特許第6279909号(P6279909)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6279909
(24)【登録日】2018年1月26日
(45)【発行日】2018年2月14日
(54)【発明の名称】鍛造品の成形方法及び鍛造用金型
(51)【国際特許分類】
   B21J 5/02 20060101AFI20180205BHJP
   B21K 1/30 20060101ALI20180205BHJP
【FI】
   B21J5/02 A
   B21K1/30 A
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-7685(P2014-7685)
(22)【出願日】2014年1月20日
(65)【公開番号】特開2014-208372(P2014-208372A)
(43)【公開日】2014年11月6日
【審査請求日】2016年11月9日
(31)【優先権主張番号】特願2013-60085(P2013-60085)
(32)【優先日】2013年3月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000238360
【氏名又は名称】武蔵精密工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067356
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 容一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100160004
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 憲雅
(74)【代理人】
【識別番号】100120558
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 勝彦
(74)【代理人】
【識別番号】100148909
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧澤 匡則
(74)【代理人】
【識別番号】100161355
【弁理士】
【氏名又は名称】野崎 俊剛
(72)【発明者】
【氏名】村田 真一
【審査官】 塩治 雅也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−001073(JP,A)
【文献】 特開平07−124682(JP,A)
【文献】 特開平06−126372(JP,A)
【文献】 特開平01−186234(JP,A)
【文献】 米国特許第04599775(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21J 5/02
B21K 1/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍛造品の成形方法であって、
第1金型(20)を用いて、第1鍛造品(30)を形成する第1工程と、
第2金型(40)を用いて、前記第1鍛造品(30)の余肉部を圧縮してサイジングする第2工程とを備え、
前記第1金型(20)は、素材(16)が摺動する第1摺動面(25)と、前記素材(16)を押圧する第1押圧面(26)とを含み、
前記第1摺動面(25)は、第1特定摺動面(27)を含む複数の摺動面で構成され、
前記第1押圧面(26)は、前記第1特定摺動面(27)に対し、前記第1特定摺動面(27)に近付くほど、前記素材(16)が金型に入っていく方向に対して後退する向きに傾斜しており、
前記第2金型(40)は、第2摺動面(42)と第2押圧面(43)とを含み、
前記第2摺動面(42)は、第2特定摺動面(44)を含む複数の摺動面で構成され、
前記第2押圧面(43)は、前記第2特定摺動面(44)に対し、前記第2特定摺動面(44)に近付くほど、前記第1鍛造品(30)が金型に入っていく方向に対して後退する向きに傾斜しており、
