特許第6279905号(P6279905)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6279905速い用量調節の漸増投与レジメンを用いた、インターフェロンの筋肉内投与に伴うインフルエンザ様症状を軽減するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6279905
(24)【登録日】2018年1月26日
(45)【発行日】2018年2月14日
(54)【発明の名称】速い用量調節の漸増投与レジメンを用いた、インターフェロンの筋肉内投与に伴うインフルエンザ様症状を軽減するための方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/21 20060101AFI20180205BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20180205BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20180205BHJP
   A61K 31/56 20060101ALI20180205BHJP
   A61K 31/167 20060101ALI20180205BHJP
   A61K 31/192 20060101ALI20180205BHJP
【FI】
   A61K38/21ZMD
   A61P25/00
   A61K45/00
   A61K31/56
   A61K31/167
   A61K31/192
【請求項の数】20
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-558168(P2013-558168)
(86)(22)【出願日】2012年3月15日
(65)【公表番号】特表2014-508174(P2014-508174A)
(43)【公表日】2014年4月3日
(86)【国際出願番号】US2012029201
(87)【国際公開番号】WO2012125809
(87)【国際公開日】20120920
【審査請求日】2015年2月17日
(31)【優先権主張番号】61/452,807
(32)【優先日】2011年3月15日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/476,930
(32)【優先日】2011年4月19日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】398050098
【氏名又は名称】バイオジェン・エムエイ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Biogen MA Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】特許業務法人 武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】デイキン,アロン
【審査官】 六笠 紀子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−513309(JP,A)
【文献】 特開2009−045140(JP,A)
【文献】 特開2001−104482(JP,A)
【文献】 FROHMAN ELLIOT,DISEASE-MODIFYING THERAPY IN MULTIPLE SCLEROSIS: STRATEGIES FOR OPTIMIZING MANAGEMENT,NEUROLOGIST,米国,WILLIAMS AND WILKINS,2002年 7月 1日,V8 N4,P227-236
【文献】 Clinical Therapeutics,2004年,26(4),p.511-521
【文献】 Current Medical Research and Opinion,2007年,23(7),p.1667-1672
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00−38/58
WPI
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多発性硬化症の処置として8週間にわたるインターフェロンβ1aの筋肉内投与に起因するインフルエンザ様症状軽減するために使される用量調節パッケージであって、
前記用量調節パッケージは、
インターフェロンβ1aと、
多発性硬化症の患者に対して、1週目に7.5μgのインターフェロンβ1aを患者に対して筋肉内投与するための第1の送達装置、2週目に15μgのインターフェロンβ1aを患者に対して筋肉内投与するための第2の送達装置、3週目に22.5μgのインターフェロンβ1aを患者に対して筋肉内投与するための第3の送達装置、を備え、第1のスケジュールに従って週に一度の筋肉内投与を行う送達装置と、
を含み、
4週目から8週目にかけて週に一度ずつ、30μgのインターフェロンβ1aを患者に対して筋肉内投与した場合に、
(1)8週間にわたって週に一度ずつ、30μgのインターフェロンβ1aが筋肉内投与される第2のスケジュールに従ってインターフェロンβ1aが筋肉内投与された多発性硬化症の患者において、インターフェロンβ1aを筋肉内投与した4〜6時間後に、および、12〜15時間後におけるインフルエンザ様症状、
および、
(2)1週目および2週目に、7.5μgのインターフェロンβ1aを患者に対して筋肉内投与し、3週目および4週目に、15μgのインターフェロンβ1aを患者に対して筋肉内投与し、5週目および6週目に、22.5μgのインターフェロンβ1aを患者に対して筋肉内投与し、7週目および8週目に、30μgのインターフェロンβ1aを患者に筋肉内投与する第3のスケジュールに従ってインターフェロンβ1aが筋肉内投与された多発性硬化症の患者において、インターフェロンβ1aを筋肉内投与した4〜6時間後に、および、12〜15時間後におけるインフルエンザ様症状、
と比較し8週間にわたって、インターフェロンβ1aの筋肉内投与から4〜6時間後または12〜15時間後に現れるインフルエンザ様症状の発症率および重篤度を軽減させる用の用量調節パッケージ。
【請求項2】
凍結乾燥状態のインターフェロンβ1aを内容するバイアルを含む、請求項1に記載の用量調節パッケージ。
【請求項3】
バイアルアダプタを備え、
前記送達装置は、凍結乾燥されたインターフェロンβ1aを希釈する希釈剤で予め充填されたシリンジである請求項2に記載の用量調節パッケージ。
【請求項4】
