点とした。
【0079】
(8)カチオン化ヒドロキシプロピルセルロース中の揮発分量の測定
赤外線水分計「MOC−120H」(株式会社島津製作所製)を使用し、試料皿に試料2gを載せ、設定温度120℃にて、自動停止モード(30秒間の水分変化量が0.1%以下になったら測定終了)の条件下で揮発分量を測定した。
【0080】
(9)破壊荷重の測定
ケーキング性の評価は、カチオン化ヒドロキシプロピルセルロースの破壊荷重を指標とした。破壊荷重の測定はレオメーター「CR−3000EX」(株式会社サン科学製)を用いて行った。
あらかじめ60℃に加温した試料(実施例及び比較例で得られた粉末状のカチオン化ヒドロキシプロピルセルロース)15.0gを測定セルに入れ、直径38mmの円形ロードセルにて試料に鉛直方向に1kgfの荷重を3分間かけ、試験用成型体を作成した。次に、作成した試験用成型体を、該円形ロードセルに対して鉛直方向に20mm/minの速度で移動させ、試験用成型体がロードセルに接触してから5mm進行するまでの最大荷重を破壊荷重とした。破壊荷重が低いほどケーキングが抑制されていることを示す。また、破壊荷重が1.1kgf以下であれば、実用に耐えうる。
【0081】
(10)水溶解性の評価
実施例及び比較例で得られた粉末状のカチオン化ヒドロキシプロピルセルロースの2%水溶液100gを調製し、130mLガラス瓶(規格瓶No.11)に入れ、25℃で24時間静置した。底部より目視で沈殿物(水不溶性ゲル)の存在の有無を確認し、下記の基準で評価した。
○:沈殿物が存在しない
×:沈殿物が存在する
【0082】
実施例1
<工程(1)>
(1)ヒドロキシプロピル化工程
〔裁断処理〕
原料セルロースとして、シート状木材パルプ(テンベック社製、製品名「HV+」、800mm×600mm×1.0mm、結晶化度82%、平均重合度1500、水分量8.0質量%)を、シートペレタイザ「SG(E)−220」(株式会社ホーライ製)を用いて、長さ3mm、幅1.5mm及び厚さ1.0mmのチップ状に裁断した。
【0083】
〔乾燥処理〕
裁断処理により得られたパルプを、2軸横型攪拌乾燥機「2軸パドルドライヤー「NPD−1.6W(1/2)」(株式会社奈良機械製作所製)を用いて乾燥した。乾燥温度は140℃とし、あらかじめパルプを8kg仕込み、60分間バッチ処理で乾燥して、パルプの水分量を0.8質量%とした。その後、装置を2°傾け、連続処理にてパルプを乾燥した。このときパルプの供給速度は18kg/時間とした。連続処理で得られた乾燥パルプの水分量も0.8質量%であった。
【0084】
〔粗粉砕処理〕
乾燥処理により得られた乾燥パルプを連続式振動ミル「バイブロミル、YAMT−50」(ユーラステクノ株式会社製、第1及び第2粉砕室の容量:25.2L)を用いて粗粉砕した。第1及び第2粉砕室には、直径30mm、長さ800mmのステンレス製の丸棒状の粉砕媒体を29本ずつ収容した。第1及び第2粉砕室のそれぞれにおける粉砕媒体の充填率は66.6%であった。連続式振動ミルを振動数60Hz、片振幅3.5mmで駆動すると共に、原料供給部から乾燥パルプを7.8kg/時間の供給速度で供給した。得られた粗粉砕セルロースの結晶化度は20%、メジアン径は71.0μmであった。
【0085】
〔小粒径化処理〕
粗粉砕処理により得られた粗粉砕セルロースを、高速回転式微粉砕機「自由粉砕機、M−3型」(株式会社奈良機械製作所製)を用いて小粒径化した。目開き0.7mmのスクリーンを装着し、ローター周速度を81m/秒で駆動すると共に、原料供給部から粗粉砕セルロースを18kg/時間の供給速度で供給し、粉末状の原料セルロースを得た。得られた粉末状の原料セルロースの結晶化度は20%、平均重合度1050、水分量2.56質量%、メジアン径は70.0μmであった。
【0086】
〔アルカリセルロースの製造〕
小粒径化処理により得られた粉末状の原料セルロース19.91kgをプロシェアミキサー「WB−300PV」(大平洋機工株式会社製)に仕込み、ミキサー内を窒素で置換した。主翼回転数98r/分(周速3m/秒)、チョッパー翼回転数1800r/分(周速16.6m/秒)の撹拌下、34.2%水酸化ナトリウム水溶液13.97kg(セルロースのAGU1モル当たり1.00モル)をスプレーノズルで噴霧した。内温が50℃になるように加熱し、2時間攪拌した。
【0087】