前記第2押圧面(43)の前記第2特定摺動面(44)に対する傾き(θ2)が、前記第1押圧面(26)の前記第1特定摺動面(27)に対する傾き(θ1)より小さく設定されていることを特徴とする鍛造品の成形方法。
【請求項2】
鍛造品の成形方法であって、
第1金型(20B)を用いて、第1鍛造品(30)を形成する第1工程と、
第2金型(40B)を用いて、前記第1鍛造品(30)の余肉部を圧縮してサイジングする第2工程とを備え、
前記第1金型(20B)は、素材(16)が摺動する第1摺動面(25B)と、前記素材(16)を押圧する第1押圧面(26B)とを含み、
前記第1摺動面(25B)は、第1特定摺動面(27B)を含む複数の摺動面で構成され、
前記第1押圧面(26B)は、前記第1特定摺動面(27B)に近付くほど、前記素材(16)が金型に入っていく方向に対して後退する向きに湾曲しており、
前記第2金型(40B)は、前記第1鍛造品(30)が摺動する第2摺動面(42B)と、前記第1鍛造品(30)を押圧する第2押圧面(43B)とを含み、
前記第2摺動面(42B)は、第2特定摺動面(44B)を含む複数の摺動面で構成され、
前記第2押圧面(43B)は、前記第2特定摺動面(44B)に近付くほど、前記第1鍛造品(30)が金型に入っていく方向に対して後退する向きに湾曲し、
前記第2押圧面(43B)の曲率半径(R2)は、前記第1押圧面(26B)の曲率半径(R1)より小さくなるようにして、
前記第1押圧面(26B)と前記第2押圧面(43B)とは、湾曲形状が互いに異なっていることを特徴とする鍛造品の成形方法。
【請求項3】
前記第1金型(20)及び前記第2金型(40)により、相手部材に噛み合う歯状の噛み合い部(32)を成形することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の鍛造品の成形方法。
【請求項4】
前記第1押圧面(26、26B)及び前記第2押圧面(43、43B)により、前記噛み合い部(32)に、相手部材との噛み合いの際に噛み合い開始点として機能する先端部(33)を形成することを特徴とする請求項3記載の鍛造品の成形方法。
【請求項5】
鍛造により第1鍛造品(30)を得る第1金型(20)と、前記第1鍛造品(30)を本成形する第2金型(40)とからなる鍛造用金型であって、
前記第1金型(20)は、素材(16)が摺動する第1摺動面(25)と、前記素材(16)を押圧する第1押圧面(26)とを含み、
前記第1摺動面(25)は、第1特定摺動面(27)を含む複数の摺動面で構成され、
前記第1押圧面(26)は、前記第1特定摺動面(27)に対し、前記第1特定摺動面(27)に近付くほど、前記素材(16)が金型に入っていく方向に対して後退する向きに傾斜しており、
前記第2金型(40)は、第2摺動面(42)と第2押圧面(43)とを含み、
前記第2摺動面(42)は、第2特定摺動面(44)を含む複数の摺動面で構成され、
前記第2押圧面(43)は、前記第2特定摺動面(44)に対し、前記第2特定摺動面(44)に近付くほど、前記第1鍛造品(30)が金型に入っていく方向に対して後退する向きに傾斜しており、
前記第2押圧面(43)の前記第2特定摺動面(44)に対する傾き(θ2)が、前記第1押圧面(26)の前記第1特定摺動面(27)に対する傾き(θ1)より小さく設定されていることを特徴とする鍛造用金型。
【請求項6】
前記第1押圧面(26)は、稜線(28)を挟む複数の面(26L、26R)からなり、前記稜線(28)は、当該稜線(28)の一端に接続する前記第1特定摺動面(27)に近づくほど、前記素材(16)が入っていく方向に対して後退することを特徴とする請求項5記載の鍛造用金型。
【請求項7】
鍛造により第1鍛造品(30)を得る第1金型(20B)と、前記第1鍛造品(30)を本成形する第2金型(40B)とからなる鍛造用金型であって、
前記第1金型(20B)は、素材(16)が摺動する第1摺動面(25B)と、前記素材(16)を押圧する第1押圧面(26B)とを含み、