前記送達装置は、あらかじめ正確な薬用量のインターフェロンβ1aが液体の状態で充填されたシリンジである請求項1に記載の用量調節パッケージ。
【請求項5】
前記送達装置は、自動注射器を含む請求項1に記載の用量調節パッケージ。
【請求項6】
前記送達装置は、針を含まない請求項1に記載の用量調節パッケージ。
【請求項7】
前記送達装置は、ペンである請求項1に記載の用量調節パッケージ。
【請求項8】
針さし予防装置を備える請求項1に記載の用量調節パッケージ。
【請求項9】
前記針さし予防装置は、針シールドを含む請求項8に記載の用量調節パッケージ。
【請求項10】
前記針シールドは患者による手作業で作動される請求項9に記載の用量調節パッケージ。
【請求項11】
前記針シールドは自動化されている請求項9に記載の用量調節パッケージ。
【請求項12】
自動化された前記針シールドは患者によって作動される請求項11に記載の用量調節パッケージ。
【請求項13】
針が患者による一切の操作なしに自動的に遮蔽される請求項11に記載の用量調節パッケージ。
【請求項14】
針が患者による一切の操作なしに遮蔽される請求項11に記載の用量調節パッケージ。
【請求項15】
用量制限用量調節装置を含む請求項1に記載の用量調節パッケージ。
【請求項16】
鎮痛薬もしくは抗炎症薬またこれらの混合物を含む請求項1から請求項15のいずれか1項に記載の用量調節パッケージ。
【請求項17】
前記鎮痛薬もしくは前記抗炎症薬は、ステロイドである請求項16に記載の用量調節パッケージ。
【請求項18】
前記鎮痛薬もしくは前記抗炎症薬は、非ステロイド系抗炎症薬である請求項16に記載の用量調節パッケージ。
【請求項19】
前記鎮痛薬もしくは前記抗炎症薬は、アセトアミノフェンである請求項16に記載の用量調節パッケージ。
【請求項20】
前記鎮痛薬もしくは前記抗炎症薬は、イブプロフェンである請求項16に記載の用量調節パッケージ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は全般的に、多発性硬化症(MS:multiple sclerosis)を処置するための方法、およびインターフェロンの投与に一般に伴うインフルエンザ様症状を軽減するための方法に関する。特に、本方法は、筋肉内投与されるインターフェロンの速い用量調節の漸増投与レジメンを使用する。本発明はさらに、薬用量調節のコンプライアンスを促進するための用量調節パッケージングに関する。
【背景技術】
【0002】
多発性硬化症(MS)は、中枢神経系の慢性神経炎症性障害であり、脱髄と軸索およびニューロンの脱落とを引き起こす自己反応性T細胞およびマクロファージが、血液脳関門を通過して病巣に浸潤することを特徴とする。MSに罹患した患者には外見的には、プラークまたは病変と呼ばれる損傷がCNSの白質のランダム領域のあちこちに出現する。病変部位では、神経の絶縁体ミエリンが脱髄で消失する。炎症、脱髄、オリゴデンドロサイト死、膜の損傷および軸索死はすべてMSの症状の一因となっている。
【0003】
MSの病因は不明であるが、MSはヘルパーT1(TH1:T helper 1)細胞が介在する自己免疫疾患であるというのが古典的仮説である。病変の発生は、活性化ミクログリアおよびマクロファージの蓄積を特徴とする。急性プラークは、血液脳関門の損傷、CNS自己抗原を認識する活性化CD4+T細胞およびクロノタイプCD8+T細胞による浸潤、ならびに反応性アストロサイトおよび増殖するオリゴデンドロサイトの存在を特徴とする。また、プロ炎症性サイトカイン、たとえばインターロイキン12(IL−12:interleukin 12)および腫瘍壊死因子−a(TNF−a:tumour−necrosis factor−a)も存在する。さらに他の適応免疫細胞(たとえばTH17細胞および末梢Bリンパ球)および自然免疫細胞(樹状細胞、ナチュラルキラーT細胞およびレジデントミクログリア)がMSの病因に役割を果たしているという証拠もある。
【0004】
最も多く見られる疾患形態である再発寛解型MSは、一定期間に増悪を繰り返すことを特徴とする。増悪は、視覚、運動、感覚および括約筋の制御ならびに認知プロセスを攻撃する。再発寛解型MSの患者はこうした増悪から完全には回復せずに、その後の増悪のたびに神経障害が蓄積される。
【0005】
再発寛解型MSを処置する最初の薬剤は、天然ヒト線維芽細胞インターフェロンβ(IFN−β:interferon−beta)であった。IFN−βは、サイトカインレベルの調節(たとえば、Th1(ヘルパーT1)関連サイトカインおよびTh2関連サイトカインの誘導)、T細胞の活性化および増殖の阻害、自己反応性T細胞のCNSへのトランスマイグレーションの阻害、T細胞アポトーシスの増強、および抗原提示に必要とされる分子の発現の抑制を含む免疫調節作用を有する。IFN−βは十分に確立された臨床効果を有し、いくつかの研究から、IFN−βが免疫調節により多発性硬化症に効果があることが証明されている。
【0006】
現在、MSには、2つの異なる組換えインターフェロンβ処置剤、すなわちインターフェロンβ−1a(IFN−β1a)とインターフェロンβ−1b(IFN−β1b)とがある。IFN−β1aとIFN−β1bとは、推奨薬用量、投与経路および投与間隔の異なる2つの別の分子である。IFN−β1aは166アミノ酸の糖タンパク質で、予想分子量が約22,500ダルトンである。IFN−β1aは、ヒトインターフェロンβ遺伝子が導入された遺伝子改変チャイニーズハムスターの卵巣細胞を用いて組換えDNA技術により製造される。アミノ酸配列は、天然ヒトインターフェロンβのそれと同一である。IFN−β1bは、165アミノ酸および約18,500ダルトンの分子量を有する。IFN−β1bは、天然材料に見られる糖側鎖を含まない。IFN−β1bは、ヒトインターフェロンβser17の遺伝子を含む遺伝子改変プラスミドを持つエシェリキア・コリ(Escherichia coli)株の細菌発酵により製造される。IFN−β1aとIFN−β1bの比活性は異なっており、世界保健機関(WHO:World Health Organization)の組換えインターフェロンβの様々な標準品、および活性の測定に使用する様々なアッセイに基づく。
【0007】
現在、IFN−β1a処置剤には、Avonex(登録商標)、CinnoVex(商標)、Rebif(登録商標)、およびレシゲン(Resigene)がある。現在、IFN−β1b処置剤には、米国におけるBetaseron(登録商標)および欧州におけるBetaferon(登録商標)、ならびにExtavia(登録商標)がある。Avonex(登録商標)およびCinnoVex(商標)は筋肉内投与されるのに対し、MSの他のインターフェロン処置剤は皮下投与される。
【0008】