〔ヒドロキシプロピルセルロースの製造〕
その後、ミキサー内を減圧し、密閉下でプロピレンオキシド(日本オキシラン株式会社製)3.00kg(セルロースのAGU1モル当たり0.435モル)を仕込み、主翼回転数98r/分(周速3m/秒)、チョッパー翼回転数1800r/分(周速16.6m/秒)の撹拌下、内温が50℃から60℃の範囲内となるようにジャケットを加熱した。ヒドロキシプロピル化反応の進行に伴い内圧が低下した後、密閉下でプロピレンオキシド3.00kgを仕込み、ヒドロキシプロピル化反応を行った。本操作を再度繰り返し、プロピレンオキシドを合計16.00kg(セルロースのAGU1モル当たり2.30モル)反応させた。合計反応時間は6.5時間であった。
反応後、主翼回転数98r/分(周速3m/秒)、チョッパー翼回転数1800r/分(周速16.6m/秒)の撹拌下、20NL/分で窒素流入しながらミキサー内を−0.075MPaGに減圧することで残存プロピレンオキシドを除去し、粉末状のヒドロキシプロピルセルロース(水分量:19質量%)を得た。
【0088】
(2)カチオン化工程
上記(1)で得られた粉末状ヒドロキシプロピルセルロース39.01kgをハイスピードミキサー「FS−VDGS−200JED」(株式会社アーステクニカ製、容量:0.3m
3)に仕込み、ミキサー内を窒素で置換した。主翼回転数120r/分(主翼径0.896m、周速5.6m/秒)、チョッパー翼回転数800r/分(周速7.1m/秒)の撹拌下、59.0%の3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド水溶液(四日市合成株式会社製)15.50kg(セルロースのAGU1モル当たり0.52モル)をスプレーノズルで噴霧し、内温が60℃になるように加熱して2時間攪拌した。その後、内温が30℃となるようにジャケットを冷却した後、57.6%乳酸水溶液(株式会社武蔵野化学研究所製)8.30kgをスプレーノズルで噴霧し、0.5時間攪拌することで、粉末状の粗カチオン化ヒドロキシプロピルセルロースを得た。得られた粉末状の粗カチオン化ヒドロキシプロピルセルロースの水分量は23%、アンヒドログルコース単位あたりのプロピレンオキシ基の置換度は1.2、カチオン基の置換度は0.2であった。
【0089】
<工程(2)>
工程(1)で得られた粗カチオン化ヒドロキシプロピルセルロースを前述のハイスピードミキサー内で、主翼回転数120r/分(周速5.6m/秒)、チョッパー翼回転数800r/分(周速7.1m/秒)の撹拌下、ミキサー内を−0.09MPaGに減圧した。内温が70℃となるようにジャケットを加熱し、4時間攪拌することで、粗カチオン化ヒドロキシプロピルセルロースから水を除去し、乾燥処理されたカチオン化ヒドロキシプロピルセルロースを得た。乾燥処理されたカチオン化ヒドロキシプロピルセルロース中の水分量は0.9質量%、揮発分量は10.8質量%であった。
【0090】
<工程(3)>
乾燥処理されたカチオン化ヒドロキシプロピルセルロースを、回転翼を有する流動層乾燥機「SFC−LABO」(フロイント産業株式会社製)に300g仕込み、ローター回転数800r/分(周速4.6m/秒)の攪拌下、大気圧下、70℃にて、風速1.5m/秒で空気を供給し、4時間攪拌した。
得られた粉末状のカチオン化ヒドロキシプロピルセルロース中の揮発分量は5.1質量%であった。また、粉末状のカチオン化ヒドロキシプロピルセルロースの破壊荷重及び水溶解性の評価結果を表1に示す。
【0091】
実施例2
実施例1において、工程(3)の温度及び時間を表1に示す条件に変更したこと以外は、実施例1と同様にして粉末状のカチオン化ヒドロキシプロピルセルロースを得た。結果を表1に示す。
【0092】
実施例3
(1)ヒドロキシプロピル化工程
実施例1と同様に裁断処理、乾燥処理、粗粉砕処理、小粒径化処理を行った。得られた粉末状の原料セルロース0.342kgをレーディゲミキサー「VT5」(中央機工株式会社製)に仕込み、ミキサー内を窒素で置換した後、主翼回転数250r/min(周速2.5m/s)、チョッパー翼回転数2500r/min(周速8.1m/s)の撹拌下、34.2%水酸化ナトリウム水溶液0.240kg(セルロースのAGU1モル当たり1.00モル)をスプレーノズルで噴霧し、内温が50℃になるように加熱し、2時間攪拌した。
【0093】