前記第1摺動面(25B)は、第1特定摺動面(27B)を含む複数の摺動面で構成され、
前記第1押圧面(26B)は、前記第1特定摺動面(27B)に近付くほど、前記素材(16)が金型に入っていく方向に対して後退する向きに湾曲しており、
前記第2金型(40B)は、前記第1鍛造品(30)が摺動する第2摺動面(42B)と、前記第1鍛造品(30)を押圧する第2押圧面(43B)とを含み、
前記第2摺動面(42B)は、第2特定摺動面(44B)を含む複数の摺動面で構成され、
前記第2押圧面(43B)は、前記第2特定摺動面(44B)に近付くほど、前記第1鍛造品(30)が金型に入っていく方向に対して後退する向きに湾曲し、
前記第2押圧面(43B)の曲率半径(R2)は、前記第1押圧面(26B)の曲率半径(R1)より小さくなるようにして、
前記第1押圧面(26B)と前記第2押圧面(43B)とは、湾曲形状が互いに異なっていることを特徴とする鍛造用金型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、仕上がり形状が良好な鍛造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ドグクラッチは、ドグ歯と称する歯状の噛み合い部を備える。このようなドグクラッチは素材から削り出す機械加工法であれば容易に製造され得るが、材料歩留まりの向上や工程短縮の点で難がある。代替加工法として鍛造法が提案されてきた(例えば、特許文献1(第5図)参照。)。
【0003】
図15は従来の鍛造法の基本原理を説明する図である。特許文献1の技術により、図15(a)に示す第1鍛造品101が製造され、この第1鍛造品101に本成形(サイジング)を施すことにより、図15(b)に示すような第2鍛造品(歯車成形主体)104が得られる。この第2鍛造品104には噛み合い部に相当するスプライン歯105が形成される。
【0004】
スプライン歯105の鍛造成形においては、本体部102から離隔した先端Tに欠肉が発生し易い。よって、従来方案では、第1鍛造品101の歯形成部103に十分な圧縮代を確保すべく、(a)に示すように、第1鍛造品101用の金型100において、摺動面100Aに近付くほど深くなる方向に押圧面100Bを傾けている。このようにすれば、(a)にて、V字を呈する部分が余肉部分103aとなり、この余肉部分103aが圧縮されることで(b)のスプライン歯105が仕上げられるというものである。圧縮代を稼ぐために金型形状を工夫し、第1鍛造品101の余肉部分103aを大きく張り出し形成することを特長とする。
【0005】
しかし、本発明者らが試作したところ、次に述べる問題があることが分かった。
まず、図15(c)に示すように、歯形成部分103の先端(下端)にダレ106ができた。
この理由は、金型100の形状に沿って歯形成部103を張り出し成形しようとしても、実際には、本体部102から最も遠い外周側の先端(下端)への流入が不足し、ダレ106が発生したと考えられる。極めて大きな成形荷重をかければ先端まで肉を充填し、先端の欠肉を解消できる可能性があるが、金型の強度を考えると非現実的である。
このような第1鍛造品101に、本成形を施しても図15(d)に示すように、スプライン歯105に欠肉107が残る。本成形で余肉部分103aを圧縮しても、第1鍛造品101のダレ106の丸みが完全には解消されずに残ったためと思われる。この欠肉107は、機械加工で除去可能であるが、鍛造工程に機械加工が加わるため、加工費が嵩む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭49−11543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、仕上がり形状が良好な鍛造法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、鍛造品の成形方法であって、
第1金型を用いて、第1鍛造品を形成する第1工程と、