IFN−β1aとIFN−β1bとの間に比活性の相違はあるものの、この2種類のインターフェロンは類似の副作用プロファイルを有する。たとえば、インターフェロン治療剤に関連する共通の有害事象は、投与後数時間以内に現れ、24時間以内に緩和するインフルエンザ様症状である。インターフェロンの投与に伴うインフルエンザ様症状としては、発熱、筋痛(筋肉痛)、悪寒、発汗、疲労、頭痛および倦怠感が挙げられる。インフルエンザ様症状は、現れる正確なメカニズムは十分に理解されていないが、病状に関わりなくインターフェロンを使用した患者に起こる。インターフェロンは、視床下核を刺激するため、体温に影響を与えるほか、局所サイトカインを刺激して他の症状を引き起こすと考えられている。
【0009】
一般に、インフルエンザ様症状は2〜3ヶ月後には減少する。しかしながら、処置の初期のインターフェロン投与に伴うインフルエンザ様症状は、任意の治療効果の発現の前でもMS治療の開始または維持の大きな障壁になる恐れがある。漸増投与レジメン(用量漸増法ともいう)は、治療開始時の副作用を管理するためインターフェロン治療剤の投与に際して日常的に行われるようになっている。用量漸増法の目的は、治療の受容および遵守を改善し、したがって、多発性硬化症の患者に対して長期的な健康効果に影響を与えることにある。現在、ラベルに用量漸増の指示があるのは、Betaseron(登録商標)およびRebif(登録商標)の2種のインターフェロンβ製品のみである。Betaseron(登録商標)およびRebif(登録商標)はどちらも皮下投与される。
【0010】
Betaseron(登録商標)(10/07)のラベルには、下記のような6週間の期間にわたるIFN−β1bの皮下投与の用量調節の指示があり、7週目から規定用量になる:
1〜2週目−用量の1/4(0.0625mg/0.25ml)
3〜4週目−用量の1/2(0.125mg/0.5ml)
5〜6週目−用量の3/4(0.1875mg/0.75ml)
7週目−規定用量(0.25mg/1ml)
Betaseron(登録商標)のラベルには、用量漸増法がインフルエンザ様症状を軽減する場合があることが表示されている。欧州のBetaferon(登録商標)のラベル(1−8−24)には、下記のような3週間の期間にわたる皮下投与の用量調節の指示があり、4週目から規定用量になる:
1週目−用量の1/4(0.0625mg/0.25ml)
2週目−用量の1/2(0.125mg/0.5ml)
3週目−用量の3/4(0.1875mg/0.75ml)
4週目−規定用量(0.25mg/1ml)
欧州のBetaferon(登録商標)のラベルには、用量を1/4ずつ増量する3週間の用量調節期間を設けてあるが、一般に治療の開始時のみに忍容性を高め、副作用を軽減するため、処置の開始時の用量漸増が推奨されている。6週間の用量調節期間とインフルエンザ様症状の軽減の可能性とが表示されている米国のBetaseron(登録商標)のラベルと異なり、欧州のBetaferon(登録商標)のラベルには、3週間の用量調節期間におけるインフルエンザ様症状の処置に関する記載がない。2つの臨床試験から、3週間の期間にわたり用量を1/4ずつ増量しても、緩徐な用量調節レジメンと比較してインフルエンザ様症状があまり軽減されないことが明らかにされる。
【0011】
ライスら(Rice et al)(ライスGPA、エーベルス(Ebers)GC、ルブリン(Lublin)FD、ノブラー(Knobler)RL。MSの患者におけるイブプロフェン処置とインターフェロンβ−1bの漸増導入(Ibuprofen Treatment versus Gradual Introduction of Interferon beta−1b in Patients with MS)。ニューロロジーNeurology)1999年;52:p.1893〜1895)は、再発寛解型(Relapsing−Remitting)および二次性進行型多発性硬化症(RRおよびSPMS)患者49例を対象に、皮下投与したBetaseron(登録商標)のインフルエンザ様副作用の軽減について、イブプロフェンと組み合わせて用量漸増法の有効性を評価した。これは、無作為化、非盲検試験であり、Betaseron(登録商標)の用量調節を行わなかったが、イブプロフェン予防法を受けた患者(A群)を、Betaseron(登録商標)の用量調節を行い、イブプロフェン処置を受けた患者(B群)およびBetaseron(登録商標)の用量調節を行い、イブプロフェン処置を受けなかった患者(C群)と比較するものであった。A群には、1日おきに8百万IU(MIU)のBetaseron(登録商標)(標準用量)を0〜4週目に投与した。B群およびC群には各々、Betaseron(登録商標)を用量調節スケジュールに従い投与し、2MIU(標準用量の25%)から始めて0〜4週目に2MIU(標準用量の25%)ずつ増量させた。0〜4週目に、A群の患者の11%(18例のうち2例)がインフルエンザ様症状を発症し、B群の患者の6%(6例のうち1例)がインフルエンザ様症状を発症し、C群の患者の40%がインフルエンザ様症状を発症した(ライスらの表1)。イブプロフェン処置のみを受けた群(A群)と薬用量の段階的増量およびイブプロフェン処置を受けた群(B群)との間のインフルエンザ様症状の発症率の相違は、あまり大きくないようである。
【0012】
さらに、ライスらは、この試験の患者49例のうち5例(A群から3例、B群から1例およびC群から1例)(10%)がIFN−β1bの用量を漸増させている間に困難を経験し、これらの患者は、薬用量の減量または漸増スケジュールの遅延のどちらかを必要としたことを報告した。
【0013】
これは、バヤス(Bayas)らによれば、よくあることであった(バヤスAおよびリーケマン(Rieckmann)P。多発性硬化症におけるインターフェロン−β治療の有害作用の管理(Managing the Adverse Effects of Interferon−β Therapy in Multiple Sclerosis)。ドラッグセイフティDrug Safety)2000年2月:22(2):p.149〜159)。バヤスらは、処置を1週間20〜25%用量から始め、第2週に50%用量に増量し、処置に忍容性があった場合、規定用量まで増量する、IFN−β1bの投与(皮下投与のみ)の用量漸増法について記載した。バヤスらによれば、インターフェロン−βの薬用量は、減らすか、または薬剤忍容性の改善により増量が可能になるまでより長い時間同じレベルに維持すべきである。ワルサー(Walther)ら(ワルサーEU、ホールフェルド(Hohlfeld)R。インターフェロンβ治療における多発性硬化症の副作用およびその管理(Multiple Sclerosis Side Effects of Interferon beta Therapy and their Management)。ニューロロジー1999年;53:p.1622〜1627)は、4〜6週間増量するのではなく1回の減量(25〜50%)を維持することを推奨した。したがって、用量調節スケジュールが長期化し過ぎるのが一般的であった。
