【実施例】
【0026】
図1(a)に想像線で示す円柱素材11を、潰すことで実線で示す潰し品12を得る(潰し工程)。次に、潰し品12をダイに収め、パンチで下向きに押圧することで、
図1(b)に示すように上部中央に凹部13を有する粗成形品14を得る。
図1(c)に示すように粗成形品14にピアスパンチで中央穴15を開けることでピアス品16を得る(ピアス工程)。
【0027】
このピアス品16に熱間鍛造を施す第1金型の構造を次に説明する。
図2に示すように、第1金型20は、センターピン21及び凹部22を有する第1ダイ23と、この第1ダイ23に進入する第1パンチ24とからなる。熱間鍛造温度に加熱されたピアス品16を、凹部22に収納する。この際に、ピアス品16の中央穴15にセンターピン21を貫通させる。
【0028】
図2の3部拡大図である
図3に示すように、第1ダイ23は、縦壁状を呈し素材(
図2に示すピアス品16)が摺動する第1摺動面25と、底面であって素材を押圧する第1押圧面26とを備える。さらに、第1摺動面25は、左右の摺動面25L、25Rと奥の
第1特定摺動面27
(以下、特定摺動面27と略記する。)とからなる。
【0029】
図4に示すように、第1押圧面26は、少なくとも1の特定摺動面27に対し、その特定摺動面27に近付くほど、素材が金型に入っていく方向(図では矢印(1))に対して後退する向き(図では矢印(2))に傾斜している。換言すれば、素材が金型に入っていく方向と平行に第1ダイ23を切断した断面図において、第1押圧面26と特定摺動面27とがなす角度は鈍角である。すなわち、第1押圧面26は、特定摺動面27側が第1パンチ(
図2、符号24)に接近し、中心側が第1パンチから遠くなるように、傾斜している。この傾斜角(傾き)θ1は、素材が入っていく方向に対して垂直な方向と、押圧面(第1押圧面26)との間のなす角度であって、例えば15°である。
【0030】
図5に示すように、第1押圧面26は、下端がV字状を呈する。すなわち、中央の稜線28とこの稜線28から延びる傾斜面26L、26Rとからなる。
【0031】
本発明の第1工程を
図6に基づいて説明する。
図6(a)に示すように、第1ダイ23にセットしたピアス品16を第1パンチ(
図2、符号24)で押し下げる(白抜き矢印)。ピアス品16は、第1パンチで押し下げられるため、下方への流動と水平方向への流動が起こる。ここで、第1摺動面25と素材との間には摩擦が発生するから、第1摺動面25(特定摺動面27を含む)に近いほど、肉の流動が遅い。
【0032】
しかしながら、第1押圧面26が、図に示すように傾斜しているため、それほど大きな荷重をかけなくても特定摺動面27と第1押圧面26との間の隅29にまで肉が到達する。
結果、
図6(b)に示すように、第1押圧面26に肉が充満した形態の第1鍛造品30が得られる。すなわち、パンチ圧が低くても、特定摺動面27と第1押圧面26との間の隅29まで肉を十分に充填させることができる。
【0033】
この第1鍛造品30は、
図7に示すように、本体部31に、歯形成部に相当する第1噛み合い部32が形成されると共に、この第1噛み合い部32の先端(下端)にV字の第1先端部33が形成されている。特定摺動面27と第1押圧面26との間で成形される箇所、すなわち、第1噛み合い部32の外周面32Aと先端の稜線34との接続箇所、およびV字状稜線35において欠肉がないため、第1先端部33は稜線34、35が明瞭となり、綺麗なV字形を呈する。この稜線34は噛み合い開始点ともなる。
【0034】
この第1鍛造品30にサイジングを施す第2金型の構造を次に説明する。
図8に示すように、第2金型40の第2ダイ41は、縦壁状の第2摺動面42と、底面であって第1先端部(
図7、符号33)の余肉を圧縮してサイジングする第2押圧面43とを備える。第2摺動面42は、左右の摺動面42L、42Rと奥の
第2特定摺動面44
(以下、特定摺動面44と略記する。)とからなる。
【0035】
すなわち、第2金型40は、第2摺動面42と第2押圧面43とを含み、この第2摺動面42で第1鍛造品(
図7、符号30)の外周面(
図7、符号32A)を拘束しつつ、第2押圧面43で端部(先端部(
図7、符号33))を圧縮する。
【0036】
図9に示すように、第2押圧面43は、少なくとも1の特定摺動面44に対し、その特定摺動面44に近付くほど、素材
(第1鍛造品30)が金型に入っていく方向に対して後退する向きに傾斜している。換言すれば、素材
(第1鍛造品30)が金型に入っていく方向と平行に第2ダイ41を切断した断面図において、第2押圧面43と特定摺動面44とがなす角度は鈍角である。
【0037】
第2押圧面43の特定摺動面44に対する傾斜角(傾き)は、θ2である。この傾斜角(傾き)θ2は、素材(
第1鍛造品30)が入っていく方向に対して垂直な方向と、押圧面(第2押圧面43)との間のなす角度であって、例えば3°である。
このθ2が3°で、
図4に示すθ1が15°であるから、第2押圧面43の特定摺動面27に対する傾きθ2が、第1押圧面の特定摺動面に対する傾きθ1より小さい。すなわちθ2はθ1と異なっている。
【0038】
図10に示すように、第2押圧面43は、下端がV字状を呈する。すなわち、中央の稜線45とこの稜線45から延びる傾斜面43L、43Rとからなる。
【0039】