第2金型を用いて、前記第1鍛造品の余肉部を圧縮してサイジングする第2工程とを備え、
前記第1金型は、素材が摺動する第1摺動面と、前記素材を押圧する第1押圧面とを含み、
前記第1摺動面は、第1特定摺動面を含む複数の摺動面で構成され、
前記第1押圧面は、前記第1特定摺動面に対し、前記第1特定摺動面に近付くほど、前記素材が金型に入っていく方向に対して後退する向きに傾斜しており、
前記第2金型は、第2摺動面と第2押圧面とを含み、
前記第2摺動面は、第2特定摺動面を含む複数の摺動面で構成され、
前記第2押圧面は、前記第2特定摺動面に対し、前記第2特定摺動面に近付くほど、前記第1鍛造品が金型に入っていく方向に対して後退する向きに傾斜しており、
前記第2押圧面の前記第2特定摺動面に対する傾きが、前記第1押圧面の前記第1特定摺動面に対する傾きより小さく設定されていることを特徴とする。
【0009】
請求項2に係る発明は、鍛造品の成形方法であって、
第1金型を用いて、第1鍛造品を形成する第1工程と、
第2金型を用いて、前記第1鍛造品の余肉部を圧縮してサイジングする第2工程とを備え、
前記第1金型は、素材が摺動する第1摺動面と、前記素材を押圧する第1押圧面とを含み、
前記第1摺動面は、第1特定摺動面を含む複数の摺動面で構成され、
前記第1押圧面は、前記第1特定摺動面に近付くほど、前記素材が金型に入っていく方向に対して後退する向きに湾曲しており、
前記第2金型は、前記第1鍛造品が摺動する第2摺動面と、前記第1鍛造品を押圧する第2押圧面とを含み、
前記第2摺動面は、第2特定摺動面を含む複数の摺動面で構成され、
前記第2押圧面は、前記第2特定摺動面に近付くほど、前記第1鍛造品が金型に入っていく方向に対して後退する向きに湾曲し、
前記第2押圧面の曲率半径は、前記第1押圧面の曲率半径より小さくなるようにして、
前記第1押圧面と前記第2押圧面とは、湾曲形状が互いに異なっていることを特徴とする。
【0010】
請求項3に係る発明では、第1金型及び第2金型により、相手部材に噛み合う歯状の噛み合い部を成形することを特徴とする。
【0011】
請求項4に係る発明では、第1押圧面及び第2押圧面により、噛み合い部に、相手部材との噛み合いの際に噛み合い開始点として機能する先端部を形成することを特徴とする。
【0012】
請求項5に係る発明は、鍛造により第1鍛造品を得る第1金型と、前記第1鍛造品を本成形する第2金型とからなる鍛造用金型であって、
前記第1金型は、素材が摺動する第1摺動面と、前記素材を押圧する第1押圧面とを含み、
前記第1摺動面は、第1特定摺動面を含む複数の摺動面で構成され、
前記第1押圧面は、前記第1特定摺動面に対し、前記第1特定摺動面に近付くほど、前記素材が金型に入っていく方向に対して後退する向きに傾斜しており、
前記第2金型は、第2摺動面と第2押圧面とを含み、
前記第2摺動面は、第2特定摺動面を含む複数の摺動面で構成され、
前記第2押圧面は、前記第2特定摺動面に対し、前記第2特定摺動面に近付くほど、前記第1鍛造品が金型に入っていく方向に対して後退する向きに傾斜しており、
前記第2押圧面の前記第2特定摺動面に対する傾きが、前記第1押圧面の前記第1特定摺動面に対する傾きより小さく設定されていることを特徴とする。
【0014】
請求項に係る発明では、第1押圧面は、稜線を挟む複数の面からなり、稜線は、当該稜線の一端に接続する第1特定摺動面に近づくほど、素材が入っていく方向に対して後退することを特徴とする。
【0015】
請求項に係る発明では、鍛造により第1鍛造品を得る第1金型と、前記第1鍛造品を本成形する第2金型とからなる鍛造用金型であって、
前記第1金型は、素材が摺動する第1摺動面と、前記素材を押圧する第1押圧面とを含み、
前記第1摺動面は、第1特定摺動面を含む複数の摺動面で構成され、
前記第1押圧面は、前記第1特定摺動面に近付くほど、前記素材が金型に入っていく方向に対して後退する向きに湾曲しており、
前記第2金型は、前記第1鍛造品が摺動する第2摺動面と、前記第1鍛造品を押圧する第2押圧面とを含み、