【0014】
ロー(Wroe)(ローSJ。多発性硬化症の患者におけるインターフェロンβ−1bの忍容性および有効性に対する用量漸増法の作用(Effects of dose titration on tolerability and efficacy of interferon beta−1b in people with multiple sclerosis)。ジャーナル・オブ・インターナショナル・メディカル・リサーチJournal of International Medical Research)2005年;33:p.309〜18)は、250μgのIFN−β1bの皮下投与について、最終用量まで4週間で4段階の緩徐な用量調節の方が、より急速な2週間で2段階の用量調節よりも再発寛解型(relapsing−remitting)MSの患者の忍容性を3ヶ月間にわたり改善し得るかどうかを評価した。緩徐な用量調節群では、IFN−β1bを最初に62.5μg(1/4用量)で9日間1日おきに皮下投与し、次いで11日目および21日目に用量を1/4ずつ増量(それぞれ125μgおよび187.5μg)し、31日目(すなわち5週目の半ば)から3ヶ月の処置の残りの期間にわたって規定用量(250μg)で皮下投与した。ローらの図1を参照されたい。速い用量調節群では、IFN−β1bを最初に125μg(1/2用量)で2週間1日おきに皮下投与し、次いで3ヶ月の処置の残りの期間にわたって規定用量で皮下投与した。評価対象の主な有害事象の1つは、インフルエンザ様症状であった。ローは、2つの処置群間に有害事象の発生率について顕著な相違がなく、たとえば、インフルエンザ様症状の発症率は、緩徐な用量調節群(32.4%)および急速な用量調節群(41.9%)で類似していると報告した(ローらの図3)。ローは、急速な用量調節レジメン(1/2用量ずつ増量し、3週目から規定用量)では臨床的効果の発現が速くなり、緩徐な用量調節(用量を1/4ずつ増量し、5週目の半ばから規定用量)では急速な用量調節レジメンと比較してインフルエンザ様症状があまり軽減されないことが示されると結論した。
【0015】
Rebif(登録商標)のラベルには、下記のようにIFN−β1aを週3回4週間の期間皮下投与し、5週目に規定用量を投与する用量調節の指示がある:
1〜2週目−用量の1/5−皮下注射3×/週
(33μgの用量調節用量=4.4μg)
(44μgの用量調節用量=8.8μg)
3〜4週目−用量の1/2−皮下注射3×/週
(33μgの用量調節用量=11μg)
(44μgの用量調節用量=22μg)
5週目−規定用量−皮下注射3×/週
欧州のRebif(登録商標)のラベルには、4週間の期間に徐々に増量して有害反応を低下させることが推奨されている。最初の2週間に1/5用量にすると、タキフィラキシーが発現し、したがって副作用を軽減できるという目的が満たされる。米国および欧州のラベルにはどちらも、インターフェロンβの投与に伴うインフルエンザ様症状の処置に関する記載がない。これまで考察した製品および臨床試験はすべて、IFN−β1aまたはIFN−β1bの皮下投与に関するものである。
【0016】
ブランデス(Brandes)ら(ブランデスDW、ビグレー(Bigley)K、ホーンステイン(Hornstein)W、コーヘン(Cohen)H、アウ(Au)W、シュービン(Shubin)R。用量漸増法および鎮痛薬を用いた筋肉内インターフェロンβ−1a治療によるMS患者のインフルエンザ様症状の軽減:パイロット試験(Alleviating Flulike Symptoms with Dose Titration and Analgesics in MS Patients on Intramuscular Interferon beta−1a Therapy: a pilot study)。カレント・メディカル・リサーチ・アンド・オピニオンCurrent Medical Research and Opinion)2007年;23:7:p.1667〜1672)は、最初にIFN−β1aの筋肉内投与(IM:intramuscular administration)の用量漸増法を調査したようである。ブランデスらは、再発寛解型(relapsing−remitting)多発性硬化症の患者47例におけるAvonex(登録商標)(IFN−β1a)のインフルエンザ様副作用の軽減について、アセトアミノフェンまたはイブプロフェンと組み合わせて用量漸増法の有効性を評価した。
【0017】
ブランデスらの試験は、12週間の多施設、無作為化非盲検試験であった。群1の患者には、用量調節を行わずにIFN−β1aを30μgの用量で週1回投与(IM)した。群2および3には、IFN−β1aを1週目および2週目に1/4用量で、3週目および4週目に1/2用量で、5週目および6週目に3/4用量で、7〜12週目に規定用量(30μg)で投与(IM)した。群1および2には、毎回(IM)IFN−β1a注射の1時間前、次いで必要に応じて4時間ごとにアセトアミノフェン650mgを投与した。群3には、毎回(IM)IFN−β1a注射の1時間前、注射の6時間後に再度、次いで必要に応じて6時間ごとにイブプロフェン400mgを投与した。3つの時点、すなわちベースライン(鎮痛薬の初回投与、注射の1時間前);時間A(鎮痛薬の2回目の投与、注射の4時間後);および時間B(注射の12〜15時間後)でインフルエンザ様症状を記録した。
【0018】
ブランデスらは、4分の1の用量調節(群2および3)では、用量調節なしと比較して最初の2週間の注射の4時間後のみで、インフルエンザ様症状スコアがベースラインから平均≧2増加した患者の割合が有意に低下することが分かった(ブランデスらの図1A、p=0.015を*で示す)。用量が増加された3〜12週目における4時間では、4分の1の用量調節(群2および3)と用量調節なし(群1)との間に有意差はなかった。これらのデータから、1/4の用量漸増によりインフルエンザ様症状が軽減されないことが示唆され、さらに長期の用量調節、すなわち、一層緩徐な用量調節が必要であると考えられることが示唆された。
【0019】