図6(b)で得られた第1鍛造品30の断面の要部を、正確に次図で示す。
図11(a)に示すように、第1鍛造品30に、相手部材に噛み合う歯状の噛み合い部である第1噛み合い部32が形成される。この第1噛み合い部32は、
図6、
図7で説明したように、先端(下端)にダレや欠肉が認められない。
【0040】
このような第1鍛造品30を、
図8〜
図10で説明した第2金型でサイジング加工(第2工程)を施したところ、
図11(b)に示す本成形品としての鍛造品50が得られた。 この鍛造品50にも、本体部51に、相手部材に噛み合う歯状の噛み合い部である第2噛み合い部52が形成される。この第2噛み合い部52は、特に第2先端部53に、欠肉がなく綺麗で寸法精度が良好である。併せて、第2金型40の傾斜面43L、43Rと特定摺動面44とで成形されるV字状稜線55および先端の稜線54が、
図11(c)に示すように、明瞭に形成される。この稜線54は噛み合い開始点を兼ねる。
【0041】
本発明方法は、見方を変えることで、次のようにも説明される。
第1工程と第2工程とがある場合に、第1工程での造形が不十分であっても第2工程でリカバーできるという成形思想がある。
しかし、本発明では、第1工程での造形を十分に行うことに力点を置いた。第1工程での造形を十分に行うことで、第2工程の負担を軽減し、併せて良好な鍛造品を得ることに成功したものである。
【0042】
尚、本発明方法は、鍛造による歯部を有する機械部品に好適であり、ドグクラッチにさらに好適であるが、適用対象は任意である。また、上記実施形態は、本体部31から外周側に向かって突出する噛み合い部32を例にとって説明したが、本体部31から内周側に向かって突出する噛み合い部32の成形にも本発明は適用可能である。また、先端がV字状のドグクラッチだけではなく、先端が面状のドグクラッチにも適用可能である。
【0043】
図12(a)に示すように、先端が面状のドグクラッチ50Bは、本体部31の端面に、先端が面状の噛み合い部32を複数個(この例では4個)を有する。噛み合い部32の先端面は、略台形を呈し、一辺が噛み合い開始点となる稜線34となる。
【0044】
このような噛み合い部32は、
図12(b)に示すダイ23で成形することができる。
ダイ23に、凹部57が設けられ、この凹部57に、ドグクラッチの回転方向において噛み合い開始点となる稜線34を明瞭に成形できるよう、押圧面26を1の特定摺動面27に対して傾ければよい。押圧面26と特定摺動面27とが鈍角をなす隅29を形成する。この隅29に肉が到達し、噛み合いの開始点となる稜線34が明瞭に形成される。
【0045】
なお、上記実施形態、本変形例の双方に共通して言えることであるが、押圧面と接する複数の摺動面のうち、噛み合いの開始点となる稜線を押圧面との間で形成する摺動面、または噛合いの開始点となる稜線の端部を押圧面との間で形成する摺動面を特定摺動面とすると良い(
図4および
図12(b)、符号27)。そして、押圧面がその特定摺動面に近付くほど、素材が金型に入っていく方向に対して押圧面が後退するように、押圧面を傾けると良い。
【0046】
次に、本発明の第1・第2金型の変更例を説明する。
図4で説明した第1押圧面26は、角度θ1だけ傾斜している斜面であった。このような第1押圧面26は、非湾曲面の他、湾曲面とすることもできる。その具体例を
図13で説明する。
図13に示すように、第1金型20Bは、第1摺動面25Bと第1押圧面26Bを含み、第1金型20Bの要部である第1ダイ23Bでは、
第1特定摺動面27B
(以下、特定摺動面27Bと略記する。)の下端から曲率半径R1で湾曲した第1押圧面26Bが第1ダイ23Bの中心に向かって延びている。
【0047】
すなわち、第1押圧面26Bは、少なくとも1の特定摺動面27Bに対し、その特定摺動面27Bに近付くほど、素材が金型に入っていく方向(図では矢印(3))に対して後退する向き(図では矢印(4))に湾曲している。
このような第1ダイ23Bを採用することで、
図7に示す稜線34が湾曲している第1鍛造品を得ることができる。
【0048】
図9で説明した第2押圧面43は、角度θ2だけ傾斜している斜面であった。このような第2押圧面43は、非湾曲面の他、湾曲面とすることもできる。その具体例を
図14で説明する。
図14に示すように、第2金型40Bは、第
2摺動面42Bと第
2押圧面4
3Bを含み、第2金型40Bの要部である第2ダイ41Bでは、
第2特定摺動面44B
(以下、特定摺動面44Bと略記する。)の下端から曲率半径R2で湾曲した第2押圧面43Bが第1ダイ41Bの中心に向かって延びている。
【0049】
すなわち、第2押圧面43Bは、少なくとも1の特定摺動面44Bに対し、その特定摺動面44Bに近付くほど、第1鍛造品が金型に入っていく方向に対して後退する向きに湾曲している。
このような第2ダイ41Bを採用することで、
図11(c)に示す稜線54が湾曲している鍛造品を得ることができる。
【0050】
この変更例においては、曲率半径R1と曲率半径R2とを互いに異ならせる。
好ましくは、曲率半径R2<曲率半径R1に設定する。すなわち、第1金型20Bを用いて実施する第1工程では、比較的緩やかに稜線34を湾曲させ、第2金型40Bを用いて実施する第2工程では、比較的強く湾曲させた稜線54を得る。湾曲形状を異ならせたことにより、好ましく湾曲した稜線54を得ることができる。