前記第2摺動面は、第2特定摺動面を含む複数の摺動面で構成され、
前記第2押圧面は、前記第2特定摺動面に近付くほど、前記第1鍛造品が金型に入っていく方向に対して後退する向きに湾曲し、
前記第2押圧面の曲率半径は、前記第1押圧面の曲率半径より小さくなるようにして、
前記第1押圧面と前記第2押圧面とは、湾曲形状が互いに異なっていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る発明では、第1金型で第1工程を実施し、第2金型で第2工程を実施する。第1工程では、第1押圧面と特定摺動面との間の隅にまで、低荷重で肉を充填できる。すなわち、第1工程では、隅部の輪郭が明瞭な形態の第1鍛造品が得られ、第2工程では、第1鍛造品の外周を拘束しつつ端面を圧縮することにより、明瞭な形状が出せる。
加えて、第2押圧面の第2特定摺動面に対する傾きは、第1押圧面の第1特定摺動面に対する傾きより小さい。すなわち、第1金型に第2金型よりも大きな傾きの押圧面を敢えて設けたので、第1金型で、既に明瞭な輪郭形状が形成される。
【0017】
請求項2に係る発明では、請求項1と同様に、第1金型で第1工程を実施し、第2金型で第2工程を実施する。第1工程では、第1押圧面と特定摺動面との間の隅にまで、低荷重で肉を充填できる。すなわち、第1工程では、隅部の輪郭が明瞭な形態の第1鍛造品が得られ、第2工程では、第1鍛造品の外周を拘束しつつ端面を圧縮することにより、明瞭な形状が出せる。
【0018】
請求項3に係る発明では、第1金型及び第2金型により、相手部材に噛み合う歯状の噛み合い部を成形するので、より複雑な形状の鍛造品を成形することができる。
【0019】
請求項4に係る発明では、第1押圧面及び第2押圧面により、噛み合い部に、相手部材との噛み合いの際に噛み合い開始点として機能する先端部を形成するので、噛み合い開始点として機能する部位を、高精度で成形できる。
【0020】
請求項5に係る発明では、第1金型の第1押圧面は、特定摺動面に近付くほど、素材が金型に入っていく方向に対して後退する向きに傾斜しているため、第1押圧面と特定摺動面との間の隅にまで、低荷重で肉を充填させることができる。結果、第1鍛造品においては、第1押圧面と特定摺動面との間での欠肉の発生が抑制される。さらに、第2金型によれば、その欠肉の発生が抑制された第1鍛造品の外周を拘束しつつ端面を圧縮するので、欠肉などの鍛造欠陥がない良好な形状の鍛造品を得ることができる。
加えて、第2押圧面の第2特定摺動面に対する傾きは、第1押圧面の第1特定摺動面に対する傾きより小さい。すなわち、第1金型に第2金型よりも大きな傾きの押圧面を敢えて設けたので、第1金型で、既に明瞭な輪郭形状が形成される。
【0022】
請求項に係る発明では、第1押圧面は、稜線を挟む複数の面からなり、稜線は、当該稜線の一端に接続する摺動面に近づくほど、素材が入っていく方向に対して後退するようにした。相手部材に噛み合う歯状の噛み合い部の先端を突にする場合、稜線がより明確になる。
【0023】
請求項に係る発明では、請求項5と同様に、第1金型の第1押圧面は、特定摺動面に近付くほど、素材が金型に入っていく方向に対して後退する向きに湾曲しているため、第1押圧面と特定摺動面との間の隅にまで、低荷重で肉を充填させることができる。結果、第1鍛造品においては、第1押圧面と特定摺動面との間での欠肉の発生が抑制される。さらに、第2金型によれば、その欠肉の発生が抑制された第1鍛造品の外周を拘束しつつ端面を圧縮するので、欠肉などの鍛造欠陥がない良好な形状の鍛造品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】潰し工程、粗成形工程及びピアス工程を説明する図である。
図2】第1金型の断面図である。
図3図2の3部拡大図である。
図4図3に示す第1金型の断面図である。
図5図4の5矢視図である。
図6】第1金型の作用図兼第1工程を説明する図である。
図7】第1鍛造品の部分斜視図である。
図8】第2金型の要部斜視図である。