また、最初の2週間を含む任意の週における12〜15時間でも、4分の1の用量調節(群2および3)と用量調節なし(群1)との間に有意差はなかった。これらのデータから、1/4用量でIFN−β1aの注射(IM)を開始しても、1/4用量は、インフルエンザ様症状の発現を遅延させるのみで、しかも最初の2週間しかそうでないため、インフルエンザ様症状を軽減する効果は限定的であることが示唆された。
【0020】
MSの治療管理の包括的な検討においてフローマン(Frohman)ら(フローマンEら。多発性硬化症の疾患修飾性治療:管理を最適化するための戦略(Disease−Modifying Therapy in Multiple Sclerosis:Strategies for Optimizing Management)。ニューロロジストNeurologist)2002年;8:p.227〜236)は、ステロイドレジメンの漸減期に処置を開始し、非ステロイド性抗炎症薬を組み合わせてAvonex(登録商標)、Rebif(登録商標)またはBetaseron(登録商標)のいずれかで処置した患者に分割投与スキームを適用することを推奨している。特に、患者は推奨用量の25%から開始し、薬用量を1週間おきに毎週25%ずつ増加させた。フローマンらは、インターフェロン関連副作用が用量反応と関連していることを考慮して、25%用量を「通常、副作用がほとんどないかまったくない用量」としている。意義深いことに、フローマンらは、「用量を増やして、患者が重度の制限副作用を経験したら、我々は一般に用量調節期間を延長し、2〜4週ごとに同じ増加率で漸増させる。このアプローチにより、薬剤投与開始に失敗する患者はごくわずかであった」と述べた。このため、フローマンは、たとえ誤っても用量調節スケジュールを長期化する方が良いと教示している。
【0021】
したがって、インターフェロンの筋肉内投与に伴うインフルエンザ様症状をさらに軽減する方法であって、MSのインターフェロン治療のコンプライアンスおよび継続を促進する方法を提供することが望ましい。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0022】
驚くべきことに、本発明者らは、インターフェロンの筋肉内投与の用量漸増スケジュールの短縮(「速い用量調節」)によって、より長い用量漸増スケジュール(「緩徐な用量調節」)と比較してインフルエンザ様症状の出現が大きく抑制されることを見出した。
【0023】
このため、本発明は、多発性硬化症を処置する方法であって、患者にインターフェロンを週1回筋肉内投与することを含む、特にインターフェロンを漸増用量レジメンで投与する初期用量調節期間(「用量調節期間」)を含む方法を提供する。特に、用量調節期間は、1週目に4分の1用量、2週目に2分の1用量、3週目に4分の3用量、および4週目以降に規定の治療有効用量を含む。
【0024】
本発明はまた、多発性硬化症の患者へのインターフェロンの投与に伴うインフルエンザ様症状を軽減する方法であって、(a)1〜3週目に漸増投与レジメンに従い患者にインターフェロンを筋肉内投与すること;および(b)4週目にインターフェロンの規定の治療有効用量を筋肉内投与することを含む方法を提供する。
【0025】
本発明はさらに、インターフェロンの薬用量が一定の期間にわたり変化するこれらの方法のコンプライアンスを可能にするための用量調節パッケージに関する。用量調節パッケージは、インターフェロンと、用量調節期間中に漸増用量レジメンでインターフェロンを患者に投与するための指示とを含むインターフェロン送達装置を含む。
【0026】
本発明の前述および他の目的、特徴および利点は、以下の本発明の好ましい実施形態のより詳細な説明から明らかになるであろう。
【0027】
本明細書に組み込まれ本明細書の一部を形成する添付の図は、本発明の実施形態を図示するものであり、その説明と共に、本発明の原理をさらに説明するのに役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】「速いと緩徐な」用量調節試験のデザインを示すフローチャートである。下記の実施例では、追加の被験者が調査されたことに留意されたい。
図2】臨床試験の用量調節スケジュールを示す表である。処置群1の患者にはAvonex(登録商標)の規定の筋肉内用量を8週間毎週投与した。処置群2の患者には速い用量調節スケジュール(1週目に1/4用量、2週目に1/2用量、3週目3/4用量および4〜8週目に規定用量)に従いAvonex(登録商標)の筋肉内用量を投与した。処置群3の患者には緩徐な用量調節スケジュール(1〜2週目に1/4用量、3〜4週目に1/2用量、5〜6週目に3/4用量および7〜8週目に規定用量)に従いAvonex(登録商標)の筋肉内用量を投与した。すべての患者群に予防投与を行った。
図3】本発明によるインフルエンザ様症状(FLS:flu−like symptoms)のスコアリングの方法を記載する。
図4】主要な結果変数の線グラフであり、注射前から注射から4〜6時間後の、8週間におけるインフルエンザ様症状(FLS)の総スコアの変化を示す。
図5】副次的な結果変数の線グラフであり、注射前から注射から12〜15時間後の、8週間におけるインフルエンザ様症状(FLS)の総スコアの変化を示す。
図6】副次的な結果変数の表であり、注射から4〜6時間後および12〜15時間後の、8週間におけるインフルエンザ様症状(FLS)スコアの発症率のオッズ比を示す。
図7】用量調節なし、速い用量調節および緩徐な用量調節のインフルエンザ様症状に対する作用を比較したデータを示す。
図8】用量調節なしと速い用量調節とを比較し、4〜6時間でのインフルエンザ様症状(FLS)の変化を比べた棒グラフである。
図9】インフルエンザ様症状に対する用量調節なしの作用を緩徐な用量調節と比較したデータを示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、初期漸増薬用量レジメンまたは用量調節期間を用いてインターフェロンを筋肉内投与することにより多発性硬化症の被験者を処置する方法を提供する。処置は好ましくは週1回である。漸増薬用量レジメンは典型的には、1週目に4分の1用量、2週目に2分の1用量、3週目に4分の3用量、および4週目以降に規定の治療有効用量の投与を含む。
【0030】
好ましい実施形態では、1週目の用量は約7.5マイクログラム、2週目の用量は約15マイクログラム、3週目の用量は約22.5マイクログラム、および4週目の用量は約30マイクログラムである。
【0031】
好ましい実施形態では、インターフェロンはインターフェロンβである。より好ましい実施形態では、インターフェロンはインターフェロンβである。最も好ましい実施形態では、インターフェロンはインターフェロンβ1aである。
【0032】