〔ヒドロキシプロピルセルロースの製造〕
その後、ミキサー内を減圧し、密閉下でプロピレンオキシド(和光純薬工業株式会社製)0.052kg(セルロースのAGU1モル当たり0.435モル)を仕込み、主翼回転数50r/分(周速0.5m/秒)、チョッパー翼回転数400r/分(周速1.3m/秒)の撹拌下、内温が50℃から60℃の範囲内となるようにジャケットを加熱した。ヒドロキシプロピル化反応の進行に伴い内圧が低下した後、密閉下でプロピレンオキシド0.052kgを仕込み、ヒドロキシプロピル化反応を行った。本操作を再度繰り返し、プロピレンオキシドを合計0.275kg(セルロースのAGU1モル当たり2.30モル)反応させた。合計反応時間は3.2時間であった。
反応後、主翼回転数50r/分(周速0.5m/秒)、チョッパー翼回転数400r/分(周速1.3m/秒)の撹拌下、ミキサー内を−0.09MPaGに減圧することで残存プロピレンオキシドを除去し、粉末状ヒドロキシプロピルセルロース(水分量:19質量%)を得た。
【0094】
(2)カチオン化工程
上記で得られた粉末状ヒドロキシプロピルセルロース0.650kgをハイスピードミキサー「FS−VDGS−5JE」(株式会社アーステクニカ製、容量:0.005m
3)に仕込み、ミキサー内を窒素置換後、主翼回転数465r/分(主翼径0.23m、周速5.6m/秒)、チョッパー翼回転数2465r/分(周速7.1m/秒)の撹拌下、59.0%3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド水溶液(四日市合成株式会社製)0.2584kg(セルロースのAGU1モル当たり0.52モル)をスプレーノズルで噴霧し、内温が60℃になるように加熱し、2時間攪拌した。その後、内温が30℃となるようにジャケットを冷却した後、57.6%乳酸水溶液(株式会社武蔵野化学研究所製)0.1384kgをスプレーノズルで噴霧し、0.5時間攪拌することで、粉末状の粗カチオン化ヒドロキシプロピルセルロースを得た。得られた粉末状の粗カチオン化ヒドロキシプロピルセルロースの水分量は21質量%、アンヒドログルコース単位あたりのプレピレンオキシ基の置換度は1.2、カチオン化オキシアルキレン基の置換度は0.2であった。
【0095】
<工程(2)>
得られた粗カチオン化ヒドロキシプロピルセルロース、すなわちカチオン化ヒドロキシピロピルセルロースと水とを含む混合物を前述のハイスピードミキサー内で、主翼回転数465r/分(周速5.6m/秒)、チョッパー翼回転数2465r/分(周速7.1m/秒)の撹拌下、ミキサー内を−0.09MPaGに減圧した後、内温が50℃となるようにジャケットを加熱し、5時間攪拌することで、粉末状カチオン化ヒドロキシプロピルセルロースから水を除去し、乾燥処理されたカチオン化ヒドロキシプロピルセルロースを得た。乾燥処理されたカチオン化ヒドロキシプロピルセルロースの水分量は1.2質量%、揮発分量は10.9質量%であった。
【0096】
<工程(3)>
実施例1と同様に行った。得られた粉末状のカチオン化ヒドロキシプロピルセルロース中の揮発分量は5.9質量%であった。また、粉末状のカチオン化ヒドロキシプロピルセルロースの破壊荷重及び水溶解性の評価結果を表1に示す。
【0097】
比較例1〜2
実施例1において、工程(2)の温度及び攪拌時間、並びに工程(3)の温及び時間を表1に示す条件に変更したこと以外は、実施例1と同様にして粉末状のカチオン化ヒドロキシプロピルセルロースを得た。結果を表1に示す。
【0098】
比較例3
実施例1において、工程(2)を行わず、かつ工程(3)の温度及び時間を表1に示す条件に変更したこと以外は、実施例1と同様にして粉末状のカチオン化ヒドロキシプロピルセルロースを得た。結果を表1に示す。
【0099】
比較例4〜6
実施例1において、工程(2)の温度及び攪拌時間を表1に示す条件に変更し、並びに工程(3)を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして粉末状のカチオン化ヒドロキシプロピルセルロースを得た。結果を表1に示す。
【0100】
【表1】
【0101】
表1から明らかなように、比較例1〜6に比べ、実施例1〜3の製造方法で得られた粉末状のカチオン化ヒドロキシプロピルセルロースはケーキングが抑制され、かつ水溶解性にも優れる。