図9図8に示す第2金型の断面図である。
図10図9の10矢視図である。
図11】第1鍛造品及びサイジング後の鍛造品の要部断面図及び要部斜視図である。
図12】本発明を変形例のドグクラッチに適用するときの説明図である。
図13】第1金型の変形例を説明する図である。
図14】第2金型の変形例を説明する図である。
図15】従来の鍛造法の基本原理を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
【実施例】
【0026】
図1(a)に想像線で示す円柱素材11を、潰すことで実線で示す潰し品12を得る(潰し工程)。次に、潰し品12をダイに収め、パンチで下向きに押圧することで、図1(b)に示すように上部中央に凹部13を有する粗成形品14を得る。図1(c)に示すように粗成形品14にピアスパンチで中央穴15を開けることでピアス品16を得る(ピアス工程)。
【0027】
このピアス品16に熱間鍛造を施す第1金型の構造を次に説明する。
図2に示すように、第1金型20は、センターピン21及び凹部22を有する第1ダイ23と、この第1ダイ23に進入する第1パンチ24とからなる。熱間鍛造温度に加熱されたピアス品16を、凹部22に収納する。この際に、ピアス品16の中央穴15にセンターピン21を貫通させる。
【0028】
図2の3部拡大図である図3に示すように、第1ダイ23は、縦壁状を呈し素材(図2に示すピアス品16)が摺動する第1摺動面25と、底面であって素材を押圧する第1押圧面26とを備える。さらに、第1摺動面25は、左右の摺動面25L、25Rと奥の第1特定摺動面27(以下、特定摺動面27と略記する。)とからなる。
【0029】
図4に示すように、第1押圧面26は、少なくとも1の特定摺動面27に対し、その特定摺動面27に近付くほど、素材が金型に入っていく方向(図では矢印(1))に対して後退する向き(図では矢印(2))に傾斜している。換言すれば、素材が金型に入っていく方向と平行に第1ダイ23を切断した断面図において、第1押圧面26と特定摺動面27とがなす角度は鈍角である。すなわち、第1押圧面26は、特定摺動面27側が第1パンチ(図2、符号24)に接近し、中心側が第1パンチから遠くなるように、傾斜している。この傾斜角(傾き)θ1は、素材が入っていく方向に対して垂直な方向と、押圧面(第1押圧面26)との間のなす角度であって、例えば15°である。
【0030】
図5に示すように、第1押圧面26は、下端がV字状を呈する。すなわち、中央の稜線28とこの稜線28から延びる傾斜面26L、26Rとからなる。
【0031】
本発明の第1工程を図6に基づいて説明する。
図6(a)に示すように、第1ダイ23にセットしたピアス品16を第1パンチ(図2、符号24)で押し下げる(白抜き矢印)。ピアス品16は、第1パンチで押し下げられるため、下方への流動と水平方向への流動が起こる。ここで、第1摺動面25と素材との間には摩擦が発生するから、第1摺動面25(特定摺動面27を含む)に近いほど、肉の流動が遅い。
【0032】
しかしながら、第1押圧面26が、図に示すように傾斜しているため、それほど大きな荷重をかけなくても特定摺動面27と第1押圧面26との間の隅29にまで肉が到達する。
結果、図6(b)に示すように、第1押圧面26に肉が充満した形態の第1鍛造品30が得られる。すなわち、パンチ圧が低くても、特定摺動面27と第1押圧面26との間の隅29まで肉を十分に充填させることができる。
【0033】
この第1鍛造品30は、図7に示すように、本体部31に、歯形成部に相当する第1噛み合い部32が形成されると共に、この第1噛み合い部32の先端(下端)にV字の第1先端部33が形成されている。特定摺動面27と第1押圧面26との間で成形される箇所、すなわち、第1噛み合い部32の外周面32Aと先端の稜線34との接続箇所、およびV字状稜線35において欠肉がないため、第1先端部33は稜線34、35が明瞭となり、綺麗なV字形を呈する。この稜線34は噛み合い開始点ともなる。
【0034】