本発明はまた、インターフェロンの筋肉内投与に伴って起こることがあるインフルエンザ様症状を軽減する方法を提供する。特に、本発明は、1〜3週目に漸増投与レジメンに従いインターフェロンを患者に筋肉内投与すること;およびその後4週目にインターフェロンの規定の治療有効用量を投与すること方法を提供する。
【0033】
インフルエンザ様症状の軽減は、症状の重症度の低下、および/またはインフルエンザ様症状の発症率の低下で測定することができる。低下については、注射の後の様々な時点で、たとえば注射後4〜6時間および注射後12〜15時間で測定してもよい。
【0034】
好ましくは、4〜6時間でのインフルエンザ様症状の重症度の低下は、少なくとも40%、一層好ましくは少なくとも50%、なお一層好ましくは少なくとも60%、最も好ましくは少なくとも70%である。12〜15時間でのインフルエンザ様症状の重症度の低下は、好ましくは少なくとも10%、一層好ましくは少なくとも20%、なお一層好ましくは少なくとも25%、最も好ましくは少なくとも30%である。
【0035】
4〜6時間でのインフルエンザ様症状の発症率の低下は、好ましくは少なくとも5%、一層好ましくは少なくとも10%、なお一層好ましくは少なくとも15%、最も好ましくは約20%である。好ましくは、12〜15時間でのインフルエンザ様症状の発症率の低下は、少なくとも10%、一層好ましくは少なくとも15%、なお一層好ましくは少なくとも20%、最も好ましくは約25%である。
【0036】
好ましい実施形態では、本発明は、1週目に治療有効用量の4分の1、2週目に治療有効用量の半分、および3週目に規定の治療有効用量の4分の3を投与することを含む。
【0037】
最も好ましい実施形態では、規定の治療有効用量は30マイクログラムである。
【0038】
インフルエンザ様症状として、たとえば、発熱、筋痛(筋肉痛)、悪寒、発汗、疲労、頭痛および倦怠感が挙げられ、図3の方法に従いスコア化することができる。
【0039】
本発明の方法は、鎮痛薬もしくは抗炎症剤またはこれらの混合物の投与をさらに含んでもよい。薬剤は、ステロイド系抗炎症剤でも、または非ステロイド系抗炎症剤でもよい。好ましい薬剤として、アセトアミノフェンおよびイブプロフェンがある。
【0040】
本発明はまた、漸増薬用量レジメン、そして最終的にはインターフェロンを使用した長期間の処置のコンプライアンスを促進するようにインターフェロンが提供される用量調節パッケージを提供する。
【0041】
好ましい実施形態では、パッケージは、インターフェロンおよびインターフェロンの送達装置を含む。インターフェロンは、凍結乾燥形態であってもよく、したがってジャーまたはバイアルに包装されている。この場合には、このパッケージは好ましくは、凍結乾燥インターフェロンの希釈液が事前に充填されたシリンジなどの装置をさらに含む。
【0042】
あるいは、インターフェロンは液体形態であってもよい。この場合には、インターフェロンは、プレフィルドシリンジで提供してもよい。シリンジには、1〜4週目およびそれ以降の正確な薬用量が充填されていてもよい。あるいは、シリンジと組み合わせて使用した場合、漸増薬用量レジメンの特定の週(用量調節期間)の正確な量または薬用量の調節ができる、送達装置の付属品をさらに提供してもよい。
【0043】
インターフェロンがシリンジで提供される場合、シリンジはまた、針刺し予防装置を備えていてもよい。こうした予防装置として、自動化されていてもよい針シールドを挙げることができる。シールドは、完全自動でもよいし(すなわち、患者による一切の行為のない)、または患者が作動させてもよい。
【0044】
インターフェロンはまた、他の送達装置、たとえばペンで提供してもよい。
【0045】
用量調節パッケージは好ましくは、インターフェロンが、好ましくは1週目に4分の1用量、2週目に2分の1用量、3週目に4分の3用量、および4週目に規定の治療有効用量で投与される用量調節期間中に患者がインターフェロンを筋肉内投与するための指示書を含む。
【0046】
本明細書では以下の用語が使用される。
【0047】
インターフェロン−「インターフェロン」(「IFN」とも呼ばれる)は、種々の誘導因子、たとえばウイルス、ポリペプチド、マイトジェンおよび同種のものの曝露に応答して哺乳動物細胞により生産される、小さな種特異的一本鎖ポリペプチドである。本発明に使用されるのに最も好ましいインターフェロンは、残基80(Asn80)がグリコシル化され、かつ好ましくは組換えDNA技術により得られたグリコシル化ヒトインターフェロン−βである。この好ましいグリコシル化インターフェロン−βは、「インターフェロン−β1a」と呼ばれる。また、「インターフェロン−β1a」という用語は、ミュータントがやはりAsn80残基でグリコシル化されているのであれば、すべてのミュータント形態(すなわち、実施例1)を包含することを意図している。
【0048】
タンパク質を製造するための組換えDNA法は、公知である。
【0049】
本発明の本方法に使用してもよい、好ましいインターフェロン−β1aポリヌクレオチドは、様々な脊椎動物、好ましくは哺乳動物の野生型インターフェロンβ遺伝子配列に由来するものであり、以下の米国特許に記載された方法など当業者によく知られた方法を用いて得られる:米国特許第5,641,656号(1997年6月24日に発行:トリI型インターフェロンプロタンパク質および成熟トリI型インターフェロンをコードするDNA(DNA encoding avian type I interferon proprotein and mature avian type I interferon))、米国特許第5,605,688号(1997年2月25日−組換えイヌおよびウマI型インターフェロン(recombinant dog and horse type I interferons));米国特許第5,231,176号(1993年7月27日、ヒト白血球インターフェロンをコードするDNA分子(DNA molecule encoding a human leukocyte interferon)););米国特許第5,071,761号(1991年12月10日、ヒトリンパ芽球様インターフェロンLyIFN−α−2およびLyIFN−α−3の部分配列をコードするDNA配列(DNA sequence coding for sub−sequences of human lymphoblastoid interferons LyIFN−alpha−2 and LyIFN−alpha−3));米国特許第4,970,161号(1990年11月13日、ヒトインターフェロンγをコードするDNA配列(DNA sequence coding for human interferon−gamma));米国特許第4,738,931号(1988年4月19日、ヒトインターフェロンβ遺伝子を含むDNA(DNA containing a human interferon beta gene));米国特許第4,695,543号(1987年9月22日、ヒトα−インターフェロンGx−1遺伝子(human alpha−interferon Gx−1 gene)、および米国特許第4,456,748号(1984年6月26日、様々な天然白血球インターフェロンの部分配列をコードするDNA(DNA encoding sub−sequences of different,naturally,occurring leukocyte interferons))。
【0050】
本発明ではインターフェロン−β1aのミュータントを使用してもよい。突然変異は、当業者に公知の特異的突然変異誘発の従来の方法を用いて起こされる。さらに、本発明は、機能的に等価なインターフェロンβ−1aポリペプチドをコードする機能的に等価なインターフェロン−β1aポリヌクレオチドを提供する。
【0051】
要約すると、「インターフェロン」という用語は、以下に限定されるものではないが、上記の薬のほか、それらと機能的に等価なものを含む。したがって本明細書で使用する場合、「機能的に等価なもの」という用語は、インターフェロン−β1aタンパク質、または哺乳動物レシピエントに対して、機能的に等価なものと見なされるインターフェロンと同一または改善された有益な作用を有するインターフェロンβ−1aタンパク質をコードするポリヌクレオチドをいう。当業者であれば理解するように、機能的に等価なタンパク質は、組換え技術により、たとえば、「機能的に等価なDNA」を発現させることにより作製することができる。したがって、本発明は、天然DNAによりコードされたインターフェロン−β1aタンパク質のほか、天然DNAによりコードされたのと同じタンパク質をコードする非天然DNAによりコードされたインターフェロン−β1aタンパク質を包含する。ヌクレオチドコード配列の縮重により、他のポリヌクレオチドを使用してインターフェロン−β1aをコードしてもよい。こうしたものには、配列内で同じアミノ酸残基をコードする異なるコドンを置換して、もってサイレント変異を施すことにより変化した上記の配列の全部、または一部が含まれる。こうした変化した配列は、これらの配列の等価物と見なされる。たとえば、Phe(F)は、2つのコドンTTCまたはTTTによりコードされ、Tyr(Y)はTACまたはTATによりコードされ、His(H)はCACまたはCATによりコードされる。一方、Trp(W)は1つのコドンTGGによりコードされる。したがって、特定のインターフェロンをコードする個々のDNA配列には、それをコードする多くのDNA縮重配列が存在することが理解されよう。
【0052】
インターフェロンは、それ自体で投与しても、さらにはその薬学的に許容されるエステル、塩および他の生理的機能を有する誘導体の形態で投与してもよい。こうした医薬製剤および薬物製剤では、インターフェロンは、好ましくは1種または複数種の薬学的に許容されるキャリア(単数または複数)、および任意に他の任意の治療成分と一緒に利用される。キャリア(単数または複数)は、製剤の他の成分との適合性があり、かつそのレシピエントにあまり有害でないという意味で薬学的に許容されるものでなければならない。インターフェロンは、上記のような所望の薬理効果を達成するのに効果的な量で、かつ所望の1日用量を実現するのに適切な量で与える。
【0053】
製剤は、筋肉内投与に好適なものを含む。
【0054】
製剤は、単位剤形で提供すると好都合である場合があり、薬学の技術分野において周知の方法のいずれにより調製してもよい。こうした方法は一般に、1種または複数種の副成分を構成するキャリアと活性成分(単数または複数)を混合するステップを含む。典型的には、活性成分(単数または複数)を液体キャリアと均一かつ均質に混合することにより製剤を調製する。
【0055】
製剤は、単位用量形態で提供しても、複数用量形態で提供してもよい。
【0056】
製剤は、前述の成分に加えて、希釈液、緩衝液、錠剤分解物質、界面活性剤、増粘剤、滑沢剤、防腐剤(酸化防止剤を含む)および同種のものから選択される1種または複数種の副成分(単数または複数)をさらに含んでもよい。
【0057】
本発明の追加の実施形態である以下の項目により本発明をさらに詳細に記載する。
【0058】
1.多発性硬化症を処置する方法であって、患者にインターフェロンを週1回筋肉内投与することを含み、処置は、1週目に4分の1用量、2週目に2分の1用量、3週目に4分の3用量、および4週目以降に規定の治療有効用量でインターフェロンを投与する用量調節期間から開始する方法。
【0059】
2.1週目の用量は約7.5マイクログラム、2週目の用量は約15マイクログラム、3週目の用量は約22.5マイクログラム、および4週目の用量は約30マイクログラムである、項目1に記載の方法。
【0060】
3.インターフェロンはインターフェロンβ1aである、項目1に記載の方法。
【0061】
4.多発性硬化症の患者へのインターフェロンの投与に伴うインフルエンザ様症状を軽減する方法であって、
(a)1〜3週目に漸増投与レジメンに従い患者にインターフェロンを筋肉内投与すること;および
(b)4週目にインターフェロンの規定の治療有効用量を筋肉内投与すること
を含む方法。
【0062】
5.漸増投与レジメンは1週目に治療有効用量の4分の1、2週目に治療有効用量の半分、および3週目に治療有効用量の4分の3を投与することを含む、項目4に記載の方法。
【0063】
6.インターフェロンはインターフェロンβ1aである、項目4に記載の方法。
【0064】
7.規定の治療有効用量は30マイクログラムである、項目4に記載の方法。
【0065】
8.インフルエンザ様症状は、発熱、筋痛、悪寒、発汗、疲労、頭痛および倦怠感を含む、項目4に記載の方法。
【0066】
9.一定の期間にわたりインターフェロンの薬用量を変化させるレジメンのコンプライアンスを可能にするための用量調節パッケージであって、インターフェロンを含むインターフェロン送達装置、および用量調節期間中の患者による投与のための指示書を含み、インターフェロンは1週目に4分の1用量、2週目に2分の1用量、3週目に4分の3用量、および4週目に規定の治療有効用量で投与される、用量調節パッケージ。
【0067】
10.指示書は約7.5マイクログラムの1週目の薬用量、約15マイクログラムの2週目の用量、約22.5マイクログラムの3週目の薬用量、および約30マイクログラムの4週目の薬用量を記載する、項目9に記載の用量調節パッケージ。
【0068】
11.インターフェロンはバイアル中に凍結乾燥形態で提供される、項目9に記載の用量調節パッケージ。