この第1鍛造品30にサイジングを施す第2金型の構造を次に説明する。
図8に示すように、第2金型40の第2ダイ41は、縦壁状の第2摺動面42と、底面であって第1先端部(図7、符号33)の余肉を圧縮してサイジングする第2押圧面43とを備える。第2摺動面42は、左右の摺動面42L、42Rと奥の第2特定摺動面44(以下、特定摺動面44と略記する。)とからなる。
【0035】
すなわち、第2金型40は、第2摺動面42と第2押圧面43とを含み、この第2摺動面42で第1鍛造品(図7、符号30)の外周面(図7、符号32A)を拘束しつつ、第2押圧面43で端部(先端部(図7、符号33))を圧縮する。
【0036】
図9に示すように、第2押圧面43は、少なくとも1の特定摺動面44に対し、その特定摺動面44に近付くほど、素材(第1鍛造品30)が金型に入っていく方向に対して後退する向きに傾斜している。換言すれば、素材(第1鍛造品30)が金型に入っていく方向と平行に第2ダイ41を切断した断面図において、第2押圧面43と特定摺動面44とがなす角度は鈍角である。
【0037】
第2押圧面43の特定摺動面44に対する傾斜角(傾き)は、θ2である。この傾斜角(傾き)θ2は、素材(第1鍛造品30)が入っていく方向に対して垂直な方向と、押圧面(第2押圧面43)との間のなす角度であって、例えば3°である。
このθ2が3°で、図4に示すθ1が15°であるから、第2押圧面43の特定摺動面27に対する傾きθ2が、第1押圧面の特定摺動面に対する傾きθ1より小さい。すなわちθ2はθ1と異なっている。
【0038】
図10に示すように、第2押圧面43は、下端がV字状を呈する。すなわち、中央の稜線45とこの稜線45から延びる傾斜面43L、43Rとからなる。
【0039】
図6(b)で得られた第1鍛造品30の断面の要部を、正確に次図で示す。
図11(a)に示すように、第1鍛造品30に、相手部材に噛み合う歯状の噛み合い部である第1噛み合い部32が形成される。この第1噛み合い部32は、図6図7で説明したように、先端(下端)にダレや欠肉が認められない。
【0040】
このような第1鍛造品30を、図8図10で説明した第2金型でサイジング加工(第2工程)を施したところ、図11(b)に示す本成形品としての鍛造品50が得られた。 この鍛造品50にも、本体部51に、相手部材に噛み合う歯状の噛み合い部である第2噛み合い部52が形成される。この第2噛み合い部52は、特に第2先端部53に、欠肉がなく綺麗で寸法精度が良好である。併せて、第2金型40の傾斜面43L、43Rと特定摺動面44とで成形されるV字状稜線55および先端の稜線54が、図11(c)に示すように、明瞭に形成される。この稜線54は噛み合い開始点を兼ねる。
【0041】
本発明方法は、見方を変えることで、次のようにも説明される。
第1工程と第2工程とがある場合に、第1工程での造形が不十分であっても第2工程でリカバーできるという成形思想がある。
しかし、本発明では、第1工程での造形を十分に行うことに力点を置いた。第1工程での造形を十分に行うことで、第2工程の負担を軽減し、併せて良好な鍛造品を得ることに成功したものである。
【0042】
尚、本発明方法は、鍛造による歯部を有する機械部品に好適であり、ドグクラッチにさらに好適であるが、適用対象は任意である。また、上記実施形態は、本体部31から外周側に向かって突出する噛み合い部32を例にとって説明したが、本体部31から内周側に向かって突出する噛み合い部32の成形にも本発明は適用可能である。また、先端がV字状のドグクラッチだけではなく、先端が面状のドグクラッチにも適用可能である。
【0043】
図12(a)に示すように、先端が面状のドグクラッチ50Bは、本体部31の端面に、先端が面状の噛み合い部32を複数個(この例では4個)を有する。噛み合い部32の先端面は、略台形を呈し、一辺が噛み合い開始点となる稜線34となる。
【0044】
このような噛み合い部32は、図12(b)に示すダイ23で成形することができる。