【0069】
12.バイアルアダプターと、前記凍結乾燥インターフェロンの希釈液を予め充填したシリンジとをさらに含む、項目11に記載の用量調節パッケージ。
【0070】
13.インターフェロンは液体製剤で提供される、項目9に記載の用量調節パッケージ。
【0071】
14.液体インターフェロン製剤はプレフィルドシリンジで提供される、項目13に記載の用量調節パッケージ。
【0072】
15.プレフィルドシリンジは1〜4週目の正確な薬用量が充填されている、項目14に記載の用量調節パッケージ。
【0073】
16.送達装置は自動注射器を含む、項目9に記載の用量調節パッケージ。
【0074】
17.送達装置は針を含まない、項目9に記載の用量調節パッケージ。
【0075】
18.送達装置はペンである、項目9に記載の用量調節パッケージ。
【0076】
19.針刺し予防装置をさらに含む、項目9に記載の用量調節パッケージ。
【0077】
20.針刺し予防装置は針シールドを含む、項目19に記載の用量調節パッケージ。
【0078】
21.シールドは患者による手作業で作動される、項目20に記載の用量調節パッケージ。
【0079】
22.シールドは自動化されている、項目20に記載の用量調節パッケージ。
【0080】
23.自動シールドは患者により作動される、項目22に記載の用量調節パッケージ。
【0081】
24.針は患者による一切の行為なしに自動的に遮蔽される、項目22に記載の用量調節パッケージ。
【0082】
25.針は患者による一切の行為なしに遮蔽される、項目22に記載の用量調節パッケージ。
【0083】
26.パッケージは用量制限用量調節装置をさらに含む、項目9に記載の用量調節パッケージ。
【0084】
27.鎮痛薬もしくは抗炎症剤またはこれらの混合物の投与をさらに含む、項目1〜8のいずれかに記載の方法。
【0085】
28.薬剤はステロイドである、項目27に記載の方法。
【0086】
29,薬剤は非ステロイド系抗炎症薬である、項目27の方法。
【0087】
30.薬剤はアセトアミノフェンである、項目27に記載の方法。
【0088】
31.薬剤はイブプロフェンである、項目27に記載の方法。
【実施例】
【0089】
本発明の組成物およびプロセスは、説明のみを意図し、本発明の範囲を限定することを意図していない以下の例と共に理解が深まるであろう。開示された実施形態に対する様々な変更および修正が当業者には明らかになるであろう。そうした変更および修正は、以下に限定されるものではないが、本発明のプロセス、製剤および/または方法に関連する変更および修正を含み、本発明の精神および添付の特許請求の範囲の範囲を逸脱しない範囲でなされ得る。
【0090】
Avonex(登録商標)について、無作為化、3群、用量盲検、並行群間試験で検討して、健常志願者のIFN−β1a関連インフルエンザ様症状の重症度および発症率に対する、筋肉内投与されたAvonex(登録商標)の用量漸増法の作用を判定した。Avonex(登録商標)の承認された治療用量は、IM投与により週1回30μgである。
【0091】
この盲検、並行群間試験では、被験者を3つの処置群:群1−用量調節なし(8週間、週1回、IM IFN−β1aを30μg);群2−速い用量漸増法(3週間かけて毎週4分の1用量ずつ30μgまで増量、8週目まで規定用量);および群3−緩徐な用量漸増法(6週かけて2週間ごとに4分の1用量ずつ30μgまで増量、8週目まで規定用量)のいずれかに無作為に割り付けた。図1を参照されたい。管理された条件におけるインフルエンザ様症状(FLS)を評価し、バイアスを防ぐため、すべての被験者に、症状に関係なく予防投与(Avonex(登録商標)の注射の1時間前と、注射の4〜6時間後、8〜10時間後および12〜15時間後とにアセトアミノフェン650ミリグラム(mg)の経口投与)を行った。
【0092】
毎週、注射前、注射の4〜6時間後および12〜15時間後に発熱、筋痛(筋肉痛)、悪寒および疲労の症状の有無および重症度を記録した。治験責任医師が各FLSに0〜3のスコアを以下の通り割り当てた:0=なし;1=軽度、日常生活を妨げなかった;2=中等度、日常生活を妨げるほど;3=重度、床上安静が必要。体温を記録し、以下のスケールを用いて発熱の有無を判定した:0(<99.1°F);1(≧99.1°Fだが<100.1°F);2(≧100.1°Fだが<101.1°F);3(≧101.1°F)。データ解析において、3つの時点(注射前、4〜6時間および12〜15時間)ごとに総スコア(3つの症状スコアと発熱スコアとの合計)を計算した。時点ごとの最大総スコアは12、最小総スコアは0であった。総スコアが注射前のスコアより2ポイント以上高いものをFLSの有無に対して陽性と見なした。
【0093】
合計234例の被験者を組み入れ、各群78例とし、195例(83%)が試験を完了した。被験者の過半数は女性であり(62%)、平均年齢は32.9歳であった。速い用量調節群および緩徐な用量調節群の被験者は規定用量群の被験者より、注射から4〜6時間後(0.132[P<0.001]および0.267[P<0.001]と0.539)(図2を参照)、および注射から12〜15時間後(0.475[<0.001]および0.515[P=0.002]と0.753)(図3を参照)に8週間にわたりFLSの重度が有意に低下した。FLSの発症率は、注射から4〜6時間後の用量調節なし群と比較して、速い用量調節群(オッズ比[OR]:0.179[0.075、0.429]、P<0.001)、および緩徐な用量調節群(OR:0.414[0.194、0.994]、P=0.023)(図4を参照)で有意に低下した。注射から12〜15時間後でも同様の結果が立証された(速い用量調節のOR:0.469[0.272、0.907]、P=0.006;緩徐な用量調節のOR:0.562[0.338、0.936]、P=0.027)(図4を参照)。
【0094】
本明細書に言及した特許および科学文献は、当業者に入手可能な知識を証明する。本明細書に引用する米国特許および公開もしくは未公開米国特許出願についてはすべて援用する。本明細書に引用する公開された外国特許および特許出願については、本明細書に援用する。本明細書に引用する他の公表された参考文献、文書、原稿および科学文献も本明細書に援用する。
【0095】
本発明についてその好ましい実施形態を参照しながら詳細に図示して記載してきたが、添付の特許請求の範囲により包含される本発明の範囲から逸脱しない範囲で、本発明の形式および細部に様々な変更が可能であることが当業者により理解されるであろう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9