ダイ23に、凹部57が設けられ、この凹部57に、ドグクラッチの回転方向において噛み合い開始点となる稜線34を明瞭に成形できるよう、押圧面26を1の特定摺動面27に対して傾ければよい。押圧面26と特定摺動面27とが鈍角をなす隅29を形成する。この隅29に肉が到達し、噛み合いの開始点となる稜線34が明瞭に形成される。
【0045】
なお、上記実施形態、本変形例の双方に共通して言えることであるが、押圧面と接する複数の摺動面のうち、噛み合いの開始点となる稜線を押圧面との間で形成する摺動面、または噛合いの開始点となる稜線の端部を押圧面との間で形成する摺動面を特定摺動面とすると良い(図4および図12(b)、符号27)。そして、押圧面がその特定摺動面に近付くほど、素材が金型に入っていく方向に対して押圧面が後退するように、押圧面を傾けると良い。
【0046】
次に、本発明の第1・第2金型の変更例を説明する。
図4で説明した第1押圧面26は、角度θ1だけ傾斜している斜面であった。このような第1押圧面26は、非湾曲面の他、湾曲面とすることもできる。その具体例を図13で説明する。
図13に示すように、第1金型20Bは、第1摺動面25Bと第1押圧面26Bを含み、第1金型20Bの要部である第1ダイ23Bでは、第1特定摺動面27B(以下、特定摺動面27Bと略記する。)の下端から曲率半径R1で湾曲した第1押圧面26Bが第1ダイ23Bの中心に向かって延びている。
【0047】
すなわち、第1押圧面26Bは、少なくとも1の特定摺動面27Bに対し、その特定摺動面27Bに近付くほど、素材が金型に入っていく方向(図では矢印(3))に対して後退する向き(図では矢印(4))に湾曲している。
このような第1ダイ23Bを採用することで、図7に示す稜線34が湾曲している第1鍛造品を得ることができる。
【0048】
図9で説明した第2押圧面43は、角度θ2だけ傾斜している斜面であった。このような第2押圧面43は、非湾曲面の他、湾曲面とすることもできる。その具体例を図14で説明する。
図14に示すように、第2金型40Bは、第摺動面42Bと第押圧面4Bを含み、第2金型40Bの要部である第2ダイ41Bでは、第2特定摺動面44B(以下、特定摺動面44Bと略記する。)の下端から曲率半径R2で湾曲した第2押圧面43Bが第1ダイ41Bの中心に向かって延びている。
【0049】
すなわち、第2押圧面43Bは、少なくとも1の特定摺動面44Bに対し、その特定摺動面44Bに近付くほど、第1鍛造品が金型に入っていく方向に対して後退する向きに湾曲している。
このような第2ダイ41Bを採用することで、図11(c)に示す稜線54が湾曲している鍛造品を得ることができる。
【0050】
この変更例においては、曲率半径R1と曲率半径R2とを互いに異ならせる。
好ましくは、曲率半径R2<曲率半径R1に設定する。すなわち、第1金型20Bを用いて実施する第1工程では、比較的緩やかに稜線34を湾曲させ、第2金型40Bを用いて実施する第2工程では、比較的強く湾曲させた稜線54を得る。湾曲形状を異ならせたことにより、好ましく湾曲した稜線54を得ることができる。
【符号の説明】
【0051】
16…素材(ピアス品)、20、20B…第1金型、25、25B…第1摺動面、26、26B…第1押圧面、27、27B…第1金型での特定摺動面(第1特定摺動面)、30…第1鍛造品、32…第1鍛造品での噛み合い部(第1噛み合い部)、33…第1鍛造品での先端部(第1先端部)、34…第1鍛造品での噛み合い開始点、40、40B…第2金型、42、42B…第2摺動面、43、43B…第2押圧面、44、44B…第2金型での特定摺動面(第2特定摺動面)、50…鍛造品、52…鍛造品での噛み合い部(第2噛み合い部)、53…鍛造品での先端部(第2先端部)、54…鍛造品での噛み合い開始点、θ1…第1押圧面の特定摺動面に対する傾き、θ2…第2押圧面の特定摺動面に対する傾き、R1…第1押圧面の曲率半径、R2…第2押圧面の曲率半径。
図1
図2
図3
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